———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.27,No.3,20103430910-1810/10/\100/頁/JCOPY経験の共有前号まで,医療情報がインターネット上へ蓄積されるためには,医師というプロフェッショナル集団からの情報発信が必要,と述べてきました.地域を越えて医療情報が集まる,医療者限定の交流サイトは非常に大きな社会的価値を生みます.その一例となる会員制サイトのMVC-onlineをたびたび紹介してきましたが,会員の医療者は,地域を越えて新鮮な医療情報に触れることができます.その情報が臨床の現場に還元されて,患者にも大きなメリットをもたらします.インターネットは医療情報の流通に革命を起こしました.パソコン1台とインターネット環境さえ整えば,いつでもどこでも学会・研究会に参加することができます.では,MVC-onlineで流通し交流される医療情報は,どのように分類されるでしょう.1)医療提供者としての情報発信①症例相談②手術動画の共有③インターネット学会・研究会の開催④臨床研究情報の共有2)医療材料の消費者として情報発信①医療機器の使用経験の共有②新薬の使用経験の共有③医療機器の共同購入3)その他①医療経営に関する情報②学会会場近隣のお薦めスポット以上のように,分類されます.別の観点からみてみましょう.インターネットがもたらす情報革命のなかで,情報発信源が企業から個人に移行した大きなパラダイムシフトをWeb2.0と表現します.さらに,Web2.0には,3つの段階があります.まず,第一段階として,インターネット上のユーザーが情報を共有します.ついで,経験を共有します.最後に,時間を共有します.それぞれの段階に共通するキーワードは「共有」ですが,共有する対象が変遷しています.これがWeb2.0の方向性です1).「時間を共有する」の先はまだ具現化していませんが,将来,Web3.0とよばれる世界かもしれません.「経験を共有する」「時間を共有する」というコンセプトは,インターネットの活用方法を考える際にきわめて重要です.現在の多くの交流サイトでは,会員同士の経験を共有しています.MVC-onlineのように医療者限定で,手術動画,医療機器,新薬の使用経験を共有するサイトは,インターネットの医療応用を考える際,きわめて今日的な試みです2).近未来的には,「経験の共有」に加えて,時間の共有,つまり「同時性」が加わります.インターネットで手術室を繋いだり,学会を開催したりすることは特別ではなくなるでしょう.多施設の手術室をインターネットで繋ぐ試みはすでに,旭川医科大学の遠隔医療センターで実用化されており,その普及が期待されます35).形成外科領域では,関西電力病院とルーマニアの病院と大阪国際会議場をインターネット回線で繋げて,手術室のライブ映像・音声情報を用いた学術情報交換会が,昨年11月に開催されました.この通信会社の技術を用いると,手術のライブ画像は高画質を維持したまま,日本とヨーロッパの間の情報伝達の遅延は300ms程度で収まるそうです6).ただ,臨床の実務レベルにおいては,大掛かりな機械を用いずに,インターネット上で時間の共有が可能です.スカイプという無料音声通信ソフトをダウンロードして,量販店でウェブカメラとイーモバイルという携帯型インターネット接続機器を購入すれば,自宅からでも遠隔地の医師に,症例を相談することができます.画質も十分に保たれています.つまり,医師-医師間を繋ぐ遠隔医療は,場所を選ばず低価格で実施することができ(65)インターネットの眼科応用第14章 医師のつぶやき武蔵国弘(KunihiroMusashi)むさしドリーム眼科シリーズ⑭———————————————————————-Page2344あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010ます.Twitter(つぶやき)とよばれるミニブログは,オバマ大統領や鳩山首相が情報発信に採用したことで話題になりました.この最新のインターネットツールも,「時間の共有」という方向性にあります.高度な機械に頼らず,ソフトウェアを進歩させ,参加する人の意識を喚起することが,次世代のイノベーションを生むと考えます.医療機器・新薬の経験の共有使用経験や口コミ,といった個人の体験情報は,インターネットが最も得意とする領域です.医療機器や新薬の使用経験を,医師が「つぶやき」ます.そのつぶやきが集約されたとき,どんな価値を生むのでしょうか.「好感触を得た」「使いにくい」「新しい使用方法もあるのでは」などの,データの裏側にある情報が集まります.EBM(EvidenceBasedMedicine)に対して,IBM(ImpressionBasedMedicine)の集積でしょうか.学会での発表を,格式のあるレストラン紹介誌「ミシュラン」とすると,つぶやきの集まりは,「食べログ」のようなものでしょう.EBMとIBMは,どちらが優れているか,という二極論ではなく,補完しあえるものだと考えられます.今後,医師のつぶやき集は,医療機器や新薬についての一つの評価軸となるでしょう.一例を示します.医療者限定サイト,MVC-online内で私自身はブログを書いています.テーマはさまざまですが,先日,多焦点眼内レンズの使用経験について記載したところ,滋賀,兵庫,大阪,神奈川の先生方からエリアを越えてコメントを頂戴しました.多焦点眼内レンズを使用される,もしくは導入を考えている先生方にとって,有用な情報になりえたかと思います.エリアを越えて,医療者のつぶやきが集まる価値を考えると,医師限定の口コミサイト,というのは,われわれ医師にとって非常に有用です.新薬の使用経験も同様です.免疫抑制薬の点眼薬が登場した際,その利用について,慎重な先生方も多かったかと思います.皮膚科領域では,アトピー性疾患に免疫抑制薬が使われており,眼科領域でも同様の広がりをす(66)るかもしれません.免疫抑制薬の使用に関して,このような拡大解釈や,上級者の処方は,どこででも入手できる情報ではありません.ちょっとしたコツ,感想をインターネット上につぶやけば,それを後から見た人は,研究会に参加するのと同様の知見を得ることができます.希少かつ貴重な情報と,その情報を求める人を上手に繋ぐのがインターネットの役割です.【追記】NPO法人MVC(http://mvc-japan.org)では,医療というアナログな行為と眼科という職人的な業を,インターネットでどう補完するか,さまざまな試みを実践中です.MVCの活動に興味をもっていただきましたら,k.musashi@mvc-japan.orgまでご連絡ください.MVC-onlineからの招待メールを送らせていただきます.先生方とシェアされた情報が日本の医療水準の向上に寄与する,と信じています.文献1)中尾彰宏:第3回日本遠隔医療学会WEB医療分科会「遠隔医療におけるWEBの役割」,20092)http://mvc-online.jp3)http://panasonic.biz/solution/system/education/jirei/av/a201.pdf4)http://astec.asahikawaidai.jp/index.html5)林弘樹,下野哲雄,吉田晃敏:JPEG2000を用いた眼科手術画像伝送システムの限界品質評価.日本遠隔医療学会雑誌4(2):271-272,20086)http://www.kepco.co.jp/hospital/topics/0912/4.html☆☆☆図1MVConlineでの免疫抑制薬の点眼薬に関する議論の一部