———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.10,200813930910-1810/08/\100/頁/JCLSアントシアニンを含むサプリメントアントシアニンを含むサプリメントとして,おもなものはビルベリー(ブルーベリーの一種)とカシスである.ビルベリーエキスにはシアニジン3-グルコシドなど約15種,カシスにはデルフィニジン3-ルチノシドなど4種のアントシアニンを含む.アントシアニンの構造式おもなアントシアニンの構造式を図1に示す.Glyと記したところに,グルコース,ガラクトースなどの単糖やルチノースなどの2糖が結合した配糖体になっている.アントシアニンの薬理作用,生理作用アントシアニンを経口摂取すると,代謝・抱合化を受けない未変化体で血中へ移行することが知られており,その血中濃度は108109M程度である1).血中へ吸収されたアントシアニンが,網膜,毛様体,房水などで血中濃度より高い濃度で検出されることが報告されている2).アントシアニンのなかでもカシスに含まれるルチノシド配糖体が,血中への滞留時間,眼球への移行性が他のアントシアニンよりも高いことが報告されている3).アントシアニンの生理作用は抗酸化作用が有名であり,眼科領域においても網膜色素上皮細胞での抗酸化作用が確認されている4).また,毛様体平滑筋において,エンドセリン-1による収縮に対する弛緩作用がアントシアニン濃度107108Mで確認されている5).この毛様体筋弛緩効果は他のフラボノイドには認められず,アントシアニン特有の効果と考えられる.アントシアニンのなかでもカシスに含まれるルチノシド配糖体が,毛様体筋弛緩効果が他のアントシアニンと比べて高いことが報告されている3).その作用機序は,エンドセリンBレセプターを刺激してNO(一酸化窒素)産生を介していると考えられている.なお,似たようなNO産生を介するメカニズムで血管平滑筋の拡張作用6),末梢血管抵抗低下作用7)が報告されており,循環系の改善作用が期待される.さらに,アントシアニンの1つであるシアニジン配糖体が,11-cisレチナールとオプシンからロドプシンへの再生を促進することがカエルの網膜桿体を用いた研究で明らかになっている8).なお,アントシアニンの生理作用として,体脂肪蓄積抑制作用9)や,レチノール結合蛋白質4の低下を介した2型糖尿病抑制作用10)が報告されている.1日必要量(最低必要量と,最適量の2つ)アントシアニンとして50mgを1日に摂取することが望ましい.過剰摂取による悪影響は出にくいと考えられる.(65)サプリメントサイエンスセミナー●連載⑤監修=坪田一男5.アントシアニン(Anthocyanin)津田孝範*1大澤俊彦*2*1中部大学応用生物学部*2名古屋大学大学院生命農学研究科アントシアニンの機能は抗酸化作用,毛様体筋の弛緩作用,血流改善作用,ロドプシン再生促進作用などが報告されている.眼科領域の臨床試験としては,健常者の暗所での光覚閾値の改善,正視から中等度近視の若年成人者の屈折調節機能低下の軽減,正常眼圧緑内障者の6カ月間内服による視神経乳頭および乳頭周囲網膜の血流量の有意な増加が報告されている.OHOOHOGlyOHR2R1R1R2デルフィニジンOHOHシアニジンOHHマルビジンOCH3OCH3ラルゴニジンHHオニジンOCH3HチュニジンOHOCH3図1アントシアニンの構造式———————————————————————-Page21394あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008食品に含まれるアントシアニン量日本国内の食品中のデータはないが,米国で流通している食品中に含まれるアントシアニン量の比較を表1に示す9).おもにベリー類の果物に多く含まれ,米国人は1日に12.5mgを食事から摂取していると報告されている11).日本人はおそらく米国人より摂取量は少ないと考えられる.眼科的に必要量と眼科の応用アントシアニンの視覚改善効果は,「第二次大戦中の英軍パイロットがブルーベリージャムを食べると暗所での視力が改善した.」という逸話によって有名である.しかし,最近いくつかの検証実験が試みられている1214)が,いずれも有効性は見出されず,ビルベリーの暗視力改善効果を立証する報告はないと結論づけられている15).一方,カシスのアントシアニンを経口摂取して,暗所での光覚閾値を測定したところ,摂取量に用量依存的に光覚閾値が改善し16),アントシアニン50mg摂取群でプラセボ群との有意差が認められており,摂取量としては50mg/dayが適当と考えられる16).(66)また,正視から中等度近視の若年成人者を対象にして,カシスアントシアニン50mgの単回摂取により,2時間のコンピュータ作業負荷で誘発される屈折調節機能低下が軽減されることが報告されている17,18).さらに,弘前大学の緑内障外来において,正常眼圧緑内障者30名へ50mg/dayのカシスアントシアニンを6カ月間内服してもらった結果,視神経乳頭および乳頭周囲網膜の血流量が有意に増加したと報告されている19).内服期間後に視野障害の悪化した症例は1例もなかった.なお,網膜色素変性ラットへ,カシスアントシアニンを2週間投与したところ,網膜電図波形を若干改善し,補助的な効果が期待されている20).これらのことから,アントシアニンは眼科分野のサプリメントとしての可能性があると考えられ,その摂取量はアントシアニンとして50mg/dayが妥当な量であると考えられる.アントシアニンの体内動態から考えると,単糖の配糖体であるブルーベリー(ビルベリー)よりルチノシド配糖体を含むカシスのアントシアニンの効果が強い可能性がある.エビデンスレベルカシスB:リスクある人は摂取すべき.ブルーベリーC:どちらともいえない.文献1)MatsumotoH,InabaH,KishiMetal:Orallyadminis-tereddelphinidin-3-rutinosideandcyanidin-3-rutinosidearedirectlyabsorbedinratsandhumansandappearinbloodasintactforms.JAgricFoodChem49:1546-1551,20012)MatsumotoH,NakamuraY,IidaHetal:Comparativeassessmentofdistributionofblackcurrantanthocyaninsinrabbitandratoculartissues.ExpEyeRes83:348-356,20063)飯田博之,中村裕子,松本均:カシスおよびビルベリーアントシアニンの吸収性と有効性に関する比較検討.医学と薬学59:381-388,20084)MilburyPE,GrafB,Curran-CelentanoJMetal:Bilberry(Vacciniummyrtillus)anthocyaninsmodulatehemeoxy-genase-1andglutathioneS-transferase-piexpressioninARPE-19cells.InvestOphthalmolVisSci48:2343-2349,20075)MatsumotoH,KammKE,StullJTetal:Delphinidin-3-rutinosiderelaxesthebovineciliarysmoothmuscletroughactivationofETbreceptorandNO/cGMPpath-way.ExpEyeRes80:313-322,2005表1米国で流通している果物・野菜中のアントシアニン含量食品名品種アントシアニン総量(mg/100g新鮮重)リンゴフジ1.3レッドデリシャス17.0ブラックベリー245.0ブルーベリー栽培種386.6野生種486.5チェリー122.0チョークベリー1,480.0クランベリー140.0カシス476.0レッドカラント12.8エルダーベリー1,375.0ブドウレッドグレープ26.7コンコード120.1モモ4.8プラム19.0ブラックラズベリー687.0イチゴ21.2黒豆44.5茄子85.7赤キャベツ322.0赤レタス2.2赤タマネギ48.5赤ラディッシュ100.1———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081395(67)6)NakamuraY,MatsumotoH,TodokiK:Endothelium-dependentvasorelaxationinducedbyblackcurrantcon-centrateinratthoracicaorta.JpnJPharmacol89:29-35,20027)Iwasaki-KurashigeK,Loyaga-RendonRY,MatsumotoHetal:Possiblemediatorsinvolvedindecreasingperipher-alvascularresistancewithblackcurrantconcentrate(BC)inhind-limbperfusionmodeloftherat.VasculPharmacol44:215-223,20068)MatsumotoH,NakamuraY,HirayamaMetal:Thestim-ulatoryeectofcyanidinglycosidesontheregenerationofrhodopsin.JAgricFoodChem51:3560-3563,20039)TsudaT,HorioF,UchidaKetal:Dietarycyanidin3-O-b-D-glucoside-richpurplecorncolorpreventsobesi-tyandameliorateshyperglycemiainmice.JNutr133:2125-2130,200310)SasakiR,NishimuraN,HoshinoHetal:Cyanidin3-glu-cosideameliorateshyperglycemiaandinsulinsensitivityduetodownregulationofretinolbindingprotein4expres-sionindiabeticmice.BiochemPharmacol74:1619-1627,200711)WuX,BeecherGR,HoldenJM:Concentrationofantho-cyaninsincommonfoodintheUnitedStatesandEstima-tionofnormalconsumption.JAgricFoodChem54:4069-4075,200612)ZadokD,LevyY,GlovinskyY:Theeectofanthocyano-sidesinamultipleoraldoseonnightvision.Eye13:734-736,199913)LevyY,GlovinskyY:Theeectofanthocyanosidesonnightvision.Eye12:967-969,199814)MuthER,LaurentJM,JasperP:Theeectofbilberrynutritionalsupplementationonnightvisualacuityandcontrastsensitivity.AlternMedRev5:164-173,200015)CanterPH,ErnstE:AnthocyanosidesofVacciniummyr-tillus(bilberry)fornightvision─asystematicreviewofplacebo-controlledtrials.SurvOphthalmol49:38-50,200416)NakaishiH,MatsumotoH,TominagaSetal:EectsofblackcurrantanthocyanosidesintakeondarkadaptationandVDTwork-inducedtransientrefractivealternationinhealthyhumans.AlternMedRev5:553-562,200017)松本均,中村裕子,徳永隆久ほか:VDT作業時の調節機能低下へのカシスアントシアニン摂取の影響.あたらしい眼科23:129-133,200618)飯田博之,松本均,森藤雅史ほか:全身疲労負荷(24時間の覚醒)時の調節機能低下へのカシス摂取の影響.あたらしい眼科25:114-118,200819)大黒幾代,大黒浩,中沢満:正常眼圧緑内障患者におけるカシスアントシアニンの網膜血流に対する作用.弘前医学59:23-32,200720)大黒浩:網膜色素変性に対するあたらしい薬物治療の可能性.日眼会誌112:7-21,2007☆☆☆