0910-1810/10/\100/頁/JCOPY性の可能性が高い..痛みはあるか?→炎症性,動脈瘤を考える.しかし,虚血性でも痛みを伴うことがあることに注意..日内変動はあるか?朝起きたときは悪いが活動するにつれて良くなる→甲状腺眼症の特徴.朝起きたときは良いが,夕方悪い→重症筋無力症の特徴..片眼で見ても2つに見えるか→単眼複視で,斜視ではない!屈折異常,白内障をチェック..上下に2つに見えるか,横に2つに見えるか→垂直斜視か水平斜視か..悪性腫瘍の既往を聞こう!→眼窩,海綿静脈洞は,悪性腫瘍転移の好発部位である.重要ポイントその3:神経眼科スクリーニング検査をしよう!.視力.瞳孔不同の有無,対光反射,RAPD(relativeafferentpupillarydefect).視野(対座法なら時間がかからない).眼球運動.眼位.外眼部,細隙灯顕微鏡検査.眼底はじめに複視を生ずる疾患は,多種多彩である.危険な全身疾患が背後に隠れていることもある.そうではなくても,ものが常に2つに見えるのは,とても困るものである.きちんと診断して,困った患者さんを救おう.ポイントは,1.危険か否か,2.どこに異常があるかである.重要ポイントその1:複視を自覚する患者さんが来たら,まず診察室に入ってくる様子を観察しよう!.吐き気がある,しゃっくりがとまらない,気分が悪そうにしていたら→脳幹部疾患に注意..独りで歩けない,ふらふらしていたら→Fisher症候群かWernicke脳症を考える.つまり,危険な背景疾患がないかをこの時点で疑うこと..顔の位置にも注意!→滑車神経麻痺の患者さんは,首を傾けて入ってくる.重要ポイントその2:病歴をしっかりとろう!.年齢を必ずチェック→年齢により原因が変わることに注目..いつ,どういう状況で発症したか?朝起きて気付いた急性発症の複視→虚血性の可能性が高い.数年前から続いている複視→非代償性あるいは圧迫(3)863*HidekiChuman:宮崎大学医学部感覚運動医学講座眼科学分野〔別刷請求先〕中馬秀樹:〒889-1692宮崎県宮崎郡清武町大字木原5200宮崎大学医学部感覚運動医学講座眼科学分野特集●物が二重に見えるあたらしい眼科27(7):863.868,2010複視を自覚して来院してきたら(診察法)HowtoConsultwithDiplopiaPatient中馬秀樹*864あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(4)がないか調べよう!重要ポイントその4:複合麻痺の公式を覚えよう!.外転神経麻痺+同側のHorner症候群=海綿静脈洞病変(図1).複合神経麻痺(外転,動眼,滑車)+同側RAPD陽性=眼窩先端部病変.外転神経麻痺+乳頭浮腫=頭蓋内圧亢進(図2).滑車神経麻痺+Horner症候群=脳幹部(中脳)病変.滑車神経麻痺+RAPD陽性=脳幹部(中脳)病変.外転神経麻痺+顔面神経麻痺=脳幹部(橋)病変.複合神経麻痺(外転,動眼,滑車)+両耳側半盲(+頭痛)=下垂体病変(卒中).動眼神経麻痺+同側のRAPD陽性=蝶形骨縁髄膜腫,脳動脈瘤その複視が危険か否かを見分けるときに大切なポイントは,単独麻痺か,複合麻痺かである.複視があったとき,眼球運動だけを診ては危険な疾患を見落としてしまう.すべての複視の患者さんに上記を施行し,複合麻痺a.コカイン点眼前b.コカイン点眼後図1a,b外転神経麻痺とHorner症候群合併例のコカイン点眼前後の赤外線前眼部写真左眼外転神経麻痺(内斜視である)にHorner症候群(右眼に比べて左眼が縮瞳しており,コカイン点眼後も瞳孔不同が残存)を合併しており,海綿静脈洞に乳癌がみつかった症例.右方視正面視左方視図2外転神経麻痺に乳頭浮腫をみた症例の水平むき眼位写真と両眼底写真頭蓋内圧亢進を考え,緊急CTで異常はなかった.その後頭蓋内圧を測定し,約300mmH2Oと上昇を確認,結局中耳炎からの横静脈洞血栓症が判明した症例.上段:右方視時に右眼に外転制限を認める(矢印).下段:両眼に乳頭腫脹を認める.右方視正面視左方視図3典型的な外転神経麻痺の水平むき眼位写真左方視時に左眼に外転制限を認める(矢印).(5)あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010865また,このような複合麻痺をきたしていなければ,単独神経麻痺となる.重要ポイントその5:単独神経麻痺をきちんと診断しよう!.まず,両眼性複視であることを確認する..複合神経麻痺+独りで歩けない,ふらふら=Fisher症候群かWernicke脳症など,すべて危険な背景疾患である.すぐに神経眼科医に紹介を.表2重症筋無力症を疑う症状,兆候・とても強い頭痛,拍動性耳鳴りまたは神経学的症状がない・痛みなし・角膜知覚,顔面知覚正常・瞳孔正常(不同なし,迅速な対光反射,RAPDなし)・対座法視野検査にて異常なし・(50歳以上であれば)巨細胞性動脈炎の症状なしプラス1つ以上の以下の項目がみられる・複視が一定せず,日によって変化する・複視が有意に夜間や疲労時に悪化する・かすれ声や嚥下困難・呼吸困難・眼瞼下垂,または上方視2分間継続させて悪化する・閉瞼力の低下・顔面筋の筋力低下・Lidtwitchsign・Enhancedptosis・アイステスト陽性表1眼窩病変を疑う症状,兆候以下が否定的・とても強い痛み,拍動性耳鳴りまたは神経学的症状(もしあれば,原発的には頭蓋内疾患かつ眼窩的兆候を生ずる疾患,たとえば,海綿静脈洞血栓症,内頸動脈海綿静脈洞瘻を考える)・(50歳以上であれば)巨細胞性動脈炎の症状プラス1つ以上の以下の項目がみられる・眼球運動痛・片眼,あるいは両眼性眼球突出・片眼,あるいは両眼性眼球充血や浮腫・Lidlag(図4)赤外線上方視右方視正面視下方視図5典型的な右眼動眼神経麻痺の左方視5方向眼位と赤外線眼位写真赤外線で右眼散瞳,正面視時に右眼眼瞼下垂,左方視時に右眼内転制限,上方視時に右眼上転制限,下方視時に右眼下転制限がみられる.図4甲状腺眼症に特徴的なlidlagsign下方視させると,眼瞼が遅れて下りてくる.866あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(6)ことを確認してかつ重症筋無力症を否定する(表2)..滑車神経麻痺の場合たとえば,右滑車神経麻痺の場合,正面視で右上斜視が,左方視で増強,右斜頸で増強する,いわゆる右─左─右の法則に従い(図6),かつ眼振がない(skewdeviationを否定する).Skewdeviationでは,ほとんど眼振があるか,キコキコした(専門用語で表現するとsaccadicな)滑動性追従運動になる..注意事項:麻痺が軽い場合,眼球運動は正常に見える.でも複視は訴える.→見た目ではなく,9方向眼位で判断することが重要である(図7).→上下斜視にはしばしば水平ずれが合併する(融像がくずれるため).交代遮閉試験を行えば,斜めに眼球が動き,評価しにくい.その際,上下ずれと水平ずれを分離して検査すれば評価が容易になる.そのために便利なものが,Maddoxrodである(図8).どちらを優先的に検査するかは,病歴で,主訴が上下複視か水平複視かによる(病歴の項参照)..外転神経麻痺の場合(図3)眼球運動,および眼位検査で外転制限があることを確認してかつ甲状腺眼症,眼窩筋炎,重症筋無力症,Duane症候群を否定する(表1,2)..動眼神経麻痺の場合(図5)瞳孔,対光反射で瞳孔括約筋の麻痺がある(必須ではない),眼瞼下垂がある(必須ではない),眼球運動,および眼位検査で上転,下転,内転制限がある赤外線上方視右方視a正面視下方視左方視……………………………………..b図7軽度の動眼神経麻痺の5方向眼位,赤外線眼位写真と測定眼位a:赤外線で瞳孔不同なく,正面視時に眼瞼下垂なし.左方視,上方視,下方視でも眼球運動はほとんど正常に見えるが,b:眼位を測定すると右眼の内転,上転,下転制限を認め,動眼神経麻痺と診断できる.…………………………………………………………図6典型的な滑車神経麻痺の眼位記載方法眼球運動自体は注意しないと正常にみえることが多い.眼位検査で右滑車神経麻痺の場合,正面視で右上斜視が,左方視で増強,右斜頸で増強する.(7)あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010867小児では,腫瘍によるものが多いことに注意する.外傷を除けば最多である.したがって,小児の非外傷性の外転神経麻痺には,すべての例にMRI(磁気共鳴画像法)を施行しよう(ガドリニウム造影も)..成人の動眼神経麻痺虚血性(表4)脳動脈瘤による圧迫性外傷性その他成人の動眼神経麻痺では,何といっても脳動脈瘤によるものを見逃さないことである.すぐに(その日のうちに)一度脳神経外科医に紹介して診てもらおう..小児の動眼神経麻痺先天性外傷性重要ポイントその6:単独神経麻痺の原因を考えよう!.成人の外転神経麻痺虚血性(表3)圧迫性炎症性頭蓋内圧亢進外傷性ちなみに乳癌や前立腺癌は,眼窩や海綿静脈洞に転移して,単独外転神経麻痺を生ずることで有名である.病歴の項でも述べたが,悪性腫瘍の既往があればすべての例にMRIを施行しよう(ガドリニウム造影も)..小児の外転神経麻痺外傷性圧迫性ウイルス感染後表3虚血性外転神経麻痺の診断以下のすべてを満たす・40歳以上・1つ以上の血管病変の危険因子(高血圧,高脂血症,糖尿病,喫煙)・悪性腫瘍,血管炎または自己免疫疾患なし・急性発症の複視で,起床時に気づく,または起床後に初めて気づく・複視の型,程度に1日のうちで変化なし・眼窩痛,顔面痛,頭痛なし,しびれなし・耳鳴り,難聴,顔面神経麻痺なし・全身神経症状なし・側頭動脈炎の症状なし・内斜視・片眼のみ外転制限がある・ほかの動きは異常なし(上転,下転,内転),眼振なし・僚眼の眼球運動に異常なし・両眼ともに,以下が正常視力対座法視野検査瞳孔(不同なし,迅速な対光反射,RAPDなし)眼瞼(下垂なし)外眼部(redeye,眼球突出,浮腫なし)角膜,顔面知覚眼輪筋力,顔面筋力眼球自体(虹彩炎,ぶどう膜炎,視神経乳頭異常なし)(50歳以上であれば)側頭動脈の怒張なし,圧痛なし・経過中にほかの異常が出現してこない・複視が3カ月以内に軽減し始めるba図8MaddoxRod(a)と使用法(b)垂直性複視を自覚する症例には,Rodを縦に片眼前におき,ペンライトを注視してもらう(左上写真).右上図のように見える症例にはプリズムの基底を下方にしてプリズムの度数を上げる(左下写真.右下図のようにペンライトと赤い線が一致するまで移動し,一致したプリズムの度数を斜視角として記録する.868あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(8)2)BurdeRM,SavinoPJ,TrobeJD:Diplopia,ClinicalDecisionsinNeuro-Ophthalmology3rded,p158-197,Mosby,StLouis,20023)SargentJC:Nuclearandinfranuclearocularmotilitydisorders.Walsh&Hoyt’sClinicalNeuro-Ophthalmology6thed(edsMillerNR,NewmanNJ),p1041-1084,LippincottWilliams&Wilkins,Philadelphia,2005腫瘍による圧迫性片頭痛10歳未満の小児の動眼神経麻痺では脳動脈瘤によるものは少ない(約7%).しかし,すべての症例にMRIとMRA(磁気共鳴血管撮影)を施行しよう..滑車神経麻痺外傷性虚血性(表5)非代償性炎症性頭蓋内圧亢進文献1)PaneA,BurdonM,MillerNR:DoubleVisionTheNeuro-OphthalmologySurvivalGuide,p179-257,MosbyElsevier,2007■用語解説■Fisher症候群:上気道感染や,消化管感染後,外眼筋麻痺,小脳失調,腱反射消失を主症状とし発症する症候群である.Wernicke脳症:失調性歩行,眼筋麻痺,せん妄を特徴とする症候群.ビタミンB1欠乏が原因である.Skewdeviation:斜偏位.両眼が反対方向に向く斜視.一方が上外斜視となる.中枢性の上下斜視である.表5虚血性滑車神経麻痺の診断以下のすべてを満たす・40歳以上・1つ以上の血管病変の危険因子(高血圧,高脂血症,糖尿病,喫煙)・悪性腫瘍,血管炎または自己免疫疾患なし・急性発症の複視で,起床時に気づく,または起床後に初めて気づく・複視の型,程度に1日のうちで変化なし・眼窩痛,顔面痛,頭痛なし,しびれなし・耳鳴り,難聴,顔面神経麻痺なし・全身神経症状なし・側頭動脈炎の症状なし・正面視で垂直偏位がみられる・正面視で上斜視眼が,内転時に増加,上斜視側への斜頸で増加する・正面視で上斜視眼が,以下の眼球運動の特徴を合併する下斜筋過動症上斜筋のunderaction・僚眼の眼球運動に異常なし・両眼ともに,以下が正常視力対座法視野検査瞳孔(不同なし,迅速な対光反射,RAPDなし)眼瞼(下垂なし)外眼部(redeye,眼球突出,浮腫なし)角膜,顔面知覚眼輪筋力,顔面筋力眼球自体(虹彩炎,ぶどう膜炎,視神経乳頭異常なし)(50歳以上であれば)側頭動脈の怒張なし,圧痛なし・経過中にほかの異常が出現してこない・複視が3カ月以内に軽減し始める表4虚血性動眼神経麻痺の診断以下のすべてを満たす・40歳以上・1つ以上の血管病変の危険因子(高血圧,高脂血症,糖尿病,喫煙)・悪性腫瘍,血管炎または自己免疫疾患なし・急性発症の複視または眼瞼下垂で,起床時に気づく,または起床後に初めて気づく・24時間以内に下垂が完全になる・眼窩痛,顔面痛,頭痛なし,しびれなし・全身神経症状なし・側頭動脈炎の症状なし・片眼のみ完全な眼瞼下垂,上転,下転,内転制限がある・瞳孔が完全に正常(瞳孔不同なし,対光反射正常)・滑車神経,外転神経麻痺なし・異所性再生なし・僚眼の眼球運動に異常なし・両眼ともに,以下が正常視力対座法視野検査RAPDなし外眼部(redeye,眼球突出,浮腫なし)角膜,顔面知覚眼輪筋力,顔面筋力眼球自体(虹彩炎,ぶどう膜炎,視神経乳頭異常なし)(50歳以上であれば)側頭動脈の怒張なし,圧痛なし・経過中にほかの異常が出現してこない・下垂および複視が3カ月以内に軽減し始める