———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSにする.本稿では,疾患に関連する遺伝子の多様性および遺伝子同定の戦略について,最新の情報を交えて概説したい.Iゲノムと遺伝子「ゲノム」とは「ある生物をその生物足らしめるのに必須な遺伝情報」,すなわちその生物の遺伝情報の総体のことであり,ゲノムには生命現象のプログラムが書き込まれている.ヒトでは22種類の常染色体とX,Yの2種類の性染色体に遺伝情報が蓄えられ,この遺伝情報を担っているのが「DNA」である.DNAは4つの塩基,アデニン(A),チミン(T),グアニン(G),シトシン(C)で構成され,4塩基の並び(配列)が遺伝情報を決定している.ヒトに限らずすべての生物の遺伝情報は,この4種類の塩基のみから構成されているが,その並び方(配列)の違いにより異なった生物となっている.DNAのなかでヒトの体の構成要素である蛋白質をコードしている領域が「遺伝子」であり,A,T,G,Cの4塩基が3個1組の順列で1つのアミノ酸を規定し,その連続である蛋白質の種類を特定する.ヒトゲノムは約30億個の塩基対から成るが,蛋白質をコードしている領域(遺伝子)はそのうちのわずか2%程度にすぎず,大半は非遺伝子領域である.ヒトの遺伝子数はこれまで予想されていた数よりも大幅に少ない23,000個程度と推定され,フグ(約22,000個)や線虫(約20,000個)と同程度である(表1).他の生物よりも高度かつ多様な生はじめにワトソン(Watson)とクリック(Crick)によるDNAの二重らせん構造の発見から半世紀となる2003年,ヒトの全ゲノムの塩基配列の解読完了が発表された.これは全ゲノムの99%の配列を99.999%以上の精度で解読したとされている1).この遺伝情報の解明が21世紀のバイオテクノロジーや医学の発展に寄与するところは多大である.現在のところ,ヒトの遺伝子の数は当初予測されていた100,000に比べはるかに少ない23,000程度と推定されている.この23,000個の遺伝子により10万種類を超える蛋白質が合成され,ヒトのさまざまな生体組織が形成されている.脳,心臓,肝臓などの諸臓器もおのおのの遺伝情報から作り上げられ,精密な機能が備えられている.すなわち,23,000個の遺伝子から人体を構成する60兆個の細胞が寸分違わず再現されるのである.しかし,われわれの姿形や体質が千差万別であるように,「生命の設計図」である遺伝情報には個人差(多型)が存在する.そしてこの遺伝子の多型が多くの疾患の発症に関与していると考えられ,多型と疾患の関連を解明することがポストゲノム時代のこれからの医学,科学の重要課題となっている.ヒトゲノム解読に加え,近年の遺伝子解析技術の飛躍的な進歩により,疾患の原因蛋白質の同定や発症機序の解明が遺伝子レベルで急速に進展してきている.このような遺伝学的知見は疾患の理解のみならず,疾患のより的確な診断や治療といった臨床医学の新たな一歩を可能(45)????*AkiraMeguro&NobuhisaMizuki:横浜市立大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕目黒明:〒236-0004横浜市金沢区福浦3-9横浜市立大学医学部眼科学教室特集●組織適合抗原(HLA)のすべてあたらしい眼科23(12):1559~1566,2006疾患感受性遺伝子同定のアプローチと今後の展望????????????????????????????????????????????-?????????????????????????????????????????目黒明*水木信久*———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006命活動を営むヒトの遺伝子数が予想外に少ないのは驚きであるが,このことは遺伝子の数が必ずしも生物の多様性や知性を決定しているのではないということを示唆する.ヒトが多様性に富む生物である理由は,1つの遺伝子から合成される転写産物(mRNA)およびその翻訳産物(蛋白質)の多様性に因るものと考えられる.II疾患と遺伝子多くの疾患は遺伝学的見地から,非遺伝性疾患,単一遺伝子疾患,多因子性遺伝子疾患(多因子疾患)の3つに大別される.非遺伝性疾患では,環境因子のみが疾患の発症要因となる.一般に外傷や中毒性疾患などが代表的な疾患である.遺伝性疾患である単一遺伝子疾患は特定の1つの遺伝子に突然変異が生じることで発症する.遺伝因子により発症が規定されるこの疾患は種類が多いものの,有病率の低いまれな疾患である.古くは鎌状赤血球症,フェニルケトン尿症あるいはHuntington病などが有名である.一方,多因子疾患は複数の環境因子と遺伝因子の相互作用により発症する有病率の高い疾患で複雑な病態を示す.遺伝因子の多数は多型遺伝子からなると考えられている.糖尿病,高血圧,肥満といった日常的にありふれた疾患(commondisease)が多因子疾患の代表的な例である.単一遺伝子疾患では特定の遺伝因子(原因遺伝子)が発症の必要条件であるのに対し,多因子疾患においては特定の遺伝因子は疾患発症の必要条件でもなければ,十分条件でもない.多因子疾患では遺伝因子の保有は疾患に対する「かかりやすさ(感受性)」を規定しており,複数の遺伝因子(疾患感受性遺伝子)の関与のもとに,環境因子が合わさって発症に至ると考えられている.インターネット上のOMIM(OnlineMendelianInheritanceinMan)からの統計結果では,2型糖尿病は17遺伝子,高血圧は16遺伝子,肥満は18遺伝子との関連が指摘されている(表2).多様な精神機能の障害がみられる統合失調症では最も多くの21遺伝子が関連遺伝子として同定されている.また,自己免疫疾患と考えられる疾患においても,免疫応答の惹起に疾患感受性遺伝子が関与していると推測されており,これまでにいくつかの疾患において感受性遺伝子が同定(46)表1各種生物の推定遺伝子数生物遺伝子数哺乳類ヒト23,000チンパンジー20,000~25,000アカゲザル22,000イヌ18,000~20,000マウス24,000ラット22,000~23,000ウサギ15,000鳥類ニワトリ18,000両生類ニシツメガエル18,000魚類フグ22,000メダカ21,000昆虫類ショウジョウバエ14,000ガンビエハマダラカ13,000~14,000線虫線虫20,000菌類分裂酵母5,000出芽酵母6,000~7,000植物シロイヌナズナ27,000イネ34,000インターネット上のNCBI,Ensemblのデータベースを参考にした(2006年10月現在).遺伝子数は推定のため,後に修正される場合がある.表2各疾患に関連のある遺伝子の数疾患遺伝子数関節リウマチ7肺癌9Parkinson病10全身性エリテマトーデス11乳癌12喘息12Alzheimer病13大腸癌・直腸癌14高血圧162型糖尿病17肥満18前立腺癌19統合失調症21インターネット上のOMIMのデータベースから検索した(2006年10月現在).———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006????されてきている.III疾患感受性遺伝子同定の戦略ヒトの生命活動は遺伝子にプログラミングされたとおりに適材適所に適量の蛋白質を合成することで,健常に営まれる.しかしながら,ヒトの遺伝子には多くの変異や多型が存在し,合成される蛋白質の量や質に個人差が生じる.この個人差の異常こそが多因子疾患発症の主因であると推測されている.このような遺伝因子の解明に飛躍的な進歩をもたらしたのは,1980年半ばのPCR(polymerasechainreaction)技術の発見である2).このPCR技術の進歩は,遺伝性疾患のなかでも特に単一遺伝子疾患の原因遺伝子の同定に対して大きな力を発揮した.そして現在,ヒトゲノムの完全解読により数多くの遺伝子多型が判明し,従来は困難であった遺伝学的アプローチによる多因子疾患の疾患感受性遺伝子の同定の研究が急速に進められている.多因子疾患の感受性遺伝子同定の戦略としては大きく分けて,①疾患でみられる機能異常などから候補となりうる遺伝子や遺伝子領域をあらかじめ選択して解析を行う「候補遺伝子アプローチ」と②全遺伝子を網羅するように全染色体の解析を行う「ゲノムワイドアプローチ(全ゲノム網羅的解析)」の2つがある.候補を絞り込み同定を試みる「候補遺伝子アプローチ」は,「ゲノムワイドアプローチ」に比べ,はるかに効率的に感じられるが,多因子疾患の分子病理の複雑さゆえに疾患感受性遺伝子がまったく予想もしない遺伝子であったりするため,「候補遺伝子アプローチ」では的外れの候補遺伝子解析になってしまう場合も少なくない.一方,全染色体を対象とした「ゲノムワイドアプローチ」は網羅的に疾患感受性遺伝子のマッピングを行うため,われわれの予測を超えた遺伝子の同定も可能であり,多因子疾患の遺伝学的解析の主流になりつつある.疾患感受性遺伝子をゲノムワイドに絞り込む手法の一つとしては,罹患した兄弟姉妹(同胞対)を含む小家系を多数用いた罹患同胞対解析(a?ectedsib-pairanaly-sis)がある.遺伝マーカーとしてマイクロサテライト(MS:ゲノム上に散在する数塩基単位の反復配列)が頻繁に用いられ,疾患とともに家系内で遺伝する遺伝因子を探索する.この解析法の利点は,前述したようにゲノム全域にわたって疾患感受性遺伝子を同定できる点である.しかしながら,検出力が低いという欠点があり,遺伝子寄与(相対危険率)の低い疾患感受性遺伝子を見いだすことができない可能性がある.検出力を高めるには,多くの同胞対を必要とするが,罹患同胞対を含む家系を多数集めるのは非常に困難である.このようななかで現在最も有力であると考えられるゲノムワイドな解析法は,患者群(case)と健常群(control)を比較し,患者群に偏った遺伝因子を統計学的に検索する相関解析(case-controlstudy)であると考えられている.相関解析自体は何ら目新しい手法ではないが,最も検出力が高く,患者と健常者がともに数百人ずつ集まれば,遺伝子寄与の低い疾患感受性遺伝子も同定することが可能である.相関解析では遺伝マーカーとしておもにSNP(sin-glenucleotidepolymorphism:1塩基多型)を用いる方法とMSを用いる方法がある.IV疾患遺伝子へのアプローチ近年の遺伝子解析技術のめざましい進歩に加え,ヒトゲノムの全解読によってSNPやMS多型の大半が判明した今日,「ゲノムワイドアプローチ」による多因子疾患の疾患感受性遺伝子を同定する試みが行われてきている.筆者らもこれまでに多くの多因子性眼疾患の疾患感受性遺伝子の検索をゲノムワイドに行ってきた.以下に筆者らが実際に行っているMSマーカーを利用した方法とSNPマーカーを利用した方法による多因子疾患のゲノム解析について実例を交えて概説する.1.マイクロサテライト多型解析マイクロサテライト(MS)とはゲノム上に散在する数塩基単位の反復配列のことで,たとえば,CとAが順列にn回反復する場合は(CA)nのように表記される.一般に遺伝子間やイントロンなどの非コード領域に多く存在し,生理的には意味をもたない配列である.しかしながら,その反復回数に個人差(多型)が多く認められるため,疾患遺伝子マッピングの有用な遺伝マーカーになりうることが示されてきた3).MSは連鎖不平衡(複数の対立遺伝子や多型の組み合わせがランダムではなく(47)———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006相関している現象)の距離が100kb以上にわたって存在している4).したがって,およそ30億塩基対(30Gb=3×109b)からなるヒトゲノムの全染色体上に100kb(1×105b)ごとに1個の密度で計3万個のMSマーカーを設定して相関解析を行えば,100kb前後に疾患遺伝子候補領域が特定(マッピング)できると予想される.筆者らは2000年度から,日本人集団において多型性豊富なMSマーカーの検索を行い,全染色体を網羅する約3万個のMSマーカーの収集・設定を完了している(図1).また,筆者らは各個人のDNA量が均一になるように100~200人程度のDNAを混合したpooledDNAを用いてPCRをする方法(pooledDNAPCR法)を確立しているため,PCRの回数が従来の100~200分の1となり,時間的にも,コスト的にも,労力的にも大幅に効率的な遺伝子マッピングが可能となっている.筆者らはこれまでに本法を用いて強度近視,Beh?et病,正常眼圧緑内障,網膜格子状変性,本態性高血圧などの多因子疾患の疾患感受性遺伝子の解析を遂行してきた.筆者らが現在行っているBeh?et病感受性遺伝子のMSマッピングを紹介する.Beh?et病は全身の諸臓器に急性の炎症をくり返す原因不明の難治性疾患であり,内的遺伝要因に加え,何らかの外的環境要因が作用して発症する多因子疾患と考えられている.本病は人種を超えてHLA-B51抗原と顕著に相関しており,HLA-B*51対立遺伝子(アリル)が本病の疾患感受性遺伝子として有力視されている.しかしながら,患者群のHLA-B51(48)400kb以上のマーカーギャップ?nisheddraftゲノムのphase213456789101112131415X16171819202122Y図1多型マイクロサテライトマーカーの分布各染色体上に設定したMSマーカーを青色の横線で示す.全染色体を網羅するように,約100kbごとに31,924個のMSマーカーを設定した.400kb以上のマーカーギャップがあるところは赤矢印で示した.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006????(49)1番染色体2番染色体3番染色体4番染色体5番染色体HLA6番染色体7番染色体8番染色体9番染色体10番染色体11番染色体12番染色体13番染色体14番染色体15番染色体16番染色体17番染色体18番染色体19番染色体20番染色体21番染色体22番染色体X染色体Y染色体図2Beh?et病のMSスクリーニング結果横軸は染色体上のMSマーカーの位置を示す.縦軸は患者群と健常群でのMSのアリル分布の有意差検定の値(p値)を示している.青色の横線がp値0.05を示し,それより下がp値0.05未満である.p値0.05未満の陽性MSマーカーを黄色丸で示した.———————————————————————-Page6????あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006抗原陽性頻度はどの民族においても60%前後であり,残りの40%前後はHLA-B51抗原以外の他のHLA-B抗原を有している.また,HLA-B51抗原陽性者のうち本病を発症するのはほんのわずかである(浸透率が低い).したがって,本病発症にはHLA-B*51アリル以外の他の遺伝子も関与している可能性が示唆されるために,全ゲノムを網羅するMSマーカー約3万個を用いて,ゲノムワイドに本病の疾患感受性遺伝子のマッピングを行っている.本MSマッピングでは,偽陽性を防ぐために患者群,健常群ともに300人ずつを対象にし,両群ともに100人ずつの3集団(一次~三次pooledDNA)に分けて3段階の解析を行った.独立した3集団のすべてにおいて患者群と健常群の比較で有意差を認めたMSマーカーのみを真の陽性MSマーカーとした.これまでに3段階のpooledDNAスクリーニングが終了し,本病の疾患感受性遺伝子の候補領域を147領域に絞り込んでいる(図2).本病と強い相関が知られているHLA-B遺伝子から36kbテロメア側に位置するMSマーカーが本病と顕著に相関しており,このMSマーカーがHLA-B遺伝子と強い連鎖不平衡にあることがわかる.このことから,残り146個のいずれかのMSマーカーの近傍にも本病の疾患感受性遺伝子が存在することが示唆される.146個のうち,3個はHLA領域に位置し,残りはY染色体を除くすべての染色体に散在していた.これらの近傍領域をSNP解析することによりHLA-B*51アリル以外の本病の疾患感受性遺伝子を同定することが可能と考えている.現在,筆者らは146個の陽性MSマーカーのpooledDNAスクリーニングにおける解析データおよび近傍の遺伝子情報を考慮して11個のMSマーカーを抽出し,おのおの100kb内外のゲノム領域のSNP解析を行っているところである.2.SNP解析SNP(singlenucleotidepolymorphism)とは一塩基多型のことであり,個人間における塩基配列上の単一塩基の違いのことである.ヒトゲノムの大部分では1,000塩基(10kb)に1個の割合でSNPがあり,ゲノム全体で300万~1,000万個存在すると推定されており,最も高頻度に存在する多型である.SNPは疾患感受性遺伝子同定の指標(遺伝マーカー)として広く用いられているが,実際に機能的SNPも多数存在し,SNP自体が疾患の危険因子となる場合がある.蛋白質をコードする遺伝子領域には50万個のSNPが存在すると推測され,これら遺伝子領域にあるSNPは,発現レベルやアミノ酸配列に直接影響し,遺伝子産物の質・量あるいは機能に違いを生じさせ,疾患に対する感受性(かかりやすさ)や薬剤への応答性(効きやすさ)などの個人差をもたらすと考えられている.近年の遺伝子解析技術の大幅な進歩に加え,ゲノムを網羅するデータベースの整備によりSNP情報を詳細に得ることが可能となった.これまでは多量のサンプルと大量の試薬や機器を必要とし,非常に高価であった全ゲノムの網羅的SNP解析は現在は安価で迅速(ハイスループット)に遂行できるようになってきた.代表的なSNP解析法としては,Invader?法,Sniper?法,TaqMan?法,GeneChip?法などがあり,現在でも解析技術の開発競争が行われている.ここでは,筆者らが用いているSNP解析法として,GeneChip?法を紹介する.GeneChip?(A?ymetrix社)とは固相化学合成と半導体製造用の光リソグラフィ技術の応用で作製され,ガラスの基盤上に数十万種類のオリゴヌクレオチドを配置し(50)図3GeneChip?HumanMapping500KArray(原寸大)500KArraySetは2枚のアレイからなる.中央部の1.28cm四方の基板上に25万個のSNPを配置している.2枚のアレイのみで50万個のSNPを一度にジェノタイピングできる.———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006????た超高密度マイクロアレイである.GeneChip?は当初,全ゲノムを対象とした遺伝子発現の解析に開発されたが,その後飛躍的に進歩し,ハイスループットで高精度なSNP識別ツールとして全ゲノムの網羅的相関解析を可能にしている.GeneChip?は数cm四方のカートリッジ式で,オリゴヌクレオチドをプローブとして担体上にアレイし,ラベルされたサンプルとハイブリダイズさせてSNPを検出する(図3).前述のようにSNPはゲノム全体で300万~1,000万個存在し,それらすべてのSNPを解析することは困難であり,非現実的である.SNPは多型性が少ないために連鎖不平衡の距離が約3~10kbと短く,ゲノムワイドに疾患感受性遺伝子をマッピングするためには,高密度にSNPを設定する必要がある5)が,筆者らが使用しているGeneChip?HumanMapping500KArraySetには全ゲノムにわたり50万個を超えるSNPが平均距離5.8kbごとに超高密度にプロットされてある.さらに,ヒトゲノムの85%が10kb以内に1個のSNPを含んでいることを考慮すると,HumanMapping500KArraySetを用いることでゲノムワイドに高精度のSNP解析を行うことが可能と考えられる.現在筆者らは,HumanMapping500KArraySetを用いて正常眼圧緑内障の全ゲノムの網羅的相関解析を行っている.正常眼圧緑内障の疾患感受性遺伝子の解析はMSとSNPの両方面からゲノムワイドに行っており,解析結果のデータベースを整備することでより良い結果が得られるものと考えている.Vトランスレーショナルリサーチトランスレーショナルサーチとは高度かつ先進的な医療を行うための研究開発のことで,基礎研究で得られた成果を速やかに臨床応用することを目指している.近年,この基礎研究と臨床をつなぐトランスレーショナルリサーチに注目が集まっており,多大な期待が寄せられている.1.遺伝子診断昨今,疾患発症に関与する染色体や遺伝子の変異(または多型)を各個人で検査する遺伝子診断が注目されている.疾患の原因遺伝子や感受性遺伝子の有無の判別により,将来的に特定の疾患を「発症する」か「発症しない」か,または「発症しやすい」か「発症しにくい」かを診断する.生活習慣病を含め多くの疾患は複数の要因の相互作用で発症する多因子疾患であり,疾患感受性遺伝子の保有は発症を規定するものではなく,発症のリスク(かかりやすさ)を規定するものである.そのため遺伝子診断により,①自分が保有している疾患感受性遺伝子の数とその相対危険率を知る,②疾患発症の相乗モデルから,将来自分が疾患を発症する確率を推定する,③疾患の早期発見,早期診断の一助となる,④疾患に対する本人の注意喚起,意識改革をひき起こす,といったことが想定され,その医学的価値は大変高いと考えられる.しかしながら,浸透率の低い疾患感受性遺伝子では陽性の結果が得られても,陰性の人と比較してほんのわずかにその疾患を発症しやすい程度である.大きな混乱を招かないためにも,遺伝子診断の有効性を客観的に評価するシステムを構築する必要がある.また,着床前診断や出生前診断による生命の選別,疾患遺伝子保有者への遺伝子差別などが起こらないように,その利用には十分注意しなくてはならない.2.ゲノム創薬ゲノム創薬とはゲノム研究の成果を利用して新規医薬品の開発を行うことである.解明された疾患感受性遺伝子をもとに発症に関与する蛋白質(標的分子)を同定し,この標的分子を手がかりに医薬品を開発する.標的分子が分泌酵素や蛋白質修飾酵素であった場合,それらの阻害薬が治療薬となりうる.また,標的分子の活性化部位を特異的に不活化する化合物を合成したり,不活化された蛋白質の高次構造を変化させ機能を回復させるような化合物の検索がなされたりしている.レセプターに対するアゴニスト(作用薬)やアンタゴニスト(拮抗薬),シグナル伝達物質の刺激薬や阻害薬,モノクローナル抗体なども治療薬となりうる.ゲノム研究により疾患の原因の標的を絞ることができれば,このようにより有効な副作用の少ない医薬品の提供が可能となる.3.個人化医療個人化医療(personalizedmedicine)は個人のゲノム(51)———————————————————————-Page8????あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006情報に基づいた薬剤応答性を予測し,個人に最も適切な薬剤と投与量を選択するものである.従来の医療は疾患が中心であり,疾患名に応じた画一的な治療が行われてきた.個々人の体質は千差万別であり,同一の疾患であっても薬剤に対する応答性や副作用の程度が異なることは以前より知られていたが,そのような薬剤に対する個人差をあらかじめ予測する手立てはなかった.しかしながら,ヒトゲノム完全解読以降の遺伝学的研究の著しい進歩により,従来「体質」とよばれてきた個々人で多様に異なる特性は遺伝子の多様性に起因するものであり,薬剤の治療効果をこの遺伝子の多様性が規定していることがわかってきた.今後,多数の遺伝子の機能や多型の情報が蓄積されれば,多くの疾患において副作用のないより有効な治療法が確立されることが期待される.おわりに以上,疾患感受性遺伝子同定のアプローチと今後の展望について最新の知見を交えながら概説した.今日の遺伝子研究の飛躍的な進展により,疾患に関与する遺伝要因が数多く解明されてきた.しかしながら,遺伝要因と環境要因の相互作用についてはいまだ不明な点が多く,疾患発症のメカニズムの解明には今後のさらなる研究が必要である.文献1)InternationalHumanGenomeSequencingConsortium:Finishingtheeuchromaticsequenceofthehumangenome.??????431:931-945,20042)MullisKB,FaloonaFA:Speci?csynthesisofDNAinvitroviaapolymerase-catalyzedchainreaction.???????????????155:335-350,19873)DibC,FaureS,FizamesCetal:Acomprehensivegenet-icmapofthehumangenomebasedon5,264microsatel-lites.??????380:152-154,19964)KochHG,McClayJ,LohEWetal:AlleleassociationstudieswithSSRandSNPmarkersatknownphysicaldis-tanceswithina1MbregionembracingtheALDH2locusintheJapanese,demonstrateslinkagedisequilibriumextendingupto400kb.?????????????9:2993-2999,20005)WeissKM,TerwilligerJD:HowmanydiseasesdoesittaketomapagenewithSNPs??????????26:151-157,2000(52)