0910-1810/06/\100/頁/JCLSじ,眼表面に異常をきたすようになる.このような,マイボーム腺の異常に伴う,涙液および眼表面の異常をマイボーム腺機能不全(meibomianglanddysfunction:MGD)と総称する.MGDは,脂質の分泌低下を生じる「閉塞性MGD(obstructiveMGD)」と,分泌過剰を生じる「脂漏性MGD(seborrheicMGD)」の2つに分類される.MGDの原因は不明であるが,加齢に伴うマイボーム腺開口部の導管上皮の異常角化,ホルモンバランスの変化1),常在細菌叢の変化に伴うmeibum組成の変化,皮膚疾患との関連(脂漏性皮膚炎や酒渣様皮膚炎)などの関与が推測されている.2.診断患者は,非特異的な症状(熱感,異物感,充血,掻痒感,疲れ目,眼痛,起床時の開瞼困難など)を訴えることが多く,ドライアイに共通の慢性の不定愁訴である.角膜には下方に限局したSPKを認めるか(図1),あはじめに臨床の現場で,角膜に点状表層角膜症(superficialpunctatekeratopathy:SPK)や細胞浸潤を認める場合,眼表面のみを観察しているだけではその原因がすぐには明らかでないことがしばしばある.そのようなとき,マイボーム腺を含む眼瞼縁を詳細に観察することで,角膜上皮障害の原因を突き止め,有効に治療できる場合が少なくない.マイボーム腺開口部や眼瞼縁は眼表面と密接に関連しているにもかかわらず,見過ごされがちであるというのが現状である.細隙灯顕微鏡検査を行う際に,最初から強拡大で角膜や球結膜の観察をするのではなく,拡散光を用いて弱拡大で眼瞼縁を含めた観察を行うクセをつけると,よくわからなかった眼表面の炎症性疾患の原因がわかり,効果的な治療ができるようになる.本稿では,マイボーム腺および眼瞼縁と関連した角膜上皮障害について述べる.I閉塞性マイボーム腺機能不全による蒸発亢進型ドライアイ1.病因・病理マイボーム腺は皮脂腺の一種であり,涙液中に脂質(meibum)を供給している.この脂質が涙液油層を構成し,涙液の蒸発を抑制し,その安定性を維持するのに非常に重要な役割を果たしている.そのため,マイボーム腺の機能が低下して涙液油層に異常が生じると,涙液の蒸発が亢進し,その安定性が失われ,ドライアイを生(17)297*TomoSuzuki:京都市立病院眼科〔別刷請求先〕鈴木智:〒604-8845京都市中京区壬生東高田町1-2京都市立病院眼科特集●基本的な角膜上皮疾患の考え方と治療方法あたらしい眼科23(3):297~302,2006マイボーム腺・眼瞼関連角膜上皮疾患CornealEpithelialDamageRelatingtoMeibomianGlandandLidMargin鈴木智*図1蒸発亢進型ドライアイと涙液減少型ドライアイ蒸発亢進型では角膜下方に限局した軽度のSPKを認めるのに対し,涙液減少型では角膜のみならず球結膜にも点状染色を認める.蒸発亢進型涙液減少型298あたらしい眼科Vol.23,No.3,2006るいはまったくSPKは認めないことも多い.涙液層破壊時間(tearfilmbreakuptime:BUT)が5秒以下と短縮していることが多いが,SchirmerI法は正常である.これは,眼表面と涙腺を結ぶ反射弓は保たれており,涙腺そのものにも異常は生じていないため,反射性の涙液分泌が保たれていることを意味している1).閉塞性MGDの診断は,マイボーム腺開口部における脂質の固形化(pluggingなど),指で上眼瞼を圧迫した際のmeibum分泌の減少,meibumの性状変化,眼瞼縁の血管拡張や不整,皮膚粘膜移行部の後方移動(瞼縁の角化が進行し瞼結膜と皮膚との境界が徐々に結膜側へ移動していく現象)などによって行う(図2).最近では,マイボーム腺の腺構造を観察できるマイボグラフィーや,meibumの分泌量を測定できるマイボメトリーなどを用いた総合的なマイボーム腺機能の評価も行われるようになってきた2).3.治療・管理蒸発亢進に伴うドライアイのため,まずは人工涙液(防腐剤無添加)の点眼を行う.回数を増やしても症状が改善しない場合は,ヒアルロン酸の点眼を併用する.閉塞性MGDの治療も同時に行う.マイボーム腺機能の改善を目的として,蒸しタオルなどを用いて5~10分間眼瞼の保温を行い,続いて眼瞼をマイボーム腺開口部に向かってマッサージしてmeibumの排出を促進するとともに,瞼縁の清拭を行う.外来で,マイボーム腺圧迫鑷子を用いてmeibumを圧出することを定期的に行うと,症状が改善することもある.どうしても症状が改善しない場合には,涙点プラグの使用が有効な場合もある.IIブドウ球菌性眼瞼角結膜炎(Staphylococcalblepharokeratoconjunctivitis)1.病因・病理眼瞼縁の睫毛根部におけるブドウ球菌(おもに表皮ブドウ球菌,黄色ブドウ球菌)の増殖が原因である.ブドウ球菌のもつ外毒素(dermatonecrotoxin)によって眼瞼皮膚のびらんや潰瘍が生じ,長期化すると睫毛が抜け,睫毛乱生や睫毛禿になることもある.眼瞼縁炎に伴って生じる慢性結膜炎やSPKは,ブドウ球菌そのものが結膜上皮や角膜上皮に感染して生じるものではなく,外毒素に対する上皮の反応である3).一方,カタル性角膜潰瘍や角膜フリクテンは,ブドウ球菌に対する感染アレルギー(カタル性角膜潰瘍はⅢ型,フリクテンはⅣ型アレルギーと考えられている)である.そのため,いずれの場合でも角膜の病変部を擦過して培養してもブドウ球菌を検出することはほとんどない.ブドウ球菌の感染は,高齢者,糖尿病患者,アトピー性皮膚炎患者などに好発し,これらの患者では治療に抵抗して慢性の経過をとることが多い.2.診断自覚症状は,眼瞼の灼熱感,疼痛,異物感,軽度の結膜充血,流涙,眼脂などであり,視力障害を訴えることはほとんどない(角膜フリクテンを除く).また,両眼同時に発症することは少ない.ブドウ球菌性眼瞼炎では,一般に眼瞼縁の皮膚表面に硬くてもろいフィブリン様の膜様物を生じ,睫毛の生育とともにそれが持ち上げられcollaretteとよばれる特徴的な所見を呈する(squamoustype)(図3).ときに,睫毛根部に硬い痂皮を生じ,鑷子などでその痂皮を.がすと毛根部に小さい潰瘍が認められることもある(ulce-rativetype).結膜の変化はあまり多くはないが,球結膜充血や軽度の乳頭増殖を伴った慢性結膜炎を認めるこ(18)図2閉塞性MGDマイボーム腺開口部の閉塞性所見とともに,瞼縁の血管拡張や不整も認められる.あたらしい眼科Vol.23,No.3,2006299とがある.角膜の合併症として,外毒素による角膜下方1/3を中心としたSPK(図4),免疫反応によるカタル性角膜浸潤や軽度の角膜フリクテンなどが認められることもある.脂漏性眼瞼炎とは,睫毛根部にgreasyな分泌物を認めるものの潰瘍は伴わず,容易に分泌物の除去が可能であるので鑑別が可能である.しかし,両疾患が合併していることもある.角膜にSPKを認める場合には,ドライアイ(おもに瞼裂部を中心に角膜のみならず結膜にも点状染色が認められる),アトピー性角結膜炎(角膜下方に点状染色を認めるが,眼瞼にアトピー性皮膚炎を認める)などとの鑑別が必要である.なお,若年者(特に女性)の角膜下方のSPKでは,睫毛根部のcollaretteなどは認めず,マイボーム腺炎を伴っている場合が多く,マイボーム腺炎角膜上皮症の一病型の場合もありうる4).3.治療ブドウ球菌性眼瞼角結膜炎は,適切な治療を行うことで比較的早く症状を軽快させることができる.治療は,瞼縁の清拭に加え,ブドウ球菌に感受性のある抗生物質の投与が中心となる.具体的には,ニューキノロン系〔クラビッドR(レボフロキサシン),ガチフロR(ガチフロキサシン)など〕の点眼や眼軟膏が有効なことが多い.しかし,近年ニューキノロン耐性のブドウ球菌の出現が増加しており,慢性化すると治療が困難となることも多いので,瞼縁の菌培養と感受性検査を施行した後に抗菌薬を選択し,濫用しないよう注意することが必要である.カタル性角膜潰瘍は,病変が局所の免疫反応の結果生じたものであるため,その抑制を目的として,急性期には低濃度ステロイド薬の点眼の併用が効果的である.しかしながら,長期間にわたるコントロールには抗原(すなわち細菌)の量を減少させるために,抗菌薬の点眼と眼瞼縁の清拭が重要である.基本は,やはり眼瞼縁炎の治療となる.IIIマイボーム腺炎角膜上皮症マイボーム腺炎(meibomitis)という場合に,閉塞性MGD一般を意味していることが多いが,ここでは,「マイボーム腺そのものに明らかな炎症所見を伴っている閉塞性MGD」に限定してマイボーム腺炎という用語を使用する.マイボーム腺炎では,マイボーム腺開口部における脂質の固形化および導管上皮の角化による閉塞所見(pluggingなど),指で瞼縁を圧迫した際の分泌障害などの閉塞性MGDの所見に加え,眼瞼縁・瞼結膜のマイボーム腺存在領域(特に開口部周辺)に強い充血を認める(図5).「炎症」の原因としては,細菌感染あるいは(19)図3ブドウ球菌性眼瞼縁炎睫毛根部にcollaretteを認める.図4ブドウ球菌性眼瞼角結膜炎ブドウ球菌の外毒素による角膜下方1/3に限局したSPK.〔鈴木智:角膜疾患外来でこう診てこう治せ(木下茂編),メジカルビュー社,p46,図3より転載〕300あたらしい眼科Vol.23,No.3,2006細菌関連蛋白への生体反応の関与が考えられる.いわゆる慢性眼瞼結膜炎の起因菌としては,好気性菌であるStaphylococcusspeciesが一般的であるが,マイボーム腺炎の起因菌としては,筆者らは嫌気性菌であるPropionibacteriumacnes(P.acnes)がマイボーム腺内で増殖している可能性があると考えている3).この「細菌増殖によって生じるマイボーム腺炎」が角膜上皮障害と関連しているものを,筆者らは「マイボーム腺炎角膜上皮症」とよんでいる.それは,角膜に結節病変を作る「フリクテン型」と,結節性病変は作らずSPKが主体である「非フリクテン型」の2つに分類できる.いずれのタイプも,若年女性に多いのが特徴である.1.診断a.フリクテン型「フリクテン型」の特徴は,その名のとおり,角膜上の結節性細胞浸潤とそれに向かう表層性血管侵入である.角膜の結節性病変の延長線上の眼瞼縁にマイボーム腺炎を認める.角膜フリクテンの起因菌として,これまで黄色ブドウ球菌がおもに考えられてきたが,実際に患者の結膜.や眼瞼縁の培養を行ってもこれらの細菌を検出することはまれである.筆者らが行ったマイボーム腺分泌物の培養5,6)および実験モデル7)による検討では,P.acnesも本疾患の起因菌として重要であると考えられる.若年女性(特に思春期ごろ)に圧倒的に多いこと,幼少時より麦粒腫や霰粒腫の既往歴がある症例が多いこと,ヒト白血球抗原(HLA)との関連があることなども特徴である6).患者は,異物感,充血,眼痛,羞明,流涙,視力低下などを訴える.重症例や難治例では,角膜の混濁と菲薄化が生じ,高度の視力低下をきたす.若年女性で,角膜に結節性浸潤病巣とそれに向かう表層性血管侵入,対応する球結膜の充血が認められれば,診断は容易である.低倍率で,拡散光のもとに観察することでマイボーム腺炎の合併が捉えやすくなる(図6a,b).軽症例では,結節性細胞浸潤の延長線上に限局したマイボーム腺炎が認められるが,重症例では眼瞼全体に及ぶ強いマイボーム腺炎が認められる.眼瞼を反転してみると,マイボーム腺そのものの炎症がわかりやすい.(20)図5マイボーム腺炎マイボーム腺開口部近傍の瞼結膜および眼瞼縁の発赤,腫脹が認められる.図6マイボーム腺炎角膜上皮症(フリクテン型)a:角膜に結節性細胞浸潤とそれに向かう表層性血管侵入,その延長線上の眼瞼縁にマイボーム腺炎を認める.b:aのフルオレセイン染色所見.結節部位に一致して角膜上皮びらんを認める.abあたらしい眼科Vol.23,No.3,2006301角膜フリクテンでは,マイボーム腺炎と角結膜の炎症所見は同様に推移する.すなわち,角結膜所見が高度であるほどマイボーム腺炎も高度であり,角膜病変はマイボーム腺炎の改善に伴って改善する.重症例になると,長年にわたって再発をくり返しているため角膜への血管侵入と角膜上皮下~実質内への細胞浸潤が高度となり,単純ヘルペスによる壊死性角膜炎などと見誤ることがある.しかしながら,高度のマイボーム腺炎を合併していることに注目すれば,「角膜フリクテン」と診断できなくても,マイボーム腺炎が眼表面の炎症の原因となっていることが推測できるため,治療方針を誤ることはない.b.非フリクテン型マイボーム腺炎とともに認める角膜上皮障害はSPKが主体であり,「フリクテン型」のように細胞浸潤による結節病変を作らないものを「非フリクテン型」とよんでいる.SPKは角膜全体に及ぶ重症例もあれば,角膜の一部(下方あるいは上方)に限局している軽症例もある(図7a,b).いわゆる高齢者の閉塞性MGDに伴う蒸発亢進型ドライアイに典型的な,角膜下方に限局したSPK(図1)とはいささか異なるものと考えられるが,厳密に区別するのはむずかしい.この病型には,表層性血管侵入を伴う症例と,伴わない症例が混在している.角膜上皮障害および眼表面の炎症の重症度は,「フリクテン型」と同様,マイボーム腺炎の重症度と相関している.2.治療「フリクテン型」,「非フリクテン型」ともに,マイボーム腺炎が疾患の原因であると考えられるので,その治療が基本となる.すなわち,眼瞼縁の清拭とともに,マイボーム腺内で増殖している可能性のある細菌(P.acnes)に対して適切な抗菌薬を投与する.増殖した細菌の数を減らす目的で,感受性の高いセフェム系抗生物質の内服〔たとえば,フロモックスR(塩酸セフカペンピボキシル)〕を行うと効果的である6).マイボーム腺内の細菌叢を整える目的で,クリンダマイシンの投与も有効と報告されている8,9).マイボーム腺炎が比較的軽度で,視力障害をきたしていない症例については抗菌薬の点眼のみ〔タリビッドR(オフロキサシン)+ベストロンR(セフメノキシム)〕でコントロール可能であるが,再発をくり返す症例については抗菌薬の内服投与は必須である.重症例および難治例にはマイボーム腺内の抗菌薬の濃度を高める目的で点滴を行い,良好な成績を得ている10).ステロイド薬については,ocularsurfaceの炎症が強い場合には抗菌薬との併用が効果的であるが,投与を中止すると再発することが多い.これは,マイボーム腺炎に関連していると考えられる細菌が十分に除菌されていないためと考えられる.基本はあくまでもマイボーム腺炎の治療であるということを忘れないようにしたい.穿孔例や瘢痕の強い症例については,角膜移植を行うが,原則として表層角膜移植を選択すべきである.(21)図7マイボーム腺炎角膜上皮症(非フリクテン型)a:角膜上方に表層性血管侵入とSPK,対応する眼瞼縁にマイボーム腺炎を認める.b:aのフルオレセイン染色所見.ab302あたらしい眼科Vol.23,No.3,2006文献1)鈴木智:神経支配および性ホルモンと眼の乾き.あたらしい眼科22:303-309,20052)YokoiN,KomuroA,MaruyamaKetal:Newinstrumentsfordryeyediagnosis.SeminOphthalmol20:63-70,20053)ThygesonP:Complicationsofstaphylococcicblepharitis.AmJOphthalmol68:446-449,19694)鈴木智,横井則彦,佐野洋一郎ほか:マイボーム腺炎に関連した角膜上皮障害(マイボーム腺炎角膜上皮症)の検討.あたらしい眼科17:423-427,20005)鈴木智,横井則彦,佐野洋一郎ほか:角膜フリクテンの起炎菌についての検討.あたらしい眼科15:1151-1153,19986)SuzukiT,MitsuishiY,SanoYetal:Phlyctenularkeratitisassociatedwithmeibomitisinyoungpatients.AmJOphthalmol140:77-82,20057)SuzukiT,SanoY,KinoshitaS:Ocularsurfaceinflamma-tioninducedbydelayedhypersensitivityresponsetoPropionibacteriumacnes.Cornea21:812-817,20028)横井則彦:マイボーム腺に関連した眼表面疾患.日本医事新報4166:33-36,20049)横井則彦,西井正和:涙液異常(ドライアイ・マイボーム腺異常).眼科47(11):1619-1631,200510)鈴木智,横井則彦,木下茂:角膜フリクテンに対する抗生物質点滴大量投与の試み.あたらしい眼科15:1143-1145,1998(22)