———————————————————————-Page1(111)15810910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(11):15811585,2008cはじめに眼圧下降は緑内障治療として現在のところ唯一根拠が明確に示された治療法である14).EBM(evidence-basedmedi-cine)に沿った治療が広く求められ,緑内障診療ガイドライン5)にもその治療方針が明記された.筆者らは,まず緑内障診断の確定,病型分類,治療開始,治療の効果判定,治療法〔別刷請求先〕中井義幸:〒225-0002横浜市青葉区美しが丘2-14-7眼科中井医院Reprintrequests:YoshiyukiNakai,M.D.,Ph.D.,NakaiEyeCenter,2-14-7Utsukushi-gaoka,Aoba-ku,Yokohama225-0002,JAPAN多施設による緑内障患者の実態調査─薬物治療─中井義幸*1井上賢治*2森山涼*2若倉雅登*2井上治郎*2富田剛司*3*1眼科中井医院*2井上眼科病院*3東邦大学医療センター大橋病院第2眼科CurrentStatusofGlaucomaTherapyatPrivatePracticesandaPrivateOphthalmologyHospitalYoshiyukiNakai1),KenjiInoue2),RyoMoriyama2),MasatoWakakura2),JiroInouye2)andGojiTomita3)1)NakaiEyeCenter,2)InouyeEyeHospital,3)SecondDepartmentofOphthalmology,TohoUniversity,MedicalCenterOhashiHospital緑内障患者の治療に関する実態を本研究の趣旨に賛同した施設で調査し,検討した.本研究の趣旨に賛同した22施設あるいは井上眼科病院に,平成19年3月12日から19日の間に外来受診した緑内障,高眼圧症患者1,935例1,935眼(男性768例,女性1,167例)を対象とした.受診患者の緑内障病型,手術既往歴,使用薬剤を調査した.緑内障病型は,正常眼圧緑内障47.4%,(狭義)原発開放隅角緑内障34.4%,原発閉塞隅角緑内障7.2%,続発緑内障6.1%,高眼圧症3.7%であった.手術既往歴は,なし1,772例,線維柱帯切除術122例,線維柱帯切開術11例であった.使用薬剤数は,なし11.9%,1剤44.7%,2剤27.5%,3剤12.1%,4剤3.3%,5剤0.4%,6剤0.05%であった.使用薬剤は,ラタノプロスト1,125例,イオン応答ゲル化チモロール240例,カルテオロール209例,チモロール205例,ブリンゾラミド195例,ドルゾラミド184例などであった.単剤使用例(865例)では,ラタノプロスト47.6%,カルテオロール9.7%,チモロール7.3%,イオン応答ゲル化チモロール7.1%,ニプラジロール6.2%,b遮断薬後発品6.0%,ウノプロストン5.8%であった.2剤使用例(532例)では,ラタノプロスト+b遮断点眼薬54.5%,ラタノプロスト+炭酸脱水酵素阻害薬15.6%であった.今回調査した施設では正常眼圧緑内障患者が多く,薬剤は2剤までの使用が多く,ラタノプロストが最も多く使用されていた.Weinvestigatedthecurrentstatusofglaucomatherapyatprivatepracticesandaprivateophthalmichospital.Includedinthisstudywere1,935patientswithglaucomaandocularhypertensionwhovisited22privatepracticesandInouyeEyeHospitalduringtheweekofMar12,2007.Ofthesepatients,47.7%hadnormal-tensionglaucoma,34.4%hadprimaryopen-angleglaucomaand7.2%hadprimaryangle-closureglaucoma.Medicaltherapyonlywasreceivedby1,772patients;122patientsunderwenttrabeculectomyand11patientsunderwenttrabeculoto-my.Onedrugalonewasprescribedin44.7%ofcases,2drugsin27.5%,3in12.1%,4in3.3%,5in0.4%and6in0.05%.Latanoprostwasmostoftenprescribed(1,125cases);beta-blockingagentwasprescribedthesecondmostoften(654cases).Topicalcarbonicanhydraseinhibitoryagentwasprescribedin379cases.Latanoprostandbeta-blockingagentwereusedincombinationin54.5%ofcases.Useoftopicalcarbonicanhydraseinhibitorasanadjuncttolatanoprostwasseenin15.6%ofcases.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(11):15811585,2008〕Keywords:眼科診療所,眼科専門病院,緑内障治療薬,治療の実際.privatepractice,ophthalmichospital,glau-comamedication,currentstatus.———————————————————————-Page21582あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(112)の見直しといった,第一段階として現状の把握と,その対策が必要であると考えている.日本の緑内障の疫学調査として多治見スタディの報告がある6).また過去に,国立大学病院や,公的中核病院での緑内障治療の実態に関する報告がなされた7,8).しかしながら,眼科医療の前線である一般医院などにおいての緑内障全般ならびに高眼圧症に対する治療の実態は,これまで報告されていない.そこで今回筆者らは,私立の眼科診療所ならびに眼科専門病院での緑内障治療の実態につき調査した.I対象および方法研究の趣旨に賛同した23施設(図1)において,平成19年3月12日から同19日までの調査期間内に,外来を受診した緑内障および高眼圧症を対象とし,片眼のみの緑内障または高眼圧症患者では罹患眼を,両眼罹患している場合は右眼を調査対象眼とした.緑内障の診断,管理は,緑内障診療ガイドライン8)に則り,各施設の判断で行った.これらの各施設にあらかじめ調査票を送付して,診療録から最終診察時の年齢,性別,病型,使用薬剤,手術既往を調査し,すべての調査票を(医)済安堂井上眼科病院医局に設置した集計センターにて回収し集計を行った.II結果対象の内訳は,1,935例1,935眼(男性768例,女性1,167例),年齢は66.8±13.5歳(平均±標準偏差,9102歳)であった.病型の内訳を図2に示す.正常眼圧緑内障918例(47.4%)で,(狭義)原発開放隅角緑内障665例(34.4%),続発緑内障119例(6.1%),原発閉塞隅角緑内障139例(7.2%),高眼圧症は72例(3.7%)であった.緑内障手術は163例(8.4%)で行われていた.術式は線維図1参加施設じ井おの井上お原は中中井おおお山の山田正常眼圧緑内障原発閉塞隅角緑内障7.2%高眼圧症3.7%その他1.1%原発開放隅角緑内障34.4%続発緑内障6.1%47.4%図2病型の内訳———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081583(113)柱帯切除術が122例(74.8%),線維柱帯切開術が11例(6.7%),線維柱帯切除術と線維柱帯切開術の両方の手術が1例(0.6%)であった.何らかの眼圧下降手術を行ってあるものの,術式不明であったものが25例(15.3%)であった.手術施行の有無が不明であったものが5例(3.1%)あった.緑内障および高眼圧症に対する薬剤数は,1剤が865例(44.7%),2剤が532例(27.5%),3剤が235例(12.1%),4剤が64例(3.3%),5剤が8例(0.4%),6剤が1例(0.05%)であった(図3).正常眼圧緑内障で経過観察中の症例,高眼圧症で緑内障視神経症を認めず,視野が正常であるため,経過観察のみ行っている症例,すでに濾過手術などの眼圧下降手術を施行してある症例などで,無投薬であったものが230例(11.9%)であった.使用薬剤の内訳は,ラタノプロストが圧倒的に多く,1,125例で使用されていた(表1).すべてのb遮断薬ならびにab遮断薬は合わせて931例に使用されていた.炭酸脱水酵素阻害薬の点眼薬はブリンゾラミド195例,ドルゾラミド184例で使用されていた.炭酸脱水酵素阻害薬の内服薬は47例で使用されていた.単剤のみ使用している症例の使用薬剤は,ラタノプロスト412例(47.6%),ゲル化剤を含めたチモロール125例(14.4%),カルテオロール84例(9.7%),ニプラジロール54例(6.2%)などであった(図4).2剤併用例の組み合わせは,ラタノプロスト+b遮断薬が最も多く290例(54.5%),b遮断薬+炭酸脱水酵素阻害薬は103例(19.4%),ラタノプロスト+炭酸脱水酵素阻害薬は83例(15.6%)であった(図5).III考按平成18年10月に緑内障診療ガイドライン(第2版)が発表された8).ガイドラインに明確に示されているように,緑内障性視神経症の有無の判定,そして病型診断,あらゆるベースライン値の取得が,緑内障診療の基本である.それらの基本データを踏まえ,治療の必要性の有無を判断し,適切な管理がなされなければならない.治療が必要となった場合,表1使用薬剤の内訳プロスタグランジン関連薬イソプロピルウノプロストン95眼ラタノプロスト1,125眼b遮断薬(ab遮断薬含む)チモロール205眼1,076眼チモロールゲル化剤240眼チモロール熱応答型ゲル化剤91眼カルテオロール230眼ベタキソロール36眼レボブノロール30眼ニプラジロール124眼後発品120眼炭酸脱水酵素阻害薬ドルゾラミド184眼ブリンゾラミド195眼アセタゾラミド47眼a1遮断薬ブナゾシン162眼交感神経遮断薬ジピベフリン40眼副交感神経刺激薬ピロカルピン28眼9.7%ラタノプロスト47.6%ウノプロストン5.8%その他10.3%b遮断薬後発品6.0%ニプラジロール6.2%チモロールゲル化製剤7.1%チモロール7.3%カルテオロール(n=865)図4使用薬物の内訳(単剤使用時)1剤44.72剤27.53剤12.14剤3.35剤0.46剤0.05なし11.9(n=1,935)図3使用薬剤数+炭酸脱水酵素阻害薬10.5%ラタノプロスト+b遮断薬54.5%ラタノプロストを含まない組み合わせ19.4%ラタノプロスト+その他(n=532)図52剤併用の内訳———————————————————————-Page41584あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(114)原疾患のあるものはまず原疾患の治療が優先されるべきである.原発性であるならば,唯一有効性が確認されている治療である,眼圧下降を行う必要がある.今回の研究は,個人眼科医院ならびに眼科専門病院における緑内障診療の実態に迫るのが目的であった.診療内容につき調査すべき項目は非常に多岐にわたるため,特に薬物治療に主眼を置いて調査を行った.病型診断,治療目標については緑内障診療ガイドラインに沿って行い,その詳細は各施設の判断に任せた.病型は広義の原発開放隅角緑内障が約80%を占めた.正常眼圧緑内障は47.4%,狭義の原発開放隅角緑内障は34.4%であった.原疾患にかかわらず,手術既往の有無,眼圧下降薬の使用状況のみに的を絞り,その治療内容を調査した.眼圧下降薬を選択する際,第一選択薬は,強力な眼圧下降作用のあるプロスタグランジン関連製剤が使用されることが近年多くなっている.古くより使用されていたb遮断薬は,呼吸器系,循環器系に対する影響が無視できず制約があるため使いづらい面がある.今回の調査でもこのことを反映している結果が得られた.第一選択薬のみで十分な眼圧下降が得られない場合,他剤に変更するなどして,それでもなお眼圧下降が不十分であればもう1剤追加をする.プロスタグランジン関連薬がすでに使用されている場合は,全身状態が許せばb遮断薬を,b遮断薬がすでに使用されている場合はプロスタグランジン関連薬を追加するのが効果的であるとされている9,10).今回の調査結果では,12剤までを使用し治療されている症例が実に72.2%を占めた.その組み合わせはプロスタグランジン関連薬+b遮断薬が最も多く,ついでb遮断薬+炭酸脱水酵素阻害薬,そしてプロスタグランジン関連薬+炭酸脱水酵素阻害薬となった.これは上述したような組み合わせの「ガイドライン」に沿った治療法が一般的に浸透していることを示していると考えられる.3剤以上使用している例は15.9%にみられた.3剤以上を使用する場合コンプライアンスの低下が問題となる.このため,できるかぎり2剤までの使用で目標眼圧を達成することが望ましいわけで,その組み合わせが重要となる.調査対象の平均年齢が66.8歳で,治療を必要とする患者の大半が高齢者であることを考慮すると,少ない薬剤数,点眼回数による治療が望ましく,個人眼科医院,眼科専門病院でも治療の原則が実践されていると理解できる.過去に,石澤らが手術既往のない,正常眼圧緑内障,原発開放隅角緑内障,偽落屑緑内障に対する大学病院における薬物治療の実態を報告した7).この報告ではラタノプロストとb遮断薬の使用頻度が高く,薬物数は3剤までが多かった.一方,清水らは大学病院およびその関連病院における薬物治療の実態を,手術既往のない症例で,1)正常眼圧緑内障,2)原発開放隅角緑内障,3)その他の緑内障の3つの群に分けて調査した8).すべての群において,プロスタグランジン関連薬が第一選択であった.薬物数は正常眼圧緑内障群ではすべてで,他の2群でも約90%は3剤までであった.これらの報告と今回の調査を比較すると,プロスタグランジン関連薬の使用が最も多く,3剤までの使用が多いという点で同様であった.一方,炭酸脱水酵素阻害薬の点眼薬の使用も一般的になりつつある.炭酸脱水酵素阻害薬は単剤での使用は眼圧下降効果がやや劣るため単剤では使用しづらい913).しかしながら,眼局所ならびに全身に対する副作用が少ないことから,併用療法には有利であると期待される1113).今回の調査でも,2剤併用療法でプロスタグランジン関連薬に加えるまたはb遮断薬に加えて使用される傾向が確認できた.緑内障は高齢者に対する治療が多く,今後わが国においても合剤の使用が認められるならば,治療のコンプライアンス向上ならびにさらに多様な併用療法の実行に結びつくと考えられる.今回の調査では手術既往のない症例が大多数を占めたのは,入院施設を持たない診療所による管理の特徴の表れといえよう.薬物のみでの治療が可能であれば一般医院・眼科専門病院における緑内障管理が可能となり,患者のQOL(qualityoflife)の向上にもつながると考えられる.本論文の要旨は第18回日本緑内障学会にて発表した.謝辞:本調査に参加し,診療録の調査,集計作業にご協力いただいた各施設の諸先生方に,深く感謝します.文献1)TheAGISInvestigators:TheAdvancedGlaucomaInter-ventionStudy(AGIS)7:Therelationshipbetweencon-trolofintraocularpressureandvisualelddeterioration.AmJOphthalmol130:429-440,20002)LichterPR,MuschDC,GillespieBWetal,fortheCIGTSStudyGroup:InterimclinicaloutcomesintheCollabora-tiveInitialGlaucomaTreatmentStudycomparinginitialtreatmentrandomizedtomedicationsorsurgery.Ophthal-mology108:1943-1953,20013)KassMA,HeuerDK,HigginbothamEJetal,andtheOcularHypertensionTreatmentStudyGroup:TheOcu-larHypertensionTreatmentStudy.Arandomizedtrialdeterminesthattopicalocularhypotensivemedicationdelaysorpreventstheonsetofprimaryopen-angleglau-coma.ArchOphthalmol120:701-713,20024)HeijlA,LeskeMC,BengtssonBetal:Reductionofintraocularpressureandglaucomaprogression:resultsfromtheEarlyManifestGlaucomaTrial.ArchOphthalmol120:1268-1279,20025)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン第2版.日眼会誌110:777-814,20066)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal,fortheTajimiStudyGroupandJapanGlaucomaSociety:Theprevalenceofprimaryopen-angleglaucomainJapanese:theTajimiStudy.Ophthalmology111:1641-1648,2004———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081585(115)7)石澤聡子,近藤雄司,山本哲也:一大学附属病院における緑内障治療薬選択の実態調査.臨眼69:1679-1684,20068)清水美穂,今野伸介,片井麻貴ほか:札幌医科大学およびその関連病院における緑内障治療薬の実態調査.あたらしい眼科23:529-532,20069)SchwartzK,BudenzD:Currentmanagementofglauco-ma.CurrOpinOphthalmol15:119-126,200410)白土城照:緑内障の薬物療法他剤併用の考え方.眼科診療プラクティス70(緑内障の薬物治療):2-6,200111)MichaudJ-E,FrirenB,TheInternationalBrinzolamideAdjunctiveStudyGroup:Comparisonoftopicalbrinzol-amide1%anddorzolamide2%eyedropsgiventwicedailyinadditiontotimolol0.5%inpatientswithprimaryopen-angleglaucomaorocularhypertension.AmJOph-thalmol132:235-243,200112)MarchWF,OchsnerKI,TheBrinzolamideLong-TermTherapyStudyGroup:Thelong-termsafetyandecacyofbrinzolamide1.0%(AzoptTM)inpatientswithprimaryopen-angleglaucomaorocularhypertension.AmJOph-thalmol129:136-143,200013)ShojiN,OgataH,SuyamaHetal:Intraocularpressureloweringeectofbrinzolamide1.0%asadjunctivethera-pytolatanoprost0.005%inpatientswithopenangleglaucomaorocularhypertension:anuncontrolled,open-labelstudy.CurrMedResOpin21:503-508,2005***