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眼科医のための先端医療 112.最新の網膜光凝固装置

2010年4月30日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.27,No.4,20104870910-1810/10/\100/頁/JCOPYはじめに網膜光凝固装置は古くは1957年にキセノン光凝固装置が市販され,1960年代にはMeyer-Schwickerathらにより糖尿病網膜症に対する治療法として臨床的に使用されてきました1).その後,1971年にはアルゴンレーザーが市販されるようになり,周辺部網膜への間接的な凝固による新生血管の退縮が報告され,汎網膜光凝固の有用性が示されてきました2).1973年にはわが国でも導入する施設が誕生してから,糖尿病網膜症による失明を阻止する治療として現在では日常診療に広く用いられるようになってきています.その間,網膜光凝固装置の発展は,アルゴン/クリプトン光凝固,アルゴン/ダイ光凝固,グリーンYAG光凝固,マルチカラー光凝固と波長の違いこそあれ,白内障や硝子体手術装置に比較して,劇的な変化は少ないものでした.しかし,PASCALR(ThePatternScanningLaser.OptiMedica社,カリフォルニア,米国)が2005年に米国食品医薬品局(FDA)の許可を取得後,網膜光凝固装置の開発は慌しくなってきました.パターンスキャンレーザー網膜光凝固装置3,4)と凝固条件での網膜光凝固装置は照射ののりんでが新はじめパターンで複数のス照射がの光凝固装置に照射がのーパスでりでな光凝固をとがでとのがで網膜に網膜光凝固は照射がののと凝固がのとのに網膜に網膜光凝固をとの下は体のはとのがり)パターンスキャンレーザー網膜光凝固装置とはなりの照射をのとのとでのをではのがにがなとの)がな照射のがとがの網膜光凝固装置ではの照射にのを照射とはで最新のの網膜光凝固装置でのな条件で照射が可能にな照射ではにとがの凝固りがめに凝固数はに加を凝固にがなとをめににパターンで複数の凝固をとがでパターンスキャンレーザー網膜光凝固装置はのでになのとのにの網膜光凝固装置とをでがのののめ網膜の凝固がな凝固がとでがーンのになのがりののがVISULAS532sVITEとSUPRASCANVISULAS532sVITEEISS図1)はすでにわが国でも発売されているグリーンレーザーのVISULAS532に後付でパターン化された複数照射が可能になる機種です.従来型の機種であるため,付属の細隙灯顕微鏡は使い慣れた形式のもので周辺部の観察も容易となります.複数照射を行うときの凝固径はPASCALRと同様に50,100,200,300μmと限定され,波長もグリーンの532nmに限られてしまいますが,後付で購入できることが魅力的です.パターン化された複数照射装置が後付で着けられるかが,今後の従来型の機種の選定基準になってくるであろうと考えます.一方,SUPRASCAN(QuantalMedical社)はグリーン波長の532nmに加え,イエロー波長である577nmを用いてパターン化された複数照射が可能なことが画期的です.マルチカラーレーザーの発売以来,程度の差は(71)◆シリーズ第112回◆眼科医のための先端医療=坂本泰二山下英俊加藤聡(東京大学大学院医学系研究科外科学専攻眼科学)最新の網膜光凝固装置———————————————————————-Page2488あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010あれ白内障の合併など中間透光体の混濁を合併する症例が多い糖尿病網膜症症例には好んでイエローの波長が使用されてきた経緯からしますと,577nmの波長での複数照射可能機種は待ち望んでいたものであります.超短時間,高出力照射を要するパターンスキャンレーザーでレッドの波長のものをつくるのが困難なことが予想されますから,グリーンとイエローの波長が使用できるパターンスキャン網膜光凝固装置のわが国での発売が待ち遠しく思います.NAVILASR7)パターン複数照射がでのはんのと()はの網膜光凝固装置にーン能をがでにはの可網膜のーーでのとな網膜の()の凝固には光をに置ながをに光凝固をとがりをの網膜のの網膜光凝固ははじめにーとレン光をの装置でりのをにに光凝固をのをのに光凝固をはなととを装置にとにを光凝固(網膜の)ののにに置にのをなが凝固網膜光凝固装置でんの装置の能がでのはがににとが網膜のながおわりに最新の網膜光凝固装置について紹介しました.数年後には汎網膜光凝固を行う際に,複数照射で行うことが選択肢の一つになることと思います.しかし,どんなに装置が最新式なものになっても,その適応や凝固方法の正しい知識が不可欠なことには変わりはないということは心に留めておいて欲しいものです.文献1)Meyer-SchwickerathG,SchottK:Diabeticretinopathyandphotocoagulation.AmJOphthalmol66:597-603,19682)L’EsperanceFAJr:Clinicalhistoryofophthalmiclaser.Ophthalmiclaser(2ndedition),p3-7,CVMosby,StLouis,19833)BlumenkranzMS,YellachichD,AndersenDEetal:Semiautomatedpatternedscanninglaserforretinalphoto-coagulation.Retina26:370-376,20064)SanghviC,McLauchlanR,DelgadoCetal:Initialexperi-encewiththePascalphotocoagulator:apilotstudyof75procedures.BrJOphthalmol92:1061-1064,20085)WadeEC,BlankenshipGW:Theeectofshortversuslongexposuretimesofargonlaserpanretinalphotocoagu-lationonproliferativediabeticretinopathy.GraefesArchClinExperimentOphthalmol228:226-231,19906)Al-HussainyS,DodsonPM,GibsonJM:Painresponseandfollow-upofpatientsundergoingpanretinallaserpho-tocoagulationwithreducedexposuretimes.Eye22:96-99,20087)HariorasadSM,OberMD:Newapproachestoretinallasertherapy.RetinalPhysician:58-61,September2009(72)1VISULAS532sVITEの本体(左)と複数照射が可能なパターン(右)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010489(73)☆☆☆最新の網膜光凝固装置を読んでは最新の網膜光凝固装置のを加藤聡()にわりののでのがで光凝固装置はレーザーの射のががのとのににのでのなにでがが加藤のでになりのなののはにのでにのにとののでのをににがにわがではにおンスレーーのがおりがをにおでののののがん本ののはわめとはなとが本におでののはのにのになとはんでのととなでをののながでのはと本のののととをのににがりとはのので新ンでのをにわとと能をがりりにでをにりととでのめにはのがににりのをにャンスをが可でのとをとスをとがにでをとになとのにはでにわと加藤の光凝固装置のなでをわわがのにとでのな新ンで光凝固装置にりはにと山山下英俊

眼感染アレルギー:Immune Recovery Uveitis

2010年4月30日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.27,No.4,20104850910-1810/10/\100/頁/JCOPYヒト免疫不全ウイルス(humanimmunodeciencyvirus:HIV)は,おもにリンパ球に感染して免疫系を破壊していき,さまざまな日和見感染症や悪性腫瘍をひき起こすことにより死に至らしめる.しかし,強力な抗HIV療法(highlyactiveantiretroviraltherapy:HAART)によって,かつては不可能であった免疫能の回復が得られるようになり,生命予後は著しく改善している.ところが,免疫能が再構築されていく過程で,日和見感染症が新たに発症したり,再発したり,あるいは,HAART開始前に鎮静化させたにもかかわらず再燃したりすることがある.これは,すでに体内に存在している病原体に対し,再構築された免疫機構が作動して,過度な炎症反応をひき起こすためである.このような病態を免疫再構築症候群(immunereconstitutionsyn-drome:IRS)と称しており,全身的には帯状疱疹や非定型抗酸菌症,サイトメガロウイルス(cytomegalovi-rus:CMV)感染症などがある.なお,英語表記としてはimmunereconstitutioninammatorysyndrome,immunereconstitutiondis-ease,immunerestorationdisease,paradoxicalreac-tionなども用いられている.疫再構築症候群発症の血漿中HIV-RNA量が10万コピー/mm3以上,末梢血中CD4陽性Tリンパ球数が50/mm3未満と,HIVが盛んに増殖し,著しい免疫不全状態にある際にHAARTを始めると,IRSを発症しやすい.IRS出現時には,HAARTが効果を奏してHIV-RNA量は減少しCD4数は増加しているのが一般的であるが,CD4数が増えていないこともある.これは,免疫不全といっても免疫細胞の数の減少だけではなく機能の低下も含まれているからで,機能が回復するだけでも炎症反応は起こるようになる.また,炎症局所にリンパ球が集まっているものの,末梢血全体としての数が増えるまでに至っていないことも考えられる.科の免疫再構築症候群抗CMV治療によりCMV網膜炎を鎮静化させた後にHAARTを始めた際に,網膜炎は再燃していないにもかかわらず,硝子体内に多数の細胞が出現してくることがある(図1).これがimmunerecoveryuveitis(IRU)である.片眼性の網膜炎の僚眼には出現しないことから,眼内に残在するCMV抗原に対するIRSと考えられている1).IRUの合併症として後下白内障や胞様黄斑浮腫,網膜前膜,網膜新生血管(図2)などがある.これらは眼内の炎症に伴う続発性のもので,IRSそのものではない.(69)眼感染アレルギーセミナー─感染症と生体防御─●連載監修=木下茂大橋裕一28.ImmuneRecoveryUveitis永田洋一東京大学医科学研究所附属病院眼科サイトメガロウイルス網膜炎を合併したHIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染者において,網膜炎を鎮静化させた後に抗HIV療法を行った場合,眼底病変は再燃していないのに硝子体中に多数の細胞が出現してくることがある.これは,眼内に残在するサイトメガロウイルス抗原に対して,再構築された免疫機能により過剰な炎症反応が生じたためである.図1Immunerecoveryuveitis硝子体中に多数の細胞が出現している(徹照法による撮影).———————————————————————-Page2486あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010なお,CMV網膜炎を合併していないHIV感染者にHAARTを開始すると,IRSとして新たにCMV網膜炎が発症することがある.断IRSの診断においては,すでに認識されている感染症の予測されうる臨床経過としての症状や薬の副作用としては説明できないことがポイントとなる2).それを踏まえて,IRUでは眼底病変は鎮静化しているものの硝子体に細胞が増えてきた場合をもって臨床的に診断される.ただし,CMV網膜炎でも前房や硝子体に細胞は軽(70)度みられるので,単に細胞の存在だけでIRUと判断してはならない.他の原因によるぶどう膜炎や薬剤による副作用などを除外することが必要である.CMV抗原血症(アンチゲネミア)は診断根拠にはならない.療無治療で改善する軽症例から,重篤な視力障害を生じる重症例までさまざまである.黄斑浮腫や新生血管に対しては,原因となっている過剰な免疫反応を抑制するためにステロイド薬の投与を行う.全身投与では他の日和見感染症の誘発が問題となるので内科医との連携が不可欠である.Tenon下注射などの局所投与ではCMV網膜炎の再燃をきたす危険性があるので慎重な経過観察を要する.おわりにHIV感染症以外でも,白血病に対する造血幹細胞移植後に同様のぶどう膜炎が生じることが報告されている.IRSやIRUに関しては,まだ未解明の部分が多く,診断や治療も確立していないため,今後の研究の進歩が期待される.文献1)ShelburneSA3rd,HamillRJ:Theimmunereconstitutioninammatorysyndrome.AIDSRev5:67-79,20032)KaravellasMP,AzenSP,MacDonaldJCetal:ImmunerecoveryvitritisanduveitisinAIDS;clinicalpredictors,sequelae,andtreatmentoutcomes.Retina21:1-9,2001☆☆☆図2乳頭新生血管長期にわたるimmunerecoveryuveitisにより生じたが,ステロイド薬のTenon下注射により消退した.

緑内障:緑内障と脳血流:Alzheimer病との関連

2010年4月30日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.27,No.4,20104830910-1810/10/\100/頁/JCOPY正常眼圧緑内障(NTG)では正常対照者に比べて,微小脳梗塞や脳梁体萎縮の程度が有意に高いと報告されている1).さらに,緑内障,ことにNTGにおいて片頭痛の頻度が高いという報告2)や,逆に片頭痛患者の視野異常が初期緑内障のそれに類似しているという報告があり3),片頭痛の直接的原因である脳血流障害と緑内障との関連が示唆されてきた.一方,認知症の一種であるAlzheimer病(AD)では緑内障の合併率が高く,その合併例では視野障害の進行が速いと報告されている4).内障と脳血流異常緑内障では中大脳動脈の血流速度が対照に比べて低値であり,高酸素下で本来低下するはずの反応がみられなかったと報告されている5).頭頂葉,側頭葉など,この中大脳動脈の灌流域の血流低下をきたすと考えられているのがADの初期であることを考え合わせ,NTGにおける脳血流異常の有無を正常対照と比較検討した6).NTG31例と年齢を合致させた正常対照18例に対して,SPECT(singlephotonemis-sioncomputedtomography)を施行し,脳血流の視覚的評価と定量を行った.前者は正常型,AD型(図1),その他の3つに分類し,後者は3DSRTというソフトを用いて頭頂葉,側頭葉,後頭葉など12領域の血流値を求め,小脳に対する各領域の比を算出した.その結果,NTGでは正常型39%,AD型23%,その他39%であり,頭頂葉などで正常対照に比して有意な低下がみられた.さらに,2年以上経過を追えた22例のうち,AD型では低眼圧がより多く,視野病期の進行がより速かった.内障に対する認知症治療薬の効果わが国で広く使用されている抗AD薬・塩酸ドネペジルが網膜神経節細胞に対して保護作用を有するというinvitroおよびinvivoの実験結果が報告されている7)ことから,筆者らはAD型脳血流障害を示したNTGのうち同意の得られた症例に同薬を投与し,Humphrey視野MD(meandeviation)値,脳血流,視神経乳頭血流などの経過を観察した8).6カ月までの検討では,非投(67)●連載118緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄山本哲也118.緑内障と脳血流:Alzheimer病との関連杉山哲也大阪医科大学眼科正常眼圧緑内障(NTG)と中枢神経異常との関連についての報告を踏まえ,NTG患者の脳血流を調べた.約4分の1の症例でAlzheimer病型・脳血流異常を認め,それらの症例では眼圧がより低く,視野障害の進行がより速かった.認知症治療薬がNTG治療に奏効する可能性があることを自験例での結果を基に論じた.正常型AD型上方からの立体図矢状断図1脳血流の正常型(上段)とAlzheimer病(AD)型(下段)AD型では側頭葉・頭頂葉の血流低下を認める.———————————————————————-Page2484あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010与対照症例で有意なMD値悪化を認めたのに対して,投与症例ではMD値,脳血流,視神経乳頭血流とも有意に改善し(視野と脳血流について典型例を図2,3に示す),自覚的に見え方が改善した症例もあった.眼圧は両群とも有意な変化はなかった.12カ月までの経過では,2dB以上のMD値上昇を認めた症例が40%あり,少なくとも一部の症例では奏効する可能性が示唆された9).より多数例での検討が必要であるが,今後承認されるほかの認知症治療薬についてもNTG治療への応用について検討の余地があると考える.(68)文献1)StromanGA,StewartWC,GolnikKCetal:Magneticres-onanceimaginginpatientswithlow-tensionglaucoma.ArchOphthalmol113:168-172,19952)CursiefenC,WisseM,CursiefenSetal:Migraineandtensionheadacheinhigh-pressureandnormal-pressureglaucoma.AmJOphthalmol129:102-104,20003)McKendrickAM,VingrysAJ,BadcockDRetal:Visualeldlossesinsubjectswithmigraineheadaches.InvestOphthalmolVisRes41:1239-1247,20004)BayerAU,FerrariF,ErbC:Highoccurrencerateofglau-comaamongpatientswithAlzheimer’sdisease.EurNeu-rol47:165-168,20025)HarrisA,ZarfatiD,ZalishMetal:Reducedcerebrovas-cularbloodowvelocitiesandvasoreactivityinopen-angleglaucoma.AmJOphthalmol135:144-147,20036)SugiyamaT,UtsunomiyaK,OtaHetal:Comparativestudyofcerebralbloodowinpatientswithnormal-ten-sionglaucomaandcontrolsubjects.AmJOphthalmol141:394-396,20067)MikiA,OtoriY,MorimotoTetal:Protectiveeectofdonepezilonretinalganglioncellsinvitroandinvivo.CurrEyeRes31:69-77,20068)吉田由紀子,杉山哲也,池田恒彦ほか:正常眼圧緑内障に対する塩酸ドネペジルの効果.臨眼61:1437-1441,20079)YoshidaY,SugiyamaT,UtsunomiyaKetal:Apilotstudyfortheeectsofdonepeziltherapyoncerebralandopticnerveheadbloodow,visualelddefectinnormal-tensionglaucoma.JOculPharmacolTher(inpress)R投与前MD値(dB)MD値(dB)-8.51L-1.42投与3カ月後-7.96-1.26投与6カ月後-4.57+0.27図2塩酸ドネペジル投与前後のHumphrey視野変化(典型例)投与後,左右とも網膜感度の改善を認めた.治療前6カ月後図3塩酸ドネペジル投与前後の脳血流変化(典型例)治療前に認めた血流低下部(黄色矢印)が,投与6カ月後には明らかに改善した.

屈折矯正手術:LASIKの長期経過

2010年4月30日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.27,No.4,20104810910-1810/10/\100/頁/JCOPY1990年にDr.Pallicalisによって考案されたLASIK(laserinsitukeratomileusis)は,現在に至るまで,屈折矯正手術の主流である.LASIKの長期成績は海外からも多く報告されており,その安全性はほぼ確立されつつある1,2).筆者らは1997年からLASIK手術を導入し,長期にわたる術後観察を続けている.今回は,筆者らの施設におけるデータを用いて,LASIKの長期的な経過を述べてみたい.果今回の対象を表1に示す.各観察年の症例数は異なり,年数が増えるにつれて症例数は少なくなっている.また,経過の良好なケースは概して定期検査には来ないことが多く,正確な全症例のデータではないことを書き(65)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載119監修=木下茂大橋裕一坪田一男119.LASIKの長期経過荒井宏幸みなとみらいアイクリニックLASIK(laserinsitukeratomileusis)における長期経過を報告した.術後9年間の経過では,裸眼視力は低下傾向を認めたが,屈折値にはそれほど大きな低下を認めなかった.術後9年目で約80%が満足しており,長期においても安定した効果を認めた.初回のLASIK手術時には残存角膜厚に十分な余裕が必要と思われた.表1対象抽出条件年齢18歳以上術前矯正視力1.0以上Target正視初回LAISK症例(カスタムは除く)エンハンスメントも含め,5年以上観察症例数男性:546例1,037眼女性:422例807眼合計:968例1,844眼年齢34.4±8.7歳(18~69歳)手術期間1997年10月14日~2004年08月18日照射量Sph5.62±2.29D(0~12D)Cyl0.92±0.77D(0~7.5D)SE(標準誤差)6.08±2.34D(0.5~12D)観察期間2,228.8±451.7日01.31(1M)1Y0.101.001.32Y1.240.06(術前)3Y1.224Y経過日数裸眼視力1.215Y1.166Y1.037Y1.018Y1.029Y0.89図1裸眼視力の経緯術前10-1-2-3-4-5-6-71W1M-6.14-0.10-0.08-0.11-0.19-0.23-0.23-0.29-0.44-0.10-0.51-0.700.100.003M6M1Y2Y3Y4Y5Y6Y7Y8Y9Y経過日数等価球面(D)図2自覚屈折の経緯1M3M6M1Y■:2段階低下■:1段階低下■:変化なし■:1段階改善■:2段階以上改善2Y3Y4Y5Y6Y7Y8Y9Y10090807060504030201001.91.40.90.70.30.511.212.70.91.111.710.77.36.57.69.19.512.313.514.218.914.972.773.775.976.675.673.871.971.57371.668.768.112.713.315.215.71615.916.714.311.811.210.614.91.10.90.60.50.50.70.90.70.70.31.1変化分布の割合(%)図3矯正視力の変化の推移———————————————————————-Page2482あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010添えておく.裸眼視力の経緯を図1に示す.術後5年までは,ほぼ安定しているが,6年目以降はやや低下傾向が認められる.自覚屈折の経緯を図2に示す.先述の裸眼視力とは異なり,屈折は経過を通じてほぼ安定していた.これは,軽度近視の状態としては安定しているものの,裸眼視力としては低下の傾向を示しており興味深い.矯正視力の変化を図3に示す.8年目以降に1段階の矯正視力低下の割合が若干増加しているが,全経過を通じてほぼ安定した結果であった.最終観察時の高次収差を図4に示す.全高次収差は0.632μmであり,正常眼の平均的な高次収差である0.3μmに比べ増加していた.今回の対象にはwave-front-guidedLASIKは含まれておらず,高次収差の増加は現在のwavefront-guidedLASIKよりも大きいと思われた.今回,満足度のグラフは示していないが,術後1年における満足群は89.7%,不満群は10.3%であり,術後9年における満足群は80.8%,不満群は19.2%であった.エンハンスメント率であるが,全1,844眼中481眼であり26.1%であった.また,全経過を通じてエクタジアと診断した症例は9例で0.04%であった.このうち術前検査を現在の精度で行った場合に,円錐角膜として診断可能な例を除くと0.02%であった.察今回示したデータは,エキシマレーザー・マイクロケラトーム・術者などの要素は統一していない.アイトラッキングもない時代のLASIKも含まれている.したがって,結果そのものはあくまでも目安であり,現在行われているLASIKは今回の結果よりも良いデータが得られるものと思われる.Alioらの報告では,10年間の経過観察でのエンハンスメント率は約20%とされており,過矯正・低矯正・regressionなどへのすべてのエンハンスメントを合計すると4~5人に1人の割合になる点で一致している2).自覚屈折は長期にわたりほぼ安定はしているが,わずかな近視化傾向は認められる.眼鏡やコンタクトレンズと同様にLASIKにおいても,生理的な近視化を止めることはできない.わずかな屈折の近視化が裸眼視力における加速度的な低下を招くのは,やはりLASIK眼の明視域が狭いことの裏付けであろうと思われた.術後の高次収差は増加しているものの,満足度には大きな影響もなく,現在行われているwavefront-guidedLASIKであれば,術後長期における満足度においても,もう少し良い結果が期待できるのではないかと推察する.日進月歩の屈折矯正手術であるが,LASIKそのものは安全で効果的な手術である.しかし長期的な観点に立てば,生理的な近視化は回避できない.将来的に裸眼視力の低下がみられた場合にも,エンハンスメントが可能な程度の角膜厚を確保して手術計画をつくらなければならない.文献1)PallikarisIG,PapatzanakiME,StathiEZetal:Laserinsitukeratomileusis.LasersSurgMed10:463-468,19902)AlioJL,MuftuogluO,OrtizDetal:Ten-yearfollow-upoflaserinsitukeratomileusisformyopiaofupto10diopters.AmJOphthalmol145:46-54,2008(66)☆☆☆全高次収差MS(μm)様収差コマ収差0.630.70.60.50.40.30.20.100.380.49図4最終観察時の収差(術前には高次収差を測定していないため参考データとして)n=280,SE=5.97D.

多焦点眼内レンズ:多焦点眼内レンズ度数決定法

2010年4月30日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.27,No.4,20104790910-1810/10/\100/頁/JCOPY多焦点眼内レンズ(IOL)は,失った調節力を補うことを目的としており,患者は術後に眼鏡を必要としない状況を期待して選択する.このため度数ずれにより,裸眼視力が不良となった場合,患者の不満が生じやすい.よって従来の単焦点IOLよりも,より正確な度数計算が求められている.本稿では,多焦点IOLの度数決定における留意点について概説し,さらに度数ずれを減らす手段について述べたい.多焦点IOLの度数ずれの許容範囲は?多焦点IOLは無限遠点より平行光線として入射する光線を2つに分配し,結果としてレンズから遠位と近位の2つの焦点をつくる.レンズから遠位の焦点が網膜面上に正確に位置するようなIOL度数が,理想的な度数であり,これにより,正視ならびに目標とする近視(4D近用加入IOLの場合,眼鏡度数で約3.2Dの近視となる)を兼ね備えた状態を獲得できる.しかし実際は,理想どおりとはならず,度数ずれを生ずることが多い.自験例(n=54)でも0.51.0Dの度数ずれを生じていた.では,良好な遠方および近方の裸眼視力を得るためには,どのくらいまでの度数ずれが許容されるのであろうか?図1は自験例での度数ずれと裸眼視力の関係である.度数ずれが0.5Dまでは裸眼および近方視力ともに良好であるが,0.5D以上ずれると両者ともに低下する.どこまで許容できるかは各個人の受け止め方によって異なるため,許容範囲を厳密に定めることはできないが,筆者は視力0.8以上を目標とするならば,度数ずれは0.5D以内が望ましいと考えている.度数ずれは遠視側,近視側のどちらが優位か?IOLの度数計算の結果が必ずしも理想どおりにならないことは前述した.それでは度数ずれが生ずるのを受け入れるとして,近視側,遠視側どちらへのずれが視機能上,優位なのであろうか?単焦点IOLの場合,術後に遠視になることを避け,軽度の近視を目標にすることが多い.これは遠視となった場合,眼前のどこからの光も網膜に焦点を結ばないのに対し,近視の場合は,遠方視力は落ちるものの,眼前にピントの合う点が存在するた(63)●連載④多焦点眼内レンズセミナー監修=ビッセン宮島弘子4.多焦点眼内レンズ度数決定法大谷伸一郎宮田和典宮田眼科病院患者は,術後に眼鏡を必要としない状況を期待して,多焦点眼内レンズを選択する.手術後,度数ずれにより裸眼視力が不良となった場合,不満へとつながりやすい.術後満足度の観点から,多焦点眼内レンズの度数計算は,単焦点眼内レンズ以上の精度が問われており,度数計算手段のさらなる向上が求められている.1.41.21.00.80.60.40.20.0<0.250.25~0.5度数ずれ(D):遠方裸眼視力:近方裸眼視力術後裸眼視力>0.5図1度数ずれと術後裸眼視力の関係度数ずれが0.5Dまでは裸眼および近方視力ともに良好であるが,0.5D以上ずれると両者ともに低下する.視力0.8以上を目標とするならば,度数ずれは0.5D以内が望ましい.近視側への度数ずれ遠視側への度数ずれ図2度数ずれの違いによるハローへの影響夜間のハローは,遠方の光源からの入射光の一部が,多焦点IOLの近用部分の働きによって網膜面の前方で結像し,網膜面ではボケ像となるために生ずる.近視側にずれた場合,このボケ像がさらに大きくなるのに対し,遠視側にずれた場合は小さくなるため,遠視側にずれたほうが視機能への悪影響が少ない.———————————————————————-Page2480あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010めである.しかし多焦点IOLの場合は,単焦点IOLとは事情が異なり,遠視側が良いとされる.その理由は近視側にずれた場合,近点の位置が適切な距離(理想的な近点)よりも近くなるため,実用上,きわめて不便となるが,遠視側にずれた場合,近方視力は低下するものの,代わりに中間距離の物体の画像が鮮明となるためである.ちなみに遠方視力は遠視側,近視側どちらにずれても同程度の低下をきたす.遠視側を優位とする他の理由として,夜間のハローへの影響があげられる(図2).夜間のハローは,遠方の光源からの入射光の一部が,多焦点IOLの近用部分の働きによって網膜面の前方で結像し,網膜面ではボケ像となるために生ずる.近視側にずれた場合,このボケ像がさらに大きくなるのに対し,遠視側にずれた場合は小さくなるため,遠視側にずれたほうが視機能への悪影響が少ない.度数ずれを減らすためには,どうすれば良いか?IOL度数ずれの原因として,角膜屈折力の測定誤差,眼軸長の測定誤差,IOL度数計算式の精度などが考えられ,それに対し多くの対策が試みられている.角膜屈折力に対しては従来のケラトメータによる測定のみに頼るのではなく,角膜トポグラフィや角膜後面曲率も測定可能である前眼部解析装置の利用が,眼軸長に関しては,従来の超音波式のみに頼るのではなく,光干渉方式の利用が可能となった.IOL度数計算式に関しては,世代交代により精度の向上が図られ,現在では第3世代とされるSRK/T式が広く使われるようになった.しかし,これらの試みにもかかわらず,残念ながら度数ずれは生じている.特に近年,症例数が増加してきたLASIK(laserinsitukeratomileusis)後の白内障手術時のIOL度数計算において大きな度数ずれを起こすことが知られている.その理由としてLASIKによる角膜前面形状の変化による影響がある.たとえば,近視矯正LASIK後の場合,角膜中央部がフラット化していることが,角膜屈折力の測定誤差,角膜前房深度の予測誤差を生み,結果としてIOL度数ずれをひき起こす1).多焦点IOL挿入症(64)例の多くは健常角膜であるため,角膜前面形状による影響はないと筆者らは考えていた.しかし実際は,健常角膜でもその前面形状に大きなばらつきがあることがわかり,IOL度数ずれの原因の一要素として認識する必要がある(図3).近年登場した光線追跡を用いたIOL度数計算ソフトOKULIXR2)は,角膜前面形状の影響を受けにくく,LASIK後の白内障手術後に有用とされているが,多焦点IOLの度数ずれ減少の対策としても有用であると期待している.患者の術後満足度の観点から,多焦点IOLの度数計算は,単焦点IOL以上の精度が問われる.しかし精度向上の努力むなしく,度数ずれの症例は存在しうる.このような症例に対し,信頼関係を保ち,無用なトラブルを招かぬよう,度数ずれの可能性や対策について十分なインフォームド・コンセントが重要であることは論をまたない.文献1)魚里博,舛田浩三:屈折矯正手術後の眼内レンズパワー計算の問題点.眼臨94:354-356,20002)PreussnerPR,WahlJ,LandoHetal:Raytracingforintraocularlenscalculation.JCataractRefractSurg28:1412-1419,2002☆☆☆離心率眼数(眼)0510152000.20.4-0.4-0.20.60.825-0.6n=108図3健常角膜における角膜前面形状(離心率)のばらつき健常角膜においても,角膜前面形状(離心率)のばらつきは大きい.離心率:角膜前面形状の指標であり,中央部が周辺部よりatの場合は1<離心率<0,球面の場合は0,中央部が周辺部よりsteepの場合は0<離心率<1となる.

眼内レンズ:再発性の白内障術後Descemet膜剥離

2010年4月30日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.27,No.4,20104770910-1810/10/\100/頁/JCOPYDescemet膜離は,現在完成の域に達している超音波水晶体乳化吸引術(phacoemulsicationandaspiration:PEA)の際にも生じうる合併症で,特に角膜切開創など限局した範囲におけるDescemet膜離は散見される.しかしその多くは経過観察にて自然治癒するが,まれに拡大し,適切な処置を怠ると,水疱性角膜(61)症に陥ってしまうことがある1).Descemet膜離の要因は器具の出し入れ,粘弾性物質や灌流液の前房内注入時の誤注入,切れないメスの使用など,物理的に離させてしまうことが多く23),浅前房例に生じやすい.また潜在的要因としては,角膜実質-Descemet膜の接着異常を生じるような角膜疾患を西村栄一昭和大学藤が丘病院眼科眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎284.再発性の白内障術後Descemet膜離Descemet膜離は,頻度はまれだが,必ず生じる白内障術中合併症である.広範囲に生じている場合は放置すると水疱性角膜症に陥るリスクがある.特に再発性,進行性,両眼性に生じている場合は,角膜実質とDescemet膜の接着異常が潜在している可能性があり,早急な診断,適切な処置を選択することが重要である.図1右眼術中Descemet膜離写真灌流吸引時に,10時から3時領域の角膜が混濁を生じた.Descemet膜が反転,離が確認された(矢印).左眼手術時にも慎重な操作を心がけたが,灌流吸引時にDescemet膜離を生じた.図2手術終了前の前眼部写真手術終了時,角膜下方領域(○の範囲)は清明であるが,それ以外の領域は浮腫を認め,Descemet膜離を生じていると思われる.前房内空気注入を行い,手術を終了した.図3術後角膜浮腫とDescemet膜離術後徐々にDescemet膜皺襞,角膜浮腫が増強し(a:右眼,b:左眼),術後3週目の診察時に,確認しにくいが右眼にDescemet膜離の再発を認めた(c).左眼は一部清明な部分が残存する(〇部分)も,全周性に浮腫を認めた.しかしDescemet膜離は確認できなかった(d).acbd———————————————————————-Page2合併している場合に生じやすく,糖尿病合併症例にも多いといわれている.物理的な離は,前房内気体注入術により復位することが多く,場合によっては経過観察のみで自然治癒することもある.しかし再発性,両眼性,術後進行性に生じる場合は潜在的に角膜実質-Descemet膜の接着異常の存在が強く疑われ4),早急な処置が必須となる.術前のスペキュラマイクロスコープで変化のない症例に生じることもあり,角膜に何らかの変化を認める場合は,Descemet膜離を生じた場合の対処法を念頭において手術を施行したほうがよい.術中にDescemet膜離を生じた場合は,Descemet膜から離れた位置で慎重に手術操作を行う.術中,明らかな二重前房を生じるとは限らないため,手術顕微鏡下では発見が遅れてしまうことがある(図1).切開部やサイドポートから部分的に反転するDescemet膜を認め,そこから連続する角膜浮腫,混濁を認めた場合(図2)は,Descemet膜離の拡大の可能性があるため,手術終了時に前房内気体注入を施行して終了したほうがよい.術後のDescemet膜離は,高度の角膜実質浮腫を生じている場合,初期変化を見逃しやすい(図3).術後は細隙灯顕微鏡検査を慎重に行い,可能であれば超音波生体顕微鏡(ultrasoundbiomicroscope:UBM)や前眼部解析装置などの補助診断も併用し,早期診断に心がける.確定診断がついたら,再発性,両眼性,進行性のDescemet膜離は角膜実質-Descemet膜の接着が弱く,自然治癒の可能性が低いため,速やかに処置を行うことが重要である.まずは前房内空気注入を選択する.しかし広範囲なDescemet膜離の場合は,気体の吸収に伴い,再発することがある.再発を生じたら速やかに再処置を行う.くり返し生じる場合はより強いタンポナーデ効果を期待し,ガス(SF6,C3F8)の前房内注入を行う.ガスは膨張しやすく,濃度の調整が必須であり,術前処置として散瞳剤の点眼,虹彩切開を行い,処置後は仰臥位を指示する.複数回のガス注入でも接着が得られない場合のみ,Descemet膜縫着術を選択するが,本手技は煩雑である.広範囲なDescemet膜離を生じた場合,角膜周辺部に皺を残した状態,Descemet膜の欠損部を残した状態で治癒することも多い(図4)が,視機能に影響することは少なく,経過観察をする.再発を生じた症例は,角膜内皮細胞の減少を生じることがあり,角膜移植を念頭においた長期的な経過観察が必要である.文献1)MarkleyTA,KeatesR:DetachmentofDescemet’smem-branewithinsertionofanintraocularlens.OphthalmicSurg11:492-494,19802)佐々木洋:デスメ膜離.臨眼58:28-33,20043)冨田真智子,榛村重人:白内障手術時のDescemet膜離の対処法について教えてください.あたらしい眼科22(臨増):200-203,20054)KansalS,SugarJ:Consecutivedescemetmembranedetachmentaftersuccessivephacoemulsication.Cornea20:670-671,2001ab図4術後8カ月時の前眼部写真角膜周辺部にDescemet膜の皺が残存する(矢印)が,角膜中央部は清明な状態を維持している(a:右眼,b:左眼).角膜内皮細胞密度は右眼2,593→934,左眼2,463→619(個/mm2)に減少した.

コンタクトレンズ:私のコンタクトレンズ選択法 ボシュロム メダリスト マルチフォーカル(2)-High add処方のケース-

2010年4月30日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.27,No.4,20104750910-1810/10/\100/頁/JCOPY今回は使用している遠近両用ソフトコンタクトレンズ(SCL)の見え方に不満が出てきた患者に,ボシュロムのメダリストマルチフォーカル(MD-MF)を高加入度数のHighaddで処方したケースを解説する.ース1:利き目にLowadd,非利き目にHighaddを処方症例:54歳,女性.事務職.主訴:1年前からMD-MFを使用しているが,最近,近くが見づらくなってきた.CL経験:SCL6年.検査所見:利き目は左眼,近方矯正加入度数+2.25D.遠方:RVA=0.05(1.2×5.50D)LVA=0.05(1.2×5.25D)近方:RVA=0.2(1.2×3.25D)LVA=0.2(1.2×3.00D)使用中のCL:MD-MF.レンズ規格:R)9.0/4.50Lowadd/14.5L)9.0/4.25Lowadd/14.5遠方:RVA=0.8×CL(1.5×0.25D)LVA=1.2×CL(1.5×0.25D)BVA=1.2近方:BVA=0.6遠近両用SCL処方経過:使用中のMD-MFの利き目の遠用度数を下げ,非利き目の加入度数をLowaddからHighaddにしてテスト装用させた.レンズ規格:R)9.0/4.50Highadd/14.5L)9.0/4.00Lowadd/14.5遠方:RVA=0.7×CL(1.0×0.25D)LVA=1.0×CL(1.5×0.50D)BVA=1.0近方:BVA=0.91週間のテスト装用の結果,遠方の見え方はほとんど変わりがなく,近方は見やすくなり,処方に至った.考察:MD-MFはLowaddとHighaddを左右眼に装用しても違和感の少ない光学部のデザイン(図1)であるため,両眼にLowaddでは近方視が不良の場合には,非利き目だけのHighaddへの変更で対応できることが多い.ケース1では両眼にLowaddを1年使用(59)して近方視への不満が出て,利き目をLowadd,非利き目をHighaddに変更して処方が成功している.ース2:利き目にLowadd,非利き目にHighaddから両眼Highaddに処方変更症例:58歳,女性.無職(主婦).主訴:6年前から使用している遠近両用SCLで裁縫時に針の穴が見えなくなってきた.CL経験:SCL39年.検査所見:利き目は左眼,近方矯正加入度数+2.00D.遠方:RVA=0.06(1.2×6.00D)LVA=0.05(1.2×5.75D)近方:RVA=0.1以下(0.8×4.00D)LVA=0.1以下(0.8×3.75D)使用中のCL:頻回交換遠近両用SCL(二重焦点型,中心光学部遠用,同心円5層構造).レンズ規格:R)8.50/5.25add+2.50/14.2L)8.50/5.25add+2.50/14.2塩谷浩しおや眼科コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純私のコンタクトレンズ選択法310.ボシュロムメダリストマルチフォーカル(2)─Highadd処方のケース─近用度数遠用度数Lowadd(加入度数:~+1.50D)Highadd(加入度数:~+2.50D)図1メダリストマルチフォーカルの光学部度数分布Lowaddは光学部全体がなだらかな累進構造で度数の急激な変化がなく,遠用球面度数の変更の影響が少ない.Highaddは光学部の中心付近に大きな度数変化がある.———————————————————————-Page2476あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010(00)遠方:RVA=1.0×CL(n.c.)LVA=0.5×CL(0.9×+0.25D)BVA=1.2近方:BVA=0.5遠近両用SCL処方経過:加入度数を利き目にLowadd,非利き目にHighaddのMD-MFを選択した.レンズ規格:R)9.0/5.00Highadd/14.5L)9.0/5.25Lowadd/14.5遠方:RVA=0.6×CL(1.2×1.00D)LVA=0.9×CL(1.2×0.25D)BVA=1.0近方:BVA=0.51週間のテスト装用の結果,遠方は前と同じくらいに見えたが,近方の見え方に不満が残ったため,利き目の加入度数もHighaddに変更した.レンズ規格:R)9.0/5.00Highadd/14.5L)9.0/5.25Highadd/14.5遠方:RVA=0.6×CL(1.2×1.00D)LVA=0.9×CL(1.2×1.00D)BVA=0.9近方:BVA=0.8遠方は少しだけ見づらく感じたが.生活するうえで支障はなく,近方はよく見えるようになった.考察:一般的に遠近両用SCLで針の穴のような小さいものまで見やすくすることは難しい.しかしケース2のように遠近両用SCLの見え方に慣れ,遠方視を重視しない生活環境の患者では,MD-MFの近用光学部のデザイン(図1)の特性から,両眼にHighaddを使用することで対応できる場合もある.ース3:両眼にHighaddを処方症例:57歳,男性.事務職.主訴:6年前から使用している頻回交換遠近両用SCLで近方が見づらくなってきた.CL経験:SCL12年.検査所見:利き目は左眼,近方矯正加入度数+2.50D.遠方:RVA=0.1(1.0×3.50D)LVA=0.1(1.0×3.50D)近方:RVA=0.8(0.9×1.00D)LVA=0.9(1.2×1.00D)使用中のCL:頻回交換遠近両用SCL(二重焦点型,中心光学部遠用,同心円5層構造).レンズ規格:R)8.50/3.25add+2.50/14.2L)8.50/3.25add+2.50/14.2遠方:RVA=0.8×CL(1.0×0.50D)LVA=0.8×CL(n.c.)BVA=1.0近方:BVA=0.6遠近両用SCL処方経過:両眼に加入度数LowaddのMD-MFを選択した.レンズ規格:R)9.0/3.25Lowadd/14.5L)9.0/3.50Lowadd/14.5遠方:RVA=1.0×CL(1.2×0.25D)LVA=1.2×CL(better×0.25D)BVA=1.2近方:BVA=0.41週間のテスト装用の結果,近方が見やすくならなかったため,両眼の加入度数をHighaddに変更した.レンズ規格:R)9.0/3.25Highadd/14.5L)9.0/3.50Highadd/14.5遠方:RVA=0.7×CL(1.0×0.50D)LVA=0.9×CL(better×0.25D)BVA=1.0近方:BVA=0.6近方が見やすくなり,患者の満足が得られた.考察:他の種類の遠近両用SCLからMD-MFに変更する場合,MD-MFは光学部のデザイン(図1)の特性から低加入度数のLowaddで対応できることが多い.そのためMD-MFの処方では,両眼にLowaddからテスト装用し,状況によってLowaddとHighaddの組み合わせにする.それでも対応が困難な場合に両眼をHighaddに変更することが基本である.遠方を重視する患者では最初から両眼にHighaddを処方すると遠方の見え方に不満が出る場合が多い.ケース3は近方を重視する生活環境のため,両眼ともLowaddからHighaddに変更しても処方が成功したものと考えられる.

写真:固定内斜視と眼瞼下垂によって生じた糸状角膜炎

2010年4月30日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.27,No.4,20104730910-1810/10/\100/頁/JCOPY(57)写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦311.固定内斜視と眼瞼下垂によって生じた糸状角膜炎北澤耕司横井則彦京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学図1前眼部写真眼瞼に隠れた角膜の領域に角膜糸状物を認めた.図3外眼部写真本症例でみられた眼瞼下垂.図4本症例でみられた固定内斜視眼球は内下転している.①②図2図1のシェーマ①:点状表層角膜炎.②:ilament.———————————————————————-Page2474あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010(00)糸状角膜炎とは,角膜表面に糸状の構造物が付着する慢性の角膜疾患である.糸状物は,硝子棒で角膜と糸状物の付着部位を擦過することで簡単に除去されることが多いが,単に除去するだけでは容易に再発する.したがって,完治させるためにはその発症に関与する基礎疾患を明らかにしてそれを治療する必要がある.角膜糸状物の発症に関与する疾患としてはドライアイ,上輪部角結膜炎,眼手術後,眼瞼下垂,固定斜視,糖尿病,緑内障点眼薬などがある.〔症例〕87歳,女性.左眼の痛みを主訴に受診した.左眼は高度近視を伴う弱視眼であり,矯正視力は眼前手動弁であった.左眼は内下転しており,眼球運動障害を伴っていた(図4).撮影されたMRI(磁気共鳴画像)(図5)においては,左側に明らかな眼窩内病変は認められなかったが,強度近視により眼球は拡大しており,かつ,内転位で固定された状態で,眼位異常は後天固定内斜視と考えられた.また,本症例では固定内斜視に加えて眼瞼下垂を伴っており(図3),角膜糸状物は眼瞼に隠れる形で存在していた(図1).過去の報告によれば,固定内斜視で角膜糸状物が発症することが知られ1),さらに,角膜糸状物が眼瞼下垂に伴う可能性,および,それが眼瞼下垂手術によって完治しうる可能性が示されている2).したがって,本症例では,それら2つのリスクが同時に加わることによって,角膜糸状物がより発症しやすい状態にあったものと考えられる.糸状角膜炎の発症メカニズムとして,角膜上皮の障害とムチンの蓄積が必須であり,それぞれを同時に生じうる基礎疾患において角膜糸状物が発症するというメカニズムが提唱されている.しかし,最近,筆者らは,角膜糸状物の構成成分を免疫組織学的手法で調べ,ムチン,角膜上皮細胞のみならず,炎症細胞や結膜上皮細胞も構成成分3)としてみられたことから,瞬目によって角結膜上皮が束ねられるメカニズムや炎症も糸状角膜炎の発症に必須の要素と考えている.すなわち,本症例では,固定内斜視に眼瞼下垂が加わったことで,角膜の内側と眼瞼との間でより長時間摩擦を生じやすくなり角膜糸状物が発症するようになったのではないかと推察した.筆者らの施設でも,眼瞼下垂を伴う角膜糸状物に対して,積極的に眼瞼側からの治療を行っており,良好な成績を収めている.本症例は眼瞼と角膜糸状物発症との関係を示唆する一例と考えている.文献1)GoodWV,WhitcherJP:Filamentarykeratitiscausedbycornealocculsioninlarge-anglestrabisms.OphthalmicSurg23:66,19922)KakizakiH,ZakoM,MitoH,IwakiM:Filamentarykera-titisimprovedbyblepharoptosissurgery:twocases.ActaOphthalmolScand81:669-671,20033)TaniokaH,YokoiN,KomuroAetal:Investigationofthecornealilamentinilamentarykeratitis.InvestOphthalmolVisSci50:3696-3702,2009図5本症例の眼窩および頭部のMRI所見強度近視により拡大した眼球を認め,眼球は内転位に固定された状態である.

角膜移植による治療

2010年4月30日 金曜日

———————————————————————-Page10910-1810/10/\100/頁/JCOPYそれぞれを把握しておくことが重要である.有利な点は,本疾患は非炎症性に角膜中央部が突出し,菲薄化する疾患である1)から,角膜への血管侵入がなく術後拒絶反応のリスクが低い.隅角や虹彩など前眼部には他の異常を認めず,手術が比較的単純なことが多い.またレシピエントの角膜内皮細胞はほぼ正常である.HCL装用歴がある場合がほとんどであるため,移植後に不正乱視でHCL装用が必要となっても処方,装用が比較的容易である.一方,不利な点としては,若年者が多い点である.社会的活動性が高く,寿命が長いため,術後は長期間にわたる透明治癒,視力改善が求められる.ライフスタイルを考慮したうえで術式を選択し,術前に利点・欠点を十分に説明する必要がある.たとえば,若年者はスポーツを趣味にしている場合が多く,鈍的外傷のリスクも高くなるので移植後の眼球の保護にも注意が必要となる.また,Zadnikらによると,1,209名の円錐角膜患者の53%にアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患があり,はじめに円錐角膜に対する角膜移植は,ハードコンタクトレンズ(HCL)による矯正を試みても矯正不能あるいは装用不能な場合,急性水腫による瘢痕が生じた場合に適応となり,全層角膜移植(penetratingkeratoplasty:PKP)あるいは深層層状角膜移植(deepanteriorlamellarker-atoplasty:DALK)が行われる1).本疾患に対する角膜移植の予後は,90%以上の視力改善率,透明治癒率が報告2,3)されており,角膜移植の最も良い適応疾患であるといえる.しかしながらHCLの性能が向上し,また水疱性角膜症や再移植の増加に伴って,本疾患に対して角膜移植が行われる比率は減少傾向にある.大阪大学での角膜移植の原因疾患の推移を調べると,1980年以前は適応疾患の第1位であったが,その後は減少傾向にあり4),欧米でも同様に報告されている5).円錐角膜で角膜移植が適応となる症例は太田らによると6.5%と報告6)されている.以前はPKPが主流であったが,近年は低侵襲手術をめざしたパーツ移植としてDALKが積極的に行われている.本稿では,本疾患における角膜移植適応疾患としての特徴,手術適応,DALKのPKPと比較した利点・欠点,手術手技,注意すべき合併症について述べさせていただく.I角膜移植適応疾患としての注意点移植適応としての本疾患の特徴としては,有利な点と不利な点がある(表1).手術成績を向上させるために,(49)465yotaroToda&aoyuiMaeda565087122特集●円錐角膜あたらしい眼科27(4):465471,2010角膜移植による治療CornealTransplantationforKeratoconus戸田良太郎*前田直之*表1角膜移植適応疾患としての円錐角膜の特徴移植に有利な点移植に不利な点角膜への血管侵入がない虹彩癒着,隅角異常がない移植時の年齢が比較的若く,社会的活動性が高い角膜内皮は正常アレルギー疾患の合併が多い角膜実質の性状異常がある術後のHCL装用に抵抗がない術後に不可逆性散瞳を生じることがある———————————————————————-Page2466あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010(50)に残存する皺襞による矯正視力の不良などが関与していると考えられ,DALKは依然改良の余地のある手技であると考えられる.その意味では,実質深部にわたる瘢痕がない限り,円錐角膜はDescemet膜を露出せずとも目的は達せられる.そこで筆者らは,円錐角膜ではDescemet膜が正常な場合はDALKを行うが,無理にDescemet膜への到達は目指さず,むしろhost側に皺襞が生じない程度にhostの実質を意図的に残している.ただし,Tanら9)の報告では,円錐角膜患者においてPKP,DALKともに手術後3年間の移植片の生存率は100%と良好であるが,Descemet膜近くまで実質を切除するいわゆるsemi-DALKでは,層間混濁による瘢痕が生じ73%に低下するとされ,またDescemet膜の露出に関して,妹尾ら10)はDescemet膜穿孔の生じなかった症例のほうが穿孔眼より瘢痕形成が有意に少ないと報告しており,術者の技量が十分であれば,可能な限り瞳孔領のDescemet膜を露出し,ドナー角膜を移植するほうが良いと考える.Descemet膜の露出の際は,円錐角膜の実質性状の異常に注意が必要である.Sawaguchiらは,円錐角膜では実質に含まれるプロテオグリカンが増加しており,それはケラタン硫酸の減少,コンドロイチン/デルマタン硫酸の増加によるものであることを報告11)し,分解系の亢進を示唆している.実際手術を行うと,他の疾患と比較しやわらかく感じ,分層の際に思わぬ方向へスパーテルが進むことがあり,技術的な慣れが必要である.IIIDALKの手術手技DALKは1985年にArchia12)によって初めて報告された.Descemet膜を破損せずに露出することが最大の48%に眼を掻く行動がみられたとの報告7)があり,皮膚硬化による開瞼困難から硝子体圧の上昇,角膜移植後の鈍的外傷や前眼部の炎症,感染症などに注意が必要である.また,術後に不可逆性散瞳孔を生じることがあり,手術予後が良い疾患とされているが,思わぬ合併症に悩まされることもあるので十分な注意が必要である.II手術適応本疾患における移植適応の目安としては,角膜の変形が高度で,HCLの装用が困難あるいはコンタクトレンズによる矯正視力が不良で,本人が手術を希望している場合である.大阪大学では,急性角膜水腫によりDescemet膜の瘢痕がある場合は全層角膜移植(PKP),そうでない場合は深層層状角膜移植(DALK)を第一選択としている.手術としてPKPを行うかDALKを行うかについて,それぞれの利点と欠点を表2に示す.理想としては,急性水腫後を除き,DALKを積極的に行うべきであるというのが共通認識である.理由としては,PKPと比較し内皮型拒絶反応がなく,ステロイドの使用量が少ないために眼圧管理が容易で,術後合併症を軽減できるからである.一方,Jonesら8)による英国の成績では円錐角膜に対するDALKの場合,PKPに比較して,早期の合併症が高頻度,術者の技量が問題であることが指摘されている.これには手術中の穿孔と,それに対する前房内への空気注入をすることによる合併症,あるいはhost角膜表2PKP,DALKにおける利点と欠点PKPDALKドナー角膜新鮮角膜保存角膜でも可能術後層間混濁,皺襞なしあり内皮型拒絶反応ありなしステロイド副作用あり少ない術後合併症ステロイドによる緑内障や感染外傷性離開二重前房術中合併症駆逐性出血穿孔手術難度比較的容易比較的むずかしい表3DLKPのバリエーション実質内空気注入法12)Hydrodelamination13)Divideandconquer法14)鏡面法15)Big-bubbletechnique16)Viscoelasticdissection17)輪部アプローチ18)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010467(51)測した幾何学的な中心と顕微鏡の反射が重なるように頭位を調整(図1)し,常にセンタリングに留意しながら手術を行う.術中はDescemet膜のみになるため,Honanバルーンなどで硝子体圧を下げ,ソフトアイを維持する.Descemet膜穿孔は1020%前後に生じる17,18)と報告され,PKPへのコンバートを考慮した場合はFlierin-ga型強膜固定リングなどを縫着しておく.2.角膜切開まず,トレパンを使用して表層角膜切開を行う.角膜切開は,250μmの半層切開を目指す.ヘスバーグ・バロン真空吸引トレパン(ホワイトメディカル社)を用いると,刃が360°回転すれば250μm切開されるので便利である.ゴルフメスを用いて表層角膜切除(図2)を行い,角膜深層へ到達する.その際,円錐角膜は下方に角膜頂点があり,実質の菲薄化を伴っているので上方の厚みがある部分から切開を開始する.手術前に角膜の菲薄化した部分と角膜厚を計測し注意すべき部分を把握しておくことが重要である.3.深層角膜切除つぎに,Descemet膜の深さに切り込んでいく.残存する角膜実質の厚みを知る方法としては,前房内に空気を注入し,メスの刃先と前房内の空気との間にできる鏡面反射から残存する実質厚を推測する方法15)(鏡面法:難関で,手術手技がやや煩雑であり,安全かつ術者による技術的な差を少なくするためにさまざまな方法1218)が報告(表3)されている.ここでは,筆者らが行っている方法を紹介させていただく.1.センタリングの重要性と注意点角膜移植後の乱視形成の要因として,センタリングのずれ,graft,recipient間の創部でのずれ,縫合糸の張力の不均などがあげられ19),センタリングのずれはその後の手術操作に悪影響を及ぼす.移植の適応になる円錐角膜は,変形が高度なために角膜中心がとりづらく,瞳孔中心も偏位して見えることが多い.よってカリパーで計図1センタリングカリパーで計測した幾何学的な中心と顕微鏡の反射を重ねる.図2表層角膜切除実質の厚い部分から切除を開始して,下方に角膜頂点があるので慎重に操作を進める.図3Mellesの鏡面反射法黒い帯の部分が残存する角膜実質.図4スリット式顕微鏡下での所見残存実質の厚みを確認しながら深部へ切開を進める.———————————————————————-Page4468あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010(52)Descemet膜近くまで切開を進めたら,実質内にトンネルを作る.その際は,スパーテルを用いると比較的容易で,DLKスパーテル(イナミ社:図6),DALK剪刀(イナミ社:図7)などが便利である.前者はトンネルを作製する際,ペーパーナイフのような鈍な刃先になっているため,切ることなく層間離ができる.後者はそのトンネルを拡大し,底辺がスパーテル状に鈍なため実質切開の際にDescemet膜が破損しないよう工夫されている.ついで人工房水を注入して実質を膨化させる(hydro-delamination13):図8).その際は2730ゲージの鈍針や針先が鈍で平坦なザウター(Sauter)針を用いると容易である.その際の注意点として,実質膠原線維が健常である場合は,人工房水が均等に拡散する.しかし,癒着が生じ実質膠原線維構造が破壊されている部位では注入しても拡散しにくい.円錐角膜では実質の厚みに差があるため,注意して実質が膨化した部分を丁寧に切除し,残存する実質を均等な厚みにする.切除を進めて(図9)いくと,Descemet図3)や,スリット照明付手術顕微鏡を使用する方法(図4)があり,当科ではLEDスリット照明(トプコン社:図5)を開発し,他の方法と併用している.これは,光源にLEDを使用することで,装置自体がコンパクトになり,対物レンズより上に設置されるから手が当たることがなく,清潔かつ邪魔にならないのが特徴である.図5LEDスリット照明(MS-SI01,トプコン社)図6前田DLKスパーテル図7榛村式DALK剪刀図8Hydrodelamination実質膠原線維が健常である場合は,人工房水が均等に拡散する.図9Divide&conquer法14)による実質切開図10Descemet膜の露出———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010469(53)graftjunctionの段差を軽減し,角膜前面を段差のない平滑な面にするためである.ここでの注意点は,接着面に粘弾性物質が残らないことおよび層間の感染を予防するために十分に洗浄することである.6.縫合縫合は,全層角膜移植に準じて10-0ナイロン糸を用いる.縫合は,Descemet膜を穿孔しないように全層移植と比較してやや浅めに,また緩みやすいので,ややtightに行う.縫合は,術後近視化の程度は端々縫合より連続縫合のほうが少ない20)との報告があり,角膜乱視の軽減のためにも連続縫合が望ましい.また,高度な円錐角膜で周辺部まで菲薄化が存在する場合には,その部のバイトをやや広めにして乱視の軽減を図る.IV手術合併症と対策1.術中Descemet膜穿孔Descemet膜を露出する際や移植片の縫合時に生じる.対処法は穿孔が小さく,瞳孔領を外れていて,前房が保たれていればDALKを継続し,必要に応じて前房内に空気を注入する.穿孔しないために,妹尾22)らは角膜切除範囲を小さくする,また,できる限り角膜周辺部にサイドポートを作製することを提唱している.膜が一部露出(図10)してくる.スリット照明顕微鏡下で見る目安としては,スリット光が細い線のように見える.ほかに,高粘度粘弾性物質を注入しDescemet膜を離する17)(viscoelasticdissection)方法や,27ゲージ針をべベルダウンに実質に挿入し,空気を注入してDescemet膜を離する方法16)(bigbubbletechnique:原法は表層切除を行わず空気注入するもの)がある.また妹尾らは,Descemet膜の離をより容易にするため,強角膜弁を作製し,角膜輪部よりSchlemm管経由でhydrodelaminationを行い,Descemet膜を離する方法18)(図11,12)を報告している.4.Hostgraftのトレパンサイズの選択Oversize,samesize,undersizeの3つの方法があり,undersizeになるほど術後遠視化し,前房は浅くなり,oversizeでは近視化し,前房は深くなる.そのため,眼軸長の長い症例では,トレパン径と同サイズの移植片を用いることが提唱されており20,21),手術前の眼軸長計測,前房深度の評価を行うことが必要である.5.Graftの作製ドナー角膜は,Descemet膜を無鈎鑷子あるいはMQATM(イナミ社)で除去し,必要に応じて実質深部側のエッジのトリミングを行う.理由としては,host-図11輪部アプローチ1粘弾性物質を注入し,移植部位より大きい範囲でDescemet膜を離させる.(妹尾正先生のご厚意による)図12輪部アプローチ2Descemet膜が露出されている.(妹尾正先生のご厚意による)———————————————————————-Page6470あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010(54)筋麻痺が生じると推測されている24,25).対処法としては,薬物による縮瞳は期待できないので,外科的に瞳孔形成術を行うほかなく,眼圧を上げないなどの予防が重要である.4.拒絶反応円錐角膜におけるPKP後の拒絶反応発生率は4.328%と報告2628)されている.DALKではhost角膜内皮は除去しているため,内皮型拒絶反応は生じないが,まれにドナー実質の浮腫,混濁が生じる実質型拒絶反応を呈することがある29).おわりに円錐角膜は,手術時の年齢が比較的若く,社会的活動性が高いため,移植治療を行う際は,患者の要求に沿った最善の医療を提供する必要があり,視力の早期回復,移植片の長期間にわたる透明性維持が求められる.一方でHCLの処方技術が向上し移植適応として紹介された症例の97%がHCLの処方が可能であった30)との報告もあり,手術適応の有無を見きわめることが重要である.特に最近ではcrosslinkingやintrastromalringなども試みられており,今後の動向に注目するべきであろう.DALKは,PKPと比較して低浸襲手術,内皮型拒絶反応がなく,外傷に強い,病変部位のみを治療する素晴らしい手術法であるが,技術的な慣れが必要である.だからこそ,先人たちが,安全かつ短時間に技術を習得できるよう努力され,報告されてきた.それに続くわれわれも,新しいアイデアを常に考えながら手術に取り組み,満足度の高い医療を提供するべきであろう.文献1)YaronS:Ectaticdisordersofthecornea.SmolinandThoft’sTheCornea,p890-911,LippincottWilliams&Wilkins,Baltimore,20052)SharifKW,CaseyTA:Penetratingkeratoplastyforkera-toconus:complicationsandlong-termsuccess.BrJOph-thalmol75:142-146,19913)PriceFW,WhitsonWE,MarksRG:Graftsurvivalinfourcommongroupsofpatientsundergoingpenetratingker-atoplasty.Ophthalmology98:322-328,19914)木下裕光,木下茂,眞鍋禮三ほか:大阪大学における142.二重前房術中Descemet膜穿孔,粘弾性物質の残存があると生じやすく,瞳孔領に長期間存在すると混濁を残すため注意が必要である.穿孔していないのに生じた二重前房は放置すれば自然に消失する.対処法としては,前房内空気注入を行うが,それでも無効な場合は穿孔部を含む全層を縫合し,前房内空気置換を行う.処置は原則手術室で行い,空気はミリポアフィルターを通したものを使用する.注入後は瞳孔ブロックを防ぐためにアトロピン点眼を行うが,一過性に眼圧が上昇するため円錐角膜患者では不可逆性散瞳に十分な注意が必要である.3.不可逆性散瞳円錐角膜に生じやすい術後合併症として重要である.1963年にUrrets-Zavaliaにより報告23)され,原因は不明だが,虹彩への手術による刺激,前房内に注入した空気による高眼圧により虹彩血管の虚血が生じて瞳孔括約図13DALK術後前眼部写真(上)とOCT像(下)Descemet膜まで到達せず意図的に実質は残存させている.瘢痕やDescemet膜の皺襞がない.———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010471年間の角膜移植適応の変遷.眼紀40:2870-2874,19895)FarisR,GhoshehA:TrendsinpenetratingkeratoplastyintheUnitedStates1980-2005.IntOphthalmol28:147-153,20086)太田里香,藤木慶子,中安清夫:東京都23区における円錐角膜の受診率と罹患率の推定.日眼会誌106:365-372,20027)ZadnikK,BarrJT,EdingtonTBetal:BaselinendingsintheCollaborativeLongitudinalEvaluationofKeratoco-nus(CLEK)Study.InvestOphthalmolVisSci39:2537-2546,19988)JonesMN,ArmitageWJ,AylifeWetal:Penetratinganddeepanteriorlamellarkeratoplastyforkeratoconus:AcomparisonofgraftoutcomesintheUnitedKingdom.InvestOphthalmolVisSci50:5625-5629,20099)HanDC,MehtaJS,TanDT:Comparisonofoutcomesoflamellarkeratoplastyandpenetratingkeratoplastyinker-atoconus.AmJOphthalmol148:744-751,200910)SenooT,ChibaK,HasegawaKetal:Visualacuityprog-nosisafteranteriorchamberairreplacementtopreventpseudo-anteriorchamberformationafterdeeplamellarkeratoplasty.JpnJOphthalmol51:181-184,200711)SawaguchiS,YueBY,SugerJetal:Lysosomalenzymeabnormalitiesinkeratoconus.ArchOphthalamol107:1507-1510,198912)ArchilaEA:Deeplamellarkeratoplastydissectionofhosttissuewithintrastromalairinjection.Cornea3:217-218,198413)SugitaJ,KondoJ:Deeplamellarkeratoplastywithcom-pleteremovalofpathologicalstromaforvisionimprove-ment.BrJOphthalmol81:184-188,199714)TsubotaK,KaidoM,MondenYetal:Anewsurgicaltechniquefordeeplamellarkeratoplastywithsinglerun-ningsutureadjustment.AmJOphthalmol126:1-6,199815)MellesGR,RameijerL,GeerardsAJetal:Aquicksurgi-caltechniquefordeepanteriorlamellarkeratoplastyusingvisco-dissection.Cornea19:427-432,200016)AnwarM,TeichmannKD:Big-bubbletechniquetobareDescemet’smembraneinanteriorlamellarkeratoplasty.JCataractRefractSurg28:398-403,200217)ShimmuraS,ShimazakiJ,OmotoMetal:Deeplamellarkeratoplastyinkeratoconuspatientsusingviscoadaptiveviscoelastics.Cornea24:178-181,200518)SenooT,ChibaK,TeradaOetal:Deeplamellarkerato-plastybydeepparenchymadetachmentfromthecorneallimbs.BrJOphthalmol89:1597-1600,200519)島潤:角膜移植後の視機能.臨眼51(増刊):152-154,199720)WilsonSE,BourneWM:Efectofrecipient-donortre-phinesizedisparityonrefractiveerrorinkeratoconus.Ophthalmology96:299-305,198921)GobleRR,HardmanLeaSJ,FalconMG:Theuseofthesamesizehostanddonortrephineinpenetratingkerato-plastyforkeratoconus.Eye8:311-314,199422)妹尾正:Deeplamellarkeratoplasty─術式,合併症とその対策.眼科手術16:325-330,200323)Urrets-ZavaliaAJr:Fixed,dilatedpupil,irisatrophyandsecondaryglaucoma.AmJOphthalmol56:257-265,19632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有水晶体眼内レンズ(Phakic IOL)による屈折矯正

2010年4月30日 金曜日

———————————————————————-Page10910-1810/10/\100/頁/JCOPYした.今回は,非進行性円錐角膜に対して後房型phakicIOL挿入術を施行し,良好な初期臨床成績が得られたので紹介する.I手術適応眼鏡矯正視力が良好な軽度・中等度の円錐角膜までが適応であり,高度の円錐角膜症例は対象から除外すべきである.また,若年者の円錐角膜では進行する症例も多く,病状が安定していることを確認する必要がある.よって,若年例や直近で診断された症例も除外すべきであろう.筆者らの施設では,①眼鏡・コンタクトレンズが装用困難,②眼鏡矯正視力が良好,③角膜中央部が透明,④年齢が30歳以上,⑤角膜トポグラフィや自覚屈折が最低6カ月以上安定している,⑥前房深度2.8mmはじめに円錐角膜やペルーシド角膜変性症といった角膜菲薄化疾患では,ハードコンタクトレンズ(HCL)による矯正が第一選択となるが,角膜形状が不規則であったり,アレルギー性結膜炎の合併によって,HCLが装用困難となる症例が確実に存在する.実際に,屈折矯正手術希望者の6.49.6%が円錐角膜であったという報告1,2)もあり,円錐角膜患者においてもqualityofvision(QOV)を向上させるうえで良好な裸眼視力を獲得することは重要な課題の一つと考えられる.これまでlaserinsitukeratomileusis(LASIK),photorefractivekeratectomy(PRK)に代表される角膜屈折矯正手術は禁忌であるために,外科的な治療は困難とされていた.後房型有水晶体眼内レンズ(phakicintraocularlens:phakicIOL)(図1)は高い安全性・有効性だけでなく,術後視機能の優位性が注目されている3).個体差の大きい角膜創傷治癒反応を受けにくいため,安定性や予測精度もきわめて良好である4,5).さらに,高価なレーザー装置も一切不要であり,白内障手術に習熟した術者であれば手術手技も比較的容易である.瞳孔面における矯正は理論上最も優れた方法であり,IOLテクノロジーの進化に伴って中等度近視にまで適応が拡大している.現在ではtoricphakicIOLが入手可能であり,優れた乱視矯正効果や有効性が報告されている6,7).以前筆者らは,円錐角膜8)やペルーシド角膜変性症9)に対する屈折矯正方法としてtoricphakicIOLが有用であった症例をそれぞれ報告(43)459autakaaia眼22885551151眼特集●円錐角膜あたらしい眼科27(4):459464,2010有水晶体眼内レンズ(PhakicIOL)による屈折矯正PhakicIntraocularLensImplantationfortheCorrectionofRefractiveErrorinKeratoconus神谷和孝*図1後房型有水晶体眼内レンズ(VisianICLTM,STAARSurgical社)———————————————————————-Page2460あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010(44)to-white)をもとにSTAARSurgical社計算ソフトウェアにより決定した(図2).術前にレーザー虹彩切開術を施行し,耳側3.0mm角膜切開からインジェクターを用いてICLを眼内に挿入し,その後支持部を毛様溝に固定した(図3,4).ToricICLでは術前座位で水平マーキングを行い,必要に応じてレンズを回転させた.術後1週,1,3,6カ月の時点で,裸眼視力,矯正視力,安全性,有効性,予測精度,安定性,角膜内皮細胞密度,合併症について検討した.1.安全性術後1週,1,3,6カ月の時点で,裸眼視力(loga-rithmoftheminimalangleofresolution:logMAR)はそれぞれ0.17±0.03,0.18±0.00,0.18±0.00,0.18±0.00であり,術前平均矯正小数視力1.31から術後6カ月では1.50へと改善した.また,術後3カ月における安全係数(術後矯正視力/術前矯正視力)は1.15以上の症例を有水晶体眼内レンズの手術適応としている(表1).II対象および方法先述したようにHCL装用困難かつ非進行性の円錐角膜に対して後房型phakicIOLであるVisianImplant-ableCollamerLens(VisianICLTM,STAARSurgical社)挿入術を施行した症例5例10眼を対象とした.手術時年齢31.3±1.4歳(平均±標準偏差,3051歳),男性2眼・女性8眼,術前等価球面度数8.56±2.55D,乱視度数1.68±1.11D,眼圧12.8±1.0mmHgであった.使用したレンズは,toricICLが8眼,sphericalICLが2眼であった.レンズパワーおよびサイズは自覚屈折値,ケラトメータ値,前房深度,角膜横径(white-表1円錐角膜に対する後房型有水晶体眼内レンズの適応①眼鏡・コンタクトレンズが装用困難②眼鏡矯正視力が良好③角膜中央部が透明④年齢が30歳以上⑤角膜トポグラフィや自覚屈折が最低6カ月以上安定している⑥前房深度2.8mm以上軽度・中等度までの円錐角膜が適応であり,若年例や直近に診断された症例は除外すべきである.図2STAARSurgical社toricICL計算ソフトウェア図3毛様溝に固定されたICLのシェーマ図4ICL挿入眼の前眼部写真———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010461(45)0.19Dであり,術後1週から術後6カ月にかけての屈折度数変化は0.06±0.25Dであった(図7).b.乱視度数術後1週,1,3,6カ月の時点で,乱視度数はそれぞれ0.03±0.08,0.08±0.17,0.08±0.17,0.20±0.28Dであり,術後1週から6カ月にかけての乱視度数変化は,0.18±0.31Dであった.5.眼圧術後1週,1,3,6カ月の時点で,眼圧はそれぞれ10.6±1.6,11.5±1.6,11.0±1.4,12.5±2.0mmHgであり(図8),瞳孔ブロックや続発緑内障は認めなかった.±0.13であった.矯正視力不変の症例が4眼(40%),1段階向上の症例が6眼(60%)であった(図5).2.有効性術後1週,1,3,6カ月の時点で,矯正視力(logMAR)はそれぞれ0.16±0.04,0.14±0.06,0.16±0.04,0.16±0.04であり,術前平均裸眼小数視力0.04から術後6カ月では1.43へと大幅に改善した.術後3カ月における有効係数(術後裸眼視力/術前矯正視力)は1.11±0.19であった.3.予測精度a.等価球面度数術後6カ月における目標矯正度数と達成矯正度数の関係を図6に示す.経過観察中全期間,全例において達成矯正度数が目標矯正度数に対して±0.5D以内に入った.b.乱視度数術後1週,1,3,6カ月の時点で,達成矯正度数が目標矯正度数に対して±0.5D以内に入った症例は,それぞれ100%,100%,100%,90%,±1.0D以内に入った症例はすべて100%であった.4.安定性a.等価球面度数術後1週,1,3,6カ月の時点で,等価球面度数はそれぞれ0.04±0.30,0.06±0.26,0.01±0.19,0.03±40矯正視力の変化眼数-1-20108642006+10+2図5術前・術後6カ月における矯正視力の変化矯正視力不変の症例が4眼(40%),1段階向上が6眼(60%)であった.05目標矯正度数(D)達成矯正度数(D)1015105015±0.5D100%図6術後6カ月における目標矯正屈折度数と達成矯正度数経過観察中全例において達成矯正度数が目標矯正度数に対して±0.5D以内に入った.術前0-5-10-151週1カ月術後期間自覚等価球面度数(D)3カ月6カ月-8.560.04-0.060.01-0.03図7自覚等価球面度数の経時変化———————————————————————-Page4462あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010(46)mm2であった.両眼角膜トポグラフィを図9に示す.インフォームド・コンセントを得た後,右眼toricICL(9.5,+3.5Ax120°),左眼toricICL(12.0,+4.5Ax180°)挿入術を施行した.術後6カ月の時点における視力VD=1.2(1.5×0.25D(cyl0.50DAx170°),VS=1.5(n.c.)となり良好な裸眼視力が得られた.角膜内皮細胞密度は右眼3,039cells/mm2,左眼3,048cells/mm2であった.本症例は病的角膜であり,角膜屈折矯正手術は禁忌である.また,元来近視眼であり前房深度が3.0mm以上と深いため,安全に手術が施行可能である.さらに眼鏡矯正と比較して瞳孔面上の矯正であり,網膜像倍率変化が少ないために矯正視力も向上したと考えられる10).もし病気が進行しても軸の補正やレンズ摘出・交換が前房型phakicIOLよりも対処しやすい.IV新たなトラブルレスキューとしての可能性円錐角膜やペルーシド角膜変性症では,角膜生体力学特性が低下しており11),LASIKはもちろんPRKといった角膜屈折矯正手術は施行できない.これまで十分な解決方法がなかったのが現状であり,このような角膜菲薄化症例のトラブルレスキューとしてphakicIOLは新たな選択肢の一つとなると考えられる.さらに,LASIK後のワーストシナリオとされるkeratectasiaとは異なり,手術自体に可逆性を有するという点にも注目したい.その一方,後房型phakicIOLの問題点として二次性白内障があげられる.視力低下が著明であれば,pha-kicIOL摘出および白内障手術を同時に行うが,安全6.合併症術前角膜内皮細胞密度が3,091±245cells/mm2であったのに対し,術後6カ月では3,015±215cells/mm2であった.平均内皮細胞減少率は3.8%であった.臨床上問題となる二次性白内障や軸ずれを生じた症例はなく,その他重篤な合併症を認めなかった.III症例提示実際の症例を供覧する.40歳,女性.近医にて円錐角膜を指摘されるもHCL装用困難であった.視力VD=0.08(1.2×4.25D(cyl2.25DAx30°),VS=0.07(1.2×5.00D(cyl3.00DAx90°),ケラトメータ値右眼K144.0K247.8Ax110°,左眼K146.0K250.0Ax80°,前房深度右眼3.01mm,左眼3.02mm,角膜内皮細胞密度は右眼3,060cells/mm2,左眼3,081cells/図9両眼角膜トポグラフィ下方角膜の急峻化を認める.術前1510501週1カ月術後期間眼圧(mmHg)3カ月6カ月12.810.611.511.012.5図8眼圧の経時変化———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010463(47)る詳細な検討が必要である.また,観察期間も短いため,術後長期成績についてのデータはなく,さらに注意深い経過観察も必要であろう.今後,円錐角膜におけるphakicIOLの応用が普及していく可能性を期待したい.文献1)Hori-KomaiY,TodaI,Asano-KatoNetal:Reasonsfornotperformingrefractivesurgery.JCataractRefractSurg28:795-797,20022)SharmaN,SinghviA,SinhaRetal:Reasonsfornotper-formingLASIKinrefractivesurgerycandidates.JRefractSurg21:496-498,20053)IgarashiA,KamiyaK,ShimizuKetal:Visualperfor-manceafterimplantablecollamerlensimplantationandwavefront-guidedlaserinsitukeratomileusisforhighmyopia.AmJOphthalmol148:164-170,20094)SandersDR,DoneyK,PocoM;ICLinTreatmentofMyopiaStudyGroup:UnitedStatesFoodandDrugAdministrationclinicaltrialoftheImplantableCollamerLens(ICL)formoderatetohighmyopia:three-yearfol-low-up.Ophthalmology111:1683-1692,20045)KamiyaK,ShimizuK,IgarashiAetal:Four-yearfollow-upofposteriorchamberphakicintraocularlensimplanta-tionformoderatetohighmyopia.ArchOphthalmol127:845-850,20096)SandersDR,SchneiderD,MartinRetal:ToricImplant-ableCollamerLensformoderatetohighmyopicastigma-tism.Ophthalmology114:54-61,20077)KamiyaK,ShimizuK,IgarashiAetal:Comparisonofcollamertoricimplantablecontactlensimplantationandwavefront-guidedlaserinsitukeratomileusisforhighmyopicastigmatism.JCataractRefractSurg34:1687-1693,20088)KamiyaK,ShimizuK,AndoWetal:Phakictoricimplantablecollamerlensimplantationforthecorrectionofhighmyopicastigmatismineyeswithkeratoconus.JRefractSurg24:840-842,20089)KamiyaK,ShimizuK,HikitaFetal:Posteriorchambertoricphakicintraocularlensimplantationforthecorrec-tionofhighmyopicastigmatismineyeswithpellucidmarginaldegeneration.JCataractRefractSurg36:164-166,201010)神谷和孝,清水公也,川守田拓志ほか:眼鏡,laserinsitukeratomileusis,有水晶体眼内レンズが空間周波数特性および網膜像倍率に及ぼす影響.日眼会誌112:519-524,200811)大本文子,神谷和孝,清水公也:OcularResponseAnalyz-erによる円錐角膜眼の角膜生体力学特性の測定.IOL&RS22:212-216,200812)KamiyaK,ShimizuK,IgarashiAetal:ClinicaloutcomesandpatientsatisfactionafterVisianImplantableCollamer性・有効性が高く,予測精度・安定性にも優れており,さらに患者満足度も良好であることが報告されている12).平均発症年齢が50歳前後であり,最も危惧される調節力の低下に関しては軽度であり,臨床上あまり大きな問題となりにくいのかもしれない13).PhakicIOLは術後合併症に対する管理が比較的容易であり,患者・医師ともに不幸な転帰を迎えにくいと考えられる.V他の方法との比較と問題点前房型phakicIOLとの比較では,後房型phakicIOLは手術手技自体が比較的容易であり,特に白内障手術に習熟した術者であれば学習曲線も短いと考えられる.また,近年円錐角膜やkeratectasiaに対して角膜内リング(ICRs)やcornealcross-linking(CCL)の有用性が報告されている.ICRsやCCLとの比較では,phakicIOLは近視・乱視矯正効果は高いが,角膜強度が改善するものではない.あくまでphakicIOLは球面度数・円柱度数のみを矯正するものであり,高次収差自体は改善しない.よって眼鏡矯正視力が良好な軽度・中等度までが適応であり,高度の円錐角膜症例は対象から除外すべきである.高度な症例のうち,角膜中央部の混濁が少なければ,前述したICRsやCCLをまず施行し角膜強度を増加させた後,安定化してから残余屈折異常に対してtoricphakicIOLでの矯正を,中央部の混濁が強ければ,必要に応じて角膜移植を考慮する必要がある.白内障を合併している症例であればtoricIOLが有用と考えられる.おわりに円錐角膜に対するphakicIOL挿入術の初期臨床成績は良好であった.本疾患は角膜屈折矯正手術の禁忌であり,新たな屈折矯正方法の選択肢の一つとなりうると考えられた.ただし,すべての円錐角膜症例に適応するのではなく,初期・中等度で不正乱視が少なく,屈折が安定した症例が適応であることを強調したい.円錐角膜では高度近視性乱視を認めることが多く,本術式は円錐角膜の屈折矯正方法として有用と考えられた.しかしながら,今回は少数例による予備的な検討であり,まれな合併症を検討するには症例数が不十分であり,多数例によ———————————————————————-Page6464あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010(48)13)KamiyaK,ShimizuK,AizawaDetal:Timecourseofaccommodationafterimplantablecollamerlensimplanta-tion.AmJOphthalmol146:674-678,2008Lensremovalandphacoemulsicationwithintraocularlensimplantationineyeswithinducedcataract.Eye,2009Apr24.[Epubaheadofprint]