眼炎症性疾患(ぶどう膜炎,強膜炎)OcularIn.ammatoryDisease(Uveitis,Scleritis)蕪城俊克*岡田アナベルあやめ**はじめにぶどう膜炎は虹彩・毛様体・脈絡膜(ぶどう膜と総称)を中心として眼内に炎症を生じる疾患の総称で,50種類近い原因疾患があるとされている.ぶどう膜炎は,感染性ぶどう膜炎(ヘルペス性虹彩炎,急性網膜壊死,細菌性眼内炎,眼トキソプラズマ症など),非感染性ぶどう膜炎(Behcet病,サルコイドーシス,Vogt-小柳-原田病など),仮面症候群(眼内悪性リンパ腫など)の三つのカテゴリーに分けられる.2009年のわが国36大学病院におけるぶどう膜炎初診患者の統計では,非感染性ぶどう膜炎ではサルコイドーシス(10.6%),Vogt-小柳-原田病(7.0%),急性前部ぶどう膜炎(6.5%),強膜炎(6.1%)が多く,感染性ぶどう膜炎ではヘルペス性虹彩炎(4.2%),細菌性眼内炎(2.5%)が多かった(表1)1).強膜炎は眼内よりも強膜に炎症の首座のある病態で,強膜充血,眼痛を主訴とすることが多い.検査を行っても原因を特発できない症例(特発性)が全体の約7割を占めるが,関節リウマチや血管炎症候群などの膠原病疾患に合併する症例や,ヘルペスウイルスや細菌などの感染が原因であることもある.ぶどう膜炎・強膜炎の治療にあたっては,可能な限り原因疾患を特定して治療法を選択するのが原則である.とくに感染性,非感染性,腫瘍性(仮面症候群)の三つのカテゴリーを超えた誤診をしないように注意して鑑別診断を行う.近年の眼炎症性疾患に関する潮流として,①眼内液を表1わが国でのぶどう膜炎の原因別頻度用いたpolymerasechainreaction(PCR)検査の進歩により感染性ぶどう膜炎を非感染性ぶどう膜炎と誤診する可能性が減ったこと,②画像診断,とくに光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)による画像診断が普及したこと,③新しい免疫抑制薬として腫瘍壊死因子(tumornecrosisfactor:TNF)阻害薬が使用可能になったこと,があげられる.本稿ではそれらについて総説する.*ToshikatsuKaburaki:東京大学大学院医学系研究科外科学専攻感覚・運動機能講座眼科学**AnnabelleAyameOkada:杏林大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕蕪城俊克:〒113-0033東京都文京区本郷7-3-1東京大学大学院医学系研究科外科学専攻感覚・運動機能講座眼科学0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(63)63・(分離)培養⇒陽性率が低い抗体価率=前房水中VZV-IgG濃度÷前房水中総IgG濃度・病原体DNAの証明(定量的PCR)(Q値)血清中VZV-IgG濃度÷血清中総IgG濃度─発症1カ月以内・抗体価率(Q値)Q値>=6:眼内感染あり(確定診断)─発症1カ月以降6>Q値>=1:眼内感染の疑い図1感染性ぶどう膜炎の診断方法感染性ぶどう膜炎の診断法には,①眼内液の鏡検・培養,②眼内液中と血液中の病原体に対する抗体価の割合を比較する方法(抗体価率),③眼内液中の病原体CDNAのCPCR検査がある.内液(50.100Cμl)からCDNAを抽出し,定性的CmultiC-plexCPCRでヘルペスウイルスC1-8型,トキソプラズマなどの病原体CDNAの有無をスクリーニング的に検討し,陽性になった項目に対して定量的CPCR検査を施行して眼内液中の病原体の量(コピー/ml)をする3).また,細菌,真菌の約C60%の菌種で共通しているCDNA配列に対する定量的CPCR(細菌C16s4)および真菌C28sリボゾーマルCRNA-DNA)5)を行うことで,細菌性,真菌性眼内炎の推定も可能である.Sugitaらは,これらのCPCR検査を組み合わせて行うことで,感染性ぶどう膜炎を診断できる感度,特異度はそれぞれC91.3%,98.8%であったと報告している3).本システムを用いて診断された眼トキソプラズマ症の症例を図2aに示す.患者はC59歳の男性で突然の視力低下を自覚し来院した.黄斑部の大型の黄白色の滲出性病変と前房水CPCR検査でトキソプラズマCDNAがC2.6C×10^4コピー/ml陽性から眼トキソプラズマ症と診断した.注意点として,スリットランプで前房内に炎症細胞が観察されないときに前房水を採取しても,PCR検査は陽性とはなりにくいことがあげられる.無駄な検査を避けるためには,前房内に炎症細胞がみられる日に前房水を採取したほうがよい.最近,眼感染性疾患を引き起こす主要なC24種類の病原体を簡便に網羅的に検索するシステムとして,眼感染症網羅的CPCR検査「stripPCR」が開発された6).また,さらに眼内液からのCDNA抽出の手順が不要で眼内液を直接検査できる「directstripPCR」も開発されている.これはCPCRに必要な試薬がCPCRチューブの底に固層化して張り付けられており,反応液チューブに眼内液と蒸留水を入れて攪拌後,ストリップCPCRチューブに分注しCPCR装置に載せて反応させるだけで検査ができるようになっている.眼内液を採取してからC2時間程度で検査結果が出るため,外来でその日のうちに検査結果が出て治療が開始できるようになることが期待される.HSV1,HSV2,VZV,EBV,CMV,HTLV-1,梅毒,トキソプラズマを対象にした感染性ぶどう膜炎キット(directstripPCR)はC2018年C2月ごろ発売予定である.マルチプレックスではない通常のCPCR機器でも検査可能な試薬も用意されている.このような眼感染症の診断のためのCPCR検査システムの開発と進歩は,実臨床において感染性ぶどう膜炎の確定診断例を増加させ,感染性ぶどう膜炎を非感染性と誤診する危険性を減らしていると思われる.CII画像診断の進歩OCTは近赤外線低干渉波を眼内に向かって発振し,光の干渉現象を利用して網膜の組織断面像を撮影する装置である.網膜の層構造が非侵襲的にわかるほか,病的な組織についても,網膜出血や網膜内瘢痕病巣,脈絡膜由来新生血管などは高反射信号(高輝度)に写り,網膜浮腫,網膜下液,網膜内.胞(.胞様黄斑浮腫など)は低反射信号(低輝度)に写る.ぶどう膜炎では,網膜内の炎症病巣,硝子体内の混濁や網膜前膜,黄斑浮腫,網膜下液の貯留,脈絡膜の肥厚などの病態を非侵襲的に観察できるため,日常診療で頻用されている.ぶどう膜炎では,炎症の首座が網膜実質内にある疾患,網膜色素上皮層にある疾患,脈絡膜にある疾患がある.OCTを使って網膜・脈絡膜内での病変の位置を確認することは,ぶどう膜炎の鑑別診断を考えるうえで有用な情報となる9).また,ぶどう膜炎の原因疾患に特徴的なCOCT像を知っておくことは,鑑別診断を考えるうえでの一助となりうる9,10).代表的なぶどう膜炎疾患の典型例のCOCT像を図2に示す.眼トキソプラズマ症では黄斑部または周辺部網膜に通常C1個の網膜滲出性病変を呈する.OCT像では,網膜実質内に高度の炎症細胞浸潤と網膜層構造の破壊が観察される(図2a).Behcet病によるぶどう膜炎では,眼発作時の白色滲出斑の部位には網膜浅層を中心に炎症細胞浸潤がみられ,網膜浮腫を呈する(図2b).慢性的な.胞様黄斑浮腫を呈する症例もある.サルコイドーシスによるぶどう膜炎では,網膜滲出斑の部位をスキャンすると,ダイヤモンド型の網膜内肉芽腫が観察されることがあり,サルコイドーシスぶどう膜炎に特徴的とされている(図2c).多発一過性白点症候群(multipleCeva-nescentCwhiteCdotCsyndrome:MEWDS)は多発性の淡い網膜滲出斑が出現し,無治療でも自然消退することを特徴とするが,OCT像では白斑部はCellipsoidCzoneの断裂・不鮮明化と色素上皮層の肉芽様の隆起性変化が観(65)あたらしい眼科Vol.35,No.1,2018C65図2代表的なぶどう膜炎疾患の眼底像とOCT像a:眼トキソプラズマ症.網膜実質内への高度の炎症細胞浸潤のため,網膜表層から深層まで全層にわたり高輝度に描出される.b:Behcet病の眼発作時.網膜白斑がみられる部位では,網膜内は炎症細胞浸潤のため表層付近から高反射となる.網膜浮腫により網膜深層はシャドーとなって詳細はわかりにくい.Cc:サルコイドーシス.蝋様網脈絡膜滲出斑は,外顆粒層から神経線維層に渡る網膜内肉芽腫である.Cd:多発一過性白点症候群(MEWDS).ellipsoidzoneの断裂・不鮮明化と色素上皮層の肉芽様の隆起性変化が観察される.Ce:眼内悪性リンパ腫.多発性の網膜下浸潤病巣は,色素上皮層のドーム状の隆起として観察される.f:Vogt-小柳-原田病.脈絡膜の肥厚,色素上皮層の波打ち,漿液性網膜.離などが観察されることが多く,漿液性網膜.離の中にフィブリン析出がみられることもある.C表2ぶどう膜炎に保険適用のあるTNF阻害薬一般名おもな商品名剤型通常の投与量,投与間隔保険適用疾患インフリキシマブレミケード点滴1回あたりC5Cmg/kgをC0週目,C2週目,6週目,以降C8週ごとに点滴投与難治性CBehcet病網膜ぶどう膜炎アダリムマブヒュミラ皮下注射初回C80mg,C2回目(1週間後)C40mg,以降C2週ごとにC40Cmg非感染性の中間部,後部,汎ぶどう膜炎(難治例)積して検討する必要がある.TNF阻害薬の使用に際しては,投与時反応や感染症などの副作用に注意する必要がある.このため,本剤の使用は日本眼科学会の眼科専門医,および日本眼炎症学会の会員に限定される.日本眼炎症学会のホームページに「非感染性ぶどう膜炎に対するCTNF阻害薬使用指針および安全対策マニュアル(2016年版)」12)が掲載されており,これを熟読したうえで日本眼炎症学会のホームページに掲載されているCe-learningを受講して合格する必要がある.TNF阻害薬のとくに注意すべき副作用として,日和見感染症および陳旧性結核やウイルス性肝炎の再活性化がある.投与開始前に,ツベルクリン反応,胸部CX線や胸部CCT,肝炎ウイルス抗体価,血清中CbDグルカン測定(真菌症の検査)などのスクリーニング検査を行い,内科医と併診で診療にあたることが推奨されている12).文献1)OhguroN,SonodaKH,TakeuchiMetal:The2009pro-spectiveCmulti-centerCepidemiologicCsurveyCofCuveitisCinCJapan.JpnJOphthalmolC56:432-435,C20122)SugitaS,ShimizuN,WatanabeKetal:UseofmultiplexPCRCandCreal-timeCPCRCtoCdetectChumanCherpesCvirusCgenomeinocular.uidsofpatientswithuveitis.BrCJOph-thalmolC92:928-932,C20083)SugitaS,OgawaM,ShimizuNetal:Useofacomprehen-siveCpolymeraseCchainCreactionCsystemCforCdiagnosisCofC