———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLS(5)外傷の既往,糖尿病などの全身疾患,甲状腺疾患などを把握する.はじめに日常臨床のなかで「物がだぶってみえる」という訴えはけっして少ないものではない.しかし,その評価の方法,原因検索の手順,対症療法について系統的なマニュアルはなく,ビタミン剤を投与してそのまま放置してしまったり,眼科的評価も不十分なまま安易に神経内科などに回してしまうことも少なくないだろう.しかし,この症状は生命にかかわる原因が背景にあることも少なくないのに,眼科が主体的にマネージメントしないと診断・治療まで遠回りしてしまうことになる.参考までに,診断のフローチャートの一例を示すので,ご参考いただきたい(図1).また,以下,「複視」という言葉を用いる.I問診のポイント(1)両眼複視か単眼複視か?単眼複視なら屈折異常,黄斑病変などを疑うが,本編では両眼複視を扱うことにする.(2)どの方向で複視が強いか?複視は水平性か垂直性か?麻痺筋を考えるための質問であるが,回旋複視では問診がむずかしく,しばしば「センターラインがだぶってみえる」などの表現をする.(3)日内変動はないか?(夕方悪ければ重症筋無力症,起床時悪ければ甲状腺眼症などを疑う.)(4)先行感染はないか?(小児の自然治癒する‘良性’外転神経麻痺,Fischer症候群など.)(45)1595??裕???竪???弋迫瘡CT???嶽?舂??嶽?舂?????瞥???竝?????弋迫磔????????畑?贇?????融茉磔?廬CCF?踰敏廬岬????靖堀???????????磔???????????????????倫???VOR?敍饋濯磔?竝Parinaud,PSP,etc.竪?磔評赭鱗?岬呆?絽磔??磔弋????etc?弋???????????????畑鶚顫?岬??????磔Fischer?鍋?竪???琢壜??嘴?讓??楙舂?澳???竝etc.$1眼筋麻痺診断のフローチャート大雑把ではあるが,一つの考えとして参考にしていただきたい.*MineoTakagi&AtsushiNiki:新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野〔別刷請求先〕高木峰夫:〒951-8510新潟市旭町通一番町754新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野特とっても身近な神経眼科あたらしい眼科24(12):15951600,2007だぶってみえる場合の対策ManagementofDiplopia高木峰夫*二木淳司*———————————————————————-Page21596あたらしい眼科Vol.24,No.12,2007(46)III麻痺パターンの把握(1)運動制限の大きいとき:眼球を動かす6つの外眼筋には特異的な作用方向があるので,視診で制限の顕著な方向を見いだし,麻痺筋を診断する(図2).また,経過を追うには,眼位ずれの大きい方向で写真を撮っておくと良い.眼位ずれの定量はKrimsky法注2),9方向に関してはシノプトフォアで眼位ずれを定量する.シノプトフォアには回旋ずれも定量できるメリットがある.(2)運動制限の小さいとき:視診では判定困難なことがあり,左右の像の自覚的なずれを記録し,そのパターンから麻痺筋を診断する.①赤ガラス法による複像検査(図3):患眼に赤ガラスを装用させ,直視した白色光源と赤フィルターで知覚された赤い像との位置関係を記録する.交叉性複視(赤フィルターを付けない側に赤い像が見える)は外斜を意味し,同側性複視(赤フィルターを付けた側に赤い像が見える)は内斜を意味する.②Hess赤緑試験(図4):左右眼に緑と赤のフィルターをかけて,1mの距離で直視した赤の固定視標と自分で指す緑視標を観察し,知覚されたずれを赤を基準として記録する.健眼固視で測定される運動制限による偏位注2)Krimsky法:正面視で眼前にプリズムを用いて角膜反射が中心になるプリズム度数を見いだす.II付随所見の把握(1)眼瞼下垂はないか?(動眼神経麻痺・重症筋無力症,両眼緩徐進行性なら眼筋ミオパチーなど)逆に眼瞼が異常に吊り上っていたら甲状腺眼症を考える.(2)瞳孔異常はないか?(動眼神経麻痺で散瞳を示すものは微小血管障害よりも圧迫性病変の確率が高い.)(3)眼球突出はないか?(眼窩占拠性病変,甲状腺眼症など.)(4)痛みはないか?(「頭痛と吐気」:外転神経麻痺とうっ血乳頭があれば頭蓋内圧亢進,「三叉神経第一枝領域の痛み」と複合神経麻痺:海綿静脈静脈洞でのTolo-sa-Hunt症候群注1),「偏頭痛」:眼筋麻痺性偏頭痛など.)(5)結膜静脈怒張・血管雑音性の耳鳴り・眼圧上昇と脈圧の増大→これなら頸動脈海綿静脈洞瘻.(6)強度近視はないか?(眼軸長が著しく延長した場合に外転制限が起こることがある.はなはだしい場合は固定内斜視に至る.)(7)他の神経兆候はないか?(顔面神経麻痺,注視眼振,MLF(mediallongitudinalfasciculus)症候群などの神経兆候を伴えば脳幹疾患の可能性が高い.)注1)Tolosa-Hunt症候群:海綿静脈静脈洞での炎症性肉芽腫性病変で脳神経Ⅲ・Ⅳ・Ⅴ1,Ⅵの複合神経麻痺を起こす.ステロイドが著効.弋?23??濯???濯????鎬彖敏?51??琢貶??濯????鎬彖敏?54??濯貶??琢????鎬彖弋?23??琢???琢????鎬彖外直筋内斜筋上直筋下直筋上斜筋下斜筋図2外眼筋の働き運動制限が顕著な場合,視診で運動制限が最も大きい方向を見いだす.麻痺筋を決定するための外眼筋の作用方向を示す.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.12,20071597(47)で複視があるかが重要であり,Hirschberg法・プリズム交代遮閉試験で正面視での眼位ずれを定量しておくと経過観察にも有効.(3)軽度の上斜筋麻痺は視診では診断しにくいので,Bielschowskyheadtiletest(患側に頭部を傾斜すると患眼が上転:自覚的には風景が下転)を利用して診断す量(第一偏位)よりも,患眼固視で測定される健眼の行き過ぎ(第二偏位)のほうが常に大きく,偏位が小さいときはまず第二偏位を探すと便利である.ごく軽度の麻痺(軽い上斜筋麻痺など)はさらに50cmの距離で測定するとよい.両眼とも運動制限がある場合は麻痺筋は判断できない.③正面での眼位ずれの定量:患者にとっては正面視燐破磔???敏貶瞭渝濯???????畑?琢赭????瞭琢渝瞭濯渝琢渝濯竝?敏琢赭?濯琢??鎬彖竝破??莫貶?壜???苙彖ABC図3赤ガラス試験運動制限が軽い場合,片眼に赤ガラスを装用させてペンライトの光を見せ,どの方向でずれが最大か,水平にずれるか(同側性か交叉性か),垂直にずれるか聞くことで麻痺筋を決める.たとえば,A:右眼軽度外直筋麻痺:右方視で水平の同側性複視ずれが拡大する.B:右眼軽度下直筋麻痺:右方視で垂直性複視,下方で増加・上方で減少.C:右眼上斜筋麻痺:左方視で垂直性複視,下方で増加し上方で減少.患側へ頭部傾斜させる(Bielschowskyheadtilttest)と,麻痺眼が上転し垂直ずれが拡大する.図4Hess赤緑試験A:赤緑フィルターのため視標を融像できない.そのため斜位がある場合にはパターンは平行移動する.この場合は外斜位による平行移動.B:右内直筋麻痺.右眼のチャートで鼻側方向にパターンが詰まっている(第一偏位).一方,健眼の左眼は,麻痺眼である右眼固視のときには逆に大きく行き過ぎる(第二偏位).C:右上斜筋麻痺.ずれが小さいことが多く,右眼は内下方でパターンが詰まっている(第一偏位).一方,同様に健眼の左眼は下方に行き過ぎる(第二偏位).さらに大きく検出するには50cm距離で検査する.A左眼右眼左眼右眼左眼右眼BC———————————————————————-Page41598あたらしい眼科Vol.24,No.12,2007(48)向に両眼とも向けることができなくなる.しかし,眼前視標を固視させて,両手で頭部を抑えて回転させると,前庭動眼反射注4)により眼球は元の位置に止どまる(人形の目現象).上方注視麻痺の場合,閉瞼できないように眼瞼を指で抑えて閉瞼の努力をさせると,眼球はBell現象で上転する.このように,随意的な運動ができなくても脳幹部の反射的運動が健在であれば,注視麻痺と診断される.(4)血液一般検査:糖尿病や高脂血症などは,眼筋麻痺と因果関係が確定できなくても発見できれば患者にとってメリットがあり,高齢者では行う意味がある.(5)甲状腺関連検査:ホルモンFT3,FT4,TSH(甲状腺刺激ホルモン),また自己抗体として甲状腺刺激抗体TSAb(あるいは甲状腺受容体抗体TRAb),抗サイる(図3C).(4)輻湊機能:幼児であれば鼻尖を注視するまで,成人では眼前68cmまで輻湊ができる(輻湊近点).10cm以上は異常である.これらの所見を参考に,脳幹疾患,眼運動神経麻痺(図5:Ⅲ,Ⅳ,Ⅵ,その複合麻痺),神経-筋接合部疾患,眼筋疾患のいずれか,検査を進めていく.IV特殊検査特異的な疾患を疑ったとき,それを診断する特殊検査注3)を行う.(1)画像検査:MRI(磁気共鳴画像)・CT(コンピュータ断層撮影)で脳全体のスライスと眼窩レベルの薄いスライス,さらに外眼筋の評価ができるよう冠状断を入れる(図6).異常所見の検出率を上げるため造影を行うことが望ましいが,頻度は少ないもののショックの対策ができる条件で行う.(2)眼球牽引試験(forcedductiontest):点眼麻酔をした後にピンセットあるいは綿棒で眼球を制限方向に牽引する.抵抗がなければ作用筋の「麻痺」,抵抗があれば拮抗筋の伸展「制限」である.甲状腺眼症や眼窩吹き抜け骨折で陽性である.また眼筋「麻痺」でも,長期の麻痺により拮抗筋が硬縮しているかどうか,眼筋手術の術前計画に把握する必要がある.一方,慢性進行性外眼筋麻痺では抵抗が非常に少ない.(3)注視麻痺の検査:脳幹や大脳の障害では,ある方IIIIVVI図5眼運動神経動眼神経,滑車神経,外転神経の起始部と走行を示す.画像診断で眼窩レベルのthinsliceを撮像すると,核下性外眼筋麻痺の主要な部分は撮像できる.これに頭部全体のルーチンのスキャンを加える.(文献7より)図6甲状腺眼症による上転制限とMRIでの下直筋肥厚甲状腺眼症ではまず下直筋から障害され上転制限を呈することが多いが,下直筋の肥厚は冠状断を撮らないと意外と見落とされる.上方視注3)専門的にはさらに眼球電図による眼球運動記録解析,眼筋筋電図などの手法がある.注4)前庭動眼反射:前庭器により頭部運動を検出し,眼球が頭部と反対運動をして視線を安定化させる働きをする.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.12,20071599(49)(threedimensionalCTangiography),MRアンギオ,造影CTなどその施設で早急にできる画像検査を行う.検査が不可能であれば,脳外科のある施設に依頼する.(2)重症筋無力症:2/3は眼科的症状で発症し,まず眼科を受診するが,急激に全身型に移行して重篤な症状を呈することがある.重症筋無力症の可能性があれば,その日のうちにテンシロンテストを行うとよい.(3)甲状腺眼症に甲状腺視神経症を伴ったもの:早急に画像検査で外眼筋の腫大により眼窩先端部で圧迫性神経症を起こしていることを確認し,恒久的な視力障害が起こらないうちに,至急ステロイド大量投与と放射線照射の併用療法を開始する.VI対症療法眼筋麻痺は,原因治療に関しては眼科で行う場合も他科に依頼する場合もあるが,複視は患者にとって大変苦痛な症状であり,その症状緩和は眼科医の仕事である.ログロブリン抗体,抗ペルオキシダーゼ抗体を測定する.これらがすべて正常でも甲状腺眼症を否定はできない.(6)テンシロンテスト:日内変動があれば行う.テンシロン1A(塩化エドロホニウム10mg)とアトロピン1A(副作用発症時にすぐに使用できるよう注射筒に入れて準備しておく)を準備.注射前の写真を撮り,まず0.2ml(=2mg)を静注し,改善がないか,副作用がないかチェックする.反応がなければ,さらに残りのテンシロンを静注し,テンシロン投与開始12分後の所見の写真を撮る.また,抗アセチルコリン受容体抗体測定では,重症筋無力症の眼筋型の半数で陽性である.V診断に急を要するもの(1)未破裂脳動脈瘤の膨隆による動眼神経麻痺:大至急診断して対処しないと,破裂すれば致死率30%,あるいは高度の後遺症を残す.その日のうちに3D-CTA図7急性期の複視の対症療法A:プリズムガラス.これを眼鏡に組み込む.B:Fresnel膜プリズム.これを患者の自持ち眼鏡の裏面に塗布する.C:半遮閉眼鏡.大きなフレームで広い範囲を遮閉するとよい.ABC———————————————————————-Page61600あたらしい眼科Vol.24,No.12,2007(50)VII障害後遺症診断書特に交通事故後の眼筋麻痺では最終的に後遺症の診断書の記入を求められることが多く,複視が固定したら記載する.視力低下を伴う場合は悪いほうの視力をゼロとして良いほうの単眼視力を評価する.文献1)根木昭(編):これならわかる神経眼科.眼科プラクティス5,文光堂,20052)丸尾敏夫,久保田伸枝:斜視と眼球運動異常.文光堂,20023)三村治(編):新臨床神経眼科学.メディカル葵出版,20014)藤野貞:神経眼科臨床のために(第二版).医学書院,20015)若倉雅登(編):神経眼科.新図説臨床眼科講座8.メジカルビュー社,20006)向野和雄:神経眼科.金原出版,19977)筒井純:神経眼科.図説臨床眼科講座5.メジカルビュー社,1983しかし現実には放置されているケースが少なくない.(1)急性期の対処(図7):治癒あるいは麻痺が固定するまでの間は,暫定的な対処として片眼遮閉,プリズム眼鏡などがある.長時間の眼帯着用は耳朶が痛くなることもあり,眼鏡に半遮閉膜を貼る,半遮閉ガラス眼鏡装用などの対処もある.プリズムは治癒の妨げにならないよう低矯正にする必要があり,簡単に張り替えられるFresnel膜も(視界が少し霞むが)便利である.(2)固定期の対処:半年間固定性であることを確認し(動眼神経麻痺では異常再生が起こることがあるので1年間待つ),おもに正面視で複視が消失することを目的に眼筋手術を行う.軽度のものは麻痺筋の短縮を行うが,程度の大きいものは眼筋移動術を要する(例:外直筋完全麻痺に対するHummelsheim法注5).甲状腺眼症による上転制限(図6)では下直筋の後転を行うが,下眼瞼の後退が起こらないよう後転量の限界を5mmとする.注5)Hummelsheim法:上外直筋を二分し,耳側半分をそれぞれ外直筋の付着部に縫着する.