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涙点プラグ:涙点プラグは効果的な治療デバイスである

2006年4月30日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS涙点プラグの研究開発と臨床応用は1970年代より行われていた1).しかし,わが国における本格的な臨床応用は,涙点プラグおよびその挿入術が健康保険の適応となってからで,その歴史はまだ浅い.そのため,プラグの挿入手技をはじめ,その合併症や自然脱落の頻度などに関する基本的知識でさえ,十分に眼科医に行き渡っているとはいえないのが現状である.このような理由から,不適切な症例にプラグ挿入が行われたり,問題が起きたときの対処が十分でなかったりする症例が,かなりの頻度で見受けられる.とはいえ,涙点プラグを含む涙道閉鎖は,点眼ではコントロールできない症例に対して,現時点では最も効果的な治療法であり,今後ますます使用される頻度は増えてゆくと考えられる.涙点プラグに関する正しい知識の普及に,このセミナーが役立つことを期待したい.涙点プラグの開発過程では,種々の形状のプラグ(図1,2)が考えられたが,現在わが国で厚生労働省の認可を受けて使用されているのは,2社の製品(図3,4)である.●涙点プラグの効果涙点プラグが,ドライアイの他覚所見と自覚症状を劇的に改善させることは,よく知られている.1986年に筆者らが報告した成績では,ローズベンガル染色スコアー(1980年代当時は,ローズベンガルがドライアイの(59)涙点プラグセミナー監修/坪田一男濱野孝ハマノ眼科1.涙点プラグは効果的な治療デバイスである涙点プラグ挿入は,外来で簡単に行うことができる涙道閉鎖で,ドライアイによる他覚所見および自覚症状を改善させる有効な治療法である.しかし,涙点プラグによる涙道閉鎖は,生体に対して異物を挿入する処置であり,合併症の可能性があることを常に念頭において行わなければならない.ホワイトメディカル提供図2涙点に挿入されたさまざまな形状の涙点プラグ図1涙点プラグの形の変遷図3日本で認可されている涙点プラグパンタルプラグ?(FCIOph-thalmics,Inc.,Paris,France).国内販売は㈱トーメー.図4日本で認可されている涙点プラグイーグルフレックスプラグ?(EagleVision,Inc.,Memphis,TN,USA).他にスーパーフレックスプラグ?などもあり.国内販売は㈱ホワイトメディカル.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006(00)角結膜所見を表す最も信頼できる指標として,標準的に用いられていた)が,挿入前後で,それぞれ5.2±2.4から2.1±2.2へと有意な改善が認められ,フェノールレッド綿糸法では,挿入前8.7±6.5mmであったものが,挿入後15.7±9.6mmへと,結膜?内貯留涙液量の有意な増加が認められた2).また,角膜表面の不整度を表す指数も有意に改善していた3).さらに矯正視力低下例では,その改善が,自覚症状では38例中37例に症状の軽減が認められた(自覚症状が改善されなかった1例でも,矯正視力は0.4から1.0へと改善が確認された).このように,ドライアイに対する涙点閉鎖は,その他覚所見および自覚症状を大幅に改善させる有用な治療法である.●涙点プラグの今後涙点プラグはドライアイの他覚所見および自覚症状の改善に有効とはいえ,いくつかの問題をもっていることも事実である.自然脱落や肉芽形成はよく知られているが,他に患者を最も悩ませるものとして,内方視に際しての角結膜上皮障害と,それに伴う疼痛があげられる.これは,涙点プラグの構造上避けられないものであるが,今後より快適に使用できるような素材への変更も,検討が必要になるかも知れない.涙点プラグとは異なるが,涙小管を閉鎖するタイプのプラグとして,以前から使用されているコラーゲンプラグや,近年開発されたスマートプラグ,アテロコラーゲンによる涙道閉鎖法なども考案されている.今後これらの方法がわが国でも認可されれば,症例に応じてさまざまな涙道閉鎖法を選択することが可能になると思われる.文献1)HamanoT,OhashiY,ChoYetal:Anewpunctumplug.???????????????100:619-620,19852)濱野孝,大橋裕一,趙容子ほか:涙点プラグの開発と臨床応用成績.臨眼40:1063-1067,19863)濱野孝:涙液減少症に対する新しい診断と治療の試み.眼紀39:938-946,1988

眼感染症:細菌検査の落とし穴-これだけは検査室と話し合おう-

2006年4月30日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS■こんな疑問をもっていないだろうか?眼感染症起因菌の診断や術前消毒効果を確認するために,結膜や涙?の擦過綿棒を細菌検査に出しているが,外眼部で最も優位に存在する???????????????????????とコアグラーゼ陰性ブドウ球菌の報告をほとんど貰ったことがない.または,現在汎用している抗菌点眼薬で臨床効果が得られているのに起因菌に対する感受性判定はいつも「耐性」である.このような経験をお持ちの先生は多いのではないだろうか.このような疑問をもっている先生が検査を依頼している外注検査所や院内検査室に実は大きな落とし穴が開いているのである.■検査の落とし穴とはほとんどの眼科医は検査室に検査材料を提出すれば検出されたすべての菌が報告され,同時に薬剤感受性試験も指定した薬剤を用いて行われていると信じている.実はこの眼科医のあたり前の考えが通用しない検査室が多いのである.それは,眼科医と検査員の双方における「常在菌と病原菌の解釈の差」と「検査目的」が正しく伝わっていないことが原因である.■落とし穴の内訳外眼部の常在菌として????????????????????????spp.,??????????????spp.が最も優位に存在していることは眼科医も検査技師も知っている.しかし,一部の検査技師は「常在菌だから報告は不要」と考え「陰性」として報告する施設もある.さらに報告しない理由としては,常在菌や遅発育菌を陽性と報告すると手間と費用がかかる感受性試験を実施しなければならないことも深く関与している.たとえば,結膜擦過材料から前記3種の常在菌が検出された場合,高額な同定キットを用いた3菌種の同定と施設ごとに異なる薬剤感受性試験を行うことは経済的に困難なのである.これは,細菌検査で支払われる保険点数が低額なことが一番の理由である.このため,多数の施設の検体を処理する検査室では,同定を行う菌種を制限したり,依頼された感受性薬剤を使わずに他の抗菌力の弱い薬剤で代用し報告は依頼薬剤名で返している施設もある.このため臨床効果は得られているのに「耐性」と報告される場合も散見される.■検査内容の確認法表1に沿って検査担当者と一度話し合っていただければ落とし穴は修復できる.Q1.採取綿棒の保存と輸送は室温ですか?それとも4℃保存ですか?Q2.グラム染色用の綿棒は滅菌試験管に入れ生理食塩水を少量加えるのですか?Q3.採取綿棒を培地に塗布するときは直接塗布ですか,懸濁液を作製しますか?Q4.一般細菌と酵母状真菌の分離のためには,何種類の培地を使っていますか?〔最低限表1-2)の3種類の培地を使う.2種類以下ならクレームを付けよう.〕Q5.嫌気性菌培養に用いる培地名を教えてください.〔最低限1枚の寒天培地と同時に臨床用チオグリコレート培地(TGC)を使う.〕Q6.酵母状真菌は何日まで培養していますか?〔通常35℃,48時間培養後,さらに室温培養にて計7日間の観察が必要である.〕Q7.アスペルギルスなどの糸状菌を依頼した場合は何日まで培養していますか?〔シャーレを密封し室温培養で2~4週間観察が必要で初代分離には時間を必要とする.〕Q8.検出された菌はすべて報告していますか?(57)眼感染症セミナー─スキルアップ講座─●連載○35監修=大橋裕一井上幸次35.細菌検査の落とし穴─これだけは検査室と話し合おう─浅利誠志大阪大学医学部附属病院・感染制御部眼科で分離頻度の高い???????????????spp.,???????????????????????は,実は正確な同定が大変むずかしい菌種であることをご存知だろうか?細菌検査は詳細に検査すればするほど時間と費用がかかる.また,常在菌と病原菌の認識が眼科医と検査技師の双方で大きく異なるため,薬剤感受性検査を行う対象菌種も異なる.眼科医と検査室との間に深い落とし穴が開いている.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006〔TGCで遅れて生えてきた菌も報告が必要であることを強調する.〕Q9.検出菌(グラム陽性球菌,陽性桿菌,陰性球菌,陰性桿菌,嫌気性菌)の同定は種レベルまで行っていますか?〔????????,???????????????spp.,????????????????spp.が重要であることを強調する.〕Q10.薬剤感受性試験はディスク法ですか,MIC法ですか?〔指定した薬剤を正しく用いていることを確認する.〕Q11.常在菌だけが検出された場合,薬剤感受性試験はどのように実施しますか?〔常在菌と判断した場合は実施しないのか,常在菌でも最も優位に検出された菌種に対して実施するのか?〕以上の質問を検査室に聞いてみよう.(58)■コメント■眼感染症の診療にあたって,われわれ臨床医は,検査室からのデータを重要な情報源として診断と治療を進めている.しかしながら,過日のメール事件ではないが,そうした情報の質,精度についてはあまり吟味していないというのが実情ではないだろうか?浅利先生のご提言はわれわれが陥りやすい落とし穴を鋭く指摘するものである.自分自身が検査室との間にどの程度のコミュニケーションネットワークを築いているのか,今一度チェックしてみよう.愛媛大学医学部眼科大橋裕一表1細菌塗抹・培養検査:眼感染症1)血液寒天培地2)チョコレート寒天培地3)サブロー寒天培地嫌気性菌用寒天培地1)採取材料→輸送用培地に採取:室温保存・輸送直接分離培養用検体35℃1日10日間培養増菌培地35℃,1~5日連続嫌気培養一般細菌:35℃,24~48時間,5%CO2真菌:35℃,好気培養2日間,観察は7日間塗抹検鏡用検体グラム染色2)採取材料→上記A(綿棒)またはB(懸濁液)を各分離培地,増菌ブイヨンへ接種懸濁液AB*眼科医の注意・塗抹用検体は保存培地のない滅菌試験管に採取またはスライドに直接塗抹する*検査室の注意・培地へ綿棒を直接塗抹するか,懸濁液を作製後に塗布するかを相談する一般細菌・真菌用培地嫌気性菌用培地3)培養条件一般細菌酵母状真菌糸状菌嫌気性菌増菌培地チオグリコレート培地(TGC)*眼科医の注意・アスペルギルスなどの糸状菌を目標とする場合は,明記する・培養法(好気性/嫌気性)を指定する25℃容器を密封して24週間*検査室の注意・酵母状真菌は35℃で2日間培養後,室温でさらに5日間観察する・糸状菌の場合は培養温度と培養期間を変える・陰性のTGCは10日間程度培養する↓↓↓↓4)同定試験5)薬剤感受性試験*同定方法(マニュアルか同定キット)を確認する。1)グラム陽性球菌2)グラム陽性桿菌3)グラム陰性球菌4)グラム陰性桿菌5)嫌気性菌*検出菌の全てを報告するか否かを確認する(P.acnes,Corynebacteriumspp.,CNSが重要であることを確認する)*眼科医の注意・左記1)5)の菌種について種のレベルまで同定可能かを確認する1)ディスク拡散法かMIC法かを確認する2)複数菌種が検出された場合の感受性対象菌を確認する3)常在菌のみが検出された場合の感受性試験実施の有無を確認する*検査室の注意・指定された薬剤を実際に使用するのか,代替の薬剤を使用するかを確認する保存培地滅菌試験管小試験管(生食水)長期保存:生理食塩水を加える

緑内障:各種中心角膜厚測定の比較

2006年4月30日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS●中心角膜厚測定法1.Hedbys-Mishima法光学的測定法.スプリットイメージを用いて角膜の光学切片の厚みを計測する方法.非接触式.角膜中心部のみの測定が可能.細隙灯顕微鏡に取り付けて使用.測定に慣れを必要とする.超音波測定法とともに角膜厚測定の基本原理.2.非接触型角膜内皮スペキュラー(図1)光学的測定法.スリット光の角膜表面と角膜後面における反射のずれをラインセンサーにて検出し,角膜厚を測定する方法.非接触式.角膜中央および既定の数点が測定可能.検者を選ばない.3.超音波法(図2)プローブ先端からの超音波が角膜後面で反射し再びプローブで受信されるまでの時間と,角膜組織内での音速から角膜厚を測定する方法.接触式.角膜上の任意の部位を測定可能.小型,軽量であり測定場所を選ばない.プローブの滅菌により手術中の測定も可能.音波を利用するため光学的測定と比べて混濁部測定に有利.プローブが角膜に垂直に接触していなければ測定値がばらつく.接触により角膜を圧平すれば角膜厚は薄く測定される.4.角膜形状解析装置a.スリットスキャニング方式ORBSCANIIz?(Canon)(図3)左右45?から各20本(計40本)のスリットビームを投影して角膜前面のトポグラフィーデータと角膜後面の光線追跡データ(9,000ポイント)から角膜厚を測定する方法(パキスキャンシステム).非接触式.角膜厚のカラーマッピング表示が可能で,任意の部位で角膜厚を測定できる.測定に約15秒.角膜全体と前房の三次元情報を解析可能である.(55)●連載?緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄70.各種中心角膜厚測定の比較田口浩司神戸大学大学院医学系研究科実践医科学領域器官治療医学講座眼科学分野中心角膜厚が測定眼圧値に及ぼす影響について注目が集まっている.中心角膜厚測定による補正によって,眼圧測定がより精度を増す可能性がある.中心角膜厚の測定にはさまざまな機器が用いられているが,機器,測定法によって測定値が異なる傾向がある.図1非接触型角膜内皮スペキュラーSP-9000?(KONAN)図2超音波法機器:眼軸長・角膜厚測定器AL-2000?(TOMEY)———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006b.回転式Scheimp?ugカメラ方式Pentacam?(OCULUS)(図4)中央部をおもに約2秒間で測定した25,000ポイントのScheimp?ug画像を解析する方法.非接触式.ORB-SCAN?同様に角膜全体と前房の三次元情報を解析可能.その他に角膜厚測定が可能な機器として,共焦点顕微鏡,opticalcoherencetomograph(OCT),超音波生体顕微鏡(UBM)などがある.●各種中心角膜厚測定の比較中心角膜厚の正常値は520~540?m程度とする報告が多い.超音波法の測定値は光学的測定法とほぼ等しい.スペキュラーでは超音波法に比べ約23~28?m薄く測定されるとの報告がある1,2).ORBSCAN?の測定値は超音波法や光学的測定法に比べて非常に近似しているとも少し低いともいわれさまざまである.各施設において使用機器の傾向を把握しておく必要がある.当院における右眼のみ135眼の中心角膜厚測定では,超音波法で平均553.01?m,スペキュラーで平均552.04?m,Pentacam?で平均565.30?mとなった.●中心角膜厚と眼圧眼圧は,角膜が薄ければ低めに,厚ければ高めに測定されることが知られており,緑内障のフォローアップには角膜厚を考慮する必要がある.中心角膜厚が555?m未満の場合,原発開放隅角緑内障を発症するリスクが3倍高いと報告されている3).中心角膜厚が530?mより25?m変化するごとに,測定眼圧は1mmHgの誤差を生じるという結果が出ている4).眼圧測定値の精度を増すために,中心角膜厚による眼圧の補正が必要と考えられる.文献1)ModisLJr,LangenbucherA,SeitzB:Cornealthicknessmeasurementswithcontactandnoncontactspecularmicroscopicandultrasonicpachymetry.???????????????132:517-521,20012)SuzukiS,OshikaT,OkiKetal:Cornealthicknessmea-surements:scanning-slitcornealtopographyandnoncon-tactspecularmicroscopyversusultrasonicpachymetry.???????????????????????29:1313-1318,20033)KassMA,HeuerDK,HigginbothamEJetal:TheOcularHypertensionTreatmentStudy:arandomizedtrialdeter-minesthattopicalocularhypotensivemedicationdelaysorpreventstheonsetofprimaryopen-angleglaucoma.???????????????120:701-713,20024)DoughtyMJ,ZamanML:Humancornealthicknessanditsimpactonintraocularpressuremeasures:areviewandmeta-analysisapproach.???????????????44:367-408,2000(56)☆☆☆図3ORBSCANIIz?(Canon)図4Pentacam?(OCULUS)

屈折矯正手術:エピケラトームの現状

2006年4月30日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS●エピケラトームケラトームが角膜の実質部分を一定厚で?離するのに対して,エピケラトームは角膜上皮層のみを?離することができる機械である.エピケラトームは,機械的に角膜上皮を?離し,レーザーをBowman膜上に照射し屈折矯正を行うEpi-LASIK(epipolislaser????????ker-atomileusis)の際に使用される.アルコールを使用して角膜上皮を?離するLASEK(laserepithelialkeratomi-leusis)に比べて,薬剤を使用しない点から安全性が高いとされている.しかしながら,エピケラトームは新しい概念の角膜上皮?離機器であり,その精度に関しては未知である.LASIKにおけるケラトームにおいて,初期の機器で,多くの症例に重篤な合併症をみたので,エピケラトームでも,開発当初の機器精度の検討はおろそかにできない.ところが,その?離精度を組織学的に検討した報告はこれまでほとんどない.●?離精度の組織学的検討そこで筆者らは,ブタ眼球を使用した組織学的検討を行った.今回は,2社2製品のエピケラトーム(図1)を使用し,その上皮?離精度を組織学的に検討した.A社のエピケラトームは,なだらかに角膜上皮に進入し(図2),その?離深度は,上皮基底細胞間で,つまり上皮細胞の一部を実質に残し角膜上皮を?離している角膜が多かった(図3).それに対して,B社のエピケラトームは,ほぼ直角に上皮層に進入し(図2),上皮基底膜と実質間で上皮を?離しているものが多く観察された(図4).両エピケラトームとも実質まで?離が到達している角膜はなかった.製品データ上では,両エピケラトームとも,Bowman膜と角膜上皮基底膜間で上皮を?離するとうたっているが,今回の検討では,B社製品においてはほぼデータどおりであったのに対して,A社の製品では,(53)●連載?屈折矯正手術セミナー監修=木下茂大橋裕一坪田一男71.エピケラトームの現状宮田和典刑部安弘宮田眼科病院エピケラトームは,Epi-LASIKの際に使用される角膜上皮層のみを?離する機械である.理論的には,基底膜を含めて上皮層を?離する.しかし,動物実験,および臨床材料からの検討では,その?離精度にまだばらつきがみられており,一定量,一定部位での?離を行えるためには,さらなる開発が必要と考えられた.図1エピケラトーム上段:A社のエピケラトーム(左)とステンレス製替え刃(右).下段:B社のエピケラトーム(左)とPMMA(ポリメチルメタクリレート)製替え刃(右).図2?離開始面の組織像A社(上段)はなだらかな進入角で上皮が?離され,B社(下段)ではほぼ垂直に切除が開始されている.倍02物対EH倍02物対nossaM倍02物対EHnossaM倍02物対A社B社———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006全角膜で上皮細胞の一部と基底膜が実質側に残存していた.しかし,この結果はBowman膜のないブタ眼球を使用していること,角膜曲率がヒトと異なること,眼圧の管理が不十分なことなどのため参考にすぎないが,機械によってその?離精度にばらつきがあることが示された.●ヒト角膜への使用A社のエピケラトームをPRK(photorefractivekera-tectomy)の上皮?離に使用した症例の上皮組織所見をみてみると,ブタ眼球実験と同様に,基底膜が上皮についていない部位が観察された(図5).一方で,上皮?離能に優れているとブタ眼球実験で考えられたB社のエピケラトームを使用した1眼には,角膜実質?離を経験した.弁状?離のために術後1カ月目にはほぼ術前の状態に回復し,大事には至らなかった(図6).これらの症例やブタ眼球の実験結果より,現在のエピケラトームはまだまだ安定した結果を得られる機械とはいえず,完成度を高めるためにはさらに開発が必要と考えられた.(54)側皮上社A倍02物対EH倍04物対ⅣepyT-negalloC倍04物対MAP-CST倍04物対nossaM倍04物対ⅣepyT-negalloC倍04物対MAP-CST倍04物対nossaM倍04物対EH側質実社A図3A社の?離面組織像上皮はきれいに?離されているものの,特殊染色の結果から基底膜がないことがわかる(上段).実質側は?離面が粗?で,基底細胞の一部と基底膜が残存している(下段).倍04物対ⅣepyT-negalloC倍04物対MAP-CST倍04物対nossaM倍02物対EH側皮上社B倍04物対EH倍04物対ⅣepyT-negalloC倍04物対MAP-CST倍04物対nossaM側質実社B図4B社の?離面組織像上皮?離面は鋸状であるが,基底膜が残存している(上段).実質?離面はきれいである(下段).倍04物対MAP-CST倍04物対EH図5?離したヒト角膜上皮ブタ眼球での実験と同様で,上皮はきれいに?離されているものの基底膜は観察されない.術前VD=(0.6×IOL)(1.2p×IOL+1.5D:cyl-3.0DAx70?)VD=(0.1×IOL×0)術後4日VD=(0.4×IOL)(1.2×IOL+0.5D:cyl-2.0DAx90?)術後1ヵ月術中図6実質弁状?離とそのTMS術中写真の○で囲まれた部分に弁状?離を観察できる.術後1カ月後にはほぼ術前視力に回復した.

眼内レンズ:小切開白内障術後のepithelial downgrowth

2006年4月30日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLSEpithelialdowngrowthとは,穿孔性外傷後や内眼手術後に創口から角膜あるいは結膜上皮が眼内に侵入・増殖し,難治性の続発緑内障や角膜内皮機能不全をきたす視力予後不良の疾患である.?外白内障手術の時代にはしばしば報告されていたが,小切開白内障手術が主流となった現在ではepithelialdowngrowthの発症はきわめてまれであると考えられる.しかしながら,強膜トンネル1)あるいは角膜切開2)での小切開白内障手術においてもわずかながら報告があり,決して無視できない合併症といえる.今回筆者らが経験した症例は,近医で右眼白内障手術施行後,視力回復が思わしくないため他院を受診し,角膜浮腫および高眼圧症を指摘され当科に精査加療目的で紹介となった.初診時視力は,右眼0.09(0.1×sph-1.00Dcyl-2.50DAx75?)×IOL(眼内レンズ),左眼0.15(1.2×sph-1.50Dcyl-1.50DAx130?)×IOL.眼圧は,右眼25mmHg,左眼18mmHg.右眼は耳側角膜切開で白内障手術が施行されており,その周囲の角膜には強い混濁を認めた.さらに創口より瞳孔に向かって厚い膜様増殖組織が伸展し,瞳孔を中心として同心円状に半透明な膜様組織を虹彩面上に認めた(図1).対光反応は鈍であった.IOLはonthebagに固定され,後?破損がみられた.前房中には比較的大型の白色浮遊物が温流により移動するのが観察され,硝子体は星状硝子体症のごとく反射性の混濁が多数みられた.超音波生体(51)相良健山口大学医学部眼病態学講座眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎236.小切開白内障術後のepithelialdowngrowth小切開無縫合白内障手術後に生じたepithelialdowngrowthの1例を経験した.創口に嵌頓した硝子体を足場に上皮細胞が眼内に増殖したと考えられた.本疾患は難治性で視力予後不良であり,小切開白内障手術といえども創口閉鎖には十分な配慮が必要である.図1初診時右眼前眼部写真図2UBM像A:右眼,B:左眼.それぞれ6時方向の隅角.右眼の隅角は鈍になっており,虹彩根部が平坦化している.図3摘出組織病理像(ヘマトキシリン・エオジン染色)———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006(00)顕微鏡(UBM)では隅角に周辺虹彩前癒着(PAS)が形成され,左眼に比べ虹彩が伸展,菲薄化し,毛様体も扁平化していた(図2).以上より角膜切開創からの上皮細胞の眼内への進入,すなわちepithelialdowngrowthと考え,毛様体にまで伸展している可能性を考えた.角膜透明性が比較的良好であることより,可及的に眼内増殖組織を除去することを目的に手術を行った.角膜切開創部および虹彩面上には強固に膜様増殖組織が癒着しており,また虹彩後面にも伸展していることを確認した.術後,角膜切開創に硝子体と思われる索状組織が瞳孔領より連続しているのを確認した.以上より角膜切開創に嵌頓した硝子体を足場に角膜上皮が前房内に進入したものと考えられた.組織像では虹彩色素上皮層に隣接して上皮細胞層が重層化しているのが確認された(図3).計画的?外摘出術以前の白内障手術が行われていた時代では,epithelialdowngrowthは白内障手術後の約0.1%に発生すると報告されている2,3).近年は手術用顕微鏡の発達,三面切開・四面切開の開発,手術材料の改良,手術器具の進化に伴う小切開化が進んだおかげで,その発症はきわめてまれになってきた.しかしながら今回の症例を振り返ってみると,手術中の創口熱傷によるwoundadaptationの不良,さらに脱出硝子体の不十分な処理が契機となってepithelialdowngrowthが発症したと考えられた.最近では発症頻度がきわめて少なくなり,白内障手術後の合併症にあげられることもほとんどなくなったが,たとえ小切開白内障手術においてもepi-thelialdowngrowthが起こりうることを十分に認識する必要がある.文献1)HollidayJN,BullerCR,BourneWM:Specularmicroscopyand?uorophotometryinthediagnosisofepithelialdown-growthafterasuturelesscataractoperation.????????????????116:238-240,19932)LeeBL,GatonDD,WeinrebRN:Epithelialdowngrowthfollowingphacoemulsi?cationthroughaclearcornea.???????????????117:283,19993)TheobaldGD,HaasJS:Epithelialinvasionoftheanteriorchamberfollowingcataractextraction.?????????????52:470-482,19484)WeinerMJ,TrentacosteJ,PonDMetal:Epithelialdowngrowth:a30-yearclinicopathologicalreview.???????????????73:6-11,1989

コンタクトレンズ:素晴らしい表面張力効果を活用する大直径レンズ

2006年4月30日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS9.8mmレンズは8.8mmレンズの単なる延長線上にあるのではなく,まったく別の世界である.上眼瞼に沿って形成される涙液メニスカスの表面張力の素晴らしい効果を利用できるからである.●表面張力の解説少し分子の世界を覗いてみよう1).2個の分子の間に働く力を分子力とよぶ.分子力は分子の中心間の距離が小さい間だけ作用する.1分子を中心とする半径(r)の球を描くとき,この球内に中心のある分子だけが中心の分子と作用を及ぼし合うことになる.このように仮想された球を分子の作用球という.液面では作用球の上半分が液外に出て半球となる(図1).これは中心にある分子を引く力が上方に弱く,下方に強いということである.つまり液面の近くでは液面に垂直に内部に向かって分子力の場ができている.液面には位置のエネルギーが蓄えられているのである.これを表面エネルギーという.液面(半球)の特殊性液体はその表面エネルギーをできるだけ小さくして安定平衡の状態になろうとする.そのためにできるだけその表面積を小さくしようとするから,液面に沿って張力が現れる.これを表面張力という1,2).別の言い方をすれば,液体の自由表面はあたかもゴムの薄膜を引っ張って被せたようになっている.この液面では各分子が互いに引きあって静止している.この力が表面張力である.何らかの方法でその釣り合いを破るとその作用が現れる.●表面張力の作用方向ガラスと水の界面の表面張力の作用方向は図2に示すとおりである.水面は界面で引き上げられ,弯曲した液面の接線(PT)の方向に表面張力が作用する.1.Intra-palpebral?tの場合(上眼瞼の支持がない)コンタクトレンズ(CL)の上のedgeに働く表面張力Tは,弯曲した水面の接線PTの方向(下方)に働く(図3).CLの下のedgeでは上向きの表面張力が発生し,(49)吉川義三コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純TOPICS&FITTINGTECHNICS262.素晴らしい表面張力効果を活用する大直径レンズAP空気水TWqBガラスR図2ガラスと水の界面の表面張力ガラス壁と水の接触点Pにおいて水面は弯曲し,表面張力Tは接線PTの方向に作用する.r図1液体表面における分子作用球PT図3CLの上のedgeの表面張力涙液はPTの向きにレンズを引く.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006(00)CL全周について表面張力の効果は打ち消される.2.Extra-palpebral?tの場合上眼瞼縁の涙液メニスカスは図4に示すとおりである.分子の凝集力は弯曲面の接線方向(PT)にレンズを引っ張り,レンズを上方に引き上げるように働く.レンズの下方のedgeでは(図5参照)上向きの表面張力が発生する.両者が協力してレンズを上方に引き上げる.Extra-palpebral?tの良さは涙液表面張力の分子力の効果を活用できる点にある.それは大直径レンズを使用することによってのみもたらされる.この素晴らしい効果を放棄し,小直径に固執する理由がわからない3).●表面張力の効果3)レンズを引き上げる力がどのくらいのものか計算してみよう.表面張力の大きさは単位の長さに対して,これに直角に作用するTdyneをもって表される.上眼瞼メニスカスのCLを引き上げる(f)は,レンズ?角膜接触部の長さ(眼瞼に覆われる程度)に比例する.すなわち,f=T.Iとなる.仮にレンズの上部,孤の長さに対して約0.5cmが上眼瞼に覆われるものとする(図5)と,I=0.5cm,T=50dyneであるから,その力は25dyneである(CLの上のedgeは上眼瞼の下にあって表面張力に関与しない).CLの下方のedge(図5)で,メニスカスが上向きの力を作用するほぼ水平な部分を0.5cm(直径9.0mmとして)とみなせば,上向きの力は約25dyneとなり,合計50dyneの力が推定される.質量1gの質点に働く重力は980dyneである.今CLの重量を20mgとすれば,そこに働く重力は19dyneである.これは上眼瞼縁と,CLの下方のedgeに発生する表面張力のコントロールできる範囲内である.なお,レンズと上眼瞼の接触部の長さは,CLの直径に関与する.これはフィッティングによってコントロール可能な変数である.大直径レンズは表面張力を巧みに利用する利点をもっている.文献1)佐藤瑞穂:物理学演習(上巻)(初版第18刷).培風館.19662)児玉帯刀:物性と力学(第3版).槇書店,19663)吉川義三:涙液表面張力のセンターリング作用.日コレ誌38:129-133,1996図5Extra-palpebral?t図4上眼瞼縁の表面張力上眼瞼の下にCLのedgeが入っている.涙液面は弯曲し,表面張力はPTの向きにレンズを引く.TP

写真:瞳孔膜遺残

2006年4月30日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS(47)若倉雅登野口圭井上眼科病院写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦263.瞳孔膜遺残図1瞳孔膜遺残典型例36歳,男性.人間ドックで眼底写真を撮ろうとして膜があると指摘された.他眼にもこれより軽い遺残があった.矯正視力は両眼とも1.2.膜状の遺残物の脚部は,小虹彩輪と大虹彩輪の境界部(小動脈輪に一致する虹彩分割輪)に連続している.このような症例では対光反応も正常で,処置,治療は不要である.①②④③図2図1のシェーマ①:大虹彩輪.②:虹彩分割輪.③:小虹彩輪.④:瞳孔膜遺残.図3糸状の瞳孔膜遺残45歳,女性.人間ドックで緑内障を疑われ受診.細隙灯顕微鏡による観察でたまたま,右眼に写真のような耳上側から鼻下側へかけての糸状遺残が見出された.他眼も同様所見がある.矯正視力は1.2,緑内障も否定された.このような糸状の瞳孔膜遺残は,外来で注意しているとかなりの症例で見出される.糸状物の片端は虹彩分割輪にあることが多い.表1瞳孔膜遺残で治療を考慮する場合状態治療矯正視力低下散瞳薬で視機能改善白内障の合併不同視弱視,斜視弱視整容的,精神的コンプレックス手術散瞳薬,YAGレーザー,手術白内障手術とともに切除弱視治療,手術手術———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006(00)●原因瞳孔膜遺残(persistentpupillarymembrane)は胎生期に存在した虹彩瞳孔膜が点状,索状,網状,膜状などのさまざまな形で遺残したものである.本来,瞳孔膜は胎生9週頃に二次間葉細胞が眼杯の前面に進入し,虹彩実質とともに形成される.胎生5カ月で水晶体前面をほぼ完全に塞ぐ程度まで成長した後,退縮し始め,胎生7~9カ月までには消失する.この退縮消失過程の不全あるいは遅延により瞳孔膜が生後も残存したもの.生直後にわずかな遺残があっても,生後1年以内に大部分が退縮吸収するという.●頻度膜状で瞳孔領を塞いだものは,特に病的瞳孔膜遺残とよばれる.それに対して,特に症状がなく細隙灯顕微鏡検査でようやく確認できる程度のものは生理的瞳孔膜遺残とよばれ,生直後にはごく軽度のものを含めるとかなりの頻度(35~95%まで,いろいろな数字が発表されている)で存在する.健常成人においてもなお3~10%に認められたという.眼科で最もよく遭遇する先天異常の一つである.●症状と診断見た目には高度であっても意外に視力はよいことが多い.瞳孔膜が瞳孔領の広範囲に及ぶような症例では視力低下の原因となることがある.典型的な症例では,膜状の瞳孔膜が虹彩に索状の瞳孔膜脚部を介して繋留されている(図1),軽度のものでは瞳孔にクモの巣状,糸状の遺残物が付着しているのを認めるのみ(図3)である.ほとんどが偶然見つかるものである.瞳孔膜や瞳孔膜脚部は水晶体に癒着していることがあるが,瞳孔縁の水晶体への癒着はないのが原則である.小児の場合,特に片眼性の場合は,不同視弱視,斜視弱視の原因となりうる.膜状遺残を示していた韓国人24症例の転帰を報告したものによると1),両眼性15例,片眼性9例であった.その矯正視力の平均はlogMAR視力で0.32,少数視力では0.5弱に相当する.うち5例は0.3(20/70)以下で,4眼は片眼性で視性刺激遮断弱視を呈していた.小角膜,大角膜,牛眼,角膜混濁,隅角異常,虹彩欠損,第一次硝子体過形成遺残,先天白内障などの合併が知られている.●治療糸状,膜状でも瞳孔領が保たれ,あるいは瞳孔領を覆っていても視機能に特に障害のない場合,すなわち,ほとんどの場合は治療の対象にならない.ただし,表1に示す条件がある場合は治療を考慮する.治療は手術のみではない.弱視になる可能性がある場合には,弱視治療が十分機能すると考えられる.手術は通常,瞳孔形成手術である.瞳孔形成手術ではアルゴンレーザーやYAGレーザーによる瞳孔膜,脚部の非観血的切開も報告されているが,粘弾性物質と虹彩切開用剪刀を用いれば,出血があっても制御でき,伸縮性のある瞳孔膜も安全に除去可能で,最近はこのような観血的手術が選択される.また,水晶体に癒着がある場合でも強固ではなく,水晶体を温存して手術が可能である.一般に整容的手術は避けるべきとされるが,本症の存在が当人の精神生活に影響を与えるほどのものであれば,瞳孔形成術は禁忌とはいえないと考えられる.文献1)LeeSM,YuYS:Outcomeofhyperplasticpersistentpap-illarymembrane.??????????????????????????????41:163-171,2004

時の人

2006年4月30日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS帝京大学医学部は昭和46年(1971年)に発足,眼科学講座も同時に設けられた.初代教授は斜視・弱視・形成眼科をご専門とされる丸尾敏夫先生(現客員教授)で,このたび鈴木康之先生が平成17年7月,第三代の主任教授に就任された.鈴木先生のご専門は緑内障で,網膜硝子体・白内障を含む眼科手術一般にも通じられている.講座のスタッフは,形成眼科・眼窩・涙道を専門とされる根本裕次助教授,網膜硝子体がご専門の渡邊恵美子講師,緑内障・白内障がご専門の清水総子講師,および加齢黄斑変性を中心とする黄斑疾患がご専門の落合淳一医局長に加え,網膜,黄斑疾患がご専門の小林義治兼任助教授,斜視・弱視・形成眼科を専門とされる坂上達志兼任助教授,さらには丸尾客員教授と久保田伸枝客員教授も2週に1度,斜視・弱視の外来診療を担当されている.その他,助手6名,非常勤講師4名,多くの医員,視能訓練士など多士済々のスタッフ陣である.*鈴木先生のご経歴を研究・診療内容とともにお伺いした.鈴木先生は昭和61年3月に東京大学医学部医学科を卒業され,医学部眼科学教室に入局された.この年は三島濟一教授の最後の年であった.翌年助手となられたが,この東大時代は,増田寛次郎先生のご指導のもと学位取得のために,レーザースペックル法を用いた網膜血流測定の研究を行い,また,新家眞先生,白土城照先生のご指導のもと,視野障害解析をはじめとした緑内障に関する臨床研究も行われた.その後,平成1年6月に関東逓信病院,同6年2月に都共済組合青山病院に勤務された.平成6年9月には,米国Yale大学に留学され,MarvinSears教授の指導のもと,房水産生における細胞内情報伝達経路の研究に従事された.平成8年10月に日本医科大学眼科学教室の講師に就任され,大原國俊主任教授のもとで,日本人におけるミオシリン遺伝子変異解析や原発開放隅角緑内障の進行に関する因子の多変量解析などの緑内障に関する基礎・臨床研究を行われた.平成10年5月には,東京大学へ講師として戻られ,新家眞教授,富田剛司助教授とともに,緑内障に関する基礎研究や視野障害様式や視神経乳頭変化などの臨床研究を行われた.さらに,平成15年4月,帝京大学医学部附属市原病院に教授として赴任された.この時期に緑内障,網膜硝子体,白内障の多くの手術症例を経験され,同時にその成績について解析を行われた.その後,平成17年7月には帝京大学医学部眼科学講座主任教授に就任された.鈴木先生は現在も帝京大学医学部附属市原病院・教授を兼任されており,週の前半は板橋病院で外来・手術を担当され,週の後半は市原病院で外来・手術を行われている.ただ,4月からは市原病院の後任教授が赴任される予定で,鈴木先生は板橋病院に専念される予定であるとのことである.*鈴木先生の現在のご専門は緑内障で,疫学,視野のセクタリング,神経保護や眼圧下降に関する薬理学的検討,網膜血流に関する研究,分子遺伝学的研究,術式や成功率に関する検討など,実に多彩である.*最後に,鈴木先生に教室運営上の目標をお伺いした.先生は,まず専門分野をもって自らの情報を発信することを基礎としながらも,眼科すべての分野に関して一定の程度で精通し,かつその知識を絶えず更新していけるような眼科医を養成していきたいと述べられた.このことは結局,どのような疾患に対しても動じずに,冷静かつ的確に対処できる医師を養成することであると,やや厳しい表情でおっしゃられた.(45)人の時帝京大学医学部眼科学講座・教授鈴??木?康??之??先生

時の人

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———————————————————————-Page1???あたらしい眼科Vol.23,No.4,20060910-1810/06/\100/頁/JCLS金沢医科大学感覚機能病態学(眼科学)教室は本学の開学とともに故倉知与志先生が初代教授に就任し,昭和52年に佐々木一之先生が第二代の教授に,平成12年に高橋信夫先生が第三代の教授にそれぞれ就任された.そして,平成17年5月に佐々木洋先生が第四代の教授に就任された.本教室では,佐々木一之先生の時代から主として水晶体・白内障に関する基礎・臨床・疫学の研究および眼光学を柱としてこられた.教室のスタッフは,臨床教授の中泉祐子先生,助教授の北川和子先生,講師の小島正美先生,福田正道先生,坂本保夫先生のほか,助手4名で構成されているが,講師の3先生はすべてPh.D.である.*佐々木先生は昭和62年に金沢大学医学部を卒業され,同年4月に自治医科大学眼科学教室に入局された.同教室では,網膜?離,白内障手術,ぶどう膜炎,角膜疾患,緑内障,硝子体手術などを学ばれ,この9年間が先生の臨床の基礎になっているとのことである.平成3年8月から同5年8月まで,米国オークランド大学眼研究所研究員として,Reddy教授,Giblin教授のもとで水晶体研究に従事された.その後,平成5年10月に自治医科大学眼科の助手,同8年3月に金沢医科大学眼科の講師に就任された.*佐々木先生の研究活動は,自治医科大学での9年間と金沢医科大学での9年間の2期に分けられる.前半は“ぶどう膜炎”に関する臨床研究で,後半は米国留学を機に“水晶体(白内障)”を主課題にされている.(1)在米中は,培養水晶体上皮細胞,水晶体器官培養・X線白内障モデル,ガラクトース白内障を用いた水晶体酸化障害に関する研究をされ,ExperimentalEyeResearch(1994),InvestOphthalmolVisSci(1995,1998)に発表されている.その後,紫外線被曝によるヒト培養水晶体上皮細胞傷害(ExpEyeRes,2001),培養水晶体上皮細胞傷害への抗酸化剤の効果,ストレプトゾトシン誘発糖尿病ラットに発症する白内障へのリポ酸の有効性,ステロイド白内障など白内障発症機構の解明,白内障発現抑制薬の研究をされている.(2)国内外での調査をもとに白内障の疫学研究を行い,アイスランド,シンガポール,中国などとの国際共同研究を精力的になされ,また,疫学調査を通して白内障のphenotypeとgenotypeの検討を予定されている.(3)教室で開発された画像診断法を用いた前眼部生体計測,白内障発症と進行の予測の研究をされている.さらに水晶体混濁の詳細な観察と視機能評価から,白内障手術適応の新しいガイドライン策定を目指されている.(4)このほか,緑内障,加齢黄斑変性症,屈折異常,滴状角膜,翼状片の疫学や後発白内障の原因解明,新しい眼内レンズの臨床評価,サルコイドーシスの臨床研究,等々多岐にわたる研究活動をされている.*佐々木先生はご自身の信念あるいは信条として,次のように語られた.(1)佐々木先生が諸先輩から多くのことを学ばれたように,若い先生方に教え,同時に学びやすい環境,多くのチャンスを提供し,建学の精神である“良医の育成”を実践していきたい.また,患者さんから学ばせてもらっているという謙虚な姿勢を忘れないことを教育していきたい.同時に,パラメディカル,看護師,事務職員の人との共同体制をつくっていきたい.(2)忙しさに流されず,大学,教室の発展に尽力していきたい.(3)超高齢化社会を迎え,誰しもが罹患する“水晶体疾患”に関する残された課題の研究を積極的に進めていきたい.(44)人の時金沢医科大学感覚機能病態学(眼科学)・教授佐?々?木?洋???先

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS帝京大学医学部は昭和46年(1971年)に発足,眼科学講座も同時に設けられた.初代教授は斜視・弱視・形成眼科をご専門とされる丸尾敏夫先生(現客員教授)で,このたび鈴木康之先生が平成17年7月,第三代の主任教授に就任された.鈴木先生のご専門は緑内障で,網膜硝子体・白内障を含む眼科手術一般にも通じられている.講座のスタッフは,形成眼科・眼窩・涙道を専門とされる根本裕次助教授,網膜硝子体がご専門の渡邊恵美子講師,緑内障・白内障がご専門の清水総子講師,および加齢黄斑変性を中心とする黄斑疾患がご専門の落合淳一医局長に加え,網膜,黄斑疾患がご専門の小林義治兼任助教授,斜視・弱視・形成眼科を専門とされる坂上達志兼任助教授,さらには丸尾客員教授と久保田伸枝客員教授も2週に1度,斜視・弱視の外来診療を担当されている.その他,助手6名,非常勤講師4名,多くの医員,視能訓練士など多士済々のスタッフ陣である.*鈴木先生のご経歴を研究・診療内容とともにお伺いした.鈴木先生は昭和61年3月に東京大学医学部医学科を卒業され,医学部眼科学教室に入局された.この年は三島濟一教授の最後の年であった.翌年助手となられたが,この東大時代は,増田寛次郎先生のご指導のもと学位取得のために,レーザースペックル法を用いた網膜血流測定の研究を行い,また,新家眞先生,白土城照先生のご指導のもと,視野障害解析をはじめとした緑内障に関する臨床研究も行われた.その後,平成1年6月に関東逓信病院,同6年2月に都共済組合青山病院に勤務された.平成6年9月には,米国Yale大学に留学され,MarvinSears教授の指導のもと,房水産生における細胞内情報伝達経路の研究に従事された.平成8年10月に日本医科大学眼科学教室の講師に就任され,大原國俊主任教授のもとで,日本人におけるミオシリン遺伝子変異解析や原発開放隅角緑内障の進行に関する因子の多変量解析などの緑内障に関する基礎・臨床研究を行われた.平成10年5月には,東京大学へ講師として戻られ,新家眞教授,富田剛司助教授とともに,緑内障に関する基礎研究や視野障害様式や視神経乳頭変化などの臨床研究を行われた.さらに,平成15年4月,帝京大学医学部附属市原病院に教授として赴任された.この時期に緑内障,網膜硝子体,白内障の多くの手術症例を経験され,同時にその成績について解析を行われた.その後,平成17年7月には帝京大学医学部眼科学講座主任教授に就任された.鈴木先生は現在も帝京大学医学部附属市原病院・教授を兼任されており,週の前半は板橋病院で外来・手術を担当され,週の後半は市原病院で外来・手術を行われている.ただ,4月からは市原病院の後任教授が赴任される予定で,鈴木先生は板橋病院に専念される予定であるとのことである.*鈴木先生の現在のご専門は緑内障で,疫学,視野のセクタリング,神経保護や眼圧下降に関する薬理学的検討,網膜血流に関する研究,分子遺伝学的研究,術式や成功率に関する検討など,実に多彩である.*最後に,鈴木先生に教室運営上の目標をお伺いした.先生は,まず専門分野をもって自らの情報を発信することを基礎としながらも,眼科すべての分野に関して一定の程度で精通し,かつその知識を絶えず更新していけるような眼科医を養成していきたいと述べられた.このことは結局,どのような疾患に対しても動じずに,冷静かつ的確に対処できる医師を養成することであると,やや厳しい表情でおっしゃられた.(45)人の時帝京大学医学部眼科学講座・教授鈴??木?康??之??先生———————————————————————-Page1???あたらしい眼科Vol.23,No.4,20060910-1810/06/\100/頁/JCLS金沢医科大学感覚機能病態学(眼科学)教室は本学の開学とともに故倉知与志先生が初代教授に就任し,昭和52年に佐々木一之先生が第二代の教授に,平成12年に高橋信夫先生が第三代の教授にそれぞれ就任された.そして,平成17年5月に佐々木洋先生が第四代の教授に就任された.本教室では,佐々木一之先生の時代から主として水晶体・白内障に関する基礎・臨床・疫学の研究および眼光学を柱としてこられた.教室のスタッフは,臨床教授の中泉祐子先生,助教授の北川和子先生,講師の小島正美先生,福田正道先生,坂本保夫先生のほか,助手4名で構成されているが,講師の3先生はすべてPh.D.である.*佐々木先生は昭和62年に金沢大学医学部を卒業され,同年4月に自治医科大学眼科学教室に入局された.同教室では,網膜?離,白内障手術,ぶどう膜炎,角膜疾患,緑内障,硝子体手術などを学ばれ,この9年間が先生の臨床の基礎になっているとのことである.平成3年8月から同5年8月まで,米国オークランド大学眼研究所研究員として,Reddy教授,Giblin教授のもとで水晶体研究に従事された.その後,平成5年10月に自治医科大学眼科の助手,同8年3月に金沢医科大学眼科の講師に就任された.*佐々木先生の研究活動は,自治医科大学での9年間と金沢医科大学での9年間の2期に分けられる.前半は“ぶどう膜炎”に関する臨床研究で,後半は米国留学を機に“水晶体(白内障)”を主課題にされている.(1)在米中は,培養水晶体上皮細胞,水晶体器官培養・X線白内障モデル,ガラクトース白内障を用いた水晶体酸化障害に関する研究をされ,ExperimentalEyeResearch(1994),InvestOphthalmolVisSci(1995,1998)に発表されている.その後,紫外線被曝によるヒト培養水晶体上皮細胞傷害(ExpEyeRes,2001),培養水晶体上皮細胞傷害への抗酸化剤の効果,ストレプトゾトシン誘発糖尿病ラットに発症する白内障へのリポ酸の有効性,ステロイド白内障など白内障発症機構の解明,白内障発現抑制薬の研究をされている.(2)国内外での調査をもとに白内障の疫学研究を行い,アイスランド,シンガポール,中国などとの国際共同研究を精力的になされ,また,疫学調査を通して白内障のphenotypeとgenotypeの検討を予定されている.(3)教室で開発された画像診断法を用いた前眼部生体計測,白内障発症と進行の予測の研究をされている.さらに水晶体混濁の詳細な観察と視機能評価から,白内障手術適応の新しいガイドライン策定を目指されている.(4)このほか,緑内障,加齢黄斑変性症,屈折異常,滴状角膜,翼状片の疫学や後発白内障の原因解明,新しい眼内レンズの臨床評価,サルコイドーシスの臨床研究,等々多岐にわたる研究活動をされている.*佐々木先生はご自身の信念あるいは信条として,次のように語られた.(1)佐々木先生が諸先輩から多くのことを学ばれたように,若い先生方に教え,同時に学びやすい環境,多くのチャンスを提供し,建学の精神である“良医の育成”を実践していきたい.また,患者さんから学ばせてもらっているという謙虚な姿勢を忘れないことを教育していきたい.同時に,パラメディカル,看護師,事務職員の人との共同体制をつくっていきたい.(2)忙しさに流されず,大学,教室の発展に尽力していきたい.(3)超高齢化社会を迎え,誰しもが罹患する“水晶体疾患”に関する残された課題の研究を積極的に進めていきたい.(44)人の時金沢医科大学感覚機能病態学(眼科学)・教授佐?々?木?洋???先

合併症対策:破嚢時のレスキューグッズ

2006年4月30日 日曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLS水晶体核落下や網膜?離といった重大な術中,術後合併症を併発する危険性が高まる.後?破?,硝子体脱出を疑わせる術中所見として,①水晶体核が大きく傾斜する②水晶体核の位置が急に深くなる③瞳孔領に水晶体核や水晶体皮質を含まない暗黒色の領域が出現する④水晶体核が超音波チップ先端で吸引できない⑤瞳孔が偏位する⑥前後房中央で超音波チップを操作しているのに周辺の水晶体核や皮質が牽引される⑦後?に線状の破?線が観察されるなどがある.超音波乳化吸引中に水晶体核が急に大きく傾斜したり,水晶体核が急に後房側に沈下して前房深度が急に深くなるような現象が発生した場合は,比較的大きな後?破?が生じて水晶体核の硝子体落下が始まっている可能性がある.水晶体皮質や水晶体核で白濁している瞳孔領の一部に暗黒色の領域が出現する(図1)ことは,後?破?と硝子体脱出が生じ,脱出した硝子体により,近傍の水晶体核や皮質が押しのけられて暗黒色の透明野を作り出していることを意味する.さらに硝子体脱出が進行し,前後房で水晶体皮質や水晶体核と硝子体が絡み合うと,超音波チップ先端で硝子体をも吸引してしまうため,水晶体核がチップ先端に接しているにもかかわらず,目的とする水晶体核を吸引できなくなってしまう.はじめに白内障手術は手術装置の発達,手術手技の改良,新たな手術材料の出現とともに手術精度と安全性が向上し,術中合併症の発生頻度が低下している.しかし,術中後?破?やZinn小帯断裂,硝子体脱出を生涯経験しない眼科外科医はきわめてまれであろう1).また,一旦発生したこれらの術中合併症を適切に処置し,術眼に与える侵襲を最低限に抑えることは,患者の良好な術後視機能を維持するためにきわめて重要である.しかし,合併症発症頻度が下がり,まれな合併症となったために,その対処法に習熟できず,稚拙な術中処置を行った場合は,単に術後視機能低下を招くのみならず2),網膜?離,水疱性角膜症を始めとする重大な術後合併症発症に直結する3).患者の要求度の高まっている白内障手術において,これらの重大な術後合併症は患者の大きな不満のもととなり,医療訴訟に直結しかねない.本稿においては,近年,標準的白内障手術術式として普及した超音波白内障手術の代表的な術中合併症である後?破?と硝子体脱出を取り上げ,その術中合併症を確実に処理する基本的な手術戦略と手技,必要な手術器具や材料に関して概説する.I後?破?と硝子体脱出をどのような場合に疑うか?術中合併症を軽微に留める最大のポイントは早期発見である.術中合併症に気づかずに手術操作を続けると,(37)???*ShuichiroEguchi:江口眼科病院〔別刷請求先〕江口秀一郎:〒040-0053函館市末広町7-13江口眼科病院特集●白内障手術アップデート2006あたらしい眼科23(4):459~464,2006合併症対策:破?時のレスキューグッズ??????????????????????????:?????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????江口秀一郎*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006手術操作に伴う硝子体の牽引をその後も続けると,超音波チップに硝子体索が嵌入したまま手術操作が続けられるため,前房中央で手術操作を行っていても,瞳孔縁の一部が手術操作につられて牽引されたり,術操作を行っている領域より遠く離れた瞳孔領周辺部に存在する水晶体核や水晶体皮質が,手術操作に連動して動揺する現象が認められる.水晶体核や水晶体皮質の吸引除去がかなり終了した状態で後?に焦点を合わせると,大きく亀裂した後?の両端を明瞭に観察することもできる(図2).II後?破?に対する処置法1.ハンドピースをいきなり抜かない後?破?に気がついたら,直ちにすべての手術操作を中止する.ただし,急いで超音波チップを抜いたり眼内灌流を止めてはいけない.術中合併症に気づいたために慌ててハンドピースを引き抜くと,眼内から創口への圧勾配により脱出した硝子体が創口に嵌入してしまう.一旦,創口に硝子体が絡んでしまうとその切除がむずかしいだけでなく,引き続いて行われる眼内操作に伴う手術器具の出し入れ,または眼内操作のたびに,創口の硝子体を牽引することとなり,硝子体基底部付近の網膜裂孔を作製しやすくなってしまう.後?破?に気づいて手術操作を中止した後,サイドポートから粘弾性物質を前房内に十分量注入し(図3),前房内圧を上げて,ハンドピースを引き抜いても前房が虚脱せず,硝子体が創口に嵌入しないような状態を作り出してから静かにハンドピースを引き抜く.しかし,すべての症例で切開創にまったく硝子体が嵌入しないでハンドピースを引き抜くことができるわけではない.もし創口に硝子体が嵌入した場合は,創外に脱出している硝子体をMQAと剪刀を用いて切除し,創口や創間に残留している硝子体索をフックや粘弾性物質を用いて前房内に押し戻す.2.水晶体核の処理が先瞳孔領の状態をよく観察し,後?破?の範囲,硝子体脱出の程度,残留している水晶体核の大きさ,個数をよく把握する.水晶体核を残したまま脱出硝子体の切除を始めると,かろうじて硝子体上に乗っていた水晶体核片(38)図1後?破?時の術中所見瞳孔透明野を認める.図3破?時の処置法超音波ハンドピースを引き抜く前にサイドポートから粘弾性物質を前房内に十分量注入する.図2後?破?時の術中所見前?切開線と異なる後?の断裂線を認める.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006???が,灌流液の水圧と水流により瞬時に硝子体腔内に落下していく.特に分割手技を用いて行っていた水晶体核処理の最中における後?破?,硝子体脱出例にては,それまでに行っていた水晶体核の分割と,乳化吸引処理されていない水晶体核片の部位,個数をよく考慮して,どの方向の虹彩下,水晶体?赤道部に大きな水晶体核が残存しているかを把握し,その摘出処理を確実に行うようにする.後?破?時に大きな水晶体核が残存している場合は,前後房を粘弾性物質で満たした後に創口を十分な大きさに拡大し,フックを用いて水晶体核を前房内に脱臼させてから輪匙を用いて水晶体核を確実に摘出する(図4).水晶体核が分割されている場合は切開創をあまり大きく拡大する必要もないが,水晶体核の厚さがある場合は,摘出時に見た目よりも大きな切開創を必要とすること,術中合併症を生じた場合の処理操作において新たな合併症を追加しないために,大きめの切開創を作製することを基本とする.残留している水晶体核片が小さい場合,または硝子体と絡まっている場合は,輪匙や超音波チップで除去するよりは,ビスコエクスプレッション手法にて水晶体核を娩出する.ビスコエクスプレッションを行うに当たっては,創口より虹彩面上で挿入した粘弾性物質注入針を,まず摘出する水晶体核の下方より水晶体核を通り越し,創口と水晶体核をはさんで対側に至る位置に置く(図5).その位置に保持しながら粘弾性物質を注入し続けると,次第に眼圧が上昇してくる.このとき粘弾性物質注入を続けながら創口を注入針でわずかに押し下げてやると,水晶体核背面から創口に向かう圧勾配が生じ,粘弾性物質の流れとともに前房内に残留した水晶体核が眼外へ圧出されてくる.粘弾性物質を注入する位置や注入方法に多少の慣れを要する点や,比較的多量の粘弾性物質を要する点に難点は残るが,小さめの水晶体核摘出や硝子体と絡まってしまった水晶体核の娩出にはきわめて有用な手術手技であり,習得を要する.水晶体核の摘出が終了したら,再度創口に嵌入した硝子体索を硝子体カッターやMQAと剪刀を用いて切除し,創口を絹糸などで一旦縫合する(図6).(39)図4Simcoeループ針を用いた水晶体核摘出図6MQAを用いた硝子体切除手技図5ビスコエクスプレッション法の実際粘弾性物質注入針の先端と水晶体核の位置関係に注意.———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.23,No.4,20063.水晶体皮質除去と硝子体切除:ドライビトレクトミー手技か2-way手技か?比較的小さな後?破?と限局した硝子体脱出の場合は,ドライビトレクトミー手技をその処理法として選択する.粘弾性物質を前後房に注入し,残留している水晶体?を広げてから,灌流を止めたSimcoe針を眼内に挿入し,吸引孔を水晶体皮質の厚い部分に位置させてからゆっくりと水晶体皮質を吸引し,皮質を捕まえたらそのまま水晶体?から引き?がし前房中央に移動させる(図7).捕獲した水晶体皮質を前房中央で吸引してしまうと,より多量の粘弾性物質が必要となるだけでなく,硝子体を誤吸引する確率が高まり,硝子体と水晶体皮質が絡んでそれ以降の水晶体皮質吸引除去が困難となることもあり,水晶体皮質は全周にわたって処理を終えるまで前房中央に移動させるに留める.粘弾性物質が吸引され前房が虚脱するようなら,粘弾性物質を追加しながらすべての水晶体皮質を水晶体?から引き?がす.硝子体が前房内に脱出している場合は,Simcoe針の皮質吸引除去操作に先立ち,灌流を用いずに硝子体カッターにて脱出硝子体を切除する(図8).この際,後?の亀裂より後方まで硝子体カッターを深く挿入し,前部硝子体切除を行い,その空間に分散型の粘弾性物質を注入しておくと(図9),凝集型の粘弾性物質を注入した場合に比べ,粘弾性物質が後?下に長く残留するため,さらなる硝子体脱出を防止する4).硝子体切除により眼球が虚脱しそうな場合は,粘弾性物質を眼内に注入しながら硝子体切除(40)図9分散型粘弾性物質の硝子体腔注入によるタンポナーデ操作図102-way硝子体切除操作図7後?破?時のSimcoe針による水晶体皮質吸引除去操作図8後?破?時の硝子体カッターを用いたドライビトレクトミー———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006???(41)を行う.皮質吸引や脱出硝子体切除を同軸灌流を有する通常のI/A(irrigationandaspiration,灌流吸引)チップやA-vit(硝子体カッター)にて行うと,灌流液が硝子体腔に回り込むことにより,さらなる硝子体脱出を促す.また通常のI/Aチップでは万一硝子体を誤吸引した際の開放操作が困難であるため,皮質吸引はSimcoe針を用いる.水晶体皮質がすべて前房中央に集まったら,ビスコエクスプレッション法で眼外に圧出するか,硝子体カッターで吸引除去する.ドライビトレクトミー法はくり返し粘弾性物質を注入しながら行う必要があるが,最低限の硝子体切除にて手術を行えるため,眼球が虚脱しにくく水晶体?も温存しやすい利点がある.大きな後?破?で多量の硝子体脱出や水晶体皮質が硝子体と絡まっている場合は2-way手技を選択する(図10).硝子体カッターのカットレートは最大とし,吸引はやや低めに設定し,灌流ボトルの高さを上げる.灌流は同軸とせず,前房メインテナーなどのやや太い注入針に連結する.通常,角膜輪部の3時および9時にサイドポートを作製し,まず硝子体カッターを9時のサイドポートから前房内に挿入し,創口や3時方向のサイドポート付近の硝子体索を,灌流を用いずに,またはわずかに加えるのみで切除する.ついで3時のサイドポートに灌流針を挿入し,本格的に前部硝子体切除を行うが,初めから灌流針をサイドポートに挿入して硝子体切除を行うと,創口付近の硝子体の嵌頓を悪化させてしまうことがあるので,初めは灌流を用いずに硝子体を切除する.サイドポートから硝子体カッターを挿入することにより,通常では処理のむずかしい12時付近の創口に嵌入した硝子体索も容易に切除することができるとともに,灌流を用いることにより眼球虚脱の心配なく十分な硝子体切除が行える.硝子体カッター先端は瞳孔縁から虹彩下まで挿入し,残留皮質と周辺部硝子体を十分に切除する.左右の器具を交代して硝子体切除を行うことにより,瞳孔縁に沿って360?の残留皮質除去と硝子体切除を行うことができる.III眼内レンズ挿入後の処置水晶体皮質除去と硝子体切除を行った後,眼内レンズを水晶体?外固定または経毛様体溝強膜縫着固定する.眼内レンズの良好な固定を確認した後に,前房内に塩化アセチルコリン(オビソート?)を注入し,縮瞳させる(図11).硝子体索が創口に嵌入している場合は瞳孔に変形をきたすため,その変形を手がかりに硝子体切除を追加するとともに,フックや注射針を用いたワイパリングを行い,創口に嵌入した硝子体索を完全に解放する.脱出硝子体を確認するために前房内にトリアムシノロンを注入し,硝子体を視認化して処理する方法も報告されている5)が,瞳孔の変形を目安として処理できる場合が多い.ワイパリングとは,目的とする創口より45?から90?離れたサイドポートよりフックまたは注射針を虹彩面上に沿って目的とする創口,隅角底付近に挿入し,そこから瞳孔中央に向かってフックや注射針をワイパーの図11オビソート?注入後の縮瞳と硝子体索嵌頓による瞳孔変形図12ワイパリング操作———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006(42)ように動かすことにより,創口に強く嵌入した硝子体索を瞳孔領に引き戻す操作をいう(図12).硝子体脱出を生じている症例で,前房内が灌流液で満たされている場合,手術器具の出し入れに伴い眼内と眼外に圧勾配が常に生じるため,器具を出し入れする創口には,眼内灌流液の流れに乗って必ず硝子体索が嵌頓していると考え,手術器具を出し入れした切開創に対しては手術操作の最後に必ずワイパリングを行い,硝子体索嵌頓を解除しておくことが必要である.文献1)PingreeMF,CrandallAS,RandallJQ:Cataractsurgerycomplicationsin1yearatanacademicinstitution.????????????????????????25:705-708,19992)IonidesA,MinassianD,StephenT:Visualoutcomefol-lowingposteriorcapsuleruptureduringcataractsurgery.???????????????85:222-224,20013)OsherR,CionniR:Thetornposteriorcapsule;itsintra-operativebehavior,surgicalmanagement,andlong-termconsequences.???????????????????????16:490-494,19904)Arshino?SA:Dispersive-cohesiveviscoelasticsoftshelltechnique.???????????????????????25:167-173,19995)BurkSE,DaMataAP,SnyderMEetal:Visualizingvit-reoususingKenalogsuspension.???????????????????????29:645-651,2003眼科学【監修】眞鍋禮三(大阪大学名誉教授)I.総論VIII.ぶどう膜XV.屈折・調節異常II.眼科診療室にてIX.水晶体XVI.光覚・色覚の異常III.眼瞼X.網膜硝子体XVII.全身疾患と眼IV.涙器(涙腺,涙道)XI.視路,瞳孔,眼球運動XVIII.眼のプライマリーケアV.結膜XII.眼窩XIX.眼治療学総論VI.角膜XIII.緑内障XX.付録VII.強膜XIV.斜視,弱視A.眼科略語集/B.眼科関連法律(法令)/C.リハビリテーション/D.主な眼科雑誌の紹介基礎と臨床との関連性を強く前面に打ち出し、単に眼科学の知識の羅列でなく、何故そうなるのかがわかる記載を心がけた。また、基礎編の記載でも必ず臨床を念頭においた書き方に努めることとした。教科書の内容になじまないトピックス的なものにも触れようと囲み記事として随所に配したが、勉強中の息抜きの読み物として楽しんでもらえれば幸いである。楽しみながら、そして考えながら「眼科学」を身につけることができる教科書として、広く親しまれることを願ってやまない次第である。(あとがきより)B5判2色刷り総674頁カラー写真・図・表多数収録定価23,100円(本体22,000円+税5%)メディカル葵出版〒113─0033東京都文京区本郷2─39─5片岡ビル5F振替00100─5─69315電話(03)3811─0544■内容内容■考える診療のために!あの名著が更にUp-To-Dateな情報を盛り込んで!待望の改訂版、登場!■疾患とその基礎■<改訂版>株式会社