———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007????0910-1810/07/\100/頁/JCLSはじめに霊長類や齧歯類モデルによってこれまでに緑内障の発症機序に関する貴重な情報が得られている.しかし,ヒトとの比較において,厳密には眼球の構造も異なっており,病気の進行速度も加速化されている場合もある.ここで紹介する各モデル動物で観察される現象はそのままヒトに当てはまるわけではない.しかし一つひとつの動物モデルは緑内障の一面を捉えていると考えられ,これらの情報を総合的に検討することによって,緑内障に関係する共通なメカニズムの発見につながる可能性がある.この点について,単一あるいは複数の遺伝子についてこれを欠損や過剰発現させる技術が確立しているマウスモデルには期待が寄せられている.●マウスモデルマウスモデルはラットモデルの影で開発が遅れていたが,近年目覚しいマウスの遺伝子改変技術の進歩によって,目的とするトランスジェニックマウス,ノックアウトマウス,ノックインマウスなどが容易に作製されるようになり,眼球が小型であるという欠点がありながら,モデル動物として利用される機会が増加している.また,マウスは他の哺乳類に比べてデータベースが整備されており,遺伝子,蛋白質,代謝系,行動パターンに至るまで詳細な情報を手に入れることが可能である.しかしながら,マウスには緑内障モデルとしての欠点も存在する.マウスとヒトでは視神経乳頭周辺の血管構造が異なることや,篩状板が存在しないなどの違いがあり1),眼球の取り扱いについても不利な面がある.その一つに眼圧測定のむずかしさがある.これまでにマウス専用の侵襲式や非侵襲式の眼圧測定法が開発されているが,最も信頼性の高い眼圧測定法としては,角膜の厚さや曲率半径などに影響されない侵襲式の方法がある.圧力計に接続したガラス管の針をマウスの前房に差し込み,眼圧を測定する方法である.この方法によって,異なるマウスの系について10~20mmHgの眼圧差が存在することが明らかになった2).非侵襲式の利点は多数のマウスの眼圧を短い時間で測定できることであるが,角膜の性状に影響される.いずれの方法についても安定した結果を得るにはやはり訓練が必要である.最近の遺伝子解析研究によってミオシリン,チトクロム???????,オプチニュリン,?????が緑内障遺伝子として発見されているが,これらの遺伝子改変マウス(65)●連載?緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄86.緑内障の動物モデル(2)─マウスモデル,その他─岩田岳独立行政法人国立病院機構東京医療センター臨床研究センター(感覚器センター)分子細胞生物学研究部門緑内障研究において動物モデルの存在はきわめて重要である.前号では霊長類とラットモデルについて紹介したが,今回はヒトにつぐ情報量と最新の遺伝子改変技術が利用できるマウスモデルについて,その眼球サイズが小さいことから生まれる実験のむずかしさを含めて紹介したい.図1正常マウスとオプチニュリン変異体(Glu50Lys)を発現するトランスジェニックマウスの視神経乳頭変異体マウスでは網膜神経線維層が菲薄化している.正常マウス変異体マウス———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007が緑内障を発症するのか研究が行われている.遺伝子改変マウスの利点は発症原因が明確なこと,手術的な方法に比べて表現型が安定していること,そして特別な訓練を必要とせずにネズミ算式に繁殖できることである.すでに複数の緑内障マウスが作製されているが,その一つにミオシリンのTyr437His変異を発現するトランスジェニックマウスがある.このマウスは正常マウスに比べて昼は2mmHg,夜は4mmHgの眼圧上昇が認められ,生後1年目には網膜神経節細胞数の20%が減少する3).コラーゲンタイプIa1サブユニットに遺伝子変異のあるトランスジェニックマウスではコラーゲンのメタロプロテアーゼ(MMP1)による分解が阻害され,生後36週ほどかけて眼圧が4.8mmHg上昇することが報告されている.隅角の構造は保持されたまま,網膜神経節細胞層への障害が観察され,開放隅角緑内障マウスモデルとして認識されている4).また,筆者らはオプチニュリンGlu50Lys変異体を高発現したマウスを作製したところ,正常眼圧は維持されたまま,生後1年後には網膜神経節細胞死や視神経乳頭の陥凹が観察されている.マウスに対する手術的な眼圧上昇はラットよりもさらに困難である.C57BL/6Jマウスの前房にインドシアニングリーンを注入し,線維柱帯と上強膜静脈部位の光凝固を施すと,約10日後に眼圧が正常なマウスの15.2±0.6mmHgに対して33.6±1.5mmHgに上昇したが,60日後には正常値に戻ったと報告されている5).網膜神経節細胞層や網膜への機能障害がERG(網膜電図)などによって明らかにされている.SimonJohnらによって報告されたDBA/2Jマウスは2つの遺伝子??????と?????6)に変異があり,色素顆粒の分散による虹彩の萎縮が起こり,虹彩癒着によって生後9カ月後には眼圧が上昇し,視神経乳頭を基点として網膜神経節細胞死が扇状に観察されている7).●その他の動物モデルその他の動物モデルにはウサギ,ブタ,ウシなどが報告されているが,広く利用されていない.眼における遺伝子の機能をすばやくおおざっぱに調べる方法として,ゼブラフィッシュ(zebra?sh)を利用した研究が最近報告されており,ミオシリン,オプチニュリン,?????などの欠損による眼球への影響が報告されている8).残念ながら眼圧は測定できない.文献1)MayCA,Lutjen-DrecollE:Morphologyofthemurineopticnerve.?????????????????????????43:2206-2212,20022)SavinovaOV,SugiyamaF,MartinJEetal:Intraocularpressureingeneticallydistinctmice:anupdateandstrainsurvey.?????????2:12,20013)SenatorovVV,MalyukovaI,FarissRetal:Expressionofmutatedmousemyocilininducesopen-angleglaucomaintransgenicmice.??????????26:11903-11914,20064)MabuchiF,LindseyJD,AiharaMetal:OpticnervedamageinmicewithatargetedtypeIcollagenmutation.?????????????????????????45:1841-1845,20045)GrozdanicSD,BettsDM,SakaguchiDSetal:Laser-inducedmousemodelofchronicocularhypertension.?????????????????????????44:4337-4346,20036)AndersonMG,SmithRS,HawesNLetal:MutationsingenesencodingmelanosomalproteinscausepigmentaryglaucomainDBA/2Jmice.?????????30:81-85,20027)JakobsTC,LibbyRT,BenYetal:Retinalganglioncelldegenerationistopologicalbutnotcelltypespeci?cinDBA/2Jmice.???????????171:313-325,20058)McMahonC,SeminaEV,LinkBA:Usingzebra?shtostudythecomplexgeneticsofglaucoma.????????????????????????????????????????138:343-350,2004(66)☆☆☆