———————————————————————- Page 1あたらしい眼科Vol. 26,No. 12,200916610910-1810/09/\100/頁/JCOPY散乱する医療情報インターネットの登場により,医療を受ける患者サイドが医療情報を入手しやすくなり,その結果,自分にあった病院を探したり,自分の病気・治療法について調べたりする時代になりました.アメリカでは,76%の患者が受診する前に Google で病院を検索し,30%の患者が医師の説明よりもインターネット情報を含めた友人などの体験談を信用する,というデータがあります1).Google で「白内障」と検索すると,wikipedia というウェブ百科事典の白内障記事を先頭に,新聞社,製薬メーカーのページがずらりと並びます.ヒットするサイト数は約 234 万件に及び,自分が本当に調べたい情報を引き出せるかどうかは,検索する利用者に依存します.しかし,検索された情報の精度を担保するものは何もありません.白内障のように,一般的な疾患ならさほど問題になることはないでしょうが,「脳腫瘍治療」と検索すると約 162 万件のサイトがヒットしますが,どの情報を信じて行動すればよいのか,インターネット上ではその指針は示されていません.医療知識・ノウハウには言葉にしにくい曖昧なものが多く含まれます.われわれ医療者は,それらを先輩から耳学問などのアナログな方法で引き継いできました.アナログな医行為に対し,医療情報はデジタル化しやすい特徴をもちます.そのため,医学や健康に関する情報がインターネット上に散乱するようになりました.インターネットの特性は繋ぐことにあります.患者が医療情報にアクセスしやすい環境が整い,その結果,患者が医療機関を選ぶ時代になりました.顧客と生産者の優位性が逆転するこの状況は,医療界だけが特別ではなく,「情報革命」という歴史の大きな潮流であることは,前号で紹介しました2).しかし,情報革命のなかにあっても,われわれ医療者は医療情報を上流から発信する義務があります.21 世紀の医療者は,学会の場で医療界に発信するだけでなく,インターネットを使って生活者に発信することが求められます.では,医療界が情報革命に柔軟にかつ主体的に対応するには,具体的に何をすればよいのでしょうか.私は二つの方法がある,と考えます.そのどちらもが,民間の活力を得て事業化できるものと考えます.継続させるためには,医療者の目線だけではなく,事業者の目線が必要です.その二つとは,1) 医療者が,インターネットに散乱する医療情報の格付けをします.2) 医療プロフェッショナル向けの情報を,インターネット上の閉じた空間で共有し,医療者の医療知識の底上げを図ります.今月号では,Google の次の世代の検索エンジンの潮流と,それを応用した医療情報の格付けについて,世界的に斬新な事例を紹介します.次世代の検索エンジンGoogle などに代表される水平型(horizontal)検索エンジンでは,無関係な結果が数多く提示されることがあります.食事,嗜好の類を検索する際はさほど困りませんが,自分自身の健康情報を検索する状況ではどうでしょう.患者サイドから考えてみましょう.ほとんどの場合,医療・健康情報を検索しても,どの情報が有益なのかそのランク付けがなされず,何の助けにもならず強い不安が残ります.インターネット上には優れた情報がありますが,それが十分に整理されておらず,有用な情報が入手できません.この問題を解決するために,Google の次の世代を狙う企業家たちが,懸命になってシステムの開発をしています.今,検索エンジンの進化の方向性は二つあります.一(85)インターネットの眼科応用第11章医療情報の格付け武蔵国弘(Kunihiro Musashi)むさしドリーム眼 科シリーズ⑪———————————————————————- Page 21662あたらしい眼科Vol. 26,No. 12,2009つは,Google が目指している,「人工知能」の方向性と,もう一つは「垂直型検索」といわれるものです.人工知能とは,ユーザーの指向性を判断して,検索すればするほど,よりその人の指向に合わせた検索をする,というものです.それに対し,垂直型検索とは,水平型で検索された情報を格付けして,信用性の高いもの,権威のあるもの,から順に表示します.Google のような水平型検索サービスが百貨店とすれば,垂直型検索サービスは専門店のようなものです.その専門特化型検索サービスの立ち上げラッシュが,2005 年以降,米国では相次いでいます3).医療・健康情報の検索は,このような専門店のような検索エンジンが必要です.近い将来,より洗練されたエンジンが登場するでしょう.医療情報の格付けイスラエルの健康情報サイトを紹介します.iMedixというサイトでは,健康用語を入力すると,その用語に関する情報を検索し,独自の技術で格付けして,利用者に提示します.また,その用語に関連する疾患で悩んでいる会員を紹介し,お互いの情報交換をネット上でできるように広げています.格付けの方法については,明らかになっていませんが,iMedix の最高マーケティング責任者(CMO)イリ・アリマブ氏と最高経営責任者(CEO)のアミール・ライタースドルフ氏は,「健康に関して貴重な経験や知識をもつ人がいても,手早く連絡を取り合うことは困難でした.そこで,患者自らが原動力となり,患者自身に恩恵をもたらすような,健康に特化した検索エンジンを開発しようと決めたのです.」4)と述べています.iMedix には,次世代の健康管理を示唆します.たとえば,「喘息」と検索すると,喘息に関する医療健康情報が格付けされて表示されます.と同時に,喘息で悩んでいる人のコミュニティも表示されます.そのコミュニティ内では,世界中で同じ疾患で悩んでいるメンバーからのコメントが寄せられます.おそらく勇気づけられ,貴重な体験談を聞けるでしょう.本来,このような相談事は地域の開業医が担っており,毎日訪れる老人患者によってサロン化されたなかで情報交換が行われていたと考えられます.しかし,このような相談相手,サロンがリアルな臨床の現場からインターネット上へと移行する(86)動きを感じます.その動きは,情報革命の潮流であり,遠隔医療へ人々の意識が動くきっかけとなるでしょう.遠隔医療には三つの形態があることは以前にも紹介しました.医師-医師間の遠隔医療,医師-患者間の遠隔医療に加えて,もう一つの形態が「患者同士のコミュニティ支援」です.インターネットを有効に使うことで,患者同士が横に繋がって,医療リテラシーを向上させています.このような新しい遠隔医療の形態も,日本の医療界にじわじわ波及するでしょう.インターネットの登場とそれに続く情報革命によって,患者の医療リテラシーが格段に向上しています.われわれ医療者は,垣根を越えて医療情報を共有しないと情報革命に飲み込まれてしまいます.医療情報を扱うプロフェッショナル同士で,医療情報を共有できる場所を有効活用する必要があります.【追記】NPO 法人 MVC(http://mvc-japan.org)では,医療というアナログな行為と眼科という職人的な業を,インターネットでどう補完するか,さまざまな試みを実践中です.MVC の活動に興味をもっていただきましたら,k.musashi@mvc-japan.org までご連絡ください.MVC-online からの招待メールを送らせていただきます.先生方とシェアされた情報が日本の医療水準の向上に寄与する,と信じています.文献 1) 中尾彰宏:第 3 回日本遠隔医療学会 WEB 医療分科会「遠隔医療における WEB の役割」,2009 2) 武蔵国宏:インターネットがもたらす医師-患者関係.あたらしい眼科 26:1513-1514, 2009 3) http://weblogs.nikkeibp.jp/mediawatch/2005/04/post_ 403c.html 4) http://web-tan.forum.impressrd.jp/e/2008/04/08/2934図 1iMedixのホームページ