0910-1810/10/\100/頁/JCOPY情報を聞き出す「考える問診」が重要である.ぶどう膜炎・内眼炎は全身疾患との関係が深いことがあり,民族・人種,性,居住地域,家族歴,両眼性/片眼性,急性/慢性,再発の有無,全身症状や食生活,動物・ペット飼育歴なども関係することがある1).漫然と問診してもこれらの必要な情報は得られないので,ただ聞くのではなく聞き出す意識が大切である.若年者は若年性関節リウマチ関連ぶどう膜炎,サルコイドーシス,間質性腎炎ぶどう膜炎症候群が多い.高齢者では悪性腫瘍を常に念頭におく.Behcet病は成人のなかでも比較的若年で20.30歳代が好発年齢であり,サルコイドーシスは男性では20.30歳代,女性では同年齢と50歳以上の二峰性がみられる2)(表1).罹患眼と眼外所見も非常に重要である(表2,3).はじめにぶどう膜炎(uveitis)というのは古くから用いられている用語である.本来はぶどう膜(虹彩,毛様体,脈絡膜)が炎症の主体をなす疾患を指すべきであるが,実際は網膜などの炎症が主体であるがぶどう膜にも炎症が及ぶ疾患も慣例的にぶどう膜炎の範疇として扱われてきた.そこで1990年代後半以降は国際眼炎症学会などが中心となり,ぶどう膜炎を本来のぶどう膜の炎症(狭義のぶどう膜炎)に限定し,その他を含めた従来の広義のぶどう膜炎に対しては内眼炎(intraocularinflammation)という呼称が提唱され,用いられている.したがって,本稿のタイトルである前部ぶどう膜炎は前部内眼炎と表記してもよい.一方,眼が眩しい,すなわち羞明は光が強く不快に感じる,あるいは見えにくい状態と定義される.その病態はときに中間透光体の混濁が原因となって散乱光が生じ,網膜像のコントラストが低下することに起因する.炎症が毛様体に及ぶと毛様体刺激症状としての毛様充血,眼痛(毛様痛)とともにしばしば羞明感を感じ,これらは中等度以上のあらゆるぶどう膜炎で生じうる.本稿では,眼の眩しさを主訴に受診する場合の原因の一つとして前部ぶどう膜炎を取り上げ,鑑別疾患と一次治療を中心に実際の臨床現場ですぐに役立つよう解説したい.I考える問診発症やその後の症状の経過から疾患を類推して必要な(17)589*NobuyoshiKitaichi:北海道医療大学個体差医療科学センター眼科学系,北海道大学大学院医学研究科炎症眼科学分野〔別刷請求先〕北市伸義:〒002-8072札幌市北区あいの里2条5丁目北海道医療大学個体差医療科学センター眼科学系特集●眼が眩しいあたらしい眼科27(5):589.594,2010前部ぶどう膜炎AnteriorUveitis北市伸義*表1年齢層別の前部ぶどう膜炎原因疾患の傾向年齢層よくみられる疾患小児・若年者若年性関節リウマチ関連ぶどう膜炎サルコイドーシス間質性腎炎ぶどう膜炎症候群若年者・成人(20.50歳代)Behcet病サルコイドーシス糖尿病虹彩毛様体炎Posner-Schlossman症候群Fuchs虹彩異色虹彩毛様体炎HTLV-1関連ぶどう膜炎高齢者サルコイドーシス(女性)眼内悪性リンパ腫590あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010(18)HTLV(ヒトT細胞白血病ウイルス)-I関連ぶどう膜炎ではHTLV-I抗体が高値である.糖尿病虹彩毛様体炎では血糖値が著しく上昇している.若年性関節リウマチ関連ぶどう膜炎では抗核抗体が高値を示す.真菌性眼内炎ではb-d-グルカンが陽性となることがある.また,クオンティフェロン検査は結核で陽性となる.2.髄液検査:Vogt-小柳-原田病で単核球の増加がみられる3).悪性リンパ腫では髄液中に悪性腫瘍性細胞がII前部ぶどう膜炎の評価法前房炎症の程度はフレアと細胞数で表記する.炎症時には血液房水関門の破綻により前房水内蛋白濃度が上昇し,チンダル現象で前房内ではスリット光の照射経路が輝いて見える.これをフレアという.程度の低いほうから0,1+,2+,3+,4+と5段階評価する.また,前房内細胞は細隙灯顕微鏡で1mm×1mm大のスリット光で観察した視野内での細胞数により評価する.こちらは程度の低いほうから0,0.5+,1+,2+,3+,4+の6段階に分けられる(表4).診療録などへの記載は1+flare,1+cellsのようにする.III補助検査原因疾患を考えるために眼科以外の補助検査を行うと有用なことがある.1.血液検査:Behcet病では白血球数の上昇が,サルコイドーシスではアンギオテンシン変換酵素(ACE)やカルシウム,肺胞II型上皮細胞由来の糖蛋白KL-6や,肺サーファクタント濃度の上昇がみられることがある.表2罹患眼と前部ぶどう膜炎疾患両眼性Vogt-小柳-原田病・交感性眼炎若年性関節リウマチ関連ぶどう膜炎間質性腎炎ぶどう膜炎症候群おもに両眼性だがときに片眼性Behcet病サルコイドーシス糖尿病虹彩毛様体炎おもに片眼性だがときに両眼性ヘルペス性虹彩毛様体炎HLA-B27関連ぶどう膜炎Posner-Schlossman症候群急性網膜壊死片眼性Fuchs虹彩異色虹彩毛様体炎表4前房細胞数の評価グレード1mm×1mm視野内の細胞数01個未満0.5+1.51+6.152+16.253+26.504+51個以上表3眼外所見と代表的ぶどう膜炎疾患糖尿病糖尿病虹彩毛様体炎腎障害(小児)間質性腎炎ぶどう膜炎症候群炎症性腸疾患炎症性腸疾患関連ぶどう膜炎脊椎炎HLA-B27関連ぶどう膜炎結節性紅斑Behcet病サルコイドーシス関節炎関節リウマチ関連ぶどう膜炎サルコイドーシス眼外傷後交感性眼炎外科手術後真菌性眼内炎悪性腫瘍悪性腫瘍眼内浸潤(仮面症候群)図1HLA.B27関連ぶどう膜炎患者にみられた強直性脊椎炎X線写真で竹節様脊椎(bamboospine)像がみられる.(19)あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010591る5).前眼部炎症を主体とするものはVogt-小柳型,眼底後極部の所見を主体とするものは原田型とよばれることもある.前眼部には前房に炎症性細胞がみられ,虹彩に結節がみられることがある(図3)..Behcet病:Behcet病は日本を含むシルクロード地域に多発し,しばしば前房蓄膿を伴う激しい虹彩毛様体炎を発症する(図4).前房蓄膿はサラサラした性状である.口腔内アフタ性潰瘍,皮膚結節性紅斑,外陰部潰瘍を合わせて4主症状といい,問診・視診が重要である6).みられることがある.3.尿検査:間質性腎炎ぶどう膜炎症候群でb2-ミクログロブリンが高値となる.サルコイドーシスではカルシウムが上昇することがある.4.X線写真,CT(コンピュータ断層撮影)検査:サルコイドーシスでは肺門リンパ節腫脹が,結核では陳旧性病変が検出されることがある.HLA(ヒト白血球抗原)-B27関連ぶどう膜炎では強直性脊椎炎を合併することがある(図1).5.皮内反応:Behcet病では針反応が亢進する.ツベルクリン反応はサルコイドーシスで陰転化し,結核では強陽性となる.IV鑑別疾患.サルコイドーシス:近年わが国のぶどう膜炎原因疾患で最多であり,肉芽腫性ぶどう膜炎を呈する4).虹彩結節や隅角結節(図2),眼底では雪玉状硝子体混濁や網膜血管の白鞘化を伴い,慢性に炎症が持続することが多い.虹彩後癒着を起こしやすい.呼吸器科,皮膚科などとの連携が必要である..Vogt-小柳-原田病・交感性眼炎:日本人を含むモンゴロイドに多発する.眼症状がみられる前に,前駆症状として数日前から感冒様症状,頭痛,耳鳴,めまい,嘔気,頭髪の接触感覚異常,項部痛,眼窩深部痛などがある.前駆症状に続いて,両眼のぶどう膜炎が出現す図2サルコイドーシスでみられた隅角結節サルコイドーシスは肉芽腫性ぶどう膜炎を呈する.特に隅角結節は本疾患に特徴的である.図4Behcet病による前部ぶどう膜炎しばしば激しい前部ぶどう膜炎を呈する.前房蓄膿はサラサラして体位により変動する.図3Vogt.小柳.原田病(VKH病)特に前眼部型(Vogt-小柳型)では肉芽腫性ぶどう膜炎を呈し虹彩結節などがみられることがある.592あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010(20)人種では虹彩異色ははっきりしないことが多い..糖尿病虹彩毛様体炎:糖尿病のコントロールが不良な患者では強い前眼部炎症がみられることがある.線維素析出を伴うこともあるが,毛様充血は比較的軽度で前房蓄膿はまれである(図7).両眼性が多いが片眼のこともある.網膜症の有無,血糖値,Hb(ヘモグロビン)A1C値が診断の決め手となる10).血糖コントロールに伴い改善する..間質性腎炎ぶどう膜炎症候群:小児に多い.尿中b2-特に口腔内アフタ性潰瘍(口内炎ではない)はほぼ100%にみられる重要な所見である.眼炎症は急性,再発性で両眼性にみられるが,一度の眼発作は片眼であることが多い..HLA-B27関連ぶどう膜炎・急性前部ぶどう膜炎:多くは片眼性,再発性である.強い毛様充血,前房蓄膿,線維素析出,角膜後面沈着物がみられ,虹彩後癒着の頻度は高い.前房蓄膿は粘稠で中央部が隆起して見える(図5).眼痛など自覚症状が強い.日本人にはまれな遺伝子であるが,北欧を中心とした欧米人,中国や韓国人には多くみられる7)..ヘルペス性虹彩毛様体炎:豚脂様角膜後沈着物がみられ,眼圧上昇を伴うことが多い8).部分的な虹彩萎縮を伴うと水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)であることが確実である(図6)が,初期にははっきりしないことが多い.PCR(polymerasechainreaction)法による前房水からのウイルスDNAの検出が診断に有効である..急性網膜壊死:眼底周辺部から始まる網膜壊死が急速に広がり,網膜.離へと移行する予後の悪い疾患である.前眼部に強い炎症がみられることも特徴の一つであり,網膜周辺部に特徴的な黄白色病変がみられる9)..Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎:慢性で軽度の前部ぶどう膜炎がみられる.虹彩後癒着はなく,一般にステロイド薬治療も不要である.日本人など虹彩色素の多い図6ヘルペス性虹彩毛様体炎ヘルペス性虹彩毛様体炎,特に水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)では分節状の部分虹彩萎縮がみられる.図7糖尿病虹彩毛様体炎糖尿病虹彩毛様体炎では線維素析出を伴うこともある.毛様充血は比較的軽度で前房蓄膿はまれである.図5HLA.B27関連ぶどう膜炎HLA-B27関連ぶどう膜炎は急激で激しい前部ぶどう膜炎を生じる.しばしば粘稠な前房蓄膿がみられる.(21)あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010593あるので,長期間効果が持続する硫酸アトロピンの点眼は原則として用いない.つまり「散瞳」よりむしろ「動瞳」を心がける.すでに部分的に虹彩後癒着がある場合には数日間硫酸アトロピン眼軟膏(リュウアトR眼軟膏)を夜間1回点入して虹彩後癒着を解除するとよい.2.点眼薬による消炎:ステロイド点眼薬を用いる.前房への移行性から0.1%リン酸ベタメタゾン(リンデロンR液など)を用い,炎症が強い場合は1日6回あるいは4回程度点眼する.ステロイドレスポンダー患者では眼圧が上昇するため眼圧を頻繁に測定する.長期間の使用では緑内障や白内障が生じることがある.炎症の軽減とともに減量する.3.結膜下注射による消炎:前眼部炎症が非常に強い場合,ステロイド薬の結膜下注射を行う.急性の前部ぶどう膜炎ではリン酸デキサメタゾン(デカドロンRなど)を用いることが多い14).特に炎症が強い場合は注射時に疼痛を感じ,また血管も拡張しているため結膜下出血も起こしやすい.加えて眼への注射に恐怖感をおぼえる患者もおり,意義や必要性,合併症などをよく説明してから行う必要がある.点眼薬と同様眼圧上昇に注意が必要である.ただし,炎症が強く,疼痛も強い場合には短期間ステロイド薬を全身投与することがある.内服は体重当たりミクログロブリンが上昇し,小児科・泌尿器科・腎臓内科などと連携が必要である11)..若年性関節リウマチ関連ぶどう膜炎:小児期にみられるが自覚症状に乏しく慢性再発性前部ぶどう膜炎を呈する12).視力予後は一般に不良である.膝など少関節型リウマチに多い(図8)..炎症性腸疾患関連ぶどう膜炎:Crohn病,潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患で急性前部ぶどう膜炎をきたすことがある.注腸バリウム検査,内視鏡検査などで診断する(図9)..Posner-Schlossman症候群:片眼性,再発性虹彩毛様体炎を伴う急激な眼圧上昇が特徴である13).白人より日本人に多くみられる.V治療ぶどう膜炎はしばしば再発性,遷延性で全身疾患の合併も多く,視力予後不良者も多いことから,なるべく専門外来・専門施設で治療することが望ましい.専門外来へコンサルトするまでにまず行う治療は,以下の3点である.1.散瞳:前部ぶどう膜炎ではしばしば虹彩後癒着を形成する.虹彩後癒着は眼底の観察を困難にするばかりではなく,急性緑内障発作のリスクを高めるため大きな問題である.まず散瞳薬(ミドリンPRなど)を頻回に点眼させる.炎症が強い場合は散瞳位で癒着することも図8若年性関節リウマチぶどう膜炎を合併するのはおもに少関節型であり,特に膝関節が多い.図9Crohn病Crohn病では注腸バリウム検査で敷石像(cobblestoneappearance)がみられる.594あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010(22)文献1)北市伸義,大野重昭:ぶどう膜炎の分類と頻度.すぐに役立つ眼科診療の知識基礎からわかるぶどう膜炎.p3-7,金原出版,20062)KitameiH,KitaichiN,NambaKetal:ClinicalfeaturesofintraocularinflammationinHokkaido,Japan.ActaOphthalmol87:424-428,20093)北市伸義,新野正明,大野重昭:ぶどう膜炎検査の正しい使い方髄液検査.あたらしい眼科25:1497-1500,20084)北市伸義,合田千穂,宮崎晶子ほか:サルコイドーシス.臨眼62:444-449,20085)北市伸義,三浦淑恵,大野重昭:Vogt-小柳-原田病.臨眼62:1852-1859,20086)北市伸義,大野重昭:Behcet病.日本臨牀63〔臨床免疫学(下)〕:376-380,20057)南場研一,北市伸義,三浦淑恵ほか:HLA-B27関連ぶどう膜炎.臨眼62:1950-1954,20088)北市伸義,三浦淑恵,大野重昭:ヘルペス虹彩毛様体炎.臨眼62:1430-1435,20089)吉沢史子,北市伸義,大野重昭:急性網膜壊死.臨眼64:276-279,201010)北市伸義,大野重昭:虹彩炎.眼科プラクティス7,糖尿病眼合併症の治療指針.p162-164,文光堂,200611)合田千穂,北市伸義,大野重昭:間質性腎炎ぶどう膜炎症候群.臨眼61:1598-1601,200712)北市伸義,大野重昭:若年性関節リウマチにともなう前部内眼炎.臨眼61:488-492,200713)宮崎晶子,北市伸義,大野重昭:Posner-Schlossman症候群.臨眼61:2000-2003,200714)北市伸義:ぶどう膜炎に対するステロイド治療.ステロイドの使い方コツと落とし穴.p52-53,中山書店,200615)北市伸義:Vogt-小柳-原田病・交感性眼炎.眼科プラクティス23.眼科薬物治療AtoZ.p136-138,文光堂,200816)北市伸義,大野重昭:眼科用薬.治療薬ハンドブック2009.p161-194,じほう,2009プレドニゾロンで0.5.1.0mg/kg/日で投与を始める.静脈投与では200mgから開始する大量療法やコハク酸メチルプレドニゾロン(ソルメドロールRなど)1g/日から開始するパルス療法があり,投与量や減量のプロトコールはおおよそ決まっている15).Behcet病などでは免疫抑制薬シクロスポリンの内服や抗TNF(腫瘍壊死因子)-a抗体(レミケードR)の点滴静脈注射が用いられることがある.特にレミケードRは現在厚生労働省指示による市販後全例調査中であり,登録された施設でのみ行われる16).VI眩しさへの対策前房内の炎症細胞や蛋白質などが眩しさの主因であるから前房炎症の改善を図ることが基本である.また,散瞳位での虹彩後癒着による羞明に対してはサングラスなどで対処する.白内障手術などの際に外科的に虹彩後癒着を解除することも有効である.おわりに前部ぶどう膜炎を呈する全身疾患は多く,初診時すぐに原因疾患を特定するには至らない場合も多い.しかし虹彩後癒着や緑内障などの合併症を回避するためには,原因疾患もさることながら適切な初期治療が非常に大切である.眩しさを訴えて受診してくる場合に本稿が少しでもお役に立てば幸いである.