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乱視眼への遠近両用ソフトコンタクトレンズ処方

2019年10月31日 木曜日

乱視眼への遠近両用ソフトコンタクトレンズ処方ThePrescriptionofMultifocalSoftContactLensesforAstigmatism小玉裕司*はじめに遠近両用ソフトコンタクトレンズ(softcontactlens:SCL)は遠近の情報が一緒に入る同時視型のデザインであるため,単焦点のSCLに比較すると視力の質は追加度数が大きくなるほど落ちてくる.そのために,乱視眼にとってはさらに視力の質が低下し,満足する視力を提供できないことも多い.乱視を有する患者が遠近両用SCLを希望した場合,支障なく生活できる水準をめざすことをしっかりと伝えておくことが重要である.乱視がないユーザーに遠近両用SCLを処方するときにも,単眼での視力測定はせずに両眼にて遠近の視力を測定し,生活に支障のない度数を選定することが勧められているが,乱視を有するユーザーの場合にあっては,この方法を厳守しなければならない.I0.75D未満の乱視眼0.75D未満の乱視眼においては,経験的に比較的ユーザーに満足のいく視力を提供することができる.症例151歳,男性.事務職.球面SCLの度数を落として対応してきたが,遠近ともに見づらくなり,遠近両用SCLを希望して来院.完全矯正値優位眼(利き目)は右眼RV=(1.2×S-6.25D(C-0.50DAx170°)LV=(1.2×S-7.25D(C-0.25DAx165°)NBV=(0.7)(加入+1.25D)使用球面SCLRV=(0.7×880/-5.00/14.2)(1dayPureうるおいプラス)LV=(0.6×880/-5.75/14.2)(1dayPureうるおいプラス)NBV=(0.5×SCL)処方遠近両用SCLR:880/-5.50/14.2/+0.75(1dayPureマルチステージ)(表1)L:880/-6.50/14.2/+0.75(1dayPureマルチステージ)BV=(1.0)NBV=(0.6)このように,0.75D未満の乱視眼においては遠近とも表11dayPureマルチステージのスペックSCL分類グループIV(イオン性高含水レンズ)30×10-11(cm2/sec)・(mlO2/(mlmmHg))42.9×10-9(cm/sec)・(mlO2/(ml×mmHg))(-3.00D)+5.00D.-10.00D(0.25Dステップ)+0.75,+1.5058%ブルー0.07mm(-3.0D)8.80mm14.2mm1箱32枚入Dk値Dk/L値度数加入度数含水率レンズカラー中心厚ベースカーブ直径包装*YujiKodama:小玉眼科医院〔別刷請求先〕小玉裕司:〒〒610-0121京都府城陽市寺田水度坂15-459小玉眼科医院0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(29)1251==--==--===--=--表2メダリスト・マルチフォーカルのスペック表32WEEKMeniconプレミオ遠近両用のスペックSCL分類グループI9.5×10-11(cm2/sec)・(mlO2/(ml×mmHg))38.6%ライトブルー14.5mm0.10mm(-3.00D)8.7mm,9.0mm+5.00D.+4.50D(0.50Dステップ)+4.00D.-7.00D(0.25Dステップ)Low(.+1.50D),High(.+2.50D)6枚(片眼用約3カ月分)Dk値含水率レンズカラー直径(DIA)中心厚ベースカーブ球面度数加入度数枚数(1箱)SCL分類グループI129×10-11(cm2/sec)・(mlO2/(ml×mmHg))40%14.2mm0.08mm(-3.00D)8.6mm+5.00D.-6.00D(0.25Dステップ)-6.50D.-13.00D(0.50Dステップ)+1.00,+2.00D酸素透過係数含水率直径中心厚ベースカーブ球面度数加入度数=--=--====-===--=--==表4バイオフィニティ・マルチフォーカルのスペックSCL分類グループI128×10-11(cm2/sec)・(mlO2/(ml×mmHg))48%アクアブルー14.0mm0.10mm(-3.00D)8.6mm+5.00D.-6.00D(0.25Dステップ)-6.50D.-10.00D(0.50Dステップ)+1.00D,+1.50D,+2.00D酸素透過係数含水率レンズカラー直径中心厚ベースカーブ球面度数加入度数-==-==-表52WEEKMeniconプレミオ遠近両用トーリックのレンズデザイン老視矯正乱視矯正プログレッシブコンセントリックトーリック光学部デザインレンズ前面レンズ後面マーキングガイドマーク上下ドット(レンズ上下に各1本線)=--=---==表62WEEKMeniconプレミオ遠近両用トーリックの製作範囲球面度数0.00.-6.00(0.25Dステップ)-6.00D.-10.00D(0.50Dステップ)加入度数+1.00D円柱度数-0.75D,-1.25D軸180°,90°==

コンタクトレンズ装用における老視

2019年10月31日 木曜日

コンタクトレンズ装用における老視PresbyopiaAssociatedwithContactLensWear月山純子*はじめに少子高齢化が進む日本では,コンタクトレンズ(con-tactlens:CL)処方時に老視の問題を考える機会が多い.人口を年齢順に並べたときに,その中央で人口を二等分する境界点にあたる年齢を中位年齢というが,2020年に日本は48.9歳となり,世界平均の30.9歳を大きく上回る1).単純に考えて,人口の半分以上が老視世代といえる.また,平均寿命が伸び続けており,2007年に生まれた子供の半数以上が107歳より長く生きるという予測2)もあり,人生100年時代が現実味を帯びてきた.人生の半分以上を老視の状態で過ごさなければいけないことになり,CL処方において老視の問題は避けられない.スマートフォン(以下,スマホ)などのデジタルデバイス時代においては,老視の問題にうまく対処できないと,眼精疲労を生じるだけでなく,仕事の生産性の低下や,頭痛や肩こりなど身体的な辛さを助長してしまうことになる.そこで,本稿ではCL装用における老視の問題について,さまざまな角度から述べる.ICLと眼鏡の違い(表1)1.見かけの調節力(spectacleaccommodation)の影響CLは,眼鏡と比較してレンズの位置が約12mm眼球寄りとなる.この眼鏡とCLの距離を頂点間距離という.この12mmの距離があるために眼鏡とCLでは,近方視するときに必要な調節力に差が生じる.遠視と近視では異なるために意識する必要がある.基礎的なことではあるが,おさらいをしておきたい.眼鏡装用時の調節力をspectacleaccommodationというが,日本語訳では「見かけの調節力」という.見かけの調節力の間便な算出方法を以下に示す.B(D):見かけの調節力Acc(D):物体までの距離の逆数L(D):眼鏡レンズ度数k(m):頂点間距離AccB≒1.2kLたとえば,.4.0Dの眼鏡を角膜頂点から12mm(0.012m)の位置に装用して,25cm(0.25m)にある物体を見たときの見かけの調節力B(D)は,B≒1/0.25=3.65D1.2×〔0.012×(.4.0)〕となる.眼鏡であれば,25cmのところを見るのに3.65Dの調節力ですむのに,CLであれば4.0D必要なので,より多くの調節力を要する.逆に+2.0Dの遠視であれば*JunkoTsukiyama:社会医療法人博寿会山本病院眼科〔別刷請求先〕月山純子:〒648-0072和歌山県橋本市東家6-7-26社会医療法人博寿会山本病院眼科0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(21)1243表1CLと眼鏡の違い近視遠視見かけの調節力の影響眼鏡と比べてCLでは,近くのものを見るときに必要な調節力が多くなる.眼鏡のほうが有利眼鏡と比べてCLでは,近くのものを見るときに必要な調節力が少なくてすむ.CLのほうが有利輻湊眼鏡のほうがレンズのプリズム効果により,近方視時の輻湊が少なくてすむ.眼鏡のほうが有利眼鏡のほうがレンズのプリズム効果により近方視時に余分な輻湊が必要.CLのほうが有利視野の歪みの自覚眼鏡のほうが自覚しやすいが,像が縮小して見える分,遠視ほどは歪みを自覚しにくい.CLのほうが有利眼鏡のほうが自覚しやすいとくに遠視では像が拡大して見えるので視野の歪みを自覚しやすい.CLのほうが有利整容面眼鏡では眼が小さく見えるが,眼の周りのシミやシワも縮小して見える.CLのほうが有利?眼鏡では眼が大きく見え,眼の周りのシミやシワも一緒に拡大される.CLのほうが有利遠視の場合と近視の場合.それぞれの特性を理解して処方することが大切である.=図1SCLの表と裏表か(Ca),裏か(Cb),レンズの種類にもよるが,SCLの表と裏はわかりにくいため,老視が進行する前にSCLの扱いに慣れてもらいたい.患者「先生,最近疲れやすいんです.」「スマホを長時間見てるととくに…」医師「それは老眼だから当然です.」「遠近両用CLにしましょう.医学的には正しいが,受け入れていただきにくい….「スマホなど,近くのものを見るときに疲れやすいのですね.」「最近は,近くを見やすくするCLがありますよ.」「一度試してみませんか?」受け入れていただきやすい.図2遠近両用CLの勧め方最初に共感の言葉をいってから問題解決フレーズを使うと,遠近両用CCLを受け入れてもらいやすい.HCLSCL同時視型+交代視型同時視型遠方視時下方視したときにレンズが上に上がる近方視時図3遠近両用SCLとHCLの違いHCLは同時視型であるが交代視型の要素もある.SCLでは同時視型.非優位眼の優位眼の加入度数を変える加入度数を変えるLow→Med→HighにHigh→Med→Low→単焦点レンズ図5近くが見えにくい場合,遠くが見えにくい場合のフローチャート眼鏡の加入度数=CLの加入度数収差がどれくらい?どれくらいボケている?図4加入度数の考え方交代視型である眼鏡と,基本的に同時視型であるCCLの加入度数は異なる.両眼開放片眼遮蔽片眼遮蔽時よりも縮瞳する・焦点深度が深くなる・収差が減少図6両眼開放下と片眼遮蔽時の瞳孔径の違い両眼開放により,少し縮瞳することで焦点深度が深くなり,収差が減少する.-

デジタルデバイス時代

2019年10月31日 木曜日

デジタルデバイス時代DigitalDeviceUsageintheModernEra東原尚代*山岸景子**はじめに眼精疲労は眼の病的な疲労であり,休息によっても容易に回復しないのが特徴である.鈴村は眼精疲労の発症要因を外環境要因〔visualdisplayterminal(VDT)作業,冷暖房などによる刺激〕,視器要因(屈折異常や輻湊障害,斜位などの眼科的異常),内環境要因・心的要因(人間関係や仕事へのプレッシャーなどさまざまなストレス)の3者のバランスの崩れとして説明した1).近年,デジタルデバイスは急速に普及しており(図1)2),眼にまつわる諸問題として「IT(informationtechnolo-gy)眼症」「VDT症候群」「テクノストレス眼症」などとよばれ注目されている.なかでもスマートフォン(以下,スマホ)使用は低年齢化し(図2),あらゆる年代においてデジタルデバイスによる視覚への影響が懸念される.ここでは,デジタルデバイスの歴史や視覚に及ぼす影響を考え,デジタルデバイス時代を乗り切る対策についてまとめた.Iデジタルデバイス普及の歴史1995年にパーソナルコンピューター(以下,パソコン)基本ソフトWindows95に初めてインターネット接続機能が搭載され,これが日本でも急速にインターネットが普及するきっかけとなった.2000年にはノートブックパソコンがデスクトップパソコン出荷台数を追い越し,それに伴いインターネットでの検索エンジンやネットショッピングが普及して,FacebookやLINEなどsocialnetworkingservice(SNS)が若い世代を中心に広く浸透した.一方,携帯電話については1994年頃の普及率は1.7%程度だったが,1995年にはコードレス電話としてpersonalhandy-phonesystem(PHS)のサービスが始まり,1996年に着メロやメールといったサービスが付加されてPHSの普及率は21.5%に上昇した.さらに2001年に日本で世界初の第三世代携帯電話(いわゆるフューチャーフォン)が発売され,パソコンと同じポータルサイトでWEB検索ができるようになり,携帯電話の普及率は2005年に70.5%と飛躍的に上昇した.その後,iPhoneが日本に上陸した2008年から一気にスマホユーザーが増えていく.スマホの個人保有率は2011年には14.6%であったが,2016年には56.8%を超え,なかでも20代,30代は90%以上がスマホを個人所有するようになった3).2010年にはiPadも発売され,現在,タブレット型端末は教育現場でも取り入れられるほどになった(表1).IIデジタルデバイスの使用環境平成28年の総務省情報通信政策研究所の調査によると,全世代を通してインターネットの平日平均利用時間は2012年の76分から2016年は103分へ,休日平均使用時間は2012年の88分から2016年は123分へと増加した.とくにモバイル端末の利用時間が増加傾向にあり,10代,20代の休日のモバイル利用時間の平均は*HisayoHigashihara:ひがしはら内科眼科クニック**KeikoYamagishi:かしはら山岸眼科クリニック〔別刷請求先〕東原尚代:〒621-0861京都府亀岡市北町57-13ひがしはら内科眼科クリニック0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(15)1237(%)10090固定電話携帯電話・PHS(スマートフォンを含む)8070パソコン60スマートフォン72.0%50パソコンとスマホの保有割合の差は大幅に縮小タブレット型端末4033.3%3020タブレット型端末は10着実に伸びており26.3%→33.3%に0平成22平成23平成24平成25平成26平成27年末年末年末年末年末年末固定電話85.883.879.379.275.575.6パソコン83.477.475.881.778.076.8スマートフォン9.729.349.562.664.272.0携帯電話・PHS93.294.594.594.894.695.8タブレット型端末7.28.515.321.926.333.3※当該比率は,各年の世帯全体における各情報通信機器の保有割合を示す.図1おもな情報通信機器の保有状況(世帯)(平成22年~27年)スマートフォンを保有している世帯の割合は上昇を続け,パソコンを保有している世帯との差が縮小している.タブレット型端末の保有割合も上昇している.(文献C2より引用)図2小中高生でのスマートフォン・携帯電話の所有・利用状況(内閣府調べ)中高生だけでなく小学生でもスマホの所有・利用率が高くなっている.表1デジタルデバイスの歴史年表パソコン携帯タブレット端末ゲーム機1989年ゲームボーイ発売1995年Windows95発売PHSサービス開始1996年Yahoo!Japanサービス開始着メロブーム到来1997年楽天市場サービス開始ドコモメールサービス開始1999年携帯番号の桁数がC11桁に初のカメラ搭載携帯発売2000年ノート型がデスクトップを超えるGoogle日本語検索サービス開始AmazonJapanサービス開始2002年ブログの普及写真付きメールサービス開始タッチパネルCPC発売2004年mixi・Facebook誕生,Youtube設立ドコモおサイフケータイ開始任天堂CDS,ソニーCPSP発売2007年iPhone発売AmazonKindle発売2010年iPad発売2011年LINE登場任天堂C3DS発売表2デジタルデバイス環境での眼精疲労対策(AAOのホームページより改変引用)表3低加入度遠近両用SCLの製品特徴2週間交換1日使い捨て商品名2WEEKメニコンCDUOバイオフィニティアクティブプライムワンデースマートフォーカスシードC1dayPureうるおいプラスCFLEX製造元メニコンクーパービジョンアイレCSEEDFDA分類グループCIIグループCIグループCIVグループCIV物性Dk値C含水率3472%12848%2858%3058%製作範囲CBC度数直径加入度数その他8.6CmmC.0.25D.C.6.00D(C0.25Dステップ)C.6.50D.C.10.0D(C0.50Dステップ)14.5CmmC0.50Dガイドマーク入り8.6CmmCC5.00D.C.6.00D(C0.25Dステップ)C.6.50D.C.10.0D(C0.50Dステップ)14.0CmmC0.25Dシリコーンハイドロゲル素材8.8CmmC1.00D.C-7.00D(C0.25Dステップ)14.2CmmC0.50Dレギュラーパック(3C0枚)ミニパック(5枚),UVカット機能8.8CmmC5.00D.C.10.0D(C0.25Dステップ)C.10.50D.C.12.0D(C0.50ステップ)14.2Cmm0.50DUVカット機能,3C2枚入り光学イメージ図株式会社メニコンより提供クーパービジョン・ジャパン株式会社より提供シード株式会社より提供パッケージ外観株式会社メニコンより提供クーパービジョン・ジャパン株式会社より提供株式会社アイレCHPより引用シード株式会社より提供各製品のスペック,特性をまとめた.レンズの中心は遠用で周辺が近用タイプとなっている.梶田ら21)は,眼の疲れを自覚する近見作業従事者を対象に,低加入度遠近両用CSCL(2WEEKメニコンCDUO)とC2週間交換単焦点CSCLをC2週間ごとに両眼にクロスオーバーで装用させ,自覚症状とCAA-1で調節微動の高周波成分出現頻度(highCfrequencyCcomponent:HFC)を計測した.両CSCLで装用前後のCHFCに有意差はなかったものの,夕刻に測定されたC7名はメニコン2WEEKメニコンCDUO装用でCHFCが有意に低下したことより,近見作業で生じる調節緊張の緩和に有効と示唆している.調節力が十分ある若い年代であっても,単焦点CSCLを装用してデジタルデバイスを長時間使用し続ければ調節に負荷がかかる.患者の症状や生活環境を丁寧に問診してうまく低加入度CSCLへ切り替えできれば,デジタルデバイスによる眼性疲労の緩和に寄与できる可能性がある.おわりにデジタルデバイスの浸透により今後さらに眼精疲労を訴える患者の増加が懸念される.デジタルデバイスが視覚に及ぼす影響を考慮し,環境整備を配慮するだけでなく低加入度遠近両用CSCLを含めた対策が求められる.SCL装用はドライアイのリスクファクターであるため,慎重な適応の見きわめや必要に応じて点眼の併用も検討しなければならない.文献1)鈴村昭弘:主訴からする眼精疲労の診断.眼精疲労(三島済一編),眼科CMOOK23,p1-9,金原出版,19852)総務省:平成C27年通信利用動向調査の結果(URL:http://Cwww.soumu.go.jp/johotsusintokei/statistics/statistics05.html)3)総務省:通信利用動向調査.スマートフォン個人保有率の推移Chttp://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/statistics/Cstatistics05.html4)総務省情報通信政策研究所:平成C28年情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書.p96,20175)BababekovaY,Rosen.eldM,HueJEetal:FontsizeandviewingCdistanceCofChandheldCsmartCphones.COptomCVisCSci88:795-797,C20116)野原尚美,松井康樹,説田雅典ほか:携帯電話・スマートフォン使用時および書籍読書時における視距離の比較検討.あたらしい眼科32:163-166,C20157)YoshimuraCM,CKitazawaCM,CMaedaCYCetal:SmartphoneCviewingdistanceandsleep:anexperimentalstudyutiliz-ingCmotionCcaptureCtechnology.CNatCSciCSleepC9:59-65,C20178)JenniferCL,CReneCC,CSimonCDCetal:ViewingCdistanceCandCeyestrainCsymptomsCwithCprolongedCviewingCofCsmart-phones.ClinExpOptomC100:133-137,C20179)原直人:デジタル機器により生じる視機能の弊害.2019/2/19日本眼科医会記者懇談10)小野里規子,原直人,新井田孝裕ほか:スマートフォン長時間利用による高校生の調節機能への影響:第C56回日本神経眼科学会11)厚生労働省:平成C20年技術革新と労働に関する実態調査.VDT作業における身体的な疲労や症状をもつ労働者の割合12)UchinoCM,CYokoiCN,CUchinoCYCetal:PrevalenceCofCdryCeyeCdiseaseCandCitsCriskCfactorsCinCvisualCdisplayCterminalusers:theOsakastudy.AmJOphthalmol156:759-766,C201313)PortelloJK,Rosen.eldM,ChuCA:Blinkrate,incompleteblinksandcomputervisionsyndrome.OptomVisSci90:C482-487,C201314)ChuCCA,CRoawn.eldCM,CPortelloJK:Blinkpatterns:Creadingfromacomputerscreenversushardcopy.OptomVisSciC91:297-302,C201415)GowrisankaranCS,CSheedyCJE,CHayesJR:EyelidCsquintCresponsetoasthenopia-inducingconditions.OptomVisSci84:611-619,C200716)Miyake-KashimaM,DogruM,NojimaTetal:Thee.ectofCantire.ectionC.lmCuseConCblinkCrateCandCasthenopicCsymptomsCduringCvisualCdisplayCterminalCwork.CCornea24:567-570,C200517)文部科学省:児童生徒の健康に留意してCICTを活用するためのガイドブック.文部科学省生涯学習政策局,2018Chttp://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/Cmicro_detail/_icsFiles/a.eld.le/2018/08/14/1408183_5.Cpdf18)HirotaM,KandaH,EndoTetal:BinocularcoordinationandCreadingCperformanceCduringCsmartphoneCreadingCinCintermittentCexotropia.CClinCOphthalmolC12:2069-2078,C201819)Salmero-CampillRM,JaskulskiM,Lara-CanovasSetal:CNovelmethodofremotelymonitoringtheface-devicedis-tanceCandCfaceCilluminanceCusingCmobiledistance:aCpilotCstudy.CHindawiCJournalCofCOphthalmologyC2019:ArticleCID1946073,C201920)AAOホームページChttps://www.aao.org/eye-health/tips-prevention/computer-usage21)梶田雅義,山崎愛,入道香澄ほか:調節緊張を緩和する新デザインコンタクトレンズの評価.日コレ誌C54:27-30,C2012C1242あたらしい眼科Vol.36,No.10,2019(20)

コンタクトレンズ装用における残余乱視と持ち込み乱視

2019年10月31日 木曜日

コンタクトレンズ装用における残余乱視と持ち込み乱視ResidualAstigmatismandBringing-inAstigmatismWhenWearingContactLenses糸井素純*I残余乱視,持ち込み乱視とはコンタクトレンズ(contactlens:CL)装用時の残余乱視とは,CLを装用した状態で残っている(矯正しきれていない)乱視である.残余乱視にはCCL装用で完全に矯正しきれなかった乱視のみならず,CL装用による持ち込み乱視も含まれる1).持ち込み乱視とはCCLを装用することにより,これまでなかった乱視が出現したり,乱視の状態が変化することをいう1).典型的にはハードコンタクトレンズ(hardcontactlens:HCL)を装用したときに角膜前面の乱視が矯正されるため,水晶体乱視が表面化し,これまでなかった乱視が出現したり,乱視の状態が変化することをいう.乱視用ソフトコンタクトレンズ(softcontactlens:SCL)装用でも,レンズが回転し,静止位置が不適切であると,持ち込み乱視が出現する.CII残余乱視と眼精疲労残余乱視があると視界のブレを自覚し,それが眼精疲労の原因と考え,眼科を受診する人が少なくない.実際にはそのような症例の多くは,見にくくなったという理由で過矯正のCCLを使用していることが多い.残余乱視に伴う眼精疲労を治療するためには,単に度数を強くするのではなく,残余乱視の発生機序を理解し,残余乱視が最小限になるようなCCLを選択し,適正な度数で処方する必要がある.代表的な残余乱視のパターン別に症例を紹介し,解説とその対策を述べる.C1.残余乱視①(持ち込み乱視):HCL装用による水晶体乱視の表面化症例C1:18歳,女性.HCLをCCL量販店で購入したが,手持ちの眼鏡よりも見にくいという主訴で来院した.初診時の裸眼視力は右眼C0.06,左眼C0.09,矯正視力は右眼C1.2,左眼C1.2,眼鏡視力(右CS.5.0D,左CS.4.25D)は右眼C1.0,左眼C1.0.他覚的屈折値は右眼CS.6.5D(C.0.25DAx105°,左眼CS.5.5D,自覚的屈折値は右眼CS.5.25D(C.0.25DCAx100°,左眼S.4.25D,角膜曲率半径値は右眼C7.75mm(61°)/7.83mm(151°)角膜乱視C0.5D,左眼C7.75mm(103°)/7.84mm(13°)角膜乱視C0.5Dであった.図1は前眼部光干渉断層計(anteriorCsegmentCopticalCcoherencetomography:AS-OCT,CASIA)による角膜形状解析の結果である.手持ちCHCLは右眼C7.90Cmm/.5.50D/8.8Cmm,左眼C7.90Cmm/.4.75D/8.8CmmでCCL視力は右眼C0.7,左眼C0.8であった.手持ちレンズを装用した状態でオートレフラクトメータで屈折状態を確認したところ,右眼CS+1.0D(C.1.5DAx90°,左眼CS+1.25D(C.1.5DCAx90°とHCL装用により倒乱視が生じ,過矯正にもかかわらず,CL矯正視力はC1.0未満であった.当院でC1日使い捨てシリコーンハイドロゲルCCL(右眼C9.0Cmm/.4.25D/14.2mm,左眼C9.0Cmm/.3.5D/14.2mm)を処方し,CL矯正視力は右眼C1.2,左眼C1.2であ*MotozumiItoi:道玄坂糸井眼科医院〔別刷請求先〕糸井素純:〒150-0043東京都渋谷区道玄坂C1-10-19道玄坂糸井眼科医院C0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(9)C1231図2乱視用ソフトコンタクトレンズ装用時の軸ずれ10時半方向に軸マークがみられる.図1前眼部光干渉断層計(CASIA)の角膜前面のaxial表示角膜前面の乱視はC0.5Dと非常に少ない.図3従来型ソフトコンタクトレンズ装用による角膜変形前眼部光干渉断層計(CASIA)による解析画面.上段:ソフトコンタクトレンズ装脱C1週間後(初診時),下段:ソフトコンタクトレンズ中止C4カ月後.初診時に角膜前面中央部のスティープ化と角膜下方の菲薄化を認め,ソフトコンタクトレンズ中止C4カ月後には正常に回復している.図5レンズ前面周辺部の溝加工(MZ加工)MZ加工により上眼瞼によるハードコンタクトレンズ保持図4プラチドリング式角膜形状解析装置(KeratronScout)がされやすくなり,レンズの安定性が向上する.のinstantenousradius表示(trueradius像)2週間頻回交換ソフトコンタクトレンズ装用による角膜変形.

ソフトコンタクトレンズ装用に伴う乱視

2019年10月31日 木曜日

ソフトコンタクトレンズ装用に伴う乱視AstigmatismAssociatedwithSoftContactLensWear樋口裕彦*(%)はじめに402018年の国別ソフトコンタクトレンズ(softcontact35lens:SCL)処方におけるトーリック(乱視用)レンズの30割合を図1に示す1).日本におけるトーリックSCLの処25方割合は17%と台湾についで低く,世界平均(32%)を20大きく下回っている.この傾向はガス透過性ハードコン15タクトレンズ(hardcontactlens:HCL)に関しても同105様であり,例年同じような状態が続いている.トーリックSCLの処方率が低い原因としては,処方者側の要因としてトーリックレンズの処方は通常の球面レンズに比べてやや手間がかかり,経験と時間が必要であること0と,装用者側の要因としてトーリックレンズが経済的にやや高価であることなどが推測される.しかしながら,わが国のコンタクトレンズ(contactlens:CL)装用者の未矯正の乱視による不良な視機能や,結果として生じうる眼精疲労などの弊害をこのままにしておいてよいのであろうか?CL装用に伴う乱視には,正乱視眼に対して球面SCLを装用したときの残余乱視,トーリックSCLを装用したときの円柱度数不足に伴う残余乱視や軸ずれによって生じる乱視(残留屈折値),不正乱視眼に対して球面SCLやトーリックSCLを装用したときに残存する不正乱視,水晶体乱視が存在する正乱視眼や全乱視を認めない眼に対してHCLを装用したときに生じる持ち込み乱視,円錐角膜などの不正乱視に対してHCLを装用したときの角膜後面形状に由来する残余(不正)乱視などが図1国別SCL処方におけるトーリックレンズの割合(2018年)日本におけるトーリックレンズの処方割合は,世界平均を大きく下回っている.ある.本稿では,SCL装用に伴う乱視について述べる.I乱視の種類とその問題点乱視とは眼の経線によって屈折力が異なるため,外界の1点から出た光線が眼内で1点に結像しない状態をいい,正乱視と不正乱視に大別される.正乱視眼では直交する強い屈折力をもつ経線(強主経線)と弱い屈折力をもつ経線(弱主経線)が存在し,無限遠の1点から出た光線は,それぞれの経線方向で前焦線と後焦線に結像する.前焦線と後焦線の間を焦域とよび,正乱視眼では焦*HirohikoHiguchi:ひぐち眼科〔別刷請求先〕樋口裕彦:〒180-0004東京都武蔵野市吉祥寺本町1-8-3ダイヤガイビル4Fひぐち眼科0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(3)1225表1全乱視の強さと選択すべきCLの関係全乱視の強さ軽度(.C0.75D)中等度(C1.00D.2.75D)強度(C3.00D.5.75D)最強度(C6.00D.)球面CSCL○.C△C×××トーリックCSCLC×.C◯C○○.C××HCLC○C○C○C○乱視矯正効果から考えた全乱視の強さと選択すべきCCLの関係を示す.○:適応,△:比較的適応,×:非適応.表2日本で処方可能な代表的なトーリック(乱視用)SCL軸度C120°C160°C170°C180°*3)C10°C20°C60°C80°C90°C100°C20°C90°C160°C180°*3)170°C180°C10°C20°C90°C160°C20°C90°C160°C180C90°C180°*4)90°C180°*4)C90°C180°20°C90°C160°C180C20°C90°C160°C180*3)*4)C160°C170°C180°*4)C10°C20°C60°C90°C120°C170°C180°*3)C10°C20°C90°C160°C20°C90°C160°C180*3)C90°C180°*4)180°C160°C170°C180°10°C20°C80°C90°C100°C160°C170°C180°10°C20°C80°C90°C100°C(1C0°間隔)C10°.C180°(1C0°間隔)C10°.C180°(5°間隔)5°.C180°円柱度数.1.75,C.2.25*3)C.0.75,C.1.25,C.1.75*3)C.0.75,C.1.25,C.1.75,C.2.25C.0.75,C.1.25,C.0.75,C.1.25,C.1.75C.0.75,C.1.25,C.1.75C.0.75,C.1.25,C.1.75C.0.75,C.1.25,C.1.75C.1.75,C.2.25C.0.75,C.1.25,C.0.75,C.1.25,C.1.75C.1.75,C.2.25C.0.75,C.1.25,C.1.75,C.2.25*3)C.0.75,C.1.25,C.1.75,C.2.25C.0.75,C.1.25,C.0.75,C.1.25,C.1.75C.0.75C.1.75,C.2.25C.0.75,C.1.25,C.1.75,C.2.25,C.2.75C.0.75,C.1.25,(0C.25間隔).0.75.C.2.75(0C.50間隔).0.75.C.3.25(0C.50間隔).0.50.C.6.00球面度数+4.00.C.9.00C±0.00.C.10.00C±0.00.C.10.00C+4.00.C.8.00C±0.00.C.10.00C±0.00.C.10.00C±0.00.C.9.00C±0.00.C.9.00C+2.00.C.10.00C±0.00.C.9.00C+5.00.C.10.00C+6.00.C.10.00C±0.00.C.10.00C±0.00.C.10.00C±0.00.C.9.00C±0.00.C.9.00C.1.50.C.8.00C+2.00.C.10.00C+5.00.C.20.00CデザインASD*2)プリズムバラストCプリズムバラストCダブルスラブオフド・トーリック・デザインCモディファイド・ハイブリップリズムバラストCプリズムバラストCプリズムバラストCプリズムバラストASD*2)プリズムバラスト8/4デザインプレシジョンバランスク・デザインCハイブリッド・トーリッダブルスラブオフCプリズムバラストCプリズムバラストCプリズムバラストCプリズムバラストプリズムバラストDk値*1)2819.78019.7224230103128110129349132341112素材ハイドロゲルCハイドロゲルCハイドロゲルCシリコーンハイドロゲルCハイドロゲルCハイドロゲルCハイドロゲルCハイドロゲルCシリコーンハイドロゲルCシリコーンハイドロゲルCシリコーンハイドロゲルCシリコーンハイドロゲルCハイドロゲルCシリコーンハイドロゲルCハイドロゲルCハイドロゲルCハイドロゲルCレンズ名ワンデーアキュビューCRRモイストC乱視用トーリックワンデーバイオメディックスCR1日使い捨てAlconハイドロゲルC26コンフォートプラスTMトーリックシリコーン1DAYメニコンプレミオトーリック64ハイドロゲルCMeniconRマイデイCトーリックRデイリーズCアクア1DAYメニコントーリックRメダリストCワンデープラス<乱視用>RバイオトゥルーCワンデートーリックシードC1dayPureうるおいプラス乱視用RRアキュビューCオアシスC乱視用RバイオフィニティーCトーリック2RAlconエアオプティクスC乱視用週間頻回交換2WEEKメニコンプレミオトーリックMenicon2WEEKメニコンレイトーリックRコンフォートモイストC<乱視用>RRメダリストCフレッシュフィットCRメダリストC66トーリックメニコンソフトC72トーリックプレノ(トーリック)アイミーソフトII・トーリックメーカーJ&JVisionCooperB&LSEEDJ&JVisionCooperB&LMeniconHOYAAimeレンズタイプ従来型*4)円柱度数により制作範囲は異なる*3)球面度数により制作範囲は異なる*2)AcceleratedStabilizationDesign用意されている.1日使い捨てトーリックSCLの円柱度数は最大C.2.25D,2週間交換トーリックSCLの円柱度数は最大C.2.75D,従来型のトーリックSCLの円柱度数は最大C.6.00DまでC.*1)酸素透過係数:C1011(cm2/sec)・(mlO2/mlmmHg)××限界がある.当院では従来型のトーリックCSCLは安全性の問題などから処方していない.したがって,現在発売されているC1日使い捨てトーリックCSCLまたはC2週間交換トーリックCSCLを用いた場合,角膜頂点間距離補正後の全乱視のうち円柱度数で.0.75D.4.00D程度までが矯正の限界と考えている.また,正乱視であっても斜乱視の場合は処方できるCSCLが限られており,円柱度数が強くなくても,処方が困難な場合が少なくない.トーリックCSCLで矯正困難な正乱視眼の場合には,装用感の改善のために径の大きいレンズを用いたり,必要があればCpiggybagsystemを用いるなどの工夫を行い,HCLの処方を積極的に勧めるべきと考えている.トーリックCSCLを処方する場合には,球面CSCLを処方する場合以上にレンズのフィッティングを慎重に行う必要がある.瞬目とともにC30°(もっとも安定する位置から±15°)以上変動するような場合は安定した良好な視力は得られにくいので,トライアルレンズを変更する.瞬目に伴うレンズの回転がC30°以内であっても,トーリックCSCLが軸ずれを起こして,ガイドマークが所定の位置からC15°以上回転して安定している場合には,回転している角度に合わせて円柱軸を補正し処方する必要がある.補正する方向については,時計回り方向に回転している場合には乱視軸に回転分の角度を加えて処方する円柱軸とし,逆に反時計回り方向に回転している場合には乱視軸から回転分の角度を減じて処方する円柱軸とする(正加半減則).レンズの規格上,円柱軸の補正が不可能な場合はトライアルレンズの種類を変更する.一般的には.0.75Dの円柱レンズはC.1.00.1.50D,C.1.25Dの円柱レンズはC.1.75D.2.25D,C.1.75Dの円柱レンズは.2.25D.2.75D,C.2.25Dの円柱レンズは.2.75D.3.25D,C.2.75Dの円柱レンズはC.3.25D.4.00Dの全乱視に対して用いるのが一つの目安となる.ただし,実際の処方にあたっては乱視の方向(直乱視や倒乱視)や年齢なども考慮する必要がある.C3.トーリックSCLの軸ずれによって生じる乱視(残留屈折値)処方したトーリックCSCLが軸ずれを起こしたときに生じる乱視(残留屈折値)について考えてみる.C.2.00Dの直乱視に対してC.1.00DCAx180°のトーリックCSCLで矯正した場合にC.1.00Dの直乱視が残ることは容易に理解ができる.それではトーリックCSCLで軸ずれが発生した場合にはどうなるだろうか?一般に完全矯正値CD1に対して,D2のレンズを装用した場合の残留屈折値CD3は図2に示すような公式で求められる3).この公式から.1.00Dの直乱視にC.1.00DCAx180°のトーリックCSCLを装用してCa°軸ずれをした場合の残留屈折値を求めると,表34)のような結果となる.この表から軸ずれがC0すなわちCa=0°であればC.1.00Dの直乱視は完全に矯正されるが,Ca=15°で残留乱視は.0.518D(軸度C142.5°)と矯正効果は半減し,Ca=30°でC.1.00D(軸度C150°)と,軸が変化するだけで乱視の矯正効果はまったく消失してしまうことがわかる.円柱度数が小さい場合には軸ずれの残留乱視への影響は小さいが,円柱度数が大きい場合には少しの軸ずれで残留乱視が大きく増えることが知られている4).したがって,トーリックCSCLを処方する場合に,瞬目によるレンズの回転が少なく,また軸ずれがない場合にはある程度強い円柱度数を処方することが可能である.逆に瞬目によるレンズの回転が比較的大きい場合には,トライアルレンズを変更するか,円柱度数を弱めに処方する必要がある.トーリックCSCLは,軸ずれを起こした場合の視機能に対する影響が大きいので,処方に際してはスリットで軸の回転がないかを十分に確認することはもちろん,レンズ装用状態で残余屈折値の有無について,オーバーレフを用いて確認し,矯正効果を確認しておくとよい.CIII不正乱視に対するSCL装用円錐角膜,角膜移植後,屈折矯正術後合併症,外傷や感染症後の角膜瘢痕,角膜変性などによる角膜表面の不規則性によって生じた不正乱視を有する症例では,いずれも高次収差が大きく,通常CSCLを処方しても良好な矯正視力が得られないか,仮に得られたとしてもコントラスト感度が低下するなど,装用者が満足するような視機能が得にくいため,HCLを処方するのが原則である.不正乱視眼にCHCLを装用した場合には,眼球の第一屈折面がCHCL前面となり,HCL後面と不正な角膜前面の1228あたらしい眼科Vol.36,No.10,2019(6)残留屈折値Ca(°)Sph(D)Cyl(D)Ax(°)C0C0C0C0C5C0.087C.0.174C137.5C10C0.174C.0.347C140C15C0.259C.0.518C142.5C20C0.342C.0.684C145C25C0.423C.0.845C147.5C30C0.5C.1C150C35C0.574C.1.147C152.5C40C0.643C.1.286C155C45C0.707C.1.414C157.5C50C0.766C.1.532C160C55C0.819C.1.638C162.5C60C0.866C.1.732C165C65C0.906C.1.813C167.5C70C0.94C.1.879C170C75C0.966C.1.932C172.5C80C0.985C.1.97C175C85C0.996C.1.992C177.5C90C1C.2C180C95C0.996C.1.992C2.5C100C0.985C.1.97C5C105C0.966C.1.932C7.5C110C0.94C.1.879C10C115C0.906C.1.813C12.5C120C0.866C.1.732C15C125C0.819C.1.638C17.5C130C0.766C.1.532C20C135C0.707C.1.414C22.5C140C0.643C.1.286C25C145C0.574C.1.147C27.5C150C0.5C30C155C0.423C.0.845C32.5C160C0.342C.0.684C35C165C0.259C.0.518C37.5C170C0.174C.0.347C40C175C0.087C.0.174C42.5図3症例の右眼トポグラフィー所見典型的な円錐角膜を認める.

序説:眼精疲労とコンタクトレンズ

2019年10月31日 木曜日

眼精疲労とコンタクトレンズAsthenopiaandContactLens小玉裕司*最近,contactlensdiscomfort(CLD)という言葉がよく使われている.コンタクトレンズ(CL)を装用することによる不快感とでも訳すことができるが,このCLDによって多くのユーザーがCLの使用を中止してしまうことは残念でならない.CLDには異物感,乾燥感,かゆみ,くもりなどさまざまなものがあるが,眼の疲れ(眼精疲労)もCLDに含まれる.今回の特集では,眼精疲労がある場合,それをいかにCLで解消するか,あるいはCL装用による眼精疲労が認められた場合,その原因を探り,いかに眼精疲労を解消するか,その両面からそれぞれの疾患に造詣の深い先生方に解説していただいた.CL装用における眼精疲労の原因として,もっとも多いのが過矯正であろう.過矯正では近見時のみならず遠方視においても毛様体に負担をかける.また,乱視による見え方のボケ像は調節を誘発する.よって乱視の未矯正,残余乱視,持ち込み乱視の存在は眼精疲労の原因となる.最近ではスマートフォン,タブレット,パソコンなどのデジタルデバイスを使用することが多く,長時間の近見作業により仮性近視や眼精疲労,あるいはいわゆる「スマホ老眼」や「スマホ内斜視」が話題になっている.また,調節力が加齢により低下することによって老視が出現するが,この老視も眼精疲労の原因となる.近年は各社からさまざまな遠近両用CLが市販されるようになり,その質は格段に向上してきている.それを受けて,わが国でもCL経験者だけでなく,CL未経験者への遠近両用CL処方も徐々に増加している.乱視眼への遠近両用CLの処方法や白内障術後眼への遠近両用CL処方法についても解説していただいた.アレルギー性結膜炎やドライアイなどの疾患は,CLの濡れ性を変化させたり,フィッティングに悪影響を与えて眼精疲労の原因となる.抗アレルギー薬の点眼液や人工涙液だけが解決法なのであろうか.アレルギー性結膜炎やドライアイを生じる原因を突き止め,適切な解決法を見いだすことが大切である.今回はこれまでにあまり取り上げられることがなかった不同視や眼位異常などにおけるCL処方についても解説していただいた.眼精疲労とCLといっても,その原因はさまざまであり,それを突き止めることがもっとも重要なポイントであろう.種々の原因によって生じる眼精疲労について,各先生方に詳細に対処法を解説していただいており,今回の特集が読者の今後の診療に少しでも役立つことを祈る次第である.*YujiKodama:小玉眼科医院0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(1)1223

近視性後天性内斜視の調節機能および立体視機能

2019年9月30日 月曜日

《原著》あたらしい眼科36(9):1213.1217,2019c近視性後天性内斜視の調節機能および立体視機能吉岡誇*1稗田牧*2中井義典*2中村葉*2張佑子*2鎌田さや花*2外園千恵*2*1市立福知山市民病院眼科*2京都府立医科大学眼科学教室CAccommodationFunctioninCasesofMyopia-AssociatedAcquiredEsotropiaHokoruYoshioka1),OsamuHieda2),YoshinoriNakai2),YoNakamura2),YukoCho2),SayakaKamada2)andChieSotozono2)1)DepartmentofOphthalmology,FukuchiyamaCityHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineC目的:近視性後天性内斜視C5症例の調節機能と立体視機能を明らかにする.対象および方法:近視を伴う若年者に後天的に発症する共同性内斜視で,MRIで筋円錐内から眼球後部の脱臼を認めないものを近視性後天性内斜視と定義した.近視性後天性内斜視のうち,負荷調節測定機能付きレフケラトメータ(ARK-1sCR)を用いて調節機能を精査した5例(男性C2例,女性C3例,平均年齢C19.4C±5.3歳,14.27歳)を対象とした.プリズム順応テスト後の斜視角に応じて内直筋後転・外直筋前転術を施行し,術前の調節機能検査および術前後におけるCTitmusstereotestを検討した.結果:全症例で調節安静位の調節変動量および調節負荷時の波形は正常であった.4例で術前には低下していた両眼視機能も術後は全例で正常にまで改善した.結論:近視性後天性内斜視では,調節機能は正常であり,術後の立体視機能が良好であった.CPurpose:Toinvestigateaccommodationfunctionandstereopsisin5casesofmyopia-associatedacquiredeso-tropia.CSubjectsandMethods:ThisCstudyCinvolvedC5Cmyopia-associatedCacquiredCesotropiacases(2CmalesCandC3females;meanage:19.4C±5.3years,range:14-27years).Theiraccommodationfunctionwasexaminedusinganautorefractometer/keratometer(ARK-1sCR).Myopia-associatedacquiredesotropiawasde.nedasfollows:esotro-piaCoccurringCinCmyopicCyouths,CacquiredCcomitantCesotropia,CandCnoCeyeCprolapseCfromCtheCmuscleCconeCinCtheCorbitalMRI.ndings.Unilateralrecession-resectionwasperformedaftertheprismadaptationtest.Accommodationfunctionwasexaminedpreoperatively.TheTitmusstereotestwasperformedbothpreoperativelyandpostopera-tively.CResults:InCallCcases,CaccommodationCvariationCinCtheCrestingCstateCofCaccommodation,CandCaccommodationCstimulusresponsecurvewerenormal.Stereopsisfunctionwasworsepreoperatively,butimprovedpostoperatively.Conclusions:Myopia-associatedacquiredesotropiashowednormalaccommodationfunction.Theirstereopsisfunc-tionwasnormalposttreatment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(9):1213.1217,C2019〕Keywords:他覚的調節測定機能検査(ARK-1s),近視性後天性内斜視,立体視検査.objectiveaccommodativefunctiontest(ARK-1s)C,myopia-associatedacquiredesotropia,stereopsistest.Cはじめに近視を伴う後天性共同性内斜視はCvonGraefeやCBiel-schowskyにより提唱され,比較的若年で起こるタイプと高齢で高度近視に発症するタイプが存在する.比較的若年で起こるタイプは,間欠性内斜位・内斜視で発症し,近見では複視をきたさないが遠方視で複視を自覚する状態が続き,徐々に恒常性内斜視へと移行していくことを特徴とする1.3).低矯正または未矯正の近視眼において良好な視力を得ることが可能となる近方視をする機会が多くなるため,輻湊が刺激,強化され,次第に開散の機能不全が生じるという可能性が考えられているが,病因は明らかにはなっていない4.5).比較的高齢で高度近視に発症するタイプは,強度近視性内斜視〔別刷請求先〕吉岡誇:〒620-8505京都府福知山市厚中町C231市立福知山市民病院眼科Reprintrequests:HokoruYoshioka,M.D.,DepartmentofOphthalmology,FukuchiyamaCityHospital,231Atsunaka-cho,Fukuchiyama-city,Kyoto620-8505,JAPANC(進行すると固定内斜視となる)とよばれており,強度近視を伴い眼球後部が筋円錐から脱臼する6).筆者らは近視を伴う共同性の後天性内斜視のうち,強度近視性内斜視を除外したものを「近視性後天性内斜視」とよび,その臨床像を報告している2).この疾患は近視を伴う後天性内斜視としてこれまで報告されている症例と完全に異なる症例ではないものと考える.近視性後天性内斜視と鑑別するべきものとしては,開散不全,急性内斜視,輻湊けいれんなどがあげられる.開散不全は,急性発症し,遠方視により増悪する複視を特徴とし,頭蓋内病変がおもな原因である7).急性内斜視は,発症が急性であり,突然自覚症状が出現することを特徴とし,典型的には,片眼遮閉後などに発症する8).輻湊けいれんは縮瞳とともに調節けいれんを伴う過度の近見反応が内斜視の原因である.輻湊けいれんでは両眼視をした状態で行うむき運動で外転制限があり,単眼で行うひき運動では眼球運動障害を認めないという特徴がある9).さらに近視性後天性内斜視と輻湊けいれんの鑑別には,調節けいれんの有無を検査することが有用と考えられるが,近視性後天性内斜視の調節機能を検査した報告は知る限りまだない.今回筆者らは,近視性後天性内斜視と診断された症例に調節機能検査と立体視機能検査を行い若干の知見を得たので,考察を加えて報告する.CI対象および方法1.対象対象は京都府立医科大学附属病院眼科をC2015年C1月.2016年C7月に受診し,近視性後天性内斜視と診断された症例のなかで,負荷調節測定機能付きレフケラトメータ(ARK-1sCR:ニデック)により調節機能検査を実施したC5症例〔男性C2例,女性C3例:年齢C14.27(19.4C±5.3)歳〕である.近視性後天性内斜視の定義は既報と同様であり,近視眼に後天性に発症した共同性内斜視で,中枢性病変を伴う症例や,眼球運動制限のある症例,眼球後部の筋円錐からの脱臼により生じる強度近視性内斜視の症例,また明らかに輻湊けいれんである症例を除外した2).中枢性病変の有無および強度近視性内斜視を除外するにため,頭部および眼窩部CMRIを撮影した.山口らと同様の手法を用いて眼球脱臼角(偏位角)の拡大を判定することで,他覚的に強度近視性内斜視を除外した6,10).また,すべての症例において,加藤らの報告と同様にプリズム順応テスト(prismCadaptationtest:PAT)を行い,術量を決定し内直筋後転・外直筋前転術を施行した11).C2.検.討.項.目全症例に以下の検査を行った.1.患者背景(初診時所見),C2.術前の調節機能検査,3.術前の眼球運動検査,4.内直筋後転・外直筋前転術前後の斜視角,5.術前後の立体視機能検査Ca.患者背景(初診時所見)発症から受診に至るまでの期間,近見作業の有無および屈折矯正状況についての問診を行い,1%シクロペントレートによる調節麻痺下他覚的等価球面屈折度数を測定した.Cb.術前の調節機能検査調節機能は負荷調節レフ(ARK-1sCR)を用いて測定した.このCARK-1sCRは内部視標の屈折度を変化させながらC1秒間におよそC12回(83.5Cmsecごと)に屈折度を測定し,視標を追従する際の調節動態を測定する.測定条件は,被験者のオートレフ値をもとにC2.0D遠方の視標を用いた雲霧をC30秒行う.その後,視標の移動速度は静的特性を失わない毎秒0.2DずつC50秒間(10D)近方へ視標を移動(緊張期)させ,同じく毎秒C0.2秒ずつ遠方へ視標を移動(弛緩期)させる12).最後にC2.0D遠方の雲霧状態をC10秒間保つことで検査は終了となる.この間に屈折変動を測定することで得られる負荷調節グラフの波形により調節の準静的特性および動的特性を他覚的にとらえることができる.本項では,緊張期・弛緩期の被験者の屈折度の波形形状および安静時調節変動量(雲霧時の屈折度の標準偏差のC2倍)を算出した11).Cc.術前の眼球運動検査術前の眼球運動検査としてCHessチャートを使用した.Cd.内直筋後転・外直筋前転術前後の斜視角斜視角の測定は,まずC1%シクロペントレートによる調節麻痺薬の使用下に屈折検査を行い,必要に応じて眼鏡を処方した.調節麻痺下の屈折検査を行った時点から,手術直前の斜視角の測定まで完全矯正眼鏡を装用し,完全屈折矯正下で交代プリズムカバーテストにより術前の斜視角を測定した.また,斜視手術前にCPATを既報のとおり行って最大斜視角(PAT後斜視角)を測定した11).さらに再現性を確認するため,検査日を変えてC2回以上同様にCPATを行い,PAT後斜視角の変動がないことを確認し,その値に応じて内直筋後転・外直筋前転術を施行した.PATの方法は以下のとおりである.C1.調節麻痺下の自覚的屈折度の眼鏡を装用C2.遠方の交代プリズムカバーテストで得られた斜視角をフレネル膜プリズムで装用C3.30分以上経過した後に,斜視角を再検C4.斜視角の増加がみられる場合にプリズムを増加し時間をおいて再検膜プリズム装用後にはバゴリーニ線状レンズで融像が得られることを確認した.また,プリズムを増加した時点で外斜位もしくは外斜視になった場合にはその一つ前の角度を最大斜視角とした.表1近視性後天性内斜視(年齢,性別,屈折度,発症前後の屈折矯正状況)症例年齢(歳)発症から受診までの期間性別調節麻痺下他覚的等価球面屈折度(D)発症前眼鏡度数(D)発症前屈折矯正近見作業右眼左眼右眼左眼C①C142年男C.7.00C.6.38C.5.25C.5.50眼鏡機会装用裸眼にてしばしばC②C143週間男C.5.25C.4.38C.3.00C.3.00眼鏡機会装用裸眼にてしばしばC③C185カ月女C.5.38C.5.00C.5.00C.4.50SCL常用とくに多い自覚はなしC④C242年女C.3.25C.2.88C.3.00C.3.00眼鏡常用頻度は多いC⑤C273年女C.2.25C.1.88C.2.13C.1.50眼鏡機会装用PC作業が増加していたe.術前後の立体視機能立体視検査はCTitmusstereotest(TST)を術前および術後最終受診時にそれぞれ施行した.CII結果1.患者背景(初診時所見)近方視では融像可能であるが,遠方視にて全例で複視を生じていた.複視の発症から増悪のため受診するまでにC18.2C±14.9カ月(3週間.3年)が経過していた(表1).1%シクロペントレートによる調節麻痺下他覚的等価球面屈折度は右眼.4.53±1.66(C.2.25.C.7.00)D,左眼C.4.00±1.58(C.1.88..6.38)Dであった(表1).うちC2例ではC0.5.2.0D程度低矯正の眼鏡を装用していた(表1).また,症例③を除くC4例では学業・電子機器使用に伴う近見作業時間が長時間であったと自覚していた.C2.術前の調節機能検査全症例において調節負荷時の波形は図1に示すとおり正常であった.また,安静時調節変動量は,右眼C0.32C±0.11(0.16.0.50)D,左眼C0.28C±0.12(0.14.0.50)Dであった.一般に安静時調節変動量は0.5D以内が正常とされており,全例で正常であった(図1).C3.内直筋後転・外直筋前転術前後の斜視角内直筋後転・外直筋前転術前に交代プリズムカバーテストにより得られた斜視角は遠見で+36.8±7.1Δ,近見で+38.0C±10.3Δであった.また,PAT後斜視角は遠見・近見ともに+57.0±6.0Δであった(表2).PAT後斜視角に応じて術量はC4例では内直筋後転術C6mm・外直筋前転術C7Cmm,1例では内直筋後転術C6Cmm・外直筋前転術C8Cmmで施行した(表2).術後観察期間はC9.4C±4.8カ月(1.14カ月)であった(表2).1例は術直後に通院が途絶えたが,その他のC4例ではC7カ月以上経過観察が可能であった.そのC4例における術後最終観察時点での眼位および斜視角は,遠見+1.0±4.6Δの内斜位,近見で+4.0±7.5Δの内斜位であった(表2).遠見・近見ともに外斜位となる症例をC1例認めたが,残りのC3例は図1各症例における調節機能検査結果各症例のCARK-1sCRを用いて得られた調節力波形.安静時調節変動は小さく,他覚的調節刺激に応じて適切な調節応答を認める.表2近視性後天性内斜視(PAT前後眼位,術眼,術式・術量,術後眼位,術後立体視,術後観察期間)症例PAT前眼位(Δ)PAT後眼位(Δ)術眼術式最終受診時眼位(Δ)立体視(TST)(秒)術後経過観察期間(月)遠見近見遠見近見遠見近見術前術後C①C49C51C65C65右眼CRMRc6Cmm+RLRs7CmmCXP6CXP8F(.)F(+)A(C3/3)C(C4/9)C7C②C40C49C60C60右眼CRMRc6Cmm+RLRs8Cmm正位CEPlOF(.)F(+)A(C3/3)C(C9/9)C1C③C35C35C60C60左眼CRMRc6Cmm+RLRs7Cmm正位CEP4F(.)F(+)A(C3/3)C(C9/9)C14C④C30C30C50C50右眼CRMRc6Cmm+RLRs7CmmCEP4CEP12F(.)F(+)A(C3/3)C(C3/9)C12C⑤C30C25C50C50右眼CRMRc6Cmm+RLRs7CmmCEP6CEP8F(+)A(C3/3)C(C9/9)F(+)A(C3/3)C(C9/9)C13PAT:prismadaptationtest,RMRc:内直筋後転術,RLRs:外直筋前転術,EP:内斜位,XP:外斜位,TST:Titumsstereotest(F:.y,A:animal,C:circle).わずかに内斜位となっていた.また,全例において複視は消失した.C4.術前の眼球運動術前に施行したCHessチャートでは,全症例で眼球運動制限を認めなかった.C5.術前後の立体視検査TSTは斜視手術前にはC4例においてC.y(C.),animal(0/3),circle(0/9)ときわめて不良であったが,1例では術前のCTSTではC.y(+),animal(3/3),circle(9/9)と良好であった(表2).そして術後最終観察時C9.4C±4.8カ月(1.14カ月)に施行したCTSTでは,全例でCanimal(3/3)あるいはCcircle(5/9)以上と正常な立体視機能を有していた(表2).CIII考察近視性後天性内斜視のC5例に対して,ARK-1sCRを用いて調節機能を測定したところ,安静時調節変動量,調節波形ともに正常範囲であり調節けいれんを認める症例はなく,術後の両眼視機能も正常範囲内であった.近視性後天性内斜視の機序は明らかになっていないが,過去の類似した症例の報告では,近見作業過多,精神的ストレスなどが一因としてあげられている.屈折矯正による治療で反応する報告もあり,近見作業や不適切な矯正なども内斜視発症に関与している可能性がある14,15).近方視で融像することが多いと開散することが少なく,次第に開散機能不全となりやがて筋が器質的に変化して固定化し,開散不全型の内斜視となる可能性が考えられている4,5).今回,筆者らの経験したC5例のうちC2例では適切な屈折矯正であったが,3例では近視を有するが眼鏡装用の機会が少なく,そのうちC2例は低矯正であった.また,4例は近見作業が多かったと自覚していた.今回の症例の多くが不十分な屈折矯正や近見作業の過多を自覚しており,近視性後天性内斜視の発症と関連する可能性がある.今回,明らかな調節麻痺,調節不全,調節けいれんの所見を示した例はなく,近視性後天性内斜視の病態に基本的に調節は関与していないことが示された.筆者らが使用したCARK-1sRは,単眼視での測定であり,輻湊の関与は少ないことと,斜視手術による調節機能への影響は少ないものと考えられる.また,術後の眼位の回復とともに立体視機能が改善していることから,もともとは良好な立体視機能を有していることが明らかになった.近視性後天性内斜視の発症は,調節機能,両眼視機能が良好な若年者が過度の近業作業(スマートフォンの使用など)に加えて,近視患者の低・未矯正のため,調節と輻湊のアンバランスが安静時眼位に影響を与えるのではないかと筆者らは予想している12.15).まず遠方視時の内斜視で発症し,低矯正の近視では近見に何ら支障がないまま経過するため,ますます長時間の近見作業を継続することで眼位が悪化し,間欠性内斜視の時期を経た後に恒常性内斜視となる4,5).したがって,調節そのものの異常ではなく,調節せずに近見作業を継続することが斜視の原因になったと考えられる.今回の症例においても,調節機能検査により調節けいれんの関与は認めなかった.今回は症例数がC5例と少なく,今後さらに症例数を増やして検討を続ける必要がある.また,検討で用いた調節測定機能付きレフケラトメータ(ARK-1sCR)による調節力検査は,病態に調節機能の関与の有無を判別するのに有用である.ただし,両眼開放下での検査ではないため,輻湊と調節の関連性の検出には限界がある.近視性後天性内斜視の増悪時の症状は複視の自覚であり,急性内斜視と厳密に鑑別することが困難な症例も存在する.今後さらなる検討を重ね,調節と輻湊の不一致が内斜視の原因となるメカニズムを解明する必要がある.今回の検討から,近視性後天性内斜視では,調節機能は正常であり,斜視手術後の立体視機能も良好で,調節や両眼視機能異常の関与する内斜視とは異なる病態であることが示唆された.文献1)vonCNoordenCGK,CCamposEC:BinocularCvisionCandCocu-larmotility,6thed,p328,Mosby,St.Louis,20022)鎌田さや花,稗田牧,中井義典ほか:近視性後天性内斜視の臨床像と手術成績.眼紀11:811-815,C20183)村上環,曹美枝子,富田香ほか:近視を伴う後天内斜視の検討.日視会誌21:61-64,C19934)川村真理,田中靖彦,植村恭夫:近視を伴う後天性内斜視のC5例.眼臨81:1257-1260,C19875)Duke-ElderCS,CWyberK:ConvergentCconcomitantCstra-bismus,Cesotropia.In:SystemCofCOphthalmologyVI(edCbyCDuke-ElderS)C,Cp605-609,CHenryCKimptom,CLondon,C19736)YamaguchiCM,CYokoyamaCT,CShirakiK:SurgicalCproce-dureCforCcorrectingCglobeCdislocationCinChighlyCmyopicCstrabismus.AmJOphthalmolC149:341-346,C20107)今井小百合,高崎裕子,三浦由紀子ほか:開散麻痺が疑われた内斜視に対するプリズム治療.日視会誌C33:145-151,C20048)ClarkCAC,CNelsonCLB,CSimonCJWCetal:AcuteCacquiredCcomitantesotropia.BrJOphthalmolC73:636-638,C19899)AnagnostouCE,CKatsikaCP,CKemanetzoglouCECetal:TheCabductionCde.citCofCfunctionalCconvergenceCspasm.CJCNeu-rolSciC363:27-28,C201610)宮谷崇史,稗田牧,石田学ほか:強度近視性の内下斜視に対する片眼上外直筋結合術後の斜視残存症例の検討.日眼会誌122:379-384,C201811)加藤晃弘,稗田牧,中井義典ほか:PrisamCAdaptationTestにより術量決定を行った内斜視の術後成績.あたらしい眼科30:419-422,C201312)鵜飼一彦,石川哲:調節の準静的特性.日眼会誌C87:C1428-1434,C198313)中村葉,中島伸子,小室青:調節安静位の調節変動量測定における負荷調節レフCARK-1sの有用性について.視覚の科学37:93-97,C201614)宮部友紀,竹田千鶴子,菅野早恵子ほか:眼鏡とフレネル膜プリズム装用が有効であった近視を伴う後天性内斜視の2例.日視会誌28:193-197,C200015)WebbCH,CLeeJ:AcquiredCdistanceCesotropiaCassociatedCwithmyopia.Strabismus12:149-155,C2004***

眼窩悪性リンパ腫の組織分類と治療予後の検討

2019年9月30日 月曜日

《原著》あたらしい眼科36(9):1209.1212,2019c眼窩悪性リンパ腫の組織分類と治療予後の検討小橋晃弘*1,2渡辺彰英*1中山知倫*1山中亜規子*1外園千恵*1*1京都府立医科大学眼科学教室*2町田病院CHistopathologicalDiagnosisandTreatmentPrognosisofOrbitalLymphomaAkihiroKobashi1,2)C,AkihideWatanabe1),TomonoriNakayama1),AkikoYamanaka1)andChieSotozono1)1)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefectualUnivarsityofMedicine,2)MachidaHospitalC目的:眼窩悪性リンパ腫を病理診断に基づき分類し,その治療予後を検討する.方法:2009年C1月.2016年C12月に京都府立医科大学附属病院眼科にて眼窩腫瘍生検・摘出術を施行し,病理診断が悪性リンパ腫であったC60例について,病理診断をもとに組織型を分類し,眼窩内での局在部位と組織型,治療予後について検討した.結果:組織型はMALTリンパ腫(MALT)31例,びまん性大細胞型CB細胞性リンパ腫(DLBCL)18例,濾胞性リンパ腫C6例,マントル細胞リンパ腫C1例,NK/T細胞リンパ腫C1例,その他C3例であった.局在部位は涙腺部がC26%ともっとも多かった.当院で経過観察されたC37例の治療予後は,完全寛解率はCMALT60%,DLBCL83%,濾胞性リンパ腫C33%であり,放射線療法を使用した場合,MALT86%(化学療法のみではC71%),DLBCL100%であった.結論:眼窩悪性リンパ腫の組織型と局在部位の特徴は診断において有用となりうる.放射線療法の治療効果は高く,腫瘍が限局している早期の段階で治療を行うことが重要である.CPurpose:ToclassifyorbitalmalignantlymphomaaccordingtothehistopathologicaldiagnosisandinvestigatepatientCprognosis.CMethod:WeCretrospectivelyCinvestigatedC60CpatientsCwhoCwereCdiagnosedCwithClymphomaCatCKyotoPrefecturalUniversityofMedicinebetweenJanuary2009andDecember2016.Ofthe60patientswhowerefollowedupatourhospital,37wereinvestigatedastoprognosis.Result:Histopathologicaldiagnosesweremuco-sa-associatedClymphoidtissue(MALT)lymphoma(31cases)C,Cdi.useClargeCB-celllymphoma(DLBCL)(18cases)C,Cfollicularlymphoma(6cases)C,CmantleCcelllymphoma(1case)C,CNK/TCcelllymphoma(1case)andCotherCtypesCoflymphoma(3cases)C.CTheCmostCfrequentClocationCwasCtheClacrimalgland(26%)C.CTheCcompleteCresponseCrateCwas60%inMALT,83%inDLBCLand33%infollicularlymphoma.Conclusion:Thecharacteristicsofhistopathologyandlocationoforbitallymphomawereusefulfordiagnosis.Radiotherapywase.ectiveforearlystagelymphoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(9):1209.1212,C2019〕Keywords:眼窩リンパ腫,組織分類,眼窩内局在,治療予後.orbitallymphoma,histopathologicaldiagnosis,or-bitallocation,treatmentprognosis.Cはじめに眼窩原発の悪性リンパ腫は頻度こそ少ないものの,生命を脅かす可能性もある疾患である.一般的に眼窩悪性リンパ腫ではCmucosa-associatedlymphoidtissue(MALT)リンパ腫が多く,予後は良好とされているが,眼窩悪性リンパ腫における他の組織型に関する報告は少ない.眼窩悪性リンパ腫の組織型を分類し,その部位や頻度などの特徴を把握すること,また各組織型の治療予後を理解することは,今後の治療方針を立てるうえでも有益である.今回,過去C8年間に病理診断の確定した眼窩悪性リンパ腫C60例を対象に,組織分類と治療予後について検討したので報告する.CI対象および方法対象はC2009年C1月.2016年C12月に京都府立医科大学附属病院(以下,当院)眼科にて眼窩腫瘍生検・摘出術を施行し,病理診断が悪性リンパ腫であったC60例(男性C30例,女性C30例,平均年齢C74.7C±9.5歳,年齢範囲C49.98歳)であ〔別刷請求先〕小橋晃弘:〒780-0935高知県高知市旭町C1-104医療法人旦龍会町田病院Reprintrequests:AkihiroKobashi,M.D.,MachidaHospital,1-104Asahi-machi,Kouchi-shi,Kouchi780-0935,JAPANC0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(107)C1209る.これらの眼窩悪性リンパ腫症例の組織型,局在部位,治療開始前の病期,治療後の経過について,診療録をもとにレトロスペクティブに検討した.病期分類は,病理診断後に骨髄検査,PET(positronCemissiontomography)検査,CT(computedCtomography)検査などの全身検査を施行し,AnnArbor分類に基づいて決定した.腫瘍の局在部位は眼窩部CMRI(magneticresonanceimag-ing)において,眼窩内の筋円錐外を耳上側(涙腺部を含まない),涙腺部,耳下側,鼻上側,鼻下側のC5象限に分け,眼窩筋円錐内,涙.部と合わせてC7カ所のうち腫瘍の中心部が位置する部分とした.病期確定後の治療は当院血液内科が主体として行い,年齢,病期,組織型を基準に患者との相談により治療方法が決定された.治療方法は化学療法単独,放射線療法単独,化学療法+放射線療法,無治療で経過観察のC4通りが選択された.治療効果判定については治療終了後,造血器腫瘍ガイドラインC2013年度版に基づき行われ,PETを施行している症例ではCPETを加味した効果判定を,施行していない症例はCTのみ,PETを加味しないものとして効果判定を行った.腫瘍サイズは眼窩部CMRIにおいて腫瘍の水平断,冠状断,矢状断それぞれの最長径和が治療後にC30%以上減少したものを縮小とした.CII結果病理組織型はCMALTがC31例(52%)ともっとも多く,びまん性大細胞型CB細胞リンパ腫(di.useClargeCB-cellClym-phoma:DLBCL)がC18例(30%),濾胞性リンパ腫がC6例(10%),マントル細胞リンパ腫,NK/T細胞リンパ腫がC1例(1.7%),その他がC3例(5.0%)であった(表1).局在部位は全体では涙腺部がC16例(27%)ともっとも多く,鼻上側がC11例(18%)でC2番目,耳上側がC9例(15%)でC3番目に多かった.鼻下側はCMALT,涙.部はCDLBCLのみであった(表1).両側性はC5例のみで全例CMALTであった.治療前の病期分類ではCIE期がC28例(47%)ともっとも多く,IV期がC8例(13%)とC2番目に多かった.16例については精査途中や他院で経過観察となったため病期不明であった(表2).A,B分類は全例CA分類であった.当院で治療また経過観察となり,治療効果判定を施行できた症例はC37例(男性C20例,女性C17例,平均年齢C74.3C±8.2歳)であった.組織型はCMALTがC20例,DLBCLがC12例,濾胞性リンパ腫がC3例,NK/T細胞リンパ腫がC1例,マントル細胞リンパ腫がC1例であった.治療方法はC20例に化学療法,10例に放射線療法,3例に化学療法+放射線療法,4例が無治療経過観察であった.いずれの組織型においても化学療法がもっとも多く施行されていた.治療効果判定について(表3),37例の平均観察期間はC32.3C±22.9カ月(6.87カ月)であった.MALTではCcompleteresponse(CR)がC12例(60%)ともっとも多かった.また,PETを加味しない場合のステージングではCpartialresponse(PR)のC4例がCcom-pleteresponse/uncon.rmed(CRu)となり,CR+CRuはC16例(80%)となった.治療法別では放射線療法単独でCCRC4例(57%),PR2例(29%),転移C1例(14%),化学療法単独でCCR6例(55%),PR2例(18%),stabledisease(SD)2例(18%),死亡C1例(9%)であり,無治療経過観察のC2例はともにCCRであった.DLBCLではCCRはC10例(83%)で,初回治療後に転移を認めたC2例は再治療後にそれぞれCR,PRとなった.治療法別では放射線療法単独のC2例ともCR,化学療法単独でCCR5例(71%),PR1例(14%),死亡C1例(14%),化学療法+放射線療法のC3例ともCCRであった.濾胞性リンパ腫のCCRはC33%であった.治療法別の腫瘍が縮小した割合についてはCMALT,DLBCLともに放射線療法単独および化学療法との併用のいずれもC100%であった.化学療法単独ではCMALTがC11例中C7例(64%),DLBCLがC7例中C6例(86%)であった.経過観察中に死亡した症例はC2例で,1例はCIV期のMALTでリツキシマブ併用化学療法施行C6カ月後に心不全により死亡となった.もうC1例はCIE期のCDLBCLでリツキ表1組織型ごとの局在部位(人)局在部位耳上側涙腺部耳下側鼻上側鼻下側涙.部筋円錐内計CMALTC4C9C4C4C6C4C31CDLBCLC2C4C3C3C2C4C18濾胞性C2C3C1C6マントルC1C1NK/T細胞C1C1その他C1C2C3計C9C16C7C11C6C2C9C60MALT:MALTリンパ腫,DLBCL:びまん性大細胞型CB細胞リンパ腫,マントル:マントル細胞リンパ腫,NK細胞:NK/T細胞リンパ腫.C1210あたらしい眼科Vol.36,No.9,2019(108)表2組織型ごとの治療前病期(人)治療前病期CIECIIECIIIECIV不明計CMALTC20C3C2C6C31CDLBCLC5C2C2C4C5C18濾胞性C2C1C1C2C6マントルC1C1NK/T細胞C1C1その他C3C3計C28C5C3C8C16C60MALT:MALTリンパ腫,DLBCL:びまん性大細胞型CB細胞リンパ腫,濾胞性:濾胞性リンパ腫,NK/T細胞:NK/T細胞リンパ腫,マントル:マントル細胞リンパ腫表3治療効果判定結果CR(人)PR(人)SD(人)転移(人)死亡(人)計(人)CR率(%)CMALTCDLBCLC濾胞性Cその他C12C4C2C1C1C10C1C1C1C2C1C1C20C12C3C2C60C833350計C24C5C2C4C2C37C65CR:completeCresponse,PR:partialCresponse,SD:stableCdisease.MALT:MALTリンパ腫,DLBCL:びまん性大細胞型CB細胞リンパ腫,濾胞性:濾胞性リンパ腫,その他:NK/T細胞リンパ腫がCR,マントル細胞が転移.表4死亡した2症例の詳細組織型年齢性別局在部位病期治療経過観察期間死因CMALT75歳女性涙腺部CIVリツキシマブ併用化学療法6カ月心不全CDLBCL73歳男性筋円錐内CIEリツキシマブ併用化学療法14カ月不明MALT:MALTリンパ腫,DLBCL:びまん性大細胞型CB細胞リンパ腫.シマブ併用化学療法施行C14カ月後に死亡となり死因は不明であった(表4).CIII考按眼窩原発悪性リンパ腫の組織型については複数の既報があるが,MALTがもっとも多く,DLBCLや濾胞性リンパ腫がC2番目に多いといった報告1,2)が多く,今回の結果とも一致している.局在部位については,涙腺部がC27%ともっとも多く,鼻上側と耳上側も合わせると半数以上が上方に局在しており,過去の報告3,4)とも一致していた.組織型と局在部位の関連を検討すると,局在する割合がもっとも多い涙腺部ではC16例中C9例(56%)がCMALT,耳上側でもC9例中C4例(44%)がCMALTであり,涙腺部を含めた耳上側付近の悪性リンパ腫ではCMALTの可能性が高いと考えられる.筋円錐内ではMALTとCDLBCLはいずれもC9例中C4例(44%)と差は認めなかった.また,濾胞性リンパ腫は全例が上側あるいは涙腺部に局在していた.比較的悪性度の高い組織型の腫瘍は涙腺部以外に発生ことが多い傾向にあると考えられる.また,鼻下側はC6例全例がCMALT,涙.部はC2例ともCDLBCLであった.今回の検討ではこれらの部位で組織型がC1種類のみであり,鼻下側にCMALTが多いことは,眼窩内悪性リンパ腫の特徴であると考えられる.こうした眼窩原発リンパ腫の組織型と局在部位の関係性は診断における補助的な情報となる可能性がある.MALTの治療予後については,放射線治療単独やリツキシマブなどの化学療法を併用した報告が複数あげられており,放射線療法やリツキシマブ単独あるいは化学療法との併用でのCCR率はC82.99%5.7)と良好な結果が示されている.今回の検討ではCMALTのCCRがC60%と既報よりも低い結果であったが,病期がCIIE期以上の症例を含んでいることや治療効果判定にCPETの結果を加味しているため,骨髄浸潤が(109)あたらしい眼科Vol.36,No.9,2019C1211不確定であるがCPET陽性の場合,CRuがCPRとなっていることが要因とも考えられる.PETを加味しない場合,PRのうちC4例がCCRuとなり,CR+CRu率はC80%と既報に近い値となる.今回の検討では治療が行われたCIE期C14例においてCPETを加味した場合,放射線療法単独とリツキシマブを使用した場合のCCR率はいずれもC57%であったが,PETを加味しない場合CCR+CRu率は放射線療法単独がC86%,リツキシマブ使用でC71%と放射線療法のほうが良好な結果であり,腫瘍が眼窩部に限局している早期の段階では放射線療法が有用と考えられる.DLBCLの予後について,DLBCL単独のCCR率に関する報告が少なく比較は十分にできていないが,今回の検討ではCR率がC83%と高い結果であった.治療法は放射線療法単独あるいは化学療法と放射線療法の全例でCCRとなっており,DLBCLに放射線療法を治療に取り入れることは有効である可能性がある.しかし,現在の標準治療はCI期の場合,MALTや濾胞性リンパ腫では放射線療法,DLBCLやCT細胞系のリンパ腫ではCR-CHOPなどの化学療法であり,II期以上となればいずれの組織型でも化学療法が標準的治療である.治療法の選択や予後については個々の背景因子も考慮しながら慎重に検討すべきである.MALTのC5年生存率は病期や治療法によっても異なるが,83.100%と良好な予後が示されている6.11).一方でCDLBCLはC5年生存率9.43%12)とCMALTと比較すると予後は悪い.今回の検討では全体での平均観察期間がC32.3カ月と短いため,5年生存率について既報との比較はできなかった.経過中,MALTとCDLBCLでC1例ずつ死亡した症例を認めたが,死因は心不全と死因不明であり腫瘍死は認めなかった.眼窩CMALTリンパ腫は,とくに放射線治療の適応となる腫瘍が限局している状態で治療効果が高いとされる.今回の検討での死亡C2例のうちC1例は病期がCIV期であり,腫瘍死ではないが,化学療法の副作用といった腫瘍関連死の可能性はあり,早期発見・早期治療のために,各組織型の局在部位などの臨床的特徴を参考にしながら眼窩部CMRIや生検術を積極的に施行すべきである.今後は眼窩悪性リンパ腫の詳細な予後を検討するために,症例数を増やした長期の経過観察が必要である.また,MALT以外の組織型に関しては,過去の報告も少なく,多施設共同研究などを今後検討していく必要があると考えられた.文献1)FerryJA,FungCY,ZukelbergLetal:Lymphomaoftheocularadnexa;ACstudyCofC353Ccases.CAmCJCSurgCPatholC31:170-184,C20072)瀧澤淳,尾山徳秀:節外リンパ腫の臓器別特徴と治療眼・眼付属器リンパ腫.日本臨牀C73(増刊号C8):614-618,C20153)PriegoCG,CMajosCC,CClimentCFCetal:Orbitallymphoma:Cimagingfeaturesanddi.erentialdiagnosis.InsightsImag-ingC3:337-344,C20124)田中理恵,小島孚允:眼窩リンパ増殖性疾患C85例のCMRI画像の検討.臨眼67:1155-1159,C20135)KiesewetterB,LukasJ,KucharAetal:Clinicalfeatures,treatmentCandCoutcomeCofCmucosa-associatedClymphoidtissue(MALT)lymphomaCofCtheCocularadnexa:singleCcenterCexperienceCofC60Cpatients.CPLoSCONEC9:e104004C1-8,C20146)MaWL,YaoM,LiaoSLetal:ChemotherapyaloneisanalternativeCtreatmentCinCtreatingClocalizedCprimaryCocularCadnexallymphomas.Oncotarget8:81329-81342,C20177)GodaCJS,CLeCLW,CLapperriereCNJCetal:LocalizedCorbitalCmucosa-associatedClymphomaCtissueClymphomaCmanagedCwithprimaryradiationtherapy:e.cacyandtoxicity.IntJRadiatBiolPhysC81:e659-e666,C20118)岡本全弘,松浦豊明,小島正嗣ほか:眼付属器CMALTリンパ腫C10例の検討.臨眼C63:695-699,C20099)TanimotoCK,CKanekoCA,CSuzukiCSCetal:Long-termCfol-low-upCresultsCofCnoCinitialCtherapyCforCocularCadnexalCMALTlymphoma.AnnOncolC17:135-140,C200610)HasegawaCM,CKojimaCM,CShioyaCMCetal:TreatmentCresultsCofCradiotherapyCforCmalignantClymphomaCofCtheCorbitCandChistopathologicCreviewCaccordingCtoCtheCWHOCclassi.cation.CIntCJCRadiatCPncolCBiolCPhysC57:172-176,C200311)HashimotoCN,CSasakiCR,CNishimuraCHCetal:Long-termCoutcomeandpatternsoffailureinprimaryocularadnexalmucosa-associatedClymphoidCtissueClymphomaCwithCradio-therapy.CIntCJCRadiatCOncolCBiolCPhysC82:1509-1514,C201212)RasmussenPK,RalfkiaerE,PlauseJUetal:Di.uselargeB-cellClymphomaCofCtheCocularCadnexalregion:aCnation-basedstudy.ActaOphthalmolC91:163-169,C2013***1212あたらしい眼科Vol.36,No.9,2019(110)

脈絡膜骨腫に伴う脈絡膜新生血管がベバシズマブ硝子体注射により退縮した経過をOCT Angiographyで描出した1例

2019年9月30日 月曜日

《原著》あたらしい眼科36(9):1204.1208,2019c脈絡膜骨腫に伴う脈絡膜新生血管がベバシズマブ硝子体注射により退縮した経過をOCTAngiographyで描出した1例北原潤也*1星山健*1,2榑沼大平*1田中正明*1京本敏行*1,2吉田紀子*1村田敏規*1*1信州大学医学部眼科学講座*2長野赤十字病院眼科CACaseofChoroidalOsteomawhoseChoroidalNeovascularizationwasVisualizedbyOpticalCoherenceTomographyAngiographyJunyaKitahara1),KenHoshiyama1,2),TaiheiKurenuma1),MasaakiTanaka1),ToshiyukiKyoumoto1,2),NorikoYoshida1)andToshinoriMurata1)1)DepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,ShinshuUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,NaganoRedCrossHospitalC目的:脈絡膜骨腫に伴う脈絡膜新生血管(CNV)をCswept-sourceCopticalCcoherenceCtomographyCangiography(SS-OCTA)で検出し,ベバシズマブ硝子体注射によるCCNVの治療経過を確認できた症例を報告する.症例および経過:20歳,女性.左眼の歪視を自覚し前医を受診.左脈絡膜骨腫と診断され当科紹介.初診時,左眼矯正視力(0.4)でありCOCTで中心窩に漿液性網膜.離(SRD)を認め,フルオレセイン蛍光眼底造影検査(FA)では黄斑部にCCNVの存在が疑われる過蛍光が存在した.SS-OCTAで同部位にCCNVが明瞭に描出された.同日に左眼にベバシズマブ硝子体注射を施行.治療C2カ月後にCSRDは消失し左眼矯正視力は(1.0)に改善した.OCTAでは黄斑部のCCNVの退縮が確認できた.7カ月後もCOCTAでCCNVの再発は認めず良好な視力を維持している.結論:脈絡膜骨腫に伴うCCNVやSRDにより視力低下をきたしても抗CVEGF療法により視力の改善を期待できる.OCTAは脈絡膜骨腫に続発したCNVを鮮明に描出できるため,診断や治療の経過を追ううえで有用なツールである.CPurpose:Wereportacaseofchoroidalosteomawhosechoroidalneovascularization(CNV)wasvisualizedbyswept-sourceCopticalCcoherencetomographyCangiography(SS-OCTA)andCtreatedCwithCintravitrealCbevacizumab(IVB).Case:A20-year-oldfemalepresentedwithmetamorphopsiainherlefteye.Atalocaleyeclinic,shewasdiagnosedwithCOandwasreferredtoourhospitalbecauseofdecreasedvisualacuity.At.rstvisittoourhospi-tal,herleftvisionacuitywasdecreasedto0.4andOCTshowedserousretinaldetachment(SRD)inthefovea.WevisualizedCNVlocatedinthemaculawithSS-OCTA.WeadministeredIVBafterobtaininginformedconsent.By2monthsafterIVB,herleftvisualacuityhadimprovedandregressionofCNVwasobservedwithOCTA.Conclu-sion:CNVCsecondaryCtoCchoroidalCosteomaCwasCclearlyCdetectedCbyCOCTACandCsuccessfullyCtreatedCwithCanti-VEGFtherapy.OCTAisusefulfordetectionandfollow-upofCNVinchoroidalosteoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)36(9):1204.1208,C2019〕Keywords:脈絡膜骨腫,光干渉断層血管撮影,脈絡膜新生血管,漿液性網膜.離,抗CVEGF療法,ベバシズマブ硝子体注射.choroidalosteoma,opticalcoherenttomographyangiography,choroidalneovascularization,serousreti-naldetachment,anti-VEGFtherapy,intravitrealbevacizumab.C〔別刷請求先〕北原潤也:〒390-8621長野県松本市旭C3-1-1信州大学医学部眼科学講座Reprintrequests:JunyaKitahara,DepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,ShinshuUniversity,3-1-1Asahi,Matsumoto,Nagano390-0304,JAPANC1204(102)e図1初診時の左眼の所見a:広角眼底写真.黄斑部を含む境界明瞭で黄白色の病変を認める.Cb:頭部単純CCT.左眼の眼底に骨と同程度の高吸収域(C.)を認める.Cc:Bモード超音波検査.高反射の病変(C.)とその後方に音響陰影を認める.d,e:OCT.黄斑部の脈絡膜に腫瘍性病変を認める.中心窩下にCSRDを認める.はじめに脈絡膜骨腫はCGassら1)が報告した比較的まれな脈絡膜原発の良性腫瘍である.若年女性の片眼,傍乳頭部に好発し,境界明瞭で黄白色の隆起性病変を呈し,緩徐に腫瘍が拡大することが特徴とされる.また,computedtomography(CT)で骨と同じ高吸収域と,Bモード超音波検査で音響陰影を伴う高反射域を認めることも特徴的である.脈絡膜骨腫は良性腫瘍ではあるが,10年間で約半数の症例が矯正視力(0.1)以下まで低下する2).その原因として脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV),漿液性網膜.離(serousCretinaldetachment:SRD),網膜下出血,病変下の網膜色素上皮(retinalCpigmentepithelium:RPE)の変性,病変の脱石灰化などがあげられるが,とくにCNVによる視力低下はC10年間で約C30%にも及ぶ2).脈絡膜骨腫の標準的な治療はいまだ確立されていないが,CNVやSRDといった合併症に対しては光線力学療法(photodynam-ictherapy:PDT),抗血管内皮増殖因子(vascularCendo-thelialgrowthfactor:VEGF)薬硝子体注射が有効であるといった報告が散見される3.5).また,近年の光干渉断層血管造影(opticalcoherencetomog-raphyangiography:OCTA)の登場により迅速で非侵襲的な網脈絡膜血管の構造評価が可能になり6),脈絡膜骨腫に続発したCCNVをCOCTAで描出した症例も報告されている8.10).今回,黄斑部にまで進展した脈絡膜骨腫に続発したCCNVをCswept-source光干渉断層血管造影(SS-OCTA)で鮮明に描出し,またベバシズマブ硝子体注射(intravitrealbevaci-zumab:IVB)によってCCNVが退縮したことをCOCTAで確認でき,かつ視力改善も得られたC1例を経験したので報告する.CI症例患者:20歳,女性.主訴:左眼歪視,左眼視力低下.既往歴・家族歴:特記すべきことなし.現病歴:2018年C1月頃より左眼の歪視を自覚,前医を受診し左眼脈絡膜骨腫と診断され経過観察されていた.2018年C4月初旬より左視力低下を認めたため当科紹介となった.初診時所見:視力は右眼C0.7(1.2C×sph.0.5D),左眼C0.4(矯正不能)で,眼圧は右眼C14CmmHg,左眼C15CmmHgであった.両眼の角膜,前房,水晶体,硝子体,右眼の眼底には明らかな異常は認められなかった.広角眼底写真では,左眼の視神経乳頭から上方の血管アーケードにかけて黄斑部を含む形で境界明瞭な黄白色の病変が認められた(図1a).頭部単純CCT検査では病変は左眼眼底に骨と同程度の高吸収域として描出され(図1b),同部位はCBモード超音波検査では病変部は音響陰影を伴う高反射域として描出された(図1c).光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)では,左眼の黄斑部の脈絡膜に腫瘍性病変を認め,正常な脈絡膜血管構造はみられず,内部に一部高反射域を認めた(図1d).また,中心窩にはCSRDを認めた(図1e).フルオレセイン蛍光眼底造影検査(.uoresceinangiography:FA)では,脈絡膜骨腫に一致した過蛍光と黄斑部にCCNVの存在が疑われる蛍光漏出を認めた(図2a).インドシアニングリーン蛍光眼底造影検査(indocyanineCgreenangiography:IA)でも,FA同様に黄斑部にCCNVと考えられる過蛍光を認めた(図2b).SS-OCTAはCCarlZeiss社のCPLEXCEliteC9000Rを用い,セグメンテーションは網膜外層からCchoriocapillar-iesに設定してCOCTA画像(6C×6Cmm)を取得した.OCTA図3IVB前後のOCTA画像a:初診時COCTAen-face画像.黄斑部にCCNVが描出されている.Cb:初診時COCTABスキャン画像.中心窩下にCCNVの血流を示すC.owsignalを認める.Cc,d:IVBよりC2カ月後のCOCTA画像.黄斑部のCNVの退縮と中心窩下のC.owsignalの消失を認める.Bスキャン画像で中心窩にCCNVの血流を示すC.owsignalが認められ(図3c),OCTAen-face画像では黄斑部にCCNVが鮮明に描出された(図3a).以上より視力低下の原因は脈絡膜骨腫に伴うCCNVによるCSRDであると診断した.経過:当科初診日に,脈絡膜骨腫に対する確立された治療法がないことを患者に十分に伝えたうえで,信州大学医学部附属病院倫理委員会承認のもとで行っているCIVBについて説明した.書面での同意が得られたので,脈絡膜骨腫とCNVがみられた左眼にCIVBを施行した.2カ月後にはCOCTでは中心窩のCSRDは消失しており(図2f),またCFAでは黄斑部の蛍光漏出の減少を認めた(図2d).OCTAでは黄斑部のCCNVの退縮を認め(図3b,d),左眼視力は(1.0)まで改善した.治療開始よりC7カ月後の現在もCSRDの再発はなく,OCTAではCCNVの中心窩下への進展は認められず良好な視力を維持して経過している.CII考按若年女性の脈絡膜骨腫症例にCCNVによるCSRDを合併した症例を経験した.FA/IAと異なり,SS-OCTAでは漏出による影響を受けないため,本症例ではCSS-OCTAでCCNVがより明瞭に検出できた.IVBを施行後,SRDは消失し良好な視力を得たが,その過程でCCNVの退縮する詳細な経過をCSS-OCTAで明瞭に描出可能であった.OCTAとは連続的なCOCT断層像を撮影し,得られた複数枚の画像間に存在する位相変化や信号強度変化を血流情報として抽出し,血管を画像化する技術であり,蛍光眼底造影検査で描出する血管ときわめて類似した血管画像を得ることができる6).蛍光眼底造影検査と異なり,静脈路確保や造影剤の静注が必要ないため非侵襲的でかつ迅速に撮影できるので,詳細な経過観察目的に頻回の検査を安全に大きな負担なく施行可能である.OCTAは網脈絡膜血管構造の評価が層別に行える点が優れている.造影剤を用いないので血管の透過性亢進の評価ができないという難点もあるが,漏出が同定されないため注目する血管の形状などを鮮明に描出できる利点もある.とくに脈絡膜骨腫においては,蛍光眼底造影検査では腫瘍自体が過蛍光であるため,合併症であるCCNVの検出が困難な症例もある.このような症例では,FA/IAで検出できなかったCCNVを,OCTAにより描出できたという報告もある10).脈絡膜骨腫に伴うCCNVの診断や,治療の経過を追ううえでCOCTAは有用な検査であると考えられる.SS-OCTAは従来のCspectraldomain(SD)-OCTAと比較して迅速に広角・高深達なCOCTA画像を取得することができる9).中心窩下にまで進展し視力低下の原因となった脈絡膜骨腫に続発したCCNVをCSS-OCTAで鮮明に描出し,かつIVBによりCCNVが退縮したことをCOCTAで確認でき,さらに視力改善も得られた症例の報告は,筆者らが知る限り初めてである.脈絡膜骨腫とその合併症に対する標準的な治療はいまだ確立されておらず,経瞳孔的温熱療法やCCNV抜去術,網膜光凝固術などによる治療が以前は行われていた.最近では,抗VEGF薬硝子体注射やCPDTをそれぞれ単独で,もしくは併用で治療することが多い6,7).Khanら3)は,中心窩にCSRDを認めるCCNVを合併した脈絡膜骨腫に対する抗CVEGF単独療法とCPDT併用抗CVEGF療法の比較をしており,PDTを併用することにより中心窩のCSRDの消退に必要な抗CVEGF薬注射の回数は減ると報告している.また,PDTは石灰化している病変部を脱石灰化させることで腫瘍の増大を予防できるとされている.脱石灰化は,脈絡膜骨腫内の海綿状血管が退縮することにより腫瘍内や辺縁に生じ,脱石灰化した病変部の外観は灰白色に変化する.この変化は自然経過でも生じる11)が,PDT12)や網膜光凝固術11)でも生じさせることができ,脱石灰化した病変部からは腫瘍は進展しないとされている2).しかし,脱石灰化した部分ではCRPEや脈絡膜毛細血管は萎縮し,また網膜外層の菲薄化し視細胞が喪失してしまうことが多い13).そのため,黄斑部に腫瘍が進展している症例では脱石灰化することにより非可逆的な視力低下をきたすおそれがあるのでPDTは適応になりにくい3,14).本症例においても,すでに黄斑部に脈絡膜骨腫病変が存在するためCPDTは避け,抗VEGF薬硝子体注射のみによる治療を選択した.脈絡膜骨腫に続発するCCNVとこれに伴うCSRDに対する抗CVEGF療法の有効性については多くの報告で言及されている3.5).腫瘍の圧迫によって引き起こされる脈絡膜毛細血管板の閉塞や,網膜虚血によるCVEGFの発現が,脈絡膜骨腫に伴うCCNVの発生機序に関与していると推測されており14),それがそのまま抗CVEGF療法が奏効する大きな理由であると考えられる.本症例でも抗CVEGF療法により黄斑部のCCNVの消退とCfeedervesselの退縮を認め,その様子をCOCTAで観察できたが,脈絡膜骨腫内の海綿状血管の大きな構造変化は観察することができなかった.前述したように腫瘍内の海綿状血管が退縮すると脱石灰化が生じるが,抗VEGF療法では脱石灰化を誘発しないとされる点からも,腫瘍内血管の退縮機序にCVEGFは大きくは関与していない可能性も示唆される.今後のCOCTAを用いた症例の蓄積により,脈絡膜骨腫のさらなる病態解析が期待される.Khanら3)の脈絡膜骨腫の治療成績をまとめた報告では,中心窩にCSRDを認める脈絡膜骨腫の症例に対して抗CVEGF療法を施行した結果,最終的にCSRDの消退を得た症例はC8例中C7例であったが,その経過中にC8例中C4例がCSRDの再発をきたし,その再発までの期間は治療開始より平均C10カ月後と報告している.本症例は治療開始よりC7カ月後の現在もCSRDの再発はなく良好な視力を維持しているが.再発のおそれは十分にあるため今後の慎重な経過観察が必要と考えられる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)GassCJD,CGuerryCRK,CJackCRLCetal:ChoroidalCosteoma.CArchOphthalmolC96:428-435,C19782)ShieldsCCL,CSunCH,CDemirciCetal:FactorsCpredictiveCofCtumorCgrowth,CtumorCdecalci.cation,CchoroidalCneovascu-larization,CandCvisualCoutcomeCinC74CeyesCwithCchoroidalCosteoma.ArchOphthalmolC123:1658-1666,C20053)KhanCMA,CDeCroosCGC,CStoreyCOOCetal:OutcomesCofCanti-vascularCendothelialCgrowthCfactorCtherapyCinCtheCmanagementCofCchoroidalCneovascularizationCassociatedCwithchoroidalosteoma.RetinaC34:1750-1756,C20144)JangCJH,CKimCKH,CLeeCSJCetal:PhotodynamicCtherapyCcombinedwithintravitrealbevacizumabinapatientwithchoroidalneovascularizationsecondarytochoroidalosteo-ma.KoreanJOphthalmolC26:478-480,C20125)GuptaA,GopalL,SenPetal:Long-termresultsofintra-vitrealCranibizumabCforCosteoma-relatedCchoroidalCneovas-cularizationinachild.OmanJOphthalmolC7:78-80,C20146)MakitaCS,CHongCY,CYamanariCMCetal:OpticalCcoherenceCangiography.OptExpressC14:7821-7840,C20067)MillerAR,RoismanL,ZhangQetal:Comparisonbetweenspectral-domainandswept-sourceopticalcoherencetomog-raphyCangiographicCimagingCofCchoroidalCneovasculariza-tion.InvestOphthalmolVisSciC58:1499-1505,C20178)Clemente-TR,Cerda-IM,Gargallo-BAetal:Choroidalosteomawithchoroidalexcavationandassociatedneovas-cularmembrane:AnCOCT-angiographyCstudy.CArchCSocCEspOftalmolC93:242-245,C20189)AzadCSV,CTakkarCB,CVenkateshCPCetal:Sweptsource:CopticalCcoherenceCtomographyCangiographyCfeaturesCofCchoroidalCosteomaCwithCchoroidalCneovascularCmembrane.CBMJCCaseCRep.doi:10.1136/bcr-2016-215899,C201610)ShenC,YanS,DuMetal:Assessmentofchoroidaloste-omaCcomplicatingCchoroidalCneovascularizationCbyCopticalCcoherenceCtomographyCangiography.CIntCOphthalmolC38:C1-6,C201811)TrimbleSN,SchatsH:Decalci.cationofachoroidaloste-oma.BrJOphthalmolC75:61-63,C199112)ShieldsCCL,CMaterinCMA,CMehtaCSCetal:RegressionCofCextrafovealchoroidalosteomafollowingphotodynamicther-apy.CArchOphthalmolC126:135-137,C200813)ShieldsCCL,CPerezCB,CMaterinCMACetal:OpticlalCcoher-enceCtomographyCofCchoroidalCosteomaCinC22Ccases.COph-thalmologyC114:e53-e58,C200714)高橋静,鈴木幸彦,陣内嘉浩ほか:両眼脈絡膜骨腫に脈絡膜新生血管を合併したC1例.臨眼70:695-702,C2016***

非感染性ぶどう膜炎に対するアダリムマブの治療効果と安全性

2019年9月30日 月曜日

《原著》あたらしい眼科36(9):1198.1203,2019c非感染性ぶどう膜炎に対するアダリムマブの治療効果と安全性青木崇倫*1,2永田健児*1関山有紀*1中野由起子*1中井浩子*1,3外園千恵*1*1京都府立医科大学眼科学教室*2京都府立医科大学附属北部医療センター病院*3京都市立病院CE.cacyandSafetyofAdalimumabfortheTreatmentofRefractoryNoninfectiousUveitisTakanoriAoki1,2),KenjiNagata1),YukiSekiyama1),YukikoNakano1),HirokoNakai1,3)andChieSotozono1)1)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,NorthMedicalCenter,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,3)KyotoCityHospitalC目的:アダリムマブ(ADA)を導入した非感染性ぶどう膜炎の有効性と安全性の検討.対象および方法:京都府立医科大学附属病院でC2018年C6月までにCADAを導入したぶどう膜炎患者(男性C7例,女性C3例)を対象に,臨床像,ADA導入前後の治療内容,治療効果,副作用を検討した.結果:症例の平均年齢C48.2歳(10.75歳),平均観察期間19.4カ月,臨床診断はCBehcet病(BD)7例,Vogt-小柳-原田病(VKH)3例であった.導入理由はインフリキシマブ(IFX)から変更がC6例,免疫抑制薬の副作用がC1例,ステロイド・免疫抑制薬で難治がC3例であった.BDの眼炎症の発作頻度はCADA導入前の平均発作回数C4.8回/年で,導入後はC1.4回/年に減少した.VKHでは,ADA導入前の平均ステロイド量C9.8Cmgから,最終時C7.2Cmgに漸減できた.ADA導入後にCVKH再燃を認め,ステロイドを増量した例がC1例あった.また,BDのうち,1例が注射時反応,1例が効果不十分でCADA中断となった.結論:BDではCADAはCIFXと同等以上の効果が期待でき,VKHの再燃例では,ADA追加のみでは効果不十分でステロイドの増量が必要な場合があった.CPurpose:Toevaluatethee.cacyandsafetyofadalimumab(ADA)ineyeswithrefractorynoninfectiousuve-itis.PatientsandMethods:Thisretrospectivecaseseriesstudyinvolved10refractoryuveitispatients(7males,3females;meanage:48.2years)treatedCwithCADACatCKyotoCPrefecturalCUniversityCofCMedicineCuntilCJuneC2018,Cwithameanfollow-upperiodof19.4months.Results:DiagnosesincludedBehcet’sdisease(BD:7patients)andVogt-Koyanagi-Haradadisease(VKH:3patients);reasonsCforCadministrationCwereCswitchingCfromCin.iximab(IFX)toADA(n=6),Cimmunosuppressantside-e.ects(n=1),CandCinsu.cientCe.ectCofCbothCsteroidCandCimmuno-suppressant(n=3).ADAreducedthefrequencyofocularattacksinBDfrom4.8/yearto1.4/year,andoral-ste-roidCamountCinCVHKCfromC9.8CmgCtoC7.2Cmg.CTwoCBDCpatientsCdiscontinuedCADACdueCtoCallergyCandCinsu.cientCe.ect.Conclusions:InBD,ADAwasprobablyofequivalentorgreatere.ectthanIFX.InVKH,ADAalonewasofinsu.ciente.ect.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)36(9):1198.1203,C2019〕Keywords:アダリムマブ,ベーチェット病,Vogt-小柳-原田病,インフリキシマブ,ぶどう膜炎.adalimumab,CBehcet’sdisease,Vogt-Koyanagi-Haradadisease,in.iximab,uveitis.Cはじめに非感染性ぶどう膜炎に対する治療は,局所・全身ステロイドが中心であり,難治例には免疫抑制薬のシクロスポリン(cyclosporine:CsA)が使用可能である.2007年C1月よりベーチェット病(Behcet’sdisease:BD)に対して,生物学的製剤である腫瘍壊死因子(tumorCnecrosisCfactorCa:CTNFa)阻害薬のインフリキシマブ(in.iximab:IFX)が保険適用となり,既存治療に抵抗を示す難治性CBDの有効性が示された1).さらにC2016年C9月には非感染性ぶどう膜炎に対して,完全ヒト型CTNFa阻害薬であるアダリムマブ(adali-〔別刷請求先〕青木崇倫:〒629-2261京都府与謝郡与謝野町男山C481京都府立医科大学附属北部医療センター病院Reprintrequests:TakanoriAoki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NorthMedicalCenter,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,YosagunYosanochoOtokoyama481,Kyoto629-2261,JAPANC1198(96)mumab:ADA)が保険適用となった.ステロイドや免疫抑制薬で抵抗を示す症例,さまざまな副作用で継続できない症例などの難治性非感染性ぶどう膜炎に対して,ADAの使用が可能になった.また,BDでもCIFXの使用できない症例やIFXの効果が減弱(二次無効)する症例などに対してCADAへの変更が可能となり,治療の選択肢が増えた.ADAは皮下注射のため,自宅での自己注射により病院拘束時間が短いことも有用な点である.これらのCIFXやCADAの眼科分野での生物学的製剤の認可により,難治性ぶどう膜炎に対して治療の選択肢が広がったが,新たな治療薬として実臨床での適応症例や,使用方法,効果,安全性の検討が必要である.そこで,京都府立医科大学附属病院(以下,当院)で経験したCADAの使用症例とその効果や安全性について検討した.CI対象および方法当院で,ADA導入した難治性ぶどう膜炎患者C10例(男性7例,女性C3例,導入時平均年C48.2C±19.6歳)を対象とし,ADAの有効性,安全性について,京都府立医科大学医学倫理審査委員会の承認を得てレトロスペクティブに検討した.ADA導入後の平均観察期間はC19.4C±18.5カ月(4.53カ月)であった.原疾患の診断はCBDがC7例C14眼,Vogt-小柳-原田病(Vogt-Koyanagi-Haradadisease:VKH)がC3例C6眼であった.BDは厚生労働省CBD診断基準2)に基づき,完全型,不全型および特殊型CBDの確定診断を行った.VKHでは国際CVKH病診断基準3)に基づき,確定診断を行った.ADAは添付文書の記載に従って(腸管CBD:初回C160Cmg投与,初回投与からC2週間後C80Cmg,その後はC2週間隔C40mg投与,難治性ぶどう膜炎:初回C80Cmg投与,初回投与からC1週間後C40Cmg,その後はC2週間隔C40Cmg投与,小児:初回C40Cmg投与,初回投与よりC2間間隔C40Cmg投与)投与した.また,ADAの導入にあたり当院膠原病・リウマチアPSL)投与量(ADA導入前の最小CPSL量,最終観察時CPSL量)を調べた.治療の効果判定は有効,無効・中断,経過観察中にC3分類し,有効は眼所見の改善や薬剤の減量ができた症例で,無効・中断は眼所見の改善が認められなかった症例や治療継続困難となった症例,経過観察中はCADA導入開始後C6カ月以内の症例とした.また,統計方法はすべてCStu-dentのCt検定を用い,p<0.05を有意差ありとして比較を行った.CII結果全症例の年齢,性別,ADA導入理由,観察期間を表1に示した.ADA導入理由はCBDではCIFXからの変更がC6例(2例:IFXの投与時反応で中断例,2例:IFXの二次無効例,1例:IFXでコントロール困難例,1例:IFXの中断後再燃例),免疫抑制薬の副作用で継続困難な症例がC1例であった.BDは完全型BDが2例,不全型BDが3例,特殊型BDが2例(腸管CBD併発C2例)であった.小児の不全型CBD1例は,脊椎関節炎を併発しており,両疾患に対してCADAを導入した.特殊型CBD2例のうちC1例は腸管CBDの治療目的にCADA導入し,1例はぶどう膜炎の治療目的にCADAを導入した.VKHのCADA導入理由はすべて,ステロイドおよび免疫抑制薬でコントロール困難な症例であった.最良矯正視力は,ADA導入前平均視力はClogMARC0.27±0.46であったが,ADA導入後の最終平均視力ClogMAR0.26C±0.47となり,導入前後で有意差を認めなかった(p=0.93)(図1).疾患別の効果について,BDの症例は表2に,VKHの症例は表3にそれぞれまとめた.中断・無効を除いた症例でのCBDの発作頻度は,ADA導レルギー科,小児科または消化器内科(腸管CBD症例)との連携の下で行った.全症例において,ADA導入理由と,ADA導入前後の最良矯正視力,併用薬剤,効果判定,全身副作用の有無に関して調査した.また,BDではCADA導入前後の眼炎症発作回数,眼炎症発作の重症度について調べた.重症度に関しては,ADA導入前後の眼炎症発作のなかでもっとも重症であった眼炎症発作について,発作部位を前眼部炎症,硝子体混ADA導入後の最良矯正視力濁,網膜病変に分けて評価し,網膜病変は血管炎,.胞様黄斑浮腫(cystoidmacularedema:CME),硝子体出血(vitre-oushemorrhage:VH)を調べた.また,蕪城らによって報告されたスコア法(Behcet’sdiseaseocularattackscore24:BOS24)4)でCADA導入前C6カ月から導入まで,ADA導入から導入後C6カ月まで,ADA導入C7.12カ月までの積算スコアで評価した.VKHではプレドニゾロン(prednisolone:0.010.11ADA導入前の最良矯正視力:Behcet病:Vogt-小柳-原田病図1アダリムマブ(ADA)導入前後の視力変化縦軸にCADA導入後の最良矯正視力,横軸にCADA導入後の最良矯正視力を示す.ADA導入前後では有意差を認めなかった(p=0.93).表1全症例ADA導入時観察期間症例年齢(歳)性別疾患名ADA導入理由(月)1C65男特殊型CBD(腸管CBD併発)IFX二次無効(腸管BD)C53C2C51女特殊型CBD(腸管CBD併発)IFX投与時反応C52C3C10男不全型CBD(脊椎関節炎併発)IFXコントロール困難C3C4C31男完全型CBDIFX二次無効C30C5C46女不全型CBDIFX中断後再燃C0.5C6C32男不全型CBDIFX投与時反応C11C7C39男完全型CBD免疫抑制剤の副作用C8C8C61女CVKHステロイド・免疫抑制薬でコントロール困難C19C9C72男CVKHステロイド・免疫抑制薬でコントロール困難C13C10C75男CVKHステロイド・免疫抑制薬でコントロール困難C4BD:BehcetC’sdisease(ベーチェット病),VKH:Vogt-Koyanagi-Haradadisease(フォークト-小柳-原田病),IFX:in.iximab(インフリキシマブ).表2Behcet病の症例ADA導入前ADA導入後症例発作頻度前眼部炎症硝子体混濁網膜病変発作頻度前眼部炎症硝子体混濁網膜病変C併用薬剤効果11回/年+..0回/年C…なし有効C24回/年++CME2.6回/年++.コルヒチン,MTX有効C32回/年++CME,VH中止++CME,VHCMTX,PSL無効・中断C410回/年++.2.5回/年++.MTX,PSL有効C51回/年++CME中止++CMECMTX無効・中断C65回/年++網膜血管炎1.8回/年++.CsA有効C74回/年++.0回/年C…なし有効CME:.胞様黄斑浮腫,VH:硝子体出血,MTX:メトトレキサート,PSL:プレドニゾロン,CsA:シクロスポリン.表3Vogt.小柳.原田病の症例症例ADA導入前PSL投与量(mg)CsA投与量(mg)ADA導入後最終CPSL投与量(mg)C効果判定8C7.5C150C4有効C9C7C150C0有効C10C15C100C17.5経過観察中PSL:プレドニゾロン,CsA:シクロスポリン.入前の平均発作回数がC4.8C±2.9回/年から,ADA導入後の平均発作回数はC1.4C±1.2回/年に減少した(p=0.06).眼炎症の重症度では,BOS24でCADA導入前C6カ月から導入までの積算スコアは平均C8.0C±4.7,ADA導入から導入後C6カ月までの積算スコアは平均C2.4C±3.2,ADA導入後7.12カ月までの積算スコアは平均C2.2C±2.4であり,導入前に比べて,導入後の積算スコアは優位に低値を示した(p=0.02,0.03)(図2).効果判定は,有効C5例,中断・無効C2例であり,中断・無効のうち,症例C3はCIFXとメトトレキサート(methotrexate:MTX)治療に加えて,眼炎症発作時にCPSL頓用を行っていたが,CMEとCVHを伴うような眼炎症の発作を認めたためにCADA導入となった.ADA導入後もCCMEの改善がなく,VHの悪化を認め,関節症状も考慮してインターロイキンC6受容体阻害薬であるトシリズマブ(tocilizum-ab:TCZ)に変更となった.症例C5はCADAの投与時反応にて中断となり,IFXに変更になった.以下にCBDの代表症例を示す.〔BDの代表症例:症例4〕31歳,男性.2010年にCBDを発症しコルヒチンを投与したが,強い硝子体混濁を伴うような眼炎症発作を起こしたためにC2011年よりCIFXを導入した.IFXの導入後も発作回数が頻回なために,IFXの投与量や投与間隔を変更し,併用薬剤にCCsAとCMTXを追加するなどを試みた.薬剤変更により最初は発作回数の軽減はあったが,徐々に効果がなくなり,IFXのC6週間隔投与とコルヒチン,MTXを併用したが,眼炎症発作回数がC10回/年であったためにCADAの導入となった(図3).ADAの導入後は眼炎症発作回数がC1.8回/年に減少した.VKHではCADA導入前にもっとも少なかったときのCPSLの平均投与量がC9.8C±3.7Cmgであり,最終受診時のCPSLの平均投与量C7.2C±7.5Cmgであった(p=0.67).2例でPSL量の減量を認め,1例はCADA導入後にCPSL漸減中に再燃を認めたために現在CPSLを増量している.また,当院ではCADA導入後は全例でCCsA内服を中止している.以下にCVKHの代表症例を示す.〔VKHの代表症例:症例8〕61歳,女性.2016年にCVKHを発症(図4a)し,ステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロンC1,000Cmg点滴静注,3日間)をC2クール行った.炎症の残存を認めたためにトリアムシノロンTenon.下注射(sub-Tenon’striamcinoloneacetonideinjec-tion:STTA)を併用しながら,初期投与量のCPSL60CmgからCPSL15Cmgまで漸減したが,再燃を認めた.PSLを増量し,CsAとCSTTAを併用しながら,PSL10Cmgまで漸減したが,再燃を認めた.そこでCPSL量は維持のまま,ADAを導入したが,光干渉断層計(OCT)で網膜色素上皮ラインの波打ち像を認めたためにCPSL30Cmgまでいったん増量し改善を得た.その後,ステロイドを漸減し,現在CPSL4Cmgまで減量できており,再燃は認めていない(図4b).ADA投与に伴う副作用はC10例中C5例に認めた.2例で注射部位反応,2例で咽頭炎,2例で肝酵素上昇,1例でCCRP・赤沈上昇,1例で乾癬様皮疹,1例で好酸球高値を認めた(重複あり).症例C5では,IFX投与が挙児希望のため中断となったが,中断後にCCMEを認め,通院の関係からCADAでのTNF阻害薬の再開となった.初回・2回目のCADA投与で注射部位反応を認め,2回目の注射後に注射部位の発赤がC7cm程度まで拡大し,注射部位以外の発疹や口唇浮腫も認めたために中止となった.CIII考按今回,既存治療でコントロール困難な難治性非感染性ぶどう膜炎に対し,当院でCADAを導入した各疾患における効果判定と安全性の結果を検討した.海外の報告においては,さまざまな難治性ぶどう膜炎に対するCADA導入の有用性が示されている5,6).また,国内でもCADAの認可に伴い,小野らC18*16*1412BOS241086420ADA導入ADA導入後ADA導入後6カ月前~導入0~6カ月7~12カ月図2BS24(Behcet'sdiseaseocularattackscore244))の経過BOS24でCADA導入前C6カ月から導入までの積算スコアは平均C8.0C±4.7,ADA導入から導入後C6カ月までの積算スコアは平均C2.4C±3.2,ADA導入C7.12カ月までの積算スコアは平均C2.2C±2.4であった(*p<0.05).図3症例4(31歳,男性,Behcet病)アダリムマブ(ADA)導入前には発作を繰り返しており,前眼部に前房蓄膿と虹彩後癒着を伴う強い炎症を認め(a),びまん性の硝子体混濁,網膜血管炎,滲出斑を認めた(Cb).ADA導入後は新規病変を認めず,硝子体混濁は改善した.図4症例8(61歳,女性,Vogt.小柳.原田病)Ca:初診時COCT.両眼眼底に隔壁を伴う漿液性網膜.離と脈絡膜の肥厚,網膜色素上皮ラインの不整を認めた.Cb:ADA導入後のCOCT.ADA導入後,脈絡膜の肥厚は認めるが,漿液性網膜.離や網膜色素上皮不整の改善を認めた.が難治性ぶどう膜炎に対する短期の使用経験と有用性を示している7).疾患別にみると,難治性CBDに対しては,国内では先に認可されたCIFXが主流であるが,海外では生物学的製剤(IFX,ADA)の報告が多数なされている8).ValletらはCBDに対して,IFXまたはCADA投与によりC91%で完全寛解/部分寛解を認め,IFXとCADAで同様の有効性であったと報告している9).また,IFXの継続困難や二次無効の症例のCADAへの変更は有用性を示されている10,11).当院の症例では,IFXからCADAへの変更がC6例あり,1例が新規導入であった.既報と同様にCIFXでの継続困難の症例や二次無効の症例においてもCADA変更後は改善を示していた.また,ADA新規導入例もCADA導入後は眼炎症発作を認めておらず,IFXと同様の効果を期待ができると考えられた.BDに対して生物学的製剤導入の際にCADAは選択肢の一つとして非常に有用であり,また,IFXによる眼炎症コントロール不良例ではCADAへの変更も考慮に入れるべきである.ADAは自己注射で行えるために,病院拘束時間が短くなることも注目すべき点であり,若年男性に重症例の多いCBDにおいては治療選択における根拠の一つとなると考えられる.Deitchらは免疫抑制療法でコントロールできない小児の難治性非感染性ぶどう膜炎におけるCIFXとCADAの有効性を報告している12).当院では症例C3が小児ぶどう膜炎(BD)のCADA導入例であったが,IFX,ADAで効果がなく,TCZに変更になった.今回のようにCIFXやCADAで効果がない場合にCTNFではなくCIL-6をターゲットとする生物学的製剤が有効な症例もある13).VKHに関して,Coutoらはステロイド,免疫抑制薬でコントロール困難なCVKHにCADA追加によりステロイドの減量または離脱が可能であったと報告している14).当院でのVKHの治療方針として,ステロイドパルス療法後にCPSL内服(1Cmg/kg/日,またはC60Cmg/日の低い用量から開始)を漸減し,再燃を認める場合にはCPSLの増量とCCsA併用を行い,症例によっては年齢や全身状態などを考慮してCSTTAの併用を行っている.さらにCPSLとCCsA併用で再燃を認めたCVKHに対してCADAの導入を検討し,ADA導入後はCsAを終了している.今回CADA導入したC3例はすべて,症例C8のようにCCsA併用でCPSL投与量漸減中に再燃を認めた症例である.症例C8はCPSL投与量を維持したままCADAを追加したが,再燃を認めたため,PSLを増量した経緯から,症例C9と症例C10ではCADA導入前にCPSLの増量も行った.この結果から,VKHではCADA投与だけでは炎症のコントロールができない可能性があり,ADA導入とともにPSLの増量を考慮する必要があると考えられた.添付文書より,ADAの副作用は国内臨床試験で全体の82.9%に認められ,当院ではC5例(50%)に注射時反応を認めた.当院では症例C5は,ADAのみに強い投与時反応を認め,IFXに変更になった.一般的にCIFXがマウス蛋白とのキメラ型であるに対して,ADAは完全ヒト型のために,IFXのほうがアレルギー反応多いとされているが,ADAでも強いアレルギー反応を認める症例があり,注意が必要である.ADAの登場により難治性ぶどう膜炎に生物学的製剤を使用することが可能になった.当院でも既存治療で難治例に対して使用し,BDでは中断例以外は非常に有効であり,VKHに関しても有効であると考えられた.ADAは国内で認可されてから日が浅いために,疾患別の有効性,導入時期,併用PSLの漸減方法などが不明確である.また,今後導入した症例に対しては,中止するタイミングの検討も必要となる.当院でのCADAは症例数もまだ少なく,今後症例を増やしてADAの適切な治療の検討が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)TakeuchiM,KezukaT,SugitaSetal:Evaluationofthelong-termCe.cacyCandCsafetyCofCin.iximabCtreatmentCforCuveitisCinCBehcet’sdisease:aCmulticenterCstudy.COphthal-mologyC121:1877-1884,C20142)厚生労働省べ一チェット病診断基準:http://www.nanbyou.Cor.jp/upload_.les/Bechet2014_1,20143)ReadCRW,CHollandCGN,CRaoCNACetal:RevisedCdiagnosticCcriteriaCforCVogt-Koyanagi-Haradadisease:reportCofCanCinternationalCcommitteeConCnomenclatu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