———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.7,20099370910-1810/09/\100/頁/JCOPY消費者参加型商品開発医療機器に限らず,世の中のほとんどの商品は,研究段階から商品化に至るまで,その開発過程は一方向です.研究開発→設計→製造→販売→消費者へと流れる商業化の流れを,リニアモデルとよびます.消費者アンケートなどの市場調査を行って,開発段階に消費者のニーズが反映されることがありますが,このような何らかのフィードバックを行う流れをループモデルとよびます.今ではリニアモデルではなく,ループモデルが主流になりましたが,インターネットの普及に伴って,このループモデルがさらに大きく変容しています.インターネットを使えば,多数の意見を集約することが容易になり,今まで「黒子」だった消費者が「主役」として開発・企画段階から商品開発に関わるようになりました.某文具メーカーが,業務を効率化し生活を豊かにする「時間を生み出す文具」のアイデアを,あるネットコミュニティの参加者に募集したところ,4,000人以上が議論に参加し650件を超えるコメントが寄せられたそうです.具体的には,「アイデアを展開したり,記録したりできる創発(ひらめき)ノート」や「移動中にも簡単に記録できるモバイルメモ帳」など,実際に商品化できそうなレベルのアイデアもあったようです.日常業務に使う文具開発へのビジネスパーソンの関心の高さをうかがわせます.濡れても平気な文具が欲しいといったアイデアや,濡れていても収納しやすい折り畳み傘があると便利といった意見など,より具体的な状況を意識したアイデアもみられました1).インターネットの潮流は医療界も無縁ではありません.近い将来,全国の有志の医師がインターネットを通じて医療機器の開発に参加する日が必ず訪れます.臨床の現場の不具合や新しいアイデアを集約するインターネット媒体の誕生を期待しています.では,そのような媒体に参加するわれわれはどのように関わればよいでしょう.産業界の実例を紹介します.2001年某時計メーカーが,女性向けサイトの会員に商品開発のモニター的役割を依頼しました2).1万人を超える会員が開発に参加し,ネット上でデザインがつぎつぎと更新されました.これも黒子であった消費者が主役になった一例です.インターネットがもの作りに関わる可能性を示しています.一般消費者ではなく,専門知識をもったプロが知を集約した代表例は,LinuxというコンピュータのOS(oper-atingsystem)です.さまざまな企業に所属するプログラマーがこのソフトの開発に参加しました.シェアはWindowsに迫るほどのものではありませんが,動作性の軽さと安価なソフトとして官公庁などで利用されています.医療界に目を移しますと,開発した医師の名前が付けられた手術小道具も,参加型商品開発といえますが,インターネットを使えばより多くのアイデアを集約できるでしょう.将来,Linuxのようなオープンソースで開発ができる,電子カルテソフトができるかもしれません.ブレインストーミング開発というのは,どのような頭脳作業なのかというと,論文を書いたり,スライドを作ったりする作業とは少し異なります.新製品の開発段階によく行われるブレインストーミングという手法についてご紹介します.ブレインストーミングとは,連想を集団で行うことによって,相互交錯の連鎖反応や発想の誘発を期待する技法です.あくまでも独創性を高めるための手段であり,判断や批判などは行わないことが重要です.ブレインストーミングには基本ルールが4つあります.一つは,アイデア創出の段階では質よりも量を重視します.一般的な考え方・アイデアはもちろん,一般的でなく新規性のある考え方・アイデアまで,あらゆる提(71)インターネットの眼科応用第6章インターネット医療機器開発武蔵国弘(KunihiroMusashi)むさしドリーム眼科シリーズ⑥———————————————————————-Page2938あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009案を歓迎します.二つ目は,多くのアイデアが出揃うまでは,各個人のアイデアに対して批評・批判することは慎みます.個々のメリット・デメリットなどの評価は,ブレインストーミングのつぎの段階で行います.三つ目は,誰もが思いつきそうなアイデアよりも,奇抜な考え方やユニークで斬新なアイデアを重視します.新規性のある発明は,たいてい最初は笑いものにされることが多く,そういった提案こそを重視します.四つ目は,別々のアイデアを合わせたり,一部を変化させたりすることで,新たなアイデアを生み出していきます.この過程こそが,ブレインストーミングの最大のメリットです.ブレインストーミングの例を示します.「硝子体手術で周辺部の硝子体を見たい.どうすれば良いか」という問いに対して,自由にアイデアを出します.「内視鏡で見る」「圧迫して見る」ここまでは現状の解決法です.一歩踏み込んで,「解像度の高い内視鏡で見る」「圧迫子の先端を工夫する」というアイデアから始まり,もっと奔放に,「割を入れてオープンスカイにしてみる」「超広角の接眼レンズを作る」「鏡を硝子体腔内に入れる」「硝子体に入る手術ロボットを作る」…実現性を無視したアイデアですが,このようなディスカッションから新しい手術法のイノベーションが起こります.インターネット空間で,ブレインストーミングを行えば,全国の医師の頭脳を繋ぐことができます.医師集団が開発に関わって創られた集合知は,Linux以上に産業的価値と社会貢献性が高いと考えます.「インターネット医療機器開発」は,インターネットの医療応用としてはまだ実験的な段階ですが,医師限定のインターネット会議室「MVC-online」から実例をご紹介します.MVConlineでできること③(インターネット機器開発)5月号より,インターネットの医療応用の実例を紹介しています.MVC-onlineでは参加する医師・歯科医師がエリアや所属を越えて意見交換しています.サイト内の一部に産業界の方にアクセスしていただいて,医療界と産業界の意見交流を通じて,新しい商品を創造しています.MVC-onlineで企画された実際の機器開発を紹介します.Casereport:新規オゾン水精製装置の開発従来のオゾン水精製装置にどのようなコンセプトで改良を行えば,より良い医療環境を創造できるか,という(72)テーマをインターネット会議室「MVC-online」で議論しました.まず,2つの方向性を検討しました.一つは,精製装置をDVDデッキ程度にまで徹底的にコンパクトにする方向性です.白内障,硝子体の手術機械に設置できるほどコンパクトにします(図1).もう一つは,移動可能なモバイル型にする方向性です.外来から手術室までの移動が容易になります.MVC-onlineに参加している眼科医の先生方からインターネットを通じてご意見を頂戴しました.近い将来,アイデアが集約された新しい医療機器が登場することでしょう.インターネットを使えばエリアを越えて,医療機器の開発に参加できる時代になりました.インターネット会議室「MVC-online」では,医療者の知識・ノウハウをインターネット上で共有しています.この試みは,インターネットの眼科応用の可能性を示しており,WEB2.0とよばれる潮流を具現化しています.【追記】NPO法人MVC(http://mvc-japan.org)では,医療というアナログな行為と眼科という職人的な業を,インターネットでどう補完するか,さまざまな試みを実践中です.MVCの活動にご共感いただいた方は,k.musashi@mvc-japan.orgまでご連絡ください.MVC-onlineからの招待メールを送らせていただきます.先生方とシェアされた情報が日本の医療水準の向上に寄与する,と信じています.文献1)http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20080421/299693/2)http://techon.nikkeibp.co.jp/members/DM/DMNEWS/20010312/1/ST=print精製水入りバック水者へ白内障手術機械図1コンパクト化したオゾン水精製装置のラフスケッチ