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硝子体手術のワンポイントアドバイス 85.糖尿病網膜症の硝子体手術時に形成される網膜格子状変性関連の医原性裂孔(初級編)

2010年6月30日 水曜日

あたらしい眼科Vol.27,No.6,20107950910-1810/10/\100/頁/JCOPYはじめに網膜格子状変性巣は日本人の5.7%に存在するとされており,近視眼に多い傾向がある.一方,硝子体手術の対象となる増殖糖尿病網膜症(PDR)の大半の症例は正視眼あるいは軽度の近視眼であることが多く,網膜格子状変性巣の存在する頻度は少ないと考えられる.PDRの硝子体手術中に形成される医原性裂孔は,大半が増殖膜や異常な網膜硝子体癒着の処理時に形成されるが,まれに網膜格子状変性巣に起因する医原性裂孔を形成することがある(図1).●網膜格子状変性巣に起因する医原性裂孔の発生率と症例の特徴筆者らの過去の報告では,PDR連続症例287眼のうち,5例7眼(2.4%)に硝子体手術中に網膜格子状変性巣に起因する医原性裂孔が生じた1).裂孔形成部位は上耳側が4眼,下耳側が2眼,上鼻側が1眼で,上耳側に多かった.これは,一般的な網膜格子状変性巣の存在部位とほぼ一致していた.屈折は正視眼4眼,近視眼3眼であった.この7眼には以下のような特徴があった.1)線維血管性増殖膜は眼底後極部に限局していた.2)増殖膜の周辺側は全周にわたって後部硝子体.離が生じていた.3)いずれも後部硝子体.離を周辺部に拡大する際に医原性裂孔が生じた.●硝子体手術時の注意点このように,PDRの硝子体手術でも,網膜格子状変性巣に起因する医原性裂孔の危険性を常に念頭に置きながら,周辺部の硝子体切除を施行する必要がある.今回の症例は増殖膜が後極部に限局しており,その周辺部は後部硝子体.離が生じているので,PDRとしては比較的硝子体手術が容易な症例である.このような症例では(81)ついつい周辺部の硝子体処理の際に注意力が散漫になってしまうことがあるので,強膜圧迫やワイドビューイングシステムなどを利用して,周辺部の状態を詳細にチェックし,裂孔を認めた場合には確実に眼内光凝固(網膜.離を併発したときはガスタンポナーデも)を施行しておく必要がある(図2).また,1眼に網膜格子状変性巣を有する症例では,他眼にも同様の象限に変性が存在することが多いので,その点も念頭において手術を施行する必要がある.文献1)澤浩,池田恒彦,小室青ほか:糖尿病網膜症の硝子体手術時に形成された網膜格子状変性巣に起因する医原性裂孔.臨眼52:191-195,1998硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載85糖尿病網膜症の硝子体手術時に形成される網膜格子状変性関連の医原性裂孔(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科図1網膜格子状変性巣に起因する医原性裂孔強膜圧迫を併用した周辺部硝子体処理時に網膜格子状変性巣辺縁に医原性裂孔を確認した.図2網膜格子状変性巣周囲に対する眼内光凝固ライトガイドをコンタクトレンズの上から照らし,強膜圧迫を行いながら網膜格子状変性巣周囲に眼内光凝固を施行している.

眼科医のための先端医療 114.加齢黄班変性の新たな治療戦略に向けて

2010年6月30日 水曜日

あたらしい眼科Vol.27,No.6,20107910910-1810/10/\100/頁/JCOPY加齢黄斑変性病巣組織からみえること加齢黄斑変性は,高齢者の黄斑部に生じる疾患です.滲出型と非滲出型に分類され,滲出型では新生血管が感覚網膜下あるいは網膜色素上皮下に発生し,急激な視力低下や中心暗点,変視を自覚します.加齢黄斑変性の分子メカニズムは,完全に解明されてはいませんが,遺伝子変異,酸化ストレス,喫煙などの因子が相互に影響し合いながら発症,進展していくと考えられています.ヒト加齢黄斑変性病巣(脈絡膜新生血管)を摘出し,組織観察を行うと,血管内皮増殖因子(vascularendotherialgrowthfactor:VEGF),マクロファージの集積がみられます(図1)1).現在の加齢黄斑変性治療の中心を抗VEGF療法が担っていることを考えると,つぎの治療戦略のターゲットがマクロファージになる可能性は十分にあると思われます.マクロファージは何をしているのか?マクロファージの加齢黄斑変性の病態への関与は,1990年代から提唱されています.しかしながら,なぜ脈絡膜新生血管にマクロファージが集積するかということは不明でした.他疾患を見渡すと,加齢黄斑変性と同様に加齢とともに発症が増加し,病巣にマクロファージが集積する疾患に動脈硬化があります.動脈硬化のマクロファージは,酸化脂質(酸化LDL)を貪食していることがわかっています2).では,加齢黄斑変性病巣のマク(77)◆シリーズ第114回◆眼科医のための先端医療監修=坂本泰二山下英俊鈴木三保子瓶井資弘(大阪大学大学院医学系研究科眼科学)加齢黄斑変性の新たな治療戦略に向けてmacrophage図1加齢黄斑変性患者の摘出脈絡膜新生血管マクロファージの集積がみられる(赤:マクロファージ).図2加齢黄斑変性患者の摘出脈絡膜新生血管左:マクロファージに酸化リン脂質を認識するscavengerreceptorが発現〔緑:マクロファージ(CD68),赤:scavengerreceptor(LOX-1)〕.右:酸化リン脂質が存在する(矢頭)(赤:酸化リン脂質).CD68LOX-1…………792あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010ロファージは,何をしているのか?筆者らは,加齢黄斑変性病巣に集積しているマクロファージには,酸化リン脂質を認識するscavengerreceptorが発現していて,かつ,酸化リン脂質が加齢黄斑変性病巣に存在していることを確認しました(図2)3).それでは,酸化リン脂質はどこからきているのか?という疑問がでてきます.筆者らは米国のドナーバンクの正常ヒト眼を用いて実験を行い,ヒト網膜において酸化リン脂質はおもに視細胞外節に存在し,それは加齢とともに増加すること,正常眼と加齢黄斑変性眼を比較すると,同年齢にもかかわらず,加齢黄斑変性眼の視細胞外節にはより多くの酸化リン脂質が含まれるという結果を得ました(図3)4).この結果から以下の流れが推測されます.ヒト網膜において,リン脂質が最も多く含まれる部位は,畳積した細胞膜構造をもつ視細胞外節であり,そこに何らかの酸化ストレスが加わり,酸化リン脂質になることが予想されます.加齢黄斑変性病巣のマクロファージは,この酸化リン脂質をターゲットにしている可能性があると考えられるのです.加齢黄斑変性の新たな治療戦略に向けて―抗炎症薬と抗酸化薬の可能性―現在の加齢黄斑変性に対する治療法としては,おもに抗VEGF療法,光線力学的療法があげられますが,残念ながら複数回の治療を要するなど課題が多いのが現状です.今回紹介した筆者らの研究は,慢性炎症につながる可能性のあるマクロファージが治療のターゲットとなる可能性を示唆したものとなります.そして,そのマクロファージが酸化リン脂質という酸化物質を標的としているということは,この酸化リン脂質の生成を阻止することも新たな治療戦略として考えられるということになります.今後,抗炎症薬,抗酸化薬という切り口から新しいアプローチが期待されます.文献1)GrossniklausHE,LingJX,WallaceTMetal:Macrophageandretinalpigmentepitheliumexpressionofangiogeniccytokinesinchoroidalneovascularization.MolecularVision8:119-126,20022)BochkovVN,PhilippovaM,OskolkovaOetal:Oxidizedphospholipidsstimulateangiogenesisviaautocrinemechanisms,implicatinganovelroleforlipidoxidationintheevolutionofatheroscleroticlesions.CircRes99:900-908,20063)KameiM,YonedaK,KumeNetal:Scavengerreceptorsforoxidizedlipoproteininage-relatedmaculardegeneration.InvestOphthalmolVisSci48:1801-1807,20074)Suzuki,M,KameiM,ItabeHetal:Oxidizedphospholipidsinthemaculaincreasewithageandineyeswithagerelatedmaculardegeneration.MolecularVision13:772-778,2007(78)POSPOS図3正常眼(左:75歳)と加齢黄斑変性眼(右:70歳)の視細胞外節加齢黄斑変性眼には酸化リン脂質(赤)が多く存在する.■「加齢黄斑変性の新たな治療戦略に向けて」を読んで■今回は大阪大学眼科の鈴木三保子先生,瓶井資弘先生による加齢黄斑変性の病態についての研究のご紹介です.加齢黄斑変性は,その臨床所見と診断・治療戦略は,画像診断の研究を推進してきた多くの日本人研究者が世界をリードしています.黄斑下血管新生の分子(79)あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010793病態の全体像はまだ解明されていませんが,病態の基礎研究においても,病理組織学的な研究,疾患モデルを用いての分子病理学的な研究,そして遺伝子レベルでのリスク因子の解明と病態の研究など,わが国の多くのトップ研究者はこの分野の研究で世界的な業績をあげて病態解明に大きな貢献をしています.治療として血管内皮増殖因子(VEGF)の作用を抑制することにより加齢黄斑変性に治療効果がみられることから,黄斑下血管新生の分子病態に重要な働きをしている因子の一つとしてVEGFが確認されています.しかし,黄斑下に血管新生をひき起こすほどVEGFの作用が過剰になるのはなぜか?まだ明確な答えはありません.炎症のメカニズムが加齢黄斑変性に関連している可能性が考えられますが,細胞生物学レベルでマクロファージの関与,そのマクロファージが酸化リン脂質という酸化物質を標的として活性化されていることなどが瓶井資弘先生の研究グループにより明らかにされつつあります.本来,血管のない網膜の下,網膜色素上皮の上のスペースに血管新生をひき起こすにはいくつものステップの病的な状態が積み重なること,それが長期にわたるゆっくりとした変化として起こることが臨床的にみられる加齢黄斑変性ですが,この考えでみれば不思議な病態を説明するためには複雑な生命現象の解明が必要になりそうです.関与する細胞を同定し,その機能異常,その関与する炎症や創傷治癒といった大きな流れを明らかにしていくことは,このような複雑な病態を解きほぐすのに本当に有効と考えられます.鈴木先生,瓶井先生が本総説のなかで述べておられるように,病態の解明は新しい発想での治療薬の開発につながります.臨床に導入された上記の抗VEGF薬は有効ではありますが,現時点では完璧な治療法ではありません.なによりも血管新生を抑制し病態の進展抑制の効果はありますが,発症の予防(一次予防),軽症例の進展の予防(二次予防)には適応できません.これからの高度高齢化社会を目前にし,ますます加齢黄斑変性患者数が激増することが予想される現在,血管新生をひき起こす前段階としての病態の解明,それに伴う予防薬,治療薬の開発には大きな期待がかかっています.山形大学医学部眼科山下英俊☆☆☆

新しい治療と検査シリーズ 196.瞬目解析

2010年6月30日 水曜日

あたらしい眼科Vol.27,No.6,20107890910-1810/10/\100/頁/JCOPYIVSは画像の取得から,画像処理,信号出力までを1msec単位で行うことが可能である.本装置では232×232画素を8bitで部分読み出しすることにより1msecのサンプリング時間での50秒間計測を実現している.BlinkTracerは,録画動画,上眼瞼の縦位置と移動速度の時間変化,各瞬目の諸情報で構成されており,各情報は再生時刻で同期されている.上眼瞼位置は画像の輝度情報から算出しており,水平方向への射影輝度総和の最大値と最小値から適宜決定している.上眼瞼新しい治療と検査シリーズ(75).バックグラウンド瞬目には,反射性瞬目,随意性瞬目,自発性瞬目の3つがある.反射性瞬目とは異物が目に入らないように防御したり,急な物音や光などによって驚いたときに反射性に生じる瞬目であり,随意性瞬目とは意識的に閉じたり,検者の合図に合わせて閉じる瞬目である.自発性瞬目は上記2種類の瞬目のように瞬目をひき起こす外的要因が特定できないにもかかわらず生じる瞬目であり,最も多い瞬目である.近年,自発性瞬目が視覚情報処理や認知過程,さらには被検者の心理状態,疲労度などと深いかかわりをもつことが明らかになってきた1,2).しかし,これまでの瞬目計測は,侵襲的であったり,非侵襲的であっても計測速度に制約があり100.200mm秒程度で生じる瞬目を正確に計測することが困難であった..新しい検査法今回紹介する新しい瞬目検査は,1kHzの計測性能をもつインテリジェントビジョンシステム(IVS)を搭載した瞬目高速解析装置を用いて行う3).装置の構成概略を図1に示す.瞬目高速解析装置は,視標部,照明部,IVS,XYZ軸稼動台,パソコン,計測ソフト,瞬目高速解析ソフト(BlinkTracer)から構成されている.196.瞬目解析プレゼンテーション:木村直子渡辺彰英京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学コメント:三村治兵庫医科大学眼科学教室…………………………………………………………図2瞬目高速解析装置外観IVSカメラを搭載した計測ユニットとデータ処理用パソコンから成る.被検者は顎台に顔を乗せるだけでよく,非侵襲的に計測できる.図1瞬目高速解析装置の概略IVSカメラは画像の取得から画像処理,信号出力までを1msec単位で行う.790あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010の移動速度は上眼瞼の縦位置の1次微分で算出され,瞬目を構成する上眼瞼下降相と上眼瞼上昇相における瞼の動きをそれぞれ独立した閉瞼瞬目と開瞼瞬目として算出する.上眼瞼の速さが10mm/secを上回っている区間を瞬目区間とし,その区間を瞬目時間,その区間中の最大速度をその瞬目の最大速度,その区間の上眼瞼の移動量を瞬目の深さとして抽出している.上眼瞼の速度の符号が正ならば開瞼時の瞬目情報とし,負ならば閉瞼時の瞬目情報とした.算出した瞬目特徴量は一覧表として画面およびファイルに出力できる..使用法装置の外観を図2に示す.被検者には図2のように顎台に顔を乗せ,装置内に見える緑色LED(発光ダイオード)光を指標として自然にみつめるよう指示をする.測定時間は任意に決めることができ,1回の測定当たり最長50秒まで測定できる.撮影画像は「再生」,「巻き戻し」,「コマ送り」が可能で各瞬目における上眼瞼の動きを詳細に観察することができる.さらに,測定で得られた画像からBlinkTracerを用いて,瞬目最大速度,所要時間,上眼瞼移動量,閉瞼期間などを算出することができる..本方法の良い点本装置には,測定に特別な環境を必要としない,測定時間が短い,年齢を問わず測定可能などの利点があるが,何よりも非侵襲的であることは,自発性瞬目を測定するうえで重要であると考えられる.また,1kHzと高精度に瞬目情報を取得できることで,今までは捉えられなかった上眼瞼の不規則な動きや不完全な瞬目についても検討することが可能となった4).文献1)浅田博,水谷充良,山口雅彦ほか:自発性瞬目における後頭皮質視覚活動の脳磁図による解析.神眼20:49-55,20032)CaffierPP,ErdmannU,UllspergerP:Thespontaneouseye-blinkassleepinessindicatorinpatientswithobstructivesleepapnoeasyndrome─apilotstudy.SleepMed6:155-162,20043)鈴木一隆,豊田晴義:インテリジェントビジョンシステム(IVS)を用いた高速・高精度眼球運動計測装置の開発と評価.映情学誌61:1774-1778,20074)中村芳子,松田淳平,鈴木一隆ほか:瞬目高速解析装置を用いた自発性瞬目の測定.日眼会誌112:1059-1067,2008(76)マの画像を記録し,さらに自動解析できるソフトを備えたものである.おそらくそのデータはメガやギガのレベルではなく,テラの情報量であろう.著者らのドライアイやVDT症候群,眼精疲労などでの瞬目異常の判定だけでなく,眼瞼けいれんや眼筋無力症などの神経眼科疾患を扱っている私たちにとっても興味津々の器械である.願わくば,廉価版の装置が市販され,多くの施設でVDT症候群,眼精疲労,眼瞼けいれんなどに簡単に利用できることを望みたい.これまで眼球運動の解析に比べて,眼瞼運動(瞬目)の解析は非常に遅れていた.これは眼球運動を角膜反射や網膜の常存電位,さらには磁場や画像を利用して,EOG(眼球電図)や光電素子法,強膜サーチコイル,ビデオなど多種類の方法で記録できるのに対して,眼瞼運動は肉眼的観察やせいぜい毎秒30コマのビデオ撮影しかなかったためである.しかし,そのようななかでも眼瞼けいれんの瞬目異常の報告がみられている.今回の瞬目解析はさらに詳細な毎秒1,000コ■本方法に対するコメント■☆☆☆

緑内障:緑内障と視神経先天異常の鑑別

2010年6月30日 水曜日

あたらしい眼科Vol.27,No.6,20107870910-1810/10/\100/頁/JCOPY●上方視神経部分低形成と緑内障視神経の先天異常のなかで,古典的な視神経低形成(opticnervehypoplasia)は,小児の視力障害の原因疾患の一つとして,明らかな小乳頭と高度な視力・視野障害で診断される.本症は,視神経乳頭所見が緑内障とは明らかな差異があり,緑内障と鑑別に迷うことはない.その一方で,上方視神経部分低形成(superiorsegmentalopticnervehypoplasia:SSOH)が,緑内障の鑑別疾患として最近注目されている.SSOHは,視神経乳頭の形態がさまざまで,小乳頭や乳頭上部低形成(toplessdisc)だけでなく,著明な視神経乳頭陥凹拡大を示すものがある.わが国では正常眼圧緑内障(normaltensionglaucoma:NTG)の有病率の高さから,乳頭陥凹と視野異常の検出が日常診療や検診で重要となったが,その結果としてこれまであまり注目されなかったSSOHも発見される機会が多くなり,NTGとの鑑別が問題になる場面も多くなった.●視神経低形成と乳頭低形成まず,視神経低形成(opticnervehypoplasia)と,乳頭低形成(opticdischypoplasia)は異なる疾患単位であることを明確にする必要がある.すなわち,前者は視神経軸索が生来欠落し,その部が視野検査で視野欠損として検出される,いわば「先天視野欠損」である.一方,後者は検眼鏡的に乳頭の形成不全(小乳頭など)として観察される.両者は合併することも,単独で起こることもある.さらに,「上方視神経部分低形成(SSOH)」と「乳頭上部低形成toplessdisc」とは異なる疾患単位であることも明確にしておきたい.前者は上部の視神経軸索が生来欠落しているが,視神経・黄斑線維に異常がないために視力は良好であり,下方視野欠損として検出される.それに対して後者は乳頭の発生異常であり,眼底検査から乳頭面の上部が部分的に形成不全にみえる.両者は合併することも単独で起こることもある.●SSOHSSOHでは,実際には検眼鏡的視神経乳頭所見はさまざまであり,小乳頭のことも,偽乳頭浮腫のことも,乳頭陥凹拡大を伴うことも,網膜血管入口部が偏位することもある.つぎに,SSOHでは,乳頭の周囲に橙色のリングが認められることが多く,二重リングに見えることから,「ダブルリングサイン(doubleringsign)」と名づけられている(図1).このリングの外周は,強膜と乳頭篩状板との境であり,内周すなわち,乳頭部との境まで網膜・色素上皮が存在することが病理で示されている.このdoubleringsignは,SSOHではおおむね視野(73)●連載120緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄山本哲也120.緑内障と視神経先天異常の鑑別阿部春樹高木峰夫新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野(眼科学)上方視神経部分低形成(SSOH)では,乳頭鼻上側のrimの菲薄化と網膜神経線維層欠損(NFLD),そしてダブルリングサインを認め,視野は耳下側周辺からMariotte盲点に向かう楔状視野欠損を認めることが多い.緑内障では耳上(下)側のrim菲薄化とNFLDを認め,これに対応する鼻下(上)側に視野変化を認める点が,臨床的な鑑別点である.やはりDoubleringsignNFLD図1上方視神経部分低形成の眼底写真とGoldmann視野(左眼)上鼻側rimの菲薄化,上鼻側のNFLD(橙色の矢印)そしてdoubleringsign(黄色の破線矢印)を認める.788あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010欠損に対応する方向に部分的に認められる.SSOHを疑う眼底所見としては,視神経乳頭の上鼻側rimの菲薄化と上鼻側の網膜神経線維層欠損(retinalnervefiberlayerdefect:NFLD)そしてdoubleringsignの存在である(図2).また,SSOHを疑う視野所見としては,下方から盲点へ向かう楔状視野欠損の存在である(図3).当科で経験した下方楔状視野欠損を呈した41例47眼(32±16歳)の,視神経乳頭所見と網膜神経線維層所見を図4に示す.一番頻度の多い所見は,鼻上側のNFLDで,100%に認められた.二番目に多い所見は,doubleringsignで66.0%,三番目が鼻上側のrim菲薄化で42.6%,ついで網膜血管入口部の上方偏位が31.9%,耳側コーヌス21.3%,小乳頭19.1%,乳頭傾斜9.0%,偽乳頭浮腫8.0%,乳頭上部蒼白2.1%であった(図4).●SSOHと緑内障の鑑別SSOHは小乳頭やtoplessdiscだけでなく,乳頭陥凹が著明なものがある.わが国ではNTGの有病率の高さから,乳頭陥凹と視野異常の検出が,日常の眼科診療や検診で重要となったが,その結果,これまであまり注目されなかったSSOHも発見される機会が多くなり,(74)NTGとの鑑別が問題になる場面も多くなった.両者の鑑別のポイントは,緑内障では初期には耳上側あるいは耳下側のrimの菲薄化・NFLDを呈するのとは対照的に,SSOHの乳頭所見は,乳頭鼻上側方向のrimの菲薄化とNFLDを呈する傾向がある.さらに乳頭鼻上側に不完全なdoubleringsignを認めることが多い.視野もSSOHでは耳下側周辺からMariotte盲点に向かう楔状視野欠損が特徴的であるが,緑内障では鼻下(上)側に視野変化を認め,horizontalsplitに伴う鼻側階段を認める.ただし,臨床所見のみで先天性の視野欠損であると断定するには,10年程度の長期の経過観察のうえで,視野の悪化進行がみられないことを確認する必要がある.●マネージメントについてSSOHは先天性の視野欠損であり,非進行性と考えられる.しかし,まれにSSOHと緑内障の合併例がある.SSOHに緑内障を合併すると,元来視神経線維の数が少ないことから重症化のリスクが懸念される.したがって,失明の恐怖を与えないように気をつけながら,長期にわたる経過観察が必要である.文献1)高木峰夫,阿部春樹:視神経部分低形成の概念.神経眼科24:379-388,20072)YamamotoT,SatoM,IwaseA:SuperiorsegmentaloptichypoplasiafoundinTajimiEyeHealthCareProjectparticipants.JpnJOphthalmol48:578-583,20043)TakagiM,AbeH,HataseTetal:Superiorsegmentalopticnervehypoplasiainyouth.JpnJOphthalmol52:468-474,2008..①視神経乳頭上鼻側のNFLDDoubleringsign上鼻側rimの菲薄化……②視野….盲点へ向かう楔状視野欠損盲点と接するが軽症では非連続的……020406080100小乳頭入口部上方偏位Doubleringsign乳頭上部蒼白鼻上側rim菲薄化鼻上側NFLD乳頭傾斜耳側コーヌス偽乳頭浮腫頻度(%)図4当科のSSOHの眼底所見当科が経験したSSOH41例47眼(32±16歳)の眼底所見の出現頻度を示した.一番頻度の多い所見は,鼻上側のNFLDで100%に認められた.図2上方視神経部分低形成を疑う眼底所見図3上方視神経部分低形成を疑う視野所見

屈折矯正手術:老視用角膜インレー

2010年6月30日 水曜日

あたらしい眼科Vol.27,No.6,20107850910-1810/10/\100/頁/JCOPY老視に対する手術的なアプローチにはさまざまな方法が考案されている.CK(condutivekeratoplasty),多焦点眼内レンズ,モノビジョンLASIK(laserinsitukeratomileusis)などである.Qualityofvisionの概念は,単に屈折異常を矯正するのみならず,加齢変化である老視をも克服する方向に広がっている.今後,活動的な高齢者が多くなる状況において,老視に対しての手術的なオプションがあることは好ましいことであろう.今回,紹介する老視用角膜インレー(AcuFocus社製KAMRAR,以下インレー)は,ピンホール効果を利用することにより,遠方と近方の視力をともに確保しようとするものであり,今までにはない斬新なアイデアである1).手術を行うためには,フェムトセカンドレーザーが必要である点も,新世代の手術であることを実感させる.●概要と原理インレーの外観は図1のごとくである.外径は3.8mmで中心の1.6mmが中空になっている.厚みは5μmと薄い.黒い着色部には約8,400個の微孔が空けられており,角膜実質内におけるグルコースなどの代謝を妨げないように考慮されている.インレーを挿入した症例の前眼部写真を図2に示す.原理は,ピンホール効果による焦点深度の延長である.入射光の径を絞ることにより,焦点付近での明視域を拡大しようとするものである.原理の簡単な模式図を図3に示す.(71)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載121監修=木下茂大橋裕一坪田一男121.老視用角膜インレー荒井宏幸みなとみらいアイクリニック老視に対する新しい手術的なアプローチが始まった.角膜インレーにピンホール効果をもたせて,遠方視力を犠牲にすることなく近方視力を確保しようとするものである.手術手技の原理は容易であるが,インレーの扱いやセンタリングには熟練を要する.今後の老視矯正手術の新しいオプションとなる可能性がある.図2インレー挿入眼の前眼部写真老視用角膜インレーソフトコンタクトレンズ図1AcuFocus社製KAMRAR(左)の外観①②図3ピンホール効果による明視域の拡大の模式図通常の状態①に比べ,ピンホールによる焦点深度の延長により明視域が拡大している②.786あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010●手術の方法インレーを単独で行うか,同時にLASIKを行い屈折異常を矯正した後にインレーを留置するかの2通りの方法がある.①インレーを単独で行う方法:フェムトセカンドレーザーにて角膜上皮側から220μmの場所にポケットを作製し,インレーを留置する.正視眼に対してはこの方法を選択する.一見簡単そうに思われるが,インレー自体が非常に薄いため,ポケット内で周辺部が翻転しやすく,非常にに繊細な操作が必要である(図4-a).②同時にLASIKを行う方法:角膜フラップの厚みを200μmに設定し,型式どおりにLASIKを行う.インレーの準備をして,フラップを再度翻転し,瞳孔中心を見きわめて角膜ベット上にインレーを置きフラップを戻す.インレーの黒色部に隠れて瞳孔縁が確認できないため,正確に瞳孔中心に留置することが非常にむずかしい.必要に応じて位置を修正する(図4-b).インレーは非優位眼に対してのみ行う.上記の2通りのどちらの方法にせよ,角膜の中間層に留置するため,角膜厚が十分になければならない.特にLASIKを同時に行う場合には,残存角膜ベット厚に対して慎重な計算を行わなければならない.ただ,老視矯正を希望する方は,遠視の割合が比較的多く,中心部をあまり切除しない照射パターンであることが多い.●考察および今後の展望当院における症例数は,まだ十数例であるため,統計的な結果を提示できないが,代表的なケースを図5に示す.この老視用インレーの特徴は,遠方視力を損なうことなく,近方視力を確保する点にある.目標とするのは,あくまでも日常生活において近用眼鏡を使用する頻度を低下させることであり,長時間のデスクワークや洋裁などの際には眼鏡が必要になる可能性がある.遠方視力は良いので,CKやモノビジョンLASIKよりも両眼での遠方視における違和感は少ない.ただし,瞳孔領にインレーを留置するため,グレアやハローを誘起する可能性はある.どうしても見え方に違和感が残る場合には,インレーを抜去することも可能であるが,幸い当院ではまだ抜去例はない.手術手技のむずかしさもあるが,この手術において最もむずかしいのは症例の選択である.術後にどのようなライフスタイルを希望されているかを,よく見きわめたうえで適応を判断しなければならない.多焦点眼内レンズでも同様であるが,「老眼の克服」という言葉には非常に魅力的なイメージがあり,希望者の期待度はときとして手術の最大限の効果を凌駕している.現時点では,完全に調節機能を回復させる手段がない以上,ある程度の効果までしか得られない旨を,術前に丁寧に説明しなければならない.筆者の印象としては,40歳代以上に対するLASIKや,眼内レンズ眼(単焦点)におけるtouchupの際などに,また近方視力をある程度確保したい場合に,非常に有効な手段ではないかと考えている.今後の長期的な経過のなかで,角膜の状態とともに視機能の変化や脳の適応なども踏まえて慎重な観察が必要と思われる.文献1)YilmazOF,SukruBayaraktarS,AgcaAetal:Intracornealinlayforthesurgicalcorrectionofpresbyopia.JCataractRefractSurg34:1921-1927,2008(72)〔症例〕54歳,男性.優位眼右眼.術前視力VD=1.5(better×sph+0.25D(cyl.0.50DAx180°)VS=0.5(1.2×sph+0.50D(cyl.1.50DAx10°)VDnear=0.1(1.0×+2.75D(cyl.0.50DAx180°)VSnear=0.2(1.0×+3.25D(cyl.1.50DAx10°)左眼に対してLASIKと同時にインレー手術を施行術後10日目VS=1.5(n.c.)VSnear=0.8p図5インレーにより近方視力が獲得できた症例LASIKによる遠方視力の改善とともに,インレーにより近方視力も改善している.ab図4インレーを留置する2つの方法のシェーマa:角膜内にポケットを作製し留置する.b:LASIKの角膜フラップ下に留置する.

多焦点眼内レンズ:多焦点眼内レンズの全距離視力

2010年6月30日 水曜日

あたらしい眼科Vol.27,No.6,20107830910-1810/10/\100/頁/JCOPY遠見から近見までの各距離の視力を調べる器械として,全距離視力計(KOWAAS-15)がある.あくまでもシミュレーションする器械であるが,いろいろな多焦点レンズを挿入した場合の各距離の視力曲線を表すことができるので,その特徴が理解しやすい.また,一定の照度条件下で測定できるという利点もある.しかも,片眼と両眼視力の双方を測ることができるので便利である.図1は,Alconの回折型レンズであるReSTORR+4D(透明のSA60D3と着色のSN6AD3)の遠方矯正下の全距離視力を,単焦点レンズ(SA60AT)と比較した図である.このレンズの近見加入度数は4ジオプトリー(D)で,眼鏡面に換算すると約3.2Dなので,近見は0.3mの読書距離に焦点を合わせている.全距離視力曲線をみると,予想どおり0.3mにおける視力の平均が,単焦点レンズに比べて,有意に良好であることがわかる1).その他の距離では,単焦点レンズと差はなく,0.5mの中間距離における視力が悪い.そのため,コンピュータや家事など中間距離で行う作業がむずかしいことは容易に想像できる.また,透明レンズと着色レンズでは,すべての距離の視力に差がない.中間距離が見やすいように,近見加入度数を3Dと低くしたのが,ReSTORR+3D(SN6AD1)である.このレンズの加入度数は眼鏡面では2.4Dになるので,0.4.0.5mに焦点が合うようになっている.全距離視力でみると,ReSTORR+3Dは,やはり0.5mにおける視力が,ReSTORR+4Dに比べて有意に良い(図2).一方,0.3mの近見視力は,ReSTORR+4Dのほうが有意に良好である.そして遠見から0.7m程度の中間距離の視力には差がない.このように,2つのレンズは近見視力の最適距離が異なるので,これらを挿入する場合には,その患者の生活パターンによって使い分ける必要がある.たとえば,コンピュータなどの中間距離作業をする比較的若年の患者にはReSTORR+3Dが向いているし,高齢者にはかなり細かいものまで見えるReSTORR+4Dのほうが適している.あるいは,2つのレンズをそれぞれ片眼ずつに入れる選択肢もある.屈折型レンズも,最近は加入度数を軽くして,中間距離視力を改善しようという傾向である.HOYAの新しい屈折型レンズであるSFXMV1は,加入度数が2.25D(69)●連載⑥多焦点眼内レンズセミナー監修=ビッセン宮島弘子6.多焦点眼内レンズの全距離視力林研林眼科病院遠見から近見の視力をシミュレーションして調べる器械として,全距離視力計(KOWAAS-15)がある.この器械を用いると,多焦点レンズ挿入眼の各距離の視力曲線が描ける.そのため,さまざまな多焦点レンズの特徴が理解しやすい.また,それぞれの患者がどのように見えているかもわかるので,臨床でも便利な器械である.距離(m)0.31.2510.80.60.40.200.50.71.02.03.05.0∞小数視力*有意差あり†有意差なしp<0.0001*p=0.1518†p=0.1244†p=0.3422†p=0.6394†p=0.8504†p=0.1559†p=0.0646†:透明レンズ(SA60D3):着色レンズ(SN60D3):単焦点レンズ(SA60AT)図1回折型多焦点レンズ(AlconReSTORR+4D)と単焦点レンズの遠方矯正下の全距離視力の比較ReSTORR+4D挿入眼の近見視力は,単焦点レンズに比べて有意に良好である.784あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010であり,眼鏡面に換算すると1.8Dである.理論上0.56mに焦点を合わせており,完全に中間距離用のレンズと考えられる.実際に,このレンズの全距離視力をみると,多焦点レンズ特有の遠・近の二峰性の視力曲線をとらず,遠見からなだらかに近見へと視力が低下する(図3)2).0.3mの近見視力の平均は0.4程度であり,新聞の字がようやく見えるぐらいである.ただし,0.5.1.0mにかけての中間距離の視力は良好で,中間距離作業に適している.単焦点レンズと比べると,近見から中間距離の視力を改善したような感じであり,通常の多焦点レンズとはかなり異なったものであることがわかる.多焦点レンズというより,中間から近見を改善した付加価値レンズとみなしたほうがよいかもしれない.ただし,コントラスト感度の低下も軽いので,広く誰にでも使いやす(70)いレンズではないかという印象である.このように,全距離視力計で視力曲線を調べると,そのレンズの特徴が一見してわかりやすい.全距離視力計は現在市販されていないが,今後多焦点レンズが普及すれば,有用な検査器械と思われる.文献1)HayashiK,MasumotoM,HayashiH:All-distancevisualacuityineyeswithanontintedorayellow-tinteddiffractivemultifocalintraocularlens.JpnJOphthalmol53:100-106,20092)HayashiK,YoshidaM,HayashiH:All-distancevisualacuityandcontrastvisualacuityineyeswitharefractivemultifocalintraocularlenswithminimaladdedpower.Ophthalmology116:401-408,2009☆☆☆図2ReSTORR+4DとReSTORR+3Dの遠方矯正下の全距離視力の比較ReSTORR+3Dは,0.5mにおける視力が,ReSTORR+4Dに比べて有意に良いが,0.3mの近見視力は,ReSTORR+4Dのほうが有意に良好である.距離(m)0.31.21.00.80.60.40.200.50.71.02.03.05.0∞小数視力*有意差ありp<0.0004*p<0.0001*p=0.1939p=0.4785p=0.4859p=0.3328p=0.6282p=0.2487:ReSTORR3DIOL(SN6AD1):ReSTORR4DIOL(SA60D3andSN60D3)図3加入度数の低い屈折型多焦点レンズ(HOYASFXMV1)と単焦点レンズの遠方矯正下の全距離視力の比較HOYASFXMV1挿入眼の全距離視力は,多焦点レンズ特有の遠・近の二峰性の視力曲線をとらず,遠見からなだらかに近見へと視力が低下する.0.3mの近見と0.5mの中間距離視力は,SFXMV1のほうが,単焦点レンズに比べて有意に良好である.距離(m)0.31.21.11.00.80.70.90.60.50.40.30.20.100.50.71.02.03.05.0小数視力*有意差あり†有意差なしp<0.0001*p=0.0015*p=0.7799†p=0.1661†p=0.1848†p=0.3242†p=0.3559†p=0.8419†:多焦点レンズ(SFXMV1-C,SFXMV1-Y):単焦点(VA60BBR,YA60BBR)

眼内レンズ:スパイラルカット法による眼内レンズ摘出法

2010年6月30日 水曜日

あたらしい眼科Vol.27,No.6,20107810910-1810/10/\100/頁/JCOPY眼内レンズ(IOL)挿入の切開創は年々縮小の傾向にあり,乱視を極力惹起しないような白内障手術が浸透しつつある.一方,小切開からの挿入に伴いIOLが破損したまま挿入されてしまう場合や,破.時やCCC(continuouscurvilinearcapsulorrhexis)が不完全な症例にIOLが挿入され,後に著しく偏位したり硝子体内に落下しかける症例などではIOLの摘出・交換が余儀なくされることがある.このようなIOLの摘出や交換時に現在行われている標準的な摘出法は,1)IOLを前房内で折り曲げる方法,2)IOLを半分に切断し摘出する方法,3)中央まで切断が済んだらIOLを回転させ90°離れた位置で同様にIOLを中央まで切断し,扇型の断片と残りの3/4片を回転させながら摘出する方法,などであるが,これらの方法では摘出に必要な創口は3mm強となり,現在広く普及している2.4mmの創口からは摘出不能である1).本稿で紹介する方法は,IOLをらせん状に連続的に切(67)断する方法で,2.4mmから摘出可能である.今回この切断法を「スパイラルカット法」と名づけた.IOL摘出のための切断手技は以下のとおりである.1).内に固定されているIOLに対しては,粘弾性物質を用いて完全に.外に脱臼させる.すでに.外にあるIOLに対しては,粘弾性物質内で前房内に浮かせた状態にする.2)ハプティクスが両側とも残っているIOLでは片方のハプティクスを創口から眼外に引き出し,光学部との接合部で切り落とす(図1).3)つぎに前房内でIOLを180°回転させ,反対側のハプティクスを同じように創口から引き出し,鑷子で軽く引っ張りながらVannas剪刀,前.剪刀など先端の細い剪刀で創口よりわずかに内側でIOLの光学部を外周に沿うようにらせん状に切断する(図2,3).ここで使用する剪刀は先端が細く弯曲しているものが推奨される.4)最初に把持したハプティクスを徐々に斜め右手前郡司久人東京慈恵会医科大学眼科眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎286.スパイラルカット法による眼内レンズ摘出法現在,白内障手術で最も使用されているフォーダブル眼内レンズ(IOL)は2.4mm前後の切開創から挿入されるが,やむを得ない理由で摘出する際には4mm近い切開から摘出されている.スパイラルカット法は光学径6mm以上のIOLでも2.4mm切開から無理なく摘出できる小切開手術に有用なテクニックである.図1スパイラルカット法のイメージ(1).内から前房内にIOLを導き,IOLの片方のハプティクスを光学部ぎりぎりで切断する.図2スパイラルカット法のイメージ(2)反対側のハプティクスを眼外より引き出しながらIOLを外周に沿ったらせん状に連続的に切断する.方向に引き出しながら,眼内でハサミを左奥方向に向け,光学部を少しずつらせん状に切断するとIOLは蚊取線香のような渦巻き形状となって最終的に眼外に摘出される(図4).本法で最も多い失敗は,切断中のひも状になったIOL片が光学部から分離してしまうことである.これを避けるためのコツは極端に細い幅での切断を避けることと,眼外からIOLを引き出す際に強く引き過ぎないことである.ゆっくりとIOLを眼内で回転させ,切断の際にハサミをこまめに動かし切断を進めると,IOLは蚊取線香状に一塊となって眼外に摘出される.本法は,従来の方法に比べ切断ストロークが小さく,創口の近くでの作業になるため手技そのものは単純である.外周かららせん状に切断するため中心部の切断を避けることになり,従来の切断法に比してレンズの挙動は安定する.さらに切断の幅を調整することで2.4mm以下の創からの摘出も可能であり,しかも連続的に摘出することで破.例でも切断中のIOLの破片の落下の心配をせずに摘出が可能であるという点でも優れた方法であると思われる.本法は現在国内で販売されているすべてのアクリル製IOLに応用可能であるが,3ピース構造をもつIOLでは多少の工夫が必要である.文献1)黒坂大二郎:IOL交換.術中,術直後,数年後.眼科インストラクションコースNo.18眼科診療のスキルアップ,白内障・小児・ぶどう膜炎編,p63-68,メジカルビュー社,2009図3IOL摘出法の実例(1)実際の症例でIOLを引き出しながららせん状に切断している.切断には先端の曲がった前.剪刀を使用.図4IOL摘出法の実例(2)中心部まで切断を続けるとIOLは2.4mmの創口から一塊になって摘出され,切断されたIOLはらせん状の形状となる.

コンタクトレンズ:私のコンタクトレンズ選択法 ボシュロム・ジャパン株式会社 ボシュロム メダリスト プレミア<乱視用>

2010年6月30日 水曜日

あたらしい眼科Vol.27,No.6,20107790910-1810/10/\100/頁/JCOPYコンタクトレンズ装用による酸素不足を改善するため,製造メーカーは酸素透過係数(Dk)の高い素材を研究,開発してきた.従来素材のソフトコンタクトレンズ(SCL)に比べてシリコーンを含有したシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(SHCL)のDk値は飛躍的に向上したことで,眼に対する安全性の面から,多くの眼科医がSHCLを処方するようになった.通常の球面SHCLの装用では乱視のために良好な矯正視力が得られていない場合があったが,トーリックSHCLが提供されて,多くの乱視の患者がその恩恵を受けるようになった.ボシュロムメダリストプレミア<乱視用>の製品概要を表1に示す1).本レンズは終日装用を目的とした2週間頻回交換タイプである.本レンズの素材はbalafilconAであるが,SHCLのなかではやや硬めである(図1).軟らかい従来素材のSCLを装用している者が本レンズを使用すると違和感を訴えることがあり,装用に慣れを必要とする場合がある.一方,軟らかいSCLやSHCLの装用者ではレンズに破損や傷,変形があったり,レンズ下に小さな異物が迷入していてもそれらに気づかない場合や,角膜障害を生じていてもそれを自覚しない場合がある.本レンズのようにやや硬めのSHCLではこうした所見に気づくことが多くなると考える.レンズの装着や装脱などのハンドリングはよく,こすり洗いをしやすい,レンズが破損しにくいというメリットもある.シリコーンは疎水性(親油性)であるため,SHCLは脂質が付着しやすい.本レンズはプラズマ加工を施しているため,脂質を含めた汚れが付着しにくいだけでなく,レンズ表面の水濡れ性がよいという特徴をもつ.化粧品などの脂質がレンズに付着しやすい患者や,乾燥感を訴える患者に本レンズを試してみるとよい.従来素材のSCLには蛋白質の付着が問題であったが,SHCLは蛋白質がほとんど付着しない3).軽度のアレルギー性結(65)膜炎の患者では,SHCLを選択してもよいと考える.本レンズのトーリック面は後面にあり,回転を制御する方法としてレンズ下方にプリズムを加えたプリズムバラストを採用している.従来素材のトーリックSCLとして高い評価を得ているボシュロムメダリスト66トーリックと同じデザインである1)(図2).本レンズの円柱軸の安定はよく,乱視の矯正効果が高いと考える.本レンズの適応として,特によいと考えられる患者を以下に植田喜一ウエダ眼科コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純私のコンタクトレンズ選択法312.ボシュロム・ジャパン株式会社ボシュロムメダリストプレミア<乱視用>表1ボシュロムメダリストプレミア<乱視用>の製品概要材質balafilconA含水率36%酸素透過係数(Dk値)91*酸素透過率(Dk/l値)91**(.3.00Dの場合)中心厚0.10mm(.3.00Dの場合)ベースカーブ8.7mm直径14.0mm球面度数±0.00~.5.00D(0.25Dステップ).5.50~.9.00D(0.50Dステップ)円柱度数.0.75D,.1.25D,.1.75D,.2.25D円柱軸180°/10°/20°,170°/160°,90°/80°/100°レンズカラークリア*:×10-11(cm2/sec)・(mlO2/ml・mmHg)測定条件35℃.**:×10-9(cm・mlO2/sec・ml・mmHg)測定条件35℃.O2オプティクスエアオプティクスTMメダリストプレミア2ウィークプレミオ1.4*(含水率24%)1.2*(含水率33%)1.1*(含水率36%)1.06**(含水率40%)0.6*(含水率38%)0.4*(含水率47%)アキュビュー.オアシスTMアキュビュー.アドバンスTM*EricpapaPhD,McOptom,DCLP,ElasticModulusandSiliconehydrogelContactLensFitting,www.siliconehydrogels.org,Editorial.**What’sNewinTechnologiesContactLens,S.BarryEiden,OD,FAAO.00.511.5(MPa)図1SHCLの硬度(Modulus)780あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010(00)示す.1.円柱レンズによる全乱視の矯正を必要とする眼で,はじめてSHCLの装用を希望する者2.矯正を必要とする乱視があるにもかかわらず,球面SCLあるいは球面SHCLを装用している者3.ハードコンタクトレンズ(HCL)からSHCLへ変更を希望する者4.従来素材のトーリックSCL装用者で,角膜内皮細胞形態異常,角膜新生血管,pigmentedsideなどの酸素不足による所見を認める者5.軽度のドライアイやアレルギー性結膜炎のある者6.長時間装用する者や長期間装用する者HCLから球面SCLあるいは球面SHCLに変更した直後では,これらのレンズで良好な視力が得られても,しだいに角膜形状の変化により見え方が変化することがある4).こうした場合にはトーリックSCLあるいはトーリックSHCLによる対応が求められる(図3).販売名:ボシュロムメダリストプレミア医療機器承認番号:22000BZX00896000文献1)村岡卓:「ボシュロムメダリストRプレミア」の紹介.日コレ誌51:72-78,20092).元卓,野入輝美,宮本裕子ほか:シリコーンハイドロゲルソフトコンタクトレンズ(RD-677)長期連続装用の臨床報告.日コレ誌47:6-21,20053)植田喜一,中道綾子,稲垣恭子:シリコーンハイドロゲルレンズの臨床における汚れの定量分析.日コレ誌,2010,印刷中4)植田喜一:コンタクトレンズによる屈折矯正の基本.あたらしい眼科27:723-735,2010度数や軸の違いによる左右のレンズ厚や形状を均一にし,どのレンズでもプリズムバラスト効果を最大限かつ安定的に発揮,レンズの回転を防止する.レンズ周辺部(特に下方部)を可能な限り薄く調整.下眼瞼との接触をスムーズにし,軸の安定とともに快適な装用感をもたらす.360°コンフォートチャンファーリファインドオプティカルゾーンHCL→SCL変更時変更後2週間〔症例〕初診:他眼科で処方された球面HCLを2年間装用SCLを希望VD=(1.2×SCL)VS=(1.2×SCL)2週間後:両眼かすみ,像のにじみVD=(0.8×SCL)VS=(0.8×SCL)トーリックSCLVD=(1.2×トーリックSCL)VS=(1.2×トーリックSCL)図3球面ハードコンタクトレンズ(HCL)から球面SCLへの変更例図2ボシュロムメダリストプレミア<乱視用>のデザイン〔提供:ボシュロム・ジャパン㈱〕

植田 喜一

写真:角膜移植後MRSA感染

2010年6月30日 水曜日

あたらしい眼科Vol.27,No.6,20107770910-1810/10/\100/頁/JCOPY(63)写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦313.角膜移植後MRSA感染清水一弘大阪医科大学眼科図1角膜潰瘍(68歳,男性)ドナー角膜全体に及ぶ角膜膿瘍がみられる.角膜周辺からは血管侵入が生じている.角膜掻爬後の鏡検にてMRSA(methicillin-resistantStaphylococcusaureus)を検出した.図3図1症例の初発時の前眼部写真ドナー角膜の10時および2時方向にフルオレセインに染色された病巣がみられる.図4図1症例の4日前の前眼部写真病巣が中央にも及び始め角膜浸潤となっている.ニューキノロンなどの抗菌薬や抗真菌薬にも反応せず悪化傾向にある.①②③④図2図1のシェーマ①:ドナー角膜,②:角膜膿瘍,③:血管浸入,④:縫合糸.778あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010(00)全層角膜移植後の感染症の発症は白内障術後感染に比較して高率で,起因菌としてMRSA(methicillin-resistantStaphylococcusaureus)と真菌感染が重要である1).その背景として長期にわたりニューキノロンやステロイド点眼が継続投与されていること,縫合糸の存在に起因することがあげられる.症例は68歳の男性.両眼に原田病の既往があり,白内障手術や複数回の緑内障手術後の角膜内皮障害によって右眼は水疱性角膜症となった.2000年に全層角膜移植術を施行.以後拒絶反応予防のためステロイド点眼が継続され経過良好で(0.8)の視力が得られていた.2009年9月,ドナー角膜の2カ所にフルオレセインに染色される角膜炎が生じた(図3).病巣掻爬し鏡検・培養を行った.ガチフロキサシンの頻回点眼および抗真菌薬の全身投与を行ったが,2日後には角膜中央部にも混濁が生じ(図4),さらに3日後には角膜膿瘍となった(図1).病巣よりMRSAを検出したため入院にてクロラムフェニコール点眼,バンコマイシンの局所および全身投与を行い鎮静化がみられたが,瘢痕を生じ視力回復は得られなかった.角膜移植後の感染の背景として拒絶反応抑制のためのステロイド点眼の長期使用が原因の一つとされており,本症例も同様の機序で発症したものと考えられる.起因菌としてはグラム陽性球菌が多く真菌感染もあるといわれている1,2).全層角膜移植後に特有な感染として縫合糸感染がある.多数の縫合が長期存在し,特に縫合糸が緩むことによって眼脂や異物・微生物の付着が感染の原因となることがある.また,Stevens-Johnson症候群や眼類天疱瘡などの角膜上皮幹細胞疲弊症では,免疫機能の異常や高齢者が多いことからMRSA感染症が発症しやすいとされている3).その他,糖尿病やアトピー性皮膚炎などの全身疾患,コンタクトレンズ装用による局所易感染状態,長期入院などの環境が危険因子とされている4).治療としては,クロラムフェニコール点眼液を第一選択とする.つぎに薬剤感受性の結果を踏まえて感受性があれば投与を試みる4).改善が得られなければアルベカシン点眼やバンコマイシン点眼または眼軟膏の自家調整を行う5).最近日東メディック社よりバンコマイシン眼軟膏1%が発売されたことは朗報だが,適応はMRSA結膜炎や眼瞼炎などに限定されている.文献1)井上幸次:角膜外科のエッセンスIV.角膜外科の術後合併症とその対策5.角膜移植後の感染症.眼科プラクティス13,p206-210,文光堂,20072)井上幸次:感染性角膜炎診療ガイドライン感染症角膜炎の診断.日眼会誌111:774-809,20073)小泉範子:角膜外科のエッセンスIV.角膜外科の術後合併症とその対策6.角膜輪部移植後の上皮欠損.眼科プラクティス13,p211-215,文光堂,20074)星最智:眼感染症の謎を解くII.眼感染症事典3.強角膜炎7)黄色ブドウ球菌角膜炎(MRSAを含む).眼科プラクティス28,p122-124,文光堂,20095)外園千恵:MRSA,MRCNSによる眼感染症.日本の眼科77:1413.1414,2006

有水晶体眼内レンズ(Phakic IOL)の将来ビジョン

2010年6月30日 水曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPYどのように考えているのか,日本眼内レンズ屈折手術学会が毎年行う会員へのアンケート調査結果から推察できる1).この調査に回答している眼科医は,日本眼内レンズ屈折手術学会の会員であることから屈折矯正手術への関心が高いグループといえ,日本全体の眼科医の関心度は,さらに低くなるであろう.アンケート調査のなかからphakicIOLとLASIKに関する部分を抜粋し,状況が一目でわかるようグラフにまとめた(図1.3).2010年に,後房型phakicIOLの一つであるVisianICLTMが厚生労働省の承認を得た.PhakicIOLが急速に普及することはないと予想されるが,臨床治験を終了し,その結果から承認を受けたという事実は,わが国で使用するにあたり問題ないと判断されたと認識すべきである.治験症例のみでなく,医師個人による輸入によって海外で使用可能なphakicIOLが使用されているが,承認を受けたVisianICLTMを積極的に導入し,臨床成績を数多く報告しているグループもある2.5).このレンズで乱視矯正が可能なトーリック機能をもったものが臨床使用されており,良好な結果が得られている.近い将来,このタイプも承認を受けると,さらに適応が広がるであろう.PhakicIOLは,後房型のみでなく,前房型の臨床治験が開始されており,今後,phakicIOLの種類が増えることでも適応範囲が広がり,現在よりも眼科医の関心が高まるであろう.はじめに2010年に,わが国で有水晶体眼内レンズ(phakicintraocularlens:phakicIOL)のなかでも後房型であるVisianICLTM(implantablecollamerlens:STAARSurgical社)が承認を受け,今後,屈折矯正手術の適応範囲が広がることが期待される.屈折矯正手術を施行している眼科施設は限られるが,エキシマレーザーによるlaserinsitukeratomileusis(LASIK)の症例が増えれば増えるほど,phakicIOLの必要性が認識される.また,LASIKはエキシマレーザーそのものが高価な装置で,維持費もかかるため,眼科施設への普及が妨げられていたともいえる.PhakicIOLは,白内障手術設備で導入できるので,非常に魅力的な屈折矯正方法である.しかし,世界的な不況の影響で各国のLASIK件数が減っており,わが国においても同様の現象が起こっているなかで,phakicIOLの将来はどうなっていくのだろうか?まず,眼科医に受け入れられるのか?実際の臨床成績は良好なのか?適応が広がり,LASIK症例の一部がphakicIOLの適応になるのだろうか?本稿では,現在得られている臨床成績から,phakicIOLは今後,どのように受け入れられていきそうなのかという将来ビジョンについて述べる.Iわが国における受け入れ状況PhakicIOLが,わが国でそれほど普及していないのは想像がつくが,実際に眼科医がphakicIOLについて(57)771*HirokoBissen-Miyajima:東京歯科大学水道橋病院眼科〔別刷請求先〕ビッセン宮島弘子:〒101-0061東京都千代田区三崎町2-9-18東京歯科大学水道橋病院眼科特集●屈折矯正における基本あたらしい眼科27(6):771.776,2010有水晶体眼内レンズ(PhakicIOL)の将来ビジョンVisionofPhakicIntraocularLens(PhakicIOL)ビッセン宮島弘子*772あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010(58)II出揃ったphakicIOL今までヨーロッパを中心に,いろいろなphakicIOLが開発され臨床使用されてきた.大きく分けて前房型と後房型になり,前房型のなかに隅角支持型と虹彩把持型がある(図4).白内障におけるIOLは後房型が理想的で,挿入例のほぼ100%が後房型といってもよいであろう.今のところ,理想的なphakicIOLの挿入場所については,後房型と前房型でそれぞれ一長一短があり,術者および症例によって使用するタイプが異なっている.現在,海外でおもに使用されているphakicIOLを表1に示す.これらは,今まで数多く開発されてきたIOLのなかで,良好かつ安定した臨床成績が確認され残ったものといってもよいであろう.開発当初に使われたものから材質や形状に改良が重ねられ,さらに安定した結果が得られるものになっており,近い将来,まったく異なった概念のphakicIOLが登場する確率は低いと思われる.ここでは,将来ビジョンということだが,それぞれのphakicIOLについて,挿入後の視力は非常に良好で詳細は多くの論文に報告されているので,レンズそのものの特徴を中心に述べる.1.前房型隅角支持型は,ポリメチルメタクリレート(PMMA)素材のNu-Vita,アクリル素材のI-CAREがヨーロッパを中心に使用されていたが,角膜内皮障害などの合併症から,現在は製造中止で使用されていない.このように白内障手術における前房型レンズと同じような問題を816928420406080100(%)PhakicIOLLASIK■:行っていない■:行っている0図1PhakicIOLおよびLASIKを行っている割合PhakicIOLを行っているのは8%のみ.しかし,LASIKを施行している施設の半数が導入している.〔佐藤正樹ほか:2008年日本眼内レンズ屈折手術学会会員アンケート.IOL&RS23:578-601,2009より抜粋〕3655020406080100(%)PhakicIOLLASIK図2今後有用と思う手技LASIKに比べて有用と思う率は低い.〔佐藤正樹ほか:2008年日本眼内レンズ屈折手術学会会員アンケート.IOL&RS23:578-601,2009より抜粋〕71954020406080100(%)PhakicIOLLASIK受けない図3自分で近視矯正手術を受けるとした場合の手技PhakicIOLが7%と評価は高くない.〔佐藤正樹ほか:2008年日本眼内レンズ屈折手術学会会員アンケート.IOL&RS23:578-601,2009より抜粋〕…………………………….PhakicIOL……….図4PhakicIOLの挿入位置挿入位置によって,前房型と後房型に分類される.(59)あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010773から,手術中に乱視軸を合わせるトーリックレンズとして現在のデザインは向かない.この点について,何らかの改良が進めば,さらに有用なレンズとなるであろう.2.虹彩把持型このタイプが最も長期の経過観察がなされている7,8).前房型の隅角支持型より角膜内皮への距離があり,後房型より水晶体への距離がある点から,挿入位置としては起こしたphakicIOLだが,アルコン社のアクリソフR隅角支持レンズはヨーロッパ多施設における良好な臨床成績が報告され6),EU加盟国の基準を満たすCE(CommunauteEuropeenne)マークを獲得している.米国およびわが国において臨床治験中で,申請が承認されれば,ICLTMに続いて使用可能なphakicIOLとなる.素材は非常に薄いアクリルで,分類からは隅角支持型であるが,実際に隅角に接触する部分の面積は小さく,かつ軟らかいアクリル素材で,今までのレンズとは異なる良好な結果が期待されている(図5).すでにヨーロッパにおける190眼の臨床試験において,以前の前房型レンズで問題になった支持部と隅角近くの虹彩癒着,瞳孔変形はなく,角膜内皮細胞減少率が1年で4.77%という結果が報告されている.また,phakicIOLそのものがどんなに優れていても,挿入法が困難であると角膜内皮や水晶体に接して,角膜内皮細胞の著明な減少や白内障を生じる危険性がある.白内障手術で数多く使用されているアクリソフRレンズのカートリッジとインジェクターの技術が応用され,挿入法の完成度は高い.このタイプの将来性については,挿入方法,臨床成績から期待度が高い.問題点は,レンズ挿入後,最も安定する位置まで回転(リロケーション)する例があること表1おもに使用されているphakicIOLタイプ支持部IOL名製造材質レンズ形状挿入後写真前房隅角AcrySofRAC-PIOLアルコンアクリル虹彩ArtisanArtiflexOphtecBVPMMAシリコーン後房毛様溝VisianICLTMSTAARSurgicalHydrogel-collagenpolymer図5前房型phakicIOL挿入後PhakicIOLが前房内に挿入されている.レンズの位置は良好である.774あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010(60)トロールに熟練を要する.虹彩を把持する位置が予定の場所からずれると,レンズ中心がずれてグレア,ハローなどの視機能に問題が出やすくなる.また,虹彩を把持する際,フックなどで直接虹彩に接触してかつクリップ部分に虹彩の一部をはめ込む操作をするので,虹彩色素脱落やそれに伴う隅角,レンズ表面の色素沈着の問題がある.他の2種類に比べ,挿入操作への画期的な改良が望まれるレンズである.3.後房型VisianICLTMが代表的なphakicIOLで,欧米に続いてわが国でも承認を受けている.このレンズは虹彩と水晶体の間という限られたスペースに挿入され,レンズのサイズ決めが良好な結果を得るための重要な要素とされている(図7).今までは角膜輪部間,whitetowhiteを測定しサイズを決定していたが,前眼部解析装置が開発され毛様溝間をいろいろな角度で測定可能である.レンズが大きすぎると,レンズが前方突出しやすく,虹彩を後ろから押す形になり,狭隅角となる.逆に小さすぎると眼内で回転しやすい.また,水晶体への距離が近くなり白内障併発の危険性が増すことにもなる.角膜内皮からレンズまで十分な距離があり,角膜内皮細胞への影響が前房型phakicIOLより少なく,外見的に前房型で起こりうるレンズ表面の反射がない点が優れている.挿入理想的である.しかし,固定方法がphakicIOL支持部にあるクリップのようなもので虹彩を挟むため(図6),操作に熟練を要するのと,挿入後の虹彩への慢性的な刺激による眼内炎症,それに伴う角膜内皮への影響が危惧されている9,10).近年,シリコーン製で折り畳んで挿入可能なものが登場し,以前のPMMA製より小さい切開から挿入可能になった.虹彩を把持しているため,眼内でレンズが回転することがなく,乱視矯正が可能なトーリックタイプに適したレンズともいえる.このレンズの将来について,まず,挿入法の開発が望まれる.虹彩を把持する操作,把持する量と位置のコン図7VisianICLTM挿入後散瞳すると,レンズが水晶体と虹彩の間にあり,かつ水晶体から離れた位置に挿入されているのが観察できる.図6虹彩把持型phakicIOL挿入後支持部の虹彩を把持する部分.把持する虹彩の量と位置が重要.支持部の把持部分に虹彩脱色素が観察される.図8VisianICLTM挿入後の白内障ICL挿入時,挿入後1年は水晶体混濁なし.2年後から前.下混濁を認めた.(61)あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010775近年の波面収差解析を用いたwavefront-guidedLASIKにより,術後の収差を軽減できることで,良好な視機能が得られるようになった.しかし,近視度数が増すにつれ,切除する角膜の量は増えるので,phakicIOLのほうが視機能の面で有利な結果をもたらす11).実際に同じ程度の強度近視2例(表2)に,1例はwavefront-guidedLASIK,もう1例はphakicIOLを挿入し,両者とも術後裸眼視力が1.5まで改善しているが,網膜シミュレーション画像でみると,同じ視力であっても視力の質が異なることがわかる.実際の見え方はシミュレーション画像より良好と思われるが,視力検査における答え方および自覚的な見え方をきくと,phakicIOL挿入後が非常に良いことを実感する.LASIKは術後長期の屈折において,リグレッションといわれる屈折の戻りがあり,強度近視例や遠視例に多い.PhakicIOL挿入例では,術後屈折が非常に安定し方法も専用のカートリッジ,インジェクターがあり,眼内にスムーズに挿入できる.このタイプの将来性について,小切開から挿入可能で,かつトーリックタイプがあり,レンズ機能として完成度が高い.問題は,以前のモデルに比べて白内障の発症が非常に減ったというものの,特徴的な前.下混濁を起こす例がある(図8).白内障発症が限りなくゼロに近づくことが望まれる.サイズ決定について,さらに簡便かつ確実な方法により,レンズ交換を必要とする例がなくなることが望まれる.III今後の発展PhakicIOLの適応は,屈折矯正手術のなかでエキシマレーザーを用いたPRK(photorefractivekeratectomy)やLASIKが適応にならない例という考えが一般的である.したがって強度近視および遠視,角膜疾患合併例が適応とされていた.近視の度数に関しては,.10D以上とされていたが,近年,さらに度数の低い.6D以上というのが標準になりつつある(図9).PhakicIOL挿入経験の多い術者のなかには,phakicIOLの適応がさらに低い度数の近視例に広がり,最終的にLASIKと症例数が逆転するだろうと予想している人もいる.その理由は,phakicIOLの完成度が高くなり,挿入方法が改良されたこと,角膜を温存することによる良好な視機能であろう.LASIKは角膜形状を変えることで屈折矯正を行う.表2Wavefront.guidedLASIKとphakicIOLの比較症例21歳,女性27歳,女性術前視力(1.2×.10.0D(cyl.2.75DAx7°)(1.2×.10.0D(cyl.1.0DAx5°)屈折矯正手術Wavefront-guidedLASIKPhakicIOL術後視力1.5(矯正不能)1.5(矯正不能)網膜シミュレーション画像術後,同じ裸眼視力1.5でも,網膜シミュレーション画像から見え方の違いが予想できる.図9PhakicIOLの適応-1.0D-10.0D-20.0DPRKPhakicIOLLASIK+1.0DPRKPhakicIOLLASIK+6.0D近視遠視776あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010(62)よる眼科治療,さらに屈折矯正も同時にする画期的な治療法になる可能性は誰も否定できないであろう.眼科技術が進歩し,新しい話題が少ないと言われているなか,phakicIOLはいろいろな可能性をもつ魅力的な手術として発展していくことが期待される.文献1)佐藤正樹,大鹿哲郎:2008年日本眼内レンズ屈折手術学会会員アンケート.IOL&RS23:578-601,20092)神谷和孝,清水公也,川守田拓志ほか:眼鏡,laserinsitukeratomileusis,有水晶体眼内レンズが空間周波数特性および網膜像倍率に及ぼす影響.日眼会誌112:519-524,20083)KamiyaK,ShimizuK,IgarashiAetal:Four-yearfollowupofposteirorchamberphakicintraocularlensimplantationformoderatetohighmyopia.ArchOphthalmol127:845-850,20094)KamiyaK,ShimizuK,AndoWetal:Phakictoricimplantablecollamerlensimplantationforthecorrectionofhighmyopicastigmatismineyeswithkeratoconus.JRefractSurg24:840-842,20085)神谷和孝:有水晶体眼内レンズ(phakicIOL)による屈折矯正.あたらしい眼科27:459-464,20106)KohnenT,KnorzMC,CochenerBetal:AcrySofphakicangle-supportedintraocularlensforthecorrectionofmoderate-to-highmyopia:One-yearresultsofamulticentereuropeanstudy.Ophthalmology116:1314-1321,20097)LandeszM,WorstJG,vanRijG:Long-termresultsofcorrectionofhighmyopiawithanirisclawphakicintraoularlens.JRefractSurg16:310-316,20008)SaxenaR,BoekhoornSS,MulderPGetal:Long-termfollow-upofendothelialcellchangeafterArtisanphakicintraocularlensimplantation.Ophthalmology115:608-613,20089)Perez-SantonjaJJ,IradierMT,MenitesdelCastilloJMetal:Chronicsubclinicalinflammationinphakiceyeswithintraocularlensestocorrectmyopia.JCataractRefractSurg22:183-187,199610)AlioJL,delaHozF,IsmalMM:Sublclinicalinflammatoryreactioninducedbyphakicanteriorchamberlensesforthecorrectionofhighmyopia.OcularImmunolandInflam1:219-223,199311)IgarashiA,KamiyaK,ShimizuKetal:Visualperformanceafterimplantablecollamerlensimplantationandwavefront-guidedlaserinsitukeratomieusisforhighmyopia.AmJOphthalmol148:164-170,200912)AlfonsoJF,PalaciosA,Montes-MicoR:MyopicphakicSTAARcollamerposteriorchamberintraocularlensesforkeratoconus.JRefractSurg24:867-874,200813)中村友昭:特殊例へのphakicIOLの応用.IOL&RS22:312-316,2008ている利点がある.一方,phakicIOLは内眼手術であるため,白内障同様,起こりうる合併症は避けられない.特に視力予後に影響する眼内炎は100%予防することは不可能である.また,多くのphakicIOLでは眼圧上昇を防ぐために,前房深度が十分ある症例でも予防的な虹彩切開が行われる.アルゴンレーザーによる周辺虹彩切開術後の角膜内皮障害が注目されるなか,phakicIOL挿入例における,これら一連の操作による侵襲は無視できない.最後に,phakicIOLのなかで前房型と後房型があり,どちらに将来性があるかということが議論されている.術後合併症が危惧されるタイプは,すでに製造中止となり,今後は,ここで論じた3つのphakicIOLが中心になるであろう.前房と後房といった異なる部位への挿入で,どちらか1つに統括されるというより,両者の適応がさらに明らかになってくると思われる.1つの例が,近年注目されている円錐角膜例へのphakicIOL挿入である.後房型で角膜から距離があり,レンズ回転が少なくトーリック機能が活用できるICLTMが挿入され,良好な結果が得られている12,13).特殊例ではあるが,このように,症例によってレンズの選択が異なる可能性があり,術者が各レンズの特性を理解して選択していくことになるだろう.おわりにPhakicIOLは,屈折矯正手術に欠かせない手技である.将来ビジョンとして,わが国においては,ゆっくり慎重に導入されていくであろう.ただし,1例でも重篤な合併症が報告されると,多くの眼科医がphakicIOLに否定的なイメージをもち,適応,適応外にかかわらず挿入を断念することが予想される.欧米主導の屈折矯正手術について,そのままわが国に取り入れる必要はないが,間違いなく将来の眼科手術において重要なポジションを占めるであろう.この技術が,単なる屈折矯正のみでなく,他の眼疾患の治療法になる可能性は否定できない.すでに白内障手術症例における球面度数や乱視矯正として,phakicIOLが偽水晶体眼(pseudophakia)に挿入されているが,前房,後房にレンズを挿入することに