●連載監修=安川力髙橋寛二79.遺伝子多型を用いた黄斑疾患の細田祥勝京都大学大学院医学研究科眼科学教室予後予測山城健児大津赤十字病院眼科ゲノムワイド関連解析(GWAS)の登場により,遺伝子多型と疾患の関連を網羅的に検討することが可能となり,数多くの遺伝子多型と眼疾患との関連が報告されている.近年では,遺伝子多型が疾患発症のみならず,その予後や治療反応性に関連することが報告されており,実臨床への応用が期待されている.本稿では遺伝子多型を用いた滲出型加齢黄斑変性および中心性漿液性脈絡網膜症の予後予測について概説する.加齢黄斑変性の遺伝的背景加齢黄斑変性(age-relatedCmaculardegeneration:AMD)は欧米先進諸国における失明原因の第C1位であり,遺伝子研究も古くから行われてきた.2016年には1万人以上の大規模なゲノムワイド関連解析(genomeCwideCassociationstudy:GWAS)により,34ものAMD関連遺伝子が報告された.AMD発症の関連遺伝子としてもっとも広く知られているのはCCFHとARMS2であり,人種を問わずCAMD発症に強く関連することが報告されている.加齢黄斑変性の予後に関連する遺伝子滲出型(wet)AMDに伴う脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)の治療は,抗CVEGF薬が第一選択としてあげられる.WetAMDに対する抗VEGF療法の効果と遺伝子多型の関連についての日本からの前向き研究では,ARMS2Crs10490924Tアレルが,ラニビズマブ追加治療のリスクとなることが示唆された1).別の日本からの報告では,KCNMA1,PLXNC1,EXOC5,ZPLD1の四つの遺伝子領域におけるリスク変異の数がラニビズマブ治療後の視力に関連するという結果であり2),欧州からの報告では,CCT3遺伝子が治療後視力に関連しているという結果であった3).また,片眼性CAMD患者の僚眼にCCNVを発症するリスクを研究した報告では,ARMS2およびCCFHがCCNV発生のリスクとなることが報告されている4).上記の報告より,CFHおよびCARMS2はCAMDの発症のみならず,AMD患者の予後を決める因子として重要である可能性はある.しかしながらCAMD患者の予後に関連する遺伝子については未だ確立されたものはないのが現状であり,今後,表1に示した遺伝子の一塩基多型(singlenucleotidepolymorphism:SNP)の再現性の確認を含め,さらなる研究が必要である.中心性漿液性脈絡網膜症の遺伝的背景中心性漿液性脈絡網膜症(centralCserousCchorioreti-nopathy:CSC)は,30~50歳の男性に好発する疾患で表1AMDの予後に関連する遺伝子ARMS2Crs10490924CT・AMD発症のリスク上昇・ラニビズマブ追加治療を必要とするリスク上昇・片眼性CAMD患者で,僚眼にCCNV発症のリスク上昇CFHCrs800292CG・AMD発症のリスク上昇・片眼性CAMD患者で,僚眼にCCNV発症のリスク上昇CCT3Crs12138564CT・AMD患者で治療後視力を改善させるKCNMA1Crs76150532CAC・左記のリスクアレルの数が多いほど,ラニビズマブ治療PLXNC1Crs17296444CTC後の視力が低いEXOC5Crs75165563CCCZPLD1Crs17822656CC(85)あたらしい眼科Vol.37,No.9,2020C11250910-1810/20/\100/頁/JCOPY表2CSCの予後に関連する遺伝子CFHCrs800292CA・CSC発症のリスクCG・CSC発症を抑制・CSC患者におけるCCNV発症のリスク・漿液性網膜.離遷延のリスクCARMS2Crs10490924CT・CSC患者におけるCCNV発症のリスクあり,黄斑部の漿液性網膜.離を特徴とする.自然寛解することが多いとされているが,近年のCCSCの長期予後に関する報告では,平均C10年間の経過により慢性CSC患者のC12.8%が社会的失明(両眼とも矯正視力C0.1以下)したと報告された.CSCに続発するCCNVは視機能障害の重要な原因であり,この報告ではC24%の患者に経過中のCCNV発症を認めている5).AMDと比較して,CSC発症に関連する遺伝子の報告は非常に少ない.2015年にCCFH領域におけるCAMDのリスク遺伝子多型がCCSC発症のリスクを減らすことが報告され,その後多くの研究で同様の結果が確認されている.またCGWASにより,SLC7A5,TNFRSF10A,GATA5近傍の遺伝子領域がCCSC発症に関与していることが報告されている.中心性漿液性脈絡網膜症の予後に関連する遺伝子CSCは長期的に失明につながる重要な疾患であるが,その予後と遺伝子の関係について研究した論文は少ない.CSCの予後に関連する重要な因子として,上記で述べたCCNVがあげられるが,近年,AMDのリスク遺伝子多型であるCCFHrs800292のCGアレルとCARMS2rs10490924のCTアレルが,CSCにおけるCCNV発症に寄与しているということが報告された6).また,CFHrs800292のCGアレルは,CSCにおける漿液性網膜.離遷延にも関連していることが報告された.つまりCCFHrs800292のCAアレルはCCSC発症のリスクとなるものの,CSC患者においてCAアレルは患者の予後を良好にするという結果であった.CFHとCARMS2の二つの遺伝子は,CSC患者の予後を規定する重要な因子であると考えられるが,現時点ではCCSCの臨床経過と遺伝子型の関連はほとんど研究されていない.今後はCCSCの臨床経過を前向きに検討することにより,予後関連遺伝子を解明することが期待される.文献1)YamashiroK,MoriK,HondaSetal:Aprospectivemul-ticenterstudyongenomewideassociationstoranibizum-abCtreatmentCoutcomeCforCage-relatedCmacularCdegenera-tion.SciRepC7:9196,C20172)AkiyamaCM,CTakahashiCA,CMomozawaCYCetal:Genome-wideCassociationCstudyCsuggestsCfourCvariantsCin.uencingCoutcomesCwithCranibizumabCtherapyCinCexudativeCage-relatedCmacularCdegeneration.CJCHumCGenetC63:1083-1091,C20183)Lores-MottaCL,CRiazCM,CGruninCMCetal:AssociationCofCgeneticvariantswithresponsetoanti-vascularendothelialgrowthCfactorCtherapyCinCage-relatedCmacularCdegenera-tion.JAMAOphthalmolC136:875-884,C20184)MiyakeCM,CYamashiroCK,CTamuraCHCetal:TheCcontribu-tionCofCgeneticCarchitectureCtoCtheC10-yearCincidenceCofCage-relatedmaculardegenerationinthefelloweye.InvestOphthalmolCVisSciC56:5353-5361,C20155)MrejenCS,CBalaratnasingamCC,CKadenCTRCetal:Long-termvisualoutcomesandcausesofvisionlossinchroniccentralCserousCchorioretinopathy.COphthalmologyC126:C576-588,C20196)HosodaCY,CYamashiroCK,CMiyakeCMCetal:PredictiveCgenesCforCtheCprognosisCofCcentralCserousCchorioretinopa-thy.OphthalmolRetinC3:985-992,C2019☆☆☆1126あたらしい眼科Vol.37,No.9,2020(86)