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眼感染アレルギー:コンタクトレンズ装用に伴う無菌性角膜浸潤

2008年9月30日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.9,200812550910-1810/08/\100/頁/JCLS病巣は境界明瞭な灰白色の円形を示すものが多い.浸潤が上皮内に留まれば直径も0.5mm程度と小さく(図1),上皮下や実質表層に及べば直径も1.0mm程度と大きくなる1,2)(図2).病巣部角膜上皮の異常はないか,軽度である.眼脂や自覚症状,前房の炎症所見も軽度である.好発部位は角膜周辺部中間周辺部で,比較的上方に多い3).角膜輪部近くに帯状のびまん性浸潤を生じるケースもある.無菌性角膜浸潤に対し,感染性のものは一般に直径が1mm以上と大きく,境界が無菌性角膜浸潤ほど明瞭でなく,細菌感染であれば病巣部の角膜上皮欠損も大きい.角膜中央部に発生しやすく,眼痛,羞明などの自覚症状や,眼脂,前房の炎症所見などが顕著である1,4).コンタクトレンズ(CL)装用に伴う角膜浸潤を細菌性角膜炎,CL起因周辺部潰瘍(CLPU),CL起因急性充血(CLARE),浸潤性角膜炎の4つに分類する考え方もある.実際には病変部に病原菌が存在していても病巣が小さい,擦過が不十分,培養が不適切などの技術的な問題や,試料採取前の点眼治療のために検出されない場合もあれば(図3のB群),病変部は無菌だがCLケースなどに病原菌が存在し,その菌体成分や毒素が原因となって角膜浸潤を起こす場合(図3のC,D群)もある.本稿では図3のC,D,E,F群を「無菌性角膜浸潤」と定義し,臨床的に問題となるソフトCL(SCL)装用時の角膜浸潤を対象とする.生機ストレスが加わった角膜上皮が起炎性のサイトカインを放出し,これが引き金となって実質内のケラトサイトがケモカインを産生し,好中球などの炎症細胞の浸潤が生ずると考えられている2).起因物質が直接角膜実質に侵入して炎症をひき起こすことも考えられる.したがって角膜上皮に病変が生じた場合はもちろん,上皮が形態的に正常であっても角膜浸潤は発生しうる.角膜周辺部近くに発症しやすいことも,免疫反応が主体という考えを裏づけている.具体的には以下のような要素が炎症反(67)眼感染アレルギーセミナー─感染症と生体防御─●連載⑨監修=木下茂大橋裕一9.コンタクトレンズ装用に伴う無菌性角膜浸潤稲葉昌丸稲葉眼科コンタクトレンズ(CL)装用に伴う無菌性角膜浸潤は,角膜上皮のダメージや角膜実質への起炎物質侵入によって起きる.感染性の浸潤より自覚症状や角膜上皮欠損,前房の炎症所見が少ない.病巣が無菌でも,CLケースやケース内液の病原菌汚染が角膜浸潤を起こすこともある.CLのフィッティング不良や連続装用も無菌性角膜浸潤の原因になる.図1ほとんど上皮内に留まっているびまん性の無菌性角膜浸潤多数の小病巣が角膜中央部にも及んでいる(矢印).表面は滑らかでフルオレセインで染色されない.高倍率で注意して観察しないと見落とすこともある.図2CL装用に伴う顕著な無菌性角膜浸潤の1例角膜周辺部に灰白色の明確な円形浸潤を認める(矢印).上皮の表面はフルオレセインで染色される.———————————————————————-Page21256あたらしい眼科Vol.25,No.9,2008応をひき起こすと考えられる.1.病原菌の存在(図3のC,D)病変部に菌が検出されなくとも,CL,レンズケース,ケース内用剤などから細菌が検出されることがあり,レンズケース内の細菌が分泌する毒素や菌体成分などが原因となって免疫反応や角膜浸潤が発生すると考えられる.CL装用に伴う角膜上皮のバリアー機能低下も一因となるだろう.2.CL装用(図3のE,F)CL装用による角膜上皮への機械的障害や低酸素負荷は起炎性サイトカインの放出を招き,角膜浸潤の原因となる.同時に,CL下への分泌物や異物の侵入も角膜上皮に対する機械的障害につながる.CL内に浸透した蛋白質や表面に付着した汚れも同様に生化学的,機械的刺激として角膜浸潤の原因になる.連続装用は無菌性角膜浸潤の危険因子であるが,涙液交換途絶によるCL下への異物や分泌物の貯留とともに,就寝時閉瞼下の免疫反応が角膜浸潤の素因となる可能性もある2).タイトなCLフィッティングもCL下の涙液交換の不足や機械的障害を介して,無菌性角膜浸潤の原因となる.3.CLケア用品(図3のC,D,E,F)PolyquadやPHMB(ポリヘキサメチレンビグアニド)などを含む多目的用剤と角膜浸潤の関連を取り上げる説がある5).多目的用剤に緩衝剤,防腐剤として含まれる硼酸なども濃度によっては角膜上皮のバリアー機能を障(68)害することが報告されており6),炎症起因物質の通過を助けることによって角膜浸潤の素因となる可能性がある.コンプライアンス不良や多目的用剤の消毒力不足によるケース内液の病原菌汚染も無菌性角膜浸潤の原因となる.療CL装用を12週間中止して角膜浸潤が消失することを確認した後,1日使い捨てCLから再開し,それまで使用していたCL,ケア用品を順次再開する.従来の消毒剤を再開する前に,過酸化水素で消毒を行う期間をおくと,消毒剤が原因か否かを明らかにしやすい.CLケースやケース内液の細菌汚染が観察され,あるいは疑われた場合には,ケア方法の変更や指導が必要になる.再開時にはCL,CLケース,ケア用品を新品に替えて装用を開始すべきである.フィッティングの良否や装用時間,コンプライアンスの確認も行う必要がある.再発するようであれば,1日使い捨てSCLやハードCLへの転向を考える.真に「無菌性」の角膜浸潤であれば治療は不要なはずだが,実際には完全な診断は困難である.したがって,病巣が大きい,中心部に近い,上皮欠損が大きい,自覚症状や眼脂,前房の炎症所見が強いなどの感染性角膜浸潤を疑わせる所見があれば,病巣擦過と鏡検,培養を行うとともに,積極的な治療を開始すべきであろう.文献1)SteinRM,ClinchTE,CohenEJetal:Infectedvssterilecornealinltratesincontactlenswearers.AmJOphthal-mol105:632-636,19882)RobboyMW,ComstockTL,KalsowCM:Contactlens-associatedcornealinltrates.Eye&ContactLens29:146-154,20033)SucheckiJK,EhlersWH,DonchikPC:Peripheralcorneainlteratesassociatedwithcontactlenswear.CLAOJ22:41-46,19964)MertzPHV,BouchardCS,MathersWDetal:Cornealinlteratesassociatedwithdisposableextendedwearsoftcontactlenses:Areportofninecases.CLAOJ16:269-272,19905)CarntN,JalbertI,StrettonSetal:Solutiontoxicityinsoftcontactlensdailywearisassociatedwithcornealinammation.OptomVisSci84:309-315,20076)ImayasuM,ShiraishiA,OhashiYetal:Eectsofmulti-purposesolutionsoncornealepithelialtightjunctions.EyeContactLens34:50-55,2008病原菌が関しない上皮に病変を認める非感染性角膜浸潤:(病原菌が関与しない)上皮に病変を認めない非感染性角膜浸潤:(病原菌が関与する)上皮に病変を認めない非感染性角膜浸潤:(病原菌が関与しない)病原菌が関与する上皮に病変を認める非感染性角膜浸潤:(病原菌が関与する)感染性角膜浸潤:(上皮病変部から病原菌が検出される)感染性角膜浸潤:(上皮病変部から病原菌が検出されない)C.E.A.B.D.F.上皮に病変を認める上皮に病変を認めない図3病原菌関与と上皮病変の有無による角膜浸潤の分類本稿ではC,D,E,F群を「無菌性角膜浸潤」とする.

緑内障:緑内障における軸索変性

2008年9月30日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.9,200812530910-1810/08/\100/頁/JCLSはじめに網膜神経節細胞は長い軸索を有することを特徴とし,その上位中枢である外側膝状体に投射している.緑内障は特徴的な視神経乳頭陥凹で定義される疾患であり,視神経乳頭篩状板における網膜神経節細胞の軸索障害が最も重要な原因である.軸索障害には軸索が形態的に崩壊している場合と,軸索の形態は保たれているものの軸索流が低下している場合があると考えられる.軸索障害は網膜神経節細胞のアポトーシスを誘導するため,緑内障において軸索崩壊と軸索流障害の2つの軸索障害を理解することは大切である.軸索の形態維持に重要な微小管とニューロフィラメント微小管とニューロフィラメントは主要な軸索構造蛋白である.微小管はチューブリンという蛋白質が重合してできる直径25nmの中空の管で,軸索流のレールの役割も果たしている(図1).その構造維持にはチューブリン安定化分子(Tau,doublecortine,MAP2)と崩壊分子(SCG10関連遺伝子)がかかわり,リン酸化により活性が制御されている.チューブリンにかかわる蛋白質のリン酸化は病的状態でも重要であり,Tauの異常リン酸化がAlzheimer病の原因の一つであることも有名な事実である.一方,ニューロフィラメントは,サルの慢性緑内障モデルにおいて高眼圧障害の早期に脱リン酸化が起こると報告され1),眼圧と軸索内ニューロフィラメントの恒常性には大いに関連性があると予測される.しかしこの分野にはいまだ未知な部分が多く,薬剤の開発に向かうような動きがないのは残念である.索輸送とは神経細胞のなかには数十センチ以上の長い軸索を伸ばしているものもあり,細胞体でつくられた蛋白質などを遠く離れた神経末端へ(順行性),逆に末端から細胞体へ運ぶ(逆行性)必要がある(図1).その物質の輸送機構を軸索流とよぶ2).軸索流は神経細胞の形態形成,機能発現の際に大変重要な機構である.軸索流はその速度によって表1のように分類される.(1)速い順行性輸送:キネシン(kinesin)が関与.(2)速い逆行性輸送:ダイニン(dynein)が関与.(65)●連載緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄99.緑内障における軸索変性中澤徹東北大学大学院医学系研究科神経感覚器病態学講座・眼科視覚学分野サル慢性緑内障モデルで篩状板部位での軸索流障害が報告されている.軸索流には順行性に眼球から脳に向かう経路と逆行性に脳から眼球に向かう経路があり,網膜神経節細胞の恒常性維持に不可欠となっている.軸索流障害はおもに物理的な絞扼障害と虚血によるATP(アデノシン三リン酸)欠如が原因となる.軸索流障害は細胞体がアポトーシスを起こすため,緑内障の基本病態を理解する際に重要である.視神経眼球脳順行性逆行性:チューブリン:キネシン:ダイニン視神経大図1軸索流の模式図網膜神経節細胞は細胞体が眼球内にあり,長い軸索を頭蓋内上位中枢に投射している.軸索流は神経細胞の形態形成,機能発現にとって大変重要な機構であり,生理的に細胞体で合成した蛋白質や細胞内小器官を軸索先端まで(順行性)輸送し,逆に末端から細胞体へ(逆行性)輸送も行われている.軸索流はその速度によって分類される(表1).速い順行性輸送にはキネシンという蛋白質が,速い逆行性輸送にはダイニンという蛋白質が輸送物と結合し,レールの役目をしているチューブリンの上を滑るようにATP(アデノシン三リン酸)依存性に移動している.———————————————————————-Page21254あたらしい眼科Vol.25,No.9,2008(3)遅い順逆行性輸送:ニューロフィラメントなどを運ぶ遅いもの(0.12.5mm/日)とアクチンやカルモジュリンなどを運ぶ速いもの(26mm/日)の2通りがある.内障と軸索流これまでにわが国で眼圧上昇と軸索流の関係を明らかにする研究がなされ3,4),篩状板部の前後と強膜に近い神経線維の再周辺部で停滞することが明らかになった(図2).輸送される細胞内小器官のなかでミトコンドリアは重要なものであり6),眼圧障害による軸索流停滞のなかに浮腫を起こしたミトコンドリアが散見される6).さらに最近では,軸索流で運ばれる生存維持に重要な脳由来神経栄養因子(BDNF)が,眼圧の上昇により篩状板部位に停滞し蓄積することが明らかになっている7).筆者らも緑内障の軸索障害を模倣した動物モデルとして視神経切断モデルで研究を行った.その際,眼内にBDNFを投与すると切断後10日目ではほとんど網膜神経節細胞死が起こらないことを確認している8).こうして軸索流が篩状板部位で停滞することは,網膜神経節細胞死といった緑内障基本病態に重要と考えられる.近年緑内障の患者にOPA1という遺伝子一塩基多形が多いと証明された9).この蛋白質は視神経の軸索流に重要な分子であり,軸索流の異常が緑内障の危険因子となりうることを示唆する重要な発見である.まとめこうして,改めて緑内障の軸索障害の基本を考えてみると,眼圧により軸索障害が起こることは疑いようもなく,正常眼圧でも大きな視神経乳頭陥凹や視神経乳頭部の慢性虚血などにより軸索流が影響をうけていることが想像できる.軸索障害による網膜神経節細胞死はミトコ(66)ンドリアによる細胞死によると考えられており10),ミトコンドリアが軸索流輸送される主要なものであることを考え合わせると大変興味深い.今後軸索流障害や軸索崩壊についてより詳細な機序が解明されると新たな視神経保護薬の登場は決して夢ではないと考えられる.文献1)KashiwagiK,OuB,NakamuraSetal:Increaseindephosphorylationoftheheavyneurolamentsubunitinthemonkeychronicglaucomamodel.InvestOphthalmolVisSci44:154-159,20032)HirokawaN:Axonaltransportandthecytoskeleton.CurrOpinNeurobiol3:724-731,19933)SakugawaM,ChiharaE:Blockageattwopointsofaxonaltransportinglaucomatouseyes.GraefesArchClinExpOphthalmol223:214-218,19854)沢口昭一,阿部春樹,福地健郎ほか:実験サル緑内障眼における遅い軸索輸送の検討.日眼会誌100:132-138,19965)RadiusRL,AndersonDR:Morphologyofaxonaltrans-portabnormalitiesinprimateeyes.BrJOphthalmol65:767-777,19816)GaasterlandD,TanishimaT,KuwabaraT:Axoplasmicowduringchronicexperimentalglaucoma.1.Lightandelectronmicroscopicstudiesofthemonkeyopticnerve-headduringdevelopmentofglaucomatouscupping.InvestOphthalmolVisSci17:838-846,19787)QuigleyHA,McKinnonSJ,ZackDJetal:RetrogradeaxonaltransportofBDNFinretinalganglioncellsisblockedbyacuteIOPelevationinrats.InvestOphthalmolVisSci41:3460-3466,20008)NakazawaT,TamaiM,MoriN:Brain-derivedneu-rotrophicfactorpreventsaxotomizedretinalganglioncelldeaththroughMAPKandPI3Ksignalingpathways.InvestOphthalmolVisSci43:3319-3326,20029)MabuchiF,TangS,KashiwagiKetal:TheOPA1genepolymorphismisassociatedwithnormaltensionandhightensionglaucoma.AmJOphthalmol143:125-130,200710)LibbyRT,LiY,SavinovaOVetal:Susceptibilitytoneu-rodegenerationinaglaucomaismodiedbyBaxgenedosage.PLoSGenet1:17-26,2005表1軸索流の分類種類速い順行性速い逆行性遅い順逆行性輸送速度200400mm/日50100mm/日0.16mm/日輸送物質ミトコンドリアシナプス小胞神経伝達物質酵素など再利用する蛋白質シナプス小胞成長因子毒素などニューロフィラメントアクチンカルモジュリンなど視神経乳頭篩状板視神経神経線維層網膜強膜123→図2眼圧上昇による軸索流停滞部位眼圧が上昇することにより,軸索流は(1)視神経乳頭に入る神経線維層のエッジ,(2)篩状板部,(3)篩状板後方部で軸索流が遅くなっている.(文献3,5,8より改変)

屈折矯正手術:角膜移植術後のトポガイド・カスタム照射

2008年9月30日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.9,200812510910-1810/08/\100/頁/JCLS角膜移植術後の角膜屈折異常の特徴として,近視,遠視に加え,高度の正乱視,不正乱視があげられる.エキシマレーザーを用いた屈折矯正手術の適応としては,これらの屈折異常によって,眼鏡やコンタクトレンズ装用での視力矯正が困難な場合だけでなく,不同視,コンタクトレンズ(CL)のフィッティング不良,そして高齢者においてはCLの取り扱い管理が困難な場合なども含まれる.角膜移植眼における屈折矯正手術の報告は主にlaserinsitukeratomileusis(LASIK)によるものが多い1,2).しかし,transepithelialphotorefractivekeratectomy(t-PRK)は,1)フラップ作製に伴うトラブルがない,2)上皮下混濁のある症例ではレーザー切除できる可能性がある,3)移植眼では正常眼に比べて術後の痛みが少ない,といった利点があげられる.角膜移植術後の症例には角膜曲率が極端にスティープまたはフラットな症例がみられ,LASIKでのフラップ作製が困難な症例があると考えられる.よって,フラップ作製の必要がないt-PRKはより安全性が高い術式である可能性がある.また,術前の角膜厚に余裕がなく,LASIKでは術後の残存ベッド厚の確保が困難な症例においても,t-PRKは有効な手段と考えられる.角膜移植術後の不正乱視の矯正に対しては,角膜形状に基づいたtopography-guidedcustom照射(トポガイド・カスタム照射)が有効と考えられる3).以下に当院でのトポガイド照射によるt-PRKを行った2症例を紹介する.エキシマレーザーはNIDEKEC-5000(ニデック社)を使用した.球面および円柱成分に加えて,不正乱視矯正を目的にマルチポイントによるトポガイド・カスタム照射を用いてt-PRKを行い,術後管理は抗菌点眼およびステロイド点眼(フルオロメトロン0.1%,1日4回を3カ月間,以降は漸減),および上皮化を認めるまでの期間において治療用CLの装用を行った4).〔症例1〕79歳,女性.両)狭隅角眼に伴う水疱性角膜症により,左眼全層角膜移植術を受け,術後4年を経過していた.術前角膜厚(63)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載監修=木下茂大橋裕一坪田一男100.角膜移植術後のトポガイド・カスタム照射岩波将輝大野建治国立病院機構東京医療センター眼科感覚器センター角膜移植術後の角膜乱視は術後の視機能に大きく影響する.角膜乱視を矯正する手段として,topography-guidedcustom照射(トポガイド・カスタム照射)によるエキシマレーザーを用いた屈折矯正手術は有用と考えられる.本稿では,角膜移植術後にトポガイド・カスタム照射によるtransepithelialphotorefractivekeratecto-my(t-PRK)を行った症例について報告する.1症例1:角膜移植術後の不正乱視に対するトポガイド照射上段左より術前の角膜形状,naltプログラムによる照射後のシミュレーション像,術後3カ月経過の角膜形状.下段はnaltプログラムによる照射パターンを示している.左より全体の照射パターン,続いて,球面成分,正乱視成分,マルチポイント(トポガイド照射)の各照射成分を示している.上段,右の術後3カ月経過の角膜形状において不正乱視の改善を認めた.———————————————————————-Page21252あたらしい眼科Vol.25,No.9,2008は481μm,術前視力はVD=(0.8×sph+7.00D(cyl7.50DAx135°),術前K値は40.25Dであった.ハードCL(HCL)装用時のセンタリング不良に伴う装用困難を認め,t-PRKによる屈折矯正手術を行った.残存角膜厚に留意し,可能な範囲での乱視矯正について,naltソフトウェアを用いて作製した(図1).術後3カ月経過における角膜形状解析において,良好な結果を認めた.術後視力はVD=(0.8×sph+8.00D(cyl5.00DAx30°)と,矯正視力は不変であるものの,自覚症状の改善とともに,CLの装用なしに眼鏡装用での矯正が可能になったことで,満足度の高い結果を得た.〔症例2〕56歳,男性.右)円錐角膜により,全層角膜移植術を受けて,術後4年を経過していた.2年前に当院で初回t-PRK術を行い,術後の視力改善と軽度のヘイズ(Fantes分類,スコア1)を認めたものの経過は良好であった.術後2年経過後にヘイズの悪化(スコア3)と再近視化を認めた.術前角膜厚は473μm,術前視力はVD=0.04(0.5×sph5.00D(cyl4.00DAx85°),術前K値は49.87Dであった.上皮下混濁を認めたため,今回はマイトマイシンC(MMC)併用でのt-PRKを行った(図2).術後3カ月経過における術後視力はVD=0.9(1.2×sph+1.00D(cyl2.25DAx105°)と,裸眼,矯正視力ともに改善を認め,角膜形状解析においても良好な改善を得た.症例1は,高度な遠視であったため,可能であれば遠視矯正も行いたかった.しかし,術前の角膜厚が薄いため,不正乱視と正乱視成分をなるべく最少にすることのみを目的として照射パターンを作製した.そのため,球面成分として遠視矯正は行われていないが,眼鏡装用が可能となったことで満足度は良好であった.症例2は,術後2年たってから急激にヘイズの悪化が生じたが原因は不明であった.ヘイズは角膜移植後のPRKの合併症として危惧されているが,当院施行症例8例9眼において2眼にスコア1のヘイズを認め,悪化した症例はこの1眼のみであった.今後,さらなる検討が必要ではあるが,大部分の症例が術後のステロイド点眼で安定した結果を得られることから,初回のMMC塗布は行っていない.今回,角膜移植後のトポガイド・カスタム照射が有用であった症例を提示した.しかし実際に,角膜移植後のt-PRKでは術後に角膜形状が長期にわたって変動することがあり,視力安定までに時間を要することも多い.また,エキシマレーザー術前に予測される術後のシミュレーション角膜形状と実際の術後の角膜形状がかけ離れていることも少なくない.まだまだ,発展途上の術式であるが,症例数を増やして検討することで,より精度を上げていく努力をする必要がある.文献1)島﨑潤:角膜移植と乱視.あたらしい眼科17:1051-1056,20002)DonnenfeldED,KornsteinHS,AminAetal:Laserinsitukeratomileusisforcorrectionofmyopiaandastigma-tismafterpenetratingkeratoplasty.Ophthalmology106:1966-1974,19993)PedrottiE,SbaboA,MarchiniG:Customizedtransepithe-lialphotorefractivekeratectomyforiatrogenicametropiaafterpenetratingordeeplamellarkeratoplasty.JCataractRefractSurg32:1288-1291,20064)大野建治:全層角膜移植術後のPhotorefractiveKeratecto-myによる乱視矯正.IOL&RS22:31-34,2008(64)図2症例2:角膜移植術後の上皮下混濁を認めた症例に対するトポガイド照射図1と同様の配置で角膜形状を示す.上段,右の術後3カ月の角膜形状において改善を認めた.

眼内レンズ:後房型有水晶体眼内レンズ

2008年9月30日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.9,200812490910-1810/08/\100/頁/JCLS有水晶体眼内レンズは,文字通り水晶体がある状態でレンズを眼内に挿入し屈折矯正を目的とする眼内レンズである.おもにLASIK(laserinsituker-atomileusis)が適応とならない高度近視の屈折矯正目的で用いられる.有水晶体眼内レンズには挿入する場所によって,前房型,虹彩支持型,後房型と3種類に分けられる.前房型は術後の内皮細胞数減少のため,現在では虹彩支持型と後房型がおもに用いられている.本稿では後房型のICLTM(implantablecontactlens,StaarSurgical社)に関して説明する.ICLTMは虹彩毛様体に接する場所に位置する(図1b)ので,コラーゲンとHEMA(hydroxyethylmethacry-late)の共重合体であるコラマーという素材を用いて生体適合性を高めている.レンズ形状はプレート型の眼内レンズに似ているが,図1aに示したように横から見ると弧状を形成して,水晶体に接触しないようなデザインとなっている.レンズの度数は±20Dまで,トーリッ(61)クタイプもあり乱視は+6Dまで,レンズ径は1113mmまでのレンズが存在する.レンズが後房に入るので,術後の瞳孔ブロック予防のために術前にレーザーイリドトミーが必要である(もしくは術中にイリデクトミーを追加).手術は耳側角膜切開で,専用のインジェクターを使用して挿入する.レンズはいったん虹彩上に展開しその後,専用のスパチュラを使ってレンズ4隅のハプティクスを虹彩下に挿入していく.有水晶体眼に行う手術のため,水晶体に触らないように繊細な手技が要求される.この後房型有水晶体眼内レンズの利点は,角膜から離れているために内皮細胞数減少がほとんどないことである.また虹彩支持型に比べて虹彩を継続的に刺激しないので,炎症が手術後一過性ですぐに収まることである.欠点としては,水晶体に近いために水晶体混濁を起こす可能性がある.水晶体混濁は手術に起因する機械的な水晶体損傷とレンズ下房水の循環障害によるものがあると小島隆司*1,2中村友昭*2*1社会保険中京病院眼科*2名古屋アイクリニック眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎265.後房型有水晶体眼内レンズ後房型有水晶体眼内レンズのICLTM(StaarSurgical社)はおもにLASIK(laserinsitukeratomileusis)が適応とならない高度近視に対して用いられる.有効性,安全性ともに高く光学的にもすぐれている.虹彩支持型に比べると継続的な内皮細胞の減少がない点がメリットとしてあげられるが,水晶体混濁などの合併症を起こす場合があり注意が必要である.図1ICLTMの外観(a)および挿入時の解剖学的位置関係(b)(StaarSurgical社より提供)ab———————————————————————-Page2考えられている.アメリカの治験結果による最近の解析では7年で67%水晶体混濁が発症し,そのうち12%が臨床的に影響のある(視力低下,グレアなど)ものとされている1).表1に名古屋アイクリニックで行ったICLTM手術201眼の術後半年のデータを示す.屈折の安定性に大変すぐれており乱視矯正効果も高いことがわかる.現在のICLTMの一つの問題点は,サイズの決定がむずかしいことである.通常角膜径(whitetowhite)より0.5mm大きいレンズを選択するが,実際の固定位置の距離を測定しているわけではないので,レンズが小さすぎると,水晶体に接触してしまいそうになったり,逆にレンズサイズが大きすぎると,前房が浅くなってしまうことがある.レンズそのものは毛様体毛様溝あたりで固定されるデザインであるために,将来,超音波生体顕微鏡(UBM)などで直接その距離を測って適切なサイズを挿入するのが理想である.ICLTMはLASIKと比較すると,光学的には高次収差の低減がほとんどないこと,可逆性,術後のドライアイがないことが利点で,患者に話を聞いても,術後すぐからコンタクトレンズに近い見え方といわれ,満足度も非常に高いという印象である.またエキシマレーザーなどの高額な医療器械を使用する必要がないため,ICLTMの適応は今後拡大していくように思われるが,手術そのものは眼内手術であるために眼科専門医で眼内手術に熟練した医師によって慎重に行われていくべきであると思われる.文献1)SandersDR:Anteriorsubcapsularopacitiesandcataracts5yearsaftersurgeryinthevisianimplantablecollamerlensFDAtrial.JRefractSurg24:566-570,2008表1名古屋アイクリニックにおける術後6カ月の成績ICLTMトーリックICLTM眼数77124年齢34.8±7.733.5±7.7術前球面度数(D)9.7±2.699.4±3.17術前乱視度数(D)0.19±0.291.58±0.76術後裸眼視力LogMAR少数視力0.19±0.081.560.22±0.081.68術後矯正視力LogMAR少数視力0.26±0.061.830.26±0.061.81術後等価球面度数(D)+0.03±7.7+0.15±0.34有効係数1.071.02安全係数0.920.95

コンタクトレンズ:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(1)

2008年9月30日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.9,200812470910-1810/08/\100/頁/JCLSシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズを端的に表現すると“非常に酸素透過性の高いソフトコンタクトレンズ”である.ガス透過性ハードコンタクトレンズは酸素透過係数(Dk値)が100を超える素材は珍しくないが,従来のソフトコンタクトレンズの素材であるハイドロゲルは,素材の酸素透過性は素材に含まれる水の成分に依存していたため,水の酸素透過性Dk80を超える素材は,理論的にも開発不可能であった.つまり従来素材のソフトコンタクトレンズであるハイドロゲルコンタクトレンズは酸素透過性の面でガス透過性ハードコンタクトレンズに大きく遅れをとっていた.そこで注目されたのがシリコーンであった.シリコーンは非常に酸素透過性が高く,シリコーンラバーのコンタクトレンズでは酸素透過係数(Dk値)400600が得られた.しかし,シリコーンラバーは水を透過しないために,角膜への吸着が問題となり,ソフトコンタクトレンズ素材としては普及しなかった.つぎに注目されたのが,シリコーンを含む含水性の素材,つまりシリコーンハイドロゲルである.しかし,シリコーンは疎水性であり,シリコーンを含む含水性の素材を作ることは,水と油を混ぜるようなものであり,透明な素材を作製することはなかなかできなかった.その後,各社,さまざまな方法で素材の透明化に成功し,1990年代の後半に実用(59)可能なシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズが誕生した.世界で最初に発売されたCIBAVision社のNIGHT&DAYR(日本で発売されているO2オプティクスと同一製品)はシロキサンをポリマー化せずにマクロモノマーの状態で含水性モノマーと二層性構造を形成させることにより透明化に成功した.ハイドロゲル相とフルオロシロキサン相の二層性構造を有し,フルオロシロキサン相はハイドロゲル相に比べて非常に多くの酸素を透過する(図1).このようにシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズは,従来のハイドロゲルコンタクトレンズとは異なり,低含水性でありながら非常に高い酸素透過を実現することができるようになった(表1).糸井素純道玄坂糸井眼科医院コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純図1シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(NIGHT&DAYR)の二相性構造TRISフルオロシロキサン相ハイドロゲル相表1海外で発売されているシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズレンズ名NIGHT&DAYR(日本ではO2オプティクス)PureVisionRACUVUERADVANCETMO2OPTIXTMACUVUEROASYSTMbioinityTM販売会社CIBAVisionBausch&LombVistakonCIBAVisionVistakonCooperVisionDk値*14010160110103128含水率(%)243647333848装用方法1カ月間連続装用1カ月間連続装用2週間終日装用2週間終日装用2週間終日装用10日間終日装用1カ月間終日装用1カ月間終日装用1週間連続装用*Dk:酸素透過係数〔Dk値単位=×1011(cm2/sec)・(mlO2/ml×mmHg)〕.———————————————————————-Page21248あたらしい眼科Vol.25,No.9,2008(00)シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズが開発された経緯1990年代,すでに欧米ではRK(radialkeratotomy,放射状角膜切開術),PRK(photorefractivekeratec-tomy,レーザー屈折矯正角膜切除術)などの屈折矯正手術が普及していた.しかし屈折矯正手術にはさまざまな弱点がある.最大の弱点は“不可逆性”なことであり,その弱点は現在も変わりはない.屈折矯正手術の最大の弱点に対抗して開発されたのがシリコーンハイドロゲル素材の1カ月連続装用使い捨てソフトコンタクトレンズである.コンタクトレンズであるので,度数の変更が可能である.1カ月連続装用使い捨てソフトコンタクトレンズであれば,装用感も良く,レンズケアが必要なく,レンズの着脱も1カ月に一度のみで済む.屈折矯正手術を受ける必要がない“夢のソフトコンタクトレンズ”として注目された.1カ月連続装用使い捨てのシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズとして,1998年にNIGHT&DAYRがメキシコで発売開始された.その後,1999年にBausch&Lomb社のPureVisionRの発売が欧米で開始された.しかし,すべてのシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ装用者が1カ月間の連続装用を継続することは困難であり,徐々に,連続装用の期間が短縮され,終日装用して使用される割合も高くなっていった.現在,日本だけではなく欧米でもシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズは連続装用ではなく終日装用として使用している人の割合のほうが多い(表1).

写真:伝染性軟属腫

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———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.9,200812450910-1810/08/\100/頁/JCLS(57)篠崎和美*1林伸和*2*1東京女子医科大学眼科*2同皮膚科写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦292.伝染性軟属腫図2図1のシェーマ皮疹臍窩図1眼瞼の伝染性軟属腫下眼瞼に表面が平滑でやや光沢のある中央に臍窩を伴う皮疹を認める.図4病理組織像(拡大)矢印の部位に感染した有棘細胞の細胞質に好酸性の軟属腫小体(封入体)を認める.図3病理組織像有棘細胞が房状に増殖し,臍窩を認める.———————————————————————-Page21246あたらしい眼科Vol.25,No.9,2008(00)伝染性軟属腫(molluscumcontagiosum)は,『みずいぼ』ともいわれる.ポックスウイルス科の伝染性軟属腫ウイルス(molluscumcontagiosumvirus:MCV)が表皮の角化細胞へ感染し生じる良性腫瘍である1,2).MCVは,ウイルスゲノムが180190kbで,ヒトに感染するウイルスのなかでは大きく,乾燥しても感染性を失わない.潜伏期は1450日といわれている2).掻破による自家接種により病変が広がる.感染は,直接的な皮膚と皮膚の接触による感染,タオル,ビート板や浮き輪などの共用から伝播する間接的な感染がある2).乳幼児や小児に好発し,アトピー性皮膚炎があると発症しやすい.成人の場合は,健常者でみることはまれであるが,AIDS(後天性免疫不全症候群)患者などの免疫不全患者に伴いやすい.好発部位は,皮膚の薄い肘窩,膝窩,鼠径部,腋窩,体幹などである2).また,眼瞼縁や眼瞼に皮疹が生じると,濾胞性結膜炎を発症することがある3).皮疹の特徴は,表面が平滑でやや光沢のある白色の丘疹米粒大の小結節で,中央に臍窩を認める(図1,3).また,鑷子でつまむと粥状の白色物が排出されることも特徴的である.病理組織所見で,軟属腫小体(図4)が確認されれば,確定診断となる.鑑別診断は,尋常性疣贅,基底細胞上皮腫,稗粒腫などである.アトピー性皮膚炎患者では,皮膚のバリア機能の低下,細胞性免疫の低下,掻破による自家接種の関与により,全身に多発する傾向があると考えられている2).HIV(ヒト免疫不全ウイルス)陽性患者の518%に発症がみられており,CD4+リンパ球が50100/mm3になると,顔面に多発する傾向があるといわれている4).したがって,特に成人で,眼瞼縁や眼瞼に伝染性軟属腫の皮疹で受診した場合は,HIV感染も念頭に置く必要がある.また,成人で,外陰部に集簇している場合は,STD(sexuallytransmitteddisease)としての考慮も必要となる疾患である5).治療は,皮疹に対して抗体ができれば自然治癒もあるが,約半年はかかるため感染を考慮して処置を行う.鑷子による摘除,液体窒素による冷凍凝固が通常行われる.最近では,imiquimodの外用,cidofovirの投与,パルス色素レーザーなどの治療方法も検討されている2).濾胞性結膜炎は,眼瞼縁や眼瞼の皮疹が摘除されれば自然治癒する.文献1)江川清文:皮膚のウイルス感染症疣贅,伝染性軟属腫.日本皮膚科学会雑誌117:783-790,20072)渡邊孝宏:ウイルス疾患最近の進歩伝染性軟属腫ウイルス.日本皮膚科学会雑誌117:2252-2253,20073)RobinsonMR,UdellIJ,GarberPFetal:Molluscumcon-tagiosumoftheeyelidsinpatientswithacquiredimmunedeciencysyndrome.Ophthalmology99:1745-1747,19924)KoopmanRJ,vanMerrienboerFC,VredenSGetal:Mol-luscumcontagiosum:amarkerforadvancedHIVinfec-tion.BrJDermatol126:528-529,19925)尾上泰彦:性器伝染性軟属腫.日本性感染症学会誌19:128-131,2008

加齢黄斑変性治療成績の視機能評価

2008年9月30日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLSIコントラスト感度Landolt環を用いた視力検査では視標と背景の白黒のコントラスト比は1.0に設定され,視標と背景の境界は明瞭である.しかし日常で目にするものはLandolt環のように視標と背景との輪郭が明瞭なものは少なく,コントラストは低く,輪郭が不明瞭なものがほとんどである.したがって日常生活の視機能を再現するためには「コントラストが低い,輪郭のはっきりしないもの」を見分ける能力を評価する必要がある.そのような見え方を数値化するために,本来通信工学で用いられていた周波数分析の考え方を眼科検査に応用したものが「コントラスト感度」である.コントラスト感度は通常の視力検査では検出できない形態覚を検査するものである.コントラスト感度測定機器には数種類あり,視標として正弦波,文字,Landolt環などが用いられている.1.レーザー光凝固とコントラスト感度MacularPhotocoagulationStudyGroupは206眼をレーザー光凝固群と無治療群に無作為に分け,24カ月後のコントラスト感度を比較したところレーザー光凝固群で有意に良好であったと報告している3).2.光線力学的療法とコントラスト感度TreatmentofAge-RelatedMacularDegenerationwithPhotodynamicTherapy(TAP)Studyでは光線力はじめに加齢黄斑変性に対する治療はここ数年で大きく変化している.中心窩脈絡膜新生血管に対する光線力学的療法,抗血管内皮増殖因子薬の硝子体内注射で視力維持,改善が期待できるようになったことは,今まで有効な治療法がなかったことを考えると画期的である.しかしqualityoflife(QOL)の観点からみると光線力学的療法や抗血管内皮増殖因子薬によって視力の維持,改善が得られても患者が望む良好なqualityofvision(QOV)には程遠く,むずかしい疾患であることを実感する.近年,医療分野でもQOLの向上が目標となり,眼科治療でもよりよいQOVが追求されるようになってきた.QOLと関連する視機能は視力以外にコントラスト感度,読書成績があげられ,コントラスト感度が低い,読書成績が不良な患者の日常生活は制限され,QOLは低い1,2).また,QOLとの関連は報告されていないが,QOLとの関連が予測される視機能評価には網膜感度を含む中心視野の状態,固視の位置,固視の安定性がある.これまで治療成績はおもに視力のみによって判定されており,視力以外の視機能を評価したものは少ない.今後はQOLと関連し,日常生活を反映する視機能の評価が必要になってくると考えられる.本稿では,これまでに報告された加齢黄斑変性の治療成績と視機能,特に自覚的検査との関連についてまとめてみる.(53)1241M10183091813特集●加齢黄斑変性あたらしい眼科25(9):12411244,2008加齢黄斑変性治療成績の視機能評価VisualFunctionafterTreatmentinAge-RelatedMacularDegeneration藤田京子*湯澤美都子*———————————————————————-Page21242あたらしい眼科Vol.25,No.9,2008(54)網膜感度を測定し,3カ月後に絶対暗点の大きさが有意に縮小し,6カ月後には有意に網膜感度も改善したと報告している7).これらの結果から,光線力学的療法もbevacizumab硝子体内投与も有用な治療法といえる.中心窩が絶対暗点になると固視点は中心窩外に移動する.絶対暗点が大きく固視が周辺に移動するほど,読書成績が低下すると報告されている8).そこで,やがて絶対暗点になる線維瘢痕組織をより小さくする治療が必要であり,脈絡膜新生血管の発育が速い場合には治療を急がなければならない.一方,FujiiらはSLOmicrope-rimetryを用いて加齢黄斑変性の中心視野の網膜感度,固視の位置,固視の安定性と病巣構成成分の関連について検討し,CNVのタイプと固視には関連がみられ,occultCNVでは比較的良好な固視の安定が持続する傾向があると報告した9).中心視野の状態と脈絡膜新生血管のタイプとの関連を明らかにすることは,治療のタイミングを決める参考になると思われる.III必要と考えられる視機能評価1.変視加齢黄斑変性のおもな訴えの一つに「変視」がある.治療により視力が良好に維持できたとしても,ゆがみが残り,患者の不満は解消されないケースを多数経験する.ゆがみが日常生活にどの程度支障をきたすかを調べた報告はないが,不快な感覚だけでなく,実際にゆがむことで読書が妨げられる症例も経験する.変視症の検査の方法としてAmslerchart,M-chartがある.Amslerchartは全部で7表から構成され,基本図は20°×20°の範囲に1°刻みの升目からなっている(図1).30cm矯正下で検査表の中心を固視してもらい,「固視点が見えるか」「線がゆがんで見えるか」「見えない部分はあるか」などを問い,記録用紙に記載してもらう.Amslerchartは簡便でゆがみを鋭敏に捉えることができるが,ゆがみの程度を定量できないことが難点である.M-chartは19種類の点線からなる表で,変視量を定量化できる(図2).30cm矯正下で,まず直線を見てもらいゆがみがないか見る.ゆがみがあれば細かい点線から順に提示し,ゆがみを自覚されなくなったときの点線の視角が変視量になる.学的療法24カ月後のコントラスト感度を調べた.Pre-dominantlyclassicCNV(choroidalneovascularization)に対する治療群ではコントラスト感度は維持できたが,プラセボ群では低下した,また,minimallyclassicCNVでは治療群とプラセボ群で視力低下の割合に有意差がみられなかったが,コントラスト感度は有意に治療群で低下の割合が低かったと報告した4).これらの結果は,光線力学的療法はコントラスト感度を維持するのに有用な治療法であることを示している.コントラスト感度測定は形態覚を知るうえで有用であるが,一般的に広く行われている検査ではないのでなじみもうすく,結果の解釈が判然としないのが実状であろう.また,患者は高齢であり,加齢や白内障の程度がコントラスト感度に影響を及ぼすことも無視できない.測定条件など煩雑な点も多いが,大切な検査であることには違いないので,治療の判定にはルーチンで取り入れたい検査である.II中心視野測定Scanninglaserophthalmoscope(SLO)microperime-tryやmicroperimeter-1(MP-1)は眼底を観察しながら任意の部の網膜感度を測定することができ,合わせて固視の状態も把握できる点で,中心固視がむずかしい加齢黄斑変性患者の検査に適する.中心暗点の大きさと固視の安定性は加齢黄斑変性の読書成績に影響することから,治療によって固視の状態を含む中心視野がどのように改善するかはQOLの観点からも重要である.Schmidt-Erfurthらは光線力学的療法前後の中心視野をSLOmicroperimetryで評価し,絶対暗点の大きさが,光線力学的療法群では施行前が2.5mm2,24カ月後が7.3mmであったのに対し,プラセボ群ではそれぞれ2.7mm,31.5mmと有意に拡大したと報告した5).Yodoiらは中心窩下のポリープ状脈絡膜血管症に対し光線力学的療法を行い,その前,1,3,6カ月後で中心10°の視野における網膜感度を測定した結果,光線力学的療法後1カ月では網膜感度は有意に改善し,それに伴い,自覚症状の改善も得られたが,3カ月,6カ月後では有意な改善はみられなかったとしている6).またPragerらはbevacizumab硝子体内投与前後の中心視野———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.9,20081243(55)成績は視力,視野検査から推測できず,直接文章を読んでもらうことで評価する.日本で市販されている読書評価用チャートにMNREAD-Jがある(図3).MNREAD-Jは30cmの視距離の場合,一番大きな文字サイズが1.3logMARで,以降0.1logMARずつ文字サイズが小さくなるようにデザインされている.一つの文章は30文字で3行に構成されている.測定は各文章を患者に音読してもらい,読み時間と誤読文字数から読書速度を算変視の評価は重要であるが,既存の検査表では固視目標が小さいため,視力が悪く固視が不安定な症例では検査結果の信頼性が低い.今後,検査装置の工夫が必要と考える.2.読書成績加齢黄斑変性で読書成績が損なわれ,読書困難がQOLに関連することの例は枚挙にいとまがない.読書図1アムスラーチャート図2Mチャート線の中央にある固視点を注視してもらい,線の歪みの有無を確認していく.図3MNREADJ———————————————————————-Page41244あたらしい眼科Vol.25,No.9,2008(56)文献1)BansbackN,Czoski-MurrayC,CarltonJetal:Determi-nantsofhealthrelatedqualityoflifeandhealthstateutili-tyinpatientswithage-relatedmaculardegeneration:theassociationofcontrastsensitivityandvisualacuity.QualLifeRes16:533-543,20072)MitchellJ,WolsohnJS,WoodcockAetal:PsychometricevaluationoftheMacDQOLindividualizedmeasureoftheimpactofmaculardegenerationonqualityoflife.HealthQualLifeOutcomes3:25,20053)MacularPhotocoagulationStudyGroup:Laserphotocoag-ulationofsubfovealrecurrentneovascularizationinage-relatedmaculardegeneration.Resultsofarandomizedclinicaltrial.ArchOphthalmol109:1232-1241,19914)RubinGS,BresslerNM;TreatmentofAge-RelatedMac-ularDegenerationwithPhotodynamicTherapy(TAP)StudyGroup:Eectsofverteporntherapyoncontrastonsensitivity:Resultsfromthetreatmentofage-relatedmaculardegenerationwithphotodynamictherapy(TAP)investigation-TAPreportNo4.Retina22:536-544,20025)Schmidt-ErfurthUM,ElsnerH,TeraiNetal:Eectsofverteporntherapyoncentralvisualeldfunction.Oph-thalmology111:931-939,20046)YodoiY,TsujikawaA,KamedaTetal:Centralretinalsensitivitymeasuredwiththemicroperimeter1afterphotodynamictherapyforpolypoidalchoroidalvasculopa-thy.AmJOphthalmol143:984-994,20077)PragerF,MichelsS,SimaderCetal:Changesinretinalsensitivityinpatientswithneovascularage-relatedmacu-lardegenerationaftersystemicbevacizumab(avastin)therapy.Retina28:682-688,20088)ErgunE,MaarN,RadnerWetal:Scotomasizeandreadingspeedinpatientswithsubfovealoccultchoroidalneovascularizationinage-relatedmaculardegeneration.Ophthalmology110:65-69,20039)FujiiGY,JuanED,HumayunMSetal:Characteristicsofvisuallossbyscanninglaserophthalmoscopemicroperim-etryineyeswithsubfovealchoroidalneovascularizationsecondarytoage-relatedmaculardegeneration.AmJOphthalmol136:1067-1078,2003出する.文字サイズと読書速度との関係から最大読書速度,臨界文字サイズ,読書視力の3つのパラメータを数値化できることより治療前後の変化を客観的に捉えることができる(図4).おわりに光線力学的療法ができる以前は加齢黄斑変性の中心窩下新生血管を有する症例に対して視力を維持するために有用な治療はなかった.現在では光線力学的療法によって視力維持は可能になった.近未来には抗血管内皮増殖因子薬硝子体内注射,あるいは光線力学的療法との併用によって視力改善が得られるようになると期待される.患者にとって必要なのはQOLと関連する視機能の改善が得られる治療であろう.そのためには視機能の多面的な評価が必要である.図4読書評価によって得られる文字サイズと読書速度の関係読書評価により最大読書速度,臨界文字サイズ,読書視力の3つの視標が得られる.小←文字サイズ→大速読↑↓書速度遅●●●●●(文字/分)(logMAR)臨界文字サイズ最大読書速度●読書視力

加齢黄斑変性関連疾患の治療-ポリープ状脈絡膜血管症,網膜内血管種状増殖,特発性脈絡膜新生血管,近視性脈絡膜新生血管の治療-

2008年9月30日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLSgrowthfactor:血管内皮増殖因子)療法が注目されている.抗VEGF薬のうちのpegaptanib(MacugenR),ranibizumab(LucentisR)は,欧米ですでに臨床使用されているものの,わが国では2008年秋以降に使用可能になるため,実際に多数例での臨床効果が明らかになるのはこれからである.大腸癌に対して開発された抗VEGF薬であるbevacizumab(AvastinR)は,ranibi-zumabと同じ抗VEGFモノクローナル抗体を元にして作製された抗VEGF薬で,加齢黄斑変性に対して投与されたところ有効性が認められた2).Pegaptanibやranibizumabの認可に時間がかかることに加え,価格的な点からも,適応外使用であるが世界的に使用が広まり,わが国でもその治療効果が報告されている.また,これらのCNVに対する治療法の進歩に伴い,これまで治療が困難であった近視性脈絡膜新生血管に対しても有効といえる治療が可能となってきた.本稿では,加齢黄斑変性関連疾患としてPCV,RAP,特発性CNVそして近視性CNVを取り上げ,これらに対して現在わが国で施行されている治療法について紹介する.はじめに加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)は,欧米で高齢者の中途失明原因の第一位であり,わが国でも急増中である.黄斑部に出血や滲出を生じる滲出型加齢黄斑変性は,脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)を伴う典型的な加齢黄斑変性(狭義AMD)と,ポリープ状脈絡膜血管症(polypoi-dalchoroidalvasculopathy:PCV)および網膜血管腫状増殖(retinalangiomatousproliferation:RAP)に大きく分類される.また,特定の原因なしに50歳未満の若中年者の黄斑部網膜下にCNVを生じる病態は,特発性脈絡膜新生血管と分類される.欧米と異なり,日本人の加齢黄斑変性患者ではPCVが多く,RAPが少ないことが示されており1),治療に対する反応や視力予後が異なるため正確な診断が必要不可欠となっている.CNVに対する治療法として,1990年代までは網膜光凝固が唯一有効性の証明された治療法であったが,治療直後より中心暗点が生じる欠点があり,無治療群に比較し長期の視力低下を抑制できるという利点しかなかった.しかしながら,2000年に米国で光線力学的療法(photodynamictherapy:PDT)が認可され(わが国では2004年)治療法は大きく変化した.PDT以外の新しい治療法としては,抗VEGF(vascularendothelial(47)1235MM56508122特集●加齢黄斑変性あたらしい眼科25(9):12351239,2008加齢黄斑変性関連疾患の治療─ポリープ状脈絡膜血管症,網膜内血管腫状増殖,特発性脈絡膜新生血管,近視性脈絡膜新生血管の治療─TreatmentforChoroidalNeovascularizationfromCausesOtherthanAge-RelatedMacularDegeneration─PolypoidalChoroidalVasculopathy,RetinalAngiomatousProliferation,IdiopathicChoroidalNeovascularization,MyopicChoroidalNeovascularization鈴木三保子*五味文*瓶井資弘*———————————————————————-Page21236あたらしい眼科Vol.25,No.9,2008(48)意に高く(図1),再治療率が低いことから,PCVはPDTのよい適応と結論づけている.日本人広義AMD患者に対するPDT施行アルゴリズム(図2)によると,PCVの症例,もしくは,病変サイズが1,800μm以下の症例に,PDTが強く推奨されている.5,400μmを超える病変サイズの大きな症例においても視力が維持されるので,PDTによる治療を考慮してよいことになっているが,術後の合併症として視力低下の確率が高いといわれており,視力良好例では経過観察が安全な場合もある.PCV症例において,PDT施行後,最も危惧される合併症は,網膜下出血である.筆者らは,施行後1カ月以内に,19%の症例に1乳頭径以上の網膜下出血が生じたことを報告している4).PCVに対する抗VEGF療法について,筆者らはbev-acizumabの硝子体内投与を行い,滲出性変化を軽減させる効果はあるものの,脈絡膜血管異常は残存することを報告した6).その理由としては,PCVの血管病巣がVEGFに依存していない,あるいはPCVの病巣が存在する脈絡膜には硝子体腔に投与したbevacizumabは移行しにくいなどが考えられる.Bevacizumabと比較し分子量の小さいranibizumabは,網膜・網膜色素上皮を通過する可能性があり,bevacizumabで効果に限界のみられた色素上皮下の病変に対して効果を示すことも期待される.現状では,PCVはPDTに対する反応が良いことから(図3),PDTがPCVの治療手段としてファーストライIポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV)PCVに対するPDTの有効性に関するChanらの報告3)では,1年間の経過観察で95%の症例に視力維持あるいは視力改善が認められている.日本人のPCVに対してPDTの効果をプロスペクティブに検討したところ,狭義AMDに比べ高い効果が得られた4).広義AMDに対する多施設後ろ向き検討である新ガイドライン調査5)では,PCVは狭義AMDよりもPDT後の平均視力が有:PCVあり:PCVなし1.00.10.01小数視力ースライン3カ月6カ月9カ月12カ月0.150.140.170.140.180.140.180.140.19**0.14p=0.045*p=0.015*p=0.026*p=0.004**治療群間の有意差検定(?-検定).**ベースライン~12カ月の有意差検定(paired?-検定)p<0.001.図1PCV所見の有無による平均視力の推移(新ガイドライン調査)PCV所見のある症例は,PCVの所見のない(狭義AMD)症例と比べて,312カ月のいずれの時点でも有意に平均視力が良好であった.(文献1より改変)病変の位置タイプ1,800μm以下1,8005,400μm5,400μm超0.5よりも良好0.1以上0.5以下0.1未満病変サイズ(GLD)視力中心窩下PredominantlyclassicCNV,minimallyclassicCNVoroccultwithnoclassicCNVなしあり病変の位置PCVPDTを強く推奨PDTを推奨モニタリング図2新ガイドラインにおける日本人AMD患者に対するPDT施行アルゴリズム中心窩下CNV,すべての病変タイプ,PCV所見を有する症例,病変最大径1,800μm以下の症例,視力0.10.5がPDTにより適することを表す.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.9,20081237(49)不良疾患である16).今後,抗VEGF薬を用いた薬物併用PDTの臨床成績の検討が行われると予想される.RAPが片眼性症例でも3年以内にその他眼に発症する難治性疾患である17)ことを考慮すると,早急に治療方法の確立が望まれる.III特発性脈絡膜新生血管(idiopathicchoroidalneovascularization)特発性CNVは,特定の原因なしに50歳未満の黄斑部網膜下にCNVを生じる疾患である.自然経過は,滲出型AMDと比較し良好とされている18).一方,視力予後は初診時視力,新生血管の位置,大きさ,活動性のいずれとも無関係であり,35歳以上では有意に視力予後不良とする報告もある19).治療に関しては,PDT単独療法では,1年間の経過観察で94%に視力改善が認められ20),有効とされる一方で,PDT後20カ月で,44%の症例に脈絡膜血流の低下,網膜色素上皮の萎縮が起こり,視力低下をひき起こすとの報告21)もあり,PDT単独療法の有効性は議論の余地がある.特に若年の女性でPDT後の網膜色素上皮の障害が起こりやすいとされている22).特発性CNVはンに位置づけられるが,長期経過では再発をきたして視力が低下する症例も少なくないことが知られてきている7).PCVに対しても抗VEGF治療により滲出性変化を抑制することで視力維持効果は期待できることから,今後PDTとの併用療法なども含めて,PCVに対しても抗VEGF抗体の使用頻度が高くなることが予想される.II網膜血管腫状増殖(retinalangiomatousproliferation:RAP)2001年にYannuzziらは,AMDのなかには網膜血管由来の新生血管を有するAMDの一型が存在するという新しい疾患概念を確立し,retinalangiomatousprolifer-ation(RAP)と名づけた8).RAPに対する治療法としてこれまでに,レーザー光凝固9),PDT10),経瞳孔温熱療法11),ステロイド硝子体注入12),手術療法13),あるいはそれらの併用療法の治療結果が報告されている.ステロイド硝子体注入併用PDTでは,1年経過で17症例中35%が視力改善,47%が視力維持したという結果報告がある14).Bevacizumab硝子体内投与は,短期的にその症例の網膜厚を有意に減少させることが報告されている15).しかし,いずれの治療法に対しても抵抗性で予後図3ポリープ状脈絡膜血管症(PCV)の治療PDT治療前(A,C)A:インドシアニングリーン蛍光眼底造影.ポリープ状病巣を認める.C:光干渉断層計(OCT)所見.漿液性網膜離の中にポリープ状病巣に一致した隆起がある.PDT治療後(B,D)B:インドシアニングリーン蛍光眼底造影.病巣は消退している.D:光干渉断層計(OCT)所見.漿液性網膜離は減退し,明らかなポリープ状病巣を認めない.ABCD———————————————————————-Page41238あたらしい眼科Vol.25,No.9,2008(50)ある場合には本人の自覚に乏しく,発症時期が不明である場合もあるが,CNV周囲の出血が吸収され,色素増殖で覆われた黒色のFuchs斑とよばれる瘢痕期に入っている症例や,CNV周囲にすでに萎縮病巣の形成が始まっている症例では,治療による利益は期待できないと考えられる.おわりに近年,脈絡膜新生血管に対する診断,治療の進歩は目覚しく,PDT,抗VEGF療法,あるいはそれらの併用療法が主流となりつつある.PCVに関してはPDTが,特発性脈絡膜新生血管,近視性脈絡膜新生血管には抗VEGF療法がファーストラインに位置づけられるが,網膜血管腫状増殖については,明らかに有効性を示す治療方法はいまだ確立されていない.欧米での報告にあるように,近い将来には薬物併用PDT療法が主流になると考えられるが,今後プロスペクティブな臨床研究が必要になると思われる.新たな抗VEGF療法の使用が可能になれば,それらの日本人に対する有効性が明らかになると予想される.どの疾患においても,脈絡膜新生血管は,神経網膜,網膜色素上皮に障害を与え,結果的に視力障害をひき起こすので,早期発見,早期治療が,視力改善にとって重要であると考えられる.文献1)MarukoI,IidaT,SaitoMetal:Clinicalcharacteristicsofexudativeage-relatedmaculardegenerationinJapanesepatients.AmJOphthalmol44:15-22,20072)RichRM,RosenfeldPJ,PuliatoCAetal:Short-termsafetyandecacyofintravitrealbevacizumab(Avastin)forneovascularage-relatedmaculardegeneration.Retina26:495-511,20063)ChanWM,LamDS,LaiTYetal:Photodynamictherapywithvertepornforsymptomaticpolypoidalchoroidalvas-culopathy:one-yearresultsofaprospectivecaseseries.Ophthalmology111:1576-1584,20044)GomiF,OhjiM,SayanagiKetal:One-yearoutcomesofphotodynamictherapyinage-relatedmaculardegenera-tionandpolypoidalchoroidalvasculopathyinJapanesepatients.Ophthalmology115:141-146,20085)TanoY;OphthalmicPDTStudyGroup:GuidelinesforPDTinJapan.Ophthalmology115:585,20086)GomiF,SawaM,SakaguchiHetal:Ecacyofintravit-炎症との関連も示唆されており,ステロイドの内服治療23)や,トリアムシノロンのTenon下投与の有効性も報告され24),またステロイド併用PDTも行われるようになり,視力維持あるいは視力改善が認められている25).一方,筆者らは,ステロイド療法で効果が少なかった症例に対してbevacizumabを投与したところ,新生血管の線維化と視力の改善が得られたことを報告しており26),最近ではやはり抗VEGF療法が特発性CNVに対しても第一選択となることが多いようである27).特発性CNVは病変サイズが限局していることが多く,病勢もいったん収まると,瘢痕化する傾向が強い.このような特徴をもつ特発性CNVに対して,持続性に欠けるが効果の高い抗VEGF療法は適していると筆者らは考えている.ただし,この疾患が若年者に発症することを考慮すると,薬物に対する副作用についての検討も必要である28).IV近視性脈絡膜新生血管近視性CNVは,強度近視患者において高度視力障害の原因となる.近視性CNVに対するPDTの有効性を検討したVIPstudy29)では,プラセボ群に比較してPDT治療群で1年後の視力低下が有意に少ないことが示された.日本人の近視性CNVにおいても視力予後の改善が可能であることを示した報告もある30)が,退縮したCNV周囲に大きな萎縮病巣を形成する症例もあり,抗VEGF療法が使用可能な現在では,近視性CNVに対するPDTは長期的に副作用のほうが大きいと考える.筆者らを含め,近視性CNVに対するbevacizumabの有効性があることが確認されており31,32),現時点ではbevacizumab硝子体内投与が第一選択と考えている.近視性CNVは滲出型AMDのCNVと異なり,CNVサイズが小さいことが多く,bevacizumab投与によりCNVが縮小し,視力改善が得られやすい.ただし,眼軸延長に伴う機械的伸展により網膜色素上皮・Bruch膜の損傷を基礎にもっている症例が多く,そのため再発もしばしばみられるので,長期にわたり定期的な経過観察が必要である.Bevacizumab投与に反応しない症例もみられるが,それらの多くはすでに瘢痕期に入っている症例と推定される.網膜脈絡膜萎縮があり視力が不良で———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.9,20081239(51)namictherapyinsubfovealandjuxtafovealidiopathicandpostinammatorychoroidalneovascularization.ActaOph-thalmolScand84:743-748,200622)PostelmansL,PasteelsB,CoqueletPetal:Severepig-mentepithelialalterationsinthetreatmentareafollowingphotodynamictherapyforclassicchoroidalneovasculariza-tioninyoungfemales.AmJOphthalmol138:803-808,200423)FlaxelCJ,OwensSL,MulhollandBetal:Theuseofcor-ticosteroidsforchoroidalneovascularizationinyoungpatients.Eye12:266-272,199824)OkadaAA,WakabayashiT,KojimaEetal:Trans-Ten-on’sretrobulbartriamcinoloneinfusionforsmallchoroidalneovascularization.BrJOphthalmol88:1097-1098,200425)ChanWM,LaiTY,LauTTetal:Combinedphotodynam-ictherapyandintravitrealtriamcinoloneforchoroidalneo-vascularizationsecondarytopunctateinnerchoroidopathyorofidiopathicorigin:one-yearresultsofaprospectiveseries.Retina28:71-80,200826)GomiF,NishidaK,OshimaYetal:Intravitrealbevaci-zumabforidiopathicchoroidalneovascularizationafterpreviousinjectionwithposteriorsubtenontriamcinolone.AmJOphthalmol143:507-510,200727)ChangLK,SpaideRF,BrueCetal:Bevacizumabtreat-mentforsubfovealchoroidalneovascularizationfromcausesotherthanage-relatedmaculardegeneration.ArchOphthalmol126:941-945,200828)ShimaC,SakaguchiH,GomiFetal:Complicationsinpatientsafterintravitrealinjectionofbevacizumab.ActaOphthalmol86:372-376,200829)BlinderKJ,BlumenkranzMS,BresslerNMetal:Verteporntherapyofsubfovealchoroidalneovasculariza-tioninpathologicmyopia:2-yearresultsofarandomizedclinicaltrial─VIPreportno.3.Ophthalmology110:667-673,200330)HayashiK,Ohno-MatsuiK,TeramukaiSetal:Photody-namictherapywithvertepornforchoroidalneovasculari-zationofpathologicmyopiainJapanesepatients:compar-isonwithnontreatedcontrols.AmJOphthalmol145:518-526,200831)SakaguchiH,IkunoY,GomiFetal:Intravitrealinjectionofbevacizumabforchoroidalneovascularizationassociatedwithpathologicalmyopia.BrJOphthalmol91:161-165,200732)ChanWM,LaiTY,LiuDTetal:Intravitrealbevacizum-ab(Avastin)formyopicchoroidalneovascularization:six-monthresultsofaprospectivepilotstudy.Ophthal-mology114:2190-2196,2007realbevacizumabforpolypoidalchoroidalvasculopathy.BrJOphthalmol92:70-73,20087)WakabayashiT,GomiF,SawaMetal:Markedvascularchangesofpolypoidalchoroidalvasculopathyafterphoto-dynamictherapy.BrJOphthalmol92:936-940,20088)YannuzziLA,NegraoS,IidaTetal:Retinalangiomatousproliferationinage-relatedmaculardegeneration.Retina21:416-434,20019)JohnsonTM,GlaserBM:Focallaserablationofretinalangiomatousproliferation.Retina26:765-772,200610)BosciaF,ParodiMB,FurinoCetal:Photodynamicthera-pywithvertepornforretinalangiomatousproliferation.GraefesArchClinExpOphthalmol244:1224-1232,200611)KuroiwaS,AraiJ,GaunSetal:Rapidlyprogressivescarformationaftertranspupillarythermotherapyinretinalangiomatousproliferation.Retina23:417-420,200312)NicoloM,GhiglioneD,LaiSetal:Retinalangiomatousproliferationtreatedbyintravitrealtriamcinoloneandpho-todynamictherapywithverteporn.GraefesArchClinExpOphthalmol244:1336-1338,200613)SakimotoS,GomiF,SakaguchiHetal:Recurrentretinalangiomatousproliferationaftersurgicalablation.AmJOphthalmol139:917-918,200514)vandeMoereA,KakR,SandhuSSetal:Anatomicalandvisualoutcomeofretinalangiomatousproliferationtreatedwithphotodynamictherapyandintravitrealtriam-cinolone.AmJOphthalmol143:701-704,200715)GhaziNG,KnapeRM,KirkTQetal:Intravitrealbevaci-zumab(avastin)treatmentofretinalangiomatousprolifer-ation.Retina28:689-695,200816)BottoniF,MassacesiA,CigadaMetal:Treatmentofretinalangiomatousproliferationinage-relatedmaculardegeneration:aseriesof104casesofretinalangiomatousproliferation.ArchOphthalmol123:1644-1650,200517)GrossNE,AizmanA,BruckerAetal:Natureandriskofneovascularizationinthefelloweyeofpatientswithuni-lateralretinalangiomatousproliferation.Retina25:713-718,200518)HoAC,YannuzziLA,PisicanoKetal:Thenaturalhisto-ryofidiopathicsubfovealchoroidalneovascularization.Ophthalmology102:782-789,199519)清水早穂,春山美穂,湯澤美都子:特発性脈絡膜新生血管黄斑症の自然経過.臨眼58:1689-1693,200420)ChanWM,LamDS,WongTHetal:Photodynamicthera-pywithvertepornforsubfovealidiopathicchoroidalneo-vascularization:one-yearresultsfromaprospectivecaseseries.Ophthalmology110:2395-2402,200321)Ruiz-MorenoJM,MonteroJA,AriasLetal:Photody-

加齢黄斑変性の治療-(2)薬物治療

2008年9月30日 火曜日

———————————————————————-Page11230あたらしい眼科Vol.25,No.9,2008(00)0910-1810/08/\100/頁/JCLSFDA)に承認されている.海外で行われたV.I.S.I.O.N.(VEGFInhibitionStudyinOcularNeovascularization)Study4)とよばれる臨床試験では,50歳以上の視力20/40から20/320の中心窩下CNVに対し,pegaptanib0.3mg投与群(295眼),1mg投与群(301眼),3mg投与群(296眼),0mg(擬似注射)投与群(298眼)に分け,6週ごとに9回硝子体内投与を行った.投与後の平均視力は擬似投与群に比べ投与群のほうが有意に視力の低下の幅は小さかった(図1).視力への薬剤の効果を判定する方法として,EDTRS(EarlyTreatmentDia-beticRetinopathyStudy)視力表で視力低下が15文字未満の場合をレスポンダーと定義し,その割合を視力効はじめに近年,分子細胞生物学の研究が進み分子レベルでの病態が明らかとなり,それに即した薬物が開発され,実際の臨床での使用が可能となってきた.眼科領域では,血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)に対する抗VEGF療法が注目されている.VEGFとは,血管内皮細胞に対する増殖因子および血管透過性亢進因子と知られる糖蛋白質で,5つのおもなアイソフォーム(VEGF121,VEGF145,VEGF165,VEGF189,VEGF206)が存在する.加齢黄斑変性の中心的病態は脈絡膜新生血管(choroidalneovasculariza-tion:CNV)であるが,CNVへのVEGFの関与が考えられており1~3),加齢黄斑変性(AMD)の患者への抗VEGF療法による視機能の維持,改善が期待されている.抗VEGF薬は日本ではpegaptanibが認可された.以下に抗VEGF薬およびその投与成績について紹介する.IPegaptanib先に述べたVEGFアイソフォームのなかで,VEGF165が最も量的に多く,効率よく腫瘍血管を誘導するといわれているが,pegaptanibはそのVEGF165に特異的に結合する,28塩基の配列からなるRNAアプタマーである1).アプタマーとは,特定の分子と特異的に結合する核酸分子やペプチドである.Pegaptanibは,米国食品・医薬品局(FoodandDrugAdministration:1230(42)*TomokoSawada&MasatoOhji:滋賀医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕澤田智子:〒520-2192大津市瀬田月輪町滋賀医科大学眼科学教室加齢黄斑変性の治療─(2)薬物治療TreatmentofAge-RelatedMacularDegeneration─(2)Pharmacotherapy澤田智子*大路正人*特集●加齢黄斑変性あたらしい眼科25(9):1230~1234,2008:Pegaptanib1.0mg投与:Pegaptanib0.3mg投与:Pegaptanib3.0mg投与:擬似投与投与期間(週)0-2-1-4-6-10-12-16-8-14-17-3-5-9-11-15-7-13平均視力の変化(文字数)061218243036424854図1V.I.S.I.O.N.Studyにおけるpegaptanib投与群と擬似投与群の平均視力の変化(文献4より一部改変)———————————————————————-Page2あたらしい眼科Vol.25,No.9,20081231(43)つかの大規模な臨床試験が行われている.MARINA(MinimallyClassic/OccultTrialoftheAnti-VEGFAntibodyRanibizumabintheTreatmentofNeovascu-larAge-RelatedMacularDegeneration)Study8)では,中心窩下CNV(occultwithnoclassicあるいはmini-mallyclassic)に対するranibizumab硝子体内投与を月に1回,2年間にわたって,0.3mg投与群(238眼),0.5mg投与群(240眼),擬似投与群(238眼)に分けて行った.投与12カ月でレスポンダーであった割合はそれぞれ94.5%,94.6%,62.2%,投与24カ月でそれぞれ92.0%,90.0%,52.9%であり,視力低下の抑制に有効であるといえた.また投与回数を減らせるかどうかの検討を目的として,0.3mg投与群(60眼),0.5mg投与群(61眼),擬似投与群(63眼)に対して月に1回の硝子体内投与を3回行ったあと,3カ月ごとに硝子体内投与を行ったPIERStudy9)では,12カ月後のレスポンダーであった割合はそれぞれ83.3%,90.2%,49.2%であり,視力低下の抑制に有効であるといえたが,平均視力の改善の維持ではMARINAStudyの結果のほうが良く(図3,4),一部の患者は月に1回の硝子体内投与を必要とするのではないかと述べている.ANCHOR(Anti-VEGFAntibodyfortheTreatmentofPredominantlyClassicChoroidalNeovascularizationinAge-RelatedMacularDegeneration)Study10)では,光線力学的療法(PDT)との比較を行っている.中心窩下CNV(predominantlyclassiclesion)に対し,0.3mg投与群(140眼),0.5mg投与群(139眼),PDT施行群(143眼)の12カ月後のレスポンダーであった割合は94.3%,96.4%,64.3%であり,ranibizumab投与群のほうが有意に視力の維持に有効であった.Predomi-nantlyclassicAMDに対し,PDT併用効果をみるために行ったFOCUS(RhuFabV2OcularTreatmentCombiningtheUseofVisudynetoEvaluateSafety)Study11,12)(図5)では,1年後のレスポンダーの割合はPDT単独施行群(56眼)で67.9%,PDT施行1週間後にranibizumab(0.5mg)投与を月に1回行った併用群(105眼)では90.5%,2年後ではPDT単独群(56眼)で75.0%,PDT+ranibizumab併用群(105眼)では87.6%で,PDT単独施行群よりも視力抑制には有効で果の評価とした場合,この報告では投与後54週におけるレスポンダーの割合は,0.3mg投与群70%,1mg投与群71%,3mg投与群65%,0mg投与群55%で,投与群で有意に視力の低下を抑制できた.54週後にもう一度,そのままpegaptanib投与を続行した群と中止群とに無作為に分けて102週後に検討したところ,0.3mg投与を続行した群のほうが,投与中止群よりも,視力の低下の抑制ができたとしている5).しかし硝子体内投与の有害事象として,眼内炎(1.3%),水晶体損傷(0.6%),網膜離(0.7%)が報告されている4).先ごろ日本人を対象とした1年間のペガプタニブナトリウム投与試験が終了し,その結果が報告された6)が,その報告のレスポンダーの割合は,0.3mg投与群で79%,1mg投与群で73%であり,前述した海外の成績よりも若干良かった.日本の報告では眼内炎は認めず,重度の有害事象として認めたのは網膜出血または硝子体出血(4.3%)であり,海外の報告とは異なった結果であった.その結果,日本では2008年7月に承認された.IIRanibizumabRanibizumabは,マウス抗VEGFモノクローナル抗体を,遺伝子組み換えによりヒト化したヒトモノクローナル抗VEGF抗体のFabである(図2)7).Pegaptanibと異なり,非選択的にすべてのVEGFに結合し,その作用を阻害する.FDAに認可されている薬剤で,いくヒト化Fabフラグメント????????????RanibizumabFcBevacizumabFcLightchainHeavychain選択的変異親和性の向上ヒト化抗体Fabフラグメント(約48kD)全長ヒト化抗体(約149kD)ヒト化Fabフラグメントマウス抗VEGFモノクローナル抗体(約150kD)ヒト化抗体の構築図2RanibizumabとBevacizumabの関係(文献7より一部改変)———————————————————————-Page31232あたらしい眼科Vol.25,No.9,2008(44)IIIBevacizumabRanibizumab同様,マウス抗VEGFモノクローナル抗体を遺伝子組み換えによりヒト化した抗VEGF抗体であるが,ranibizumabと異なり,bevacizumabは抗体全体である.大腸癌に対する点滴静注用の抗腫瘍剤で,現在の眼科での投与は,適用外使用であり,各施設の倫理委員会,患者本人の承認を得て行っているのが現状である.図6,7に当科での症例を示す.Bevacizum-abでは,他の抗VEGF薬のような大規模な長期の臨床試験の報告はない.Costaら13)の報告では,中心窩下CNVに対し,bevacizumab1.0mg投与群(15眼),1.5mg(15眼),2.0mg(15眼)の単回投与を行い,投与後12週目の平均の視力は投与前と比べて有意に改善していた.また2.0mg投与群が他の濃度群と比べると,投与後12週目では,視力改善の維持に有効であると思われた.Lazicら14)は,minimallyclassicとoccultAMD(102眼)に対し,6週間ごとにbevacizumab(1.25mg)を硝子体内に投与し,術後24週間まで経過を観察した.その結果,視力,黄斑網膜厚,黄斑網膜容積は,投与前と比べて,有意に改善していた.またminimallyclassicとoccultAMDに対し,PDTとの比較を行った報告15)では,PDT施行群(50眼),bevaci-zumab(1.25mg)単回投与群(54眼),PDT+bevaci-zumab単回投与併用群(1.25mg)(52眼)で比較した場合,投与3カ月後ではPDT+bevacizumab単回投与併用群(1.25mg)が投与前に比べて最も視力の改善を得られていた.合併症として眼内炎は認めなかったが,beva-cizumab単回投与群54眼中3眼に網膜色素裂孔を認めた.以上よりbevacizumabのAMDに対する有効性,PDT併用の効果は十分にあると考えられる.ただし,PCV(polypoidalchoroidalvasculopathy,ポリープ状脈絡膜血管症)にbevacizumab1mgを投与した症例11眼に対しては,中心窩網膜厚は投与1カ月後にいったん減少したが,3カ月後には有意な減少を認めなかったという報告16)があり,PCVに対しての有効性は期待しにくいと思われた.あるといえた.ただし,PDT+ranibizumab併用群では眼内炎(2.9%),虹彩毛様体炎(12.4%)を認めたと報告している.投与期間(月)平均視力の変化(文字数)05-5-10-151003961215182124:Ranibizumab0.5mg投与:Ranibizumab0.3mg投与:擬似投与図3MARINAStudyにおけるranibizumab投与群と擬似投与群の平均視力の変化(文献8より一部改変):擬似投与:Ranibizumab0.3mg(n=60):Ranibizumab0.5mg(n=61)投与期間(月)1050-5-10-15-0.216.1文字差*14.7文字差**p<0.0001-1.6-16.3視力表の文字数123456789101112123456789101112図4PIERStudyにおけるranibizumab投与群と擬似投与群の平均視力の変化(文献9より)投与期間(月)1050-5-10+4.6-7.8平均視力の変化(文字数):PDT併用群+Ranibizumab(n=105):PDT単独群(n=56)7d24222018161412108642図5FOCUSStudyにおけるPDT+ranibizumab併用群とPDT単独施行群との平均視力の変化(文献12より)———————————————————————-Page4あたらしい眼科Vol.25,No.9,20081233(45)図6症例:80歳,男性AMD症例に対しbevacizumab硝子体内投与を行った.投与前のa:眼底写真,b:FA,c:IA.黄斑部のCNVから著明な蛍光漏出を認めた.abc7図6と同一症例の光干渉断層計(OCT)所見図6の症例に対し,bevacizumabを硝子体内に2回投与し,視力の改善,網膜浮腫の減少を認めた.初回投与後6カ月目に網膜浮腫の増悪を認めたため,3回目のbevacizumab投与を行い,網膜の浮腫,視力は改善した.a:bevacizumab投与前,視力(0.01).b:初回投与後1カ月,視力(0.06).c:初回投与後2カ月,視力(0.08).d:初回投与後3カ月,視力(0.15).e:初回投与後6カ月,視力(0.15).f:初回投与後7カ月,視力(0.3).adbecfBevacizumab投与Bevacizumab投与Bevacizumab投与———————————————————————-Page51234あたらしい眼科Vol.25,No.9,2008(46)6)ペガプタニブナトリウム共同試験グループ代表者:田野保雄:脈絡膜新生血管を伴う加齢黄斑変性を対象としたペガプタニブナトリウム1年間投与試験.日眼会誌112:590-600,20087)SteinbrookR:Thepriceofsight─ranibizumab,bevaci-zumab,andthetreatmentofmaculardegeneration.NEnglJMed355:1409-1412,20068)RosenfeldPJ,BrownMD,HeierJSetal:Ranibizumabforneovascularage-relatedmaculardegeneration.NEnglJMed355:1419-1431,20069)RegilloCD,BrownDM,AbrahamPetal:Randomized,double-masked,sham-controlledtrialofranibizumabforneovascularage-relatedmaculardegeneration:PIERStudyYear1.AmJOphthalmol145:239-248,200810)BrownDM,KaiserPK,MichelsMetal:Ranibizumabversusvertepornforneovascularage-relatedmaculardegeneration.NEnglJMed355:1432-1444,200611)HeierJS,BoyerDS,CiullaTAetal:Ranibizumabcom-binedwithvertepornphotodynamictherapyinneovas-cularage-relatedmaculardegeneration.ArchOphthalmol124:1532-1542,200612)AntoszykAN,TuomiL,ChungCYetal:Ranibizumabcombinedwithvertepornphotodynamictherapyinneo-vascularage-relatedmaculardegeneration(FOCUS):Year2results.AmJOphthalmol145:862-874,200813)CostaRA,JorgeR,CalucciDetal:Intravitrealbevaci-zumabforchoroidalneovascularizationcausedbyAMD(IBeNAStudy):Resultsofaphase1dose-escalationstudy.InvestOphthalmolVisSci47:4569-4578,200614)LazicR,GabricN:Intravitreallyadministeredbevacizum-ab(Avastin)inminimallyclassicandoccultchoroidalneo-vascularizationsecondarytoage-relatedmaculardegener-ation:GraefesArchClinExpOphthalmol245:68-73,200715)LazicR,GabricN:Verteporntherapyandintravitrealbevacizumabcombinedandaloneinchoroidalneovascu-larizationduetoage-relatedmaculardegeneration.Oph-thalmology114:1179-1185,200716)GomiF,SawaM,SakaguchiHetal:Ecacyofintravit-realbevacizumabforpolypoidalchoroidalvasculopathy.BrJOphthalmol92:70-73,2007IVVEGFTrapVEGFの受容体には膜型と可溶性のタイプがあるが,可溶性のレセプターを人工的に作製,投与し,それによりVRGFの発現を抑えようとするものがVEGF-Trapである.現在治験中である.おわりにこれらの抗VEGF療法は,従来の治療法とはかなり異なる療法で,ここ数年間で急激に広まりつつある.今後,さらなる研究が行われることにより,有効な投与量,投与間隔などの確立が期待される.文献1)LopezPF,SippyBD,LambertMetal:Transdierentia-tedretinalpigmentepithelialcellsareimmunoreactiveforvascularendothelialgrowthfactorinsurgicallyexcisedage-relatedmaculardegeneration-relatedcholoidalneo-vascularmembranes.InvestOphthalmolVisSci37:855-868,19962)KvantaA,AlgverePV,BerglinLetal:Subfovealbro-vascularmembranesinage-relatedmaculardegenerationexpressvascularendothelialgrowthfactor.InvestOphthal-molVisSci37:1929-1934,19963)KlienM,SharmaH,MooyCMetal:Increasedexpres-sionofangiogenicgrowthfactorsinage-relatedmaculopa-thy.BrJOphthalmol81:154-162,19974)GragoudasES,AdamisAP,CunninghamETJretalforVEGFInhibitionStudyinOcularNeovascularization:Pegaptanibforneovascularage-relatedmaculardegenera-tion.NEnglJMed351:2805-2816,20045)VEGFInhibitionStudyinOcularNeovascularization(V.I.S.I.O.N.)ClinicalTrialGroup,ChakravarthyU,AdamisAP,CunninghamJrETetal:Year2ecacyresultsof2randomizedcontrolledclinicaltrialsofpegap-tanibforneovascularage-relatedmaculardegeneration.Ophthalmology113:1508.el-1525,2006

加齢黄斑変性の治療-(1)光線力学的療法

2008年9月30日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLS善した.欧米における代表的なAMDの多施設前向き研究はTreatmentofAge-RelatedMacularDegenerationPhotodynamicTherapy(TAP)Studyであるが,TAPStudyと比較すると,classicCNVが経過中に悪化した割合は,TAPStudyで43%であったのに対しJATStudyでは19%と少なく,さらに,occultCNVが悪化した割合はTAPStudyで66%であったのに対しJATStudyでは14%と少なかった.視力改善率もTAPStudyに比較しJATStudyでは良好であった.2008年にはJATStudyの追跡調査として治療後2年の結果が報告された2).JATStudyで1年の経過を完全に追えたのは61例で,そのうち51例が追跡調査に参加し,2年間の観察を完全に行いえたのは46例であった.その結果,視力はベースラインの視力である50.8文字から治療後2年で54.0文字に改善し,全体の70%の症例で視力は不変あるいは改善した.II日本版眼科PDTガイドライン3)1.PDTガイドラインの重要性JATStudyでは,検討症例数は64例と限られた例数であり,主としてpredominantlyclassicCNVを対象として検討が行われた.一方,JATStudyとTAPStudyの結果を比較するとPDTの効果は日本と欧米で異なることが示され,欧米の報告がすべて日本人に適応されるわけではないことがわかった.そこで,日本人におけるpredominantlyclassic以外のタイプの新生血管に対すはじめに日本における滲出型加齢黄斑変性(滲出型AMD)に対する光線力学的療法(PDT)の最初の評価がJATStudy(JapaneseAge-RelatedMacularDegenerationTrialStudy)1)によって行われ,2004年に本治療が認可されてから約4年が経過した.この間,本治療を行う施設は増加し,平成20年において,230の施設が約32,500人の症例に対して行っている.ベルテポルフィン(ビスダインR)を用いるPDTは,病態によってPDT単独かつ1回の照射で劇的な効果を示すが,なかには複数回の施行にかかわらず脈絡膜新生血管が加速度的に増大していく症例もある.最近ではPDTと種々の薬物を組み合わせた併用療法も行われ,さらにPDTの可能性が期待されつつある.本稿ではPDTの現状と可能性について述べる.IJapaneseAgeRelatedMacularDegenerationTrial(JAT)StudyAMDを対象とする臨床試験で,わが国における代表的な多施設前向き研究である.本研究はPDTの承認を得る目的で行われ,5施設からの64症例が対象とされた.観察された症例は50歳以上,視力20/4020/200,中心窩下の脈絡膜新生血管(CNV)でclassicCNVを有し,最大直径が5,400μm以下の症例である.PDT施行後1年の経過観察の結果,平均視力は治療前に50.8文字であったのが治療1年後には53.8文字と改(35)1223DaiiroTsuchiyaTeioamamoto学学学学9909585222学学学学特集●加齢黄斑変性あたらしい眼科25(9):12231229,2008加齢黄斑変性の治療(1)光線力学的療法TreatmentofAge-RelatedMacularDegeneration─(1)PhotodynamicTherapy土谷大仁朗*山本禎子*———————————————————————-Page21224あたらしい眼科Vol.25,No.9,2008(36)た.これらの結果から,本ガイドラインでは,PDTは病変の大きさにかかわらず適応になるとされている.しかし,大きな病変では網膜下あるいは網膜色素上皮下に線維性結合組織や出血などが存在することが多く,このためPDT後に線維性結合組織の収縮やこれに伴う網膜色素上皮裂孔などが生じる可能性が高い.したがって,病変が大きい症例では治療後の視力低下の可能性を十分に説明したうえでPDTを行うことが望ましいとされている.d.ベースラインの視力治療前の視力が0.5以下の症例では,治療後12カ月の時点で視力は改善あるいは維持されていたが,ベースラインの視力が0.5を超える症例では平均視力が有意に悪化した.PDTによって生じる網膜浮腫や出血が視力低下のおもな原因と考えられるが,治療前の視力が低ければ合併症が生じても視力低下の影響は少ない.これに対して視力良好例では合併症により著しく視力が低下する可能性が高いので,PDTの適応は十分慎重に考慮することが必要であるとされている.e.安全性(表1)PDTの合併症は,JATStudyでは,視力低下22%,硝子体出血は0%であったが,眼科PDT研究会の報告3)では,視力低下4.9%,網膜下出血4.5%,硝子体出血るPDTの効果および適応の是非を含めたより詳細なPDTの検討が望まれた.そこで,眼科PDT研究会が主導となり国内の13施設における症例(469例471眼)を対象として,PDTの効果についてさらに詳細な検討が行われた.加えて,本研究による検討結果をもとに日本におけるPDTのガイドラインが策定された.現在,本ガイドラインは臨床現場におけるPDTの指導手引となっている.2.検討結果a.CNVの病型本研究ではpredominantlyclassicCNV以外の病型,すなわちminimallyclassicCNV,occultwithnoclas-sicCNVも含めた3病型について検討が行われた.その結果,これらのすべての病型において12カ月間を通して視力は維持された.一方,TAPStudyでは,PDTはpredominantlyclassicCNVでおいてのみ視力低下が有意に抑制されたが,minimallyclassicCNVやoccultwithnoclassicCNVではその効果が認められなかった.日本と欧米でPDTの効果が異なる理由は,日本ではminimallyclassicやoccultwithnoclassicと分類されている症例のなかにPDTが有効とされるポリープ状脈絡膜血管症(PCV)が欧米に比較して多く含まれている可能性が考えられている.本研究でもPCVを伴う症例ではPCVを伴わない症例に比較して有意に視力が改善したことから,PCVを有する症例ではPDTが強く推奨されている.これらをまとめると,日本人ではすべての病型の新生血管にPDTが適応となり,特に,PCV病変を有する症例ではその効果が大きく期待されると考えられる.b.年齢高齢者ではPDTを行っても視力は維持されるのみにとどまったが,60歳を下回る若年者ではPDTにより視力の改善がみられた.c.病変の大きさGLD(病変部最大直径)が1,800μm以下の症例では治療後12カ月で有意に視力が改善した.しかし,GLDが1,800μmより大きいもの,なかでもGLDが5,400μmを超える症例でもPDTによる視力維持効果が認められ表1PDTで観察された副作用(1)眼局所(471眼)副作用発生頻度視力低下23(4.9%)網膜下出血21(4.5%)網膜出血7(1.5%)硝子体出血6(1.3%)網膜離3(0.6%)網膜色素上皮離1(0.2%)その他5(1.1%)合計45(9.6%)(2)全身(469例)背部痛9(1.9%)頭痛4(0.9%)その他13(2.8%)合計23(4.9%)(文献3より改変)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.9,20081225(37)は23%3)38%5)とされている.さらに,PCVはPDTによる治療効果が良好とされており,PDT後に視力改善が得られたものが39%6),または,ベースラインの視力の維持および改善の割合が79%7)と報告され,短期的にはその結果はきわめて良好である.しかし,最近,PCVに対するPDTの長期経過が報告され,PDTによって一度は滲出性変化が消失してもその後にPCVの再発や出血が少なからずみられることがわかってきた.PDT治療後1年以上経過を観察した場合,ポリープ状病変や滲出性変化の再発は3367%68)とされている.また,PDTを行っても異常血管網の大きさは縮小しないことが報告されており,ポリープ状病変の再発は異常血管網の周辺側に生じることが多いとされている7).しかしながら,視力予後は,PCVの再発のためにPDTを反復して行っても,PDT治療後24カ月で77%の症例が1.3%にみられている.これは,JATStudyにおける観察対象がすべてclassicCNVを有する症例であるのに対し,眼科PDT研究会での観察対象ではoccultwithnoclassicCNVを37.8%も有しているので,出血しやすいPCV症例が多く含まれている可能性が考えられる.いずれにしても,PDTは硝子体出血をひき起こすような高度な網膜下出血も生じる可能性があるので,治療前の十分な合併症の説明は重要である.全身では,眼科PDT研究会より背部痛や頭痛などの副作用が4.9%にみられたことが報告されている.IIIPDTの問題点と最近の話題a.PCVとPDTPCVは欧米人に比較してアジア人に多くみられることが指摘されており4),わが国の報告でもPCVの割合図1aPDT治療前の眼底所見上:色素上皮離の多発,網膜出血などが混在し,病変の範囲は大きい.下左:FA.下右:IA.PDTはポリープ状病巣に対して行われた.図1bPDTの治療後上:色素上皮離や網膜下出血は消失した.下左:FA.下右:IA:ポリープ状病巣は消失した.———————————————————————-Page41226あたらしい眼科Vol.25,No.9,2008(38)の大きい症例にインドシアニングリーン蛍光眼底造影検査(IA)を行うと,異常血管網やポリープ状血管などのPCVの構成成分をすべて含んでもFAによる病変の大きさよりはるかに小さい場合がある.このような症例に対しては,IA上でPCVの異常血管網やポリープ状血管などの病変を同定し,この範囲のみに照射を行うIA-guidedPDTが報告された9,10).PCV例では,1型や2型のCNVを合併しなければIA-guidedPDTの適応となる症例が多いが,注意すべき点は,網膜あるいは網膜色素上皮下に出血がある場合にはPCV病巣の一部が出血によって被い隠され,照射が完全にできない場合がある.c.PDT後の出血PDT後の急激な視力低下の原因には種々の病因があるが,最も頻度が多いものがPDT後の網膜下出血(図は視力が不変もしくは改善したことが報告されている7).以上より,PCVは再発しても長期的には全経過を通してPDTが有効であり,今後もPCVの治療の第一選択がPDTであることは変わらないであろう.b.病変の範囲と照射野広範囲の網膜下出血や大きな色素上皮離を生じやすいPCVなどでは,フルオレセイン蛍光眼底造影検査(FA)上で病変が広範囲に及んでおり,FA上の病変の大きさからPDTの大きさを決定しようとすると(FA-guidedPDT)非常に広い範囲のPDTの照射が必要になることがある(図1).大きい照射野を要する症例ではPDTの効果が得られにくい1)ばかりか,広範囲のPDT照射は,脈絡膜血管の閉塞や血管内皮増殖因子(VEGF)などを活性化する可能性がある.そこで,FA上で病変図2aPCV症例のPDT治療前左:眼底写真.中心窩下に橙赤色隆起状病変,出血性色素上皮離,軽度の漿液性離と網膜下出血を認める.中:FA.ニボーを形成した出血性色素上皮離.右:IA.ポリープ状病巣.図2bPDT治療後左:眼底写真.網膜下出血の拡大を認める.中:FA.右:IA.ポリープ状病巣の蛍光は減弱している.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.9,20081227(39)PDTに種々の薬物を併用することにより,PDTの施行回数を減らす試みがされている.Spaideら14)は,PDTにトリアムシノロンの硝子体内投与を併用し,PDT単独よりも良好な結果が得られることを報告した.その後,トリアムシノロンの硝子体内投与のほかにTenon下投与併用PDTが報告された15).現在わが国では,外来で簡便に行えることからトリアムシノロンのTenon下投与を併用している施設が多い.脈絡膜新生血管に対する抗VEGF薬の有効性についてはこれまでも多くの報告があった16)が,現在,PDTと抗VEGF薬の併用療法17,18)や抗VEGF薬,トリアムシノロン,PDTの3者併用療法も試みられている(図3)19).しかしながら,これらの併用薬がPDTの効果を過剰に作用させ,健常な脈絡膜組織を障害してしまう可能性も指摘されており20),併用療法については今後の注意深い検討が必要であると思われる.2)である.特にPCVで多いとされており,日本は欧米と比較してPCVの比率が多いので網膜下出血の頻度も高いと予想される.眼科PDT研究会の報告では,網膜下出血は4.5%,硝子体出血は1.3%とされている3).また,PCV症例におけるPDT後の網膜下出血の頻度は5%11)30%12)とされ,網膜下出血の症例のうち21.4%は硝子体出血が生じたことが報告されている12).出血の素因としては,大きい病変サイズ12)や拍動がみられるPCV13)などが指摘されているが,抗凝固剤の内服の有無は関連がないとされている1).IVPDTの発展:今後の展望a.薬物併用PDT病変サイズの小さいPCV症例などではPDT単独でも十分な効果が期待できるが,網膜血管腫状増殖(RAP)をはじめとする難治症例ではPDT単独での治療に限界がある.最近ではこのような難治症例に対しては,図3トリアムシノロン,抗VEGF薬,PDTの3者併用療法上段:すでにPDT単独療法を1回,トリアムシノロンとPDTの併用療法を1回行われているclassicCNV症例.下段:トリアムシノロン,抗VEGF薬,PDTの3者併用療法を行いCNVは退縮したが,IA所見で脈絡膜毛細管板の障害による低蛍光が認められる.———————————————————————-Page61228あたらしい眼科Vol.25,No.9,2008(40)適の効果を得るためには,PDTの照射エネルギーを症例や治療法に合わせて調節することが理想的であるが,実際には各症例で病態も治療の組み合わせも千差万別なので,テーラーメードのPDT治療は考えるほど簡単なものではないように思われる.今後のさらなる検討が期待される.文献1)JapaneseAge-RelatedMacularDegenerationTrial(JAT)StudyGroup:Japaneseage-relatedmaculardegenerationtrial:1-yearresultsofphotodynamictherapywithverteporninJapanesepatientswithsubfovealchoroidalneovascularizationsecondarytoage-relatedmaculardegeneration.AmJOphthalmol136:1049-1061,20032)JapaneseAge-RelatedMacularDegenerationTrial(JAT)StudyGroup,OhjiM:PhotodynamictherapywithverteporninJapanesepatientswithsubfovealchoroidalneovascularizationsecondarytoage-relatedmaculardegeneration(AMD):ResultsoftheJapaneseAMDTrial(JAT)extension.JpnJOphthalmol52:99-107.Epub2008Apr30,20083)TanoY;OphthalmicPDTStudyGroup:GuidelinesforPDTinJapan.Ophthalmology115:585-585.e6,20084)WenF,ChenC,WuDetal:Polypoidalchoroidalvascul-opathyinelderlyChinesepatients.GraefesArchClinExpOphthalmol242:625-629,20045)ShoK,TakahashiK,YamadaHetal:Polypoidalchoroi-dalvasculopathy:incidence,demographicfeatures,andclinicalcharacteristics.ArchOphthalmol121:1392-1396,20036)WakabayashiT,GomiF,SawaMetal:Markedvascularchangesofpolypoidalchoroidalvasculopathyafterphoto-dynamictherapy.BrJOphthalmol92:936-940,20087)AkazaE,MoriR,YuzawaM:Long-termresultsofpho-todynamictherapyofpolypoidalchoroidalvasculopathy.Retina28:717-722,20088)SilvaRM,FigueiraJ,CachuloMLetal:Polypoidalchoroi-dalvasculopathyandphotodynamictherapywithverteporn.GraefesArchClinExpOphthalmol243:973-979.Epub2005Oct20,20059)OtaniA,SasaharaM,YodoiYetal:Indocyaninegreenangiography:guidedphotodynamictherapyforpolypoidalchoroidalvasculopathy.AmJOphthalmol144:7-14.Epub,200710)EandiCM,OberMD,FreundKBetal:Selectivephoto-dynamictherapyforneovascularage-relatedmaculardegenerationwithpolypoidalchoroidalneovascularization.Retina27:825-831,200711)ChanWM,LamDS,LaiTYetal:Photodynamictherapywithvertepornforsymptomaticpolypoidalchoroidalvas-b.中心窩下2型新生血管に対するPDTTAPStudyはpredominantlyclassicCNVに対する有効性を示した代表的な研究であるが,近年,中心窩下の2型新生血管に対するPDTの視力改善効果に疑問がもたれている21).中心窩下の2型新生血管ではPDTの治療後に新生血管が線維化し,新生血管に接する網膜には胞形成や萎縮がみられ,最終的には治療前より視力が低下する症例も少なくない(図4).そこで,最近ではPDTを行わずに抗VEGF薬で治療する試みがされている.しかしながら,抗VEGF薬でも新生血管の高度な線維化および収縮が生じうるので,視力維持および改善効果については今後の検討が望まれる.c.Reduceduencephotodynamictherapy現在行われているスタンダードなPDTの照射条件は,波長689±3nm,出力は600nW/cm2,光照射エネルギー量は50J/cm2,照射時間83秒とあらかじめ設定されており,原則としてその条件を変えることはできないが,最近,低い照射量でPDTを行う試みがされている22).現在の照射条件はあくまでもPDT単独治療の条件で設定されたので,PDTに種々の薬剤を併用する場合はPDTの全照射エネルギーを調節することでPDTの過剰作用などを避けることができるかもしれない.最図4ClassicCNV症例上段:PDT前.視力0.1.下段:PDT後にCNVは強く線維化し,視力は0.02と低下した.———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.25,No.9,20081229culopathy:one-yearresultsofaprospectivecaseseries.Ophthalmology111:1576-1584,200412)HiramiY,TsujikawaA,OtaniAetal:Hemorrhagiccom-plicationsafterphotodynamictherapyforpolypoidalchor-oidalvasculopathy.Retina27:335-341,200713)赤座英里子,松本容子,湯沢美都子:ポリープ状脈絡膜血管症にみとめられる病巣の拍動と予後.日眼会誌110:288-292,200614)SpaideRF,SorensonJ,MarananL:Combinedphotody-namictherapywithvertepornandintravitrealtriamcino-loneacetonideforchoroidalneovascularization.Ophthal-mology110:1517-1525,200315)VandeMoereA,SandhuSS,KakRetal:Eectofposte-riorjuxtascleraltriamcinoloneacetonideonchoroidalneo-vasculargrowthafterphotodynamictherapywithverte-porn.Ophthalmology112:1896-1903,200516)RosenfeldPJ,SchwartzSD,BlumenkranzMSetal:Maxi-mumtolerateddoseofahumanizedanti-vascularendothelialgrowthfactorantibodyfragmentfortreatingneovascularage-relatedmaculardegeneration.Ophthal-mology112:1048-1053,200517)KimIK,HusainD,MichaudNetal:EectofintravitrealinjectionofranibizumabincombinationwithvertepornPDTonnormalprimateretinaandchoroid.InvestOph-thalmolVisSci47:357-363,200618)YoganathanP,DeramoVA,LaiJCetal:Visualimprove-mentfollowingintravitrealbevacizumab(Avastin)inexu-dativeage-relatedmaculardegeneration.Retina26:994-998,200619)AugustinAJ,PulsS,OermannI:Tripletherapyforchoroidalneovascularizationduetoage-relatedmaculardegeneration:vertepornPDT,bevacizumab,anddexam-ethasone.Retina27:133-140,200720)RouvasAA,PapakostasTD,LadasIDetal:Enlargementofthehypouorescentpostphotodynamictherapytreat-mentspotafteracombinationofphotodynamictherapywithanintravitrealinjectionofbevacizumabforretinalangiomatousproliferation.GraefesArchClinExpOphthal-mol246:315-318,200821)DoyleE,KhanwalaM,ShahSPetal:One-yearresultsofphotodynamictherapyforsmallpredominantlyclassicchoroidalneovascularmembranessecondarytoage-relat-edmaculardegeneration.EurJOphthalmol17:760-767,200722)SinghCN,SapersteinDA:Combinationtreatmentwithreduced-uencephotodynamictherapyandintravitrealinjectionoftriamcinoloneforsubfovealchoroidalneovas-cularizationinmaculardegeneration.Retina28:789-793,2008(41)