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写真:コリネバクテリウムによる結膜炎,角膜炎

2009年9月30日 水曜日

———————————————————————- Page 1あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,200912050910-1810/09/\100/頁/JCOPY(47)写真セミナー 監修/島﨑潤横井則彦304.ツꀀツꀀ ツꀀツꀀツꀀ ツꀀコリネバクテリウムによる結膜炎,角膜炎生クリーム状の白色沈着物周 の細胞浸潤は ない毛様充血は認めない図 1コリネバクテリウムによる角膜炎①糖尿病既往歴をもつ患者.数週間前から角膜表面に白い沈着物ができたと来院.スリット所見では生クリーム状の白色沈着物を認める.毛様充血は認めず,また周辺の細胞浸潤も著明でない.病変部を掻爬して鏡検したところ,グラム陽性桿菌を多数認め,培養にてコリネバクテリウムと同定された.図 3コリネバクテリウムによる角膜炎②軽度充血を伴う白色沈着物を主訴に来院.スリット所見では,沈着物は硬くカルシウム様であるが,周辺に軽い細胞浸潤を認める.採取して鏡検したところ,グラム陽性桿菌を認め,コリネバクテリウムが検出された.図 2図1のシェーマ図 4図3の症例のスメアにて観察されたグラム陽性桿菌佐ツꀀツꀀ る出田眼科病院———————————————————————- Page 21206あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(00)グラム陽性桿菌であるコリネバクテリウムは,非常に病原性の弱い菌として知られている.たとえ検出されても病原性のない常在菌として臨床現場に報告しない検査室も多い.ところが,実は角膜炎,結膜炎,強膜炎,外眼角炎などを生じることが報告されている1 6).また,近年結膜 の常在菌としてニューキノロン耐性のコリネバクテリウムが増加していることが注目されており,その遺伝子解析も進んでいる.これには,ニューキノロンの多用も関与していると推測されている.ちなみに,外来の細菌性結膜炎患者 10 人に第三世代のニューキノロンを 2 週間点眼してもらった結果,表1のようにコリネバクテリウムが残存した.日本人の結膜 常在菌ではコリネバクテリウムの種のなかで C.ツꀀ macginleyi が多く,GyrA 遺伝子に Ser83Arg,Asp87Ala 変異が認められるという7).コリネバクテリウムによる前眼部感染症は,いくつかの臨床所見のパターンを示す.たとえば,①ニューキノロン点眼使用中にもかかわらず,眼脂の増強を認める結膜炎,外眼角炎.②瘡蓋状あるいは生クリーム状に角膜上を覆う白色病変を呈する角膜炎.図1および図3は軽度の炎症を伴う白色沈着物を呈したコリネバクテリウム角膜炎の患者である.③その他,まれではあるが,強膜炎様,ブドウ球菌アレルギー様,さらに輪状膿瘍を呈する報告もある3 5).いずれもその病原性の弱さから,激烈な炎症所見は示さない.コリネバクテリウムによる前眼部感染症を疑えば,スメアでグラム陽性桿菌(図4)を探すとともに,検査室にコリネバクテリウム疑いであることを伝え,菌の同定を依頼する.確定すれば,ニューキノロン投与を中止のうえ,エリスロマイシン,ミノサイクリン,セフェムの抗生物質にて加療すれば,速やかに治癒する.文献 1) Joussen AM, Funke G, Joussen F et al:Corynebacterium macginleyi:a conjunctiva speci c pathogen. Br J Ophthal-mol 84:1420-1422, 2000 2) 鹿島佳代子,百瀬隆行,石引美貴ほか:角膜移植片に起こったコリネバクテリウム感染症の 1 例.あたらしい眼科 13:1587-1590,1996 3) 柿丸晶子,川口亜佐子,三原悦子ほか:レボフロキサシン耐性コリネバクテリウム縫合糸感染の 1 例.あたらしい眼科 21:801-804, 2004 4) Caronia R, Liebmann J, Speaker M et al:Corynebacterium scleritis. Am J Ophthalmol 117:405-406, 1994 5) 岸本里栄子,田川義継,大野重昭:多剤耐性の Corynebac-terium species が検出された角膜潰瘍の 1 例.臨眼 58:1341-1344, 2004 6) 泉研一,秦野寛,伊藤典彦ほか.長期局所免疫抑制に起因すると考えられたコリネバクテリウムによる両眼性外眼角炎の一例.眼紀 57:205-208, 2006 7) Eguchi H, Kuwahara T, Miyamoto T et al:High-levelツꀀ uoroquinolone resistance in ophthalmic clinical isolates belonging to the species Corynebacterium macginleyi. J Clin Microbiol 46:527-532, 2008表 1 結膜炎患者に対する第三世代ニューキノロン投与前後の培養結果年齢・性別初診時培養NQ 点眼投与 1 週後64 歳・女性肺炎球菌コリネバクテリウム( )55 歳・女性肺炎球菌( )77 歳・女性緑膿菌( )54 歳・男性非溶血レンサ球菌コリネバクテリウムコリネバクテリウム79 歳・女性アシネトバクターコリネバクテリウムコリネバクテリウム86 歳・男性シトロバクター( )60 歳・女性黄色ブドウ球菌( )74 歳・女性肺炎球菌・表皮ブドウ球菌コリネバクテリウムコリネバクテリウム77 歳・女性レンサ球菌コリネバクテリウムa溶血レンサ球菌76 歳・女性コリネバクテリウムコリネバクテリウム77 歳・女性レンサ球菌・表皮ブドウ球菌コリネバクテリウム( )NQ:ニューキノロン.

コンタクトレンズ関連角膜感染症-アカントアメーバ角膜炎-

2009年9月30日 水曜日

———————————————————————- Page 10910-1810/09/\100/頁/JCOPY的新しい疾患である.長年まれな疾患として扱われてきたが,米国 Willsツꀀ Eyeツꀀ Hospital にて 2004 年以降急激に患者数が増加している3)など AK の増加傾向が明らかになっているのが実態であろう.II症例調査から考える日本コンタクトレンズ学会および日本眼感染症学会主導で CL 関連角膜感染症全国調査が行われた.この結果の詳細については別項を参照していただきたいが,その概略について簡単に触れたい.本調査はコンタクトレンはじめに昨今,アカントアメーバ角膜炎(AK)症例数の増加が叫ばれている.コンタクトレンズ(CL)関連角膜感染症のなかでも最も治療に抵抗するものであり,また重篤な視機能の低下を招く可能性の高いものとして注目すべき疾患である.本稿では,AK の臨床所見,治療方針とともに発症に至るバックグラウンドとしてのコンタクトレンズケアについても言及したい.Iアカントアメーバとは土壌,沼地や池などの淡水,プールの水など自然界に広く生息する自由生活性(free living)のアメーバである.われわれの生活環境においては室内の埃,公園などの砂場,地下水,洗面周りにも存在しうるものである.栄養体(trophozoite)とシスト(cyst)の 2 つの形態をとりうる.シストは耐乾性・耐熱性・耐薬品性をもち,AK が治療に抵抗性である理由の一つと考えられている.栄養体は体長 20 40 μm,シストはやや小さく直径 10 20 μm である.シストは角膜上皮細胞の細胞核とよく似た大きさであり,鑑別に留意すべきである.臨床検体を NN 寒天培地に大腸菌の死菌を塗布したもので培養を行うと,偽足を出しながら移動する栄養体を観察することができる(図 1).アカントアメーバが角膜炎をひき起こすことについては 1974 年に Naginton ら1)によって,またわが国では1988 年石橋ら2)によってはじめて報告されている比較(41)ツꀀ 1199ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 790 0826ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 1ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 特集●コンタクトレンズ関連角膜感染症 あたらしい眼科 26(9):1199 1203,2009コンタクトレンズ関連角膜感染症 ─アカントアメーバ角膜炎─Contact Lens-Related Corneal Infections ─ Acantamoeba Keratitis ─宇野敏彦*図 1アカントアメーバ栄養体NN 寒天培地に大腸菌の死菌を塗布したもので角膜擦過物を培養.大腸菌を貪食しながら図中の左から右へ移動している様子が観察された.———————————————————————- Page 21200あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(42)ているものと考えられる.IIIアカントアメーバの同定角膜上皮を 離除去したものを直接検鏡と分離培養を併用してアメーバの同定を行う.染色法としてパーカーインク KOH 法・グラム染色・ギムザ染色・ファンギフローラ染色などがあげられる.AK 症例の角膜擦過物には比較的健常な角膜上皮細胞が多数存在し,そのなかに“埋もれた”アメーバを発見する必要がある.角膜擦過物のスライドガラス上に厚く塗抹されている場合,グラム染色などではアメーバが染色された角膜上皮にまぎれてしまう恐れがある.特にアメーバシストと上皮細胞核はサイズが似通っているため鑑別に注意する必要がある.パーカーインク KOH 法は角膜上皮をいわば溶解させてアメーバを観察する方法である5).きわめて有用な方法であるが,本法に適したパーカーインクの入手が困難になっているのは残念である.ファンギフローラ染色は観察に蛍光顕微鏡が必要であるが,角膜上皮内に潜んだアメーバも染色され,アメーバを見つけやすい方法と思われる.最近筆者らはシート状に 離した角膜上皮全層をなるべく損傷しないように凍結ブロックに包埋し,ズ装用が原因と考えられる角膜感染症で入院治療をした症例を対象としたものである.平成 19 年 4 月から 1 年間の中間報告4)では男性 129 例,女性 104 例,合計 233例が集積された.年齢は 9 90 歳(平均 28 歳)であった.角膜擦過物の塗抹検鏡にて 40 例,分離培養では 32例でアカントアメーバが確認されている.これは緑膿菌などのグラム陰性桿菌の検出頻度とほぼ同程度であった.入院加療が必要と判断された重篤な CL 関連角膜感染症では,アカントアメーバが最も頻度の高い原因微生物であるという事実には驚愕させられる.本調査対象のなかで頻回交換ソフトコンタクトレンズ(FRSCL)などレンズケアを行った後再装用をする SCLの装用者は 173 例(CL の種類が把握されている 216 例の 80.0%)であった.このほかにカラー CL 装用者が 11例みられていた.CL の洗浄については毎日に加え週 4 6 回行っているものを含めても 107 例であり,レンズケアを必要とされるユーザーの数を大幅に下回っていることが確認できた.さらにこすり洗いなど日常の CL ケアが不足していること,定期検査を受けていないことなど,CL ユーザーの杜撰な実態も浮き彫りになっており,アカントアメーバ角膜炎発症のバックグラウンドになっ図 2ファンギフローラ染色所見a:蛍光所見,b:対比染色所見(矢印はaの矢印に相当する).蛍光所見と対比染色所見を見比べることにより,アメーバの上皮内での形態を明瞭に観察することが可能である.ab———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,20091201(43)V臨床所見1. 初期特徴的な所見として,角膜上皮および上皮下混濁・放射状角膜神経炎・偽樹枝状角膜炎があげられる.角膜上皮および上皮下混濁は初期の症例のほとんどでみられるものである.中央部角膜の淡い表層性の小浸潤であり,多発していることが多い.ちょうど流行性角結膜炎の後にみられる表在性点状角膜炎と酷似している(図 3).放射状角膜神経炎は AK に最も特徴的なもので10 15 μm の凍結切片作製ののちファンギフローラ染色を行う方法を考案した6).やや煩雑なプロセスではあるが,角膜上皮内でのアメーバの状態を自然な形で明瞭に観察できること,連続切片を作製することにより見落としが少なくなること,上皮内の栄養体の観察も可能なことが利点としてあげられる.ファンギフローラ染色は対比染色としてヘマトキシリン染色が行われる.蛍光顕微鏡での所見と対比染色での染色像を比較することにより異物による偽陽性を避けることができる(図 2).分離培養は大腸菌(あらかじめ熱処理を行った死菌)などを塗布した NN 寒天培地などを使用する.培養開始数日後にアメーバが観察される.最初はアメーバ栄養体が盛んに大腸菌を貪食しながら遊走する様子がみられ,その後培養条件の悪化とともにシスト化したものが観察できる.なお,詳細については成書を参照されたい.IVAKの病態・病期感染性角膜炎ガイドライン7)に AK について詳細な記載がある.本項ではこれに準じて解説を試みたい.AK は本来外傷を契機として発症するものである.しかし現状では AK 症例のほとんどが CL 装用者である.CL およびそのケースは緑膿菌など,環境に存在する細菌に汚染されやすいが,普遍的に存在しうるアカントアメーバも手指などを介して CL ケースに混入すると考えられる.アカントアメーバは細菌を「栄養源」として増殖する.CL ケアが杜撰であると CL 自体に大量のアカントアメーバが付着し感染源となる.CL 装用による機械的刺激などによる角膜上皮障害が起こるとそこからアメーバが侵入し感染が成立する.AK の進行はきわめて緩徐である.感染の成立した中央部角膜から周辺部へと拡大するが輪部まで到達することは基本的にない.角膜深層への進展はさらに時間を要する.AK では経過とともに特徴的臨床所見を呈する.石橋ら8)は“初期-移行期-完成期”,続いて塩田ら9)は“初期-成長期-完成期-消退期-瘢痕期”の病期分類を提唱している.本項では臨床的に接する機会の多いものとして初期と完成期について述べることとする.図 3角膜上皮および上皮下混濁中央部角膜に散在性の上皮 上皮下混濁(浸潤)を認める.本症例は比較的細く明瞭な放射状角膜神経炎もみられる.図 4放射状角膜神経炎11 時方向はやや太い数珠状の神経炎が認められる(5 時方向の周辺部角膜にも存在).———————————————————————- Page 41202あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(44)る11).自験例においても輪状浸潤はインテンシブな治療にもかかわらず輪状膿瘍に移行し,輪部からの強い血管侵入,隅角閉塞をきたすものが認められた.移行期(成長期)で取り上げられている“リング状浸潤(輪状潰瘍)”は短期間で円板状となるとされている12)が,完成期における輪状浸潤(膿瘍)との鑑別は今後の課題と思われる.VI治療方針AK の診断が得られれば病期にかかわらず最大限の治療を行っていく必要がある.アカントアメーバに対して即効性のある薬剤はないと考え,物理的な病巣除去も躊躇なく行っていく必要がある.点眼加療の中心はクロルヘキシジンなどの消毒薬である.ヒビテンRなどの商品名で術野の消毒などで汎用され多種類存在するが,そのなかでも 0.02%(あるいは0.05%)で結膜 の洗浄の適応をもったものが使用可能である.このほか PHMB(ポリヘキサメチレンビグアナイド)も使用可能である.これはコンタクトレンズ消毒目的で多目的用剤(MPS)にも低濃度ながら含まれているものである.0.02%程度に調整して使用する.アゾール系の薬剤も自家調整のうえ,眼局所に対して使用する.教科書的にはフルコナゾール(原液をそのまま使用)・ミコナゾール(生理食塩水などで 10 倍希釈しある.輪部から角膜中央部まで連続的につながるものもあるが,多くは輪部に長さ 2 3 mm 程度,線状あるいは数珠状の浸潤である(図 4).周辺部ということもあり,意識的に探さないと見落としがちな所見でもある.偽樹枝状角膜炎は点眼薬毒性による上皮障害でみられるものとよく似ている(図 5).アカントアメーバから放出される物質が角膜上皮細胞に障害を与えるという報 告10)があるが,アポトーシスその他の機序で角膜上皮の脱落が亢進し,中央部に向かう“上皮の流れ”とともに偽樹枝状角膜炎としての所見が現れる.帯状ヘルペスによる偽樹枝状角膜炎とは起こっている機序がまったく異なっていることに留意すべきである.2. 完成期輪状浸潤と円板状浸潤がある.両者とも角膜中央を中心とした横長楕円の形態をとり,実質内に浸潤と浮腫を伴っている(図 6).浸潤直上の上皮は部分的あるいは全面的に欠損していることが多い.完成期の実質浸潤をよく観察すると小さな顆粒状の浸潤が多数集合したようにみえる.角膜ヘルペスでも円板状角膜炎という類似した所見があるが,ここでは角膜実質内の浸潤は均一であり,鑑別の重要なポイントであろう.完成期における輪状浸潤は予後不良と考えられてい 図 5偽樹枝状角膜炎点状表層角膜症とともに中央部角膜を横に走る偽樹枝状角膜炎を認める.本症例のように,点眼薬毒性による上皮障害と鑑別が困難なものも存在する.図 6円板状浸潤中央部角膜に浮腫と浸潤を認める.顆粒状の小浸潤が多数集合しているようにみえる.———————————————————————- Page 5あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,20091203(45)いとされているが,無血管の角膜への移行性には不明な点が多い.完成期で角膜実質から前房に炎症の主座がある場合,角膜内への血管侵入があるなど,症例に応じて全身投与を考慮していくべきであろう.文献 1) Nagintonツꀀ J,ツꀀ Watsonツꀀ PG,ツꀀ Playfairツꀀ TJツꀀ etツꀀ al:Amoebicツꀀ infec-tion of the eye. Lancet 2:1537-1540, 1974 2) 石橋康久,松本雄二郎,渡辺亮ほか:Acanthamoeba keratitis の 1 例.日眼会誌 92:963-972, 1988 3) Thebpatiphat N, Hammersmith KM, Rocha FN et al:Acanthamoeba keratitis:a parasite on the rize. Cornea 26:701-706, 2007 4) 福田昌彦,コンタクトレンズ関連角膜感染症全国調査委員会:コンタクトレンズ関連角膜感染症の実態と疫学.日本の眼科 80:693-698, 2009 5) 石橋康久:パーカーインク染色.眼感染症の謎を解く.眼科プラクティス 28:230-231, 2009 6) 白石敦:凍結切片法.眼感染症の謎を解く.眼科プラクティス 28:232, 2009 7) 井上幸次,大橋裕一,浅利誠志ほか:感染性角膜炎診療ガイドライン.日眼会誌 111:769-809, 2007 8) 石橋康久,木村幸子:アカントアメーバ角膜炎の臨床所見─初期から完成期まで─.日本の眼科 62:893-896, 1991 9) 塩田洋,矢野雅彦,鎌田泰夫ほか:アカントアメーバ角膜炎の臨床経過の病期分類.臨眼 48:1149-1154, 1994 10) Hurtツꀀ M,ツꀀ Neelamツꀀ S,ツꀀ Niederkornツꀀ Jツꀀ etツꀀ al:Pathogenicツꀀ Acan-thamoeba spp secrete a mannose-induced cytolytic pro-tein that correlates with the ability to cause disease. Infect Immun 71:6243-6255, 2003 11) Porツꀀ YM,ツꀀ Mehtaツꀀ JS,ツꀀ Chuaツꀀ JLツꀀ etツꀀ al:Acanthamoebaツꀀ kerati-tisツꀀ associatedツꀀ withツꀀ contactツꀀ lensツꀀ wearツꀀ inツꀀ Singapore.ツꀀ Amツꀀ J Ophthalmol 148:7-12.e2, 2009 12) 太刀川貴子,石橋康久,高沢朗子ほか:初期から完成期に至るまで経過観察できたアカントアメーバ角膜炎の 1 例.眼紀 46:1035-1040, 1995て用いる)が取り上げられてきたが,フルコナゾールがホスフルコナゾールに切り替えとなったり,ミコナゾールの採用中止など,個々の医療施設の事情もあり,現在ではボリコナゾールが主体となっている.ボリコナゾールは 1%で調整して眼局所に使用するという報告があり汎用されているが,眼刺激感は強く濃度について再検討が必要と思われる.このほか市販されている抗真菌薬であるピマリシンも有効と考えられている.点眼製剤は眼瞼炎などの副作用が強いので眼軟膏製剤を 1 日 5 回を目安に使用するとよい.なお,当然のことながら AK に対して公的に承認された治療薬およびその投与方法は存在しない.各施設の倫理委員会の承認を受ける,インフォームド・コンセントを取るなど適切な対応が必要である.AK において特に初期は角膜上皮内にアメーバが存在しており,角膜上皮 離はきわめて有効な治療法である.アメーバの存在する病的な上皮は基底膜との接着は緩く,簡単に がれることが多い.上皮 離の範囲は病的な上皮を含めて十分広くとったほうが望ましい. 離後の上皮の修復は比較的速やかである.上皮欠損が修復すると上皮内の浸潤が再び増加してくる.これは再度の擦過を行うサインとなる.重症症例では角膜実質への薬剤移行性を高める目的もあり週 2 回程度上皮 離を行う必要がある.一方,比較的軽症のものでは診断目的を含めた 1 回の上皮 離で治癒させることも不可能ではなく,柔軟な対応が必要と思われる.抗真菌薬の全身投与は議論のあるところである.イトラコナゾール,ミコナゾールは元来眼部への移行性が低い.ボリコナゾールは眼部(網膜など)への移行性が良

コンタクトレンズ関連角膜感染症-細菌感染を中心に-

2009年9月30日 水曜日

———————————————————————- Page 10910-1810/09/\100/頁/JCOPYI現代社会におけるCL関連細菌性角膜 感染症の位置づけ 1. 地域からみた細菌性角膜感染症の最近の傾向細菌性角膜感染症の起因菌には,時代による変遷や地域差が存在する.たとえば,発展途上国では依然グラム陰性菌が多いのに対し,日本,フランス,米国などの先進国ではグラム陰性菌の割合が減少してきている1 4).同じ国内においても,都市部と地方とでは角膜感染症発症の誘因や起因菌の傾向が異なってくる.たとえば,わが国で 2003 年に行われた日本眼感染症学会の主導による感染性角膜炎の全国調査結果5)では,角膜潰瘍患者由来のグラム陰性菌の割合は,平均 39%であったのに対し,筆者らの施設からの東京での検出率は 18%1)と,全国平均に比べ低い傾向にあった.首都で低率という傾向は上述のパリからの報告でも同様で,グラム陰性菌の割合は 17%であった3).先進国で近年,その誘因として最も頻度の高いものが,残念ながらわれわれ人類の文明の利器である CL なのである.よって,それはとりもなおさず CL 人口の多い地域に特有の傾向ともいえる.2. 角膜感染症のなかで重大さを増すCL関連角膜 感染症角膜感染症例全体のなかに占める CL 装用者の割合は,筆者らの施設からの報告1,2)およびパリからの報告3)はじめにわが国のコンタクトレンズ(CL)の歴史は 50 年以上に及び,その間に装用者数は増加の一途を辿り,現在では 1,500 万人以上と,日本の人口の 1 割を超えたといわれている.その背景には,さまざまな種類の素材の開発,および使い捨てレンズをはじめとする装用方法の多様化のほか,各種特殊レンズの登場も相まって,より多くの人々がその恩恵にあずかるようになったことがあげられる.しかし,CL を取り巻く状況を一言でいうならば,「多種多様化」であり,ともすればユーザーのみならず,医療機関側までもが混乱しかねないのが現況といえる.そこには,装用者数の増加,CL の種類や材質の増加,ニーズの多様化,ケア用品・ケア方法の多様化,法律改正に伴った CL 販売方法の変化や診療報酬上の改定,さらにはそれらが複雑に絡み合って生じると考えられる CL による眼合併症,とりわけ,CL 関連角膜感染症の増加といった現実が垣間みられる.そこで,本稿では,I現代社会における CL 関連細菌性角膜感染症の位置づけ,II角膜感染症のリスクファクターとしての CL,IIICL 関連角膜感染症の現状と対策,IV有効な予防法の確立への新たな提言,の 4項目に分け,何故 CL 眼合併症は減らないのか? という疑問も掘り下げて考察してみたい.(35)ツꀀ 1193ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 410 2295ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 1129ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 特集●コンタクトレンズ関連角膜感染症 あたらしい眼科 26(9):1193 1198,2009コンタクトレンズ関連角膜感染症─細菌感染を中心に─Contact Lens-Related Corneal Infections ─ Bacterial Infections ─土至田宏*———————————————————————- Page 21194あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(36)起因する角膜感染症例(図 1)が増加している6).人間にとって便利なものは世の中に普及するわけであるが,自動車運転と同様,規則を守らなければ人体に危険を及ぼす.それ故,厚生労働省は平成 17 年に改正薬事法を施行し,CL を高度管理医療機器にランク付けしたのは記憶に新しい.2. 角膜生理学からみたリスクファクター角膜上皮は常に外界と接していて,眼では最も異物や病原体に接しやすい場所である.にもかかわらず,健常人で角膜感染症が生じないのは,角膜上皮のバリア機能が強固であることや,涙液中の分泌型 IgA(免疫グロブリンA)やラクトフェリンなどが感染防御の役割を演じているためと考えられている.事実,真菌に汚染されたソフト CL を家兎に装用させても,それだけでは角膜真菌症が発症しなかったという報告がある7).逆にいえば,角膜上皮バリア機能の破綻が感染性角膜炎発症の条件と考えることができ,CL 装用によりそれがひとたび破綻すると,感染が成立してしまう可能性がある.一方,CL の劣化や長時間にわたる CL 装用,CL の連続装用などにより角膜への酸素供給が減少すると,角膜代謝に影響が生じ,嫌気性代謝により乳酸が蓄積し,実質浮腫や内皮細胞への悪影響を及ぼし,角膜上皮細胞へは細胞分裂速度低下をもたらす結果,上皮のバリア機能破綻をきたしうる.最近の研究では低酸素環境下の角膜上皮において,自然免疫の基本的ネットワークとして注目されている Toll-likeツꀀ receptor(TLR)の発現の低下がもたらされ,感染防御機構の破綻につながる可能性も示唆されている8).こうした条件下で,CL の傷,汚れ, tting 不良や固着,ケア用品による障害,涙液分泌減少,涙液層破壊時間(tearツꀀツꀀ lmツꀀ breakツꀀ upツꀀ time)短縮などにより角膜上皮バリアの破綻をもたらされ,さらにレンズのケア不足やケア不十分,手指の洗浄不足,レンズケースの汚染などにより眼表面への病原体の付着が生じるなどの,これらの悪条件が重なることで角膜感染症発症に陥るものと考えられる.ともにそれぞれ 54.5%,50.3%と,いずれも過半数を占めていた.これら 2 都市に共通するのは,ともに先進国の首都であり,オフィスワーカーが多いこと,CL ユーザーが多いことなどがあげられる.特にこの自験例では,CL 装用が 2 位以下の糖尿病,眼手術後,ステロイド投与などを大きく引き離していた.つまり,CL 装用は現在のわが国における角膜感染症発症の最大のリスクファクターといえる.II細菌性角膜感染症発症のリスクファクター としてのCLツꀀ 1. 社会的背景からみたリスクファクター上述のごとく,いまや CL 装用は先進国の角膜感染症のリスクファクターとして最も頻度の高いものになってしまった.その背景には,CL 装用人口の増加や,装用開始年齢の低年齢化,使い捨て CL や頻回交換 CL を手軽に使えるものと誤解しての誤使用やケア不足,ケア不十分などが考えられる.また,アクセサリーとしての度なし CL 装用の増加もその一因に考えられる.その一方で,CL の購入方法にも問題があるケースが多い.医師の処方なしでインターネットなどで購入し,CL 眼障害をひき起こすケースも少なくない.使い捨て CL や頻回交換 CL の登場で減少すると思われてきた CL 眼合併症は,逆に増加傾向にあり,皮肉にも特にこれらの CL に図 1頻回交換型SCL装用者にみられた角膜潰瘍例本例は,シリコーンハイドロゲルレンズを装用していた.高酸素透過性であっても過信できない.角膜擦過培養で表皮ブドウ球菌が検出された.———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,20091195(37)は 3 例全例がカンジダ属で,アカントアメーバは,水道水で洗浄していた従来型 SCL 装用例から 1 株検出された.これら検出病原体を装用レンズ別にみると,真菌がIIICL関連角膜感染症の現状と対策CL 関連角膜感染症の現状を知る際に,角膜感染症全体における最近の傾向も知っておく必要がある.1. 細菌性角膜感染症起因菌の最近の傾向細菌性角膜感染症の 4 大起因菌は,黄色ブドウ球菌,肺炎球菌,緑膿菌,モラクセラといわれてきた9)が,最近ではその傾向が変わってきているようである.筆者らの施設における 1999 年から 2003 年までの感染性角膜潰瘍例 122 例 123 眼からの培養検査結果1)では,上位 4位までは,全 102 株中,表皮ブドウ球菌 29 株(28.4%),黄色ブドウ球菌 14 株(13.7%),コリネバクテリウム 13株(12.7%),セラチア 8 株(7.8%)であった(図 2).反対に,肺炎球菌は 4 株(3.9%)と低率で,モラクセラは検出されなかった.もっとも,モラクセラは培養されにくい菌であるので,それが反映されていない可能性は否定しきれないものの,近年は細菌性角膜感染症の検出菌にも変化が生じている可能性がある.その一因として,CL 装用者における角膜感染症の症例数増加が考えられる.病原体側の変化としては,薬剤耐性の増加や菌交代現象などによる起因菌種の変化などが考えられる.2. CL関連角膜感染症起因菌の最近の傾向1999 年から 2003 年までの 5 年間に角膜感染症と診断した自験例 122 例 123 眼のうち(角膜ヘルペスは除外),CL 装用例は 66 例 67 眼(54.5%)で,過半数を占めた1,2).平均年齢は全体では 45±21(標準偏差)歳であったのに対し,CL 関連角膜感染症は 37±20 歳と若く,男女差は認めなかった.CL 装用人口は女性が多いことを勘案すると,男性で重篤例が多いといえる.装用レンズの内訳は従来型ソフト CL(SCL)が最も多く,ハード CL(HCL),頻回交換型 SCL,1 週間交換型SCL,毎日交換型 SCL と続いた2)(図 3).検出病原体のうち,最も多くみられたのはグラム陽性菌で 3/4 以上を占め,うち表皮ブドウ球菌が最も多く,黄色ブドウ球菌,コリネバクテリウム属の順に続いた(図 4).ついで,グラム陰性菌が 2 割弱を占め,セラチア属,アシネトバクター属,緑膿菌が検出された.真菌従来型SCL 25(37.3 )HCL 19(28.4 )頻回交換型SCL 17(25.4 )1週間交換型SCL 3(4.5 )毎日交換型SCL 3(4.5 )図 3CL関連角膜感染症例の装用CLの種類ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 菌ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 菌ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ うツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 菌ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 菌ツꀀツꀀツꀀツꀀ 菌ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ ントツꀀ ーツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ ?????????????属(2株)青:グラム陽性菌赤:グラム陰性菌黄:真菌黒:アカントアメーバその他のCNS (29株)その他のグラム陽性菌(9株)その他のグラム陰性菌(3株)図 2角膜感染症例から検出された病原体ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 性菌ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 性菌ツꀀツꀀ 菌ツꀀツꀀツꀀ ントツꀀ ーツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 菌ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 菌ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 菌ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 菌ツꀀツꀀツꀀツꀀ 菌ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ ントツꀀ ーツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ の のツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 図 4CL関連角膜感染症例から検出された病原体———————————————————————- Page 41196あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(38)低下していた1)ことから,検体採取は抗菌薬投与前に行うべきである.IVより有効な予防法確立への提言これほどまでに医学の進んだ現代において,何故 CL関連眼合併症は減らないのか? と疑問に思う医療人は,筆者だけではないと思われる.最近の調査によると何らかの CL 眼合併症経験の頻度は 10%との報告があり11),単純計算から年間約 150 万人と推定されるが,これは実に,警察庁発表の交通事故発生状況における年間の交通事故者数の約 100 万人よりも多い数字である.交通事故の原因は,認知科学者のノーマンによるエラーの分類12)によれば,ついうっかり交差点に進入したり,一瞬のわき見やうとうとしていた,注意力散漫や無意識の状態などで生じる「ヒューマンエラー」によるものと,スピード違反や飲酒運転など,違反者が違反とわかっていて事故を起こす「ルール違反」とに分けられる.この分類を CL 眼合併症の原因にあてはめると,「ヒューマンエラー」には,ついうっかり期日が過ぎていた,ついうっかりつけたまま寝てしまった,左右の入れ間違いなどが該当し,「ルール違反」には,洗浄を怠った,もったいないと思い故意に過装用したり,使い捨てレンズを再使用するといった事例が該当する13).ヒューマンエラーは,厳密には単なるうっかりミスのことではなく,人間の本来もっている特性が人間を取り巻く広義の環境とうまく合致していないために,結果として誘発されたものと定義されている14,15).そのエラーを誘発する原因を,人間の特性や心理学的側面をも省みて調査し,その防止策を見出すべきものとある.すなわち,エラーを犯さないようにシステム改善の余地があるものをいう.ここで,CL 眼合併症が減少すると期待されて登場した,使い捨て SCL や頻回交換型 SCL を例にあげるが,これらは皮肉にも実際にはその装用者で眼合併症が増加している6).その原因として,ヒューマンエラーやルール違反によるものが多いと考えられる.最近の筆者らの教室におけるレンズ装用中止に至った症例の検討では,装用者の絶対数が最も多かった毎日交換型 SCL よりも頻回交換型 SCL のほうが約 2 倍頻度が高く,角膜潰瘍ソフトレンズの連続装用と 1 週間交換型,すなわち,両者とも連続装用の SCL のみで検出されている点が目につくことから,連続装用はリスクファクターと思われた(図 5).3. 最近の傾向を踏まえたうえでの治療戦略のための指標前項で示した自験例における視力予後を,生体から得られた角膜擦過物または眼脂培養の結果を参考に治療を行えた群と,培養結果が陰性であった群とで比較したところ,培養陽性群のほうが視力予後が良好であった2).日常臨床の場で困ることの多い角膜擦過培養結果が陰性であった場合,CL またはレンズ保存液からの検出菌をターゲットに治療を行ったほうが視力改善傾向を認めたことから,レンズ自体やレンズ保存液の培養結果は大いに参考にすべきと思われる.これまで述べてきたように,場所,時代ともに起因菌の変遷が生じうるものであるため,画一的な治療はそぐわないと思われ,起因菌に応じた個別の治療が重要と考える.そのための鉄則は,はじめに角膜所見や経緯などから起因菌を推定し,ついで同定した菌に対して抗菌作用のある抗菌薬を用いて治療を行うことである10).また,検体採取時に抗菌薬既投与であった群と未投与群との間での病原体検出率の比較では,未投与群では検出率が 2/3 であったのに対し,既投与群では約半数にまで青:グラム陽性菌赤:グラム陰性菌黄:真菌黒:アカントアメーバ連続装用SCL従来型SCLHCL(数字は検出株数)1週間交換型頻回交換型SCL毎日交換型SCLは未検出411811133341図 5装用レンズ別検出病原体———————————————————————- Page 5あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,20091197(39)わざるを得ない18)とも言える.2)に関しては,たとえば SCL のケアにおいて,1 液ですべてこなせるのがうたい文句の MPS(多目的溶剤)がそれに該当しそうに思われるが,消毒効果が高いほど細胞毒性が強く,細胞毒性が弱いものほど消毒効果が弱い,といったジレンマがあり,完璧ではない.このあたりは企業による開発努力に期待すべきところであろう.近年,レンズケア剤とレンズ,眼表面との相互作用や相性の問題も指摘されており,各個人に合ったケア剤を見つけたらそれを使い続けるのがポイントといえる.つぎに重要なのは,被害が起きた際の拡大防止策であり,これには,3)エラーの早期発見・修正と,4)被害を最小とするために備えることとある17).これらを CL装用の場におきかえると,異常時の早期受診と定期検査,およびそのための患者教育が該当する13).ルール違反にあたる事項はこれとは別に,厳禁であることを再教育すべきと思われる.以上をまとめると,角膜感染症を含めた眼合併症発症防止のために目指すべきものとして,1: もっとわかりやすく,ヒューマンエラーの落とし穴の入り込む余地がないシステム構築を,メーカー・行政に要望し,2: どんなミスが生じているかそのためのデータを集発症率も頻回交換型 SCL のほうが高率であった(データ未発表).これら両レンズの最大の違いは,レンズケアの必要性の有無である.レンズケアの必要なレンズ装用の各手順において,入り込む余地のある失敗は各ステップで非常に多い(図 6)13).一方,ケアの不要な毎日交換型の場合,失敗の入り込む余地は図 6 の網掛け部分のみとなり,かなり低減される.また,コールド消毒時のこすり洗いの有無による頻回交換型レンズ装用者の眼合併症発生率の比較では,こすり洗いをしない群のほうが高率に角膜障害を生じていた16)ことから, レンズケアの際にこすり洗いを忘れないことが重要であるといえる.反対に,こすり洗いを忘れたり,不十分であると角膜障害発生率が増加すると思われる.これらから,レンズケアができない,あるいはうまくいかない装用者には,迷わず毎日交換型を勧めるべき,という提言が可能である.その裏づけとして,「医療におけるヒューマンエラー」の著者,河野龍太郎氏がヒューマンエラー防止策として提唱する 4 項17)が,CL の領域にもそのまま該当すると思われる.まずはじめに,1)作業の数を減らすこと(究極はやめてしまうこと),2)各作業でのエラー発生確率を低減することとある.1)に関しては,すでに毎日交換型レンズで達成していると思われるが,それでもエラーやルール違反をくり返す者に対しては,CL 禁忌といツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 離ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ tツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 図 6 CL装用の各手順において入り込む余地のある失敗〔文献 13 の図 2 を改変〕網掛け部分は,毎日交換 SCL でも起こりうるヒューマンエラー.———————————————————————- Page 61198あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(40)gins J, Traux D, Eye Infections, Blindness and Myopia. p101-118,ツꀀ Nova Science Publishers, USA, 2009 5) 感染性角膜炎全国サーベイランス・スタディグループ:感染性角膜炎全国サーベイランス─分離菌・患者背景・治療の現況─.日眼会誌 110:961-972, 2006 6) 土至田宏,本田理峰,岩竹彰ほか:入院を要したコンタクトレンズ関連感染性角膜潰瘍例の最近の傾向.臨眼 63(9)(印刷中) 7) 大橋裕一,鈴木崇,原祐子ほか:コンタクトレンズ関連細菌性角膜炎の発症メカニズム.日コレ誌 48:60-67, 2006 8) 石橋康久,松本雄二郎,河野恵子ほか:角膜真菌症発症におけるコンタクトレンズの関与.第 1 報健常角膜の場合.日コレ誌 29:294-297, 1987 9) 秦野寛:「起因菌は何か」の考え方.あたらしい眼科 19:979, 984, 2002 10) 日本眼感染症学会感染性角膜炎診療ガイドライン作成委員会:感染性角膜炎診療ガイドライン.日眼会誌 111:769-809, 2007 11) 医療対策部:コンタクトレンズによる眼障害アンケート調査の集計結果報告(平成 13 年度).日本の眼科 73:1381-1384, 2002 12) ノーマンツꀀ DA(野島久雄訳):第 5 章ツꀀ 誤るは人の常.誰のためのデザイン?認知科学者のデザイン原論,p169-228, 新曜社,1990.(原書:Norman DA:The Psychology of Everyday Thing. Basic Books Inc., New York, 1988) 13) 土至田宏:ヒューマンエラーとレンズケア.日コレ誌 50:210-214, 2008 14) 河野龍太郎:3.ツꀀ これまでの考え方とエラー発生のメカニズム.医療におけるヒューマンエラー,p22-27,医学書院,2004 15) 芳賀繁:2.ツꀀ ヒューマンエラーのメカニズム.大山正,丸山康則編,ヒューマンエラーの科学,p23-46,麗澤大学出版会,2004 16) 村上晶,土至田宏:使い捨てソフトコンタクトレンズ使用者のレンズ取り扱い状況.日コレ誌 47:189-192, 2005 17) 河野龍太郎:7.ツꀀ ヒューマンエラー対策の戦略と戦術.医療におけるヒューマンエラー,p61-87,医学書院,2004 18) 佐渡一茂:コンタクトレンズの種類と適応.眼科診療プラクティス 94,はじめてのコンタクトレンズ診療,p24-27,文光堂,2003め(これはすでに日本コンタクトレンズ学会感染性角膜炎全国調査として昨年から着手されており,結果に期待できると考える),3: ヒューマンエラー・ルール違反防止のための患者教育,定期検査の施行や,CL に関わるすべての施設・行政による患者教育の,3 つに分けてのエラー防止策が必要と思われる.これらのすべてを分けて行わないと,いつまでもエラーをおかした人間だけが問題視され,有効なエラー防止策やシステム改善が検討されずに終わってしまう恐れがあることを,この分野においても提言したい.おわりにCL 関連角膜感染症は,その原因,起因菌,頻度,社会的背景のいずれもが,時の流れとともに移り変わりつつある.その動向,ならびに解決策を常に注視することは,日々の臨床の現場において,目の前の患者に対して最善策を講じるために重要であると考える.本稿がその一助になれば幸いである.本稿の内容の一部は,第 45 回日本眼感染症学会総会(2008 年,福岡)において,2007 年度日本眼感染症学会学術奨励賞(三井賞)受賞講演「わが国におけるコンタクトレンズ関連感染性角膜潰瘍の動向」として発表した.文献 1) Toshida H, Inoue N, Kogure N et al:Trends in microbial keratitis in Japan. Eye Contact Lens 33:70-73, 2007 2) Inoue N, Toshida H, Mamada N et al:Contact lens-induced infectious keratitis in Japan. Eye Contact Lens 33:65-69, 2007 3) Bourcier T, Thomas F, Borderie V et al:Bacterial kerati-tis:predisposing factors, clinical and microbiological review of 300 cases. Br J Ophthalmol 87:834-838, 2003 4) Toshidaツꀀ H,ツꀀ Sutoツꀀ C:Ocularツꀀ bacterialツꀀ infections.ツꀀ Eds.ツꀀ Hig-

コンタクトレンズケースの微生物汚染

2009年9月30日 水曜日

———————————————————————- Page 10910-1810/09/\100/頁/JCOPYあるグラム陰性桿菌と,保存ケース内のアカントアメーバの存在には何らかの関係があるとも考えられる.したがって,保存ケースの微生物汚染状況は,CL 関連角膜感染症の発症に大きな影響を与える因子といえる.II眼表面から分離される菌とケースから 分離される菌は同一株か? 臨床的には,CL 関連角膜感染症において角膜擦過物・眼脂・結膜 拭い液など眼表面のサンプルから緑膿菌が分離され,同時に保存ケースからも緑膿菌が分離されると,迷うことなくそれら緑膿菌は同一株で,保存ケースから眼表面に持ち込まれたと判断される.しかし,一般的に使用されている簡易同定キットを用いた菌種同定の精度は必ずしも高くなく,診断法の限界を超えると菌種同定はできない.16S rRNA の塩基配列での菌種同定結果は,詳細かつ精度は高いが,それでも同一菌種での複数株が同じ株かどうかは検証できない.したがって前記の情報だけでは,単に眼表面のサンプルと,保存ケースから緑膿菌が分離されたとの情報にすぎず,それら緑膿菌が分子生物学的に同一株とは断言できない.緑膿菌には血清型(serotype)が少なくとも 14 種あり,遺伝子型(genotype)に至ると無数に存在する.土壌・淡水・海水などさまざまな自然環境から分離され,人間の居住空間では,台所・洗面所・風呂場など水場を中心とした湿潤環境から高頻度に分離される.さらに,それら多種多様の環境に適応するために,常に遺伝子変異をくIコンタクトレンズ関連角膜感染症と 保存ケース汚染ツꀀ かつてハードコンタクトレンズ(ハード CL)しかなかった時代も,さまざまな種類の CL・装用方法・ケア用品が利用できる現在も,CL 関連角膜感染症の起炎微生物は緑膿菌を中心としたグラム陰性桿菌である報告が多い.そして,感染症をきたした患者は,終日装用 CLの就寝時装用,ワンデイ CL の数日ないし数週間使用,保存ケース内液の交換をしない不適切なケア,などをしていることが多い.それらの事実は,CL 関連角膜感染症の発症は,レンズの種類にはさほど大きな影響は受けず,どちらかと言えば,装用者の装用・ケア方法の良し悪しに依存することを示唆しているともいえる.緑膿菌を中心としたグラム陰性桿菌は,原則として健常者の眼表面に常在していないため,CL 関連角膜感染症においてそれらの細菌が角膜擦過物や眼脂から分離された場合,CL 装用に伴って眼外から眼表面に持ち込まれているはずである.過半数の健常者にもあてはまることだが,CL 関連角膜感染症の患者の保存ケース内液を培養すると,緑膿菌を筆頭に多種類のグラム陰性桿菌が多量に分離される.したがって,CL 関連角膜感染症の起炎菌は保存ケース汚染菌であると推測される.わが国では,近年アカントアメーバ角膜炎の報告が増加しているが,アカントアメーバはグラム陰性桿菌や真菌を餌としている.まだ不明な点が多いが,保存ケース汚染菌で(29)ツꀀ 1187ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ Eツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ スツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ ンスツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 0 8503ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 3 18 15ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 特集●コンタクトレンズ関連角膜感染症 あたらしい眼科 26(9):1187 1192,2009コンタクトレンズケースの微生物汚染Microbial Contamination of Contact Lens Storage Case江口洋*———————————————————————- Page 21188あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(30)色体 DNA を制限酵素で切断し,その切断された DNA断片をアガロースゲル電気泳動により分離・染色することで DNA 断片を観察する方法である.細菌の染色体DNA から得られる DNA 断片は長く,通常の電気泳動では分離が困難であるため,特殊な電場の中で電気泳動り返している.したがって,環境から菌が混入しているのであれば,一つの保存ケースに複数の遺伝子型の緑膿菌が同時に混入している可能性は十分考えられる.人体に常在していない微生物による感染症の場合,感染ルートを明確にすることは,感染制御の観点から重要である.そのためには,まずは人体のサンプルから得られる菌と,それ以外(環境や医療器機)のサンプルから得られる菌の遺伝子型の相同性を検証しなければならない.CL 関連角膜感染症であれば,角膜・眼脂・結膜 拭い液など,眼表面サンプルから分離される細菌と,その装用者の保存ケースから分離される同種菌とが,分子生物学的に同じであることを証明しなければならない.臨床的には,ある菌種の複数株において,幾つかの抗菌薬に対する薬剤感受性のパターンが同じであれば,同一株であると判断されることが多い.しかし実際には,同じ「感受性:susceptible」,「耐性:resistant」にも幅があり,感受性の判定は同じでも最小発育阻止濃度(minimumツꀀ inhibitoryツꀀ concentration:MIC)の値は違うことがよくある.無論その場合は,同種菌であっても遺伝子型は異なることを意味する.前記のとおり,同種菌であれば,株は違えども薬剤感受性のパターンは類似することが多く,現時点で遺伝子型の違いが臨床経過を大きく左右すると考えて薬剤の選択をする必要はない.しかし緑膿菌では,元来持ち合わせている遺伝的要素を消去することなく,新たな遺伝的要素が加わることで,人体を含めた多種多様の環境に適応しているとも考えられている1).幾つかの遺伝子変異が重なった結果,ある種の薬剤に対する感受性が変化する可能性は否定できない.したがって,各種遺伝子タイピングの手法で,株の分子生物学的相同性が検証できる昨今,CL 関連角膜感染症においても,本当に眼表面のサンプルから分離される菌と,保存ケースから分離される菌とが同一株であるかどうか,分子生物学的に検証しておく必要がある.IIIパルスフィールドゲル電気泳動微生物の遺伝子タイピングには幾つかの手法があるが,感染ルートの検索に使用される最も標準的な手法は,パルスフィールドゲル電気泳動(pulsed- eld gel electrophoresis:PFGE)である.PFGE は,細菌の染図 1CL関連緑膿菌性角膜潰瘍2 週間頻回交換ソフト CL を数カ月にわたって使用していた症例.YR123図 2緑膿菌性角膜潰瘍でのPFGEレーン 1(保存ケース),レーン 2(角膜擦過物),レーン 3(眼脂)の泳動パターンは同じである.Y:Yeast chromosome marker,R:Row range PFGE mark-er.———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,20091189(31)め,その根源を強力に殺菌・除菌することで,保存ケースに混入する生菌量を減少させる方法論である.感染症は,起炎微生物の「病原性」と「生菌量」の 2 つの要素で修飾されるため,保存ケース内の生菌量が減少すれば,CL 関連角膜感染症の発症リスクを減らすことができる可能性がある.1)や 2)では,新たな製品開発に時間的・経済的負担が必要だが,3)では保存ケース近傍の除菌で CL 関連角膜感染症を予防できる可能性があり,仮に効果が証明されれば,すぐにでも装用者へ啓発できることでもある.V保存ケース汚染菌の由来「ケース汚染菌の根源を殺菌・除菌するケア方法」の開発には,汚染菌の由来を明確にする必要がある.そもそも,店頭に並んだ新品の保存ケースが,すでに 106 7個のグラム陰性桿菌で汚染されているとは考えにくく,元来ほぼ無菌であったはずの保存ケースが,使用中にどこかからか微生物が混入してくると考えるのが妥当である.多くの装用者が居住空間の水場で CL ケアをしていること,緑膿菌などのグラム陰性桿菌は,居住空間の湿潤環境から高頻度に分離されることを考慮すると,保存ケース近傍の水場に生息している環境菌が混入していると考えられる.健常な CL 装用者のなかで,保存ケースから緑膿菌やSerratia 属を検出した装用者において,その装用者のさまざまな居住空間からも同種菌の分離を試み,それらをPFGE で精査すると,ケース真下や,ケースから半径 1 m 以内(片手で届く範囲)の水場から分離される緑膿菌や Serratia 属と,保存ケースから分離される菌とが同じ遺伝子型であることがわかる.一方で,同じ装用者の居住空間において,ベランダなどの苔が生えているような屋外の湿潤環境から分離される緑膿菌とは遺伝子型が違うことも判明した(図 3,4).その他,CL ケア時に使用する水道の蛇口と,装用者の手指からも分離を試みた.保存ケースから分離された株と同じ遺伝子型の株は,一部の装用者で保存ケースを触った直後の手指から分離された以外は,検出されていない.当然のように思える結果だが,PFGE で精査してはじめて,保存ケース汚染菌の由来は室内の水場,特にケースを置いている真を行う.比較する複数の細菌において遺伝子の塩基配列が同じであれば,すべて同じ DNA 断片が生じるため,その泳動パターンは同じになる.逆に塩基配列が異なれば,異なる長さの DNA 断片が生じるため,異なった泳動パターンを示す.院内感染や食中毒などの感染源や感染経路の特定には必須の検査であり,他科領域では古くから比較的よく使用されている遺伝子タイピングの手法である2,3).CL 関連緑膿菌性角膜潰瘍(図 1)において,眼表面のサンプルから分離された緑膿菌と,保存ケースから分離された緑膿菌とを PFGE で精査すると,それらの遺伝子型が一致することが確認できる(図 2).これまで当然と考えられながらも,分子生物学な検討は十分になされていなかったため,報告4)は少ないが,重要なデータである.以上のデータから,CL 関連角膜感染症の起炎菌は保存ケース汚染菌と同一株であるといえる.仮に,眼表面のサンプルから微生物がまったく分離されなかった場合,保存ケース内液を培養して分離される微生物をターゲットに治療すればよいという考え方の根拠になる.IV感染制御保存ケース汚染菌が角膜に感染していることが明らかならば,CL 関連角膜感染症の発症のリスクを減らす方法論として,感染制御の観点からつぎの 3 点をテーマとして設定することができる.すなわち,1)保存ケース汚染菌をこれまで以上に殺菌・静菌できる多目的溶剤の開発,2)菌がより付着しにくい素材の CL の開発,3)汚染菌の根源を殺菌・除菌するケア方法の開発,である.1),2)は,いわば「保存ケースは汚染される」ことを前提とした発想といえる.しかし,1)で「より殺菌・静菌できる多目的溶剤」とは,「より眼表面への毒性が強い」ことを意味し,実際の開発には障害が多い.2)に関しては,近年のソフト CL ではシリコーンハイドロゲル製の CL が徐々に普及してきているが,シリコーンハイドロゲル製 CL では菌の付着を助長し感染の危険が高いとの報告5)もある.世界的にみて,より菌が付着しにくい CL 素材の開発へは向かっていないようである.一方 3)では,「保存ケースをいかに汚染しないか」という発想を元に,保存ケース汚染菌の根源を突き止———————————————————————- Page 41190あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(32)下の環境,あるいはケースから半径 1 m 以内の水場に生息するグラム陰性桿菌であると,断言できる.VI保存ケース内生菌量「ケース汚染菌の根源を殺菌・除菌するケア方法」で保存ケース汚染菌の混入を阻止できるかどうか,仮にある程度阻止できても,極微量でも混入した菌が数カ月の間にケース内で異常に増殖していないかどうか,を検証するため,保存ケースに 106 CFU/ml 以上の生菌量が確認された装用者において,ケース近傍のアルコール綿での除菌を数カ月にわたって施行した.施行前後での保存ケース内生菌量の変化を検討すると,多くの装用者で生菌量は劇的に減少し(図 5),保存ケース近傍の除菌で保存ケース汚染菌の混入が阻止できることが判明した.よって,新たな多目的溶剤や新たな素材の CL の開発も重要であるが,「保存ケース近傍の除菌」はすぐにでも患者へ指導することができるため,ケア方法の一つとして啓発すべきと思われる.しかし,ソフト CL のケア方法の中心が,煮沸消毒から 2 段階中和方式のコールド消M123Y図 3 健常者から分離されたSerratia marcescensのPFGEレーン 1 と 2(保存ケース),レーン 3(ケース真下の環境サンプル)の泳動パターンは同じである.M:lambda ladder,Y:Yeast chromosome marker.MM12345図 4別の健常者から分離された緑膿菌のPFGEレーン 1(保存ケース),レーン 2 と 3(ケース真下),レーン 4(ケースから 1 m 以内の水場),レーン 5(屋外の水場).同じ緑膿菌だが,屋外の水場から分離された株のみ泳動パターンが違う.①②③④前(×105希釈100??)後(原液100??)図 5保存ケース内生菌量①②は普通寒天培地,③④は MaConkey 寒天培地.———————————————————————- Page 5あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,20091191(33)ーバの存在する保存ケースと,アカントアメーバが存在しない保存ケースで菌の検出状況に差がないか,あるいは,健常者の保存ケースと細菌性角膜感染症例の保存ケースでの菌の検出状況に差がないか,DNA クローンライブラリー解析を施行すれば,CL 関連角膜感染症に関する新たな知見が得られる可能性がある.毒,そして多目的溶剤へと,より簡便な方法に変遷したことを考慮すると,これまでのケアに加えて,わずかでも新たな作業が加わることに順応できない装用者が多いと考えられる.保存ケースへの環境菌混入を防ぐための,殺菌・除菌ができる小さくて軽量のケース付属品などの開発にも目を向け,装用者にとってはこれまで同様の簡便なケアで,かつ感染症のリスクを減らすことのできる製品を模索すべきと思われる.そのような製品を使用した場合と,使用しない場合とで,保存ケース汚染状況を検証してみることも重要である.VII今後の課題保存ケース汚染菌が環境菌であると判明すると,つぎに問題となるのは,眼科医にとってはなじみの薄い環境菌の把握である.当然,眼表面サンプルから分離される菌種とはまったく違う,聞き慣れない細菌群(真菌やアメーバも含まれる)を対象としている.それにもまして,土壌などの環境菌の 99%は培養不可能菌といわれており6),眼科の日常診療で施行している培養テクニックで,すべての環境菌を把握することなど,到底不可能である.培養というバイアスをかけることなく,菌群集を把握する手法として,DNA クローンライブラリー解析(図6)が確立されており,土壌・汚水・腸内フローラなど,複数種の環境菌を多量に含んでいると思われるサンプルの DNA クローンライブラリー解析では,培養不可能菌群の存在が明らかとなっている.CL 保存ケースにも,これまでわれわれの知り得なかった微生物が混入している可能性が十分に考えられ,それらが既存の培養可能であったさまざまな菌とどのように関係しているのかは,今後の重要な検討課題と思われる.たとえば,「CL 装用に伴った Serratia による角膜潰瘍」と考えていた症例が,実際はこれまで培養不可能であった別種の菌が主たる起炎菌であり,Serratia はその菌にいつも付随しているだけであったが,人類のもつ培養テクニックではSerratia のみが分離されていた,などという事態を想像することもできる.アカントアメーバ角膜炎症例の保存ケースに,特異的,あるいは高頻度に存在する培養不可能な環境菌がいるかもしれない.健常者でアカントアメツꀀ 菌群集サンプルDNA抽出通常の培養DNA混合物 PCR16S rDNA混合物クローニング大腸菌形質転換菌の培養シークエンス系統解析???????????B08A02A03C05D11???????????????B12D06コロニーをピックアップし簡易同定または16S rDNAをPCR増幅後シークエンス図 6DNAクローンライブラリー解析培養というバイアスによって,培養不可能菌は淘汰されるが,菌群集から直接 DNA を抽出し大腸菌へクローニングすれば,培養不可能菌の存在が明らかになる.PCR:polymeraseツꀀ chain reaction.———————————————————————- Page 61192あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(34) 4) de Melo GB, Aggio FB, Ho ing-Lima AL et al:Pulsed- eldツꀀ gelツꀀ electrophoresisツꀀ inツꀀ theツꀀ identi cationツꀀ ofツꀀ theツꀀ origin of bacterial keratitis caused by Pseudomonas aeruginosa. Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol 245:1053-1054, 2007 5) Kodjikian L, Casoli-Bergeron E, Malet F et al:Bacterial adhesion to conventional hydrogel and new silicone-hydrogel contact lens materials. Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol 246:267-273, 2008 6) Amann RI, Ludwig W, Schleifer KH:Phylogenetic identi cation and in situ detection of indivisual microbial cells without cultivation. Microbiol Rev 1:143-169, 1995文献 1) Mathee K, Narasimhan G, Valdes C et al:Dynamic of Pseudomonas aeruginosa genome evolution. Proc Natl Acad Sci USA 105:3100-3105, 2008 2) Miranda G, Kelly C, Solorzano F et al:Use of pulsed- eld gel electrophoresis typing to study an outbreak of infec-tion due to Serratia marcescens in a neonatal intensive care unit. J Clin Microbiol 34:3138-3141, 1996 3) Srinivasanツꀀ A,ツꀀ Wolfendenツꀀ LL,ツꀀ Songツꀀ Xツꀀ etツꀀ al:Anツꀀ outbreak of Pseudomons aeruginosa infection associated withツꀀ exible bronchoscopes. N Engl J Med 348:214-220, 2003

コンタクトレンズケアの現状と問題点

2009年9月30日 水曜日

———————————————————————- Page 10910-1810/09/\100/頁/JCOPYa. HCLのケアHCL には酸素を透過しないポリメチルメタクリレート(PMMA)素材のレンズと酸素を透過するガス透過性ハードコンタクトレンズ(RGPCL)があるが,現在はほとんどが RGPCL であるため,以下は RGPCL のケアについて述べる.基本的に「洗浄→すすぎ→保存」の 3 つの操作がある.そして,定期的あるいは必要に応じて蛋白除去などの強力洗浄を行う1).洗浄法としては(1)界面活性剤を含有した洗浄剤によるこすり洗いと定期的あるいは必要に応じた強力洗浄,(2)界面活性剤を含有した洗浄保存剤に酵素を数滴添加するつけおき洗浄(2 液システム),(3)界面活性剤を含有した洗浄保存剤に酵素を混合したつけおき洗浄(1 液タイプ)がある.つけおき洗浄は簡便であるため,ユーザーには好まれるが,洗浄効果は弱いのでこすり洗いを行うよう指導したほうがよい.洗浄剤には研磨剤を含むものと含まないものがある.研磨剤を含む洗浄剤によるこすり洗いの洗浄効果は非常に高いが,表面処理を施している RGPCL には使用できないので注意を要する.こうした RGPCL では汚れのひどいときには強力洗浄を併用するよう指導する.b. SCLのケアSCL には従来素材のものと,シリコーンを含有した新しい素材のものがあるが,ケア方法は同じである.基本的に「洗浄→すすぎ→消毒→保存」の 4 つの操作はじめにコンタクトレンズ(CL)は材質の面からハードコンタクトレンズ(HCL)とソフトコンタクトレンズ(SCL)に分けられるが,ディスポーザブルレンズでない限りケアが必要である.レンズケアの目的は,使用した CL の汚れの除去と眼障害の予防である.CL を使用するとレンズ表面に蛋白質や脂質,カルシウム,化粧品などの汚れのほかに細菌,真菌,アメーバなどの微生物が付着することがある.CL を適切に処方したとしても,正しいケアが行われなければ,効果的かつ快適にレンズを使用できないばかりか,眼障害をひき起こすこともある.眼障害のなかで最も問題視されるのは角膜感染症であるが,CL のケアに関連したものが増えている.本稿では,日本における CL ケアの現状と問題点について概説する.ICLケアの現状1. CLケア方法ケア用品は薬事法の規制を受ける医薬品(局方精製水など),医薬部外品(SCL 用化学消毒剤,CL 装着液),薬事法の規制を受けない雑品(洗浄剤,保存剤,洗浄保存剤,溶解水)に分けられる.ケア用品には界面活性剤,酵素,防腐剤,緩衝剤,等張化剤,増粘剤,安定化剤,消毒剤などの成分がそれぞれの目的に沿って配合されている.(21)ツꀀ 1179 1ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ aツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 2ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ a aツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 751 0872ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 1 1 15ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 特集●コンタクトレンズ関連角膜感染症 あたらしい眼科 26(9):1179 1186,2009コンタクトレンズケアの現状と問題点Contact Lens Care:Current Situation and Problems植田喜一*1柳井亮二*2———————————————————————- Page 21180あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(22)和が不十分の場合には角膜障害を生じることがある.そのようなデメリットを改良したケア用剤として MPS が開発された.MPS は 1 剤で洗浄,すすぎ,消毒,保存ができることから簡便である.現在では MPS を使用するユーザーが大多数であるが,他の消毒法に比べて消毒効果が弱いことが難点である.SCL においても HCL と同様につけおき洗浄よりもこすり洗いを行うように指導する.SCL を保管中に,微生物が増殖しないようにレンズケースには新しい液を注ぎ入れるが,MPS 以外の消毒法では,操作終了から 24時間以上経過した場合は,再度消毒操作を行う必要がある.2. ケアに関連する角膜感染症の現状日本眼科医会が実施した CL による眼障害調査によると,2 週間頻回交換 SCL とディスポーザブル SCL の割合が高かった4)(図 2).角膜感染症に繋がると考えられる角膜潰瘍と角膜浸潤の割合は 2006 年度が 10.6%,がある.SCL は微生物に汚染されやすいため,消毒をしなければならないことが HCL との大きな違いである.定期的あるいは必要に応じて蛋白除去などの強力洗浄を行う.SCL のケアは消毒法によって大きくなる1,2).日本では 1972 年に低含水 SCL が発売された際,厚生省が認可した消毒方法は煮沸消毒で,SCL のレンズケアの主流であった.消毒効果の面からは,熱を用いて微生物を死滅させる煮沸消毒が最も強力で,アカントアメーバに対する消毒効果も十分であると現在も考えられる2,3)(図 1a, b).しかしながら,レンズの劣化,熱によって変性した蛋白質によるアレルギー,さらに高含水SCL に使用不可などの理由から,熱を用いないコールド消毒(化学消毒)が開発され,1992 年に過酸化水素を用いた消毒剤が,1995 年に多目的用剤(multipurpose solution:MPS)が,2001 年にポビドンヨードを用いた消毒剤が発売された(表 1).過酸化水素製剤は,レンズへの影響は小さく,高含水 SCL にも使用可能であるが,中和を要するので操作が煩雑であることや,誤使用や中表 1ソフトコンタクトレンズ消毒方法の変遷年消毒方法利点欠点1972煮沸消毒強力な消毒効果レンズの劣化,アレルギー1992過酸化水素MPS より消毒効果が強力煩雑な操作,誤使用1995MPS簡便な操作弱い消毒効果2001ポビドンヨード製剤MPS より消毒効果が強力煩雑な操作,ヨードアレルギー微生物減少 (log /ml)012煮沸消毒ポビドンヨード製剤過酸化水素製剤塩化ポリドロニウム製剤ポリヘキサメチレンビグアニド製剤コントロールa微生物減少値(log個/m?)012煮沸消毒ポビドンヨード製剤過酸化水素製剤塩化ポリドロニウム製剤ポリヘキサメチレンビグアニド製剤コントロールb図 1アメーバに対する消毒効果の比較a:Acanthamoeba polyphaga に対する消毒効果,b:Acanthamoeba castellanii に対する消毒効果(文献 3 より).塩化ポリドロニウム製剤,ポリヘキサメチレンビグアニド製剤は MPS の主成分である.———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,20091181(23)SCL の消毒法は MPS が 126 例(54%),過酸化水素が10 例(4%),煮沸が 1 例(0.4%)で,これらの消毒を毎日行っているが 69 例(30%)であった(図 8,9).レンズケースの交換は 3 カ月以内が 46 例(20%),6 カ月以2007 年度が 12.8%,2008 年度が 14.2%と増加してい た4 6).日本眼感染症学会が 2003 年に実施した全国の 24 施設の調査では,261 例の感染性角膜炎が報告された7).そのうち CL 使用者は 109 例(41.8%)で,CL 装用が最大の危険因子であった(図 3).起炎菌はケアを必要とする 2 週間頻回交換 SCL や従来型 SCL ではグラム陰性桿菌が多いのに対して,ディスポーザブル SCL ではグラム陽性球菌が多かった(図 4).日本コンタクトレンズ学会と日本眼感染症学会が実施した CL 関連角膜感染症全国調査の中間報告(2007 年 4月 2008 年 8 月中旬)では,入院を必要とする重篤な症例が 233 例であった8).ケアを必要とする SCL では,2 週間頻回交換 SCL が 127 例(54%),1 カ月あるいは3 カ月定期交換 SCL が 39 例(17%),従来型 SCL が 7例(3%),カラー SCL が 11 例(5%)に対して,ケアを必要としない 1 日ディスポーザブル SCL が 16 例(7%)で,1 週間連続装用 SCL が 4 例(2%)と,ケアを必要とする SCL の占める割合が高かった.HCL は RGPCLが 7 例(3%)で,PMMA 素材のレンズが 3 例(1%)という症例数であった(図 5).CL の洗浄に関しては,毎日しているが 87 例(37%)で(図 6),こすり洗いは毎日しているが 43 例(18%)と低い割合であった(図 7).HCL12.4%従来型SCL8.0%1日ディスポーザブルSCL12.8%1週間連続装用ディスポーザブルSCL1.0%2週間頻回交換SCL47.1%1 6カ月定期交換SCL7.1%シリコーンハイドロ ルレンズ5.7%カラーSCL2.3%度のないカラーSCL2.9% ルソケラトロジーレンズ0%その他のツꀀ 認レンズ0.1%不明0.6%図 2使用CLの種類(文献 5 より)6050403020100:(-):真菌・アメーバ:その他:グラム陰性桿菌:グラム陽性球菌例ディスポーザブルSCL19例2週間頻回交換SCL43例従来型SCL13例治療用SCL13例HCL13例図 4使用CLの種類と起炎菌(文献 6 より)0102030405060:CL使用(-):CL使用(+)0~910~1920~2930~3940~4950~5960~6970~7980~8990~99年齢(歳)例図 3年齢分布と感染時のCL使用(文献 6 より)2週間頻回交換SCL54%定期交換SCL17%1日ディスポーザブルSCL7%カラーSCL 5%RGPCL 3%従来型SCL 3%1週間連続装用SCL 2%PMMA素材のHCL 1% ルソKレンズ1%不明7%図 5使用CLの種類(文献 7 より)———————————————————————- Page 41182あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(24)IICLケアの問題点1. ケア用品の洗浄効果,消毒効果先に,CL のケアの目的は汚れの除去と眼障害の予防であると述べたが,角膜感染症の予防の立場から考えると,この汚れの除去とは,微生物の汚染を防ぐということを意味する.そのためには,洗浄効果,消毒効果の高いケア用品が望まれる.ユーザーは操作が簡便な,しかも経済的な商品を求めがちで,企業もそうしたニーズに応えようと製品開発を進めている.こすり洗いの商品からつけおき洗浄の商品に,煮沸消毒から過酸化水素消毒剤,さらには MPS にという流れがそのことを示す例である.こうした商品の洗浄効果や消毒効果が従来の製品と同等以上であればよいのだが,簡便性を追求したために,最も重要なケアの目的が十分に果たされていないという問題がある2,3).各種化学消毒剤の消毒効果を比較したデータを図 11 に示す3,9,10)が,MPS は他の消毒剤に比して消毒効果は弱内が 20 例(9%)で,全くしていないが 32 例(14%)であった(図 10).この調査の詳しい報告は本誌の他項に譲る.毎日37 時々14 週2 3回10 週4 6回9 ほとんどしない8 記載なし15 全くしない4 その他3 図 6CLの洗浄(文献 7 より)記載なし16 その他3 全くしない15 ほとんどしない16 週4 6回8 週2 3回8 時々16 毎日18 図 7CLのこすり洗いツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 化ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 図 8CLの消毒法ツꀀツꀀツꀀ いツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ のツꀀツꀀツꀀ とツꀀツꀀツꀀ いツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 時ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 図 9CLの消毒(文献 7 より)記載なし16 その他5 全くしない14 ほとんどしない18 不定期18ツꀀ カ月以内9ツꀀ カ月以内20 図 10レンズケースの交換(文献 7 より)———————————————————————- Page 5あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,20091183(25)が広く知られている12).日本でも 2003 年にこのテストに準拠した方法で消毒効果を自主点検するようにという内容の行政通知が出ているが,このテストは特定の細菌ならびに真菌,それも特定した菌株に対する消毒効果を評価したものであるため,これをクリアすればすべての細菌ならびに真菌に対して効力があるというわけではない(表 2).このテストの一次基準をクリアした商品であるにもかかわらず,海外でフザリウムによる感染を生じたという報告13)があったのは記憶に新しい.さらに重要なことに,アメーバやウイルスなどのほかの微生物に対する評価法は規定されていない.現在,米国食品医薬品局(FDA)ではこれらの評価法を検討しているようで,特にアカントアメーバについてはその試験方法(アいため,微生物を CL からなるべく物理的に除去する(こすり洗いとすすぎ)ことが求められる.一方,洗浄効果や消毒効果の高い製剤は細胞毒性が高いため,その安全性が問題となる.各種化学消毒剤の角結膜に対する影響を比較したデータを図 12 に示すが,過酸化水素消毒剤は角膜上皮障害を起こしやすい11).ケア用品は洗浄効果,消毒効果が高く,かつ安全性の高い製剤の開発が期待される.2. SCL消毒商品の評価法SCL 消毒商品の効果を評価する方法として,国際標準化機構(ISO)が採用しているスタンドアロンテスト表 2国際標準化機構(ISO)14729に指摘されている5菌種細菌Pseudomonas aeruginosa(Institute for Fermentation Osaka 13275)Serratia marcescens(American Type Culture Collection Manassas VA, 13880)Staphylococcus aureus(Institute for Fermentation Osaka 13276)真菌Candida albicans(Institute for Fermentation Osaka 1594)Fusarium solani(American Type Culture Collection Manassas VA, 36031)アメーバ規定なしウイルス規定なし:ポビドンヨード製剤:過酸化水素製剤:塩化ポリドロニウム製剤:ポリヘキサメチレンビグアニド製剤微生物減少 (log /ml)細菌真菌アカントアメーバウイルス緑膿菌黄色ブドウ球菌セラチアフサリウムカンジダアカントアメーバアデノウイルス012345図 11化学消毒剤の微生物に対する消毒効果(文献 8,9 より改変)00.010.020.030.04カルボキシフル レセイン取り み (nmol/mm2)ポビドンヨード製剤過酸化水素製剤塩化ポリドロニウム製剤ポリヘキサメチレンビグアニド製剤コントロールn=3,平均±標準誤差4 時間曝露*:Dunnett?s testツꀀ p<0.05*図 12家兎摘出眼に対する化学消毒剤の角膜障害性 (文献 11 より改変)———————————————————————- Page 61184あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(26)が異なる場合があるが,添付文書を熟読しないため,誤ったケアをしていることがある.説明したケア用品を継続して使用していたとしても,慣れてくるといい加減なケアをしていることもある.角膜感染症を起こした多くの患者は処方した眼科医の指導や添付文書に記載された内容を遵守していない場合が多い.使用した CL は毎回ケアする,CL を触れる前に手をきれいに洗う,CL をしっかりこすり洗いする,十分にすすぐ,薬剤の再使用はしない(レンズケースに残った薬剤は捨てて,新しい薬剤を入れる16)),といった指導を徹底的に行わなければならない.レンズを保存中はレンズケースのふたを閉める16),レンズケースは水場の周りに置かない,レンズケースからレンズを取り出した後はしっかり洗浄して自然乾燥する,MPS のボトルは使用しないときはしっかり閉めるなどを指導することも大切である.SCL のレンズケースの洗浄について添付文書を見ると,薬剤(MPS)で行うと書かれているものがある一方で,水道水で行うというものがある.日本では水道水が安全に管理されているため水道水で構わないという考えがある.水道法及び同法施行規則では,水道事業者が講じなければならない衛生上必要な措置として,給水栓(玄関の脇などにある水道メーターのついているところで各戸への水道の入り口)における水の遊離残留塩酸濃度を 0.1 mg/l(結合塩素の場合は 0.4 mg/l)以上保持するように塩素消毒をすることが定められているが,ビルなどの屋上にいったん貯められた水道水(それも夏などの気温の高い時期の水道水)については残留塩素の消毒効果が弱まっていることも予想され,微生物が増殖していないという確証はないので,なるべく薬剤(MPS)でレンズケースを洗浄し,水分を振り落として,自然乾燥したほうがよいと筆者は考える.おわりにレンズケアに関連した角膜感染症が増えていることから,今後,洗浄効果,消毒効果の高いケア用品の開発が期待される.現状においては,CL 処方時ならびに定期検査時にユーザーに対して適正なレンズケア指導を行うことが求められる.不幸にして角膜感染症が生じた場合メーバ接触濃度,用いる株,栄養体の培養方法,シストの調製方法),評価方法,合格基準などについて議論されている.3. HCLの消毒日本では水道水が衛生的に管理されているため,HCL は消毒が義務づけられていない.日本においてもHCL 使用者のアカントアメーバなどの微生物による角膜感染症の報告が増えている.洗浄液あるいは洗浄保存液によるこすり洗いとレンズケースの管理(洗浄,乾燥,早期交換など)で対応できるという意見が多いが,SCLと同様に HCL のケアにおいても消毒剤を使用するに越したことはないと考える.水道水が衛生的に管理されていない諸外国では HCL の消毒剤が普及している14).4. 雑品の規制洗浄剤などは CL を洗ったり,浸けたりするものであるため,人体には入らないという認識から雑品扱いとされ,厚生労働省の認可は不要であるが,これらの効果を評価するうえにおいても,薬事法による規制が望ましい.海外では CL ケア用品はすべて法律で規制されているので,その整合性も問われる.5. 眼科医の知識CL の診療を行うにあたっては CL についての知識だけでなく,ケアについての知識も求められるが,眼科医の多くはケア用品について詳しく知っていないというのが実情であろう.CL のケア方法は多種多様になり,次々と新しい商品が発売されるため,すべての商品を熟知することはむずかしいが,特徴のある商品については添付文書を熟読して,ポイントを理解して,ユーザーに対して適正なケア商品を薦める必要がある.6. ユーザーのコンプライアンスの低下概してユーザーはケア用品について無関心で正しいケアを行っていないことが多い.レンズケアに対する意識調査の結果をみても,当初は説明を受けたケア用品を使用していても,薬局,薬店などで安価なほかのケア用品を購入していることが多い15).商品が変わると取り扱い———————————————————————- Page 7あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,20091185(27)図 13眼障害啓発リーフレット(日本コンタクトレンズ協会のご厚意による)———————————————————————- Page 81186あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009には,レンズケアが起因することを念頭に入れて,詳しい問診をとって対処する必要がある.ユーザーはレンズケアに無関心で,指導を遵守していないばかりか,思いもつかないような誤った取り扱いをしていることもあるので,定期検査時にユーザーが行っているケア方法を確認することも大切である.ケア用品によると考えられる眼障害を認めた場合には,その商品を製造した企業に報告するとともに,薬事法の規制の対象商品(医薬品,医薬部外品)であれば厚生労働省に,規制の対象外商品(雑品)であれば国民生活センターに報告することが望まれるが,報告例は少ない.ユーザーにも CL 販売店を介して製造した企業に報告するとともに,国民生活センターに情報提供するよう依頼するとよい.企業による商品の改善だけでなく,必要によっては行政指導が求められる場合もある.日本コンタクトレンズ学会と日本眼感染症学会はMPS による角膜感染症の増加を危惧し,MPS の諸問題を検討する MPS フォーラムの開催を企画した.日本コンタクトレンズ協会ならびに MPS を市販している企業の参加を求め,ユーザーに対する啓発活動について協議した結果,各商品の箱とボトルの正面に「こすり洗いを忘れずに」といった啓発メッセージとこすり洗いの絵を表示することと,箱の側面に「こすり洗いが必要,消毒液は毎日交換,レンズケースは洗って乾燥,レンズケースは定期的に交換」といった啓発文を記載すること,さらに眼障害啓発リーフレットを配布することを決定した.このリーフレットは両学会が監修し,日本コンタクトレンズ協会が作成した(図 13)が,日本コンタクトレンズ学会(http://www.clgakkai.jp/),日本コンタクトレンズ協会(http://www.jcla.gr.jp/),日本眼科医会(http://www.gankaikai.or.jp/)のホームページからもダウンロードできるのでご利用いただきたい.文献 1) 日本コンタクトレンズ学会コンタクトレンズ診療ガイドライン編集委員会:CL ケア.日眼会誌 109:645-647, 2005 2) 石橋康久,宮永嘉隆:アカントアメーバ角膜炎.日本の眼科 79:721-726, 2008 3) 柳井亮二,植田喜一,田尻大治ほか:アカントアメーバおよびウイルスに対するポビドンヨード製剤の有効性.日コレ誌 47:37-41, 2005 4) 日本眼科医会医療対策部:コンタクトレンズによる眼障害アンケート調査の集計結果報告(平成 20 年度).日本の眼科 80:940-946, 2009 5) 日本眼科医会医療対策部:コンタクトレンズによる眼障害アンケート調査の集計結果報告(平成 18 年度).日本の眼科 78:1223-1229, 2007 6) 日本眼科医会医療対策部:コンタクトレンズによる眼障害アンケート調査の集計結果報告(平成 19 年度).日本の眼科 79:1165-1170, 2008 7) 角膜サーベイランス・スタディグループ:感染性角膜炎全国サーベイランス─分離菌・患者背景・治療の現況.日眼会誌 110:961-972, 2007 8) 福田昌彦:コンタクトレンズ関連角膜感染症の実態と疫学.日本の眼科 80:693-698, 2009 9) 柳井亮二,植田喜一,田尻大治ほか:細菌・真菌に対するポビドンヨード製剤の有効性.日コレ誌 47:32-36, 2005 10) 植田喜一,柳井亮二:マルチパーパスソリューション.あたらしい眼科 24:747-757, 2007 11) 柳井亮二,植田喜一,戸村淳二ほか:家兎に対するポビドンヨード製剤の安全性.日コレ誌 47:120-123, 2005 12) 岡田正司:ソフトコンタクトレンズの消毒の評価法(スタンドアロンテスト).日コレ誌 48:93-97, 2006 13) 稲田紀子:CL 装用と感染症第 1 回─ 2006 年に報告されたFusarium 角膜炎多症例について─.日コレ誌 49:57-58, 2007 14) 谷川定康:ケア用品の海外事情(ハードコンタクトレンズ).日コレ誌 48:251-255, 2006 15) 星合竜太郎,濱田いずみ:レンズケアに対するコンタクトレンズ使用者の意識.日コレ誌 49:119-123, 2007 16) 宇野敏彦,大橋裕一,今安正樹ほか:コンプライアンスの低い使用環境における多目的用剤の消毒効果試験.日コレ誌 51:36-41, 2009(28)

マルチパーパスソリューション(MPS)の消毒効果

2009年9月30日 水曜日

———————————————————————- Page 10910-1810/09/\100/頁/JCOPYの 3 が MPS を使用している(図 1).IIMPSの消毒システムMPS は消毒剤でありながらレンズとともに眼に直接入るため,できるだけ刺激性が低く,眼障害やアレルギーをひき起こしてはならない製剤である.そのため,使用される消毒剤の濃度は 1 ppm から 10 ppm 程度であり,その消毒効果にも限界がある.こうした消毒効果の弱さを補うために,MPS ではレンズをこすり洗いすることで付着した微生物を物理的に除去し,消毒前の微生物汚染レベルを下げるような取り扱い方法が規定されている.実際に,レンズのこすり洗いで微生物汚染は1/10 から 1/100 程度減少し,さらにすすぎ洗いにより1/1,000 から 1/10,000 程度減少すると報告されている1)(図 2).IIIMPSに使用される消毒剤とその特徴以前は塩化ベンザルコニウムやクロロヘキシジンなどが使われたこともあったが,低分子であるためレンズ内Iマルチパーパスソリューション(MPS)とはMPS は日本語では「多目的用剤」と訳され,「消毒・保存・すすぎ・洗浄」の 4 つの機能を 1 本のボトルに集約した簡便なケアシステムである.以前の煮沸消毒では加熱器が必要であり,過酸化水素消毒では中和作業が必要であったが,MPS は 1 本でソフトコンタクトレンズの消毒を含むすべてのケアが可能であり,そのままレンズを眼に装用できるという簡便さからユーザーの支持を集め,日本ではソフトコンタクトレンズユーザーの 4 分(15)ツꀀ 1173 O a u Moツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ ンツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 478 0032ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 5ツꀀツꀀツꀀ 1ツꀀツꀀツꀀ 10ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ ンツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 特集●コンタクトレンズ関連角膜感染症 あたらしい眼科 26(9):1173 1177,2009マルチパーパスソリューション(MPS)の 消毒効果Disinfection E cacy of Multipurpose Solution(MPS)森理*MPS76%H2O224%図 1 MPSと過酸化水素の比率(2009 年 2 月の販売金額)4時間装用後のレンズ(付着菌数:106程度)付着菌数:104 105付着菌数:101 103消毒ツꀀ 図 2こすり洗いとすすぎによる微生物付着量の減少———————————————————————- Page 21174あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(16)IVMPSの消毒効果試験法と判定基準MPS は医薬部外品であり,発売前には医薬審 645 号「SCL 及び SCL 用消毒剤の製造(輸入)承認申請に際し添付すべき資料の取扱い等について(平成 15 年 7 月 2日改訂)」に従って眼科領域で問題となる細菌,真菌,ウイルスおよびアメーバへの効果を確認することが義務付けられている.具体的な試験方法は国際基準 ISO 14729 に記載されたスタンドアローン試験法(図 5)で実施することになっている.約 106個/ml 程度となるように試験菌を接種して,一定時間後に生菌数を確認することで MPS の消毒効果を評価する.初期の接種菌数をどの程度減少させたかを対数減少率(log reduction 値)として計算し,スタンドアローン試験法に記載された判定基準で合格か不合格かを判断する.ただし,スタンドアローン試験法には 2 段階の判定部への蓄積による毒性が問題となった.そのため,現在の MPS ではおもに高分子の消毒剤が使われ,日本ではビグアニド系の塩酸ポリヘキサニド(PHMB)と,4 級アンモニウム系の塩化ポリドロニウム(Polyquad)という 2 種類の消毒剤が使われている.1. PHMB(図 3),分子量2,300~3,100PHMB は細菌や真菌などに対して広い抗菌スペクトルをもち,アカントアメーバに対しても有効性が報告されている2).また,米国ではプールの消毒剤に使用されるように眼に対する安全性も高い.こうした理由から大部分の MPS では PHMB を消毒剤として使用している.ただし,一部の PHMB 製剤とコンタクトレンズの組み合わせによっては角膜上皮障害が発生するといった報告もある3,4).2. Polyquad(図 4),分子量4,600~12,000オプティ・フリーRシリーズで使われる消毒剤でPHMB よりも高分子であるため,レンズ内部への蓄積性はより少なくなっている.そのため,保存中の消毒効果の低下が少なく5),角膜上皮障害の発生率も低いという報告もある3,4).ただし,Polyquad は一部の真菌やアカントアメーバへの効果が低いため,海外で販売されている Polyquad 製剤では Aldox という低分子のアミン系殺菌剤を併用して Polyquad の効果を補っている6).NC(CH2)3(CH2)3(CH2)3(CH2)3NH2・HCLNHNHNHHNHNHNCHNHCLnHNC図 3塩酸ポリヘキサニド(PHMB)(CH2CH2OH)3N N (CH2CH2OH)3CH2CH2CHCHCH2CH2N CH3CH3HCHCn図 4 塩化ポリドロニウム(Polyquad)規定時間ツꀀ (4時間)試験菌細菌(緑膿菌,黄色ブドウ球菌,セラチア)真菌(カンジダ,フザリウム)MPS(10ml)初期の菌濃度(105 106個/ml)生菌数の確認図 5ISO 14729に記載されたスタンドアローン試験法———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,20091175(17)って,国内の市販されている 14 種類の MPS について消毒効果試験を実施し,5 種類の MPS が第一基準に合格していることが報告されている(表 1 の上段から 5 種類 ). オ プ テ ィ ・ フ リ ーRおよびオプティ・フリーRプラスは Polyquad を消毒剤として使用しているが,それ以外はすべて PHMB を使用しており,その使用濃度もすべて 1 ppm 付近であるにもかかわらず,各々の PHMB製剤によっては消毒効果に差があることが示された.本来,PHMB は消毒効果の強い消毒剤であり,1 ppm という低濃度でもスタンドアローン試験の第一基準に合格する効果をもっている.しかし,MPS には消毒剤以外に界面活性剤,緩衝剤,等張化剤,キレート剤,粘稠化剤,湿潤剤などのさまざまな添加剤が配合されており,こうした添加剤が消毒成分の働きを妨害している可能性が指摘されている7).PHMB や Polyquad はカチオン性(プラス電荷)の消毒剤であり,微生物の細胞膜にあるリン脂質部分(マイナス電荷)へ静電的に結合することで細胞膜の機能を破基準があり(図 6),第一基準に合格しない MPS でも,第二基準+こすり洗い試験で基準以上であれば合格となる.なお,市販されている MPS はどの基準に合格しているかの表示義務がないため,ユーザーが判断できないという問題点もある.V国内で市販されているMPSの消毒効果ISO 14729 に記載されたスタンドアローン試験法に従表 1市販MPSの消毒効果の比較有効成分(濃度)消毒効果(log reduction 値)細菌真菌緑膿菌黄色ブドウ球菌セラチアカンジダフザリウムレニューRマルチプラスPHMB(1.1 ppm)>4.66>4.72>4.734.432.78レニューRPHMB(0.7 ppm)>4.66>4.724.263.081.00エピカRコールドPHMB(1.0ppm)>4.92>4.93>5.043.38>3.58バイオクレンRゼロ>5.234.82>4.742.693.48ソフトワンRモイス>4.89>4.744.821.193.38コンプリートRモイストプラス>4.66>4.72>4.730.870.71コンプリートアミノモイストR>4.66>4.72>4.731.150.86ワンボトルケア>4.66>4.72>4.730.820.79クリアモイストケアR>4.924.334.340.751.73バイオクレンRワン>4.922.544.130.470.71ソフトワンRクール>4.92>4.93>5.040.992.47フレッシュルックRケア(10 min)>4.66>4.724.260.941.14オプティ・フリーRプラスPolyquad(11 ppm)>4.684.132.950.043.01オプティ・フリーR>4.684.743.760.073.61スタンドアローン第一基準3.0 以上1.0 以上第一基準認可認可細菌3種を3log以上真菌2種を1log以上それぞれ減少細菌3種の合計が5log以上真菌2種は増殖させないこすり洗い+すすぎで基準以下に減少第二基準こすり洗い試験未認可図 6ISO 14729に記載されたスタンドアローン試験の判定基準———————————————————————- Page 41176あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(18)ション)に悪影響を与える可能性が報告されている9)(図7).角膜上皮障害の発生も消毒剤の種類によって異なることも報告されている3,4)(図 8).VI不適切な使用状況でのMPSの消毒効果2003 年に日本で実施された感染性角膜炎の全国サーベイランスでは,10 代および 20 代の低年齢層コンタクトレンズユーザーにおける感染症患者が増加しており,不適切な使用方法が一因となっている可能性が指摘されている10).また,米国では 2004 年頃からアカントアメーバ角膜炎,2006 年にはフザリウム角膜炎がコンタクトレンズ使用者に急増した.その後の米国疾病予防管理センター(CDC)の疫学的調査により特定の MPS での発症リスクが高いことが判明したが,他のリスク要因として不適切な使用方法があげられている.たとえば,感染性角膜炎を発症した患者の 54%が MPS の継ぎ足し使用を行っており,これは通常の使い方に比べて 4.4 倍の壊して殺傷している.しかし,添加剤としてイオン強度が強い成分を使用すると,消毒剤と添加剤が競合し合い,消毒剤の静電的吸着を妨げてしまう.その結果,消毒剤が本来もっている効力を発揮できなくなる可能性も示唆されている7).さらに,近年の MPS ではソフトコンタクトレンズユーザーの乾燥感を低減し快適なレンズ装用ができるように,レンズの保湿性を上げるための潤い成分の開発競争も盛んに行われている.しかし,高分子の潤い成分の中には消毒効果に影響を与えるものも報告されており,安易な潤い成分の添加は MPS 本来の消毒効果を損なうリスクもある8).一方で,消毒剤の効果を補足する添加剤も存在する.たとえば,PHMB とホウ酸を併用することでカンジダなどの真菌への消毒効果は増強する7).しかし,こうした補助的な添加剤を配合する場合には,細胞毒性などの安全性に注意する必要もある.実際に細胞毒性の強いMPS では,角膜上皮層のバリア機能(タイトジャンク図 7 正常な角膜(左)とMPSで影響を受けた角膜(右)のタイトジャンクション(倍率 400 倍)図 8 添加剤が異なるPHMB製剤での角膜上皮障害の違い(同一眼,同一レンズで比較)———————————————————————- Page 5あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,20091177(19)ズケース内では細菌が繁殖しバイオフィルムを形成することもあるので,毎日清潔にして乾燥させることが,コンタクトレンズに起因する感染性角膜炎を予防するためには重要であると考えられる.なお,レンズのこすり洗いやレンズケースの手入れなどを十分に指導できないと考えられる場合,たとえば低年齢の患者などについては過酸化水素製剤を薦めるのも選択肢の一つと考えられる.文献 1) Sutton SV, Proskin HM, Keister DA et al:A critical eval-uation of the multi-item microbial challenge test in oph-thalmic disinfectant testing. CLAO J 18:155-160, 1992 2) 田村博明:ポリアミノプロピルビグアニドの防腐効果.Fragrance J 34(4):28-33, 2006 3) 松澤亜紀子,針谷明美,河西雅之ほか:ソフトコンタクトレンズとマルチパーパスソリューションとの生体適合性.日コレ誌 50:105-110, 2008 4) 糸井素純:シリコーンハイドロゲルとケア製品との適合性.日コレ誌 50(補遺):S11-S15, 2008 5) Rosenthal RA, McDonald MM, Schlitzer RL et al:Loss of bactericidal activity from contact lens storage solutions.CLAO J 23:57-62, 1997 6) Caroline EC, Maillard JY, Russell AD et al:Aspects of the antimicrobial mechanisms of action of a polyquaterni-um and an amidamine. J Antimicro Chemo 51:1153-1158, 2003 7) 柳井亮二,植田喜一,西田輝夫ほか:市販多目的用剤の消毒効果と細胞毒性の比較.日コレ誌 49(補遺):S13-S18, 2007 8) Levy B, Heiler D, Norton S:Report on testing from an investigation of Fusarium keratitis in contact lens wear-ers. Eye Contact Lens 32:256-261, 2006 9) Imayasu M, Shiraishi A, Ohashi Y et al:E ects of multi-purpose solutions on corneal epithelial tight junctions. Eye Contact Lens 34:50-55, 2008 10) 井上幸次,感染性角膜炎全国サーベイランス・スタディグループ:感染性角膜炎全国サーベイランス─分離菌・患者背景・治療の現況─.日眼会誌 110:961-972, 2006 11) Elmer YT:FDA Ophthalmic Devices Panel Meeting,June 10, 2008(http://www.fda.gov/ohrms/dockets/ac/08/slides/2008-4363s1-03-VERANI-CDC.pdf) 12) 宇野敏彦,大橋裕一,今安正樹ほか:コンプライアンスの低い使用環境における多目的用剤の消毒効果試験.日コレ誌 51:36-41, 2009リスク要因であったことが報告されている11).前述の表 1 に示した各 MPS の消毒効果は理想的な状態での試験結果であるが,MPS の継ぎ足し使用などで液を毎日交換しないといった不適切な使用状況では,MPS の本来の効果を十分に発揮できない可能性がある.実際にレンズを浸漬して消毒した後に,使用済みの液を交換せず同じ MPS をくり返し使用する場合には,消毒成分がレンズに吸着して徐々に濃度が減っていくことから,消毒効果が低下していくことが報告されている12)(図 9).まとめMPS は眼障害やアレルギーをひき起こさないように消毒剤を低濃度で使用しているため,MPS の消毒効果には限界がある.これを補うという意味でも,消毒する前にはレンズをこすり洗いし,十分にすすぐことで消毒前の微生物汚染レベルを下げることが重要である.装用後のレンズには微生物以外に脂質や蛋白質の汚れも付着しており,こうした汚れがレンズケースに持ち込まれると微生物のエサとなるだけでなく,低濃度の消毒剤と相互作用し,その効果を妨害する可能性もある.そのため,MPS の消毒機能を十分に維持するためには「レンズのこすり洗いとすすぎ」が必要不可欠である.使用後の MPS は毎回必ず捨て,きちんとレンズケースも洗浄することも重要である.洗浄が不十分な場合には,レン103543210消毒効果(log reduction 値):PHMB製剤:PHMB製剤:PHMB製剤:PHMB製剤:Polyquad製剤図 9 くり返し使用によるMPSの消毒効果低下(試験菌:カンジダ)

コンタクトレンズ関連角膜感染症全国症例調査

2009年9月30日 水曜日

———————————————————————- Page 10910-1810/09/\100/頁/JCOPY状,初診時視力,臨床所見,治療薬(点眼,眼軟膏,結膜下注射,内服,点滴),塗抹検鏡,分離培養,検出菌,外科的治療の有無,3 カ月後の転帰,3 カ月後の視力である.患者へのアンケートは CL の商品名,種類,装用方法,処方された施設,購入先,週当たりの装用日数,装用時間,週当たりの洗浄回数,こすり洗いの有無,レンズケースの交換頻度,定期検査の頻度,取り扱い説明書の有無,週当たりの消毒の頻度,消毒の種類,装用方法遵守の程度,1 日ディスポーザブルソフトコンタクトレンズ(SCL)の使用期間,2 週間頻回交換 SCL の使用期間,定期交換(1, 3 カ月)SCL の使用期間などである.2. 対象症例今回の検討期間は平成 19 年 4 月~平成 20 年 8 月中旬,症例数は 233 例,年齢は 9~90 歳(平均 28 歳),性別は女性 104 例,男性 129 例であった.3. 初診時視力初診時矯正視力(両眼症例は悪いほうの視力)は,光覚弁~手動弁が 43 例(18%),指数弁~0.03 が 51 例(22%),0.04~0.06 が 9 例(4%),0.07~0.09 が 6 例(3%),0.1~0.3 が 35 例(15%),0.4~0.6 が 27 例(12%),0.7以上が 40 例(17%),記載なしが 22 例(9%)であった.視力としては約 5 割が初診時視力 0.1 未満であり重症例が多かった.はじめに近年コンタクトレンズ(CL)は使い捨てレンズ,特に2 週間タイプが主流となっている.それに伴い CL ケアもマルチパーパスソリューション(MPS)が主流となっている.ここ数年わが国においてはアカントアメーバ角膜炎の急増が大きな問題である.この現象は 2 週間タイプレンズの増加,消毒効果の弱い MPS でのケアが関係していることが容易に想像される.CL ユーザーの CLケアも非常にばらつきがあり,一部のユーザーは非常に危ない使用方法をしているのを頻繁に見かける.このような状況から,日本コンタクトレンズ学会と日本眼感染症学会は共同で CL 関連角膜感染症全国調査を平成 19年 4 月から行っている.今回その調査結果の途中経過を中心に述べる.ICL関連角膜感染症全国調査平成 19 年 4 月から全国 224 施設で調査を開始した.対象は CL 装用が原因と考えられる角膜感染症で入院治療を要した症例である.各施設の担当医あてに症例入力画面(担当医に依頼する調査内容と患者用アンケート)を送付し,調査終了後にホームページに書き込んでもらった.調査期間は当初は 1 年間であったが,その後 1 年延長され計 2 年となった.1. 調査内容担当医への調査内容は,年齢,性別,左右,自覚症(9)ツꀀ 1167ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 589 8511ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 377 2ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 特集●コンタクトレンズ関連角膜感染症 あたらしい眼科 26(9):1167~1171,2009コンタクトレンズ関連角膜感染症 全国症例調査Surveillance of Contact Lens-Related Corneal Infections in Japan福田昌彦*———————————————————————- Page 21168あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(10)メーバの 35 株,その他のグラム陰性桿菌の 24 株,セラチアの 18 株などであった.微生物が多く検出された部位は角膜病巣,CL ケースであった.グラム陰性桿菌(緑膿菌)とアカントアメーバが多かった.アカントアメーバが塗抹検鏡あるいは分離培養で確認されたのは全部で 55 例(24%)であった.5. 3カ月後の矯正視力1.0 以 上 が 85 例(36%),0.7~0.9 が 37 例(16%),0.4~0.6 が 30 例(13%),0.1~0.3 が 16 例(7%),0.07~0.09 が 0 例(0%),0.04~0.06 が 4 例(2%),指数弁~0.03 が 12 例(5%),光覚弁~手動弁が 3 例(1%),0が 1 例(0.4%),記載なしが 45 例(19%)であった(図1).0.1 未満に限ってみると 20 例(9%)であった.CL による角膜感染症の重症例では失明に至る高度の視力障害が発生することが確認された.4. 細菌検査塗抹検鏡が行われたのは 181 例(78%)であった.結果は表 1 に示す.微生物が検出された部位は角膜病巣,結膜 ,眼脂,CL,CL ケース,その他に分類した.検出された微生物種はグラム陽性球菌,グラム陽性桿菌,グラム陰性球菌,グラム陰性桿菌,糸状真菌,アカントアメーバに分類した.微生物が検出された頻度は角膜病巣,CL ケース,CL の順に多かった.最も多く検出された微生物はアカントアメーバの 44 検体とグラム陰性桿菌の 44 検体であった.この 2 種も角膜病巣,CL ケースから多く検出された.分離培養が行われたのは 218 例(94%)で微生物が検出されたのは 144 例で,検出率は 66%であった.結果は表 2 に示す.微生物種は黄色ブドウ球菌,表皮ブドウ球菌,コリネバクテリウム,セラチア,その他のグラム陰性桿菌,アスペルギルス,アカントアメーバに分類された.多く検出されたのは緑膿菌の 58 株,アカントア表 1塗抹検鏡(181/233,78%)菌種グラム陽性球菌24グラム陽性桿菌16グラム陰性球菌9グラム陰性桿菌44糸状菌3アカントアメーバ44角膜病巣1413425140結膜 210100眼脂100400CL201305CL ケース8642227その他000000 太字は特に多く注意を要するもの.〔下村嘉一:CL 関連角膜感染症全国調査.眼科プラクティス第 28 巻ツꀀ 眼感染症の謎を解く,p.356,文光堂,2009 より引用〕表 2分離培養(218/233,94%),検出率(144/218,66%),主要な菌のまとめ菌種黄色ブドウ球菌7表皮ブドウ球菌11コリネバクテリウム13緑膿菌58セラチア18その他のグラム陰性桿菌24アスペルギルス1アカントアメーバ35角膜病巣3464734032結膜 12411000眼脂01171000CL22182600CL ケース124261221117その他01020001 太字は特に多く注意を要するもの.〔下村嘉一:CL 関連角膜感染症全国調査.眼科プラクティス第 28 巻ツꀀ 眼感染症の謎を解く,p.356,文光堂,2009 より引用〕———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,20091169(11)般眼科と眼科併設販売店が 40~50%であり,CL 量販店は 1/4 程度であった.医師の処方なし,インターネット,外国での購入も若干名認めた.取り扱い説明書をもらわなかった人も約 10%に認めた.8. CL装用スケジュールの遵守装用スケジュールについては,守っていたが 43 例(18%),ほぼ守っていたが 79 例(34%),ほとんど守っていなかったが 50 例(21%),全く守っていなかったが 8例(3%),記載なしが 53 例(23%)であった(図 4).レンズタイプ別にみると,終日装用レンズを終日が 1146. 使用レンズタイプ2 週間頻回交換 SCL が 127 例(54%),定期交換(1,3カ月)SCLが39例(17%),1日ディスポーザブルSCLが16例(7%),カラーCLが11例(5%),ガス透過性ハード CL が 7 例(3%),従来型 SCL が 7 例(3%),1 週間連続装用 SCL が 4 例(2%),ポリメチルメタクリレート(PMMA)素材ハード CL が 3 例(1%),オルソK レンズが 2 例(1%),不明が 17 例(7%)であった(図2 ).2 週間タイプが半数以上であり,その他はすべてのレンズタイプに発症していた.海外での報告があるように夜間に装用するタイプのオルソケラトロジーレンズでも発症が認められた.7. CL処方を受けた施設,購入先,取り扱い説明書処方を受けた施設は,一般眼科が 94 例(40%),CL量販店隣接眼科が 65 例(28%),眼鏡店内眼科が 29 例(12%),医師の処方なしが 9 例(4%),その他が 5 例(2%),一般病院,大学病院が 6 例(3%),記載なしが 25例(11%)であった.購入先は,眼科施設に併設する販売店が 117 例(50%),CL 量販店が 55 例(24%),眼鏡店が 20 例(9%),その他が 10 例(4%),インターネットが 7 例(3%),外国で購入が 2 例(1%),記載なしが 22 例(9%)であった(図 3).取り扱い説明書をもらったが 165 例(71%),もらわなかったが 27 例(12%),記載なしが 41 例(18%)であった.処方を受けた施設,実際の購入先では,予想に反し一19%36%16%13%7%5%2%1%1%:1.0以上:0.7~0.9:0.4~0.6:0.1~0.3:0.04~0.06:指数弁~0.03:光覚弁~手動弁:0:記載なし図 13カ月後の矯正視力〔図 1~10 は,福田昌彦:コンタクトレンズ関連角膜感染症の実態と疫学.日本の眼科 80:693-698, 2009 より引用〕9%50%24%9%3%4%1%:眼科に併設する販売店:CL量販店:眼鏡店:その他:インターネット:外国で購入:記載なし図 3CLの購入先ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 頻回交換ツꀀツꀀツꀀ 定期交換ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ カ ーツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 連 装用ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ ーツꀀツꀀツꀀツꀀ ルツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 明図 2使用レンズタイプツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 守ツꀀ いたツꀀツꀀ 守ツꀀ いたツꀀ とツꀀ 守ツꀀ いなツꀀ た 全 守ツꀀ いなツꀀ たツꀀツꀀ な 図 4CL装用スケジュールの遵守———————————————————————- Page 41170あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(12)2 週間レンズ,1 日レンズでは約半数,定期交換(1,3 カ月)SCL では約 1/4 が決められた期間より長期に装用していた.10.消毒薬使用していた消毒薬あるいは保存薬は,MPS が 126例(54%),過酸化水素が 10 例(4%),煮沸が 1 例(0.4%),記載なしが 96 例(41%)であり,MPS が過半数であった.回答が得られなかったものも MPS が大勢を占めていると推測された.11.CLの洗浄,消毒,こすり洗いCL の洗浄に関しては,毎日が 87 例(37%),時々が32例(14%),週2~3回が23例(10%),週4~6回が20 例(9%),ほとんどしないが 18 例(8%),全くしないが 9 例(4%),ツꀀ その他が 8 例(3%),ツꀀ 記載なしが 36 例(15%)であった(図 7).CL の消毒に関しては,毎日が69 例(30%),時々が 20 例(8%),全くしないが 18 例(8%),ほとんどしないが 13 例(6%),週 4~6 が 13 例( 6 % ),ツꀀ 週 2 ~ 3 が 1 4 例 ( 6 % ),ツꀀ そ の 他 が 5 例 ( 2 % ),ツꀀ 記例,終日装用レンズを連続が 56 例,連続装用レンズを終日が 21 例,連続装用レンズを連続が 11 例,記載なしが 31 例(13%)であった.装用スケジュールをほとんどあるいは全く守っていなかったのは 1/4 であり,終日装用レンズを連続装用しているケースもみられた.9. レンズタイプ別の装用期間2 週間頻回交換 SCL(127 例)の使用期間は,2 週間以内が 46 例(36%),2~3 週間が 32 例(25%),3 週間~1 カ月が 21 例(17%),1 カ月を超えたが 15 例(12%),記載なしが 13 例(10%)であった(図 5).1 日 SCL(16例)の使用期間は,1 日が 6 例(38%),2~3 日が 4 例(25%),1~2 週間が 1 例(6%),2 週間~1 カ月が 2 例(13%),1 カ月を超えたが 1 例(6%),記載なしが 2 例(13%)であった(図 6).定期交換(1,3 カ月)SCL(39例)の使用期間は,決められた期間以内が 26 例(67%),超過した期間が 1 週間以内 1 例(3%),1~2 週間が 4 例(10%),2 週間~1 カ月が 2 例(5%),1 カ月を超えたが 4 例(10%),記載なしが 2 例(5%)であった.36%25%17%12%10%:2週間以内:2~3週間:3週間~1カ月:1カ月~:記載なし図 52週間頻回交換SCLの使用期間ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 日ツꀀツꀀツꀀ 日ツꀀツꀀツꀀ 週間ツꀀ 週間ツꀀ カ月ツꀀ カ月ツꀀツꀀツꀀ な 図 61日SCLの使用期間ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 日 時ツꀀ 週ツꀀツꀀ 回 週ツꀀツꀀ 回ツꀀ とツꀀツꀀ ない 全ツꀀ ないツꀀ のツꀀツꀀツꀀ な 図 7CLの洗浄ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 日 時ツꀀ 週ツꀀツꀀ 回 週ツꀀツꀀ 回ツꀀ とツꀀツꀀ ない 全ツꀀ ないツꀀ のツꀀツꀀツꀀ な 図 8CLの消毒———————————————————————- Page 5あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,20091171(13)約 3 割,定期検査をほとんどあるいは全く受けない人は約 3 割であった.おわりに細菌検査では緑膿菌を中心としたグラム陰性桿菌とアカントアメーバが多く検出された.検出部位は角膜病巣部と CL ケースが多かった.レンズタイプでは 2 週間頻回交換 SCL が約半数であった.CL の処方を受けたのは一般眼科と CL 量販店隣接眼科が多く,購入先は眼科施設に併設する販売店,CL 量販店が多かった.CL の洗浄を毎日しない人は約半数,CL の消毒を毎日しない人は約 4 割,こすり洗いを毎日しない人は約 7 割であった.レンズケース交換をほとんどあるいは全くしない人は約 3 割,定期検査をほとんどあるいは全く受けない人は約 3 割であった.CL の装用期間については 2 週間頻回交換 SCL,1 日 SCL では約半数,定期交換(1,3 カ月)SCL では約 1/4 が決められた期間より長期に装用していた.CL 装用に関連する重症の角膜感染症はグラム陰性桿菌とアカントアメーバが多く,特にアカントアメーバの急増が大きな問題であると考えられた.重症の感染を起こした症例の CL の扱い,定期検査に関する意識は非常に低いことが明らかとなった.CL は医師の定期検査が必要な高度管理医療機器で,危険を伴うものであり,使用期間,消毒,保管方法の遵守が大切であることのますますの啓発が必要であると考えられた.文献 1) 感染性角膜炎全国サーベイランス・スタディグループ:感染性角膜炎全国サーベイランス─分離菌・患者背景・治療の現況─.日眼会誌 110:961-972, 2006 2) 大橋裕一,鈴木崇,原祐子ほか:コンタクトレンズ関連細菌性角膜炎の発症メカニズム.日コレ誌 48:60-67, 2006 3) Nagington J, Watson PG, Playfair TJ et al:Amoebic infection of the eye. Lancet 2:1537-1540, 1974 4) 石橋康久:アカントアメーバ角膜炎 37 自験例の分析.眼科 44:1233-1239,2002 5) 糸井素純,植田喜一,岡野憲二ほか:インターネットによるコンタクトレンズ眼障害のアンケート調査.日コレ誌 50:111-121, 2008載なしが 81 例(34%)であった(図 8).CL のこすり洗いは,毎日が 43 例(18%),ほとんどしないが 37 例(16%),時々が 37 例(16%),全くしないが 36 例(15%),週2~3回が18例(8%),週4~6回が19例(8%),その他が 7 例(3%),記載なしが 37 例(16%)であった.CL の洗浄を毎日しない人は約半数,CL の消毒を毎日しない人は約 4 割,こすり洗いを毎日しない人は約 7割であった.12.レンズケース交換,CLの定期検査レンズケース交換は,3 カ月以内が 46 例(20%),6カ月以内が 20 例(9%),不定期が 43 例(18%),ほとんどしないが 43 例(18%),全くしないが 32 例(14%),その他が 12 例(5%),記載なしが 37 例(16%)であった(図 9).CL の定期検査は,1 カ月が 2 例(1%),3 カ月が53例(23%),6カ月が36例(15%),1年が10例(4%),不定期が 31 例(13%),ほとんど受けないが 28例(12%),全く受けないが 42 例(18%),その他が 2例(1%),記載なしが 29 例(12%)であった(図 10).レンズケース交換をほとんどあるいは全くしない人は20%9%18%18%5%14%16%:3カ月以内:6カ月以内:不定期:ほとんどしない:全くしない:その他:記載なし図 9レンズケース交換12%23%16%4%13%18%12%1%1%:1カ月:3カ月:6カ月:1年:不定期:ほとんど受けない:全く受けない:その他:記載なし図 10CLの定期検査

コンタクトレンズ関連角膜感染症レビュー

2009年9月30日 水曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCOPY近になってようやく全国の多施設が共同し,プロスペクティブに症例を収集した調査結果1)が発表されたが,これも母数に関する調査はされていないため,客観的に発生頻度の絶対値を得ることや,各因子の相対的危険度を正確に相互比較することはできない.CL関連角膜感染症ではなく,CL装用が原因となった眼科救急受診者については,CLメーカーの調査から得た全国のCL装用者数を母数として,各種CLの相互比較2)がなされている.しかし,この手法には表1に示すような問題があるため,1,2の形態の調査報告では,表2に示すような2種の方法で対照を得ることが多い.以後,それぞれ「施設対照」「地域対照」と記述する.II調査対象となる因子CL関連角膜感染症に関わる因子として,通常,表3に示したようなCLに直接関わる要因と,それ以外の要因が調査される.CL関連角膜感染症症例と対照症例について,これらの各因子の分散分析,ロジスティック回帰分析などによって,統計的有意差,オッズ比とその信はじめにコンタクトレンズ(CL)装用は角膜感染症の大きな危険因子であるため,その発生要因,発生頻度などについて多くの調査がなされてきた.本稿では,CL関連角膜感染症の疫学的調査を主に,過去の論文をレビューする.I感染症調査の種類CL関連角膜感染症調査報告には,つぎのような種類がある1.CL関連角膜感染症の発生頻度調査2.CL関連角膜症における各因子の相対的危険度調査3.各施設におけるCL関連角膜症による受診患者調査1の形態の調査を行うためには母数,すなわちCLの使用者数全体の人数が必要となる.2の形態であれば,CLの使用者における各因子の割合がわかれば,人数の絶対値がなくとも相対的な危険度を評価することができる.しかし,わが国では3の各施設による個別の報告が多く,1,2に相当する調査の報告はほとんどない.最(3)1161I53000011311ビ1特集●コンタクトレンズ関連角膜感染症あたらしい眼科26(9):11611166,2009コンタクトレンズ関連角膜感染症レビューReviewofContactLens-RelatedCornealInictions稲葉昌丸*表1CL関連角膜感染症の対照を,全国のCL装用者人口とした際の問題点A調査対象地域における各種CLの装用比率が,全国平均と異なっていれば,誤った母数によって間違った発生頻度が導き出されてしまう.B調査施設の専門性や経済的な問題などのために,その施設に来院する患者の各種CLの装用比率が平均的なCL装用者と異なっていれば,これも誤った母数から間違った発生頻度を導くことになる.CCLメーカーや調査会社のアンケートなどで得られた使用者人口が正確であることを保証するものがない.学術的論文に使用するには,メーカーなどの承認が必要となる.———————————————————————-Page21162あたらしい眼科Vol.26,No.9,2009(4)ら11)による,CL関連外の眼疾患や全身疾患がある症例のほうが発症リスクが低いという報告は解釈がむずかしい.疾患を有し,自己の健康状態に注意している者のほうが,異常を感じたときに早期にCL中止,受診などの対策をとるためとも考えられる.若年,男性が危険因子となっているのも,これらの対応がおろそかであるとも解釈できる.喫煙が危険因子となっているのも,喫煙行為自体と同時に,自己の健康に配慮しない者が喫煙を行いやすいという要素が働いているのかもしれない.表5に示した危険因子のほかに,十分な対照をとった調査は頼限界などを求めるのが一般的な解析方法である.通常は無水晶体眼用CLや治療用CLは例外的なCLとして解析対象から外される.また12歳以下の症例も,正確なデータが聴取しにくい,症例数も少ないなどの理由で対象から外すことが多い.このような前提に基づき,これまでの各国の報告を表4,5315)に要約する.CL種別についてはハードCLの安全性が目立ち,危険因子としては連続装用,喫煙,若年,男性などが共通している.表5のMcNallyらの報告14)にある,CL関連眼既往症が危険因子となることは容易に理解できるが,Morgan表2CL関連角膜感染症調査における対照のとり方施設対照:調査施設に来院した他の患者を対照とする地域対照:調査施設の対象地域のCL使用者を対照とする調査期間内に来院した患者のうち,CL関連角膜感染症患者を除くCL装用者を対照とし,この対照群におけるCL種別,使用方法,CLケアや性別,喫煙習慣などの因子を調査し,CL関連角膜感染症患者群との比較を行う.これによって表1のACの問題点をクリアすることはできるが,他の疾患(通常,眼科疾患)のために調査施設に受診した使用者のみを対照としているため,健康で一般的なCL装用者が除外されており,必ずしも正確な対照とはならない.また,対照症例数は限定される.しかし,施設内のカルテ参照などによってデータが得られるため,比較的容易に対照を得ることができる.調査施設に来院する患者の居住地域を対象に,無差別に家庭を選び出して電話アンケートなどを行い,CL装用者がいれば装用CL種別や他の調査対象となる因子を聴取し,これを対照とする.具体的には,調査施設が属する地方自治体を対象としてその地方の住民にアンケートを行う,来院したCL関連角膜感染症患者と同じ郵便番号を持つ地域の住民に電話調査を行う,などの方法がある.対照症例数を自由に増やすことができる.調査を行った全数の中にCL装用者が占める割合を算出し,対象地域の人口と全国の人口を比較すれば,対象地域における各種CL装用者の絶対数を推定することもできる.しかし,アンケート調査には,対象から個人情報の収集や利用の許可を得るところから始まって多大な労力,費用が必要となる.また,装用者の絶対数を算出する際には,表1のAの問題点も存在する.表3CL関連角膜感染症に関して調査される因子CLに直接関わる因子それ以外の因子CLの種別(ハードCL,ソフトCL,シリコーンハイドロゲルCLなど)CLの装用方法(終日装用,連続装用,両者の混用など)使用日数(CLの交換方法)(1日,2週間,1カ月交換,不定期交換など)CL装用時間CLの度数使用しているCLケア用品の種類装用者の性別装用者の年齢装用者の居住地域装用者の経済状態医療機関の遠さ発症から受診までの間隔他の眼疾患の有無,既往歴全身疾患の有無,既往歴ステロイド,免疫抑制薬使用の有無CLケアの良否定期検査受診状況の良否手洗い習慣の良否喫煙習慣の有無CLを装用した状態での河川の水への曝露発症時期(季節)視力予後要した治療期間———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.9,20091163(5)因子として注目されている.まだ行われていないが,CLを装用したまま河川,湖などで泳ぐこと16),CLを装用したままシャワーを浴びたり,水道水をCLケア時に使用したりすること17)も危険表4CL関連感染症に関わる角膜合併症とCL種別等による危険性―その1報告者,年合併症観察・調査期間調査方法,対象対照結果,評価項目馬嶋ら3),1980年角膜浸潤1979年8月1980年4月無水晶体眼用EW・SCL装用者72例93眼なし期間中に3眼発症1年・1万眼当たり62.2眼に相当岩崎ら4),1988年角膜感染症が疑われる角膜潰瘍,角膜浸潤377カ月(平均24.8カ月)無水晶体眼用EW・SCL装用者3施設154例173眼なし期間中に18眼発症1年・1万眼当たり503.5眼に相当Scheinら5),1989年角膜潰瘍1986年11月1987年11月期間中に受診した潰瘍性角膜炎患者のうち,SCL装用者86例施設対照:61例地域対照:410例DW・SCLに対する相対的危険性〔対照のとり方(左欄)によって異なる〕DW・SCLのEW:8.969.55倍EW・SCLのDW:2.572.76倍EW・SCLのEW:10.1715.04倍EW継続日数が1日:2.43.6倍EW継続日数が27日:6.810.0倍EW継続日数が814日:11.837.9倍EW継続日数が15日以上:14.545.0倍Poggioら6),1989年角膜潰瘍1987年6月1日7月31日,8月1日9月30日期間中に5州の登録眼科医を受診した137例地域対照:10,404名1年1万眼当たり発生頻度およびDW・SCLに対する相対的危険性DW・SCL:4.1眼EW・SCL:20.9眼,5.15倍HCL:2.0眼,0.5倍RGPCL:4.0眼,1.0倍Matthewsら7),1992年細菌性および無菌性角膜炎1990年12月12日1991年3月27日期間中に受診したCL関連細菌性角膜炎6例,無菌性角膜炎10例施設対照:307例DW・HCLに対する相対的危険性EW・使い捨てSCL:8.12倍(細菌性角膜炎17.36倍,無菌性角膜炎4.24倍)DW・SCL,使い捨てでないEW・SCL,DW・使い捨てSCLについては有意差なしBuehlerら8),1992年角膜潰瘍1990年1月1992年6月期間中に受診した42例施設対照:210例DW・SCLに対する相対的危険性RGPCL:0.86倍EWSCL:1.84倍EW・使い捨てSCL:13.47倍Scheinら9),1994年角膜潰瘍1990年1月1992年6月期間中に受診した40例施設対照:180例DW・SCLに対する相対的危険性RGPCL:1.08倍EW・SCL:2.78倍使い捨てSCL(うち85%は習慣的EW,10%はEW経験あり):13.33倍Edmundsら10),2000年細菌性角膜炎11.5年間.累計観察期間は2200年×眼に相当シリコーンハイドロゲルCL連続装用者4,800例なし発症者なし1年1万眼当たり4.5眼未満に相当———————————————————————-Page41164あたらしい眼科Vol.26,No.9,2009(6)くの調査がなされており,多数の報告を比較,検討した論文16,1820)も多い.しかし,欧米ではSCLを習慣的,あるいは臨時に連続装用する患者が多い.表4に示したIII考察CL関連角膜感染症については本稿で示したように多表4CL関連感染症に関わる角膜合併症とCL種別等による危険性―その2報告者,年合併症観察・調査期間調査方法,対象対照結果,評価項目Morganら11),2005年角膜浸潤2003年1月25日2004年1月24日期間中に受診した118例施設対照:292例地域対照:55,414例DW・SCLに対する相対的危険性〔対照(左欄)のとり方によって異なる〕DW・RGPCL:0.420.46倍EW・SCL:有意差なし7.08倍EW・SHCL:有意差なし5.81倍1日使い捨てSCLは有意差なし重症角膜浸潤同上上記のうち,重症例38例同上DW・SCLに対する相対的危険性EW・SCL:15.16倍RGPCL,1日使い捨てSCL,EW・SHCLは有意差なしStapletonら12),2008年細菌性角膜炎2003年10月1日2004年9月30日期間中にオーストラリア全土およびニュージーランドの眼科施設を受診した285例地域対照:1,798例1年1万例当たり発生頻度DW・RGPCL:1.2例DW・SCL:1.9例DW/EW・SCL:2.2例1日使い捨てSCL:2.0例DW/EW・1日使い捨てSCL:4.2例DW・SHCL:11.9例DW/EW・SHCL:5.5例EW・SCL:19.5例EW・SHCL:25.4例重症細菌性角膜炎同上上記のうち視力低下例34例同上1年1万例当たり発生頻度DW・RGPCL:0例DW・SCL:0.4例DW/EW・SCL:0.2例1日使い捨てSCL:0例DW/EW・1日使い捨てSCL:0例DW・SHCL:1.1例DW/EW・SHCL:1.6例EW・SCL:4.0例EW・SHCL:2.8例Dartら13),2008年細菌性角膜炎2003年12月3日から2年間期間中に受診した367例施設対照:1,069例地域対照:639例定期交換DW・SCLに対する相対的危険性RGPCL:0.16倍1日使い捨てSCL:1.56倍(ただし,重症例では有意差なし)SHCL,その他のSCLは有意差なしDWに対するEWの相対的危険性DW/EW(週1回以下のEW):1.87倍EW:5.28倍DW:終日装用,EW:連続装用,DW/EW:時に連続装用を行うことがある終日装用,HCL:ハードCL,RGPCL:ガス透過性ハードCL,SCL:ソフトCL(シリコーンハイドロゲルCLを除く),SHCL:シリコーンハイドロゲルCL.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.9,20091165(7)ケアが不良となった例が含まれている可能性がある.また,信頼性が低いために姿を消した塩素消毒が,調査時期に一致して使用されていた地域もある.水道水の水質Stapletonら12)による「SHCL装用者に細菌性角膜炎が多い」という報告も,欧米ではSHCLが連続装用で使用されることが多いために,装用スケジュールやレンズ表5CL関連角膜感染症に関わる角膜合併症の危険因子報告者,年合併症観察・調査期間調査方法,対象対照危険因子Scheinら5),1989年角膜潰瘍表4参照表4参照表4参照喫煙:喫煙者は非喫煙者の2.694.17倍Poggioら6),1989年角膜潰瘍表4参照表4参照表4参照性別:DWSCLでは男性のほうが多い.EWSCLでは有意差なし地域差:EWSCLではニューハンプシャー州が他州(メイン,マサチューセッツ,ロードアイランド,ヴァーモント)に比し有意に少ない.DWSCLでは州による有意差なしMcNallyら14),2003年角膜浸潤1年間米国59施設でSHCLの1カ月間EWを行った658名なし年齢:1829歳は30歳以上より多い喫煙:30歳未満の喫煙者は同年齢の非喫煙者の2.7倍.全年齢では有意差なしCL関連眼既往症:過去にCL関連急性炎症を起こした例は既往がない例の7倍弱.角膜に瘢痕を認める例では4.1倍.期間中に角膜浸潤を起こしたものは6倍近く再発しやすいMorganら11),2005年角膜浸潤表4参照表4参照表4参照性別:男性は1.311.41倍喫煙:喫煙者は全症例では1.35倍,重症例では2.06倍眼疾患:角膜浸潤以外の眼疾患がないものは,あるものの1.77倍全身疾患:他の全身疾患がないものは,あるものの2.35倍季節:7月に対し2月は2.42倍,3月は3.63倍Keayら15),2006年細菌性角膜炎16カ月期間中にオーストラリア全土およびニュージーランドの眼科施設を受診した297例なし年齢:28歳以上は28歳未満より治療期間が長い治療開始時期:発症後12時間以上経過してから治療を開始した者は視力低下例が多く,治療期間が長い医療機関からの距離:医療機関から遠い者は視力低下の危険性が5.1倍検出菌:グラム陰性菌,ノカルジア菌,アカントアメーバ,真菌のいずれかが,検出された例では,グラム陽性菌のみ,または検出なしの例に比し視力低下の可能性が11.4倍.また,治療期間が長いCL種別:EW・SHCLはEW・SCLより治療期間が短いDartら13),2008年細菌性角膜炎表4参照表4参照表4参照性別:男性は1.48倍年齢:50歳以上は0.45倍週当たり装用日数:2日以下装用者に対し,35日装用者は3.46倍,67日装用者は6.05倍屈折:遠視例は近視例の1.77倍手洗い:CLケア前の手洗いを確実に行わない者は1.49倍略号は表4に同じ.———————————————————————-Page61166あたらしい眼科Vol.26,No.9,2009(8)es.ArchOphthalmol110:1559-1562,19928)BuehlerPO,SheinOD,StamlerJFetal:Theincreasedriskofulcerativekeratitisamongdisposablesoftcontactlensusers.ArchOphthalmol110:1555-1558,19929)SheinOD,BuehlerPO,StamlerJFetal:Theimpactofovernightwearontheriskofcontactlens─Associatedulcerativekeratitis.ArchOphthalmol112:186-190,199410)EdmundsFR,ComstockTL,ReindelWT:CumulativeclinicalresultsandprojectedincidentratesofmicrobialkeratitiswithPureVisionsiliconehydrogellenses.ICLC27:182-186,200011)MorganPB,EfronN,BrennanNAetal:Riskfactorsforthedevelopmentofcornealinltrativeeventsassociatedwithcontactlenswear.InvestOphthalmolVisSci46:3136-3143,200512)StapletonF,KeayL,EdwardsKetal:Theincidenceofcontactlens-relatedmicrobialkeratitisinAustralia.Oph-thalmology115:1655-1662,200813)DartJKG,RadfordCF,MinassianDetal:Riskfactorsformicrobialkeratitiswithcontemporarycontactlenses─Acasecontrolstudy.Ophthalmology115:1647-1654,200814)McNallyJJ,ChalmersRL,McKenneyCDetal:Riskfac-torsforcornealinltrativeeventswith30-nightcontinu-ouswearofsiliconehydrogellenses.EyeContactLens29:S153-S156,200315)KeayL,EdwardsK,NaduvilathTetal:Factorsaectingthemorbidityofcontactlens-relatedmicrobialkeratitis:Apopulationstudy.InvestOphthalmolVisSci47:4302-4308,200616)HoldenBA,SweeneyDF,SankaridurgPRetal:Microbialkeratitisandvisionlosswithcontactlenses.ContactLens&AnteriorEye29:S131-S134,200317)CavanaghHD,HoldenBA:Safety,safety,safety.EyeContactLens33:341,200718)StapletonF:Contactlens-relatedmicrobialkeratitis:WhatcanepidemiologicstudiestellusContactLens&AnteriorEye29:S85-S89,200319)KeayL,RadfordC,DartJKetal:Perspectiveon15yearsofresearch:Reducedriskofmicrobialkeratitiswithfrequent-replacementcontactlenses.EyeContactLens33:167-168,200720)KeayL,StapletonF,ScheinO:Epidemiologyofcontactlens-relatedinammationandmicrobialkeratitis:A20-yearperspective.EyeContactLens33:346-353,2007基準や,基本的な衛生習慣も国によって異なり,たとえば,日本では中水道ですら大腸菌は検出不可であるが,米国の上水道の水質基準では少数なら可とされている.他国の調査結果をそのまま日本に当てはめるのは問題である.CLやケア用品自体も急速に変化しており,現代の臨床に応用できるデータを得るには,日本において継続的な調査を行う必要がある.福田らの調査は,これに相当する初めての報告であるが,対照を得ていないのが難点である.対照の取り方には表2に示した2つの方法があるが,施設対照であれば,参加施設の協力さえ得られれば集計することが可能である.一症例に対して,同時期にその施設を受診したCL装用患者数名のデータを抽出することができれば,日本におけるCL関連角膜症の実態と,危険因子に関する理解は格段に深まる.実際には多くの労力が必要となるが,これからぜひ実現させねばならない作業である.文献1)福田昌彦:コンタクトレンズ関連角膜感染症の実態と疫学.日本の眼科80:693-698,20092)稲葉昌丸,佐野研二,濱野孝:コンタクトレンズによる眼科救急の実態.日コレ誌49:84-88,20073)馬嶋慶直,野川秀利,江崎淳次:高含水率ソフトコンタクトレンズの無水晶体眼に対するextendedwearについて.日コレ誌22:229-306,19804)岩崎直樹,井上徹,濱野孝ほか:無水晶体眼に対する高含水率ソフトコンタクトレンズの連続装用による障害について.日コレ誌30:38-43,19885)ScheinOD,GlynnRJ,PoggioECetalandtheMicrobialKeratitisStudyGroup:Therelativeriskofulcerativekeratitisamongusersofdaily-wearandextended-wearsoftcontactlenses:Acase-controlstudy.NEnglJMed321:773-778,19896)PoggioEC,GlynnRJ,ScheinODetal:Theincidenceofulcerativekeratitisamongusersofdaily-wearandextended-wearsoftcontactlenses.NEnglJMed321:779-783,19897)MatthewsTD,FrazerDG,MinassianDCetal:Risksofkeratitisandpatternsofusewithdisposablecontactlens-

序説:コンタクトレンズ関連角膜感染症の現状と課題

2009年9月30日 水曜日

———————————————————————- Page 10910-1810/09/\100/頁/JCOPYはない.現時点においては,関係者がお互いの知恵を出し合い,難局を乗り越える努力を続けていく必要がある.上述のような背景のなか,この特集では,CL 関連角膜感染症にフォーカスを当て,多様な視点から現状と課題を浮き彫りにすることに主眼を置いた.まず,稲葉昌丸先生には,コンタクトレンズ関連角膜感染症に関するこれまでの疫学調査報告をレビューしていただいた.諸外国に比較してわが国での取り組みは大幅に遅れており,実態をより明確に把握するため,コントロールされたスタディの実施が望まれるところである.ついで,福田昌彦先生からは,CL 学会と眼感染症学会が共同で行った重症コンタクトレンズ関連角膜感染症の全国調査の途中経過をご紹介いただいた.いくつかの学会ですでに発表された内容ではあるが,アカントアメーバとグラム陰性桿菌とが主要病原体であることが改めて確認できる.また,植田喜一先生と柳井亮二先生には,臨床的な視点からコンタクトレンズケアの現状と問題点を,森理氏には,基礎的な視点から MPS の消毒効果をシステマティックにご分析いただいた.いずれの立場からも,MPS による消毒効果の限界とレンズケアにおける『こすり洗いとすすぎ』の重要性を強調したメッセージが発信された.一方,江口洋先生からは,角膜感染症の温床といえるコン1,700 万人を超えようとするコンタクトレンズ(CL)ユーザーが存在するなか,安全で快適なレンズ装用を演出し,サポートすることは,われわれ眼科医に課せられた大きな責務であるといえる.しかしながら,酸素透過性の向上を軸とした CL 素材の進歩にもかかわらず,CL 協議会や眼科医会が例年実施している調査においても,眼障害の発生が一向に減る様子はなく,むしろ角膜感染症に象徴される重篤な眼合併症が増加傾向にある.問題なのは,こうした角膜感染症の患者の大半が若年層で,病原体によっては恒久的な視機能障害を残す危険性を有する点にある.これは,国家として,きわめて大きな社会的損失といえよう.さて,角膜感染症増加の背景の一つに,頻回交換ソフト CL の普及と,そのケアに密接に関連したマルチパーパスソリューション(MPS)の存在があると考えられる.レンズケースに保存されるタイプのCL は,緑膿菌やアカントアメーバなど,環境に棲息する病原体の汚染に晒されやすいことがよく知られており,特に,MPS でケアを行う場合には,消毒効果が高くない点から,コンプライアンスのよくないユーザーにおいては比較的容易に汚染が生じる素地がある.仮に,CL がすべて一日使い捨てレンズに一本化されるなら,この悪循環を断ち切ることも可能ではあろうが,急速な構造変革は望めそうに(1)ツꀀ 1159ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 感ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ ●序説 あたらしい眼科 26(9):1159 1160,2009コンタクトレンズ関連角膜感染症の 現状と課題Current Trends and Issues on Contact Lens-Related Microbial Keratitis大橋裕一*———————————————————————- Page 21160あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(2)タクトレンズケース内の微生物汚染について,遺伝子タイピングを用いた興味深いアプローチをご紹介いただいた.CL 関連角膜感染症の病態を解明していくうえで,有用なツールになることが期待される.最後に,コンタクトレンズ関連角膜感染症の臨床に焦点を移し,頻度の高い細菌感染症については土至田宏先生から,最大の敵,アカントアメーバについては宇野敏彦先生から,診断,治療のエッセンスをご解説いただいた.第一線の眼科医として,患者の背景因子,臨床所見などから起炎菌を絞り込む能力をぜひ身につけておきたいものである.このように,CL 関連角膜感染症にかかわる課題は山積している.学会サイドとしては,重症感染症に的を絞り,眼感染症の専門家の所属する診療拠点を中心に,今後とも発生動向調査を継続していく予定であり,先にも述べた全国レベルの疫学調査へとつなげていきたいと考えている.政府による積極的な研究費の投下が望まれるところである.また,角膜感染症の増加を背景に立ち上がった MPS フォーラムの活動にも力を入れたい.本フォーラムは,眼感染症および CL 診療を専門とする眼科医,そして,MPS あるいは CL を販売する企業の実務担当者をメンバーとする自由な意見交換の場であり,フランクな議論のなか,解決策を地道に模索している.特に,レンズケアの重要性を示す啓発メッセージをMPS や CL のパッケージなどの目立つ場所に掲載するという合意が全会一致で得られたことは大きな成果であり,一部の企業ではすでに実行に移されている.その一方で,難敵であるアカントアメーバに対する消毒基準の設定は急務である.現在,こうしたレンズ消毒剤は主要細菌および真菌に対する比較的緩やかな基準のもと,医薬部外品として販売されているが,生じている合併症の重篤性を鑑みれば,グローバルな基準設定のなかで,その性能が再評価されるべきであろうと考える.今後は疾病予防に向けた横断的な臨床研究を活性化するとともに,国民への啓発活動を幅広く展開していく必要がある.まずは,個々の眼科医が日常の臨床において着実な指導を行うとともに,昨年度に立ち上げた眼科啓発会議などを基軸に,CL 装用におけるレンズケアの重要性を社会に根付かせていくよう,努力すべきである.

ソフトコンタクトレンズ上から点眼可能な抗アレルギー剤(C3AL)の有効性および安全性の臨床的検討

2009年8月31日 月曜日

———————————————————————-Page1(137)11430910-1810/09/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科26(8):11431152,2009c〔別刷請求先〕宮永嘉隆:〒134-0088東京都江戸川区西葛西5-4-9西葛西・井上眼科病院Reprintrequests:YoshitakaMiyanaga,M.D.,NishikasaiInoueEyeHospital,5-4-9Nishikasai,Edogawa-ku,Tokyo134-0088,JAPANソフトコンタクトレンズ上から点眼可能な抗アレルギー剤(C3AL)の有効性および安全性の臨床的検討宮永嘉隆*1,a村上晶*2中安清夫*3木村一弘*4勝海修*5佐野研二*6工藤昌之*7樋口裕彦*8糸井素純*9,b*1西葛西・井上眼科病院*2順天堂大学医学部附属順天堂医院眼科*3中安眼科クリニック*4井上眼科病院付属駿河台診療所*5西葛西井上眼科クリニック*6あすみが丘佐野眼科*7道玄坂糸井眼科医院*8ひぐち眼科*9糸井眼科医院(a:治験調整医師,b:医学専門家)ClinicalEvaluationofEcacyandSafetyofC3AL,anOphthalmicSolutionInstillablewithoutSoftContactLensRemovalYoshitakaMiyanaga1),AkiraMurakami2),KiyooNakayasu3),KazuhiroKimura4),OsamuKatsumi5),KenjiSano6),MasayukiKudo7),HirohikoHiguchi8)andMotozumiItoi9)1)NishikasaiInoueEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,JuntendoHospital,JuntendoUniversitySchoolofMedicine,3)NakayasuEyeClinic,4)SurugadaiClinic,InoueEyeHospital,5)NishikasaiInoueEyeClinic,6)AsumigaokaSanoEyeClinic,7)DogenzakaItoiEyeClinic,8)HiguchiEyeClinic,9)ItoiEyeClinicC3ALは防腐剤として塩化ベンザルコニウムを含まず,ソフトコンタクトレンズの上から点眼可能な「目のかゆみ」などの外眼部炎症症状に有効な一般用医薬品の点眼薬として開発された.今回,ソフトコンタクトレンズを使用しており,装用中に「目のかゆみ」などの外眼部炎症に起因する自覚症状を有する患者104例に,ソフトコンタクトレンズの上からC3ALを2週間投与し,自覚症状に対する有効性および安全性について検討した.その結果,C3ALの点眼による自覚症状の改善率は,「目のかゆみ」で87.3%,「目の疲れ」で78.2%,「目のかわき」で83.3%,「目のかすみ」で81.6%,「異物感」で85.7%であった.また,点眼薬の副作用は「上眼瞼の皮膚のただれ」1件(発現率1.0%)のみで,その他の副作用は一切認められなかった.以上より,C3ALは外眼部炎症に伴う自覚症状の改善に有効であり,ソフトコンタクトレンズの上から点眼が可能な点眼薬であることが確認された.C3ALisanover-the-counter(OTC)ophthalmicsolutionforimprovingmildsymptomsofexternalocularinammation,suchaseyeitchiness,withouttheneedforsoftcontactlensremoval.TheecacyandsafetyofC3ALwereevaluatedin104patientswithmildexternalocularinammationwhousedsoftcontactlensesandnoticedsubjectivesymptomsofeyeitchinessetc.whilewearingthecontactlenses.C3ALwasadministeredfor2weeksinthepresenceofsoftcontactlenses.Improvementratesforvarioussymptomswere:eyeitchiness87.3%,eyefatigue78.2%,eyedryness83.3%,blurredvision81.6%andforeignbodysensation85.7%.Therewasonly1instanceofadversereaction:soreuppereyelid(incidence:1.0%).TheseresultssuggestthatC3ALiseectiveinimprovingmildsymptomsofexternalocularinammation,andissafeenoughtopermitinstillationwithoutsoftcontactlensremoval.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(8):11431152,2009〕Keywords:C3AL,ソフトコンタクトレンズの上からの点眼,外眼部炎症性疾患,アレルギー,安全性,一般用医薬品.C3AL,instillationwithoutremovingsoftcontactlenses,externalocularinammatorydisease,allergy,safety,over-the-counterdrug.———————————————————————-Page21144あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(138)はじめに近年,1日使い捨てソフトコンタクトレンズや頻回交換ソフトコンタクトレンズなどの登場により,ソフトコンタクトレンズ使用者が急増した.ソフトコンタクトレンズ使用者の多くは,軽度のドライアイや軽微な外眼部炎症に伴う自覚症状を伴っており,ソフトコンタクトレンズ上からの点眼薬を希望する人も少なくない.しかし,医療用医薬品・一般用医薬品を問わず,多くの点眼薬はソフトコンタクトレンズ上からの点眼は禁忌である.他覚所見が乏しいケースでは,ソフトコンタクトレンズの装用に伴う「目のかゆみ」,「目のかわき」,「目の疲れ」などの自覚症状に対して医薬品を処方するには,さまざまな制約があり,一般用医薬品の存在は必要不可欠である.一部,「目のかわき」や「目の疲れ」に対しては,ソフトコンタクトレンズ上からの点眼が可能な一般用医薬品の点眼薬(以下,「一般用点眼薬」とする)が存在するが,「目のかゆみ」に対しては,ソフトコンタクトレンズ上からの点眼が可能な一般用点眼薬はこれまで存在しなかった.ソフトコンタクトレンズ装用時に,「目のかゆみ」を生じた場合は,一般的にソフトコンタクトレンズをはずして点眼することが推奨されている2).しかし,レンズケアの問題や経済的な理由により,ソフトコンタクトレンズをはずさずに点眼薬を使用する人や,点眼薬を使用できないために目をこすってしまう人も少なくない.このような行為は,結果的に角結膜上皮を傷つけてしまい,症状を悪化させる可能性がある.また,ソフトコンタクトレンズをはずして点眼し,そのままレンズケアを行わないでレンズを再装用したためにトラブルにあう人も少なくない.このような状況のなか,「目のかゆみ」に対して有効なソフトコンタクトレンズの上から点眼が可能な点眼薬が望まれていた.そこで,医療機関での眼科的治療に至らない軽度のアレルギー性結膜炎などの外眼部炎症性疾患に伴う,「目のかゆみ」などの症状に対して,コンタクトレンズの上から点眼可能な新しい一般用点眼薬C3ALが開発された.C3ALは有効成分としてグリチルリチン酸二カリウム0.125%および塩酸ピリドキシン0.010%を含有しており,防腐剤としてソフトコンタクトレンズ上からの点眼においても安全性が高いとされるソルビン酸カリウム3,4)を配合している.C3AL配合成分のソフトコンタクトレンズへの吸着および残存については,含水性ソフトコンタクトレンズのグループIIVより各1種類と非含水性ソフトコンタクトレンズ1種類の計5種類を選択して,C3ALへの浸漬による吸着実験と生理食塩水への浸漬による放出実験を行い,レンズへの配合成分の残存は認められないことを確認した.ソフトコンタクトレンズの形状,外観,ベースカーブ,直径,レンズ度数,含水率といった物性にも影響はなかった.本試験では,軽度の外眼部炎症性疾患を伴うソフトコンタクトレンズ使用者で,装用中に「目のかゆみ」,「目の疲れ」,「目のかわき」,「目のかすみ(目やにの多いときなど)」,「異物感」の自覚症状を有する患者を対象として,C3ALの自覚症状に対する有効性および安全性について検討した.I試験方法1.医療機関および試験期間本試験は表1に示した7医療機関で2005年5月より同年11月の間に実施された.なお,本試験は治験審査委員会で審査・承認された後,ヘルシンキ宣言の倫理の概念,薬事法第14条第3項および同法第80条の2に規定する基準,ならびに「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)」を遵守して実施された.2.対象試験期間中に表1に示す医療機関に来院した軽度の外眼部炎症性疾患(アレルギー性結膜炎,慢性結膜炎,乾性角結膜炎など)の患者で,ソフトコンタクトレンズ(表2,グループIIV)をほぼ毎日,終日装用または連続装用しており,装用中に「目のかゆみ」,「目の疲れ」,「目のかわき」,「目のかすみ(目やにの多いときなど)」,「異物感」の自覚症状を有する15歳以上の患者を対象とした(ただし,「目のかゆみ」の自覚症状を有さない患者は対象から除外した).なお,ソフトコンタクトレンズは,ほぼ毎日,終日装用ま表1実施機関および担当医師実施機関担当医師西葛西井上眼科クリニック勝海修,山田はづき,久間木哲子順天堂大学医学部附属順天堂医院村上晶,土至田宏中安眼科クリニック中安清夫井上眼科病院付属駿河台診療所木村一弘あすみが丘佐野眼科佐野研二道玄坂糸井眼科医院工藤昌之ひぐち眼科樋口裕彦表2ソフトコンタクトレンズのFDA分類グループ分類基準I含水率が50%未満で非イオン性であるものII含水率が50%以上で非イオン性であるものIII含水率が50%未満でイオン性であるものIV含水率が50%以上でイオン性であるもの※原材料ポリマーの構成モノマーのうち,陰イオンを有するモノマーのモル%が1%以上であるものをイオン性,1%未満であるものを非イオン性とする.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091145(139)たは連続装用していることを採用基準とした.治験責任医師または治験分担医師は,試験開始前に試験内容について被験者に十分に説明を行い,自由意思による同意を文書により得た(被験者が未成年者の場合は本人と同様に代諾者から文書による同意を得た).3.試験薬C3ALは100ml中にグリチルリチン酸二カリウムを0.125gと塩酸ピリドキシンを0.010g含有する点眼薬である.4.投与方法ソフトコンタクトレンズの上から,C3ALを1回12滴,1日56回,2週間点眼させ,投与開始時,1週間後,2週間後に,自覚症状の問診および眼科的検査を行った(表3).被験者には試験開始前のコンタクトレンズの使用状況を確認し,レンズケアを変更しないように指導した.試験期間中は,すべての点眼薬(医療用,一般用を問わず),並びにステロイド剤,非ステロイド系消炎鎮痛剤,抗精神病剤,抗ヒスタミン剤,抗アレルギー剤,眼精疲労などの効能を有するビタミン剤およびATP(アデノシン三リン酸)製剤など,C3ALの評価に影響を及ぼすと考えられる薬剤(外皮用剤による局所投与は除く)の併用は禁止した.5.観察,検査項目a.患者背景性別,年齢,診断名,ソフトコンタクトレンズの使用経験年数,現在使用している(試験薬の投与期間中に装用する)ソフトコンタクトレンズの種類と使用経験年月日,装用状況を調査した.b.自覚症状目のかゆみ,目の疲れ,目のかわき,目のかすみ(目やにの多いときなど),異物感の5項目について,表4に示す基準で,なし(0),軽度(1),中等度(2),重度(3)の4段階で判定した.表3試験スケジュール項目投与開始時1週間後(7±2日後)2週間後(14±3日後)・中止時患者背景○──症状程度自覚症状目のかゆみ,目の疲れ,目のかわき,目のかすみ(目やにの多いときなど),異物感○○○他覚所見眼瞼結膜充血,眼瞼結膜浮腫,眼瞼結膜濾胞,上眼瞼結膜乳頭増殖,眼球結膜充血,眼球結膜浮腫,輪部充血,角膜上皮障害,角膜浮腫,角膜血管新生フィッティング検査○○○コンタクトレンズ矯正視力検査○─○コンタクトレンズの表面検査○○○有効性自覚症状別改善度─○○安全性有害事象(副作用)─○○概括安全度──○表4自覚症状およびその程度症状程度目安目のかゆみ3(重度)2(中等度)1(軽度)0(なし)かゆくて我慢できないかゆい少しかゆいが我慢できるかゆくない目の疲れ3(重度)2(中等度)1(軽度)0(なし)疲れて我慢できない疲れる少し疲れるが我慢できる疲れはない目のかわき3(重度)2(中等度)1(軽度)0(なし)かわいて我慢できないかわく少しかわくが我慢できるかわかない目のかすみ(目やにの多いときなど)3(重度)2(中等度)1(軽度)0(なし)多量にでて朝,瞼がくっついている眼脂が多くて拭う必要あり眼脂が粘つく感じほとんどない異物感3(重度)2(中等度)1(軽度)0(なし)たえずゴロゴロして眼が開けられないゴロゴロするが努力すれば眼が開けられるときどきゴロゴロするない———————————————————————-Page41146あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(140)c.他覚所見眼瞼結膜充血,眼瞼結膜浮腫,眼瞼結膜濾胞,上眼瞼結膜乳頭増殖,眼球結膜充血,眼球結膜浮腫,輪部充血,角膜上皮障害,角膜浮腫,角膜血管新生の10項目について,表5の基準で判定した.なお,角膜上皮障害は原則としてフルオレセイン染色を行い観察した.d.コンタクトレンズ矯正視力検査使用したソフトコンタクトレンズによる矯正視力(コンタクトレンズ矯正視力)検査と追加矯正視力(コンタクトレンズ最高矯正視力)検査を実施した.e.フィッティング検査フィッティング検査は,細隙灯顕微鏡を用い,レンズフィッティング,安定位置および軸の回転(トーリックレンズのみ)について,それぞれ次の基準で評価した.フィッティング:Normal,Loose,Tight安定位置:中央,上方,下方,耳側方,鼻側方表5他覚所見およびその程度症状程度目安眼瞼結膜充血3(重度)2(中等度)1(軽度)0(なし)眼瞼結膜全体(上・下)の発赤で,個々の血管が識別不能眼瞼結膜全体(上・下)に多数の血管拡張眼瞼の一部分に数本の血管拡張所見なし眼瞼結膜浮腫3(重度)2(中等度)1(軽度)0(なし)上・下眼瞼結膜が水泡状に腫脹上・下眼瞼結膜が全体にびまん性に薄く腫脹する上・下眼瞼結膜にわずかに腫脹がある所見なし眼瞼結膜濾胞3(重度)2(中等度)1(軽度)0(なし)下眼瞼全体(円蓋部も含む)に全面にある下眼瞼全体(円蓋部も含む)に10十数個程度認める下眼瞼結膜円蓋部に数個認める所見なし上眼瞼結膜乳頭増殖3(重度)2(中等度)1(軽度)0(なし)瞼板部全面に直径0.61mmのものを認める瞼板部全面に直径0.30.5mmのものを認める瞼板部に一部,直径0.10.2mmのものを認める所見なし眼球結膜充血3(重度)2(中等度)1(軽度)0(なし)全体の血管が拡張して白眼の存在がわかりにくい多数の血管拡張がある数本の血管拡張がある所見なし眼球結膜浮腫3(重度)2(中等度)1(軽度)0(なし)結膜が膨隆し瞼裂外へ突出全体に薄くびまん性浮腫を認める一部分に浮腫を認める所見なし輪部充血3(重度)2(中等度)1(軽度)0(なし)全体の血管が拡張している多数の血管拡張があるわずかに血管拡張がある所見なし角膜上皮障害3(重度)2(中等度)1(軽度)0(なし)面状またはびらん点状多数で広範囲なもの(びまん性)点状少数で限局性のもの(スマイルマークパターンを含む)なし角膜浮腫3(重度)2(中等度)1(軽度)0(なし)角膜全体の浮腫実質の浮腫(Descemet膜皺襞を含む)上皮の浮腫なし角膜血管新生3(重度)2(中等度)1(軽度)0(なし)角膜輪部から2mm以上で多方向または実質内血管侵入角膜輪部から2mm以上角膜輪部から2mm未満なし———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091147(141)軸の回転※:回転なし,時計回りに()°回転,反時計回りに()°回転※:トーリックレンズの場合のみ実施f.コンタクトレンズの表面検査コンタクトレンズの表面検査は,細隙灯顕微鏡を用い,キズおよび汚れについてそれぞれ次の基準で評価した.キズ:0:なし(正常な取り扱いでも発生する最表面の微細なキズは,なしと評価する)1:軽度(局所的に観察される浅いキズ)2:中等度(広範囲に観察されるキズ)3:重度(装用上問題となるキズ)汚れ:0:なし1:軽度(局所的に観察される汚れ)2:中等度(広範囲に観察される汚れ)3:重度(装用上問題となる汚れ)6.評価項目a.有効性有効性の主要評価項目は自覚症状別改善度とし,1週間後,2週間後および中止時に評価を行った.投与開始時と比較した各症状の程度の推移は,次の判定基準に従い4段階で評価し,「軽減」と「消失」に該当する症例の割合を改善率として算出した.なお,有効性の評価は,投与開始前の自覚症状が左右眼で異なる場合は自覚症状の重いほうの眼を,同程度の場合は右眼をそれぞれ評価対象眼として行った.・消失:(3,2,1→0)・軽減:(3→2),(3,2→1)・不変:(3→3),(2→2),(1→1)・悪化:(0→1,2,3),(1→2,3),(2→3)(*症状の推移が(0→0)の場合,「開始日の症状なし」とした.)b.安全性安全性は,副作用の発現率により評価した.試験期間中に発現した有害事象について,「試験薬との関連性なし」,「試験薬との関連性不明」,「試験薬との関連性あるかもしれない」,「試験薬と明らかに関連性あり」の4段階で評価し,「関連性なし」と判断されたもの以外を副作用とした.試験終了時または中止時には,副作用内容を考慮して,概括安全度を「安全」,「ほぼ安全」,「やや問題あり」,「問題あり」,「非常に問題あり」の5段階で判定し,「安全」に該当する症例の割合を概括安全率として評価した.7.評価対象有効性については,1週間後(7±2日)または2週間後(14±3日後)のいずれかの来院日で自覚症状別改善度を評価された症例を対象とし,各症状の改善率とその95%信頼区間を算出した.安全性については,投与開始から2週間後(14±3日後)まで投薬された症例を対象とし(ただし,途中中止例・逸脱例についても,有害事象が発現した場合には安全性の評価対象に含めることとした),有害事象および副作用の発現率,概括安全率を算出した.II結果1.被験者の内訳本試験に組み入れられた総症例数は104例であり,全例にC3ALが投与された.このうち1例(2週間交換レンズ装用者)は,投与開始9日目に,洗浄の際にソフトコンタクトレンズを破損し,レンズの交換を行ったため,担当医師の指示により中止した.また,1例(1カ月交換ソフトコンタクトレンズ使用者)は,1週間後の来院日にレンズ洗浄時についたと考えられるキズがレンズに認められたことから,レンズを交換し,試験を継続したが,この症例は逸脱例として取り扱った.なお,これら2例は,1週間後の自覚症状別改善度のデータは得られたため,有効性については1週間後のみ採用とした(有効性評価対象症例数:1週間後104例,2週間後102例).安全性については,2週間後まで試験が継続表6患者背景背景因子症例数(%)性別男性23(22.1)女性81(77.9)年齢1519歳6(5.8)2029歳54(51.9)3039歳31(29.8)4049歳11(10.6)50歳2(1.9)平均値(最小値最大値)29.5(1656歳)診断名アレルギー性結膜炎86(82.7)慢性結膜炎4(3.9)乾性角結膜炎5(4.8)アレルギー性結膜炎,慢性結膜炎2(1.9)アレルギー性結膜炎,乾性角結膜炎7(6.7)ソフトコンタクトレンズの使用経験年数3カ月以上1年未満5(4.8)1年以上5年未満20(19.2)5年以上10年未満37(35.6)10年以上15年未満27(26.0)15年以上15(14.4)平均値(最小値最大値)8.5年(5カ月27年)———————————————————————-Page61148あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(142)されず,かつ2例ともに有害事象の発現が認められなかったため,評価対象から除外した(安全性評価対象症例数:102例).2.患者背景表6に患者背景,表7に試験期間中に使用したソフトコンタクトレンズの内訳を示した.対象者の年齢は1656歳であり,診断名は「アレルギー性結膜炎」が82.7%と最も多かった.試験に用いられたソフトコンタクトレンズの種類は,「頻回交換ソフトコンタクトレンズ」が67.3%と最も多かった.ソフトコンタクトレンズのFDA(米国食品医薬品局)分類でみると,グループ「I」,「II」,「IV」のレンズを使用していた.ソフトコンタクトレンズの装用状況では,「終日装用」が102例(98.1%)であり,「終日装用」における1日の平均装用時間は平均13.1時間であった.1週間の装用日数は,全例が週6日以上装用していた.なお,有効性の評価対象眼は,「右眼」が93例(89.4%)で,「左眼」が11例(10.6%)であった.3.有効性1週間後の自覚症状別の改善率は,それぞれ,「目のかゆみ」75.0%,「目の疲れ」66.1%,「目のかわき」68.6%,「目のかすみ(目やにの多いときなど)」70.3%,「異物感」85.7%であった(表8).また,2週間後の自覚症状別の改善率は,それぞれ,「目のかゆみ」87.3%,「目の疲れ」78.2%,「目のかわき」83.3%,「目のかすみ(目やにの多いときなど)」表7試験期間中に使用したソフトコンタクトレンズの内訳項目カテゴリー症例数(%)使用経験年数3カ月以上6カ月未満17(16.4)6カ月以上1年未満16(15.4)1年以上3年未満36(34.6)3年以上5年未満17(16.4)5年以上18(17.3)平均値(最小値最大値)2.4年(3カ月10年)種類使い捨て1日4(3.9)1週間2(1.9)その他0(0.0)(計)6(5.8)頻回・定期交換2週間70(67.3)1カ月23(22.1)3カ月0(0.0)その他0(0.0)(計)93(89.4)コンベンショナル(従来型)5(4.8)FDA分類I32(30.8)II28(26.9)III0(0.0)IV44(42.3)装用状況1日の平均装用時間終日装用10時間未満10(9.6)10時間15時間未満47(45.2)15時間24時間未満45(43.3)終日装用症例数102(98.1)平均値(最小値最大値)13.1(618時間)連続装用24時間2(1.9)1週間の装用日数5日以下0(0.0)6日8(7.7)7日96(92.3)———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091149(143)81.6%,「異物感」85.7%であった(表9).2週間後の「目のかゆみ」について,患者背景因子別に評価したところ(表10),診断名「アレルギー性結膜炎」で改善率が89.3%(75/84例)であった.ソフトコンタクトレンズのグループ別の改善率は,「I」で87.5%(28/32例),「II」で88.9%(24/27例),「IV」で86.0%(37/43例)であった.4.安全性有害事象は,102例中14例(18件)に発現した(発現率:13.7%).頻度の高かった有害事象は眼瞼結膜充血(4件:3.9%)で,次いで目のかわき,目のかすみ,異物感,角膜上皮障害(各3件:2.9%),眼球結膜充血(1件:1.0%)であった.点眼時の刺激感の報告はなかった.これらの有害事象のうち,レンズケアの不足や,ソフトコンタクトレンズ装用による一時的な症状出現といった理由により,13例(17件)については試験薬との因果関係はないと最終的に判断された.有害事象のうち,副作用と判断されたものは,試験薬との因果関係が不明と判定された「上眼瞼の皮膚のただれ(両眼)」1件のみであり,副作用の発現率は1.0%(1/102例)であった.この副作用発現症例については,プレドニゾロン眼軟膏0.25%の外用塗布により,試験終了後も症状の悪化と軽快をくり返したが,左上眼瞼の症状は投与終了から約3週間後に,右上眼瞼の症状は投与終了から約5週間後に消失を確認した.この症例はアトピー性皮膚炎を合併しており,以前より同症状をくり返していた.概括安全度は,副作用が発現した1例で「やや問題あり」(副作用が発現し,副作用に対する処置を必要としたが,試験薬投与の継続が可能)と判定された以外は,全例(101/102例)で「安全」と判定され,概括安全率は99.0%であった.コンタクトレンズ視力検査については,試験薬投与前後において問題となる変化は認められず,フィッティング検査およびコンタクトレンズの表面検査についても,試験期間中に問題は認められなかった.他覚所見においても,試験期間中問題となる所見はみられなかった(表11).III考察従来,ソフトコンタクトレンズ装用中に自覚する「目のかゆみ」などの外眼部炎症症状に対して,点眼薬を使用する場合には,ソフトコンタクトレンズをはずしてから点眼する必要があった.今回開発されたC3ALは,ソフトコンタクトレンズの上から点眼が可能である抗炎症成分配合の「目のかゆみ」に対応した初めての一般用点眼薬として開発された.そこで一般臨床試験を実施し,C3ALの「目のかゆみ」などの自覚症状に対する有効性と安全性について検討した.自覚症状をもつ軽度の外眼部炎症性疾患(アレルギー性結膜炎,慢性結膜炎,乾性角結膜炎など)の患者を対象に,ソフトコンタクトレンズの上から,1回12滴,1日56回,2週間C3ALを点眼した結果,自覚症状に対する改善率は「目のかゆみ」,「目のかわき」,「目のかすみ」および「異物感」の4つの自覚症状については80%以上であり,「目の疲れ」についても78.2%の改善率が得られた.C3ALの点眼による副作用は「上眼瞼の皮膚のただれ(両眼)」の1件のみで,発現率1.0%,概括安全率99.0%であ表8自覚症状別改善度(1週間後)自覚症状症例数消失軽減不変悪化改善率(%),(95%信頼区間)目のかゆみ10470826075.0(66.783.3)目の疲れ5633419066.1(53.778.5)目のかわき8655426168.6(58.878.4)目のかすみ(目やにの多いときなど)3726010170.3(55.585.0)異物感352825085.7(74.197.3)表9自覚症状別改善度(2週間後)自覚症状症例数消失軽減不変悪化改善率(%),(95%信頼区間)目のかゆみ10287213087.3(80.893.7)目の疲れ5541212078.2(67.389.1)目のかわき8466411383.3(75.491.3)目のかすみ(目やにの多いときなど)383105281.6(69.393.9)異物感352823285.7(74.197.3)———————————————————————-Page81150あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(144)った.コンタクトレンズに関する検査(コンタクトレンズ矯正視力検査,フィッティング検査,コンタクトレンズの表面検査)および他覚所見においても,C3ALの点眼による副作用はみられなかった.以上のことから,C3ALは「目のかゆみ」をはじめ,「目のかわき」などといった自覚症状に対して有効であり,ソフトコンタクトレンズの上から点眼しても表10「目のかゆみ」に対する背景因子別改善度(2週間後)項目症例数消失軽減不変悪化改善率(%),(95%信頼区間)性別男性231913087.0(73.2100.0)女性7968110087.3(80.094.7)年齢1519歳6402066.7(28.9100.0)2029歳534526088.7(80.197.2)3039歳312704087.1(75.398.9)4049歳10901090.0(71.4100.0)50歳22000100.0診断名アレルギー性結膜炎847419089.3(82.795.9)慢性結膜炎4301075.0乾性角結膜炎55000100.0アレルギー性結膜炎,慢性結膜炎22000100.0アレルギー性結膜炎,乾性角結膜炎7313057.1(20.593.8)ソフトコンタクトレンズの使用経験年数3カ月1年未満55000100.01年5年未満201415075.0(56.094.0)5年10年未満353113091.4(82.2100.0)10年15年未満272403088.9(77.0100.0)15年151302086.7(69.5100.0)使用経験年月数3カ月6カ月未満171502088.2(72.9100.0)6カ月1年未満141202085.7(67.4100.0)1年3年未満363204088.9(78.699.2)3年5年未満171412088.2(72.9100.0)5年181413083.3(66.1100.0)種類使い捨て1日4202050.01週間22000100.0頻回・定期交換2週間695928088.4(80.996.0)1カ月221903086.4(72.0100.0)コンベンショナル55000100.0FDA分類I322714087.5(76.099.0)II272403088.9(77.0100.0)IV433616086.0(75.796.4)1日の平均装用時間10時間未満99000100.010時間15時間未満463817084.8(74.495.2)15時間24時間未満453816086.7(76.796.6)24時間22000100.01週間の装用日数6日8512075.0(45.0100.0)7日9482111088.3(81.894.8)———————————————————————-Page9あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091151(145)安全な薬剤であることが確認された.ソフトコンタクトレンズの上から点眼薬を投与すると,点眼薬中の成分がレンズに吸着,蓄積し,レンズの変形や薬剤による角結膜への影響の可能性がある.しかし,医療用点眼薬の研究では,点眼薬の成分や防腐剤などの添加物のソフトコンタクトレンズへの吸着や蓄積性について,臨床上問題となることはないとの報告がある58).塩酸レボカバスチン点眼液9,10)では,頻回交換ソフトコンタクトレンズや1日使い捨てソフトコンタクトレンズについて試験を行い,コンタクトレンズの上から点眼しても安全であることが報告されている.このような医療用点眼薬とは異なり,一般用点眼薬では医師による指導や定期検査が行われないため,より安全性の高いものが望まれる.今回,一般用点眼薬として開発されたC3ALは,ソフトコンタクトレンズへの成分の吸着やレンズの物性への影響がないことに加え,臨床試験においてC3ALによる副作用はほとんど認められなかったことから,ソフトコンタクトレンズの上から点眼できる安全な薬剤であることが示された.一般に外眼部の炎症症状が軽度の場合には,一般用点眼薬による対処を行っている人が多いと考えられ,ソフトコンタクトレンズの上から点眼が可能なC3ALは,「目表11他覚所見の推移他覚所見の程度0:なし1:軽度2:中等度3:重度眼瞼結膜充血投与開始時45(44.1)56(54.9)1(1.0)0(0.0)1週間後71(69.6)30(29.4)1(1.0)0(0.0)2週間後79(77.5)23(22.5)0(0.0)0(0.0)眼瞼結膜浮腫投与開始時72(70.6)28(27.5)2(2.0)0(0.0)1週間後89(87.3)13(12.7)0(0.0)0(0.0)2週間後95(93.1)7(6.9)0(0.0)0(0.0)眼瞼結膜濾胞投与開始時34(33.3)63(61.8)5(4.9)0(0.0)1週間後41(40.2)59(57.8)2(2.0)0(0.0)2週間後49(48.0)51(50.0)2(2.0)0(0.0)上眼瞼結膜乳頭増殖投与開始時73(71.6)27(26.5)2(2.0)0(0.0)1週間後76(74.5)25(24.5)1(1.0)0(0.0)2週間後78(76.5)23(22.5)1(1.0)0(0.0)眼球結膜充血投与開始時77(75.5)25(24.5)0(0.0)0(0.0)1週間後95(93.1)7(6.9)0(0.0)0(0.0)2週間後101(99.0)1(1.0)0(0.0)0(0.0)眼球結膜浮腫投与開始時87(85.3)15(14.7)0(0.0)0(0.0)1週間後102(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)2週間後102(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)輪部充血投与開始時96(94.1)6(5.9)0(0.0)0(0.0)1週間後99(97.1)3(2.9)0(0.0)0(0.0)2週間後100(98.0)2(2.0)0(0.0)0(0.0)角膜上皮障害投与開始時89(87.3)13(12.7)0(0.0)0(0.0)1週間後93(91.2)9(8.8)0(0.0)0(0.0)2週間後97(95.1)5(4.9)0(0.0)0(0.0)角膜浮腫投与開始時102(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)1週間後102(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)2週間後102(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)角膜血管新生投与開始時97(95.1)5(4.9)0(0.0)0(0.0)1週間後98(96.1)4(3.9)0(0.0)0(0.0)2週間後98(96.1)4(3.9)0(0.0)0(0.0)———————————————————————-Page101152あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(146)のかゆみ」などの不快感を自覚する人にとって,有用なものであると考えられる.今後このようなソフトコンタクトレンズの上から点眼が可能な一般用点眼薬の開発がいっそう望まれるが,一般用点眼薬については安全性を最重視すべきであり,症状が改善したら点眼をやめる,点眼薬を使い続けても症状が良くならない場合や,充血などが生じた場合などには,すぐに点眼薬の使用を中止し,眼科を受診するように指導を徹底するなどといった,一般消費者に対する啓蒙活動が必要不可欠であろう.文献1)高村悦子,雑賀寿和,藤島浩ほか:アレルギー性結膜炎とコンタクトレンズ.日コレ誌37:248-253,19952)水谷聡:コンタクトレンズとケア溶液,点眼薬─問題点とその対策─.日コレ誌37:35-39,19953)﨑元卓:治療用コンタクトレンズへの防腐剤の吸着.日コレ誌35:177-182,19934)水谷聡,伊藤康雄,白木美香ほか:コンタクトレンズと防腐剤の影響について(第1報)─取り込みと放出─.日コレ誌34:267-276,19925)百瀬隆行,伊藤延子:トラニラスト(リザベンR)点眼液による巨大乳頭結膜炎に対する効果とソフトコンタクトレンズへの吸着.あたらしい眼科18:1425-1428,20016)百瀬隆行,岩崎和佳子,安田勉:DisodiumCromogly-cate(インタールR)点眼によるソフトコンタクトレンズへの吸着について.眼臨81:1401-1404,19877)小玉裕司,北浦孝一:ソフトコンタクトレンズ装用上における点眼使用の安全性について.日コレ誌42:9-14,20008)小玉裕司:コンタクトレンズ装用上におけるアシタザノラスト水和物点眼液(ゼペリンR点眼液)の安全性.あたらしい眼科20:373-377,20039)小玉裕司:塩酸レボカバスチン点眼液(リボスチンR点眼液0.025%)の毎日交換ディスポーザブル・ソフトコンタクトレンズ(dailyDSCL)装用眼における角結膜に及ぼす影響.あたらしい眼科22:231-234,200510)渡邉潔:頻回交換ソフトコンタクトレンズ装用者にみられるアレルギー結膜炎に対する塩酸レボカバスチン点眼液の臨床効果.日コレ誌47:54-57,2005***