0910-1810/10/\100/頁/JCOPYむ,涙が出る,まぶしい,眼が乾く,充血する,頭が重い,肩がこるなどを示す1).眼精疲労で起きる症状を部位別に検討すると,眼痛,頭痛,鼻根部の圧迫感などの症状は,主として毛様体筋を持続的に長期間緊張させることによる毛様痛(三叉神経第1枝に由来する)に起因し,その放散痛として前頭神経の分布する前頭部痛,鼻根部の圧迫感が生じると考えられている.眼が乾く症状は眼表面に起因し,そのほか中枢神経系の疲労も眼精疲労に関係すると考えられる(図1).眼精疲労を要因別に検討すると,環境要因(不適切な照明,換気など),眼科的要因(屈折異常,斜位,調節・輻湊の異常など),全身的要因(睡眠不足など)に分けられる.外的な視覚負荷が同じでも,環境要因や眼の要因が悪いと,疲労を起こす内的な視覚負荷は大きくなり,急速が十分とれないと眼疲労が蓄積し,回復しにくい眼精疲労が生じると考えられる.個人により,疲労への耐性は異なる2)(図2).II眼精疲労の評価視覚的な負荷の視機能に対する影響としては,中心フリッカー値の低下3),調節反応量の減少4),調節ラグの増加5),調節のゆらぎの高周波成分の増加3),瞳孔径の減少4),輻湊パターンの変化6)などが報告されている.しかしながら,眼精疲労は自覚的症状であり,個人差が大きいので,明確な基準を設定することは困難である.はじめに近年コンピュータや携帯電話などの電子機器が,世代を問わず生活の必需品になりつつある.これら高輝度,高精細のdisplayを見る場合の視覚負荷は,通常の紙媒体のものを見る作業と比較して大きく,長時間見ていると眼精疲労をきたしやすい.一方昨年から3D(立体)映像が再びブームとなっている.アバターのような映画館で見るものだけではなく,家庭用の立体テレビも発売され始めている.立体映像は,後に述べるように,輻湊と調節の関係が日常視と異なるため,眼精疲労を特にきたしやすい.このような時代背景を踏まえ,屈折矯正の専門家である眼科医は,個人の社会的背景を踏まえて,眼精疲労をきたしにくい屈折矯正を目指す必要がある.本稿では,眼精疲労に関して概説した後,外斜位など眼精疲労をきたしやすい状況に対する対処法について述べる.I眼精疲労とは視作業を行った結果生じる疲労状態を表す言葉として,眼疲労(eyestrain)と眼精疲労(asthenopia)がある.両者を厳密に区別することは困難であるが,一般に,眼疲労は眼が疲れる,眼が重いなどの症状が休息により回復し,翌日まで残ることはない生理的な眼の疲労を表す.眼精疲労は,逆に休息により回復しにくい病的な眼の疲労ということができる.眼精疲労の症状としては,ものがぼやける,眼が痛(49)763*TakashiFujikado:大阪大学大学院医学系研究科医用工学講座感覚機能形成学〔別刷請求先〕不二門尚:〒565-0871吹田市山田丘2-2大阪大学大学院医学系研究科医用工学講座感覚機能形成学特集●屈折矯正における基本あたらしい眼科27(6):763.769,2010眼精疲労に対する対処法TherapeuticStrategyforAsthenopia不二門尚*764あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010(50)に調節が働くのに対して輻湊を通常より多く働かせる必要がある(図3A).立体映像を見た場合のシミュレーションとして,プリズムを基底外方に負荷したときの輻湊角と屈折度の関係について考察した(図3B).プリズムを基底外方に負荷すると光路は基底のほうに曲げられるため,輻湊が余計に誘起され,この関係は飛び出しの立体映像を見た場合に類似している.軽度の屈折異常以外に異常のない健常の被検者17名に対して,半暗室で小児用赤外線オプトメータ(PR-1100,Topcon社)を用いて非優位眼にプリズムを基底外方に負荷し,両眼視した状態で優位眼の屈折値を求めた.結果は図4に示すように,軽度のプリズム負荷では屈折度の近視化は軽度であったが,負荷量視覚的負荷の強い3D映像視聴を例にあげて,眼精疲労時の視機能の変化について述べる3).3D映像は液晶シャッターや偏光フィルターを用いて左右の眼に入る画像を分離し,視差がついた2つの画像を大脳皮質で処理して1つの像として認識することにより立体感を得る方法をとっている.この方法では現実空間と比較して調節と幅湊の関係が異なっており,このことが立体映像を見たときに眼精疲労を感じる一つの要因になると考えられる.現実空間では一定距離にある対象物を見るとき,対象物が両眼で1つに見えるように輻湊運動が起こると同時に対象にピントが合うように調節が働く.一方,飛び出した立体映像を見る場合は,画面上にピントが合うよう眼表面中枢神経系ドライアイ毛様体筋調節不全調節けいれん外斜位不等像視上下斜位3D映像視聴図1眼精疲労の起こる部位厳密な分類はむずかしいが,眼表面に起因するドライアイ,毛様筋の疲労に起因する調節不全,調節けいれん,外斜位など,中枢神経系に関係する不等像視,上下斜位,3D映像視聴などに分けられる.環境要因(照明など)視覚負荷眼疲労眼精疲労(水源)流入量調整バルブ(樽の底面積)流入量調整バルブ放水量疲労回復要因調整バルブ(休息,睡眠など)心的要因(個人の耐える力)水位(疲労レベル)眼科的要因(老視,斜位など)全身的要因(睡眠不足など)図2眼精疲労が起きるメカニズムのシェーマ環境要因,眼科的および全身的要因,疲労回復要因,心的要因が総合的に関係して眼精疲労が起きる.(文献2より改変)(51)あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010765負荷直後,負荷30分後,負荷60分後の瞳孔径および屈折値,調節反応量を,赤外線オプトメータAA-2200(NIDEK)を用いて測定した.が増加するに従い近視化の程度が増加し,個人差が大きくなる傾向があり,眼精疲労の原因となることが推察された.つぎに実際に立体映像を視聴した場合の視覚系のパラメータ変化を検討した.3D映像は2D-3D変換方式で一般のテレビ放送を立体映像としたもの(SANYO)を視聴させた.対象は屈折異常以外は正常の成人118名(平均27歳)で,視聴時間は4時間(間に10分休憩)とし,負荷前,同側性視差AB交差性視差図33D映像における調節と輻湊の関係A:自然視時には調節と輻湊は連動するが,3D映像視聴時には,調節はスクリーン上に固定されるのに対して,引っ込みの映像では輻湊は少なく,飛び出しの映像では輻湊は多く必要になる.B:プリズムを基底外方に付加すると,調節の輻湊の関係が,3D映像の飛び出し映像を見たときと類似の関係になる.-2.502.557.51012.5プリズム負荷(MA)屈折変化Openloop1517.52022.543.532.521.51.50-.5-1図4プリズムを基底外方付加時の,調節の輻湊の関係付加するプリズム値が小さいときには,調節は一定であるが,付加するプリズム値が増加すると,調節が働き,屈折は近視化する.瞳孔径(mm)負荷前負荷直後*負荷30分後*:p<0.0001負荷60分後876543210図53D映像視聴後の瞳孔径の変化視聴前と比較して,視聴直後に瞳孔径は有意に縮小するが,30分後には元に戻る.766あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010(52)III眼科的要因による眼精疲労および対策1.老視加齢とともに調節力が低下するが,それに応じて近見用の眼鏡処方をする必要がある.その際重要なことは,残余調節力を有効に使う必要がある点である.調節力の低下し始めた年齢(45.50歳)の近視の人に対しては,遠見視力が両眼で1.0程度に保てる範囲で度数を下げた眼鏡をまず処方すると違和感が少ない.さらに調節力が低下した場合は,遠近両用の眼鏡が必要になるが,コンピュータを見る時間が長い人に対しては,中近の眼鏡処方が有効である8)(図8).2.外斜視間欠性外斜視で角度が大きい場合は,近くを見る場合アンケート調査では,立体映像視覚直後には「眼が疲れる」のスコアが最も高く(5段階評価で平均3.0点),ついで眼が重い(2.0点),「眼がしょぼしょぼする」(1.9点)であった.一方,瞳孔径は視聴直後,有意(p<0.01)に低下したが,30分後には回復した(図5).屈折度は視聴直後,軽度(0.2D)ではあるが有意(p<0.001)に近視化した.変化は視聴30分後には認められなくなった.また,調節反応量も視聴直後,有意(p<0.05)に低下したが30分後には回復した(図6).これらの結果から,立体映像を見ると眼疲労を生じ,統計学的に有意に屈折系は近視化し,調節系は調節反応量の低下,瞳孔系は縮瞳という形で視覚系に影響が出ることが示された.これらの視覚系の変化は,眼球に対する自律神経系の支配が副交感神経系優位になっていることを示唆しており(図7),以前の報告7)も併せて考えると,立体映像視聴に伴う疲労の他覚的所見と考えられた.p<0.001p<0.05平均±標準誤差-3.4-3.2-3-2.8-2.6-2.4-2.2-25.45.254.84.64.4屈折値(D)調節幅(D)負荷前負荷直後30分後60分後平均±標準誤差負荷前負荷直後30分後60分後AB図63D映像視聴後の屈折値,調節幅の変化A:視聴前と比較して,視聴直後に屈折は有意に近視化するが,30分後には元に戻る.B:視聴前と比較して,視聴直後に調節幅は有意に減少するが,30分後には元に戻る.調節反応量(D)調節安静位調節幅副交感神経作働領域交感神経作働領域調節刺激(D)調節安静位(D)012301.51.50交感SSSPPP副交感図7眼精疲労と交感および副交感神経系屈折の近視化は,調節安静位が近視化することを示しており,これは交感神経系および副交感神経系のバランスが,副交感神経系優位に変化することを示唆している.(53)あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010767遠・近型中・近型調節力1.00D加入度または近用度数2.50DF-EPCenter加入度測定位置020406080100120140160180200Center加入度測定位置遠用度数測定位置+8mm+4mm-4mm-8mm-12mm020406080100120140160180200図8累進多焦点眼鏡と明視の距離調節力1.0Dの老視で,加入度数+2.5Dの眼鏡を装用した場合,遠近両用の眼鏡の場合は,明視の距離は正面視で1m.∞,下方視で20.40cmとなる(上図).これに対して中近両用の眼鏡を装用した場合,明視の距離は正面視で50cm.1m,下方視で20.40cmとなる(下図)のでコンピュータ作業に適している.ABCD図9斜位近視の症例の術前後の瞳孔および屈折A:間欠性外斜視の状態で,右眼の瞳孔6mm,屈折.3.5D.B:正位の状態では,右眼の瞳孔4mm,屈折.4.25Dと斜位近視の状態.C:斜視手術の術後,右眼の瞳孔6.5mm,屈折.3.5Dと斜位近視の状態は改善.D:両眼の瞳孔径と屈折を同時に測定できる装置(PowerRefII).768あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010(54)6.調節けいれん毛様体筋の疲労による調節けいれんは,オートレフラクトメータによる屈折値の変動が一つの目安になる.調節麻痺剤の点眼後に1D以上近視度が軽減すれば,調節けいれんと考えられる.この場合,眠前のミドリンMRの点眼が一般に有効であるが,これが効かない強い調節けいれんの場合は1%サイプレジンTMを20倍に希釈したものや,1%アトロピンTMの点眼を20倍に希釈したものを処方すると有効な場合がある.IV環境要因による眼精疲労および対策長時間コンピュータ作業を行う場合には,照明が重要になる.特に画面に照明光が映り込む状態は,眼精疲労を起こしやすいので避けるべきである.また,コンピュータ作業中は瞬目数が減るので,生理的なドライアイをきたしやすい.したがって空調の吹き出し口からの気流が直接目に当たるような状況は避けるべきである.文献1)厚生労働省安全衛生部労働衛生課編:VDT作業の労働衛生実務:厚生労働省ガイドラインに基づくVDT作業指導者用テキスト.中央労働災害防止協会,平成15年に正位の人に比べて近見時に輻湊努力をする必要がある.両眼視時に近視化する斜位近視の状態になる場合もある.このような場合は斜視手術が有効である(図9).3.輻湊不全近見のみ外斜視になる輻湊不全の症例では,プリズム眼鏡を検討する必要がある.プリズム眼鏡の度数はあまり大きな値にすると,違和感が生じる.通常両眼で4.5プリズム基底外方程度までの処方は可能である.4.上斜位代償不全の上斜位は,融像努力を続けると眼精疲労をきたす.この場合も2.3プリズム程度のプリズム眼鏡の処方が有効な場合がある.プリズムで対応できなければ手術が必要になる.5.不等像視左右眼の不等像視の融像限界は,4.7%であるが,3%程度でも眼精疲労をきたす.特に屈折性の後天性不同視(LASIK[laserinsitukeratomileusis]術後など)で眼精疲労を訴える場合が多い.この場合はコンタクトレンズで,不等像の程度を軽減させる必要がある.10-1-2-3-4-5AB波面センサー波面センサーAccommodation「D]/Vergence[MA]00.511.52Time[sec]2.533.54調節L調節R輻湊図10正常者の屈折の連続測定A:波面センサーによる両眼開放屈折測定のシエーマ.B:正視の被検者が50cmの位置に置かれた指標を注視した場合の屈折.両眼とも1.3D程度の調節を行い,調節ラグは約0.7Dである.赤の波線:右眼の屈折,青の波線:左眼の屈折,緑の波線:輻湊(MA)あたらしい眼科Vol.27,No.6,20107692)中村芳子:VDT作業による眼精疲労.日本の眼科74:863-866,20033)岩崎常人:眼精疲労の測定方法と評価:CFFとAA1.眼科51:387-395,20094)不二門尚:視覚情報処理機構からみた眼精疲労─3D映像視聴の影響を中心に─.あたらしい眼科14:1295-1299,19975)ChaseC,ToshaC,BorstingEetal:VisualdiscomfortandobjectivemeasuresofstaticaccommodationOptomVisSci86:883-889,20096)浅川賢,石川均:調節力障害と眼精疲労.眼科51:409-413,20097)木下茂:第98回日本眼科学会総会宿題報告屈折・調節の基礎と臨床調節障害の病態と治療.日眼会誌98:1256-1268,19948)簗島謙次:中近・近近眼鏡.あたらしい眼科24:1157-1162,2007(55)ABC0-1-2-3-4-5Accommodation「D]/Vergence[MA]Accommodation「D]/Vergence[MA]00.511.52Time[sec]2.533.54調節L調節R輻湊00.511.52Time[sec]2.533.54図11調節けいれんの症例の屈折の連続測定A:40cmの位置に置かれた指標を注視した場合の屈折.2.3Hzの調節の揺らぎが存在し,調節も最大3Dまで行われている.B:オートレフラクトメータによる屈折検査.両眼とも屈折値のばらつきがみられる.C:0.1%のアトロピン点眼治療後の屈折.調節の揺らぎは軽減し,調節も約1.0D(右),1.2D(左)に減弱している.