B.「海の幸」編「牡蠣」─亜鉛の基礎知識から牡蠣トリビアまで─ “Oyster”─ Basic Knowledge of Zinc and Oyster Trivia ─川崎佳巳*はじめにAREDS Study(Age-Related Eye Diseases Study)によって,抗酸化ビタミンと亜鉛の複合サプリメントが,加齢黄斑変性(AMD)の進行予防に有効であることが確認され1),亜鉛やそれを多く含む食材が,眼科領域にて注目されるようになった.本稿では,亜鉛の基礎知識,摂取するうえでの注意事項から,亜鉛を豊富に含む食材の代表格である牡蠣に関するトリビアまで,さまざまな情報を網羅した. 1.成体における亜鉛の役割人体における微量ミネラル(一日の摂取量が 100.mgまで)のなかでは,鉄のつぎに多い.代謝調整作用を有する 300種類以上の亜鉛含有酵素(スーパーオキシドジスムターゼ,DNAポリメラーゼ,RNAポリメラーゼ,アルコール脱水素酵素など)の構造成分として,種々の生理活性に関与している.ビタミン Aの活性化にも関与するため,亜鉛の欠乏により,ビタミン A欠乏症が現れる. 2.体内分布亜鉛は,体内に約 2.g存在し,その 50%が血液中に含まれ,30%が各臓器に,20%が皮膚に含まれている.臓器中濃度の比較では,前立腺に高濃度で存在し,ついで骨,骨格筋である.脳内では特に海馬に多く,眼球にも比較的高濃度存在する.血液中の亜鉛は 80%が赤血球に含まれている.ほとんどが蛋白質などの高分子と結合している. 3.吸収,代謝,排泄腸管からの吸収率は約 30%という報告もあるが,摂取量によって吸収率が変わるとされている.また,吸収の過程で 2価の陽イオンである鉄や銅などと拮抗することが報告されている.亜鉛の排泄は,未吸収の亜鉛や腸管粘膜の脱落,膵液の分泌などに伴う体内亜鉛(内因性亜鉛)の糞便中への排泄によっておもに行われている.尿中への亜鉛の排泄量は少なく,摂取量にかかわらずほぼ一定である. 4.推定平均必要量,推奨量日本人の食事摂取基準(2005年度版)では,亜鉛の推定平均必要量(EAR:母集団の 50%が必要量を満たす一日量)が,成人(15.69歳)では男性 8.mg,女性 6mgである.一方,推奨量(RDA:母集団の 97.98%が必要量を満たすと推定される一日量)が,成人男性 9mg,女性 7.mg(妊婦付加+3.mg)である. 5.欠乏症と過剰症亜鉛欠乏症は,亜鉛非添加の高カロリー輸液施行時,亜鉛含有量の少ないミルク,経腸栄養での栄養管理時において報告がある.欠乏症のおもな症状としては,皮膚炎と味覚障害などが報告されている.小児で不足する*YoshimiKawasaki:宝塚第一病院眼科〔別刷請求先〕川崎佳巳:〒665-0832宝塚市向月町 19-5宝塚第一病院眼科0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(39) 39と,成長障害,性腺発育障害がみられる.急性中毒として報告されているものとして,上腹部痛やめまいが多く,一日量が 150.mgを超えると催吐症状が起こりうるとされている. 6.食事からの摂取亜鉛含量の多い食材を表 1,2に示した.それらの代表格としては,牡蠣,スルメなどがある.これらは酒の肴にはいいが,毎日摂取だと飽きてしまう.牡蠣 1匹6.mgの亜鉛が含まれる.牡蠣はフライ .(約20.g)には2にすると,食べやすくなるものの,カロリーは 1匹当たり約 50kcalになり,毎日食べる食材としては高カロリーかもしれない.卵黄 1個(20.g)には 0.84.mgの亜鉛表 1動物性食品亜鉛食品(mg/100.g)あわび,水煮缶10.4 かき,養殖13.2 たらばがに,水煮缶6.3 するめ5.4 うし,かたロース6.4 ぶた,肝臓6.9 ラム,かた5.0 若鶏肉,もも2.9 パルメザンチーズ7.3 鶏卵,卵黄 4.2〔(独)国立健康・栄養研究所,ホームページ「健康食品」の安全性,有効性情報より〕表 2植物性食品亜鉛食品(mg/100.g)そば粉,全層粉2.4 小麦,強力粉3.0 凍り豆腐5.2 えんどう,塩豆3.6 ごま,いり5.9 焼きのり3.6 アーモンド,フライ4.4 切り干し大根2.1 抹茶6.3 ピュアココア 7.0〔(独)国立健康・栄養研究所,ホームページ「健康食品」の安全性,有効性情報より〕が含まれており,また牛肉,海苔,ゴマ,煮干し,チーズにも多く含まれ,ココアや抹茶なども意外に多い.したがって,まんべんなくバランスのとれた食生活を心掛ければ,不足することはないと思われる.ただし近年,日本の若年女子成人において,味覚機能の低下と低亜鉛状態との関連が報告されており,過度なダイエットや偏った採食主義はよくないと思われる. 7.食べ合わせの影響亜鉛の吸収を妨げるものとして,食物繊維(特に穀類や藻類),ホウレンソウに含まれるシュウ酸,インスタント食品に含まれるフィチン酸,カルシウムなどがある.一方,吸収を促進するものとして,クエン酸やビタミンC,動物性蛋白質などがある.ただし,亜鉛の吸収に関する食べ合わせばかりを気にしすぎて,全体の食事バランスを崩さないよう注意が必要である. 8.サプリメントによる摂取亜鉛は俗にセックスミネラルともいわれ,米国や日本では,滋養強壮目的に亜鉛を含有したさまざまなサプリメントが販売されている.一方,サプリメントでは大量摂取が可能なため,過剰摂取による害が懸念される.亜鉛 100.mg/日の大量摂取を継続すると,前立腺癌の発症頻度が上がるとの報告がある2).またミネラルは吸収の際に各々が拮抗することがあり,亜鉛単独の過剰摂取によって,銅の吸収が低下し貧血を起こす危険がある.AREDSでは亜鉛濃度が 80.mgに設定されたが,泌尿生殖系のリスクを下げるため AREDS2では 25.mgに減量して AMDの進行抑制効果があるか検討されている3).ゆえに AMDでない人がサプリメントで大量摂取するこ図 1牡蠣40あたらしい眼科Vol. 27,No.1,2010(40)表 3栄養機能食品としての表示例栄養成分 上限・下限量 機能表示 注意事項 亜鉛 3.mg.1 5.mg 亜鉛は,味覚を正常に保つのに必要な栄養素です.亜鉛は,皮膚や粘膜の健康維持を助ける栄養素です.亜鉛は,蛋白質・核酸の代謝に関与して,健康の維持に役立つ栄養素です. 本品は,多量摂取により疾病が治癒したり,より健康が増進するものではありません.亜鉛の摂りすぎは,銅の吸収を阻害するおそれがありますので,過剰摂取にならないよう注意してください.一日の摂取目安量を守ってください.乳幼児・小児は本品の摂取を避けてください. とはあまりお勧めできず,亜鉛濃度の高い食材を選んで効率よく摂取するほうが望ましい. 9.栄養機能食品としての利用する際の表示例平成 16年 4月 1日から栄養機能食品の成分として亜鉛が追加された.詳細は表 3を参照.一日摂取量を目安に過剰摂取にならぬよう注意すること. 10.亜鉛と薬剤との相互作用亜鉛サプリメントを d-ペニシラミンと同時投与した場合,本剤が吸収される前に亜鉛とキレート化され,本剤の吸収率が低下する可能性がある.よって,同時投与はできるだけ避けるべきである. 11.AREDSフォーミュラ日米での違い米国仕様の AREDSフォーミュラで使用されている酸化亜鉛は,日本では食品として使用できない.そこで日本仕様では亜鉛酵母を代用することになった(表4).人体への吸収試験にて,酸化亜鉛 80.mg相当と亜鉛酵母表 4AREDSフォーミュラ日本仕様■AREDS処方と等価の処方を日本向けに開発.1.原料を日本の法規制(食品衛生法)に適したものに変更 2.欧米人と日本人の体格差を考慮し,標準処方量を AREDSのAREDS処方ツ黴 AREDS等価処方 亜鉛 80.mg相当(酸化亜鉛) ヒト吸収試験により亜鉛量を設定 40.mg相当(亜鉛酵母) ビタミン Eツ黴 400.IU(合成型)ツ黴 400.IU(天然型) 75%に設定∴亜鉛 30.mg相当の亜鉛酵母40.mg相当(亜鉛酵母 400.mg)がほぼ同等であることが確認された.体格差を考慮し,標準処方量を AREDSの75%に設定し,日本で販売されるフォーミュラサプリメント 1日分には,亜鉛酵母 30.mg相当(亜鉛酵母 300mg)を含有させることになった. 12.亜鉛酵母とは?酵母と(有機・無機)亜鉛を原料に,つぎの 2種類の製法で製造されている.①酵母を亜鉛耐性にし,生きた酵母に亜鉛を取り込ませる.②酵素を用いて,酵母内の有機物に亜鉛を結合される.この製法は,銅酵母,マンガン酵母,セレン酵母など,他のミネラル酵母も同様である.これらはいずれも有用成分が酵母内に取り込まれており,消化吸収が緩徐なため,毒性も少なく生物学的有用性が高い. 13.亜鉛の医薬品利用L-カルノシンと亜鉛の錯体であるポラプレジンク(プロマック顆粒)が,胃潰瘍の治療薬として臨床で用いられている.このプロマックは,亜鉛欠乏による味覚異常に対する治療薬としても治験が開始されている.一方,実験室レベルでの研究では,吸収性を高めた亜鉛錯体の医薬品を用い,2型糖尿病の予防・治療薬の開発が進んでいる4). 14.牡蠣を検証する海の岩からかき落とすことから,“カキ”という名前がついたといわれる.蛋白質や,カルシウム・亜鉛などのミネラルをはじめとする,さまざまな栄養素が含ま(41)あたらしい眼科Vol. 27,No.1,2010 41れ,『海のミルク』ともよばれる.食用の歴史は長く,世界中で食されている.魚介類の生食を嫌う欧米文化圏において,例外的に生食文化が発達し,フランス料理でも定番のオードブルになっている.生ガキをメニューの中心にそえる”オイスターバー”とよばれるレストランも存在する.世界的に,マガキが最も一般的な種で,寒い時期が旬である.日本では広島県,宮城県,岡山県産が有名だが,最近では韓国からの輸入も相当ある. 15.牡蠣トリビア a.生食用と加熱用どちらがおいしい?生食用は,汽水域(淡水と海水が混じりあった塩分の薄い河口など)にて植物プランクトンを豊富に摂った牡蠣を,紫外線殺菌された海水中で数日間飼育し,また,その間絶食状態にすることで無菌状態にしている.このため,生食用は身が痩せる.当然ながら,カキフライには加熱用が適している.一方,加熱用を生食することは,当然ながらビブリオやノロウイルスなどによる食中毒の危険があるので,止めておこう. b.ハマグリの内臓がカキフライもどきに某テレビ番組でハマグリの内臓だけを集めてフライを作り,材料を知らない人たちに食べさせる企画があった図 2柿が,20人中 18人がカキフライだとだまされてしまった.牡蠣は一度岩などにくっついたら一生離れず動かないために足が退化し,その体のほとんどが内臓部分である.また,牡蠣とハマグリの内臓を構成するアミノ酸成分(≒旨み)がよく似ており,このような結果になったとのことであった. c.オイスターマイスターを目指せ!日本オイスター協会がインターネット上で,オイスターマイスターの検定試験を公開している.自信のある方はお試しください. 16.こちらの“かき”は?柿は昔から,“赤くなれば医者が青くなる”といわれるほど,栄養価が高い果実である.特にビタミン Cは,柿 100.g(約半個)で 70.mgも含まれている.また, b-カロテン, b-クリプトキサンチンなどのカロテノイドも多く含み,こちらの“かき”も抗酸化にはよさそうである.ちなみに亜鉛含量は柿 100.g中には 0.1.mg程度なので,それほど多くない.文献1)The Age-Related Eye Disease Study ResearchGroup:A randomized, placebo-controlled clinical trial of high-dose supplementation with vitamins C and E, beta carotene, and zinc for age-related macular degeneration and visionloss:AREDS Report No.8. Arch Ophthalmol 119:1417-1436, 20012)Leitmann MF, Stampfer MJ, Wu K et al:Zinc supplement use and risk of prostate cancer. J Natl Cancer Inst 95: 1004-1007, 20033)Emily ChewMD:National Eye Institute Division of Age-Related Eye Disease Study 2 Protocol(AREDS2):A Mul-ticenter Randomized Trial of Lutein, Zeaxanthin, and Omeg-3 Long-Chain Polyunsaturated Fatty Acids in Age-Related Macular Degeneration IND # 74, 781. Ver-sion 5.1, December 20074)桜井弘:Znを含む新しい抗糖尿病錯体.化学 57:20-24, 200242あたらしい眼科Vol. 27,No.1,2010(42)