———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSり一見萎えているように見える乳頭である.そのほかにも表1のような視神経乳頭部の先天異常が原因で一見萎えているように見えることがある.朝顔症候群は視神経乳頭の拡大とその周囲を含めた陥凹が朝顔の花に似ていることより名付けられた.視神経乳頭コロボーマは視神経の一部,特に下方が欠損しており,それに続く網脈絡膜変性を伴うことが多い.乳頭小窩は生理的陥凹とは異なる深い陥凹(ピット)が見られる.ピットは耳側に多く,ピットに続く網膜神経線維層欠損(NFLD)を伴うことも多い.傾斜乳頭症候群とは乳頭下方がコーヌスを伴い,欠損あるいは深く陥凹したように見える特有の乳頭所見を認める.視野も乳頭の所見に一致して上方からはじめに萎えた乳頭の鑑別で考慮に入れておく必要があるのは,本当に萎えているのかどうか,萎えているのならその原因となっている疾患がいまだ活動中かどうかの2点である.後遺症として萎えてしまった乳頭ならそのまま経過観察でよいが,そうでない場合は十分な精査が必要である.図1に鑑別していくためのフローチャートを示す.I本当に萎えているの?まずここから鑑別していく必要がある.よく見かけるのが図2に示した大乳頭や近視乳頭などの形状変化によ(11)1561*MasashiKikuchi:菊地眼科〔別刷請求先〕菊地雅史:〒651-0096神戸市中央区雲井通8-1-2菊地眼科特とっても近な神経眼科あたらしい眼科24(12):15611567,2007萎えた乳頭の鑑別DiferentialDiagnosisofOpticAtrophy菊地雅史*萎えているように見える萎えているように見えるだけ本当に萎えているように見える図2,表1乳頭陥凹の拡大乳頭陥凹の拡大なし緑内障緑内障以外実は萎えていない視神経疾患網脈絡膜疾患図3表2図2,表1図5,表4図4,表3慢性期?急性期?表5図1萎えている乳頭を見たら———————————————————————-Page21562あたらしい眼科Vol.24,No.12,2007(12)る.しかし,視神経炎あるいは視神経症で乳頭浮腫が生じたあと徐々に視神経が萎えていく過程のなかで,図3にあるような一見緑内障性変化を思わせる所見を一過性上耳側にかけての視野欠損を伴う症候群である.Supe-riorsegmentaloptichypoplasiaは網膜血管入口部の上方偏位と乳頭上部の蒼白化とdoubleringsignを伴う先天性視神経低形成である.上方のNFLDとそれに伴う下方視野欠損を示す.II本当に萎えているように見える本当に萎えていると判断した場合,乳頭陥凹の状態がどうかということがつぎのポイントになる.乳頭陥凹が大きく深いとなるとまず頭に浮かぶのが緑内障である.近年になって緑内障も緑内障性視神経症(glaucomatousopticneuropathy:GON)という概念で語られるようになってきている.緑内障診療ガイドラインでは「緑内障は視神経乳頭,視野の特徴的変化の少なくとも一つを有し,通常は眼圧を十分に下降させることにより視神経障害の改善,あるいは進行を阻止しうる眼の機能的構造的異常を特徴とする疾患」と定義されている.一般的には図3のような緑内障に特徴的とされる乳頭所見により,視神経症などで萎えた乳頭所見とは鑑別可能とされてい表1萎えているように見える視神経乳頭先天異常巨大乳頭朝顔症候群視神経コロボーマ乳頭小窩(ピット)傾斜乳頭症候群Superiorsegmentaloptichypoplasiaその他の視神経乳頭低形成図2乳頭形状により萎えているように見える例図3緑内障性障害による乳頭所見表2緑内障以外に乳頭陥凹の拡大を起こしうる疾患視神経症視神経炎乳頭の形状変化(図2)先天性視神経乳頭異常(表1)その他———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.12,20071563(13)III乳頭陥凹がそれほど大きく深くない場合この場合は視神経疾患をおもに念頭に置いて診察を進めなければならない.が,しかしその前に乳頭周囲の状況にも目を配る必要がある.網脈絡膜疾患でも萎えることがあるためである(表3).多くの場合は乳頭が萎えるほど病状が進行すれば,眼底にそれぞれの疾病による他の所見を伴うため鑑別に困ることは少ないが,よく観察しないと診断を誤るケースがある.たとえば,図4にああるいは比較的長期にわたって示すことがある1)(表2).ここで重要なのはアナムネである.視力や視野を含めた視機能がどれぐらいの期間でどの程度低下してきたのかをしっかり聴取することは,特に神経眼科領域の疾患を念頭に置いて診断するときには大切である.視神経炎などでは比較的急激な視機能低下が起こるが,緑内障においてはそのような急激な変化は急性発作以外ではほとんど起こりえない.正常眼圧緑内障という診断を下すには,眼圧というよりどころが薄れているうえに先に述べたような視野欠損を伴う先天性視神経低形成や近視乳頭などとの鑑別が必要になる.実はけっこうこの鑑別はむずかしいのである.緑内障と思いこんでいて,よく見てみれば視神経乳頭低形成や近視乳頭で実は治療不要であるということはありうる話である(表2).表3萎えた乳頭を起こすことがある網脈絡膜疾患網膜静脈閉塞症網膜動脈閉塞症眼虚血症候群糖尿病網膜症(乳頭症を含む)ぶどう膜炎網膜色素変性症その他,,図4網脈絡膜疾患による萎えた乳頭———————————————————————-Page41564あたらしい眼科Vol.24,No.12,2007て検討する価値がある.さて,視神経周囲の所見にも目を配りやはり視神経疾患を考えるとなったときのつぎのステップは,視神経を萎えさせてしまった原因の精査である.表4に表すように多くの原因が存在するが,経過と画像診断が決め手になることが多い.図5に視神経疾患で萎えた乳頭のいくつかのパターンを示す.リムとなって入ってくる網膜神経線維束がどこの網膜に対応しているのかといった解剖学的な知識が必要である.中心暗点を示す場合は,黄斑部からくる乳頭黄斑神経線維束が障害されているため耳側蒼白(temporalatrophy)を示す.さらに高度かつ広範囲の障害を受けた場合はほとんどの神経線維束が脱落し,全体的に蒼白化する(totalatrophy).下垂体腫瘍など視交叉近傍での圧迫性病変がある場合,両耳側半盲を示すことがある.この場合視野欠損に対応する両眼の鼻側網膜の神経線維が逆行性に脱落する.するとそれらの線維が入ってくる乳頭耳側と鼻側が蒼白化してネクタイ状萎縮(bowtieatrophy)を示す.一般的に萎えた乳頭を見ると視神経疾患のなれの果て(慢性期)というイメージがある.事実そういう症例のほうが多いのであるが,比較的急激な視覚機能低下が起こりつつあるのに乳頭が萎えている場合は要注意である.特に表5にある圧迫性視神経症,鼻性視神経症,放(14)るように乳頭近傍で網膜静脈分枝閉塞症が起こり,陳旧化した場合,その部位に一致した軽度のリムの蒼白化とNFLDが起こることがある.NFLD付近に蛇行した静脈などかつて循環障害を起こしたことを示唆するような血管の走行異常などがないかどうかをチェックする.リムが比較的保たれているのに全体的に蒼白化している場合は,網膜中心動脈閉塞症(CRAO)や眼虚血症候群など網膜全体に及ぶ虚血性変化が起こったような所見がないかどうかしっかり観察する.CRAOでも慢性期であればcherry-redspotのような急性期の所見を認めることはない.網脈絡膜疾患に伴う視神経萎縮を考える場合は蛍光眼底造影や光干渉断層計(OCT)も検査項目とし表4萎えた乳頭を示すことのある視神経疾患視神経炎特発性多発性硬化症急性散在性脳脊髄炎乳頭炎視神経症虚血性圧迫性鼻性外傷性中毒性放射線性その他先天性Leber遺伝性視神経症常染色体性優性視神経萎縮などその他図5視神経疾患に引き続いて起こる萎えた乳頭表5ひょっとして急性期?と感じたら圧迫性視神経症鼻性視神経症放射線視神経症———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.12,20071565視野は中心感度の低下と傍中心暗点を認めた(図7左).腫瘍の外科的切除後のMRIでは治療に伴う脳浮腫が認められるが,視神経は両側ともきれいに描出されている(図6右).また,視機能も速やかに回復し,術10日後ですでに視力は矯正1.0,視野も軽い比較暗点を残すのみまで回復した(図7右).射線視神経症は念頭に置いておく必要がある.圧迫性視神経症は適切な治療を行うことで視機能の回復を望めることが報告されている2).たとえば,図6は左視神経を巻き込む形で増大している腫瘍(左図矢印)の摘出術前後の磁気共鳴画像(MRI)である.この症例の場合,右眼の視機能は正常であったが,左眼視力は矯正で0.2,(15)図6圧迫性視神経症のMRI術前術後図7術前後の視機能の変化術後(10日後):視力(0.1)視野術前:視力(0.2)視野———————————————————————-Page61566あたらしい眼科Vol.24,No.12,2007視力低下は不可逆性で,光覚なしにまで至る症例が45%,最終視力が0.1以下まで低下する症例が85%と視力予後は不良である6)おわりに強調したいことを表6に示した.本当に緑内障かどうかを正確に診断し,不必要な治療を行わないこと,萎えた視神経を見ても急性期である可能性を考え,適切な処置をすれば視機能を回復することのできる疾患があることを念頭に置いて日々の診療に努めたい.文献1)中村誠:非緑内障視神経症による乳頭陥凹.あたらしい眼科22:661-663,20052)GnanalinghamKK,BhattacharjeeS,PenningtonRetal:Thetimecourseofvisualeldrecoveryfollowingtrans-phenoidalsurgeryforpituitaryadenomas:predictivefac-torsforagoodoutcome.JNeurolNeurosurgPsychiatry76:415-419,20053)MillerNR:Newconceptsinthediagnosisandmanage-mentofopticnervesheathmeningioma.JNeuro-ophthal-これまで治療困難とされていた視神経鞘髄膜腫も定位放射線療法(ガンマナイフ)によって視機能の維持・回復を図れるようになってきた.これは圧迫性視神経症の治療法として大きく進歩した分野である3).その一方で放射線視神経症は確立された治療法のない予後不良の疾患である.本疾患を疑う場合,CTあるいは通常のMRIでは異常所見を認めないこともあるため,できれば造影MRIを選択する.図8は悪性リンパ腫の中枢神経系への浸潤に対し,50Gyの副鼻腔を含めた全脳照射を2年前に行った症例である.この造影MRIは視力低下を自覚してから2日後に撮影したもので,左視神経は造影効果陽性である(矢印).本症例でも乳頭はすでに萎えていた(図9).ちなみにもし放射線視神経症で乳頭が腫れている場合は原疾患による圧迫か,放射線網膜症を合併している場合がほとんどである.典型的には放射線に曝露してから数カ月から数年後に比較的急激な無痛性の視力低下が片眼性または両眼性に起こる.ほとんどのケースは曝露後3年以内に発症し,ピークは曝露後約1.5年である.一般的には1回照射量が2Gy以下,総照射量が50Gy以下であれば比較的安全と考えられている4)が,50Gyを超えると発症率が高くなり,5060Gyで5%,6178Gyで30%である5).(16)図8放射線視神経症のMRI図9放射線視神経症の乳頭所見初診時に乳頭はすでに萎えていた.表6最後に:萎えた乳頭を見たら考えよう本当に緑内障?→不必要な治療を避けるひょっとして急性期?→適切な治療を迅速に行えば視機能が回復するかも———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.24,No.12,2007156730:17-25,19946)ArnoldAC:Radiationopticneuropathy.Walsh&Hoyt’sClinicalNeuro-Ophthalmology,6thedition(edbyMillerNR,NewmanNJ),Vol1,p374-376,LippincottWilliams&Wilkins,Philadelphia,2005mol26:200-208,20064)KunLE:Thebrainandspinalcord.Moss’sRadiationOncology.Rationale,Technique,Results,p737-781,Mosby,StLouis,19945)JiangGL,TuckerSL,GuttenbergerRetal:Radiation-inducedinjurytothevisualpathway.RadiotherOncol(17)