●連載229監修=山本哲也福地健郎229.若年性黄色肉芽腫による小澤憲司岐阜大学大学院医学系研究科神経統御学講座眼科学分野美濃市立美濃病院小児緑内障若年性黄色肉芽腫は眼科領域では非常にまれな疾患である.虹彩・毛様体に発生することが多く,続発小児緑内障の原因となる.小児の自然発生した前房出血をみたときは鑑別する必要がある.ステロイド投与にて改善することが多いが,治療が遅れると失明の原因となりうるため,本疾患概念を知っておくことは必要である.●はじめに若年性黄色肉芽腫(juvenileCxanthogranuloma)は乳幼児の頭蓋,顔面,体幹の皮膚に好発し,5歳頃までに自然消退する良性腫瘍として皮膚科領域でよく知られており,non-Xhistiocytosisに属する疾患である.眼科領域では,1949年にCBlankらにより前部ぶどう膜炎を併発することが初めて報告された1).眼合併症頻度は全若年性黄色肉芽腫患者のC0.2~0.4%とされる2,3).白色人種に多く,欧米での症例報告は多数されているが,アジア人における発症はまれである4).眼科領域における好発部位は虹彩・毛様体であり,他に結膜,強膜,眼瞼,眼窩にも発生することがある.皮膚病変は眼病変に対して先行して認められることもあれば,8~10カ月遅れて出現することもある2)(図1).臨床所見の特図1体幹に認めた若年性黄色肉芽腫の皮疹所見背部に暗赤色で境界明瞭な丘疹を認める.(文献C4より引用)徴としては①虹彩腫瘤,②片眼性緑内障,③自発的前房出血,④ぶどう膜炎による充血,⑤虹彩異色症の五つが主とされており5),これらの症状のなかでは結膜充血がもっとも頻度が高くC40%,ついで虹彩腫瘤がC13%,前房出血がC13%,虹彩異色症はC7%,緑内障合併はC13%であったとの報告がある.とくに,小児に自然発生した前房出血が本疾患の特徴的所見とされている6)(図2).小児の前房出血をきたす疾患の鑑別診断には外傷,網膜芽細胞腫などの腫瘍性病変,髄芽腫,未熟児網膜症,白血病などの血液疾患があげられる.C●診断皮膚病変があれば生検にて診断確定に至るが,皮膚病図2若年性黄色肉芽腫による続発小児緑内障の前眼部写真高眼圧に伴う角膜混濁浮腫と前房内出血(→)を認める.(文献C4より引用)(73)C0910-1810/19/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科Vol.36,No.7,2019C911図3背部に認めた丘疹の病理組織像(HE染色)腫瘍細胞のびまん性の浸潤と,Touton型巨細胞様の所見(→)を認める.(文献C4より引用)変を認めない場合は,診断のため前房を穿刺し吸引細胞診が行われることがある7).組織学的にはCTouton型巨細胞がみられる(図3).また,CD1a染色陰性を確認することで肉眼的所見が類似するCLangerhans細胞組織球症を否定することも必要である.最近は,早期診断に超音波生体顕微鏡(ultrasoundbiomicroscope:UBM)による評価が有用とされている.UBMは非侵襲的に腫瘍病変の部位・広がりを把握することができ,エコーパターンから他の虹彩腫瘍との鑑別にも有用とされる8).検鏡にて明らかな腫瘍性病変を確認できるときは,UBMにて内部が均一なエコー像がみられる.一方,境界不明瞭なびまん性腫瘍浸潤の場合は,UBMにて虹彩表面に不整な凹凸がみられると報告されている9).C●治療現在のところステロイドの点眼あるいは結膜下注射による局所投与が第一選択であり,効果不十分の場合はステロイドの経口全身投与を行う場合がある10).海外の報告ではステロイド治療無効例に,ビンブラスチン全身投与11),あるいはベバシズマブの眼内投与(前房内/硝子体内)を施行し改善が得られたと報告されている12).本疾患は眼科領域において非常にまれな疾患であるため,皮膚に黄色肉芽腫が認められたとしても,すべての患者に眼科的スクリーニングを行うことはメリットが乏しいとされる3).ただし,適切な治療介入が遅れると重度の視力障害をきたすため,軽視することはできない疾患であり,小児の前房出血を認めた際は鑑別疾患として早期に考慮することが必要である.文献1)BlankCH,CEglickCPG,CBeermanH:Nevoxantho-endothelio-mawithocularinvolvement.CPediatrics4:349-354,C19492)ChangCMW,CFriedenCIJ,CGoodW:TheCriskCintraocularjuvenileCxanthogranuloma:surveyCofCcurrentCpracticesCandCassessmentCofCrisk.CJCAmCAcadCDermatolC34:445-449,C19963)SamuelovL,KinoriM,ChamlinSLetal:RiskofintraocuC-larandotherextracutaneousinvolvementinpatientswithcutaneousCjuvenileCxanthogranuloma.CPediatrCDermatolC35:329-335,C20184)小澤憲司,澤田明,川瀬和秀ほか:角膜浮腫のため診断に難渋した若年性黄色肉芽腫による小児続発緑内障のC1例.臨眼71:681-686,C20175)SmithCME,CSandersCTE,CBresnickGH:JuvenileCxantho-granulomaCofCtheCciliaryCbodyCinCanCadult.CArchCOphthal-mol81:813-814,C19696)SamaraCWA,CKhooCCT,CSayCEACetal:JuvenileCxantho-granulomaCinvolvingCtheCeyeCandCocularadnexa:TumorCcontrol,visualoutcomes,andglobesalvagein30patients.COphthalmologyC122:2130-2138,C20157)VendalCZ,CWaltonCD,CChenT:GlaucomaCinCjuvenileCxan-thogranuloma.SeminOphthalmol21:191-194,C20068)LichterCH,CYassurCY,CBarashCDCetal:UltrasoundCbiomi-croscopyCinCjuvenileCxanthogranulomaCofCtheCiris.CBrJOphthalmol83:375-376,C19999)SyedCZA,CChenTC:NewCultrasoundCbiomicroscopyCirisC.ndingsCinCjuvenileCxanthogranuloma.CJCGlaucomaC25:Ce759-e760,C201610)TreacyCKW,CLetsonCRD,CSummersCG:SubconjunctivalCsteroidinthemanagementofuvealjuvenilexanthogranu-loma:aCcaseCreport.CJPediatrCOphthalmolCStrabismusC27:126-128,C199011)PollonoCD,CGalanCM,CCuruchetCACetal:JuvenileCxantho-granulomaCwithCbilaterallCocularinvolvement:completeCresponseCafterCtreatmentCwithvinblastine:caseCreport.CEurJOphthalmol19:1069-1072,C200912)AshkenazyCN,CHenryCCR,CAbbeyCAMCetal:SuccessfulCtreatmentCofCjuvenileCxanthogranulomaCusingCbevacizum-ab.JAAPOSC18:295-297,C2014912あたらしい眼科Vol.36,No.7,2019(74)