フェムトセカンドレーザーを用いた白内障手術FemtosecondLaser-AssistedCataractSurgery(FLACS)谷口紗織*ビッセン宮島弘子*はじめに白内障手術は,術者が顕微鏡下で眼球の状態を観察しながら,器具を使って水晶体を摘出し,眼内レンズ(intraocularlens:IOL)を挿入するマニュアル操作で行われてきた.そのため,術者の熟練度によって手術時間や眼球への侵襲に差が出ることは避けられない.フェムトセカンドレーザーは,手術室で眼球を光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)で測定し,その結果に基づきレーザー照射部位を決定するため,術者の熟練度による差がなく,マニュアル操作では不可能な組織の切開を可能にする.フェムトセカンドレーザーを用いた白内障手術(femtosecondlaser-assistedcata-ractsurgery:FLACS)は,2009年にNagyらにより初めて報告され1),わが国でもLenSx眼科用レーザー手術装置(アルコン)とカタリスプリシジョンレーザー(ジョンソン・エンド・ジョンソン)の2機種が厚生労働省の承認を得ている.ここでは,FLACSの術式を説明し,従来のマニュアル操作による手術と何が異なるのか,FLACSの利点と問題についてまとめる.近年,医療分野でも注目されている人工知能(arti?cialintelli-gence:AI)のFLACSヘの導入について,筆者らが調べた範囲では報告がないため,その可能性についても考えてみる.IフェムトセカンドレーザーとOCTFLACSは,光切断(photodisruption)を用いて角膜・水晶体前?・水晶体核の各組織の切開を行う(図1).フェムトセカンドレーザーは,フェムト秒(10-15秒)という超短パルスのレーザーで,生体組織に照射をすると,照射部位に熱を発生せずにプラズマ爆発を起こす.プラズマ爆発を起こした組織は,二酸化炭素と水に分解されるため,組織内にはキャビテーションバブルという気泡が発生し,組織に空洞ができる.この空洞を連結させてミシン目状に切断する(図2).FLACSは,最初に眼球の測定を行い,その後にレーザー照射となるが,この間,接眼器具(patientinter-face:PI)を用いて眼球を固定する.PIは,接眼部が角膜に直接触れる接触式と,間に液体(BSSPlus)を満たして使用し,器具が直接角膜に触れない非接触式(浸水式)がある.LenSxのPIは接触式で(図3),眼球の吸引固定がしっかりしているため,照射中のわずかな眼球の動きを抑え,正確な位置にレーザー照射ができる.角膜接触面にソフトコンタクトレンズを装着させたSoft-Fitpatientinterfaceにより,硬いPIによる角膜圧迫が軽減され,OCT測定およびレーザー照射の精度が向上した.カタリスのPIは浸水式で,liquidopticinterface(LOI)とよばれ,サクションリングとディスポーザブルレンズからなる.サクションリングを角膜に吸引させ,BSSplusを満たした後,フェムトセカンドレーザー装置に装着したディスポーザブルレンズとドッキングする.角膜を圧平しないため,眼圧の上昇が抑えられる.PIを装着後,レーザー装置に搭載されているOCTで◆SaoriYaguchi&*HirokoBissen-Miyajima:東京歯科大学水道橋病院眼科〔別刷請求先〕谷口紗織:〒101-0061東京都千代田区神田三崎町2-9-18東京歯科大学水道橋病院眼科(0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(17)131図2レーザーによる切開組織にできた空洞が連結され,ミシン目状の切断面となる.図1レーザー照射が可能な各組織角膜,水晶体前?,水晶体内への照射が可能である.図3接触式接眼器具(PI)角膜上に水色のPIをのせ,吸引にて固定する.図4レーザー装置に搭載されたOCTによる測定OCTの測定画面を見ながら,レーザー照射デザインを決める.角膜から水晶体後面まで測定する(図4).LenSxでは,circleスキャンとlineスキャンを組み合わせた三次元解析を用い,カタリスでは1万本以上のAスキャンを行い,三次元イメージを合成している.OCT測定の結果に基づいてフェムトセカンドレーザー照射のデザインを決め,水晶体前?切開,水晶体核分割,角膜切開を行う.角膜乱視症例には,乱視の程度に合わせて角膜弧状切開も行える.IIFLACSとマニュアル操作の違いFLACSの手順を図5に示す.FLACSでは,PIを装着してフェムトセカンドレーザー装置でOCT測定およびレーザー照射を行ったあとに,患者を手術顕微鏡下に移動して,残りの手術操作である超音波乳化吸引術(phacoemulsi?cationandaspiration:PEA)とIOL挿入を行う.レーザー照射は,レーザーにより発生した気泡が組織への照射に影響を与えないように水晶体前?切開,水晶体核分割,角膜切開の順となる.マニュアル操作で行う角膜切開,水晶体前?切開,水晶体核分割の手順とは異なる.1.前?切開FLACSでは,OCT測定後に設定した場所に設定した径で正円に前?切開ができるのが利点である.また,前?切開の中心は,LenSxでは瞳孔縁の形状をもとに決定し,カタリスでは水晶体?,輪部,瞳孔から選択でフェムトセカンドレーザー手術顕微鏡PI装着OCT測定レーザー照射水晶体吸引眼内レンズ挿入図5FLACSの手順フェムトセカンドレーザー装置でレーザー照射終了後,手術顕微鏡下に移動して水晶体吸引と眼内レンズ挿入を行う.図6レーザーによる前?切開眼内レンズ全周が前?で均等に覆われている().きる.使用するIOLの光学径に応じた大きさに正円で偏心が少ない前?切開ができるため,前?がIOL周辺を均等かつ完全に被覆するこができる(図6).その結果として,IOLのセンタリングが良好でかつ傾斜が少なく,後発白内障が抑制されるので,乱視矯正のためのトーリックあるいは多焦点IOLといった高機能IOLに有用とされている2,3).レーザーは,マニュアル操作で前?切開が困難な成熟白内障やZinn小帯脆弱・断裂例でその威力を発揮する.成熟白内障では,粘弾性物質(ophthalmicviscosurgical図7Zinn小帯断裂例における前?切開Zinn小帯断裂の状態によって,レーザーによる前?切開の位置と径(黄色円)を設定する.device:OVD)を使っても水晶体全体が膨隆しているため,チストトームや前?鑷子による前?穿刺と同時に亀裂が赤道部まで広がることがある.レーザーによる前?切開は,照射時のエネルギーや照射範囲を調整することで前?切開を完成させることができる.多数例での比較においても,レーザーを用いた前?切開の成功率が高いことが報告されている4).Zinn小帯脆弱例では,水晶体?の支持が弱いためマニュアル操作での前?切開がむずかしい.FLACSでは,水晶体の偏位に応じて前?切開の位置や径を調整し(図7),正円の前?切開が可能である.水晶体亜脱臼例においても,レーザーで前?切開と水晶体核が分割および軟化されているため,水晶体?を4分割6分割円柱状図8レーザーによる水晶体内照射デザイン水晶体核の硬さや術者の好みによって照射パターンを決める.グリッド状温存したまま水晶体を吸引除去できる5).FLACSにおける前?切開の利点は知られているが,レーザー照射が瞳孔縁より内側にしか設定できないため,散瞳不良例や瞳孔偏位例では前?切開が困難なことがある.また,角膜混濁や前?の強い線維化部分にはレーザーが完全に照射されないため,手術顕微鏡下でのマニュアル操作が必要になる.このような症例数は限られているものの,FLACSが白内障手術のスタンダードになるために克服すべき問題でもある.2.水晶体内照射水晶体内照射はおもに核分割に用いられる.レーザーによる核分割は,放射状の4ないし6分割や,円柱状やグリッド状のパターンがある(図8).水晶体核硬度や水晶体混濁の種類,あるいは術者がマニュアル操作で慣れている核分割方法によって,照射デザインを選択できる.フェムトセカンドレーザー照射後に,顕微鏡下でPEA装置にて水晶体の吸引を行うが,すでに核がレーザーで分割ないしは軟化された状態のため,より少ない超音波エネルギーで手術を完了できる.そのため,超音波による角膜内皮への影響を抑えることができ,核硬化が進んでいる症例や,角膜内皮細胞数減少例,角膜内皮機能障害例にFLACSの利点が生かされる.水晶体へのレーザー照射で発生した細かいキャビテーションバブルが水晶体?内に溜まると視認性が悪くなり,その後の前房内操作が困難になる.FLACS導入当初,気泡が後?に回った状態でハイドロダイセクションを行うと水晶体?に強い水圧がかかり,後?破?が生じる危険があったが,水晶体?内に溜まった気泡を前房内に逃がすこと,強い水圧をかけないようにすることで後?破?の発生は防げる.どの程度の核硬化までレーザー照射が可能かということが議論されている.硬い核においては,レーザーで完全に分割されていなくても,一部照射されていることで,その後のマニュアル操作による分割が容易になる.レーザーの限界は前?切開同様,瞳孔領内の照射になるため,散瞳不良例では有効な水晶体内照射ができない.水晶体内照射については,OCT測定がさらに進化し,水晶体混濁あるいは核硬度によって今まで術者が照射デザインを選択していたが,AIが導入されることで,ビッグデータによりレーザー装置が照射デザインを選択することが可能になると思われる.3.角膜切開主切開,サイドポート,乱視矯正切開が可能である.切開位置,幅,長さ,外切開線および内切開線の角度などをデザインし,モニターおよびOCT画像で確認する(図9).正確で再現性の高い角膜切開により,術者による医原性惹起乱視(surgicallyinducedastigmatism:SIA)のばらつきを減らし,トーリックIOLのモデル選択の精度を上げることが期待されている.理論的に,マニュアル操作では不可能な形状の切開をデザインすることができ,創の閉鎖性を上げることができる.FLACSを導入している術者すべてが,角膜切開をレーザーで行っているわけではない.レーザーを用いない理由として,レーザー照射前の確認と照射は,ブレードモニタ画面で角膜切開位置(?)の確認OCT画面でピンク色の線で示された切開デザイン(?)を確認図9レーザーによる角膜切開の設定による切開より時間を要すること,レーザー照射をしても顕微鏡下で角膜切開部分を鈍的に?離する必要があること,切開面がブレードに比べてラフなことがあげられる.このように,角膜切開については,まだ改善の余地がある.もう一つの問題点として,前?切開と水晶体内照射は散瞳状態に左右されるが,角膜切開は角膜周辺部の混濁や老人環,血管侵入部位で不完全切開になりやすいことである.老人性白内障例では老人環の強い症例があり,留意が必要である.このような場合は,通常より角膜中心寄りに切開を設定することで対処可能であるが,顕微鏡下での操作性が悪くなったり,医原性乱視を増加させることになりうる.IIIFLACSの有用性FLACSは,デジタル化時代に期待される技術である.しかし,従来のマニュアル操作による白内障手術と有効性,安全性に関する比較をメタアナリシスで行った報告では,患者の満足度に直結する術後の視力や屈折度数は両群間に差を認めなかった6).超音波発振時間は,FLACS群のほうが有意に短かったが,手術時間には差を認めず,眼内灌流液の使用量にも差を認めなかった.前房内プロスタグランジン濃度はFLACS群が高かったが,前房内フレア値においては差を認めなかった.FLACSが普及してから,利点のみが注目されていたが,最近,レーザー照射によって前房内,後房内に発生するガスが虹彩に影響を与えてプロスタグランジン濃度を上げている可能性,実験的にフリーラジカルの影響が指摘されている7,8).以上のように,臨床成績として明らかにFLACSを用いたほうが良好という結果ではなく,レーザーによる眼組織への影響といった未解決の問題が残されている.しかし,最初のFLACSが施行されて10年以上経過し,マニュアル手術と同等の有効性と安全性が得られていることは心強いことである.予想以上にFLACSが普及していない理由は,現在のマニュアル操作による白内障手術の完成度が高く良好な結果が得られていること,レーザー装置が高価で各症例にPIの費用,レーザー操作を補助する人件費といった費用が増えること,日本においてはレーザー装置を設置するスペースがないといった問題が残されていることなどがあげられる.臨床成績とは別にFLACSがもっているポテンシャルとして,どの術者でも同じレベルの手術ができることがある.OCT測定とレーザー照射の部分は術者の熟練度による差が出にくく,教育施設においては,マニュアル操作による白内障手術に比べ,手術技術の習得期間が短くてすむ利点がある.熟練した術者であっても,レーザーと同等の精度の前?切開,核分割は不可能である.マニュアル操作の白内障手術は,顕微鏡下で術者が自分の眼で観察して,手の感覚で習得した前?や水晶体の硬さや厚みをもとに行ってきた.FLACSは術者の眼や感覚ではなく,OCTによる実測値に基づいたものである.そのため,明らかに新しい時代に向かっていく技術ということは多くの術者が感じている.おわりに眼科領域においては,眼底写真から未熟児網膜症や糖尿病網膜症の診断,OCT所見から黄斑変性や緑内障の診断にAIが有用であるとされている.FLACSにおいては,まだAIを導入した技術がまだ報告されていないが,白内障の診断,術前あるいは術中OCT測定結果の解析にAIが導入されると,現在,術者が選択しているレーザー照射デザインの自動化が可能になるかもしれない.白内障手術は,先にも述べたように現在の技術への満足度が高く,フェムトセカンドレーザー導入にはもっと明らかな利点が求められるであろう.とはいえ,今の技術で満足していれば,今後の発展はない.将来の手術になる可能性が高く,AIの有効利用が期待されるFLACSは,今後も注目すべき技術と考える.文献1)NagyZ,TakacsA,FilkornTetal:Initialclinicalevalua-tionofanintraocularfemtosecondlaserincataractsur-gery.JRefractSurg25:1053-1060,20092)KranitzK,MihaltzK,SandorGLetal:Intraocularlenstiltanddecentrationmeasuredbyscheimp?ugcamerafol-lowingmanualorfemtosecondlaser-createdcontinuouscircularcapsulotomy.JRefractSurg28:259-263,20123)SzigetiA,KranitzK,TakacsAIetal:Comparisonoflong-termvisualoutcomeandIOLpositionwithasingle-opticaccommodatingIOLafter5.5-or6.0-mmfemtosec-ondlasercapsulotomy.JRefractSurg28:609-613,20124)PengTT,WangY,BaoXY:Preliminaryreportontheapplicationoffemtosecondlaser-assistedanteriorcapsu-lotomyinintumescentwhitecataractsurgery.ChinJOphthalmol53:281-287,20175)CheeSP,WongMH,JapA:Managementofseverelysub-luxatedcataractsusingfemtosecondlaser-assistedcata-ractsurgery.AmJOphthalmol173:7-15,20176)PopovicM,Campos-MollerX,SchlenkerMBetal:E?cacyandsafetyoffemtosecondlaser-assistedcataractsurgerycomparedwithmanualcataractsurgery:ameta-analysisof14567eyes.Ophthalmology123:2113-2126,20167)SchultzT,JoachimSC,KuehnMetal:Changesinpros-taglandinlevelsinpatientsundergoingfemtosecondlaser-assistedcataractsurgery,JRefractSurg29:742-747,20138)MasudaY,IgarashiT,OkiKetal:Freeradicalproduc-tionbyfemtosecondlaserlensirradiationinporcineeyes.JCataractRefractSurg45:1168-1171,2019