———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSー虹彩切開術(laseriridotomy:LI)が行われている.日本緑内障学会制定の緑内障診療ガイドライン(2006)3)においても相対的瞳孔ブロック解除の第一選択はLIとされており(図1),LIは外来で施行可能なこと,観血的手術にみられる感染症などの合併症がないこと,またその簡便さにより広く行われている手技である.しかし一方で,LI後の水疱性角膜症の発症がみられることやLIを施行した後も眼圧コントロールが不十分な症例がみられるなどLIの効果に限界があることも事実であり,LIと比較して相対的瞳孔ブロック解除に対する水晶体手術の優位性を唱える声も聞かれる.今回は緑内障専門医の立場からLIの適応と限界につき述べたい.はじめに近年,原発閉塞隅角緑内障の定義・分類が再検討され,緑内障性視神経症を有しているか否かという点が重視されるようになった1,2).すなわち,緑内障性視神経症を有している症例のみを原発閉塞隅角緑内障(prima-ryangle-closureglaucoma:PACG)とし,生じていない症例は原発閉塞隅角症(primaryangle-closure:PAC)と定義される.本稿では,読者の混乱を回避するためこうした用語変更以前の文献中に現れる原発閉塞隅角緑内障を原発閉塞隅角緑内障(旧義)と表示することにする.原発閉塞隅角緑内障の発症の3大要因として,相対的瞳孔ブロック・プラトー虹彩機序・水晶体要因(厚み増加,前方移動)がある.大多数の症例では相対的瞳孔ブロックが主因と考えられてきたが,近年超音波生体顕微鏡(ultrasoundbiomicroscope:UBM)などの画像診断装置の発展に伴い,隅角閉塞へのプラトー虹彩機序の関与が以前考えられていたより大きいことが明らかにされてきている.しかしながら相対的瞳孔ブロックを主たる隅角閉塞機序とする症例が多いため,本稿では相対的瞳孔ブロックの解除に重点を置き述べる.相対的瞳孔ブロックは水晶体前面と虹彩後面間の房水流出抵抗が大きくなることにより房水が虹彩後面(後房)にたまり,その結果前方に膨隆した虹彩が隅角を閉塞するために起こる.そのため,相対的瞳孔ブロックの解除には前房・後房間に房水の連絡路を作ることで圧較差を解消する必要があり,その方法の一つとしてレーザ(7)???*YujiKondo&TetsuyaYamamoto:岐阜大学大学院医学系研究科神経統御学講座眼科学分野〔別刷請求先〕近藤雄司:〒501-1194岐阜市柳戸1-1岐阜大学大学院医学系研究科神経統御学講座眼科学分野特集●レーザー虹彩切開術後水疱性角膜症を解剖する!あたらしい眼科24(7):855~859,2007レーザー虹彩切開術の適応と限界─緑内障専門医の立場から─????????????????????????????????近藤雄司*山本哲也*図1緑内障診療ガイドライン第2版における原発閉塞隅角症・原発閉塞隅角緑内障の治療方針相対的瞳孔ブロック解除の第一選択はレーザー虹彩切開術である.(文献3より)相対的瞳孔ブロック機序レーザー虹彩切開術周辺虹彩切除術眼圧コントロール眼圧下降(薬物・手術)経過観察良好可能不可能不良———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.7,2007I狭隅角眼の経過LI施行の是非を考えるとき,狭隅角眼や隅角閉塞を起こしうると考えられる眼(occludableangle)に対して相対的瞳孔ブロックを解除せずに経過をみた場合の結果を知る必要がある.現在では緑内障発作の危険性のある眼に対して無処置で経過をみることは倫理的に問題であるが,瞳孔ブロック解除の意義が未確立であった頃にはこのような報告がみられ,そのうちの二つを紹介したい.Wilenskyら4)は中心前房深度が2.0mm以下,もしくは眼科医が十分狭隅角と判断した129例に対し1年ごとの経過観察を行い,その結果6.2%で急性発作をきたし,13.2%は慢性閉塞隅角緑内障(旧義)を起こしたと報告している.平均観察期間3年弱の間に約20%が隅角閉塞をひき起こし,狭隅角眼を無処置で経過をみることは閉塞隅角の危険性が高いことを示している(図2).また,Alsbirk5)は初回検査にてvanHerick2度以下もしくは前房深度2.7mm以下の眼を10年後に再検査を行いその経過を観察し,初回検査時に隅角鏡検査にてoccludableangleと判定された20眼中7眼(35%)に原発閉塞隅角緑内障(旧義)が発症しており,occlud-ableangleと判定されなかった49眼では4眼(8%)のみに発症していることに比べて統計学的に有意に高率であったとした(図3).この結果からも,隅角閉塞の可能性のある眼を無治療でみることは原発閉塞隅角緑内障(旧義)の発症の危険性が高いことがわかる.一方,初回検査時にはoccludableangleと判定されなかった眼が,10年後にoccludableangleになっていたものが14眼(29%)存在しており,単回の隅角検査だけでは隅角閉塞の発症の予測が困難なことを示しており,このことは経時的な注意深い経過観察が必要であることを示唆している.II緑内障発作眼の僚眼急性緑内障発作を起こした僚眼においては5~10年以内に40~80%に原発閉塞隅角緑内障(旧義)を起こすことは以前より知られており,さらに発作後1年以内に急性発作を発症することが多いとされている6~11).Sawadaら12)はUBMを用いて機能的隅角閉塞の出現率を緑内障発作眼の僚眼と狭隅角眼・慢性閉塞隅角緑内障(chronicangle-closureglaucoma:CACG)眼との間で比較し,緑内障発作眼の僚眼では有意に機能的隅角閉塞の部位が多いことを明らかにした.機能的隅角閉塞より器質的隅角閉塞〔周辺虹彩前癒着(peripheralanteriorsynechia:PAS)形成〕に進行する危険性が高く将来の眼圧上昇の可能性があり,また緑内障発作発症の危険性も高いことを示しているといえる.IIILIの効果と限界このように狭隅角眼,occludableangleまた緑内障発作を起こした眼の僚眼は,無処置で経過をみることにより高率に原発閉塞隅角緑内障をひき起こす.緑内障発作の僚眼全例に対してLIを施行した報告では,4年以上経過観察で急性発作を起こした眼はなく,88.8%が無治療にて眼圧コントロールも良好であったと(8)図2Occludableangleの経過Occludableangleを無治療で平均2.7年経過観察した場合,約20%に隅角閉塞緑内障の発症をみた.(129例)(文献4より)隅角閉塞(-)(80.6%)急性閉塞隅角緑内障(6.2%)慢性閉塞隅角緑内障(13.2%)図3浅前房眼の経過中心前房深度が浅く,VanHerick2度以下の症例を経過観察した結果,10年後occludableangleでは35%にPACGを発症し,非occludableangleでは8%にPACGを発症した.(69例)(文献5より)Occludableangle非OccludableanglePACG発症(8%)PACG発症(35%)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.7,2007???報告されている13)(図4).このことから緑内障発作眼の僚眼へのLI施行は発作予防と眼圧コントロールにおいて有用な処置であるといえる.Alsago?ら14)はPACG83眼に対しLIを施行しその長期経過を報告している.急性発作の既往のある眼は35眼であり全例緑内障薬の点眼を必要とし,そのうち63%が濾過手術を必要としたのに対し,急性発作の既往のない眼では10%は無治療で経過観察が行え,また濾過手術に至った症例は46%で手術までの期間もより長期であった.さらに,LI施行後急性発作を起こした眼はなかった(図5).この結果から,LIは緑内障発作を起こした原発閉塞隅角緑内障眼に対しては眼圧コントロールが良好ではなく,さらに発作を起こしていないPACG眼においても完全に眼圧コントロールができていないことがいえる.また,Nolanら15)はモンゴルにおいてoccludableangleと判定した164眼に対してLIを施行し,原発閉塞隅角緑内障・原発閉塞隅角症における成績を報告している.濾過手術が行われたり視力低下をきたした時点で失敗と定義すると,LIの原発閉塞隅角緑内障での成功率は52%なのに対して原発閉塞隅角症では97%であった(図6).Alsago?らの結果とも合わせて考えると,急性発作や緑内障視神経症がみられるような進行した症例ではLIの効果が限定的であり,視神経症のみられない早期のPACの状態でLIを施行できれば良好なコントロールが得られる可能性が高いことが考えられる.続いて自験例を示す.PACsuspect・PAC・PACGに対して岐阜大学眼科においてLIを施行し3カ月以上経過観察可能であった246眼の眼圧コントロールについて解析をした.眼圧下降薬の使用の有無にかかわらず2回連続眼圧が20mmHgを超えた時点と緑内障手術を施行した時点を死亡と定義し生命表を作ると図7のようになる.PACGの生存率はPACsuspect,PACに比べ(9)図4緑内障発作眼の僚眼に対するLIの効果(シンガポール)(80例に対し全例LI施行)緑内障発作眼の僚眼に対してLIを施行したところ,緑内障発作は100%予防できた.また,88.8%は緑内障薬を使用せずに経過観察可能であった.(文献13より)緑内障薬(-)(88.8%)急性閉塞隅角緑内障(0%)LI施行時にCACG(2.5%)LI施行後眼圧上昇(8.8%)図5PACGの長期経過(シンガポール)緑内障発作の既往のある眼では全例緑内障薬が必要となり,62.9%が平均7.3カ月という短期間のうちに濾過手術を必要とした.対して,緑内障発作の既往のない眼では緑内障薬を必要としない症例が存在し,濾過手術施行の割合も低くまた手術施行時期も遅かった.(文献14より)緑内障点眼濾過手術施行62.9%7.3カ月後施行45.8%18.4カ月後急性発作既往(-)急性発作既往(+)89.6%100%図6モンゴルにおけるYAG-LILI施行時にPACGを発症していた眼では半数近くが追加手術が必要になったり視力低下をきたしていたが,LI施行時にPACであった症例は良好な経過を示した.(文献15より)?1995.1997初回検査とYAG-LI,1998に再検査?Occludableangle?追加手術,視力低下でLI失敗と定義PACGPAC失敗47.8%失敗3%———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.7,2007統計学的に有意に不良であった.また,病形とPASindexの関係は図8に示すように,PACからPACGへと病期が進行するにつれPASindexは有意に増えていくことがわかる.以上より,LIは相対的瞳孔ブロックを解除し緑内障発作が予防できるというプラス面がある一方,眼圧コントールに関してはPACsuspect・PACなどのPASが軽度の症例に対しては有効に働くが,PASが広範に存在しPACGに至った眼においては効果が限定的であるといえる.IVLIの適応手術・処置の適応を考えるときに個々の症例の眼科所見に加え,社会的な背景も考慮に入れる必要があり,ここではLIの適応を絶対的適応・相対的適応・禁忌と分類して考えたい.表1,2にその適応を示す.LIの適応を考える場合には相対的瞳孔ブロックが存在し,隅角検査においてSha?er2度以下の狭隅角が存在することが大前提である.絶対的適応としては現状では急性発作の発症の確率が高いことや慢性原発閉塞隅角緑内障の進行が考えられる眼があげられる.具体的には表1,2に示すように,急性発作眼およびその僚眼,PASの存在している眼(PACでありPACGへの進行が十分考えられる),緑内障性視神経症の存在する眼(開放隅角緑内障の合併が否定できている場合はPACGと診断可能),高眼圧症の存在する眼(開放隅角緑内障の合併が否定できている場合はPACと診断でき,今後のPACGへの進行可能性が大)などがあげられる.これらの症例においては禁忌となる所見がなければ速やかにLIを施行すべきである.また,絶対適応には当てはまらなくても治療可能な病院が自宅より遠方である場合や糖尿病の眼底管理が必要など,頻繁に散瞳検査が必要な眼に対しては相対的な適応を考えたほうがよい.急性緑内障発作は一度起こすと重篤な視機能障害をひき起こす可能性がある以上,できるだけその発症を予防する必要があるのは言うまでもない.先に述べたように,PASが広範囲に存在する場合やPACGに進行している症例では,LIを施行してもLIのみでは良好な眼圧コントロールが得られないことも明らかなので,LI適応有りと考えた場合にはいたずらにLIの施行を遅らせたりすべきではなく,またPASの明ら(10)表1レーザー虹彩切開術:絶対的適応(相対的瞳孔ブロックが存在し,Sha?er2度以下の狭隅角であることを前提とする)急性発作眼の僚眼周辺虹彩前癒着(PAS)の存在視神経症の存在(PACG,CACG)高眼圧の存在各種負荷試験の陽性表2レーザー虹彩切開術:相対的適応(場合により適応)散瞳検査の必要地理的条件精神,認知症など患者自身の問題緑内障発作の誘因となりうる薬剤の使用緑内障発作への不安の強い症例定期検査が困難な症例UBMによる機能的隅角閉塞確認例図7眼圧調整率LI後の生存率はPACGがPACsuspectやPACに比べ有意に低下した.*:Log-ranktestp<0.05:PACsuspect:PAC:PACG10080604020001224364860728496108120132経過観察期間(月)累積眼圧調整率(%)98.1±1.983.4±7.965.7±7.0**図8病形分類とPASindexPACsuspect,PAC,PACGの間ではPASindexに有意さがありPACsuspect,PAC,PACGと病期が進むにつれPASindexは有意に増えた.p<0.05PACsuspectPACPACGp<0.0543210PASindex(/12)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.7,2007???かな増加を認めた場合には速やかなLI施行が良好な予後に結びつくものと考えられる.近年,LIの代わりに水晶体手術を施行する考えも支持を得つつある.筆者らは白内障手術適応のある症例ではLIを施行することはせず,LIの代わりに白内障手術を行い相対的瞳孔ブロックの解除を行う戦略をとることがある.しかし,白内障手術の適応を認めない眼に対してはLIを第一選択としている.おわりに狭隅角眼,occludableangleまた緑内障発作を起こした眼の僚眼など急性緑内障発作の発症や原発閉塞隅角緑内障の発症の危険性がある眼に対してLIを施行することは,簡便に相対的瞳孔ブロックを解消する方法であるが,すべての症例においてLIのみで良好な眼圧コントロールが得られるわけではなく,詳細な検査に基づいた適応を考える必要がある.文献1)山本哲也:原発閉塞隅角症と原発閉塞隅角緑内障─新しい疾患概念と管理基準を中心に─.日眼会誌111:59-67,20072)FosterPJ,BuhrmannR,QuigleyHAetal:Thede?nitionandclassi?cationofglaucomainprevalencesurveys.???????????????86:238-242,20023)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン第2版.日眼会誌110:777-814,20064)WilenskyJT,KaufmanPL,FrohlichsteinDetal:Follow-upofangle-closureglaucomasuspects.???????????????(11)115:338-346,19935)AlsbirkPH:Anatomicalriskfactorsinprimaryangle-clo-sureglaucoma.Atenyearfollowupsurveybasedonlim-balandaxialanteriorchamberdepthinahighriskpopu-lation.??????????????16:265-272,19926)BainWES:Thefelloweyeinacuteclosed-angleglauco-ma.???????????????41:193-199,19577)LoweRF:Acuteangle-closureglaucoma.Thesecondeye:ananalysisof200cases.???????????????46:641-650,19628)RitzingerI,BenediktO,DirisamerF:Surgicalorconser-vativeprophylaxisofthepartnereyeafterprimaryacuteangleblockglaucoma.?????????????????????????164:645-649,19749)SnowTI:Valueofprophylacticperipheraliridectomyonthesecondeyeinangle-closureglaucoma.????????????????????????97:189-191,197710)WollensakJ,EhrhornJ:Angleblockglaucomaandpro-phylacticiridectomyintheeyewithoutsymptoms.?????????????????????????167:791-795,197511)HyamsSW,FriedmanZ,KeroubC:Felloweyeinangle-closureglaucoma.???????????????59:207-210,197512)SawadaA,SakumaT,YamamotoTetal:Appositionalangleclosureineyeswithnarrowangles:comparisonbetweenthefelloweyesofacuteangle-closureglaucomaandnormotensivecases.??????????6:288-292,199713)AngLP,AungT,ChewPT:AcuteprimaryangleclosureinanAsianpopulation:long-termoutcomeofthefelloweyeafterprophylacticlaserperipheraliridotomy.??????????????107:2092-2096,200014)Alsago?Z,AungT,AngLPetal:Long-termclinicalcourseofprimaryacuteangle-closureglaucomainanAsianpopulation.?????????????107:2300-2304,200015)NolanWP,FosterPJ,DevereuxJGetal:YAGlaseriri-dotomytreatmentforprimaryangleclosureineastAsianeyes.???????????????84:1255-1259,2000