特集●眼に良い食べ物 あたらしい眼科 27(1):23.28,2010カレー(スーパークルクミン)Curry( Super Curcumin)大澤俊彦*はじめに日本人の「わが家の味」のアンケートをとってみると,まず,トップランクに入る料理として「カレー」があげられるだろう.最近では,北海道で端を発した「スープカレー」が話題となってきており,インドやタイのカレー専門店も増えてきている.タイでは,ココナッツミルクを用いた白いカレーなども食欲をそそるが,大部分のカレー料理に特有の黄色と風味はカレー粉に由来する.カレー粉は,さまざまなハーブ・スパイス類をブレンドして作られる.ハーブ・スパイス類の基本作用は,図1 に示したように,香り付け(賦香作用)や悪臭に対するマスキング(矯臭作用),辛味作用や着色作用などである.カレーに用いられるおもなハーブ・スパイスとしては,カレー特有の黄色い色付けをするターメリック,サフランをはじめ,フマスキング効果が期待されるフェンネルやクミン,ナツメグやシナモン,カルダモンやコリアンダー,クローブやガーリック,ローレルなど多種多様で,ジンジャーやマスタード,ペッパーやトウガラシなどの辛味付けの香辛料なども含まれている.しかしながら,カレー料理に必須で,カレー粉の最大の特徴である黄色は「ターメリック」に由来する.ターメリックは,ウコンの根茎から来ている.その黄色の色素成分がクルクミンである1).Iターメリックの機能性インドでは,ターメリックがほとんど毎日のように料理に用いられ,特に芳香性や辛味効果を期待するために,調理の前にターメリックをはじめ10 数種のスパイスをブレンドしてカレーパウダーを作る,ということはそれぞれの各家庭に伝統的な味が引き継がれている.一方,沖縄では「ウコン茶」や「ウッチン茶」として「ウコン」が嗜好飲料として用いられ,調理素材として伝統的な沖縄料理に用いられているが,世界的には圧倒的に「スパイス」として用いられている.このターメリックは生薬としても伝統的に用いられ,漢方でも止血剤や健胃剤としては用いられ,インドやマレーシア,インドネシアなどで,女性はターメリックを皮膚に塗る習慣がある.「ウコン」には抗菌作用や抗炎症作用があることは,古くから知られており,インドやマレーシア,インドネシアなどでは,単に化粧として塗られるだけでなく,経験的にこのような効能を利用し,紫外線による傷害や皮膚感染などを予防したものであろう.「クルクミン」の機能性として最初に検討されたのが「皮膚癌」の抑制である.皮膚癌に対するクルクミン誘導体の抑制効果は「クルクミン」が最も強力であり,その抑制機構については,筆者らの研究グループにより発癌促進過程で生成されたフリーラジカルの捕捉能との間に大きな相関性があることが報告されている.一方,経口摂取での「癌予防効果」に関しては,ラトガース大学の研究グループが,前胃癌,十二指腸癌,大腸癌に対しての抑制効果を報告し,「クルクミン」は皮膚塗布だけでなく経口投与でも「癌予防効果」を示すことが期待できた.さらに,最近,放射線総合医学研究所の研究グループは,筆者らとの共同研究で,「クルクミン」がg 線照射による乳腺腫瘍の成長を有効に抑制したことを報告している.この研究の過程で筆者らが興味をもったのは,血液中には「クルクミン(U1)」がほとんど存在していないことであった.かわりに,大量に存在していたのは,「テトラヒドロクルクミン(THU1)」であった.この事実は,生体内で重要な役割を果たしているのは,U1 ではなくTHU1 ではないかという吸収・代謝経路の可能性を示すものである2).II「テトラヒドロクルクミン(THU1)」の機能3)U1 は,皮膚に塗る場合と食べる場合とで同じ効能が考えられるのであろうか.ここで登場するのがTHU1である.すなわち,U1 は経口で摂取すると腸管の部分で吸収されるときに上皮細胞中に存在する還元酵素でU1 がTHU1 に変換され,体の中で実際に効果を示すのはこのTHU1 である,というわけである(図2).これらの強力な癌予防効果は,「クルクミノイド類」のもつ強力な解毒酵素誘導作用をもつためではないかと考えられている.すなわち,「発癌物質」や「環境ホルモン」などの「毒性物質」が体内に入ると,肝臓で,まず第一相の薬物代謝系による活性化を受け,続いての第二相で「抱合反応」とよばれる反応の結果,「高水溶性代謝物」に変換され,最終的にはP 糖蛋白質などによる第三相の排出系で体外へ排泄されることが知られている.「抱合反応」には,グルクロン酸抱合体や硫酸抱合体の精製なども重要であるが,筆者らが注目したのは「キノン還元酵素(QR)」や「グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)」などの解毒酵素で,最近,発現のメカニズムの遺伝子レベルからの解明にも成功している.この「グルタチオン-S-トランスフェラーゼ」の誘導については,最近,ブロッコリー中のイソチオシアネートがよく知られているが,筆者らの研究では,ワサビをはじめとするアブラナ科の香辛料やパパイヤなどの果物にも高い解毒酵素誘導効果がみられている.「クルクミノイド」,THU1 はマウスに投与した場合,強力な解毒酵素誘導作用があることが見出されている.もう一つ興味深いのは免疫力をコントロールする働きがあるということである.まず,抗酸化の働きで酸化による免疫細胞のダメージを防いで,免疫力の低下を防ぐという作用をもち,この作用と一見,相反するようであるが,過剰な免疫作用も抑制するという作用も有している.白血球由来の免疫細胞は過剰に働くと正常な細胞も傷つけ,炎症を起こすが,クルクミンはこうした免疫細胞による過剰な炎症反応を抑制することが筆者らの実験で明らかになっている.III糖尿病合併症としての白内障の予防機能4)最近,糖尿病や動脈硬化といった代表的な生活習慣病に対する抑制効果も明らかとなった.糖尿病はわが国でも患者数1,370 万人といわれ,腎障害,神経障害,白内障などの合併症を伴う.その合併症の発症および進展には酸化ストレスが関係するといわれている.糖尿病における酸化ストレスの亢進の原因としては,高血糖状態が続くことにより生体構成蛋白質の糖化反応やポリオール代謝とレドックス,プロスタグランジン代謝などの経路とともに,グルコースの自動酸化などの経路による活性酸素の生成が考えられ,動脈硬化をはじめ,腎障害,糖尿病性白内障などの原因となると考えられる.このような背景から,糖尿病合併症の予防に抗酸化成分が大きな役割を果たしているのではないか,抗酸化成分が「糖尿病合併症の予防食品」となりうるのではないかと期待される.そこで,クルクミノイドの糖尿病合併症,なかでも,白内障に対する予防効果に関しての検討を行ってみた.白内障は水晶体の一部または全体が白色または黄褐色に混濁する疾患である.近年,糖尿病患者の増加に伴い,白内障を合併する患者数も急激に増えてきており,著効を示す薬物療法がないため,手術療法に頼らなければならない状況からも予防に関する研究が期待されている疾患である.白内障の発症要因は,これまでの研究からポリオール代謝の亢進によるレンズ内浸透圧の上昇,および蛋白質の糖化反応の亢進などが明らかにされているが,近年それらに加えて酸化ストレスも白内障の発症原因として重要であることが報告されてきている.そこで,正常ラットからレンズを単離し,キシロース含有培地で培養するという白内障のモデル系を用いて検討した.その結果,クルクミノイド,THU1 によるレンズ混濁抑制効果が見出され,グルタチオン量の回復機構を介したレドックス制御による抗酸化性であることが見出された.抗酸化酵素であるグルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)やスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)活性の回復などの効果も明らかにされ,実際の動物実験でも,ラットへのガラクトース経口投与による白内障発症に対するクルクミノイド,THU1 の予防効果が明らかとなった(図3).IVクルクミノイドと老化コントロールでは,老化制御に関するクルクミノイドの効果はどうであろうか.抗酸化因子による老化予防の試みとして,筆者らは,最近,13 週よりTHU1 を投与したマウスにおいて,最大寿命は延長しなかったが,加齢に従っての生存曲線の低下が緩和されるという興味ある結果を得ることができた(図4).このデータは,カレーを食べた場合,最大寿命を延ばすという寿命延長効果ではなく,健康寿命を延ばすことにより「健康死」に至る可能性を示したものである5).しかしながら,多くの注目を浴びているのは,食の介入による寿命延長への挑戦である.今までに,大きな注目を集めてきたのは,カロリー制限による寿命延長効果であり,その最近の研究の進展に関する内容は,本誌でも紹介されている.歴史的に,不老長寿を目指した挑戦は,ことごとく失敗してきたが,2003 年に発表された赤ワイン中に存在するレスベラトロールによる寿命延長効果は注目されるところである.Horwitz ら6)は,サーテュイン(sartuin)ファミリーの脱アセチル化活性を促進する低分子化合物をスクリーニングし,最も強力な促進活性をもつ化合物としてポリフェノール化合物レスベラトロールを同定された.最近,筆者らの研究グループは,酸化ストレス応答と寿命延長効果を指標にすることにより,ショウジョウバエの寿命延長および抗酸化ストレス応答効果を示す物質としてTHU1 の新しい機能を明らかにできた.筆者らは, ストレス応答性の遺伝子を標的遺伝子とするFOXO 転写因子に着目した.FOXO は細胞質と核を行き来する蛋白質であり,核に局在することで転写活性を示すことが知られている.このFOXO はインスリン/IGF-1(インスリン様成長因子-1)レセプターを介したPI3K(phosphatidylinositol-3 kinase)/Akt(プロテインキナーゼB)シグナル経路によって負に制御されており,血清中のさまざまな成長因子などが細胞に作用している通常状態では細胞質に局在し,不活化状態にある.筆者らは,THU1 がFOXO4 の細胞内局在に与える影響とともに,その作用機構についても検討を行った.その結果,THU1 はFOXO4 の核内局在誘導作用があることが明らかとなった.食品因子のなかでも寿命延長効果が多数報告されているレスベラトロールにおいては,PI3K の活性を阻害することでFOXO の核内移行を促進させると報告されている.筆者らも,レスベラトロール投与によってFOXO4 の核内移行が確認されている.しかし,レスベラトロールとTHU1 の構造にはそれほど相関性はみられないことから,レスベラトロールの作用部位とTHU1 の作用部位が同じではない可能性が考えられたので検討を進めた結果,FOXO4 のリン酸化の抑制と,FOXO4 のすぐ上流に存在するAkt のリン酸化を抑制することが明らかとなった.PI3K/Akt シグナル経路と同様にインスリン/IGF-1 レセプターを介するMAP(mitogen-activated protein)キナーゼシグナル経路に存在するp44/42 MAPK(ERK)のリン酸化状態には影響がみられなかったことから,THU1 はAkt よりも上流の,PI3K/Akt シグナル経路に作用している可能性が示唆された.今回の検討では,テトラヒドロクルクミンの作用部位を特定するには至らなかったが,今後はPI3K のサブユニットであるP110 やP85 のリン酸化状態について検討を行うなど,さらに詳細に検討を行うことでTHU1 の作用部位を特定するとともに,レスベラトロールの作用機序と比較していくことが期待される(図5)7).おわりに「ウコン」は,インドでは,伝統的に「アーユルヴェーダ」の医療に用いられ,利胆薬として肝臓障害や胆道炎,健胃,利尿,虫下し,腫れ物などに対する薬効が知られ,化粧としてヒンドゥー教の結婚式や儀式にも不可欠であった.黄色色素である「クルクミン」,なかでも,強力な抗酸化性をもつ「クルクミン」の代謝物「テトラヒドロクルクミン」に対する期待は大きなものである.実際に,どのくらいのクルクミンを摂取すればよいのか,よく質問されるが,ウコン換算で成人1 日当たり2,3 g で十分であろう.長い歴史のなか,副作用の報告はないが,一般的に摂り過ぎはよくない.体内の酸化,還元作用はバランスが大切で,抗酸化成分はフラボノイド,カテキン,ビタミンC,E など多数あり,それぞれの特徴と作用のメカニズムがあるのでいろいろな機能性成分を食生活のなかで摂っていくのが理想である.クルクミンはアキウコン特有の成分で,他のショウガ科の生薬・香辛料にはほとんど含まれていない.筆者もカレーは大好きであるが,毎日というわけにはいかない.継続的に摂取するためには,サプリメントやドリンクで摂取するのも一つの方法ではないだろうか.文献1) 大澤俊彦,井上宏生:スパイスには病気を防ぐこれだけの効果があった.廣済堂出版, 19992) 大澤俊彦:がん抑制の香辛料,調味料 うこん.がん抑制の食品事典(西野輔翼編著),p200-205,法研, 20023) Osawa T:Nephroprotective and hepatoprotective effectsof curcuminoids, in “MOLECULAR TARGETS ANDTHERAPEUTIC USES OF CURCUMIN IN HEALTHAND DISEASE”(Aggarwal BB, Surh Y-J, Shishodia S,eds), p407-423, Springer, NY, 20074) 上野有紀,木崎美穂,中桐竜介ほか:抗酸化食品因子による糖尿病合併症予防,食と生活習慣病.予防医学に向けた最新の展開(菅原務監修),昭和堂,p157-167, 20025) 大澤俊彦:アンチエイジングと抗酸化食品.臨床栄養110:265-273, 20076) Howitz KT, Bitterman KJ, Cohen HY et al:Small moleculeactivators of sirtuins extend Saccharomyces cerevisiae lifespan. Nature 425:191-196, 20037) 大澤俊彦,丸山和佳子監修:脳内老化制御とバイオマーカー─基盤研究と食品素材─.シーエムシー, 2009