———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLS今回の記事の依頼をいただいたときに,筆者のところにヒト眼の角膜と同じ色収差,同じ球面収差(平均値)をもつレンズを用いた模型眼があり,この模型眼に実際の眼内レンズを挿入して,実際の光学像を見てみようと考えた.そして,この特集に出てくる多焦点眼内レンズの遠方と近方の網膜上の光学像の実験結果を紹介することにした.すでに,模型眼を使用した実験報告が2つある2,3).ThomTerweeoら2)の論文では,模型眼は平均的な角膜の球面収差をもったもので,水槽に眼内レンズを入れてその像を見るものである.視標に3本バーの解像力チャートを用いて,ReSTORR(米国アルコン社),ReZoomTM(米国AMO社),TECNISTMMultifocalZM900(米国AMO社),その他の眼内レンズのテストを行っている.Modulationtransferfunction(MTF)は緑色の光を用いてこの3本バーの解像力チャートを照明し,像のコントラストを測定して求めている.一方,JunohChoiら3)の論文では,スリット光のエッジのボケ方からスルーフォーカス(フォーカス位置を変えたときの)MTFを求めているのと,夜の画像をを撮影して,ハロー,グレアの像を紹介している.筆者の使った模型眼も基本的に彼らの模型眼と同じである.Iシミュレーションに用いた模型眼実験に用いた模型眼の写真を図1に示す.角膜に当たるレンズはPMMA(ポリメチルメタクリレート)でできていて,ヒト眼と同じ色収差,平均的な球面収差0.27はじめにバイフォーカル眼内レンズの特集欄中の1篇を《あたらしい眼科》に書いたのが,1年半前のことである.そのなかでは,回折型,屈折型の多焦点眼内レンズの網膜上の光学像を計算機シミュレーションにて紹介した1).その際,用いた収差は少し量が多かったが,それぞれの型の特徴をよく表していたように思う.その結論のなかで,「シミュレーションでわかったのは,瞳孔の小さい場合でも回折型は適応可能であることである.しかし,瞳孔が開くと,球面収差がない場合は,解像している範囲が狭くなり,屈折型のほうがその点は優れているように思われる.」と述べた.さらに,「多焦点眼内レンズの特性で一番気になるのは,中間の見え方が悪いことである.これは加入度が高いためである.少し加入度を下げて,中間の見え方を良くすることも考えられる.加入度を下げることにより無限遠から近方が50cmくらいまで見えるようになれば,生活に不自由はないと思われる.ただ,そのときに,2つの焦点による像が重なり,コントラストが低下し,特に近方の見え方が悪くなるようでは,困るので,レンズにはなにか工夫がいるように思われる.前回,一般的に多くの近用視力表の測定距離は30cmとなっているが,患者のQOL(qualityoflife)を考慮し,今後は柔軟な近方視の評価方法を検討する必要があるのではないだろうか.」と述べた.その甲斐があってかどうかわからないが,HOYA社からは中間重視のレンズが出てきた.(9)1055auioOnuma学学学263133学学学特集●多焦点眼内レンズあたらしい眼科25(8):10551060,2008多焦点眼内レンズの光学特性OpticalCharacteristicsofMultifocalIntraocularLenses大沼一彦*———————————————————————-Page21056あたらしい眼科Vol.25,No.8,2008(10)得した.用いた波長は中心波長564nm,半値幅10nmの干渉フィルターである.本来であれば,ヒトの最大視感度の波長555nmの干渉フィルターを用いるべきであるが,手元にあったこの波長に一番近いものを用いた.それほどの違いはないものと思われる.瞳孔は3mmと5.5mmとした.これは昼間と夜間の瞳孔を想定している.IIテストレンズの特徴今回実験に使用したレンズは,1:Acri.LISAR(Acri.Tec社),2:ReSTORR(米国アルコン社),3:MVI1-C(HOYA社),4:ReZoomTM(米国AMO社),5:TECNISTMMultifocalZM900(米国AMO社)であり,図2に示す.その特徴をレンズごとに簡単に紹介すると,1.Acri.LISAR(Acri.Tec社)はカタログからみると屈折+回折型,非球面レンズで球面収差を補正し,加入度3.75Dでおよそ36cmに近方焦点がある.遠方に65%,近方に35%の光が集まるように設計されている.2.ReSTORR(米国アルコン社)は屈折+回折型で,周辺は屈折のみである.球面レンズで,加入度4.0Dでおよそ31cmに近方焦点がある.瞳孔が大きくなると遠方の光が集まるように設計されている(アポダイゼーション).アメリカでは非球面のものもあるが,日本ではまだであμm(6mm瞳孔径)をもっている.この角膜対応のレンズのすぐ後ろに水槽があり,その中に眼内レンズを設置でき,眼内レンズの直前に瞳孔に当たる開口が置かれる.この開口はいろいろな大きさのものが用意されていて,交換することが可能である.この模型眼の直前には干渉フィルターが設置でき,特定の波長の光学像を得ることができる.ここでは,5m,3m,1m用のLandolt環視標を作製して,遠方,中間の距離での像を得ることにした.一方,近方は,パソコンから11,12ポイントの文字をプリンターへ出力した紙を用いた.近方の視標位置は像のコントラストが一番良いと思われる位置とその位置+2cm,その位置2cmのところのデータを取角膜に相当するレンズ部分この奥に,水槽に入った眼内レンズがあるCCDカメラ図1実験に使用した模型眼球面収差と色収差を平均的なヒト眼の角膜の値にしてある.12345図2実験に使用した眼内レンズ1:Acri.LISAR(Acri.Tec社),2:ReSTORR(米国アルコン社),3:MVI1-C(HOYA社),4:ReZoomeTM(米国AMO社),5:TECNISTMMultifocalZM900(米国AMO社).———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.8,20081057(11)IIIシミュレーション結果図3,4にAcri.LISAR(Acri.Tec社)の瞳孔径が3mmと5.5mmの結果を示す.瞳孔の変化による見え方の違いはなく,近方よりも遠方の見え方が優れている.これは非球面で,角膜の球面収差を補正しているためである.近方1mのところでは球面収差が補正されているので,視標のコントラスト,解像力が低下し,見える範囲が狭いことを示している.36cmに近方焦点がある設計であったが,結果をみると34cmくらいのようである.つぎに,図5,6にReSTORR(米国アルコン社)の瞳孔径が3mmと5.5mmの結果を示す.瞳孔の大きさが変化するとだいぶ見え方が変わる.瞳孔径3mmでは,37cmから39cmのところに近方焦点があった.この大る.3.MVI1-C(HOYA社)は3ゾーンの屈折型で中心と周辺が遠用で,中間が近用である.加入度は2.25Dであり,中間視重視型である.宣伝文句では,近くを見るときは眼鏡使用をうたっている.非球面であるが,角膜の球面収差を打ち消すのが目的ではない.4.ReZoomTM(米国AMO社)は5ゾーンの屈折型であり,中心から遠近遠近遠である.加入度3.5Dで,39cmに近方焦点がある.球面レンズで,角膜の球面収差を打ち消してはいない.5.TECNISTMMultifocalZM900(米国AMO社)は回折型であり,加入度4.0Dでおよそ31cmに近方焦点がある.遠近の光量の割り振りは50%ずつであり,遠近均等配分であり,非球面で角膜の球面収差を打ち消す仕様となっている.5m3m1m34cm32cm30cm図3Acri.LISAR─瞳孔径3mmの場合の遠方5mから1mまでのLandolt環視標の網膜上の光学像と近方焦点付近の文字の光学像図4Acri.LISAR─瞳孔径5.5mmの場合の遠方5mから1mまでのLandolt環視標の網膜上の光学像と近方焦点付近の文字の光学像図5ReSTORR─瞳孔径3mmの場合の遠方5mから1mまでのLandolt環視標の網膜上の光学像と近方焦点付近の文字の光学像図6ReSTORR─瞳孔径5.5mmの場合の遠方5mから1mまでのLandolt環視標の網膜上の光学像と近方焦点付近の文字の光学像———————————————————————-Page41058あたらしい眼科Vol.25,No.8,2008(12)読むのには邪魔していないように思う.ただ,この種の屈折型のレンズ特有の遠方の像に近用の像のボケが重なり,気になる.5.5mm瞳孔では近方の文字は読みにくくなる.これは,5.5mm瞳孔では,遠用と近用の比率が遠用に大きく傾くためである.このレンズは,非球面であるが,球面収差を補正しているわけではないので,球面収差が残っていて5.5mm瞳孔でも,広い範囲が見えることになる.図9,10にはReZoomTM(米国AMO社)の瞳孔径が3mmと5.5mmの結果を示す.3mmでの近方の像のコントラストはMVI1-C(HOYA社)よりも少し低いが,十分に読める.この特性はMVI1-Cと同様であり,屈折型レンズ特有で,遠方の像に近用の像のボケが重なり,気になる.5.5mm瞳孔では,MVI1-Cと比較して,遠方のコントラストが低く,近方のコントラストが高きさの瞳孔では文字も読めるが,遠用のボケが重なり,きれいな像ではない.5.5mm瞳孔では,近方の文字は読めない.遠方は球面収差のためにコントラストが低下している.Acri.LISARと比較すると,1mの視標の解像力はいいのがわかる.つまり,球面収差を残しているので,全体的にコントラストは低下するが,見える範囲は広がっているのである.遠方の像には,近用部のボケ像の広がりが大きく,気にならず,すっきりした感じがある.図7,8にMVI1-C(HOYA社)の瞳孔径が3mmと5.5mmの結果を示す.3mm瞳孔では,40cm付近に近方焦点があるが,実際は,近方の役割をしているゾーンの幅が狭いので,近方の焦点が合う範囲は広い.設計仕様どおりで,よくできているように思う.文字は十分に読めると思われるし,遠用部分によるボケもきれいで,5m3m1m42cm40cm38cm図7MVI1C─瞳孔径3mmの場合の遠方5mから1mまでのLandolt環視標の網膜上の光学像と近方焦点付近の文字の光学像図8MVI1C─瞳孔径5.5mmの場合の遠方5mから1mまでのLandolt環視標の網膜上の光学像と近方焦点付近の文字の光学像図9ReZoomTM─瞳孔径3mmの場合の遠方5mから1mまでのLandolt環視標の網膜上の光学像と近方焦点付近の文字の光学像図10ReZoomTM─瞳孔径5.5mmの場合の遠方5mから1mまでのLandolt環視標の網膜上の光学像と近方焦点付近の文字の光学像———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.8,20081059(13)読めるし,中間距離も見える.瞳孔が開くと遠方重視となる.ReZoomTMは瞳孔が開いても閉じても遠近均等配分.TECNISTMMultifocalZM900は瞳孔が小さいときは遠近均等配分で,大きいときは遠方重視型である.ずいぶんと差別化のために,いろいろな種類のレンズが出てきたことに感心する.これらの結果をみると,やはり角膜の球面収差を打ち消す負の球面収差をもったレンズのほうが,コントラストの高い像を作っているのがわかる.ReSTORRの非球面の結果をここでは示さないが,球面のレンズと比較すると,遠近ともにコントラストは高い像が得られている.最後に,今後のことを述べれば,今回のシミュレーションはあくまでも網膜のうえの光学像であり,実際の昼間の見え方では,もう少しコントラストは良いと思われる.そこで,ヒトの網膜から脳での情報処理をしたときの像シミュレーションをしたいと思う.また,夜間の見え方では,ハロー,グレアが見えることになるものと思われるが,今回のシミュレーションでは夜を想定して,視標の白と黒を反転したものを用いていないので,想像していただくしかないのであるが,特に屈折型では,気になるのではと思われる.夜を想定したチャートを作成して,ハロー,グレアのテストも行い,報告できればと思う.また,スタイルスクロフォード効果を今回は考慮していない.このような記事が書ける機会があれば,この効果を入れた模型眼による実験を示したいと考えている.い.これは,MVI1-Cに比べて,5.5mm瞳孔のときの遠用と近用の比率が遠用に大きくはならないためである.図11,12にTECNISTMMultifocalZM900(米国AMO社)の瞳孔径が3mmと5.5mmの結果を示す.瞳孔径が3mmの場合,遠方も近方もコントラストは低いもののすっきりとした像である.これは,遠近の比率が50%ずつであろうと思われる.しかし,瞳孔が3mmから5.5mmに変化すると,近方のコントラストが落ち,中間(1m)の解像力,コントラストが落ちるのがわかる.これは,遠近の比率が少し,変わるのと,非球面レンズで,角膜の球面収差を補正しているためと思われる.おわりにいろいろなタイプの多焦点眼内レンズの光学特性について,球面収差,色収差をもった模型眼を用いて,瞳孔径が3mmと5.5mmにおける距離ごとの網膜像を用いて検討した.瞳孔の大きさは人によってまちまちなので,ここで示した結果のようにはならない場合もあると思うが,平均的な場合としてみていただきたい.シミュレーションで設計思想がずいぶんと異なることがよくわかった.Acri.LISARは遠方重視で,近方の字は何とか読めればいい.ReSTORRも遠方重視で,近方の字は何とか読めればいい.Acri.LISARよりは近方の字は読めるけれど,遠方はAcri.LISARのほうがコントラストが高い.MVI1-Cは瞳孔が小さいときは文字も5m3m1m40cm38cm36cm図12TECNISTMMultifocalZM900─瞳孔径3mmの場合の遠方5mから1mまでのLandolt環視標の網膜上の光学像と近方焦点付近の文字の光学像図11TECNISTMMultifocalZM900─瞳孔径3mmの場合の遠方5mから1mまでのLandolt環視標の網膜上の光学像と近方焦点付近の文字の光学像———————————————————————-Page61060あたらしい眼科Vol.25,No.8,2008(14)andaspheric,diractive,andrefractivemultifocalintraoc-ularlenses.JRefractSurg24:223-229,20083)ChoiJ,SchwiegerlingJ:Opticalperformancemeasure-mentandnightdrivingsimulationofReSTOR,ReZoom,andTecnismultifocalintraocularlensesinamodeleye.JRefractSurg24:218-222,2008文献1)大沼一彦:特集バイフォーカル眼内レンズ回折型多焦点眼内レンズの光学特性.あたらしい眼科24:137-146,20072)TerweeT,WeeberH,vanderMoorenMetal:Visualiza-tionoftheretinalimageinaneyemodelwithsphericalコンタクトレンズフィッティングテクニック【著】小玉裕司(小玉眼科医院院長)CLの処方に必要な角膜・涙液・屈折矯正・その他の知識/CLの選択/ハードCLの処方/フルオレセインパターンの判定方法と注意点/レンズデザインと角膜形状/ベベル・エッジのチェック/SCLの処方・種類・選択/CLと定期検査・眼障害/HCLの修正/修正によるHCLの苦情処理-くもり・充血・異物感・視力/SCLの苦情処理-くもり・かすみ・視力低下・異物感・眼痛・流涙・充血/乱視に対するCLの処方/ドライアイ/ラウンドコルネア/カラーCL/治療用SCL/無水晶体眼・乳幼児と小児に対するCLの処方/光彩付きCL・義眼CLの処方/ハード・ソフトタイプバイフォーカルCLの処方/HCLのカスタムメイドの処方/CLと点眼薬/CLとケア用品/●ワンポイントB5判総152頁カラー写真多数収載定価8,400円(本体8,000円+税400円)メディカル葵出版〒113─0033東京都文京区本郷2─39─5片岡ビル5F振替00100─5─69315電話(03)3811─0544■内容目次■この本があれば,明日からのコンタクトレンズ診療は安心して出来る!株式会社