———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLS落下する症例が出現した(図3).これに対して,1年遅れて1997年に導入した縫着リングは有望なアイテムではあったが,当初の術式ではCTR挿入とECCEで白内障摘出術が終了してから縫着リングによる水晶体?の強膜縫着固定を行っていたので,手技的な煩雑さから,結果的にCTR単独で手術中さえ乗り切れればという症例も複数存在していた.しかしその後,2002年頃から,CCCの完成直後に縫着リングを?内に挿入し,?を強膜に仮固定してから超音波乳化吸引術にて白内障摘出を行う術式が安定して施行できるようになった.これでようやく,Zinn小帯脆弱/断裂例でも比較的安全な小切開白内障手術が行えるようになったため,その適応は大きく広がった.結論から言えば,Zinn小帯脆弱/断裂例に対する適応は縫着リングが第一選択であり,比較的軽度で進行性がほとんどないと思われる場合のみ,例外的にCTR単独使用とした.具体的には,術前の無散瞳検査で水晶体振盪や偏位を認める症例は原因にかかわらず縫着リングの適応とした.また,術中にZinn小帯強度を検討する例では,比較的限定的な部分Zinn小帯脆弱例(誤吸引による医原性が多い)を除いて,縫着リングの適応を原則としている.さらに,はっきりとした水晶体の前方移動が認められる症例も術中に必要性が否定されない限り,縫着リングによる?の強膜固定を行っている.ところで,CTRの適応を変更しても,挿入例数はそれほど減少していない.CTR単独使用の適応そのものはじめに前回の特集で,水晶体?拡張リングに関して報告1)してから約7年が経過した.通常の拡張リングを導入してから11年,水晶体?を強膜に縫着固定できるリングを使い始めて10年の経験を踏まえて,現時点での知見を報告する.前回と重複する部分で,再度述べる重要性のない部分は割愛するので,既報1)を参考にしていただきたい.更新する内容として,リングの適応の変化,?固定用リングの定型術式と二次的強膜縫着術,虹彩欠損用リング,後発白内障予防用リングに関して述べる.Iリングの適応通常の水晶体?拡張リング(図1:capsulartensionring2),以下,CTR)の適応は,水晶体?強膜縫着リング3)(図2:以下,縫着リング)の術式の定着により大きく変化した.1996年のCTR導入当時は,比較的範囲の広いZinn小帯断裂例や全周性のZinn小帯脆弱例でも,CTRを挿入し粘弾性物質を多用した?外摘出術(ECCE)を行えば,少なくとも眼内レンズ(IOL)を挿入して手術を終了させることは,かなりの症例で可能であった.しかし,既報1)に記載したとおり,CTRには水晶体?の位置固定作用はないため,たとえCTRで手術は完遂できたとしても,術後に残存Zinn小帯の劣化が継続し,最終的には水晶体?がCTRとIOLを内包したまま眼底に(31)???*YoshihiroTokuda:井上眼科病院〔別刷請求先〕德田芳浩:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院特集●白内障手術アップデート2006あたらしい眼科23(4):453~458,2006合併症対策:水晶体?拡張リングの使い方アップデート???????????????????????????????????????德田芳浩*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006も拡大しているためと思われる.高齢者(80歳以上が目安),強度近視眼,成熟/過熟白内障,浅前房眼〔しばしば,レーザー虹彩切開術(LI)後〕,緑内障手術眼,偽水晶体落?症候群の軽症例,網膜色素変性症例,ぶどう膜炎長期経過例,網膜硝子体手術例,その他原因不明例など,CTRを念のために挿入している.これらの症例では,いずれも前?切開時にごく軽度のZinn小帯脆弱を認める例が多く,それによって起こる術後の軽度の?収縮がますますZinn小帯脆弱と断裂を促進し,それによって?を伸展する張力が失われて,さらにZinn小帯の脆弱と断裂が進行するという悪循環に陥ることがある.これは,拡張性心筋症で心筋が伸展されることで筋の張力が低下し,それが原因となってますます心臓が拡張してしまうという悪循環と病態が類似している.そのような負のスパイラルを最初の時点で断ち切る意味において,CTRをあらかじめ挿入しておく意義は少なくないと考えて使用している.II縫着リングの定型術式2002年以降,高分子高濃度粘弾性物質(ヒーロンV?:AMO社)の導入によって,縫着リングによる小切開白内障手術がほぼ,現在の形として行えるようになった.以下,手順を示す.(1)結膜切開制御糸をかけたのち,通常の白内障手術と同じ形で円蓋部基底の結膜切開を10時~12時と4時~6時に作製する.ただし,下方の切開(と麻酔)は白内障摘出術成功後でもよい〔術中に?内摘出術(ICCE)に切り替わることもありうるので〕.(2)麻酔2%リドカイン点眼で開始し,結膜切開後にTenon?下麻酔を,縫着部位に一致させて,10時30分に2.0m?,4時30分に1.0m?,合計3.0m?行う.(3)強角膜切開11時付近を中心に4.5mm幅の強角膜トンネルを作製する.トンネルは操作性を重視して短めにし,自己閉鎖にはこだわらない.(4)角膜サイドポート3時と9時の対側位置で,輪部から0.5mmぐらい内側の透明角膜に1.5mm程度の角膜サイドポートを作製する〔以上(1)~(4)まで,図4).(5)前房形成前房水を流出させつつ,ビスコート?約0.1m?を注入し,引き続き,ヒーロンV?で前房を全置換する.従来の高分子粘弾性物質による前房形成では,不安定な水晶体の動きを制限するには不十分であったが,ヒーロンV?であれば,前房内を全置換することで水晶体の動きがかなり抑制される(図5).ヒーロンV?は,粘弾性が高いことで直接的に水晶体の動きを止めると同時に,硝子体腔の液状成分が水晶体の前面に回り込むことがないため,水晶体はあたかも前(32)図1水晶体?拡張リング(CTR)閉鎖直径12.0mmのポリメチルメタクリレート(PMMA)製リング.図2水晶体?縫着リングCTRに縫着用のハプティクスがついている.リングは赤道部に挿入し,ハプティクスは前?切開窓から前?の前面に出る.ハプティクスの先端のアイレットに糸を通して,強膜に縫着固定する.図3CTR挿入?の硝子体腔落下CTRとIOLを内包した水晶体?が網膜上に落下している.左下に視神経乳頭が見える.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006???房側に吸い付けられたかのように視軸方向の動きも抑制する作用がある.さらに,前?切開や縫着リング挿入中に切開創から流出することもないため,前房内の操作性は格段に向上した.縫着リングの手術には必須の粘弾性物質である.(6)前?切開きっかけは27ゲージ針で作製し,半径が切れたら前?鑷子にて連続円形切?(CCC)を行う.水晶体の動きが大きい場合は,フックで抑制する(図6).大きく切れない場合や,かなり偏心した場合は切りなおせばよい.(7)縫着リング挿入まず,ビスコディセクションテクニックで,前?と皮質を360?にわたって赤道部まで?離しておく.あらかじめ縫着用のプロリンループ糸をハプティクスホールにカウヒッチノットで結んだ縫着リングを,上方の強角膜切開創から反時計回りに水晶体?内に挿入する.挿入中のリングがCCCから脱臼しないように,左手のフックで押さえ込みながら押し込んでいく(図7,8).(8)縫着針による強膜通糸水晶体?の動揺が大きい場合は,この時点で強膜に通糸して?を仮固定してもよいが,7割ぐらいの症例は縫着リングの挿入のみで次の白内障摘出のステップに移行できる.強膜への通糸は,通常のIOL縫着と同じ手技であるが,水晶体?を損傷しないように粘弾性物質で十分に?を後退させておく.(9)核乳化吸引と皮質吸引中央核のみをハイドロデリニエーション手技でくり抜くように分離し,溝は作製せずにフェイコチョップ手技(33)図4縫着リング症例:前房形成直前結膜切開,強角膜切開,サイドポート作製後.11時~3時までの水晶体赤道部が見えている.同部のZinn小帯断裂と7時方向への水晶体偏位のあることがわかる.図5縫着リング症例:前房形成後ヒーロンV?で前房を全置換すると,水晶体の偏位はやや矯正され振盪もかなり抑制される.前?切開中も前房深度は保たれる.図6縫着リング症例:前?切開連続前?切開を鑷子で行う.Zinn小帯の張力がない方向への切開では,先端が鈍なフック(本例では分割君?)を水晶体に刺入させて動きを止めながら施行する.図7縫着リング症例:リングの挿入Sinskeyフックで縫着リングが連続前?切開縁から脱臼しないように押さえながら,反時計回りに押し込んでいく.図8縫着リング症例:リング挿入完成縫着リングが挿入できたら,ハプティクスを前?の前に出しておく.縫着糸を強膜に通糸して仮固定するか,または,写真のように左右のサイドポートから出しておく.図9縫着リング症例:白内障摘出終了時12時部分のハプティクスがはっきり観察できる.白内障処理前に強膜通糸していない場合は,この直後に行う.———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006にて中央核を乳化吸引する.分厚いエピヌクレウスは再度,粘弾性物質に水晶体?から分離して中央に集めると容易に吸引除去できる(図9).皮質吸引はI/Aで可能な場合も多いが,硝子体ストランドが前房中にあって容易に吸引される場合は,角膜サイドポートからSimcoe針で吸引するほうが有利である.(10)縫着糸の強膜通糸白内障摘出前に通糸しなかった場合は,この時点,連続後?切開(PCCC)と前部硝子体切除を行う前に施行する(図10).(11)PCCCと前部硝子体切除すでに縫着糸を仮固定している場合は,糸を緩めて縫着リングの伸展力を解除する.27ゲージ針で後?に切開を入れ,カプセル鑷子にてPCCCを行う.両側の角膜サイドポートからそれぞれ,A-vitカッターと灌流ラインを使い,PCCC開窓部より後方の前部硝子体を切除する(図11).(12)IOL挿入,強角膜縫合,粘弾性物質除去できるだけ大きな光学径のIOL(筆者は直径6.5mmのアクリルIOLを使用)を?内に完全固定したら,強角膜創を縫合し,粘弾性物質を除去して眼圧を正常化させる.(13)縫着糸の固定,結膜縫合強膜にポケットを作製して,センタリングを見ながら縫着糸を埋没縫合する.最後に縮瞳させて正円瞳孔を確認して,結膜縫合で手術を終了させる(図12).III縫着リングの二次的縫着固定Zinn小帯脆弱/断裂例で縫着リングが第一選択となった場合,比較的軽度の症例では,本当に強膜縫着固定まで必要なのかどうかを術中に迷う症例は少なくない.そのような場合,筆者は縫着リングのみを?内固定し,強膜への縫着固定を行わずに手術を終了している.後日,縫着が必要と判断した時点で,二次的に縫着固定する治療方針である.縫着リングの二次的縫着は,従来のIOLの前房内操(34)図12縫着リング症例:終了時縮瞳確認前.4時30分と10時30分に縫着リングのハプティクスが観察できる.IOLのセンタリングも良好.図10縫着リング症例:縫着糸の通糸粘弾性物質で前?を十分に後退させ,4時30分と10時30分の対角で強膜に通糸する.この後の後?切開に備えて,糸は緩めておく.図11縫着リング症例:前部硝子体切除後?を連続切開し,その開窓部から前部硝子体を切除する.縫着操作による硝子体の牽引を取るためであり,外傷例では硝子体混濁の除去を兼ねることもある.図13縫着リングの二次的固定縫着用ハプティクスのある位置にサイドポートを対角に作製し,ハプティクスを硝子体手術用の眼内鑷子で把持して,アイレットに縫着用の針を通している.縫着用針にはプロリンループ糸がついているので,アイレットはカウヒッチノットで固定できる.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006???作による二次的縫着手技4)と同じ手順で施行可能である.角膜サイドポート2カ所を使用して,ハプティクスに縫着用プロリンループ糸をカウヒッチノットで固定し,そのまま強膜に通糸して固定する(図13).現時点では,外傷性Zinn小帯脆弱例で縫着リング挿入による白内障手術を施行し,後日,悪性緑内障発作状態に陥ったために,改めて強膜に縫着して水晶体?を固定した1例を経験しているのみである.IV虹彩リング既報では引用のみに留めた虹彩欠損用のリングは,部分虹彩リングと全周虹彩リングの2種類がある(図14a,(35)図15部分虹彩リング使用例5時30分を中心とした,外傷性隅角離断部分に虹彩リングを?内固定してあてがっている.図14虹彩リングa:部分虹彩リング,b:全周虹彩リング.ab図16全周虹彩リング使用例a:1枚目を?内に挿入したところ.b:2枚目を挿入して配置をずらし,ドーナツ状の遮閉効果を得たところ.ab図17全周虹彩リング50Ca:遮閉板の小さいタイプの全周虹彩リング.b:挿入例.IOL光学部直径が6.5mmなので,瞳孔径も約6.5mmあることがわかる.ab図18虹彩付きIOLa:全長13.5mm,光学部外径10.0mm,瞳孔領部径4.0mm.b:術後6カ月を経過した挿入例の前眼部像.ab———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006b).両方とも,CTRに光の遮閉板を取り付けた構造であり,黒い色素で着色してある.色素に関しては,CE規格における溶出試験基準を満たしているというレベルでの安全性は保証されている.部分虹彩リングは90?カバーの遮閉板なので,そのまま補いたい部分に配置すればよい(図15).全周虹彩リングは,?内に2枚挿入し,遮閉板が互い違いになるように配置してドーナツ型の虹彩を水晶体?内に再現する,優れたアイデアの製品である(図16a,b).全周虹彩リングは,瞳孔径約4.0mmのタイプ50D(図14b)とそれよりやや大きなタイプ50C(図17a,b)がある.タイプ50Dは?内に固定したときの瞳孔径が6.5mm近くあるので,正常眼の明室での瞳孔径よりは大きくなるが,遮閉板が50Dと比べて小さいので挿入の操作性はかなりよい.また,当然のことながら,全周虹彩リングは散瞳しないので,眼底の観察や治療に支障がありそうなら50Cが選択となる.なお,外傷性虹彩欠損の場合,必ずしも水晶体?が保存できるとは限らない.そういう場合用に虹彩付きIOLという選択肢もある.CTRとは無関係であるが,必要な場合もあるので,紹介しておく(図18a,b).V後発白内障予防リングそもそものリングの考案者,宇都宮市の原孜先生5)がご研究中のリングであり,現時点ではまだ文献にはなっておらず,販売もされていない.筆者の使用経験もないが,ビデオ映像による報告では,シリコーン製のクローズドリングで断面がコの字型になっており,内側にIOLを納めると同時に,外側のシャープエッジ効果で水晶体上皮細胞の後?側への進展を阻止することで,後発白内障を予防する構造の優れたリングである(図19a,b).一日も早い実用化を望みたい.おわりに筆者は,CTRは韓国のルシード社から,その他のリングや虹彩付きIOLはドイツのモルシャー社から購入している.いずれも,FAXやメールの簡単なやり取りで購入は可能であるが,すべて日本では未認可の医療材料なので,医師の責任において輸入許可を取り,使用するという制限がある.モルシャー社はホームページで商品を紹介している(http://www.morcher.com).ここに紹介した以外のリングや変わったIOL,自社製品の手術ビデオなども(ブロードバンドなら)観ることもできるので,興味のある人は一度,閲覧することをお勧めする.文献1)德田芳浩:白内障手術の再評価.水晶体?拡張リング.あたらしい眼科16:1235-1241,19992)GimbelHV,SunR,HestonJP:Managementofzonulardialysisinphacoemulsi?cationandIOLimplantationusingthecapsulartensionring.??????????????????????28:273-281,19973)CionniRJ,OsherRH:Managementofprofoundzonulardialysisorweaknesswithanewendocapsularringdesignedforscleral?xation.???????????????????????24:1299-1306,19984)德田芳浩:亜脱臼IOLの前房内リサイクル.あたらしい眼科16:491-492,19995)HaraT,HaraT,YamadaY:Equatorringformainte-nanceofthecompletelycircularcontourofthecapsularbagequatoraftercataractremoval.???????????????22:358-359,1991(36)図19後発白内障予防リングa:シリコーン製クローズリングの全景:IOLのハプティクスはリングの溝に挿入できる.b:水晶体?内での断面図:断面がカタカナのコの字になっている.IOLab