———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSIIIレーザー虹彩切開術後の房水動態の変化LIに伴う最も顕著な変化は,後房水が前房に至る際に,瞳孔を経由せずにLIの穴を経由する成分が増えることである.この房水動態の変化は愛媛大学の山本・宇野らによって詳細に検討されている5).では,毎分1~2??程度で噴出される房水は,角膜内皮細胞を?離させるに十分な力をもつのだろうか?IV房水動態解析のむずかしさLIに伴う房水動態の変化を調べることには困難を伴う.山本・宇野らの方法のように,???????の系を用いて房水を可視化させることは房水動態の大局的変化をつかむことには有用である5)が,LIの穴を通して噴出された房水が角膜内皮面に衝突する際の急激な房水動態の変化や,角膜内皮細胞への影響を知るには十分とは言えない点がある.一方,????????モデルで房水の流体力学的解析を行うことは,隅角の広さ,房水産生量,LIの位置,周辺虹彩前癒着の有無など考慮すべきパラメータが多すぎて不可能である.そこで筆者らは最も単純な系を用いて房水動態の変化を流体力学的に解析し,角膜内皮細胞に対する影響を????????の系を用いて解析した6).I欧米では少ないレーザー虹彩切開術(LI)の水疱性角膜症LIを行い,数年以上経過した後に水疱性角膜症になる場合がありうることはよく知られている1~4).ところが欧米では「LIを行う際のレーザーのパワーが大きすぎるための例外的合併症」として症例報告されるにすぎない2~4).それに対して日本では,島?ら日本角膜学会水疱性角膜症スタディグループの調査によって,角膜移植の適応となる患者の23.1%がLI後であることが判明し,LIは水疱性角膜症の危険因子の一つであることが明らかになった1).IIレーザー虹彩切開術後の水疱性角膜症の特徴LI後に生じる水疱性角膜症には不思議な点がいくつもある.一つはLIを行ってから数年を経過して発症することである.よってレーザーの直接作用で水疱性角膜症が生じるのではない.さらに,閉塞隅角緑内障発作に対する治療的LIだけではなく,予防的LI後にも生じることがある.加えて,水疱性角膜症はLI施行部位だけではなく,遠く離れた部位から発生することや,LIによって生じた虹彩の穴が大きくても(かえって大きいほど)水疱性角膜症が生じやすいような臨床的な印象がある.これらを説明するメカニズムは何だろうか.(43)???*1YuichiKaji&TetsuroOshika:筑波大学大学院人間総合科学研究科機能制御医学専攻眼科学分野*2JunSakakibara:筑波大学大学院システム情報工学研究科構造エネルギー工学専攻〔別刷請求先〕加治優一:〒305-8575つくば市天王台1-1-1筑波大学大学院人間総合科学研究科機能制御医学専攻眼科学分野特集●レーザー虹彩切開術後水疱性角膜症を解剖する!あたらしい眼科24(7):891~895,2007レーザー虹彩切開術後水疱性角膜症の発症機序─角膜内皮創傷治癒説─“?????????????????????????????????”???????加治優一*1榊原潤*2大鹿哲郎*1———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.7,2007Vレーザー虹彩切開術後の房水動態解析モデル筆者らは,以下の条件を満たすモデルをLI後の房水動態の解析に用いた.?すべての房水がLIの穴を通って前房に達する.?LIの穴は円形である.?房水はLIの穴から噴出され,その方向と垂直に位置する平面(角膜内皮面)に向かう.このモデルは,ロケットが地面に向かってジェットを噴出する場合や,インクジェット式プリンターの印字面に応用されている.VI噴出された房水が角膜内皮面に生み出す2種類の力角膜内皮面に噴出された房水は,角膜内皮面に「圧力」と「剪断応力」という2種類の力を生み出す(図1).圧力については,ホースから噴出された水を体に受けることを考えると理解しやすい.それに対して剪断応力とは何だろうか?車のボンネットの上に水をかけると,水が流れるにつれてボンネットの汚れも落ちてゆく.その理由は,水のような粘性の高い物質が平面の上を流れるときに,平面からの距離によって流速が異なる結果,水の流れに速度勾配が生じ,平面上の物質を?離させるような力の原動力となるためである.これが剪断応力である(図2).筆者らはLI後の房水動態解析モデルを用いて,角膜内皮面で生じる圧力と剪断応力を計算した.VII房水の噴出で生じる圧力はわずか図1に示したモデルにおいて,房水の産生量を毎分1.5??と設定した際に,噴出された房水がどのような動態をするかについて流体力学によって解析をした6).そ(44)図1房水の噴出流が生み出す2つの力虹彩から噴出された房水が角膜内皮面に向かうに伴い,角膜内皮面には圧力と剪断応力という2つの異なった力が生じる.虹彩面角膜内皮面圧力剪断応力図2細胞?離の原因としての剪断応力剪断応力は平面の上を粘性のある物質が動く際に生じる速度勾配によって生じる.この力は平面状の物質(細胞など)を?離させる力となる.?離速度勾配→剪断応力図3LIの擬似モデルにおける角膜内皮面に生じる圧力LIの穴が小さいほど,LIの穴と角膜内皮面が近接するほど,角膜内皮面に生じる圧力が大きくなる.しかし,大きく見積もっても圧力は0.007mmHgとわずかである.圧力(mmHg)10-210-310-410-510-610-710-810-910-1010-1100.250.50.7511.251.51.752LIの穴から角膜内皮までの距離(mm)LIの直径50μm100μm200μm400μm最大でも0.007mmHg———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.7,2007???の結果をもとに,角膜内皮面に生じる最大の圧力を計算した結果を図3に示す.当然のことながら,LIの穴の直径が小さいほど,LIの穴から角膜内皮面までの距離が短いほど圧力が大きい.しかし,どんな条件であったとしても角膜内皮面に生じる圧力は0.007mmHg程度であり,角膜内皮細胞を押しつぶして殺してしまうほどの力にはなりえないと考えられた.VIII房水の噴出で生じる剪断応力は大きくなりうる虹彩の穴から噴出された房水の動態から,角膜内皮面で生じうる剪断応力を計算した結果を図4に示す.房水の噴出で生じる剪断応力は,圧力と同様にLIの穴の直径が小さいほど,LIの穴から角膜内面までの距離が短いほど大きな値となる.特に距離が短くなれば無限大に大きな値となりうる点が圧力と異なる.臨床的には0.01~1.0dynes/cm2程度の剪断応力になりうると思われる.この剪断応力は,圧力(mmHg)と違って,大きい値なのか小さい値なのかピンとこない.この剪断応力は角膜内皮細胞を?離させるような力なのだろうか?IX剪断応力は角膜内皮細胞を?離させるだけの力をもつか?理論式から考えられたLI後に角膜内皮面に生じうる剪断応力が,角膜内皮細胞を?離させるだけの力をもつかどうか????????で検討した.スライドグラスに人工基底膜であるマトリジェルを塗布することで,擬似Descemet膜を作製した.そのスライドグラスの上にブタ由来の培養角膜内皮細胞を撒き,一定の剪断応力をかけた.スライドグラス全体に一様の剪断応力をかけるためには,2枚のスライドグラスを平行に並べ,その間を一定の流速で培養液を流すことによって得られる.剪断応力をかける前後で撮影した写真を図5に示す.角膜内皮細胞を培養皿に撒いて,すぐに剪断応力をかけると,細胞は基底膜にほとんどくっついていないので,剪断応力によって容易に?離してしまう.それに対して,細胞を撒いて3時間経過して,細胞が基底膜に付着するようになると,細胞は容易に?離されなくなる.もちろんさらに長い時間をかけて細胞を接着させると,大きな剪断応力をかけたとしてもほとんど?がれることはない(図6).「しっかりくっついていない細胞が?離しやすいとは,当たり前ではないか」と思われるかもしれないが,以上の結果は重要なことを示唆している.すなわち,角膜内皮細胞がDescemet膜にしっかり付着していれば,LI後に房水が噴出しようとも内皮細胞はびくともしないのである.図5に示すように,臨床的にLI後に生じうる(45)図5剪断応力前後における角膜内皮細胞角膜内皮細胞を培養皿に撒いた直後では,剪断応力によって角膜内皮細胞は容易に?離する.しかし接着後3時間もたてば,角膜内皮細胞は基底膜にしっかり接着し,容易に?離しなくなる.剪断応力なし剪断応力あり接着直後接着後3時間図4LIの擬似モデルにおける角膜内皮面に生じる剪断応力LIの穴が小さいほど,LIの穴と角膜内皮面が近接するほど,生じる剪断応力は大きくなる.理論的には無限大にまでなりうるが,臨床的にはどんなに大きく見積もっても0.01~10dynes/cm2程度を考慮すればよい.剪断応力(dynes/cm2)10000.250.50.7511.251.51.752LIの穴から角膜内皮までの距離(mm)LIの直径50μm100μm200μm400μm1010.10.010.001———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.7,20070.01~1.0dynes/cm2という剪断応力は,細胞を撒いて24時間後という,角膜内皮細胞と基底膜がしっかりと付着しているような状態ではまったく細胞?離の原因とはならない.しかし,角膜内皮細胞と基底膜の接着が不良のときには,内皮細胞の減少の原因となるだけの剪断応力であるといえる.以上のことを考慮すると,LI後に角膜内皮細胞が持続的に減少する患者においては,角膜内皮細胞とDes-cemet膜の接着不良という問題が隠れているのではないかと考えられる.X角膜内皮細胞の創傷治癒説さて,LI後の房水動態の変化によって生じる剪断応力と,剪断応力が角膜内皮細胞に与える影響の2つの実験を加味すると,LI後に生じる水疱性角膜症の発症機序をどのように説明できるのだろうか.まず,水疱性角膜症につながらないような,良いLIを考えてみる(図7).これは「LI直後にDescemet膜や内皮に熱凝固が生じていない」状況である.特にYAGレーザーを用いて,ピントを適切に合わせれば,角膜内皮への影響はごく軽微なはずである.このように良いLI後においては,Descemet膜と角膜内皮細胞がしっかりと接着しているはずである.このような角膜内皮細胞面に向かってLIの穴から噴出された房水が吹きかけられたとしても,角膜内皮細胞はびくともしない.すなわち,LI後の角膜内皮細胞減少は生じないと考えられる.つぎに水疱性角膜症につながるLIを考えてみる(図8).これは「LI直後にDescemet膜や内皮に熱凝固が生じている」状況である.このように痛んだ場所をめがけて房水が噴出されてくるのである.すると,熱によって死んでしまった,あるいは死にかけた角膜内皮細胞はDescemet膜との接着が不良のために,房水の噴出流が生じる剪断応力によって容易に?離してしまうはずであ(46)図6剪断応力と細胞?離率角膜内皮細胞の接着が悪ければ,0.01~10dynes/cm2で細胞は消失してしまう.細胞を撒いて24時間経過すれば,内皮細胞が基底膜にしっかり付着し,0.01~10dynes/cm2程度の剪断応力にはびくともしない.細胞?離率(%)10000.010.030.10.31310剪断応力(dynes/cm2)接着直後3時間後24時間後806040200図7水疱性角膜症につながらないLILI後に角膜の熱傷が少なく,内皮細胞とDescemet膜の接着が不良な場合には,剪断応力がかかろうとも内皮細胞はびくともしない.よって,LI後に持続的な減少を認めることもない.内皮とDescemet膜の接着が良好→房水の噴出流が生じる剪断応力で?離せず→その後の内皮減少なし房水の噴出流角膜内皮細胞水疱性角膜症につながらないLI図8水疱性角膜症につながるLILI後に角膜内皮細胞やDescemet膜の熱傷が生じた場合,内皮細胞とDescemet膜の接着が不良となる.この弱った場所めがけて房水の噴出流が衝突すると,内皮細胞が?離する.すると内皮細胞の創傷治癒機転によってさらに周囲の内皮細胞が遊走してくるが,Descemet膜が傷んでいるので,やはり接着が悪く?離してしまう.この悪循環が生じると,水疱性角膜症につながりうる.足場の悪いDescemet膜を遊走:内皮接着不良→房水の噴出流が生じる剪断応力で?離→周囲の内皮遊走→内皮細胞?離房水の噴出流角膜内皮細胞水疱性角膜症につながるLI悪循環,OO遊走遊走?離———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.7,2007???る.しかし,これだけでは角膜内皮細胞のごく一部が消失するだけで,水疱性角膜症にはつながらない.問題はその後の「内皮細胞の創傷治癒機転」である.LIの穴の近傍で内皮細胞が脱落してしまった場合,その周囲の角膜内皮細胞が遊走して,内皮の欠損部を覆う「内皮細胞の創傷治癒」が生じる.遊走している内皮細胞は通常の扁平な角膜内皮細胞と異なり,アメーバ状でコロコロした形状を取り,Descemet膜との接着がそれほど強固ではない.さらに遊走した先のDescemet膜は熱により変性しているために,内皮細胞が接着しようとしてもできない.このような状況で,さらに房水が吹きかけられるため,遊走してきた内皮細胞もまた?離してしまう.すると,さらに周囲から内皮細胞が遊走→足場の悪いDescemet膜の上にさしかかる→房水の噴出流で?離,という悪循環が生じ,長い時間の経過とともに水疱性角膜症に至ると考えられる.すなわち,「終わりなき角膜内皮細胞の創傷治癒機転が水疱性角膜症につながる」と言っても良い.Descemet膜は変性したとしても,角膜内皮細胞が分泌する基底膜成分によって再生するはずである.しかし,水疱性角膜症につながるLI後においては,内皮細胞が変性したDescemet膜の上を覆うことがないために,傷んだDescemet膜がそのままの状態で表面に露出し続けると思われる.このことも,永年にわたって「終わりなき角膜内皮細胞の創傷治癒機転」が生じる原因の一つとなっている.XI角膜内皮の終わりなき創傷治癒機転が働かないようにするための工夫LI後に水疱性角膜症を生じにくくするためには,どのようなLIを心がければよいのだろうか.ポイントは「Descemet膜と角膜内皮の熱凝固を減らす」ことに尽きる.すなわち,アルゴンレーザーよりもYAGレーザーを活用すること,角膜が真っ白になるまでLIを行わないこと,ピントを手前(角膜側)に合わせないこと,アルゴンレーザーだけでLIを行うことが困難な際には,YAGレーザーを有する施設を紹介する,あるいは周辺虹彩切除術を行うなどの工夫が必要となろう.すなわち,今まで経験的に語り継がれてきた先人たちの教えを守り,角膜に優しいLIを行うことこそ,遅発性の水疱性角膜症を減らすことにつながると考えられる.謝辞:角膜内皮細胞の培養には東京大学眼科臼井智彦先生のお力をお借りした.この場をお借りして御礼申し上げます.文献1)ShimazakiJ,AmanoS,UnoT,MaedaN,YokoiN:TheJapanBullousKeratopathyStudyGroup:NationalsurveyonbullouskeratopathyinJapan.??????26:274-278,20072)KalninsLY,MandelkornRM,MandelkornRM:Cornealdecompensationafterargonlaseriridectomy.????????????????107:792,19893)ZabelRW,MacDonaldIM,MintsioulisG:Cornealendo-thelialdecompensationafterargonlaseriridotomy.????????????????26:367-373,19914)WilhelmusKR:Cornealedemafollowingargonlaseriri-dotomy.???????????????23:533-537,19925)YamamotoY,UnoT,ShisidaKetal:Demonstrationofaqueousstreamingthroughalaseriridotomywindowagainstthecornealendothelium.???????????????124:387-393,20066)KajiY,OshikaT,UsuiTetal:E?ectofshearstressonattachmentofcornealendothelialcellsinassociationwithcornealendothelialcelllossafterlaseriridotomy.??????24(8Suppl):S55-S58,2005(47)