———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLSれていった.しかし,LDLが単独で発症を規定しているのではないことはもちろん,LDLが高くなくても心血管病を発症することは日常臨床でよく経験することであった.そのようななかで,高トリグリセリド血症,低HDL血症,さらに高血糖,高血圧など身近な生活習慣病が一個人に複数合併するいわゆるマルチプルリスクファクターの重要性が強調されるようになってきたわけである.高血圧症単独で外来治療中の患者よりも,若干血圧が高く,若干血糖が高く,脂質代謝異常がある一見健康そうな肥満気味中年男性が心血管病で倒れることが,社会医学的にも問題となっているのである.メタボリックシンドロームを疾患概念として確立する目的は,「飽食と運動不足によって生じる過栄養を基盤にますます増加してきた心血管病に対して効率よい予防対策を確立すること」である.したがって,メタボリックシンドロームの第1の臨床的帰結は心血管病であり,診断は心血管病予防のために行うものである必要がある.内臓脂肪蓄積はしばしばインスリン抵抗性を伴い,両者は併存する場合が多い.よってメタボリックシンドロームは,2型糖尿病の発症リスクも高い.内臓脂肪蓄積とインスリン抵抗性のいずれが上流に存在するかについては,検討委員会でも検討され,本シンドロームでみられるのは内臓脂肪蓄積によって生じるインスリン抵抗性であると考えられている.このような背景により,診断基準が示され,基本は内臓脂肪蓄積であり,それにプラはじめに2005年に発表されたわが国の診断基準によると中年男性の4分の1はメタボリックシンドロームと診断されるようである.シンドロームとは症候群のことであるが,本シンドロームは将来の心血管病の危険が高い,きわめて深刻な状態であるとされている.メタボリックシンドロームなる概念は,心血管病予防に向けた介入試験の高危険群として位置づけられている.内臓脂肪蓄積が基盤となって発症するため,最も簡単かつ重要なバイオマーカーは内臓脂肪量である.本稿では,メタボリックシンドロームに対する食品因子サプリメントの応用とその考え方について解説した.Iメタボリックシンドロームとは?日本内科学会を含む8学会の委員で構成された診断基準検討委員会が策定したわが国のメタボリックシンドローム診断基準が2005年4月に発表されている.従来の,疾病の捉え方やその治療法の探索は,できるだけ単独の病態に整理していきその原因を掘り下げることにより,分子レベル,遺伝子レベルで解明して治療法を確立するといったストラテジーが本道であると考えられてきた.たとえば,家族性高脂血症にみられるように高LDL(低比重リポ蛋白)血症は動脈硬化の進展,心血管合併症のリスクファクターであり,よってコレステロール合成酵素阻害薬が開発,臨床応用されてきた.さらに,高血圧,喫煙などの冠動脈疾患のリスクファクターが同定さ(29)29*YujiNaito:京都府立医科大学医学部生体機能分析医学講座**ToshikazuYoshikawa:京都府立医科大学大学院医学研究科免疫内科学〔別刷請求先〕内藤裕二:〒602-8566京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町465京都府立医科大学医学部生体機能分析医学講座特集眼の病い─生活習慣病が原因あたらしい眼科25(1):2932,2008メタボリックシンドロームへのサプリメントSupplementTherapyforMetabolicSyndrome内藤裕二*吉川敏一**———————————————————————-Page230あたらしい眼科Vol.25,No.1,2008(30)スして脂質代謝異常,高血圧,高血糖の2項目以上がみられるものとなった.II内臓脂肪蓄積内臓脂肪蓄積はメタボリックシンドロームにおいて主要な役割を担っており,わが国の診断基準では必須項目である.わが国では肥満症診断基準に示されているがごとく,臍高レベル腹部CT(コンピュータ断層撮影)スキャンによって判定した腹腔内脂肪面積100cm2以上が男女共通した内臓脂肪蓄積のカットオフ値である.それに対応するウェスト周囲径が検討され,診断基準にある男性85cm,女性90cmが設定された.この基準値は,CTによる評価よりも,一般臨床医や健康診断の場で用いることができ,臨床的な有用性が高い.ただし,数字だけが独り歩きしないように注意することも必要で,将来的には改定される可能性もある.特に,この基準は女性には甘い基準になっており,NCEP(NationalChole-sterolEducationProgram)-ATPIII(AdultTreatmentPanelIII)やIDF(InternationalDiabetesFederation)といった国際的基準ではアジア人の場合,男性90cm以上,女性80cm以上となっている.久山町のコホート研究においても,この国際基準値の妥当性が見いだされており,今後,わが国のデータによりシンドロームの定義は見直されていくものと考えられる.なお,ウェスト周囲径は,立位,軽呼気時,臍レベルで測定する.脂肪蓄積が著明で臍が下方に偏位している場合には肋骨下縁と前上腸骨棘の中点の高さで測定する.動物実験モデルなどが盛んに利用されるようになってきているが,内臓脂肪量の測定がgoldstandardとなっていることは明らかである.体重に対する比率で示したほうが内臓脂肪蓄積をより正確に反映していると考えられる.さて,内臓脂肪蓄積より早期に判定できる血清バイオマーカーは存在するのであろうか.遊離脂肪酸,plas-minogenactivatorinhibitor-1(PAI-1),アディポネクチンなどのさまざまな生理活性物質が注目されているところである.内臓脂肪の絶対量よりも,内臓脂肪細胞の機能によってメタボリックシンドロームを早期に判定できるものが臨床的有用性も高いわけで,それが,心血管合併症のリスク予測因子になっていればさらに有難いことになる.脂肪細胞由来アディポサイトカインのなかでもアディポネクチンは善玉サイトカインとして最も注目されているバイオマーカーである.アディポネクチンの血中濃度は肥満者,特に内臓脂肪蓄積により低下し,減量によって増加する.さらに,肥満度が同じであっても,心筋梗塞や狭心症といった動脈硬化性疾患,および糖尿病で血中アディポネクチン濃度は低下する.ヒト血清中のアディポネクチンはさまざまな多量体構造で存在しており,なかでも300kDa以上の1218量体から形成される高分子(HMW)アディポネクチンは最も生理活性が高いアイソフォームと考えられている.心血管病発症,糖尿病発症,メタボリックシンドロームの有意な危険因子ではないかと研究が進められている.アディポサイトカイン分泌異常のメカニズムの一つとして脂肪細胞,脂肪組織における酸化ストレスの関与が注目されている(図1)1).ヒトおよびマウスにおいて酸化ストレスマーカーである血中thiobarbituricacid-reactivesubstances〔臨床検査での過酸化脂質(LPO)に相当する〕や尿中8-epi-prostaglandin-F2aが肥満度とともに上昇することが報告されている.脂肪組織における酸化ストレスの亢進状態は,NADPH酸化酵素の活肥満白色脂肪組織における酸化ストレスアディポサイトカインの産生調節異常遠隔臓器への酸化ストレス活性酸素インスリン抵抗性糖尿病動脈硬化メタボリックシンドローム活性酸素PAI-1,TNF-a,MCP-1Adiponectin図1脂肪細胞,組織における酸化ストレスとメタボリックシンドローム(文献1,p1759,Fig.8より改変引用)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.1,200831(31)たメタボリックシンドロームの栄養治療の原則を示した2).さて,近年,メタボリックシンドローム予防についての機能性食品成分の役割について注目が集まっている.しかし,C57BL/6マウスを用いた寿命実験でも,抗酸化剤のコエンザイムQ10やaリポ酸には寿命延長作用はなく,40%程度のカロリー制限が有意に寿命を延長させている.メタボリックシンドロームの確実な動物モデルは存在しないが,高脂肪食負荷などにより内臓脂肪蓄積モデルを作製して,食品因子サプリメントの有効性性化と抗酸化酵素の発現低下の結果であった.その結果,アディポサイトカイン分泌異常が生じており,肥満マウスに対してNADPH酸化酵素阻害薬を投与することによりその異常は是正される.この結果はきわめて興味深く,脂肪細胞に移行しやすい抗酸化薬にメタボリック症候群を是正できる可能性を示していると同時に,酸化修飾蛋白質などの酸化ストレスマーカーが早期のメタボリック症候群のバイオマーカーとなりうる可能性があり,今後の研究成果を期待したい.IIIメタボリックシンドロームに有効なサプリメントメタボリックシンドロームの予防には食事制限と運動療法に勝るものはない.食事療法の基本は,エネルギー摂取制限と食事の質の問題である.食事制限は25kcal/日を目安にして1,2001,800kcal/日,現体重の7%減を目指す.食事の質の問題としては,複合糖質をおもに摂取し,ショ糖などの単純糖質摂取を制限する必要がある.すなわち,同じエネルギー摂取であっても,できる限り血糖上昇が少なく,インスリン上昇反応の少ない低グリセミックインデックス食品を選択すればよい.さらに食物繊維の摂取不足は現代人では明らかである.目標値は25g/日とされているが,多くの日本人では不足気味であり,若者では10g/日以下の人も少なくない現状である.食物繊維の摂取は,食後血糖上昇を予防し,食後のインスリン反応を低下させ,高中性脂肪血症を予防することが期待される.脂肪摂取の問題点がメタボリックシンドローム発症に直結している.脂肪酸の組成としては,飽和脂肪酸含量が少なく,不飽和脂肪酸含量が比較的多い食品を選択する必要がある.飽和脂肪酸の少ない脂肪として,オリーブ油,ナタネ油は比較的オレイン酸を多く含んでおり,サフラワー油,コーンオイルにはリノール酸が比較的多く,リノレン酸はカボチャに多い.一方,海藻類,イワシ,サバなどの魚類にはアラキドン酸,EPA(w3多価不飽和脂肪酸),DHA(ドコサヘキサエン酸)などの多価不飽和脂肪酸が多く含まれている.以上をまとめると,メタボリックシンドロームを予防するための食事の基本形は,日本食,地中海食であるといえる.表1に滋賀医科大学柏木厚典教授がまとめ表1メタボリックシンドローム─栄養治療の原則─ー食のによるがのするのにする脂肪の脂肪酸の,w3不飽和脂肪酸摂取,肉より魚,オリーブ油(1価不飽和脂肪酸は代謝的に中性)3.糖質の質,量摂取の問題:低GI食(低インスリン反応食),複合糖質,適切量の果物,砂糖など単純糖質摂取の制限4.高食物繊維食(2025g/日)5.抗酸化ビタミンを含むビタミン,ミネラルの十分な摂取6.高血圧合併患者の場合塩分制限(6g/日以下),カリウムに富む野菜の摂取7.高LDL-C血症合の症例の場合コレステロール制限食(30mg/日以下)(文献2,p205,表2より許可を得て引用)熟脂肪細胞を成熟脂肪細胞に分化させる肥大型脂肪細胞から分泌されるインスリン抵抗性因子を抑制する肥大した脂肪細胞を小さくさせる,アポトーシスを誘導する前駆脂肪細胞の分化を褐色脂肪細胞に向かわせるアディポサイトカイン分泌異常を是正する図2脂肪細胞に対する食品因子によるアプローチ———————————————————————-Page432あたらしい眼科Vol.25,No.1,2008(32)抵抗性を予防する可能性があることを示唆している.筆者らのKK/TaJclマウスを用いた実験でも,糖負荷試験の成績ではアスタキサンチンにインスリン抵抗性予防効果を確認しており,今後のヒトでの臨床試験の結果に期待したい.筆者らは,現在血清プロテオーム解析を進めており,メタボリックシンドローム動物モデルに対しての介入試験を実施しつつ,内臓脂肪蓄積抑制に代わる新しいバイオマーカーの同定にも取り組んでいる.このようなバイオマーカーの同定は,メタボリックシンドロームの早期発見につながるだけでなく,食品因子サプリメントによるヒト介入試験においてもその有効性をより早期に科学的手法によって確認することができるものと考えている.今後の展開に期待していただきたい.文献1)FukuharaS,FujitaT,ShimabukuroMetal:Increasedoxidativestressinobesityanditsimpactonmetabolicsyndrome.JClinInvest114:1752-1761,20042)柏木厚典:エイジングの予防と治療1.メタボリックシンドローム.アンチエイジング医学─その理論と実践─(吉川敏一編),p200-208,診断と治療社,20063)MaedaH,HosokawaM,SashimaTetal:Fucoxanthinanditsmetabolite,fucoxanthinol,suppressadipocytedierentiationin3T3-L1cells.IntJMolMed18:147-152,2006を評価する研究は盛んに行われている(図2).食品因子サプリメントの研究ストラテジーとしては,①脂肪細胞の分化を刺激することにより成熟脂肪細胞数を増加させる,②肥満した白色脂肪細胞の増殖を抑制したり,アポトーシスを誘導したり,成熟細胞に逆戻りさせる,③前駆脂肪細胞の分化を褐色脂肪細胞に向かわせる,④TNF(tumornecrosisfactor)-aなどによるアディポサイトカイン産生異常を是正する,⑤肝臓や骨格筋に作用してインスリン抵抗性を改善させるなどが考えられている.北海道大学の宮下和夫教授らは,海藻脂質の研究から抗肥満作用を有するカロテノイドの一種であるフコキサンチンを同定し,白色脂肪細胞におけるUCP(ubiquitincarrierprotein)蛋白質発現誘導といった作用機構を報告している3).興味深い作用機構であり,今後の展開が期待される.多くの天然物のなかにはこのような抗肥満作用を有するものがあることが予想される.このような予防対策を科学的評価のもと積極的に進めるためには,動物実験モデルの確立が急務である.これまでにもいくつかのモデルが報告されてきているが,筆者らはヒト類似性を考え,雄性マウスに発症しやすい,何らかの遺伝的背景の存在,高カロリー食の負荷の3点からメタボリックシンドロームの新規マウスモデルの作製を試み,さらに赤色カロテノイドであるアスタキサンチンの影響を検討している.5週齢雄性KK/TaJclマウスを1週間の前飼育後,高脂肪食摂取を開始した.高脂肪食:対照食の組成は,グラニュー糖19.85%:49.1%,粉末牛脂37.5%:6.2%がおもな差異である.8週間の飼育後には内臓脂肪が対照に比較して有意に増加するモデルを確立した.現在,試験は進行中であるが,アスタキサンチン投与により内臓脂肪の軽減,糖負荷試験での改善作用がみられており,その詳細を検討中である.最近,石倉らはC57BL/6系マウスに高脂肪食を摂取させアスタキサンチン(150mg/kg)の影響を報告している.アスタキサンチン投与群では,16週間の投与後,内臓脂肪量は有意に減少しており(図3),空腹時血糖値,インスリン値も有意に低値であった.以上の結果はアスタキサンチン投与が脂肪蓄積を抑制するだけでなく,インスリン00.010.020.030.040.050.060.070.08鼠径部皮下脂肪生殖器周囲脂肪腎周囲脂肪背部皮下脂肪体重に対する割合(%)普通飼料食高脂肪食高脂肪食+アスタキサンチン***p<0.05***p<0.01***p<0.001*******************図3アスタキサンチンの脂肪組織量割合に対する影響(「石倉正治,飯尾久美子,岡田裕実春:アスタキサンチンの脂肪蓄積抑制効果.第61回日本栄養食糧学会.2007年5月1720日,京都」より許可を得て引用)