●連載監修=安川力髙橋寛二71.脈絡膜血管新生に対する抗VEGF董震宇野田航介北海道大学大学院医学研究院眼科学教室製剤の使い分け異なる病態基盤を有する脈絡膜新生血管(CNV)に対して複数存在する抗CVEGF製剤をどう使い分けるべきかということが課題となっている.筆者らの施設ではCCNVの原因疾患や病型によって使用する抗CVEGF製剤を選択し,治療抵抗例では薬剤切り替えや光線力学的療法などとの併用療法も考慮している.はじめに近年,滲出型加齢黄斑変性(age-relatedCmaculardegeneration:AMD),強度近視に伴う脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)などに対して抗VEGF製剤の硝子体内注射が治療の第一選択になっており,現在わが国で保険認可されている薬剤としてラニビズマブ(ルセンティス)とアフリベルセプト(アイリーア)がある.以下,CNVに対するこのC2製剤の使い分けについて,両者の創薬デザイン上の違いを交えて筆者らの施設における考え方を述べる.抗VEGF製剤の創薬デザインラニビズマブとアフリベルセプトは同じ抗CVEGF製剤ではあるが,創薬デザインが異なる.ラニビズマブはヒト化モノクローナル抗体CFab断片で,抗原と結合するCFab領域のみとなっており,さらにCVEGFとの結合親和性を増強して製品化されている.一方,アフリベルセプトはCVEGF受容体(VEGFR)融合蛋白である.VEGFR-1とCVEGFR-2の細胞外ドメインをヒトCIgGのFc領域に融合させていることが特性で,このためVEGF-Aのほかにも,VEGF-BやCPlGF(胎盤成長因子)を阻害する1).滲出型AMDに伴うCNV滲出型CAMDに伴うCCNVに対する治療においてはVEGF-AがCCNV発症に中心的役割を演じる分子であることから,VEGF-Aを強力に抑制することが必要となる.アフリベルセプトはラニビズマブと比較してVEGF-Aに対しより高い親和性を有すること1),VEGF-AのほかにCPlGFやCVEGF-Bを含めCVEGFR-1とCVEGFR-2に結合する蛋白質すべてを阻害することができることから,より効果的なCCNV抑制効果が期待される.一方,VEGFファミリー分子は多様な生理活性を有する分子でもあるため,長期にわたる強力な(93)C0910-1810/19/\100/頁/JCOPYVEGF抑制に伴う全身合併症が危惧されているが,近年アフリベルセプト硝子体内注射による血管イベントリスクは非投与群とほぼ同等であるとの報告もなされており2),まだ議論の分かれるところである.これらの報告をふまえて,筆者らの施設では視力良好例の典型CAMDに対してはアフリベルセプトを第一選択としている(図1).また,治療開始前矯正視力がC0.7以下のC1型CCNV患者やポリープ状脈絡膜血管症,網膜血管腫状増殖,そしてアフリベルセプト硝子体内注射に反応性が乏しい患者に対しては,光線力学的療法(photo-dynamictherapy:PDT)およびトリアムシノロンアセトニド後部CTenon.下注射(sub-TenonC’sCtriamcino-loneacetonideinjection:STTA)を併用するCPDTトリプル療法を積極的に行っている.近視性CNV,続発性CNV近視性CCNVやぶどう膜炎などに伴うCCNVは,一般的に滲出型CAMDに伴うCCNVほど活動性が高くないと考えられ,CNVを退縮させることを治療の第一目標としつつも,抗CVEGF製剤の長期投与による網脈絡膜萎縮にも注意する必要がある.実際,筆者らも以前近視性CNVに対してラニビズマブをC3回連続投与後,CNVの退縮が得られたものの,網脈絡膜萎縮により最終的に視力不良になった症例を経験している(図2).そのため,近視性CCNVで活動性があまり高くない症例に対してはラニビズマブ硝子体内注射とCSTTAの併用を第一選択とし,まずC1回投与してその後注意深く経過観察しつつ,必要に応じて再投与を検討することにしている.一方,ぶどう膜炎などに伴うCCNVについては保険適用の問題もあり,治療には苦慮しているのが現状である.おわりに実際の臨床では,ノンレスポンダーの存在や抗VEGF製剤の長期投与に伴うタキフィラキシーにより,他の抗CVEGF製剤への切り替えを行わざるをえないこあたらしい眼科Vol.36,No.12,2019C1569治療前治療後図1TypeIICNVにアフリベルセプト硝子体内注射を施行した著効例アフリベルセプト硝子体内注射後にCCNVは退縮し,治療前C0.4であった矯正視力も0.8まで改善した.治療後C15カ月経過してもCCNVの再発を認めていない.OCT画像は水平断.治療前治療後図2強度近視に伴うCNVに対してラニビズマブ硝子体内注射を繰り返した1例すでに治療前から広範囲に網脈絡膜萎縮を認めていた.ラニビズマブ硝子体内注射を繰り返した結果,CNVの退縮が得られて矯正視力もC0.7まで一時改善したものの,網脈絡膜萎縮が拡大したため視力はC0.02と低下した.OCT画像はそれぞれ水平断(上)と垂直断(下).ともしばしばあり,抗CVEGF製剤への反応を注意深く観察しつつ,柔軟に使用することが必要である.さらに最近,滲出型CAMDに伴うCCNVに対してCtreat-and-extendregimenで硝子体内注射を行った場合は,アフリベルセプトとラニビズマブがほぼ同様の注射回数で同等の視力維持効果が得られたとする報告がなされており3),今後は両者の使い分けはさらに変わっていく可能性がある.文献1)PapadopoulosCN,CMartinCJ,CRuanCQCetal:BindingCandC1570あたらしい眼科Vol.36,No.12,2019neutralizationCofCvascularCendothelialCgrowthCfactor(VEGF)andCrelatedCligandsCbyCVEGFCTrap,CranibizumabCandbevacizumab.CAngiogenesisC15:171-185,C20122)KitchensCJW,CDoCDV,CBoyerCDSCetal:ComprehensiveCreviewofocularandsystemicsafetyeventswithintravit-realCa.iberceptCinjectionCinCrandomizedCcontrolledCtrials.COphthalmologyC123:1511-1520,C20163)GilliesCMC,CHunyorCAP,CArnoldCJJCetal:E.ectCofCranibi-zumabCandCa.iberceptConCbest-correctedCvisualCacuityCinCtreat-and-extendCforCneovascularCage-relatedCmaculardegeneration:Arandomizedclinicaltrial.JAMAOphthal-mol24:2019.[Epubaheadofprint](94)