———————————————————————-Page10910-1810/10/\100/頁/JCOPY退状態といわれる1).眼の疲れは「見る」という活動,すなわち視覚を通して情報を得る活動が過度であった場合にひき起こされる.したがって,眼の疲れのメカニズムを知るには,われわれが無意識に行っている視覚情報処理のしくみを理解する必要がある.本稿ではまず,視覚情報処理のしくみについて概観し,そのシステムの疲労という視点に立って眼の疲れを考察する.I見ることのしくみ生体の感覚系は必要な情報のみを効果的に選択し,それらを中枢で処理できる条件にするための構造と機能を備えている.「見る」ことに関しての構造は眼球である.眼球はしばしば高性能カメラに例えられるが,角膜,水晶体を中心とする眼光学系は光学的にみれば欠点が多く,決して優れたものとはいえない.その欠点を補っているのが網膜視細胞に始まる視覚神経系である2,3).はじめに20世紀半ばにコンピュータが発明されると,それを用いてOA(OceAutomation)化が急速に進行し事務作業の形態を一変させた.21世紀になると,さらに技術革新が進み,IT(InformationTechnology)を応用したパソコンや携帯電話,携帯情報端末と,それらをインフラとした各種サービスの普及で,職場のみならず一般生活での利便性も驚異的に向上した.文明の進化により,われわれが入手できる情報の量は飛躍的に増大したが,その大部分は視覚を通して得られるものである.現代社会において最も酷使されているのが視覚であり,最も疲れを感じるのが「眼」であることは,厚生労働省の「技術革新と労働に関する実態調査」からも明らかである(表1).疲労とは過度の肉体的,精神的な活動によって惹起される,独特の病的不快感と休養欲求を伴う身体機能の減(3)281TT54342264TT特集●眼の疲れあたらしい眼科27(3):281286,2010眼の疲れ総論Eyestrain:AnOverview中村芳子*表1VDT作業における身体的な疲労や症状がある労働者および内容別労働者割合実施年度身体的な疲労や症状がある労働者計身体的な疲労や症状の内容(複数回答)身体的な疲労や症状がない労働者頭痛目の疲れ・痛み首・肩のこり・痛み腰の疲れ・痛みH20年[68.9%]100%23.3%90.8%74.8%26.9%[31.1%]H15年[78%]100%23%91.6%70.4%26.6%[22.0%]H10年[77.6%]100%18.7%90.4%69.3%22.0%[22.4%][]内はコンピュータ機器を使用している労働者のうち「身体的な疲労や症状がある労働者」および「ない労働者」の割合.斜体数字は「ある労働者計」を100%としたきの内容別割合である.VDT作業で身体的な疲労や症状を感じている労働者の割合は,H20年度:68.9%で前2回(H10年度:77.6%,H15年度:78%)より減少がみられた.一方,身体的疲労や症状の内容では,「目の疲れ・痛み」が最も多く,3回の調査ともに9割以上(90.491.6%)であった.(厚生労働省:技術革新と労働に関する実態調査結果より抜粋)———————————————————————-Page2282あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010(4)系,視床下部,視床などの情報と統合あるいは照会,選択される2,57).その結果に基づいて認識が成立し,意思決定がなされ,運動中枢への働きかけが行われる.人間の眼にとって「必要な情報のみを効果的に選択する」ために求められる機能は,対象物を両眼の網膜中心窩で捉え,網膜上に鮮明に結像させることである.この役割を担うのが外眼筋による眼球運動,毛様体筋による焦点調節,虹彩筋による瞳孔運動である.いずれの機能も筋肉によって情報の位置や強度などを制御するので,モーター制御系と総称することができる8).視覚情報処理系とモーター制御系は密接に連携して「ものを見ること」を可能にしている(図2).II眼の疲れのメカニズム疲労は筋線維の疲労が中心となる肉体疲労と精神疲労の2つに分類される.精神疲労は大脳の興奮水準を高めた状態で行う精神・神経活動が長く続いたときに起こり,高頻度のインパルスによりシナプス前終末部の伝達物質が枯渇して起こるシナプス疲労が原因と考えられる.眼の疲れは,視力を必要とする作業を続けるときに起こるシナプス疲労が原因といわれ,肉体疲労の関与は否定的である9).明視に関連する筋肉は,3組の外眼筋,毛様体筋,瞳網膜上に投影された光学像を視覚情報として脳に送るため,網膜視細胞で光の強度がパルス電気信号に変えられ(光電変換),双極細胞を経て神経節細胞に伝えられる.視細胞と双極細胞の間には水平細胞,双極細胞と神経節細胞の間にはアマクリン細胞が介在し,それぞれの細胞と細胞間シナプスの特性により網膜内で情報処理の最初のステップが進行する.網膜は光変換器であると同時に,積極的に情報処理を行う中枢神経の機能を有している2,4).神経節細胞の軸策は視神経を形成して眼球外へ出,外側膝状体細胞に終止する.外側膝状体は網膜からの情報を大脳皮質視覚野へ伝える中継点であるが,ここでさらに情報の整理,強調,増幅が行われる.外側膝状体からの情報は大脳皮質第一次視覚野へ送られ,特有のコラム構造でさらに処理された後,視覚前野の各領域を経て,物体の動きや位置に関する運動視情報は頭頂葉に(背側経路),視対象の色や形といった物体視情報は側頭葉に出力される(腹側経路).これらの経路で並列に処理された情報はともに前頭前野に送られ(図1),大脳辺縁図1視覚情報の流れ視覚認識には大きく分けて2種類の課題がある.1つは運動視に関するもので,周囲の物体の位置や動き,環境の3次元構造などについて,情報の高速処理が求められる.他の1つは物体視に関するもので,物の形態,色,質などを正確に識別することが求められる.この課題に対し脳は,運動視情報はV1から頭頂葉に至る「背側経路」で処理し,物体視情報はV1から側頭葉に至る「腹側経路」で処理するという,並列処理で対応している.この2つの投射路を経た視覚情報は前頭前野に出力され認識される.(文献6,7より引用改変)モーター制御系視覚情報処理系眼球運動焦点調節瞳孔運動眼球運動中枢近見反応中枢外眼筋・毛様体筋虹彩筋入力感覚(sensation)知覚(perception)認識(cognition)【眼球】【網膜】【大脳視覚領】【大脳高次中枢】神経系Ⅳ(記憶)神経系Ⅲ(識別)神経系Ⅱ特徴抽出神経系Ⅰ情報整理変換系結像系出力図2ものを見るしくみ「ものを見る」ためには,見たい物を網膜中心窩で捉え,網膜上に焦点あわせをする「モーター制御系」と網膜上の像を高次中枢に伝えて認識できるようにする「視覚情報処理系」がうまく連携することが求められる.(文献8より引用改変)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010283(5)束点を維持しようとする,あるいは収束点変更の際に誤りを避けようとすることが,眼に疲労感を生じさせる原因と考えられる9).以上のことから,眼の疲れは視覚情報処理系のシナプス疲労による精神疲労と考えられる.刺激の質が悪いとき,結像系やモーター制御系に問題があるときなど,誤差の大きい視情報が伝達される状況では,知覚・認識系の負荷も大きく,眼の疲れを誘発しやすい.さらに認識には過去に学習した結果との照合も関与する.したがって,慣れた道であれば視力が不良であっても速やかに目的地に着けるが,初めての道であれば大変な労力を必要とする,というように記憶の補佐の有無で情報処理効率が変化する.同じ視作業であっても,習熟度によって眼の疲れ具合が違うのはこのためである.III眼の疲れ誘因「見難いものを判読しようとすると眼が疲れる」「老眼は眼の疲れで始まる」といったことを多くの人が経験する.眼科臨床の場では遠視や乱視,眼位異常があれば眼が疲れるというのも周知の事実である.視覚情報処理モデルに照らし合わせると,これらはいずれも入力から出力に至る過程のどこかで,情報処理の負荷要因となりシ孔括約筋と散大筋であるが,いずれも筋局所の疲労はないか,あっても眼疲労の原因にはならないといわれる.その理由として,これらの筋肉は休みなく微小運動をくり返している(外眼筋の固視微動,毛様体筋の調節微動,虹彩筋による瞳孔動揺)が,眼の疲れを誘発しないこと.頭位変化に伴う視線のブレの修正も絶え間なく行われており(前庭動眼反射),視線の揺れを防止するために外眼筋は絶えず活動しているが,これも眼の疲れを誘発しないことなどがあげられる.一方,同じく外眼筋の活動であっても,輻湊運動に関しては眼の疲れを誘発することが知られている.輻湊運動は左右の眼の網膜像のズレによりひき起こされる.条件によっては「快適に見える範囲」を超えた視線の収束を大脳の興奮水準を高めた状態で行わなければならず,シナプス疲労を招く.毛様体筋の活動による調節作用においても,最大調節量の2/3未満を使用するだけで網膜像を維持できるのであれば問題ないが,それを超えると眼の疲れを誘発するといわれる.瞳孔の動きについても同様の報告がみられ,外眼筋,内眼筋ともに快適な視覚の範囲内で働いていれば,常に運動していても疲労現象は生じないと推測される.したがって,眼筋線維の疲労ではなく,誤った視覚信号が脳に伝達され,視線の収1.光刺激(ディスプレイ注視など)2.照明の不良3.印刷面の反射・上方視での近業・不慣れな作業1.疲労,不2.ストレス(テクストレスをむ)3.全身疾患4.精神疾患5.頭部外症1.部疾患2.内障1.屈折異常(遠視,乱視)2.調節異常(老視など)3.眼位異常4.不適切な眼鏡,C5.ドライアイ入力(A)(B)(C)(D)(F)(E)【眼球】【網膜】【大脳視覚領】【大脳高次中枢】神経系Ⅳ(記憶)神経系Ⅲ(識別)神経系Ⅱ神経系Ⅰ変換系結像系出力図3視覚情報処理系への負荷要因負荷要因(AF)とそれぞれが影響する部位を→で示す.(A)視情報の画質低下の要因となる,(B)輻湊安静位の遠方化・斜位量の増加をきたす,(C)網膜像のボケあるいはズレを大きくする,(D)網膜像のゆがみや欠損が生じる,(E)情報処理能力の低下をきたす,(F)情報処理効率の低下をきたす.———————————————————————-Page4284あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010(6)10:1以下が望ましいといわれる10).さらにデスクトップパソコンの場合には,ディスプレイ注視時に視線が下を向かないという負荷も加わる.視線が下を向かない近業では,輻湊安静位の遠方化や斜位量の増加がみられ,両眼同時視のために過剰な努力が必要となる.また,眼表面の露出面積が増加し,蒸発亢進型ドライアイを発症しやすいという弊害もある.ディスプレイの負荷は一般に理解されている以上に大きいものであり,2002年に厚生労働省より出された「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン」にも,快適にディスプレイを使用するための詳細な指示がみられる(表2).結像系・変換系に影響するのは視器の性能である.遠視,乱視,調節機能の低下や斜位,斜視などがあれば,誤差の大きい情報を処理する必要があり視覚情報処理系に負荷がかかる.しかし,視機能異常の程度と眼の疲れステムの疲労をひき起こすと推測される(図3).IT社会において,入力に関する最大の負荷要因はディスプレイ(情報表示装置)の注視である.書籍,新聞などの印刷紙面は反射物体であるため,ちらつきがない.周囲の明るさによって紙面の輝度は変化するが,文字と背景のコントラストは変化しない.したがって,極端に暗い場所以外では,文字の読み取りやすさは同じである.一方,ディスプレイは自ら光を発する発光型表示装置で,光点の点滅によって情報を表示する.このため,自覚の有無にかかわらず画面は常時ちらついている.発光型表示装置の特性として暗室でも視認性が高い一面,周囲が明るくなると文字と背景のコントラストが低下し読み取りにくくなる.すなわち,周囲の光環境が変われば,容易に画質不良の画面に変化する.暗所での作業においても,作業面の輝度と周囲の輝度比が大きくなり過ぎると視覚負担を招く可能性があり,輝度バランスは表2VDT作業ガイドライン※に記載されたディスプレイ関連の指示事項作業環境管理<照明及び採光>・ディスプレイを用いる場合のディスプレイ画面上における照度は500ルクス以下,書類上及びキーボード上における照度は300ルクス以上とすること.・ディスプレイ画面の明るさ,書類及びキーボード面における明るさと周辺の明るさの差はなるべく小さくすること.・ディスプレイ画面に直接又は間接的に太陽光等が入射する場合は,必要に応じて窓にブラインド又はカーテン等を設け,適切な明るさとなるようにすること.<グレアの防止>・ディスプレイについては,必要に応じ,次に掲げる措置を講じること等により,グレアの防止を図ること.(イ)ディスプレイ画面の位置,前後の傾き,左右の向き等を調整させること.(ロ)反射防止型ディスプレイを用いること.(ハ)間接照明等のグレア防止用照明器具を用いること.(ニ)その他グレアを防止するための有効な措置を講じること.作業管理<VDT機器等>・ディスプレイは,次の要件を満たすものを用いること.(イ)目的とするVDT作業を負担なく遂行できる画面サイズであること.(ロ)フリッカーは,知覚されないものであること.(ハ)ディスプレイ画面上の輝度又はコントラストは作業者が容易に調整できるものであることが望ましい.<調整>・ディスプレイに関して(イ)おおむね40cm以上の視距離が確保できるようにし,この距離で見やすいように必要に応じて適切な眼鏡による矯正を行うこと.(ロ)ディスプレイは,その画面の上端が眼の高さとほぼ同じか,やや下になる高さにすることが望ましい.(ハ)ディスプレイ画面とキーボード又は書類との視距離の差が極端に大きくなく,かつ,適切な視野範囲になるようにすること.(ニ)ディスプレイは,作業者にとって好ましい位置,角度,明るさ等に調整すること.(ホ)ディスプレイに表示する文字の大きさは,小さすぎないように配慮し,文字高さが概ね3mm以上とするのが望ましい.※「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン」(厚生労働省:2002年)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010285(7)となる可能性をもつ,という点においては見解が一致しているようである.眼精疲労の発症メカニズムとしては,外環境要因(眼の使用),視器要因(眼の能力),内環境要因(個体の耐える力)の三者が関与し,そのバランスの崩れにより発症するという考え方が一般的である9).鈴村は,これらの因子が単独で発症することは少なく,複雑に絡み合って,それらが悪循環をして生じると考え,眼精疲労の原因として単一なものをあげることはむずかしいと述べている.Duke-Elderは“EYE-SATRAImaybedenedasthesymptomsexperiencedintheconsciousstriv-ingofthevisualapparatustoclarifyvisionbyineec-tualadjustments.”と記載し,鈴村のいう悪循環を「明視を目的とした無駄な調整」と表現した.外環境要因,視器要因,内環境要因を視覚情報処理系に当てはめると,それぞれ入力,結像・変換系,知覚・認識系の要因となる.すなわち図3に示したすべての因子は,眼の生理的疲労とともに眼精疲労の発症要因となるが,単独では発症に至らないということである.では,単一因子が発端となり,複数の因子が絡み合って悪循環する状態に至る過程でどのようなトラブルが起こるのだろうか.眼の疲れは視覚情報処理系の処理能力が低下し出力量が低下したときに自覚されると推測する.このとき,個体の要求が出力量に見合うものであればバランスの崩れは起こらない.そうでなければ,出力に見合うところまで要求水準を下げる,あるいは休息などにより出力が回復するまで待つことが必要となる.しかし,出力量の低下が容認されず,情報処理効率の改善が指示されるとすれば,指示が伝達される所はモーター制御系である.なかでも網膜像のボケをトリガーとしてひき起こされる調節系が最も標的になりやすいものと思われる.赤外線オプトメーターを用いて眼精疲労症例の調節機能を測定すると,しばしば調節痙攣型の異常が検出される12).調節痙攣型の特徴は,調節無刺激状態においてみられる屈折度の大きな変動と近方への偏位であり,調節系が解放制御下にあっても不必要な調整をくり返していることを示している.この無駄な調整のために,調節刺激を与えた場合の実質反応量は低下することが多い.したがって,自覚的調節検査では調節不全や麻痺と診断されるのであやすさは相関しない.本人の努力で矯正可能な軽度の視機能異常があり,無意識のうちに矯正努力を持続する状況が最も疲れやすいといわれる.眼位異常を例にとれば,両眼視努力が強制される斜位のほうが斜視より症状が強い.眼鏡やコンタクトレンズについても,「よく見えること」と「装用して疲れないこと」は別の問題である.近視の完全矯正や遠視の低矯正レンズは,装用により調節負荷を強いることになり眼の疲れを誘発する.老視の矯正に繁用される累進多焦点レンズ眼鏡についても,単焦点レンズの鮮明な視感覚とは異なることを意識して装用させなければ,やはり無意識の矯正努力に繋がる危険性がある.知覚・認識系に影響を与える可能性があるという意味では,ほとんどの全身疾患,精神疾患,体質的要素や生体リズムまでもが該当する.そのなかで特に今日的な要因をあげるとすれば,疲労の影響と思われる.「過労死(Karoushi)」なる和製国際語が生まれるほどに日本の労働者に慢性的疲労が蔓延しているといわれる.2006年に始まった「長時間労働者への医師による面接指導」(改正労働安全衛生法第66条の8,9)に準じて面談を実施すると,身体的疲労を自覚するケースの多くが眼の疲労も感じている.うつや疲労を訴える症例では脳の血流が低下すると報告されており11),視覚情報処理の高次中枢にも影響があるものと推測される.IV眼精疲労のメカニズム疲労は適当な休息で速やかに改善する生理的疲労と,容易に回復せず不快な症状が持続する病的疲労に分類される.眼精疲労は眼の病的疲労で,WilliamMackenzieが1843年に視矇,流涙,頭痛を示す女工らの症状をasthenopiaとして最初に報告して以来,現代病,文明病の一つとして研究されてきた.わが国でも,戦後の眼科診療において患者が急増したことを受けて多数の報告がなされた.その本態については報告者によって理解がまちまちで不明点も多いが,本症は,①眼痛,視矇,流涙,頭痛などの症状があり,眼の疲れを主症状とする眼疲労とは異なる,②詳細に検査すれば多くの症例で調節機能の変化を認める,③発症に関与する要因は多彩であり,ほとんどの眼疾患,全身疾患から外環境までが誘引———————————————————————-Page6286あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010(8)人は19%で,2割に達しなかった.この結果にみられるように,眼の疲れを感じている人は多いものの,大多数は自助努力で対応しているようである.眼科を受診する症例があれば,そのこと自体が症状の重さの証といえる.受診例に対しては,視情報の入力に始まる視覚情報処理過程のどこに問題があって訴えに繋がっているのかを慎重に検証することが望まれる.一方,未受診の症例に関しても,なんらかの形で支援が必要である.日本眼科啓発会議(http://www.ganka-kaigi.org/)などの新しい支援活動に期待したい.文献1)木谷照夫,渡辺恭良:疲労の実体と研究の現状.疲労の科学(井上正康,倉恒弘彦,渡辺恭良編),p2-4,講談社,20012)福田忠彦:視覚神経情報処理.生体情報論,p81-105,朝倉書店,19973)若倉雅登,三村治:視覚.視覚と眼球運動のすべて(若倉雅登,三村治編),p8-23,メジカルビュー社,20074)花沢明俊:神経生理I─網膜からV1まで─.視覚Ⅰ視覚系の構造と初期機能(篠森敬三編),p24-44,朝倉書店,20075)花沢明俊:神経生理II─高次の視覚領野─.視覚I視覚系の構造と初期機能(篠森敬三編),p45-63,朝倉書店,20076)乾敏郎,堀江長春,清澤源弘ほか:視覚認知の中枢機構.視覚と眼球運動のすべて(若倉雅登,三村治編),p48-69,メジカルビュー社,20077)佐藤宏道,津本忠治:大脳における視覚情報処理とその可塑性.眼科NewInsight①視覚情報処理(若倉雅登編),p60-73,メジカルビュー社,19948)福田忠彦:視覚補助系の機能(1)(2).生体情報論,p106-136,朝倉書店,19979)蒲山俊夫,松崎浩:眼精疲労.新臨床眼科全書,第2巻B(市川宏編),p189-203,金原出版,199310)吉武良治:VDT作業の作業環境管理のすすめ方.VDT作業と健康障害(和田攻監修),p98-108,産業医学振興財団,200511)小山文彦,北條敬,大月健郎ほか:脳血流99mTc-ECDSPECTを用いたうつ病像の客観的評価.日職災医誌56:122-127,200812)中村芳子:眼精疲労の診断と対策.あたらしい眼科14:1319-1326,1997るが,毛様体筋は休んでいるわけではなく緊張と弛緩をくり返している.このような調節微動の粗大化を特徴とする所見は,短時間の視作業負荷によって誘発されることはまれである.眼精疲労症例では,瞳孔動揺もまた動きが粗大になる,あるいは固視微動が顕在化し固視動揺が起こることも知られている3).以上のことから,眼精疲労は「視覚情報処理速度が低下し出力量が減ったときに,それをカバーすべく,高位中枢からモーター制御系に不当で無駄な賦活化指令が出ること」により発症するのではないかと推測する.臨床の場で最も身近に「不当で無駄な指示」に遭遇するのが老視初期の眼精疲労症例である.正視あるいは軽度遠視の個体は「網膜像のボケは焦点調節によって必ず解消される」と学習している.したがって,水晶体硬化のために調節応答が悪くなり情報処理効率が低下した場合にも,まずは調節系賦活化指令によって対処しようとするはずである.最良の対策は近用眼鏡処方により「見える」状態から「容易に見える」状態に戻すことであるが,眼鏡に対する抵抗が強く,裸眼ではどうしても見えなくなって眼鏡をかけるようになるまで眼精疲労が続く症例もある.さらに全年齢を通じて中枢の判断を誤らせる要因となるのが,情報社会における「生きること≒見ること」という構図である.視覚情報処理の効率低下は,能動的に生きるための障壁であり容認できないといった状況がみられる.このため,疲れても見ることを休めずに眼精疲労をひき起こすケースも少なくないと思われる.おわりに日本経済新聞社がインターネット調査会社マクロミルを通じて,1日1時間以上パソコンを使用する成人男女を対象に2009年10月に行ったアンケート調査(有効回答数1,032)の結果では,ディスプレイを見ていて「目に疲れや症状を感じることがある」と回答した人は83%と,8割を超えていた.そのうち医師の診断を仰いだ