———————————————————————- Page 10910-1810/09/\100/頁/JCOPYIIIコントラスト感度空間周波数で表されるような縞を識別できる最小コントラストをコントラスト閾値(contrast threshold),コントラスト閾値の逆数をコントラスト感度(contrast sensitivity)という.縦軸のコントラスト感度は 1 から始まり,決して 0 ではない.ただし,感度あるいは閾値を常用対数のベキ指数で表示する場合には下限値は 0 となる.IVコントラスト感度と時間周波数特性正弦波刺激の明暗をある周期で反転し,時間周波数を制御しコントラスト感度を測定することで空間周波数に依存した時間周波数特性を測定することができる.刺激の大きさが時間周波数特性に影響することもあり,大きな刺激であるほど感度の最大が高い周波数になる.これまでの研究では空間周波数特性と時間周波数特性の関連性が報告されており,低時間周波数領域で時間的に帯域通過型となり,低空間周波数領域で時間的に帯域通過型の特性を示す2).VMTFと眼光学コントラスト感度測定は視覚系の空間周波数特性modulation transfer function(MTF)を測定している.この MTF はもともと光学分野でレンズやカメラの画像処理能力を評価する方法として用いられたものであり,Iコントラストとはコントラスト(contrast)とは,一般に白黒の明暗対比を表し,基本的には規則的な正弦波状の縞の明暗対比をコントラスト C=(Lmax Lmin)/( Lmax+Lmin)で表示する.これを Michelson contrast という.数式上,コントラストが高ければ明暗の差が強く,コントラストが低ければ明暗の差が小さくなる.Lmaxおよび Lminはそれぞれ明暗の最大輝度と最小輝度を示している.コントラストは定義から 0 1 の値(無次元量であり,単位はない)を取り,これを%コントラスト(0 100%)で表すことが多い.II空間周波数縞の細かさや粗さを表す指標として,空間周波数(spatial frequency)を用いる.単位長さ当たり(あるいは単位視角当たり)に正弦波状の明暗縞が何組あるかで表現している.つまり cycles/mm あるいは cycles/deg(cpd とも略記する)の単位を用いる.空間周波数が高いということは縞が細かいということであり,空間周波数が低いということは縞が太いということを意味する1).空間周波数 30 cpd での縞間隔(白あるいは黒の縞幅)は 1min of arc(視角 1 分)で,視力 1.0 の分解能に相当する.コントラスト感度曲線の終末点を遮断周波数cut-o frequency といい,通常の視力値に相当する.(43) 1483 U N N 228 8555 1 15 1 特集●視力検査のすべて あたらしい眼科 26(11):1483 1487,2009視力検査とコントラスト感度Visual Acuity and Contrast Sensitivity Testing魚里博*中山奈々美*———————————————————————- Page 21484あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(44)ラスト感度に影響を受ける.視力表に近付いたり,字ひとつ視標を近づけたりして視力 0.1 未満を測定する場合,空間周波数特性からすれば,コントラスト感度の低い領域に持ち込んで検査を実施しており,その評価には注意が必要である.VIコントラスト感度に影響する疾患・因子1. 視力一般的に,「どのくらい見えているか」という見え方を評価する場合には視力(visual acuity)が用いられる.しかしながら,視力では見え方の質までは評価することができず,日常の見え方を評価するには不十分だといえる.眼科およびその他医学一般で用いられている視力検査では,高コントラスト(コントラスト約 100%)の視標を用いた最小分離閾(あるいは最小可読閾)で評価される.この場合の視力とはそのほとんどが矯正視力であり,遠見での中心視力を意味している.ものの形を見分ける機能である形態覚は,最小視認閾,最小分離閾,最小可読閾および副尺視力に分類することができる.前述したように,臨床的な視力検査は,このうちの最小分離閾を高コントラスト視標で判定しているため,最も条件の良い高コントラスト視標での判別可能な最小切れ目を求めていることになる.すなわち,視力は細かい視覚刺激の像限界のみを与えるのとは異なり,コントラスト感度は広い周波数領域にわたる感度(分布)を示す.そのため,視標サイズだけでなくコントラストも考慮したコントラスト感度測定や,視力はコントラストが比較的高い間はそれほど低下せず低コントラストになると急激に低下するため,低コントラスト視力5)の重要性が近年高まっている.2. その他疾患視力以外にもコントラスト感度は,白内障6)および眼内レンズの種類,弱視7),laser in situ keratomileusis(LASIK)などの屈折矯正手術8)だけでなくさまざまな疾患によっても大きく影響を受ける.白内障や屈折異常眼ではおもに高周波領域のコントラスト低下が認められる一方で,中心性漿液性網脈絡膜炎では全周波数領域でコントラストの低下が起こる.視神のちに Campbell ら3)によってコントラスト感度測定として眼科臨床に応用され始めた.眼光学系の空間周波数特性は右下がりのローパス型を示すのに対し,正常眼の視覚系全体のコントラスト感度曲線は,数 cpd 付近にピークを有するバンドパス型を示している.これは眼光学系以外にも網膜以降の視覚伝達系が関与しているためであり,網膜受容野の側方抑制やマッハ効果などが関連していることが理由である.コントラスト感度曲線は,さまざまな大きさの空間周波数の縞に対するコントラスト感度を求め,通常横軸に空間周波数(cpd),縦軸にコントラスト感度(あるいは閾値)を対数スケールで表示している(図 1)4).光学系のレスポンス関数 MTF は一般にローパス型であり,眼球光学系も同様であるが,ニューラル系はバンドパス型であるため,トータルとしての視覚系はバンドパス型を呈している.コントラスト感度の最大ピークは数 cpd 付近にあるため,通常の視力表では 0.1 0.2 の視標は,視覚系にとっては比較的見やすい視標であることがわかる.MTF は空間的な明暗コントラストの二次元周波数応答を取り扱い,種々の細かさの縞を見たときに,その縞のコントラストがどの程度に認められるかを伝達関数として表している.ただし,厳密には正弦波と矩形波の違いはあり矩形波状の格子などの視標を用いると,正弦波状の基本周波数以外に高周波成分を含むことになるため,多少のコント図 1明所でのコントラスト感度曲線コントラスト感度曲線は空間周波数が高すぎても低すぎても,コントラスト感度は低下するバンドパス型を示す.———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,20091485(45)2. モニターなどに縞などコントラストの異なる視標を提示するもの紙などに印刷されたコントラスト感度装置に比べ,環境照度など外部の影響が少ないことや視標平均輝度の自動キャリブレーション機能などが利点である.近年ではコンパクトな装置が多く開発されている反面,装置の種類が多くあり統一化されていないのが欠点である.代表的 な 装 置 と し て は,CAT-2000(NEITS 社)(図 3),CGT-1000(タ カ ギ セ イ コ ー 社)(図 4),Optec 6500(JFC 社)などがある.多施設間での臨床治験を行うような場合には,環境照度などの測定上の問題はきわめて経疾患に関しては,低周波領域の感度低下があるなど疾患によってコントラスト低下の領域が異なるのも特徴である.3. 因子健常眼でも加齢9)で特に高周波領域のコントラスト感度の低下があると報告されている.これは加齢に伴う瞳孔径の変化や,水晶体の光の散乱などが原因として考えられる.他に健常眼においてコントラスト感度に影響する因子として代表的なものには視標輝度,環境照度,屈折,瞳孔径などもあげられる.視標輝度は網膜照度を変化させるため,ある程度平均輝度が低下することでコントラスト感度は低下する.環境照度の低下に伴い薄暮視,暗所視では著しいコントラストの低下が認められる.また,瞳孔径は網膜照度や収差に密接に関連しているため,コントラストへも影響すると考えられている.VII検査方法および装置検査対象は眼光学系の異常(屈折異常や中間透光体の混濁),網脈絡膜疾患(糖尿病網膜症,網膜 離など)などに代表される視力低下をきたす疾患である.しかしながら,後述のように微妙な視機能低下を検出可能な検査であるため,視力良好症例(LASIK 術後など)にも有用とされる.臨床におけるコントラスト感度測定装置にはさまざまなものがあるが,以下のように大きく 3 種に大別される.1. 印刷した視標を用いるものこれが最も一般的で普及されている装置である.他の装置に比べ安価であり,測定法が簡便なこと,測定時間が短く結果の解釈が比較的容易なことが長所としてあげられる.しかし,印刷紙のため印刷面の劣化や環境照度の影響を受けやすいことがあげられる.Vision Contrast Test System(Vistech 社)(図 2)が臨床上しばしば用いられている.CSV-1000(Vector Vision 社)(図 3)などの投影式もここに分類される.そのため,多施設でのデータ収集時には,検査上での測定環境の影響を受けやすいので,注意が必要である.図 2 VISION CONTRAST TEST SYSTEM:VCTS(Vistch 社) 壁掛け式で視標が紙に印刷されているタイプ.図 3CSV 1000(Vector Vision 社)上下 2 列のうち,正弦波のあるほうを選ぶ強制二択.———————————————————————- Page 41486あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(46)contrast sensitivity function(AULCSF)10)という方法が近年は一般的に用いられるようになった.この方法を用いる場合は,各空間周波数帯における有意な変化を捉えることができないが,全体的なコントラスト感度の低下などを反映することができる利点がある.つまり空間周波数による影響を無視して,コントラスト感度特性の変化を 1 変数にて評価できる利点を有するが,しかし,コントラスト感度の変化が空間周波数に大きく依存するような場合は,AULCSF の方法では注意が必要である.IXグレア検査グレア障害とは,眼球透光体の光の散乱(scattering)により注視している物体の網膜像のコントラストを低下させ,その像の詳細部を不明瞭にさせることである.この障害は中間透光体である水晶体混濁に起因する白内障眼,photorefractive keratectomy(PRK)や LASIK などの角膜屈折矯正手術施行眼,ドライアイなどでグレア障害が健常眼に比べより多く認められるとの報告がある.特に白内障眼に代表される薄暮視下におけるグレア障害は,著しいコントラスト低下が認められると報告されている.グレア検査は視標の周囲あるいは中央にグレア光源をおいてコントラスト感度や視力を測定する装置がある11).少なく,今後標準化が進んで普及するものと思われる.3. 網膜上に直接レーザー干渉縞を投影するものレーザー光を用いて網膜上に直接干渉縞を形成し,その縞の周波数やコントラストを調整して感度を測定する方法である.この装置の一番のメリットは,装置から発光した光束が直接網膜上に投影されるため,眼光学系の結像作用の影響をまったく受けないところである(眼球光学系の影響をバイパスできる利点がある).すなわち,進行した白内障などの術前検査として有用な装置である.ラムダ 100 レチノメーター(エムイーテクニカ社)などを用いる.コントラスト感度の測定は従来の視力検査に比べて,より視覚系の統合的な光学的評価法であるが,上記の他にも市販されている装置によって視標が異なること,その他視標呈示時間や検査距離が異なることが多く,各装置で測定されたコントラスト感度が厳密には異なることに注意する必要がある.VIIIコントラスト感度とAULCSFこれまでコントラストを統計学的に評価する場合,空間周波数ごとの評価は容易にされてきたが,コントラスト感度曲線全体に対する評価はむずかしいとされてきた.そこで,得られたコントラスト感度を対数値に換算し, そ の 対 数 グ ラ フ の 面 積 を 求 め る area under log 図 4CAT 2000(NEITS 社)視標は Landolt 環を用いているコントラスト視力測定装置.図 5CGT 1000(タカギセイコー社)視標はダブルリングで光学的遠方に位置されている.———————————————————————- Page 5あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,20091487(47) 2) Kelly DH:Adaptation e ects on spatio-temporal sine-wave thresholds. Vision Res 12:89-101, 1972 3) Campbell FW, Robson JG:Application of Fourier analysis to the visibility of gratings. J Physiol 197:1551-1566, 1968 4) 魚里博:コントラスト感度と視力.Tomey Ophthalmolo-gy News 40:11, 2007 5) 魚里博:低コントラスト視力.IOL&RS 15:200-204, 2001 6) Packer M, Fine IH, Ho man RS:Contrast sensitivity and measuring cataract outcomes. Ophthalmol Clin North Am 19:521-533, 2006 7) Harvey EM:Development and treatment of astigmatism-related amblyopia. Optom Vis Sci 86:634-639, 2009 8) Ho man RS, Packer M, Fine IH:Contrast sensitivity and laser in situ keratomileusis. Int Ophthalmol Clin 43:93-100, 2003 9) Werner JS, Peterzell DH, Scheetz AJ:Light, vision, and aging. Optom Vis Sci 67:214-229, 1990 10) Applegate RA, Howland HC, Sharp RC et al:Corneal aberrations and visual performance after radial keratoto-my. J Refract Surg 14:397-407, 1998 11) 中山奈々美,川守田拓志,魚里博:グレアが他覚的屈折値と瞳孔径に及ぼす影響.視覚の科学 28:72-76, 2007おわりに日常の環境照度は暗所や薄暮状態から明所まで変化し,目標物の細かさやコントラスト(明暗,あるいは色)もさまざまである.光学設計の分野では,光学系の分解能(解像力)だけでなく空間周波数特性 modulation transfer function(MTF)が半世紀前から利用され,このような概念が眼科臨床にも導入されてきたが,最近の視覚の質(quality of vision:QOV)への要求が高まるにつれて,眼科臨床でもコントラスト感度が汎用されるようになっている.今後,眼科臨床における QOV への高いニーズに対応するためには,視力だけではなくコントラスト感度特性への配慮が重要となる.特に屈折矯正手術や白内障・眼内レンズ挿入術(多焦点や非球面など)では,コントラスト感度の評価が必須になるものと考えられる.文献 1) 魚里博,平井宏明,福原潤ほか:生理光学の基礎.眼光学の基礎,p145-196,金原出版, 1990