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回折型多焦点眼内レンズの片眼挿入例の検討

2009年7月31日 金曜日

———————————————————————-Page1(125)9910910-1810/09/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科26(7):991996,2009cはじめに眼鏡に依存しない良好な遠方および近方視力が得られることを目的として開発された多焦点眼内レンズ(intraocularlens:IOL)は,屈折型および回折型とも,近年改良が進み,良好な術後成績が報告されている14).特に回折型は近方視を得やすい特徴を有するので,眼鏡依存度がより少ない5,6).一般に,多焦点IOLはその特徴的な見え方から,両眼かつ同種のものを挿入するのが理想的で,これまでの良好な報告も両眼挿入に基づいたものが多い710).しかし,実際には片眼性白内障や,すでに片眼に単焦点IOLあるいは別のタイプの多焦点IOLが挿入されているが,より良好な近方視力を希望し,回折型IOL挿入を希望する例がある.すでに,術前に異なるタイプの多焦点IOL挿入を予定し,片眼に屈折型,もう片眼に回折型を挿入した報告はある11)が,今回,僚眼の状況により,片眼のみに回折型IOLを挿入した例を経験したので,臨床成績を報告する.I対象および方法症例は,2006年12月から2007年12月までの約1年間に,東京歯科大学水道橋病院にて片眼のみに回折型多焦点IOLが挿入された9例で,男性5例,女性4例,平均年齢51.5±14.1歳であった.9例の内訳は,僚眼にすでに単焦点〔別刷請求先〕中村邦彦:〒188-0011東京都西東京市田無町3-1-13-102たなし中村眼科クリニックReprintrequests:KunihikoNakamura,M.D.,TanashiNakamuraEyeClinic,3-1-13-102Tanashi-cho,Nishitokyo-shi,Tokyo188-0011,JAPAN回折型多焦点眼内レンズの片眼挿入例の検討中村邦彦*1,2ビッセン宮島弘子*1吉野真未*1北村奈恵*1大木伸一*1*1東京歯科大学水道橋病院眼科*2たなし中村眼科クリニックNineCasesofUnilateralDifractiveMultifocalIntraocularLensImplantationKunihikoNakamura1,2),HirokoBissen-Miyajima1),MamiYoshino1),NaeKitamura1)andShinichiOoki1)1)DepartmentofOphthalmology,TokyoDentalCollegeSuidobashiHospital,2)TanashiNakamuraEyeClinicl目的:回折型多焦点眼内レンズ(IOL)が,僚眼の状況で片眼に挿入された例の術後成績を検討した.対象:良好な近方裸眼視力を得るために片眼に回折型多焦点IOL(回折IOL)が挿入された9例で,僚眼は単焦点IOL眼2例,屈折型多焦点IOL(屈折IOL)眼3例,透明水晶体4例で,術後片眼および両眼視力,見え方の差および満足度を検討した.結果:回折IOL眼の裸眼視力は遠方0.8以上,近方0.5以上で,また全例が両眼で遠方1.0以上,近方0.6以上と良好であった.僚眼が単焦点IOL例は回折IOL眼の夜間グレアと遠方の見え方に違いはあるが,近方視は満足していた.僚眼が屈折IOL例は屈折IOL眼にハローを訴えたが,中間は屈折IOL,近方は回折IOLの見え方に満足,僚眼が有水晶体例では回折IOL眼のぼやけた見え方を訴えたが近方視力は満足していた.結論:回折IOL片眼挿入は,僚眼の状態によって見え方に左右差は多少あるが,両眼にて日常生活に問題なく回折IOLの利点が生かせると思われた.Thisisareporton9patientswhounderwentunilateralcataractsurgeryanddiractivemultifocalintraocularlens(IOL)implantationtoachievebetternearvisualacuity(VA).Theirfelloweyeswereimplantedwithmonofo-calIOL(2cases),refractivemultifocalIOL(3cases)orclearlens(4cases).Allpatientsachieveduncorrectedbin-ocularVAofmorethan1.0forfardistanceand0.6fornear;uncorrectedVAofalldiractivemultifocalIOL-implantedeyeswasmorethan0.8forfardistanceand0.5fornear.Thepatientsexhibitedmildvisualsymptoms,duetovisualperformancedisparitybetweenthediractivemultifocalIOL-implantedeyeandthefelloweye,butallwereultimatelysatisedwiththeirbinocularvisualperformance;noinconveniencewasexperiencedindailylife.UnilateraldiractivemultifocalIOLimplantationcanbebenecialforpatients.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(7):991996,2009〕Keywords:回折型多焦点レンズ,屈折型多焦点レンズ,片眼挿入.diractivemultifocallens,refractivemultifo-callens,unilateralimplantation.———————————————————————-Page2992あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009(126)IOLが挿入されていた2例(単焦点群),すでに屈折型IOLが挿入されていた3例(屈折型群),透明有水晶体眼4例(透明水晶体群)であった.各症例の僚眼の状態および視力を表1に示す.全例,単焦点,屈折型,回折型の特徴を説明し,患者自身が回折型IOL挿入を強く希望した症例である.使用したIOLは,9例中8例が回折型非球面で光学部がシリコーン製のZM900TecnisTMMultifocal(AMO社)(図1a)で,挿入時は厚生労働省の承認を受けていなかったため,東京歯科大学水道橋病院倫理委員会の承認を得,患者にもその旨を説明して同意を得た.1例は回折型球面でアクリル製シングルピースのSD60D3ReSTORTM(Alcon社)(図1b)を承認後に使用した.手術は,IOLが保険適用外のため自費手術,自費診療となることを十分に説明し同意を得て行われた.術式は,点眼麻酔下にて超音波水晶体乳化吸引術を施行して無水晶体眼とし,ZM900はアンフォルダーシルバーTMインジェクターを用いて,SD60D3はモナークTMインジェクターを用いて,耳側角膜切開から水晶体内に挿入した.全例,術中,術後合併症は認めなかった.術後3カ月以降に,回折型IOL挿入眼の遠方裸眼および矯正視力,近方裸眼,遠方矯正下近方視力,両眼の遠方裸眼および近方視力,またコントラスト感度はVectorVison社製CSV-1000を用いて測定し,左右眼での見え方の違い,満足度を調べた.II結果回折型IOL挿入後の視力結果を表2に示す.症例8は,角膜乱視が2Dのため裸眼遠方視力0.8,近方視力0.5であったが,9例中6例は遠方裸眼視力1.0以上,近方裸眼視力1.0以上と非常に良好な結果であった.両眼裸眼視力を図2表1各群の僚眼の状態および視力僚眼の状態症例年齢,性別IOLの種類瞳孔径(mm)視力遠方近方明所暗所遠近遠近単焦点群156歳,女性SA60AT2.42.34.03.9遠方0.1(1.2×2.0D(cyl0.75DAx170°)近方裸眼1.0遠方矯正下0.1270歳,男性SA60AT2.31.93.73.3遠方1.2(1.5×cyl0.75DAx100°)近方裸眼0.1遠方矯正下0.1屈折型群329歳,男性ArrayTM2.82.75.34.9遠方1.0(1.5×+0.5D(cyl0.50DAx60°)近方裸眼0.4遠方矯正下0.7466歳,女性ReZoomTM2.82.44.64.5遠方1.2(矯正不能)近方裸眼0.4遠方矯正下0.4538歳,男性ReZoomTM2.82.55.04.8遠方1.5(矯正不能)近方裸眼0.8遠方矯正下0.8透明水晶体群651歳,女性2.42.24.34.0遠方0.5(1.2×0.75D(cyl0.75DAx100°)近方裸眼0.6遠方矯正下0.2735歳,男性2.92.74.84.8遠方1.5(矯正不能)近方裸眼1.0遠方矯正下1.0855歳,女性2.62.44.44.3遠方0.5(1.2×1.25D(cyl1.0DAx80°)近方裸眼0.6遠方矯正下0.2948歳,男性2.82.64.54.4遠方0.08(1.2×6.0D(cyl0.50DAx10°)(1.5×SCL)近方(0.9×SCL)図1回折型多焦点IOLa:AMO社ZM900TecnisTMMultifocal.b:Alcon社SD60D3ReSTORTM.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009993(127)に示す.3群とも遠方1.0以上,近方0.6以上と良好であった.片眼と両眼でのコントラスト感度の結果を表3に示す.両眼での測定結果はすべて,正常範囲内にあった.各群の左右眼の見え方の差および満足度を表4に示す.それぞれ特有の見え方の差を訴えていたが,日常生活に支障がある例はなく,満足度は高かった.III考按多焦点IOLが先進医療として承認され,患者にその情報が広まるとともに,両眼性白内障例以外では,片眼挿入を希望する例が増えることが予想される.筆者らの施設では,両眼に同じタイプの多焦点IOLを挿入することを基本としているが,今回の症例のように,両眼挿入できない状態で回折型IOLを希望する例がある.症例数は限られるが,僚眼の状態によって単焦点挿入後,屈折型挿入後,透明水晶体に分け,臨床成績に差があるか,それぞれ特有の問題があるか,さらに,両眼に回折型IOLを挿入した結果と比較した.1.僚眼に単焦点IOLが挿入されている症例近年の眼軸長測定装置の進歩12)とIOL度数計算式の改良13)によるIOL度数決定の精度や,小切開白内障手術の導入による医原性乱視軽減により正視狙いで単焦点IOLを挿入した場合,遠方裸眼視力は格段に向上した.このように単焦点IOL挿入後,きわめて良好な遠方視力が得られても,近方視力が十分でなく,眼鏡を必要とすることに不満をもつ例がある.これまでは片眼に単焦点IOLがすでに挿入されている例では,もう片眼に多焦点IOLを挿入すると左右の見え方の違いや両眼視への影響が危惧され,多焦点IOL挿入を見合わせることが多かった.しかし,多焦点IOLが普及し,その利点が確認されると,患者側の希望により,片眼に多焦点IOL挿入を検討しなくてはならない機会が増えてくる.実際に片眼のみ回折型IOLを挿入した症例では,単焦点IOLとの遠方の見え方の違いを自覚しているが,良好な近方視力に満足していた.遠方の見え方について,使用した回折型IOLは,ZM900は非球面,SD60D3はapodiza-表2回折型IOL挿入後の遠方および近方視力僚眼の状態症例回折型IOL瞳孔径(mm)回折型IOL挿入眼視力明所暗所遠近遠近単焦点IOL群1ZM9002.72.64.54.3遠方0.8(1.2×cyl0.75DAx20°)近方裸眼0.9遠方矯正下1.02ZM9002.31.93.42.8遠方1.0(矯正不能)近方裸眼0.7遠方矯正下0.7屈折型IOL群3ZM9002.72.65.85.6遠方1.0(1.5×+0.50D(cyl0.50DAx180°)近方裸眼1.2遠方矯正下1.24ZM9002.62.24.54.1遠方1.2(1.5×cyl0.50DAx110°)近方裸眼1.0遠方矯正下0.85SD60D32.72.55.04.5遠方0.8(1.5×+1.25D(cyl0.50DAx160°)近方裸眼1.0遠方矯正下0.8透明水晶体群6ZM9002.42.34.64.3遠方1.2(矯正不能)近方裸眼1.0遠方矯正下1.07ZM9003.32.95.05.0遠方1.2(矯正不能)近方裸眼1.0遠方矯正下1.08ZM9002.62.14.74.5遠方0.8(1.2×+0.50D(cyl2.0DAx180°)近方裸眼0.5遠方矯正下0.89ZM9002.72.54.64.5遠方1.5(矯正不能)近方裸眼1.0遠方矯正下1.00.1症例234屈折型群透明水晶体群:遠方:近方単焦点群5678910.51.02.0視力図2両眼裸眼視力———————————————————————-Page4994あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009(128)tionによりコントラスト感度の改善が図られており3,14),以前のものより単焦点IOLとの見え方の違いを感じなくなっている可能性が高いと思われる.片眼に単焦点IOLが挿入されている症例で近方視の向上を望む場合,回折型IOL挿入以外の対処法として,屈折型IOLの選択15)と,単焦点IOLによるモノビジョン法16)がある.屈折型IOLは,近方視力は単焦点IOLに勝るが,回折型IOLより劣る.グレア,ハローについては,以前よりも改善しているが単焦点IOL,回折型IOLより自覚しやすい17).今回のような近方視への要求度が高い症例では,屈折型IOLでは近方視に物足りなさを覚えるのに加え,ハロー,グレアを強く自覚するので,僚眼の単焦点IOLの見え方と比較して利点を得にくいことが危惧される.単焦点IOLによるモノビジョン法は,不同視を生じるので左右で3Dの差をつけて挿入することは困難で,両眼同時期の手術で計画的に行う場合と比較して近方視への不満が生じる可能性が高い.屈折型多焦点IOLにてモノビジョン法を施行することも考えられるが,屈折型多焦点IOLを近方視狙いにて挿入することになるので,グレア,ハローの自覚が強くなることが危惧される18).したがって,単焦点IOL挿入後,遠方の表3コントラスト感度僚眼の状態症例IOLの種類片眼両眼3cpd6cpd12cpd18cpd3cpd6cpd12cpd18cpd単焦点IOL群1ZM9003136184.54370259.5SA60AT4370259.52ZM9004350259.561705013SA60AT6150259.5屈折型IOL群3ZM900435025761703513ArrayTM61501274ZM9003136184.561702513ReZoomTM6150259.55SD60D361502578570359.5ReZoomTM6199359.5透明水晶体群6ZM9004399184.57199509.54370259.57ZM9008599357859970258599509.58ZM9006150184.585703513617035139ZM9006136124.58570359.56170359.5表4見え方の左右差と満足度僚眼の状態症例見え方の左右差満足度単焦点IOL群1夜間,多焦点IOL挿入眼に軽度グレア満足2遠方の見え方に左右差満足屈折型IOL群3屈折型IOL挿入眼に夜間軽度ハローあり満足4満足5満足透明水晶体群6中間距離が見にくい近方視は満足7多焦点IOL挿入眼が少しぼやける満足8満足9満足———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009995(129)みならず近方視力を要求する症例に対しては,回折型IOLで対処するのが,患者にとって最も受け入れやすい方法と思われる.2.僚眼に屈折型IOLが挿入されている症例片眼に屈折型IOL,もう片眼に回折型IOLを挿入することによって,屈折型IOL挿入眼での良好な遠方視と中間視,回折型IOL挿入眼での良好な近方視により全距離での見え方に満足を期待して行うことが報告されている19).近年,この方法をmixandmatchあるいはcustommatchとよんでいるが,屈折型IOLと回折型IOLを片眼ずつに挿入することに至った症例でも,遠方,中間,近方すべての見え方に満足していた.しかし,どの症例も屈折型IOL挿入眼に片眼性ハローを自覚しており,計画的に全例に適応するべきか疑問がある.屈折型IOL挿入眼の視力に影響する重要な要素に瞳孔径がある.現在使用されているReZoomRでは2.1mm以下の瞳孔径では近用ゾーンが機能せず単焦点IOLとほぼ同じ機能になる.また,加齢とともに瞳孔径は縮小することが知られており,高齢者では,十分な瞳孔径を得られず,ReZoomRを挿入する利点はあまりないことが多い20).明所遠方視での瞳孔径が2.1mm以下の症例では単焦点IOLと比較して屈折型IOLの利点はなく,暗所でのグレア,ハローだけが強く自覚することになるので,屈折型IOLではなく単焦点IOLと回折型IOLの組み合わせのほうが良い可能性が高いと思われる.したがって,屈折型IOLと回折型IOLを組み合わせて挿入する場合は瞳孔径を測定したうえで適応を決めることが望ましく,瞳孔径が測定できない場合でも少なくとも年齢に鑑みて適応を判断するのが良いと考えられる.また,片眼に回折型IOLを挿入してその遠方視に不満がない場合は,両眼とも同種のIOLのほうが違和感はないので,あえて屈折型IOLを僚眼に挿入する利点はなく,回折型IOLを挿入するほうが無難であると思われる.3.僚眼が有水晶体眼である症例片眼が透明水晶体で,片眼性白内障に対し回折型IOLを挿入した症例は,回折型IOL挿入眼にわずかにコントラスト感度の低下に起因すると思われる症状を自覚しているが,良好な遠方視力と近方視力に満足していた.しかし,回折型多焦点IOLの特徴として,遠方と近方にピークがあるため,中間距離が見えにくく感じやすく21),今回,同様の訴えをした症例があった.瞳孔径が十分に確保できる症例では屈折型多焦点IOLの近用ゾーンが有効に機能して回折型と比べても遜色のない近方視が得られるので,屈折型多焦点IOLを選択したほうが中間視も良好で良い可能性がある.特に若年者では僚眼の有水晶体眼に調節機能が十分にあり近方視に困らないので,IOL眼での近方視を強く求めない限り屈折型多焦点IOLを挿入したほうが自然な見え方で満足度が高いと思われる.僚眼の屈折が,症例9のような近視例では,日常生活はコンタクトレンズを使用しており,遠方,近方視は問題なく,コンタクトレンズを装用しない場合でも,回折型IOL眼の視力が良好なため,両眼視力で問題はなかった.有水晶体眼が正視でない場合,どのような屈折矯正をするか術前に十分検討することで,回折型IOL挿入の適応が異なると思われる.4.回折型IOL両眼挿入例との比較片眼のみ回折型IOLを挿入した例は,僚眼の条件が異なるものの,両眼視力は遠方0.8以上,近方0.5以上で,すでにわが国で報告されている両眼とも回折型IOLを挿入した両眼視力結果と比較して同等以上であった3).この理由は,従来の報告に比べ,今回の症例のほうが年齢の若いこと,片眼の回折型IOL挿入眼の結果そのものが良好であったので両眼視力を上げているためで,片眼挿入のほうが良好ということではないと考えている.近年,多焦点IOLの挿入法としてstagedimplantationが推奨されている22).まず片眼に回折型多焦点IOLを挿入した場合は,その見え方に不満がない場合はもう片眼にも回折型多焦点IOLを挿入し,もし遠方の見え方に不満があれば瞳孔径に鑑みて屈折型多焦点IOLか単焦点IOLを挿入する方法である.これまでも両眼に同種の多焦点IOLを挿入することによる良好な結果は多々報告されてきており,片眼に挿入された多焦点IOLで患者がその見え方に満足するのであれば,あえて異なる種類のIOLを他眼に挿入して見え方の左右差を生じさせることの利点はないということに基づいている.今回はどの症例も満足していたが,多焦点IOLの片眼挿入は普遍的な方法ではないと思われる.また,症例によっては左右の見え方の違いに順応できず,同種のIOLへの交換を希望する場合もあることを念頭において行う必要があると考えられる.新世代の多焦点IOLの登場により,これまで対象外とされていた症例も適応とされるものもでてきた.しかし,多焦点IOLの本質は患者のqualityoflifeの向上にあり,両眼挿入にしても,片眼挿入にしても個々の患者のライフスタイルに合わせ選択していくことが重要と思われる.文献1)KohnenT,AllenD,BoureauCetal:Europianmulti-centerstudyoftheAcrySofReSTORapodizeddiractiveintraocularlens.Ophthalmology113:578-584,20062)SouzaCE,MuccioliC,SorianoESetal:Visualperfor-manceofAcrySofReSTORapodizeddiraciveIOL:Aprospectivecomparativetrial.AmJOphthalmol141:827-832,20063)ビッセン宮島弘子,林研,平容子:アクリソフRApodized回折型多焦点眼内レンズと単焦点眼内レンズ挿入成績の比較.あたらしい眼科24:1099-1103,2007———————————————————————-Page6996あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009(130)4)中村邦彦,ビッセン宮島弘子,大木伸一ほか:アクリル製屈折型多焦点眼内レンズ(ReZoom)の挿入成績.あたらしい眼科25:103-108,20085)MesterU,HunoldW,WesendahlTetal:Functionalout-comesafterimplantationofTecnisZM900andArraySA40multifocalintraocularlenses.JCataractRefractSurg33:1033-1040,20076)SchmidingerG,GeitzenauerW,HahsleRetal:Depthoffocusineyeswithdiractivebifocalandrefractivemulti-focalintraocularlenses.JCataractRefractSurg32:1650-1656,20067)Pineda-FernandezA,JaramilloJ,CelisVetal:Refractiveoutcomesafterbilateralmultifocalintraocularlensimplan-tation.JCataractRefractSurg30:685-688,20048)BlaylockJF,SiZ,VickersC:VisualandrefractivestatusatdierentfocaldistancesafterimplantationoftheReSTORmultifocalintraocularlens.JCataractRefractSurg32:1464-1473,20069)平容子,ビッセン宮島弘子,小野政祐:アクリソフRApodized回折型多焦点眼内レンズ挿入例におけるアンケート調査による視機能評価.あたらしい眼科24:1105-1108,200710)CillinoS,CasuccioA,DiPaceFetal:One-yearoutcomeswithnew-generationmultifocalintraocularlenses.Oph-thalmology115:1508-1516,200811)PeposeJS,QaziAM,DaviesJetal:VisualperformanceofpatientswithbilateralvscombinationCrystalens,ReZoom,andReSTORintraocularlensimplants.AmJOphthalmol144:347-357,200712)LeeAC,QaziMA,PeposeJS:Biometryandintraocularlenspowercalculation.CurrOpinOphthalmol19:13-17,200813)NarvaezJ,ZimmermanG,StultingRDetal:AccuracyofintraocularlenspowerpredictionusingtheHoerQ,Hol-laday1,Holladay2,andSRK/Tformulas.JCataractRefractSurg32:2050-2053,200614)中村邦彦:回折型眼内レンズの術後成績.あたらしい眼科24:163-167,200715)JacobiPC,DietleinTS,LukeCetal:Multifocalintraocu-larlensimplantationinprepresbyopicpatientswithuni-lateralcataract.Ophthalmology109:680-686,200216)井上俊洋,清水公也,新田任里江ほか:白内障術後のモノビジョンによる満足度.臨眼54:825-829,200017)RenieriG,KurzS,SchneiderAetal:ReSTORdiractiveversusArray2zonal-progressivemultifocalintraocularlens:Acontralateralcomparison.EurJOphthalmol17:720-728,200718)北原健二,柴琢也:眼内レンズのデザイン,材質と特性─3光学的特性.眼内レンズを科学する(小原喜隆,西起史,松島博之編),p16-19,メディカル葵出版,200619)NakamuraK,Bissen-MiyajimaH,OkiSetal:PupilsizesindierentJapaneseagegroupsandtheimplicationsforintraocularlenschoice.JCataractRefractSurg35:134-138,200920)LaneSS,MorrisM,NordanLetal:Multifocalintraocularlenses.OphthalmolClinNorthAm19:89-105,200621)大木伸一,ビッセン宮島弘子,上野里都子ほか:多焦点眼内レンズの焦点深度.日本視能訓練士協会誌36:81-84,200722)ビッセン宮島弘子:多焦点眼内レンズ.p138-139,エルゼビアジャパン,2008***

カルテオロール2回点眼から1回点眼への変更による長期効果

2009年7月31日 金曜日

———————————————————————-Page1(121)9870910-1810/09/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科26(7):987990,2009cはじめに緑内障点眼液の一つである塩酸カルテオロール点眼液は内因性交感神経刺激作用(intrinsicsympathomimeticactivi-ty:ISA)を有する点で他のb遮断薬と異なり,眼循環の改善が期待でき,心血管系や呼吸器系への影響が少ないとされている1,2).2007年7月に発売されたアルギン酸添加塩酸カルテオロール点眼液(以下,持続型塩酸カルテオロール点眼液)は,従来の塩酸カルテオロール点眼液(以下,標準型塩酸カルテオロール点眼液)にアルギン酸を添加することで眼表面での滞留性を向上させ,眼内移行量を増加させた3).持続型塩酸カルテオロール点眼液では,点眼液の滞留性の向上により1日1回点眼という利点がある.緑内障では生涯にわたり治療を継続する必要があり,眼圧下降効果が同等である場合,少ない点眼回数の薬剤を選択することで,良好なコンプライアンスが期待される.〔別刷請求先〕藤本隆志:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:TakayukiFujimoto,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPANカルテオロール2回点眼から1回点眼への変更による長期効果藤本隆志*1井上賢治*1若倉雅登*1富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医学部眼科学第二講座EectsofSwitchingfromStandardCarteololtoLong-actingCarteololfor12MonthsTakayukiFujimoto1),KenjiInoue1),MasatoWakakura1)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)2ndDepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySchoolofMedicine塩酸カルテオロール2%点眼液を使用中の原発開放隅角緑内障(51例51眼)に対して,アルギン酸添加塩酸カルテオロール2%点眼液への変更に伴う長期予後や安全性を検討した.眼圧は,変更前15.2±1.9mmHg,変更1カ月後15.0±1.8mmHg,3カ月後14.8±1.8mmHg,6カ月後14.7±1.8mmHg,9カ月後14.5±1.9mmHg,12カ月後14.1±2.1mmHgで,変更3カ月後より有意に下降した(p<0.033).Humphrey視野のmeandeviation(MD)値は,変更前が8.2±6.6dB,変更12カ月後が8.8±7.0dBで変化なかった.副作用は3例(5.9%)で出現し,嘔気1例,霧視1例,眼脂1例であった.原発開放隅角緑内障患者において,塩酸カルテオロール2%点眼液からアルギン酸添加塩酸カルテオロール2%点眼液へ変更することで,同等あるいはさらなる眼圧下降が得られ,眼圧下降効果は12カ月間持続し,12カ月間視野を維持できた.Wereporttheeectsofswitchingfromstandardcarteolol(2%)tolong-actingcarteolol(2%)for12months.Subjectsofthisstudywere51eyesof51patientswithprimaryopen-angleglaucomawhowereusingstandardcarteolol.Intraocularpressureaveraged15.2±1.9mmHgbeforetheswitch,15.0±1.8mmHgatonemonthafter,14.8±1.8mmHgat3monthsafter,14.7±1.8mmHgat6monthsafter,14.5±1.9mmHgat9monthsafterand14.1±2.1mmHgat12monthsafter.Thedierencewassignicantat3,6,9,and12monthsafterswitching(p<0.033).TheHumphreyvisualeldtestmeandeviationbeforeswitching(8.2±6.6dB)wassimilartothatat12months(8.8±7.0dB)afterswitching.Threepatients(5.9%)discontinuedthetherapyduetoadverseeects.Long-act-ingcarteololhadahypotensiveeectsimilartoorbetterthanstandardcarteolol,andstabilizedthevisualeldfor12months.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(7):987990,2009〕Keywords:アルギン酸添加塩酸カルテオロール点眼液,眼圧,原発開放隅角緑内障,視野.long-actingcarteolol,intraocularpressure,primaryopen-angleglaucoma,visualeld.———————————————————————-Page2988あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009(122)標準型塩酸カルテオロール点眼液と持続型塩酸カルテオロール点眼液を長期的に比較した報告では,両薬剤は同等の眼圧下降効果と安全性を有していた46).しかし,標準型塩酸カルテオロール点眼液から持続型塩酸カルテオロール点眼液への変更については,筆者らの変更34カ月間7)と湖崎らの変更1カ月間8)の報告しかなく,長期の眼圧や視野への影響,安全性は不明である.そこで今回,標準型塩酸カルテオロール点眼液から持続型塩酸カルテオロール点眼液への変更を行い,12カ月間にわたり,眼圧,視野,および副作用の出現状況をプロスペクティブに検討した.I対象および方法2007年7月から10月までの間に,井上眼科病院緑内障外来に通院中の(広義)原発開放隅角緑内障で,標準型塩酸カルテオロール2%点眼液を使用中の51例51眼を対象とした.対象は(狭義)原発開放隅角緑内障29例,正常眼圧緑内障22例であった.男性21例,女性30例,年齢は2188歳で64.2±11.4歳(平均±標準偏差)であった.点眼薬変更前の眼圧は1220mmHg(15.2±1.9mmHg)であった.Humphrey視野(中心30-2SITA-Standardprogram)におけるmeandeviation(MD)値は,25.01.4dB(8.2±6.6dB)であった.標準型塩酸カルテオロール2%点眼液をwashout期間なしで持続型塩酸カルテオロール2%点眼液(1日1回朝点眼)に変更した.眼圧測定はGoldmann圧平眼圧計を用い,同一検者が施行した.測定時間は,すべての患者をピーク時間またはトラフ時間で統一することはできず,患者ごとにほぼ同一の時間で測定した.変更前と変更1,3,6,9,12カ月後の眼圧をANOVA(analysisofvariance,分散分析)およびBonferroni/Dunnet法で比較した.変更前と変更12カ月後にHumphrey視野計を用いて視野を測定し,MD値を対応のあるt検定で比較した.副作用は来院時ごとに問診で発現状況を調査した.なお,点眼液変更後6カ月以内に副作用などで脱落した症例は眼圧と視野の解析からは除外した.点眼液変更時に,標準型塩酸カルテオロール2%点眼液以外の点眼液を併用していた症例は,併用なし10例(19.6%),1剤併用13例(25.5%),2剤併用21例(41.2%),3剤併用7例(13.7%)であった.併用薬剤は,ラタノプロスト38例,ブリンゾラミド13例,塩酸ドルゾラミド12例,塩酸ブナゾシン10例,塩酸ジピベフリン1例,イソプロピルウノプロストン1例で,標準型塩酸カルテオロール2%点眼液から持続型塩酸カルテオロール2%点眼液へ変更後も継続投与とした.両眼投与例では右眼,片眼投与例では患眼を解析眼とし,統計解析はStatView4.0(AbacusConcepts社)を用いた.有意水準はp<0.033とした.標準型塩酸カルテオロール2%点眼液から持続型塩酸カルテオロール2%点眼液へ変更時に変更による点眼回数の減少の利点を説明し,患者の同意を得た.II結果眼圧は,変更1カ月後15.0±1.8mmHg,3カ月後14.8±1.8mmHg,6カ月後14.7±1.8mmHg,9カ月後14.5±1.9mmHg,12カ月後14.1±2.1mmHgで,変更3カ月後以降で変更前(15.2±1.9mmHg)に比べ有意に下降した(p<0.033,ANOVAおよびBonferroni/Dunnet)(図1).変更12カ月後と変更前の眼圧の変動幅は,01mmHgが28例(56%),2mmHg以上が22例(44%)であった.MD値は変更前(8.2±6.6dB)と変更12カ月後(8.8±7.0dB)を比較し,有意差を認めなかった(p=0.62,対応のあるt検定)(図2).点眼液変更後の副作用に伴う脱落例は3例(5.9%)で,2例は変更後6カ月以内に脱落したため,眼圧と視野の解析からは除外した.副作用は変更2カ月後の嘔気,変更4カ月後の霧視,変更8カ月後の眼脂の各1例であった.全例とも持続型塩酸カルテオロール2%点眼液から標準型塩酸カルテオロール2%点眼液への再変更を行い,症状は改善した.20-15-10-50変更前変更12カ月後MD値(dB)図2点眼液変更前後の視野のMD値変更前変更後変更後変更後変更後変更後~~眼圧(mmHg)****図1点眼液変更前後の眼圧*:p<0.033,ANOVAおよびBonferroni/Dunnet.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009989(123)III考按持続型塩酸カルテオロール点眼液の眼圧下降効果は,原発開放隅角緑内障ならびに高眼圧症患者で報告されている46).標準型塩酸カルテオロール点眼液と持続型塩酸カルテオロール点眼液の眼圧下降幅は,5.586.51mmHgと5.506.47mmHg4),5.676.55mmHgと5.936.70mmHg5),4.14.6mmHgと3.54.6mmHg6),副作用発現頻度は,9.916.5%と9.611.7%4),57%と45%5),13.9%と12.2%6)で,両薬剤で同等であった.筆者らは標準型塩酸カルテオロール2%点眼液から持続型塩酸カルテオロール2%点眼液への変更4カ月間の検討を過去に報告した7).眼圧は,変更12カ月後は14.7±1.8mmHg,変更34カ月後は14.6±1.9mmHgで,変更前(15.0±1.9mmHg)に比べ有意に下降した.今回は経過観察期間を延長し,長期的な眼圧,視野への影響と副作用を検討した.湖崎ら8)は,b遮断点眼液あるいは炭酸脱水酵素阻害薬点眼液を,持続型塩酸カルテオロール点眼液に変更し,変更1カ月後にアンケート調査を行った.標準型塩酸カルテオロール点眼液から持続型塩酸カルテオロール点眼液への変更は39人で,眼圧は変更前(16.7±2.3mmHg)と変更後(16.4±2.4mmHg)で変わらなかった.今回と同様に主成分が同じで点眼回数を減少させたときの眼圧下降効果の検討は,水溶性チモロール点眼液(1日2回点眼)からゲル化チモロール点眼液(1日1回点眼)へ変更した場合がある9,10).徳川ら9)は,水溶性チモロール点眼液からチモロールゲル製剤点眼液への変更を行い,有意な眼圧下降を認めた.眼圧下降の要因としては,結膜内により長期に薬剤が滞留することで前房内の薬剤濃度が上昇していること,薬剤のコンプライアンスが向上したことが推察された.筆者らも水溶性チモロール点眼液から熱応答ゲル化チモロール点眼液に変更し,眼圧下降効果を検討した10).眼圧は変更後(15.715.9mmHg)に変更前(16.6±2.6mmHg)と比べて有意に下降した.特に多剤併用例では薬剤のコンプライアンスが向上した可能性が考えられた.今回,標準型塩酸カルテオロール2%点眼液から持続型塩酸カルテオロール2%点眼液へwashout期間なしで変更した後,3カ月後から眼圧は有意に下降した.眼圧下降の要因としては,点眼回数の減少に伴う薬剤コンプライアンスの向上と,房水中の薬剤濃度の影響を考えた.持続型塩酸カルテオロール点眼液は,薬剤の滞留性の向上により房水中の薬剤濃度が高くなり,これが眼圧下降に寄与した可能性がある.一方,眼圧測定時間が統一されておらず,ピーク値やトラフ値が混在していること,季節変動や測定誤差,変更12カ月後と変更前の眼圧の変動幅が1mmHg以内の症例が約60%存在したことなどを考慮すると,臨床的には標準型塩酸カルテオロール点眼液と持続型塩酸カルテオロール点眼液の眼圧下降効果はほぼ同等である可能性も考えられる.これらを厳密に評価するためには,持続型塩酸カルテオロール点眼液を標準型塩酸カルテオロール点眼液に再変更して検討する必要がある.持続型塩酸カルテオロール点眼液の長期的な視野への影響は報告されていない.今回は変更前と変更12カ月後のMD値に変化はなく,さらに変更12カ月後のMD値が変更前と比べて2dB以上悪化した症例はなかった.持続型塩酸カルテオロール点眼液投与により12カ月間にわたり視野を維持していた.しかし経過観察期間が12カ月間と短いため今後さらに長期の経過観察が必要である.副作用の出現により点眼中止となった症例は3例(5.9%)であった.持続型1%カルテオロール点眼液を使用した国内臨床試験では,74例中9例(12.2%)に副作用が認められた6).今回出現した霧視,眼脂,嘔気も各1例ずつ(1.4%)報告されていた.今回の点眼中止となった副作用の発現率が5.9%と低値であったことは,標準型2%塩酸カルテオロール点眼液を問題なく使用していた症例が対象であったためと考えられる.原発開放隅角緑内障患者に対して標準型塩酸カルテオロール2%点眼液から持続型塩酸カルテオロール2%点眼液への変更に伴う長期的な眼圧下降と視野への影響,および副作用を検討した.眼圧は変更3カ月後から有意に下降し,眼圧下降効果は12カ月間にわたり持続した.12カ月後のMD値に変化はなかった.94.1%の症例で持続型塩酸カルテオロール点眼液を安全に使用できた.以上より,持続型塩酸カルテオロール点眼液は,標準型塩酸カルテオロール点眼液と同等あるいはそれ以上の良好な眼圧下降および視野維持効果があり,高い安全性を有していると考えられる.文献1)SorensenSJ,AbelSR:Comparisonoftheocularbeta-blockers.AnnPharmacother30:43-54,19962)FrishmanWH,KowalskiM,NagnurSetal:Cardiovascu-larconsiderationsinusingtopical,oral,andintravenousdrugsforthetreatmentofglaucomaandocularhyperten-sion:focusonb-adrenergicblockade.HeartDis3:386-397,20013)TissieG,SebastianC,ElenaPPetal:Alginicacideectoncarteololocularpharmacokineticsinthepigmentedrabbit.JOculPharmacolTher18:65-73,20024)DemaillyP,AllaireC,TrinquandC,fortheOnce-dailyCarteololStudyGroup:Ocularhypotensiveecacyandsafetyofoncedailycarteololalginate.BrJOphthalmol85:962-968,20015)TrinquandC,RomanetJ-P,NordmannJ-Petal:Ecacyandsafetyoflong-actingcarteolol1%oncedaily:adou———————————————————————–Page4990あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009(124)ble-masked,randomizedstudy.JFrOphtalmol26:131-136,20036)山本哲也,カルテオロール持続性点眼液研究会:塩酸カルテオロール1%持続性点眼液の眼圧下降効果の検討─塩酸カルテオロール1%点眼液を比較対照とした高眼圧患者における無作為化二重盲検第III相臨床試験─.日眼会誌111:462-472,20077)井上賢治,野口圭,若倉雅登ほか:原発開放隅角緑内障(広義)患者における持続型カルテオロール点眼薬の短期効果.あたらしい眼科25:1291-1294,20088)湖崎淳,稲本裕一,岩崎直樹ほか:カルテオロール持続点眼液の使用感のアンケート調査.あたらしい眼科25:729-732,20089)徳川英樹,大鳥安正,森村浩之ほか:チモロールからチモロールゲル製剤への変更でのアンケート調査結果の検討.眼紀54:724-728,200310)井上賢治,曽我部真紀,若倉雅登ほか:水溶性チモロールから熱応答ゲル化製剤への変更.臨眼60:1971-1976,2006***

多層羊膜移植術が長期間有効で多層羊膜移植術が長期間有効であった角膜穿孔の3症例

2009年7月31日 金曜日

———————————————————————-Page1(117)9830910-1810/09/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科26(7):983986,2009cはじめに角膜穿孔例には穿孔の閉鎖が必要であり,その治療法として角膜移植術が行われることが一般的である.しかし,日本では慢性的に角膜ドナーが不足しており,早急に外科的治療が必要な穿孔性角膜疾患に対し,対応に苦慮する場合がある.近年,穿孔性角強膜疾患に対し,羊膜を角膜や強膜の欠損部に充する多層羊膜移植術(multilayeredamnioticmembranetransplantation:MAMT)の有効性が報告されている16)が,その長期経過に関する報告は限られておりMAMTの長期予後については不明な点もある.今回筆者らは,角膜穿孔3症例に対してMAMTを行い,移植羊膜の生着を術後長期にわたり観察できたので報告する.I対象および方法対象は平成12年4月から平成19年3月までに,旭川医科大学眼科(以下,当科)にて角膜穿孔に対しMAMTを施行した3例3眼(男性1例,女性2例)である.羊膜は旭川医科大学倫理委員会の承認のもと,インフォームド・コンセントを得て,ウイルス性疾患に罹患していない妊婦の帝王切開時に無菌的に得られた胎盤組織より採取した.洗浄後に3cm角に切断し,グリセオールとDMEM(Dulbecco変法Eagle培地)を1:1に混合した保存液に入れ,80℃で冷凍保存した.手術は既報を参考にして行った13).2%キシロカインでTenon下麻酔を行い,潰瘍底を掻爬し潰瘍周囲の接着不良な角膜上皮も可能な限り除去後,潰瘍をカバーするように〔別刷請求先〕五十嵐羊羽:〒078-8510旭川市緑が丘東2-1-1-1旭川医科大学眼科学講座Reprintrequests:ShoIgarashi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,AsahikawaMedicalCollege,2-1-1-1MidorigaokaHigashi,Asahikawa-shi078-8510,JAPAN多層羊膜移植術が長期間有効であった角膜穿孔の3症例溜裕美子*1五十嵐羊羽*1花田一臣*1村松治*2吉田晃敏*1*1旭川医科大学眼科学講座*2斗南病院眼科ThreeCasesofCornealPerforationSuccessfullyTreatedfortheLongTermwithMultilayeredAmnioticMembraneTransplantationYumikoTamari1),ShoIgarashi1),KazuomiHanada1),OsamuMuramatsu2)andAkitoshiYoshida1)1)DepartmentofOphthalmology,AsahikawaMedicalCollege,2)DepartmentofOphthalmology,TonanHospital多層羊膜移植術(multilayeredamnioticmembranetransplantation:MAMT)を施行後,移植羊膜の生着を術後長期にわたり観察できた角膜穿孔の3症例を経験したので報告する.症例1は69歳,女性,症例2は65歳,女性,症例3は76歳,男性.すべての症例で角膜潰瘍穿孔を認め,MAMTを施行した.術後それぞれ約8年半,3年,2年経過しているが,移植した羊膜は生着している.潰瘍の再発はなく,角膜の上皮化も維持されている.保存的治療法に反応せず,非感染性と考えられる角膜潰瘍の穿孔例に対しMAMTは有効であり,長期にわたり穿孔の閉鎖,角膜の上皮化を維持できた.MAMTは術後長期間良好な状態を保つことができる手術の一つであると考えられる.Weperformedmultilayeredamnioticmembranetransplantation(MAMT)forperforatedcornealulcersin3eyesof3patientsatAsahikawaMedicalCollege.Afterpostoperativefollow-upperiodsofabout8.5,3,and2years,thetransplantedamnionmembranessurvived.Theulcersdidnotrecur,andthecornealepithelizationwasstable.MAMTiseectivefortreatingnoninfectiouscornealperforationsthatareunresponsivetononinvasivetherapies.Theperforationsresolved,andthecornealepithelizationremainedintactinourpatientsoverthelongterm.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(7):983986,2009〕Keywords:多層羊膜移植術,角膜穿孔,羊膜,角膜移植.multilayeredamnioticmembranetransplantation,cornealperforation,amnioticmembrane,keratoplasty.———————————————————————-Page2984あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009(118)羊膜を10-0ナイロン糸で縫着し,その後小さく切り取った羊膜を縫着した羊膜の下に充した.さらに羊膜パッチを行って角膜全体を覆い,上皮の再生を促した.II症例〔症例1〕69歳,女性.主訴:左眼痛.現病歴:幼少時に左眼は失明し,点墨術を施行された.1週間前から左眼に異物感が出現.徐々に痛みも出現してきたため平成12年4月,当科を受診した.初診時所見:矯正視力は右眼(1.0×1.75D(cyl1.50DAx120°),左眼無光覚弁.左眼の角膜中央部に潰瘍を認め,潰瘍の中央部で穿孔していた(図1a).左眼の中間透光体,眼底は透見不能であった.右眼には特記すべき所見は認めなかった.経過:平成12年4月,MAMTを施行した.パッチした羊膜は術後1週間ではずした.羊膜パッチを除去した時点で,羊膜上は角膜上皮化していた(図1b,c).術後約8年半経過しているが,潰瘍の再発はなく,安定した状態を保っている(図1d).〔症例2〕65歳,女性.主訴:右眼痛.現病歴:幼少時の感染症により右眼の角膜混濁を認めていたが,受診歴なく経過していた.1週間前から右眼痛が出現したため近医受診.右眼角膜の潰瘍穿孔を指摘され,抗菌点眼薬・眼軟膏にて10日間治療されたが改善しないため,平成17年12月,当科を紹介され受診した.初診時所見:矯正視力は右眼(0.03),左眼(0.5×+0.50D(cyl0.50DAx100°).右眼の角膜中央やや下方に潰瘍穿孔を認めた(図2a).左眼の角膜に特記すべき所見は認めなかった.両眼とも軽度の白内障を認めるが,眼底に異常所見は認めなかった.経過:平成18年1月,MAMTを施行した.術後2週間で羊膜パッチを除去した時点で,羊膜上の角膜は上皮化していた.術後約3年経過しているが,潰瘍再発はなく,移植した羊膜の融解・脱落も認められてない(図2b,c).矯正視力は右眼(0.03),左眼(0.5×+1.50D(cyl1.00DAx120°)である.〔症例3〕76歳,男性.主訴:右眼異物感.現病歴:約50年前に右眼外傷の既往があるが,以後受診歴なく経過.平成19年3月,近医にて右眼角膜の潰瘍穿孔を指摘される.ソフトコンタクトレンズ,自己血清点眼にて1週間治療されたが改善せず,同月当科を紹介され受診した.初診時所見:矯正視力は右眼(0.3×3.50D(cyl4.00DAx100°),左眼(0.6×1.75D(cyl1.25DAx120°).右眼角膜の上耳側周辺部に潰瘍穿孔と穿孔部への虹彩の嵌頓を認めた(図3a).左眼の角膜に特記すべき所見は認めなかった.両眼ともに中等度の白内障,黄斑変性を認め,さらに左眼には黄斑前膜を認めた.図1症例1の前眼部所見a:初診時.角膜中央に潰瘍を認め,潰瘍の中央部で穿孔している(矢印).b:術後1カ月.羊膜上は角膜上皮化しており,移植片の融解・脱落は認めない.c:図1bのシェーマ.①は角膜実質の欠損部に詰めた羊膜(第1層,羊膜スタッフ).②は角膜上皮の代用基底膜として留置された羊膜(第2層,羊膜グラフト).伸展してきた角膜上皮を保護するための羊膜(第3層,羊膜パッチ)はすでに除去されている.d:術後8年.移植片は生着し,安定した状態を保っている.①②acbd図2症例2の前眼部所見a:入院時.角膜中央やや下方に潰瘍穿孔を認める(矢印).b:術後1カ月.羊膜上は角膜上皮化している.c:術後2年.移植片は生着し,融解・脱落は認めない.acb———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009985(119)経過:平成19年3月,MAMTを施行した.前房内に粘弾性物質を注入する際,虹彩の嵌頓を解除した.穿孔は閉鎖し(図3b),術後約2年経過しているが,移植した羊膜の融解・脱落は認められていない(図3c).矯正視力は右眼(0.06×3.00D(cyl3.00DAx90°),左眼(0.4×2.25D(cyl1.00DAx120°)である.III考按羊膜には上皮の分化・増殖促進作用,抗炎症作用,線維芽細胞の増殖抑制作用などが報告されており710),Kimらによる羊膜を用いた眼表面再建の報告以後7),羊膜移植はさまざまな眼表面疾患に対し行われている.特に角結膜化学熱傷やStevens-Johnson症候群などの瘢痕性角結膜疾患,角膜潰瘍穿孔,遷延性角膜上皮欠損に適応があるとされている610).穿孔性角強膜疾患に対しては,角膜実質の欠損部に羊膜を詰め(羊膜スタッフ),その上から代用基底膜として羊膜を留置し(羊膜グラフト),さらに伸展してくる角膜上皮を保護するためのカバーとして羊膜を留置(羊膜パッチ)する3つの要素を組み合わせた羊膜移植であるMAMTの有効性が報告されている16).MAMTは保存的治療法に反応しない非感染性の角膜潰瘍や角膜小穿孔が適応とされており6),筆者らも保存的治療法に反応せず,角膜浸潤や血管侵入,前房の炎症所見などが少ない,非感染性と考えられる角膜潰瘍の穿孔を適応としている.穿孔の位置や形にもよるが,2mm前後の大きさまで適応になると考えている.MAMTは手術手技が比較的容易であり,最終的に角膜移植が必要な場合でも,MAMTを施行することでドナー角膜を確保するまでの間,眼球の構造を維持することができる.さらに羊膜には抗原性が少なく,移植しても拒絶反応を起こすリスクが低いとされる10).しかし,角膜上皮欠損の遷延や上皮の羊膜下への侵入が生じた場合は,羊膜の融解,脱落が起こる可能性がある.また,移植した羊膜は透明化しないため,病変が瞳孔にかかる場合には二次的な角膜移植を考慮する必要がある6).今回の症例の場合,症例1では幼少時すでに失明しており,光学的改善を目的とした角膜移植ではなくMAMTが選択された.症例2では幼少時からの角膜混濁により弱視であったこと,角膜潰瘍が瞳孔からやや外れており,MAMT施行後の視力が術前と変わりなかったことから二次的に角膜移植は行わず経過観察している.症例3ではMAMTを施行することで穿孔は閉鎖し,移植羊膜は上皮化したが,術前矯正視力0.3から術後矯正視力0.06と低下した.視機能向上のためには光学的角膜移植が必要であることを患者に説明したが手術を希望せず,現在まで経過観察を続けている.MAMTで羊膜が生着しなかった場合や,穿孔創がある程度大きい場合,感染性角膜潰瘍が疑われる場合には治療的角膜移植が必要となり,すぐに新鮮角膜が入手できない場合には保存角膜が使用される11).保存角膜は内皮機能を失っており角膜の透明治癒は得られないものの,角膜の補強や病変の除去には有用である.しかし,新鮮角膜に比べ脆弱であり,水流らは角膜移植後の再穿孔率は保存角膜では新鮮角膜の約7倍であったと報告している12).今回,筆者らは非感染性の角膜潰瘍穿孔のみをMAMTの適応としているが,Nubileらによる感染に伴う角膜穿孔に対するMAMTが有効であったとの報告もある13).穿孔創の大きさなど制限がない場合は積極的にMAMTを行い,炎症を沈静化させてから新鮮角膜で移植を行うなど,今後MAMTの適応範囲を広げる検討も必要であると考えている.このように,MAMTは非常に有効な術式であるが長期経過についての報告は少ない.Chenらの3年2カ月4),並木らの4年14)という報告があるが,さらに長期のものは報告されていない.MAMTでは自己免疫疾患やneurotrophickeratitisによる潰瘍穿孔,角膜輪部障害が強い症例,穿孔径が1.5mm以上の症例では予後不良13,5)とされている.また,羊膜移植後の組織学的検討についてはGrisらの報告がある.羊膜は再吸収されると新たな線維性実質に置換されていき,同時に角膜の透明性は失われていくが,角膜実質への血管侵入がなく,臨床的に明らかな炎症所見がない場合,羊膜の再吸収の速度は遅い.これに対し,角膜実質への血管侵入があり炎症所見がある場合,羊膜は急速に再吸収されると報告されている15).今回の筆者らの症例は穿孔径が1.5mmを超えるものもあったが,他に予後不良とされる条件がなく,非感図3症例3の前眼部所見a:初診時.角膜の上耳側周辺部に潰瘍穿孔を認める(矢印).b:術後3日.羊膜パッチ除去前.穿孔は閉鎖し,前房は保たれている.c:術後1年.移植片は生着している.acb———————————————————————-Page4986あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009(120)染性で炎症所見が少なかったため,羊膜移植術後も長期間眼球形態が維持されたと考えている.今回筆者らは保存的治療法に反応せず,非感染性と考えられる角膜潰瘍穿孔の3症例に対しMAMTを行い,穿孔の閉鎖,角膜上皮化の維持を長期にわたり経過観察することができた.MAMTは術後長期間安定した状態を保つことができる手術の一つであると考えられる.文献1)KruseFE,RohrschneiderK,VolckerHE:Multilayeredamnioticmembranetransplantationforreconstructionofdeepcornealulcers.Ophthalmology106:1504-1510,19992)SolomonA,MellerD,PrabhasawatPetal:Amnioticmembranegraftsfornontraumaticcornealperforations,descemetoceles,anddeepulcers.Ophthalmology109:694-703,20023)HanadaK,ShimazakiJ,ShimmuraSetal:Multilayeredamnioticmembranetransplantationforsevereulcerationofthecorneaandsclera.AmJOphthalmol131:324-331,20014)ChenHJ,PiresRT,TsengSC:Amnioticmembranetransplantationforseverneurotrophiccornealulcers.BrJOphthalmol84:826-833,20005)Rodriguez-AresMT,TourinoR,Lopez-ValladaresMJetal:Multilayeramnioticmembranetransplantationinthetreatmentofcornealperforations.Cornea23:577-583,20046)小林顕:角膜潰瘍・穿孔治療のための羊膜複数枚移植.眼科プラクティス13:150-151,20077)KimJC,TsengSCG:Transplantationofpreservedhumanamnioticmembraneforsurfacereconstructioninseverelydamagedrabbitcorneas.Cornea14:473-484,19958)TsengSCG,PrabhasawatP,LeeSH:Amnioticmembranetransplantationforconjunctivalsurfacereconstruction.AmJOphthalmol124:765-774,19979)LeeSH,TsengSCG:Amnioticmembranetransplantationforpersistentepithelialdefectswithulceration.AmJOph-thalmol123:303-312,199710)島潤:羊膜移植.眼科診療プラクティス47:102-107,199911)五十嵐羊羽,島潤,坪田一男:新鮮角膜を用いた治療的角膜移植の成績.臨眼52:204-209,199812)水流忠彦,山上聡:角膜穿孔に対する角膜移植手術とその予後.眼科39:75-80,199713)NubileM,CarpinetoP,LanziniMetal:Multilayeramni-oticmembranetransplantationforbacterialkeratitiswithcornealperforationafterhyperopicphotorefractivekerate-ctomy:casereportandliteraturereview.JCataractRefractSurg33:1636-1640,200714)並木文子,中神哲司,永瀬康規ほか:浜松医科大学附属病院眼科において羊膜移植術を施行した11例12眼の検討.あたらしい眼科22:1117-1121,200515)GrisO,Wolley-DodC,GuellJLetal:Histologicndingsafteramnioticmembranegraftinthehumancornea.Oph-thalmology109:508-512,2002***

オフロキサシン点眼薬とマレイン酸チモロール点眼薬の培養角膜細胞に対する影響と家兎眼内移行動態

2009年7月31日 金曜日

———————————————————————-Page1(111)9770910-1810/09/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科26(7):977981,2009c〔別刷請求先〕福田正道:〒920-0293石川県河北郡内灘町大学1-1金沢医科大学感覚機能病態学(眼科学)Reprintrequests:MasamichiFukuda,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KanazawaMedicalUniversity,1-1Daigaku,Uchinada-machi,Kahoku-gun,Ishikawa920-0293,JAPANオフロキサシン点眼薬とマレイン酸チモロール点眼薬の培養角膜細胞に対する影響と家兎眼内移行動態福田正道佐々木洋金沢医科大学感覚機能病態学(眼科学)CytotoxicEectofOoxacinOphthalmicSolutionsandTimololMaleateOphthalmicSolutionsonCulturedRabbitCornealCellLineandOcularPharmacokineticsofOphthalmicSolutionsinRabbitsMasamichiFukudaandHiroshiSasakiDepartmentofOphthalmology,KanazawaMedicalUniversity目的:オフロキサシン(OFLX)点眼薬(0.3%)とマレイン酸チモロール(以下,チモロールと略)を用いて先発医薬品と後発医薬品の角膜障害性と家兎眼房水内移行動態を比較検討した.方法:各点眼薬の細胞障害は家兎由来角膜細胞(SIRC)に各点眼薬を一定時間接触後,生細胞数をコールターカウンターで計測後,生存率を算出した後,各種点眼薬の50%細胞致死時間(CDT50,分)を算出した.眼内移行性は各点眼薬を家兎眼に15分ごと3回点眼後,最終点眼終了60分後の眼房水を採取し,これを試料とした.薬剤濃度測定は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法で行った.結果:OFLX点眼薬のSIRCに対する障害性は比較的軽度であり,各点眼液のCDT50は30分以上であった.一方,チモロール点眼薬の細胞障害の程度には差がみられた.検討した6種類のOFLX点眼薬の房水内移行濃度はどの点眼薬もほぼ同等の移行濃度がみられた.チモロール点眼薬では最も高い眼内移行濃度(μg/ml)を示したものはリズモンR;3.86±1.15であり,チマバックRの約2倍であった(p<0.01).結論:OFLX点眼薬の先発品と後発品では角膜細胞障害性と眼内移行には大きな差はみられなかった.チモロール点眼薬ではSIRCへの障害性が異なること,また眼内移行性も異なるために,チモロール点眼薬の安全性と有効性は先発品と後発品では必ずしも,同等とはいえず,眼圧下降作用にも影響している可能性が示唆された.Weinvestigatedtheeectsof9ooxacin(OFLX)ophthalmicsolutionscontaining0.3%OFLXand0.5%timololmaleateonaculturedrabbitcornealcellline(SIRC),andmeasuredtheirrespectiveconcentrationsintheaqueous.CulturedSIRCcells(2×105)incubatedforvedayswereexposedtotheophthalmicsolutionsfor060min;50%celldeathtimeandCDT50(min)werecalculated.DierenceswereseeninthedegreeofcytotoxiceectofthesolutionsontheSIRC.Eachsolutionwasinstilledthreetimesat15-minuteintervals;drugconcentra-tionsintheaqueousweremeasuredat60minutesafterlastinstillation,usinghighperformanceliquidchromato-graphy(HPLC).ThecytotoxiceectsofOFLXophthalmicsolutionsontheSIRCwerecomparativelyslight;theCDT50ofeachsolutionwascalculatedformorethan30minutes.Ontheotherhand,dierenceswereseeninthecytotoxiceectsoftimololophthalmicsolutionsontheSIRC.TheOFLXophthalmicsolutionconcentrationsintheaqueoushumorwereapproximatelyequal,whereasdierenceswereseenintheaqueoushumorconcentrationsofthetimololophthalmicsolutions.RYSMONR(3.86±1.15μg/ml)wasabout2timeshigherthanTIMABAKR(p<0.01).Thedierencesincytotoxiceectswerelargelyduetothebenzalkoniumchloridecontentineachofthesolutions.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(7):977981,2009〕Keywords:オフロキサシン点眼薬,マレイン酸チモロール点眼薬,白色家兎眼,眼内動態,培養家兎由来角膜細胞(SIRC).ooxacin(OFLX)ophthalmicsolutions,timololmaleate(timolol)ophthalmicsolutions,albinorabbiteyes,intraocularpenetration,culturedrabbitcornealcellline(SIRC).———————————————————————-Page2978あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009(112)はじめに近年の医療費の見直しに伴い,眼科領域においても後発品の需要が高まることが予想される.後発品を使用するにあたり,その同等性を明らかにすることはきわめて重要である.点眼薬には主剤のほかに添加物が添加されているが,「先発医薬品」と「後発医薬品」では添加物は異なることが多い.筆者らはこれまでに各種点眼液の「先発医薬品」と「後発医薬品」では細胞障害の程度は必ずしも一致しないことを確認しており,後発品点眼薬の安全性に問題があることを指摘している1,2).本研究ではマレイン酸チモロール(以下,チモロールと略)を主成分とする6種類の抗緑内障薬とオフロキサシン(OFLX)を主成分である9種類の抗菌薬について培養角膜細胞に対する障害性を検討した.さらに,後発品点眼薬の眼内移行動態が先発点眼薬のものと同等性があるかを確認するために,これらの点眼薬のなかから数種の点眼薬を選択して家兎眼で眼内移行動態を測定した.I実験材料1.使用点眼薬0.3%オフロキサシン点眼薬として,タリビッドR,オフロキシンR,オプールR,オフテクターR,オフロキサットR,キサトロンR,ファルキサシンR,マロメールR,リビゲットRの9種類の市販点眼薬(表1)について検討した.また,マレイン酸チモロール0.5%点眼薬として,チモプトールR,リズモンR,チマバックR,チモロールRT,チモレートR,チモロールT.K.Rの6種類について検討した(表2).2.使用細胞株使用細胞株は家兎由来角膜細胞(ATCCCCL60,以下SIRC)の樹立細胞株(大日本製薬㈱)であり,これを10%fetalbovineserum(FBS)添加Dulbecco’smodiedEagle’s(DMEM)培地で37℃,5%CO2下で培養した.3.使用動物ニュージーランド成熟白色家兎(NZW)(体重2.53.0kg,雄性)を実験に使用した.II実験方法1.培養角膜細胞における細胞障害性の評価家兎由来角膜細胞(SIRC)(2×105cells)を培養5日後に各種の点眼薬,各々1mlを0,2,4,8,15,30,60分間接触後,シャーレに残存した細胞数をコールターカウンターにて細胞数を計測し生存率を算出し,その後,各種点眼薬の50%細胞致死時間(CDT50,分)を算出した.CDT50は生存率(%)をもとにして,2次方程式の解の公式,aX2+bX+c=0(≠0),X=b±-4ac/2aにより求めた.2.眼内移行性の評価点眼液は1回50μlを家兎眼の結膜内に15分ごと3回点眼後,最終点眼終了60分後に眼房水を約100μlを採取し,これを0.22μmのフィルターで濾過して試料とした.薬剤濃度測定は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法で行った.薬剤濃度の測定にはHPLC法を用いた.HPLC装置には送液ポンプ(LC-10AD型),紫外線分光光度検出器(SPD-10A型),蛍光分光光度検出器(RF-10A型),カラム恒温槽(CTO-10型),オートサンプラー(SCL-10A型),データ処理装置(C-R7A型)で,薬剤分析カラムはShim-packCLC-ODS(4.6mm×250mm)(Shimadzu)を用いた.移動相はアセトニトリル:0.04Mリン酸溶液/1:4,カラム温度は表19種類の市販0.3%オフロキサシン点眼薬の添加物商品名添加物pH浸透圧比オプールR塩化ナトリウム,pH調整剤6.07.0約1オフテクターRヒアルロン酸ナトリウム,塩化ナトリウム,pH調整剤6.07.0約1オフロキサットR等張化剤,pH調整剤6.07.00.951.15オフロキシンR塩化ナトリウム,pH調整剤6.07.00.951.15キサトロンRホウ酸,ホウ砂,等張化剤,pH調整剤6.07.00.951.15タリビッドR塩化ナトリウム,pH調整剤6.07.00.951.15ファルキサシンR塩化ナトリウム,塩酸,水酸化ナトリウム6.07.0約1マロメールR塩化カリウム,塩化カルシウム,塩化ナトリウム,ホウ酸,ホウ砂6.57.50.951.15リビゲットR塩化ナトリウム,pH調整剤6.07.00.951.15表26種類のチモロール点眼薬(0.5%)の添加物点眼薬(商品名)BAKEDTAPVAヒマシ油60チマバックR××××チモプトールR(先発品)○×××チモレートR○×××チモロールRT(○)×××チモロールT.K.R○○○×リズモンR○○×○BAK:塩化ベンザルコニウム(使用濃度範囲;0.0050.01%,界面活性剤),EDTA:エデト酸Na(キレート剤),PVA:ポリビニルアルコール(溶解補助剤),ヒマシ油60:ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60(界面活性剤,乳化剤),(○):濃塩化ベンザルコニウム液50,pH:6.37.5,浸透圧比:0.81.2.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009979(113)40℃,流速はOFLX,チモロールともに1.0ml/minとした.OFLXの検出波長(励起波長;Ex,蛍光波長;Em)は,Ex:295nm,Em:504nmで行った.チモロールの測定は紫外線分光光度検出器(SPD-10A型)を用いて,検出はUV284nmで行った.DPBS(Dulbecco’sphosphatebueredsaline)で希釈した各薬剤の測定限界濃度はOFLX,チモロールともに0.039μg/mlであった.III結果1.培養角膜細胞における細胞障害性の評価9種類のOFLX点眼薬のSIRCに対する障害性は比較的軽度であり,各点眼液のCDT50はすべて30分以上であった(図1).一方,6種類のチモロール点眼薬のSIRCに対するCDT50(分)はチマバックR;17.34>リズモンR;13.92>チモプトールR;8.97>チモロールRT;8.26>チモレートR;5.66>チモロールT.K.R;2.71の順であり,6種類のチモロール点眼薬によって障害の程度が大きく異なった(図2).2.家兎眼房水内移行性の評価9種類のうちから選択した6種類のOFLX点眼薬の家兎眼房水内移行濃度(μg/ml)はタリビッドR;1.74±0.42,オフロキサットR;1.59±1.18,オフロキサンR;1.86±0.34,マロメールR;1.94±0.94,オプールR;2.11±0.83,オフテクターR;2.43±1.12であり,どの点眼薬もほぼ同等の移行濃度がみられ,各薬剤間の移行濃度には統計学的な有意の差はなかった(図3).一方,6種類のチモロール点眼薬で最も高い眼内移行濃度(μg/ml)を示したものはリズモンR;3.86±1.15であり,ついでチモレートR;3.35±1.15,チモロールRT;2.64±1.25,チモロールT.K.R;2.57±0.73,チモプトールR;2.46±0.98,チマバックR;1.9±0.98の順であった.リズモンRの移行濃度はチマバックRの約2倍であった(p<0.01)(図4).IV考按今回使用したSIRCは米国の細胞バンクにある家兎角膜由来の樹立細胞で,世界各国でさまざまな分野の研究に用いられ,筆者らはこれまでに種々の点眼薬の角膜細胞への影響を0255075100125010203040506070生存率(%)処理時間(分):マロメールR:キサトロンR:リビゲットR:オフテクターR:タリビッドR:オフロキシンR:ファルキサシンR:オフロキサットR:オプールR図19種類のオフロキサシン点眼薬(0.3%)のSIRCに対する障害性オフロキサオフロキサンロールオールオフー移行濃度図36種類のオフロキサシン点眼薬(0.3%)の家兎眼房水内移行濃度%チモンチモールチモロールチモーチモロール図26種類のチモロール点眼薬(0.5%)のSIRCに対する障害性モンチモーチモロールチモロールチモールチ点眼薬房水内移行濃度<0.01**図46種類のチモロール点眼薬(0.5%)の家兎眼房水内移行濃度———————————————————————-Page4980あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009(114)評価するのに用いている.OFLX点眼薬の細胞障害の結果は先発品と後発品の合わせて9種類いずれの点眼薬もSIRCに対してほぼ同程度の細胞障害性を示し,CDT50(分)はすべて30分以上であり比較的安全性の高い点眼薬であった.OFLX点眼薬を含めて一般にフルオロキノロン系抗菌点眼薬は眼に対する障害性,特に角膜障害は比較的少なく,使用しやすい薬剤として臨床応用されている3,4)が,今回の培養細胞での結果はそのことを裏付けるものと考えている.一方,チモロール点眼薬の細胞障害性には先発品と後発品の間で有意の差がみられるものもあり,先発品と後発品は必ずしも同等でないことが明らかになった.この原因として点眼薬の製剤設計上の相違が考えられ,特に防腐剤として添加されている塩化ベンザルコニウム(BAK),エチレンジアミン四酢酸(EDTA)などの影響が関与しているものと推測している5).チモロール点眼薬では,単独使用時や他剤との併用時の角膜上皮障害の出現が指摘されている6,7).長期間の使用が多い抗緑内障薬では薬剤の選択には効能だけでなく,副作用の面も十分に考慮されることが望まれる.すでに市場に登場している後発点眼薬の情報は先発品に比べて極端に少なく,使用にあたって何を選択指標とすればよいかの判断がむずかしい.後発点眼薬の選択指標の一つに今回のような情報を参考にして,臨床医が患者の眼球組織,特に角膜の状態を把握したうえで点眼薬を選択することが望まれる.各種点眼薬のCDT50(分)を指標とした筆者らの方法は,あくまでもinvitroでの成績であり,これがすべての眼に対する安全性の評価に繋がるわけではないが,複数の点眼薬間での客観的な評価が可能と考えている.今回のinvitro試験によると,チモロール点眼薬の角膜細胞障害の程度が明らかに,各点眼薬で大きく異なるものが存在したことは十分に考慮すべき事項と考える.点眼薬の眼内移行性を知ることも薬剤の有効性を知るうえで重要な事項の一つである.本実験は種々の点眼薬の眼内移行濃度を同一条件下で比較検討することで,客観的に各点眼薬の眼内移行性を評価することが可能であった.内服薬での後発薬品の同等性試験(Cmaxや血中濃度時間曲線下面積:AUCといった血中パラメータでの同等性評価)は,ガイドラインで規定されているが,点眼薬の薬物動態(たとえば,房水内移行性評価など)については,ガイドラインそのものが存在しない.今回の方法は家兎眼に15分ごと3回点眼し,点眼終了60分後の眼房水内移行濃度を測定したが,この測定条件を一定にするために,つぎのような条件を設定している.使用動物は純系白色兎とし,眼数n=6を標準とする.点眼は1回1滴(50μl),15分間隔で3回とする.点眼薬の場合には必ずしも,1回の点眼で正確に点眼されたとは考えられないために,複数回投与のほうが条件が一定になりやすい.また,点眼間隔と点眼回数については点眼操作の可能な無理のない条件として15分間隔3回に設定した.測定時間は最終点眼から60分後としたが,これは先発点眼薬のTmax(最高濃度到達時間)に準じてこの時点を採用した.今後は測定時間については測定時点を増やして各薬物動態パラメータ(房水内最高濃度:AQCmax,AUCなど)を算出することが望まれる.本研究では6種類のOFLX点眼薬はいずれの後発点眼薬も先発品とほぼ同等の移行性が確認されたのに対して,チモロール点眼薬では,先発品と後発品に有意差がみられる点眼薬があり,リズモンR点眼薬とチマバックR点眼薬では移行濃度に約2倍の差がみられた.本実験からも,主成分が同じであっても,添加物の量と種類によって眼内移行濃度が異なることが明らかとなり,今回の結果は薬効そのものに影響する可能性を示唆するものであった.今回使用した各種のチモロール点眼薬の角膜障害と眼内移行濃度の上昇は添加物である界面活性剤(BAK)の影響は大きく関与し,さらには今回の結果からみて,検討したリズモンR点眼薬に含まれている乳化剤(ヒマシ油60)などの存在が細胞障害の緩和と眼内動態に大きく関与していることが示唆された.いずれにしても,6種類のチモロール点眼液の角膜細胞への障害性が異なること,また眼内移行性が異なることから眼圧下降作用にも影響している可能性が示唆される.今回の細胞障害の評価法と眼内移行動態の評価法は一つの試みであるが,現在,日本の各製薬メーカーでは後発点眼薬の開発にあたり,厚生労働省からの『後発医薬品の生物学的同等性試験ガイドライン』に準じて生物学的同等性試験が行われているが,全身薬の開発とは異なり,現在の後発品点眼薬に求められている生物学的同等性は,薬効薬理試験が主であり,薬物動態試験や安全性試験のデータについては,各開発メーカーの自主性に求められているのが現状である.そのために,筆者らの今回の成績は後発点眼薬の薬物動態や安全性の特徴を把握するうえで,大いに役立つものと考える.結論として,今回検討した9種類のOFLX点眼液は細胞生存率は高く,各点眼液のCDT50は30分以上であった.眼内移行濃度は検討した6種類のOFLX点眼液はほぼ同等であった.一方,6種類のチモロール点眼液の角膜細胞への障害性は異なること,また眼内移行性も異なるため,点眼液の安全性と有効性は先発品と後発品では必ずしも,同等とはいえず,眼圧下降作用にも影響している可能性が示唆された.文献1)福田正道,山代陽子,萩原健太ほか:ジクロフェナクナトリウム点眼薬の培養家兎角膜細胞に対する障害性.あたらしい眼科22:371-374,20052)福田正道,村野秀和,山本佳代ほか:クロモグリク酸ナトリウム点眼液の角膜細胞への影響.あたらしい眼科22:———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009981(115)1675-1678,20053)AyakiM,YaguchiS,IwasawaAetal:Cytotoxicityofophthalmicsolutionswithandwithoutpreservativestohumancornealendothelialcells,epithelialcellsandcon-junctivalcells.ClinExpOphthalmol36:553-559,20084)SosaAB,EpsteinSP,AsbellPA:Evaluationoftoxicityofcommercialophthalmicuoroquinoloneantibioticsasassessedonimmortalizedcornealandconjunctivalepithe-lialcells.Cornea27:930-934,20085)高橋信夫,向井桂子:点眼剤用防腐剤塩化ベンザルコニウムの細胞毒性とその作用機序─細胞培養学的検討─.日本の眼科58:945-950,19876)HerrerasJM,PaslorJC,CalongeMetal:Ocularsurfacealterationafterlong-termtreatmentwithantiglaucoma-tousdrug.Ophthalmology99:1082-1088,19927)高橋奈美子,籏福みどり,西村朋子ほか:抗緑内障点眼薬の単剤あるいは2剤併用の長期投与による角膜障害の出現頻度.臨眼53:1199-1203,1999***

片眼白内障手術症例における術眼・非術眼の糖尿病網膜症の経過

2009年7月31日 金曜日

———————————————————————-Page1(107)9730910-1810/09/\100/頁/JCOPY14回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科26(7):973976,2009cはじめに糖尿病患者の白内障手術については,網膜症の悪化を招く可能性など術後合併症のリスクが高くなると危惧されることから,以前は禁忌とされたり慎重に検討すべきとされていたこともある.近年は,小切開超音波白内障手術が主流となり白内障手術が短時間・低侵襲で行えるようになったため,糖尿病患者であっても白内障手術に伴うリスクは軽減しており,手術適応は非糖尿病患者に準じることが多くなってきていると考えられる.一方,白内障手術の侵襲により網膜症が悪化する,また血糖コントロール状況や年齢,術前の糖尿病網膜症病期などにより,術後の網膜症悪化率に差があるなどの報告13,1013)もある.白内障手術後に網膜症が悪化したという報告には,両眼手術症例や,術眼のみならず非手術眼でも術後に網膜症が悪化した例を含んでいるものもあり,その場合,網膜症の悪化が糖尿病の自然経過によるものか,白内障手術の影響によ〔別刷請求先〕大岩晶子:〒275-8580習志野市泉町1-1-1千葉県済生会習志野病院眼科Reprintrequests:ShokoOhiwa,M.D.,DepartmentofOphthalmology,Chiba-kenSaiseikaiNarashinoHospital,1-1-1Izumi-cho,Narashino275-8580,JAPAN片眼白内障手術症例における術眼・非術眼の糖尿病網膜症の経過大岩晶子林敦子小林晋二大岡恵美根岸久也国立病院機構千葉医療センター眼科CourseofDiabeticRetinopathyintheOperatedEye/Non-OperatedEyeinaCaseofCataractSurgeryinOneEyeShokoOhiwa,AtsukoHayashi,ShinjiKobayashi,EmiOhokaandHisanariNegishiDepartmentofOphthalmology,NationalHospitalOrganizationChibaMedicalCenter目的:糖尿病網膜症に対する白内障手術の影響と,関連する因子について検討する.対象および方法:片眼のみ小切開超音波白内障手術を施行し,術後1年以上経過観察が可能であった64例を対象とし,術後の糖尿病網膜症の経過について術眼と同一患者の非術眼で比較した.福田分類で1段階以上進行した例を悪化とし,ヘモグロビンA1C(HbA1C)や全身合併症,術前の網膜症病期などとの関連を検討した.結果:網膜症が術眼のみで悪化,あるいは非術眼に比べ術眼でより悪化を認めた術眼悪化群は3例(4.7%),両眼とも同等に悪化あるいは変化がなかった,両眼同等群は61例(95.3%)であった.術眼悪化群は全3例とも,70歳以上で高血圧症の合併があり,HbA1Cは6%台であった.HbA1C,全身合併症,術前の網膜症の有無について,術眼の網膜症悪化との相関はみられなかった.結論:今回の調査では,白内障手術と糖尿病網膜症悪化との関連性は認められなかった.Toinvestigatedtheeectofcataractsurgeryondiabeticretinopathyandassociatedfactors,thecourseofdia-beticretinopathywascomparedbetweentheoperatedandnon-operatedeyesof64subjectswhounderwentsmall-incisioncataractsurgeryinoneeyeandwerefollowed-upformorethan1yearpost-operation.Thesymp-tom,whichhadprogressedoneormorestepsintheFukudaClassication,wasdenedasdeterioration;therela-tionshipwithhemoglobinA1C(HbA1C),systemiccomplicationsandpreoperativeretinopathystagewasstudied.Ofthoseaged70yearsorolderwhoalsodevelopedhypertensionwithHbA1C<7%,threecases(4.7%)exhibiteddeteriorationorfurtherdeteriorationintheoperatedeyeand61cases(95.3%)exhibiteddeteriorationinbotheyesornodeterioration.ThreewasnocorrelationbetweenHbA1C,systemiccomplicationsorpreoperativeretinopathyanddeteriorationintheoperatedeye.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(7):973976,2009〕Keywords:糖尿病,糖尿病網膜症,白内障手術,HbA1C,全身合併症.diabeticmellitus,diabeticretinopathy,cataractextraction,HbA1C,systemiccomplication.———————————————————————-Page2974あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009(108)るものかの判断は困難である.今回筆者らは,糖尿病患者で片眼のみ白内障手術を施行した症例において,同一患者の非手術眼を対照とした調査を行い,白内障手術による網膜症悪化への影響とそれに関連する因子について検討した.I対象および方法対象は,2001年2月から2006年3月に国立病院機構千葉医療センターで片眼のみ小切開白内障手術(超音波乳化吸引術および眼内レンズ挿入術)を施行した糖尿病症例で,1年以上経過観察が可能であった74例のうち,術前の網膜症に左右差があった例や硝子体手術後症例や同時手術症例,他の網膜疾患合併例を除外した,64症例(男性34例,女性30例,平均年齢68.1±12.9歳,4190歳)である.白内障手術後の糖尿病網膜症の進行の有無につき福田分類を用いて検討し,1段階以上の進行がみられたものを悪化とした.術前の網膜症の内訳は,網膜症なしが52例(81.2%),福田分類AIが5例(7.8%),AIIが4例(6.3%),AIIIが3例(4.7%)であった.福田分類BI以上の症例および黄斑浮腫を伴った症例は今回の検討症例中には認めなかった.術眼のみ悪化した症例と,両眼とも悪化がみられたものの術眼でより悪化した症例を<術眼悪化群>とし,両眼同等に悪化した症例と,両眼とも不変であった症例を<両眼同等群>として,2群に分けて評価した.白内障術後の網膜症悪化との関連性について,術前のヘモグロビンA1C(HbA1C)について8%未満と8%以上に分け,また,手術時年齢を70歳未満と70歳以上に分けて,術眼悪化群-両眼同等群にて比較検討した.高血圧症,高脂血症,腎障害といった全身合併症の有無や,術前の網膜症の病期(福田分類)についても,2群間で比較検討した.II結果全64例中,術眼悪化群が3例(4.7%)(そのうち術眼のみの悪化が2例,両眼とも悪化したが術眼でより悪化したのが1例)(表1),両眼同等群が61例(95.3%)(そのうち両眼とも同等に悪化したのが9例,両眼とも不変であったのが52例)であり,白内障手術と術眼の網膜症の悪化に関連性は認めなかった.術眼悪化群3例の悪化時期は6カ月から9カ月であり,術後に黄斑浮腫の出現した症例はみられなかった.つぎに,それぞれの群に対する全身因子の関連について2群間で比較検討した結果を述べる.術前のHbA1Cは,術眼悪化群はすべて8%未満であり,全3例とも6%台とコントロール状態は良好であった.両眼同等群では,8%未満が46例(75.4%),8%以上が14例(23%),不明が1例であった.両眼同等群のうち両眼とも悪化した9症例に限ると,HbA1C8%未満が4例(44.4%),8%以上が5例(55.6%)であり,両眼とも不変であった症例に比べると血糖コントロール不良例の割合が高かった.手術時年齢は,術眼悪化群では3例とも70歳以上,両眼同等群では,70歳以上が27例(44.3%),70歳未満が34例(55.7%)であった.高血圧症の合併については,術眼悪化群では全3例でみられ,両眼同等群では27例(44.3%)にみられた.高脂血症の合併は術眼悪化群では,1例も認めず,両眼同等群では,14例(23%)に合併がみられた.腎障害の有無については,顕性腎症期(糖尿病性腎症3期以上)のものを腎障害の目安としたが,今回の検討では術前にGFR(糸球体濾過量)の測定をしていないため,顕性蛋白尿陽性例あるいは血清クレアチニン1.6mg/dl以上の例を,腎障害ありとした.この条件において腎障害の合併は,術眼悪化群で1例(33.3%),両眼同等群で13例(21.3%)に認めた.術前の網膜症の有無について検討したところ,術眼悪化群では全3例とも術前に網膜症を認めておらず,両眼同等群では,網膜症なしが49例(80.3%),網膜症ありが12例(19.7%)であった.両眼同等群で術前に網膜症がみられた12例について,さらに網膜症病期別に分類すると,福田分類AI表3術前および術後の網膜症病期―術眼悪化群(3例)術前網膜症術後網膜症症例1A0/A0A1/A0症例2A0/A0A2/A1症例3A0/A0A2/A1(術眼/非術眼)表1術眼悪化群:術前後の網膜症術前網膜症術後網膜症症例①A0/A0AI/A0症例②A0/A0AII/AI症例③A0/A0AII/AI(術眼/非術眼)表2術前および術後の網膜症病期―両眼同等群(61例)術前網膜症術後網膜症A0(49例)A0:AI:AII:BI:40例2例6例1例AI(5例)AI:AII:2例3例AII(4例)AII:4例AIII(3例)AIII:3例———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009975(109)が5例(8.2%),AIIが4例(6.6%),AIIIが3例(4.9%)であった(表2,3).以上の結果より,白内障手術施行と糖尿病網膜症の悪化に有意な相関は認めなかった.また,HbA1C,年齢,全身合併症,術前の網膜症の有無について,術眼の網膜症悪化との相関を認めなかった(Fisher’sexacttest).III考按今回の調査では白内障手術と糖尿病網膜症悪化との関連性は認められなかったが,検討可能であった症例は,結果的に術前網膜症病期が,網膜症なし,単純網膜症,増殖停止網膜症の症例のみであったため,増殖網膜症や黄斑浮腫を伴った症例に対する手術の影響についてはさらなる検討の余地があると思われる.しかし,単純網膜症までの患者については,糖尿病であるというだけでは白内障手術を先送りにする理由にならないと考えられ,糖尿病患者であっても白内障手術の適応や時期は白内障の進行度,患者の自覚症状など,非糖尿病患者と同様の条件で決定してよいであろう.術眼悪化群の症例はいずれも70歳以上で高血圧の合併がみられており,後部硝子体離14)をきたしていない割合の多い若年層で網膜症悪化率が高いという報告1,15)もあるが今回は一致しなかった.高齢,高血圧症はいずれも動脈硬化のリスクファクター46)であり,微小循環障害や血管壁の脆弱化などがベースにあり,白内障手術とは無関係に網膜症の左右差が出現したという可能性も考えられる.なお,術者の熟達度による網膜症悪化の差についても報告16)があるが,筆者らの症例は熟達度の異なる複数の術者により手術が行われており,そのため手術所要時間にも差があることを追記する.また,後破損例を2例含むが,結果はいずれも両眼同等群の症例であり網膜症の経過に左右差はみられなかった.術後,両眼同等に網膜症の悪化を認めた症例については,血糖コントロール状況や糖尿病罹病期間などに影響される,糖尿病網膜症の自然経過による悪化7,8)であったといえる.悪化症例のHbA1Cは高値のものが多い傾向にあり,血糖コントロール不良例は網膜症が悪化しやすい7,8,10)というこれまでの見解と一致する.特に,血糖コントロールが不良な症例では,現在の網膜症病期や今後の網膜症の悪化を考慮したうえで,白内障が眼底観察や眼底造影検査の妨げになり,光凝固開始のタイミングを逸する可能性がないか,あるいは光凝固が十分にできない原因となっていないか,なども手術適応を決めるうえで重要であろう.また,糖尿病患者の血液房水柵の破綻や血管内皮細胞増殖因子(VEGF)の発現9)などが関与して,手術侵襲でさらに眼内環境変化を招き,網膜症の悪化をきたす可能性も指摘されている.術前からすでに網膜症病期の進行した症例については,そのような手術侵襲の影響がより出現しやすい可能性もありうると考えられ,白内障手術に先行して眼底造影などの網膜症の評価や,必要な治療があれば可能な限り優先させることが望ましいのではないだろうか.今回は検眼鏡的な網膜症評価にて検討しているが,今後,白内障手術を考えるような糖尿病症例について蛍光眼底造影検査による網膜症評価を行ったうえで治療時期や順序を検討し,さらにその後の網膜症進展についての評価を行うと,より厳密な調査結果が得られるのではないかと考える.文献1)松場眞弓,山崎啓祐:超音波乳化吸引術による糖尿病患者の白内障手術と網膜症の悪化について.眼科手術7:484486,19942)栗田正幸,金指功,椎野めぐみほか:糖尿病患者の白内障手術.眼科手術5:479-482,19923)深田佑加,加藤聡,堀貞夫ほか:糖尿病症例の白内障手術に対する超音波乳化吸引術の網膜症への影響.眼臨92:895-898,19984)有馬久富,清原裕:高血圧診療UPTODATE久山町研究から学ぶ.綜合臨床56:2633-2637,20075)江頭正人:動脈硬化学UPDATE動脈硬化の成り立ちを理解する危険因子の位置づけと治療の効果臨床的研究加齢高齢者の動脈硬化性疾患.医学のあゆみ221:1101-1105,20076)UKProspectiveDiabetesStudyGroup:Ecacyofatenololandcaptorilinreducingriskofmacrovascularandmicrovascularcomplicationsintype2diabetes:UKPDS39.BMJ317:713-720,19987)岸本あかね,佐々木秀行,井畑敦子ほか:糖尿病慢性合併症の発症・進展要因長期経過観察例での検討.糖尿病51:109-115,20088)OkadaT,UchigataY,YokoyamaHetal:Riskfactorfordiabeticcomplicationsinjuvenile-onsettype1diabeticpatients.ClinicalPediatricEndocrinology11:55-65,20029)中村彰,重光利朗,田島美保ほか:白内障手術時の水晶体上皮細胞における血清内皮細胞増殖因子の発現.あたらしい眼科18:527-529,200110)SquirrellD,BholaR,BushJetal:Aprospectivestudy,casecontrolstudyofthenaturalhistoryofdiabeticretin-opathyandmaculopathyafteruncomplicatedphacoe-mulcicationcataractsurgeryinpatiantswithtype2dia-betes.BrJOphthalmol86:565-571,200211)Romeo-ArocaP,Fernandez-BallartJ,Almena-GarciaMetal:Nonproliferativediabeticretinopathyandmacularedemaprogressionafterphacoemulcication:Prospectivestudy.JCataractRefractSurg32:1438-1444,200612)FlesnerP,SanderB,HenningVetal:Cataractsurgeryondiabeticpatients.Aprospectiveevaluationofriskfac-torsandcomplications.ActaOphthalmolScand80:19-24,2002———————————————————————-Page4976あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009(110)13)ChungJ,KimM-Y,KimH-Setal:Eectofcataractsur-geryontheprogressionofdiabeticretinopathy.JCataractRefractSurg25:626-630,200214)KakehashiA,KadoM,AkibaJetal:Variationsofposte-riorvitreousdetachment.BrJOphthalmol81:527-532,199715)亀山和子,加藤道子,福田雅俊:白内障手術と糖尿病性網膜症との関係.眼臨78:181-185,198416)MittraAR,BorrilloLJ,DevSetal:Retinopathyprogres-sionandvisualoutcomesafterphacoemulsicationinpatientswithdiabetesmellitus.ArchOphthalmol118:912-917,2000***

線維柱帯切除術後早期の濾過胞からの房水漏出に対し高分子量ヒアルロン酸ナトリウムの高濃度製剤の濾過胞内注入を行った2例

2009年7月31日 金曜日

———————————————————————-Page1(103)9690910-1810/09/\100/頁/JCOPY28回日本眼薬理学会原著》あたらしい眼科26(7):969972,2009cはじめにマイトマイシンC(MMC)併用線維柱帯切除術は現在緑内障に対して広く行われている術式である.その合併症の一つである術後の濾過胞からの房水漏出は,濾過胞消失,前房消失,低眼圧,感染といった多くの問題をひき起こす可能性がある14).房水漏出に対する対処法として点眼や内服による保存的治療や,結膜の直接縫合などの外科的治療がある23,5).しかし,結膜が薄いあるいは漏出部位が強膜弁に近いといった理由で直接縫合が困難な場合などはその治療に苦慮することも多い.今回,濾過胞からの早期房水漏出に対して,高分子量ヒアルロン酸ナトリウムの高濃度製剤(ヒーロンRV)を濾過胞内に注入することで,漏出を止めることができた2症例を経験したので報告する.I症例〔症例1〕78歳,女性.主訴:両眼視野狭窄.既往歴:右眼緑内障手術(時期不明),左眼緑内障手術(時期不明).右眼MMC併用線維柱帯切除術(昭和58年),右眼超音波水晶体乳化吸引術+眼内レンズ挿入術(平成12〔別刷請求先〕出口香穂里:〒734-8551広島市南区霞1-2-3広島大学大学院医歯薬学総合研究科視覚病態学教室Reprintrequests:KaoriIdeguchi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofBiomedicalSciences,HiroshimaUniversity,1-2-3Kasumi,Minami-ku,Hiroshima-shi734-8551,JAPAN線維柱帯切除術後早期の濾過胞からの房水漏出に対し高分子量ヒアルロン酸ナトリウムの高濃度製剤の濾過胞内注入を行った2例出口香穂里横山知子木内良明広島大学大学院医歯薬学総合研究科視覚病態学教室TwoCasesofSodiumHyaluronate2.3%InjectionintoLeakingBlebObservedinEarlyPeriodafterTrabeculectomyKaoriIdeguchi,TomokoYokoyamaandYoshiakiKiuchiDepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofBiomedicalSciences,HiroshimaUniversity線維柱帯切除術後早期の濾過胞からの房水漏出は,濾過胞消失,前房消失,低眼圧,感染といった多くの問題をひき起こす可能性がある.今回,濾過胞からの房水漏出に対して高分子量ヒアルロン酸ナトリウムの高濃度製剤(ヒーロンRV)を濾過胞内に注入することで漏出を止めることができた2症例を経験した.ヒーロンRV濾過胞内注入は,濾過胞からの房水漏出に対して比較的安全で簡便に行える処置であり,結膜が薄い場合や,漏出部位が強膜フラップに近く直接縫合が困難な場合など,症例によっては有効な方法であると考えられた.複数回の処置が必要となることが欠点と思われた.LeakagefromablebintheearlyperiodaftertrabeculectomywithmitomycinCmaycausecomplicationssuchasatbleb,shallowanteriorchamber,hypotony,andinfection.Wereport2casesinwhichblebleakagewassuc-cessfullystoppedwithpostoperativesodiumhyaluronate2.3%(HealonRV)injectionintothebleb.HealonRVinjec-tionintoaleakingblebisasafeandeasymethodoftreatingearlyonsetblebleakage.PostoperativeHealonRVinjectionintoaleakingblebiseectiveincasesofthinconjunctiva,andwhendirectsuturingisdicultbecausethepointofleakageisclosetothescleralap.However,somecasesmayrequiremultipleinjections.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(7):969972,2009〕Keywords:ヒーロンRV,房水漏出,線維柱帯切除術,マイトマイシンC.HealonRV,blebleakage,trabeculecto-my,mitomycinC.———————————————————————-Page2970あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009(104)年),左眼超音波水晶体乳化吸引術+眼内レンズ挿入術(平成15年).家族歴:特記事項なし.現病歴:両眼原発開放隅角緑内障と診断されて,両眼0.005%ラタノプロスト,0.5%チモロール,1%ブリンゾラミド点眼治療を受けたが,両眼視野狭窄が進行するため,精査加療目的で,平成18年1月,広島大学病院眼科に紹介されて受診した.初診時所見:視力は右眼0.02(0.04×+1.25D(cyl2.00DAx95°),左眼0.03(0.05×cyl2.00DAx70°),眼圧は右眼13mmHg,左眼16mmHgであった.前房は両眼ともに正常深度で,右眼は10時から11時までの幅をもつ周辺虹彩切除と,2時にも周辺虹彩切除,左眼は11時に周辺虹彩切除が行われていた.中間透光体は両眼偽水晶体眼で,視神経乳頭は両眼ともに乳頭陥凹比(C/D比)が1.0であった.両眼ともに湖崎分類Vbの視野狭窄を認めた.臨床経過:初診後外来で経過観察されていたが,さらに視野狭窄が進行したため,平成19年5月に,右眼耳上側から輪部結膜切開でMMC併用線維柱帯切除術を行った.術直後は房水の漏出はなく,レーザー切糸術を行いながら眼圧を調整していた.術後7日目,右眼眼圧は7mmHgと良好であったが,輪部結膜切開創から約1mm離れた強膜弁上の結膜から房水漏出があることに気づいた(図1a,b).術後は0.5%レボフロキサシンと0.1%フルオロメトロンを点眼していたが,0.1%フルオロメトロン点眼を中止し,アセタゾラミド2錠内服を開始した.翌日になっても房水漏出は止まらず,強膜弁上の透明結膜に接する部位に漏孔があったため,ヒーロンRVを結膜下に注入することにした.術後8日目,ヒーロンRVのシリンジに27ゲージの注射針をつけて,漏出部位から約10mm離れた円蓋部結膜に刺入して,漏出部位の下まで針先を進めた.ヒーロンRVが漏出点から少量出てくる程度,濾過胞内に注入した.術後9日目に房水漏出は止まっていた.術後11日目に再びわずかな房水漏出を認めたため,同様の方法でヒーロンRVを濾過胞内に再度注入した.以後,房水の漏出がなくなった.以後,右眼眼圧は410mmHgで推移している.〔症例2〕84歳,女性.主訴:両眼視野狭窄.既往歴:両眼超音波水晶体乳化吸引術+眼内レンズ挿入術(平成9年).家族歴:特記事項なし.現病歴:両眼緑内障と診断されて,両眼0.005%ラタノプロスト,0.5%チモロール,1%塩酸ドルゾラミド,0.01%塩酸ブナゾシン点眼治療を受けたが,両眼の視野狭窄が進行するために精査加療を目的として平成19年3月,広島大学病院眼科に紹介されて受診した.初診時所見:視力は右眼0.5(矯正不能),左眼0.5(矯正不能),眼圧は右眼15mmHg,左眼13mmHgであった.両眼とも瞳孔縁に偽落屑物質があり,前房は正常深度で,眼内レンズが挿入されていた.視神経乳頭は両眼ともにC/D比1.0で,視野もともに湖崎分類Vaであった.臨床経過:平成19年7月に,左眼鼻上側から輪部結膜切開でMMC併用線維柱帯切除術を行った.術中上方結膜の癒着が強い部分があり,結膜は非常に薄かった.術後眼圧は11mmHg前後で安定していたが,術後4日目に鼻側の結膜縫合通糸部からわずかに房水漏出があることに気づいた.房水漏出部位の縫合糸を抜糸したが,房水漏出は止まらなかった(図2a,b).結膜は非常に薄く,縫合しても再びその部位が漏孔になる可能性が高いと考え,術後10日目にヒーロンRVを症例1と同様の方法で濾過胞内に注入した.翌日になっても房水の漏出は止まらず,アセタゾラミド2錠内服を開始した.その後合計5回ヒーロンRVを濾過胞内に注入したと図1症例1の術後結膜a:細隙灯顕微鏡写真,b:Seidelテスト.ab———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009971(105)ころ,術後約1カ月で漏出は完全に止まった.その後,左眼眼圧は11mmHg前後で推移している.II考按手術既往のある症例に対する線維柱帯切除術では,術後に結膜瘢痕部から房水漏出をきたすことがある2).結膜と強膜の癒着を離するときに術者が気づかないうちに結膜を損傷するものと考えられる.症例1においては術直後の濾過量が少ないときには房水漏出に気づかなかったが,レーザー切糸を行って濾過量が増大したときに結膜からの房水の漏出に気づいた.症例2の結膜は非常に薄く,通常の術式どおりに結膜を縫合したところ,通糸孔から房水の漏出がはじまった.線維柱帯切除術後の濾過胞からの房水漏出に対し,保存的治療としては圧迫眼帯2,3),自己血清点眼2),治療用ソフトコンタクトレンズ装用2,3,6),炭酸脱水酵素阻害薬の内服(房水産生抑制)2,3),交感神経b受容体遮断薬の使用(房水産生抑制)3),アミノ配糖体抗生物質の使用(線維芽細胞の増殖促進)3),生体接着剤の使用3),ステロイド点眼薬の中止2)といった方法がある.また,外科的治療としては漏出部位の結膜の直接縫合2,3),自己結膜/Tenon移植2,3),自己血の結膜下注射2,7),羊膜移植2),濾過胞再建術2)などが報告されている.症例1は,強膜弁上の透明結膜に近い部位から房水が漏出していた.症例2は薄い結膜をもち,通糸部が漏孔になっており,2例とも漏出部を直接縫合することは困難と思われた.2005年にHigashideら1)は強膜弁のすぐ近くに結膜の小さな裂け目が手術中に生じたときに高分子量ヒアルロン酸ナトリウムの高濃度製剤であるヒーロンRVを濾過胞内に注入しておくと,結膜創の修復が速やかに行われて術後の房水漏出を防ぐのに有効であると報告した.そこで今回筆者らは,術中ではなく,術後に生じた房水漏出の治療としてヒーロンRV濾過胞注入を試みた.房水産生抑制薬を併用して複数回の注入を行ったところ房水の漏出はなくなった.房水漏出が止まるメカニズムとしては,高分子量ヒアルロン酸ナトリウムの高濃度製剤であるヒーロンRVが,しばらくの間房水漏出部位にとどまることによって,漏出を一時的にブロックし,その間にヒーロンRVを土台として結膜上皮の再生が促されているのではないかと推測している.同様の効果が得られれば他の粘弾性物質でも可能であるが,Homanら8)は,線維柱帯切除術後に前房が消失した患者の前房内に2種類の粘弾性物質(ビスコートRとヒーロンRV)を注入し,比較している.その結果,ビスコートRを注入した翌日には前房消失して全周で虹彩前癒着を起こしたが,ヒーロンRVを注入すると前房と眼圧が保たれ,虹彩前癒着が解除されたと報告している.Arshinoら9)は,ヒーロンR(1%ヒアルロン酸ナトリウム),ヒーロンRGV(1.4%ヒアルロン酸ナトリウム),ヒーロンRV(2.3%ヒアルロン酸ナトリウム)の3種の粘弾性物質を使用した白内障手術で術後眼圧を比較したところ,術直後では明らかな差はなかったが,術後24時間では濃度の低い粘弾性物質を使用したほうがより低い眼圧となる傾向にあったと報告している.以上のことから,ヒーロンRVが他の粘弾性物質と比較してその場に留まる性質が強く,濾過胞内注入に適していると考えた.今回の2症例においては,ヒーロンRV濾過胞内注入により,眼圧上昇や感染などの合併症を生じることはなかったが,1例は2回,もう1例は合計5回のヒーロンRV濾過胞内注入を必要とした.Wadhwaniら5)はleakingblebに対して外科的治療を試み,いくつかの症例では複数回の手術や多剤点眼による治療が必要となったため,各患者の状態に基づいて治療法を選択すれば良い結果が得られると報告している.ヒーロンRV濾過胞内注入は,手術室で行わなければな図2症例2の術後結膜a:細隙灯顕微鏡写真,b:Seidelテスト.ab———————————————————————-Page4972あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009(106)らない外科的処置に比べれば,比較的簡便に外来でも行える処置であるために,保存的治療が無効の場合,つぎに試みやすい治療であると思われるが,複数回の注入が必要になることがあり,適応症例をみきわめて行う必要があると考えられた.今回の手技において,ヒーロンRVの使用は適応外使用ではあるが,有用性を考慮したうえで,Higashideらの論文を参考にして使用した.今回の症例のように,他の保存療法に抵抗性を示す場合,結膜が非常に薄い,あるいは漏出部位が強膜弁に近く,直接縫合が困難な場合,非常に小さな結膜の裂け目から房水が漏出している場合などは良い適応ではないかと考えた.また,注入後に一旦は漏出が止まったが再度漏出を認める場合には,手技をくり返し行うことで,最終的に漏出を止めることが可能になるケースがあるため,複数回の注入を試みるとよいのではないかと考えた.文献1)HigashideT,TagawaS,SugiyamaK:IntraoperativeHealon5injectionintoblebsforsmallconjunctivalbreakscreatedduringtrabeclectomy.JCataractRefractSurg31:1279-1282,20052)築留英之,生杉謙吾,伊藤邦生ほか:トラベクレクトミー術後早期に難治性の房水漏出をきたした症例の検討.あたらしい眼科24:669-672,20073)木内良明,梶川哲,追中松芳ほか:房水が漏出する濾過胞(Leakingbleb)の再建術.眼科39:667-672,19974)HuCY,MatsuoH,TomitaGetal:Clinicalcharacteristicsandleakageoffunctioningblebsaftertrabeculectomywithmitomycin-Cinprimaryglaucomapatients.Ophthal-mology110:345-352,20035)WadhwaniRA,BellowsAR,HutchinsonBT:Surgicalrepairofleakinglteringblebs.Ophthalmology107:1681-1687,20006)ShohamA,TesslerZ,FinkelmanYetal:Largesoftcon-tactlensesinthemanagementofleakingblebs.CLAOJ26:37-39,20007)LennMM,MosterMR,KatzLJetal:Managementofoverlteringandleakingblebswithautologousbloodinjection.ArchOphthalmol113:1050-1055,19958)HomanRS,FineIH,PackerM:Stabilizationofatante-riorchambaraftertrabeculectomywithHealon5.JCata-ractRefractSurg28:712-714,20029)ArshinoSA,AlbianiDA,Taylor-LaporteJ:IntraocularpressureafterbilateralcataractsurgeryusingHealon,Healon5,andHealonGV.JCataractRefractSurg28:617-625,2002***

日本人健常眼に対する塩化ベンザルコニウム非含有トラボプロスト無作為単盲検単回点眼試験による眼圧下降効果の検討

2009年7月31日 金曜日

———————————————————————-Page1966あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009(00)第19回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科26(7):966968,2009cはじめにトラボプロスト点眼液0.004%は,プロスト系プロスタグランジン系眼圧下降薬として日本を始め世界100カ国以上で承認されている点眼薬である.わが国では海外先行発売のトラバタンR0.004%Rと異なり,防腐剤として塩化ベンザルコニウム(benzalkoniumchloride:BAK)を含有せず,Sof-ZiaRというイオン緩衝系システムを導入したトラバタンズR0.004%点眼液が発売された.BAKは界面活性剤であるため,細胞膜の透過性を亢進させ細胞を破壊することによる抗菌作用をもつ一方,薬剤透過性を亢進する可能性があるため,BAKの有無は薬効に影響することが懸念される.しかし,日本でのトラボプロスト点眼液導入に際し,眼圧下降臨床治〔別刷請求先〕大島博美:〒289-2511千葉県旭市イ1326国保旭中央病院眼科Reprintrequests:HiromiOshima,M.D.,DepartmentofOphthalmology,AsahiCentralHospital,1326iAsahi,Chiba289-2511,JAPAN日本人健常眼に対する塩化ベンザルコニウム非含有トラボプロスト無作為単盲検単回点眼試験による眼圧下降効果の検討大島博美*1新卓也*2相原一*2宮田和典*3*1総合病院国保旭中央病院眼科*2東京大学大学院医学系外科学専攻感覚運動機能医学講座眼科学*3宮田眼科病院EectofSingleDoseofTravoprostBenzalkoniumChloride-Free0.004%onIntraocularPressureinHealthyJapaneseSubjectsbyBlindTestHiromiOshima1),TakuyaAtarashi2),MakotoAihara2)andKazunoriMiyata3)1)DepartmentofOphthalmology,AsahiCentralHospital,2)DepartmentofOphthalmology,UniversityofTokyoGraduateSchoolofMedicine,3)MiyataEyeHospital目的:日本人健常眼における塩化ベンザルコニウム(BAK)非含有イオン緩衝系薬剤SofZiaR含有0.004%トラボプロスト単回点眼による眼圧下降効果を日内変動を考慮して検討した.方法:日本人健常眼30例30眼を対象とし,無作為化単盲検単回点眼比較試験で,連続した2日間で行った.両日とも9時,15時,21時に眼圧を測定し,第2日目の朝9時にトラバタンズR0.004%点眼液を両眼のうち無作為に片眼に点眼した.結果:第1日目の9時,15時,21時の眼圧はそれぞれ15.0±2.3,13.9±2.8,13.0±2.3mmHg(平均±標準偏差)であり,日内変動の影響で夕方にかけて下降した.第2日目同時刻の眼圧はそれぞれ14.2±3.1,10.6±2.1,9.5±2.0mmHg(同上)であり,有意な眼圧下降を示した.眼圧下降率でも,点眼後6時間,12時間で前日同時刻と比べそれぞれ24.2%,26.5%の有意な眼圧下降が得られた.結論:BAK非含有SofZiaR含有トラボプロスト点眼液は,日本人健常眼に対して十分な眼圧下降効果が期待できる.Inatwo-daystudyinvolving30randomlychoseneyesof30healthyJapanese,weexaminedtheeectonintraocularpressure(IOP)oftopicallyadministeredbenzalkoniumchloride(BAK)-freetravoprost0.004%,contain-ingtheionic-bueredpreservativeSofZiaR.Toassessdailyuctuation,IOPwasrecordedat9,15and21hoursonbothdays.BAK-freetravoprost0.004%wasadministeredat9hoursonday2.At9,15and21hoursonday1,IOP15.0±2.3,13.9±2.8and13.0±2.3mmHg(mean±SD);onday2,IOPatthosetimeswas14.2±3.1,10.6±2.1and9.5±2.0mmHg.At6and12hoursaftertravoprostadministration,IOPdecreasedsignicantly,with24.2%and26.5%ofrelativereduction,respectively,composedwiththesametimesonday1.InhealthyJapanesesub-jects,BAK-freetravoprostshowedsucientreductionofIOP.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(7):966968,2009〕Keywords:緑内障,眼圧,日内変動,トラボプロスト,塩化ベンザルコニウム.glaucoma,intraocularpressure,dailyuctuation,travoprost,benzalkoniumchloride.966(100)0910-1810/09/\100/頁/JCOPY———————————————————————-Page2あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009967(101)験では,BAK含有0.004%トラボプロスト(トラバタンR)を用いているため,SofZiaR含有0.004%トラボプロスト(トラバタンズR)の日本人における眼圧下降効果の報告はない.そこで,日本人健常眼における単回点眼による眼圧下降効果を日内変動を考慮して検討した.I対象および方法試験プロトコールは宮田眼科病院における臨床委員会の承認を得て,UMIN(UniversityhospitalMedicalInformationNetwork)臨床登録システムに登録された(登録番号UMIN000001475).本研究は健常成人ボランティアに対し十分な説明を行ったうえで実施された.1.対象日本人健常眼30例30眼,平均年齢は37.7±7.2歳,性別は男性23名,女性7名,等価球面度数は3.4±2.8Dであった.対象の選択基準は,①20歳以上65歳未満,②点眼開始前の眼科的所見に異常がない者,③性別を問わない.また除外基準として,次の各号に定める事項のいずれかに抵触する被検者は除外した.①眼局所または全身の重篤な疾患に罹患しているまたは既往がある者,②眼部手術の既往のある者または試験参加に不適当と考えられる眼部外傷の既往のある者,③試験薬剤,試験薬剤の類薬または試験用薬に対してアレルギーあるいは重大な副作用の既往のある者,④点眼開始1週間前から試験終了時までコンタクトレンズの装用が必要な者,⑤プロスタグランジン関連薬,a作動薬,a遮断薬,b作動薬,b遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬(CAI)点眼薬または経口CAI(ダイアモックスRなど)などの緑内障治療薬を使用している者,⑥全身投与および点眼薬の副腎皮質ステロイドを使用している者,⑦その他,研究者などが対象として不適とした者.2.方法無作為化単盲検単回点眼比較試験で,連続した2日間で行った.一般に眼圧は日中から夕方にかけて下降することが知られており1),同日内で朝1回点眼した後の午後の眼圧下降を評価する場合,日内変動による下降が加わり,眼圧下降を過大評価する可能性がある.したがって,今回は眼圧下降点眼前日の眼圧を測定しておき,点眼日の眼圧と比較することで日内変動を考慮した眼圧下降評価を行うこととした.両日とも9時,15時,21時に眼圧を測定し,2日目の朝9時にトラバタンズR0.004%点眼液を両眼のうち無作為に片眼に点眼した.眼圧は点眼者と異なる同一検者が,同一の細隙灯顕微鏡に装した,同一のGoldmann眼圧計を用いて測定した.3.検討項目主要評価項目は眼圧であり,点眼前日,当日2日間の9時,15時,21時に眼圧を測定し,点眼後0,6,12時間後の測定値と点眼前日同時刻の測定値をpairedt-testにて比較した.また,点眼後6,12時間の眼圧下降率を点眼前日同時刻の眼圧値を用いて,100×(点眼後眼圧値点眼前眼圧値)/点眼前眼圧値(%)より算出した.副次的評価項目は眼局所の安全性評価として角膜びらん,眼瞼の紅斑腫脹,前房内炎症の有無について細隙灯顕微鏡下で検討した.II結果試験期間中の脱落,中止例はなく,30例全員が試験終了した.第1日目の9時,15時,21時の眼圧はそれぞれ15.0±2.3,13.9±2.8,13.0±2.3mmHg(平均±標準偏差)であり,日内変動の影響で夕方にかけて下降した.第2日目の9時,15時,21時すなわちトラバタンズR点眼直前,点眼後6時間,点眼後12時間の眼圧はそれぞれ14.2±3.1,10.6±2.1,9.5±2.0mmHg(平均±標準偏差)であり,著明な眼圧下降を示した(図1).前日の同時刻と比較してトラバタンズR0.004%点眼直前の眼圧は有意差がなかったが,点眼後6時間で平均3.3mmHg(p<0.01),点眼後12時間で平均3.5mmHg(p<0.01)の有意な眼圧下降効果が得られた.眼圧下降率でも,点眼後6時間,12時間で前日同時刻と比べそれぞれ24.2%,26.5%の有意な眼圧下降が得られた(図2).今回の単回点眼では,充血は認められるものの,角膜びらん,眼瞼の紅斑腫脹,前房内炎症は全く認められなかった.図2点眼後時間と眼圧下降率眼圧下降率点眼後時間図1点眼後時間と眼圧眼圧日目点眼日目時点眼*<0.0113.9**トラバタンズ?点眼後の時間(hr)12———————————————————————-Page3968あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009(102)III考按トラボプロストは,先行のラタノプロストと同様のプロスタグランジン(PG)関連眼圧下降薬であり,PGF2aイソプロピルエステル誘導体で,15位の炭素差の水酸基が保存された,いわゆるプロスト系点眼薬に属し,すでに欧米で上市されている.プロスト系点眼薬は正常人および緑内障患者ともに有効な眼圧下降を示し,第一選択薬となっている.トラボプロストとラタノプロストの緑内障および高眼圧症患者を対象にした眼圧下降効果を比較したメタアナリシスの報告2)では,ともに点眼後のトラフ値,ピーク値でラタノプロストが28%,31%,トラボプロストが29%,31%(トラフ値,ピーク値)と同様な眼圧下降を呈することがわかっている.ただし,これらのメタアナリシスの解析に用いられた報告はトラボプロストについてはBAK含有点眼薬であり,最近わが国で発売されたBAK非含有,SofZiaR含有点眼液での報告はない.そこで,今回初めてBAK非含有トラボプロスト0.004%点眼液(トラバタンズR0.004%点眼液)の日本人健常眼に対する単回点眼による眼圧下降効果を,日内変動を考慮し評価した.トラボプロストの開発時に,同じく日本人健常眼に対して米国で行われたBAK含有トラボプロスト朝1回点眼による眼圧下降の推移に関する報告では,12時間で3.8mmHgの最大眼圧下降が得られ,24時間に至るまで持続的な眼圧下降が得られた(トラバタンズRの厚生労働省医薬品審査機構申請概要より).この際のBAK含有トラボプロスト点眼による眼圧下降データは朝の点眼前をベースラインとした眼圧下降の評価であり,日内変動が含まれており,一般に眼圧は夕方にかけて下降することから,この眼圧下降値は,過大評価している可能性がある.その点で,前日同時刻を比較することにより日内変動の影響を抑制した本評価方法はより薬剤単独での眼圧下降効果を反映した評価方法と考える.その結果,BAK非含有トラボプロスト点眼は,点眼後12時間で3.5mmHg(26.9%)の眼圧下降を呈し,前述の3.8mmHgとほぼ同等であることから,BAK含有点眼薬と少なくとも同等の眼圧下降作用がみられたと解釈できた.したがって,防腐剤が変わりBAK非含有となっても,眼圧下降には影響ないと考えられた.また,現在広く用いられているBAK含有ラタノプロストの日本人健常眼に対する眼圧下降効果と比較しても同等な効果が得られた3,4)ことからも,BAK非含有トラボプロストはラタノプロストと同様な眼圧下降効果を有すると思われる.すでに,海外欧米人における原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象とした,BAK含有および非含有トラボプロスト点眼による眼圧下降効果には差がないことが報告されており5),今回,日本人健常人を対象にしたBAK非含有点眼においても,BAK含有点眼薬と同等以上の眼圧下降効果がみられたことから,日本人緑内障患者においてもBAKの有無にかかわらず,トラバタンズR0.004%による眼圧下降効果が期待できる.緑内障患者は点眼薬を長期にわたり多剤併用することが多く,点眼液の主剤のみならず防腐剤を含めた基剤も複雑に影響して眼表面への副作用を惹起しやすい状況におかれていると考えられる.今回の検討は,日本人健常眼に対する単回点眼であり眼表面および前房への評価期間としては短いことから定性的評価しか行わなかった.したがって,最も使用されている防腐剤のBAKやトラバタンズR0.004%に初めて導入されたSofZiaRのようなイオン緩衝系薬剤の眼表面への是非については今後長期点眼試験で十分検討する必要がある.さらに長期的な眼圧下降評価も,健常眼のみならず緑内障患者を対象に,また他剤との組み合わせにより十分に評価することが今後の課題である.文献1)LiuJH,KripkeDF,HomanREetal:Nocturnalelevationofintraocularpressureinyoungadults.InvestOphthalmolVisSci39:2707-2712,19982)vanderValkR,WebersCA,SchoutenJSetal:Intraocu-larpressure-loweringeectsofallcommonlyusedglauco-madrugs:ameta-analysisofrandomizedclinicaltrials.Ophthalmology112:1177-1185,20053)廣石悟朗,廣石雄二郎:ラタノプロスト点眼とイソプロピルウノプロストン点眼による正常人視神経乳頭循環への影響.眼臨100:303-306,20064)南雲日立,萩原直也:ラタノプロスト点眼による夜間の眼血流量と眼圧の変化.臨眼57:483-485,20035)LewisRA,KatzG,WeissMJetal:Travoprost0.004%withandwithoutbenzalconiumchloride:acomparisonofsafetyandecacy.JGlaucoma16:98-103,2007***

GDx VCC 邃「 とCirrus HD-OCT $trade による網膜神経線維層厚の解析―上下視野別の相関について―

2009年7月31日 金曜日

———————————————————————-Page1(95)9610910-1810/09/\100/頁/JCOPY19回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科26(7):961965,2009cはじめに緑内障の臨床現場において,昨今さまざまな緑内障診断補助機器ともいうべき高性能な画像解析装置の登場により,緑内障の診断がより早期に可能となってきている.これは,早期発見,早期治療が重要とされる正常眼圧緑内障が多いわが国1)においては,きわめて有用なことといえる.緑内障画像診断装置は,緑内障が視神経乳頭とその周囲の網膜神経線維層厚(以下,RNFLT)に変化をきたすことに着目したものが〔別刷請求先〕徳田直人:〒216-8511川崎市宮前区菅生2-16-1聖マリアンナ医科大学眼科学教室Reprintrequests:NaotoTokuda,M.D.,DepartmentofOphthalmology,St.MariannaUniversitySchoolofMedicine,2-16-1Sugao,Miyamae-ku,Kawasaki-shi216-8511,JAPANGDxVCCRとCirrusHD-OCTRによる網膜神経線維層厚の解析―上下視野別の相関について―徳田直人井上順上野聰樹聖マリアンナ医科大学眼科学教室AnalysisofRetinalNerveFiberLayerThickness(RNFLT)MeasuredbyGDxVCCRandCirrusHD-OCTR:RNFLTValueCorrelatedwithUpperandLowerVisualFieldNaotoTokuda,JunInoueandSatokiUenoDepartmentofOphthalmology,St.MariannaUniversitySchoolofMedicine目的:GDx-VCCR(GDx)とCirrusHD-OCTR(OCT)による網膜神経線維層厚(RNFLT)の測定値とRNFLT測定部位に相当する部位の視野との相関を検討した.対象および方法:対象は高眼圧症,原発開放隅角緑内障,または正常眼圧緑内障疑いの患者60例60眼(平均51.8歳).Humphrey自動視野計のmeandeviation(MD)と各検査機器で測定したRNFLTとの相関について検討した.またtotaldeviation(TD)を上下に分け,その部分に相当するRNFLTとの相関についても検討した.結果:両機器ともにMDとRNFLT値とは有意な相関を認めた.上下半視野別のTDとRNFLT値については,3D以上の近視群の場合,上半視野ではOCTのほうがより強い相関を示し,下半視野ではGDxのほうがより強い相関を示した.結論:両機器ともにRNFLT測定値とRNFLT測定部位に相当する部位の視野と有意な相関を示すが,屈折度数の違いや乳頭周囲脈絡網膜萎縮の存在がその相関に影響することが示唆された.Thecorrelationbetweenretinalnerveberlayerthickness(RNFLT)values,asmeasuredusingGDx-VCCR(GDx)andCirrusHD-OCTR(OCT),andtheregioninwhichthevaluesweremeasuredwasstudied.Thesubjectscomprised60eyes(averageage:51.8years)withocularhypertension,primaryopen-angleglaucomaorsuspectednormal-tensionglaucoma.Thecorrelationbetweenmeandeviation(MD)asderivedusingaHumphreyeldana-lyzerandtheRNFLTasmeasuredusingeachtestdeviceswasstudied.Inaddition,totaldeviation(TD)wasdivid-edintoupperandlowerelds,andcorrelationwiththeRNFLTvalueoftherespectiveeldwasalsostudied.BothdevicesshowedsignicantcorrelationbetweenMDandRNFLTvalues.RegardingTDandRNFLTvaluesintheupperandlowereldsofvision,inthemyopiagroup(3Dorhigher)OCTshowedmoresignicantcorrelationwiththeuppereldofvision,whileGDxshowedmoresignicantcorrelationwiththelowereld.BothdevicesshowedsignicantcorrelationbetweenRNFLTvalueandthevisualeldoftheregioninwhichthevaluewasmeasured;thissuggeststhatthecorrelationcouldbeaectedbyrefractivepowerorperipapillarychorioretinalatrophy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(7):961965,2009〕Keywords:GDx-VCCR,CirrusHD-OCTR3.0,網膜神経線維層厚(RNFLT),乳頭周囲脈絡網膜萎縮(PPA).CDx-VCCR,CirrusHD-OCTR3.0,retinalnerveberlayerthickness(RNFLT),peripapillarychorioretinalatrophy(PPA).———————————————————————-Page2962あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009(96)多く,代表的なものとして,共焦点走査レーザー眼底鏡:Heidelbergretinatomograph(以下,HRT),走査レーザーポラリメータ:scanninglaserpolarimeter(以下,GDx),光干渉断層計:opticalcoherencetomography(以下,OCT)があげられる.それぞれの緑内障画像診断装置は特徴が異なり,臨床ではその特徴を十分理解したうえで使用することが重要といえる.これらのうち,聖マリアンナ医科大学病院(以下,当院)眼科外来ではGDx-variablecornealcompen-satorR(以下,GDx-VCC)とspectraldomainOCTであるCirrusHD-OCTR3.0(以下,SD-OCT)を使用している.これらの2機種で得られるRNFLTの情報は,視神経乳頭周囲全周の平均のみならず,上方,下方といった具合に部位別の評価も可能である.そこで今回筆者らは,これらのRNFLTの部位別測定値とRNFLT測定部位に相当する部位の視野との相関について検討した.また,わが国での緑内障の危険因子の一つとして近視があげられており2),今日の緑内障診断において屈折異常は無視できない項目とされている.そのため,今回の検討では屈折異常によりこれら2機種がどのような影響を受けるかについても検討した.I対象および方法1.対象対象は平成19年から20年までに当院緑内障外来を受診した,高眼圧症,原発開放隅角緑内障(広義)1),または正常眼圧緑内障疑いの患者60例60眼とした.4ジオプトリー以上の乱視眼,10ジオプトリーよりも強い近視眼,眼底撮影が明瞭に行えない前眼部疾患や中間透光体の混濁を有するもの,内眼手術既往,糖尿病症例,網膜疾患を有するものは対象から除外した.高眼圧症については,緑内障性視神経障害,緑内障性視野障害を有しないものの,最終診察時を含めた過去3回の眼圧平均が21mmHg以上のものと定義した.原発開放隅角緑内障(広義)の定義は,緑内障診療ガイドライン1)に準じ,正常開放隅角であり,視神経乳頭と網膜神経線維層に形態的特徴を有し,それに対応した視野異常を伴い,他の疾患や先天異常を認めないものとした.なお,最終診察時を含めた過去3回の眼圧平均が20mmHg以下で,視神経乳頭所見と網膜神経線維層に特徴的な変化を有するものの,それに対応した視野障害がまだ認められていない症例を正常眼圧緑内障疑いとした.緑内障性視神経乳頭所見は,緑内障外来担当医2名が乳頭立体写真の読影を行い,合議のうえ判定した.緑内障性視野障害の有無についてはHumphrey自動視野計(以下,HFA)の結果をAnderson,Patellaの報告3)を参考にして判定した.全解析対象群の臨床背景を表1に示す.病型は原発開放隅角緑内障(広義)42眼,正常眼圧緑内障疑い8眼,高眼圧症10眼であった.対象の病期はAnder-son,Patellaの報告3)を参考に分類した結果,初期13眼,中期10眼,後期21眼で正常が16眼であった.2.方法HFA,GDx-VCCおよびSD-OCTによるRNFLTの測定,散瞳下での立体眼底撮影のすべての検査を6カ月以内に行った.視野検査はHFAプログラム30-2全点閾値で行った.固視不良,偽陰性,偽陽性のいずれかが20%以上であった症例は除外した.GDx-VCCのソフトウェアバージョンは5.4.1である.同一検者が無散瞳下にて,視神経乳頭から直径3.2mmの乳頭周囲リング部のRNFLTを測定した.画像の品質を示すscore(Q)が8点未満の症例は対象から除外した.今回の解析では,視神経乳頭周囲リング上のRNFLTの平均であるTSNIT平均(以下,GDx-TSNIT),上側120°象限のRNFLの平均である上側平均(以下,GDx-s),下側120°の象限内のRNFLの平均である下側平均(以下,GDx-i)を測定値として用いた.SD-OCTのソフトウェアバージョンは3.0.0.64である.同一検者が散瞳下にてopticdisccube200×200で視神経乳頭から直径3.4mmの同心円上のRNFLTを測定した.Sig-nalstrengthが8点未満の症例は対象から除外した.今回の解析では,視神経乳頭周囲リング上のRNFLTの平均であるaveragethickness(以下,OCT-AT)と,視神経乳頭周囲を90°ごとに上側,下側,耳側,鼻側に分け,その部位のRNFLTの平均値を算出したもの(Quadrants)のうち,上側90°象限のRNFLTの平均値であるQuadrantsの「S」(以下,OCT-s),下側90°象限のRNFLTの平均値であるQuadrantsの「I」(以下,OCT-i)を測定値として用いた.3.検討項目まず,視野全体の感度低下とRNFLT全周の比較を行うために,HFAのmeandeviation(以下,MD値)とGDx-TSNIT,またはSD-OCTのOCT-ATとの相関について,Pearsonの相関係数を求め検討した.つぎにtotaldeviation(以下,TD値)を上下に分けてそれぞれの各測定ポイントの合計を算出し,その合計値を測定ポイント(上下ともに38ポイント)で割った値をそれぞれ上半視野についてはTD-s,下半視野についてはTD-iとし,GDx-VCC,SD-OCTで測定したRNFLTのうち,その視野に相当する部分との相関を検討した.つまり,TD-sについてはGDx-i,OCT-iとの相関を,TD-iについてはGDx-s,表1全解析対象群の臨床背景(n=60)男性/女性22/38年齢(歳)51.4±14.3(2279)等価球面度数(D)3.5±3.5(9.01.0)Meandeviation(dB)6.2±6.5(23.81.8)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009963(97)OCT-sとの相関を検討した.これらの検討を,まずは全対象で行い,その後,対象を等価球面度数により,正視または軽度近視群(等価球面度数:+13未満),中等度近視群(等価球面度数:36未満),強度近視群(6D10D)に分類した解析も行った.検定方法はFisherのrのz変換を用いて解析し,p<0.05をもって有意とした.II結果1.MD値とRNFLT値との相関MD値とGDx-TSNIT,またはOCT-ATとの相関について示す(図1).MD値とGDx-TSNITの相関係数は0.446(p<0.001),MD値とOCT-ATの相関係数は0.670(p<0.0001)とともに有意な相関を認めた.2.上下半視野別のTD値とRNFLT値の相関上下半視野別のTD値の平均と,その部分に相当するRNFLT値をGDx-VCC,SD-OCTのそれぞれで測定した数値との相関を示す(図2,3).TD-sとGDx-iまたはOCT-iの相関係数はそれぞれ0.363(p=0.0041),0.532(p<0.0001)と両群ともに有意な相関を示したが,SD-OCTのほうがより強い相関を示した.TD-iとGDx-sまたはOCT-sの相関係数はそれぞれ0.676(p<0.0001),0.527(p<0.0001)と両群ともに有意な相関を示したが,GDx-VCCのほうがより強い相関を示した.図1MD値とGDx-TSNITまたはOCT-ATの相関(全解析対象群:n=60)MD値とGDxTSNIT,OCT-ATはともに有意な相関を示した.(GDx:R=0.446,p=0.0003,OCT:R=0.670,p<0.0001)02040608010005R=0.446(p=0.0003)020406080100120140160R=0.670(p<0.0001)-25-20-15-10MD値(dB)-505-25-20-15-10MD値(dB)-5OCT-AT(?m)GDx-TSNIT(?m)MD/GDx-TSNITMD/OCT-Av.Thickness02040608010005-25-20-15-10-5020406080100120140160HFA上方TD平均(dB)05-25-20-15-10-5HFA上方TD平均(dB)TD-s/GDx-iGDx-i(?m)OCT-i(?m)TD-s/OCT-iR=0.363(p=0.0041)R=0.532(p<0.0001)図2上半分のTD合計値の平均(TD-s)とGDx-i,OCT-iとの相関(全解析対象群:n=60)TD-sとGDx-i,OCT-iについてともに有意な相関を示したが,OCTのほうがより強い相関を示した.(GDx:R=0.363,p=0.0041,OCT:R=0.532,p<0.0001)———————————————————————-Page4964あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009(98)3.上下半視野別のTD値の平均とRNFLT値の相関―等価球面度数による分類―対象を等価球面度数で分類したうえで解析した,上下半視野別のTD値の平均とRNFLT値の相関について示す(表2).正視または軽度近視群では上下半視野ともにGDx-VCCとSD-OCTそれぞれ同程度に有意な相関を示したが,中等度近視群,強度近視群では上半視野との相関はSD-OCTのほうが強い相関(中等度近視群R=0.864,強度近視群R=0.735)を示し,下半視野に関してはGDx-VCCのほうが強い相関(中等度近視群R=0.880,強度近視群R=0.687)を示した.III考察MD値とRNFLTの相関について,金森ら4)は緑内障同一症例に対しOCT3000,GDx-VCC,HRTにより,RNFLTを測定し,視野所見との相関を検討し,OCT3000とGDx-VCCはほぼ同等の相関を示したと報告している.今回はSD-OCTとGDx-VCCそれぞれの機器で測定したRNFLTとMD値の相関を比較した結果,両機器ともに有意な相関を示したが,相関係数でみるとSD-OCTのほうがより強い相関を示しており,金森らの報告と合わせて考えると,タイムドメイン方式のOCT-3000からスペクトラルドメイン方式のSD-OCTに進化したことにより基本性能が向上していることが窺える.図3下半分のTD合計値の平均(TD-i)とGDx-s,OCT-sとの相関(全解析対象群:n=60)TD-iとGDx-s,OCT-sについてともに有意な相関を示したが,GDxのほうがより強い相関を示した.(GDx:R=0.676,p<0.0001,OCT:R=0.527,p<0.0001)02040608010005-25-20-15-10-5HFA下方TD平均(dB)05-25-20-15-10-5HFA下方TD平均(dB)GDx-s(?m)TD-i/GDx-sTD-i/OCT-s020406080100120140160OCT-s(?m)R=0.527(p<0.0001)R=0.676(p<0.0001)表2等価球面度数別に分類した上下半視野別のTD値とRNFLT値の相関係数等価球面度数による分類TD-s(上半視野)TD-i(下半視野)GDx-iOCT-iGDx-sOCT-s正視R=0.453R=0.534R=0.585R=0.629軽度近視群p=0.0086p=0.0014p=0.0003p<0.0001+13D未満R=0.516R=0.609(n=31)(p=0.0030)(p<0.0001)中等度R=0.623R=0.864R=0.880R=0.475近視群p=0.0391p=0.0002p<0.0001p=0.172136D未満R=0.778R=0.565(n=11)(p=0.0040)(p=0.0420)強度R=0.348R=0.735R=0.687R=0.664近視群p=0.1594p=0.0004p=0.0011p=0.00206D以上R=0.761R=0.711(n=18)(p<0.0001)(p=0.0006)(カッコ内はSD-OCTのRNFLT測定範囲をGDxと同じにした場合の値)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009965(99)今回の対象はAnderson,Patellaの病期分類では後期に分類される症例が約1/3を占めているが,これらについては視野異常が上下どちらかに限局されているものが多く(21眼中11眼),上下視野別にGDx-VCC,SD-OCTでの相関をみることにより,より明確な相関が得られると予想し検討してみた.その結果,GDx-VCCでは,MD値とGDx-TSNITとの相関を検討した結果と比較したところ,上半視野との相関係数は低下したものの,下半視野との相関係数は上昇した.一方,SD-OCTでは,上半視野,下半視野とRNFLTとの相関を,MD値とOCT-ATとの相関を検討した結果と比較すると,相関係数は若干低下したが,ともに有意な相関を示していた.この結果をさらに詳しく分析するために,対象を等価球面度数で3群に分類したものが表2に示した内容である.GDx-VCCでは強度近視群で上半視野との相関は明らかに悪いが,下半視野とはどの群とも比較的よく相関したのに対し,SD-OCTでは上半視野との相関はどの群ともよく相関していたが,下半視野との相関は中等度近視群と強度近視群でGDx-VCCよりも相関が悪いという結果であった.その理由として,まず視神経乳頭周囲のRNFLTの測定範囲が若干異なるということがあげられる.GDx-VCCの上側平均は上側120°象限の平均であるのに対し,SD-OCTのQuadrantsの「S」の部分は90°である.これを補正するために,GDx-VCCにおける右眼の上側平均に対してはSD-OCTのClockhoursの28545°までの120°の平均値を算出する,右眼の下側平均に対してはSD-OCTのClockhoursの135255°までの120°の平均値を算出する,という方法で再度相関を検討した数値がカッコ内の数値である.SD-OCTの補正前の結果では,中等度近視群の下半視野との相関係数がR=0.475(p=0.1721)と低値であったが,補正後はR=0.565(p=0.0420)とより良好な相関を示した.なお,補正後その他の部分では大きな変化を認められなかった.もう一つの理由として考えられるのは乳頭周囲脈絡網膜萎縮(以下,PPA)の存在である.早水ら5)は同一原発開放隅角緑内障患者に対してGDx-VCC,OCT3000,HRTを施行し,視野のパラメータとの相関を示す際に,7D以上の近視眼や傾斜乳頭を除外基準に設けているが,傾斜乳頭を含んだ群と除外した群とでOCT3000,GDx-VCCの相関係数はさほど変わっていないと報告している.今回筆者らはあえて強度近視やPPAが強い傾斜乳頭も含めた検討を行った.それはRNFLTの測定にSD-OCTを使うようになり,GDx-VCCではRNFLTの菲薄化を検出しづらいPPAが存在する症例においても,十分な相関を示すという手応えを感じていたからである.今回の結果ではSD-OCTでは上半視野との相関,つまり乳頭下半分周辺のRNFLTが,GDx-VCCでは下半視野との相関,つまり乳頭上半分周辺のRNFLTが精度高く測定された可能性がある.PPAが存在することによりGDx-VCCの結果に狂いが生じることは既報6,7)のとおりであるが,そもそもPPAは耳側に生じやすいが,強度近視の視神経乳頭は下方に回旋するものが多く,PPAも下方にみられることが多い.大久保も正常眼でPPAが最も大きく,高頻度に観察される場所は,耳側,下耳側の順であると記しており8),GDx-iと上半視野の相関が悪いのはこのためである可能性があり,今後さらに検討が必要である.以上,GDx-VCCとSD-OCTによるRNFLT測定値とRNFLT測定部位に相当する部位の視野との相関について検討した.屈折度数,PPAの存在などの被検眼の特徴を把握したうえでどちらの機種を用いるかを選択することにより,より確実な緑内障診断につながることが期待される.文献1)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン(第2版).日眼会誌110:777-814,20062)MayamaC,SuzukiY,AraieMetal:Myopiaandadvanced-stageopen-angleglaucoma.Ophthalmology109:2072-2077,20023)AndersonDR,PatellaVM:AutomatedStaticPerimetry.2nded,p121-190,Mosby,StLouis,19994)金森章泰,楠原あづさ,辰巳康子ほか:緑内障眼におけるGDx-variablecornealcompensation,光干渉断層計,ハイデルベルグレチナトモグラフによる解析結果ならびに視野障害に対する相関.日眼会誌110:180-187,20065)早水扶公子,山崎芳夫,中神尚子ほか:緑内障眼における網膜神経線維層厚測定値と緑内障性視神経障害との相関.あたらしい眼科23:791-795,20066)富所敦男:スペクトラル・ドメインOCTによる緑内障眼眼底の評価.眼科手術21:185-188,20087)斉藤瞳,富所敦男:GDx・神経線維層撮影.眼科48:1363-1368,20068)大久保真司:乳頭周囲網脈絡膜萎縮(PPA)と脈絡膜萎縮の違いと意味は?あたらしい眼科25:84-86,2008***

閉塞隅角緑内障に対する線維柱帯切開術+超音波乳化吸引水晶体再建術の効果

2009年7月31日 金曜日

———————————————————————-Page1(91)9570910-1810/09/\100/頁/JCOPY19回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科26(7):957960,2009cはじめに原発閉塞隅角緑内障(PACG)は,多治見スタディの日本での有病率は40歳以上の成人の0.6%,原発閉塞隅角症(PAC)も含めると1.3%となる.開放隅角緑内障を含めた全緑内障が5%の有病率で,PACも含めると5.7%となり,その約5分の1程度がPACG,PACで,頻度の少ない疾患とはいえない1,2).急性発作の場合には,レーザー虹彩切開術(LI)あるいは周辺虹彩切除術(PI)が有効な場合が多い.また白内障が存在する場合には,水晶体再建術により前房深度改善,隅角開大,眼圧下降が得られることが報告されている3,4).慢性閉塞隅角緑内障(CACG)は,急性発作と異なり,高眼圧にもかかわらず,角膜は透明で,結膜充血も少なく,自覚症状に乏しいが,持続する高眼圧のため視野異常が進行している例もみられる5).このような周辺虹彩前癒着(PAS)が進行していると考えられる場合には隅角癒着解離術が有用であることが報告されている6,7).水晶体再建術だけでは,〔別刷請求先〕森村浩之:〒664-8533伊丹市車塚3-1公立学校共済組合近畿中央病院眼科Reprintrequests:HiroyukiMorimura,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KinkiCentralHospital,3-1Kurumazuka,Itami,Hyogo664-8533,JAPAN閉塞隅角緑内障に対する線維柱帯切開術+超音波乳化吸引水晶体再建術の効果森村浩之伊藤暁高野豊久高橋愛公立学校共済組合近畿中央病院眼科EfectivenessofTrabeculotomywithPhacoemulsiicationandAspiration+IntraocularLensImplantationforAngle-ClosureGlaucomaHiroyukiMorimura,SatoruItoh,ToyohisaTakanoandAiTakahashiDepartmentofOphthalmology,KinkiCentralHospital目的:閉塞隅角緑内障に対しては,従来はレーザー虹彩切開術,最近では白内障があれば水晶体再建術が推奨されるようになってきている.しかし慢性閉塞隅角緑内障ですでに隅角癒着が進行した例,あるいは視野が進行していてより低い眼圧が目標となる例では,隅角癒着解離術での報告が多いが,線維柱帯切開術も有効であると考えられる.今回水晶体再建術+線維柱帯切開術の眼圧下降効果について検討した.対象:平成15年1月から平成20年5月までに当科において閉塞隅角緑内障に対して線維柱帯切開術+水晶体再建術を行った39例46眼.平均年齢69.6歳.結果:術前眼圧平均24.3mmHgから術後眼圧は1カ月後で平均13.3mmHg,6カ月で12.2mmHg,最終観察時(平均24カ月)で12.2mmHgとなり,有意に下降した.結論:慢性閉塞隅角緑内障で隅角癒着が進行し,眼圧コントロール不良例では,水晶体再建術に線維柱帯切開術を併用することは選択肢の一つとなりうると考えられた.Laseriridotomy(LI)orphacoemulsicationandaspiration+intraocularlensimplantation(PEA+IOL)areusu-allyperformedforthetreatmentofangle-closureglaucoma(ACG).Itisalsoreportedthatgoniosynechialysis(GSL)andPEA+IOLiseectiveforchronicACG(CACG)withperipheralanteriorsynechia(PAS).Inthesameway,trabeculotomyisconsideredeectiveforACGtreatment.WereporttheoutcomeoftrabeculotomyandPEA+IOLforCACGinaretrospectivestudyof46eyesof39patientswhoweretreatedwithtrabeculotomyandPEA+IOLduringa5-yearperiod.Ageatsurgeryaveraged69.6years.Intraocularpressure(IOP)averaged24.3mmHgbeforesurgeryand13.3mmHgat1month,12.2mmHgat6monthsand12.2mmHgat24monthaftersurgery.TrabeculotomyandPEA+IOLisonesurgicaloptionforuncontrolledCACGwithPAS.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(7):957960,2009〕Keywords:線維柱帯切開術,閉塞隅角,緑内障,超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入術,眼圧.trabeculotomy,angle-closure,glaucoma,phacoemulsicationandaspiration+intraocularlensimplantation,intraocularpressure.———————————————————————-Page2958あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009(92)隅角を開放させることがむずかしい場合には,水晶体再建術と隅角癒着解離術(GSL)を併用することにより,より良好な眼圧下降が得られることも報告されている810).一方,流出路再建術である線維柱帯切開術が閉塞隅角緑内障に対して,眼圧下降効果があったとの報告もある11,12).少数例ではあるが,水晶体再建術+線維柱帯切開術+隅角癒着解離術も有効な例が報告されている13).PASの進行したCACGでは隅角を開大させる水晶体再建術,房水流出路再建術であるGSL,線維柱帯切開術は,有効な手術治療法であると考えられる.閉塞隅角緑内障に対する線維柱帯切開術の効果については報告が少なく,評価も定まっていないので,今回筆者らは,CACGに対して,線維柱帯切開術と水晶体超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入術(PEA+IOL)の併用手術を初回手術として行った症例を対象に,その眼圧下降成績の検討を行った.I対象および方法平成15年1月から平成20年4月の間に当科で線維柱帯切開術+PEA+IOLを行い,術後3カ月以上経過観察できたCACG39例46眼,隅角検査において正面位で線維柱帯が観察できず,圧迫隅角検査によりPASが確認でき,立体的眼底検査で緑内障性視神経乳頭変化,Humphrey自動視野計あるいはGoldmann視野計で緑内障性視野異常のみられた症例を対象とした.術前の視野異常の程度は,Hum-phrey視野検査では固視不良,偽陰性,偽陽性の信頼性に欠けるデータもあったため,Goldmann視野検査を湖崎分類で行った.IIaからVaまでで,IIaが4例4眼,IIbが1例1眼,IIIaが25例31眼,IIIbが4例5眼,IVが3例3眼,Va期が2例2眼であった.約80%がIII期の症例であった.全例LI以外に手術治療の既往はなかった.LIが行われていたのは18例21眼あった.術前のPASの割合はテント状PASから95%PASの症例まであり,50%以上のPASがみられたのは28例32眼(70%)であった.内訳は男性11例,女性28例,手術時の平均年齢は69.6歳(4188歳)で,術後平均経過観察期間は24.0カ月(363カ月)であった.術式は全例術前のPASの存在する位置とは無関係に,将来線維柱帯切除術が必要になるかもしれないことを考え上方結膜は温存して,耳下側から二重強膜弁を作製し,同一部位からPEA+IOLを行い,その後に線維柱帯切開術を行った.二重強膜弁の内層弁は切除し,外層弁を房水漏出のないよう縫合,結膜縫合で終了した.術前眼圧は,手術直前3回の平均眼圧値とし,手術後は定期的な眼圧測定,緑内障点眼薬投与を含む検査診療を行った.統計学的解析はt-検定を用いて,危険率1%未満を有意差ありとした.累積生存率をKaplan-Meier法で,カットオフ眼圧を18mmHg,15mmHg,12mmHgとして求めた.エンドポイントの定義は,2回連続して条件眼圧を超えた場合の最初の時点あるいは新たな手術治療を行った時点とした.II結果全症例の術前の平均眼圧は24.3±7.2mmHgで,術後最終観察時眼圧(平均24カ月)は12.2±3.3mmHgとなり,有意に低下した.術後1カ月で13.3mmHg,3カ月で12.4mmHg,6カ月で12.2mmHg,12カ月で12.6mmHg(27眼),18カ月で12.8mmHg(23眼),24カ月で12.8mmHg(22眼)といずれの期間においても術前眼圧と比較して有意に低下していた(図1).術後最終観察時眼圧は720mmHgで,全例20mmHg以下にコントロールされていた.しかし1例は,眼圧は1115mmHgに24カ月間コントロールされていたが,視野の進行がみられたため,さらに眼圧下降を行うために線維柱帯切除術が行われた.15mmHg以下に39眼(85%),12mmHg以下に22眼(48%)がコントロールされた.緑内障点眼薬については,アセタゾラミド内服を2剤として計算し,術前平均薬剤数は2.8±1.2本であったが,術後最終観察時の平均薬剤数は0.8±0.9本と有意に減少し,ア0.05.010.015.020.025.030.035.040.0術前46***********観察期間(月)眼圧(mmHg)4643363127252322224613691215182124最終眼圧24.313.312.412.212.112.612.612.812.312.812.2眼数*p0.001図1全症例の術後平均眼圧経過術眼圧眼圧眼図2PASが50%以上認められた症例の術後平均眼圧経過———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009959(93)セタゾラミド内服症例はなかった.術前のPASの程度と術後最終観察時眼圧との関係は,PASが50%未満の症例では12.5mmHg,50%以上PASが存在した症例では12.1mmHgと両者に有意差はみられなかった.50%以上PASが存在した28例32眼について図1と同様に平均眼圧の推移を図2に示した.全期間にわたり全症例と比較して高くなっていたが,1mmHg以上の差はなく,有意差もみられなかった.今回線維柱帯切開術を行った耳側にPASが存在した症例は25例27眼であり,その術前のPAS率は72.4%であった.手術後は全例で線維柱帯切開部のPASは減少し,10例で線維柱帯切開部のクレフトへのテント状PASがみられた.術後最終観察時の平均PAS率は29.3%となり,有意に減少したが,線維柱帯切開を行っていない部位ではPASは残されていた.Kaplan-Meier法を用いた眼圧コントロール率は,術後2年では,18mmHgをカットオフとした場合は96%,15mmHgでは70%,12mmHgでは39%であった.術後3年の結果は,18mmHgで91%,15mmHgで50%,12mmHgで26%であった(図3).III考按原発閉塞隅角緑内障に対しては,瞳孔ブロックの解除のためLIやPIが推奨されており,白内障の存在する眼では,水晶体再建術も行われている3,4).またGSLが単独で有効であったとの報告もある6,7).しかし,それだけではPASが進行しているため眼圧下降不十分な症例もみられ,GSL+PEA+IOLのほうが眼圧コントロールが有効であったとの報告も多数されている8,9).今回の白内障手術術式と同じであるPEA+IOLとGSLの同時手術も長期にわたり有効であったと報告されている10).GSL単独とGSL+PEA+IOLを比べた場合,年代,施設が異なり単純に比較はできないが,GSL単独では“highteen”となり,GSL+PEA+IOLでは15mmHg前後と単独手術より23mmHg低くコントロールできると考えられる7,10).結膜切開を行わないPEA+IOL+GSLは将来線維柱帯切除術が必要になったときにも無傷の結膜が残存しており,生理的房水流出路を再建する優れた術式である.閉塞隅角緑内障に対する線維柱帯切開術の有効性については,白内障手術を併用しない単独手術を行い,点眼治療も含め21mmHgをカットオフ値とした場合,渡辺らは13眼中12眼(93%),山城らは21眼中20眼(95%)でコントロールできたと報告している11,12).単独手術で比較した場合,山城らは,経過観察期間が線維柱帯切開術では45.3±28.5カ月,GSLでは19.8±19.6カ月と異なるが,同様の条件でのGSLの成功率が74%であると報告しており,単独手術ではGSLより線維柱帯切開術の優位が示唆される.しかし症例数が少なく,両術式間に有意差は認められず,両術式とも閉塞隅角緑内障に対して有効であった12).線維柱帯切開術では,単独手術でもGSLより低くなることが報告されている12).施設・年代が異なり,単純に比較できないが,今回の線維柱帯切開術+PEA+IOLでは平均観察期間が24カ月とまだ短いこともあり12.2mmHgと低値となった.PASが50%以上に認められた症例を選択して検討した場合も図2のように平均観察期間が24カ月と短いが12.1mmHgとなり,全期間にわたり平均眼圧14mmHg以下にコントロールできた.今回線維柱帯切開術を行った耳側に術前PASが認められた症例では,術前PAS率72.4%が術後最終観察時のPAS率が29.3%となっていたことは,GSL+PEA+IOLの成績,術前76.3%,術後24.3%10)と比較すると術前のPASに関しては同程度であったが,術後のPAS率は線維柱帯切開術+PEA+IOLのほうが高値であった.施設,観察期間,症例数が異なり,単純に比較はできないが,術後のPAS率が高率にもかかわらず眼圧は低くなっていることを考えると,線維柱帯切開術+PEA+IOLではPASの開放に加えて,線維柱帯切開の効果が眼圧下降に寄与している可能性が考えられた.これらのことより線維柱帯切開術+PEA+IOLでは,より低い眼圧が期待できると考えられる.開放隅角緑内障に線維柱帯切開術が行われた場合には,術後眼圧は1518mmHgになると報告されている14)ので,閉塞隅角緑内障に対して行う線維柱帯切開術+PEA+IOLは,線維柱帯の機能低下が開放隅角緑内障ほど悪くないと推測され,低い眼圧を達成できたのではないかと考えられる.しかし,線維柱帯切開術+PEA+IOLの場合には,最終的な平均眼圧は12.2mmHgと良好であるが,線維柱帯切除術と異なり,日内変動や季節変動があり,緑内障点眼薬を投与する例が多いため点眼薬投与前の眼圧が高値となることから,Kaplan-Meier法を用いた眼圧コントロール率では,18mmHgをカットオフとした場合は9割以上と良好であるが,15mmHg,120102012mmHg15mmHg18mmHg30観察期間(月)405060眼圧コントロール率(%)0102030405060708090100図3全症例のKaplanMeier法による累積眼圧コントロール率———————————————————————-Page4960あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009(94)mmHgとより低い眼圧をカットオフとした場合にはそれぞれ5070%,30%程度と成績が悪くなった.視野異常が湖崎分類I期のように早期であれば,目標眼圧が“highteen”で,GSL+PEA+IOLは十分に目標眼圧を可能にすることができ,良い術式選択と思われる.湖崎分類III期と中期に視野進行した症例になると,“middleteen”以下の眼圧が目標になると考えられ,PEA+IOL+線維柱帯切開術は眼圧変動,緑内障点眼薬投与の必要性など,常時“lowteen”を維持することはむずかしいという問題もあるが,平均眼圧として“lowteen”にコントロールすることは可能なので,GSL+PEA+IOLに加えて術式選択肢としてよいと考えられる.しかし線維柱帯切開術の場合,結膜切開の必要性,前房出血,一過性眼圧上昇などの合併症などGSLに比べると不利な点もあるため,慎重な手術症例の選択が必要と考えられる.視野変化が非常に進行した湖崎分類V期のような例では10mmHg程度あるいはそれ以下の十分に低い眼圧が目標とされるので,線維柱帯切除術が第一選択として行われるべきであると考えられる.今回,湖崎分類Va期で線維柱帯切開術+PEA+IOLを行った2眼については,1眼は41歳の症例で,若年であったため初回手術で濾過胞形成がためらわれ今回の術式を選んだ.その結果眼圧は1115mmHgとコントロールできたが24カ月の経過観察でさらに視野進行をきたしたため,結果的には線維柱帯切除術を行った.線維柱帯切除術後は48mmHgに下降し,その後2年経過しているが,視野の進行はまだみられていない.初回手術で,線維柱帯切除術を選択する方法もあったのではないかと思われる.もう1眼は67歳の症例で片眼が慢性閉塞隅角緑内障で高眼圧に気づかず失明に至った僚眼で,合併症などの安全性を考え,初回手術として,線維柱帯切開術+PEA+IOLを行った.経過は術後3年であるが,710mmHgで推移しており,視野,視力とも維持できている.PEA+IOL+線維柱帯切開術は,GSLと線維柱帯切除術の間に位置し,術式選択のむずかしい面もあるが,閉塞隅角緑内障手術治療の選択肢の一つとして考えられてよい術式であると思われた.文献1)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-maryopen-angleglaucomainJapanese:theTajimiStudy.Ophthalmology111:1641-1648,20042)YamamotoT,IwaseA,AraieMetal:TheTajimiStudyreport2:prevalenceofprimaryangleclosureandsec-ondaryglaucomainaJapanesepopulation.Ophthalmology112:1661-1669,20053)GunningFP,GleveEL:Lensextractionforuncontrolledangle-closureglaucoma:Long-termfollow-up.JCataractRefractSurg24:1347-1356,19984)HayashiK,HayashiH,NakaoFetal:Changesinanteriorchamberanglewidthanddepthafterintraocularlensimplantationineyeswithglaucoma.Ophthalmology107:698-703,20005)大鳥安正:慢性閉塞隅角緑内障の診断と治療.あたらしい眼科22:1193-1196,20056)CampbellDG,VelaA:Moderngoniosynechialysisforthetreatmentofsynechialangle-closureglaucoma.Ophthal-mology91:1052-1060,19847)永田誠,禰津直久:隅角癒着解離術第1報.臨眼39:707-710,19858)永田誠,禰津直久:隅角癒着解離術第2報.難治性閉塞隅角緑内障に対する隅角癒着解離術と眼内レンズ併用手術.眼臨80:2149-2152,19869)TaniharaH,NishiwakiK,NagataM:Surgicalresultsandcomplicationsofgoniosynechialysis.GraefesArchClinExpOphthalmol230:309-313,199210)安藤雅子,黒田真一郎,永田誠:閉塞隅角緑内障に対する隅角癒着解離術と白内障同時手術の長期経過.眼科手術18:229-233,200511)渡辺則夫,竹内正光,三木弘彦:原発閉塞隅角緑内障に対するトラベクロトミーの長期経過.眼紀48:971-974,199712)山城健児,谷原秀信:原発閉塞隅角緑内障に対する手術成績と術前眼圧変動幅.眼臨91:1161-1164,199713)小松務,横田香奈,松下恵理子ほか:緑内障病型別にみた線維柱帯切開術の成績.臨眼61:1039-1043,200714)寺内博夫,永田誠,松村美代ほか:Trabeculotomypro-spectivestudy(術後10年の成績).あたらしい眼科17:679-682,2000***

正常若年者におけるBlue on Yellow Flicker Perimetryの検討

2009年7月31日 金曜日

———————————————————————-Page1(85)9510910-1810/09/\100/頁/JCOPY19回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科26(7):951955,2009cはじめに近年の視野検査法の進展により,余剰性の少ないKonio-cellular系(K-cell系)を測定するShort-WavelengthAuto-matedPerimetry(SWAP),Magnocellular系(M-cell系)を測定するFlickerPerimetry(FP),FrequencyDoublingTechnology(FDT)などを用いることで,StandardAuto-matedPerimetry(SAP)では検出できない早期の視野異常を検出できるようになってきた.しかし,緑内障の早期には,それぞれの手法を用いても異常部位が異なる症例も報告され,どの経路が先に障害されるのかは必ずしも決まってい〔別刷請求先〕平澤一法:〒228-8555相模原市北里1-15-1北里大学大学院医療系研究科視覚情報科学Reprintrequests:KazunoriHirasawa,C.O.,DepartmentofVisualScience,KitasatoUniversityGraduateSchool,MastersProgramofMedicalScience,1-15-1Kitasato,Sagamihara228-8555,JAPAN正常若年者におけるBlueonYellowFlickerPerimetryの検討平澤一法*1浅川賢*2望月浩志*2柳澤美衣子*2庄司信行*1,2,3*1北里大学大学院医療系研究科視覚情報科学*2北里大学大学院医療系研究科眼科学*3北里大学医療衛生学部視覚機能療法学EvaluationofBlueonYellowFlickerPerimetryinNormalSubjectsKazunoriHirasawa1),KenAsakawa2),HiroshiMochizuki2),MiekoYanagisawa2)andNobuyukiShoji1,2,3)1)DepartmentofVisualScience,KitasatoUniversityGraduateSchool,2)DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversityGraduateSchool,3)DepartmentofOrthopticsandVisualScience,KitasatoUniversity,SchoolofAlliedHealthScience目的:正常者におけるBlueonYellowFlickerPerimetry(B/Y-FP)の検討.対象および方法:正常有志者35名35眼(右眼)に対しOCTOPUS311に内蔵されているBlueonYellowとFlickerを組み合わせたB/Y-FPを施行した.5回視野測定を行い15回目の測定より得られた各パラメータ(平均網膜感度,偽陽性反応,偽陰性反応,検査時間)から学習効果を,35回目の測定より得られた網膜感度から短期変動,個人内変動係数,個人間変動係数を算出し結果の再現性を検討するとともに,部位別の網膜感度を検討した.結果:学習効果を判定するために測定した4つのパラメータは,いずれも5回の測定に統計学的に有意な改善はなかった.再現性は,短期変動3.6±0.7Hz,個人内変動係数11.7±2.1%,個人間変動係数18.7±2.3%であった.部位別の網膜感度を比較すると中心領域よりも周辺領域の網膜感度が良かった(p<0.05).結論:B/Y-FPは中心領域よりも周辺領域の網膜感度がよい傾向だが,結果のばらつきが大きいため複数回測定を行って結果を判断する必要がある.WeconductedBlueonYellowFlickerPerimetry(B/Y-FP)in35normalvolunteers,usingtheOCTOPUS311withBlueonYellowFlicker;eachsubjectunderwentB/Y-FP5timesintherighteye.Weevaluatedthelearningeectbycalculatingmeanretinalsensitivity,falsepositiveresponse,falsenegativeresponseandtestdurationinallsessions;test-retestvariabilitywasevaluatedbycalculatingshort-termuctuation,intra-andinterindividualcoecientobtainedinthelast3sessions,andmeanretinalsensitivityobtainedinlast3sessions.Therewasnosta-tisticallysignicantimprovementinlearningeect.Short-termuctuation,intra-andinterindividualcoecientwere3.6±0.7Hz,11.7±2.1%and18.7±2.3%,respectively.Retinalsensitivityintheperipheralareawasbetterthaninthecentralarea(p<0.05).Becauseofhighvariability,itisnecessarytointerpretthroughmultipleexami-nations.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(7):951955,2009〕Keywords:視野,SWAP,Flicker視野,フリッカー融合頻度,短波長感受性錐体.visualeld,short-wave-lengthautomatedperimetry(SWAP),ickerperimetry,criticalfusionfrequency(CFF),short-wavelengthsensitivecone(S-cone).———————————————————————-Page2952あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009(86)ないことが知られている1).そのため測定経路が違うSWAPとFDTの結果を組み合わせて統計学的に処理することで早期の視野異常を検討するという報告もあり2),両経路を合わせた視野検査の研究が注目されている.今回筆者らは,SWAPとFPの手法を組み合わせ,短波長感受性錐体(S-cone)のフリッカー融合頻度を測定すると考えられるBlueonYellowFlickerPerimetry(B/Y-FP)を用いて正常者における学習効果,再現性および網膜感度を算出し,B/Y-FPの有用性について検討した.I対象および方法対象は,本研究の趣旨を理解し同意の得られた正常有志者35名35眼(男性5名,女性30名)である.平均屈折値3.49±2.75D(+0.759.00D),平均年齢22.0±1.9歳(2028歳),測定は右眼で行った.OCTOPUS311(HAAG-STREIT)に内蔵されているBlueonYellowとFlickerを組み合わせたBlueonYellowFlickerPerimetry(B/Y-FP)の測定によって得られる結果から,学習効果,再現性,網膜感度を調べた.被験者には5回の視野測定を施行し,1回目と2回目は同一日に行い,数日間空けてから3,4,5回目の測定を同一日に行った.また,連続して測定する際には,少なくとも10分以上の休憩をおいて行った.測定プログラムは32,ストラテジーはTendencyOrientedPerimetry(TOP),視標サイズはGold-mannVで測定を行い,検討項目は以下の3つとした.検討1:学習効果35名のうち視野測定の経験がない16名で検討した.5回の測定によって得られた全測定点を平均した平均網膜感度(Hz),偽陽性反応(%),偽陰性反応(%),検査時間(秒)の4項目において,1回目の測定と比べて2回目以降の測定結果に統計学的に有意な改善があった場合を学習効果ありと判定した(Tukey-Kramer法).検討2:再現性35名全員の3回目から5回目の測定によって得られた網膜感度から,測定点ごとの短期変動と変動係数を検討した.短期変動は,3回の測定によって得られた網膜感度の標準偏差とし,全被験者を平均して算出した.変動係数は,変動係数(%)=平均網膜感度の標準偏差(Hz)/平均網膜感度(Hz)×100で算出し,個人内変動係数と個人間変動係数に分けて検討した.個人内変動係数は,3回の測定によって得られた網膜感度を平均した平均網膜感度とその標準偏差から算出される値とし,全被験者を平均して算出した.また,個人間変動係数は,3回の測定によって得られた網膜感度を平均した値を被験者の網膜感度とし,全被験者を平均して得られた平均網膜感度とその標準偏差から算出される値とした.検討3:網膜感度各測定点における網膜感度は,上記検討2より個人内変動係数が10%未満であった35名中12名で検討した.3回目から5回目の測定によって得られた網膜感度を平均し,測定点ごとの網膜感度とした.さらに,測定点ごとの網膜感度を4つの象限ごとに合計し,象限内の測定点数で除して得られた平均値を象限別網膜感度とし(図1a),4つの象限間で比較した(Tukey-Kramer法).また,測定した30°の範囲を中心から3°,9°,15°,21°,27°の領域に分け,それぞれの領域に含まれる測定点ごとの網膜感度を合計し,その領域内の測定点数で除して得られた平均値を領域別網膜感度として(図1b),領域ごとに比較した(Schee法).II結果検討1:学習効果平均網膜感度は1回目から順番に36.7±5.2Hz,35.6±3.0Hz,33.6±4.6Hz,34.8±4.3Hz,34.6±4.4Hz,偽陽性反応は順番に32.3±22.4%,24.3±21.2%,21.9±21.2%,17.6±22.4%,19.2±17.8%,偽陰性反応は5回とも0%,検査時間は1回目から順番に253.1±54.5秒,252.2±69.6第1象限第2象限第4象限第3象限図1a各測定点の分け方(象限別)3°領域(4点)9°領域(12点)15°領域(18点)21°領域(24点)27°領域(16点)図1b各測定点の分け方(領域別)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009953(87)秒,254.9±59.2秒,259.6±60.1秒,248.5±70.0秒であった(表1).どのパラメータにおいても統計学的に有意な改善はみられなかった.検討2:再現性測定点ごとの短期変動は図2に示すとおりで,全測定点を平均した短期変動は3.6±0.7Hz(2.35.9Hz)であった.測定点ごとの個人内変動係数と個人間変動係数は図3に示すとおりで,全測定点を平均した個人内変動係数は11.7±2.1%(6.917.2%),個人間変動係数は18.7±2.3%(13.824.6%)であった.また,個人内変動係数が10%未満であった被験者は35名中12名(約34%)であった.検討3:網膜感度上記結果より個人内変動係数が10%以内であった35名中12名における測定点ごとの網膜感度と,その標準偏差を図4に示す.象限ごとに計算すると第1象限39.2±5.0Hz,第表1各測定における各パラメータの結果(n=16)パラメータ1回目2回目3回目4回目5回目平均網膜感度(Hz)36.7±5.235.6±3.033.6±4.634.8±4.334.6±4.4偽陽性反応(%)32.3±22.424.3±21.221.9±21.217.6±22.419.2±17.8偽陰性反応(%)00000検査時間(秒)253.1±54.5252.2±69.6254.9±59.2259.6±60.1248.5±70.0平均3.6±0.7Hz図2各測定点における短期変動(Hz)(n=36)平均11.7±2.1%図3a各測定点における個人内変動係数(%)(n=36)平均39.2Hz第1象限平均42.0Hz第2象限第3象限平均41.9Hz第4象限平均39.3Hz図4各測定点における平均網膜感度(上段)と標準偏差(下段)(n=12)平均18.7±2.3%図3b各測定点における個人間変動係数(%)(n=36)———————————————————————-Page4954あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009(88)2象限42.0±4.6Hz,第3象限41.9±4.6Hz,第4象限39.3±4.9Hzで,統計学的に有意差は認めなかった.領域別網膜感度は3°,9°,15°,21°,27°それぞれ36.1±5.2Hz,38.2±5.4Hz,41.0±4.8Hz,41.8±4.2Hz,41.7±4.4Hzであり,3°と9°の間に統計学的な感度の差は認めなかったが,15°,21°,27°の感度は3°の感度に比べ有意に良好であった(p<0.05).III考按今回検討したB/Y-FPは,市販されているOCTOPUS311視野計に内蔵された測定方法であるにもかかわらず報告はみられない.しかし,原理のうえからはより早期の緑内障性視野異常を検出することが可能な測定方法ではないかと期待される.そこで筆者らは,臨床に用いる前に確認しておくことが必要な学習効果の有無や再現性などを検討するとともに,測定部位による差がみられるのかどうかを正常者で検討した.検討1の学習効果では平均網膜感度の改善はなく,その他のパラメータにおいても,測定回数を重ねても統計学的に有意な変化はなく,学習効果はなかったと考えられる.しかし,偽陽性反応をみると平均値自体は減少しており,標準偏差が大きかったために統計学的な有意差がみられなかったことがわかる.つまり,学習効果がみられなかった理由としては,各測定間における結果のばらつきが大きかったことが影響している可能性があり,ばらつきを大きくした原因としてS-cone系のフリッカー光に対する時間分解能と,測定に用いたTOPストラテジーの2つの要因が考えられる.S-cone系の性質について,網膜電図を用いて視細胞のフリッカー光に対する反応を記録した報告によると,白色背景に白色フリッカー光を用いた場合およそ40Hzまでは追従できるのに対し,高輝度黄色背景の下で青色フリッカー光を用いた場合S-cone系はおよそ20Hzを超える高時間周波数の刺激に対して正しくフリッカー光を追従できなくなることが知られ,S-cone系は時間分解能が他の視細胞に比べ良くないことが明らかとなっている3).TOPストラテジーについて,TOPは各測定点を4stageに分けて各測定点に対し年齢別正常網膜感度の半分の視標を1回ずつ呈示し,その反応の有無からstageごとに測定点とその隣接点の網膜感度を補間し推定しながら視野計測を行う方法で,stage1では正常網膜感度の4/16,stage2では3/16,stage3では2/16,stage4では1/16が補間される4).今回測定に使用したB/Y-FPの正常値はOCTOPUS311に内蔵されていないため,白色視標を用いるFPの正常値が使用されていた.正常値が公開されていないため正しい数値は明らかではないが,過去の正常者を対象とした報告5,6)から,測定点ごとの平均網膜感度はおよそ2739Hzであり,FPおよびB/Y-FPの各測定点に呈示される視標の周波数は1420Hzであることが予想される.以上より,B/Y-FPでは呈示される視標はFPと同じ1420HzであるためS-cone系が追従できる限界周波数に近く,呈示された視標が点滅していると認識しにくかった可能性も考えられる.その結果,前半のstage1の段階で認識できなかった場合と,後半のstage4で認識できなかった場合とでは推定閾値に大きな差が生じるため結果がばらつき,統計学的には有意差がみられなかったと考えられる.検討2の再現性では,以下のようなことが考えられる.明度識別視野における短期変動,変動係数はSAPに比べSWAPでは大きくなることは過去に報告されている7,8).フリッカー融合頻度を測定するフリッカー視野においても白色視標を使用するFPの短期変動,個人内変動係数,個人間変動係数はそれぞれ,5.1±1.1Hz,6.4±1.5%,11.2±2.8%であるのに対し6),B/Y-FPは3.6±0.7Hz,11.7±2.1%,18.7±2.3%である.FPの短期変動が大きいが,FPは3回の測定における網膜感度の最大値と最小値の差を短期変動としているためで,FPの短期変動の算出方法に合わせてB/Y-FPの短期変動を算出すると7.2±1.2Hzである.S-cone系は余剰性の少なさからか明度識別視野とフリッカー視野においても結果のばらつきが大きい.検討1の考按で述べたように,FPの正常値が使用されたTOPストラテジーを用いたため,本来のTOPストラテジーとしての測定ができなかったこともさらに結果のばらつきを大きくした原因であると言えるが,S-cone系の測定を行う場合は結果のばらつきが大きいため,複数回の測定が必要である.検討3の網膜感度では,白色視標を使用するFPでは6),象限ごとに有意な感度差はなく閾値はおよそ38Hzであり,B/Y-FPにおいても第2,第3象限よりも第1,第4象限の網膜感度が良いが統計学的な有意差はなくFPと同様な結果を示した.また,FPの部位別網膜感度では15°領域を境に中心領域と周辺領域で分けたとき,それぞれ38.8±3.7Hz,38.0±5.0Hzであり,中心領域の網膜感度のほうがわずかであるが統計学的に有意に良好である結果であった6)が,B/Y-FPの結果は中心領域よりも周辺領域の網膜感度が良い傾向を示した.視細胞と神経節細胞の多くは網膜の中心部分に分布し,周辺部分では減少する9,10).しかし全視細胞に対するS-cone,全神経節細胞に対するM-cell系に対応する神経節細胞の比率はそれぞれ増加し1113),M-cell系に対応する神経節細胞の受容野は網膜周辺部では他の神経節細胞に比べ広くなる12,13).その結果,中心領域の感度より周辺領域の感度が良好になったと予想される.今回は複数回の測定を行うため1回の測定に要する時間が被験者の大きな負担となることや,実際の診療においてはTOPがよく用いられることから,TOPストラテジーでの検———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009955(89)討を行った.しかし,FPの正常値を代用したTOPストラテジーをB/Y-FPに用いたため,推定された網膜感度は正しい値とは言いがたい.S-cone系の性質から考える3)と,今回推定された40Hz近い閾値より低いと予想される.再現性に関してもストラテジーを変えると良くなる可能性も考えられ,B/Y-FPの網膜感度も含め,ストラテジーをdynamicまたはnormalに変えての再検討が必要である.TOPストラテジーは明度識別視野に用いられ良好な再現性が認められ14),現在ではFPにも用いられるようになり緑内障患者において高い検出力を示すといった報告がある15).また,最大視標輝度を使用してフリッカー融合頻度を測定するためコントラスト閾値を測定するSWAPよりは中間透光体の影響が少ないこと,理論的にはより早期の緑内障性視野異常を検出することが可能な測定方法ではないかと予想され,B/Y-FPによる初期緑内障のスクリーニングという点では期待が深まる.残念ながら今回の検討では結果のばらつきが大きく,良好な再現性を認めたのは32名中わずか12名(約34%)であったが,反対に34%ではB/Y-FPの評価が可能とも考えられる.今後は,B/Y-FPの正常値の決定とそれに適したストラテジーの選択または改良を行い,臨床上有用な検査方法となるよう検討を行っていく必要があると思われる.文献1)SamplePA,BosworthCF,WeinrebRN:Short-wave-lengthautomatedperimetryandmotionautomatedperim-etryinpatientswithglaucoma.ArchOphthalmol115:1129-1133,19972)HornFK,BrenningA,JunemannAGetal:Glaucomadetectionwithfrequencydoublingperimetryandshort-wavelengthperimetry.JGlaucoma16:363-371,20073)横山実:眼病と青の感覚.臨眼33:111-125,19794)GonzalezdelaRosaM,MartinezA,SanchezMetal:Accuracyoftendency-orientedperimetrywiththeOCTOPUS1-2-3perimeter.InWallM,HeijlA,ed.PerimetryUpdate1996/1997,p119-123,KuglerPubl,GhediniPubl,Amsterdam/NewYork,19975)MatsumotoC,UyamaK,OkuyamaSetal:AutomatedickerperimetryusingtheOCTOPUS1-2-3.InMillsRPed:PerimetryUpdate1992/1993,p435-440,Kugler,Amsterdam/NewYork,19936)BernardiL,CostaVP,ShiromaLO:Flickerperimetryinhealthysubjects:inuenceofageandgender,learningeectandshort-termuctuation.ArqBrasOftalmol70:91-99,20077)WildJM,CubbidgeRP,PaceyIEetal:Statisticalaspectsofthenormalvisualeldinshort-wavelengthautomatedperimetry.InvestOphthalmolVisSci39:54-63,19988)KwonYH,ParkHJ,JapAetal:Test-retestvariabilityofblue-on-yellowperimetryisgreaterthanwhite-on-whiteperimetryinnormalsubjects.AmJOphthalmol126:29-36,19989)CurcioCA,SloanKR,KalinaREetal:Humanphotore-ceptortopography.JCompNeurol292:497-523,199010)CurcioCA,AllenKA:Topographyofganglioncellsinhumanretina.JCompNeurol200:5-25,199011)CurcioCA,AllenKA,SloanKRetal:Distributionandmorphologyofhumanconephotoreceptorsstainedwithanti-blueopsin.JCompNeurol312:610-624,199112)ScheinSJ,MonasterioFM:Mappingofretinalgeniculateneuronsontostriateco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