Muller細胞TRPV4.離網膜における視細胞死とMuller細胞TRPV4の関係網膜.離は裂孔原性網膜.離のほか,糖尿病網膜症や加齢黄斑変性などさまざまな疾患に合併します.治療によって網膜が復位しても,.離期間中に起こる視細胞死により恒久的な視力障害をきたします.このため,.離網膜における視細胞死のメカニズムを解明し,それを抑制することは,原疾患の治療と同様に重要といえます.炎症は.離網膜における視細胞死の原因の一つと考えられています.これまでの研究で,.離網膜下には多くのマクロファージが遊走してきて.離網膜における視細胞死に関与すること,マクロファージが遊走してくる原因はCMuller細胞から放出されるCMCP-1(monocyteCchemoattractantCpro-tein-1)であることがわかっていました1).しかし,どのようなメカニズムで.離網膜のCMuller細胞からCMCP-1が放出されるかは不明でした.TRP(“トリップ”と読む)は非選択性陽イオンチャネルです.1989年にショウジョウバエの光受容応答変異株の原因遺伝子としてCtrp遺伝子は発見されました.trp変異株では,光刺激に対して受容器電位(receptorpotential)の変化が一過性(transient)であることからCTRP(transientCrecep-torpotential)と命名されました2).TRPイオンチャネルスーパーファミリーはC7個のサブファミリーに分類され,その一つがCTRPV(vanilloid)で,TRPVはさらに1~6に分類されます.TRPV4はさまざまな種類の細胞に存在し,機械的刺激,低浸透圧刺激,熱刺激,アラキドン酸とその代謝産物などにより活性化されます.TRPV4が活性化した細胞は,炎症性サイトカインやCATPを放出することが報告されています.網膜の細胞では,Muller細胞と一部の神経節細胞にTRPV4が発現しています.筆者らはこのCMuller細胞のTRPV4に着目し,Muller細胞がCMCP-1を放出するメカニズムをマウス網膜.離モデルを用いて解明しました3)..離網膜ではCMuller細胞が膨化します.膨化したCMuller細胞では細胞膜の伸展刺激(機械的刺激)によってCTRPV4が異常活性化し,CaC2+が細胞内に流入することによってCMCP-1が放出されます.MCP-1はマクロファージの遊走や活性化をうながすサイトカインであり,活性化したマクロファージが.離網膜下に遊走してきて視細胞に傷害を与えると考えられます(図1).(99)C0910-1810/19/\100/頁/JCOPY松本英孝群馬大学大学院医学系研究科脳神経病態制御学講座眼科学今後の展望TRPV4阻害薬の硝子体内注射や硝子体手術時の還流液にCTRPV4阻害薬を加えるなどの方法で,.離網膜における視細胞死を抑制できるようになる可能性があります.また,Muller細胞の膨化を伴う網膜疾患である糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症においても,網膜浮腫と眼内のCMCP1濃度は相関していることが報告されています.これらのことから,網膜.離におけるCMuller細胞CTRPV4の役割を理解することによって,他の網膜疾患の病態解明にもつながる可能性があります.文献1)NakazawaCT,CHisatomiCT,CNakazawaCCCetal:MonocyteCchemoattractantCproteinC1CmediatesCretinalCdetachment-inducedphotoreceptorapoptosis.ProcNatlAcadSciUSAC104:2425-2430,C20072)MontellCC,CRubinGM:MolecularCcharacterizationCofCtheCDrosophilaCtrplocus:CaCputativeCintegralCmembraneCpro-teinCrequiredCforCphototransduction.CNeuronC2:1313-1323,C19893)MatsumotoCH,CSugioCS,CSeghersCFCetal:RetinalCdetach-ment-inducedCMullerCglialCcellCswellingCactivatesCTRPV4CionCchannelsCandCtriggersCphotoreceptorCdeathCatCbodyCtemperature.JNeurosci38:8745-8758,C2018あたらしい眼科Vol.36,No.12,2019C1575