●連載監修=安川力髙橋寛二48.VEGF阻害薬の作用機序安藤亮野田航介北海道大学大学院医学研究院眼科学教室現在,わが国で眼科領域において使用されているCVEGF阻害薬にはベバシズマブ,ペガプタニブ,ラニビズマブ,アフリベルセプトのC4種類がある.実臨床ではそれぞれの特性を理解したうえで選択,使用されるべきである.本稿では各薬剤の特性と作用機序について概説する.はじめに現在の眼科治療において,血管内皮細胞成長因子(vas-cularCendothelialCgrowthCfactor:VEGF)阻害薬はもはや欠かせないものとなっている.いくつもの臨床試験によってその投与方法は確立しているといえるが,実臨床ではさまざまな患者背景,既往全身疾患,経済的状況などによって治療法を変更せざるをえないことがある.本稿では各薬剤の特性と作用機序について概説する.阻害薬の種類と特性現在,わが国で眼科領域において使用認可されているVEGF阻害薬にはベバシズマブ,ペガプタニブ,ラニビズマブ,アフリベルセプトのC4種類がある.それぞれの薬剤特性により,阻害する分子には差異がある(表1,図1).ベバシズマブはC2007年に大腸癌に対する抗癌薬として国内で認可された,VEGF-Aを阻害することで血管新生を抑制するヒト化モノクローナル抗体である.分子量はC150,000とC4種類のなかでもっとも大きく,半減期も長い.眼科領域においては,他のCVEGF阻害薬が登場するまで眼内血管新生疾患,とくに滲出型加齢黄斑変性に広く使用されていたが,オフラベル投与であった.現在でも眼疾患に対しての適応はないものの,特発性脈絡膜新生血管,未熟児網膜症,Coats病,網膜血管増殖性腫瘍,血管新生緑内障など,他のCVEGF阻害薬でも適応となっていない眼疾患に対して使われることがある.ペガプタニブは,2008年に国内初の滲出型加齢黄斑変性に対する薬剤として承認された.核酸(RNAやDNA)以外の物質に作用する核酸医薬品のことをアプタマーとよぶが,ペガプタニブはCVEGF-Aに結合し阻害するC1本鎖CRNAアプタマーである.VEGF-Aにはその分子量によっていくつかのアイソフォームが存在するが,生理的な作用にはCVEGF-ACが強く関与しており,病的血管新生や血管透過性亢進な121ど病理的な作用にはCVEGF-AC165が強く関与している.ペガプタニブはこのCVEGF-ACのみを選択的に阻害する唯一の薬剤である.治療効果は165他のCVEGF阻害薬に及ばないが,添付表1VEGF阻害薬の特性と比較薬剤名分子量阻害分子Fc領域平衡解離定数KC(pM)DVEGF-A165CPlGFCVEGF-BベバシズマブC150,000CVEGF-A有C58CNBCNBペガプタニブC50,000CVEGF-A165C─C─C─C─ラニビズマブC50,000CVEGF-A無C46CNBCNBアフリベルセプトC115,000CVEGF-ACPlGFCVEGF-B有C0.49C38.9C1.92NB:nobinding.(105)あたらしい眼科Vol.35,No.1,2018C1050910-1810/18/\100/頁/JCOPY文書上,4剤のなかで唯一血栓塞栓症に対する慎重投与の記載がなく,安全性が高いと考えられる.ラニビズマブはC2009年に国内で承認されたヒト化モノクローナル抗体CFab断片である.ベバシズマブが抗体製剤であるのに対して,ラニビズマブは抗原と結合するCFab領域のみとなっており,さらにCVEGFとの結合親和性を増強して製品化されている.アフリベルセプトはC2012年に国内で承認されたVEGF受容体(VEGFR)融合蛋白である.VEGFR-1とVEGFR-2の細胞外ドメインをヒトCIgGのCFc領域に融合させていることがこの製剤の特性で,このためVEGFR-1とCVEGFR-2に結合する蛋白質すべてを阻害することができる.VEGF-Aのほかにも,VEGF-Bや胎盤成長因子(placentalCgrowthCfactor:PlGF)を阻害する.PlGFも滲出型加齢黄斑変性1)や糖尿病黄斑浮腫1)に関与していると考えられており,効果の増強が期待できる.薬剤間の比較それぞれの阻害薬はCVEGF-ACへの親和性も異なる2).平衡解離定数は,その数値が低いほ165ど親和性が高く,分子と結合しやすいことを示すが,アフリベルセプトは表1のとおりベバシズマブやラニビズマブよりもC100倍ほどCVEGF-ACに結合しやすい.また,VEGFR-1とVEGFR-2の平165衡解離定数はC9.33CpMとC88.8CpMであり,アフリベルセプトのほうがより結合しやすいことがわかる.では,全身への影響はどうだろうか.151名の滲出型加齢黄斑変性,糖尿病黄斑浮腫,網膜静脈閉塞症患者における各種CVEGF阻害薬の全身薬物動態を調査した報告では,硝子体注射後の血漿中の遊離CVEGF濃度はアフリベルセプト,ベバシズマブ,ラニビズマブの順で低かった3).ラニビズマブでは投与前と比べてほとんど変化がなかったのに対し,アフリベルセプトではC1週間後まで検出感度以下となった.この動態の違いはCVEGFへの親和性の違いや分子量に由来するだけでなく,血管内皮細胞に存在するCFcRn-mediatedCrecyclingというFc部分をもつ蛋白質の分解に対する抑制機構の影響も考えられる.この機構によってCFc部分をもつアフリベルセプトとベバシズマブでは,Fc部分のないラニビズマブと比較して,全身循環からのクリアランスが低いと考えられるためである.新規の阻害薬VEGF阻害薬治療では,治療回数の多さが一つの問106あたらしい眼科Vol.35,No.1,2018題であり,それが患者にとっても医療者にとっても負担となっている.現在でもさらに新しいCVEGF阻害薬が開発され治験が行われているが,その一つがCbroluci-zumabである.これはCVEGF-Aを阻害するヒト化C1本鎖抗体断片であり,分子量はC26,000と他のCVEGF阻害薬と比べて一番小さい.このためC50Cμlの注射でC6Cmgを投与でき,モル濃度で換算でき,アフリベルセプト2CmgのC12倍,ラニビズマブC0.5CmgのC22倍に匹敵する.高容量を投与できるため眼内からの排出期間も長くなり,実際,滲出型加齢黄斑変性の患者に投与したところ,追加投与が必要になるまでの平均期間はラニビズマブよりもC30日長かった.第CII相試験では,滲出型加齢黄斑変性を対象にアフリベルセプトとの比較がされている4).2カ月ごとの投与の結果,40週までの視力は両者に差はなかったが,brolucizumabのほうが中心網膜厚が薄くなり,網膜内浮腫,網膜下液が回復した割合も多かった.第CIII相試験(HAWK試験,HARRIER試験)が終了しており,実臨床への導入が期待される.おわりに以上のように,ベバシズマブとラニビズマブはCVEGF-A165へ同程度の親和性をもつが,ラニビズマブは血中CVEGFへの影響が非常に少ない.ペガプタニブは,添付文書上,4剤のなかで唯一血栓塞栓症に対する慎重投与の記載がない.アフリベルセプトは親和性が高く,VEGF-A以外の標的分子ももち,効果が強いが,血中CVEGFへの影響も大きい.それぞれの薬剤特性を知ることは,症例に応じたより適切な薬剤の選択につながると考えられる.文献1)AndoR,NodaK,NambaSetal:AqueoushumourlevelsofCplacentalCgrowthCfactorCinCdiabeticCretinopathy.CActaCOphthalmolC92:e245-246,C20142)PapadopoulosCN,CMartinCJ,CRuanCQCetCal:BindingCandCneutralizationCofCvascularCendothelialCgrowthCfactor(VEGF)andCrelatedCligandsCbyCVEGFCTrap,CranibizumabCandbevacizumab.AngiogenesisC15:171-185,C20123)AveryRL,CastellarinAA,SteinleNC:Systemicpharma-cokineticsCandCpharmacodynamicsCofCintravitrealCa.ibercept,Cbevacizumab,CandCranibizumab.CRetinaC37:C1847-1858,C20174)DugelPU,Ja.eGJ,SallstigPetal:Brolucizumabversusa.iberceptCinCparticipantsCwithCneovascularCage-relatedmaculardegeneration:Arandomizedtrial.OphthalmologyC124:1296-1304,C2017(106)