0910-1810/11/\100/頁/JCOPY膜分野では日常的な治療になりつつあり,これは細胞・分子レベルのアンチエイジングアプローチとみなすことができる.今回の話題である老視については,個人によって程度の差はあるにせよ加齢により避けられないものである.わが国で2008年に老眼研究会(http://www.rougan.jp/about/index.html)が設立された.会員間の議論の末,現時点において診断基準については「医学的老視」と「臨床的老視」の2つを作成し(表1),老視の定義を「加齢による調節幅の減退(age-relatedlossofaccommodation)」とした.その調節のメカニズムについては研修医時代から主に教えられているHelmholtz説のほかにもSchacher説など諸説が提唱されている.しかし,一つの説だけではすべての現象を説明しきれないため,それぞれの説の理論が混在している状態なのであろう.そうしたなかで,おおよそ合意が得られているのは水晶体の硬化・膨化とそれに伴う毛様体筋の過緊張が調節力の低下,つまり老視に関連しているということである.毛様体と水晶体について下記に述べる.Iアンチエイジングと老視「アンチエイジング(抗加齢医学)の研究は出生から死亡に至るまでのさまざまな過程で生じる現象を科学的に捉えるうえで非常に有意義であり,その成果は生活習慣病をはじめとするさまざまな疾患を予防し,ストレスや疲労,免疫低下などの疾病発生促進因子を改善し,健康長寿の実現を可能とするものです.研究を利用したアンチエイジング医学の実践は,栄養学,内分泌学を用いた補充療法と運動や休養などの生活習慣の改善によって可能となります.」(日本抗加齢医学会のホームページより.http://www.anti-aging.gr.jp/about/index.phtml)とある.すでに発症した疾患に対する治療のみでなく,罹患する前から介入するアンチエイジング医学はこれからの医学には必須のものになるであろう.しかし,広義に考えれば医学はすでにアンチエイジング医学を実践している.たとえば,サイレントキラー(静かなる殺人者)とよばれる高血圧症や糖尿病,高脂血症は,本人が気づかないうちに脳血管障害,心血管障害,腎不全などを進行させ,最終的には死に至る怖い状態である.降圧薬,糖尿病薬,高脂血症薬はそれぞれ血圧,血糖値,脂質を下げるが,間接的に死に至る合併症の発症率を下げることにより長寿につなげている.つまり,抗加齢(アンチエイジング)を行っていることにほかならない.眼科領域において失明原因の上位を占める加齢黄斑変性に対するanti-VEGF(抗血管内皮増殖因子)治療が網(43)645*TakeshiIde:南青山アイクリニック**TetsuyaKawakita&KazuoTsubota:慶應義塾大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕井出武:〒107-0061東京都港区北青山3-3-11ルネ青山ビル4階南青山アイクリニック特集●老視アップデートあたらしい眼科28(5):645.649,2011アンチエイジングアプローチによる老視対策─体の老化を予防することで老視の予防は可能なのか?サプリメントの可能性なども含めて─Anti-AgingApproachtoPresbyopia井手武*川北哲也**坪田一男**表1医学的老視と臨床的老視医学的老視臨床的老視視力測定条件片眼完全矯正下両眼生活視力自覚症状有無は問わない近見視力障害あり診断基準調節幅2.5D未満*40cm視力0.4未満*医学的老視は,基本的には調節幅2.5D未満であるが,アコモドメータなどを有さない場合に簡便法として40cm視力0.4未満を用いてもよい.646あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011(44)な手術が可能になった.その症例数の多さの一因は白内障が誰においても加齢性に進行するという生理的要因,そして老齢人口の増加と一般の医療知識の蓄積という社会的要因,以前なら視力低下が著明になった時点で手術を行っていたのが,現在では技術進歩のために白内障の初期の段階でもQOV(qualityofvision)の向上のために早期に手術を行えるようになったという技術的要因が考えられる.この白内障手術(水晶体再建術)は視力の改善という意味では究極のアンチエイジング医学かもしれない.白内障の進行加速については糖尿病,眼の外II老視と毛様体過緊張老視の自覚症状は近見視力の低下,ピント調節に時間がかかるというのが主なものであるが,それ以外に頭痛,眼精疲労なども起こる.これは毛様体筋の筋力低下と水晶体の硬化・膨化とのバランスで,相対的に毛様体筋に対する負担が増え過緊張状態になることによると考えられている.毛様体筋が過緊張を起こさせないためには,眼鏡やコンタクトレンズで眼への負担を軽減する方法が侵襲の少ないファーストチョイスである.水晶体の硬化・膨化が視力低下をひき起こすほどの白内障に至っている場合にはマルチIOL(眼内レンズ),アコモIOL,白内障モノビジョン,そして白内障手術をするほどではないが眼鏡・コンタクトレンズなどの補助具が耐えられない症例に対してはモノビジョン・老視LASIK(laserinsitukeratomileusis),CK(conductivekeratoplasty),Acu-Focus,phakicIOLで対応するのが広義のアンチエイジングであろう.その他,後述するがアスタキサンチンは非常に強い抗酸化力をもつカロテノイドである.わが国では梶田先生,富山大学,藤田保健衛生大学からアスタキサンチンの摂取で眼精疲労や調節緊張を軽減するとの報告がみられる1).しかし,これらはいずれも老視になったものに対する治療や対応であるので,本稿の趣旨(老化予防)からは離れる.III老視と水晶体近見調節は毛様体筋の収縮により水晶体にかかる牽引が解除され水晶体の受動的な弾性力により膨らむことにより起こるとされる.近見調節時に水晶体に積極的な外力を加えることはできないので,加齢により水晶体の硬化・膨化(白内障)が起こるとその受動的な弾性力が低下して調節が働かなくなる.もう一つの説として,水晶体が水平方向そして垂直方向にも膨化することにより,毛様体筋と水晶体の距離関係やZinn小帯の水晶体付着位置が変化して毛様体筋が努力しても牽引力が解除できないことにより調節力が低下するという説もある(図1,2).白内障に関しては技術的進歩のおかげで短時間・安全調節時調節弛緩時図1調節のメカニズム(Helmholtzの説)破線は毛様体の内径の変化を示す.(長谷部聡:あたらしい眼科22:1023-1028,2005より)調節時調節弛緩時図2調節のメカニズム(Schacharの新しい仮説)(長谷部聡:あたらしい眼科22:1023-1028,2005より)(45)あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011647という明らかな効果はなかったと報告されている2)が,抗酸化を行うことは全身的なアンチエイジングを行うことで,結果として水晶体だけでなく,毛様体筋の過緊張や眼精疲労に対して良いと考えることもできる3).V白内障とクロスリンククロスリンクに関して,水晶体は水晶体蛋白質が相互作用して秩序だった巨大構造と透明性を維持している.白内障は,水晶体を構成する可溶性のクリスタリン蛋白が変性し不溶性になることで起きるとされており,クロスリンク説が適用される代表例である.クリスタリンの構成比率が変わることにより会合そして変性を起こすという説が最も支持されている.水晶体は蛋白質に富む組織であるが,実にその98%は水晶体に特有のクリスタリン(a,b,gの3種類が存在)という蛋白質で占められている.a-クリスタリンは部分的に変性したb-およびg-クリスタリンを元の状態に戻す機能(シャペロン機能)をもっている.一方,b-とg-クリスタリンは水晶体の透明性の維持や光の屈折率を高める働きをしている.シャペロンにはさまざまなものがあり詳細な機能については不明な部分が多いが,他の蛋白分子が正しい折りたたみ(folding)をして機能を獲得するのを助ける蛋白質の総称である.ヒトは決まった量のa-クリスタリンをもって生まれ徐々に消費するとされ,水晶体は生涯を通じて光の通り道になるため,クリスタリンは長いあいだ紫外線という酸化障害に曝されて構造や機能に変化(変性)をきたす.水晶体以外の組織では変性した蛋白質は新陳代謝によって新しい成分に置き換えられるが,水晶体では新陳代謝が起こらないため,変性した蛋白質はどんどん蓄積して不溶性となり濁りを生ずると考えら傷,紫外線,アトピー性皮膚炎,栄養不良,遺伝,放射線赤外線照射,ステロイド薬,抗精神病薬などの副作用,ぶどう膜炎網膜.離や硝子体手術,緑内障手術などのさまざまな要因との関連が報告されているが,第一の原因は老化であると考えられている.老化と白内障進行に関連があるものには,下記のようなものがある.1.われわれの体はエネルギー代謝過程で酸化力の強い活性酸素を生成.活性酸素は体内で病原体を殺すのに役立っているが,その反面,過剰に発生すると細胞や組織を傷つけ老化や疾患をひき起こすといわれている.2.クロスリンク説:蛋白質や核酸などの生体高分子間や分子間に不要な結合(これをクロスリンクという)が起こりその構造が変化して変質する.分子が結合して不溶性となり分子同士の働きを阻害するクロスリンクが溜まっていくと老化が促進されるという説.3.老廃物蓄積説:汗や尿などの代謝による老廃物とは別に,体に不必要な老廃物が蓄積すると体に支障をきたす.これが,老化を促進するという説.老廃物には,鉛や水銀などの有害な重金属類も含まれる.IV白内障とフリーラジカルフリーラジカルに対しては抗酸化治療を行うが,従来眼科では早期において進行を遅らせる目的で酸化防止剤などの薬剤(おもに点眼薬)を使用していた.点眼治療に関しては厚生労働省研究班が「有効性に関する十分な科学的根拠がない」ということを報告した.しかし,比較的早期においては進行を遅らせるという効果があるという考え方も依然存在する.そのほか全身的にビタミンC,ビタミンE,ナイアシンやカロテノイドなどの抗酸化物質を摂取して介入するのが進行防止に有効という報告もある.カロテノイドについては最近話題のものが多く,カロテン類(b-カロテン,リコピン),キサントフィル類(ルテインやアスタキサンチン)など抗酸化作用の強いものが多くある.特に,アスタキサンチンはビタミンCの6,000倍,ビタミンEの550倍の一重項酸素除去活性をもつといわれる.NIH(NationalInstituteofHealth)が施行したAge-RelatedEyeDiseaseStudy(AREDS)ではビタミンC,Eとb-カロテンの大量投与を6年にわたり行っても白内障の発症や進行を止めるCXL図3角膜クロスリンキング(CXL)の原理角膜実質のコラーゲン線維間の架橋を強めることにより角膜の強度を上げる.(加藤直子,坪田一男:あたらしい眼科27:453-457,2010より)648あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011(46)年1月23日のNewYorkTimes紙にニューヨーク市内の寿司店などのマグロから高水準の水銀が検出されたとの記事が掲載された.日本人は,世界のマグロの1/3を消費しているといわれるほどマグロ好きである.水銀は工業排水や汚染土壌から海に流れ込むが,海の中の生態系を通って上位の生物に蓄積されるので,海の生態系の頂点に君臨する大型回遊魚であるマグロにはかなりの量の水銀が蓄積されている.妊婦への注意点として病院での配布資料に大型回遊魚の食べすぎには注意との記載があるほどである.最近,眼科医にとって非常に興味深い研究結果が報告された.水銀曝露されたゼブラフィッシュの水銀蓄積部位を確認したところ,これまで重金属汚染で脳や腎臓にたまることはわかっていたのだが,今回の研究で神経系などよりも水晶体に圧倒的に高濃度に水銀蓄積が確認されたとのことである4).この水銀蓄積と白内障進行度とに相関関係が存在するかはこれからの非常に興味深い研究課題であるが,面白いことに眼科医でさえあまり知らない白内障治療薬として古くから保険適用となっているチオプラニンが白内障予防薬でありなおかつ水銀排泄薬であったことは偶然ではないのかもしれない(チオラR錠の薬効:代謝改善解毒,シスチン尿症治療,水銀排泄,白内障治療).この古くて新しい解毒剤が白内障治療そしてアンチエイジング医学において再び脚光を浴びる可能性がある.水銀を代表とする有害重金属汚染は有害重金属の曝露を減らすことである.たとえば魚の摂取であるが,水銀の多いもの(カジキ,キンメダイ,サメ,カツオ,スズキ,マグロは有機水銀が濃縮している)は極力避け,水れている.a-クリスタリンは生下時から減る一方,生体で作られないので,この減少スピードをアンチエイジングによる介入により遅くさせることが大切である.しかし詳細についてはまだ不明であるので,現在は紫外線を避けたり,抗酸化のためのサプリメント摂取などでできるだけ進行を遅らせることも大切である.クロスリンクは,円錐角膜の治療に応用されている.円錐角膜の病態の一つに,角膜を構成するコラーゲン線維間の架橋(クロスリンク)が足りないことが指摘されている.クロスリンクが足りないことで,コラーゲン線維がスライドして角膜が突出してくるともいわれている.このような角膜に対してリボフラビン点眼の後にUVA(ultravioletA)を照射してコラーゲンを架橋することにより円錐角膜の進行の抑制,角膜の平坦化といった治療は角膜UV(ultraviolet)クロスリンキングといわれ角膜の分野では非常に脚光を浴びている(図3,4).VI白内障と老廃物蓄積老廃物蓄積に関して,重金属による健康障害というとイタイイタイ病(カドミウム),水俣病(水銀),和歌山カレー事件(砒素)などが有名である.これらの重金属は一般に細胞にフリーラジカルダメージを与え,神経の変性に関与,必須ミネラルの機能を損なう,不妊,腫瘍形成,ATP(アデノシン三リン酸)合成阻害などの影響が報告されている.このような汚染は決して特殊な限られた環境だけで起こるわけではなく,われわれの身近でもこの重金属汚染は存在している.代表例として水銀汚染があるが,水銀は汚染された魚介類,農薬,化粧品,アマルガム(歯科充.金属)などから体内に入る.2008図4角膜クロスリンキングの手術風景左:リボフラビンが十分に角膜に浸透したのちに紫外線照射を行っているところ.照射中もリボフラビンを点眼する.右:角膜上皮細胞が存在するといわれている角膜輪部は避けて紫外線を照射する.(加藤直子,坪田一男:あたらしい眼科27:453-457,2010より)(47)あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011649め,眼のみに注目するのみでなく全身的なアンチエイジングを行うことにより結果として眼の老化を防ぐというまとめとしたい.現在のエイジング仮説であるが,すでに現時点において,カロリーリストリクション仮説と酸化ストレス仮説は,エビデンスの存在するサイエンスとして認識されつつある.前者はなじみが少ないかもしれないが,これは摂取カロリーを65%程度とする(ビタミン,必須ミネラルといった栄養素は制限しない)と,多くの生物で寿命の延長がみられるというもので,メタボリックシンドロームに代表される摂取カロリーオーバーは加齢を促進する.後者に関しては紫外線・大気汚染・タバコ・過度の飲酒・農薬・殺虫剤・発癌物質・高血糖・酸化した油脂・睡眠時無呼吸症候群などのストレスを避け,葉緑野菜の大量摂取・オメガ3摂取(青魚)・フルーツ積極摂取・ビタミンの最適量摂取・微量ミネラルの摂取などの抗酸化物質の摂取,適切な水摂取・整腸・発汗・オーラルキレーション・EDTAキレーションなどの酸化物質の除去なども行うことを心がけることにより酸化ストレスを減らすことができる.本稿では,老視とアンチエイジングということで書き進めてきたが,その疾患にだけアプローチするというよりも体をトータルにケアするという日常生活習慣改善が大切なことに改めて気づかされる.文献1)NagakiY,HayasakaS,YamadaTetal:EffectsofAstaxanthinonaccommodation,criticalflickerfusions,andpatternevokedpotentialinvisualdisplayterminalworkers.JTradMed19:170-173,20022)<http://www.aao.org/eyecare/treatment/alternativetherapies/antioxidant-cataract-prevention.cfm>3)AgteV,TarwadiK:Theimportanceofnutritioninthepreventionofoculardiseasewithspecialreferencetocataract.OphthalmicRes44:166-172,20104)KorbasM,BlechingerSR,KronePHetal:Localizingorganomercuryuptakeandaccumulationinzebrafishlarvaeatthetissueandcellularlevel.ProcNatlAcadSciUSA105:12108-12112,2008銀の少ないもの(サケ,マス,ニシン,サンマ,アジ,イワシ,キスなどは無機水銀がほとんど)を中心に摂取するように心がけることである.ミネラルは体の中で作ることができないために食品やサプリメントから摂るしかないが,ミネラルには生命維持に欠かすことができない必須ミネラル(カルシウム,ナトリウム,マグネシウムなど)と有害ミネラル(水銀,カドミウム,砒素など)がある.必須ミネラルのなかではナトリウム,カリウムなど1価の陽イオン元素が加齢とともに高くなり,カルシウム,マグネシウム,銅,亜鉛など2価の陽イオン元素は低くなることが明らかにされている.ミネラルには拮抗作用というものがあり,あるミネラルの存在によって他のミネラルが吸収されるのを抑制し,有害な作用を抑制するので,必須ミネラルが不足することによって有害ミネラルが体内に蓄積されてしまう.その拮抗・対抗関係の代表例には括弧内に示すようなものがある(鉛に対してはSe,Fe,Zn,Mg.砒素に対してはSe.カドミウムに対してはSe,Fe,Zn,Ca,Mg.水銀に対してはSe,Ca,Zn).つまり,有害ミネラル対策の基本は必須ミネラルが欠乏しないようにすることであるが,必須ミネラルだからといって過剰摂取するのも避けるべきである.特に,必須ミネラルは必要量と過剰量の幅が狭いのでバランスを取ることも大切である.より積極的な介入としてEDTA(エチレンジアミン四酢酸)キレーションをはじめとするキレーション療法も選択肢に入るが,問題点としては保険適用でなく必須ミネラルも同時に排泄されてしまうので経験の豊富な施設で行うことが重要で,同時にこのような重金属汚染を意識して,血液,毛髪,爪,尿,便検査などで定期的にスクリーニング・モニタリングしていくことも大切である.まとめ毛様体・水晶体の老化による調節幅の減少のみならず,網膜感度の低下,オキュラーサーフェス環境悪化,視覚中枢の老化などが絡み合い視覚のフィードバックが劣化してさらに老視が加速されている可能性もあるた