———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSなされている.糖尿病による細小血管障害により,網膜血管に病変が生じると網膜は高度の虚血環境下に曝される.虚血に陥った網膜に対して光凝固を播種することによって,酸素消費量の多い視細胞と網膜色素上皮細胞に変性壊死が起こる.網膜外層における代謝需要の低下とそれに伴う酸素消費量の減少により,網膜の虚血が是正されることが示唆されている.いわゆる光凝固の間引き効果といわれるものである.一方,網膜外層の光凝固による破壊で,脈絡膜血管から網膜内層への酸素拡散が2次的に増加し,網膜の虚血が是正されることもいわれている.光凝固により網膜内層の酸素分圧が正常化し,低酸素状態に陥っていたグリア細胞や血管内皮細胞の代謝や機能が回復し,血管内皮細胞増殖因子(VEGF)などの血管新生促進因子の産生や分泌が抑制されることが示唆されている.もう一つの光凝固の効果として,光凝固により網膜への循環血流量が減少し,これによる血管拡張の緩和があげられる.これらの光凝固奏効機序の仮説は,多くの動物実験で裏付けが試みられている.II光凝固のエビデンスDiabeticRetinopathyStudy(DRS)1)は,1971年から1975年にかけて行われた無作為多施設臨床治験である.糖尿病網膜症に対する汎網膜光凝固の有効性と実施時期,キセノンとアルゴンレーザーによる効果と副作用の差異を検討するため,少なくとも1眼に増殖網膜症を有するか,両眼に重症の非増殖網膜症を有し,矯正視力がはじめに糖尿病網膜症(以下,網膜症)に対する眼科的治療は,網膜光凝固療法(以下,光凝固)と硝子体手術が主体的に行われ,薬物療法は網膜症を対象とした治験中のものもあるが,あくまでも補助的な意味合いで行われている.網膜症治療の到達目標は,良好な視機能を保持したまま網膜症の鎮静化を図ることにある.眼科的治療介入においては,視力予後を悪化させる増殖性病変の発症と進展の阻止が最優先課題とされていた.しかし,光凝固や硝子体手術の飛躍的な進歩により,失明予防を高率に抑制することが可能となり,現在は,黄斑浮腫や視野狭窄といった視機能のクォリティーを低下させる合併症をいかに最小限に留めるかが問われている.そのため,網膜症に対して,いかなる治療が,いかなる時期に行われるべきかのエビデンスが求められている.本稿では,光凝固を中心に血管新生阻止を目的とした眼科的治療のエビデンスを取り上げて,網膜症の眼科的治療の介入の方向性について述べてみたい.I光凝固の奏効機序網膜は,全身の組織のなかでも,酸素消費量の多い組織とされている.酸素消費量の高い網膜外層,特に視細胞や網膜色素上皮細胞は,網膜全体の2/3以上の酸素を消費するといわれる.網膜組織は,網膜と脈絡膜の2つの血管系により栄養され,網膜内層は網膜血管系により,網膜外層は脈絡膜血管系により酸素の供給がおもに(19)????*ShigehikoKitano:東京女子医科大学糖尿病センター眼科〔別刷請求先〕北野滋彦:〒162-8666東京都新宿区河田町8-1東京女子医科大学糖尿病センター眼科特集●糖尿病網膜症:一次予防,二次予防,三次予防の戦略あたらしい眼科24(10):1291~1297,2007糖尿病網膜症二次予防のエビデンス─血管新生阻止を目指して(薬物療法,光凝固など)─????????????????????????????????????????????????????????:???????????????????????????????????????????????????????北野滋彦*———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.24,No.10,20070.2以上の糖尿病患者1,758名を対象に,片眼にキセノンまたはアルゴンレーザーで汎網膜光凝固を施行し,他眼は経過観察を行った.3年経過で視力0.025以下まで悪化した率(seversvisualloss)は,アルゴンレーザーで13.3%,キセノンで18.5%,経過観察群で26.4%であり,5年経過で光凝固療法により視力の悪化するリスクが50%に減少された(図1).DRSでは,増殖網膜症のなかでもハイリスクな増殖網膜症において,著しい視力障害(視力0.025以下)をきたす頻度が汎網膜光凝固により有意に減少したという結果が得られた.ハイリスクな増殖網膜症とは,①1/4から1/3乳頭径を超える乳頭上新生血管,②視神経乳頭から1乳頭径内の新生血管,③硝子体出血または網膜前出血を伴う視神経乳頭から1乳頭径内の新生血管,④硝子体出血または網膜前出血を伴う1/2乳頭径大以上の増殖性病変のいずれかがみられるものをいう.一方,EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudy(ETDRS)3)は,1979年から1991年にかけて行われた無作為多施設臨床治験である.光凝固の実施にあたり生じてきた疑問である,①汎網膜光凝固をどの時期に施行するのが最も有効か,②黄斑浮腫に対する光凝固は有効か,③アスピリン内服は網膜症治療に有効かが検討された.軽症から重症の非増殖網膜症または初期の増殖網膜症を有する糖尿病患者3,711名を以下の3群に分けた.すなわち,Ⅰ.黄斑浮腫を認めない群,Ⅱ.黄斑浮腫を認める軽症または中等度の非増殖網膜症(lessseverereti-nopathy)群,Ⅲ.黄斑浮腫を認める重症の非増殖網膜症または初期増殖網膜症(moresevereretinopathy)群の3群である.それぞれの群で,早期に光凝固を行う群と行わない群に割り付け,さらに早期に光凝固を行う場合は,凝固総数が1,200発を超える密凝固(completescatterphotocoagulation)群と超えない粗凝固(mildscatterphotocoagulation)群,加えて黄斑凝固を併用させるか否かに細分した(図2).5年間の経過観察で,ハイリスクな増殖網膜症への進展率は,各群とも非凝固群で高く,Ⅲ群のmoresevereretinopathyにおいては61.3%にのぼる.しかし,Ⅲ群で密凝固を行った群では,ハイリスクな増殖網膜症への進展率は27.6%に抑えられた(表1).一方,5年間の経過観察における視力0.025以下まで悪化した率(severevisualloss)は,黄斑浮腫を認めないⅠ群では差はみられなかったが,黄斑浮腫を認めるⅡ群のlesssevereretinopathy,Ⅲ群のmore(20)図1DRSにおける視力0.025以下まで悪化した率(DRS1)による)403020100081624324048566472調査開始からの期間(月)5/200以下の視力(%)キセノン・コントロールアルゴン・コントロールキセノン・治療群アルゴン・治療群→図2ETDRSにおける症例の割り付け法ETDRS症例黄斑浮腫(-)いずれの非増殖網膜症または早期増殖網膜症黄斑浮腫(+)軽症または中等度非増殖網膜症非光凝固非光凝固非光凝固早期光凝固粗光凝固密光凝固粗光凝固密光凝固黄斑凝固→粗光凝固黄斑凝固→密光凝固早期光凝固黄斑浮腫(+)重症非増殖網膜症または早期増殖網膜症粗光凝固密光凝固黄斑凝固→粗光凝固黄斑凝固→密光凝固早期光凝固———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.10,2007????severeretinopathyでは,非凝固群に比し粗凝固群,密凝固群ともに抑制されていた(表2).しかし,軽度や中等度の非増殖網膜症における汎網膜光凝固は,後述するように視野狭窄などの合併症をきたす頻度が著しい視力障害への抑制効果を上回るため,推奨されないという考察が述べられている.これらの臨床治験の結果から,ETDRSの推奨する網膜症に対する光凝固は,図3に示すように,重症あるいは超重症非増殖網膜症,さらに初期増殖網膜症においては時に汎網膜光凝固が施行され,ハイリスクな増殖網膜症に至ってからただちに汎網膜光凝固が施行されるという治療指針が示されている.黄斑浮腫を伴う軽症または中等症の非増殖網膜症の場合は,まず黄斑浮腫に対する光凝固を行って経過を観察し,増殖網膜症に移行した時点で汎網膜光凝固を行うのがよいとしている.わが国では後述する厚生省(現厚生労働省)の治療指針が示すように,血管床閉塞に対して選択的に光凝固を行う病巣凝固が主体で,血管床閉塞が3象限以上の広範にみられる場合や,増殖性病変がすでに認められている場合のみ汎網膜光凝固が行われている.志水ら5)は,増殖前網膜症に対し網膜光凝固を行った96眼と,光凝固を行わなかった46眼を3年間経過観察し,光凝固眼における眼底所見で改善率は高率であり,増殖期への進行は有意に低率であったと報告している.増殖前網膜症には,軟性白斑が散在するのみの軽症例から,網膜内細小血管異常がみられ,蛍光眼底造影で血管床閉塞が同定される中等症例,さらに静脈の数珠状拡張や,ループ形成,重複化など高度の異常をきたす重症例まである.増殖前網膜症における光凝固の対象は,蛍光眼底造影における血管床閉塞とされる.症例の網膜症の進展に伴い,蛍光眼底造影をくり返し行い,新たな血管床閉塞の出現に対し病巣凝固を追加する方法が,必要最小限の光凝固で,黄斑浮腫などの合併症を少なくして,増殖網膜症への進行を阻止しうるものと思われる.しかしながら,このエビデンスは今のところない.米国とわが国のいずれかの治療指針が,次項にあげる光凝固の合併症を最小限にして,網膜症の増殖化の予防・鎮静化を効果的に行えるかを検討するため,現在,日本糖尿病眼学会を中心に臨床治験がわが国で進められている.III光凝固の合併症網膜色素上皮や視細胞が熱凝固され,神経網膜の外層に凝固効果が及ぶことが光凝固の狙いであり,網膜内層や脈絡膜深部に至る凝固は過剰となる.光凝固による合併症は,硝子体牽引のほか,網脈絡膜の炎症,血液網膜柵の破綻,毛様体?離や脈絡膜毛細血管板閉塞があり,周辺視野狭窄,暗順応の低下,色覚異常などの症状を生じる.ETDRSの報告において,凝固後4年の周辺部視(21)表1ETDRSにおけるハイリスクな増殖網膜症への進展率密凝固粗凝固非凝固Ⅰ群黄斑浮腫(-)583眼590眼1,179眼18.8%26.9%38.5%Ⅱ群黄斑浮腫(+)718眼730眼1,429眼Lesssevereretinopathy11.1%19.0%26.7%Ⅲ群黄斑浮腫(+)542眼548眼1,103眼Moresevereretinopathy27.6%43.5%61.3%表2ETDRSにおける5年経過観察後の視力0.025以下まで悪化した率密凝固粗凝固非凝固Ⅰ群黄斑浮腫(-)583眼590眼1,179眼2.7%2.6%2.2%Ⅱ群黄斑浮腫(+)718眼730眼1,429眼Lesssevereretinopathy1.0%1.7%2.9%Ⅲ群黄斑浮腫(+)542眼548眼1,103眼Moresevereretinopathy4.2%4.0%6.5%図3ETDRSにおける光凝固治療のアルゴリズム網膜症なし増殖網膜症汎網膜光凝固経過観察軽度非増殖網膜症重症非増殖網膜症中等度非増殖網膜症コントロール不良白内障手術妊娠片眼の進行度糖尿病病型NoNoYesYesハイリスク網膜症———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.24,No.10,2007野狭窄は早期密凝固群に著明であり,早期粗光凝固群では非凝固群とほぼ同じである.色覚異常は,凝固後4年で各群とも約20%の頻度で認められているが,黄斑浮腫を認めるⅡ群のlesssevereretinopathyにおいて,早期に黄斑凝固を行い,その後に汎網膜光凝固を行った場合に頻度が少なかった.凝固斑拡大(atrophiccreep)は,凝固部周囲の網膜色素上皮が光凝固による熱エネルギーにより徐々に萎縮するもので,近視眼や高齢者によくみられ,特に後極部の過剰凝固には注意を要する.汎網膜光凝固において,最も問題とされるのは光凝固後の黄斑浮腫である.黄斑浮腫は,中心視力を得る網膜の中心にあたる部位に血管透過性亢進により浮腫を生ずる病態をいい,網膜症における視力障害の一因となっている.汎網膜光凝固後の8~25%の頻度で,黄斑浮腫が発生または増悪するといわれ,治療後に視力低下をきたすため憂慮されている.汎網膜光凝固後に発生または増悪する黄斑浮腫を予防するにあたり,1回に行う光凝固数を400発以下に抑え,光凝固の間隔を2週間以上あけるべきといった提唱がされているが,ETDRSの結果からも,事前に黄斑浮腫を同定し,汎網膜光凝固より優先して対処していくことが薦められる.IV光凝固の適応網膜症に対する光凝固の目的は,増殖化予防・停止にあり,一般的には,網膜症の増殖前期に光凝固を行うのが効果的であるとされている.糖尿病網膜症に対する光凝固の適応に関して,1994年に厚生省(現厚生労働省)から適応と実施基準が示されている4)(表3).なお,黄(22)表3厚生省(現厚生労働省)による糖尿病網膜症に対する光凝固の治療指針病型検眼鏡所見蛍光造影所見光凝固対象部位備考単純網膜症・黄斑症は別項参照・びまん性網膜浮腫広範な血管拡張と透過性亢進後極部を除く病巣部位増殖前網膜症に移行しやすい増殖前網膜症・急性型軟性白斑の多発と血管異常(網膜内細小血管異常または静脈数珠状拡張)・慢性型白線化血管網膜内細小血管異常血管拡張と透過性亢進が目立つ病巣部位は網膜全体あるいは後極部広範な血管閉塞黄斑を除く病巣部位血管閉塞域軟性白斑のみが主要な所見の場合は光凝固非適応硝子体?離があれば増殖化しにくい増殖網膜症・新生血管・線維増殖合併・硝子体牽引合併広範な血管閉塞新生血管からの蛍光漏出同上同上血管閉塞域(汎網膜光凝固)同上(増殖膜は除く)同上(網膜?離部は除く)硝子体出血は何時でも起こりうる硝子体手術を前提黄斑症・単純浮腫(びまん性)・単純浮腫(限局性)・?胞様黄斑浮腫・輪状網膜症・脂質沈着・虚血性黄斑症黄斑周囲のびまん性透過性亢進毛細血管瘤?胞造影硬性白斑内の異常血管透過性亢進黄斑部血管閉塞格子状光凝固病巣部位びまん性の蛍光漏出は格子状光凝固限局性の蛍光漏出は病巣凝固異常血管病巣および格子状凝固非適応黄斑症以外の周辺部にも注意を払う黄斑牽引病変は手術適応黄斑から離れていれば不要隅角および虹彩血管新生広範な血管閉塞循環遅延汎網膜光凝固隅角閉塞の程度により他の治療を併用糖尿病網膜症で光凝固を実施するにあたっては,事前に硝子体観察と蛍光眼底造影を行うことが望ましい.光凝固を実施するにあたっては,起こりうる合併症に関して患者に十分な説明を行う.また,どのような状態に対し,どのような光凝固を行ったか,その後の経過を含めて内科主治医に連絡するのが望ましい.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.10,2007????斑浮腫に対する治療に関しては別項で述べられているので,本稿では省略する.単純網膜症では,黄斑症と蛍光造影所見において広範な血管拡張と透過性亢進を示す,びまん性網膜浮腫が対象となるが,両者の糖尿病網膜症における頻度は少ないと思われる.増殖前網膜症においては,急性型と慢性型に分類している.急性型は,軟性白斑の多発と網膜内細小血管異常および静脈数珠状拡張を示す血管異常を主体とし,蛍光造影所見では,血管拡張と透過性亢進が目立ち,病巣部位は網膜全体あるいは後極部が主体である.急性型に対する光凝固は,黄斑を除く病巣部位に行われる.慢性型は,白線化血管や網膜内細小血管異常が主体で,蛍光眼底所見では,広範な血管床閉塞を示す.慢性型に対する光凝固は,血管床閉塞に行われる.しかし,増殖前網膜症のなかで,軟性白斑のみで血管異常が認められない場合,蛍光眼底所見において血管床閉塞は限局的で,光凝固の必要性は低いとされる.増殖網膜症は,新生血管がみられる場合,蛍光造影所見で広範な血管床閉塞と新生血管からの蛍光漏出がみられ,光凝固は,血管閉塞に対して汎網膜光凝固が行われる.線維増殖合併の場合は,蛍光眼底所見は新生血管と同様に広範な血管床閉塞がみられ,光凝固も増殖膜は除いて血管床閉塞に対して汎網膜光凝固が行われる.硝子体牽引合併の場合も,線維増殖合併と同様だが,光凝固はあくまでも硝子体手術を前提とし網膜?離部は避けて行う.上記のように,網膜症に対する光凝固は,単純網膜症から増殖網膜症まで,病期や病変に応じた適応があるとされている.汎網膜光凝固の適応わが国においては,血管床閉塞に対して選択的に光凝固を行うことが多い.網膜症に対する光凝固の目的は,黄斑浮腫の場合を除き,基本的には増殖化の発生母地といえる血管床閉塞が対象とされ,その程度により,病巣凝固と汎網膜光凝固が選択される.病巣凝固(選択的病変部光凝固あるいは限局的直接的光凝固)は,特定の病変部を選択し,直接光凝固する.ここでいう病変部とは,血管床閉塞や血管透過性亢進部位をさす.血管床閉塞が3象限以上の広範にみられる場合や,増殖性病変がすでに認められている場合は,限局的なものを除きすべてが汎網膜光凝固の対象となる.特に,血管新生緑内障,あるいは広範な網膜前出血や硝子体出血をすでに生じている場合は,早急に汎網膜光凝固を完成させなくてはならない.汎網膜光凝固は,増殖化を予防あるいは軽減させるために,あくまでも間接的効果をもとに行われる.凝固斑が小さく,まばらであると,血管床閉塞に対する増殖化予防の効力を発しない.逆に,過剰凝固を行えば,汎網膜光凝固による弊害も考慮しなくてはならない.光凝固による増殖膜の収縮や,硝子体牽引の増強で,硝子体出血や牽引性網膜?離を誘発する症例がしばしば認められる.V網膜症に対する薬物療法網膜症に対する薬物療法は,あくまでも補助的な意味合いで行われている.現在までの網膜症(黄斑浮腫を除く)をターゲットとした治験について述べる.ETDRSの臨床治験では,無作為にアスピリン650mg/日とプラセボが投与された.アスピリンの投与は,網膜症治療に有効であるという裏付けも,硝子体出血や網膜前出血が誘発要因となることも示されなかった5).アルドース還元酵素阻害薬(ARI)は,グルコースからソルビトールへの変換を阻害し,ポリロール代謝経路の活性亢進による網膜症の発症・進展を抑制することが期待されている.ARIとして糖尿病性神経症を対象に,エパルレスタット(キネダック?)が臨床応用されている.網膜症に対する効果については,否定的な意見が多い.プロテインキナーゼC(PKC)は蛋白リン酸化酵素で,高血糖の持続により,ジアシルグリセオール(DAG)の合成が促進され,PKCの活性が上昇する.PKCの活性化は,血管内皮細胞増殖因子(VEGF)を発現させて,網膜血管内細胞の増殖や血管透過性の亢進に関与する.ルボキシスタウリン・メシレート(LY333531)は,PKCbの特異的阻害薬で,米国での臨床治験において,末?神経障害に対して有効性が示されている.PKC-(23)———————————————————————-Page6????あたらしい眼科Vol.24,No.10,2007DRSStudyGroupでは,ETDRS分類の47B・53Eにあたる網膜症で,視力0.16以上,光凝固非施行の252例に対して,8mg,16mg,32mgとプラセボを無作為に分け,36~46週間投与した.その結果,網膜症の進展に関しては有意差が得られなかったが,主要評価項目である中等度視力障害は,32mg投与群で有意に減少していた.特に,観察開始時に黄斑浮腫を併発する例において有意差が認められた6).昨年末からわが国において,糖尿病黄斑浮腫に対するPKCb阻害薬の第Ⅱ相臨床治験が全国で開始されている.現在のところ,PKCb阻害薬の対象は,糖尿病黄斑浮腫に向けられている.アンジオテンシン変換酵素阻害薬が,臨床的に網膜症に有効であることも示され7),現在はアンジオテンシンⅡタイプ1(AT1)受容体拮抗薬であるcandesartanの臨床試験が行われている8).VEGFは内皮細胞の遊走と増殖,管腔形成促進,細胞接着分子の発現といった血管新生作用を有する.網膜では,血管内皮細胞をはじめとして,網膜色素上皮細胞,M?ller細胞,神経節細胞でVEGFの産生がみられ,血管内皮細胞に受容体の発現が認められている.特に,網膜症や黄斑浮腫患者の眼内液中には,初期よりVEGFの存在が認められており,その進展により濃度の上昇がみられ,VEGFは,網膜症の発症から増殖網膜症に至るまで重要な役割を担っていると思われる.VEGF阻害治療として,VEGF抗体の硝子体内投与があり,ranibizumab(Lucentis?)は黄斑浮腫に対する臨床治験が計画され,bevacizumab(Avastin?)は,硝子体出血を伴う増殖網膜症9)や硝子体手術が無効な虹彩新生血管の抑制10~12),硝子体手術の術前投与13)として試験的に使用されている.また,VEGFのアプタマーであるpegaptanib(Macugen?)による網膜新生血管の抑制が報告され14,15),黄斑浮腫に対しては,第Ⅲ相臨床治験が進行中である16).VEGF阻害治療は,全身投与では虚血性冠動脈疾患をはじめとした全身疾患への作用が危惧され,硝子体注射など眼局所に投与されることが多い.おわりに糖尿病網膜症に対する光凝固において,網膜症の増殖化の予防・鎮静化に有効であることはすでに立証されている.光凝固の実施するタイミングが,どの病期において最も適切なのかは,今後の課題が残されている.近い将来,網膜症に対する薬物治療が臨床応用されるものと思われるが,高血糖是正といった根本的な治療を優先しなければならないことには変わりないと思われる.文献1)TheDiabeticRetinopathyStudyResearchGroup:Prelimi-naryreportone?ectsofphotocoagulationtherapy.???????????????81:383-396,19762)EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyResearchGroup:Earlyphotocoagulationfordiabeticretinopathy:ETDRSreportnumber9.?????????????98:766-785,19913)志水葉子,小嶋一晃:前増殖型糖尿病性網膜症に関する臨床的検討─光凝固.眼紀40:1635-1642,19894)清水弘一:分担研究報告書汎網膜光凝固治療による脈絡膜循環の変化と糖尿病血管新生緑内障のレーザー治療ならびに糖尿病網膜症の光凝固適応及び実施基準.平成6年度糖尿病調査研究報告書,p346-349,厚生省,19955)EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyResearchGroup:E?ectofaspirintreatmentondiabeticretinopa-thy.ETDRSreportnumber8.?????????????98:757-765,19916)ThePKC-DRSStudyGroup:Thee?ectofruboxistaurinonvisuallossinpatientswithmoderatelyseveretoveryseverenonproliferativediabeticretinopathy:initialresultsoftheProteinKinaseCbetaInhibitorDiabeticRetinopa-thyStudy(PKC-DRS)multicenterrandomizedclinicaltrial.????????54:2188-2197,20057)ChaturvediN,SjolieAK,StephensonJMetal:E?ectoflisinoprilonprogressionofretinopathyinnormotensivepeoplewithtype1diabetes.TheEUCLIDStudyGroup:EURODIABControlledTrialofLisnoprilinInsulin-DependentDiabetesMellitus.??????351:28-31,19988)SjolieAK,PortaM,ParvingHHetal:TheDiabeticReti-nopathyCandesatanTrial(DIRECT)Programme:baselinecharacteristics.?????????????????????????????????????6:25-32,20059)SpaideRF,FisherYL:Intravitrealbevacizumab(Avastin)treatmentofproliferativediabeticretinopathycomplicatedbyvitreoushemorrhage.??????26:275-278,200610)AveryRL:Regressionofretinalandirisneovasculariza-tionafterintravitrealbevacizumab(Avastin)treatment.??????26:352-354,200611)OshimaY,SakaguchiH,GomiFetal:Regressionofirisneovascularizationafterintravitrealinjectionofbevaci-zumabinpatientswithproliferativediabeticretinopathy.???????????????142:155-158,2006(24)———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.24,No.10,2007????12)GrisantiS,BiesterS,PetersSetal:Intracameralbevaci-zumabforirisrubeosis.???????????????142:158-160,200613)ChenE,ParkCH:Useofintravitrealbevacizumabasapreoperativeadjunctfortractionalretinaldetachmentrepairinsevereproliferativediabeticretinopathy.??????26:699-700,200614)KrzystolikMG,FilippopoulosT,DucharmeJFetal:Pegaptanibasanadjunctivetreatmentforcomplicatedneovasculardiabeticretinopathy.???????????????124:920-921,200615)AdamisAP,AltaweelM,BresslerNMetal:ChangesinretinalneovascularizationafterPegaptanib(Macugen)therapyindiabeticindividuals.?????????????113:23-28,200616)CunninghamETJr,AdamisAP,AltaweelMetal:Macu-genDiabeticRetinopathyStudyGroup:AphaseⅡran-domizeddouble-maskedtrialofpegaptanib,ananti-vas-cularendothelialgrowthfactoraptamer,fordiabeticmacularedema.?????????????112:1747-1757,2005(25)新糖尿病眼科学一日一課初版から7年,糖尿病の治療,眼合併症の診断,治療の進歩に伴い,待望の改訂版刊行!【編集】堀貞夫(東京女子医科大学教授)・山下英俊(山形大学教授)・加藤聡(東京大学講師)本書の初版が出版されて7年余がたった.この間に糖尿病自体の治療や合併症の診断と治療が大きく変遷し進歩した.ことに糖尿病網膜症と糖尿病黄斑浮腫の発症と進展に関与するサイトカインの研究が進展し,病態の解明が大きく前進した.これを踏まえて,発症と進展に関与する薬物療法の可能性を追求する臨床試験が進んでいる.一方で,視機能,ことに視力低下に直接つながる糖尿病黄斑浮腫の治療は,現時点で最も論議が活発な病態となっている.硝子体手術やステロイド薬の投与の適応と効果について,初版が出版された頃に比べると大きく見解が変化している.そして,糖尿病黄斑浮腫の診断に大きな効果を発揮する画像診断装置が普及した.(序文より)〒113-0033東京都文京区本郷2-39-5片岡ビル5F振替00100-5-69315電話(03)3811-0544メディカル葵出版株式会社Ⅰ糖尿病の病態と疫学Ⅱ糖尿病網膜症の病態と診断Ⅲ網膜症の補助診断法Ⅳ糖尿病網膜症の病期分類Ⅴ糖尿病網膜症の治療Ⅵ糖尿病黄斑症Ⅶ糖尿病と白内障Ⅷその他の糖尿病眼合併症Ⅸ網膜症と関連疾患Ⅹ糖尿病網膜症による中途失明糖尿病眼科における看護Ⅸ■内容目次■B5型総224頁写真・図・表多数収載定価9,660円(本体9,200円+税460円)