外眼筋Plication手術ProcedureforRectusMusclePlication木村友剛*木村徹*はじめに水平斜視に対する手術において,筋強化手術のスタンダードは短縮術である.しかし,短縮術は後転術に比較して術操作がむずかしく,介助者にも慣れが必要で,一定のラーニングカーブが存在する術式である.たとえば,筋付着部や筋腹を切除した際には断端からの出血は避けられないが,とくに高齢者や抗凝固薬内服中の症例では出血が多く生じ,その後の術操作に支障をきたすことがある.また,強膜から切離した後の筋はていねいに扱う必要があるが,筋が菲薄化している症例では操作の途中で筋線維が裂けてしまい,強膜との縫合が困難になることがある.近年,短縮術と類似した術式であるCplicationの術後成績が相次いで報告されており,短縮術と比較してさまざまな利点をもつことがわかってきた.本稿では新しい術式であるCplicationについて概説する.CIPlicationの特徴Plicationでは筋を付着部から切離せず低侵襲であることに起因するさまざまな利点がある.術中の利点として,筋断端からの出血が生じないため術野の視認性が良好で,術操作が容易となる.また,術量が多い短縮術では,切離した筋を前方に引っ張りつつ強膜へ縫着するため,とくに介助者に慣れが必要であるが,plicationは術量が多くても比較的操作が容易である.術後の利点として,lostmuscleを生じる可能性がなくなる.また,切腱しないため前眼部虚血を回避できる可能性が示唆されており,3筋同時手術が可能であった症例も報告されている1).さらに,術後に過矯正が生じ修正を余儀なくされた場合でも,早期であれば筋と強膜との縫合をはずすことにより,ある程度の修正を行うことが可能である2).欠点としては,新しい術式のため長期経過が不明であることがあげられる.また,筋を切離しないため筋移動術を同時に行うことができない.したがって,回旋偏位をもつ斜視やCAV型の斜視に対しては,他の後転筋に対して移動術を組み合わせることで対処する必要がある.現段階でのCplicationの積極的な適応としては,前眼部虚血の発症リスクが高い高齢者や糖尿病患者に対する症例,3筋同時手術を行う必要性がある症例,術後の矯正量の予測がむずかしい非共同性斜視や再手術症例などが考えられる.CII手技筋を折りたたむ手技に関して大きく分けて二つの方法が報告されており,筋を結膜側に凸に折りたたむ方法2)と強膜側に凸に折りたたむ方法3)がある.どちらの方法が優れているかは,まだはっきりしていない.結膜側に凸となる方法のほうが前毛様体の循環を温存しやすく,前眼部虚血に対して有用であるとの主張がある一方,強*YugoKimura&*ToruKimura:木村眼科内科病院〔別刷請求先〕木村友剛:〒737-0029広島県呉市宝町C3-15木村眼科内科病院C0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(47)C1017図1Plication術中所見a:付着部から予定量をマーキングしたあと,筋の中央と上下端のC3点で通糸する.筋付着部前端の強膜へ通糸したあと,2-1-1で結紮する.Cb:始めの結紮で筋が折りたたまれ,筋の上下端が付着部に寄っていることを確認したあと,介助者に結び目を把持してもらう.その後C1-1で緩みのないように結紮する.C-に当てはめて術量を決定した場合では,直線回帰式に当てはめるとCplicationでは外斜視でCRC2がC0.69,内斜視でCR2がC0.97,短縮術では外斜視でCRC2がC0.69,内斜視でCR2がC0.95であり,plicationは短縮術と同等の効果があると報告されている3).また,他施設での術後経過の報告においても,plicationは短縮術と同じ術量を採用している6.8).一方,当院では短縮術よりもC1,2Cmm程度少なめに定量を行っている9).理由として,短縮術は筋付着部のちょうど上下端の強膜に通糸しているのに対し,plicationでは筋の付着部前方の強膜に通糸しており,若干の前転効果が生じているためと考えている.したがって,若干の手技の違いによって差はあるがCplica-tionは短縮術と同程度の効果があるとみなしてよいと考えている.また,外斜視に対する後転短縮術では,術前眼位が大きくなるにつれC1Cmmあたりの矯正効果が大きくなることが知られている10).初川らの報告によると,後転短縮それぞれC1Cmmあたりの矯正効果は,術前眼位がC30プリズム以上の症例はC30プリズム以下の症例より約C1プリズム多くなることが示されている11).自験例においても術量C1Cmmあたりの矯正効果は,短縮術C50例では平均C3.1プリズム,plication57例では平均C3.7プリズムで,術前眼位との相関係数は短縮術がCRC2=0.23(p<0.001),plicationがCRC2=0.12(p=0.001)と正の相関を認めた.Plicationにおいても,大角度の外斜視では過矯正にならないような術量の決定に注意する必要がある.CIV術後眼位経過水平斜視に対する片眼手術においては,内外直筋の後転術と短縮術が基本的な術式であるが,近年,後転+短縮術と後転+plicationを比較した術後早期の成績が報告されている.術後C1年程度の経過観察期間では,外斜視においても,内斜視においても,術式の違いによる術後眼位には差がないとする報告が多い.術後成功率において,Hustonらは内斜視のCplicationがC95.5%,短縮が89.2%,外斜視のCplicationがC77.4%,短縮がC96.2%6),SonwaniらはCplicationがC55.6%,短縮がC63.6%8),筆者らはCplicationがC67%,短縮がC60%9)で,いずれの報告でも差を示さなかった.しかし,Alkharashiらは,plicationでは成功率が有意に劣っており,術後C6.12週の成功率はCplicationがC58%,短縮がC89%であったことを報告している12).一方で,plicationは短縮術と比較して有利な術後経過を示す可能性が報告されている.間欠性外斜視に対するCplicationは,短縮術と術C1年後の眼位と成功率には差がなかったが,術C1週間後と術C1カ月後の眼位の比較においてCplicationは平均C1.7プリズムの戻りがあったのに対し短縮術はC3.8プリズムの戻りがあり,plicationは短縮術よりも術後早期の戻り量が少ないことが示されている.そのため,plicationでは術直後の意図的な過矯正を大きくしなくてもよく,術後早期の複視を自覚する症例を減らすことが可能であったことが報告されている9).長期の眼位経過に関してまだ検討された報告はないが,積極的にCplicationを行う理由の一つになりうるかもしれない.また,外斜視術後の外転制限は,短縮術と同様に術量が多い場合は必発である.術後の外方視時に生じる複視に関して留意する必要があるが,術後眼位の戻りとともに軽減する.CV術後結膜創の経過Plicationの術量が多い症例では,術後に折りたたまれた筋が盛り上がってみえる.しかし,多くの症例で術後数カ月の経過で結膜の盛り上がりは平坦化し消退する(図2a,b).一方で,内直筋のCplicationを行った症例で,結膜の盛り上がりが残存した症例も存在する(図2c,d).CVI術後過矯正の修正Plicationの有利な点として,術後過矯正であった場合に,術後早期であれば縫合した結紮をはずすことで眼位の修正が可能であることがあげられている2).通常の短縮術後の再手術では,筋を強膜や結膜との癒着をはずして筋を十分露出したあとに後転するが,手技に手間がかかり,また術後眼位の予測は良好とはいえない.しかし,plication術後早期の再手術の場合は,手術時の侵襲が少なく容易に元に戻すことが可能である.一般的には,術後早期は眼位が安定せず,戻りが生じる可能性も(49)あたらしい眼科Vol.36,No.8,2019C1019術1週間後術2カ月後図2結膜創の変化a:内直筋C6Cmmのplication.術C1週間後.結膜下に折りたたまれた筋が盛り上がっている.Cb:術C2カ月後.結膜充血は改善し,結膜創はほぼ平坦化している.c:内直筋C7CmmのCplication,術C1週間後.結膜創の盛り上がりを認める.d:術C2カ月後.結膜創の盛り上がりが残存している.図3過矯正のため術後3日目に再手術を行った例a:筋付着部後方の結膜下に折りたたまれた筋を認める().b:筋上下端の縫合を切除することで,筋はほぼ正常な形でもとに戻った(:初回手術時に筋上下端に通糸した部位).図4過矯正のため術後1カ月で再手術を行った例a:筋付着部前端に吸収糸が残存しているが,折りたたまれた筋はすでに平坦化している().b:筋の表面の結合組織をはずし結紮した糸を除去したが,折りたたまれた筋同士が癒着している(:筋の付着部上下端).