Neurovascularunitからみた難治性網膜疾患の臼井嘉彦病態と新規治療戦略Neurovascularunitとは?Neurovascularunit(NVU)はもともと脳卒中の病態生理を理解するために提唱されましたが,現在この概念は脳卒中という枠組みを超えて,網膜疾患を含めたさまざまな疾患に応用されるようになっています.網膜では,血管内皮細胞や周皮細胞などの毛細血管,それを取り囲むニューロンとアストロサイト,Muller細胞やマイクログリアなどのグリア細胞がunitを形成し,細胞間のクロストークを介して網膜のさまざまな機能を調節しています.マウスの網膜表層の毛細血管では,神経節細胞,アストロサイトやマイクログリアなどのグリア細胞により,中層はアマクリン細胞の神経突起やマイクログリアを代表としたグリア細胞に,深層は水平細胞の神経突起および中層と同様にマイクログリアにより囲まれ,NVUが構成されています1).また,血液-網膜関門(bloodretinalbarrier:BRB)は,神経系と血管系組織が機能的に相互補助関係にあるNVUを基盤に構築されているといえます.網膜そのものがNVUであり,同じ中枢神経である「脳」は経時的かつ直接的に観察することは困難ですが,私たち眼科医は眼底検査をとおして網膜のNVUを直接視ることができます.黄斑浮腫とNeurovascularunit糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症,ぶどう膜網膜炎では黄斑浮腫をきたしますが,これらは外的要因や虚血,炎症,酸化ストレス,またはそれらによって分泌される炎症性サイトカインによりBRBが破綻することにより生じることが推測されます.神経節細胞やアマクリン細胞などのニューロンは,本来視機能にのみ関与していると考えられてきましたが,NVUを構成し,視機能以外にも網膜血管形成やBRBのバリア機能にも関与する可能性があります.そのため,これらのニューロンが障害を受けることにより間接的に網膜血管やグリア細胞に影響を及ぼす可能性があり,NVUを構成するどの細胞もBRB破綻に関係することが推測されます.たとえば糖尿病黄斑浮腫では,BRBの破綻が網膜内層に存在するアマクリン細胞の機能破綻であり,アマクリン細胞が障害されるためアマクリン細胞が制御する網膜内層の毛細血管障害をきたし,結果として浮腫および視機能の低下をきたしている可能性があります2).東京医科大学臨床医学系眼科学分野図1アマクリン細胞と水平細胞によるneurovascularunitの構成網膜の中層の毛細血管はアマクリン細胞が,深層の毛細血管は水平細胞の神経突起が血管を包み込むように存在している.Neurovascularunitが障害されることで,ヒト黄斑浮腫が生じてくることが推測される.今後の展望NVUは網膜疾患病態解明でも治療の面でも重要であり,神経および血管障害をきたす網膜症では,網膜のニューロンが制御するNVU全体を治療標的とし,網膜血管の破綻を救済するneurovascularprotection(NVP)という新たなコンセプトで,糖尿病網膜症以外のさまざまな網膜疾患(網膜静脈閉塞症,加齢黄斑変性症,未熟児網膜症など)の治療法に波及していく可能性があります.また,2011年多能性幹細胞から網膜の三次元形成に成功した報告3)がありましたが,血流や血管がない(すなわちNVUを形成していない)ニューロンやグリアが,invitroで再生させたときに,生着あるいはどのように機能するか,NVUの観点からの研究の発展が待たれます.文献1)UsuiY,WestenskowPD,KuriharaTetal:Neurovascu-larcrosstalkbetweeninterneuronsandcapillariesisrequiredforvision.JClinInvest125:2335-2346,20152)臼井嘉彦:黄斑浮腫の病因血液─網膜関門およびNeuro-vascularunitの破綻の観点より.眼科59:399-405,20173)EirakuM,TakataN,IshibashiHetal:Self-organizingoptic-cupmorphogenesisinthree-dimensionalculture.Nature472:51-56,2011(75)あたらしい眼科Vol.36,No.10,201912970910-1810/19/\100/頁/JCOPY