———————————————————————-Page10910-1810/10/\100/頁/JCOPYより角膜実質が収縮する力を利用して角膜形状の整復を行う屈折矯正手術である3).2002年と2004年にそれぞれ遠視と老視の矯正手術としてFDA(米国食品医薬品局)の承認が得られ,すでに普及している方法である.遠視,老視の治療として用いる場合には,角膜頂点を中心に直径78mmの円周上に収縮斑を816個置き,角膜周辺部が収縮するのに伴い,belttighteningeectにより中央部の曲率半径が小さく,すなわち角膜中央部が凸になることを利用して矯正を行っていた.一方,凝固斑を直径35mmほどの小さい円周上に置けば,隣り合った凝固斑の間だけでなく,対角線上の収縮斑の間でも収縮が起き,円の内部の角膜曲率は大きくなる.すなわち角膜中央部は平坦化する(図1).この原理を利用し,瞳孔を中心に直径35mm部分の角膜実質に凝固斑を置くことにより瞳孔領の角膜を平坦化させ,さらに円錐角膜眼の角膜形状にあわせて突出部にも集中的に凝固斑を作製することにより対称性を改善する方法を考案し,topography-guidedconductivekeratoplasty(TGCK)と命名した(図2).筆者らが2007年3月から2008年末にかけ21例26眼の円錐角膜眼にTGCKの施術を行ったところ,処置直後から角膜形状と視力が著しく回復する症例が複数みられた(図3).しかし,TGCKの最大の問題点として,術後13カ月ほどで角膜が急速に術前の形状へ戻ってしまうことがあげられる.当然のことであるが,角膜形状の戻りに伴って視力も術前値に近づいていってしまはじめに円錐角膜の外科的治療は長い間角膜移植にのみ限られていたが,近年になり複数の新しい手術が開発されはじめた.そのなかで,術前矯正視力の良好な症例に対しては有水晶体眼内レンズの挿入1)が有効である(本特集の「PhakicIOLによる屈折矯正」参照).一方,術前矯正視力が不良な症例に対しては角膜移植を明らかに上回る成果が得られる術式は少ない.角膜内リング(intrac-ornealringsegments:ICRS)2)は矯正視力を向上させる可能性があるが,すべての症例に効果が約束されるものではない.筆者らが開発したtopography-guidedconductivekeratoplasty(TGCK)は,症例を選べば視力を劇的に向上させることができる.しかし,TGCK単独では,術後の角膜形状の戻りが著しく,それに伴い視力も早期に術前値に戻ってしまう.そこで,TGCKで角膜形状を整復した後,早期にクロスリンキングを行い理想的な角膜形状に固定するという併用療法を考案した.本稿ではこのTGCKと角膜クロスリンキング(cornealcross-linking:CXL)の併用療法について解説する.I手術の原理1.Topography-guidedconductivekeratoplasty(TGCK)Conductivekeratoplasy(CK)は,角膜実質の組織内をラジオ波が伝導する際の抵抗を熱に変換し,その熱に(37)453aokoKatoKauoTsuota211-5331-396特集●円錐角膜あたらしい眼科27(4):453457,2010Topography-GuidedConductiveKeratoplastyと角膜クロスリンキングの併用療法Topography-GuidedConductiveKeratoplastyCombinedwithCornealCrosslinking加藤直子*坪田一男**———————————————————————-Page2454あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010(38)行することと,角膜形状の変化量が遠視や老視矯正の場合に比べて極端に多いことなどにより,さらに戻りやすい傾向が顕著となると考えられる.2.CXLCXLとは,角膜実質のコラーゲン線維間の架橋を強めることにより,角膜実質全体の強度を強め,眼圧に抗い,前方突出を防ぐことを目的とした処置である.角膜にリボフラビン(ビタミンB2)を点眼して浸透させながら370nmの長波長紫外線を30分間照射することにより,リボフラビンが光感受性物質として働き,紫外線照射を受けることにより発生する活性酸素群の影響で角膜実質のコラーゲン線維の架橋を強めることができると考えられている4)(図4).CXLは,円錐角膜の進行を停止させる目的で行われる処置であり,屈折度数や視力を改善させる作用はほとんどない.しかし,CXLを施した角膜は,術後1年半から2年ほどの長期間にわたり角膜実質厚が薄くなるこう.遠視や老視の矯正目的に用いられるCKでも術後の戻りは必至であることが知られているが,TGCKの場合には通常よりさらに角膜が薄く脆弱な円錐角膜眼に施CentralatteningBelttighteningeect直径7mmの場合直径3mmの場合CK前CK後CK前CK後図1CKによる角膜形状の整復上:角膜頂点を中心として7mm径で凝固斑を置いた場合は,belttighteningeectにより角膜周辺部が収縮し,その作用で中央部の角膜は凸になる.下:直径3mmで凝固斑を置くと,中央部が平坦になる.図2TGCKを行った角膜前方突出が顕著な角膜下方部を中心にTGCKを行った.凝固斑は白色に見える.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010455(39)とが知られており,それに伴い若干ではあるが角膜が平坦化する症例がみられる.そのために,近視や乱視が若干軽減することもある.CXLの適応は,半年以上あけて2回以上視力や屈折度数の検査を行い,明らかに進行がみられる症例である.また,紫外線による角膜内皮細胞障害を回避するために,最も薄い部分の角膜実質厚が図3TGCK前後の角膜形状術前の角膜形状(左)は下方に突出した円錐角膜に特有のパターンを呈しているが,術後1週には中央部が平坦になり対称性が増している(右).CXL図4角膜クロスリンキング(CXL)の原理角膜実質のコラーゲン線維間の架橋を強めることにより角膜の強度を上げる.術前TGCK後2カ月TGCK後1週間CXL後1カ月TGCK後1カ月CXL後12カ月図5TGCK後2カ月でCXLを施行した症例の角膜形状の変化術前は下方が突出した典型的な円錐角膜パターンであったが,TGCK後1週間で角膜中央部が平坦になり対称性も改善した.しかし,その後徐々に下方の突出が戻り始めた.TGCK2カ月後にクロスリンキングを追加したところ角膜形状は安定し,その後1年以上経過しても変化はない.———————————————————————-Page4456あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010(40)がアポトーシスに陥ることが知られており,その頻度は角膜表面に近いほど多い.一方,角膜表面から400μm以上離れた層では,ケラトサイトのアポトーシスはみられない6).したがって,紫外線による角膜内皮細胞のアポトーシスとそれによる角膜内皮機能不全を避けるために,CXLを行う時点で角膜実質が400μm確保される必要がある.TGCKとCXLを併用で行う場合には,TGCKを行うことにより角膜実質が多少収縮することを考慮に入れ,術前の角膜厚が450μm以上であることが望ましい.III手術の実際1.TGCK点眼麻酔を施し,患者を正面視させた状態で,角膜リングを投影して角膜形状を確認する.術前に撮影した角膜形状を参考にしながら,瞳孔領に投影されるリングの反射が正円になるようにTGCKを行う.このCK凝固斑の置き方については,現時点では経験則に基づいて行うしかない.あらかじめウェットラボを行い,収縮斑を置くことで角膜形状がどう変化するかを体感しておくとよいだろう.2.CXLTGCKの効果が確認されたら,なるべく早期にCXLを追加で施行する.TGCK後の角膜形状の戻りが生じる前,できればTGCK後1カ月以内が望ましい.CXLの手術方法は,まず紫外線を照射しようとする部分の角膜上皮を離する.これは,リボフラビンが角膜上皮層を透過して実質に浸透しやすくするためである.上皮400μm以上の症例を選ぶ必要がある5,6).3.TGCKとCXLの併用療法TGCKは円錐角膜眼の角膜形状を整復する力は強いが術後の戻りが著しい.一方,CXLは,角膜形状の変化を停止させる効果がある.そこで,筆者らは,円錐角膜眼に対してTGCKを行った後1カ月以内にCXLを併用することにより,整復した形状に角膜を固定する併用療法を考案した.2009年10月までに5眼に施行し,そのうち3眼は術後半年以上経過を観察できているが,ほぼTGCK後CXLを施行する前の形状と視力を維持できている(図5).今後TGCKは全例でCXLとの組み合わせを行うのが良いかもしれない.II適応の選び方まず,TGCKが有効に作用しやすい症例を選ぶ必要がある.筆者らの経験では,TGCKが効果を発揮する症例は,①角膜中央部に瘢痕や混濁がなく,②角膜の厚みが比較的均一なものである.角膜中央部に限局した小さな突出があるものや一部分の角膜厚が極端に薄くなっているものは,TGCKを行っても有効性が低い.これは,TGCKが角膜実質のコラーゲンを収縮,瘢痕化させることを利用しているため,術前より瘢痕がある眼では効果が出にくいことや,限局性に薄くなっている部分には収縮による牽引力が均一に及びにくいのではないかと考えている.次に,続けてCXLを行うことを考慮する必要がある.CXLでは長波長紫外線が用いられるため,紫外線による細胞障害が生じる.実際に,角膜実質のケラトサイト図6角膜クロスリンキングの手術風景左:リボフラビンが十分に角膜に浸透したのちに紫外線照射を行っているところ.照射中もリボフラビンを点眼する.右:角膜上皮細胞が存在するといわれている角膜輪部は避けて紫外線を照射する.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010457(41)で行うよりもさらに角膜厚の基準値を多く見積もらなくてはならない.現在筆者らは,併用療法の場合は術前の角膜厚が450μm以上あることを目安にしている.しかし,矯正視力が悪化するほど円錐角膜が進行しており,かつ角膜厚が450μm以上の症例は限られる.今後,紫外線照射を用いないCXLの開発など,角膜厚が薄い眼への対処が求められる.もう一つの問題点は,TGCKの効果がまだ確実とは言えないことである.たとえば,角膜形状と厚みのマップを作製すれば,それに基づいてTGCKのノモグラムが決定されるようなシステムが確立することが望ましい.TGCKにより視力の回復が確実になれば,現在,日をあけて行っているCXLをTGCKと同日に行うことも可能になり,患者の負担も減るだろう.TGCKとCXLの併用療法はこれからまだ改良の余地の多い方法といえるだろう.文献1)Asano-KatoN,TodaI,Hori-KomaiYetal:ExperiencewiththeArtisanphakicintraocularlensinAsianeyes.JCataractRefractSurg31:910-915,20052)TorquettiL,BerbalRF,FerraraP:Long-termfollow-upofintrastromalcornealringsegmentsinkeratoconus.JCataractRefractSurg35:1768-1773,20093)McDonaldMB,DavidorfJ,MaloneyRKetal:Conductivekeratoplastyforthecorrectionoflowtomoderatehypero-pia:1-yearresultsontherst54eyes.Ophthalmology109:637-649,20024)WollensakG,SpoerlE,SeilerT:Riboavin/ultraviolet-a-inducedcollagencrosslinkingforthetreatmentofkerato-conus.AmJOphthalmol135:620-627,20035)WollensakG,SporlE,ReberFetal:Cornealendothelialcytotoxicityofriboavin/UVAtreatmentinvitro.Oph-thalmicRes35:324-328,20036)WollensakG,SpoerlE,WilschMetal:Keratocyteapop-tosisaftercornealcollagencross-linkingusingriboavin/UVAtreatment.Cornea23:43-49,20047)MazzottaC,BalestrazziA,BaiocchiSetal:Stromalhazeaftercombinedriboavin-UVAcornealcollagencross-linkinginkeratoconus:invivoconfocalmicroscopicevalu-ation.ClinExperimentOphthalmol35:580-582,20078)KollerT,MrochenM,SeilerT:Complicationandfailureratesaftercornealcrosslinking.JCataractRefractSurg32:584-589,2006離後にリボフラビンを35分ごとに30分間点眼し,その後細隙灯顕微鏡で角膜上皮離縁から1mm,角膜全層,前房内までリボフラビンが到達していることを確認する.その後,370nmの長波長紫外線を3.0mW/cm2にて30分間照射する.紫外線照射中もリボフラビンの点眼は続ける.また,角膜輪部には角膜上皮幹細胞が存在するので,輪部に紫外線が照射されるのは極力避ける(図6).IV術後管理1.TGCKの術後管理TGCK後は,抗生物質とヒアルロン酸製剤の点眼液を処方する.上皮障害は凝固斑の部位に限られ,痛みも少ないため,術後の消炎鎮痛薬もほとんど必要としない症例が多い.2.CXLの術後管理PRK(レーザー屈折矯正角膜切除)後の処置に準ずる.すなわち抗生物質,ステロイド薬,ヒアルロン酸製剤の点眼を処方する.上皮欠損が閉鎖するまで治療用コンタクトレンズを装用させる.CXLの合併症としては,術後の角膜混濁があげられる7).角膜混濁は,術後数週間でみられ,角膜厚の2/3から3/4層のあたりまで及ぶ.ほとんどは淡い混濁で,術後半年前後で自然に軽快し,視機能には影響を及ぼさない.しかし,筆者らは混濁が顕著な症例には低濃度ステロイド薬やトラニラスト点眼液の点眼を処方している.その他,2.6%に無菌性角膜炎がみられたという報告もある8).V問題点と将来への展望TGCKとCXLの併用療法の現時点での最大の問題点としては,適応が角膜厚の制約を受けることがあげられるだろう.CXLを行う際には内皮細胞障害を避けるために角膜の最も薄い部分で400μmの厚みが必要であるが,TGCKを行うことにより角膜が若干収縮するために,TGCK後にCXLを行う際には角膜厚が最初の値より薄くなっていることが多い.そのため,CXLを単独