———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSPEA+IOLの施行がためらわれる症例(高眼圧,手技的にむずかしい)2)続発閉塞隅角緑内障において炎症が強くLIでは再閉塞が生じやすい症例で,第一選択としてのPEA+IOLがためらわれる症例(炎症が非常に強い)が適応になると思われる.II周辺虹彩切除術の手術手技1.基本的な周辺虹彩切除術の手順1)制御糸2)結膜切開3)Tenon??離4)強膜切開5)虹彩切除6)強膜縫合7)結膜縫合2.強膜弁作製による周辺虹彩切除術(強膜弁作製法)の手順1)制御糸2)結膜切開3)強膜弁作製(1重強膜弁,2重強膜弁)4)強膜切開,虹彩切除5)強膜弁縫合6)結膜縫合A周辺虹彩切除術I周辺虹彩切除術の適応周辺虹彩切除術(peripheraliridectomy:PI)の奏効機序は,閉塞隅角緑内障における瞳孔ブロックにより生じた隅角閉塞を解除することで房水流出路を再建することである.確かに,発作眼や角膜混濁が強い症例,炎症が強く再閉塞が危惧される症例にはレーザー虹彩切開術(laseriridotomy:LI)だけでは不十分であるが,手技的に容易であるLIを選択することが多く,実際的にPIの適応が少ないのが現状である.さらに,最近閉塞隅角緑内障の発生機序に瞳孔ブロックだけでなくプラトー虹彩形態(毛様体の位置異常)が関与していることが報告されることで,閉塞隅角緑内障の治療として瞳孔ブロックの解除だけではなく,隅角を開大する目的で水晶体摘出術が推奨されるようになってきている.その結果,昨今問題となっているLI後の水疱性角膜症の発症と相まって,閉塞隅角緑内障治療の第一選択として水晶体摘出術と眼内レンズ挿入術(PEA+IOL)が選択されるようになり,PIの適応がますます減少している.したがって,現在のPIの適応を考えた場合,瞳孔ブロックを解除する目的で,1)LIの施行がむずかしい原発閉塞隅角緑内障で,(49)????*ShinichiroKuroda:永田眼科〔別刷請求先〕黒田真一郎:〒631-0844奈良市宝来町北山田1147永田眼科特集●原発閉塞隅角緑内障のカッティングエッジあたらしい眼科24(8):1033~1040,2007周辺虹彩切除術と隅角癒着解離術をマスターしよう??????????????????????????????????????????????????????????(??)??????????????????????黒田真一郎*———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007〔概説〕基本的術式と強膜弁作製法との違いは,虹彩根部をいかに的確な位置で切除可能かという点と思われる.基本的術式がマスターされていれば,それで問題はないのであるが,最近ではLIが第一選択となる場合が多く,実際に周辺虹彩切除を行う症例が少なくなっていることを考えると,基本的術式のマスターがむずかしい状況になっているのは事実である.したがって,むしろ強膜弁作製法のほうが正確に周辺虹彩切除が施行できるのではと思っている.Schlemm管部位を確認することにより,虹彩根部へ向けての強膜切開が適正な位置で行えることで,確実な周辺虹彩切除術が可能となる.また,虹彩を切除する場合も,残っている強膜が薄いため虹彩根部を適切に切除しやすい.ただ,結膜や強膜の瘢痕形成が強くなるので,将来の緑内障手術に影響する点が問題となる.3.基本的周辺虹彩切除(peripheraliridectomy:PI)の実際術前処置縮瞳:2%ピロカルピンを術前1時間前より15分ごと5回点眼しておく.高眼圧を認めている場合:高浸透圧剤点滴や炭酸脱水酵素阻害薬(ダイアモックス?)静注で眼圧下降を図る.1)制御糸上直筋付着部に制御糸を掛けるが,これはその他の術式の場合と特に違いはない.眼球を下転させ結膜上から筋付着部と思われる部位を有鈎鑷子で?み,4~5-0シルク糸を通糸する.糸を上方に引き眼球を下転させ固定する.2)結膜切開結膜下に2%キシロカイン?Eを注射し,結膜が膨らんだ所を輪部より4~5mm離れた部位で幅7~8mmでやや弓状に切開する(図1).3)Tenon?下麻酔鑷子で強膜を固定し,永田式経結膜球後針で2%キシロカイン?Eを約2m?注入する.4)Tenon?の?離切開した結膜をTenon?と一緒に角膜側にMQAで引き上げ,強膜刀で強膜を擦り上げるようにして結膜角膜移行部を露出する(図2).5)強膜切開外科的輪部の強膜側1/4の部位で,強膜に直角に幅3.5mmで切開を行う(図3).このとき眼球の向きとレーザーブレードの角度を調節し強角膜とブレードが直角になるようにする.最初に1/2強の深さまで切開するが,初心者の場合どうしても浅くなりがちで何回も切れ込むことになるので方向がずれないよう注意しなければならない(図4).また,切開底が確認できないからといって,強膜を鑷子で強く引っ張ると切開方向がずれるのでこれも注意を要する.切開底を確実に確認するために切開部からの出血を凝固止血する(図5).切開底を確認しながら幅一杯に前房まで切開することを心掛けるが,端まで確実に切開することはむずかしい.したがって,一旦前房へ達した後,左右端はブレードを前房側から切り上げるようにして幅一杯に切開する(図6).6)虹彩切除切開創の角膜側を鑷子で?み角膜方向に少し広げると自然に虹彩が嵌頓してくる.強膜側を剪刀で圧迫するとより確実になる.眼圧が高い場合,強く力を入れ過ぎると虹彩が大きく脱出してくる場合があるので注意を要する.嵌頓した虹彩を引っ張り,虹彩後葉まで切開創から脱出させた後,今度は角膜方向へ引っ張り,虹彩根部を切開創に嵌頓させる.ウェッケル剪刀を強膜に押し付けるようにして,できるだけ虹彩根部を切断する.虹彩根部をできるだけ幅広く切除したい場合は,切開創に嵌頓した虹彩を角膜方向に引っ張る際,剪刀の反対側へ引っ張りながら半分だけ虹彩を切断し(図7),そのまま剪刀側へ引っ張りながら残った半分を切除するとよい(図8).7)強膜縫合結膜を切開創の上に戻し,切開創の上を軽く撫でるように圧迫すると,虹彩が元の位置に整復され,角膜を通して切除された虹彩が確認でき,瞳孔も正常位置に戻る(図9).10-0ナイロン糸で3/4~2/3の深さで中央に1糸,または1交差縫合で切開創を縫合する(図10).切開(50)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007????創から塩化アセチルコリン(オビソート?)を注入し,虹彩が嵌頓していないことを確認しながら前房を形成する.8)結膜縫合8-0または7-0シルク糸で連続縫合を行う(図11).9)術後管理点眼は一般の内眼手術と同様,抗菌薬とステロイドの点眼を約2週続ける.さらに,術翌日から1%硫酸アトロピンを1回/日,数日間点眼する.(51)図1結膜をU字型に輪部基底で輪部が確認できるまで切開する.図2強膜上に残ったTenon?を切開除去し,切開予定の強角膜部位を露出させる.図3カリパーで3.5mmの切開幅をマークする.図4レザーブレードで強膜に直角に切開を行う.切開位置は外科的輪部の強膜側1/4とし,深さはできるだけ前房に達するくらいを心掛ける.図5切開部よりの出血を凝固止血する.図6レザーブレードを前房側から引き上げるようにして,切開創を予定幅一杯に拡大する.図7ウェッケル剪刀を強膜に押し付けるようにして,虹彩を左に引っ張りながら右半分を切開する.図8ウェッケル剪刀はそのままで,虹彩を右方向に引っ張りながら残った左半分を切除する.図9結膜上から切開創部位を軽く圧迫して虹彩を整復する.———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.24,No.8,20074.強膜弁作製による周辺虹彩切除術(強膜弁作製法)の実際1)制御糸基本的術式と同様である.2)結膜切開輪部基底切開,円蓋部基底切開のいずれでもよいが,筆者は結膜の瘢痕形成が少なく,後の緑内障手術への影響が少ないことを考慮して円蓋部基底切開を好んでいる.強膜上のTenon?は?離除去しておく.3)強膜弁作製切開予定の強膜上の血管をバイポーラーで凝固止血した後,幅3.5~4.0mm×奥行き3.5mmの角膜輪部を基底とする強膜弁を作製する.強膜弁はシングルフラップ,ダブルフラップいずれでもよい.強膜弁の作製はトラベクロトミーの場合と同様に考えてよく,ダブルフラップの場合,外側強膜弁の幅は4mmとし,1/3層の深さで作製する.内側強膜弁の幅は3~3.5mmとし,トラベクロトミーの場合よりやや浅く作製する.シングルフラップの場合は,ダブルフラップの内側強膜弁の深さと同じ深さで作製する.内側強膜弁を角膜方向に作製して行きSchlemm管の位置を同定する.この場合,トラベクロトミーと同様にSchlemm管内壁を露出させてもよいが,Schlemm管の位置が強膜を透かして確認できる程度の深さでもよい.強膜弁は角膜実質が確認できるまで切開を進める(図12).(52)図10切開創の真中を10-0ナイロン糸で1糸縫合する.図11輪部基底の結膜切開を8-0バージンシルク糸で連続縫合する.図12強膜を透してSchlemm管の位置が確認できる.図16円蓋部基底の結膜切開を9-0バージンシルク糸で結節縫合する.図13Schlemm管の位置よりやや角膜側で,レザーブレードで強膜弁の幅一杯で切開する.図14強膜弁を引っ張ると虹彩根部が嵌頓してくる.図15強膜弁を10-0ナイロン糸で密に縫合する.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007????4)強膜切開,虹彩切除Schlemm管の位置よりやや角膜側に強膜弁幅でレザーブレードにて強膜切開を行う.残っている強膜は薄いため1回で前房に達し,幅一杯に切開しやすい(図13).嵌頓してきた虹彩(図14)を鑷子で角膜側へ引っ張り,剪刀を強膜に押しつけながら虹彩後葉まで切除する.虹彩根部を幅広く切開したい場合は,基本術式と同様左右に振りながら切除するが,残っている強膜が薄いため虹彩根部も幅広く切除可能となり,大きく振る必要はない.5)強膜弁縫合切開した強膜弁を元の位置に戻し,シングルフラップはそのままで,ダブルフラップは内側と外側を同時に,それぞれ10-0ナイロン糸で4~5糸密に縫合する(図15).6)結膜縫合8~9-0シルク糸で連続または結節縫合を行う(図16).7)術後管理基本的術式と同様である.B隅角癒着解離術I隅角癒着解離術の適応閉塞隅角緑内障に対する治療は,機能的あるいは基質的に閉塞した隅角を開放することで房水流出路を再建することを目的としており,特に隅角癒着解離術(gonio-synechialysis:GSL)は基質的閉塞をきたした隅角を開放する目的で適応される術式である.したがって,瞳孔ブロックが解除された後でも眼圧下降が得られない症例で,隅角閉塞の割合が大きく,この隅角閉塞により眼圧上昇が生じていると思われる症例が適応となる.ただ,どの程度の隅角閉塞で眼圧上昇を認めるか明確な基準はないが,過去の経験により約50%以上の隅角閉塞を認めている場合に眼圧上昇をきたすと考え,GSLは閉塞隅角緑内障で約50%以上の基質的隅角閉塞が確認された症例に対して適応があると考える.最近の実際的な治療方針としては,眼圧上昇を認めている閉塞隅角緑内障に対し,まずLIか周辺虹彩切除術(PI)を施行する.LI後の水疱性角膜症が危惧されたり,プラトー虹彩形状の関与を考慮すると,可能ならばPEA+IOLを第一選択としたいところである.その後の眼圧により,眼圧下降が得られた場合は隅角が開放されたものとしてそのまま経過観察とするが,LIまたはPIだけの症例は経過とともに水晶体の前方移動により隅角閉塞が進行することもあるので,時期をみてPEA+IOLを施行したい.眼圧下降が得られなかった場合は,隅角検査にて隅角閉塞の割合を確認し,50%以上の閉塞率ならばGSLを選択する.閉塞率が50%以下ならば混合型緑内障と考え開放隅角緑内障の治療に準じる.II隅角癒着解離術の手術手技1.手術手順1)制御糸を掛ける2)Tenon?下麻酔3)眼球の位置決め(顔の位置,顕微鏡の位置),隅角確認4)角膜ポート作製,粘弾性物質の注入5)癒着解離6)各象限での癒着解離7)粘弾性物質の吸引〔概説〕GSLは水晶体摘出術を併用したほうが成績が良く,基本的にPEA+IOLとの同時手術か,前もってPEA+IOLを施行しておくことを原則とする.同時手術の場合,筆者は角膜の視認性を保つために先にGSLを行うようにしている.GSLを施行する場合,患者の頭位と術者の位置,顕微鏡の傾きや方向を大きく変換することが必要であり,この点においても前もってベッドや顕微鏡を調節しておく必要がある.2.手技の実際1)制御糸上下直筋付着部に4-0シルク糸で制御糸を掛ける(図17).(53)———————————————————————-Page6????あたらしい眼科Vol.24,No.8,20072)Tenon?下麻酔耳側下方で永田式経結膜球後針でTenon?下麻酔を行う.3)眼球の位置決め制御糸を左右に引っ張り,12時方向が対側にくるよう眼球を回旋する.12時方向が下になるよう頭部を回し(図18,19),さらに顎を上げながら,プリズム(スワンヤコブ型)を角膜に乗せ,12時方向の隅角が確認できるように調節する.さらに,隅角が確実に確認できるよう,顕微鏡の傾き,術者の位置を細かく調節する(図20,21).(54)図17上下直筋付着部に制御糸を掛け,眼球を回旋するように引っ張る.図1812時方向が観察しやすくなるように顔の傾きや制御糸を調節する.図19頭を傾け隅角が観察しやすい角度に調節する.図20術者の座る位置を下方からに変更し,顕微鏡の方向と傾きを調節し隅角が確認できるようにする.図21プリズムを乗せ隅角が観察できることを確認する.図22隅角方向に向かって角膜ポートを作製する.図23スパーテルで圧迫しながら後房水も抜いておく.図24最初に前房内の解離針の位置を確認してからプリズムを乗せる.図25解離針の先をプリズム下で確認し,ゆっくりと隅角方向へ進めていく.———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007????4)角膜ポート作製,粘弾性物質の注入Vランスで中央よりやや利き手側にポートを作製する(図22).スパーテルで圧迫しながら後房水も抜いておく(図23).粘弾性物質をゆっくり注入し,ある程度前房を形成した時点で隅角の視認性を確認する.癒着部位がはっきり確認できるまで粘弾性物質を追加注入する.前房保持が良いのは高分子のものだが,隅角の端まで充?されにくいため,癒着部位の視認性が悪くなる場合があるので注意を要する.また,あまり多く入れると虹彩が下方に下がり癒着部位がかえって確認しにくくなるので,虹彩面が平坦になるくらいが良い.5)癒着解離プリズムを乗せない状態で解離針を隅角付近まで挿入してから(図24),プリズムを乗せ解離針を確認する.解離針の先が隅角底に届くまでゆっくりと進め(図25),解離針を回すようにして先を下方に動かす.解離針の先の曲がりは,左右方向あるので術者の使いやすい方向のものを使用する.癒着部位の少し手前を下に押し下げ,CB帯が確認されるまで解離する(図26,27).強く解離すると隅角部より出血するので注意を要する.プリズムの位置を調節して,その状態で確認できる部位を解離した後,顕微鏡と術者の座る位置を少しずつ移動させながら,可能な範囲で解離を行う.つぎに制御糸を反対方向に引っ張り,6時方向に近い部位が確認できるように調節する.同様の操作で解離を行うが,解離針の角度が合わない場合は別の部位にポートを作製する.6)各象限での癒着解離反対側の解離を行うには,顔を反対方向に傾け,顕微鏡の向き,術者の位置も180?反対の方向に調節し直す(図28).同様にして,角膜ポートを作製した後,順次癒着部位を解離していく.耳側を解離する場合,鼻の上からアプローチするため,解離針の動きに制限が生じるので,解離針を動かしやすい位置に角膜ポートを作製する.6時方向を解離する場合は,12時部位の制御糸を左(55)図26解離針を回すようにして先を下に動かし,癒着した虹彩根部の少し手前を押し下げる.図27CB帯が確認できたところで解離を止める.図28反対側の解離を行うために,術者の座る位置,顕微鏡の位置,患者の頭の傾きをすべて反対に設定する.←図296時方向を解離する場合,制御糸を下方に引っ張り眼球を下転させ,さらに顎を引いて隅角が確認しやすいよう調節する.→図30解離した虹彩根部がレーザー光で凝固され,白く緩やかに縮み平坦になるよう照射量を調節する.———————————————————————-Page8????あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007右に開くように下方に引き眼球を下転させる(図29)が,不十分な場合は,頭を上げたり,顕微鏡を前方に向け隅角が確認できるように調節する.7)粘弾性物質の吸引バイマニュアルI/Aで粘弾性物質を吸引するが,症例によっては角膜ポートが自己閉鎖しない場合がある.前房形成が悪い場合は,10-0ナイロン糸でポート部位を縫合する.8)術後管理点眼は一般の内眼手術と同様に考えて良いが,炎症が強い場合はステロイド点眼回数を増やしたり,場合によってはステロイドの内服を追加する.縮瞳剤のピロカルピンは,むしろ隅角が狭くなるので使用しない.9)Lasergonioplasty(LGP)癒着解離を行った後,プラトー虹彩形状を認めている場合,再癒着を予防する目的でLGPを施行する.施行時期は炎症が治まったGSL後3~4日で,施行条件は通常のLGPと同様に考えてよい.筆者は照射径400?m,照射時間0.3秒とし,照射量は虹彩が白く凝固し,縮んで平坦になる程度としている(図30).追加:白内障手術を追加施行する場合は,6)の後から行うが通常のPEA+IOLに準じてよい.ただし,前房が浅かったり,Zinn小帯が緩んでいる場合もあるので,それぞれに対処しながら施行する.(56)