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抗VEGF治療:VEGF阻害薬の作用機序

2018年1月31日 水曜日

●連載監修=安川力髙橋寛二48.VEGF阻害薬の作用機序安藤亮野田航介北海道大学大学院医学研究院眼科学教室現在,わが国で眼科領域において使用されているCVEGF阻害薬にはベバシズマブ,ペガプタニブ,ラニビズマブ,アフリベルセプトのC4種類がある.実臨床ではそれぞれの特性を理解したうえで選択,使用されるべきである.本稿では各薬剤の特性と作用機序について概説する.はじめに現在の眼科治療において,血管内皮細胞成長因子(vas-cularCendothelialCgrowthCfactor:VEGF)阻害薬はもはや欠かせないものとなっている.いくつもの臨床試験によってその投与方法は確立しているといえるが,実臨床ではさまざまな患者背景,既往全身疾患,経済的状況などによって治療法を変更せざるをえないことがある.本稿では各薬剤の特性と作用機序について概説する.阻害薬の種類と特性現在,わが国で眼科領域において使用認可されているVEGF阻害薬にはベバシズマブ,ペガプタニブ,ラニビズマブ,アフリベルセプトのC4種類がある.それぞれの薬剤特性により,阻害する分子には差異がある(表1,図1).ベバシズマブはC2007年に大腸癌に対する抗癌薬として国内で認可された,VEGF-Aを阻害することで血管新生を抑制するヒト化モノクローナル抗体である.分子量はC150,000とC4種類のなかでもっとも大きく,半減期も長い.眼科領域においては,他のCVEGF阻害薬が登場するまで眼内血管新生疾患,とくに滲出型加齢黄斑変性に広く使用されていたが,オフラベル投与であった.現在でも眼疾患に対しての適応はないものの,特発性脈絡膜新生血管,未熟児網膜症,Coats病,網膜血管増殖性腫瘍,血管新生緑内障など,他のCVEGF阻害薬でも適応となっていない眼疾患に対して使われることがある.ペガプタニブは,2008年に国内初の滲出型加齢黄斑変性に対する薬剤として承認された.核酸(RNAやDNA)以外の物質に作用する核酸医薬品のことをアプタマーとよぶが,ペガプタニブはCVEGF-Aに結合し阻害するC1本鎖CRNAアプタマーである.VEGF-Aにはその分子量によっていくつかのアイソフォームが存在するが,生理的な作用にはCVEGF-ACが強く関与しており,病的血管新生や血管透過性亢進な121ど病理的な作用にはCVEGF-AC165が強く関与している.ペガプタニブはこのCVEGF-ACのみを選択的に阻害する唯一の薬剤である.治療効果は165他のCVEGF阻害薬に及ばないが,添付表1VEGF阻害薬の特性と比較薬剤名分子量阻害分子Fc領域平衡解離定数KC(pM)DVEGF-A165CPlGFCVEGF-BベバシズマブC150,000CVEGF-A有C58CNBCNBペガプタニブC50,000CVEGF-A165C─C─C─C─ラニビズマブC50,000CVEGF-A無C46CNBCNBアフリベルセプトC115,000CVEGF-ACPlGFCVEGF-B有C0.49C38.9C1.92NB:nobinding.(105)あたらしい眼科Vol.35,No.1,2018C1050910-1810/18/\100/頁/JCOPY文書上,4剤のなかで唯一血栓塞栓症に対する慎重投与の記載がなく,安全性が高いと考えられる.ラニビズマブはC2009年に国内で承認されたヒト化モノクローナル抗体CFab断片である.ベバシズマブが抗体製剤であるのに対して,ラニビズマブは抗原と結合するCFab領域のみとなっており,さらにCVEGFとの結合親和性を増強して製品化されている.アフリベルセプトはC2012年に国内で承認されたVEGF受容体(VEGFR)融合蛋白である.VEGFR-1とVEGFR-2の細胞外ドメインをヒトCIgGのCFc領域に融合させていることがこの製剤の特性で,このためVEGFR-1とCVEGFR-2に結合する蛋白質すべてを阻害することができる.VEGF-Aのほかにも,VEGF-Bや胎盤成長因子(placentalCgrowthCfactor:PlGF)を阻害する.PlGFも滲出型加齢黄斑変性1)や糖尿病黄斑浮腫1)に関与していると考えられており,効果の増強が期待できる.薬剤間の比較それぞれの阻害薬はCVEGF-ACへの親和性も異なる2).平衡解離定数は,その数値が低いほ165ど親和性が高く,分子と結合しやすいことを示すが,アフリベルセプトは表1のとおりベバシズマブやラニビズマブよりもC100倍ほどCVEGF-ACに結合しやすい.また,VEGFR-1とVEGFR-2の平165衡解離定数はC9.33CpMとC88.8CpMであり,アフリベルセプトのほうがより結合しやすいことがわかる.では,全身への影響はどうだろうか.151名の滲出型加齢黄斑変性,糖尿病黄斑浮腫,網膜静脈閉塞症患者における各種CVEGF阻害薬の全身薬物動態を調査した報告では,硝子体注射後の血漿中の遊離CVEGF濃度はアフリベルセプト,ベバシズマブ,ラニビズマブの順で低かった3).ラニビズマブでは投与前と比べてほとんど変化がなかったのに対し,アフリベルセプトではC1週間後まで検出感度以下となった.この動態の違いはCVEGFへの親和性の違いや分子量に由来するだけでなく,血管内皮細胞に存在するCFcRn-mediatedCrecyclingというFc部分をもつ蛋白質の分解に対する抑制機構の影響も考えられる.この機構によってCFc部分をもつアフリベルセプトとベバシズマブでは,Fc部分のないラニビズマブと比較して,全身循環からのクリアランスが低いと考えられるためである.新規の阻害薬VEGF阻害薬治療では,治療回数の多さが一つの問106あたらしい眼科Vol.35,No.1,2018題であり,それが患者にとっても医療者にとっても負担となっている.現在でもさらに新しいCVEGF阻害薬が開発され治験が行われているが,その一つがCbroluci-zumabである.これはCVEGF-Aを阻害するヒト化C1本鎖抗体断片であり,分子量はC26,000と他のCVEGF阻害薬と比べて一番小さい.このためC50Cμlの注射でC6Cmgを投与でき,モル濃度で換算でき,アフリベルセプト2CmgのC12倍,ラニビズマブC0.5CmgのC22倍に匹敵する.高容量を投与できるため眼内からの排出期間も長くなり,実際,滲出型加齢黄斑変性の患者に投与したところ,追加投与が必要になるまでの平均期間はラニビズマブよりもC30日長かった.第CII相試験では,滲出型加齢黄斑変性を対象にアフリベルセプトとの比較がされている4).2カ月ごとの投与の結果,40週までの視力は両者に差はなかったが,brolucizumabのほうが中心網膜厚が薄くなり,網膜内浮腫,網膜下液が回復した割合も多かった.第CIII相試験(HAWK試験,HARRIER試験)が終了しており,実臨床への導入が期待される.おわりに以上のように,ベバシズマブとラニビズマブはCVEGF-A165へ同程度の親和性をもつが,ラニビズマブは血中CVEGFへの影響が非常に少ない.ペガプタニブは,添付文書上,4剤のなかで唯一血栓塞栓症に対する慎重投与の記載がない.アフリベルセプトは親和性が高く,VEGF-A以外の標的分子ももち,効果が強いが,血中CVEGFへの影響も大きい.それぞれの薬剤特性を知ることは,症例に応じたより適切な薬剤の選択につながると考えられる.文献1)AndoR,NodaK,NambaSetal:AqueoushumourlevelsofCplacentalCgrowthCfactorCinCdiabeticCretinopathy.CActaCOphthalmolC92:e245-246,C20142)PapadopoulosCN,CMartinCJ,CRuanCQCetCal:BindingCandCneutralizationCofCvascularCendothelialCgrowthCfactor(VEGF)andCrelatedCligandsCbyCVEGFCTrap,CranibizumabCandbevacizumab.AngiogenesisC15:171-185,C20123)AveryRL,CastellarinAA,SteinleNC:Systemicpharma-cokineticsCandCpharmacodynamicsCofCintravitrealCa.ibercept,Cbevacizumab,CandCranibizumab.CRetinaC37:C1847-1858,C20174)DugelPU,Ja.eGJ,SallstigPetal:Brolucizumabversusa.iberceptCinCparticipantsCwithCneovascularCage-relatedmaculardegeneration:Arandomizedtrial.OphthalmologyC124:1296-1304,C2017(106)

緑内障:眼球の剛性と緑内障

2018年1月31日 水曜日

●連載211監修=岩田和雄山本哲也木内良明211.眼球の剛性と緑内障広島大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学(眼科学)眼圧による機械的な障害,循環障害に加えて角膜,強膜,篩状板の剛性も緑内障の発症あるいは進行に関与する危険因子の一つと考えられている.空気式眼圧計に高速シャインプルーフカメラを搭載したCCorvisCSTは眼圧測定中の角膜挙動の変化を詳細にとらえることができる.CorvisSTを用いた緑内障研究が進んでいる.C●緑内障の危険因子緑内障は多因子性の疾患と考えられている.古くから機械障害説と循環障害説が提唱されてきた1).さらに,疫学的な研究からも緑内障発症あるいは進行の危険因子が明らかにされている.わが国で行われたCTajimiCStudy2)では,高眼圧,高年齢,近視であることが緑内障発症の危険因子として示された.薄い中心角膜厚や乳頭出血が緑内障発症の危険因子としてあげられることもある3).加齢に伴いコラーゲン線維間の架橋が増えることで篩状板や角膜の剛性が変化する.近視では強膜が進展されて眼球の剛性が変化する.角膜の厚さも眼球の剛性に影響することは容易に理解できる.眼圧,循環障害に続いて,眼球壁の剛性も緑内障の危険因子ではないかと考えられるようになった.C●空気式非接触眼圧計と高速カメラ眼球の剛性の測定方法には,摘出眼球から得られた組織を用いて物理的な剛性を測定する,白内障手術のときに一定量の人工房水を前房に注入して眼圧を上昇させて測定する5),などの方法がとられてきた.しかし,このような方法は臨床の場で実際に応用することはできない.筆者らは,空気式眼圧計で眼圧を測定する際に,角膜が変位する量や変位に要する時間を測定して角膜(眼球)の剛性を測定しようと試みてきた.初期のころは高速カメラと眼圧計を直角の位置に配置して,得られた画像から変位量を手作業で解析していた(図1).角膜の中央部の初期変位量は眼圧が高いほど,年齢が若いほど,また男性よりも女性のほうが少ないということが示された6).眼圧が高いほど角膜の変位量が少ないということは直感的に理解できる.しかし,男性の組織のほうが女性より,また高齢者の組織が若年者より硬いと予測されるために,男性や高齢者の角膜変位量(103)0910-1810/18/\100/頁/JCOPYが大きくなるという結果の解釈ができなかった.そこで測定初期と後期のC2時点における変位量を,角膜中央部だけでなく,空気噴流で角膜の変形を生じない部位でも求めた.その結果,眼圧測定中は角膜だけでなく,眼球自体(眼球のどこまでが変位するかはわかっていない)が後方に変位することがわかった.その全体変位は高齢者ほど大きく,とくに高齢の女性の変位が大きいことがわかった.眼球全体の後方変位が少ないことが若さの特徴と考えられた.高齢者は眼球全体の後方変位が大きくなる.とくに女性において高齢になると後方変位量が極端に増大する.つまり女性の眼球変位量は男性よりも年齢の影響を受けやすいことがわかった7).C●高速シャインプルークカメラを搭載した非接触眼圧計高速シャインプルークカメラを搭載したCCorvisCST(OCULUS社)は角膜の変形する様子を撮影し,画像から角膜や眼球変位のパラメータを自動的に提示することあたらしい眼科Vol.35,No.1,2018C103yDeformationAmplitudeMaxLargerDeformationAmplitudeMaxSameA2andA2timeforce図2角膜の物理学的特性a:角膜はばねとダンパーの組み合わせでできている.b:上方から力が加わり,図の下方にむけて変位するとき(loading)と元に戻るとき(unloading)では,同じ力が加わっていても変位する量は異なっている.LoadingとCunloadingのときの角膜先端の動きをプロットするとCbのようになる.loadingとCunload-ingで囲まれた面積がChysteresisとよばれ,このエネルギーの差は熱に変換される.Cができる.一般的な空気式眼圧計は,眼圧測定値が得られたときから角膜に吹き付ける空気噴流圧を下げる.一方,CorvisSTは眼圧値と関係なく一定量の空気を一定の圧で毎回噴出させる.また,CorvisSTは全体の動きを除外した真の角膜中央部の変化を示すパラメータを表示してくれる.したがって眼球の動きの変化を理解しやすい.角膜の先端部はばねとダンパーの組み合わせで,その物理的な性質を示すことができる(図2).その先端の動きを線でつなげると,陥凹するときと元の形に戻るときにずれを生じる(hysteresis曲線)8).このChystere-sis曲線に囲まれた部分の面積が角膜のChysteresis〔Ocu-larCResponseCAnalyzerで得られるCcornealChysteresis(CH)とは異なる〕である.白内障術後のChysteresis曲線は,術前と比べて最大押し込み量が増えて,元の位置に戻るときに左方変位していることがわかる.角膜の物理特性を表現するばねとダンパーの両者が弱くなっている状態といえる9)(図3).C●眼球剛性と緑内障プロスタグランジン関連薬は眼球の剛性に影響を与えることがわかっている10).緑内障群と非緑内障群のCorvisCSTのパラメータの違いを検討した報告はあるが,緑内障患者にはプロスタグランジン関連薬が点眼されていることが多いために,緑内障群と非緑内障群の剛性の違いを述べることはむずかしい.一方,緑内障の進行速度と関連するCCorvisCSTのパラメータを調べると,空気噴流が当たるとすぐ変形して,その後にすぐ元の形104あたらしい眼科Vol.35,No.1,2018ForceSameA1andA1ProbableloadingandunloadinglinetimeforceaftercataractsurgeryxDisplacementSameA1andA1DefLargerA2thanA2Def図3超音波白内障手術前後のhysteresiscurveの違い青い線が術前,赤いドットが術後の予想曲線である.両者の差はCunloadingのときに顕著になる.A1time,A2time,A1Def,A2DefはCCorvisSTのパラメータである.C状に戻るような眼球は,緑内障の進行速度が速いことが予測されている11).文献1)YanagiM,KawasakiR,WangJJetal:Vascularriskfac-torsCinCglaucoma:aCreview.CClinCExpCOphthalmolC39:C252-258,C20112)SuzukiY,IwaseA,AraieMetal:Riskfactorsforopen-angleCglaucomaCinCaCJapaneseCpopulation:theCTajimiCStudy.Ophthalmology113:1613-1917,C20063)GordonCMO,CBeiserCJA,CBrandtCJDCetCal:TheCOcularHypertensionTreatmentStudy:baselinefactorsthatpre-dicttheonsetofprimaryopen-angleglaucoma.ArchOph-thalmol120:714-720,C20024)AlbonJ,PurslowPP,KarwatowskiWSetal:AgerelatedcomplianceCofCtheClaminaCcribrosaCinChumanCeyes.CBrCJOphthalmolC84:318-323,C20005)PallikarisIG,KymionisGD,GinisHSetal:Ocularrigidityinlivinghumaneyes.InvestOphthalmolVisSciC46:409-414,C20056)KiuchiY,KanekoM,MochizukiHetal:Cornealdisplace-mentduringtonometrywithanoncontacttonometer.CJpnJOphthalmolC56:273-279,C20127)NakakuraS,KiuchiY,KanekoMetal:Evaluationofcor-nealCdisplacementCusingChigh-speedCphotographyCatCtheCearlyCandClateCphasesCofCnoncontactCtonometry.CInvestCOphthalmolVisSciC54:2474-2482,C20138)IshiiCK,CSaitoCK,CKamedaCTCetCal:ElasticChysteresisCinChumanCeyesCisCanCage-dependentCvalue.CClinCExpCOph-thalmolC41:6-11,C20139)KatoCY,CNakakuraCS,CAsaokaCRCetCal:CataractCsurgeryCcausesCbiomechanicalCalterationsCtoCtheCeyeCdetectableCbyCCorvisSTtonometry.PLoSOneC12:e0171941,C201710)WuCN,CChenCY,CYuCXCetCal:ChangesCinCcornealCbiome-chanicalCpropertiesCafterClong-termCtopicalCprostaglandinCtherapy.PLoSOneC11:e0155527,C201611)MatsuuraCM,CHirasawaCK,CMurataCHCetCal:UsingCCor-visSTCtonometryCtoCassessCglaucomaCprogression.CPLoSCOneC12:e0176380,C2017(104)

屈折矯正手術:円錐角膜に対する角膜内リングの効果

2018年1月31日 水曜日

監修=木下茂●連載212大橋裕一坪田一男212.円錐角膜に対する角膜内リングの効果菅沼隆之岡眼科クリニック円錐角膜に対する角膜内リング挿入術は,円錐角膜の角膜形状を改善し,不正乱視を軽減することによって眼鏡矯正視力の向上が期待できる.手術による視力低下はみられない安全性の高い術式で,早期に行うほど術後視力の向上と維持が望める.●はじめに円錐角膜は,進行性の疾患で,角膜中央近傍の菲薄化,脆弱化に伴い角膜が前方突出する.部分的な角膜突出の影響で角膜不正乱視が増大し,眼鏡矯正視力(以下,視力)が低下する.重症化に伴い視力低下が強くなり,進行するとCDescemet膜破裂を起こし急性水腫となる.急性水腫や角膜混濁が生じるとコンタクトレンズでの矯正もむずかしくなる.これまで円錐角膜の治療は,コンタクトレンズでの矯正で経過をみながら,重症化したら角膜移植を行うというものであった.現在では,病期の進行予防と維持目的で角膜クロスリンキングが行われ,角膜形状の改善と維持を目的に角膜内リング(intrastromalCcornealCringsegments:ICRS)挿入術が行われている1,2).ICRS挿入術は,元は軽度近視に対する治療として始まったが,近年ではおもに円錐角膜をはじめペルーシド角膜辺縁変性症などの角膜変形疾患に対して,角膜形状の改善のために用いられている.以前はマニュアルでの角膜内トンネル作製の煩雑さやむずかしさがあったが,フェムトセカンドレーザーの開発に伴い,精確で安全な角膜内トンネル作製が可能になり,世界で広く行われるようになっている(図1).C●角膜内リングの種類ICRSは,Intacs,IntacsSK(AdditionCTechnology社)とCKeraring(Mediphacos社)が販売されている.半円弧状のCPMMA(ポリメチルメタクリレート)製のリングで二つのセグメントからなり,円錐角膜の矯正効果はリングの直径が小さいほど,厚いほど,円弧角度が大きいほど強い.KeraringのほうがCIntacsよりリング直径が小さく,矯正効果は強いが,リングが瞳孔領にかかると乱反射などが起こりやすいことと,角膜の菲薄化でリング自体が挿入できない場合があるため,当院ではIntacs,IntacsSK(図2)を採用している.以下,当院での自験例を含め,Intacs,IntacsSKでの治療の実際を紹介する.abIntacsCIntacsSK材質CPMMACPMMA円弧角度C150°C150°断面形状八角形楕円リング内周径C6.8CmmC6.0Cmmリング幅C1.3CmmC1.3Cmm厚さ210~C450Cμm210~C550Cμm図1角膜内リング挿入術後1カ月の前眼部写真角膜C11時部より対称的に挿入.6.0Cmm以上のCopticalzone.図2Intacssegmentの外観とIntacs,IntacsSKの規格a:Intacsは半円弧状のCPMMA製のリングである.Cb:矯正効果はリングの直径が小さいほど,厚いほど強い(Intacs<IntacsSK).C(101)あたらしい眼科Vol.35,No.1,2018C1010910-1810/18/\100/頁/JCOPY表1術前と術後12カ月の眼鏡視力とK.max群A群(0C.7以上)CB群(0C.3~0C.6)CC群(0C.2以下)C全症例C眼鏡視力K-max(D)術前0.900.410.090.39術後C12カ月1.01(Cp=0.26)C0.50(Cp<C0.05)C0.22(Cp=0.01)C0.59(Cp<C0.01)C術前55.0058.5062.5058.10術後C12カ月52.2(Cp<C0.05)54.0(Cp=0.001)55.3(Cp=0.001)52.9(Cp=0.001)経過観察期間A群(0.7以上)B群(0.3~0.6)C群(0.2以下)図4平均眼鏡視力の経過(術前眼鏡視力別)各群で術後より視力が改善した.B群で術後C0.7以上に改善した症例はあったが,C群症例でC0.7以上に改善した症例はなかった.A群:n=20,B群:n=20,C群:n=12.●手術とリング設定手術は角膜内トンネルをフェムトセカンドレーザーで作製し,角膜内リングを挿入するだけのシンプルなものである.角膜内トンネルはC400Cμm以上の深さを確保する必要があるので,術前に前眼部COCTで挿入部の角膜厚がC500Cμm以上あることを確認する.円錐角膜の進行度の評価は症例によるバリエーションが多く,一律にその評価をすることがむずかしいが,不正乱視の増大と視力には相関があり,臨床的な円錐角膜進行度の評価として眼鏡矯正視力が適していると筆者は考えている.挿入するリングの各症例に対する明確な設定やノモグラム3)がないので,IntacsとCIntacsSKの選択,セグメントの厚さ,同一の厚さを挿入するシンメトリーか異なる厚さのアシンメトリーにするか,挿入部位置についても検討しなければならない.これらのリング設定に関して,オーブスキャンなどの角膜形状のデータをCAT社に送り,推奨するリング設定などに関してコンサルトを受けることができる.C●角膜内リングの効果実際の治療効果について,当院の自験例を提示する.対象は円錐角膜でCICRS挿入術を行ったC42例C52眼,平均年齢C33.2歳.イントラレースCiFSレーザー(AMO社)102あたらしい眼科Vol.35,No.1,2018C経過観察期間図3平均眼鏡視力の経過(全体)術後より視力改善した.術後C12カ月経過で視力低下例なし(n=52).Cで角膜内トンネルを作製し,Intacsまたは,IntacsSKの挿入を行った.術前視力別にCA群(0.7以上)20眼,B群(0.3~0.6)20眼,C群(0.2以下)12眼に分類し,術前と術後の視力,最大角膜屈折(K-max)を比較検討(Wilcoxon検定)した.K-maxはCTMS-4(トーメーコーポレーション)で測定した.術前と術後C12カ月の経過を表1に示す.症例全体では視力(図3)とCK-maxは優位に改善した.術前視力別では,視力はCBC群で有意に改善(図4)し,K-maxはABC群すべてで有意に改善した.すべての症例でK-maxが改善し,術後視力は向上もしくは不変で,視力が悪化した症例はなかった.また,重症のCC群でも視力の改善は認めたが,術後視力がC0.7以上になる症例はなかった.C●円錐角膜治療における角膜内リングの適応時期円錐角膜に対するCICRS挿入術は,角膜形状の改善とともに不正乱視が軽減し,視力の改善が望める.手術による視力の低下がない安全性の高い術式で,術前視力が比較的よい軽症の症例ほど術後視力の向上維持が期待できる.重症の急性水腫後や角膜混濁のある症例でも視力改善はあるが,大きな改善は望めない.円錐角膜治療でのCICRS挿入術の手術時期は,視力低下が出はじめる早い段階で行うことが望ましいと考える.文献1)Fernandez-VegaCuetoLetal:Intrastromalcornealringsegmentimplantationin409paracentralkeratoconiceyes.CorneaC35:1421-1426,C20162)FahdDCetal:IntrastromalcornealringsegmentSKformoderateCtoCsevereCkeratoconus:aCcaseCseries.CJCRefractCSurgC28:701-5,C20123)ShettyCRCetCal:DecisionCmakingCnomogramCforCintrastro-malCcornealCringCsegmentsCinCkeratoconus.CIndianCJCOph-thalmolC62:23-28,C2014(102)C

眼内レンズ:CTR挿入時のZinn小帯ダメージを減らすために

2018年1月31日 水曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋374.CTR挿入時のZinn小帯ダメージを小堀朗福井赤十字病院眼科部長兼アイセンター長減らすために水晶体.拡張内リング(capsulartenisionring:CTR)はCZinn小帯断裂症例に有効なツールであるが,挿入時にCZinn小帯にダメージを与えてしまう.CTR先端をコントロールし,Zinn小帯のダメージを最小限にするための方法(spiral法,sutureguide法)を紹介する.●はじめに通常のマニュアル法やインジェクター法を用いて水晶体.拡張内リング(capsularCtenisionCring:CTR)を挿入する際のCCTRの軌道を示す(図1,2).水晶体.と連続円形切.(continuousCcurvilinearcapsulorrhexis:CCC)の直径をそれぞれC10mmとC5mmとし,直径C13CmmのCCTRをCCCC縁から挿入する.水晶体.は本来の位置から最大C5.5Cmm外側に偏位し,Zinn小帯が大きくダメージを受ける.さらにCCTRと水晶体.の摩擦力により.が回転する方向に力(トルク)がかかり,さらにダメージが加わる.それらを解決するには,水晶体.より小さな状態でCTRを挿入し,最後に.内でCCTRが拡張することが望ましい.そのためにはCCTRの先端をコントロールする必要があり,二つの方法があげられる.C●Spiral法一つ目はCspiral法である1).左手に特殊な形状のフック(図3,製造計画中で型番はまだない),右手にCCTRインジェクターを把持する.フックはシンスキー型やフェイコチョッパーでも代用できるが,先端をさらに曲げてCCTR先端が途中ではずれるのを防ぐ.インジェク図1CTRをそのまま挿入した際のCTRの位置関係ターでCCTRを押し出しながら,CTR先端のCholeにフックをかける(図4).CTR先端がCCCC縁に添うようフックでコントロールし,.内に挿入する.CTR先端が水晶体.辺縁を回らないために,.にトルクがかからない.挿入の最後の段階で,CTRの先端をフックから離さずに両端が重なるところまでもっていってからCCTRを解放する.CTR両端を重ねるとCCTR直径はC10Cmmとなり,水晶体.は最大C2.5mmの偏位に抑えられ,Zinn小帯のダメージを最小限に減らせる(図2,5).C●Sutureguide法二つ目は,CTR先端を糸でコントロールする方法(sutureCguide法)である2).CTR先端のCholeにC10-0ナイロン糸を通しておく.HoleからC2~3Cmmの位置で糸の両側を鑷子で把持し,CTR先端をコントロールする(図6).CTRのコントロールはCspiral法と同様に行う.なんらかのトラブルの際には,糸を引き出せばCTRを回収できる.問題点としては,糸をつかむ前.鑷子は先端のみ把持しやすくなっているため,糸が抜け13mm円10mm円水晶体.CCC縁図2CTRを挿入する際のCTRの軌道CTRを図C1のようにそのまま挿入すると直径C13Cmmの円軌道を描き(青実線),水晶体.の偏位は最大C5.5Cmm(黄実線矢印)となる.図C5のようにCCTRの両端を重ねると直径C10Cmmの円軌道に縮小し(青点線),水晶体.の偏位は最大C2.5Cmm(黄点線矢印)となる.(99)あたらしい眼科Vol.35,No.1,2018C990910-1810/18/\100/頁/JCOPY図3Spiral法に用いるフック図5CTR先端をコントロールした際のCTRの位置関係やすいことがあげられる.また,2本の糸を適切な長さで把持するのはむずかしく,長い糸も手術操作の邪魔になる.そこで解決策としてCCTR先端に糸の輪を作る方法(ringCsutureCguide法)を勧める.糸を先端のCholeに通し,2~3Cmmのリングになるよう結び,糸の両端は切っておく(図6).リング状にすれば糸をしっかりと把持しなくても,つかんでおくだけでCCTR先端をコントロールできる.挿入方法はCsuture-guide法と同様である.CTRが固定された後は糸の輪が少し飛び出しているだけなので,手術操作の邪魔にならず,トラブルの際にはCCTRを回収する助けになる.C●おわりにSpiral法は簡便であり,sutureguide法は糸の操作の図4Spiral法図6模型眼によるsutureguide法(①)とringsutureguide法(②③④)分だけ手間がかかるが,CTR回収の際には役に立つ.通常のマニュアル法やインジェクター法ではCCTRを入れられないくらいCZinn小帯が弱い症例でも,これらの方法で挿入可能である.文献1)小堀朗:インジェクターによる水晶体.拡張リング(CTR)挿入.あたらしい眼科33:1735-1736,C20162)PageCTP:Suture-guidedCcapsularCtensionCringCinsertionCtoCreduceCriskCforCiatrogenicCzonularCdamage.CJCCataractCRefractSurgC41:1564-1567,C2015

コンタクトレンズ:屈折検査(他覚検査)

2018年1月31日 水曜日

提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方さらなる一歩監修/下村嘉一39.屈折検査(他覚検査)半田知也北里大学医療衛生学部視覚機能療法学●はじめに眼科臨床における他覚的屈折検査は,短時間測定,簡便性の点からオートレフラクトメータが中心となっている.わが国ではC1980年頃よりオートレフラクトメータの眼科臨床への普及が始まり,現在でも他覚的屈折検査の中心である.その間,オートレフラクトメータの機能は進歩を続けている.今回は,他覚的屈折検査の臨床的中心であるオートレフラクトメータの原理と使用法を改めて紹介する.C●検査対象眼科臨床において通常使用されている据え置き型オートレフラクトメータは,座位を保つことができ,顎台への顔の固定が可能な被検者が対象となる.ポータブルオートレフラクトメータは場所や体位を選ばずに測定が可能である.C●測定原理オートレフラクトメータの測定原理には画像解析式,合致式,検影式,結像式などがある1).いずれの測定原理においても眼科臨床上問題となる測定誤差は認められない.本稿では画像解析式(ARK-1s,ニデック)について紹介する(図1).画像解析式を用いた眼屈折力測定原理は,被検眼眼底に光軸外から測定用光源(superluminescentdiode:SLD)を投影し,眼底に生じる像の図1装置外観および測定原理(画像解析式,ARK.1s,ニデック)高さを検出することで眼屈折力を測定している.眼屈折力に応じて眼底に形成される像を超高感度CCCD(charged-coupledCdevices)センサーで検出し,コンピュータで画像解析して屈折値(球面,円柱,軸)を求める.C●目標と限界オートレフラクトメータは被検眼の球面,円柱度数と軸を,明室下で容易に,しかも精度よく測定できる.オートレフラクトメータは被検眼に調節が介入していない状態の眼屈折測定を目標とする.調節の介入を防ぐために,各社ともさまざまな雲霧機構を採用している.雲霧機構の雲霧量(各社非公開)は機種により異なるが,デフォーカスと調節介入の関係からC1.5~2.0D程度の雲霧量が適当であると考える.検者側からは意識することが少ないが,固視目標も各社各様である.調節介入を防ぎ,日常視を意識するという観点から考えると,固視を促しやすいことと,同時に絵画的遠近感,およびリアリティのある固視目標が望ましいと考える(図2).オートレフラクトメータの測定限界として,中間透光体混濁,角膜不正乱視,測定範囲を超える屈折異常,小瞳孔,固視不良(眼振など)など,被検眼の原因により測定値が不安定または測定不能になる場合がある.オートレフラクトメータを導入する際にはジョイスティックの操作感,各種応答性という検査者側の視点だけでな(97)あたらしい眼科Vol.35,No.1,2018C970910-1810/18/\100/頁/JCOPY図2固視目標(ARK.1s,ニデック)絵画的遠近法により固視目標である気球が遠方に存在するように感じる.リアリティの追及のためか,青空に雲が浮かび,道路には自動車も配置されている.く,雲霧機構と固視目標という被検者側の視点からも考えて機器を選択することが,オートレフラクトメータの正確で安定した測定を行うために考慮すべき点である.C●測定機器の使い方とコツ検者が測定において注意すべき点は,①調節の寛解,②センタリングとピント合わせ,③眼瞼や睫毛への対応である.①調節の寛解日常臨床でおもに用いられる内部視標固視型の機種では,片眼で装置内部を覗き込むため,調節の介入の懸念がある.覗き込むことによる調節の介入要因として器械近視が知られている2~3).器械近視を引き起こす直接的原因は明確ではないが,近接感,視野サイズ制限,瞳孔径4)への影響などが考えられる.②センタリングのピント合わせ器械の測定中心を被検眼の瞳孔中心と正確に合わせることが必要である.測定中,検査者は常にセンタリングを確認し,必要に応じて微調整することが求められる.近年のオートレフラクトメータにはC3Dの自動追尾機能&オート測定が可能な機種もあり,安定したセンタリングとピント合わせが可能になっている.正しいセンタリングのためには,測定開始時に被検者の頭部が傾いていないこと,額当てから額がはずれていないこと,測定前に瞬目を促して眼表面(涙液の貯留)を安定させることなど確認する必要がある.③眼瞼や睫毛に対する対応眼瞼や睫毛が測定光束内にかからないようにする.眼を大きく開けても眼瞼や睫毛が測定光束内にかかる場合には,眼球を圧迫しないように眼瞼挙上が必要である.C●検査データの読み方と解釈左右眼で複数回の測定を行い,各回の測定値に大きな変動がなく,乱視軸も安定している場合には正常に測定されているとみなすことができる.センタリングやピント合わせを正しく測定したにもかかわらず,各回の測定値が大きく変動する場合は,オートレフラクトメータの測定限界,調節の介入,アーチファクトの影響などにより,測定値の信頼性が低下している可能性がある.C●おわりに身近な他覚的屈折検査器であるオートレフラクトメータであるが,その機能は明らかに進歩している.各眼科施設にはオートレフラクトメータが設置されていること多いが,3D自動追尾機構,操作感,雲霧機構,固視目標のデザインなど,各社ごとに多くの違いがあるので,それらの違いについて,検者としてだけでなく,被検者としても改めて試してみることをお勧めしたい.文献1)川守田拓志,半田知也:オートレフラクト(ケラト)メータ.眼科検査ガイド第C2版(根木昭監修),p54-59,文光堂,C20162)大橋利和:器械近視に関する研究.臨眼11:57-60,C19663)霧島正:顕微鏡による眼調節(器械近視).臨眼C8:C55-60,C19674)HandaT,ShojiN,KawamoritaTetal:Developmentofawide-.eld,binocular,open-viewtypeelectronicpupilome-ter.JRefractSurgC28:672-673,C2012CPAS101

写真:術中OCTを用いた角膜内皮移植

2018年1月31日 水曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦404.術中OCTを用いた角膜内皮移植難波広幸山形大学医学部眼科学講座図2図1のシェーマ①レシピエント角膜②ドナー.レシピエント間の前房水の残存③ドナー角膜C図1DSAEK,前房内への空気注入時ドナー.レシピエント間に水が残存している.図4術中OCTによる虹彩切除の確認角膜の透見性が低い症例でも確認可能である.図3図1確認後,手術終了時空気圧を上げ,レシピエント角膜のポートから水を抜くことで接着が得られた.(95)あたらしい眼科Vol.35,No.1,2018950910-1810/18/\100/頁/JCOPY水疱性角膜症に対しての外科的治療は,従来の全層角膜移植に加えてDescemet’sstrippingauto-matedendothelialkeratoplasty(DSAEK)をはじめとする角膜内皮移植術が広がりをみせ,治療の選択肢として定着した感がある.内皮移植は全層移植に比べ,術後の乱視が少ないことによる視機能の優位性のみならず,拒絶反応が少ないことや,縫合糸に起因する感染がないこと,外力への剛性といった安全面でも優れている.手術手技はオープンスカイとならないため,駆逐性出血などの重篤な合併症のリスクは低いものと考えられるが,特有の合併症もあり,その習得にはラーニングカーブがあるといわれる.一方,眼科領域に光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)が導入されてからC20年が経過し,外来ではすでに必須の検査となっている.網膜,脈絡膜の層構造のほか,前眼部では隅角,角膜厚の三次元的な把握により,診断,手術計画に寄与している部分は大きい.近年,手術そのものにもCOCTが導入され1,2),DSAEKを含め角膜移植においても有効性が報告されている3).術中COCTにより術野の三次元的な把握がより詳細にできるようになるほか,その光学的特徴により手術用顕微鏡では観察しにくい部分も評価可能である.筆者の施設では,OCT組み込み手術用顕微鏡(OPMILUMERA700andRESCAN700,ZEISS社)を用いて手術を行っている.DSAEK術中の画像を提示する.DSAEKの合併症の一つにグラフトの脱落があげられる.グラフトの接着のために,術中に前房内へ空気を注入するが,術後の瞳孔ブロックの危険があるため,大量に空気を残すことはむずかしい.脱落の可能性を減らすには,術中にグラフト.レシピエント間の接着を確認する必要があり,このために従来はスリット照明などが使われてきた.DSAEK時の術中COCTの用途として,この接着の確認はもっとも有効性が発揮されるところであり(図1,3),グラフトC.レシピエントの間隙(前房水の残存)が明瞭に描出される.前房内でのグラフト位置も見られるため,グラフトが隅角や虹彩に接触,引っかかった場合も確認できる.加えてCDescemetC’sCmem-braneCendothelialCkeratoplasty(DMEK)においては,前房内へ挿入したドナーのCrollingの状態や表裏などの確認が容易となる.DSAEKでは重要な術後合併症である瞳孔ブロックの予防のため,散瞳させたり,虹彩切除を行うことがある.虹彩切除は術前にレーザーで行う施設もあるが,もともとの角膜浮腫により視認性に問題があることも多く,筆者の施設では術中に硝子体カッターを使用して虹彩切除を行っている.この場合は上皮を.離した状態で行うことになるが,実質浮腫・線維化が強い症例ではそれでも切除部が見えないことがある.これも術中COCTを使用することで確認可能である(図4).手術を含め,眼科医療の発展は著しい.新しい技術により,治療不可能だった疾患の治療へ道が開けることはもちろん目覚ましい進歩であるが,加えてこの術中OCTなどにより,より安全な手術が可能となることもひとつの進歩であろう.文献1)EhlersCJP,CDuppsCWJ,CKaiserCPKCetCal:TheCprospectiveCintraoperativeandperioperativeophthalmicimagingwithopticalCcoherenceCtomography(PIONEER)study:2-yearCresults.AmJOphthalmolC158:999-1007,C20142)NishitsukaCK,CNishiCK,CNambaCHCetCal:IntraoperativeCopticalCcoherenceCtomographyCimagingCofCtheCperipheralCvitreousandretina.Retina.Inpress3)KobayashiA,YokogawaH,MoriNetal:VisualizationofprecutDSAEKandpre-strippedDMEKdonorcorneasbyintraoperativeCopticalCcoherenceCtomographyCusingCtheCRESCAN700.BMCOphthalmolC16:135,C2016

時の人 古泉 英貴 先生

2018年1月31日 水曜日

琉球大学医学部眼科学教室教授こいずみひでき古泉英貴先生琉球大学医学部は国内で最後に設立された国立大学医学部である.眼科学教室は1981年に初代・福田雅俊教授を迎えて開設され,第2代・長瀧重智教授,第3代・澤口昭一教授の下,「緑内障の琉球大学」が表看板となった.久米島スタディや超音波生体顕微鏡を駆使した臨床研究などの世界的業績も数多く産み出してきた.この琉球大学眼科学教室の第4代教授に,2017(平成29)年10月,黄斑疾患・網膜硝子体疾患を専門とする古泉英貴先生が就任した.古泉先生は現在45歳,全国の眼科学教室の現職最年少教授となった.*古泉先生は京都生まれの京都育ち,京都府立医科大学出身の生粋の京男である.1998年に同大学卒業後は,当時の木下茂教授率いる眼科学教室に入局した.当時,京都府立医科大学眼科は言わずと知れた角膜の牙城であり,多くの医局員が専門分野として角膜を選択していた.そのなかで,古泉先生は日々の臨床を通じて,眼底疾患の診断学に強い興味をもつ.当時はOCTもほとんど普及していない時代だったが,教科書や海外文献を引っ張り出しての独学に加え,他施設のカンファレンスに足を運び,蛍光眼底造影の読影などに夢中になって取り組んだ.そして当時はまだ黎明期であった“medicalretina”の魅力にとりつかれ,それをライフワークとすることを決意した.2006年から2年間はmedicalretinaのトップ施設であるニューヨークのManhattanEye,EarandThroatHospitalに留学したが,当初はほとんど業績もなく,英会話もままならないこともあって,ボスのDr.Yan-nuzziに認められるまでに相当の時間を要したそうだ.しかし,奮闘努力のかいあって,最終的には数多くの業績をあげ,貴重な人脈を得て帰国.京都府立医大に戻り,ゼロから黄斑外来を開設した.この時,「多くの後輩の臨床と研究指導をしたことで,教育者としての教授職を意識するようになった」と古泉先生は述懐される.2012年からは東京女子医科大学に異動,眼底疾患の大家である飯田知弘教授とともに黄斑外来の設立に従事し,外来,手術,研究に加え,後進の教育に無我夢中で取り組んだ.そして,このたびの琉球大学眼科学教室教授着任へとつながる.*古泉先生の研究テーマは多岐にわたるが,主に黄斑疾患・網膜硝子体疾患に関する臨床研究である.米国留学中にはEDI-OCTや眼底自発蛍光撮影装置の開発に従事した.それらの非侵襲的眼底イメージング法を駆使して多数の黄斑疾患の病態解析を行い,とくに加齢黄斑変性の分野では網膜色素上皮や脈絡膜所見に注目した新しい疾患概念の確立と個別化医療の提案を行った.それらの業績は世界中から高く評価され,日本眼科学会学術奨励賞,日本網膜硝子体学会田野YoungInvestigator’sAwardを受賞,2015年には厳しい入会基準で知られる米国MaculaSocietyの日本人最年少メンバーにも選出されている.*琉球大学教授就任にあたって,恩師の木下先生の言葉「続ければ本物になる,本物は続く」が身に染みてわかったそうだ.あきらめずに自分の信念を貫いたこと,そして多くの人々が支えてくれたことで今がある.このことを胸に刻んで,医局運営にあたる毎日である.「琉球大学眼科には毎年優秀な新入医局員を迎えることができており,そして多くの女性医師が出産や育児と仕事を十分に両立させている.これらは教室運営を考えるうえで大変心強い要素です.今後は地域医療への貢献はもちろんのこと,アジア太平洋地域の玄関口でもある沖縄の地の利を活かし,国内外における琉球大学眼科のプレゼンスを高めていきたい」と,非常にチャレンジ精神にあふれた抱負を語っていただいた.一個人としては少し状況が落ちつけば,風光明媚な沖縄各地を巡り,素晴らしい琉球文化を深く学んでみたいとのことである.(93)あたらしい眼科Vol.35,No.1,2018930910-1810/18/\100/頁/JCOPY

眼感染症

2018年1月31日 水曜日

眼感染症OcularInfectiousDisease戸所大輔*鈴木崇**はじめに医学は遺伝子工学・分子生物学やレーザー技術をはじめとするテクノロジーの進歩とともに発展してきた.そのスピードは近年ますます目覚ましく,眼科専門医として眼科学の進歩に追いつくことすらやっとである.分子標的薬の硝子体注射が保険適用となってクリニックで日常的に施行されるようになることを10年前に誰が想像できただろうか.眼感染症の領域も例外ではなく,新しい技術によってさまざまな新しい潮流が生まれている.そのいくつかは近い将来さらに発展し,眼感染症診療の常識になっていると思われる.本稿では,筆者らの私見で将来性に富んだ新しい診断法・治療法をピックアップし,なるべく平易に解説した.興味のある内容については,成書や参考文献を参照いただきたい.本稿が読者の先生方の日常診療や研究アイデアの一助となれば幸いである.I検査・診断検査・診断では,病原体遺伝子を検出する方法が進歩している.ここでは,multiplexPCR・次世代シークエンサーについて解説する.1.multiplexPCR眼感染症の診断においては,原因の微生物を同定することが重要である.そのためには臨床所見をもとに塗抹鏡検,培養,抗体価測定,病理組織診などの古典的検査を駆使し,診断する必要がある.しかし,病原体によっては,鏡検による検出に熟練が必要であったり,培養に特殊な設備が必要であったり,サンプル量が微量であるなどの理由で古典的な方法による微生物の特定が困難である.ウイルス性眼疾患とアカントアメーバ角膜炎はその代表であると思われる1)(図1,2).21世紀に入ってpolymerasechainreaction(PCR)が眼感染症の診断に応用されるようになった.もともとPCRは微量のDNAを短時間に増幅する手法であり,1980~1990年代に遺伝子工学の分野に革命をもたらした.PCRの原理を発明したKaryMullisは1993年にノーベル化学賞を受賞している.PCRが眼感染症の診断に応用されるようになり,さまざまな眼感染症の診断の幅が広がった.たとえば桐沢型ぶどう膜炎(急性網膜壊死)は1980年代には眼内液(硝子体液)を用いたウイルス培養や抗体率の測定が必要なため,眼底所見から診断するしかなかったが2),現在では前房水のPCRを併用することで早期に確実な診断が可能となっている3).しかし,通常のPCR法を診断に応用する場合,高感度であるがゆえにコンタミネーション(汚染)の問題が常にあり,応用範囲は血液や眼内液など無菌的なサンプルに限られていた.この欠点を克服したのがリアルタイムPCR法であり,サンプル中のDNA量の定量が可能となった.リアルタイムPCR法によりコンタミネーションと有意なDNA検出が区別できるようになったことで角膜擦過物を検体として用いることが可能にな*DaisukeTodokoro:群馬大学大学院医学系研究科脳神経病態制御学講座眼科学分野**TakashiSuzuki:いしづち眼科〔別刷請求先〕戸所大輔:〒371-8511前橋市昭和町3-39-15群馬大学大学院医学系研究科脳神経病態制御学講座眼科学分野0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(85)85図1単純ヘルペスウイルスによる角膜内皮炎全層角膜膜移植術を受けたC73歳,男性.移植片の上方に局所性浮腫があり,角膜後面沈着物が線状に配列している().前房水のCPCRで単純ヘルペスウイルスCDNAが検出された.スリット所見から内皮型拒絶反応と鑑別することは困難である.図2アカントアメーバ角膜炎1日使い捨てコンタクトレンズを装用していたC53歳,男性.前医でステロイド点眼を投与されており,放射状角膜神経炎などの典型的所見がみられない.角膜擦過物の網羅的CPCRにより高コピー数のアカントアメーバCDNAが検出された.図3MRSA臨床分離株の全ゲノム解析次世代シークエンサーによって全ゲノムをマッピングし,既知のゲノムと比較することが可能になる.図4アカントアメーバシストに対するPDTの効果a:未処理群.b:PDT治療群.PDT治療群ではシストが破壊されている.図5角膜ヘルペスに対する深層層状角膜移植(DALK)術後実質型角膜ヘルペスを繰り返し,高度の角膜瘢痕を残したC78歳,男性.角膜内皮機能は正常であったことから,DALKを施行した(Ca:術前,b:術後).DALKでは全層角膜移植術に比べ拒絶反応のリスクが少ないため,術後ステロイド点眼を中止しやすい.C図6フェムトセカンドレーザーを用いた表層角膜移植創口適合性が良好であり,無縫合での手術が可能である.(文献C13より許可を得て転載)図8SMILEレンチクルの引き抜き弧状切開創より遊離したレンチクルを引き抜く.(文献C15より許可を得て転載)図7SMIE(smallincisionlenticuleextraction)のシェーマフラップに該当する辺縁に弧状切開を加え,マニュピレーターを用いてレンチクル前面と後面を鈍的に.離する.その後,鑷子を用いて遊離したレンチクルを切開創より引き抜く.(文献C14より許可を得て転載)含む混濁が生じた場合は,高次収差が増強することで永続的な視力低下を残す12).こういった瘢痕性混濁を薬物療法で回復することはむずかしく,ハードコンタクトレンズで不正乱視を矯正するか,感染が完全に鎮静化したのちに光学的角膜移植を行うしかない.感染病巣を除去する目的で治療的角膜移植を行う場合もあるが,これに関して本稿では触れない.感染性角膜炎後の瘢痕に対して光学的角膜移植を行う場合,ヘルペス性角膜炎とそれ以外に分けて考える必要がある.ヘルペス性角膜炎では再発がありうるため,極力深層層状角膜移植(deepCanteriorClamellarCkerato-plasty:DALK)や表層角膜移植(anteriorlamellarker-atoplasty:ALK)などの術式を選択することが望ましい(図5).これらの術式では内皮性の拒絶反応が理論上生じないため,全層角膜移植(penetratingCkeratoplas-ty:PKP)に比べて術後のステロイド点眼への依存度が低いためである.PKP,DALK,ALKいずれの術式であっても,角膜縫合によって生じる不正乱視は術後視機能に大きな影響を与える.感染性角膜炎治癒後は角膜新生血管を伴っていることが多く,端々縫合を選択することが多いと思われる.メスやトレパンを用いた従来の術式では,移植片の接合面の癒着が得られるまで角膜縫合を置くことは必須である.しかし,近年では光切断(photodisruption)の原理によってきわめて短時間(約C10~15秒)で高出力のエネルギーを圧縮して発振し,角膜組織を任意の深さや方向で自由自在に加工できるフェムトセカンドレーザーが眼科手術に応用されるようになっている13).フェムトセカンドレーザーを用いると垂直切開面がハの字になるように角度をつけることで無縫合のCALKも可能となる(図6).フェムトセカンドレーザーを用いた無縫合ALKは軽症から中等症までの角膜瘢痕に対する手術として,今後の適応拡大が期待される.コンタクトレンズ関連角膜炎などによる若年者の角膜瘢痕では,多くは実質浅層に限局した瘢痕であり,また角膜上皮も正常であることが多い.将来的な可能性として,屈折矯正手術分野で行われているCsmallCincisionlenticuleCextraction(SMILE)14,15)の応用も期待されるところである(図7,8).おわりに今回紹介した手法やテクニックが近い将来,眼感染症の診断や治療に応用され,多くの新事実が明らかにされることが期待される.いずれにしろ,新しい潮流をとらえることで,感染症が決して“難治性”ではない時代がやってくると思われる.しかしながら,これらの新しい手法も,従来の検査法や抗微生物薬を正しく理解したうえで使用することで,さらに有効に使用できると思われる.謝辞:写真をご提供いただきました北里大学医学部眼科学教室の神谷和孝先生に感謝いたします.文献1)IkedaCY,CMiyazakiCD,CYakuraCKCetCal:AssessmentCofCreal-timeCpolymeraseCchainCreactionCdetectionCofCAcan-thamoebaCandCprognosisCdeterminantsCofCAcanthamoebaCkeratitis.OphthalmologyC119:1111-1119,C20122)臼井正彦:急性網膜壊死の病因桐沢・浦山型ぶどう膜炎.眼科30:793-804,C19883)TakaseCH,COkadaCAA,CGotoCHCetCal:DevelopmentCandCvalidationCofCnewCdiagnosticCcriteriaCforCacuteCretinalCnecrosis.JpnJOphthalmolC59:14-20,C20154)InoueCT,COhashiCY:UtilityCofCreal-timeCPCRCanalysisCforCappropriateCdiagnosisCforCkeratitis.CCorneaC32:S71-S76,C20135)杉田直:ぶどう膜炎の網羅的診断法.臨眼(増刊号)C65:C332-338,C20116)中野聡子:病原微生物検索のための新しい網羅的CPCRシステム.眼科手術30:100-104,C20177)MatsuokaK,KanaiT:Thegutmicrobiotaandin.amma-toryboweldisease.SeminImmunopatholC37:47-55,C20158)DoanT,AkileswaranL,AndersenDetal:PaucibacterialmicrobiomeandresidentDNAviromeofthehealthycon-junctiva.InvestOphthalmolVisSciC57:5116-5126,C20169)LeeAY,AkileswaranL,TibbettsMDetal:Identi.cationofCtorqueCtenoCvirusCinCculture-negativeCendophthalmitisCbyrepresentationaldeepDNAsequencing.OphthalmologyC122:524-30,C201510)MitoCT,CSuzukiCT,CKobayashiCTCetCal:E.ectCofCphotody-namicCtherapyCwithCmethyleneCblueConCAcanthamoebaCinCvitro.InvestOphthalmolVisSciC53:6305-6313,C201211)ShettyR,NagarajaH,JayadevCetal:Collagencrosslink-ingCinCtheCmanagementCofCadvancedCnon-resolvingCmicro-bialkeratitis.BrJOphthalmolC98:1033-1035,C201412)ShimizuCE,CYamaguchiCT,CYagi-YaguchiCYCetCal:CornealChigher-orderaberrationsininfectiouskeratitis.CAmJOph-thalmol175:148-158,C201790あたらしい眼科Vol.35,No.1,2018(90)

斜視・弱視と小児眼科

2018年1月31日 水曜日

斜視・弱視と小児眼科Strabismus,AmblyopiaandPediatricOphthalmology佐藤美保*外園千恵**はじめにここ数年の間に,小児眼科,斜視・弱視をとりまく状況は大きく進歩した.そのなかで新しい流れにつながるものについて,これまでの経過,新しい情報,および今後の展望について述べる.CI斜視斜視の診断については,MRI画像を用いた診断の発展が著しい.これまでにも麻痺性斜視や先天外眼筋異常,甲状腺眼症,強度近視に伴う斜視などに対して眼窩MRI画像が用いられてきた.近年CChaudhuriとCDemer1)によって,saggingeye症候群という新しい病態が提唱されている.これは,加齢によって外眼筋を支えている眼窩組織に緩みが出てくることが原因で生じる症候群で,従来原因不明だった高齢者の上下斜視や開散不全型内斜視の原因を説明するものである(図1).診断のためには眼窩画像診断が必須であり,とくに冠状断が有効である.中枢性疾患や外傷との関連はないとされている.横山らが提唱した強度近視のために外眼筋の筋紡錘から眼球後部が脱臼する強度近視性内斜視2)や,若倉らが提唱した眼窩容積に比して近視眼において眼球容積が大きいという眼窩と眼球のアンバランスから起こる内斜視3)などとともに,外眼筋,眼球形状,眼窩組織,眼窩が斜視の原因となっているので,今後ますます画像を用いた斜視の原因究明が進められるであろう.斜視手術については,他の眼科手術と同様に低侵襲手術に向けての研究が進んでいる.結膜切開を小さくするminimallyCinvasiveCstrabismusCsurgery(MISS)4)や,眼筋を付着部から切離せずに折りたたむCplication法,減弱の際には外眼筋の部分切腱法が再度注目されている.極小結膜切開では,術後の瘢痕が目立たず,出血も最小限のため術後の不快感も早期に解消される.しかし,Guytonが提唱した円蓋部小切開による斜視手術5)と比べると長期的にみると,患者の自覚的反応に差がないとして,術者の技量や好みで結膜切開を選択すればよい6),との報告もある.Plication法については,筋を切除しないために筋への損傷が少なく,血管が温存されるため術後の全眼部虚血のリスクが少なく,術後C1週間以内程度であれば糸の調整が可能とされている7).部分切腱術は,①点眼麻酔のみで行うことが可能である,②手術室でなく外来でも可能である,③切除する範囲を患者の反応を見ながら増加させることができる,④短時間で可能である,という点で注目されている.とくにCWrightが提唱した結膜上から切腱する方法では,結膜縫合も不要であり,小角度の複視を伴う斜視に有効としている8).しかし,筋を露出しない方法では,筋付着部を直視しないことから筋の紛失のリスクが常に伴う.いずれにしてももっとも重要なことは,安全で再手術可能な方法を選択することだと筆者は考える.*MihoSato:浜松医科大学医学部眼科学講座**ChieSotozono:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕佐藤美保:〒431-3192静岡県浜松市東区半田山C1-2-1浜松医科大学医学部眼科学講座0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(79)C79図1MRI冠状断画像a:甲状腺眼症による内斜視患者のCMRI冠状断画像.上直筋と外直筋をつなぐCpulley(C.)がはっきりしている.Cb:Saggingeye症候群による内斜視患者のCMRI冠状断画像.上直筋と外直筋をつなぐCpulley(C.)がゆるんでいる.図2OCT撮影3歳以上で撮影できる子が多い.C図3SPOTvisionScreenerの結果画面屈折値,眼位ずれが一定以上であると,「精密検査を勧める」と画面に表示される.図4白皮症の姉妹の妹の頭髪と眼底写真全ゲノム解析によってCHermansky-Pudruc症候群の新規の遺伝子異常がみつかり,診断が確定した23).図5RETeval小児でも,外来で無散瞳,皮膚電極で網膜電図を記録することができる.–

神経眼科 視神経疾患の新たな考え方-原発病変部位・病因・視機能障害-

2018年1月31日 水曜日

神経眼科視神経疾患の新たな考え方─原発病変部位・病因・視機能障害─NewConceptofOpticNerveDisorders─PrimaryLesion,PathogenesisandImpairedVisualFunction─中尾雄三*はじめに視神経疾患は神経眼科領域ではもっとも重要な位置にある.近年の基礎および臨床研究の急速な進歩から,神経免疫学の面では抗aquaporin(AQP)4抗体陽性視神経炎と抗myelinoligodendrocyteglycoprotein(MOG)抗体陽性視神経炎の解明,分子遺伝学ではLeber遺伝性視神経症(Leberhereditaryopticneuropathy:LHON)の詳細,神経解剖生理学ではメラノプシン含有網膜神経節細胞の発見,画像検査ではMRIや光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)の多面的な臨床応用,新規薬剤による中毒性視神経症の発症など,次々に新たな展開がみられる.今回,従来の経験と現在の最新知見から,視神経疾患の原発の病変部位を網膜神経節細胞の軸索障害(代表:視神経炎)と細胞体障害(代表:Leber遺伝性視神経症)に大別し,病因と視機能障害の関係を対比し考察した.I視神経炎1.分類とその特徴視神経炎には原因不明の特発性視神経炎(idiopathicopticneuritis:IDON),他の中枢神経も脱髄性に障害し再発をみる多発性硬化症(multiplesclerosis)の視神経炎(MSON),視神経脊髄炎の自己抗体である抗AQP4抗体が陽性の視神経炎(AQPON),髄鞘の構成成分の自己抗体である抗MOG抗体が陽性の視神経炎表1視神経炎の症状と所見*:視神経炎に特有の所見.(MOGON)の4疾患がある.典型的な視神経炎の特徴を表1に示した.視神経炎では中心フリッカー値(日本眼科学会の『眼科用語集』では,限界フリッカ値,critical.ickerfrequency:CFF)の低下と瞳孔対光反応の障害が特有であり,この二つは診断するうえで絶対に必要な眼科所見として重要である.2.中心CFFCFFは生理学では疲労の指標とされていたが,1960年代半ばに大阪大学眼科で視神経との関連について研究が開始された.中心CFF測定器を大鳥利文が開発し,筆者らと視神経炎への臨床応用の研究を行った1).中心CFFは視神経機能を鋭敏に反映し,視神経炎では必ず35Hz未満に低下した(近大式中心フリッカー値測定器の正常下限は35Hz).測定法は簡便で,高齢者や幼児でも,簡単に正確な測定が可能である.*YuzoNakao:近畿大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕中尾雄三:〒589-8511大阪狭山市大野東377-2近畿大学医学部眼科学教室0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(69)69中心CFF40Hz20Hz図1視神経炎の視力-中心CFF解離6.網膜神経節細胞網膜神経節細胞(retinalganglioncell:RGC)の細胞体から伸びる軸策が神経線維(眼内では網膜神経線維,眼外では視神経線維)である.RGCの分類としては,比較的小さな細胞体で黄斑中心部に集中して存在するmidget細胞(X細胞)があり,これは外側膝状体の小細胞層へ向かう(parvocellularpathway)ためP細胞ともよばれ,おもに形態覚(視力)や色覚の情報伝達に関与する.また,大きな細胞体で全体に分布するparasol細胞(Y細胞)は外側膝状体の大細胞層へ向かう(magno-cellularpathway)ため,M細胞とよばれ,運動覚(フリッカー)を伝達する3,4).ほかに,W細胞は視蓋前域へ向かい,瞳孔の対光反応(初期縮瞳反応)に関与する.最近,メラノプシンを含有し光を感知する内因性光感受性(intrinsicallyphotosensitive)またはメラノプシン含有(melanopsin-containing)RGCが発見され,概日リズムと瞳孔対光反応(縮瞳の維持)に関与することが判明した5,6).視神経炎でみられる視力.中心CFF解離の発生機序は,RGCのうち中心CFFに関与するM細胞と瞳孔対光反応に関与するW細胞とメラノプシン含有細胞がとくに炎症に対して脆弱で,選択的に障害されやすく,一方,P細胞はM細胞に比較して障害が軽度ですむからではないかと推測される.7.MRI所見視神経炎の炎症部位はMRI撮像で必ず描出できる.単純撮像では,眼窩内視神経はshortTIinversionrecovery(STIR)法,頭蓋内視神経は.uidattenuatedinversionrecovery(FLAIR)法で,造影法ではT1強調画像脂肪抑制造影法で,いずれも炎症部位は腫大して高信号になる7).視神経萎縮もSTIR法では高信号であるが,直径が狭細化し,造影剤による増強効果がないので区別できる7).8.蛍光眼底造影所見乳頭浮腫を示す例では,蛍光眼底造影で蛍光色素の漏出をみる.炎症による血管障害で視神経線維間に浮腫(水の漏出と貯留)を生じたもので,血管性浮腫(vaso-genicedema)とよばれる病態である.炎症,浸潤,脳圧亢進でみられる.9.OCT所見発症時,乳頭の浮腫例では乳頭周囲網膜神経線維層(circumpapillaryretinalnerve.berlayer:cpRNFL)は肥厚するが,乳頭の異常なし(球後神経炎)例では肥厚はない.発症時には乳頭の浮腫の有無に関係なく,黄斑部網膜内層厚〔=網膜神経線維層(nerve.berlayer:NFL)+網膜神経節細胞層(ganglioncelllayer:GCL)+内顆粒層(innerplexiformlayer:IPL)〕にまだ異常はない(菲薄はない).治療経過後(とくに予後不良の視神経萎縮例)のOCTでは,cpRNFLは菲薄(とくに耳側)を示し,同時に黄斑部網膜内層厚にも菲薄がみられる.とくにAQPON例では視機能悪化の後遺に対応して短期間で顕著な菲薄がみられる8).10.障害機序と病態a.軸索流(軸索輸送)(図3)RGC内でリボゾームから合成された各種蛋白質,ミトコンドリア,細胞内小器官が軸索内に入り脳方向(順行性)へ輸送される.また,脳内からは脳由来栄養因子(brain-derivedneurotrophicfactor:BDNF)や成長因子が細胞体方向(逆行性)へ輸送される.輸送物質はATPaseの働きをもつモーター蛋白のキネシン(順行性)とダイニン(逆行性に)に接続し,ATPを加水分解でエネルギーとし微小管内を輸送される.この物質の動きは軸索流(axoplasmic.ow)または軸索輸送(axoplasmictransport)とよばれ,RGC細胞体や軸索の生存,成長,機能の維持に必要不可欠なシステムである9).b.視神経萎縮(図4)視神経炎(IDON,MSON,AQPON,MOGON)では激しい炎症により軸索流(axoplasmic.ow)の停滞,途絶で輸送障害を生じてRGC細胞体や軸索で必要物質の枯渇が起こり,治療の効果がなければ最終的に視神経萎縮やRGC細胞死にまで至る10).脳内・眼窩内の視神経線維(軸索)の萎縮が眼球方向へ向かって進行(逆行性萎縮)し,眼内の視神経乳頭や(71)あたらしい眼科Vol.35,No.1,201871図3軸索輸送(軸索流)眼球外(軸索+髄鞘)の傷害⇒眼球内へaxoplsmic.ow(軸索流)の減少・途絶RGC:おもにM細胞/W細胞(+メラノプシン細胞)障害vasogenicedema逆行性変性(萎縮)図4眼球外(視神経線維)の障害と萎縮(代表:視神経炎)網膜に及ぶことになる.眼球外から眼球内への進行である.この視神経萎縮の進展と所見の出現はCMRI(STIR法)とCOCTの経時的な観察で容易に確認することができる.72あたらしい眼科Vol.35,No.1,2018(72)中心CFF40Hz20Hz図5Leber遺伝性視神経症の視力-中心CFF“逆”解離c図7Leber遺伝性視神経症30歳,女性.左眼の発症C3カ月後で視力は(0.06),中心CCFFはC37CHzで,視力C.中心CFF“逆”解離を示した.Ca:眼底写真.乳頭は発赤し,境界は不鮮明,網膜の反射の乱れがある.Cb:OCTの乳頭周囲網膜神経線維層厚.まだ肥厚がみられる.c:OCTの黄斑部網膜内層厚.すでに黄斑部全体に有意な菲薄が乳頭部よりも先行して現われている.NFL:nerve.berlayer,GCL:ganglioncelllayer,IPL:innerplexiformlayer.:網膜神経節細胞mtDNA11778点変異(G→A)軸索RGC細胞体+眼球内軸索傷害⇒眼球外へmitochondriaの代謝障害⇒ATP産生阻害RGC:おもにP細胞系障害cytotoxicedema順行性変性(Waller変性)図8眼球内(RGC細胞体+軸索)の障害と萎縮(代表:Leber遺伝性視神経症)常染色体優性視神経萎縮(ADOA),エタンブトール(EB),リネゾリド(LZD).表2視神経炎vsLeber遺伝性視神経症(原発病変部位・機序と視機能障害の対比)-’’-’—’