‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

眼科医のための先端医療95.マウス酸素誘導網膜症の病理学的所見と臨床応用の可能性

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.11,200815330910-1810/08/\100/頁/JCLS概要網膜的ににる病でのでの病理学的の要マのとマウス酸素誘導網膜症にによマウスの網膜を誘導るでと酸素酸素ンマウスをるジをるとのでるを用のマウスをマウスととににと酸素をによの酸素±2%になるように調整します.このまま5日間維持し,生後12日目(P12)で通常の酸素下での管理を行います.病理学的所見マウスの網膜でににる理的をとるのによのに酸素導るとによの網膜で学で網膜のによのをるとでん図1a,矢印).加えて,無血管領域が傍乳頭から周辺部網膜にかけて不整に形成され,未熟児網膜症の病理に類似した網膜血管内皮細胞が退縮します.その後通常の酸素下に戻すことにより,網膜組織は相対的虚血状態に陥ります.そのため虚血網膜からVEGFが過剰に発現されます.産生分泌されたVEGFが受容体を介し,既存の網膜表層血管の内皮細胞や血管前駆細胞の分裂,増殖が起こり,血管網膜柵の脆弱な新生血管が発生し,病理学的血管新生(angiogenesis)が起こります.この血管新生は,通常P17からP21に最大に達します.あらかじめ蛍光物質を結合させた,血管内皮細胞のマーカーでもあるisolectin-B4を経静脈的にマウスに注入することにより,網膜血管造影を行うことが可能です.静注されたマウスの眼球を摘出し,網膜の平坦標本を作製することにより,血管構築を詳細に解析することができます.血管造影により,P17では乳頭周囲の無血管領域の残存,および微細不整な微小網膜血管(63)◆シリーズ第95回◆眼科医のための先端医療=坂本泰二山下英俊加瀬諭(南カリフォルニア大学ドヒニー眼研究所/北海道大学大学院医学研究科病態制御学専攻感覚器病学講座眼科学分野)マウス酸素誘導網膜症の病理学的所見と臨床応用の可能性115abc図1マウス酸素誘導網膜症のヘマトキシリン・エオジン染色による病理組織学的所見a:高圧酸素導入後5日目〔生後12日(P12)〕.網膜血管は閉塞しており,血管の内腔を確認することができない(矢印).b:生後17日(P17).血管内皮細胞の著明な増生が網膜表層にみられ,新生血管が形成されている.内境界膜は凹凸不整になっている.c:生後25日(P25).網膜新生血管はみられず,網膜表層には血管の内腔の確認ができる網膜血管が存在している.———————————————————————-Page21534あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008の増生,大小不同の造影剤の漏出がおもに周辺部網膜に特徴的にみられます.ヒトでいえば未熟児網膜症や糖尿病網膜症に類似した所見を呈します.病理学的には,小型の血管内皮細胞の増生よりなる網膜新生血管が著明に形成されます(図1b).網膜新生血管は,網膜内新生血管および硝子体新生血管に分類されます2)が,ここでは両者の増生がみられます.後者では,増生した血管内皮細胞が硝子体腔への進展を示し,増生集簇した内皮細胞がブドウの房のように増生し,neovasculartuftsとよばれます.内境界膜は凹凸不整になり,周囲には内皮細胞の増生に加え,リンパ球を主体とする炎症細胞浸潤も散在性にみられます.免疫組織化学的には,グリア細胞のマーカーであるglialbrillaryacidicprotein(GFAP)の発現が,進展したアストロサイトの突起に一致してみられます1).GFAPの陽性所見はneovasculartuftsの近傍に及びます.新生血管のマーカーであるCD105の発現を検討すると,新生血管に陽性になることが確認されます.P12からP17にかけてVEGFのmRNA,蛋白発現も上昇します3).加えて,種々の虚血時に発現誘導されるVEGFの転写因子hypoxiainduciblefactor(Hif)-1aの発現も誘導されます.VEGFの免疫活性は,アストロサイトの突起に一致してみられます.よって,網膜新生血管の発生病理は,虚血刺激によるアストロサイトにおけるVEGFの発現亢進が重要な役割を演じていることが想定されます.糖尿病網膜症や網膜中心静脈閉塞症における硝子体液の解析では,眼内新生血管のない硝子体液に比較しVEGFの濃度が有意に上昇することが知られており,OIRの病理学的所見はこれらの機序を説明しうるかもしれません.網膜新生血管はP17からP21に最大になりますが,その後も経過観察をした場合,P23頃から新生血管は退縮します.図1cに示すP25の病理組織像では,neo-vasculartuftsは消失し,内腔を確認できる網膜血管がみられます(図1c,矢印).ヒト虚血網膜症の進展時にみられる著明な出血や線維血管膜の形成,増殖,虹彩血管新生あるいは眼球癆はみられません.これは,OIRは真の虚血を誘導するものではなく,相対的虚血状態を作製するもので,眼内自己調節機構に伴うサイトカインの発現制御などにより,新生血管内皮細胞がアポトーシス細胞死に陥り,新生血管が退縮するものと考えられます.OIRの有用性と問題点の酸素の要でに性網膜を誘導るとでをるにの要マウスのでのでをの可能性のるるのマウスで要にマウスのにのをるとで的のにを学的理をとで加のよにの的によ網膜をにでにるをるのにののとで可能マウスでとるのウトマウストンスジマウスのマウスを用をると可能でのるマウスで可能でのよにのに有用でるとん問題点酸素マウスにとにのるでよ酸素にマウスにるマウスるとマウスのにのでのののにと臨床応用の可能性本でのの組マウスでの可能でのにるマウスとの病理学的るとによ的の病理に的に的にるとでジのを用るとによマウスにののをのの可能で網膜の病に有用と———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081535文献1)SmithLE,WesolowskiE,McLellanAetal:Oxygen-inducedretinopathyinthemouse.InvestOphthalmolVisSci35:101-111,19942)KramerovAA,SaghizadehM,PanHetal:ExpressionofproteinkinaseCK2inastroglialcellsofnormalandneo-vascularizedretina.AmJPathol168:1722-1736,20063)ChanCK,PhamLN,ZhouJetal:Dierentialexpressionofpro-andantiangiogenicfactorsinmousestrain-depen-denthypoxia-inducedretinalneovascularization.LabInvest85:721-733,20054)RitterMR,BaninE,MorenoSKetal:Myeloidprogeni-torsdierentiateintomicrogliaandpromotevascularrepairinamodelofischemicretinopathy.JClinInvest116:3266-3276,20065)ChenJ,ConnorKM,AdermanCMetal:Erythropoietindeciencydecreasesvascularstabilityinmice.JClinInvest118:526-533,2008(65)「マウス酸素誘導網膜症の病理学的所見と臨床用の可能性」を読んで網膜症病網膜症の性でにのにでのにんのとに読ん本に病網膜症で「ににをるでる」とののによ病網膜症の可能にのに的臨床のにるよによのにとをとでにとのるのでで臨床のにとのにをるのをるのでるとをでののにのにをの加瀬諭マウス酸素誘導網膜症でのスンでにるででののに臨床にるとの本でのをののにのでに理にとを文二をる加瀬のオリジるをんで本のののでのにのによ理とのの学問的をのので臨床にるのでの要性をににで学学坂本泰二☆☆☆

新しい治療と検査シリーズ185.極小切開硝子体手術の適応

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.11,200815310910-1810/08/\100/頁/JCLSある.6,000本のイメージファイバーの23ゲージのものが使用でき,25ゲージは現時点では使用できない.20ゲージのものと比較し,画角は70°でほぼ同じであるが,20ゲージの内視鏡のイメージファイバーが10,000新しい治療と検査シリーズ(61)バックグラウンド眼科手術において低侵襲手術が求められており,25ゲージ1),23ゲージ2)の極小切開のカニューラシステムが用いられてきている.しかし従来の20ゲージシステムに比較し,器具の脆弱性や器具の種類が限られることから,適応も黄斑円孔,黄斑上膜,黄斑浮腫などの黄斑疾患に限られることが多かった.最近の器具ほかの発達で,極小切開硝子体手術の適応はどこまで広げることができるのだろうか.新しい器具・道具極小切開硝子体手術の場合は,結膜切開を行わない経結膜で行うため,眼球を圧迫し,観察することがややむずかしい.特に結膜が浅い下方の周辺観察は限られてしまう.そのこともあり従来は適応疾患が黄斑疾患に限られてきた.それを克服するため,周辺部の観察に広角観察系や内視鏡を導入することが必要になる.また,下方結膜に1カ所切開を入れることをためらわなければ,従来の20ゲージ手術とほぼ同じ状態で手術ができる.使用方法広角観察系で一番最初に使用できるようになったのはBIOM(オクルス社)3)で,その他現在使用可能な広角観察系は,OFFISS(OpticalFiberFreeIntravitrealSur-gerySystem)(トプコン社),EIBOS(メーラー社)P-W-L(Payman-Wessels-Landers)lens(オキュラー社)などがあり,前2社は上下の像を反転させるインバーターが必要であるが,後2社はインバーターの必要がない.各々若干の観察角度の違いはあるが,どの観察系もある程度の慣れは必要で,しばらくは使い続ける必要がある.内視鏡は現在ファイバーテック社のものが使用可能で185.極小切開硝子体手術の適応プレゼンテーション:北岡隆長崎大学大学院医歯薬学総合研究科眼科・視覚科学教室コメント:小椋祐一郎名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学図1広角観察系を用いた極小切開硝子体手術赤道部を越えて硝子体基底部近くまで観察できる.図223ゲージ内視鏡鋸状縁(矢印)近くの網膜裂孔(矢尻)周囲の硝子体も内視鏡下で切除できる.———————————————————————-Page21532あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008本であるのに対して,画素数が少なく,同じ条件で像をモニターに出すと,かなり小さくなる.しかし,電気的に拡大することができ,実際の使用上は20ゲージの内視鏡とほぼ同じように,遜色なく使用できる.下方結膜の切開であるが,ほとんどの場合は広角観察系,内視鏡を使用すれば,下方結膜を切開しないでも手術遂行可能である.ただ,周辺の増殖を徹底して切除しないといけないときは,下方結膜の切開が必要になり,そのときは躊躇せずに結膜切開を併用し,強膜を圧迫する.下方に1カ所角膜輪部に垂直に切開すればほぼ下方半周は圧迫できる.強膜圧迫子は先があまり大きくないものが使いやすい.適応疾患従来極小切開硝子体手術の適応は黄斑疾患に限られてきたが,現状では裂孔原性網膜離,増殖糖尿病網膜症は十分に適応とすることができる.液体パーフルオロカーボンの使用を前提とすれば,増殖硝子体網膜症も適応として問題はないと思われる.カッターは23ゲージ,25ゲージともに20ゲージカッターより開口部が先端に近く,剪刀を用いなくとも,増殖組織の切除ができる.ただし,器具が限られることから,双手法を行わないといけない場面は多く,広角観察系の使用が望ましいことを考えても,フォトンやブライトスターのような高輝度の光源が必要である(表1).以上のように極小切開硝子体手術では,ほぼ20ゲージと同様の疾患を適応とすることができるようになってきている.1)FujiiGY,DeJuanEJr,HumayunMSetal:Anew25-gaugeinstrumentsystemfortransconjunctivalsuture-lessvitrectomysurgery.Ophthalmology109:1807-1813,20022)EckardtC:Transconjunctivalsutureless23-gaugevitrec-tomy.Retina25:208-211,20053)SpitznasM,ReinerJ:Astereoscopicdiagonalinverter(SDI)forwide-anglevitreoussurgery.GraefesArchClinExpOphthalmol225:9-12,1987(62)20ゲージから最初に移行するには23ゲージのほうが容易であると考えられる.しかし,私はほとんどの症例を25ゲージで行っており,創口はやはり小さいほうが術後はきれいである.極小切開硝子体手術の唯一の欠点は,術後眼内炎の発症頻度が20ゲージと比較すると高いことである.現在,その原因究明や対策が研究されているが,この問題が早期に解決されることが本術式のさらなる普及には必須であろう.本稿で述べられているように,最近,極小切開硝子体手術の適応は飛躍的に拡大しており,眼内異物などの特殊症例を除けば,ほとんどすべての硝子体手術をこの手技で行うことができるようになっている.しかし,そのためには広角観察システムやキセノンシャンデリア照明などの装置を整えることが重要であり,手術手技も剛性が弱く,細い25ゲージや23ゲージの器具で行えるよう工夫が必要である.25ゲージと23ゲージとの選択は現時点では術者の好みによるが,本方法に対するコメント☆☆☆表1極小切開硝子体手術に併用が望ましい器具広角観察系インバーター要インバーター不要BIOM,OFFISSEIBOS,P-W-Llens内視鏡23ゲージ高輝度照明フォトン,フォトンII,ブライトスターなど

サプリメントサイエンス:オメガ-3多価不飽和脂肪酸

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.11,200815270910-1810/08/\100/頁/JCLS現在米国において進行中のAge-RelatedEyeDis-easeStudy(AREDS)2では,ルテインとともにw(オメガ)-3多価不飽和脂肪酸(polyunsaturatedfattyacid:PUFA)であるエイコサペンタエン酸(eicosapen-taenoicacid:EPA)/ドコサヘキサエン酸(docosahex-saenoicacid:DHA)の加齢黄斑変性(age-relatedmac-ulardegeneration:AMD)進行に対する影響が検討されている.PUFAとは炭素結合間に複数の二重結合を有する脂肪酸の総称であり,メチル基側から数えて3番目の炭素間結合に最初に二重結合が存在するものをw-3PUFA(図1),6番目に存在するものをw-6PUFAとよぶ.いずれも体内では合成されない必須脂肪酸であるため,食事などによって摂取する必要がある.魚由来のw-3PUFAであるEPA/DHAの摂取は,1975年にグリーンランドイヌイットの疫学調査において動脈硬化のリスクを低下することが報告されて以来1),現在まで種々の疾患においてその有用性が指摘されている.EPA/DHAによる高脂血症および心血管疾患の予防効果は,種々の臨床試験によって証明されている.高脂血症への効果についてはEPA/DHAの2~4g/日の摂取により血中トリグリセリド値が容量依存的に25~40%低下するとの報告があり2),w-3PUFAの一つであるEPAはその高純度製剤が抗高脂血症剤(エパデールR)として臨床的に用いられている.また,心臓発作の既往歴のある患者がEPA/DHAを摂取することにより死亡リスクが低下するとの報告もある3).w-3PUFAは,どのように高脂血症,虚血性心疾患などのリスクを低下させるのだろうか.その作用機序は以下のように考えられている.w-3およびw-6PUFAはともにエイコサノイド〔プロスタグランジン(PG),ロイコトリエン(LT),トロンボキサン(TX)〕の前駆体であるが,w-6PUFAはアラキドン酸を経て,生理活性(血管収縮作用,血小板凝集作用,炎症惹起作用)の強いPGE2,PGI2,TXA2,やLTA4などの代謝産物を生成するのに対して,w-3PUFAは弱い生理活性しかもたないPGE3,PGI3,TXA3,LTA5などに代謝される(図2).この際,w-3およびw-6は体内の代謝経路において律速段階酵素を共有するため,w-3PUFAの摂取は相対的にw-6系列からのエイコサノイドの合成を阻害することになる4).つまり,その代謝産物による生理活性も相対的に低下することが,種々の抗炎症作用につながるとされている.EPA/DHAは魚由来の脂肪に多く存在し,イワシやアジなどの青魚,サケやマグロなどに非常に多く含まれ(57)サプリメントサイエンスセミナー●連載⑥監修=坪田一男6.オメガ3多価不飽和脂肪酸厚東隆志野田航介慶應義塾大学医学部眼科w(オメガ)-3多価不飽和脂肪酸であるエイコサペンタエン酸/ドコサヘキサエン酸(EPA/DHA)には抗炎症作用があり,その摂取は高脂血症,虚血性心疾患などに対する予防効果がある.眼科領域においても以前より加齢黄斑変性(AMD)発症との関係が示唆されており,現在AREDS2においてEPA/DHA投与によるAMD抑制効果を検討する大規模調査が行われている.図1w3PUFAの構造式w-3PUFA:メチル基(*)側から③番目の炭素間結合に最初に二重結合が存在するPUFA.↓②→↑③↑③①↓②→**エイコサペンタエン酸(Eicosapentaenoicacid:EPA)H3CH3COHOHOOドコサヘキサエン酸(Docosahexaenoicacid:DHA)———————————————————————-Page21528あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008る(表1).厚生労働省によりまとめられた「2005年版日本人の食事摂取基準」において,w-3PUFAの摂取目標量は2.2~2.9g/日とされている.日本人の摂取するw-3PUFAのうち植物由来のa-リノレン酸が約60%,魚由来のEPA/DHAが約40%であり,EPA/DHAとしては1~1.2g/日以上の摂取が望ましいと考えられる.しかし,その一方で4g/日以上の摂取は出血時間を延長し,血小板数の減少をきたすため注意を要する5).また,w-3PUFAを魚油サプリメントで摂取する場合など,EPA/DHAの含有量が製品により大きく異なってくるため,摂取量はEPA/DHAの含有量に基づいて決定するべきである.近年,わが国において高純度EPA製剤の虚血性心疾患に対する発症抑制効果を検討したランダム化比較対照臨床試験が施行された(JapanEPALipidInterventionStudy:JELIS).高脂血症患者を対象にHMG-CoA還元酵素阻害薬治療をベースとして1.8g/日のEPA投与の有無を比較したところ,EPAの投与は主要冠動脈イベント発症リスクを19%軽減したとする報告である6).元来魚食の多いわが国においても,w-3PUFAの投与が有用であることを示す意味でも意義深い研究である.AMDとw-3PUFAの摂取の関連については,w-3PUFAを豊富に含む魚の摂食がAMDのリスクを低下させるとの報告も多くあるが,大規模なランダム化試験の結果は前述のAREDS2の結果を待たねばならない.筆者らの研究グループは,マウス実験的脈絡膜血管新生モデルにおいてEPAの経口投与が脈絡膜血管新生を抑制することを報告し(図3)7),そのメカニズムとしてEPA投与がアラキドン酸を減少させ炎症関連分子を抑制することを解明したが,これはAREDS2の生物学的(58)根拠となりうる知見である.EPA/DHAに代表されるw-3PUFAの摂取は,高脂血症の治療や心血管病変の予防に役立つことがすでに明らかとなっている.今後の医療が疾患に対してより早期に介入していく方向へと進むなか,w-3PUFAの豊富な魚を積極的に摂取するというライフスタイルを患者に勧めていくことは,さまざまな疾患を未然に防ぐ予防医学的アプローチにつながるであろう.w-3PUFAによるAMDの進行抑制効果が示されるか否か,初の大規模ランダム化試験であるAREDS2の結果に大きな期待が集まる.表1食物中のEPA/DHA含有量食品EPADHAイワシ(生)サンマ(生)サバ(生)アジ(干物)ウナギ(蒲焼き)本マグロ(トロ)1.200.890.500.560.751.401.301.700.701.301.303.20(g/100g)w-3PUFAの代謝経路w-6PUFAの代謝経路PGE3,PGI3,TXA3,LTA5など弱い生理活性ドコサヘキサエン酸(DHA)エイコサペンタエン酸(EPA)PGE2,PGI2,TXA2,LTA4などアラキドン酸強力な生理活性リノール酸6-desaturaseΔ親和性大親和性小図2w3/w6PUFAの代謝経路図3EPAによる脈絡膜新生血管の抑制(マウスレーザー誘導脈絡膜新生血管モデル)(×10-13m3)76543210EPA(w-3PUFA)*p<0.001リノール酸(w-6PUFA)EPA(w-3PUFA)リノール酸(w-6PUFA)bar=100?m———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081529(59)文献1)DyerbergJ,BangHO,HjorneN:FattyacidcompositionoftheplasmalipidsinGreenlandEskimos.AmJClinNutr28:958-966,19752)MontoriVM,FarmerA,WollanPCetal:Fishoilsupple-mentationintype2diabetes:aquantitativesystematicreview.DiabetesCare23:1407-1415,20003)Kris-EthertonPM,HarrisWS,AppelLJ:Fishconsump-tion,shoil,omega-3fattyacids,andcardiovasculardis-ease.ArteriosclerThrombVascBiol23:e20-30,20034)RodriguezA,SardaP,NessmannCetal:Delta6-anddelta5-desaturaseactivitiesinthehumanfetalliver:kineticaspects.JLipidRes39:1825-1832,19985)SimopoulosAP:Essentialfattyacidsinhealthandchron-icdisease.AmJClinNutr70:560S-569S,19996)YokoyamaM,OrigasaH,MatsuzakiMetal:Eectsofeicosapentaenoicacidonmajorcoronaryeventsinhyperc-holesterolaemicpatients(JELIS):arandomisedopen-label,blindedendpointanalysis.Lancet369:1090-1098,20077)KotoT,NagaiN,MochimaruHetal:Eicosapentaenoicacidisanti-inammatoryinpreventingchoroidalneovas-cularizationinmice.InvestOphthalmolVisSci48:4328-4334,2007☆☆☆

眼感染アレルギー:マルチパーパスソリューション(MPS)アレルギー

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.11,200815250910-1810/08/\100/頁/JCLSマルチパーパスソリューション(MPS;多目的用剤)アレルギーは,MPSの使用開始から数カ月経過した後に発症する角結膜炎である.遅延型過敏反応(Ⅳ型アレルギー)による免疫学的な発生機序が推測されているが,いまだ明確なメカニズムは解明されていない1).MPSは,ソフトコンタクトレンズ(SCL)の消毒・洗浄を目的として使用されるもので,通常,生体に対する影響はほとんど問題とならない.そのため,MPSを洗い流すことはなく,レンズにMPSが付着した状態で装用する.しかしながら,長期間,くり返し使用された場合にはMPSの含有成分による遅延型反応が発生すると考えられる.MPSアレルギーの診断MPSは主成分である消毒成分のほかに界面活性剤,防腐剤,緩衝剤,潤滑剤などさまざまな化学物質が配合されており,これらのすべての化学物質に対してアレルギー反応が起こりうる2,3).MPSアレルギーの自覚症状は,軽度の場合には違和感,乾燥感,充血であるが,疼痛や流涙などを訴えることもある.他覚的には角膜全体の広い範囲に点状表層角膜症を認め,角結膜輪部には小さな浸潤病巣が1から数個みられる(図1).結膜充血も角結膜輪部を中心にみられ,毛様充血を伴っていることが多い.MPSアレルギーの診断はMPSの使用中止により角結膜障害が治癒し,再度同じMPSを使用することで同様の症状,所見が再現されることから推測される.確定診断のためには原因と考えられる化学物質のアレルギー検査が必要となる.しかしながら,パッチテストやスクラッチテストなどのⅣ型アレルギー検査を行っても皮膚と結膜の薬剤浸透性の違いなどから偽陰性となることがある.このような場合には原因(アレルゲン)を究明することはむずかしい4,5).MPSアレルギーの鑑別疾患MPSアレルギーと鑑別を要する疾患を表1に示す.微生物による感染性角膜炎との鑑別では,MPSアレル(55)眼感染アレルギーセミナー─感染症と生体防御─●連載⑪監修=木下茂大橋裕一11.マルチパーパスソリューション(MPS)アレルギー柳井亮二西田輝夫山口大学大学院医学系研究科眼科学マルチパーパスソリューション(MPS;多目的用剤)アレルギーはMPSの使用開始から数カ月経過した後に発症する遅延型過敏反応(Ⅳ型アレルギー)による角結膜炎である.感染やアレルギーとの鑑別が重要で,安全性が高いと考えられているMPSにおいても,生体に対する影響は皆無ではなく,角結膜に障害が発生する可能性がある.図1角膜全体にみられた点状表層角膜症MPSの使用後3カ月.レンズケアをヨード製剤に変更してから点状表層角膜症の再発はみられない.表1MPSアレルギーの鑑別鑑別疾患鑑別に重要な症状と所見感染細菌性感染:粘性眼脂,角膜潰瘍ウイルス性感染:眼瞼結膜の濾胞形成,耳前リンパ節腫脹,感冒様症状ドライアイスマイルマークSPKフィッティング不良周辺部角膜のSPK・びらん(10時,2時)アレルギー性結膜炎痒感,眼瞼結膜の充血・浮腫,球結膜浮腫巨大乳頭結膜炎眼瞼結膜の巨大乳頭,レンズの汚れMPSとSCLとの相性CL装用後24時間でのSPKSPK:点状表層角膜症.———————————————————————-Page21526あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008ギーは粘性眼脂を呈することはなく,ウイルス性感染でみられる濾胞形成や耳前リンパ節腫脹や感冒様症状なども呈さないなどの所見が重要である6).確定診断のためには感染の疑われる症例では病巣,レンズおよびレンズケースなどの鏡検,培養検査を行う.ドライアイによる角膜炎では,角膜下方に円弧状の点状表層角膜症がみられることが特徴で,病巣は瞼裂に一致する.フィッティング不良の場合にはレンズが接触する角膜中間周辺部に点状表層角膜症がみられたり,10時あるいは2時に角膜びらんがみられたりする.アレルギー性結膜炎では痒感の訴えがあり,眼瞼結膜の充血,炎症が強く,眼瞼や球結膜の浮腫もみられる.巨大乳頭結膜炎との鑑別では,眼瞼結膜の乳頭増殖,ケア不十分によるレンズ汚れなどの所見が重要となる.その他のMPSによる角膜上皮障害では,特定のSCLと特定のMPSとの相性によって生じるものがある7).この角膜上皮障害はSCL装用後24時間で発生し,6時間以降に消失する.海外の報告では,角膜浸潤の危険性が高くなることも報告されているが,自覚症状はない場合が多く,定期検査で発見される.原因はMPSに含まれる化学物質の相互作用が特定のSCLの場合に増強するものと推測されている8,9).MPSアレルギーの治療MPSアレルギーが疑われる症例には,まず,障害の程度に応じて,SCLの装用を中止し,薬物治療はアレルギー薬,ステロイド薬,抗菌薬の点眼を開始する.SCLの再開にあたっては,1日タイプの使い捨てレンズを選択し,MPSを使用しないほうが好ましい.頻回交換型レンズを使用する際には,異なるMPS製剤を選択しても,同じ消毒成分や洗浄成分を使用していることがあるため,可能であれば過酸化水素製剤やポビドンヨード製剤などを使用することが大切である.ただし,過酸化水素用剤では誤使用,ポビドンヨード製剤の使用にあ(56)たってはヨードアレルギーに注意が必要である.おわりに一般的には安全性が高いと考えられているMPSにおいても,生体に対する影響は皆無ではなく,MPSアレルギーなどにより角膜上皮障害を生じることがある.角膜上皮バリアが破綻した状態では,感染性角膜炎の危険性が高くなる.SCL消毒剤としてMPSが開発され,レンズケアが簡便になったことは,レンズケアに対するコンプライアンスの面で大きく貢献した.このことは,CLによる眼合併症の発生を予防するうえで大切なことである.一方,簡便なレンズケア操作と引き換えに微生物を消毒する効果のある化学物質を眼表面に直接接触させていることも事実であり,MPSによる障害の発生にも注意しなければならない.文献1)植田喜一:塩化ポリドロニウム(POLYQUADR)による角結膜障害が疑われた1例.眼科42:1833-1837,20002)丸山邦夫,横井則彦:マルチパーパスソリューション(MPS)による前眼部障害.あたらしい眼科18:1283-1284,20013)白石敦:マルチパーパスソリューション(MPS)の現況および問題点.日本の眼科79:17-22,20084)植田喜一:コンタクトレンズによる眼障害─MPSによる障害─.あたらしい眼科20:221-222,20035)柳井亮二:MPSアレルギーが認められたケース.日コレ誌47:290-292,20056)柳井亮二,西田輝夫:コンタクトレンズのケア用品による角膜傷害.臨眼61:706-710,20077)水谷由起夫:レンズケアとアレルギー.日コレ誌46:102-103,20048)GarofaloRJ,DassanayakeN,CareyCetal:Cornealstain-ingandsubjectivesymptomswithmultipurposesolutionsasafunctionoftime.EyeContactLens31:166-174,20059)PapasEB,CarntN,WillcoxMDetal:Complicationsasso-ciatedwithcareproductuseduringsiliconedailywearofhydrogelcontactlens.EyeContactLens33:392-393,2007☆☆☆

緑内障:トラベクレクトミー・トリプル術後のCapsular block syndrome

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.11,200815230910-1810/08/\100/頁/JCLSCとは白内障手術後のcapsularblocksyndrome(CBS)は,continuouscurvilinearcapsulorhexis(CCC)の開口部が眼内レンズ(IOL)の光学部前面で閉鎖されることにより発生する非常にまれな疾患である1).物理的に閉鎖された水晶体内には液体成分の貯留があり(図1),多くの場合,IOL後面と後との距離が大きく乖離している所見が観察される.術後のCBSは,術直後から2週以内に発生しうる早期CBSと,数年を経過した後に発生しうる後期CBSに分類されるが,早期のCBSは浅前房化を招き眼圧上昇をきたす可能性のあることが知られている2).治療はYAGレーザーによる後切開が第一選択とされており,切後は速やかに前房深度の回復が得られる.ラベクレクトミー・トリプル手術とCBS近年の小切開白内障手術手技の向上とともに,トラベクレクトミーを行う際にも積極的に白内障手術が併用されるようになった.トリプル手術の件数が増えれば,当然のことながら術後早期のCBSに出会う頻度も増えることになる.YAGレーザー後切開を行ってしまえば予後良好とはいうものの,一番の問題はトラベクレクトミーを行った直後だということである.いわば医原性に眼球破裂をわざと作り上げているといっても過言ではな(53)●連載101緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄101.トラベクレクトミー・トリプル術後のCapsularblocksyndrome木内貴博筑波大学大学院人間総合科学研究科疾患制御医学専攻眼科学Capsularblocksyndromeは,近代的白内障手術に特有で,まれな合併症であるが,トラベクレクトミー・トリプル手術を行う機会が増している現状を考えると,緑内障術者としても当然起こりうるものとして心構えをしておかねばならない.その際の処置を安全に行うためにも,強膜弁はtightに縫合しておく原則を忘れないようにしたい.図1白内障術後早期のcapsularblocksyndromeのイメージ眼内レンズ(IOL)前面と前は全周にわたり接触し,閉鎖された水晶体内は液体成分の貯留により大きく膨らむ.(文献1より改変)図2後切開前後の前眼部写真a:術後3時間の前眼部所見.眼内レンズ(IOL)と後との距離は大きく乖離している.この後にYAGレーザーによる後切開術を行った.b:後切開翌日の前眼部所見.IOLと後はほぼ接触している.黒矢頭:IOL前面,白矢頭:後.ab———————————————————————-Page21524あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008い状態であり,切用のコンタクトレンズを術眼に当て,眼球を圧迫することなくレーザー照射することはきわめて困難である.コンタクトレンズを使用せずに切することも可能であるが,安全性を考えるとこれもやめたほうがよい.そんななか,トラベクレクトミー・トリプル手術後早期のCBSに遭遇する機会を得た.トラベクレクトミー・トリプル手術後早期CBSの自験例症例は78歳,女性.左眼に開放隅角緑内障と白内障があり,眼圧コントロールが不良であったため,トラベクレクトミー・トリプル手術を施行した.術当日(術後3時間)に診察を行ったところ,IOL前面が虹彩後面と完全に接触しているのが観察され,CCCが施された前はIOLの光学部によってこれでもかと押しつけられている様子がうかがえた(図2a).前房深度もやや浅い状況であった(図3a).「過剰濾過!」と思いつつ眼圧を測定すると15mmHgもある.そこで悪性緑内障を疑い,IOL後面をよく観察してみたが,硝子体線維がまったく見当たらない.細隙光のフォーカスを相当後方にしたときに,ようやく後がみえた(図2a).手術当日にすでに発症していたCBSであった.幸い強膜弁を6糸縫合(54)してあったので,YAGレーザーで注意深く後切開を行った.切後は速やかにIOL後面と後が接触し(図2b),前房も深くなった(図3b).マイトマイシンCを併用したトラベクレクトミーの場合,強膜弁を多糸縫合して術後の過剰濾過を防止し,lasersuturelysisにより段階的に眼圧を調整する方法がすすめられている.今回の場合もその原則を守ったお蔭でレーザー用レンズを術眼に装着することに躊躇することはなかった.トラベクレクトミー・トリプル手術の場合,ある程度過剰濾過にしても前房消失に至ることが少ないため,ともするとやや漏らし気味で手術を終えてしまうことがある.しかし,まれではあるが,術後極早期にYAGレーザーを適応しなければならない可能性のあることも視野に入れて,原則を忠実に守ることの重要性を再認識しておきたいものである.文献1)MiyakeK,OtaI,IchihashiSetal:Newclassicationofcapsularblocksyndrome.JCataractRefractSurg24:1230-1234,19982)HoJD,LeeJS,ChenHCetal:Earlypostoperativecapsu-larblocksyndrome.ChangGungMedJ26:745-753,2003☆☆☆図3前眼部3次元光干渉断層計(CAS-OCT)の所見a:術後3時間のCAS-OCT所見.角膜後面と眼内レンズ(IOL)前面との距離は2.75mmである.b:後切開翌日のCAS-OCT所見.角膜後面からIOL前面までの距離は3.78mmとなり,前房深度が増している.2.75mm3.78mmab

屈折矯正手術:屈折矯正手術後の眼圧評価

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.11,200815210910-1810/08/\100/頁/JCLS眼圧の評価にはこれまでGoldmann圧平眼圧計(GAT)が用いられている.しかし,GATの測定値は角膜厚の影響を受けることが報告1)されている.一方,パスカルダイナミックカンタートノメーター(DCT:PASCALR,ZeimerOphthalmicSystems)(図1)は屈折矯正手術で角膜を削ることにより角膜厚が減少する場合でも,正確な眼圧が測定できるとも報告されている2).その理由としてDCTでは,角膜カーブに合わせた凹型の7mmのセンサーチップにより圧平時の角膜の歪み・変形を最小限にしている.また,チップ周辺部と角膜の隙間が小さいため,表面張力はより大きく働く.結果として眼球剛性と表面張力が打ち消しあうと圧平する力と眼圧により生じる力が釣り合う.この状態をカンターマッチングとよんでおり,センサーチップに埋め込まれた1.2mmのプレッシャーセンサーが実際の正確な眼圧を測定できる.これまで,筆者らは正常眼のGoldmann視野計測とDCTの眼圧を比較し,正常眼では,GATとDCTは有意の相関(p<0.001)があり,GATと角膜厚も有意の相関(p=0.0167),DCTと角膜厚は有意の傾向(p=0.0647),GAT:14.0±2.1mmHg,DCT:15.8±2.4mmHgとDCTのほうが,1.8mmHg高いことを報告した(渥美一成ほか:屈折矯正術後の眼圧測定.第61回日本臨床眼科学会,2007).一方,LASIK(laserinsitukeratomileusis)眼の眼圧はGAT:12.6±2.2mmHg,DCT:14.9±2.1mmHgと有意(p<0.0001)に相関し,DCTが2.3mmHg高かった.LASIK眼のGATと角膜厚は有意な正の相関(p=0.0049)を示したが,DCTは角膜厚と相関せず(p=0.3794),正常眼と似た結果であった(表1).PRK(photorefractivekeratectomy)眼の眼圧はGAT:13.3±2.4mmHg,DCT:15.1±2.2mmHgと有意に相関(p<0.0001)し,DCTが1.8mmHg高か(51)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載102監修=木下茂大橋裕一坪田一男102.屈折矯正手術後の眼圧評価渥美一成セントラルアイクリニック屈折矯正手術後は角膜厚が薄くなりGoldmann眼圧計による眼圧の値が1mmHg低下する.パスカルの眼圧計では,LASIKでは0.4mmHgの低下,PRK(photorefractivekeratectomy)では0.5mmHgの低下で,角膜厚の影響を受けなかった.表1正常眼,LASIK眼,PRK眼の眼圧と角膜厚GAT(mmHg)DCT(mmHg)眼圧差(mmHg)GATと角膜厚の相関DCTと角膜厚の相関術前後のGAT差術前後のDCT差正常眼14.0±2.115.8±2.41.8正の相関p=0.0167なしp=0.0647LASIK眼12.6±2.214.9±2.12.3正の相関p=0.0049なしp=0.37941.10.3PRK眼13.3±2.415.1±2.21.8なしp=0.3383正の相関p=0.01100.80.4図1パスカルダイナミックカンタートノメーター左:全体像,右:センサーチップ.———————————————————————-Page21522あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008った.GATと角膜厚は相関がなく(p=0.3388),逆にDCTと角膜厚で有意の正の相関(p=0.0110)を認めた.これはLASIK眼や正常眼とは異なる性質である.この原因に関してはPRKの場合,LASIKより削る量が多く脈波の信頼度が低いことも関係しているかもしれない.屈折矯正手術前後のGATの眼圧はLASIK眼が術前13.7±2.0mmHg,術後12.6±2.1mmHgと1.1mmHg低下するが,DCTでは術前15.4±2.5mmHgが,術後15.0±2.0mmHgと0.4mmHgしか低下せず,角膜厚の変化に左右されなかった(図2).PRK眼もGATの眼圧が術前14.3±1.3mmHgが,術後13.5±2.2mmHgと0.9mmHg低下するのに対して,DCTは術前15.8±2.0mmHgが,術後15.4±2.3mmHgと0.4mmHgの低下とLASIKと同様に眼圧の影響が少なかった(図3).PRKは切除量がLASIKより有意に多いため,信頼度がLASIKより低く,LASIKよりバラツキが大きい傾向にあった.LASIK,PRKの切除量と,眼圧変動はGAT,DCTとも相関を認めなかった.屈折矯正手術後は角膜厚が薄くなることより,術後の眼圧変化の信頼度が低下すると考えられている.特に緑内障眼の眼圧コントロールがより困難になるため,現時点では,吸引による視野の悪化から禁忌とされているLASIKだけでなく,PRKもGATによる術後眼圧測定の信頼性から躊躇されている.しかし,今回の結果は屈折矯正手術後のGATの眼圧の低下は切除量が150μm以下であれば,眼圧の低下は平均1mmHg程度であり,LASIK眼0.4mmHgの低下,PRK眼であれば0.5mmHgの低下に過ぎず,吸引の不用なPRK眼の場合,術前,術後にGAT,DCTともに測定されていれば,屈折矯正手術後の正確な眼圧経過観察は可能と考えられた.文献1)KaufmannC,BachmannLM,ThielMA:ComparisonofdynamiccontourtonometrywithGoldmannapplanationtonometry.InvestOphthalmolVisSci45:3118-3121,20042)KaufmannC,BachmannLM,ThielMA:Intraocularpres-suremeasurementsusingdynamiccontourtonometryafterlaserinsitukeratomileusis.InvestOphthalmolVisSci44:3790-3794,2003(52)☆☆☆01020眼圧(mmHg)GATDCT術前13.715.4術後12.615.1図2LASIK術前後の眼圧眼圧術前術後図3PRK術前後の眼圧

眼内レンズ:Zinn小帯の脆弱度分類

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.11,200815190910-1810/08/\100/頁/JCLSZinn小帯が弱い症例の白内障手術では,超音波水晶体乳化吸引術(phacoemulsicationandaspiration:PEA)で行うか,あるいは内摘出術(ICCE)や外摘出術(ECCE)を選択すべきかその判断に迷うことが多い.外来での診察時から脱臼,振盪がみられる重度の脆弱例では手術の方針は立てやすいものの,高年齢で硬い核,水晶体偽落屑症候群,レーザー虹彩切開術後などいわゆる脆弱が疑われる場合では術前に実際の弱さを判定するのは困難である.核の溝掘りや分割などの手術操作で脆弱度が増してPEAからICCEへの術式変更を余儀なくされることも少なくない.手術開始時の可能なかぎり早い段階で脆弱の程度を判定できれば,その後の対処法を講じやすく,より安全な手術が可能になる.連続円形切(continuouscurvilinearcapsulorrhexis:CCC)開始時の水晶体に負荷をかけたときの所見がZinn小帯(49)谷口重雄昭和大学藤が丘病院眼科眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎267.Zinn小帯の脆弱度分類Zinn小帯が弱い症例の白内障手術では,超音波水晶体乳化吸引術で行うか,あるいは内摘出術(ICCE)や外摘出術(ECCE)を選択すべきか判断に迷うことが多い.連続円形切(CCC)開始時の水晶体に負荷をかけたときの所見がZinn小帯強度を反映すると考え,Zinn小帯の脆弱度を分類した.脆弱度分類は補助器具や術式の選択,眼内レンズ固定法の予測に有用と考えられた.図1ZW0度水晶体の動揺と前の皺襞はない.図2ZW1度前の皺襞を認める.図3ZW3度水晶体が揺れて前を穿刺できない.図4ZW4度水晶体亜脱臼を認める.表1Zinn小帯脆弱度の分類(ZW分類)(谷口,2008)分類所見0度開始時:水晶体の動揺はない.前の皺襞はない.1度開始時:動揺はないかわずかに認める.皺襞を認める.2度開始時:動揺を認めるもBSS(balancedsaltsolution)または粘弾性物質のもとで裂ける.引き裂き時:赤道部に向かう深い前の皺襞を認める.3度開始時:動揺が強くBSSまたは粘弾性物質のもとでは裂けない.高粘度粘弾性物質を用いれば裂ける.細い針,メス(Vランスなど)による穿刺を必要とする.引き裂き時:高粘度粘弾性物質,鑷子を必要とする.4度2度または3度に加えて水晶体振盪,水晶体脱臼を認める.注:1)CCC開始時で針先を前に押しながら引く際の水晶体動揺と前皺襞,穿刺後の引き裂きで赤道部に向かう前皺襞を観察する.2)0~2度にZinn小帯断裂を伴うときにはこれを付記する.———————————————————————-Page2強度を反映すると考え,これをもとにZinn小帯の脆弱度を分類した1)(ZonularWeakness:ZW分類,表1,図1~4).当科でPEAを行った1,045眼の内訳では,ZW0度は22%,1度は70%,2度は6%,3度と4度は各々1%であった.0度と1度ではZinn小帯はほぼ健常と考えられる群で,956眼中953眼ではPEA単独で手術を終えた.2度以上は明らかにZinn小帯が弱いと考えられる群であり,CCC後に水晶体を支える補助器具として水晶体フック(capsuleexpander:CE)2~4)を装着してから核乳化を行った.CEを用いてPEAを施行した割合は,2度では15%,3度,4度はともに100%であった.全例ともECCEやICCEにコンバートすることなくPEAを施行できた.ZW分類0度と1度では問題なくPEAができる群,2度以上ではCE使用によるPEAあるいはECCE,ICCEの術式選択を必要とする群と考えられた(表2).CCC時の水晶体動揺と前皺襞を指標としたZW分類は加齢によるZinn小帯の脆弱性をある程度反映し,補助器具や術式の選択,眼内レンズ固定法の予測に有用と考えられた.文献1)谷口重雄,田口央子,西村栄一ほか:前切開時の水晶体動揺を指標にしたZinn小帯脆弱度分類の試み.臨眼62:879-883,20082)谷口重雄:手術器具/カプセルエキスパンダー.IOL&RS18:82-83,20043)小沢忠彦,谷口重雄:カプセルエキスパンダーを用いたZinn小帯脆弱例の超音波白内障手術.あたらしい眼科21:773-774,20044)NishimuraE,YaguchiS,NishiharaHetal:Capsularsta-bilizationdevicetopreservelenscapsuleintegrityduringphacoemulsicationwithaweakzonule.JCataractRefractSurg32:392-395,2006表2ZW分類と術式の選択ZW分類術式0度PEA1度PEA2度PEA+CE,ECCE3度PEA+CE,ECCE4度PEA+CE,ICCE,vitrectomyPEA:超音波水晶体乳化吸引術,CE:水晶体フック,ECCE:外摘出術,ICCE:内摘出術.

コンタクトレンズ:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(3)

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.11,200815170910-1810/08/\100/頁/JCLSソフトコンタクトレンズ装用下の酸素不足を解消ハードコンタクトレンズ装用下の眼への酸素供給はおもにレンズの動きに伴う涙液交換に依存しているため,レンズフィッティングが適正で,良好な涙液交換が確保されていれば,たとえ素材の酸素透過性が低くても,眼への酸素供給は十分に確保される(図1a).一方,ソフトコンタクトレンズ装用下の眼への酸素供給は,おもに素材を透過する酸素に依存しているため,ソフトコンタクトレンズ装用下の眼への酸素供給を増やすためには,より薄いデザインのレンズを作製するか,素材の酸素透過性をあげなければならない(図1b).従来素材のハイドロゲルコンタクトレンズの酸素透過性は,素材の含水性に依存しているために,水の酸素透過係数である80を超えることは理論的にも不可能であった.ガス透過性ハードコンタクトレンズの素材では酸素透過係数が100を超えるものも少なくなく,従来素材のハイドロゲルコンタクトレンズ装用下の眼への酸素供給はガス透過性ハードコンタクトレンズに比べて大きく劣っていた.そのため,たとえ高性能の使い捨てソフトコンタクトレンズであっても,長時間の装用により眼の酸素不足を生じ,眼感染症,角膜血管新生,角膜内皮細胞障害などの合併症を生じていた.従来素材のハイドロゲルコンタクトレンズの酸素供給における問題点を解消するために誕生したのが,シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズである.シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズには水の成分も含まれるが,素材の酸素透過性はおもに素材に含まれるシリコーンに依存している.シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズでは水の成分が少なくなるほど,シリコーンの含有率が高まり,素材の酸素透過性が高くなる(図2).現在,国内外で発売されているシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの多くは酸素透過係数が100を超えている.シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(47)の登場により,ソフトコンタクトレンズ装用による酸素不足が原因となったさまざまな眼障害が減少することが期待される.燥感の軽減ソフトコンタクトレンズ装用下ではおもにソフトコン糸井素純道玄坂糸井眼科医院コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純.ハードコンタクトレンズ.ソフトコンタクトレンズ図1コンタクトレンズ装用下の眼への酸素供給の違いハードコンタクトレンズ装用下の眼への酸素供給は,おもに瞬目によるレンズ移動に伴う涙液交換(青の矢印)に依存しているが,ソフトコンタクトレンズ装用下では涙液交換に伴う酸素供給はわずかであり,おもにレンズ自体を透過する酸素(赤い矢印)に依存している.含水率()Dk値200180101401201008004020010080040200シリコーンハイドロゲルハイドロゲル(従来の含水性SCL素材)水図2含水率と酸素透過係数(Dk値)———————————————————————-Page21518あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(00)タクトレンズを通じて水分が蒸発することにより,眼表面が乾燥する.そのため,ソフトコンタクトレンズ装用下の乾燥感はレンズ素材の含水性とレンズ厚に左右される.含水性が高く,レンズ厚が薄いソフトコンタクトレンズは乾燥感が強く,含水性が低く,レンズ厚が厚いソフトコンタクトレンズが少ない.従来素材のハイドロゲルコンタクトレンズでは,眼への酸素供給を高めるためには,高い含水性と薄いレンズデザインを採用する必要があったため,高性能(高酸素透過性)のレンズほど乾燥感が強いという宿命があった.シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズでは,酸素透過性は素材に含まれるシリコンに依存するために,低含水性でありながら,高酸素透過性を実現できるために,酸素透過性の高いソフトコンタクトレンズでありながら,乾燥感の低減を実現できた(図3).結膜充血の軽減ソフトコンタクトレンズ装用下の慢性の球結膜の軽度~中等度の充血は,ハイドロゲルコンタクトレンズ装用者では頻繁にみられる合併症で,特に輪部に強い.このソフトコンタクトレンズ装用下の球結膜の充血はレンズ素材の酸素透過性,レンズのフィッティング,眼表面の乾燥などが複雑に絡み合って発症する.従来素材のハイドロゲルコンタクトレンズと違い,シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズでは高い酸素透過性と同時に,素材の低含水性を実現できるために,眼表面の乾燥を軽減することができる.その結果として,これまでは対応が困難であったソフトコンタクトレンズ装用下の慢性の球結膜充血を軽減できる.******ハイドロゲルレンズO2オプティクス装用1間O2オプティクス装用4間O2オプティクス装用12間12457124通57良好不良図3乾燥感の強さハイドロゲルコンタクトレンズvsシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(O2オプティクス).ハイドロゲルレンズとの有意差**p<0.01.

写真:多発性骨髄腫に伴う角膜混濁

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.11,200815150910-1810/08/\100/頁/JCLS(45)細谷比左志市立豊中病院眼科写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦294.多発性骨髄腫に伴う角膜混濁図2図1のシェーマ図4図3のシェーマ①:host-graftjunction.②:角膜移植片も全層にわたって混濁している.①①②図1良性M蛋白血症(IgGgammopathy)にみられた角膜混濁(69歳,女性)角膜の全層に混濁がみられる.矯正視力は(0.01).(写真提供:岡本眼科クリニック岡本茂樹先生のご厚意による.図3も同様)図3図1と同一症例の他眼全層角膜移植術を施行され,視力(1.0)を得たが,混濁が再発し視力(0.15)にまで低下した.混濁が角膜全体に広がる.角膜の全層にわたって微細な結晶状混濁がみられる上眼瞼———————————————————————-Page21516あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(00)多発性骨髄腫1)は,骨髄原発の腫瘍で,形質細胞(plasmacell)の腫瘍である.単一クローンの形質細胞が異常増殖し制御不能の状態になり,単一の免疫グロブリン(M蛋白とよばれる)が異常に増加する.40~70歳に好発し,30歳までに発症することはまれといわれている.免疫グロブリンの型はIgG70%,IgA29%,IgD1%である2,3).全身症状として,多発性に骨破壊が生じ,病的骨折が起こる.また骨髄の障害により貧血がひき起こされる.約70%の症例に,頭骸骨,脊椎,肋骨にpunched-outlesionという特徴的なX線所見がみられることで有名である.眼の変化は,眼窩,結膜,角膜,ぶどう膜,網膜,視神経に出現する.眼窩病変は比較的まれではあるが,眼窩内への骨髄腫細胞の浸潤により眼球突出,複視,視力障害が起こる.結膜では,血液の粘稠度亢進により結膜血管のbloodsludgingという現象がみられる.また免疫グロブリンの結晶が結膜に沈着することがある.そして角膜には,本写真セミナーのテーマである,角膜混濁がみられる.これは,角膜上皮および角膜実質内への免疫グロブリン結晶の沈着が本態である.無数の微細な多彩色の結晶が実質中にみられ,角膜のすべてのレベルにみられる.この変化は1958年にBurki4)が最初に報告した.角膜への沈着は,涙液,輪部血管,前房水からの経路が考えられるが,どの経路由来かは不明である.また,高カルシウム血症に合併した帯状角膜変性や,その他,まれに銅の沈着の所見がみられることがある.ぶどう膜では,毛様体に胞がみられたり,脈絡膜腫瘍がみられることがある.網膜には血液の粘稠度亢進により,網膜静脈の怒張,拡張,出血,綿花様白斑,網膜前出血などの所見がみられる.その他,視神経にうっ血乳頭や浸潤などの変化を認めることがある.貧血,骨痛,病的骨折,全身疲労,血沈値亢進のある患者は,多発性骨髄腫が疑われ,高グロブリン血症,BenceJones蛋白尿,蛋白電気分解異常,特徴的X線所見などにより,診断する.鑑別すべき疾患として,マクログロブリン血症,クリオグロブリン血症,良性M蛋白血症などがある.このうち,良性M蛋白血症とは,血中にM蛋白を認めるが,基礎疾患(骨髄腫,マクログロブリン血症,アミロイドーシス,リンパ腫など)を認めないものをいい,健常者の1~3%にみられる.この良性M蛋白血症やクリオグロブリン血症でも,角膜,結膜への免疫グロブリン結晶の沈着がみられ,注意が必要である.今回の症例がそれである.治療として,角膜混濁による視力低下例では,表層角膜移植(特にDLKP:深層層状角膜移植)あるいは全層角膜移植を施行するが,今回の症例のように,原疾患が治療されていなければ再発する.角膜内に沈着する免疫グロブリンがプラスまたはマイナスに荷電しているという性質を利用して,イオントフォレーゼによって除去する試みがなされ,良好な結果を得ているという報告がある.文献1)細谷比左志:多発性骨髄腫.新図説臨床眼科講座3,角結膜疾患,p102-103,メジカルビュー社,20012)OrellanaJ,FriedmanAH:Dysproteinemias.TheEyeinSystemicDisease(edbyGoldDH,WeingeistTA),p134-138,Lippincott,Philadelphia,19903)PietteWW,BlodiCF:Multiplemyelomaandotherplas-macelldyscrasia.TheEyeinSystemicDisease(edbyGoldDH,WeingeistTA),p140-142,Lippincott,Philadel-phia,19904)BurkiE:Cornealchangesinacaseofmultiplemyeloma(plasmocytoma).Ophthalmologica135:565-572,1958

細胞診,細胞表面マーカ,免疫グロブリン遺伝子再構成,眼内液サイトカインの検査

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLSがなされるべきなのは当然である.II細胞診前房水や硝子体に遊出した細胞にGiemsa染色やPapanicolaou染色を行い,細胞異型の程度に注目して評価する.わが国ではPapanicolaou分類(表1)に準じて評価されることが多い.細胞診には,当然ある程度の細胞量が必要であり,同時に得られた細胞の質がその検査結果を大きく左右する.一般に悪性度の高いリンパ球は壊れやすく,副腎皮質ステロイド薬には細胞融解作用があるので,時間が経過した加療後の硝子体からのサンプルは腫瘍細胞のコンディションが悪く,不適切試料とされる場合も多い(図1a).これに対して,前房蓄膿をきたした前房からのサンプルを用いると良い標本を得ることができる(図1b).なお,硝子体細胞の採集には硝子体カッターを用いるが,カッターのサイズや回転数には定説がない.可能なかぎり多くの細胞を採集するため工夫は重要で,強はじめに眼内炎症診断の基本は非侵襲的検査であるが,眼内サンプルから得られる情報が診断に決定的な意味をもつ場合がある.その一つは感染性ぶどう膜炎であり,微量であれ病原体遺伝子が証明されれば,治療への大きな足がかりとなる.もう一つは炎症の仮面をかぶった悪性腫瘍の眼内浸潤,いわゆる仮面症候群で,特に腫瘍化したリンパ球細胞の眼内浸潤『眼内悪性リンパ腫』の診断に重要である.本稿では,おもに眼内悪性リンパ腫診断のためにという観点から,細胞診,細胞表面マーカ,DNA検査,眼内液サイトカイン濃度測定について述べる.I眼内悪性リンパ腫診断の難点眼内悪性リンパ腫の診断は“challenging”とされる1).最もchallengingなのは,硝子体の「細胞診」で悪性リンパ腫の診断を下そうとすることで,これは通常リンパ腫を「病理組織診」で診断することから大きく逸脱している.すなわち,リンパ腫は個々の細胞の特徴に加え,生体組織における細胞集積の仕方や振る舞い,といった全体像を通して診断されるのが一般的であり,細胞の異型度に主眼をおいた評価(細胞診)だけから診断を下すことは通常しない.しかし,眼内悪性リンパ腫は中枢神経に転移しやすく生命予後不良の疾患であり,他方,眼球機能を温存しながら眼内組織を得ることは容易でないのだから,入手しやすい硝子体サンプルを詳細に解析して診断を下す努力(41)1511AuiAui眼5831115眼特集●ぶどう膜炎検査の正しい使い方あたらしい眼科25(11):15111514,2008細胞診,細胞表面マーカ,免疫グロブリン遺伝子再構成,眼内液サイトカインの検査CytologyandTestingforCellSurfaceMarkers,ImmunoglobulinGeneRearrangementandIntraocularFluidCytokines安積淳*表1Papanicolaou分類クラスI異型細胞を認めないクラスII異型細胞を認めるが良性であるクラスIII悪性を疑うが断定できないIIIa悪性を少し疑うIIIb悪性をかなり疑うクラスIVきわめて強く悪性を疑うクラスV悪性———————————————————————-Page21512あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(42)わめて低い.細胞量に余裕のある場合に行う.フローサイトメトリーによる細胞表面マーカの解析は,対象とする疾患および試料によって解析内容や方法が若干異なる.眼科領域の試料は組織から採取されるために生きた細胞以外の残屑が細胞浮遊液中に多く含まれる.このため,核染色を行ってコンディションの悪い細胞を除いたうえで解析を行うシステムが推奨される(図2は核染色に7AADを用いたシステム).また,対象とする疾患はリンパ腫がほとんどで骨髄性白血病は考えにくいから,B細胞関連マーカ(CD20,CD19,CD10,k鎖,l鎖など),T細胞関連マーカ(CD2,CD3,CD4,CD5,CD8など),NK(naturalkiller)細胞関連マーカ(CD16,CD56)がおもだったものとして解析される.IVDNA検査サザンブロットによるDNA検査(免疫グロブリンJH鎖遺伝子再構成の検索)はリンパ球増殖の腫瘍性/非腫瘍性の鑑別に力を発揮する(図3).陽性結果は,B細胞性リンパ腫の確定診断と考えてよい.眼内サンプルの問題は,ここでは「量」で,サザンブロットによる解析はDNA量の不足から不可能な場合が多い.この場合は,PCR(polymerasechainreaction)による解析を行うことができる(図4).ただし,PCRを用いた解析は偽陰性/偽陽性となる確率が高く,評価がむずかしい.特にT細胞に関するPCRは,T細胞が非腫瘍性にもクローン増殖することが多いのか,偽陽性となることをしばしば経験する(図4).また,PCRの感度が施設間で異なる可能性も指摘されている2).V眼内液サイトカイン濃度測定悪性リンパ腫では眼内のインターロイキン(IL)-10濃度が異常に高い値になることがしばしば経験される3).一方,炎症性サイトカインであるIL-6濃度は低いことが多く,IL-10/IL-6比は1を越えることがほとんどである.いずれもELISA法(酵素免疫測定法)で検出可能であり,眼内液0.5mlがあれば検査可能である.細胞診の前に遠心分離を行って上清を利用すればよい.IL-10濃度上昇やIL-10/IL-6>1は,眼内悪性リンパ腫では検出頻度がきわめて高いものの,リンパ腫細膜圧迫も行う.III細胞表面マーカ免疫組織染色による細胞表面マーカの解析は悪性リンパ腫を分類するうえで重要な検査である.しかし,硝子体あるいは前房水からのサンプルに免疫組織染色と同等の解析を行うことは一般細胞診のレベルではむずかしい.今日,リンパ腫診断/分類のためにフローサイトメトリーによる細胞表面マーカの解析が行われており,この方法を眼内悪性リンパ腫の診断に応用することができる.硝子体や前房から相当量のコンディションの良い細胞を採集することが不可欠だが,成功すると診断的価値がある(図2).しかし,硝子体サンプルでの成功率はきab図1細胞診2例a:硝子体からのサンプル.細胞破壊が著しい.b:前房水からのサンプル.十分量のコンディションの良い細胞が得られている.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081513(43)得図2硝子体サンプルで成功したフローサイトメトリーによる細胞表面マーカ検索まれな成功例である.———————————————————————-Page41514あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(44)検査を有益なものにする鍵は,より良い状態の細胞を収集できるタイミングを見逃さない臨床家としての態度であることを,最後に付け加えておく.文献1)Levy-ClarkeGA,ChanCC,NussenblattRB:Diagnosisandmanagementofprimaryintraocularlymphoma.HematolOncolClinNorthAm19:739-749,20052)BaggA,BrazielRM,ArberDAetal:Immunoglobulinheavychaingeneanalysisinlymphomas:amulti-centerstudydemonstratingtheheterogeneityofperformanceofpolymerasechainreactionassays.JMolDiagn4:81-89,20023)CassoouxN,GironA,BodaghiBetal:IL-10measure-mentinaqueoushumorforscreeningpatientswithsuspi-cionofprimaryintraocularlymphoma.InvestOphthalmolVisSci48:3253-3259,2007胞増殖を直接証明するものではない.現時点では信頼性の高い傍証として取り扱わざるを得ない.なお,前述の細胞診,フローサイトメトリーによる細胞表面マーカ検索,DNA検索は灌流下に集められる試料(希釈サンプル)でも検査可能である.が,眼内液サイトカイン濃度は希釈されない原液を用いるべきである.表2に4つの検査の特性をまとめる.おわりに上記4つの眼内悪性リンパ腫診断法は,いずれの一つも絶対的なものではない.このため,可能であればすべての検査を施行することが望ましいが,サンプル量が小さいのは眼科の常であり,検査を選択する必要がある場合は,細胞診,眼内サイトカイン濃度測定,DNA検査,細胞表面マーカの順で優先する.図4PCRによる遺伝子再構成両眼から採集されたサンプルを用いて検索を行った.B細胞では同一のバンドがみられるが,T細胞では異なるバンドがみられる(偽陽性バンド).(-)MNCPC112(-)M23419411872NCPC12免疫グロブリン遺伝子TCR遺伝子M:fX174???IIIdigestionsizemarker(-):template(-)NC:negativecontrolPC:positivecontrol1:右眼硝子体サンプル2:左眼硝子体サンプル5.6kb→←11.0kb1212→←陰性コントロール検体図3眼内サンプルを用いたサザンブロットによる遺伝子再構成検索ほぼすべての細胞が腫瘍細胞であったことが推察される.表24つの検査のまとめ必要試料眼内液希釈診断的価値成功率細胞診生体細胞可高中フローサイトメトリー生体細胞可中低DNA検査サザンブロットPCR細胞可高中低高サイトカイン測定眼内液不推奨中高