———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.8,200910810910-1810/09/\100/頁/JCOPYレスベラトロールとはレスベラトロール(resveratrol:RSVT)はポリフェノール類のスチルベノイドに属し,短鎖の共役二重結合と両端のベンゼン環がヒドロキシル基で置換された化学構造(図1)を有する白色の天然物質である.ブドウの皮や赤ワイン,ピーナッツの皮などに多く含まれる.RSVTは1940年にユリ科シュロソウ属のコバイケイソウの根から初めて単離された.植物にはフィトアレキシンという外的ストレスや感染などから生体を防御する物質が存在し,そのうちの一つと考えられていた.RSVTは植物の細菌感染やUV(紫外線)照射により植物中で合成が促進する.植物中ではスチルビンシンターゼという合成酵素によりRSVTが合成されるのだが,その酵素は限られた植物にのみ存在し,その植物中にRSVTが存在する.細菌はRSVTの分解酵素を合成することができるので,長期に細菌感染を生じた植物のRSVT量は低下する.しかし,通常はRSVT合成の速度が分解酵素合成の速度を上回るため,それらの植物は細菌感染を防御することができると考えられている.ただ,フィトアレキシンとして発見当時はあまり注目された物質ではなかった1).古くから脂肪分の過剰摂取が動脈硬化をもたらし,心血管病変をひき起こすといわれてきたが,動物性脂肪をヨーロッパで多く摂取するフランス人にはこれらの病気が少ないことが知られており,この現象は「フレンチ・パラドックス」とよばれてきた.赤ワインにポリフェノールの一種であるレスベラトロールが多く含まれていることがわかり,RSVTを含むポリフェノール類に抗酸化作用があることからその抗酸化作用がワインを多く摂取するフランス人に恩恵をもたらしているのではないかと考えられている2).ポリフェノールは芳香族炭化水素に結合した水酸基を多数分子内にもつ化合物の総称である.その水酸基は酸化還元電位が低く,自身が酸化されることで抗酸化作用を示す.その後RSVTにはシクロオキシゲナーゼを抑制する抗炎症作用が見いだされ,ほかにも血管拡張作用,抗血管新生作用,神経保護作用,抗癌作用,抗加齢作用など多くの生理活性について報告されている3).抗加齢作用2000年にcaloricrestriction(CR;カロリー摂取制限)によりsilencinginformationregulator2(Sir2)という酵素が活性化し,酵母の寿命が延長する抗加齢作用が報告された4).その後Sir2の哺乳類ホモログであるヒトSIRT1によるp53ペプチドのinvitroでの脱アセチル化を定量することにより低分子物質ライブラリーをスクリーニングし,RSVTをはじめとする植物性ポリフェノール化合物がSIRT1活性を亢進し,酵母の寿命を延長させることがわかった.そのなかでも特にRSVTは13.4倍という最も高いSIRT1活性化作用があることがわかった5).RSVT投与による抗加齢作用は酵母,線虫,ショウジョウバエ,魚類で確認されている3).眼科への応用筆者らのグループはぶどう膜炎の動物モデルとして知(75)サプリメントサイエンスセミナー●連載⑫(最終回)監修=坪田一男12.レスベラトロール久保田俊介*1石田晋*2*1慶應義塾大学医学部眼科網膜細胞生物学研究室*2北海道大学大学院医学研究科眼科学分野レスベラトロールはポリフェノールの一種でブドウの皮や赤ワイン,ピーナッツの皮などに多く含まれる.筆者らはレスベラトロールをぶどう膜炎モデル動物に投与し,レスベラトロールの抗炎症効果を示し報告した.レスベラトロールは安全性は高いと考えられ,将来の抗炎症治療の一つとして有望な候補と考えられる.HOOHOH図1レスベラトロールの構造式———————————————————————-Page21082あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009られる,エンドドキシン誘発ぶどう膜炎モデル(EIU)におけるRSVTの治療効果を検討した.C57BL/6JマウスにRSVTを5日間内服投与し,その後リポ多糖類(LPS)を投与後24時間で網膜血管への白血球接着数と網膜・脈絡膜における白血球接着因子(ICAM-1,MCP-1)を測定した.LPS投与3時間後の網膜の酸化ストレス(8-OHdG)と脈絡膜の核内のNF-kBを測定した.その結果,LPS投与24時間後の白血球接着数はRSVT(76)の濃度依存性に抑制されることがわかった(図2).そのメカニズムとして白血球接着因子であるICAM-1,MCP-1はRSVT投与により有意に減少することがわかった(図3).LPS投与3時間後における8-OHdGとNF-kBもRSVT投与により有意に減少することがわかった(図4).抗加齢作用として重要なSIRT1生体内活性が脈絡膜において上昇することを明らかにした(図5).今回の報告により,RSVTは眼における酸化ストレスと炎症を抑制する作用を有することが示唆された(図6)6).後極部網膜中間部網膜周辺部網膜ControlVehicleEIUResveratrol(50mg/kgBW)図2網膜血管への白血球接着数*p<0.05,**p<0.01,NS:有意差なし.矢印は網膜血管内に接着している白血球を示す.〔図2~6は文献6から許可を得て引用〕JControlVehicleResveratrol(mg/kgBW)550100200白血球接着数(cells/retina)EIU***NS**300250200150100500ControlVehicleResveratrol網膜ICAM-1発現量(ng/mgtotalprotein)網膜MCP-1発現量(ng/mgtotalprotein)脈絡膜ICAM-1発現量(ng/mgtotalprotein)脈絡膜MCP-1発現量(ng/mgtotalprotein)EIUControlVehicleResveratrolEIUControlVehicleResveratrolEIUControlVehicleResveratrolEIU*************2520151050605040302010060504030201005004003002001000ABCD図3ICAM1,MCP1の発現量*p<0.05,**p<0.01.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091083(77)1日の摂取レベルと摂取すべきエビデンスレベルRSVTはサプリメントとして多く販売されているが,その最適な摂取量はいまだ不明であるのが現状である.RSVTが多く含まれることで有名な赤ワインには一杯につき約3mgのRSVTが含まれる.ピーナッツには100g当たり約0.1mgのRSVTが含まれる3).RSVTは現在いくつかの臨床応用のための治験が米国にて行われている7).臨床応用としての対象疾患は2型糖尿病,癌,そしてMELAS症候群である.なかでもMELAS症候群に対しては2008年にFDA(米国食品医薬品局)よりorphandrug(希少疾病用医薬品)としての承認が下りており,臨床応用の先駆けとして注目されている.2型糖尿病の患者を対象にした臨床試験では,28日間RSVTを5g経口投与したところ有意に血糖値の効果を得たとのことである.同様の摂取量でほかの治験も行われているため,疾病の治療目的におけるRSVT摂取は用量を考えると食事からの摂取は不可能であり,サプリメントとしての摂取となる.安全性については多くの報告が寄せられているが,明らかな副作用の報告はなく安全性は高いと考えられる.RSVTの眼科的な作用というものはあまり報告が多くなく,まだ不明な点が多い.特に動物実験で使用された報告は数少ない.そのなかでは,RSVTを40mg/kg体重でラットに4日間投与することにより,酸化ストレスが減少し白内障の発生が抑制されたと2006年に報告されている8).筆者らは2009年に,RSVTを50mg/kg体重でマウスに5日間投与することにより,生体内SIRT1を活性化し酸化ストレスと炎症が減少しぶどう膜炎を抑制したと報告した.この量はヒトに換算すると1日2.5~3gとなり,米国で施行されている治験の投与量に近似していて眼科的にも応用できる量といえる.眼科的疾患の多くは酸化ストレスや炎症が関与するものが多い.人間社会も長寿社会となり,それ伴う多くの眼科的加齢性疾患も増加している.この加齢や酸化ストレス,炎症に対する効果をもつRSVTは,疾患の予防的見地から考えても非常に重要と考えられる.現在RSVTの臨床試験は進行中であり,摂取すべきエビデンスレベルはまだどちらともいえないと考えられる.*****網膜8-OHdG発現量(ng/mgtotalDNA)ControlVehicleResveratrolEIUControlVehicleResveratrolEIU302520151050NF-kBp65核内移行量(ng/mgtotalprotein)109876543210AB図48OHdGの発現量(A)とNFkBの核内移行量(B)*p<0.05,**p<0.01.NS***脈絡膜SIRT1体内活性(ofcontrol)ControlVehicleResveratrolEIU11511010510095908580図5SIRT1の成体内活性*p<0.05,**p<0.01,NS:有意差なし.図6RSVTの作用機序———————————————————————-Page41084あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(78)文献1)CucciollaV,BorrielloA,OlivaAetal:Resveratrol:frombasicsciencetotheclinic.CellCycle6:2495-2510,20072)DoreS:Uniquepropertiesofpolyphenolstilbenesinthebrain:morethandirectantioxidantactions;gene/proteinregulatoryactivity.Neurosignals14:61-70,20053)BaurJA,SinclairDA:Therapeuticpotentialofresvera-trol:theinvivoevidence.NatRevDrugDiscov5:493-506,20064)GuarenteL,KenyonC:Geneticpathwaysthatregulateageinginmodelorganisms.Nature408:255-262,20005)HowitzKT,BittermanKJ,CohenHYetal:Smallmole-culeactivatorsofsirtuinsextendSaccharomycescerevisi-aelifespan.Nature425:191-196,20036)KubotaS,KuriharaT,MochimaruHetal:Preventionofocularinammationinendotoxin-induceduveitiswithres-veratrolbyinhibitingoxidativedamageandnuclearfac-tor-kappaBactivation.InvestOphthalmolVisSci50:3512-3519,20097)BoocockDJ,FaustGE,PatelKRetal:PhaseIdoseesca-lationpharmacokineticstudyinhealthyvolunteersofres-veratrol,apotentialcancerchemopreventiveagent.Can-cerEpidemiolBiomarkersPrev16:1246-1252,20078)DoganayS,BorazanM,IrazMetal:Theeectofres-veratrolinexperimentalcataractmodelformedbysodiumselenite.CurrEyeRes31:147-153,2006☆☆☆