———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSあると考えられている.マウスでは,角膜上皮細胞を胎児皮膚実質のうえで器官培養すると,皮膚角化細胞に変わってしまう,という報告もある2).つまり,皮膚のニッチが角膜上皮細胞になんらかのシグナルを送り,角膜上皮細胞を皮膚角化細胞へと分化転換してしまったのである.ステムセルはこれほど周囲の環境に影響されて,分化の方向性を決める細胞であり,特に生体外で組織特異的な正常分化の方向性を維持するよう培養する際は,異常分化させないよう注意が必要である.生体外での培養は,異常分化させないように,あるいは未分化度を維持したまま増殖させるように,成長因子,器質などいろいろと工夫されて実験されているが,人工でニッチにどれだけ近い状況を再現できるか,が最も重要である.しかしこのニッチには,周囲の細胞との接触,液性因子などさまざまなものが関与していると推測され,まはじめにステムセル(stemcell)の定義でいうと,広義にはES細胞(胚性幹細胞)なども含んでしまうのだが,ES細胞はpluripotentcell(内胚葉,中胚葉,外胚葉の3系統すべてに分化する能力をもつ細胞)であり,アダルトステムセルとはまったく分化能が異なる.アダルトステムセルは遺伝子導入,あるいは特別な環境が与えられない限り,組織特異性をもっており,外胚葉系から内胚葉系の細胞に分化したりすることはない.本稿では,アダルトステムセルのことを以下,ステムセルと略す.ステムセルは,その自己再生能(セルフリニューアル),組織特異的分化能,増殖能により定義される.哺乳類の組織のほとんどにステムセルが存在すると考えられているが,組織間で恒常性や損傷治癒過程には大きく違いがあり,ステムセルの貢献度は大きく異なる.たとえば,皮膚上皮細胞,角膜上皮細胞,などは細胞のターンオーバーが早く,再生能力も高く,ステムセルの貢献度が大きいが,神経細胞は,通常の状態ではステムセルの恩恵にあずかることは少ない1)(図1).組織が損傷し,細胞増殖が必要となった場合など,ステムセルに,増殖せよという活性化信号の刺激が入ると,非対称分裂,すなわち一つのステムセルは,ステムセルと増殖能の高い娘細胞に分裂し,その増殖能の高い細胞は組織を修復するように分化していく.このステムセルの特異性(ステムネス)を維持するためには,その周囲の微小環境(ニッチ)が非常に重要で(9)????*TetsuyaKawakita:東京歯科大学市川総合病院眼科**ShigetoShimmura:慶應義塾大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕川北哲也:〒272-8513市川市菅野5-11-13東京歯科大学市川総合病院眼科特集●眼科におけるアンチエイジング医学の流れあたらしい眼科23(10):1251~1254,2006ステムセルはエイジングする????????????????????川北哲也*榛村重人**高い細胞循環高い再生能力低い細胞循環高い再生能力低い細胞循環低い再生能力低高組織修復,再生においてステムセルがどれだけ貢献しているか血球肝臓膵臓心臓皮膚網膜腎臓脳神経骨格筋乳腺上皮腸管上皮血管内皮副腎皮質脊髄神経図1組織によるステムセル貢献度の違い(RandoTA:Nature441:1080,2006,Figure1より改変)———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006だ不明なことが多く,今後の研究が待たれる.Iステムセルのエイジングステムセルはその個体の生涯にわたり自己再生すると考えられている.ステムセルの存在する組織は,エイジングにより自己再生能力が低下し,修復,再生過程の低下をひき起こす.この組織再生能力の低下は,ステムセル自身のエイジングによるものなのか,ニッチのエイジングによる影響なのか,またそのほかの全身的影響によるものなのか,いろいろな場合が考えられる(図2).生体内では,ステムセルはその個体の生涯にわたり枯渇しないことがステムセルたる前提であり,生体内,細胞レベルで細胞老化を観察するのは,むずかしい(図3).ただ生体内でも,個体の寿命とステムセルの機能や供給により規定されることを示した報告はなく,生体外という特殊な環境で,1種類の細胞集団を単離し,その増殖を誘発させて枯渇させることにより細胞老化を観察することが多い.通常の細胞はテロメアにより分裂可能回数がはじめからプログラムされている.それは,長寿であるステムセルの数を少なく保つことにより,突然変異の発生確率を減らすという戦略を生体がとっているとも考えられる.そのステムセルの突然変異が重なることにより癌のステムセルが誘発されるという仮説もある3).自己複製能が高い癌細胞は,ステムセルと似通った点も多く,エイジングの過程で突然変異,環境因子などにより,組織特異的ステムセルから,癌が誘発されるとなると,ステムセルのエイジングをいかに抑制するかが,重要となってくる.IIステムセルのアンチエイジング今年,ROS(refractiveoxygenspecies)によりステムセルが枯渇していき,それを抗酸化物質によって防止することが可能であったことを,ItoらがNatureMedi-cine誌に報告している4).エイジングの大きな要因として酸化ストレスは注目されているので,ステムセルとエイジングを関連づけた論文としてインパクトのある報告である.この報告によると,活性酸素種がステムセルの増殖を制御するメカニズムに迫っている.???(ataxiatelangiectasiamutated)遺伝子の欠損モデル,あるいはエイジングモデルのマウスでは,血液のステムセル中の(10)外環境全身的環境組織ニッチステムセル図2ステムセルの環境エイジング活性酸素種の増加p38MAPKの活性化???ノックアウトマウス環境要因遺伝子的ストレス正常なステムセル正常な血球分化増殖ステムセルの枯渇骨髄不全ステムセル図4活性酸素とステムセルのエイジングステムセルニッチ/サポート細胞組織損傷組織局所的な活性化シグナル未熟細胞の産生ステムセル自身のエイジングニッチのエイジング全身環境のエイジング若年時エイジング図3ステムセルの機能的エイジングの仮説———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006????活性酸素レベルが高かった.この高いレベルの活性酸素はp38MAPK(mitogen-activatedproteinkinase)のシグナリングを活性化させ,血液のステムセルを増殖させるサイクルに働く.このサイクルが過剰に働くと,血液のステムセルが枯渇するという結論を招き,臨床像としては骨髄不全を呈することとなる(図4).もちろんこれがステムセルのエイジングのメカニズムのすべてとは考えられないが,活性酸素とステムセルのエイジングを関連づけた最初の論文としての意義は大きく,今後のこの分野は大きく発展すると期待する.III眼のステムセルとエイジングステムセル研究は骨髄で最も進んでおり,骨髄ステムセルを用いたエイジングの研究が最近盛んに行われるようになった.しかし,残念ながら眼科領域におけるステムセルとエイジングの研究はまだ皆無といってよい.角膜,網膜などでステムセル研究が進まないのは,まだステムセルそのものがはっきりと同定されていないためである.したがって,ステムセルのエイジングの定義が曖昧であることと,眼球組織でのステムセルの存在そのものもはっきりしていないため,現状ではまだspecula-tionすることしかできない.眼科領域でステムセルの生物学的な特性がある程度わかっているのは,角膜輪部に存在する角膜上皮ステムセルである.また,筆者らは角膜実質に多分可能をもつ神経堤由来のステムセルが存在することをマウス角膜で報告した5).そのほかにも,網膜周辺部に神経網膜のステムセル,あるいは,線維柱帯付近に角膜内皮細胞の前駆細胞が存在することを示唆する報告もある.しかし,同じステムセルであっても,角膜上皮のように頻繁にターンオーバーする細胞と,基本的に細胞分裂はせずに一生涯にわたって生き続ける角膜内皮細胞や,神経網膜細胞とでは生物学的な特性が違う.細胞分裂しない組織にとっては,個々の細胞の老化がそのまま組織の老化を反映する可能性がある.一方で,ターンオーバーが活発な組織では,個々の細胞は数日から数週間でアポトーシスによって排除されることから,一つの細胞がエイジングすることと,個体のエイジングは関係ない.このような組織では,ステムセルのエイジングが組織全体のエイジングを規定している可能性がある.しかし,エイジングの定義がもう少し定まるまでは,混乱が続くであろう.角膜上皮のようにターンオーバーが活発な眼組織でステムセルがエイジングを起こすと,どのような現象が現れるのか?理論的には徐々に輪部機能が低下し,角膜周辺に血管を伴う結膜侵入を認めると考えられる.ところが高齢社会となった今でも,加齢が原因と思われる突発的な輪部機能不全は報告されていない.全身の組織が加齢する時間の総和が,個体としての寿命を上回るのか?疾病を罹患しない限り,寿命を全うしてもあまりある予備力がステムセルや細胞に備わっているのか?確かに,高齢者のドナーであっても,角膜内皮密度が十分であれば角膜移植が可能であり,実際に数十年と機能し続けるドナー角膜も存在する.細胞分裂をしない細胞は,環境が整っている限り永続的に存在し続けるのであれば,組織や臓器の抗加齢研究に道が拓けてくるかもしれない.一方で個体が元気であっても,疾病などによって諸臓器に障害をきたすことは避けられない.角膜を例にとると,内皮細胞の過度の減少は水疱性角膜症をきたす.発病から長期間放置された水疱性角膜症は,徐々に輪部から血管侵入が進行して,一種の輪部機能不全状態に陥る6)(図5).二次的に角膜上皮ステムセルが枯渇してしまうのは,上皮のターンオーバーが異常に更新したことによってステムセルが機能不全になることが考えられる.これは果たしてステムセルのエイジングなのか?(11)図5白内障術後の水疱性角膜症水疱性角膜症は長期経過すると輪部機能不全をきたす.———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006通常は一定数のquiescentstemcellを維持しなければ維持できない組織の恒常性が,炎症や創傷治癒機転が働くことで維持できなくなる可能性がある.すでに骨髄ステムセルの研究では,酸化ストレスによってステムセルのquiescenceが維持できないことが知られている4).酸化ストレスモデルマウスを用いた研究で,骨髄移植をくり返し行うことができる回数が制限されることが報告されている4).これらの現象に関与している細胞内シグナル伝達機構も徐々に明らかになっており,quiescenceの維持と,加齢,さらには発癌のメカニズムが密接に絡んでいることがわかってきた.眼表面のステムセルはどのようにquiescentに維持されているのか?角膜ほど紫外線や高酸素に曝露されている組織はない.そこで一生涯にわたって存在し続けなければならない角膜上皮ステムセルはいかに過酷な環境に存在しているかがわかる.角膜上皮ステムセルのニッチについてはまだあまり知られていないが,メラノサイトの密度が多いことが光酸化に対する防御メカニズムの一つであることが推測されている7)(図6).また,大気中にある酸素の影響を最小限にとどめるメカニズムが存在することも予想される.ニッチが何らかの要因によって破壊されると,ステムセルはquiescentでいられなくなる可能性がある.角膜実質は上皮と異なり,活発にターンオーバーしているとは考えられていない.ただ,創傷治癒が働くと実質細胞(keratocyte)のアポトーシスや線維芽細胞への活性化などがみられ,非常事態としてステムセルの活性化が起こっている可能性はある.しかし,keratocyteのステムセルについてはまだまだ不明な点が多く,今後の研究成果が待たれる.おわりに従来の研究方法に加わって,近年になってさまざまな網羅的解析法が盛んに用いられるようになった.加齢のような複雑な現象を研究することも可能な時代になってきており,今後の展開によっては加齢の概念が大きく変わることが予想される.加齢はまず眼から感じる人が多いと言われており,加齢プロセスを緩和できれば,老後のqualityoflifeの向上に結びつくことは間違いない.今後の加齢とステムセルの研究に期待したい.文献1)RandoTA:Stemcells,ageingandthequestforimmor-tality.??????441:1080-1086,20062)PeartonDJ,YangY,DhouaillyD:Transdi?erentiationofcornealepitheliumintoepidermisoccursbymeansofamultistepprocesstriggeredbydermaldevelopmentalsig-nals.??????????????????????102:3714-3719,20053)ClarkeMF,FullerM:Stemcellsandcancer:twofacesofeve.????124:1111-1115,20064)ItoK,HiraoA,AraiFetal:Reactiveoxygenspeciesactthroughp38MAPKtolimitthelifespanofhematopoieticstemcells.???????12:446-451,20065)YoshidaS,ShimmuraS,NagoshiNetal:Isolationofmul-tipotentneuralcrest-derivedstemcellsfromtheadultmousecornea.??????????,2006(inpress)6)UchinoY,GotoE,TakanoYetal:Long-standingbullouskeratopathyisassociatedwithperipheralconjunctivaliza-tionandlimbalde?ciency.?????????????113:1098-1101,20067)HigaK,ShimmuraS,MiyashitaHetal:MelanocytesinthecorneallimbusinteractwithK19-positivebasalepi-thelialcells.???????????81:218-223,2005(12)図6ドナー角膜輪部角膜輪部のニッチにはメラニン色素が豊富にみられ,それを産生するメラノサイトもニッチの構成要素の一つと考えられる.