0910-1810/10/\100/頁/JCOPY (91) 229《原著》 あたらしい眼科 27(2):229.233,2010cはじめに流涙症は,日常診療においてよく遭遇する疾患の一つであり,この原因は,おもに涙道閉塞である.しかし,涙道閉塞のない流涙症では,結膜弛緩症がその原因として報告され,積極的に治療されるようになりつつある.結膜弛緩症の流涙の原因は,結膜下の弾性線維の断片化により結膜が弛緩し1,2),涙点のブロックすることによる涙液の通過障害や,涙液メニスカスの形成不全による保持機能の低下などが考えられており3.5),弛緩結膜を切除し,涙点ブロックを防ぐとともに,良好な涙液メニスカスを作製することで自覚症状の改善が得られる4,6,7).また,弛緩結膜による機械的擦過や,涙液メニスカスの占拠に伴う陰圧により,角膜表面の涙液層〔別刷請求先〕鹿嶋友敬:〒371-8511 前橋市昭和町3-39-15群馬大学大学院医学系研究科視覚病態学分野Reprint requests:Tomoyuki Kashima, M.D., Department of Ophthalmology, Gunma University School of Medicine. 3-39-15Showamachi, Maebashi 371-8511, JAPANバイポーラ凝固鑷子による熱凝固の短縮効果を利用した簡便な結膜弛緩症手術鹿嶋友敬*1,2三浦文英*2秋山英雄*1岸章治*1*1 群馬大学大学院医学系研究科病態循環再生学講座眼科学分野*2 佐久総合病院眼科Simple Surgery for Conjunctivochalasis Using Shrinking Effect of Heat Coagulation withBipolar Coagulation ForcepsTomoyuki Kashima1,2), Fumihide Miura2), Hideo Akiyama1) and Shoji Kishi1)1) Department of Ophthalmology, Gunma University School of Medicine, 2)Department of Ophthalmology, Saku Central Hospital目的:結膜弛緩症に対する治療として,一般的に余剰結膜を切開する方法が行われるが,術後一過性に強い異物感を訴える症例を経験することがある.今回筆者らは弛緩結膜の凝固を行うことで,術前の症状の改善と術後異物感の改善に良好な成績を収めたので報告する.対象および方法:2009 年4 月から5 月に筆者らの施設で結膜凝固術を行った4 例7 眼.平均年齢は72.5 歳(62.81 歳)であった.円蓋部の結膜下麻酔ののちに,弛緩した結膜を把持・挙上し余剰結膜を電気凝固した.結果:異物感や流涙などの術前の自覚症状は術後早期に消失した.術後早期の手技に伴う異物感は軽度で,2 日以内に消退した.経過観察期間中,自覚症状と前眼部所見で再発はみられていない.結論:今回の結膜への凝固治療は簡便であること,結膜の短縮効果が切開法とほぼ同等であること,術後異物感が切開法より少ないことの3 点で,結膜切開法より有用であると考えられた.Purpose:Conjunctiva resection is commonly employed in treating conjunctivochalasis. Postsurgically, however,some patients continue to experience a gritty sensation. We report the efficiency of a thermal cauterizationtechnique for conjunctival shrinkage in treating this condition;we also report our post operative results. Methods:Included in this study were 7 eyes of 4 conjunctivochalasis patients, age ranged from 62 to 81 years(mean72.5 years), who underwent conjunctival cauterization at our institution between April.May 2009. The technique,performed following subconjunctival injection of local anesthetic agent at the lower fornix, involved pinching excessconjunctiva and cauterizing it with bipolar cautery. Results:All patients expressed relief from watery eyes andforeign body sensation immediately after the procedure, and had a mild gritty sensation that persisted for 1-2days. None had recurrence of symptoms at the end of follow-up period. Conclusion:We observed that thermalcauterization could offer the three advantages of simple surgical procedure, conjunctival shrinkage, and relief ofpostoperative foreign body sensation.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)27(2):229.233, 2010〕Key words:結膜弛緩症,電気凝固,短縮,流涙,異物感.conjunctivochalasis, cauterization, shrinkage, wateryeyes, foreign body sensation.230あたらしい眼科Vol. 27,No. 2,2010 (92)を菲薄化することで,角膜障害を生じ,異物感の原因にもなると報告されている8,9).結膜弛緩症に対する治療は,一般的に横井らの弛緩結膜を切開する方法(以下,切開法)が行われ,そのほかに通糸法などが報告されている10.12).しかし切開法では術後2 週間程度,異物感や流涙の増悪を訴える患者をしばしば経験する.これは,残存縫合糸や結膜切開部断端への刺激によると考えられているため,切開法では避けることができない.また,通糸法においては,縫合を行うため縫合糸の刺激が残存し,かつ再発のリスクを伴う8).今回筆者らは結膜弛緩症に対しバイポーラ鑷子を用いて弛緩結膜の凝固を行い,結膜の切除および縫合を行うことなく,結膜の短縮と結膜と強膜の固着を得ることで,異物感・流涙症状の改善と術後の異物感の改善の双方に良好な成績を得たので報告する.I対象および方法対象は2009 年4 月から5 月の2 カ月間に群馬大学附属病院眼科と佐久総合病院眼科を受診した4 例7 眼.年齢は61.82 歳,平均72.5 歳.これらの症例の主訴は1 例1 眼が異物感,3 例6 眼が流涙であった.全例に通水検査を行い,涙道閉塞のないことを確認した.涙点部の軽度の外反を伴っている症例は,涙点の外反による機能的閉塞やHorner 筋の弛緩でポンプ機能が低下している可能性を考え適応から除外した.麻酔法は点眼麻酔(塩酸オキシブプロカイン;ベノキシールR)と,ごく少量(約0.2 ml)のエピネフリン添加1%塩酸リドカイン;キシロカインER による結膜下麻酔を用いた.注入部位はブロック麻酔の目的で,鼻側から耳側まで180°の範囲で下方円蓋部結膜に注入した.麻酔薬の注入時に出血した場合は適宜凝固位置の結膜をわずかに切開し,出血を排出してから行った.凝固部位は,横井らの報告に準じて6,7)デザインした.角膜輪部より2 mm の部位が凝固端となるように,下方結膜の角膜輪部より約4 mm の位置の結膜を鑷子で把持し軽く持ち上げ,上転させた状態での余剰結膜のみをバイポーラ鑷子で両側から軽く把持し,凝固した(図1,2).凝固電圧は設定を最弱にしておき,凝固斑がつかない場合は徐々に電圧を上昇させた.結膜が白濁・収縮したことが確認できるまで凝固した.収縮効果により通電後には把持した部位の結膜はほとんど消失し,平坦化した.手術時間は,全例で片眼2.3 分程度であった.弛緩結膜が十分に処理されたところで,急性期結膜浮腫の防止のためステロイド眼軟膏(ベタメタゾン;リンデロンAR 眼軟膏)を塗布,3 時間後からステロイド(リンデロンAR)1 日6 回と抗生物質点眼(レボフロキサシン;クラビットR)1 日6 回を指示した.術1 週間でリンデロンAR 点眼は弱ステロイド(フルオロメトロン;フルメトロンR0.1%)1 日4 回へ変更し,クラビットR 点眼も1 日4 回へ漸減し,その後約1 週間で両者とも中止した.II結果全例で術当日から数日の軽い異物感を訴えたものの,術後に強い異物感や眼痛を訴えた症例はなかった.また,術3 病日以降の痛みや異物感を訴えた症例はなかった.術1 週間後には充血もほぼ軽快し(図3),術3 カ月後には完全に消失した(図3,4).術直後から流涙症状や異物感など自覚症状の軽快がみられた.凝固した結膜は約1 カ月で固定され,全例で涙液メニスカスの再建が得られた.瞼球癒着や外眼筋の運動障害をきたした症例はなかった.1 例では結膜弛緩症が重度であったため,1 度目の凝固術で流涙症状の改善が得られたものの涙液メニスカスの再建が不完全であった.このため初回手術の2 週間後に追加の凝固術を行い,弛緩結膜の修復と涙液メニスカスの完全な再建を得ることができた.全例で術後4 カ月以上経過観察を行い,再発した症例はなかった.図 1結膜凝固のシェーマ患者に上方視を指示し,輪部から約4 mm の結膜を鈎付き鑷子(青)で弛緩した結膜をつまみ上げ,余剰分だけをバイポーラ鑷子(赤)で凝固する.図 2凝固範囲のシェーマ角膜輪部から4 mm の位置で下方結膜を約180°凝固する.(93) あたらしい眼科Vol. 27,No. 2,2010231III考按今回の研究では,結膜弛緩症に対し,全例で異物感や流涙症状の軽度で一過性の増悪のみで自覚症状を改善することができた.結膜弛緩症に対する切開治療方法の要点は弛緩結膜の除去と強膜への固定である13).弛緩結膜に対し,従来は切除短縮と縫合を行っていた.この場合,創部断端は上皮下の組織が多少なりとも露出することがあり,異物感の原因となる可能性がある.また,縫合糸が異物感の原因となり,切開法ではこの要因を避けることができなかった.今回の筆者ら図 3凝固部前眼部写真左:術1 週間後.わずかに結膜下出血がみられるが,凝固部の瘢痕は目立たない.右:術3 カ月後.凝固部の白い瘢痕組織が存在するが,ほとんど目立たない.図 4前眼部写真左上:術前.眼瞼縁から角膜上に弛緩した結膜が脱出している.右上:術前,色素検査施行時.涙液メニスカスは二重になり整然としていない.左下:術後3 カ月.弛緩した結膜は消失している.右下:術後3 カ月,色素検査施行時.涙液メニスカスは再建され,1 本の線となっている.232あたらしい眼科Vol. 27,No. 2,2010 (94)の術式では凝固による収縮効果が得られたほか,瘢痕化した凝固結膜やTenon .が強膜と癒着する効果が得られたため,切開法と同様の効果を得ることができたと考えられた.加えて余剰結膜の切除および縫合を行わなかったため,術後早期の異物感などの自覚症状はほとんどなく,十分に許容できる程度であった.手術時間は切開した場合に比べ,大幅に短縮された.その一方で,重度の結膜弛緩症の1 例において,1回の凝固処置による短縮効果だけでは弛緩結膜の完全な改善はできなかった.このような症例においても大きな負担なく再度凝固術を行うことで涙液メニスカスの修復が可能であったが,重症例においては患者に説明のうえで,凝固法と切開法のどちらを選択するかを検討する必要があると考えられた.今回の結膜への凝固治療は,結膜の収縮による短縮と手術時の短縮,術後異物感の減少の3 点で有用であった.この術式は筆者らが独自に考案したものではあるが, 文献上Haefliger14)らの報告と要旨は同様である.しかしHaefliger らの報告では,術後の結膜弛緩症の残存が全症例にみられている点で異なる.おそらく結膜表面のみを凝固しているため短縮効果がほとんどなく,眼瞼縁上に弛緩した結膜が残存しているのではないかと推察される.筆者らの術式は鑷子で余剰分の結膜をつまみ上げ,その分を凝固することで短縮効果を最大にすることが可能であり,さらに結膜の過剰除去を防止することができる.また,結膜を挙上した際にTenon .も挙上され,Tenon .も同時に凝固されることでTenon .が瘢痕化し,強膜との癒着を形成すると考えた.筆者らはこれらの点でHaefliger らの術式より,有用であると考えている.今回の術式には円蓋部の結膜下麻酔を用いた.これは点眼麻酔のみでは鎮痛が不十分であることと,結膜下麻酔を行う際に麻酔薬が凝固部位内に貯留すると,弛緩結膜を十分に把持することができず,その結果凝固による短縮効果が不十分となる可能性を考えたためである.結膜弛緩症がどのような機序で流涙症状を起こすのかについて,さまざまな考えがある.既報では涙点部のブロックによる涙液クリアランスの低下5)や涙液メニスカスにおける涙液貯留・保持機能の低下15)が原因であると考えられている.健常人の涙.は涙.を覆うHorner 筋の影響により閉瞼時に拡張して,開瞼時には収縮する16,17).導涙機能が正常に働くためには涙道が陰圧になる閉瞼時に,涙点から耳側結膜まで涙液メニスカスがつながっている必要があると考えられる.しかし,結膜弛緩症では涙液メニスカスが一本の道のように涙点へ通じていない場合には,陰圧による涙液の吸い上げが正常に行われないのではないかと考えられた.今回の症例では再手術を行った症例があったが,1 度目の手術でも自覚症状の改善がみられていた.この症例は弛緩した結膜が涙液メニスカスを完全に占拠していたが,1 度目の術後に結膜が短縮することで皮膚粘膜移行部と弛緩結膜との間に隙間ができたため不完全であるが涙液メニスカスが形成され,涙液を貯留することが可能になったためと考えた.結膜弛緩症による異物感は,弛緩結膜が角膜表面を機械的に擦過することや,異所性涙液メニスカスが角膜上の涙液破綻をきたすことによると考えられており,本術式で,結膜の下眼瞼縁からの露出が改善し,全例で異物感の消失を得ることができた.今回の報告では経過観察が3 カ月程度と短いため,長期予後については不明である.しかし結膜欠損の修復は約3 週間で完了すること,一般的な組織障害後のリモデリングに要する時間は2.3 カ月18.20)であり,これを超過していることで,今後の再発の可能性は低いのではないかと考えられた.今回の症例は単純型結膜弛緩症のみであり,まれな病態であるとされる円蓋部挙上型9)の症例や半月ひだが涙液メニスカスをブロックしている症例21)は含まれていない.これら半月ひだや円蓋部挙上型の結膜弛緩症に対する結膜凝固術の有効性については今後検討を要すると考えている.また,4例7 眼と少数例の報告であり今後症例数を増やして検討したい.IV結語単純型の結膜弛緩症に対し,バイポーラ凝固鑷子による熱凝固の短縮効果を利用した簡便な結膜弛緩症手術を考案した.手術時間の短縮や,術後異物感の改善に有用であった.文献1) 渡辺彰英,横井則彦,木下茂ほか:結膜弛緩症における弛緩部結膜の病理組織学的検討.あたらしい眼科 17:585-587, 20002) Watanabe A, Yokoi N, Kinoshita S et al:Clinicopathologicstudy of conjunctivochalasis. 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