●連載⑲抗VEGF治療セミナー監修=安川力髙橋寛二72.抗VEGF治療とAI伊野田悟髙橋秀徳はじめに眼科治療において抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)薬がわが国で保険適用となってから10年を迎える.抗VEGF薬は,滲出型加齢黄斑変性(wetage-relatedmaculardegenera-tion:wAMD),網膜静脈閉塞症(retinalveinocclu-sion:RVO),糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME),近視性脈絡膜新生血管などの治療方針を大きく変化させた.また,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)の普及により,わずかな再燃を検出できるようになり,OCT所見に基づくprorenata法,treatandextend法といった個別化医療が実用化し,固定投与に比べてはるかに低侵襲・低コストで同等の有効性が確保できるようになった.現在,第三次ブームを迎えている人工知能(arti?cialintelligence:AI)を利用した画像解析についてはさまざまな報告がある.AIによりRVO,DME疾患でのOCT画像中の網膜内浮腫(intraretinalcystoid?uid:ICF)や網膜下浸出液(subretinal?uid:SRF)を同定した報告があり,筆者らも眼底写真から脈絡膜厚を予測するAIアルゴリズムの報告を行った1,2()図1).2018年にはOCT画像に基づいた抗VEGF薬の治療適応を評価するAIについて報告された3).およそ18万枚のOCT画像とカルテから,画像撮影後3週間以内に硝子体内投与が行われた群と,行われなかった群とに分け,深層学習を行い,その結果,検証データセット内の画像に対して95.5%の予測精度に達したという.検査と診療治療適応の決定を主目的とするAIの開発は他科でも進行している.2019年5月7日,AI医療機器を開発するアイリスは塩野義製薬と第三者割当増資を行った.同社はAIを用いた高精度・早期診断対応のインフルエン眼底カメラヒートマップCCT実測値(?m)103170235361CCT推定値(?m)127163227345図1眼底カメラから脈絡膜厚を測定するAI上段:眼底カメラ,中段:AIによる脈絡膜厚(centralchoroidalthickness:CCT)推定中のヒートマップ.下段:実測値のCCTと推定値のCCT.脈絡膜が厚くなるにつれて,脈絡膜血管が薄くなっている.(2017年,TheAssociationforResearchinVisionandOphthalmologyにて発表)(61)0910-1810/20/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科Vol.37,No.1,202061図2喉頭診察所見a:インフルエンザ濾胞.咽頭後壁に1~2mmの小さな半球状の赤い皿状の透明な濾胞.b:インフルエンザの可能性のある濾胞.やや細長い皿状.c,d:非インフルエンザ濾胞.濾胞は多形であるかまたは凝集した小結節.(宮本昭彦,渡辺重行:喉頭診察所見(インフルエンザ濾胞)の意味と価値の考察.日大医学雑誌72:11-18,2013より一部改変して転載)ザ診断支援AI医療機器の開発を行っている.塩野義製薬は2018年3月にこれまでとは作用機序がまったく異なる,Capエンドヌクレアーゼ阻害薬のバロキサビルマルボキシル(ゾフルーザ)を販売開始した.今回の資本業務提携によって,塩野義製薬はアイリスのAI医療機器を対象としたライセンス契約に関する優先交渉権を獲得し,インフルエンザの早期診断・早期治療につなげられるという.現在一般的なインフルエンザの迅速診断はイムノクロマト法を用いており,迅速診断キットにおける感度はA型54.4%,B型53.2%である4).この診断キットは発症から24時間以上経過していないと偽陰性となりやすい.一方で,2017年に発刊された「成人の新型インフルエンザ診療ガイドライン」5)では,抗インフルエンザ薬の導入を行う場合はできるだけ早期,できれば48時間以内に投与が望ましいとしている.アイリスが開発中のAIアルゴリズムは,発症早期から咽頭にできるインフルエンザ濾胞から診断を行うことで高精度な早期診断をめざしている(図2).ただし本件のようにAI開発企業に,推奨する薬剤の権利をもつ製薬企業の資金が入った場合,いわゆるマッチポンプではないかとの懸念に対する丁寧な説明が求められる.米国疾病対策センター5)のガイドラインにおいては,4歳未満の小児や,65歳以上の高齢者,慢性疾患をも62あたらしい眼科Vol.37,No.1,2020つ患者,肥満患者,妊婦はインフルエンザ重症化リスク患者とされ,抗インフルエンザ薬の投与が推奨されている.一方で,インフルエンザウイルスも抗菌薬同様に薬剤耐性を獲得するため,新たな薬剤耐性を獲得し,いざパンデミックとなったときに利用できる抗インフルエンザ薬がないということがないように,適正使用が求められる.AIと抗VEGF薬すでにAIによりICF,SRFの同定は可能である1).そのためOCT解析ソフトウェアにアルゴリズムを搭載のうえで,AMDでは「SRF=抗VEGF薬の積極適用」と設定するだけで,OCT画像のみから抗VEGF薬投与の提案がすでに可能である.しかし,実際に治療適用を決定するためには,総合的な判断が必要であろう.ところが,ヒトの総合的な判断は,実は単純なアルゴリズムに基づく判断より劣るという,一般的な人間の感覚と真逆なことが数十年来証明され続けている6).AIの判断力は専門家を超えつつあるが,総合的な判断において専門家が決めたアルゴリズムとAIのどちらが優れているかはまだ報告がない.今後,AIの進歩は間違いないだろうが,その新技術はあくまでも補助であり,正しい知識に基づいた医師の判断が診療には重要であることは変わらない.文献1)SchlelT,WaldsteinSM,BogunovicHetal:Fullyauto-mateddetectionandquanti?cationofmacular?uidinOCTusingdeeplearning.Ophthalmology125:549-558,20182)TampoH,TakahashiH,YanagiYetal:Deep-learningestimationchoroidalthicknessfromcolorfundusphoto-graphs.TheAssociationforResearchinVisionandOph-thalmology.2017573)PrahsP,RadeckV,MayerCetal:OCT-baseddeeplearningalgorithmfortheevaluationoftreatmentindica-tionwithanti-vascularendothelialgrowthfactormedica-tions.GraefesArchClinExpOphthalmol256:91-98,20184)BrunningAHL,Lee?angMMG,VosJMBWetal:Rapidtestsforin?uenza,Respiratorysyncytialvirus,andotherrespiratoryviruses;Asystematicreviewandmeta-anal-ysis.ClinInfectDis65:1026-1032,20175)Centerfordiseasecontrolandprevention:The?u:whattodoifyougetsick.https://www.cdc.gov/?u/takingcare.htmAccessedNov27,20186)MeehlPE:Causesande?ectsofmydisturbinglittlebook.JPersAssess50:370-375,1986(62)