●連載233監修=山本哲也福地健郎233.緑内障患者のアドヒアランス向上のために野呂隆彦東京慈恵会医科大学眼科学教室緑内障はアドヒアランスがとても重要であるが,その維持が大変むずかしい疾患である.アドヒアランスは最初の数カ月が大切で,緑内障患者はわれわれが考えているほど点眼薬を使用していない.アドヒアランスの維持には患者教育が大切であるが,同時に医療従事者の教育も大切である.●緑内障治療とアドヒアランスどんなに優れた薬剤であっても,使用されなければ効果を発揮することはできない.アドヒアランスとは,患者が治療方法の決定過程に参加し,その治療法を自ら実行することとされている.緑内障は多くの場合慢性に経過し,長期の点眼や定期的な経過観察を必要とし,かつ自覚症状がないこともあることから,アドヒアランスがきわめて重要であると同時に,その維持が大変むずかしい疾患である.緑内障治療におけるアドヒアランス不良は失明リスクをC1.8倍に上昇させるとの報告があるが1),近年の報告により緑内障患者はわれわれが考えているほど点眼薬を使用していないことがわかってきた.C●アドヒアランス不良の原因と分類アドヒアランス不良は以下のC3種類に分類されている.目的が緑内障の点眼治療とすると,治療を始めない(non-acceptance),点眼が十分にされていない(non-compliance),点眼の中止(non-persistence)と分類されるが(表1),治療を始めないタイプのアドヒアランス不良はランダム化したコントロール試験では除外されるため,本当のアドヒアランスが正しく評価されていないことに注意が必要である.新たに緑内障と診断・点眼処表1アドヒアランス不良の分類種類具体的な内容CaCnon-acceptance治療を始めないCbCnon-compliance点眼が十分にされていないCcCnon-persistence点眼の中止アドヒアランスの不良は上記のように分類される.緑内障治療におけるアドヒアランスはCbやCcに関する問題がよく取りあげられるが,実は治療そのものを開始しないCaの患者が多く存在し,過小評価されていることがわかってきた.方された患者は最初のC3カ月でC30%がドロップアウトしているとの報告や(図1)2),アドヒアランスは最初の1カ月で方向性が決まり,脱落者は最初のC1カ月に集中していたため,適切な再診の期間はC2週間程度であるとの報告もある3).治療開始の初期段階では,点眼効果や副作用の確認だけではなく,患者の治療に対する不安や疑問を解決する目的で早めの再診を行うべきである.C●高齢化社会とアドヒアランス一般的に高齢者のアドヒアランスは良好とされるが,リウマチや老人性円背(首や腰の曲がり)などの運動機能系の原因から点眼手技の不良例が増えてゆく傾向にあり4),点眼方法のコーチングや点眼補助器具などのサポートが大切である.また,超高齢社会を迎えた日本で(81)あたらしい眼科Vol.36,No.11,2019C14230910-1810/19/\100/頁/JCOPY表2アドヒアランスに影響する要因表3アドヒアランスを改善するためのチェックシート問題の種類要因生活および環境の問題患者の生活上の問題,不規則な生活スタイル,通院困難な環境治療の問題医療費,薬剤の副作用,昼点眼,複雑な治療患者側の問題他疾患の合併,疾患の理解不足,若年医療者側の問題患者とのコミュニケーション不良アドヒアランス不良の要因は多岐にわたる.あらゆる側面を考慮し,患者の状況をより深く理解することが緑内障治療の成功につながる.(緑内障ガイドライン第C4版より改変)は,65歳以上のC15%,85歳以上のC40%が認知症であると報告され(厚生労働省研究班:2013),緑内障は年齢とともに有病率が増えることから,認知症と緑内障をあわせもつ高齢患者のアドヒアランスは大きな問題である.認知症患者にとって,決まった時間に決まったことをすることはむずかしく,正確な病状把握や意思疎通が困難な場合は,家族や施設職員などの支援が最終的な治療の要となることも少なくない.治療におけるキーパーソンを見つけ,チームとして治療に参加してもらうことが大切である.C●アドヒアランス向上に有用なものアドヒアランスを改善する方法は「患者教育」と「点眼回数を減らすこと」であると報告されている5).しかし,診察室での説明や教育には限界があり,患者教育をサポートする診療体勢を整える必要がある.看護師,視能訓練士,薬剤師の役割は重要で,視能訓練士から患者の重要な情報が得られることも多く,診察後の看護師や薬剤師のひとことや指導が患者のよりよい理解とやる気を導くことも多い.総合的な緑内障診療チームを構築し,そのメンバーの教育からスタートすべきである.緑内障患者からの情報をよく収集し,個別な対策と修正を繰り返す必要がある6)(表2,3).また,緑内障の病態や患者の病状と治療の説明がわかりやすい言葉で書いてある小冊子などを渡すことは,説明内容を患者が家に帰ってからも復習でき,その家族の理解も得ることもできるため効果的である.配合剤や持続性点眼薬の使用による点眼回数の減少は,アドヒアランス向上に大切な要素であり,単剤治療に追加投与するとアドヒアランスはC7%悪化し7),点眼回数をC1日C2回からC1回に変更するとアドヒアランスは17%改善する8)などの報告がある.一方で,緑内障点眼C1424あたらしい眼科Vol.36,No.11,2019□疾患,治療の目的,方法,副作用について説明したかC□最小限でより負担と副作用の少ない治療法を選択したかC□患者個々のライフスタイルに合わせた治療を行っているかC□正しい点眼指導を行ったかC□患者からアドヒアランスの状況について情報を収集したか日々の診療では上記の項目に注意し,医師,看護師,視能訓練士を含む医療者と患者の協力関係を見なおす.(緑内障ガイドライン第C4版より改変)のもっとも耐えられない副作用は「霧視」であるとの報告もあり9),アドヒアランスが得られやすい薬剤を選択することが望ましい.C●アドヒアランスに頼らない治療の考慮アドヒアランスの不良が原因で薬剤治療の効果が十分に得られない場合は,アドヒアランスに頼らない治療として手術治療の早期導入を考慮せざるをえない場合もある.近年はレーザー線維柱帯形成術や各種のCMIGS(minimallyCinvasiveCglaucomasurgery)とよばれる低侵襲な手術が登場しており,患者の社会的背景や経済的・時間的負担を考慮し,患者の視機能予後を把握したうえで最適な治療を判断するべきである.文献1)ChenPP:BlindnessCinCpatientsCwithCtreatedCopen-angleCglaucoma.Ophthalmology110:726-733,C20032)NordstromCBL,CFriedmanCDS,CMoza.ariCECetal:Persis-tenceandadherencewithtopicalglaucomatherapy.AmJOphthalmol140:598-606,C20053)ModiCAC,CRauschCJR,CGlauserTA:PatternsCofCnonadher-encetoantiepilepticdrugtherapyinchildrenwithnewlydiagnosedepilepsy.JAMAC305:1669-1676,C20114)HoskinsCG,CMcCowanCC,CNevilleCRGCetal:RiskCfactorsCandCcostsCassociatedCwithCanCasthmaCattack.CThoraxC55:C19-24,C20005)Oltho.CCM,CSchoutenCJS,CvanCdeCBorneCBWCetal:Non-compliancewithocularhypotensivetreatmentinpatientswithCglaucomaCorCocularChypertensionCanCevidence-basedCreview.OphthalmologyC112:953-961,C20056)安田典子:より質の高い緑内障治療をめざして.あたらしい眼科28:1115-1123,C20117)RobinCAL,CNovackCGD,CCovertCDWCetal:AdherenceCinglaucoma:objectiveCmeasurementsCofConce-dailyCandCadjunctiveCmedicationCuse.CAmCJCOphthalmolC144:533-540,C20078)野呂隆彦,中野匡,柳沼厚仁ほか:2%カルテオロール塩酸塩持続性点眼液への切り替えによる患者満足度評価.臨床眼科64:1325-1330,C20109)ParkCMH,CKangCKD,CMoonCJCetal:NoncomplianceCwithCglaucomaCmedicationCinCKoreanpatients:aCmulticenterCqualitativestudy.JpnJOphthalmolC57:47-56,C2013(82)