特集●眼に良い食べ物 あたらしい眼科 27(1):3.8,2010野菜・果物(抗酸化ビタミン)Antioxidant Dietary Supplementation with Vitamin A, C and E forVisual Function寺田佳子*はじめに毎日の生活のなかで,私たちが生きていくために食は非常に重要なものである.「バランスのよい食生活を」,「好き嫌いをしない」,「お肉を食べたら野菜も食べる」など,子供のころから言われ続けたことであるが,つい忙しさにかまけたり,最近ではファーストフードに代表される手軽な食品を「いつでも・どこでも」手に入れることが容易となった.食生活の欧米化などに伴い,身体活動レベルに比して摂取カロリーが過剰になっていることもまれではない.一方で,昨今の生活状況の厳しさからか,内容はともあれとにかく必要なカロリーを摂取することに主眼がおかれていると思わざるをえないケースも見かける.国民の健康づくりや疾病予防を推進する目的として,健康増進法,食育基本法,食生活指針などが制定,策定された.さらに,一人ひとりが「何を」「どれだけ」食べればよいのかをよりわかりやすく表示するために,平成17 年6 月に厚生労働省と農林水産省より「食事バランスガイド」が発表された(図1).このなかで,野菜は副菜としてきのこ,いも,海藻とともに一日5.6SV 注1)(副菜の1SV は主材料が約70 g,野菜料理1皿に相当),果物はビタミンC やカリウムの摂取源として一日2SV(果物の1SV は主材料が約100 g=みかん1個に相当)の摂取が勧められている.厚生労働省の「健康日本21」では,具体的に野菜は一日350 g 以上,そのうち緑黄色野菜を120 g 以上,果物は一日150.200g を目安に摂取することが望ましいとされている(図2).野菜や果物は,ビタミンやミネラル源,食物繊維などの補給源と考えられており,最近では,その抗酸化作用が疾病予防に期待されるようになった.本稿では,野菜や果物から得られる抗酸化ビタミンの眼疾患に対する効果について,AREDS1),注2)の結果などを踏まえて述べる.I酸化ストレスと眼疾患酸化ストレスがいくつかの眼疾患の発症にかかわっていることはよく知られている.酸化ストレス仮説による内的酸化はもちろんのこと,眼は体表に位置し,また常に可視光および紫外線といった光を受けていることから,皮膚と同様に光老化(photo aging)の危険にもさらされていると考えられる.加齢により酸化ストレスを受ける時間はますます長くなり,白内障,加齢黄斑変性(AMD),翼状片などの発症や進行には酸化ストレスが関与しているとされる.これまで,いわゆる眼科としてのcommon disease に栄養あるいはサプリメントがどの程度関与しているか,さまざまな報告がある.残念ながらエビデンスレベルが高く,現在広く受け入れられているものはまだ多くない2,3).AREDS では,抗酸化ビタミンと亜鉛を摂取した群で,中等症から重症のAMD をもつものの,約25%に進行予防が認められた4).しかし,白内障の進行予防は認められなかった5).AREDS は多施設による無作為大規模前向き研究であり,この結果はAMD の進行予防を目的として抗酸化ビタミンを積極的に摂取する根拠となりうると思われる.II抗酸化ビタミンビタミンは,体外から摂取する栄養素のうち,蛋白質,脂肪,炭水化物,無機質および水以外に必要とされる微量の有機物の総称である.生物が生体内で作ることができないかあるいはできてもその量が少ないため,食事などにより摂取しないと欠乏症をひき起こし,生物が生存,生育することが困難となる.体内では,さまざまな酵素の補酵素として働くことが多い.これまでにビタミンA,D,E,K,B1,B2,B6,ナイアシン(旧B3),パントテン酸(旧B5),葉酸(旧M),ビオチン(旧H),ビタミンB12,C の13 種類のビタミンが知られており,その類縁物質も含めて広義のビタミンとすることが多い.ほとんどのビタミンは,現在サプリメントとして入手可能である.通常の生活では,基本的には食事からビタミンを摂取することが望ましく,サプリメントはあくまでも不足分の補助としてとらえられるべきと考える.ビタミンは,水によく溶ける水溶性(ビタミンB 群注3),C,)と,脂によく溶ける脂溶性(ビタミンA,D,E,K)に大きく分けられる.食品から摂取する限りビタミン過剰はまれだが,サプリメントとして補おうとする場合には,過剰摂取に注意する必要がある.水溶性ビタミンは尿から排泄されるため,過剰摂取が問題となることはほとんどないが,ビタミンE を除く脂溶性ビタミンは体内に長時間とどまるため,過剰摂取に注意しなければならない.一方で,特定の疾患に対する効果は,通常の食事によって得られるビタミン摂取量では不足するとの報告もあり,その他の疾患の有無も含め各人がいかにビタミンを摂取するかを考慮する必要がある.これらのビタミンのうち,ビタミンA,C,E には抗酸化作用が期待されている.1. ビタミンA(vitamin A)ビタミンA は,レチノール(図3),レチナール,レチノイン酸およびこれらの3-デヒドロ体とその誘導体の総称であり,レチノイドとも称される.ヒト血液中ではほとんどがレチノールとして存在する.血中濃度は通常約0.5 μg/ml 程度で,0.3 μg/ml を切るとビタミンA欠乏症状を呈する.食物中ではb -カロテンあるいはレチニルエステルの形で存在し,小腸粘膜上皮細胞から吸収され,体内で分解されてビタミンA となる.ビタミンA は抗酸化剤としての役割だけでなく,ロドプシンの前駆体として視覚になくてはならないものであり,欠乏症状として夜盲症が古くから知られている.しかし,脂溶性ビタミンであるために,過剰摂取は体内での蓄積を招き,偽脳腫瘍などの原因になることもある.変異原性があるため,生殖年齢では特に注意が必要である.過剰摂取を防ぐため,ビタミンA に代わってカロテノイドが注目されている.カロテノイドは自然界に500 種類以上が知られている橙色や黄色色素であり,このうちb -カロテンを代表とする約30 種類のものは体内でレチノイドに変化するので,プロビタミンA としての活性がある.b -カロテンは緑黄色野菜やみかん,びわなどに多く含まれる.しかしながら,AREDS では,喫煙者においてb -カロテン摂取群の肺癌発生率が高く,その後他の研究でも同様のことが疫学的に証明されたため,喫煙者にはb -カロテンの積極的な摂取を勧めないほうがよい.喫煙自体がAMD のリスクファクターであるため,禁煙も勧められる.LDL(低比重リポ蛋白)酸化説に基づき,b -カロテンを摂取することで動脈硬化を防ぎ,心筋梗塞などの動脈硬化性疾患を予防することができるという考え方もあるが,残念ながらこれについての疫学的なデータは存在しないし,現在では発癌性の観点からこれらの疾患にはb -カロテンの摂取はむしろ勧められなくなった.b -カロテンは緑黄色野菜に多く含まれ,たとえば,にんじん50 g 程度(約1/2 本),カボチャ100 g 程度でほぼ一日推奨量を摂取することができるので,食品からの摂取が十分期待できる.トマトはリコピンとして抗発癌作用も期待されるが,実際には600 g 程度,ブロッコリーは450 g 程度の摂取が必要となり,やや現実味に欠ける.また,野菜や果物だけでなく,動物性食品からレチニルエステルとしてのビタミンA 摂取も必要である.卵,レバー(ブタ,鶏,アンコウ=あん肝)などにレチノールは多く含まれる.AREDSでは,b-カロテン15 mg(ビタミンA 25,000 IU と同等)が投与されたが,b -カロテン単体でのAMD 予防効果はまだ不明であり,AREDS2 ではb -カロテンは15 mgと0 mg の2 つの投与群が設定されている.2. ビタミンC(vitamin C)ビタミンC は,水溶性ビタミンの一種であり,化学的にはアスコルビン酸(図4)のL 体のみをさす.ヒト以外の多くの動物にとっては,アスコルビン酸は生体内で生合成できる物質であるため,必ずしも外界から摂取する必要はない.ヒトではナトリウムイオン依存性の能動輸送系と濃度勾配に従う受動輸送系を経て腸管より吸収される.ヒト体内での組織当たりビタミンC 量は下垂体で最も高く,副腎や水晶体がそれに次ぐ.ビタミンC はアミノ酸の生合成に利用されるほか,副腎からのホルモンの分泌,脂肪酸をミトコンドリアに運ぶための担体であるl-カルニチンの合成など,体内で進行する水酸化反応に重要な役割を果たす.また,ビタミンC はコラーゲンを生成する過程でも必要とされる.ビタミンC が不足するとコラーゲンの同化が進行せず,血管の脆弱化や易出血性,免疫機能の低下・貧血などを呈することがある.ビタミンC はそのエンジオール基の還元性により強い抗酸化作用をもつため,食品にも酸化防止剤として添加される場合がある.一般に乾燥状態にある錠剤などでは約3 年安定であると考えられる.余剰分はおもに腎臓から体外に排泄されるため摂取量に上限はないが,2,000 mg 以上の大量摂取により下痢をきたすことがある.ビタミンC の摂取により白内障の進行,手術が必要となる割合が下がったという報告もあるが,まったく関与しないという報告もあり2),ビタミンC 単体での白内障進行予防効果はまだ確定されていない.ビタミンC を多く含む食品として,アセロラ,パセリ,緑茶,赤ピーマン,グアバ,芽キャベツ,いちご,じゃがいもなどが知られている.たとえば,果汁10%のアセロラジュース180 ml にビタミンC 216 mg,じゃがいも1 個(可食部100 g)にビタミンC 35 mg が含まれるとされる.ビタミンC の吸収・排泄は遺伝子多型の影響を受けるともされ,同量を摂取しても個人差が大きいといわれる.3. ビタミンE(vitamin E)ビタミンE は脂溶性ビタミンの一種である.トコフェロール(tocopherol)ともよばれ,特にd-a -トコフェロール(図5)は自然界に広く普遍的に存在するが,おもに植物の光合成により合成される.メチル基の位置によって8 つの異なる型があり,それぞれの生物学的機能をもち,合成a -トコフェロールはこれら8 種類のラセミ体の等モル混合物である.ヒトではd-a -トコフェロールが最も強い活性をもち,おもに抗酸化物質として働くと考えられている.特に,脂質の酸化反応が連鎖的に進行する過程で生じる脂質ペルオキシラジカルを捕捉して連鎖反応を切断し,反応を停止する.この抗酸化反応はビタミンC,ユビキノール,還元型グルタチオンとの共役反応で効率よく発揮される.その他,膜安定化作用,抗血栓作用,免疫応答増強作用などさまざまな作用をもつといわれている.植物油,落花生,大豆などナッツ類に多く含まれ,通常の食生活で欠乏することはないとされている.また,ビタミンE は脂溶性ビタミンとしては毒性が低く,過剰摂取が問題となることは通常ないとされている.III実際に食べる表1 をご覧いただきたいが,AREDS でサプリメントとして採用された量の抗酸化ビタミンを食事だけから摂取するのは実際にはなかなかむずかしい.したがって,疾病リスクのある人は抗酸化ビタミンをサプリメントとして摂取することが勧められる.一般的な健康増進目的として,先にも述べたように,健康日本21 では一日に野菜350 g(うち緑黄色野菜120 g)以上の摂取が勧められている.手軽に野菜ジュースを飲むという方法もあり,野菜ジュースは1 回に飲みきる量が約1SV と換算される.現実的には,野菜ジュースのみですべてを補うのは,含有糖分などの問題もあり,あまり勧められない.現在では,品種改良,栽培技術の進歩や輸送手段の発達により,季節を問わずいろいろな野菜や果物を手に入れることも不可能ではなくなってきているが,やはり栄養価の点からも旬の食物に勝るものはなく,可能であれば新鮮な旬の食べ物を上手に生活のなかに取り入れたい.ビタミンA,E といった脂溶性ビタミンは,油脂を使った調理によってより吸収効率が上がるため,調理の方法や食材の組み合わせも工夫したい(表2).ビタミンC は熱に弱いとされるが,たとえばじゃがいもではビタミンC がでんぷんに包まれるような形で存在するため,調理しても壊れにくいことが知られている.さらに,AMD や白内障の好発年齢である高齢者では,糖尿病合併率も高い.果物に注意が向いたばかりに,カロリー過剰になったり,腎機能が低い人がカリウムの過剰摂取に陥ることは避けなければいけない.その他の全身合併症があったり,薬剤投与を受けていることも多く,大量の抗酸化ビタミンをサプリメントとして摂取する場合は,かかりつけ医と情報を共有し,眼疾患の予防や治療の一助としたいものである.■用語解説■注1)SV:食事バランスガイドで,「何を」にあたる主食,副菜,主菜,牛乳・乳製品,果物の5 つの料理区分を,「どれだけ」食べたらよいかを示すために新しく提唱された単位.「1 つ」「2 つ」と数えやすい「つ」と, 1回当たりに提供される食事の標準的な量である「サービング(SV)」という単位が組み合わされたもの.注2)AREDS(Age.related Eye Disease Study):米国National Eye Institute(NEI)の主導で実施された,長期間にわたる無作為前向き多施設研究である.55.80 歳の米国人4,757 人を対象にしたトライアルで,抗酸化ビタミンおよびミネラルの摂取が,白内障と加齢黄斑変性(AMD)の発症予防および進行度に影響を及ぼすかどうか調べたものである.1986 年にそのコンセプトがすでに提出され,1992 年から研究が開始,1998 年に本研究への参加登録が締め切られた.参加者は6 カ月ごとに視力測定と眼底写真の評価を受けた.参加者には,抗酸化ビタミンとしてビタミンC 500 mg, ビタミンE 400 IU,b -カロテン15mg(ビタミンA 25,000 IU と同等),亜鉛80 mg,銅2 mg あるいはプラセボが投与された.AMD はその重症度をカテゴリー1 から4 に分類され,カテゴリー3,4 のいわゆる重症AMD では,抗酸化ビタミンと亜鉛を摂取した群の約25%に進行予防効果が認められたが,初期のAMD や滲出性変化を伴わないいわゆるdry type のAMD には発症または予防効果が認められなかった.これらの結果で得られた発癌性,貧血の可能性を減ずるため,また,参加者へのインタビューで得られた食事行動に基づいて,現在,ルテイン/ゼアキサンチン(10 mg/2 mg),DHA(ドコサヘキサエン酸)/EPA(エイコサペンタエン酸)(350 mg/650 mg)を含み,亜鉛を減じてもよいか,b -カロテンを除いてもよいかを比較するAREDS2が米国で進行中である.注3)ビタミンB 群:水溶性ビタミンのうち,ビタミンCを除くものがビタミンB 群とされ,ナイアシン,パントテン酸,葉酸はB 群とされる.文献1) The Age-Related Eye Disease Study Research Group:The Age-Related Eye Disease Study(AREDS):Designimplications AREDS Report No.1. Control Clin Trials 20:573-600, 19992) West AL, Oren GA, Moroi SE:Evidence for the use ofneutritional supplements and herbal medicines in commoneye diseases. Am J Ophthalmol 141:157-166, 20063) Seddon J:Multivitamin-multimineral supplements andeye disease:age-related macular degeneration and cataract.Am J Clin Nutr 85(Suppl):304S-307S, 20074) The Age-Related Eye Disease Study Research Group:Arandomized, placebo-controlled, clinical trial of high-dosesupplementation with vitamins C and E, beta carotene,and zinc for age-related macular degeneration and visionloss:AREDS Report No.8. Arch Ophthalmol 119:1417-1436, 20015) The Age-Related Eye Disease Study Research Group:The age-related eye disease study(AREDS)system forclassifying cataracts from photographs:AREDS ReportNo.4. Am J Ophthalmol 131:167-175, 2001 <参考図書>1) 女子栄養大学出版部:五訂版増補.食品成分表20092) 吉川敏一,桜井弘:サプリメントデータブック,オーム社,20053) 坪田一男(編):眼科プラクティス22,抗加齢眼科学,文光堂,2008