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コンタクトレンズ:羞明のメカニズム

2019年9月30日 月曜日

提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方さらなる一歩監修/下村嘉一59.羞明のメカニズム堀口浩史東京慈恵会医科大学眼科学講座●コンタクトレンズと羞明0-1.2コンタクトレンズセミナーに羞明のメカニズム?多くの人が訝しむような,一見すると関連がない話題のようだが,実はその両者には密接な関係がある.なぜならコンタクトレンズ(CL)は,羞明の惹起に重要な二つの感覚系に大きく関与するからである.羞明を惹起する感覚系として最初にあげられるのは当然,視細胞を起点とした視覚系である.明るいものを見たときにまぶしさが光感受性細胞の相対反応曲線LogRelativeSensitivity1-0.6生じることは誰もが体験していることであり,とくに反論の余地はないであろう.CLは屈折異常を矯正して,網膜での結像を可能にする.さらに,着色や素材により特定の波長を抑制することも可能である.実際多くのCLは,短波長から紫外線領域の光を抑制する設計となっている.もう一つの重要な感覚系は,眼周囲における疼痛などの知覚系を担当する三叉神経系からの体性感覚系である.鋭敏な感覚をもつ手指よりもさらに高密度な神経をもつといわれている角膜,まさにその上にCLは装用される.治療用CLの装用によって疼痛が軽減されることは,CLと三叉神経の関連性を直接的に表しているといえよう.●羞明の定義と役割眼科学領域では「羞明=まぶしさ」であり,一般的に体験する感覚であるが,定義することは容易ではない.太陽など,強い光源による短期的なまぶしさや不快感は誰もが体験するものである.このとき羞明は,眼球,とくに網膜にとって有害な要因に対する忌避のために生じていると考えられる.つまり,組織侵襲からの忌避の起点となる体験であり,羞明と疼痛は類似している.疼痛の定義は,実質的または潜在的な組織損傷に伴う不快な感覚・情動体験である.この疼痛の定義や,短波長光が羞明や組織障害を生じやすいという先行研究から(図1),羞明は「組織障害の可能性がある視覚体験に伴う不快な感覚・情動体験」と定義が可能である.あえて「可能性」としているのは,網膜障害が直接羞明を惹起する(55)0910-1810/19/\100/頁/JCOPY図1羞明と組織障害と光の波長の関係波長が短い光は,等エネルギーであっても羞明を惹起しやすい.この傾向はレーザーによる網膜障害と一致する.ヒトの場合,短波長光はS錐体,杆体,メラノプシン含有神経節細胞を効果的に刺激する.反応した細胞を起点に視覚情報処理が行われるため,視覚系の羞明はこれらの細胞が重要な役割を担っている可能性が高い.わけではないからである.日食のたびに報告される日光網膜症は,そのわかりやすい例である.日光網膜症は,簡易な遮光板・フィルターで十分に抑制できなかった太陽光により生じる網膜障害である.網膜が不可逆的な障害を受けていても羞明が生じないため,長時間光源を観察してしまう.つまり,組織侵襲からの忌避という羞明の役割が正しく機能しないのである.●羞明のメカニズム関連する既報から羞明は,a)視覚入力,あるいは三叉神経入力を起点とした二つの感覚系により惹起され,さらに,b)この二つの感覚系の相互作用により増強する,ということが導かれる.これらの感覚系への入力から,ヒト脳神経のどのような経路で羞明が生成されるのであろうか.未だに不明な点は多いものの,筆者らは先行研究と自験例から,羞明のメカニズムに関する神経回路の仮説を立てた.この神経回路は,網膜の光受容器からの視覚系と角膜・虹彩・硬膜などに存在する侵害受容器からの体性感覚系という二つの下位回路により構成さあたらしい眼科Vol.36,No.9,20191157図2羞明の神経回路(堀口浩史:神経眼科2009,あたらしい眼科2013)れる(図2).この神経回路モデルでは,1934年にLeb-ensohnが定義した狭義の羞明ともいえる光眼痛症(pho-to-oculodynia)から,広義の羞明である「まぶしさ」まで,さまざまな体験の幅を含む羞明を,できるだけ包括的に扱えるようになっている.疼痛を伴わない視覚入力から発生する羞明は,S錐体やメラノプシンが関与している可能性が高く(図1),これらの入力系が適切に視覚情報から羞明を惹起できない場合,前述した日光網膜症のような不可逆的な網膜障害が発生すると考えられる.●おわりに現在,直接的な羞明の治療法は存在しないため,対症療法的に遮光眼鏡が用いられる.遮光眼鏡は特定の波長を抑制することで羞明を軽減するが,それ以外の機能はない.また,見た目の問題から装用を敬遠されることもある.CLであれば整容的にも大きな問題なく視覚入力を制御でき,さらに対乾燥素材であれば三叉神経入力を軽減することが可能である.2018年には米国食品医薬品局(FDA)で調光CLも認可されており,今後,羞明の制御には眼鏡よりもCLが主流となる時代が来るかもしれない.新たなデバイスの開発や羞明のメカニズムの解明が進めば,今後,原因不明の白内障術後不適応症候群のような病態に対しても積極的な加療が可能になることも期待できる.羞明は視覚体験に基づく主訴であるため,眼科医でなければ原因を特定できない可能性が高い.羞明を安易に不定愁訴として扱わず,器質的・機能的にあらゆる可能性を考慮して診察にあたるのが眼科医の責務であると考える.PAS121

写真:炎症性結膜母斑

2019年9月30日 月曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦加藤久美子424.炎症性結膜母斑三重大学大学院医学系研究科臨床医学系講座眼科学図2図1のシェーマ①軽度の色素沈着と充血,浮腫②栄養血管図1初診時の前眼部所見(13歳,男児)軽度の色素沈着と充血,浮腫,そして栄養血管を認めた.図3エピナスチン点眼開始後炎症は消失し,病変は縮小した.図4別症例の初診時の前眼部所見(6歳,男児)充血と浮腫,栄養血管を認めた.図5図4の症例の6年後病変の拡大は認めなかった.(53)あたらしい眼科Vol.36,No.9,2019C11550910-1810/19/\100/頁/JCOPY炎症性結膜母斑は,Folbergらにより命名された疾患で,小児や青年期に発症する良性疾患である1).Zamirらによると,炎症性結膜母斑の患者24名のうち18名はアレルギー性結膜炎やアトピー性角結膜炎,春季カタルなどの何らかのアレルギー疾患を伴っており,炎症性結膜母斑とアレルギー反応との間に何らかの関連があるのではないかと考えられている2).炎症性結膜母斑は角膜輪部近傍に位置していることが多く,周辺部角膜に及ぶこともある2).充血と浮腫を伴い,色素に乏しいという点が典型的な結膜母斑と異なる.炎症の活動性により,病変が増大・肥厚あるいは縮小するのも特徴的である.炎症性結膜母斑を切除して組織学的検査を行うと,母斑組織内に好酸球,組織球,肥満細胞など炎症細胞の浸潤が認められる2).本疾患は良性疾患ではあるが,経時的に観察して悪性黒色腫と鑑別していく必要がある.非典型的な病変である場合や,Dellenの形成,コンタクトレンズを装用する際に障害になるといった機能的な問題がある場合,また,整容上の問題がある場合には切除の適応となる2).症例はC13歳の男児である.細隙灯顕微鏡検査では,左眼角膜輪部に炎症所見を伴う隆起性病変を認めた(図1,2).上眼瞼結膜にはアレルギー性結膜炎を疑う濾胞の形成を認めた.炎症性結膜母斑およびアレルギー性結膜炎と診断し,エピナスチンの局所投与を開始した.1カ月後に再診したところ,隆起性病変は縮小していた(図3).図4はC6歳の男児で,同じく炎症性結膜母斑であるが,図1~3の症例よりもさらに色素に乏しい症例である.抗アレルギー薬点眼を継続しながらC6年にわたり経過観察を行ったが,季節により病変の隆起性に若干の変動はあるものの,明らかな病変の拡大は認めなかった(図5).炎症性結膜母斑について紹介した.本疾患は良性疾患であり,経過観察のみで問題はないが,抗アレルギー薬を点眼することにより病変は縮小するため,抗アレルギー薬の使用は有益であると考える.文献1)FolbergCR,CJakobiecCFA,CBernardinoCVBCetal:BenignCconjunctivalmelanocyticlesions.Clinicopathologicfeatures.COphthalmologyC96:436-461,C19892)ZamirE,MechoulamH,MiceraAetal:In.amedjuvenileconjunctivalnaevus:clinicopathologicalCcharacterisation.CBrJOphthalmol86:28-30,C2002

水晶体関連緑内障に対する緑内障手術のコツ(術式の選択,白内障同時手術など)

2019年9月30日 月曜日

水晶体関連緑内障に対する緑内障手術のコツ(術式の選択,白内障同時手術など)GlaucomaSurgeryStrategiesforCasesofLens-AssociatedGlaucoma:SelectionofProceduresandCombinedLensandGlaucomaSurgery東出朋巳*はじめに水晶体関連緑内障では,水晶体が病態の主因である場合には,水晶体再建術が原因治療としての手術治療の主役となる.しかし,症例によっては周辺虹彩前癒着(peripheralanteriorsynechia:PAS)による隅角閉塞などのため,水晶体再建術のみでは眼圧下降が得られず,緑内障手術を併用あるいは追加する必要がある.さらに,眼内レンズ(intraocularlens:IOL)眼あるいは人工的無水晶体眼においても,IOL(亜)脱臼,先天白内障術後などでは続発緑内障を引き起こす可能性があり,緑内障手術が適応となりうる.本稿では,水晶体関連緑内障における緑内障手術の選択と手術手技の実際について病型あるいは病態ごとに筆者の考えを述べる.I原発閉塞隅角症.原発閉塞隅角緑内障「緑内障診療ガイドライン第4版」における本病型の治療方針として,第一選択はレーザー虹彩切開術による瞳孔ブロックの解除である.しかし,角膜浮腫・混濁などによりレーザー虹彩切開術が施行困難な場合には周辺虹彩切除術が考慮される.一方,水晶体再建術は,瞳孔ブロック,プラトー虹彩機序の両方に有効な治療とされ,症例によっては第一選択の手術治療となる.観血的緑内障手術のなかでは,房水流出路再建術である隅角癒着解離術,線維柱帯切開術,濾過手術では線維柱帯切除術などが選択されるが,単独よりも水晶体再建術と同時あるいは水晶体再建術後に二期的に施行されることが多い.水晶体再建術に対して緑内障手術を同時あるいは二期的に行うべきかについては,本病型では水晶体再建術単独での眼圧下降を期待できるので,手術侵襲の点からも基本的には<水晶体再建術→術後の眼圧コントロールの確認→必要に応じて緑内障手術の追加>の方針となる.同時手術を考慮するのは,PASが広範囲の場合(半周あるいは3/4周),落屑物質や色素沈着により房水流出抵抗が高いと推測される場合,緑内障性視神経症が高度である場合などである.1.隅角癒着解離術水晶体再建術との併用で行われることが多い.本病型では,術前の隅角検査でPASに見える部位でも水晶体摘出後に再度観察するとPASがないことがしばしばあること,水晶体摘出後には前房が深くなり眼内操作がより安全にできることが水晶体摘出後に隅角癒着解離を行うメリットである.しかし,隅角の視認性を優先して隅角癒着解離を先に行う考えもある.水晶体摘出術後に行う場合には,隅角鏡下での良好な視認性の確保のために,水晶体摘出術はできるだけ低侵襲で速やかに行う必要がある.水晶体摘出術が難航したり,Zinn小帯断裂や後.破損などの合併症が生じた場合は,さらなる合併症や術後炎症のリスクを考慮して無理に本術式を同時に施行するべきではない.*TomomiHigashide:金沢大学附属病院眼科〔別刷請求先〕東出朋巳:〒920-8641金沢市宝町13-1金沢大学附属病院眼科0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(45)1147図1隅角癒着解離術の術中所見原発閉塞隅角緑内障:超音波乳化吸引術後,森ゴニオレンズ下で永田式隅角癒着解離針を使用,針の先端を線維柱帯表面に当てて擦るようにやさしく下方()へ押し下げる.の方向へ向かって操作を繰り返す.癒着解離済部には線維柱帯の色素帯が観察できる.図2線維柱帯切開術・眼内法の術中所見専用器具(線維柱帯ナイフ,37-0082,シャルマン)で線維柱帯上縁を一部切開して,器具の先端を押し下げるようにしてCSchlemm管内を露出させ()5-0ナイロン糸を挿入するスペースを作る.図3アーメド緑内障バルブ・毛様溝挿入の前眼部写真続発閉塞隅角緑内障(小眼球症),周辺虹彩切除部および瞳孔領からチューブが確認できる().後の前房出血は硝子体出血となるので,術後の安静や止血剤の内服などを指示する.前.切開できない場合や水晶体が落下している場合は,緑内障手術を行ったあとに硝子体切除を行い,パーフルオロカーボンを注入して水晶体を拳上させて,超音波乳化吸引によって水晶体を摘出する.C2.濾過手術併用の場合水晶体(亜)脱臼よりもCIOL(亜)脱臼において併用される場合が多いので,その項に記述する.C3.二期的緑内障手術IOL(亜)脱臼と同様であり,その項に記述する.CIII水晶体に起因する開放隅角緑内障(水晶体融解緑内障など)基本的に水晶体摘出術単独が第一選択の手術治療となる.その後に薬物治療によって眼圧コントロールが不十分な場合に緑内障手術を二期的に行うこととなる.IOL眼の開放隅角緑内障に適応となる術式の中から,緑内障性視神経症の程度などを考慮した目標眼圧によって術式を選択する.CIVIOL(亜)脱臼眼での緑内障IOLによる虹彩捕獲により眼圧上昇をきたす場合(続発閉塞隅角緑内障),IOLの位置異常による色素散布に続発する色素緑内障(続発開放隅角緑内障),もともと落屑緑内障がありCIOL(亜)脱臼を伴う場合などがある.IOLの位置の正常化が第一であるが,症例によって緑内障手術を先行,同時あるいは二期的に行う.このなかで,比較的頻度が高いCIOL(亜)脱臼を伴う落屑緑内障について述べる.C1.緑内障手術先行IOLの位置異常が軽度で視機能障害があまりないと考えられる場合や,薬物治療下にもかかわらず高眼圧で緑内障性視神経症が高度である場合に考慮する4).線維柱帯切開術と濾過手術の可能性がある.線維柱帯切開術の場合,粘弾性物質の注入と吸引を含む多くの前房内操作を必要とする眼内法では,IOLの位置異常をさらに悪化させる可能性がある.とくに前房洗浄の際に灌流ボトルの位置が高いまま前房に圧をかけると,症例によってはIOLが落下する危険がある.灌流ボトルを下げ,灌流と同時に吸引を行い,前房内圧の変動を最小限にする.メタルプローブを使う眼外法ではプローブの回転以外に前房内操作が必要ないので,瞳孔から硝子体が少し脱出しているような症例でも施行可能である.前房出血が硝子体に回る可能性があるので,術前によく縮瞳させ,線維柱帯切開は下方で行うようにしている.濾過手術では,虹彩切除を伴う通常の線維柱帯切除術では,虹彩切除部から硝子体が脱出する可能性がある.脱出硝子体を切除することで対応できるが,それによりCIOLの位置異常が悪化するおそれがある.エクスプレスはこの問題を回避することができる.C2.緑内障同時手術IOLの位置異常により視機能障害をきたし,かつ眼圧下降を急ぐ必要がある場合に考慮する.IOLの摘出,経毛様体扁平部硝子体切除,IOL強膜内固定に加えて緑内障手術を行う.IOLは眼内にあるものを再利用できればよいが,シングルピースのために縫着や強膜内固定に向かなかったり,ハプティクスが劣化していて途中で破損したりすることがあるので,基本的に摘出している.フォーダブルレンズは上方の角膜小切開創からCIOLカッターで半切して摘出する.ポリメタクリル酸メチル樹脂(polymethylCmethacrylate:PMMA)レンズは摘出用の創口が大きくなるので,下方に強角膜切開創を作製して摘出している.硝子体切除とCIOL強膜内固定は水晶体(亜)脱臼の項と同様である.線維柱帯切開術を併用する場合は,水晶体(亜)脱臼の項と同様にCIOLの処理の前に行う.線維柱帯切除術・エクスプレスの場合,円蓋部基底結膜切開,強膜弁作製,マイトマイシンCC塗布と洗浄まではすませておく.その後,IOLの摘出,27ゲージ経毛様体扁平部硝子体切除,IOL強膜内固定を行う.2カ所のC30ゲージ針の刺入のみで行えるCFlangedC.xation法は濾過胞(作製)への影響を最小限にできる点において優れている.(49)あたらしい眼科Vol.36,No.9,2019C1151図4IOL亜脱臼を合併した落屑緑内障に対してバルベルト緑内障インプラント毛様体扁平部挿入+IOL摘出・IOL強膜内固定を行った症例左上:術前前眼部写真.IOLが下方に偏位している.右上:前眼部COCT所見.IOLが下方に偏位していることがわかる().下:術後C1年の前眼部写真.チューブは保存強膜で被覆されている(左下,→).結膜下にCIOLハプティクスのフランジが確認できる(右下,→).図5先天白内障術後の緑内障に対する線維柱帯切開術の術中所見先天風疹症候群による左眼先天白内障に対して生後C2カ月時に水晶体摘出術を施行された.15歳時の線維柱帯切開術の術中所見である.耳側アプローチで下方から眼外法にてメタルプローブを使用した.プローブ回転時に浅前房となり,粘弾性物質を注入した.その吸引の際に硝子体脱出を認めたため,2手法にて瞳孔領から前部硝子体切除を施行した.2003年の手術であり,20ゲージ硝子体カッターが使用されている.C-

水晶体異常(浅前房・水晶体偏位・膨化水晶体)の際の白内障手術のコツ

2019年9月30日 月曜日

水晶体異常(浅前房・水晶体偏位・膨化水晶体)の際の白内障手術のコツCataractSurgeryTipsforCasesofLensAbnormality(NarrowChamber,LensDisplacement,IntumescentCataract)松島博之*はじめに近年,閉塞隅角緑内障の治療に関する方針が変化しつつある.以前は,縮瞳後にレーザー周辺虹彩切開術を行うことが一般的であった.確かに効果的ではあるが,根本的に狭隅角を解放しているわけではなく,虹彩切開後に白内障手術を施行することも多かった.また,レーザー後の角膜内皮減少はたびたび問題視され話題になっている.近年,白内障手術を施行することで狭隅角を解剖学的に改善できることがわかってきた1).また,前眼部OCTが進歩し,各症例の隅角の状態を明確に解析することができるようになり,眼圧が上昇する前に狭隅角眼に対して白内障手術を施行することで予防的な治療も可能になってきている2,3).しかし,狭隅角眼は遠視眼が多く短眼軸長であり,前房も浅いことから通常の白内障手術よりはむずかしくなる.また,落屑症候群や外傷後など水晶体偏位を伴う症例も散見されるほか,成熟白内障では水晶体の膨化が狭隅角状態を形成している場合もある.本稿では,これら水晶体異常(浅前房・水晶体偏位・膨化水晶体)の際の注意点や対処法について解説する.I浅前房1.術前の注意点浅前房症例では,緑内障発作に気をつける必要がある.眼圧がすでに高い場合や夜間に頭痛を訴えるような症例では,急激な眼圧上昇が生じる可能性があるので,手術を急いだほうが無難である.待っている間に閉塞隅角緑内障の発作が生じると,角膜浮腫が強くなり手術の難易度が上がってしまう.散瞳すると眼圧が上がってしまう可能性があるので,筆者は手術時も散瞳せずに,手術直前および術中に散瞳するようにしている.角膜内皮細胞も少ない症例も多いので,術前の確認を怠らず,もし角膜内皮細胞が著しく少ない場合は,将来の角膜移植の可能性も含めてインフォームド・コンセントを取る必要がある.発作が生じて角膜浮腫が強い症例は,高浸透圧利尿薬を使用するなど,できるだけ視認性の改善を行ったあとに手術を行う.眼圧が下がらない場合は先に外科的な周辺虹彩切除術を行い,眼圧が低下してから白内障手術に踏み切るのも一法である.浅前房症例の中には,片眼のみ浅前房の程度が強い症例(図1)をみかける.これは要注意なサインで,浅いほうの水晶体は脱臼している可能性がある.すなわち,Zinn小帯脆弱によって水晶体が前方移動した結果,前房が浅くなっている.硝子体の処理と眼内レンズ(intra-ocularlens:IOL)強膜内固定が必要となり,手術の難易度が上昇する.浅前房眼は単眼軸長症例が多い.IOLも著しくハイパワーで度数がない場合があるので,確認をしておく.わが国での最大度数はYA-60BBR(HOYA)の40.0Dである.2.術中の対処法散瞳は,手術直前に行うほうが安全である.20分程*HiroyukiMatsushima:獨協医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕松島博之:〒321-0293栃木県下都賀郡壬生町北小林880獨協医科大学眼科学教室0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(39)1141右眼左眼前眼部スリット前眼部OCT前房深度:2.1mm前房深度:3.1mm図1浅前房症例70歳,男性.右眼眼圧上昇にて紹介受診.右眼のみ前房が浅い.図3CTR挿入前のビスコダイセクションOVDを用いて水晶体.と水晶体を分離する.OVDが広がる力を利用して水晶体.を持ち上げるようにすると,皮質が絡まないように分離できる.図2術中散瞳術中にミドリンCPCR希釈液を使用して,散瞳する.眼圧が上がりやすいので,ビスコ針で創口を押し下げて灌流液を逃す.また,薬液を虹彩全面および裏面にも灌流すると効果が出やすい.図4ビスコダイセクションとCTR挿入外傷による水晶体脱臼の症例.①COVDで前.切開部を持ち上げて,②水晶体.と水晶体の分離を進める.③CCTRインジェクターを用いて,水晶体皮質を巻き込まないように挿入し,④前.切開縁でCCTR後端をはずしてCCTR挿入が完了する.染色前染色後脱出した硝子体はマキュエイドRでの染色が効果的である.硝子体は切開創とサイドポートに嵌頓するので,嵌頓が予測される部位にビスコ針で吹きかけると確認できる.あとは見える硝子体を切除すればよい.図6成熟白内障と水晶体内圧①成熟白内障では水晶体内圧が高く,前.切開が流れやすい.また,前.切開時に液化した水晶体が漏出し,視認性が低下する.②水晶体中央部にC27G針などで切開を作製し,内容物を吸引すると内圧が下がって前.切開が安全にできるようになる.図7膨化した成熟白内障の手術①成熟白内障と前.中央部に線維化した組織を認める.②トリパンブルーで前.染色しCOVDを注入する.③C27G針を前.中央に刺して吸引し,液化した水晶体成分を吸引する.④穿孔部から前.切開を開始する.図8成熟白内障に生じた前.の亀裂アルゼンチンの国旗に似たことからアルゼンチンフラッグサインという.■用語解説■ビスコダイセクション:眼粘弾性物質(OVD)で水晶体.と水晶体を分離する手技.CTR挿入前にCCTRが挿入しやすいようにスペースを作る.アルゼンチンフラッグサイン:成熟白内障では水晶体内圧が高く,前房穿刺時に前.が一気に避けることがある.トリパンブルーで前.を染色していると,青(水晶体.)白(水晶体)青(水晶体.)の順に色がついて見えることから,アルゼンチンフラッグサインという.

水晶体に起因する開放隅角緑内障

2019年9月30日 月曜日

水晶体に起因する開放隅角緑内障Lens-InducedOpen-AngleGlaucoma廣岡一行*はじめに緑内障は隅角所見,眼圧上昇をもたらす疾患および要因により原発緑内障,続発緑内障,小児緑内障のC3病型に分類される.続発緑内障は他の眼疾患,全身疾患,あるいは薬剤によって眼圧上昇が生じる緑内障である.通常,続発緑内障は緑内障性神経症の有無を問わず,眼圧上昇をもって続発緑内障の診断となる.続発緑内障は可能なかぎり原因疾患の治療を第一とするため,眼圧上昇機序を把握して治療法を選択する.眼圧上昇の原因が治療可能な場合には,眼圧下降治療とともに原因に対する治療を行う.水晶体に起因する続発緑内障は,水晶体に関連して眼圧上昇をきたす疾患であり,開放隅角緑内障と閉塞隅角緑内障がある.閉塞隅角緑内障には,膨化水晶体によるものと水晶体偏位によるものがある.水晶体に起因する続発開放隅角緑内障は,その発症機序により,水晶体融解緑内障,水晶体小片緑内障,水晶体アナフィラキシーによる緑内障の三つに大別することができる(表1).これら三つの疾患の眼圧上昇機序は異なるが,最終的にはすべて線維柱帯からの房水流出障害によるものである.CI水晶体融解緑内障水晶体融解緑内障は,成熟白内障あるいは過熟白内障を有する眼に,水晶体蛋白が漏出することにより線維柱帯間隙が閉塞し,眼圧が上昇する開放隅角緑内障である1)(図1,2).わが国では白内障管理の進歩により症例表1水晶体起因性開放隅角緑内障機序水晶体融解緑内障水晶体.からの高分子量蛋白の漏出水晶体小片緑内障残存する水晶体物質や炎症細胞による線維柱帯間隙の閉塞水晶体アナフィラキシーによる緑内障水晶体蛋白への感作に続く免疫複合体の形成数は激減しているが,成熟白内障の有病率が高い発展途上国ではしばしばみられる.通常,成熟白内障あるいは過熟白内障を有する高齢者に起こり,ほとんどが片眼性である.白内障の進行とともに,前.あるいは後.に微小欠損部が生じ,その欠損部を通して高分子量の蛋白が房水中に流入する.これらの蛋白が線維柱帯からの房水流出を妨げることにより,急激な眼圧上昇が生じる2).水晶体蛋白を貪食したマクロファージにより線維柱帯が閉塞することにより,房水流出はさらに障害される.まれに水晶体蛋白の間欠性漏出により,水晶体融解緑内障は亜急性の経過をたどることがある.成熟白内障に至るまでの過程では,白内障の進行とともに視力は徐々に低下するが,水晶体融解緑内障の眼圧上昇は急激であり,自覚症状として眼痛,頭痛を伴う.細隙灯顕微鏡検査では,角膜浮腫,毛様充血,強度の前房内炎症,成熟白内障あるいは過熟白内障を認める.好酸性の水晶体蛋白を貪食したマクロファージが大型な細胞として前房内にみられ,シュウ酸カルシウム結晶3)や*KazuyukiHirooka:広島大学大学院医系科学研究科視覚病態学〔別刷請求先〕廣岡一行:〒734-8551広島市南区霞C1-2-3広島大学大学院医系科学研究科視覚病態学C0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(35)C1137図1水晶体融解緑内障の細隙灯顕微鏡所見(60歳代,女性)1週間前から眼痛と頭痛が出現.ステロイドで軽快せず紹介受診.眼圧はC56mmHg.水晶体起因性緑内障(水晶体融解緑内障の疑い)として緊急で水晶体再建術施行.術後眼圧は薬物使用でC20mmHg.図2水晶体融解緑内障の細隙灯顕微鏡所見水晶体は成熟白内障である.毛様充血を認める.図3水晶体小片緑内障の前眼部および隅角写真残存する水晶体物質が炎症や線維柱帯からの房水の流出障害の原因となる.a:毛様充血,角膜浮腫をきたしている.b:虹彩上に白色物質を認める.(京都府立医科大学森和彦先生のご厚意による)図4外傷性水晶体小片緑内障の細隙灯顕微鏡所見水晶体.の裂傷により,白片を伴った水晶体小片が前房内に認められる.–

水晶体に起因する閉塞隅角緑内障(膨化水晶体,水晶体脱臼/亜脱臼)

2019年9月30日 月曜日

水晶体に起因する閉塞隅角緑内障(膨化水晶体,水晶体脱臼/亜脱臼)Angle-ClosureGlaucomaDuetoCrystallineLensAbnormality(PhacomorphicGlaucoma)有村尚悟*稲谷大*I膨化水晶体レフ値の変化も診断に重要である.はじめに白内障が進行してくると水晶体が膨化し,体積および前後径が大きくなり,虹彩が物理的に前方に移動するため,閉塞隅角緑内障をきたすことがある.従来,原発閉塞隅角症(primaryCangleclosure:PAC)や原発閉塞隅角緑内障(primaryangleclosureglaucoma:PACG)に対してはレーザー虹彩切開術(laseriridotomy:LI)が第一に施行される機会があることが多いが,LIが奏効せず,瞳孔ブロックに依存しない症例も数多く存在する.隅角閉塞において,水晶体の膨化による水晶体因子はその要因の一つである.隅角閉塞のメカニズムはCAssociationofCInternationalGlaucomaSocieties(AIGS)の分類で,大きく分けて瞳孔ブロック,プラトー虹彩形状,水晶体起因性,悪性緑内障の四つに分類されているが,そのうち悪性緑内障以外の残りの要因三つに水晶体因子は大きく関与している.C1.診断高齢者における膨化水晶体による緑内障では,徐々に隅角が閉塞することが多いが,若年者や外傷による白内障進行においては急速に病状が進行することがあり,急性閉塞隅角緑内障と同様の症状を呈することがあるので注意が必要である.健眼の前房深度や隅角,白内障の状態と比較し,診断する.白内障進行に伴う近視化による近年,前眼部COCTの普及により水晶体の客観的な計測が可能になりClensvault(図1a)などの水晶体因子に関係する因子の計測が可能になってきた.LensCvaultに関する重要な研究として,隅角閉塞症例での水晶体因子において重要なパラメータは,水晶体それ自体の厚みではなく,lensvaultの大きさであり,lensvaultの値が大きければ大きいほど閉塞隅角の危険因子となるとの報告がなされている1,2).また,水晶体再建術の術前のClensvaultが大きいほど隅角は開大し,術後の眼圧が下降したとの報告もなされている3).また,lensvaultが大きい症例では散瞳すると隅角(angleCopeningCdis-tance:AOD500,図1b)が狭くなる傾向にある4).水晶体因子は隅角閉塞に大きな役割を示している.そのなかで前眼部COCTを用いて水晶体因子の一つであるClensvaultを計測するということは水晶体再建術前後の隅角の開大度合を予測し,また散瞳のリスクも数値化してとらえる有用な手段となる可能性がある.C2.治療膨化した水晶体により隅角が閉塞しているので,白内障手術を行うことが必要である.LIは応急処置で行われることがあるが,病態の本質的な改善には白内障手術が必要である.ピロカルピンの使用はCZinn小帯の弛緩により水晶体が膨らむことで,さらに水晶体の厚みが増加し緑内障を悪化させることがあるので注意が必要であ*ShogoArimura&*MasaruInatani:福井大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕有村尚悟:〒910-1193福井県吉田郡永平寺町松岡下合月C23-3福井大学医学部眼科学教室C0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(31)C1133図1前眼部OCTで計測した前眼部パラメータa:Lensvault(LV).強膜岬を結ぶ直線に水晶体前極部からおろした垂線の距離.b:AngleCopeningCdistance(AOD500).強膜岬からC500Cμmの距離における線維柱帯から虹彩前面に下ろした垂線の距離.(文献C4より改変引用)表1水晶体偏位を引き起こす疾患表2球状水晶体をきたす遺伝性疾患図2前眼部OCTで検出した落屑緑内障による水晶体亜脱臼a:患眼.b:健眼.図3水晶体脱臼(細隙灯顕微鏡検査)上耳側に脱臼がみられる.図4超音波Bモードで検出した水晶体脱臼超音波CBモードで水晶体の落下がみられる.図5CT検査で検出した外傷性水晶体脱臼–

急性原発閉塞隅角症の診断と治療

2019年9月30日 月曜日

急性原発閉塞隅角症の診断と治療DiagnosisandTreatmentofEyeswithAcutePrimaryAngleClosure石田恭子*はじめに急性原発閉塞隅角症(acuteprimaryangleclosure:APAC),いわゆる急性緑内障発作の診断は,眼科医であれば症状と所見から比較的容易ではあるが,集中的な薬物治療で可及的速やかに眼圧を下降させなければならない.また,急性発作を脱したあとに,隅角閉塞機序の解消を行う必要がある.本稿では,急性原発閉塞隅角症の病態,症状,検査,鑑別診断,治療について解説する.I隅角閉塞の病態と機序隅角の閉塞は機能的閉塞と器質的閉塞に分けられる.1.機能的隅角閉塞虹彩が線維柱帯に接触しているだけで,生理的条件の変動により解除されうる可逆的隅角閉塞である.2.器質的隅角閉塞虹彩と線維柱帯が癒着し,周辺虹彩前癒着(peripher-alanteriorsynechia:PAS)を形成した状態.一般には,機能的閉塞が先行し,この状態が続くことで器質的癒着が生じると考えられる.3.機能的隅角閉塞をきたす原因①瞳孔ブロック,②プラトー虹彩形状,③水晶体因子,④水晶体より後方の因子の四つに分けられるが,マルチメカニズムにより閉塞をきたすことも多い.原発性の隅角閉塞の原因は①と②である.APACの原因としては①が主体である.②プラトー虹彩形状では,虹彩根部の形状や厚みの問題により隅角が閉塞されるあるいは,毛様体の前方回旋などにより周辺虹彩が前方に圧される.③水晶体因子では,加齢に伴う水晶体厚の増加,水晶体の亜脱臼などにより水晶体が直接虹彩を圧排して隅角を閉塞する.④水晶体より後方の因子では,脈絡膜容積の増大や毛様体ブロックなどにより水晶体を後方から押す力が働き,水晶体が虹彩を圧排して隅角を閉塞する.4.瞳孔ブロック瞳孔ブロックとは,瞳孔縁での房水流出抵抗が正常より増大した状態をいう.房水は毛様体で産生され,虹彩裏面と水晶体前面の間を通り,瞳孔領から前房に出て,隅角から排出される.虹彩-水晶体間の房水流出抵抗の増大により,後房に房水がたまり,後房圧が前房圧より高くなると,虹彩は高い後房圧により前方に押し上げられ弯曲し,前方凸の形状となり,隅角の閉塞が発生する.瞳孔ブロックを生じやすい要因として,小眼球,単眼軸(遠視)眼,加齢に伴う水晶体厚の増加,Zinn小体脆弱などによる水晶体の前方移動などがあげられる.こうした眼では,解剖学的に前房が浅く,前房容積が小さく,水晶体がより前方に位置するため,瞳孔縁での房水流出抵抗が増大し,瞳孔ブロックを生じやすい.虹彩-*KyokoIshida:東邦大学医療センター大橋病院眼科〔別刷請求先〕石田恭子:〒153-8515東京都目黒区大橋2-22-36東邦大学医療センター大橋病院眼科0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(21)1123ab図1相対的瞳孔ブロックとレーザー虹彩切開後の変化:前眼部OCT画像a:OCT画像:相対的瞳孔ブロック状態,治療前.後房圧>前房圧,虹彩が前に凸.狭隅角.b:OCT画像:レーザー虹彩切開術後.後房圧≒前房圧.虹彩が平坦.隅角開大.図2急性原発閉塞隅角症と僚眼の前眼部写真左:急性原発閉塞隅角症(発作時).a:結膜毛様充血,角膜浮腫,中等度散瞳を認める.b:前房深度は中央部,周辺部ともに浅く,前房内には,炎症を認める.右:僚眼(非発作眼).a:角膜清明,普通瞳孔.b:通常僚眼も狭隅角であることが多い.6.前眼部光干渉断層計(anteriorsegmentopticalcoherencetomography:AS.OCT)検査非接触で前眼部の三次元撮影が可能なAS-OCTでは,水晶体までの断面像や,角膜,隅角の形状を計測できる.浅前房および隅角閉塞を認める.IV鑑別診断急激に眼圧が上昇する疾患が鑑別の対象となる.ぶどう膜炎に伴う続発緑内障,水晶体亜脱臼による続発緑内障,悪性緑内障,原田病に伴う毛様体浮腫による続発閉塞隅角緑内障などがあげられる.ぶどう膜炎に伴う続発緑内障では,瞳孔領の虹彩が水晶体や眼内レンズと後癒着を生じ膨隆虹彩(irisbombe)が生じた場合,瞳孔ブロックとなり続発閉塞隅角緑内障となる.水晶体亜脱臼による続発緑内障では,前房深度の左右差,落屑物質の存在,外傷の既往があれば疑いが強まるが,UBMで水晶体と毛様体の距離の延長,UBMやAS-OCTでの水晶体の偏位を確認する.悪性緑内障は一般に濾過手術後に多いが,手術をしない眼にも自然に発症することがある.細隙灯顕微鏡検査では,虹彩角膜接触が瞳孔領にまで及ぶ高度の浅前房を認め,UBMで毛様体の前方回旋を認める.原田病などによる眼底周辺部の脈絡膜.離や毛様体浮腫により隅角が閉塞することがあるため,APACを疑っても眼底検査を軽視してはならない.これらの疾患では,APACの治療薬であるピロカルピン点眼が症状を悪化させる場合もあり,鑑別診断は重要である.V薬物治療APACは救急疾患であり,初期治療として薬物治療により速やかに眼圧を下降させる必要があるが,薬物使用に際しては,禁忌などがないか患者の病歴聴取を行っておく.1.高浸透圧薬の点滴静脈注射高浸透圧薬の点滴により,急激に血漿浸透圧が高くなり,脱水作用により硝子体容積が減少して眼圧が下降する.硝子体容積が減少すると水晶体も後方へ移動するため,隅角を解放させる働きも有する.点滴により急激に血漿循環量が増加するため,心不全,腎不全を起こしうる.前立腺肥大の患者では,利尿により尿閉を生じる可能性がある.嘔吐により脱水となった患者では,さらに脱水状態が悪化する.そのため,投与前後の全身状態の把握は重要である.a.20%マンニトール20%マンニトールは300.600ml(1.0.3.0g/kg)を急速(30.45分)で点滴静注する.眼圧下降は60.90分後に最大となるが,眼圧下降効果の持続は4.6時間である.マンニトールは体内で代謝されず,腎から尿中に排出される.浸透利尿作用が強いため,心不全,腎不全,電解質異常が出現しやすい.b.グリセロールグリセロールは,10%グリセリンと果糖5%を含む生理食塩水で,300.500mlを45.90分で点滴静注する.眼圧下降は30.135分後に最大となるが,眼圧下降効果の持続は約5時間である.グリセロールは肝臓で約80%が代謝され,腎から20%が尿中に排出される.心不全,腎不全,電解質異常のほか,500mlあたり318.5kcalの熱量を有し,高血糖を引き起こしやすく注意を要する.2.炭酸脱水酵素阻害薬眼圧下降を目的として,房水産生抑制作用を有する炭酸脱水酵素阻害薬であるアセタゾラミド10mg/kgを内服または静注する.しかしながら内服は嘔吐のため困難な場合が多い.体内の電解質バランスに注意して使用する.3.点眼a.縮瞳薬1または2%ピロカルピン(副交感神経作動薬)を15分間隔で2.4回点眼し,虹彩括約筋を収縮,虹彩根部を進展させ,機能的隅角閉塞を解除し縮瞳を得る.ピロカルピン点眼では,同時に毛様体が収縮し,水晶体の前方移動をうながすためかえって瞳孔ブロックが増強する場合があり頻回点眼は避ける.1126あたらしい眼科Vol.36,No.9,2019(24)表1アルゴンレーザー+YAGレーザーによる3段階照射法の照射条件レーザーの種類スポットサイズ(μm)時間(s)出力照射数第1段階第2段階第3段階アルゴンアルゴンYAG*200.500501pulse/shot0.20.02200mW600.1,000mW1.2mJ4.520.501.2*装置によってプラズマ発生エネルギーが異なるため,使用機種によって定められたエネルギーを使用する.第1,2段階を除いて,あるいは第2段階を除いてYAGで施行する場合は,出力は2.6mJで行う.第3段階を除いでアルゴンのみで施行する場合は,第2段階の照射数はおおよそ100.150となる.ab表2レーザー隅角形成術の照射条件と照射部位スポットサイズ(μm)時間(s)出力照射数200.5000.2.0.5100.200mW1象限あたり6.7図3レーザー隅角形成術前後の隅角(イメージ)a:治療前.機能的隅角閉塞の状態.b:レーザー治療後.治療部位近傍の隅角は開大している.赤丸:レーザー照射スポット.白抜丸:レーザー痕.bLI孔ac水晶体眼内レンズ図4治療法による隅角開大度の違い(同一眼):前眼部OCT画像所見a:治療前.相対的瞳孔ブロックを認める.b:レーザー虹彩切開(LI)後.周辺隅角は開大しているが,中心前房深度の変化は少ない.c:水晶体再建術後.LIの1年後に施行.検査のため散瞳しているが,周辺隅角は開大,前房は非常に深くなっている.虹彩切除孔麻痺性散瞳,虹彩萎縮図5観血的周辺虹彩切除症例薬物治療で眼圧下降も縮瞳も得られず,急性緑内障発作が解消できなかったため,観血的周辺虹彩切除を行った.1カ月後の所見.虹彩切除孔,麻痺性散瞳,虹彩萎縮を認める.

原発閉塞隅角症/原発閉塞隅角緑内障

2019年9月30日 月曜日

原発閉塞隅角症/原発閉塞隅角緑内障PrimaryAngleClosure/PrimaryAngleClosureGlaucoma三嶋弘一*I定義原発閉塞隅角緑内障は,現在ではその前駆病変とともに下記のように定義されている1).1.原発閉塞隅角症疑い(primaryangleclosuresuspect)原発閉塞隅角症疑いとは,原発性の隅角閉塞があるが,眼圧上昇や器質的な周辺虹彩前癒着(peripheralante-riorsynechia:PAS)を認めず,かつ緑内障性視神経症もない状態である.すなわち,機能的隅角閉塞(apposi-tionalangleclosure)のみを認めている状態である.2.原発閉塞隅角症(primaryangleclosure)原発閉塞隅角症は,原発性の隅角閉塞により,眼圧上昇をきたしている,もしくは虹彩前癒着を生じているが緑内障性視神経症は生じていない状態である.3.原発閉塞隅角緑内障(primaryangleclosureglaucoma)原発閉塞隅角緑内障は,原発閉塞隅角症の状態にさらに緑内障性視神経症をきたしている状態である.II疫学岐阜県多治見市において行われた疫学調査では,40歳以上人口における緑内障全病型の有病率は5.0%であったが,原発閉塞隅角緑内障の有病率は0.6%であり,病型別緑内障のなかではその頻度は高いとはいえなかった(表1)2).しかしその後,沖縄県久米島町にて行われた疫学調査における原発閉塞隅角緑内障の有病率は2.2%と高く(表2)3),この有病率は全世界で行われた疫学調査における原発閉塞隅角緑内障有病率と比較してもかなり高いものであることがわかる(表3)4).すなわち,原発閉塞隅角緑内障とその前駆病変は,地域による有病率の差があるものの,わが国においては重要な疾患であるといえる.III診断Sawaguchiらの報告では,久米島スタディを含めた世界で行われた主要な疫学調査にて診断された原発閉塞隅角緑内障のうち,43.91%が実臨床上で未診断のものであったことが報告されている(表4)3).現在,わが国において予防医学や疾病早期発見の促進のため,健康診断や人間ドックなどにおいて眼科的検査としては視力検査,眼圧検査,無散瞳眼底カメラにおける眼底写真判定が行われており,開放隅角緑内障のスクリーニングとしては機能していると考えるが,前房深度や隅角開大度の簡易スクリーニング検査がないこともあり,浅前房眼や狭隅角眼の発見はむずかしく,原発閉塞隅角緑内障とその前駆病変を早期に発見することもむずかしい.そこで,われわれ眼科医の使命として,クリニックを含めた眼科受診患者におけるそれら疾患を見逃*KoichiMishima:関東中央病院眼科〔別刷請求先〕三嶋弘一:〒158-8531東京都世田谷区上用賀6-25-1関東中央病院眼科0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(15)1117表1多治見スタディにおける緑内障有病率2)表2久米島スタディにおける原発閉塞隅角緑内障関連疾患の有病率3)有病率(%)原発解放隅角緑内障(広義)3.9正常眼圧緑内障3.6原発閉塞隅角緑内障0.6続発緑内障0.5合計5.0有病率(%)原発閉塞隅角症疑い8.8原発閉塞隅角症6.0原発閉塞隅角緑内障2.2合計17.4表3世界で行われた疫学調査における原発閉塞隅角緑内障有表4世界で行われた疫学調査における原発閉塞隅角緑内障の未病率4)診断率3)PACG地域対象数年齢有病率(%)アラスカ,エスキモー1,68640歳以上2.65ミャンマー2,07640歳以上2.5南インド(ハイデラバード)2,52240歳以上1.8中国(Liwan)1,50450歳以上1.5モンゴル94240歳以上1.4シンガポール(中国人)1,23240歳以上1.3南インド(タミルナードゥ)3,85040歳以上0.88タイ(バンコク)70150歳以上0.86北イタリア4,29740歳以上0.6日本(多治見)3,02140歳以上0.6東アフリカ3,26840歳以上0.59スリランカ1,37540歳以上0.57バングラデシュ2,34735歳以上0.4西ベンガル1,26950歳以上0.2シンガポール(マレー人)3,28040.80歳0.12アメリカ合衆国(ヒスパニック)4,77440歳以上0.1オーストラリア3,27140歳以上0.1図1隅角閉塞メカニズム複数のメカニズムが複雑に関与するが,個々の症例において主因となるメカニズムが異なる.a図2UBMによる暗所下自然散瞳状態の隅角断層像a:相対的瞳孔ブロック.虹彩が膨隆し,上に凸の弯曲を示している.b:プラトー虹彩.虹彩が平坦なまま周辺へ移動し,隅角閉塞をきたしている.レーザー隅角形成術眼圧コントロール良好不良経過観察眼圧下降(薬物治療・手術治療)*実際には水晶体因子と水晶体後方因子も関与する.図3原発閉塞隅角症・原発閉塞隅角緑内障の治療相対的瞳孔ブロック機序*プラトー虹彩機序

水晶体関連緑内障を診断するための隅角検査(隅角鏡,前眼部画像解析)

2019年9月30日 月曜日

水晶体関連緑内障を診断するための隅角検査(隅角鏡,前眼部画像解析)AnteriorChamberAngleExaminationsforLens-AssociatedGlaucoma(GonioscopyandImagingDevices)酒井寛*宮平大輝**はじめに水晶体関連緑内障には,続発緑内障である水晶体起因性緑内障(開放隅角,閉塞隅角)と原発閉塞隅角病(原発閉塞隅角症疑い,原発閉塞隅角症,原発閉塞隅角緑内障)があり,隅角閉塞の有無,隅角閉塞機序の診断,原発性と続発性の鑑別に隅角検査が必要である.水晶体関連緑内障を診断するための隅角検査は,測定原理から以下の三つに大別される.1.可視光による観察,測定2.超音波生体顕微鏡検査3.光干渉断層計I可視光による観察,測定細隙灯顕微鏡を用いて行う診断方法,隅角鏡を用いる検査,隅角鏡写真撮影装置,シャインプルーフの原理を用いた前眼部解析装置などがある.1.VanHerick法(周辺前房深度の半定量評価)1)している1).耳側隅角は,上方,下方,耳側,鼻側の4方向のなかでもっとも広い2)ことがその後の研究により知られている.耳側隅角が閉塞している場合にはその他の部位の隅角も閉塞している可能性が高いため,耳側で判定するVanHerick法は有用である.2.隅角鏡a.直接隅角鏡(プリズムレンズ)1915年,MaximilianSaltzmann(オーストリア,1862-1954)により発明され,LeonhardKoeppe(ドイツ,1884-1969)により改良され現在でも使用されている.プリズム効果により隅角を視認し,隅角閉塞,周辺虹彩前癒着(peripheralanteriorsynechiae:PAS)などが診断可能である.Swan-Jacobsレンズも隅角閉塞,PASなどの診断が可能で,隅角癒着解離術などの手術に用いられる.b.間接隅角鏡(ミラーレンズ)ansGoldmann年,H8391Herick,Sha.er,Schwartzにより提唱された分Van-9981スイス,/(オーストリア類である1),細隙灯顕微鏡を用いて,スリット光の光束を耳側周辺角膜輪部に投射して,周辺部前房深度と角膜厚を比較する.原法では,角膜輪部に細隙光を垂直に投射するため細隙光を観察軸から60°傾ける.Grade1および2(図1)では隅角閉塞が生じている可能性が高く,原典においては,周辺前房が消失している場合を,Gradeslit=危険に狭い隅角として図とともに記載(表1991)により発明され,現在も使用されている.62°の角度の鏡(ミラー)により隅角や隅角を観察する.一面鏡と二面鏡がある.Goldmann隅角鏡は,原発閉塞隅角診断の国際的なゴールデンスタンダードである静的視野検査において現在でも使用される.フリンジ付きのものは固定に優れるが,圧迫の可能性があり,静的隅角鏡検査にはフリンジなしを用いる.*HiroshiSakai:浦添さかい眼科**HirokiMiyahira:浦添綜合病院眼科〔別刷請求先〕酒井寛:〒901-2126沖縄県浦添市宮城6-1-212F浦添さかい眼科0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(7)1109図1VanHerick法の実際a:原発閉塞隅角症の症例,周辺前房深度は周辺角膜厚のおよそ1/4でありGrade2と診断した.b:急性原発閉塞隅角症の症例,周辺前房は消失しておりGradeslitと診断される.表1VanHerick,Sha.er,Schwartz分類(VanHerick法)分類定義臨床的意義Gradeslit周辺前房深度が存在しない閉塞隅角の危険性が高いGrade1周辺前房深度は角膜厚の1/4未満閉塞隅角の危険性が高いGrade2周辺前房深度は角膜厚の1/4隅角閉塞が生じている可能性があり,隅角鏡検査が必要Grade3周辺前房深度は角膜厚の1/4.1/2隅角閉塞は起こりえないGrade4周辺前房深度は角膜厚以上広く開放した隅角図3Scheie分類a:Schwalbe線,Cb:線維柱帯,c:強膜岬,d:毛様体帯,Ce:虹彩根部.(文献C2より引用)表2Scheie分類グレード隅角鏡所見臨床意義CWIDE隅角全体が観察できる開放隅角,急性発作は起こさないCGradeInarrowangleGradeIInarrowangle虹彩根部(irisrecess)が観察されない毛様体帯が観察されないC開放隅角,急性発作は起こさないCGradeIIInarrowangle線維柱帯後方(色素帯)が見えない急性発作の危険性が高いCGradeIVnarrowangle(Gonioscopicallyclosed)Schwalbe線以下*のすべて隅角が観察できない急性発作の危険性が高い(文献C3より引用)*筆者注)Schwalbe線を超える隅角閉塞は想定されていない.原発性の隅角閉塞では,PASもSchwalbe線を超えない.Schwalbe線を超える場合続発性であると考えられる.図4Sha.er分類上:隅角角度により狭隅角グループと広隅角グループに分ける概念図.下:Grade1.4までの隅角模式図.(文献C5より引用)表5隅角鏡検査の種類と順番表3Sha.er分類(原典)分類定義狭隅角グループ隅角角度0.C20°広隅角グループ隅角角度2C0.C45°グレード分類臨床意義CGrade1広く開放した隅角隅角閉塞は起こり得ないCGrade2狭隅角,中等度隅角閉塞が起こる可能性があるCGrade3狭隅角,高度やがて隅角閉塞が起こる可能性があるCGrade4狭隅角,閉塞(完全または部分的)隅角は閉塞している(文献C5より引用)表4Sha.er分類(改訂版)グレード定義臨床意義CGrade0隅角角度0°隅角閉塞しているCGradeslit隅角スリット隅角閉塞の危険性が高いCGrade1隅角角度10°隅角閉塞がおそらく起こるCGrade2隅角角度20°隅角閉塞が起こる可能性があるCGrade3隅角角度20.C35°隅角閉塞は起こり得ないCGrade4隅角角度35.」5°隅角閉塞は起こり得ない(文献C7より引用)順番種類条件結果の評価C1静的隅角鏡検査所見Goldmann隅角鏡(ツバなし),暗室,スリット光は長さC1Cmm,幅は狭く,瞳孔に光を入れず自然散瞳状態で観察隅角閉塞(CITC)の象限数を判定し,ITCがC2またはC3象限以上で閉塞隅角眼(occludableangle)と診断C2動的隅角鏡検査所見(第一眼位)スリット光を長く,瞳孔に入光し,縮瞳した状態で観察虹彩付着部の高さ,虹彩形状,周辺虹彩前癒着(PAS)の有無を診断C3動的隅角鏡検査所見(傾斜)隅角が狭く,動的隅角鏡検査所見(第一眼位)で観察できなかった隅角を眼球を動かすよう指示して観察PASの有無を診断C4動的隅角鏡検査所見(圧迫隅角鏡検査)動的隅角鏡検査所見(傾斜)にて隅角閉塞がCPASを伴っているか不明な場合に,圧迫して観察圧迫隅角鏡を用いるPASの有無,を診断プラトー虹彩形状の毛様体突起の前方偏位も診断可能とされる表6閉塞隅角眼の前眼部隅角画像パラメータの特徴パラメータ測定機器閉塞隅角眼の特徴中心前房深度UBM,前眼部COCT浅い(原発性/続発性)隅角角度UBM,前眼部COCT小さい(原発性/続発性)隅角開大度(AOD)UBM,前眼部COCT短い(原発性/続発性)線維柱帯-虹彩表面面積(TISA)UBM,前眼部COCT小さい(原発性/続発性)虹彩厚UBM,前眼部COCT厚い(原発性)毛様体位置(TCPD)CUBM前方にある(原発性)Zinn小帯長CUBM水晶体亜脱臼では長い(続発性)隅角間距離前眼部COCT狭い(原発性)水晶体膨隆度(lensvault)前眼部COCT高い(原発性/続発性)C図5圧迫隅角鏡検査a:スリット光は隅角部で隠れており(),隅角底が隠れ居ることがわかる.Cb:スリット光は隅角部を含めて連続しており,周辺虹彩前癒着(PAS)はないことがわかる.Cc:別の症例圧迫隅角鏡写真.スリット光を横にして撮影.*:線維柱帯色素帯,:PASの範囲を示す.図6圧迫隅角鏡検査によるdoublehumpsign(ふたこぶサイン)a:圧迫前.Cb:圧迫後,周辺虹彩は隅角側から凸,凹,凸をなしCdoublehump(ふたこぶ)形状である.プラトー虹彩の診断所見とされる.(文献C8より改変引用)図7ゴニオスコープ(GS.1,ニデック)による正常眼の隅角画像内部光学系が回転し,隅角をC16方向C360°まで撮影できる.図は,内蔵ソフトウエアによる合成(環状ステッチング画像,ニデック提供).図8瞳孔ブロックとプラトー虹彩の超音波生体顕微鏡(IBM)所見a:瞳孔ブロックでは虹彩が前方凸であり,虹彩裏面に引いた直線と虹彩の間に距離があり,後房圧が前房圧よりも高いことを示唆する.Cb:プラトー虹彩では,虹彩は平坦だが,毛様体突起が前方に位置し,散瞳による虹彩厚の増大により隅角は閉塞している.:強膜岬図11原発閉塞隅角症と水晶体膨化による続発閉塞隅角の前眼部OCT(CASIA,トーメーコーポレーション)所見a:原発閉塞隅角症による隅角閉塞.Cb:水晶体膨化によるC-続発閉塞隅角緑内障眼.増大したClensvaultが確認できる.:隅角間距離.:水晶体膨隆度(lensvault).

いろいろな水晶体関連緑内障

2019年9月30日 月曜日

いろいろな水晶体関連緑内障AVarietyofLens-InducedGlaucoma栗本康夫*はじめに一般に緑内障は開放隅角型と閉塞隅角型に大別されるが,水晶体に関連する緑内障も開放隅角緑内障と閉塞隅角緑内障に分けられる.緑内障全体としては開放隅角型が多数を占めるが,水晶体が関与する緑内障で眼科医がより頻繁に遭遇するのは閉塞隅角型である.水晶体が関与する閉塞隅角緑内障は,器官としての水晶体の位置や容積ないし形状の問題に起因する.かつては水晶体に関連する閉塞隅角緑内障は続発閉塞隅角緑内障に分類されていたが,近年,原発閉塞隅角緑内障においても水晶体の関与が注目されており,水晶体関連の閉塞隅角緑内障は原発性と続発性の境界が曖昧になっている.これに対し,水晶体が関与する開放隅角緑内障は基本的に水晶体.の破綻に伴う水晶体内容物の.外への漏出ないし拡散に起因し,原則としてすべて続発開放隅角緑内障に分類される.CI水晶体に関連した閉塞隅角緑内障ヒトの水晶体の容積は約C160.mm3で1),虹彩容積の約C45.mm32)を大きく上回り,硝子体や房水などのゲルおよび液体を除けば眼球内腔においてもっとも大きな空間を占有している.隅角の構成要素である虹彩の位置や形状が隅角の房水流出路に大きな影響を与えることは自明であるが,水晶体の位置や形状ないし容積の変化も房水流出路にしばしば大きな影響を与えることになる.水晶体の前面は虹彩の後面に接しており,水晶体の前方偏位表1いろいろな水晶体関連緑内障や容積の増大,形状の変化により水晶体前面が前方に移動すれば虹彩が前方に圧排され,その結果,虹彩周辺部が対面する線維柱帯に押しつけられ,隅角の閉塞が生じうる.C1.原発閉塞隅角緑内障原発閉塞隅角緑内障における隅角閉塞は,①瞳孔ブロック,②プラトー虹彩,③水晶体因子,④水晶体後方因子の四つのメカニズムによって起こると考えられている3).③の水晶体因子による原発閉塞隅角緑内障が水晶体に関連した緑内障とみなされるのは字義どおりであるが,③以外のメカニズムにも水晶体は大きく関与している.①の瞳孔ブロックについては,水晶体前面が瞳孔部において水晶体を前方に圧す力が瞳孔ブロックの発生原因となっている4).したがって,水晶体容積の増大や前*YasuoKurimoto:神戸市立神戸アイセンター病院〔別刷請求先〕栗本康夫:〒650-0047神戸市中央区港島南町C2-1-8神戸市立神戸アイセンター病院C0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(3)C1105方偏位により水晶体前面が前方に偏位すると瞳孔ブロックを駆動する力が強まり,隅角閉塞に至りやすくなる.③の水晶体因子と④の水晶体後方因子はどちらも水晶体前面がダイレクトに虹彩全体を前方に圧排して虹彩周辺部が線維柱帯に接触することで隅角閉塞が生じる.また,もっぱら虹彩や毛様体の形状に依存すると考えられている②プラトー虹彩による隅角閉塞についても,水晶体が関与していることが示されている5).したがって,原発閉塞隅角緑内障で隅角閉塞をきたす四つのメカニズムのすべてに水晶体は関与していることになり,水晶体は原発閉塞隅角緑内障の発症要因の主役の座にあるといっても過言ではない.水晶体摘出あるいは同再建術が狭隅角の形態を劇的に改善することが示され6),近年,水晶体再建術が原発閉塞隅角緑内障および同症の治療の第一選択の地位を占めつつある7)のはその傍証といえよう.水晶体容積の増大については,いわゆる膨隆水晶体のように明らかに異常な水晶体容積の増大は続発閉塞隅角緑内障に分類されるが,眼球容積が小さい遠視眼においては生理的状態でも水晶体容積が相対的に過大となり隅角閉塞を引き起こすリスクが高くなる.加齢に伴う生理的な水晶体容積の増大もこのリスクを高める.さらに短眼軸眼では水晶体はより厚く,相対的水晶体位置はより前方に偏位していることが知られており8),これは光学的には遠視を軽減し屈折を正視に近づける効果がある一方で,水晶体前面が前進して虹彩を前方に圧排することで隅角が狭まり,隅角閉塞のリスクを高めることになる.C2.続発閉塞隅角緑内障水晶体の容積ないし厚さの増大や位置の前方偏位は隅角閉塞を引き起こすが,これらの水晶体の変化が生理的な多様性の範囲内であれば,上述のように原発閉塞隅角緑内障ないし原発閉塞隅角症に分類するのが妥当である.しかしながら,水晶体の変化が生理的な変動を越えるとみなされる場合には続発閉塞隅角緑内障に分類される.ただし水晶体の位置や形状には個人差が大きいので,原発と続発の境界は必ずしも明確ではない.続発閉塞隅角緑内障を引き起こす水晶体の問題としては,原発閉塞隅角と同様に水晶体容積の増大と水晶体の位置異常があり,これに水晶体の形状異常も加わる.それぞれの問題をきたす原因として,過熟白内障などによる膨隆水晶体,外傷やCZinn小帯の脆弱性に起因する水晶体(亜)脱臼,Marfan症候群などの全身疾患に伴う球状水晶体などがある.それぞれの病態の詳細については本特集の各論の稿に譲る.CII水晶体に関連した開放隅角緑内障水晶体に関連する開放隅角緑内障は,いずれも水晶体.が破綻して水晶体の内容物が水晶体.外に拡散ないし漏出することが発症のトリガーとなる.原因としては,成熟ないし過熟白内障,白内障手術,その他の内眼手術,後発白内障切開などのレーザー治療,外傷などがある.眼圧上昇のメカニズムとしては,水晶体蛋白の.外漏出による線維柱帯の微小閉塞,水晶体小片による物理的な隅角の閉塞,水晶体成分の.外漏出によって引き起こされた炎症あるいはアレルギー反応,前房水の蛋白濃度上昇による浸透圧の変化,などがあげられ,病態が遷延すれば二次的な線維柱帯組織の変化も加わると思われる.水晶体が関連する開放隅角緑内障は,その病態により下記のように分類されるが,複数の分類にまたがったマルチメカズムによる水晶体関連開放隅角緑内障症例も多いと思われる.C1.水晶体融解緑内障(水晶体蛋白緑内障)白内障が成熟白内障ないし過熟白内障に進行すると,水晶体が融解し水晶体蛋白が水晶体.外に流出する場合がある.漏出した水晶体蛋白を貪食したマクロファージ9),あるいは水晶体蛋白そのもの10)が線維柱帯を閉塞するのが本緑内障の病態である.眼圧上昇には物理的な閉塞と炎症の両者が寄与している.原則として片眼性で,しばしば急性の経過をとる.C2.水晶体小片緑内障白内障手術,後発白内障に対するレーザー手術,外傷などによって水晶体の小片が前房に拡散し,隅角を閉塞して眼圧が上昇する11).上述の水晶体蛋白緑内障と眼圧上昇のメカニズムはオーバーラップする場合もある.1106あたらしい眼科Vol.C36,No.9,2019(4)3.水晶体過敏緑内障(水晶体アナフィラキシー緑内障)水晶体蛋白は生体にとって隔離抗原であるが,白内障手術や外傷,あるいは過熟白内障による水晶体蛋白の.外への流出によって水晶体蛋白を抗原とする自己免疫反応が引き起こされ12),これが原因となって眼圧が上昇する13).CIII治療総論緑内障ガイドライン14)では緑内障治療の原則として「治療できる原因があれば原因治療」としている.水晶体関連緑内障は水晶体が原因となって発症する緑内障であるから,この原則があてはまる.水晶体関連の閉塞隅角緑内障については,水晶体を除去することで原因治療はほぼ完遂されるので,水晶体を摘出すべきではない特段の理由がなければ第一選択治療として水晶体摘出ないし水晶体再建術を適用すべきである.ただし,若年者での水晶体再建術では調節力の喪失のデメリットもあり,水晶体関連の閉塞隅角緑内障ではしばしば水晶体再建術の合併症リスクが高くなるので,手術のメリットがそのデメリットやリスクを上回るかどうかを個別に判断していかなければならない.水晶体を除去したあとも周辺虹彩の器質的癒着や線維柱帯の変化など二次的変化により高眼圧が解消されない場合もまれではない.その場合には,周辺虹彩癒着に対しては癒着解離術の追加,あるいは開放隅角メカニズムに対しては薬物治療や線維柱帯切開術,線維柱帯切除術などの手術治療を検討する.水晶体に関連する開放隅角緑内障についても原因治療として水晶体,あるいは残余水晶体を可及的に除去することが治療の原則である.ただし,原因である水晶体を除去しても二次的な問題により眼圧上昇は直ちには解消しない場合も多い.上述した閉塞隅角緑内障の二次的変化に対する治療と同様に開放隅角メカニズムに対する薬物治療や手術治療を検討していくこととなるが,加えて炎症が関与する水晶体関連開放隅角緑内障ではステロイド投与などの消炎治療も必要となる.治療の詳細についてはそれぞれの病型についての各論の稿を参照されたい.文献1)HermansCEA,CPouwelsCPJ,CDubbelmanCMCetal:ConstantCvolumeCofCtheChumanClensCandCdecreaseCinCsurfaceCareaCofCtheCcapsularCbagCduringaccommodation:anCMRICandCScheimp.ugCstudy.CInvestCOphthalmolCVisCSciC50:281-289,C20092)AptelCF,CDenisP:OpticalCcoherenceCtomographyCquanti-tativeCanalysisCofCirisCvolumeCchangesCafterCpharmacologicCmydriasis.COphthalmologyC117:3-10,C20103)FosterCP,CHeCM,CLiebmannJ:Epidemiology,Cclassi.cationandCmechanism.In:AngleCclosureCandCangleCclosureCglauC-coma(editedCbyCWeinrebCRN,CFriedmanDS)C.Cp1-20,CKuglerCPublication,CNetherlands,C20064)MapstoneR:MechanicsCofCpupilCblock.CBrJOphthalmolC52:19-25,C19685)NonakaCA,CKondoCT,CKikuchiCMCetal:AngleCwideningCandCalterationCofCciliaryCprocessCcon.gurationCafterCcata-ractCsurgeryCforCprimaryCangleCclosure.COphthalmologyC113:437-441,C20066)KurimotoCY,CParkCM,CSakaueCHCetal:ChangesCinCtheCanteriorCchamberCcon.gurationCafterCsmall-incisionCcata-ractCsurgeryCwithCposteriorCchamberCintraocularClensCimplantation.CAmJOphthalmol124:775-780,C19977)Azuara-BlancoCA,CBurrCJ,CRamsayC;EAGLECstudygroup:E.ectivenessCofCearlyClensCextractionCforCtheCtreat-mentCofCprimaryCangle-closureglaucoma(EAGLE):aCrandomisedCcontrolledCtrial.CLancetC388:1389-1397,C20168)LoweRF:CausesCofCshallowCanteriorCchamberCinCprimaryCangle-closureCglaucoma.CUltrasonicCbiometryCofCnormalCandCangle-closureCglaucomaCeyes.CAmCJCOphthalmolC67:C87-93,C19699)FlocksCM,CLittwinCCS,CZimmermanLE:PhacolyticCglauco-ma;aCclinicopathologicCstudyCofConeChundredCthirty-eightCcasesCofCglaucomaCassociatedCwithChypermatureCcataract.CArchOphthalmol54:37-45,C195510)EpsteinCDL,CJedziniakCJA,CGrantWM:Identi.cationCofCheavy-molecular-weightCsolubleCproteinCinCaqueousChumorCinChumanCphacolyticCglaucoma.CInvestCOphthalmolCVisCSciC17:398-402,C197811)EpsteinCOL,CJedziniakCJA,CGrantWM:ObstructionCofCaqueousCout.owCbyClensCparticlesCandCbyCheavy-molecu-lar-weightCsolubleClensCproteins.CInvestOphthalmolVisSciC17:272-277,C197812)RahiCAH,CMisraCRN,CMorganG:ImmunopathologyCofCtheClens.CIII.CHumoralCandCcellularCimmuneCresponsesCtoCautol-ogousClensCantigensCandCtheirCrolesCinCocularCin.ammation.CBrJOphthalmolC61:371-379,C197713)PerlmanCEM,CAlbertDM:ClinicallyCunsuspectedCphaco-anaphylaxisCafterCocularCtrauma.CArchCOphthalmolC95:C244-246,C197714)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン(第C4版).日眼会誌C122:5-53,C2018(5)あたらしい眼科Vol.C36,No.9,2019C1107