0910-1810/10/\100/頁/JCOPYintercellularadhesionmolecule(ICAM)-1の発現誘導を促進することで炎症細胞のリクルートや血管内皮への接着を促進する(図1).このように,VEGFの炎症性サイトカインとしての生物活性は,VEGFがそもそも血管透過性因子(vascularpermeabilityfactor:VPF)として発見(1983年)された経緯からも納得できるが,糖尿病網膜症でみられる浮腫性・滲出性病変を説明しうる重要な性質なのである.したがって糖尿病網膜症は炎症性疾患と捉えられ,従来のレーザー網膜光凝固術や硝子体手術に加えて,黄斑浮腫による視力低下例に対してはじめに―VEGFを中心とした分子病態と抗VEGF療法の登場―糖尿病網膜症の進行期(増殖期)に合併する血管新生は難治病態であり,その病態解明は中途失明の撲滅のために急務であった.糖尿病網膜症に限らず,病理的血管新生をきたす疾患に関する研究の大きな突破口は,血管内皮細胞の分裂・増殖に中心的な役割を担う血管内皮増殖因子(VEGF)が1989年に報告されたことによる.血管内皮細胞には,VEGF受容体VEGFR-1とVEGFR-2が発現しており,血管内皮細胞の分裂を担うシグナルはVEGFR-2を介する.VEGFR-1はマクロファージ系の炎症細胞にも発現しておりVEGFは白血球走化因子として機能し炎症細胞をリクルートする.さらにVEGFは,血管内皮細胞のVEGFR-2を介して強力な走化因子monocytechemotacticprotein(MCP)-1や接着分子(19)1185*SusumuIshida:北海道大学大学院医学研究科眼科学分野〔別刷請求先〕石田晋:〒060-8648札幌市北区北14条西5丁目北海道大学大学院医学研究科眼科学分野特集●糖尿病と糖尿病網膜症あたらしい眼科27(9):1185.1193,2010糖尿病網膜症・黄斑症の分子病態:血管症の特性からMolecularPathogenesisofDiabeticRetinopathyandMaculopathy:VascularComplications石田晋*CCR2MCP-1VEGFR-2血管内皮細胞CD18ICAM-1VEGFR-1炎症細胞内皮細胞分裂白血球浸潤炎症血管新生VEGF図1VEGFによる炎症性血管新生AT1-RAT2-RAngIV(3-8)AminopeptidaseNAngIII(2-8)AminopeptidaseAChymaseACE2ACEReninAngII(1-8)AngI(1-10)AngiotensinogenAng-(1-7)InactivefragmentBradykininProrenin血圧上昇血管収縮細胞増殖炎症血管新生血圧降下血管拡張細胞増殖抑制アポトーシス図2レニン.アンジオテンシン系(RAS)1186あたらしい眼科Vol.27,No.9,2010(20)を集めた.細胞生物学的手法が大きく進歩を遂げた1990年代には,網膜血管新生疾患におけるVEGF研究は飛躍的に展開した.そしてついに2004年にはVEGF分子を標的とした新薬が網膜症に臨床応用され,糖尿病黄斑浮腫に対する第II相臨床試験では浮腫の軽減と視力の向上をもたらした2).一方,VEGF研究とは独立して白血球・炎症との関連を解析する一連の研究により,糖尿病網膜症における網膜浮腫は白血球が関与する炎症の結果であることが指摘されるようになった3,4).そして最近では,VEGFが白血球を誘導して網膜の炎症を惹起させる炎症性サイトカインとして捉えられるようになり4,5),VEGFによる血管透過性亢進もその一部は炎症であると考えられるようになった.まずここで,糖尿病網膜症の3大病態の分子細胞メカニズムについて,「炎症」という観点から各論を概説する.1.網膜浮腫のメカニズム糖尿病患者の眼内VEGF濃度は,増殖期ほどではないが単純期からも上昇している.VEGFは低酸素によって誘導されることは周知であるが,黄斑浮腫をきたす単純期には低酸素を示唆する所見は血管造影上も病理組織学的にも認められない.糖尿病網膜症における低酸素以外の誘導因子の一つとして,持続する高血糖によって生成される最終糖化産物(advancedglycationendproduct)が網膜グリア細胞でVEGF発現を誘導することが確認されている6).では,VEGFはどのようにして糖尿病網膜症の血管透過性を亢進させるのであろうか?VEGFは血管内皮VEGF阻害薬や抗炎症ステロイド薬がオフラベルながら臨床応用されているのである.さらに,早期から積極的に行える安全かつ有効な治療戦略として,生活習慣病における臓器障害の鍵因子レニン-アンジオテンシン系(RAS)(図2)への介入が考えられる.筆者らは網膜症動物モデルにおいてRAS活性化の下流でVEGFなど主要な炎症関連分子が誘導されることを明らかにしてきたが,実際に海外の大規模臨床試験の結果から,RAS抑制薬の網膜症への適応拡大は有望視されている.近年の細胞生物学的研究の進歩によりさまざまなサイトカインの網膜症病態への関与が示唆されているが,紙面の限られた本稿では,VEGFやRAS関連分子を中心に臨床応用に直結する分子病態に絞って解説したい.I網膜症の3大血管病態における分子細胞メカニズム糖尿病網膜症のおもな病態は浮腫・虚血・血管新生の3つであり,すべて血管障害に起因する.各病態は臨床病期の単純期・前増殖期・増殖期に対応しており,浮腫・虚血・血管新生という順序で進行し,この順序が逆転することは臨床経験上ありえない.眼底所見ではまったく独立した3つの病態が,なぜ常に順を追って出現するのか?規則正しい進行の順序は偶然の結果ではなく,必然的な何らかのメカニズムが存在するはずである.また,これら3つの病態に対するもっと根元的な疑問がある.なぜ血漿成分が漏出するのか?なぜ血管が閉塞・消失するのか?なぜ血管は虚血網膜内でなく硝子体へ向かうのか?これらの問いに対して,最近の細胞生物学的研究から少なくとも答えの一部が得られるようになった.近年の細胞生物学的研究の進歩は,血管新生の責任分子がVEGFであることを明らかにしたが,VEGFはそもそもVPFとしてすでに報告されていた分子と同一であることが判明した.すなわちこのサイトカインは,血管内皮細胞を分裂させるだけでなく,血管透過性を亢進させる.単純期の網膜浮腫にはVPFとして,増殖期の網膜血管新生にはVEGFとして関与する1)ため,網膜症の初期から後期まで病態を進行させる分子として注目正常糖尿病図3ストレプトゾトシン誘導糖尿病モデル糖尿病網膜では,網膜血管に白血球接着(矢印)が認められる.(21)あたらしい眼科Vol.27,No.9,20101187る前に白血球が網膜血管に接着する(図4).内皮細胞ICAM-1と結合する白血球の接着分子CD18を中和抗体で阻害して白血球の接着を抑制すると無血管野形成が軽度となったなどの実験結果から,白血球が網膜血管へ接着することが血管内皮細胞のアポトーシスをひき起こし無血管野形成に関与することがわかった9).糖尿病動物モデルにおいても,網膜血管に接着した白血球が血管内皮細胞にアポトーシスを誘導し,これが透過性亢進の原因の一つとなることが示されている10).さらに,CD18欠損マウスおよびICAM-1欠損マウスを用いた糖尿病モデルを長期観察すると,糖尿病野生型マウスと比較して網膜毛細血管の内皮細胞消失が著明に抑制された11).これらのことから白血球を介するメカニズムは,糖尿病網膜症が単純期から前増殖期へと増悪する過程において継続的に働いていると考えられる.網膜浮腫と網膜虚血は,血管造影上はまったく異なる所見を示すが,細胞生物学的に捉えれば,同一のメカニズムを共有しながら進んでいく一連の現象であるのかもしれない.3.網膜血管新生のメカニズム網膜血管新生は網膜虚血により誘導される.すなわち,正常網膜発生における生理的血管新生も,増殖糖尿病網膜症や虚血網膜症モデルでみられる病理的血管新生細胞における接着分子ICAM-1の発現を誘導することが知られている4,5).糖尿病患者の剖検眼7)でも糖尿病モデル動物(図3)でも網膜血管におけるICAM-1発現が亢進しており,網膜へ白血球が浸潤していることが指摘されている.白血球がICAM-1を介して血管内皮細胞に接着すると,タイトジャンクション構成蛋白の変化をひき起こし,血管透過性の亢進につながると考えられている.このように,VEGFは網膜において白血球を伴う炎症性サイトカインとして機能し,透過性亢進の一役を担っていると考えられる.2.網膜虚血のメカニズム糖尿病網膜症において網膜血管が消失する機序については,適切な動物モデルがないことから不明な点が多く残されている.少なくとも糖尿病患者の剖検眼網膜では,血管内皮細胞アポトーシスが進行していることがわかっている8).網膜虚血の病態モデルとしては,未熟児網膜症を模倣した虚血網膜症モデルがある.虚血網膜症モデルにおける無血管野形成は,網膜血管内皮細胞のアポトーシスによる血管退縮であることがわかっている.さらに,この血管内皮細胞アポトーシスに白血球が関与するメカニズムが最近になってわかってきた.すなわち,虚血網膜症モデルにみられる血管退縮の過程では,経時的にICAM-1発現が上昇し,無血管野が形成され図4虚血網膜症モデル(血管退縮期)血管退縮に先行して白血球接着(矢印)が認められる.1188あたらしい眼科Vol.27,No.9,2010(22)炎症性疾患と理解されるようになった.糖尿病では網膜血管への白血球接着が早期から亢進しており,白血球接着は網膜血管の透過性亢進4)や網膜病理的血管新生12)のトリガーとなる重要な病態である.最近,生活習慣病における臓器障害でRASが亢進しており,血管新生・炎症などの多様な作用を有することが注目されている.1.RASに関する基礎知識RASは,生物が海から陸へと進化する過程で塩分と水を体内に保持するために発達した循環ホルモンシステムであるが,臓器局所では細胞の分化・増殖,炎症,線維化など組織修復やホメオスタシス維持などの役割を担ってきたと考えられる.前者は循環RAS,後者は組織も,虚血に陥った網膜細胞から低酸素誘導されるVEGFにより推進される.生理的・病理的網膜血管新生は両者とも網膜虚血により誘導されるにもかかわらず,根本的な相違点がある.前者では,新生血管は網膜内を無血管野(正しい方向)へ秩序正しく進展する.これに対し,後者では,新生血管は虚血網膜を補.せずに網膜から硝子体(誤った方向)へ侵入してしまう.なぜ網膜血管が硝子体へ向かうのであろうか?動物モデルの観察から,病理的網膜血管新生では生理的血管新生と異なり血管新生先端部の血管に白血球が接着していることが明らかになった(図5)12).また,増殖糖尿病網膜症患者から摘出した線維血管組織に白血球の浸潤がみられることは以前より指摘されていた.動物実験の結果から病理的網膜血管新生は,マクロファージ系炎症細胞に依存して進行することが明らかとなり12),虚血とともに炎症の性質を併せもつと考えられるようになってきた.マクロファージはVEGFを産生することが知られている.これらのことから病理的血管新生とは,VEGFによって誘導された炎症細胞がさらにVEGFを分泌しながら硝子体に遊走することにより,網膜血管新生を網膜内ではなく硝子体へと方向転換させた悪循環の結果であると考えられる.II網膜症病態におけるRASの関与以上のように,網膜における浮腫・虚血・血管新生などの病態形成は白血球接着などの炎症メカニズムによって促進されることが明らかになり4,9,12),糖尿病網膜症は生理的血管新生病理的血管新生図5虚血網膜症モデル(血管新生期)病理的血管新生では,血管新生に先行・随伴して白血球接着(矢印)が認められるが,生理的血管新生では認められない.血圧調整高血圧AngIIAngIACEReninAngiotensinogen(全身性)循環RASリモデリング臓器障害AngIIAngIIAngIACEChymaseActivatedproreninAngiotensinogen(臓器局所)組織RAS図6循環RASと組織RAS(23)あたらしい眼科Vol.27,No.9,20101189convertingenzyme(ACE)などによってアンジオテンシン(Ang)に変換される.AngはRASの主要なエフェクター分子であり,7回膜貫通型受容体であるアンジオテンシン1型受容体(AT1-R),AT2-Rに結合して多彩な作用を発揮する.AT1-Rは血管平滑筋,心臓,腎臓,脳,眼などに発現している.主要なAngの作用はAT1受容体を介しており,循環血液量を増RASとよばれる(図6).飢餓の時代に塩分保持など生命維持に必須の役割を担ってきたRASは,皮肉にも飽食の現在では生活習慣病の進行因子となっている.RASはアンジオテンシノーゲンを基質とする酵素カスケードである.アンジオテンシノーゲンから酵素レニンがアンジオテンシンI(angiotensinI:AngI)を産生し,さらにAngIがアンジオテンシン変換酵素angiotensin-AT1-RNegativecontrolAT1-RNegativecontrolA,B:増殖糖尿病網膜症新生血管組織C,D:マウス網膜(切片)E,F,G:マウス網膜(wholemount)Scalebar=25μmScalebar=80μm図7網膜血管,新生血管におけるAT1.Rの発現増殖糖尿病網膜症患者から摘出した線維血管組織の新生血管(A)やマウス網膜の血管内皮細胞(C,F)にAT1-R(黒矢印)が発現していた.B,D:Negativecontrol.E:血管内皮細胞マーカーPECAM-1染色.G:PECAM-1(E)とAT1-R(F)の重ね合わせ.1190あたらしい眼科Vol.27,No.9,2010(24)点も多い.2.網膜症の血管病態におけるRASの関与眼局所においてもRAS関連分子は網膜や毛様体などに発現しており13),興味深いことに増殖糖尿病網膜症14)や糖尿病黄斑浮腫15)の硝子体中でAngは糖尿病網膜症の病態形成に重要なVEGFと相関して上昇することし,血管平滑筋を収縮させ血圧を上昇させるほか,細胞増殖作用,炎症作用などを示す.AT2-Rは心筋,子宮筋,網膜などに分布し,血圧降下作用,アポトーシス促進作用などを有し,AT1-Rの作用と拮抗するが不明のRT-PCRNormalDMNormalDMWesternblottingNormalAngiotensinogenAT1-RAT2-Rb-actinAngiotensinIIAT1-RAT2-Ra-tubulinDMAngII/a-tubulin2.01.51.00.50†NormalDMAT1-R/a-tubulin2.01.51.00.50†NormalDMAT2-R/a-tubulin2.01.51.00.50†図8糖尿病網膜におけるRAS分子の発現誘導STZによる高血糖誘導後2カ月の時点で,網膜におけるAngII,AT1-R,AT2-Rの発現はmRNA,蛋白レベルいずれも亢進しており,組織RASが活性化されている.†:p<0.05.0.5NormalVehicleNormalABCDE5Leukocytecounts(cells/retina)TelmisartanDM+Telmisartan(5mg/kg)PosteriorretinaPeripheralretinaDM+VehicleValsartanDM+Valsartan(10mg/kg)PD123319DM+PD123319(20mg/kg)13020100DM10220(mg/kg)**††**図9AT1.R阻害による網膜血管白血球接着の抑制糖尿病マウスにAT1-R拮抗薬telmisartan(C)またはvalsartan(D)を投与すると,Vehicle投与群(B)と比べて網膜血管への白血球接着(白矢印)は有意に抑制された.AT2-R拮抗薬PD123319(E)の投与では,抑制効果はみられなかった.†:p<0.05,*:p<0.01,**:p<0.001.あたらしい眼科Vol.27,No.9,20101191が示された.AngはVEGF・VEGF受容体・接着分子・走化因子・サイトカインなどの血管新生・炎症関連分子を誘導し,血管新生に関与する.たとえば,Angは培養網膜血管内皮細胞においてAT1-Rを介し,VEGFR-2の発現を増加させ,VEGFによる血管新生作用を促進する16).そこで筆者らは,増殖糖尿病網膜症患者から摘出した線維血管組織の新生血管やマウス網膜の血管内皮細胞にAT1-Rが発現していることを示した(図7)17).さらに糖尿病網膜症とRASの関係を明らかにするために,ストレプトゾトシン(streptozotocin:STZ)誘導糖尿病モデルを用いて検討を行った.これはSTZにより膵臓のb細胞が特異的に破壊されるために高血糖が誘導される1型糖尿病モデルである.高血糖誘導後2カ月の時点では,網膜におけるAng,AT1-R,AT2-Rの発現はいずれも亢進しており,RASが活性化されていることがわかった(図8)18).ここにAT1-R拮抗薬(ARB;telmisartanまたはvalsartan)を投与すると,高血糖により亢進していた網膜血管への接着白血球数は有意に抑制され(図9)18),さらに網膜におけるVEGFやICAM-1の発現も有意に抑制された(図10)18).しかし,AT2-R拮抗薬(PD123319)の投与では,網膜血管への接着白血球数は抑制されず,VEGFやICAM-1の発現も変化がみられなかった18).これらのことから,糖尿病網膜症ではRASが活性化されており,AT1-Rを介するシグナルが病態に大きく関与している可能性が示唆された.3.糖尿病網膜症に対するRAS抑制薬介入試験の結果実際に臨床では,EURODIABControlledTrialofLisinoprilinInsulin-DependentDiabetesMellitus(EUCLID)により,高血圧のない1型糖尿病患者に対するアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬(lisinopril)がプラセボ群と比較して糖尿病網膜症の進行を50%抑制することが報告されている19).また,UKProspectiveDiabetesStudy(UKPDS)ではACE阻害薬(captopril)やb遮断薬(atenolol)による厳格な血圧コントロールによって糖尿病網膜症の発症・進行が有意に抑制されたため20),高血圧は糖尿病網膜症の発症・進行のリスクファクターとみなされている.このようにRASの抑制は,糖尿病網膜症のリスクファクターである高血圧の改善のみならず,血圧に依存しない網膜症の進行メカニズムを制御することが示唆されている.さ(25)VehicleNormal***NSTelmisartanICAM-1expression(ng/mgtotalretinalprotein)ValsartanDM121086420VehicleNormal†††NSTelmisartanVEGFexpression(pg/mgtotalretinalprotein)ValsartanDM403020100VehicleNormalb-actinVEGFICAM-1164120TelmisartanValsartanDMRT-PCRELISA図10AT1.R阻害による網膜ICAM.1,VEGFの発現抑制AT1-R拮抗薬(telmisartanまたはvalsartan)を投与すると,網膜におけるVEGFやICAM-1の発現は,mRNA,蛋白レベルいずれも有意に抑制されることから,糖尿病網膜症の病態責任分子はRASの下流で制御されていることがわかる.*:p<0.01,†:p<0.05.1192あたらしい眼科Vol.27,No.9,2010らずその全身背景をも是正する予防医学的な側面ももった新しい治療戦略の一つと考えられる.文献1)IshidaS,ShinodaK,KawashimaSetal:CoexpressionofVEGFreceptorsVEGF-R2andneuropilin-1inproliferativediabeticretinopathy.InvestOphthalmolVisSci41:1649-1656,20002)CunninghamETJr,AdamisAP,AltaweelMetal;MacugenDiabeticRetinopathyStudyGroup:AphaseIIrandomizeddouble-maskedtrialofpegaptanib,ananti-vascularendothelialgrowthfactoraptamer,fordiabeticmacularedema.Ophthalmology112:1747-1757,20053)MiyamotoK,KhosrofS,BursellSEetal:Preventionofleukostasisandvascularleakageinstreptozotocininduceddiabeticretinopathyviaintercellularadhesionmolecule-1inhibition.ProcNatlAcadSciUSA96:10836-10841,19994)IshidaS,UsuiT,YamashiroKetal:VEGF164isproinflammatoryinthediabeticretina.InvestOphthalmolVisSci44:2155-2162,20035)MiyamotoK,KhosrofS,BursellSEetal:Vascularendothelialgrowthfactor(VEGF)-inducedretinalvascularpermeabilityismediatedbyintercellularadhesionmolecule-1(ICAM-1).AmJPathol156:1733-1739,20006)LuM,KurokiM,AmanoSetal:Advancedglycationendproductsincreaseretinalvascularendothelialgrowthfactorexpression.JClinInvest101:1219-1224,19987)McLeodDS,LeferDJ,MergesCetal:Enhancedexpressionofintracellularadhesionmolecule-1andP-selectininthediabetichumanretinaandchoroid.AmJPathol147:642-653,19958)MizutaniM,KernTS,LorenziM:Accelerateddeathofretinalmicrovascularcellsinhumanandexperimentaldiabeticretinopathy.JClinInvest97:2883-2890,19969)IshidaS,YamashiroK,UsuiTetal:Leukocytesmediateretinalvascularremodelingduringdevelopmentandvaso-obliterationindisease.NatMed9:781-788,200310)JoussenAM,PoulakiV,MitsiadesNetal: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