0910-1810/10/\100/頁/JCOPYすることとする.I特徴的なレンズ設計オルソケラトロジーに用いるレンズは,リバースジオメトリーレンズという特殊な形状で,中央が周辺部よりもフラットにデザインされている.レンズの詳細は図1aのとおりで,角膜中央に接する光学系部分はベースカーブとよばれ,一般的な光学領の直径は6mmである.そこからは,リバースカーブとよばれるスティープにデザインされた部分が幅1mmで続いており,ここには涙液が貯留する.つぎに施されているのがアライメントカーブとよばれる部分で,レンズのセンタリングなどに深く関わっており,フルオレセイン染色では暗く写る.その周辺にあるのがペリフェラルカーブで,幅は0.3.0.5mm,エッジリフトの部分にあたり,レンズを縁取るように明るくフルオレセイン染色がみられる.オはじめにオルソケラトロジー(orthokeratology)とは,特殊デザインの酸素透過性ハードコンタクトレンズの装用により角膜形状を変化させ,近視などの屈折異常を治療する手技である.オルソケラトロジーの歴史は,約50年前,ハードコンタクトレンズの装用後に生じる「スペクタクル・ブラー」という現象の発見に端を発するとされる.これは,レンズ装用により角膜表面が押さえつけられ,角膜曲率がフラット化したために生じたものであるが,1989年,Woldygaはこの概念を応用し1),オルソケラトロジー効果を有するレンズを初めて開発した.初期には,レンズ素材や精度の問題から理論どおりの安定した施術には至らなかったが,近年の視機能関連検査機器の長足の進歩,コンタクトレンズ素材の進化,製造法の改良などから,角膜組織あるいは形状の詳細な分析が可能となったほか,かなり自由度の高いレンズ設計が行えるようになったため,オルソケラトロジーに再び光があたるようになった.特に,レンズの中央部が周辺部よりもフラットにデザインされたリバースジオメトリーレンズ(図1a)の出現によって,安定度の高いオルソケラトロジーが実現したといってよい.わが国でも,昨年春,一社のオルソケラトロジーレンズが承認され,日本コンタクトレンズ学会からはオルソケラトロジーガイドラインも公表されるなか,普及に向けた流れが起こりつつある.このような背景のもと,本稿では,オルソケラトロジーの奏効メカニズムについて,基礎的な見地から概説(29)743*TomokoGoto:鷹の子病院眼科**YuichiOhashi:愛媛大学大学院感覚機能医学講座視覚機能外科学分野(眼科学)〔別刷請求先〕五藤智子:〒790-0925松山市鷹子町525-1鷹の子病院眼科特集●屈折矯正における基本あたらしい眼科27(6):743.750,2010オルソケラトロジーの基本PrinciplesofOrthokeratology五藤智子*大橋裕一**ペリフェラルカーブ(PC)アライメントカーブ(AC)リバースカーブ(RC)ベースカーブ(BC)BCACPCRC図1aリバースジオメトリーレンズ744あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010(30)ツ状パターンを呈しているのがわかる.II角膜への影響では,オルソケラトロジーレンズの装用は,角膜にどのような変化をもたらしているのであろうか?今のところ,角膜の形状変化は,角膜上皮の再分配によって起こると考えられており,角膜中央部の上皮層が薄くなるという報告が圧倒的に多い.サルにおける角膜の組織学的変化をみた最近の報告でも,やはり角膜中央部の上皮層に扁平化や基底細胞の形状変化などがひき起こされている(図2a,b)2).しかしながら,その一方で,細胞層ルソケラトロジーのコンタクトレンズ形状は以上のようにきわめて特殊ではあるが,レンズ自体は,従来どおりの高酸素透過係数(Dk)値素材のガス透過性(RGP)ハードコンタクトレンズである.実際にオルソケラトロジーレンズを装用した状態を図1bに示す.フルオレセイン(涙液)がリバースカーブに貯留し,特徴的なドーナ図1bリバースカーブに涙液貯留図2bオルソケラトロジーによる組織学的変化(2)A.Basalcells.コントロール:Clumnarshape.B.中央角膜の薄くなった部分:Rounded,squat.BC:basalcell,bl:basallamina.(文献2より)AB図2aオルソケラトロジーによる組織学的変化(1)A.コントロール,B.中央角膜:細胞は扁平化も層や数に変化なし.C.中間部:厚くなった部分細胞の層,数に変化なし,squamouscellが大きい.(文献2より)ABC(31)あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010745しているのか,あるいは角膜実質にも起因しているのかは今後解決すべきポイントであろう.今ひとつ注意しておきたいのは,オルソケラトロジーレンズによる生理学的な影響であり,特に長期装用に伴って低酸素に基づくさまざまな変化が生じてくる可能性がある.オルソケラトロジーを5年間施術されたグループの角膜の変化を,一晩だけレンズ装用したグループを対照にconfocalmicroscopyを用いて比較検討した報告があるが,そのなかで,上皮基底細胞の密度低下とケラトサイトの減少を認めたと記載されている6).今後,長期的な装用のなかで,角膜にどのような影響が及んでいるのかを厳密に比較する意味でも,測定精度を含めた検査法の標準化は必須であり,レンズ装着時間,オルソケラトロジー施術年数などによる組織学的変化を,システマティックに追跡していく必要がある.レンズ素材に対する安全性は確保されているとはいえ,最も気になるのは,角膜上皮の菲薄化と就寝時装着との兼ね合いである.細胞接着やバリア機能に異常はないとの報告もあるが,はたしてそのとおりであろうか,上皮バリア機能の破綻は感染症のリスク増大につながる恐れがあるため,今後とも注意深く観察していくべきである.また,これまでの報告では角膜内皮細胞への影響はまったく認められていない6).筆者らの施設においても,1年の施術のなかでは内皮細胞に形態学的変化は認めていない(図3)が,この点においても引き続き長期データの集積が必要である.わが国ではオルソケラトロジーを眼科専門医が行う機会が大部分と想定されるが,その利点を十分に生かし,それぞれの施設で綿密な経過観察を行っていただきたいところである.の数には変化はなく,デスモゾームなどの細胞接着構造にも変化はみられなかったとしており(図2c),明らかな機能的異常を認めなかったと結論している.ヒトの眼について,Nguyenらはオーブスキャンを用いて角膜厚の変化を検討しているが,オルソケラトロジーレンズ装用により,起床時に角膜厚は17.7μm減少し,その12時間後には14.7μmへと変化したと報告している3).また,SwarbrickとAlharbiは,中央角膜上皮の菲薄化と中間周辺部角膜実質の肥厚を確認しており,彼らの報告によると,角膜上皮の厚さの変化は平均で17.0μm(30%)減少,中間周辺部の角膜厚は逆に11.0μm(2%)増加しており,後者は実質の変化であるとしている4,5).回帰解析によると,屈折値を1.0D変化させるためには上皮厚を8μm変化させることが必要であり,最大20μmまで変化させることが可能とされている.このように,オルソケラトロジーによる屈折変化は,そのほとんどが中央部の角膜上皮の菲薄化に基づくものであるとされているが,本当に角膜上皮にのみ起因角膜内皮細胞密度(cells/mm2)4,0003,0002,0001,000施工前施工後1年p=0.45図3オルソケラトロジー施行前・後の角膜内皮細胞密度ABC図2cオルソケラトロジーによる組織学的変化(3)A.コントロール,B.中央角膜の薄い部分:正常デスモゾーム,C.デスモゾーム拡大.(文献2より)BC:basalcellD:desmosomesN:nucleusSC:squamouscellT:tonofilamentsWC:wingcell746あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010(32)矯正度数を引き,さらにcompressionfactorとよばれる定数0.75Dを引いたものが,オルソケラトロジーレIIIレンズ処方の実際実際の臨床におけるオルソケラトロジーレンズの選択は非常にシンプルで,レンズの決定はフラットKとターゲットパワーの2つの要素により行われる.フラットKとは角膜弱主経線のことであり,レフケラトメータあるいは角膜トポグラフィなどで得られた数値を参考に求める.実際の数式は図4aのとおりで,フラットKから……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………..図4b換算表例:弱主経線42.46D換算表より近似のフラットK=42.5D近視矯正量=.3D換算表よりベースカーブ=8.71図4aオルソケラトロジーレンズの選択に際しての計算(33)あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010747れば,それに最も近いフラットK42.50Dを選択することになる.ターゲットパワーは文字どおり矯正値で,患者の矯正目標値が.3Dであれば,ターゲットパワーも.3Dとする.このように,フラットKとターゲットパワーが決定すれば,換算表から8.71というベースカーブを求めることができる(図4a,b).IV視機能―LASIK(laserinsitukeratomileusis)との比較代表的な症例を紹介する.31歳,女性で看護師,中等度の近視と乱視がある.コンタクトレンズとメガネを併用していたが,仕事上,できれば何も着けずに見たいという願望を強くもっていたため,オルソケラトロジーを行った.実際の矯正量は図5aのとおりである.オルソケラトロジー施術前および施術後1週間目のトポグラフィを示す(図5a,b).施術前と比べて角膜中央部が扁平化していることが一目でわかる.実際施術後の視力は右眼1.2,左眼1.2と良好であり,非常に満足度の高かった症例である.では,オルソケラトロジーとLASIKで視機能はどう違うのか?矯正量が軽度から中等度近視のオルソケラトロジー12例24眼,LASIK12例24眼の自験例を対象に比較してみた(図6).第一に,裸眼視力の立ち上がりはLASIKのほうが明らかに早い.オルソケラトロジーは視力が向上するのに少し時間はかかるが,1カ月程度で安定するとその後は効率よく維持できる.しかし,LASIKとの大きな違いは裸眼視力のばらつきであり,オルソケラトロジーの場合,思ったほどの視力を得られていない症例もときにみられるのが難点である(図7).その原因としてはセンタリングをはじめとしたレンズフィッティングに問題があることが考えられる.また,軽度から中等度の近視矯正において高次収差を比較するンズのベースカーブとなる.Compressionfactorとは,リバースジオメトリーレンズによる膨大な近視矯正データをもとに,矯正量を近似させる値として経験的に用いられているものである.実際には,個々に数式で計算する必要はなく,図4bのような換算表をみてベースカーブを決めることとなる.オルソケラトロジーレンズのベースカーブ決定換算表のフラットKは0.25D刻みとなっているため,もし患者の角膜弱主経線が42.46Dであ…………………………………………(図4bのつづき)〔症例〕31歳,女性,看護師.視力:R)0.05(1.0×S.2.0D(C.2.25DAx180°)L)0.06(1.2×S.2.25D(C.2.5DAx180°)メガネ,ハードCL使用,ドライアイ,充血に悩む図5a症例748あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010(34)と,LASIKでは施術前後で特に有意差がみられないのに対し,opticalzone面積が狭い(レンズ上のopticalzoneは直径6mmであるが,形状上均一なのは4mmオルソケラトロジーLASIK裸眼視力(D)前1w1m3m6m9m12m1.00.1前1w1m3m6m9m12m1.00.1図7裸眼視力の推移(LASIKとの比較)■:施行後6カ月■:施行前オルソケラトロジー(p<0.05)LASIK(p=0.67)瞳孔6mm高次収差(μm)1.61.20.80.40図8オルソケラトロジーとLASIKによる高次収差の変化の比較〔オルソケラトロジー〕年齢:24.0±9.98歳性別:男性4例/女性8例(24眼)術前屈折値:.2.93±2.10D〔LASIK〕26.9±7.91歳男性5例/女性7例(24眼).3.38±1.73D図6オルソケラトロジーとLASIKの比較図5b図5aの症例の術前トポグラフィ(左:右眼,右:左眼)図5c図5a,bの症例の術後1週間目におけるトポグラフィ(左:右眼,右:左眼)視力:R)1.2(betterC.1.0DAx180°)L)1.2p(1.2C.0.75DAx180°)あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010749程度でその周辺は多段カーブになっている)こともあってオルソケラトロジーでは明らかに高次収差が増えている(図8).このような結果からいえるのは,オルソケラトロジーが高度な視機能が要求される場面,あるいは職種には適していない点である.たとえば,パイロットや運転手などで,薄暮視など条件の悪い状況では,視機能にかなりの影響がでることを十分認識させ,処方を進めていただきたいと思う.Vレンズケア海外,特に中国や台湾などにおいて,オルソケラトロジーレンズは,わが国とは比べ物にならないほど普及している.と同時に,重大な眼感染症の報告も散見され7,8),従来のコンタクトレンズ使用に比べて感染リスクが高いのではないかとの懸念もある9,10).レンズ素材はこれまで長年われわれが処方してきたガス透過性ハードコンタクトレンズと同じであり,その意味での安全性は担保されているといえるが,就寝中,つまり閉瞼下での使用という点が決定的に異なっているため,より安全にオルソケラトロジーを継続していくためには,定期的な経過観察と患者への適切なケア指導が必要不可欠である.レンズの取り扱いの基本は従来のレンズと同様だが,ケアのスケジュールは昼夜が逆転する.オルソケラトロジーレンズの場合,夜間に装着するので,就寝中にレンズケース内を空にして確実に乾燥させ,起床時,使用したレンズを丁寧に擦り洗いをしてケースに戻す必要がある.ここで注意して欲しいのはレンズの汚れ方の違いである(図9a,b).すなわち,従来のハードコンタクトレンズはレンズ周囲に汚れが付着しやすいのに対し,オルソケラトロジーレンズは涙液貯留部位であるリバースカーブの部分に汚れが付着しやすい傾向がある.実際に使用したレンズを見ても通常の擦り洗いだけでは汚れが残留しており,この部が菌の温床となり角膜上皮に接触しているのだと思うと,これは気持ちのいいものではない.このような特殊なレンズ形状を使用者にも十分理解させ,たとえば細めの綿棒を用いて洗浄するなどの工夫が必要と思われる.つぎに,レンズケースの汚染について考えたい.図10aは通常のハードコンタクトレンズ使用者,図10bが(35)図9a通常ハードコンタクトレンズ(HCL)レンズ周辺に汚れが付着しやすい.図9bオルソケラトロジーレンズリバースカーブに汚れが付着しやすい.NegativeCNSSerratia■:Negative■:CNS(コアグラーゼ陰性菌)■:Serratia■:Klebsiella■:PseudomonasKlebsiellaPseudomonas図10aHCLケースの汚染状況(自検例)■:Negative■:CandidaCandidaNegative図10bオルソケラトロジーレンズケースの汚染状況(自検例)750あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010オルソケラトロジー使用者のレンズケースの汚染状況である.このグラフからは,オルソケラトロジーレンズ使用者のほうが菌の検出が圧倒的に少ないといえる.この理由としては,オルソケラトロジーレンズの使用者がすべて当院で処方され管理されている症例である点があげられる.レンズケースの汚染は使用者の性格などによって個人差があり,長期使用に伴ってケアがおざなりになりやすい.筆者らのクリニックでは,処方時のケア指導はもちろんのこと,その後も定期的にケアのチェックと再教育を継続している.今後,オルソケラトロジー人口の増加が予想されるが,これが重大な角膜感染症の発生につながらないように,努力していく必要がある.おわりにオルソケラトロジーは近視矯正法のオプションの一つであり,軽度から中等度までの近視が良い適応である.長期的視点からの角膜への悪影響,角膜感染症のリスクなど,課題は少なくないが,非観血的なアプローチを望む患者にとっては有力な選択肢であり,ケア指導を中心とした健全な普及のなかで,多くの国民が恩恵を受けることを期待している.文献1)WlodygaRJ,BrylaC:Cornealmolding;theeasyway.ContactLensSpectrum4(58):14-16,19892)CheahPS,NorhaniM,BariahMAetal:Histomorphometricpro.leofthecornealresponsetoshort-termreversegeometryorthokeratologylenswearinprimatecorneas.Cornea27:461-470,20083)NguyenT,SoniS,CarterDetal:Cornealchangesassociatedwithovernightorthokeratology.ARVOabstract3092.InvestOphthalmolVisSci,20024)SwarbrickHA,WongG,O’LearyDJ:Cornealresponsetoorthokeratology.OptometVisSci75:791-799,19985)AlharbiA,SwarbrickHA:Theeffectsofovernightorthokeratologylenswearoncornealthickness.InvestOphthalmolVisSci44:2518-2523,20036)ZhongX,ChenX,XieRZetal:Differencesbetweenovernightandlong-termwearoforthokeratologycontactlensesincornealcontour,thickness,andcelldensity.Cornea28:271-279,20097)KimEC,KimMS:Bilateralacanthamoebakeratitisafterorthokeratology.Cornea29:680-682,20108)WattK,SwarbrickHA:Microbialkeratitisinovernightorthokeratology:reviewofthe.rst50cases.EyeContactLens31:201-208,20059)ChooJD,HoldenBA:AdhesionofPseudomonasaeruginosatoorthokeratologyandalignmentlenses.OptomVisSci86:93-97,200910)LadagePM,YamamotoN,RoberetsonDMetal:Psudomonasaeruginosacornealbindingafter24-hourorthokeratologylenswear.EyeContactLens30:173-178,2004(36)