———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSI眼鏡レンズの光学系と収差眼鏡レンズの使用状態を図1で表すことができる.眼球は点Rを中心に回旋して見たいものに照準するようになっている.つまり,レンズ上いかなる点を通過する主光線も点Rを通過する.したがって,光学系の出射瞳位置は点Rにある.瞳の大きさは,眼球の瞳孔径と同程度で,最大でも6mm程度で,レンズの焦点距離に比べれば微々たるものである.視野はレンズ全体をカバーする必要があるので40?以上確保しなければならない.したがって,眼鏡レンズ光学系の特徴は,大視野小口径といえよう.レンズ1枚で大視野小口径の光学系を設計する場合に考える収差はおもに非点収差と像面弯曲の2種類である.眼鏡光学系は,カメラと違って,目標像面が平面ではない.単焦点レンズの場合,目標像面は?点を中心とはじめにQOV(qualityofvision)はさまざまな要因によって影響されるが,本稿では,眼鏡レンズの光学設計の要因だけに絞って議論を展開していく.眼鏡レンズといっても,使用目的,使用対象によって,さまざまな種類がある.ここではごく一般的な屈折異常補正用眼鏡レンズを対象とする.屈折異常補正用眼鏡レンズは,単焦点レンズと累進屈折力レンズ(以下,累進レンズと略す)とに分けられる.単焦点レンズはその名のとおり全レンズ面にわたっての単一屈折力なので,比較的単純である.ただ,厳密に全レンズ面にわたっての単一屈折力は理論的に不可能なので,いかにその理想に近づけるかが光学設計のポイントである.累進レンズは加齢による調節力低下を補うために開発されたレンズで,レンズ上方から下方に向けて屈折力が増加するように設計されている.屈折力を変化させることは,調節力補?効果を得ると同時に,ユレ・ユガミというQOV低下の要因もつくっている.本稿では単焦点レンズと累進レンズの光学設計の基礎知識と,設計目標の設定の底流にあるレンズ性能評価の考え方,方法について,従来の収差補正に加え,近年発展した新しい評価指数を紹介する.なお,内容の性質上どうしても数学式を多用せざるをえないので,多少のむずかしさを辛抱して読んでいただけるとありがたい.(31)????*HuaQi:HOYA株式会社ビジョンケアカンパニー開発部設計室〔別刷請求先〕祁華:〒190-0151あきる野市小和田1-1HOYA株式会社ビジョンケアカンパニー開発部設計室特集●眼鏡の新しい展開あたらしい眼科24(9):1163~1172,2007眼鏡レンズの光学設計とQOV?????????????????????????????????????????祁華*図1眼鏡レンズの光学系VQRFSFTFDxyzx¢y¢z¢POqVSFPS———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007した球面FPSである.ここの?点は軸上の像点で,レンズ後方頂点?との距離は,屈折力の逆数に等しい.たとえば,屈折力1Dの場合??=1m,屈折力-2.00Dの場合??=-50cmとなる.周辺光線の像点は目標像面FPS上におさまることが理想であるが,一般的に多少離れた場所にある.その乖離量は像面弯曲収差という.眼鏡の場合の像面弯曲は周辺光線の屈折力誤差を意味する.周辺光線の屈折力は後方頂点球面(?を中心とし,レンズ後方頂点?を通る球面)??から測る.図1の例では,周辺光線の屈折力がサジタル方向(円周方向)とタンジェンシャル方向(半径方向)それぞれKQFKQFTTSS==11,KQFKQFTTSS==11,である.仮に目標とする屈折力がKVF=1KVF=1だとすれば,平均屈折力誤差MOE(meanobliqueerror)と非点収差OAE(obliqueastigmaticerror)は下記のように定義されている:MOEKKKOAEKKTSTS=+()=12また,MOPKKTS=+()12は平均屈折力とよばれる.以上の説明は便宜上回転対称単焦点レンズの場合と仮定しているが,累進レンズの場合,各視方向それぞれ異なる目標屈折力?があると考えればいい.累進レンズは軸回転対称でないので,周辺視の非点収差主方向は必ずしもサジタル方向(円周方向)とタンジェンシャル方向(半径方向)にならず,一般条件下の非点光線追跡でそれを求める必要がある.乱視処方がある場合,目標屈折力自体に非点収差成分が含まれる(乱視と非点収差は同義語)ので,実際の屈折力からその非点収差成分を含めた目標屈折力を差し引いてMOEとOAEを算出する必要がある.その際周辺視方向における乱視軸方向の確定は,眼球回旋のリスティング法則に従うようにしなければならない.すべての視野角において,MOEとOAEをともにゼロとすることができれば理想的である.しかし,その理想が実現できるのは矯正度数?がゼロの単焦点レンズのケースだけである.このケースは本来眼鏡を必要としない.つまり,眼鏡レンズには多かれ少なかれ収差をもっていている.レンズの光学設計の役割は,収差によるQOV低下を最小限にとどめることにあるといえる.II単焦点レンズの光学設計外面と内面がともに球面形状の単焦点レンズを球面レンズという.球面レンズ設計の自由度は,外面のカーブ??だけである.ちなみにカーブとは面屈折力で,nr1で計算される.ここで?は屈折力,?は面半径である.1904年チェルニング(Tscherning)はザイデル(Seidel)収差領域で非点収差がゼロになる??をグラフにして発表した.このグラフは有名なチェルニングの楕円である1)(図2).図2のように,レンズ屈折力?が与えられたとき,ザイデル収差領域で非点収差がゼロになる??の解は2個あって,それぞれウォラストン(Wollaston)型とオストワルト(Ostwalt)型といわれている.後者のほうが前者よりカーブが浅く実用性が高い.チェルニングの楕円はあくまでもザイデル収差領域で非点収差がゼロになる解で,一般条件下の非点光線追跡では解が楕円曲線より離れる.また,非点収差のみを解消する考え方も合理性に欠けると考えられることもあって,実際メーカー各社の球面レンズ設計はオストワルト解より多少浅いカーブを採用している.それでも思い切って浅いカーブを採用することはできない.一方,眼鏡のファッション性,快適性から,薄い,軽いフラットなレンズが求められている.上述のように,球面のまま浅いカーブを採用すると収差が増えるので,非球面を採用して増えた収差を補正する方法が考えられた.図3はプラスレンズの各種設計の収差グラフの比較である.矯正度数によって,収差のスケール,そして視野角のスケールが異なるので,この図はあくまでイメー(32)図2チェルニングの楕円-30-205105101520???無限遠方物体25cm前方物体WollastonOstwalt-10———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007????ジ図である.球面のままカーブを浅くすると,周辺視野で大きなMOEとOAEが生じる.片面非球面(前面または後面)を用いることによって,MOEとOAEを深いカーブの球面と同等なレベルに減らすことができる.両面非球面を採用することによって,さらにMOEとOAEを減らすことができる.この図はあくまでイメージで,設計の補正目標によっては,収差曲線が異なってくる.設計目標の設定はさまざまな考え方で行われている.たとえば,単純に無限遠方の物体に対して,すべての視野角でOAEをゼロに,またはMOEをゼロにする目標が考えられた.どちらか一方だけをゼロにするのは偏りすぎるので,MOEとOAEに重みをつけて最小化する目標も考えられた.老眼鏡は別にして,一般的な単焦点レンズは無限遠方ばかりではなく,中間距離や近方にある物体を見ることも多いから,さまざまな対物距離に対するMOEとOAEに重みをつけて最小化する目標も考えられた.さらに,眼鏡は眼球との位置関係を精密機械のように正確に保つことがむずかしいので,多少ずれた状態でも大きく性能が低下しないように設計されたレンズも商品化されている.III累進レンズの光学設計累進レンズは加齢による調節力低下のための眼鏡レンズの一種であり,遠方視から近方視へと,視線が下方へ移行することに対応して屈折力を累進的に増加させてあるレンズのことである.加齢による調節力低下対策レンズとしては,遠用単焦点レンズに近用の窓を開けるバイフォーカルレンズが古くからある.累進レンズは,近方視における調節力不足を補うことについてはバイフォーカルレンズと同様であるが,屈折力変化が連続的となっていることが決定的な違いである.この連続性は累進レンズの長所でもあり,欠点の原因でもある.すなわち,屈折力が連続的に変化している曲面には,視野領域の境界線が存在しないので,バイフォーカルレンズのように一目で老眼とわかってしまう欠点がない.遠方視から近方視への視距離の変化に対する調節力の補?が,連続的な屈折力変化により滑らかに行われるので,ごく自然な見え方となる.一方,屈折力の変化が倍率の変化をもたらすことになる.眼がレンズの異なる部分を透して見たものの大きさが変化するから,ユレ・ユガミの感覚をひき起こしてしまう.これが累進レンズのデメリットとなる.累進面は複雑な曲面だが,理解を容易にするために骨格の構造にたとえて解説する.まず,レンズ表面の中央部縦方向に所定の屈折力変化を与える断面曲線を配置する.これをレンズ面における“背骨”にたとえるならば,“肋骨”にあたる横方向の断面曲線を無数に配置することで,一つの曲面が形成される(図4).それらの直交断面曲線(背骨と肋骨)の曲率半径を,交点において相互に等しくすることにより,“背骨”に沿った曲面上の部分に微小球面の連なりをつくることができる.したがって,この“背骨”にあたる断面曲線は「へそ状子午線」ともよばれる.さて,この累進面では“背骨”に沿った曲率半径が下(33)図3プラスレンズの収差グラフのイメージ????????????????????????深カーブ球面浅カーブ球面浅カーブ単面非球面浅カーブ両面非球面パワー視野角視野角視野角視野角図4累進レンズ表面加入度明視領域累進帯度数変化曲線鼻側耳側近用内寄せ———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007方に向かって徐々に小さくなっているので,対応している各々の“肋骨”の曲率半径も下方に位置するものほど小さくなっている.このためこの無数の“肋骨”が織りなす面は,“背骨”から側方に遠ざかるにつれ,上方よりも下方が巻き込まれた,ねじれた曲面を形成している.そしてこのねじれた曲面こそ累進特有の非点収差の原因であり,このねじれを減らすことが非点収差を減らすことになる.累進レンズは光軸に関して回転対称ではないので,単焦点のようにグラフで収差を表示することができない.代わりに収差分布図というものがある.図5に示したのは収差図の一例で,左がMOP分布,右がOAE分布で,等高線の1階段が0.25Dである.非点収差OAEは眼にとって望まざるものなので,なるべく小さく抑えたいが,すべての領域でそれができるとは限らない.遠方領域のOAEフリー面積を広く取ると,そのしわ寄せが中間領域や近方領域にかかってくる.逆も然りである.累進レンズの設計は,各領域の広さのバランスをとって行われている.平たく言うと,度数変化がひき起こす非点収差という“しわ”をレンズ全体に薄く広く分布させるか,それともメリハリをつけて,あまり視線のいかないレンズ下方の両側に集中させるかである.前者はソフト設計,後者はハード設計といわれている.実際は各領域の明視域の広さ,非点収差の大きさのバランスをとって設計が行われている.バランスのとり方はすなわち設計目標の設定の仕方でもあり,でき上がったレンズの性格を決めてしまう.メーカー各社は長い間顧客と対話しながら,新製品開発を通じて,顧客満足を向上させるバランスのとり方を習得してきた.このプロセスは今後も続くであろう.設計目標の設定は,評価方法にもかかわる.単に非点収差分布と平均度数分布でレンズを評価することもあれば,QOVに直結するボヤケ,ユガミ,ユレの分布を評価する方法もある.後者については後に詳しく説明する.このように累進レンズの改善には収差バランスの適正化が不可欠であるが,より根本的な改善方法は収差量そのものを低減させることであろう.概して収差量は累進帯の屈折力変化曲線(図4参照)の勾配に比例していると考えられる.この屈折力変化勾配は遠近の視野間隔,すなわち累進帯長に逆比例しており,遠近の屈折力差,すなわち加入度数に正比例している.したがって累進帯長を長くするか加入度数を少なくすれば,収差量そのものを低減させることができる.そこで主として遠方視野を制限することで目的距離の明視範囲を広くする専用レンズが考案された.たとえば,遠方視野を通常より高めに配置することで累進帯長を長くし,中間部と近用部の視野を大幅に改善した室内用の「中近レンズ」.また,遠方視野を完全に取り除くことにより,加入度数を低く抑え,中間部も使える近用主体のレンズとした「近近レンズ」などが開発されている.こうした専用レンズは,遠近レンズとしての機能は果たせないが,中近や近近という限られた目的距離範囲では累進レンズの違和感が少なく,快適な見え方が実現されている.IV累進レンズの評価非点収差や度数誤差で累進レンズの光学性能を評価することはオーソドックスな方法だが,QOVの観点からみれば,やや適切さに欠ける感がある.累進レンズをかけて感じる不具合は,概してボヤケ,ユガミ,ユレの3つの感覚である.これらを非点収差と度数誤差では説明するのがむずかしい.HOYAは,ボヤケ,ユガミ,ユレの感覚を直接評価する評価指数を提唱し,累進レンズを評価している.それぞれ明瞭指数,変形指数,ユレ指数と称する.以下これらの指数の定義や評価例を紹介する.(34)図5累進レンズの収差分布図平均度数分布非点収差分布———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007????1.明瞭指数ぼやける感覚は,光線が網膜黄斑部に集中せず,ある程度広い範囲にバラけることによってひき起こされる.光線の網膜上にバラける範囲の大きさを把握すれば,明瞭の程度を測ることができる.図6は明瞭指数の算出過程を示している.網膜上の光線分布を取得するには,眼球の光学モデルが必要である.ここでは,Navarro(1985)のモデルを採用した2).このモデルの一番大きな特長は眼球調節できることにある.つまり,調節度数によって,水晶体前後面の曲率や間隔が変化する方程式が記述されている.累進レンズの評価に使う眼球モデルとしては欠かせない性能である.レンズ上?点を透して?点を見る場合の光学系を考える.眼球以外の光学系要素は確定しているが,眼球調節度数を決める必要がある.眼球調節度数は?点の回旋中心?からの距離と,?点におけるレンズ形状によって,網膜に結像するために必要な眼球調節度数を算出し,さらに眼の調節力範囲内の最もそれに近い値を選んで決める.これで?点を網膜に写像するすべての光学系要素が確定した.後は?点から発し入射瞳を均等分割する多数の分割点を通る光線を追跡し,網膜上のスポットダイアグラム,さらにPSF(pointspreadfunction)を求めていく.入射瞳の位置は厳密に?点におけるレンズ度数に依存するが,ここでは??の延長線にあり,??¢=??を満たす位置に便宜上置いておく.また,正確なPSFを求めるためには入射瞳上の光線通過点を均等に分布させることが不可欠である.図6の分割例は,計算効率を上げるためになるべく少ない点数で円形の瞳を均等に分割する方法の一例である.PSFの具体的な形状はレンズ通過点位置,物体距離などによって大きく変化し,一定の関数でそれを正確に表現することはむずかしい.けれどもここでPSFを求める目的は光線の分布範囲の大きさを求めることなので,関数の正確さにこだわらなくてもいい.ここではPSFを下記の二次元正規分布関数に近似させてそのパラメータを求めることにする.PSFμνπσσρρμσρμνσμνμ,exp()=()12112122222μμννσνσ+22ここで,mとnは網膜上の位置座標だが,視角に換算されている.sm,sn,rは分布の大きさを表すパラメータで,スポットダイアグラムから下記のように決める.(1)σμσνρμνσσμνμν===∑∑∑11122NNNiiiiiii/式(1)中?は入射瞳分割数,m?,n?,は?番目の光線網膜通過点座標の視角換算値である.PSF分布の範囲は楕円112122222()+=ρμσρμνσσνσμμννであり,図7に示される.PSF分布楕円が大きいほど,物体点からの光線が網膜上分散し,視力が低下する.したがって,楕円の大きさは,視力と反比例の関係にある.楕円の大きさを表すパラメータとして,ここではσσσμν=+22を採用する.sはPSF分布の統計的代表(35)図6明瞭指数の定義PSF??入射瞳??’?入射瞳の分割?入射瞳分割点へ-3-2-10123-3-2-10123yz??¢-3-2-10123-3-2-10123yz図7PSF分布楕円νμνμνμνμμννμ()σρσ,()σσρ,()σσρ,()σρσ,σσ———————————————————————-Page6????あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007半径を意味する.本来方位角によって楕円の半径は変化するが,ここでは最大半径よりも若干大きいsを採用し,厳しく評価する.視力は眼で区別できる2点の最小間隔(視角ベース)によって定義されている.sはそのPSFの場合のその最小区別間隔と考えることもできる.sから計算される視力値はVA..=′=′+1122σσσμν(2)となる.式(2)中の1¢は角度1?の60分の1で,視力1.0で分別できる最小視角である.もちろんこの視力値は実際の視力とは異なるものである.眼の視力は眼鏡や眼球の光学的要素のみならず,網膜や視神経,ないし皮質の複雑な処理にも影響される.式(2)で計算された視力は眼鏡や眼球の光学的要素だけで,しかもPSF関数を二次元正規分布に近似したときの結果であり,本当の視力からはかけ離れたものとなる.しかし,眼鏡レンズの明瞭さの相対的分布を表すには十分役に立つと考えられる.ここでは式(2)で計算された視力をレンズの明瞭指数と称する.明瞭指数はレンズ上一点を透してある距離の物体点を見る場合の明瞭さを表すものだが,レンズ上すべての点に対してしかるべき物体距離を設定し,明瞭指数を求めて分布図を描くことができる.図8に明瞭指数分布の一例を示している.左は丸レンズ,右が枠入れした後のイメージである.レンズはHOYAが販売している両面複合累進レンズHOYALUXiD,上平加入2.50Dである.物体距離は近用領域で後方頂点球面から40cmと設定し,眼球瞳孔径4mm,調節範囲は0~0.25Dと設定する.レンズサイズはf60mmで,位置を特定するための格子線,リング線の間隔は10mmである.累進帯付近は良好な視力が得られ,近用部両側の側方部は視力が落ちる.伝統的な非点収差分布図(図5)と似ている部分もあるが,もっと直接に明瞭さを表していると考えられる.2.変形指数伝統的に光学系による像の変形は歪曲収差として扱われる.歪曲収差は基本的に共軸光学系,つまりすべての光学面が同じ直線軸に関して軸対称の場合に,画像全体の歪曲を評価するのに適している.累進レンズの場合,場所によって異なる度数を配分しているので,歪曲収差で像の変形を評価するのは無理である.そこで,レンズ上任意一点を通過する光線の近傍光線の振る舞いを解析することで,微分領域での像の変形を評価することにした.図9のように,レンズ?点を透して?点を見るケースを考える.物体側?点の像は??の延長線上の?¢点であるとすると,?点を原点とするローカル座標系μνで近傍点Pdd+()μν,の像は,?¢点を原点とするローカル座標系μν′′でPdd′′()+μν,で表すことができる.なお,m,nは主方向??からそれぞれ横,縦方向の偏角を意味する.m¢,n¢も然り.?m¢と?n¢は下記の式(3)で表される.(36)図8明瞭指数分布例1.000.670.450.300.200.130.090.06見やすい←→見づらい図9眼鏡倍率楕円????νθ?物体側+?ω?¢?¢?ν¢θ¢?像側+¢¢?¢ω?眼鏡倍率楕円無限小円———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007????(3)dddAdBdddμμμμμννμνννμμν′=∂′∂+∂′∂=+′=∂′∂+∂′∂νννμνdCdDd=+ここで,ABCD=∂′∂=∂′∂=∂′∂=∂′∂μμμννμνν,,,は?点におけるレンズの形状によって決まっており,光線追跡の手法で値を算出することができる.式(3)を極座標形式変更すると,dAdBddCdDdωθωθωθωθωθ′′=+′′=+coscossinsincosωωθsinとなり,さらに像側と物体側の偏角比で定義される眼鏡倍率ddωω′と方位角q¢との関係を求めて整理すると,ddILωωθθ′()=+′′()2012cos(4)さらに像側方位角は,tantantanθθθ′=++CDABとなる.ここで定数?,?,q¢0はABCD=∂′∂=∂′∂=∂′∂=∂′∂μμμννμνν,,,より下記のように計算される.IADBCABCDJADBCDB=()+++()=()+121222222222CCAKADBCBDACLJKK22222012()=()+()=+′=tanθJJ式(4)のように,?点におけるレンズ形状が一次微分可能で,かつ全反射を起こす光線入射状況でなければ,物体側の無限小円(?wが方位角qにかかわらず一定)は像側に楕円として映ることが明らかである(図9参照).ここではこの楕円を眼鏡倍率楕円と称する.式(4)は眼鏡倍率楕円の方程式である.眼鏡倍率楕円は拡大率の情報と同時に,変形具合の情報ももたらしてくれる.変形がまったくない状態とは,方位角にかかわらず倍率が一定であるということなので,眼鏡倍率楕円は真円である.したがって,眼鏡倍率楕円の真円からの乖離具合を変形指数として定義し,ユガミを評価することができる.ここでは変形指数を式(5)のように定義する.HabILIL==+11(5)ここで,?,?は眼鏡倍率楕円の最大半径と最小半径である(図10).変形指数はレンズ上一点を透して見た場合の変形を表すが,レンズ上すべての点に対して求めて分布図を描くことができる.図11に変形指数分布の一例を示している.レンズは図8と同様,HOYALUXiDS0.00Dadd2.50Dである.累進帯付近では変形が少なく,近用の両脇は変形が大きい.図5と比較すると,非点収差が大きいところは変形も大きいことがうかがえるが,両者が正比例関係ではない.3.スキュー変形指数変形指数は眼鏡倍率楕円の形状だけを評価し,楕円の長軸の方向の方位角は考慮していない.しかし,たとえ同じ形状の眼鏡倍率楕円でも,楕円の長軸の方向如何によっては,ひき起こされる不快の度合いが異なるのである.図12では,その状況が示されている.仮に4種類(37)図10変形指数の定義¢0θ??¢?¢ν図11変形指数の分布例0.02.55.07.510.012.515.017.520.022.5変形小←25.0(%)→変形大———————————————————————-Page8????あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007の眼鏡があり,変形指数の絶対値が同じで,眼鏡倍率楕円の長軸の方位角がそれぞれ0?,45?,90?,135?とする.それぞれを透してみたビルの像が示されている.明らかに45?,135?の場合の不快感は0?,90?の場合の不快感より強く感じられるのである.したがって,変形指数だけで変形によるQOV低下を評価するのは不十分で,もう一工夫が必要である.そこで,方位角を加味して変形指数を下記のように分解してみた.HHHHHns=′+′=+cossin202022θθHHn=′cos202θをノーマル変形指数といい,HHs=′sin202θHHs=′sin202θをスキュー変形指数という.ノーマル変形指数は0?と90?方向つまり縦横方向の変形を表し,スキュー変形指数は45?と135?方向の変形を表す.スキュー変形指数は変形による不快の度合いを一番的確に表していると考えることができる.図13はスキュー変形指数の分布例を表している.図11の変形指数からノーマル変形成分を取り除いて残った成分となる.4.ユレ指数「ユレ」は眼鏡レンズ,特に累進レンズ独特の現象で,伝統的な収差論では論じられていない.ユレの強さを評価するためには,ユレがどのような現象なのかを確立する必要がある.まずユレとユガミの違いを考える.ユガミは静的なイメージに対し,ユレは動的なものであるといえる.つまり,ユガミは視線移動しなくても感じるが,ユレは視線移動のときだけ感じるものといえる.前述のように,レンズ上異なる点を透して見る場合,異なる眼鏡倍率楕円で拡大された像が得られる.図14にはレンズの右,中央,左の部分を透してみた人物の顔(筆者)が異なる様子を示している.つまり,視線がレンズ上移動するときに,見たものの大きさや形が変化する.この現象は裸眼や単焦点レンズでは発生しないので,累進レンズ特有の不快感である.眼鏡によるユレは,この現象をさすと考えられる.すると,ユレの強さを評価するユレ指数は,視線移動時における像の形や大きさの変化率と考えることができる.厳密な定義は図15に示されている.レンズ上?点を透して?点を見た場合,?の像が?¢に位置し,眼鏡倍率楕円が確立されている.?点から微小角?Wだけ視線移動した??点においては,多少異なる眼鏡倍率楕円と(38)図12変形の方向性図13スキュー変形指数の分布例0.02.55.07.510.012.515.017.520.022.525.0(%)変形小←→変形大図14「ユレ」の現象μνθPωd+Pユレ指数=視線移動時における像の形や大きさの変化率μνθPωd+PμνθPωd+P———————————————————————-Page9あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007????(39)なる.2つの眼鏡倍率の差である??を?Wで割ると,眼鏡倍率の変化率が得られ,これがユレ指数と定義される.??は眼鏡倍率楕円の大きさと形の両方の差を反映するものでなければならない.ここでは,すべての方位角に対する眼鏡倍率差のRootMeanSquareを??として定義する.図16ではその定義が示されている.物体側無限小真円の方位角qにおける近傍点?+に対して,?¢の眼鏡倍率楕円の対応点が?¢+,??¢の眼鏡倍率楕円の対応点が??¢+とする.?¢+と??¢+の距離が方位角qにおける眼鏡倍率差と考えることができる.つまりdMPPNθ()=′′++.すべての方位角に対してdMθ()の二乗平均値を求めさらにルート計算すると,代表的な??が得られる.つまり,dMdMd=()∫12202πθθπルート内の積分は,図15右の図形の2つの楕円の間の塗りつぶした部分の面積に相当する(厳密に言うと違うが).つまり,2つの楕円の差異は重ねて共通部分を除いた領域の大きさというものである.??の定義は他にも考えられるが,数学的な処理のしやすさから上記の方法を採用した.数学式の演繹過程を省略し,結果のみを下記のように記す.(6)YdMddAddBddCddDd2222212=()=()+()+()+()221222=++()EFGcossinここで,?はユレ指数,jは視線移動方向の方位角である.定数?,?,?はそれぞれ,E=∂′∂∂+∂′∂∂+∂′∂22222212μμννμνμμ+∂′∂+∂′∂+∂′22222222νμμνν∂∂()=∂′∂+∂′∂νμμνμ222222212F∂′∂∂′∂()=∂′∂22222222μνννμGμμνμμμννμννμ∂∂′∂+∂′∂+∂′∂∂∂′∂+∂2222222222νν′∂である.なお,式中の2階偏導関数値は,1階偏導関数値ABCD=∂′∂=∂′∂=∂′∂=∂′∂μμμννμνν,,,ABCD=∂′∂=∂′∂=∂′∂=∂′∂μμμννμνν,,,同様,?点におけるレンズの形状によって決まっており,光線追跡の手法で値を算出することができる.図15ユレ指数の定義像側物体側ユレ指数=dMd眼鏡倍率差Md¢PPOQP+P¢P+¢PNP¢NPNP+NP¢NP+¢NPd図16眼鏡倍率差の定義ν?¢ν¢?θ¢??+?+¢?+¢??観測点?の倍率楕円近傍点??の倍率楕円)=?¢???¢?(??θ?図17ユレ指数の分布例0.0000.0630.1250.1880.2500.3130.3750.4380.450ユレ小←→ユレ大———————————————————————-Page10????あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007(40)式(6)で明らかのように,ユレ指数は視線移動の方向によって変化する,その最大値はYEFGMax=++()1222である.特に断らなければ,ユレ指数はこの最大値を指す.ユレ指数はレンズ上一点を透して見た場合の形状変化率を表すが,レンズ上すべての点に対して求めて分布図を描くことができる.図17にはユレ指数分布の一例が示されている.レンズは図8,図11と同じである.図のように,累進レンズのユレは近用部におもに現れ,ピークは近用部のやや鼻側にある.そこは度数が一番急激に減少するところでもある.ユレの強さはレンズ上度数の変化率と強い相関関係にあるといえよう.おわりに眼鏡レンズの光学設計の基本,評価方法について説明した.累進レンズの評価指数としては,掛けたときに感じるボヤケ,ユガミ,ユレを直接測る明瞭指数,変形指数,ユレ指数を提案した.従来の平均度数,非点収差とは異なる角度で,よりQOVに直結する評価指数であると考えられる.また,本稿は紙面の制限で単眼視の状態の設計,評価のみ説明したが,両眼視性能もQOVの重要な側面である.これについては別の機会に譲りたい.眼鏡レンズ,特に累進屈折力レンズは,高齢化社会になってますます重宝される.眼鏡レンズメーカーとしては,これからもQOVを向上するレンズを開発し世に提供していくよう努力する所存である.文献1)小瀬輝次(監修):めがね工学,p98-101,共立出版,19832)NavarroR,SantamariaJ,BescosJ:Accommodation-dependentmodelofthehumaneyewithaspherics.???????????????2:1273-1281,1985