———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.7,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLS■肺炎球菌とは肺炎球菌(????????????????????????)はヒトの口腔内・上気道に常在し,大葉性肺炎,中耳炎,髄膜炎などを起こす病原性の強い細菌である.以前はペニシリン系薬,セファロスポリン系薬に感受性を示していたが,近年耐性を示す株が分離されるようになってきた.これが,ペニシリン耐性肺炎球菌(penicillin-resistant?????????????:PRSP)である.耐性機構はペニシリン結合蛋白(PBP)における結合親和性の低下であり,これはPBPの変異に由来している1).さらに,排出機構による耐性遺伝子(????)とリボソームの修飾により薬剤との結合をなくさせる遺伝子(????)の2種類の遺伝子1)によるマクロライド系薬耐性やDNAgyraseおよびDNAtopoisomeraseⅣの変異2)によるフルオロキノロン系薬耐性を示す多剤耐性肺炎球菌が分離され3),大きな問題となっている.■肺炎球菌の特徴本菌は検査材料の塗抹検査において,グラム陽性ラン(65)50.ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)眼感染症セミナー─クライシスコントロール講座─●連載?監修=浅利誠志井上幸次大橋裕一宮本仁志愛媛大学医学部附属病院診療支援部臨床検査技術部門肺炎球菌は,大葉性肺炎,中耳炎,髄膜炎などを起こす病原性の強い細菌である.近年,ペニシリン系薬やセファロスポリン系薬に耐性を示すペニシリン耐性肺炎球菌が分離され注目されている.さらに,マクロライド系薬やフルオロキノロン系薬にも耐性を示す多剤耐性肺炎球菌が分離され,大きな問題となっている.図1肺炎球菌のグラム染色像中央にグラム陽性ランセット状の双球菌を認める(矢印).菌体の周囲に明るく見える莢膜をもつ.図2血液寒天培地上の肺炎球菌のコロニーヒツジ血液寒天培地でa溶血を示し,中央部が凹状を呈するのが特徴である(矢印).図3血液寒天培地上の肺炎球菌のコロニー(ムコイドタイプ)ヒツジ血液寒天培地でムコイド状のコロニーを示した肺炎球菌.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.7,2007セット状の双球菌で,莢膜をもつ形態を示すのが特徴である.莢膜が存在すると菌体の周囲が明るく見える(図1).またコロニーは,ヒツジ血液寒天培地でa溶血を示し中央部が凹状を呈することが多い(図2)が,ムコイド状のコロニーを示す場合もある(図3).本菌は自己融解を起こし死滅しやすいので,検体採取後速やかに培養する必要がある.培養は5~10%の炭酸ガス濃度で行う.■PRSPの判定法1.MICによる判定PRSPの判定は,ペニシリンのMIC(最小発育阻止濃度)を測定し0.06?g/m?以下をpenicillin-susceptible?????????????(PSSP),0.125~1?g/m?をpenicillin-intermediate?????????????(PISP),2?g/m?以上をPRSPと表す.通常,ペニシリン耐性肺炎球菌はPISP,PRSPのことを表し,同時にセファロスポリンにも耐性を示す.また,ペニシリン耐性肺炎球菌感染症は5類感染症の基幹定点把握疾患に指定されているため,基幹定点病院に勤務する医師が本菌による「感染症」と診断したケースでは保健所への届出が必要である.2.KBディスク法による測定Oxacillin(MPIPC)ディスクを用い,阻止円直径が20mm以上を感性(PSSP)と判定する.なお,19mm以下の場合はペニシリンのMICを測定し,PISP,PRSPの判定を行う.■治療薬使用抗菌薬使用抗菌薬は軽症例に対してはペニシリン系薬投与(中等量~大量)で効果がみられるが,中等症~重症例においては慎重に抗菌薬を選択する必要がある.b-ラクタム系薬としては第三世代セフェム系薬,カルバペネム系薬の抗菌効果が強い.また,グリコペプチド系薬のバンコマイシンやテイコプラニン,ニューキノロン系薬なども有効である.最近,使用可能となったケトライド系薬のテリスロマイシンはマクロライド耐性の肺炎球菌に対しても有効な薬剤である.注射・経口薬はpenicillinG(ベンジルペニシリン),vancomycin(バンコマイシン).注射薬はpanipenem/betamipron(パニペネム),piperacillin(ピペラシリン),teicoplanin(テイコプラニン),ceftriaxone(セフトリアキソン),cefotaxime(セフォタキシム),cefpirome(セフピロム).経口薬はcefditorenpivoxil(セフジトレン),cefcap-enepivoxil(セフカペン),spar?oxacin(スパルフロキサシン),tosu?oxacin(トスフロキサシン),gati?oxa-cin(ガチフロキサシン),telithromycin(テリスロマイシン)などである.文献1)紺野昌俊,生方公子:b-ラクタム系薬とマクロライド系薬耐性機構.改訂ペニシリン耐性肺炎球菌(梅田春男編),p97-133,協和企画,19992)宮本仁志,村瀬光春:????????????????????????における????遺伝子および????遺伝子の遺伝子変異について.感染症誌77:133-137,20033)宮本仁志,村瀬光春:????????????????????????における耐性遺伝子の解析.感染症誌78:508-513,2004(66)◎検査室から眼科医へ◎眼科の感染症(角膜炎など)で起因菌が肺炎球菌と他のa溶血レンサ球菌とでは,病態に違いがあるのでしょうか?また,検査室からグラム染色所見を報告する場合に区別可能ならば推定菌種まで報告することが診療上有用ですか?◎眼科医から検査室へ◎肺炎球菌は角膜炎起因菌の嫡流で,戦前は,角膜感染症全体の7~8割を占める勢いでした.頻度こそ低下したとはいえ,現在もその重要性に揺らぎはありません.肺炎球菌は角膜実質内に膿瘍を形成し,輪部(免疫系)を回避するかのような動き(匐行性角膜潰瘍)を示すのが特徴です.炎症所見は緑膿菌についで強く,角膜穿孔に至ることもあります.これに対して,他のaレンサ球菌属の角膜に対する病原性は格段に低く,限局性の弱々しい表層性浸潤を呈することが大半です.同じグラム陽性球菌でも,ブドウ球菌属とレンサ球菌属とでは,前者がニューキノロン系,後者がβラクタム系と,主力となる治療抗菌薬が異なるため,「スメアで肺炎球菌が見つかりました」との情報提供は,眼科医にとって有難い限りです.なお,本稿のテーマのPRSPですが,幸いなことに,菌の分離状況をみる限りにおいては,眼科領域ではいまだ大きな脅威とはなっていません.愛媛大学医学部眼科大橋裕一