0910-1810/10/\100/頁/JCOPY4)二次的に眼圧上昇をきたす要因を認めない,という基準を満たした場合に診断される(表1).高眼圧症の診断では,初期の緑内障を除外するために,視神経乳頭・網膜神経線維層の緑内障性変化と,それに対応する視野障害がないことを確認する必要がある.視神経乳頭の変化は視野障害に先だって現れることが多いが,それは,視神経には障害に対する予備能力があり,神経線維が相当数失われないと視野に変化が現れないことによる.ただし,症例によっては視野の変化が先に現れることもあるので注意を要する.視神経乳頭検査は,乳頭陥凹の大きさやリムの状態を立体的に観察するために,細隙灯顕微鏡と78Dなどの眼底観察用補助レンズを用いて行う.3D眼底カメラを用いる方法では,検査と同時に記録を残すこともでき,便利である.近年,HeidelbergRetinaTomograph(HRT),GDx,opticalcoherencetomography(OCT)などの視神経乳頭解析装置が開発され,乳頭形態や網膜神経線維層厚の客観的な評価,経時的な解析も可能となってきており,緑内障の補助診断として有用である.はじめに高眼圧症(ocularhypertension:OH)とは,眼圧が正常上限値21mmHgを超えているにもかかわらず,視神経乳頭や視野に緑内障性変化を認めないものをいう.日本で行われた緑内障疫学調査(多治見スタディ)によると,40歳以上の日本人における高眼圧症の有病率は0.8%であるという1).高眼圧症と診断されているもののなかには,実はいくつかの病態が混在していると考えられている.そのなかには,原発開放隅角緑内障(primaryopen-angleglaucoma:POAG)の前段階で,いまだ乳頭形態や視野に異常をきたしていないもの,視神経の眼圧抵抗性が強く,眼圧が高くても緑内障には移行しないもの,角膜が厚いため,眼圧が実際の値よりも高く評価されているものなどが含まれる.これらのどの病態なのかを,症例によって判断する必要がある.本稿では,高眼圧症の診断・管理について,筆者らの今までの経験をもとに解説し,さらに近年の高眼圧症についての多施設疫学スタディの知見も加えて述べてみたい.I診断高眼圧症は,1)眼圧がGoldmann圧平眼圧計で21mmHgを超える,2)正常開放隅角,3)視神経乳頭および網膜神経線維層に緑内障性変化を認めない,3)自動視野計による閾値検査で緑内障性視野障害を認めない,(49)1061*YuSawada&TakeshiYoshitomi:秋田大学医学部感覚器学講座眼科学分野〔別刷請求先〕澤田有:〒010-8543秋田市本道1-1-1秋田大学医学部感覚器学講座眼科学分野特集●原発開放隅角緑内障(広義)―私の管理法あたらしい眼科27(8):1061.1066,2010高眼圧症の管理ManagementofOcularHypertension澤田有*吉冨健志*表1高眼圧症の診断基準1)眼圧がGoldmann圧平眼圧計による測定で21mmHgを超える2)正常開放隅角3)視神経乳頭および網膜神経線維層に緑内障性変化を認めない4)自動視野計による閾値検査で緑内障性障害を認めない5)二次的に眼圧上昇をきたす原因を認めない1062あたらしい眼科Vol.27,No.8,2010(50)これらの危険因子のうち,緑内障の発症と最も関係が深かったのは,薄い中心角膜厚であった.角膜厚は眼圧測定値と関係があり,角膜が厚いほど眼圧は高く,薄いほど低く測定される.高眼圧症と診断されているもののなかには,角膜が厚いために眼圧が実際の値より高く測定されている症例がある.日本人のデータでは,平均中心角膜厚は517±29.8μmで,角膜が10μm厚くなると眼圧が0.12mmHg高く測定されるという4).眼圧値には角膜厚だけではなく角膜の性状,曲率半径などいくつもの因子が関係しており,真の眼圧を算出する確実な換算式というものは存在しないのが現状であるが,高眼圧症が疑われる患者をみたときには中心角膜厚を測定しておくことが,患者のその後の管理のためにも重要と思われる.危険因子のなかで,大きな視神経乳頭C/D比や乳頭C/D比の左右差は,すでに緑内障が始まっている兆候であるという見方もあるが,初めて患者を診察するときには,それ以前のデータがないため,その陥凹が今後拡大していく過程にあるのか,その後も変わらないものなのか,予測不可能である.このため,高眼圧症の症例に大きな視神経乳頭陥凹や陥凹の左右差をみた場合には,緑内障に移行しやすいリスクを持った症例として注意深く観察していく必要がある.III管理高眼圧症を治療すべきかどうかについては,以前から意見が分かれるところである.高眼圧症が緑内障に移行する確率は1年に1~2%とされており,つまり98%以上の症例が,無治療で経過観察しても1年後に緑内障にはならないということになる.このため,高眼圧症は無治療で経過観察し,初期の緑内障性変化が出現した時点ではじめて積極的な治療を開始しても遅くはないという考え方がある.一方で,眼圧が高い場合には治療しておいたほうがよいという考え方もある.前述のOHTSによると,高眼圧症患者を緑内障点眼薬による眼圧下降治療を行ったグループと,無治療で経過観察したグループに分けて比べた場合,5年後に緑内障に移行した割合は,治療群で4.4%,無治療群で9.5%と,治療群で有意に低かったという(図1)5).このこ視野検査は,Humphrey視野計やOctopus視野計によるものが緑内障初期の視野障害の検出に鋭敏であり,頻用されている.ただし,固視の状態や検査時の環境などに結果が影響されることがあり,特に緑内障初期の小さな暗点の検出にあたっては,偽陰性に注意する必要がある.初期暗点が出現したときには再検査を施行し,視野異常に再現性があることを確認する.得られた結果を視神経乳頭や網膜神経線維層の変化と対比して,眼底所見と対応していることを確認することも大切である.II危険因子高眼圧症のなかで,将来どの症例が緑内障に移行するのかを予測することは困難だが,緑内障に移行する症例にはそうでないものに比べていくつかの危険因子があることがわかっている.これらの危険因子を知ることは,それぞれの症例の予後を予測するうえで有用である.これは,近年行われた高眼圧症についての多施設共同研究〔アメリカで行われたOcularHypertensionTreatmentStudy(OHTS)2)と,ヨーロッパ18カ国で行われたEuropeanGlaucomaPreventionStudy(EGPS)3)〕によって明らかにされた.これらの研究は,高眼圧症の患者を集めて長期間観察し,緑内障に移行した症例の頻度や,その臨床的特徴を調べたものである.それによると,高眼圧症患者のなかで緑内障を発症しやすい危険因子は,1)高齢,2)高い眼圧,3)薄い中心角膜厚,4)大きな視神経乳頭C/D比(陥凹乳頭径比),5)視神経乳頭C/D比の左右差,6)原発開放隅角緑内障の家族歴,7)糖尿病であったという(表2).これらの因子を持った症例は,持たないものに比べて将来緑内障になる可能性が高く,また,多数の因子を持つほど発症リスクが高かった.表2高眼圧症から原発開放隅角緑内障へ移行しやすい危険因子1)高齢2)高い眼圧3)薄い角膜厚4)大きな視神経乳頭C/D比5)視神経乳頭C/D比の左右差6)原発開放隅角緑内障の家族歴7)糖尿病(51)あたらしい眼科Vol.27,No.8,20101063の眼圧・視野検査で経過観察をする(表3).高眼圧症は無治療でも緑内障への移行の割合が低いことから,治療をするかどうかの判断については,以下のことも併せて考慮するようにしている.1)緑内障点眼による全身的・局所的な副作用の可能性,2)点眼を長期に行うことによる費用の負担,3)緑内障の発症を見逃さないための定期的な経過観察にきちんと通院できるかどうか,4)患者の健康状態や余命の予測.IV治療高眼圧症に対し緑内障点眼を処方する場合には,全身的,眼局所的な状態を考慮したうえで,副作用,負担の少ない薬剤を処方するようにしている.プロスタグランジン系製剤は全身的な副作用が少なく,点眼回数も1日1回で済むものが多いため,第一選択にしている.最近では,防腐剤の改良により角膜に対する影響が少ない薬剤もできており,より処方しやすくなっている.b-ブロッカーでも1日1回の剤形が開発されており,心臓・呼吸器系に問題がない症例には処方している.これらが副作用などのため処方困難な場合には,炭酸脱水酵素阻害薬も選択肢となりうる.これらの薬剤を,症例ごとに,眼圧の反応をみながら処方している.Vケーススタディ〔症例〕39歳,女性.初診:2005年7月8日.現病歴:8年ほど前に近医で眼圧が高いといわれたことがあったが,その後は眼科の診察を受けていなかった.当院の婦人科で手術を受けることになり入院した際に,眼科的精査も希望して,当科を受診した.初診時所見:視力VD=0.5(1.2×.0.75D),VS=1.2(n.c.),眼圧は右眼28mmHg,左眼27mmHgで,中心角膜厚は右眼583μm,左眼588μmと高値であった.隅角は両眼とも開放隅角,眼底視神経乳頭は垂直C/D比が0.6で左右差はなく(図2),Humphrey視野検査結果は正常範囲内であった(図3).家族歴:父と父方の祖母が緑内障.とは,高眼圧症に対する眼圧下降治療は,緑内障への移行を抑制したり,発症を遅らせたりする効果があることを示している.この結果を踏まえて,筆者らは高眼圧症例の管理を以下のように行っている.まず,眼圧・視野検査を数回施行してその患者のベースのデータを把握し,同時に前述の緑内障に移行しやすい危険因子があるかどうかを確認する.眼圧が25mmHg以上の場合には緑内障点眼を行い,眼圧を24mmHg以下,またはベースの眼圧の20%以上の下降を得ることを目標に治療する.あえて21mmHg以下の正常域は目指さずに,なるべく単剤治療で様子をみるようにする.この治療中に緑内障の発症が確認された場合には,目標眼圧を下方修正して,より積極的な治療に変更する.眼圧が24mmHg以下の高眼圧症例を治療することの有効性は不明なため,眼圧が正常上限をわずかに超えている程度の場合は,年に1.2度表3高眼圧症の管理1)眼圧が25mmHg以上の場合眼圧が24mmHg以下,またはベースの眼圧の20%以上の下降を目標に,緑内障点眼薬で治療する.2)眼圧が24mmHg以下の場合年に1.2度の眼圧・視野検査で経過観察する.経過観察期間(月)0.150.100.050.00612182430364248546066727884緑内障発症率:治療:経過観察群図1高眼圧症の治療群と経過観察群における原発開放隅角緑内障の発症率の比較5年(60カ月)後には,治療群で4.4%,経過観察群で9.5%と,治療群で原発開放隅角緑内障の発症率は有意に低かった.(文献5より)1064あたらしい眼科Vol.27,No.8,2010(52)RL図2初診時の眼底視神経乳頭陥凹は両眼とも垂直C/D比0.6で,網膜神経線維層の欠損はみられなかった.図3初診時のHumphrey視野検査両眼とも正常範囲内で,緑内障性変化はみられなかった.(53)あたらしい眼科Vol.27,No.8,20101065RL図45年後の眼底写真視神経乳頭陥凹,網膜神経線維層ともに初診時と比較して変化していない.図55年後のHumphrey視野検査両眼とも正常範囲内で,緑内障性変化はみられない.1066あたらしい眼科Vol.27,No.8,2010(54)2)GordonMO,BeiserJA,BrandtJDetal:Theocularhypertensiontreatmentstudy:Baselinefactorsthatpredicttheonsetofprimaryopen-angleglaucoma.ArchOphthalmol120:714-720,20023)EuropeanGlaucomaPreventionStudy(EGPS)Group:Predictivefactorsforopen-angleglaucomaamongpatientswithocularhypertensionintheEuropeanglaucomapreventionstudy.Ophthalmology114:3-9,20074)SuzukiS,SuzukiY,IwaseAetal:CornealthicknessinanophthalmologicallynormalJapanesepopulation.Ophthalmology112:1327-1336,20055)KassMA,HeuerDK,HigginbothamEJetal:Theocularhypertensiontreatmentstudy:Arandomizedtrialdeterminesthattopicalocularhypotensivemedicationdelaysorpreventstheonsetofprimaryopen-angleglaucoma.ArchOphthalmol120:701-713,2002経過:眼圧は高値であったが,視神経乳頭・視野に緑内障性変化を認めなかったことから高眼圧症と診断した.緑内障の家族歴があることから,将来緑内障に移行しやすい危険因子をもった症例と判断し,プロスタグランジン系点眼薬(ラタノプロスト)による治療を開始した.その後,眼圧は両眼とも22mmHgに下降し,初診から5年後の現在も視神経乳頭(図4),視野検査(図5)に変化は認められず,緑内障の発症はみられていない.文献1)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofprimaryopen-angleglaucomainJapanese:TheTajimiStudy.Ophthalmology111:1641-1648,2004Ⅰ神経眼科における診察法・検査法Ⅱ視路の異常〔1.視神経障害/2.視交叉およびその近傍の病変/3.上位視路の病変〕Ⅲ眼球運動の異常〔1.核上性眼球運動障害/2.核および核下性眼球運動障害/3.神経筋接合部障害/4.外眼筋および周囲組織の異常/5.眼振および異常眼球運動〕Ⅳ瞳孔・調節・輻湊機能の異常〔1.瞳孔・調節機能の異常/2.輻湊・開散機能の異常〕Ⅴ眼窩・眼瞼の異常〔1.眼窩の異常/2.眼瞼の異常〕Ⅵその他〔1.心因性反応/2.全身疾患と神経眼科/3.網膜疾患の接点/4.緑内障との接点/5.各種検査〕Ⅶこれからの神経眼科〔1.視神経移植と再生/2.遺伝子診断と治療/3.実験的視神経炎/4.視神経症の新しい治療法の試み/5.膝状体外視覚系/6.固視微動の解析/7.FunctionalMRI/8.Fibertracking〕新臨床神経眼科学<増補改訂版>【編集】三村治(兵庫医科大学教授)■内容目次■A4変型総312頁写真・図・表多数収録定価21,000円(本体20,000円+税).メディカル葵出版〒113-0033東京都文京区本郷2-39-5片岡ビル5F振替口座00100-5-69315電話(03)3811-0544(代)FAX(03)3811-0637