羊膜移植AmnioticMembraneTransplantation宮腰晃央*はじめに羊膜移植は眼表面再建に有用であるが,現在使用されている凍結保存羊膜には持ち込み感染の可能性や冷凍保存の煩雑さという問題点が指摘されてきた.これらの問題点を克服するために乾燥羊膜が提唱され,製造方法に関するさまざまな研究が進んできている.富山大学再生医学講座はハイパードライヒト乾燥羊膜(hyper-dryChumanCamnioticmembrane:HD羊膜)を開発し,2016年C1月には再発翼状片に対するCHD羊膜を用いた眼表面再建術が先進医療に承認された.本稿ではCHD羊膜の実際や可能性,今後の課題について紹介する.CI羊膜移植の歴史羊膜は胎盤の最内層を形成する半透明な膜である.組織学的には,単層の円柱上皮,基底膜,実質(海綿層と緻密層)のC3層から構成されている.羊膜には細胞が接着する足場として重要なコラーゲンCIVやラミニンなどの基底膜成分や,細胞の増殖・分化に必要な成長因子が豊富に含まれ,抗炎症,線維化や瘢痕の抑制,血管新生抑制などの作用がある.また,羊膜には血管成分がないため,移植後に拒絶反応を起こすことはまずないといわれている(表1).そのため,羊膜は以前より腟再建や皮膚熱傷後の被覆,腹部手術の際の癒着防止などに応用されてきた.眼科領域では,1995年にCKimとCTsengが家兎眼を用いて難治性眼表面疾患に対する羊膜移植の有用性を初めて報告した1).日本でもC1996年にCTsubotaらが,眼類天疱瘡とCStevens-Johnson症候群に対して羊膜移植が有用であると報告した2).羊膜移植はその後も再発翼状片をはじめとした難治性眼表面疾患に広く用いられてきており,2014年C4月には保険収載されている.しかし,現在用いられている羊膜は凍結保存されており,その問題点もいくつか指摘されている.CIIなぜHD羊膜なのか凍結保存羊膜の問題点は二つある(表2).持ち込み感染症と冷凍保存の煩雑さである.羊膜移植術後の感染症の発生頻度はC3.4%であり3),わが国でもメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistantCStaphylococcusaureus:MRSA)感染が報告されている4).また,羊膜の保存には高価で大型の専用冷凍設備(-80℃)が必要であり,どこでも簡単に扱えるものではない.これらの解決策として乾燥羊膜の概念が提唱され,製造方法に関するさまざまな研究が報告されてきた.NakamuraらはCg線照射によって滅菌化され,室温保存可能なCfreeze-driedCamnioticmembraneの臨床応用を初めて報告した5).富山大学再生医学講座ではCHD羊膜を開発した(図1)6).HD羊膜は冷蔵保存可能でCg線照射によって滅菌化されている.CIIIHD羊膜の作り方HD羊膜の作り方の模式図を図2に示す.*AkioMiyakoshi:富山大学大学院医学薬学研究部眼科学講座〔別刷請求先〕宮腰晃央:〒930-0194富山市杉谷C2630富山大学大学院医学薬学研究部眼科学講座C0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(3)C1345表1羊膜の利点表2凍結保存羊膜の問題点図1ハイパードライヒト乾燥羊膜の外観乾燥材とともに滅菌梱包されたハイパードライヒト乾燥羊膜の外観(赤矢頭).このまま冷蔵庫に保存可能である.(宮腰晃央ら,ハイパードライヒト乾燥羊膜を用いた外科的再建術,臨床眼科第C72巻第C7号:2018年より許可を得て転載)図2ハイパードライヒト乾燥羊膜の作り方同意が得られた妊婦から帝王切開時に羊膜を採取する.採取後,ハイパードライデバイスにて乾燥させる.乾燥させた羊膜にCg線を照射し滅菌する.図3ハイパードライヒト乾燥羊膜は取り扱いが簡単a:内袋を清潔な器械台に出してそのままハサミで切ることができ,簡単に形をデザインすることができる.Cb:凍結保存羊膜のように絡みつかないので,広げたまま簡単に移動させることができる.(宮腰晃央ら,ハイパードライヒト乾燥羊膜を用いた外科的再建術,臨床眼科第C72巻第C7号:2018年より許可を得て転載)図4再発翼状片に対するハイパードライヒト乾燥羊膜移植術前後の状態a:充血が強く,増殖組織が厚い再発翼状片.b:術後C1年.再発を認めず,鎮静化している.図5再発翼状片に対するハイパードライヒト乾燥羊膜移植の術式a:マーキング.b:頭部・体部を.離し,増殖組織を切除する.c:内直筋を同定し,周囲の増殖組織を除去する.Cd:5,000倍希釈ボスミンを浸したベンシーツで止血する.Ce:0.04%マイトマイシンCCを浸したベンシーツを結膜下にC3分間留置する.Cf:350Cmlの生理食塩水で洗浄する.Cg:露出した強膜上にハイパードライヒト乾燥羊膜を10-0ナイロン糸で縫合する.Ch:翼状片断端を翻転させてC6-0バイクリル糸でC2糸縫合する.Ci:角膜上の翼状片残存組織をゴルフ刀を用いてこすりとり,手術を終了する.その後,ベンシーツに浸したC0.04%マイトマイシンCをC3分間,結膜下に挿入する.強膜から染み出てきた血液をこまめに拭きとり,また露出強膜にベンシーツが接触しないようにも注意する.最後にC350Cmlの生理食塩水でマイトマイシンCCを洗浄する.C4.HD羊膜移植器械台の上でCHD羊膜の表裏を確認し,術野に運ぶ.基底膜側を下にして露出強膜の上にCHD羊膜を置き,少し水分を加える.数分たちCHD羊膜のごわつきが和らいできたら,なるべく強膜に密着させるようにC10-0ナイロン糸で縫合していく.C5.翼状片断端の翻転縫合翼状片断端は翻転させてC6-0バイクリル糸でC2糸縫合し,断端部にテンションがかかるようにしている.C6.残存組織の除去角膜上の翼状片残存組織をゴルフ刀を用いてこすりとる.眼球運動に問題がないこと,縫合離開が生じないことを確認した後,デキサメタゾンを結膜下注射し,治療用ソフトコンタクトレンズを装着させて手術終了とする.C7.術後管理術後は消炎目的のC0.1%ベタメタゾン点眼(1日C4回)をC3カ月,その後はC0.1%フルオロメトロン(1日C4回)に変更し,術後半年まで継続する.治療用ソフトコンタクトレンズは術後C1.2週間装着し,上皮化が得られればはずす.術後C1カ月の時点で可及的に抜糸を施行し,感染予防目的の抗菌薬点眼もこの時点で終了とする.充血が強く,強い炎症・増殖が疑われる場合にはこのかぎりではない.ステロイドレスポンダーでは,カルテオロール塩酸塩点眼を追加し,なるべくC0.1%ベタメタゾン点眼は継続するようにしている.再々発を予防するために,なによりも消炎を優先している.なお,免疫抑制薬の内服や点眼までは行っていない.8.合併症これまでCHD羊膜移植に起因する感染症や拒絶反応,前房蓄膿を伴う無菌性免疫反応を認めたことはない.CVIIHD羊膜の課題HD羊膜は水分を加えることで新鮮羊膜の形態に戻る.しかし,羊膜の乾燥過程で微細構造に損傷が生じ,重鎖ヒアルロン酸複合体,ペントラキシンC3,高分子ヒアルロン酸などの主要蛋白質が消失したとの報告もある8).HD羊膜の乾燥過程においてこれらの蛋白質が消失しているかどうかは,まだ検討されていない.さらに,HD羊膜においてこれらの蛋白質が消失していたとして,臨床的にどこまで影響があるかは不明である.しかし,HD羊膜の抗炎症作用や長期安全性に関して,今後は凍結保存羊膜との比較検討が必要になってくるだろう.CVIIIまとめ1.HD羊膜はCg線滅菌されており,冷蔵保存も可能である.2.HD羊膜は裁断・移動が容易で,取りあつかいが簡便である.3.「増殖組織が角膜輪部を超える再発翼状片」に対して,HD羊膜移植が先進医療に承認されている.4.HD羊膜特有の合併症はなく,凍結保存羊膜移植と同様の成績が期待できる.5.安全性や倫理面に注意しながら基礎データを集積し,さらなる臨床応用が期待される.文献1)KimCJC,CTsengSC:TransplantationCofCpreservedChumanCamnioticmembraneforsurfacereconstructioninseverelydamagedrabbitcornea.Cornea14:473-484,C19952)TsubotaCK,CSatakeCY,COhyamaCMCetal:SurgicalCrecon-structionCofCtheCocularCsurfaceCinCadvancedCocularCcicatri-cialCpemphigoidCandCStevens-JohnsonCsyndrome.CAmJOphthalmolC122:38-52,C19963)MarangonCFB,CAlfonsoCEC,CMillerCDCetal:IncidenceCofCmicrobialCinfectionCafterCamnioticCmembraneCtransplanta-tion.CorneaC23:264-269,C2004(7)あたらしい眼科Vol.36,No.11,2019C1349-