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治らないぶどう膜炎:仮面症候群

2017年8月31日 木曜日

治らないぶどう膜炎:仮面症候群IncurableUveitis:MasqueradeSyndrome楠原仙太郎*はじめにぶどう膜炎に限らず,あらゆる疾患において基本となるが,的確な診断の基に治療を開始することが重要である.しかしながら,わが国ではぶどう膜炎の約C30%でその原因が分類不能である1)という事情から,原因疾患の特定を待たずに治療開始を余儀なくされることがしばしばである.そして,実際のぶどう膜炎診療では,感染性ぶどう膜炎が概ね否定されれば副腎皮質ステロイド(以下,ステロイド)を柱とした治療が選択されている.多くの場合,ステロイドの点眼および眼局所注射もしくは全身投与で炎症がコントロールされるが,炎症所見が治療に反応しない場合もある.このような「治らないぶどう膜炎」に遭遇した場合の次の手は,①ステロイドではコントロールできないほど強い炎症が存在していると判断し,免疫抑制薬や抗CTNF-a薬治療を追加する,②炎症以外の原因の存在を疑い精査する,の二通りである.後者は炎症反応とは異なる機序で眼内に浸潤した細胞がぶどう膜炎様の所見を呈することから「仮面症候群」とよばれている.「仮面症候群」の原因には,血液疾患,網膜芽細胞腫,網膜.離,外傷があげられるが,もっとも頻度が高く重要なものは悪性リンパ腫である.眼内悪性リンパ腫は中枢神経リンパ腫を併発しやすく,生命予後不良の悪性腫瘍であり,決してこれを見逃してはならない.したがって,「治らないぶどう膜炎」ではまず悪性リンパ腫を疑って精査をしなければならない.I眼内悪性リンパ腫の診断1.患者背景先進国では眼内悪性リンパ腫の頻度が増える傾向にあり,わが国の統計では全ぶどう膜炎に占める割合がC2.5%であったと報告されている1).これは非感染性ぶどう膜炎ではCBehcet病に次ぐ頻度であり,悪性リンパ腫はぶどう膜炎を専門とする医療機関では決してまれな疾患ではない.好発年齢はC60歳前後とされており,性差については報告によって異なることから,大きな差はないと考えてよい.自覚症状は霧視や飛蚊症の場合が多いが,病変の部位と広がりによっては無症状や著しい視力・視野障害の場合もある.患者背景から悪性リンパ腫を疑うことがむずかしいことから臨床経過や後に述べる眼所見が診断過程において重要となる.臨床経過での特徴はステロイド治療に対する反応が悪いことである.リンパ腫細胞の周囲には反応性の炎症細胞が存在するため,ステロイド治療によって炎症所見が軽度改善するが,その後増悪するという経過をたどることが多い.C2.眼所見両眼性・片眼性のどちらの場合もある.以下に特徴的な所見を記すが,非典型的な所見を呈する症例も多く,眼所見をもって悪性リンパ腫を否定することはできない.*SentaroKusuhara:神戸大学医学部附属病院眼科〔別刷請求先〕楠原仙太郎:〒650-0017神戸市中央区楠町C7-5-2神戸大学医学部附属病院眼科0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(17)C1091図1硝子体混濁オーロラ状硝子体混濁が強く眼底の詳細が不明である.図2眼底病変黄斑部に黄白色病変を認める().光干渉断層計では病変が網膜下に及んでいることがわかる().図3脈絡膜生検a:硝子体混濁はないが眼底に黄白色病変を多数認める.b:生検予定部位の周囲に光凝固を行った後に網膜を除去する.Cc:硝子体カッターで脈絡膜に存在する腫瘍細胞を採取する.Cd:硝子体術後.採取されたサンプルからモノクローナルなCIgH遺伝子再構成が検出された.5010015020025030035040045012,0001,00008,0006,0004,0002,0000図4PCR結果(genescan法)IgH遺伝子のモノクローナルな再構成が検出されている.図5MTX硝子体注射の効果a:治療前,b:治療後.図6MTXによる角膜上皮障害中等度の角膜上皮異常を認める.抗葉酸代謝拮抗薬の投与を考慮する必要がある.-

結膜の隆起性病変:悪性リンパ腫,扁平上皮癌

2017年8月31日 木曜日

結膜の隆起性病変:悪性リンパ腫,扁平上皮癌ElevatedConjunctivalLesions:LymphomaofMucosa-associatedLymphoidTissueandSquamousCellCarcinoma福岡秀記*はじめに結膜は,眼球表面を覆う眼球結膜,折り返し部位に該当する円蓋部結膜,および眼瞼の裏側に相当する眼瞼結膜に分類される.結膜組織は結膜上皮と上皮下の固有層からなる.固有層には豊富な血管組織,リンパ組織や神経組織などが含まれている.正常では表面平滑な結膜であるが,隆起性病変として頻度の高い悪性リンパ腫と扁平上皮癌について述べる.CI悪性リンパ腫結膜の隆起性病変を示すリンパ増殖性疾患には,良性の反応性リンパ過形成と悪性リンパ腫があるが,外観が似ているため鑑別が重要である.症状は無痛で,何らかの自覚症状は乏しい.そのため隆起病変出現から確定診断まで約C8カ月を要すとされる.細隙灯顕微鏡所見は両者類似しており,62%の症例で片眼性,残りの症例で両眼性に発生する1).典型では円蓋部結膜から球結膜にサーモンピンク色のヒダ状の表面平滑な病変として認められる.ときに充実性の孤立した腫瘤として認めることもある.病理組織学的には結膜原発の悪性リンパ腫のほとんどがCB細胞性でびまん性の小~中細胞型であり核分裂像はみられない.その他の特徴を認める場合は他臓器リンパ腫からの転移性の可能性を考慮する.片眼性よりも両眼性のほうが転移性のことが多い.ノンホジキンリンパ腫のC1~2%を眼部リンパ腫が占め,結膜原発が30~40%とされている2).1983年より粘膜由来のリンパ腫のうち低悪性度,B細胞性,発育緩徐,粘膜局所限局などの特徴を有するものをCMALT(mucosa-associatedlymphoidtissue)リンパ腫とよぶことで他のリンパ腫と区別されている.頻度が高い順にCMALTlymphoma,濾胞性,巨細胞CB細胞である.C1.病因病因は,何らかの感染もしくは自己免疫疾患などの慢性炎症が関連していると考えられている.たとえば,CChlamydophilaCpsittaci,CHelicobacterCpylori,CBorreliaburgdorferiやCC型肝炎ウイルスによる感染による慢性炎症や甲状腺眼症,橋本病,Sjogren症候群やセリアック病などの自己免疫疾患による慢性炎症などがあげられるが,本当に発症要因であるかは不明である2,3).C2.診断鑑別診断や確定診断には,生検組織を用いて形態組織検査,免疫組織学的検査を行う.免疫組織学的検査ではリンパ球胞体内の免疫グロブリンと細胞表面マーカーの検索を行う.悪性リンパ腫は単クローン性であるが,反応性リンパ過形成においては多クローン性を示すことが鑑別診断に重要な点である.実際には,腫瘍組織が未熟で表面マーカーを発現していない場合や正常組織が混在している場合が多く,免疫組織学的検査では判定が困難なことがある.結膜のリンパ腫を摘出した組織に少量の*HidekiFukuoka:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕福岡秀記:〒602-0841京都市上京区河原町広小路上ル梶井町C465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(11)C1085図1典型的なMALT(mucosa.associatedlymphoidtissue)リンパ腫ヒダ状病変の場合は,結膜.下に腫瘍が伸びていることが多く,完全切除は困難である.C図2孤立性のMALTリンパ腫a:右眼下方のサーモンピンク様の表面平滑な腫瘤病変である.b:腫瘤は孤立性であり怒張した血管が入っているのを確認できる(術中所見).図3病理組織染色切除した組織病理結果からCMALT(mucosa-associatedlymphoidtissue)リンパ腫と判明した.図4胃以外に発生したMALT(mucosa.associatedlymphoidtissue)リンパ腫の治療方針フローチャート病期CIとは,単独リンパ節領域の病変またはリンパ節病変を欠く単独リンパ外臓器または部位の限局性病変と定義される.(造血器腫瘍診療ガイドラインC2013年版より改変)図5扁平上皮癌の前眼部写真図6明確に描出された角膜上の扁平上皮癌①腫瘍組織は角結膜を覆い,境界は不明瞭である.強膜散乱(スクレラル・スキャッター)法で角膜上の異常上皮が明確に区別できる.図7明確に描出された角膜上の扁平上皮癌②フルオレセイン染色の染色パターンの違いにより正常角膜上皮と異常上皮を区別することが可能である.を.離させることが可能である.摘出組織は必ず術中迅速病理診断を行い,切除断端に腫瘍細胞がない(陰性)ことを確認する.切除組織は位置情報を失いやすいので,縫合糸で目印を付け病理医にその情報とともに提出する.小さな腫瘍の場合は,腫瘍切除とC0.04%マイトマイシンCC(MMC)術中塗布や切除断端の冷凍凝固を追加する.冷凍凝固は通常,2~3回冷凍凝固と解凍を繰り返して行う.そのことで結膜切除断端あるいは切除領域の残存腫瘍細胞の除去が期待できる9).OSSNが大きく,手術後に広範囲な眼表面上皮の欠損が予想される場合には再建術を併用する.腫瘍切除により角膜輪部のC1/2周以上にわたって欠損が生じる場合には,上皮供給を目的とし角膜上皮移植を行う.眼球-眼瞼結膜が広範囲に欠損する場合は,上皮化促進,癒着防止の目的で羊膜移植を併用すると有効である.腫瘍が眼窩内や眼球内へすでに浸潤している場合は,一般的にCSCCは放射線治療感受性が高いため放射線照射治療を併用する.放射線治療は放射線科医と相談して照射量を決定し,照射による眼副作用(白内障,放射線網膜症,角膜輪部疲弊)を予防するため鉛コンタクトを装用する.鉛コンタクトレンズは眼瞼を覆わないため,眼瞼の瘢痕性収縮やドライアイの合併症が問題点として残ることを念頭に置く.C5.再発予防のための化学療法OSSNの術後の再発予防のためにC5フルオロウラシル(5-FU)の点眼,抗腫瘍薬(インターフェロンCa2b〔IFNCa2b〕),MMC,抗血管新生薬(VEGF)10~14)の点眼,結膜下注射の有用性が報告されている.筆者らは,腫瘍摘出手術1~2カ月経過後1%5-FU点眼(1日4回1週間点眼をC1クールとしてC2~3クール)の併用を行い良好な経過を得ている.5-FUはフッ化ピリミジン系の代謝拮抗薬で,抗悪性腫瘍薬でありCDNA合成を阻害する.1~5サイクルの投与(1サイクル:1カ月投与C3カ月休薬)で有効率C100%,再発率は最大C20%であるとされている.CIFNa2bはサイトカインの一種で,細胞増殖抑制作用,細胞毒性,抗原特性を有する特徴をもっており,OSSNに対しては点眼や結膜下注射として使用される.点眼での腫瘍縮小効果の有効性はC80~100%との報告もあり,高齢などで切除困難な症例では試してみても良い方法である.MMCはさまざまな酵素により還元されて複数の活性代謝物となり,DNAへの架橋形成,アルキル化,フリーラジカルによるCDNA鎖切断を介してCDNAの複製を阻害し,抗腫瘍効果を示す抗腫瘍性抗生物質である.0.02~0.04%の濃度で使用する.低濃度CMMCはC1カ月使用し高濃度CMMCはC1週間使用する.MMCの副作用には眼球疼痛,角膜輪部上皮幹細胞疲弊,強膜融解,睫毛の白髪化などの副作用がある.点眼での腫瘍縮小効果の有効性はC80~100%にのぼる.抗CVEGF薬を点眼もしくは結膜下注射C3カ月で腫瘍サイズの減少を得たことを報告している.C6.予後と経過観察OSSNは増殖拡大速度が比較的緩徐なため,切除後の再発確認に数年かかる場合がある.拡大切除結膜に腫瘍細胞を含む症例では再発率が高いとされている.海外の研究では拡大切除部位で腫瘍細胞が陰性の場合でもC10年以内の再発率がC1/3と報告している.筆者らの経験では,腫瘍摘出術後に上記の術後C5-FU点眼を併用することにより,再発率を限りなくC0%に抑えられている.術後の経過観察方法であるが,術後数年は数カ月ごとの診察を行い,腫瘍再発の有無と術後の合併症についてチェックを行う.眼表面の不自然な隆起や蛇行血管を見逃さないことが重要である.可能であれば前眼部スリット撮影を毎回行い,前回撮影のものと比較し変化を見逃さないようにする.再発病変を疑った場合は,低侵襲のインプレッションサイトロジーが有用である.10年以上経って再発するケースもあり,少なくともC10年間は2,3回/年の経過観察とする.文献1)ShieldsCCL,CShieldsCJA,CCarvalhoCCCetCal:ConjunctivallymphoidCtumors:clinicalCanalysisCofC117CcasesCandCrela-tionshiptosystemiclymphoma.COphthalmologyC108:979-984,C20012)MoslehiCR,CSchymuraCMJ,CNayakCSCetCal:OcularCadnexal(15)あたらしい眼科Vol.34,No.8,2017C1089’-

結膜の色素性病変:結膜悪性黒色腫

2017年8月31日 木曜日

結膜の色素性病変:結膜悪性黒色腫ConjunctivalMelanocyticLesion:MalignantMelanomaoftheConjunctiva児玉俊夫*白石敦**はじめに―ほくろは悪性黒色腫に変わるか?―結膜の色素性腫瘍を有する患者の診察を行っていると必ず出てくる質問の一つが「この黒い腫瘍は悪性ですか」である.その質問は皮膚科においてよく遭遇する「ほくろは悪性黒色腫に変わりますか」というやりとりによく似ている.古い皮膚科の教科書においても悪性黒色腫がほくろから生じるという記載があり,一般患者のみならず医師でさえそういう認識をもつ者も少なくない.ほくろが悪性黒色腫に変わるかどうかの答えはほくろの定義によるといわれている.すなわち,ほくろが小型の後天性色素細胞母斑を意味するのであれば,母斑から悪性黒色腫に進展することはないとされている1).その鑑別には腫瘍性病変を拡大して観察できるデルモスコピー(用語解説参照)が有用であり,悪性黒色腫の初期病変には色素細胞母斑が残存していないことがその根拠になっている.眼科においては細隙灯顕微鏡を用いて詳細な結膜所見を得ることができるので,術前に結膜腫瘍の性状が把握できれば,治療方針の決定やインフォームド・コンセントを円滑に進めることができる.悪性黒色腫は眼部腫瘍のなかでも生命予後の悪い腫瘍の一つであり,その診断には慎重を要する.本稿では結膜の悪性黒色腫と良性の色素性腫瘍の鑑別について,細隙灯顕微鏡所見と病理組織所見を対比しながら,悪性黒色腫の特徴について解説する.I結膜悪性黒色腫とは悪性黒色腫は結膜のメラニン産生細胞から発生するが,球結膜や瞼結膜に隆起する黒色病変として発症し,短期間のうちに大きくなる(図1a).悪性黒色腫の形態学的特徴として,怒張した腫瘍血管を伴い(図1b),角膜輪部に発生した悪性黒色腫は角膜上皮下に浸潤することもある(図1c,d).組織学的には明瞭な核小体を有し,核異型性を示すメラニン産生細胞の増殖組織である(図2a).メラニン産生細胞が少ない場合には悪性黒色腫の鑑別として免疫組織化学染色を行い,悪性黒色腫のマーカーであるS-100蛋白質(用語解説参照)およびHMB-45(用語解説参照)が陽性であること(図2b,c)および細胞増殖マーカーであるMIB-1index(用語解説参照)が高値であること(図2d)より悪性黒色腫と診断される.松山赤十字病院眼科(以下,当科)における結膜悪性黒色腫の頻度を調べると2004年4月1日~2017年5月31日の13年1カ月間で病理組織学的に確定診断が下された結膜色素性腫瘍67例のうち結膜悪性黒色腫は5例で,その発症頻度は結膜色素性腫瘍の7.5%と決して高いものではない.表1に結膜悪性黒色腫5例の概要を示す.II結膜悪性黒色腫の鑑別診断結膜悪性黒色腫の形態学的特徴をより深く理解するた*ToshioKodama:松山赤十字病院眼科**AtsushiShiraishi:愛媛大学大学院医学系研究科器官・形態領域眼科学〔別刷請求先〕児玉俊夫:〒790-8524愛媛県松山市文京町1松山赤十字病院眼科0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(3)1077図1症例1の前眼部および組織写真a:左眼の球結膜から角膜に進展し,隆起した黒色腫瘍を認める.b:上方の角膜輪部を越えた腫瘍には怒張した腫瘍血管が流入している.c:角膜輪部を越えた腫瘍から角膜上皮に腫瘍細胞の浸潤がみられる().d:角膜に侵入した腫瘍の組織所見.ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色.腫瘍細胞巣は角膜上皮と角膜実質の間隙に浸潤している.図2症例1の免疫組織化学染色a:HE染色.核異型性が高度で大小不同な核を有する類円形細胞が増殖している.細胞内には褐色色素の沈着がみられたことより悪性黒色腫と考えられた.メラニン陽性細胞は少ない.b:S-100蛋白質にびまん性に陽性を示す.c:HMB-45陽性細胞が散在する.d:MIB-1標識率は約40%で細胞増殖が活発であることがわかる.以上の免疫組織化学所見より悪性黒色腫と診断された.表1結膜悪性黒色腫の5症例の概要症例年齢,性別初発部位手術方法・回数後療法転帰(初回手術より)C173歳,女性左)球結膜腫瘍切除C4回羊膜移植C3回DAV3クールマイトマイシンCC点眼は副作用のため中止術後5年10カ月で肺転移のため死亡C254歳,女性左)球結膜腫瘍切除+羊膜移植C1回以後腫瘍切除をC2回行い,いずれもメラノーシスDAV3クール術後4年9カ月の時点で再発なしC327歳,男性右)眼瞼皮膚,瞼結膜,球結膜腫瘍切除C3回羊膜移植C1回切徐C2回目まで母斑と診断,3回目で悪性黒色腫と確定なし術後C1年C4カ月で眼窩内容除去(愛媛大学形成外科)C467歳,男性右)眼瞼皮膚,瞼結膜,球結膜眼瞼・結膜腫瘍切除C3回硬口蓋粘膜移植C1回眼球摘出,眼瞼切徐C1回結膜腫瘍切除のみC1回DAV3クールDAV-Feron3クール眼球摘出後にCFeronを2年間毎月注射術後10年2カ月の時点で再発なしC547歳,男性右)球結膜腫瘍切除+羊膜移植C1回なし術後C1年で受診せずC図3結膜母斑(20歳,女性)a:生後より左眼の鼻側結膜に色素沈着がみられ,成長とともに着色が増加して大きくなってきた.Cb:組織所見(HE染色).結膜上皮内および上皮下に褐色色素を有する細胞が胞巣状に増殖()しており,複合母斑と考えられた.図4小.胞を伴った結膜母斑(59歳,女性)a:数年前より発症した結膜母斑.小.胞を伴っている.Cb:組織所見(HE染色).結膜上皮下に褐色色素を有する細胞が増殖()しており,.胞形成を伴っていた.内容物は好酸性でムチンの可能性がある.C図5結膜悪性黒色腫の前癌病変-PAM(症例2)a:左眼の上耳側に隆起した悪性黒色腫が認められ,腫瘍と角膜の中間には扁平な結膜メラノーシスがみられた.Cb:結膜メラノーシスの組織所見(HE染色):結膜組織に褐色色素を含む異型細胞()を認め,CPAMwithatypiaと考えられた.Cc:悪性黒色腫と結膜メラノーシスを一塊として摘出後,羊膜移植を行った.d:移植した羊膜は生着している.d表2おもな結膜色素性腫瘍の鑑別点母斑CPAM悪性黒色腫発症時期おもに先天性中年中年以降境界鮮明びまん性不鮮明隆起+.+栄養血管+.+~++易出血性C..+.胞+..PAM:原発性後天性メラノーシス.図6強膜メラノーシス(65歳,女性)発症時期は不明だが,強膜に黒褐色の色素沈着を認めた.~図8症例4の腫瘍摘出後の局所再発a:右眼の瞼縁部皮膚と瞼結膜および球結膜に黒色腫瘍を認めたため,初回手術として眼瞼皮膚と瞼結膜腫瘍を同時に摘出し,皮膚移植と硬口蓋粘膜移植を行った.Cb:初回手術時,右眼の上方結膜にもメラノーシス()を認めたために切徐した.Cc:初回手術よりC3カ月後.移植した硬口蓋粘膜と皮膚は生着しており,結膜悪性黒色腫の再発は認めない.Cd:初回手術からC1年後に右眼の上方結膜に黒色腫瘍が発生し,1カ月の間に急激に大きくなった.d図7結膜悪性黒色腫の前癌病変-母斑(症例3)a:右眼の瞼縁部皮膚と瞼結膜に黒色腫瘍を認めたため,眼瞼皮膚と瞼結膜腫瘍を同時に摘出して羊膜移植を行った.b:組織所見(HE染色).結膜下に褐色色素を有する細胞塊を認め,異型性が乏しいことから複合母斑と考えられた.c:初回手術よりC1年C2カ月後に色素性腫瘍が増殖してきたために腫瘍切除を行った.d:組織所見(HE染色).核の不整や大小不同は強く,細胞分裂像も散見され(),異型細胞の密な増殖がみられる.悪性黒色腫と診断された.C表3結膜悪性黒色腫再発のリスクファクター■用語解説■デルモスコピー:光源のついた約C10倍の拡大鏡による検査で,皮膚表面から真皮浅層レベルまでの皮膚状態を観察することができる.とくに色素性病変や皮膚腫瘍の診断において有用である.S.100蛋白質:グリア細胞やメラニン細胞など神経外胚葉由来の細胞質に含まれる.S-100蛋白質は悪性黒色腫のマーカーであるが,母斑でも陽性となる.ただしメラニン色素の少ない悪性黒色腫の鑑別には有用である.HMB.45(HumanMelaninBlack.45):悪性黒色腫やメラノサイト由来の腫瘍内の未熟なプレメラノゾームに存在する糖蛋白質に対する抗体である.悪性黒色腫では陽性だが,成人のメラニン細胞と真皮内母斑では陰性となる.MIB.1index:MIB-1は細胞増殖マーカーであるKi-67抗体のクローンの一つであり,MIB-1陽性細胞が多いということは細胞増殖が活発であることを示す.MIB-1は多くの腫瘍において腫瘍の悪性度や予後とよく相関している.

序説:見逃したくない眼部悪性腫瘍

2017年8月31日 木曜日

見逃したくない眼部悪性腫瘍OcularMalignantTumors─WeshouldnotMissThem渡辺彰英*外園千恵*本特集は,「見逃したくない眼部悪性腫瘍」と題し,眼部の悪性腫瘍に関する知識と理解を深めることを目的として,結膜,眼内,眼瞼,眼窩に至るまで,眼球および眼周囲の腫瘍を網羅し,悪性腫瘍はもちろん,悪性腫瘍と鑑別すべき疾患について,それぞれの領域のエキスパートの先生方に解説していただいた.結膜の着色病変でまず注意しなければならないのは,黒色の病変が悪性腫瘍(結膜悪性黒色腫)であるか,または今後悪性腫瘍に変化する可能性があるのかどうかである.結膜悪性黒色腫は母斑や原発性後天性メラノーシス(primaryacquiredmelanosis:PAM)を発生母地とするため,前癌状態ともいえるこれらの母斑,PAMと悪性黒色腫の鑑別は非常に重要である.また,悪性黒色腫の治療は近年めざましい進歩を遂げており,以前よりも効果の高い分子標的薬などが開発され,予後不良であった悪性黒色腫治療にも希望を与えている.また,結膜には隆起性病変としての悪性腫瘍も存在する.代表的なものは扁平上皮癌と悪性リンパ腫であり,それぞれ特徴的な臨床所見を呈することが多いが,扁平上皮癌は上皮内癌とともに,角膜輪部周囲の隆起性病変との鑑別が,悪性リンパ腫はおもに結膜円蓋部周囲の隆起性病変との鑑別が必要である.いずれの結膜病変も,スリット上での詳細な観察が可能な部位であり,経過観察にて少しでも増大傾向を認める場合には生検や治療開始を直ちに行うことができる部位であるといえる.しかしその反面,見逃してしまった場合に患者さんや医師の受けるダメージは大きく,常に悪性腫瘍の可能性は念頭に置いて診療を行いたい.眼内腫瘍は,乳幼児では網膜芽細胞腫が,成人では転移性腫瘍と悪性黒色腫が代表疾患である.また,眼内悪性リンパ腫は,「治らないぶどう膜炎」として治療されている可能性がある.いずれも悪性度が高い腫瘍であり,治療は視機能と生命とを両天秤にかけての苦渋の決断のうえになされることも多い.鑑別すべき疾患を念頭に置きながら検査を行い,早期診断を要する腫瘍である.眼瞼腫瘍では,脂腺癌と基底細胞癌の頻度が高い.脂腺癌は霰粒腫や脂腺腺腫,基底細胞癌は脂漏性角化症や母斑といった,比較的頻度の高い良性腫瘍と鑑別が必要である.また,脂腺癌のdi.usetypeは,眼瞼炎様の臨床所見を呈することがあり,いたずらに経過をみていてはいけない,まさに見逃したくない腫瘍である.眼窩腫瘍には多くの悪性腫瘍が存在するが,頻度の高い悪性リンパ腫や腺様.胞癌は,診断するため*AkihideWatanabe&*ChieSotozono:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(1)1075

涙囊炎に合併した副鼻腔画像所見

2017年7月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科34(7):1065.1068,2017c涙.炎に合併した副鼻腔画像所見五嶋摩理*1,2齋藤勇祐*2小栗真美*2山本英理華*1尾碕憲子*1川口龍史*1村上喜三雄*1松原正男*2齋藤誠*3*1がん・感染症センター都立駒込病院眼科*2東京女子医科大学東医療センター眼科*3がん・感染症センター都立駒込病院臨床研究支援室ComputedTomographyImagingofSinusinDacryocystitisMariGoto1,2),YusukeSaito2),MamiOguri2),ErikaYamamoto1),NorikoOzaki1),TatsushiKawaguchi1),KimioMurakami1),MasaoMatsubara2)andMakotoSaito3)1)DepartmentofOphthalmology,TokyoMetropolitanKomagomeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TokyoWomen’sMedicalUniversityMedicalCenterEast,3)DivisionofClinicalResearchSupport,TokyoMetropolitanKomagomeHospital目的:涙.炎を合併した鼻涙管閉塞における鼻腔や副鼻腔の異常をcomputedtomography(CT)で調べ,炎症の関与および手術に際しての留意点を予測した.対象および方法:涙.鼻腔吻合術の術前に副鼻腔CTを施行した片側性の慢性涙.炎症例36例の患側におけるCT所見を健側と比較検討した.結果:副鼻腔炎と副鼻腔炎術後例の合計は,患側のみが9例,健側のみが1例であり,患側に有意に多かった.鼻中隔弯曲は,患側と健側への弯曲がそれぞれ5例ずつで,両側の狭鼻腔を3例に認めた.本人の記憶にない鼻骨骨折と患側の眼窩壁骨折が1例ずつ発見された.結論:慢性涙.炎における副鼻腔の炎症は,健側に比べて患側で有意に多かった.Purpose:Toreporton.ndingsinthenasalcavityandsinusbycomputedtomography(CT)incasesofdac-ryocystitis,forassessmentofunderlyingin.ammatoryfactorsandsurgicalprecautions.Method:Investigatedwere36unilateralcasesofchronicdacryocystitisthatunderwentsinusCTpriortodacryocystorhinostomy(DCR).CT.ndingswerecomparedwiththefellowside.Result:Sinusitiscasespluspostsurgicalsinusitiscasestotaled9onthedacryocystitissideonly,versusoneonthefellowsideonly,provingastatisticallysigni.cantdi.erence.Nasalseptumwasdeviatedtothedacryocystitissidein5casesandtothefellowsidein5cases.Threecasesshowedbilaterallynarrownasalcavity.Asymptomaticfracturewasfoundinthenasalboneandtheorbital.oorindi.erentcases.Conclusion:In.ammationofthesinusonthedacryocystitissidewassigni.cantlymorefrequentthanonthefellowside.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(7):1065.1068,2017〕Keywords:CT,涙.炎,副鼻腔炎,無症候性骨折,涙.鼻腔吻合術.computedtomography,dacryocystitis,si-nusitis,asymptomaticbonefracture,dacryocystorhinostomy.はじめに鼻涙管閉塞の発生には,炎症が関与するとされる1,2).Kallmanらは,鼻涙管は,解剖学的に鼻腔や副鼻腔と隣接しているため,これらの部位の炎症が,鼻涙管に波及する可能性があると指摘している3).筆者らは,涙.炎を合併した鼻涙管閉塞における鼻腔や副鼻腔の異常をcomputedtomography(CT)で調べ,炎症の関与および手術に際しての留意点を予測したので報告する.I対象および方法対象は,平成23年8月.平成27年1月に,東京女子医科大学東医療センターまたは都立駒込病院において,涙.鼻腔吻合術の術前検査として副鼻腔CTを施行した片側性の慢性涙.炎(涙管通水時に排膿を認める鼻涙管閉塞)症例36例36側(男性11例,女性25例),年齢28.95歳(平均70.3±標準偏差13.5歳)である.患側は,右が22例,左が14例であった.〔別刷請求先〕五嶋摩理:〒113-8677東京都文京区本駒込3-18-22がん・感染症センター都立駒込病院眼科Reprintrequests:MariGoto,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoMetropolitanKomagomeHospital,CenterforCancerandInfectiousDiseases,3-18-22Honkomagome,Bunkyo-ku,Tokyo113-8677,JAPAN表1副鼻腔CTの結果年齢性別患側副鼻腔炎*副鼻腔炎術後*鼻中隔弯曲**その他*72男左左眼窩内壁骨折(図3)77女左左75女右左73女右右85女右右左鼻骨骨折75男右右(真菌性)(図1)64女左左78女右右,左32女右右82男右81男右右左71男左狭鼻腔(図2)66女右右狭鼻腔74女右83女左80女左左右75女左66男右82女左28女右44女左左右74男左61女左63女右右69女右63女左60女左60女右左77男右狭鼻腔67男右右72男右72女右75女右79男右右79女右右95女左右患側におけるCT所見を健側と比較検討した.検討項目は,副鼻腔炎の有無(副鼻腔に膿の貯留が認められるものを副鼻腔炎と診断した),副鼻腔手術の既往,鼻中隔弯曲の方向,狭鼻腔ならびに骨折の有無とした.II結果(表1)副鼻腔炎:患側の慢性上顎洞炎を男性11例中2例(19%),女性25例中5例(20%)に認めた.このうち男性1例で石灰化を伴い,真菌性副鼻腔炎と考えられた(図1).ほか男性1例,女性2例が患側の上顎洞炎術後であった.一方,健側における慢性上顎洞炎は女性1例で,健側の上顎洞炎術後例は,両側術後の女性1例のみであった.副鼻腔炎合併例と副鼻腔炎術後例を合計すると,36例中11例(30.5%)であった.これらを患側と健側に分けて検討すると,患側のみが9例,健側のみが1例となり,副鼻腔の炎症は,術後例も含めると,有意差をもって涙.炎と同側に認められた(二項検定,p=0.039).鼻中隔弯曲と狭鼻腔:鼻中隔弯曲は患側方向,健側方向にそれぞれ5例ずつ,いずれも男性1例,女性4例に認められた.このうち,上顎洞炎も合併した症例は,健側に弯曲した2例であったため,上顎洞炎を合併しない鼻中隔弯曲例に限ると,この2例を除く8例中,患側への弯曲が5例(62%)となった.患側への弯曲例も,全例涙.鼻腔吻合術鼻内法が施行できた.一方,両側の狭鼻腔は男性2例,女性1例に認められ(図2),涙.鼻腔吻合術鼻外法が適応となった.骨折:鼻骨骨折と眼窩壁骨折が1例ずつ発見された.鼻骨骨折は女性の健側にみられ,軽度であった.一方,男性の患側における眼窩内壁骨折では,眼窩内容の脱出も伴っていたが(図3),複視や眼球運動制限などの自覚症状はなかった.涙.鼻腔吻合術は鼻内法で行ったが,のみの使用を避けた.いずれの症例も,撮影後の問診で外傷歴が判明した.III考按鼻涙管閉塞は,中高年の女性に多く,顔面骨格の違いが性差の背景にある可能性が指摘されている4).一方,鼻涙管閉塞においては,鼻性の要因が関与し,炎症が遷延・再燃しやすい可能性が推察されている3,5).上岡は,涙道閉塞307例の術前検討で,副鼻腔炎が18例,副鼻腔炎術後が19例,鼻中隔弯曲が4例,顔面骨骨折が男性のみで3例認められたと報告している5).このことから,副鼻腔の炎症ないし術後の炎症が涙道閉塞の契機になった可能性が考えられた.上岡の報告では,副鼻腔炎と副鼻腔炎術後例の合計は,307例中37例(14%)となるが,涙.炎合併の有無に関する記載がなく,涙.炎を合併しない閉塞例も含まれることが本検討と異なると考えられる.一方,Dinisらは,60例の涙.炎症例におけるCT所見か*太字は患側,**太字は患側方向.図1真菌性副鼻腔炎合併例のCT右真菌性上顎洞炎(★)を合併した右鼻涙管閉塞例.図2両側狭鼻腔例のCT両側の狭鼻腔(.)を認める左鼻涙管閉塞例.涙.鼻腔吻合術は鼻外法で施行した.★図3眼窩壁骨折合併例のCT左眼窩内壁骨折(.)を合併した左鼻涙管閉塞例.涙.鼻腔吻合術は鼻内法で行ったが,のみの使用を避けた.ら,副鼻腔炎の頻度が対照群と比較して差がなかったとしている6).しかし,これら既報においては,健側と患側に分けての検討がされていない.筆者らは,涙.炎を合併した片側性の鼻涙管閉塞例について検討を行い,副鼻腔炎と副鼻腔炎術後例を合わせると,患側に有意に多いという結果を得た.本検討でみられた副鼻腔炎はいずれも上顎洞炎であったが,上顎洞は,鼻涙管に近接し,中鼻甲介の下方に位置する自然孔である半月裂孔に開口するため,この部位の炎症が鼻涙管にも波及した可能性がある3).副鼻腔炎術後例に関しては,術前の副鼻腔の炎症のほか,手術そのものによる炎症の影響も考えられる5).Leeらは,39例中25例(64%)で鼻中隔が鼻涙管閉塞側に弯曲していたと報告している4).この報告では,副鼻腔所見についての言及がないが,今回の鼻中隔弯曲における検討で,上顎洞炎の関与を除外すると,患側への弯曲例は8例中5例(62%)となり,Leeらの結果とほぼ一致する.以上のことから,鼻中隔の弯曲による鼻腔の狭さ,鼻涙管に隣接した副鼻腔の炎症,あるいは術後炎症のいずれもが鼻涙管閉塞の発生や涙道内の炎症と関連している可能性が推測される.なお,患側への弯曲があっても,涙.鼻腔吻合術鼻内法は可能であり,術式への影響はなかった.術式に影響した因子としては,両側の狭鼻腔と患側の眼窩内壁骨折があった.前者では涙.鼻腔吻合術鼻外法を行い,後者では,涙.鼻腔吻合術鼻内法の際に,のみの使用を避けた.なお,本検討には含まれなかったが,鼻涙管閉塞におけるCTでは,腫瘍性病変や鼻腔の広汎なポリポーシスが発見されることもあるため7),これらの疾患も念頭においた術前精査が肝要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)LindbergJV,McCormickSA:Primaryacquirednasolac-rimalductobstruction.Aclinicopathologicreportandbiopsytechnique.Ophthalmology93:1055-1063,19862)TuckerN,ChowD,StocklFetal:Clinicallysuspectedprimaryacquirednasolacrimalductobstruction.Clinico-pathologicreviewof150patients.Ophthalmology104:1882-1886,19973)KallmanJE,FosterJA,WulcAEetal:Computedtomog-raphyinlacrimalout.owobstruction.Ophthalmology104:676-682,19974)LeeJS,LeeHL,KimJWetal:Associationoffaceasym-metryandnasalseptaldeviationinacquirednasolacrimalductobstructioninEastAsians.JCraniofacSurg24:1544-1548,20135)上岡康雄:鼻と涙道疾患─鼻・副鼻腔疾患と涙道疾患との関連─.耳展42:198-202,19997)FrancisIC,KappagodaMB,ColeIEetal:Computed6)DinisPG,MatosTO,AngeloP:Doessinusitisplayatomographyofthelacrimaldrainagesystem:Retrospec-pathologicroleinprimaryacquiredobstructivediseaseoftivestudyof107casesofdacryostenosis.Ophthalmicthelachrymalsystem?OtolaryngolHeadNeckSurg148:PlastReconstrSurg15:212-226,1999685-688,2013***

裂孔原性網膜剝離硝子体術後の網膜皺襞に対して手術が有効であった2例

2017年7月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科34(7):1060.1064,2017c裂孔原性網膜.離硝子体術後の網膜皺襞に対して手術が有効であった2例野村僚子水口忠谷川篤宏堀口正之藤田保健衛生大学医学部眼科学教室TwoCasesofSurgicalRepairofRetinalFoldfollowingRetinalDetachmentSurgeryRyokoNomura,TadashiMizuguchi,AtsuhiroTanikawaandMasayukiHoriguchiDepartmentofOphthalmology,FujitaHealthUniversitySchoolofMedicine背景:裂孔原性網膜.離(RRD)術後の網膜皺襞に対して硝子体手術が有効であった症例を2例経験したので報告する.症例1:58歳,男性.左眼RRDに対して,前医にて硝子体手術施行.術後1時間安静ののち帰宅.術後網膜皺襞を認め,当院紹介.初診時左眼視力(0.3).左眼水晶体再建術,硝子体同時手術を施行.術後,網膜皺襞は消失し,左眼視力は(0.5)に改善した.症例2:48歳,男性.左眼RRDに対して,前医にて水晶体再建術,硝子体同時施行.術後体位を十分に指導されなかった.術後網膜は復位するも,網膜皺襞を認めたため,再手術目的に当院紹介.初診時視力左眼(0.3).左眼硝子体手術を施行.網膜皺襞は消失し,左眼視力は(0.7)に改善した.結論:今回の症例では,急な発症,上側裂孔,黄斑に及ぶ網膜.離,術直後の安静の不十分さが網膜皺襞の形成に関与したと考えられた.2例とも内境界膜.離を伴う硝子体手術により網膜皺襞は消失した.Background:Retinalfoldisararecomplicationfollowingrhegmatogenousretinaldetachment(RRD)surgery.Wereporttwocasesofe.ectivesurgicalrepairofretinalfoldfollowingRRDsurgery.Case:Case1,a58-year-oldmale,underwentRRDsurgeryandreturnedhomeafterrestofonehouratapreviousclinic.Threeweeksafterthesurgery,retinalfoldwasnoted.Hethenreferredtoourhospitalandunderwentvitrectomy.Theretinalfolddisappeared.Case2,a48-year-oldmale,underwentRRDsurgeryatapreviousclinic.Hewasnotinstructedtokeephisfacedownpost-operatively.Afterthesurgery,retinalfoldwasnoted.Afterweperformedvitrectomy,theretinalfolddisappeared.Conclusion:Inourcases,lackofmaintainingpostoperativeposturejustafteresurgerymayplayapartintheformationofretinalfold,whichwassuccessfullyrepairedbyvitrectomywithinternallimit-ingmembranepeeling.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(7):1060.1064,2017〕Keywords:裂孔原性網膜.離硝子体術後,網膜皺襞.retinaldetachmentsurgery,retinalfolds.はじめに網膜皺襞は裂孔原性網膜.離(rhegmatogenousretinaldetachment:RRD)手術後のまれな合併症である1,2).黄斑部の網膜皺襞は,網膜外層に恒久的な障害を起こすため,早期外科的治療が考慮される3).網膜皺襞の手術治療の報告は多くなく4.9),術式に関して定まった見解はない.今回筆者らは,術後の網膜皺襞に対して硝子体手術が有効であった症例を2例経験したので報告する.I症例〔症例1〕58歳,男性.主訴:左眼の視野障害.現病歴:2015年1月初旬より左眼半分の視野異常を訴え,同年1月下旬に前医を受診した.左眼上耳側に網膜裂孔と,上側から黄斑を超えて下方に及ぶ網膜.離を認めた.同日硝子体手術を施行した.術後1時間安静し,そのまま自動車に乗せてもらい帰宅した.午前4時間,午後4時間の〔別刷請求先〕野村僚子:〒470-1192愛知県豊明市沓掛町田楽ケ窪1-98藤田保健衛生大学医学部眼科学教室Reprintrequests:RyokoNomura,M.D.,DepartmentofOpthalmology,FujitaHealthUniversitySchoolofMedicine,1-98Kutsukake-cho,Dengakugakubo,Toyoake-city,Aichi470-1192,JAPAN1060(144)図1症例1の初診時左眼眼底写真(a)とOCT(b)黄斑に及ぶ網膜皺襞を認める.図2症例1の術後左眼眼底写真(a)とOCT(b)網膜皺襞は消失した.下向きを指導された.同年2月中旬の再診時に網膜皺襞を認め,ゆがみも自覚するため,同年2月下旬,当院紹介となった.既往歴・家族歴:特記すべきことなし.初診時所見:視力は右眼1.2(矯正不能),左眼0.1(0.3×.1.50D(cyl.0.75DAx140°),非接触圧平眼圧計検査では右眼13mmHg,左眼14mmHg.細隙灯顕微鏡検査では両眼軽度白内障(Emery-Little分類NS2度)を認めた.眼底検査では,左眼網膜は復位していたが,黄斑に及ぶ網膜皺襞を認めた(図1a,b).Amsler検査にて歪みの自覚を認めた.眼底直視下微小視野計検査にて網膜皺襞に一致した網膜感度の低下を認めた.治療経過:2015年3月中旬に左眼SF6(sulfurhexa.uo-ride)ガス注入術を施行した.しかし,網膜皺襞は変化しなかった.同年4月初旬に左眼水晶体再建術,25ゲージ経結膜硝子体手術を施行した.ブリリアントブルーグリーン(以下,ILM-BLUER)にて染色後,25ゲージ硝子体鑷子で内境界膜.離した.41Gカニューラで網膜皺襞の近くの網膜下にbalancedsaltwater(以下,BSSR)を注入し,網膜.離を作製した.網膜皺襞は伸展し,ドーム状の網膜.離となった.網膜下液は吸引せずに液-空気置換をした後,SF6ガスを注入した.術後,網膜皺襞は消失し(図2),自覚症状も改善した.2016年1月中旬の左眼視力は,(0.5×.1.00D)に改善した.眼底直視下微小視野計検査にて術前と比較し,網膜感度の低下は改善した.〔症例2〕48歳,男性.主訴:左眼の違和感.現病歴:2015年10月中旬に左眼の違和感を感じ,2日後に前医受診.翌日,左眼上側と耳側の網膜裂孔と,上側から黄斑を超えて血管アーケードまで及ぶ網膜.離を認め,左裂孔原性網膜.離にて,同日,左硝子体白内障同時手術施行.術後のFacedownの方法を十分に指導されず,術直後から坐位で飲食をしていた.術後網膜は復位していたが,後極に黄斑皺襞が残存しており,再手術目的にて2016年2月26日に当院紹介となった.既往歴,家族歴に特記すべきことなし.初診時所見:視力は右眼0.06(1.5×.8.50D),左眼0.03(0.3×.8.00D(cyl.1.00DAx160°),非接触圧平眼圧計検査では右眼20mmHg,左眼21mmHg,細隙灯顕微鏡検査では右眼軽度白内障,左眼眼内レンズ挿入眼を認めた.眼底検査では,左眼網膜は復位していたが,後極に網膜皺襞を認めた.超広角眼底写真にて後極に及ぶ網膜皺襞を認め,光干渉断層計検査にて網膜皺襞を認める(図3).図3症例2の初診時左眼超広角眼底写真(a)とOCT(b)後極に網膜皺襞を認める.図4症例2の術後左眼超広角眼底写真(a)とOCT(b)網膜皺襞は消失している.治療経過:2016年3月下旬に左眼25ゲージ経結膜硝子体手術を施行した.ILM-BLUERにて染色後,25ゲージ硝子体鑷子で内境界膜.離した.41ゲージカニューラで網膜皺襞の近くの網膜下にBSSRを注入し,網膜.離を作製した.網膜皺襞は伸展し,ドーム状の網膜.離となった.網膜下液は吸引せずに液-空気置換をした後,SF6ガスを注入した.術後,網膜皺襞は消失し(図4),自覚症状も改善した.同年0月中旬の左眼視力は,(57.×.7.75D(=cyl.1.25DAx160°)裂による網膜のずれ,バックリング手術時のガス注入過多などがあげられる1.3).網膜皺襞は,硝子体手術時に後極に内部排液のための意図的裂孔作製をしたり,per.uocarbonliquid(PFCL)を使用したりすることで,術中により完全に網膜下液を排出すれば防ぐことができる.術後の下向き姿勢も,黄斑から網膜下液を排出するのに役立つ.黄斑に網膜皺襞が及べば,視力障害は必発となる.自然に網膜皺襞が伸展した症例も過去に報告されている4)が,多くは不可逆性の歪みが残存してしまう.であった.眼底直視下微小視野計検査にて術前と比較し,網膜感度の低下は改善した.II考按網膜皺襞は裂孔原性網膜.離手術後のまれな合併症である1.3).網膜皺襞は網膜.離部分と未.離部分との間にできる.網膜下液が吸収されるときに,強膜バックルによる網膜組織の余剰や胞状網膜.離による網膜の伸展により網膜皺襞が形成される.網膜皺襞形成の危険因子として,上方の胞状網膜.離,広範囲の強膜バックリング,巨大裂孔や鋸状縁断網膜皺襞が形成されて1週間もすると,視細胞の障害が現れはじめる.黄斑の網膜皺襞は典型的に視力予後が不良であるため,この網膜.離術後の合併症を解剖学的に治すいくつかの手術方法が報告されている.ChenXら5)によると,黄斑部に及ぶ裂孔原性網膜.離において裂孔が閉鎖していれば,完全に網膜下液を排液した群と不完全排液群では術後の網膜復位率と術後視力は有意差がなかったと報告している.しかし,不完全排液の場合は術後下向き姿勢が必要になる.網膜皺襞を生じないためには術中の完全な網膜下液の排液が重要であると考えられる.術後に網膜皺襞を起こしやすい裂孔原性網膜.離の特徴と表12症例の危険因子RBの位置maculaon/o.日帰り/入院術後安静胞状網膜.離急性発症意図的裂孔症例1上側o.日帰り×不明1.3週間×症例2上側と耳側o.入院×◯2日×表2過去の手術方法著者Subretinalbleb作製液-空気置換タンポナーデ物質術後姿勢その他,必要とした処置Witkinら41GBSSありSF6facedownEl-Amirら41GBSSありairfacedownHerbertら41GBSSなしheavysiliconeoilspinerepeatedvitrectomyPFCLremovalTrinhら39GBSSありsiliconeoil記載なしlaserretinopexy,retinotomyLeandroら41GBSSありC3F8nospeci.cheadposioninglaserretinopexy,retinotomy筆者ら41.GBSSありSF6facedownILMpeelingして,網膜上側裂孔,胞状網膜.離,黄斑に及ぶ網膜.離,急な発症などが危険因子としてあげられる6.11).今回の2症例の危険因子について検討した(表1).2例とも裂孔が上側にあり,.離範囲が上側から黄斑部を超えており,その下方は.離していなかった.症例1では日帰り手術,症例2では入院手術であったが,どちらも術直後のうつぶせはできていなかった.さらに症例2では,胞状網膜.離を認めた.症例1は,発症後1.3週,症例2は発症2日後に来院している.2症例とも内部排液のための意図的裂孔は作製されていなかった.これらにより,術後に残存した網膜下液が下方に移動して,網膜皺襞が形成されたと考察される.Isaicoら11)は,術後の網膜皺襞の危険因子として,日帰り手術をあげている.その発生率は,外来手術で1.96%であったのに対して,入院手術では,0.06%であった.この差は術式によるものではなく,術後の下向きが厳格になされたかどうかによると結論している.加えて,Isaicoら11)は,外来手術での術後少なくとも2時間は厳格に下向き姿勢をとるように,患者用パンフレットを作成し,患者教育した結果,その後18カ月,497例で網膜皺襞は発生していないと報告している.筆者らの症例でも日帰り,入院の違いはあるものの,どちらも術直後の下向きはできていなかった.手術方法に定まった見解はないが,過去の報告では,BSSRを網膜下に注入し,網膜.離を作製する方法が一般的である6.11).その後液-空気置換をすることで,.離部位が後極に移動し,網膜皺襞が伸展し,解除される.網膜下液は,除去しないという報告が多い6,8,9,11)が,ガスタンポナーデ,下向き姿勢で吸収されていく.タンポナーデ物質や術後の姿勢はさまざまであった(表2).筆者らの2症例では,ILM-BLUERによる染色後,内境界膜を.離した.その後41ゲージカニューラでBSSRを網膜皺襞近くの網膜下に注入し,網膜.離を作製し,網膜皺襞を伸展させ解除させた.網膜下液は,除去せずに液-空気置換し,SF6ガスでタンポナーデした.2症例とも同様の方法で,残存網膜下液は,術後自然吸収された.2症例ともドレナージ用の網膜切開や眼内網膜光凝固は行っていない.さらに網膜皺襞解除にPFCLを使用していない.PFCLを使用すれば除去のための再手術を必要とする.筆者らはSF6ガスを使用したが,網膜下液が通常24時間以内に吸収されるため12),空気によるさらに短期間のタンポナーデでもよかった可能性もある.網膜皺襞の解除法や,そもそも手術しなくても網膜皺襞が自然に解除されるかどうかについても,いまだ明確な答えはない.網膜下にBSSRを注入してブレブを作製することは,再網膜.離を起こすため,視細胞に対してさらなる障害を与える可能性がある.また,ガスタンポナーデにより.離した網膜が黄斑に移動してしまう可能性もある13).筆者らは,過去の報告と異なり内境界膜を.離した.内境界膜を.離することで,網膜の伸展性が回復し,皺襞が戻りやすくなる14)と考えた.しかしBSSRを網膜下に注入する際に黄斑円孔を生じる危険がある.とくに内境界膜.離まで行う場合,網膜下にBSSRを注入する手技は非常にゆっくり行う必要がある.筆者らは,黄斑に対する合併症や手術侵襲の可能性があっても,黄斑が含まれる網膜皺襞では,視力障害が深刻であり,早急な手術による網膜皺襞の回復が必要と考えた.筆者らの方法は裂孔原性網膜.離術後の網膜皺襞を解剖学的に解除し,恒久的な視細胞障害,視力障害を防ぐと考えられた.文献1)PavanPR:Retinalfoldinmacularfollowingintraoculargas:anavoidablecomplicationofretinaldetachmentsur-gery.ArchOphthalmol102:83-84,19842)LarrisonWI,FrederickAR,PetersonTJetal:Posteriorretinalfoldsfollowingvitreoretinalsurgery.ArchOphthal-mol111:621-625,19933)HayashiA,UsuiS,KawaguchiKetal:Retinalchangesafterretinaltranslocationsurgerywithscleralimbricationindogeyes.InvestOphthalmolVisSci41:4288-4292,20004)AhnSJ,WooSJ,AhnJetal:Spontaneousresoluteionofmacularfoldfollowingretinalreattachment:morphologicfeaturesonSDOCT.OphthalmicSurgLasersImaging42:e81-e83,20115)ChenX,ZhangY,YanYetal:Completesubretinal.uiddrainageisnotnecessaryduringvitrectomysurgeryformacula-o.rhegmatogenousretinaldetachmentwithperipheralbreaks:AProspective,NonrandomizedCom-parativeIntervenetionalStudy.Retina37:487-493,20176)WitkinAJ,HsuJ:Surgicalrepairofmacularfoldsaftervitrectomyforbullousrhegmatogenousretinaldetachment.Retina32:1666-1669,20127)HeimannH,BoppS:Retinalfoldsfollowingretinaldetachmentsurgery.Ophthalmologica226:18-26,20118)El-AmirAN,EveryS,PatelCK:Repairofmacularfoldfollowingretinalreattachmentsurgery.ClinExperimentOphthalmol35:791-792,20079)HerbertEN,GroenewaldC,WongD:Treatmentofreti-nalfoldsusingamodi.edmacularelocationtechniquewithper.uorohexyyloctanetamponade.BrJOphthalmol87:921-922,200310)ZachariasLC,NobregaPFC,WalterYetal:Surgicalcor-rectionofretinalfoldsinvolvingthefovea.OphthalmicSurgLasersImagingRetina45:50-53,201411)IsaicoR,MalvitteL,BronAMetal:Macularfoldsafterretinaldetachmentsurgery:thepossibleimpactofoutpa-tientsurgery.GraefesArchClinExpOphthalmol251:383-384,201312)TornambePE:Pneumaticretinopexy.SurvOphthalomol32:270-281,198813)deJuanEJr,VanderJF:E.ectivemaculartranslocationwithoutscleralimbrication.AmJOphthalmol128:380-382,199914)LoganHB:Macularholesurgerywithandwithoutinter-nallimitingmembranepeeling.Ophthalmology107:1939-1949,2000***

Soemmerring輪を伴う続発閉塞隅角症の2例

2017年7月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科34(7):1054.1059,2017cSoemmerring輪を伴う続発閉塞隅角症の2例福武慈坂上悠太栂野哲哉五十嵐遼子長谷部日福地健郎新潟大学大学院医歯学総合研究科生体機能調節医学専攻感覚統合医学講座視覚病態学分野TwoCasesofSecondaryAngleClosurewithSoemmerring’sRingMegumiFukutake,YutaSakaue,TetsuyaTogano,RyoukoIkarashi,HirumaHasebeandTakeoFukuchiDivisionofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofMedicalandDentalSciences,NiigataUniversitySoemmerring輪を伴って発症した続発閉塞隅角症(以下,本症)の2例を経験した.症例1は78歳,男性.10年前に両眼に超音波水晶体乳化吸引術,眼内レンズ挿入術(以下,PEA+IOL)を受けた.左眼に浅前房と眼圧上昇(25mmHg)を生じ,細隙灯顕微鏡検査,および超音波生体顕微鏡(以下,UBM)所見から,本症と診断した.Soem-merring輪の手術的除去と周辺部前後.切開術を行い,前房深度は改善,隅角は開大し,眼圧は下降した.症例2は77歳,女性.11年前に左眼にPEA+IOLを受けた.左眼霧視と頭痛を主訴に受診した.左眼眼圧は77mmHgで浅前房と全周に周辺虹彩前癒着を認めた.同様に細隙灯顕微鏡検査,UBM所見から本症と診断し,Soemmerring輪の手術的除去と隅角癒着解離術を行った.術後,前房深度は改善し,眼圧は下降した.結論:まれではあるがPEA+IOL後の長期合併症の一つとしてSoemmerring輪を伴う続発閉塞隅角症がある.本症にはさまざまな隅角閉塞のメカニズムが関与している可能性が考えられる.診断にはUBMが有用で,正確に本症と診断された場合には,Soemmerring輪を手術的に除去することで眼内レンズを温存したまま治療できる可能性がある.Purpose:ToreporttwocasesofsecondaryangleclosurewithSoemmerring’sring.Case1:A78-year-oldmalehadshallowanteriorchamberandintraocularpressureof25mmHginhislefteye.Hehadahistoryofcata-ractphacoemulsi.cationandintraocularlensimplantation(PEA+IOL)inbotheyes10yearsbefore.Despitetopicalantiglaucomamedications,theshallowanteriorchamberremained.Ultrasoundbiomicroscopy(UBM)showedlensmaterialsroundlybehindtheirisinthelefteye.WediagnosedSoemmerring’sring-inducedsecondaryangleclo-sureandperformedsurgerytoremovethematerialsofSoemmerring’sringande.ectperipheralcapsulotomy.Aportionofthematerialsremained,buttheanteriorchamberbecamedeeperandtheanglewasopened.Case2:A77-year-oldfemalehadahistoryofPEA+IOLinherlefteye11yearspreviously.Shehadblurredvisionandheadache.Herlefteyehadshallowanteriorchamber,totalperipheralanteriorsynechiaandelevatedintraocularpressureof77mmHgdespitetopical,oralandintravenoustreatment.UBMshowedlensmaterialsroundlybehindtheiris;wediagnosedSoemmerring’sring-inducedsecondaryangleclosure.WeperformedsurgerytoremovethematerialsofSoemmerring’sringandcarryoutgoniosynechiolysisforaportionoftheangle.Theanteriorchamberbecamedeeperandtheintraocularpressuredecreasedto12mmHg.Conclusions:SecondaryangleclosurewithSoemmerring’sringmayoccurbydi.erentmechanismsinrespectivecases.UBMisveryusefulindiagnosingit.SurgicalremovalofSoemmering’sringmaterialscanresolvesecondaryangleclosure.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(7):1054.1059,2017〕Keywords:白内障手術術後合併症,後発白内障,Soemmerring輪,超音波生体顕微鏡,続発閉塞隅角症,眼内レンズ.complicationofcataractsurgery,aftercataract,Soemmerring’sring,ultrasoundbiomicroscopy(UBM),sec-ondaryangleclosure,intraocularlens.〔別刷請求先〕福武慈:〒951-8510新潟県新潟市中央区旭町通一番町757番地新潟大学大学院医歯学総合研究科生体機能調節医学専攻感覚統合医学講座視覚病態学分野Reprintrequests:MegumiFukutake,DivisionofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofMedicalandDentalSciences,NiigataUniversity,1-757Asahimachidoori,Chuo-ku,Niigata-shi,Niigata951-8510,JAPAN1054(138)bはじめに白内障手術後の後発白内障は,残存した水晶体上皮細胞が増殖・分化して生じる.病型として,Soemmerring輪,Elschnigpearls,前.切開縁を中心に生じる線維性混濁,液状物が眼内レンズと後.の間に貯留する液状後発白内障がある1.5).このうちSoemmerring輪は,水晶体.周辺部の前後.が接着し房水から遮断された閉鎖腔内で,赤道部に存在する水晶体上皮細胞が増殖したものである2,5).閉鎖腔内での上皮細胞増殖が容量を超えると,接着部分がはずれ,後.に沿って上皮細胞が遊走し,Elschnigpearlsを形成するといわれている1,3,5).Soemmerring輪に伴う合併症として.内固定した眼内レンズの亜脱臼6,7),.外固定した眼内レンズの偏位8),人工無水晶体眼での瞳孔まで及ぶ増殖による視力低下9),続発閉塞隅角症10.12)の報告がある.今回,筆者らはSoemmerring輪に伴って発症したと考えられる続発閉塞隅角症の2例を経験した.これらの症例から,本症の診断と治療,隅角閉塞メカニズムについて知見を得たので報告する.I症例〔症例1〕78歳,男性.主訴:なし.家族歴:特記すべきことなし.既往歴:急性膵炎,高血圧.2002年(68歳)左眼,2003年(69歳)右眼の超音波水晶体乳化吸引術,眼内レンズ挿入術(以下,PEA+IOL).挿入眼内レンズは,左眼AMOSI40NB20.5D,右眼AMOCLRFLXB22.0D.カルテの記載上,術中,術後とも合併症なし.現病歴:2012年11月に近医を受診した際に,左眼が浅前房であり眼圧は25mmHgと上昇していた.タフルプロスト,0.5%チモロールマレイン酸塩による点眼治療を開始し眼圧は下降したが,浅前房が改善しないため12月に当科を紹介され受診した.初診時所見:視力は右眼1.2(n.c.),左眼1.2(n.c.),眼圧は右眼11mmHg,左眼17mmHg(Goldmann圧平眼圧計:GAT)であった.左眼の前房は右眼に比べとくに周辺が浅く,炎症所見はなく角膜清明であった(図1a).左眼眼内レンズは前方に偏位し,前.と虹彩後面が接触していた.後.は眼内レンズのすぐ後方にあり,液性後発白内障の所見はなかった.また,後.と前部硝子体膜の間にはスペースがあった.眼内レンズの前方偏位はあるものの,硝子体後方への房水流入,aqueousmisdirectionを示す明らかな所見はなかった.隅角鏡検査では左眼の上方10.1時,下方5.8時,全体では半周に相当する範囲に周辺虹彩前癒着(peripheralanteriorsynechia:PAS)を認めた.前眼部光干渉断層計(前眼部OCT)では,中心前房深度は右眼3.2mm,左眼2.4mmで,左眼の眼内レンズは前方に偏位していた(図1b).眼軸長は右眼22.3mm,左眼22.1mmであった.後日精査目的に入院のうえ,散瞳診察を行った.散瞳は不良であったが,視神経乳頭陥凹拡大はなく,検眼鏡的に確認できる範囲で眼底に異常所見はなかった.Humphrey静的視野検査では緑内障性視野異常はなかった.超音波生体顕微鏡(ultrasoundbiomicroscope:UBM)では,水晶体.周辺部に全周にわたって高輝度の充実性組織があり,虹彩根部を前方に圧排して図1症例1:左眼a:初診時前眼部写真.右眼に比べ浅前房であった.b:初診時前眼部OCT.中心前房深度は2.4mmで眼内レンズの前方偏位と虹彩接触がみられる.c:術後前眼部写真.術前に比べ,前房は深化した.d:術後前眼部OCT.中心前房深度は3.5mmと改善した.6時ab図2症例1:左眼UBMa:術前UBM.プラトー虹彩様に虹彩根部が前方へ偏位し隅角閉塞をきたしている.虹彩後方には全周性に高輝度の充実組織を認め,Soemmerring輪と考えられる.b:術後UBM.Soemmerring輪は残存するものの,全体に輝度や容積は低下し,虹彩根部への圧排所見や水晶体.前方偏位は改善している.図3症例1:手術所見散瞳不良だったため虹彩リトラクターで術野を確保した.水晶体.内にSoemmerring輪を確認した.眼灌流液を水晶体.内に灌流し,水晶体スパーテルなどで掻爬,水流で洗い流した.その後レンズ外側下方の前後.を27ゲージ針で穿破し,硝子体腔との交通を作った.虹彩根部は隆起していて隅角は確認できなかった.いて,Soemmerring輪と考えられた(図2a).虹彩の前方弯曲や,毛様体突起の扁平化は認めなかった.経過:Soemmering輪が本症の発症に関与していると考え,除去することを目的に観血的治療を行った.散瞳不良のため虹彩リトラクターで瞳孔を拡大すると,虹彩後方に全周性にSoemmering輪を認めた.眼灌流液を水晶体.内に灌流し,水晶体スパーテルなどを用いて掻把し,軟化した組織を水流によって除去した(図3).全周の4分の3程度の組織を除去できた.眼内レンズの前方偏位から,房水が眼内レンズより後方へ流入するaqueousmisdirectionが生じている可能性を否定できないと考え,レンズ外側下方の前後.を27ゲージ針で穿破し,硝子体腔との交通を作って手術を終了した.術翌日から前房は深くなり(図1c),前眼部OCTで中心前房深度は3.5mmと改善,隅角は開大した(図1d).UBMでは,充実性組織は残存するものの,全周で容積は低下し,虹彩根部の前方圧排所見は改善するとともに隅角は開大していた(図2b).その後の眼圧は11.14mmHgで経過し,再発はない.〔症例2〕77歳,女性.主訴:左眼の霧視,眼痛,頭痛.家族歴:特記すべきことなし.既往歴:心房細動でピルジカイニド塩酸塩水和物を内服している.2002年(66歳)左眼PEA+IOL.挿入眼内レンズは,AMOSI40NB23.5D.カルテの記載上,術中,術後とも合併症なし.現病歴:2013年11月に左眼霧視と頭痛を主訴に近医眼科を受診した.左眼眼圧は66mmHgで,D-マンニトール点滴,アセタゾラミド内服,ドルゾラミド・チモロール,ピロカルピン塩酸塩点眼によっても,翌日も77mmHgと改善がみられないため,紹介され当院を受診した.初診時所見:視力は右眼0.8p(n.c.),左眼0.06(n.c.),眼圧は右眼17mmHg,左眼77mmHg(GAT)であった.左眼b図4症例2:左眼a:初診時前眼部写真.浅前房,角膜浮腫,眼内レンズ前方偏位がみられる.b:初診時前眼部OCT.中心前房深度は1.6mmで眼内レンズは前方偏位している.c:術後前眼部写真.前房は深化し,角膜浮腫も改善した.d:術後前眼部OCT.中心前房深度は3.0mmとなった.ab図5症例2:左眼UBMa:初診時UBM.虹彩後方に全周性にSoemmerring輪を認め,虹彩根部を圧排し隅角閉塞をきたしている.b:術後UBM.Soemmerring輪は残存するものの,全体に容積は低下し,虹彩根部への圧排は改善している.前房は著しく浅く,角膜は浮腫状で,眼内レンズは前方に偏鼻側の充実性組織は大きかったため,灌流・吸引(I/A)ハ位していた(図4a).隅角鏡検査では右眼はappositionalンドピースを用いて.内から摘出した.その直後に前房が深closureで,低いPASが5カ所あり,左眼は全周のPASが化した.視認性不良であり嘔気が強かったため,上方,下方あった.前眼部OCTでは中心前房深度は右眼1.7mm,左の可能な範囲のみ隅角癒着解離術を行った.術後,隅角鏡検眼1.6mmで左眼の眼内レンズは前方偏位していた(図4b).査で左眼PASは10.2時方向は残存したが半周以下となっ眼軸長は右眼21.9mm,左眼22.0mmであった.UBMではた.前房深度は3.0mmとなり(図4c,d),UBMでは充実水晶体.周辺部の高輝度の充実性組織,Soemmerring輪が性組織の容積は低下し,隅角は開大していた(図5b).その全周に虹彩に接し,虹彩根部を圧排していた(図5a).虹彩後の左眼矯正視力は1.2,左眼眼圧は12.14mmHgで経過の前方弯曲や毛様体突起の扁平化は認めなかった.し再発はない.右眼は原発閉塞隅角症と診断し,後日PEA経過:受診当日に水流によるSoemmering輪除去を行っ+IOLを行い前房は深化した.た.散瞳不良のため虹彩リトラクターを留置した.上方からII考按今回,筆者らはSoemmering輪を伴って発症した続発閉塞隅角症(以下,本症)の2例を経験した.この2例の隅角閉塞のメカニズムとしては,全周にみられたSoemmering輪が後方から虹彩根部を圧排し,直接,隅角を閉塞したことが主体と考えられた.治療として手術的にSoemmering輪を除去すること,少なくとも容積を減らすことが有効と考え,水晶体.を開放し,水流による灌流とスパーテルなどによる掻爬といった比較的容易な方法によって,眼内レンズを温存したまま,病態を改善させることができた.これまでにもSoemmering輪によって生じた閉塞隅角緑内障の報告10.12)が,いくつかみられる.Kobayashiら10)は,3年前に両眼にPEA+IOL,1年前に右眼にNd:YAGレーザー後.切開術を受け,右眼に発症した本症に対し,レーザー虹彩切開術,さらにその切開部からNd:YAGレーザーを照射してSoemmerring輪を破砕し改善した1例を報告した.松山ら11)は,10年以上前に両眼白内障手術を受け,右眼に発症した本症に対し硝子体切除術を行ったが改善せず,Soemmerring輪を眼内レンズ,水晶体.ごと摘出することによって改善した1例を報告した.また,Kungら12)は,両眼PEA+IOLを受け,9年後に左眼に発症した本症に対しレーザー虹彩切開術を施行したものの,2年後に眼圧上昇とSoemmerring輪の増大を認め,保存的治療で眼圧が改善した1例を報告している.Soemmerring輪を伴う眼圧上昇には開放隅角の症例報告13)もある.白内障手術後に眼圧上昇をきたした症例で,細隙灯顕微鏡検査で閉塞隅角を疑った場合には,隅角鏡検査,UBM,前眼部OCTを施行し,PAS,虹彩の形態異常,毛様体の形態異常,虹彩後方の腫瘤性病変,眼内レンズの位置異常などがないか観察を行う.本症をきたす鑑別疾患として,瞳孔ブロック,眼内レンズ脱臼などによる水晶体ブロック,毛様体ブロック,脈絡膜出血,毛様体脈絡膜滲出,PASをきたすような血管新生緑内障,ぶどう膜炎などがある.UBMは,前眼部OCTに比べ,より虹彩後方を全周に観察することが可能で,閉塞隅角の鑑別に有用である.本症は全周性に虹彩後方に水晶体組織を疑う充実性組織を認めることから,UBMを用いれば診断は比較的容易であると考える.本症例では,虹彩はプラトー虹彩様に根部が前方へ偏位して隅角と接していた.虹彩根部の後方,つまり水晶体.周辺部には全周性にSoemmerring輪があり,これが虹彩を圧排していると考えられた.一方,眼内レンズと水晶体.が前方に移動していた点について,房水が眼内レンズよりも後方へ流入するaqueousmisdirectionが生じていた可能性があり,症例1ではその可能性を考慮し前後.の穿破を行った.しかし両症例ともUBMでは毛様体突起の扁平化はみられず,症例1では細隙灯顕微鏡検査で水晶体後.と前部硝子体膜との間に十分なスペースが保たれていたことから,房水が硝子体後方へ回りこみ硝子体が前方移動することにより生じる毛様体ブロックは本症例の主体ではないと考えた.また,症例2では前後.の穿破をせずにSoemmerring輪の摘出のみで眼内レンズ前方偏位が改善したことからも,毛様体ブロックは本症例の主体ではないと考えられる.また,UBMではSoemmerring輪と毛様体が接する所見もみられ,Soemmer-ring輪の赤道方向への増殖により毛様体とSoemmerring輪間での房水通過障害が生じる可能性もあるかもしれないが,本症例では近接するものの全周性の接触はなく,やはり本症の主体ではないと考えた.また,いずれも虹彩の前方弯曲はないことから瞳孔ブロックの所見はなく,毛様体.胞や腫瘍性病変,脈絡膜出血,脈絡膜滲出などの所見,PASをきたす新生血管,ぶどう膜炎などの所見はなかった.以上から,少なくともこの2症例における浅前房と隅角閉塞のメカニズムとしては,Soemmerring輪が全周で増大したことによって虹彩根部が前方に偏位し,直接的に隅角を閉塞したことが主体ではないかと考えた.一方,いずれの症例もUBMでSoemmerring輪が全周性に虹彩後方に近接または接していることから,Soemmer-ring輪・虹彩間で房水の通過障害をきたした可能性も考えられる.それにより眼内レンズ後方へのaqueousmisdirec-tionが生じて房水が貯留し,これらが一塊として前方へ偏位していた可能性も考えられた.既報における本症のメカニズムとしては以下が推測されている.Kobayashiら10)は,虹彩の前方弯曲を伴うことから瞳孔ブロックが主因としているが,瞳孔ブロックに効果的なレーザー虹彩切開術のみでは治癒しなかったことは,Soem-merring輪の存在自体が房水の前房への流れを妨げていた可能性があるとしている.松山ら11)は,虹彩根部の圧迫による直接的な隅角閉塞とともに,Soemmerring輪により水晶体.と毛様体の間隙が狭小化しているところに毛様体の前方移動が合併して毛様体ブロックが生じた可能性を示している.UBMでは毛様体の前方移動は認めているが,毛様体扁平化は認めておらず,硝子体腔と前後房の圧較差は高度でない可能性と,毛様体扁平化の所見はなくともaqueousmisdi-rectionの関与する可能性を指摘している.治療としては毛様体ブロックを考慮し,硝子体切除術を行ったが所見の改善が得られず,Soemmerring輪を眼内レンズとともに水晶体.ごと摘出する再手術を行い,改善を得ている.Kungらの報告12)では,虹彩の前方弯曲や眼内レンズの位置異常は認めていない.眼圧は正常であるが,PASが210°あり,UBMで同部位に一致して虹彩後方のSoemmerring輪を認めている.予防的にレーザー虹彩切開術を行っているが2年後に眼圧上昇,全周のPASをきたしていることから,レーザー虹彩切開術では再発の可能性がある.以上から考えると,Soemmerring輪の拡大に伴って,瞳孔ブロック,虹彩根部の後方からの圧排による直接閉塞,毛様体ブロックなど,症例ごとにさまざまなメカニズムによって閉塞隅角が生ずる可能性があり,また混在している可能性を考えることが必要である.したがって,本症に対する治療は,個々の症例におけるメカニズムの差を考慮して選択されることが必要と考えられる.しかし,本症ではSoemmerring輪の容積が増大することが,いずれのメカニズムにもかかわっていると考えられることから,もっとも有効な治療方法はSoemmerring輪を除去,少なくとも容積を減らすことである.一方,今回の2症例ではいずれも眼内レンズと水晶体.は温存されており,Soemmerring輪も容積は減少したとはいえ残存している.水晶体上皮細胞が増殖することで再度,容積が増大し,本症が再発する可能性はあり,今後も慎重に経過観察することが必要である.Soemmering輪を伴う続発閉塞隅角症の2例を報告した.まれではあるが,通常に行われているPEA+IOLであっても,長期経過後に浅前房と閉塞隅角を発症した場合には,本症の可能性を考慮することが必要である.Soemmering輪の容積が増大することが本症の主因と考えられるが,付随してさまざまな隅角閉塞のメカニズムが関与している可能性がある.細隙顕微鏡検査による所見とともに,前眼部OCT,UBMといった画像解析装置による詳細な観察が,各症例におけるメカニズムの判定と治療方法の選択に有用である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)黒坂大次郎:後発白内障(総説).日眼会誌115:659-671,20112)KappelhofJP,VrensenGF,deJongPTetal:TheringofSoemmerringinman:anultrastructuralstudy.GraefesArchClinExpOphthalmol225:77-83,19873)KappelhofJP,VrensenGF,deJongPTetal:Anultra-structuralstudyofElschnig’spearlsinthepseudophakiceye.AmJOphthalmol101:58-69,19864)MiyakeK,OtaI,MiyakeSetal:Lique.edaftercataract:acomplicationofcontinuouscurvilinearcapsulorhexisandintraocularlensimplantationinthelenscapsule.AmJOphthalmol125:429-435,19985)綾木雅彦,邱信男:眼内レンズ挿入家兎眼にみられる後発白内障の病理組織学的研究.日眼会誌94:514-515,19906)LiuE,ColeS,WernerLetal:Pathologicevidenceofpseudoexfoliationincasesofin-the-bagintraocularlenssubluxationordislocateion.JCataractRefractSurg41:929-935,20157)GimbelHV,VenkataramanA:Secondaryin-the-bagintraocularlensimplantationfollowingremovalofSoem-meringringcontents.JCataractRefractSurg34:1246-1249,20088)矢船伊那子,植木麻里,南政宏ほか:Soemmering’sringにより眼内レンズ偏位をきたした1例.臨眼61:1111-1115,20079)AkalA,GoncuT,YuvaciIetal:PupilocclusionduetoalargedislocatedSoemmeringringinanaphakiceye.IntOphthalmol34:121-124,201310)KobayashiH,HiroseM,KobayashiK:Ultrasoundbiomi-croscopicanalysisofpseudophakicpupillaryblockglauco-mainducedbySoemmering’sring.BrJOphthalmol84:1142-1146,200011)松山加耶子,南野桂三,安藤彰ほか:Soemmering輪による続発閉塞隅角緑内障の1例.あたらしい眼科27:1603-1606,201012)KungY,ParkSC,LiebmannJMetal:Progressivesyn-echialangleclosurefromanenlargingSoemmeringring.ArchOphthalmol129:1631-1632,201113)石澤聡子,黒岩真友美,澤田明ほか:眼圧上昇をきたしたSoemmering輪を伴う液性後発白内障の1例.眼臨紀8:657-660,2015***

Posner-Schlossman症候群に伴う続発緑内障の手術成績

2017年7月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科34(7):1050.1053,2017cPosner-Schlossman症候群に伴う続発緑内障の手術成績榮辰介徳田直人宗正泰成北岡康史高木均聖マリアンナ医科大学眼科学教室SurgeryforSecondaryGlaucomatoPosner-SchlossmanSyndromeShinsukeSakae,NaotoTokuda,YasunariMunemasa,YasushiKitaokaandHitoshiTakagiDepartmentofOphthalmology,StMariannaUniversity,SchoolofMedicine目的:Posner-Schlossman症候群(PSS)に伴う続発緑内障の手術成績について検討する.対象および方法:ぶどう膜炎続発緑内障に対して線維柱帯切除術(LEC)または線維柱帯切開術(LOT)を施行し,術後36カ月以上経過観察可能であった20例22眼を対象とした.原疾患がPSSであった10眼(PS群)と,原疾患のぶどう膜炎が急性前部ぶどう膜炎(acuteanterioruveitis:AAU)であった12眼(AAU群)に分類し,比較検討した.結果:眼圧はPS群で術前34.7±7.1mmHgが術後36カ月で10.0±2.4mmHg,AAU群で術前32.4±6.4mmHgが術後36カ月で11.8±3.8mmHgとなり,両群ともに有意に下降した.術後36カ月における累積生存率はPS群90.0%,AAU群46.9%であった.PS群において,LECを施行した9眼はすべて経過良好であったが,LOTを施行した1眼が再手術を要した.結論:PSSに対する緑内障初回手術としてはLECが望ましい.Subjectsandmethods:Subjectsincluded20patients(22eyes)thatunderwenttrabeculectomy(LEC)ortra-beculotomy(LOT)forsecondaryglaucomatouveitisandcouldbefollowedforatleast36monthspostoperatively.Thesubjectsweredividedinto2groupsforcomparison:agroupwithPSS(PSgroup,10eyes)andagroupwithacuteanterioruveitis(AAUgroup,12eyes).Results:IntraocularpressureinthePSgroupwas34.7±7.1mmHgpreoperativelyand10.0±2.4mmHgat36monthsfollowingsurgery.TherespectivevaluesintheAAUgroupwere32.4±6.4mmHgand11.8±3.8mmHg;thus,eyesinbothgroupsdemonstratedsigni.cantdecreasesinintra-ocularpressure.Thecumulativesurvivalrateat36monthsfollowingsurgerywas90.0%and46.9%inthePSandAAUgroups,respectively.Progresswasfavorableforall9eyesthatunderwentLEC;however,reoperationwasrequiredfor1eyethatunderwentLOT.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(7):1050.1053,2017〕Keywords:Posner-Schlossman症候群,続発緑内障,緑内障手術,ぶどう膜炎.Posner-Schlossmansyndrome,secondaryglaucoma,surgeryforglaucoma,uveitis.はじめにPosner-Schlossman症候群(Posner-Schlossmansyn-drome:PSS)は,PosnerとSchlossmanによって報告1)された片眼性,再発性,発作性の眼圧上昇を伴う虹彩毛様体炎を特徴とする疾患である.自覚症状として霧視,虹輪視,違和感などを生じ,検眼鏡的には軽度の前房内炎症,角膜後面沈着物,虹彩異色などが認められる.発作は自然軽快することもあるが,副腎皮質ステロイド(以下,ステロイド)点眼薬による薬物療法が奏効し,数日から数週間で寛解する.通常,視野異常や視神経障害などの後遺症を残さない比較的良性の疾患と考えられている.しかし実際の臨床では,薬物治療のみでは高眼圧の状態が軽快せず,眼圧コントロール不良な状態が長期間継続し,緑内障性視神経萎縮やそれに伴う視野障害が生じる症例も存在する2.4).そのような場合には眼圧コントロール不良のぶどう膜炎続発緑内障として対応する必要があり,緑内障手術が必要となる場合もある.今回筆者らは,PSSと診断され,その後に緑内障手術が必要になった症例について,術式および術後経過について検討したので報告する.〔別刷請求先〕榮辰介:〒216-8511神奈川県川崎市宮前区菅生2-16-1聖マリアンナ医科大学眼科学教室Reprintrequests:ShinsukeSakae,M.D.,DepartmentofOphthalmology,StMariannaUniversity,SchoolofMedicine,2-16-1Sugao,Miyamae-ku,Kawasaki-shi,Kanagawa216-8511,JAPAN1050(134)0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(134)10500910-1810/17/\100/頁/JCOPYI対象および方法ぶどう膜炎続発緑内障に対して線維柱帯切除術(trabecu-lectomy:LEC)または線維柱帯切開術(trabeculotomy:LOT)を施行し,術後36カ月以上経過観察が可能であった20例22眼(平均年齢53.0±10.1歳)を対象とした.原疾患がPosner-Schlossman症候群であった10例10眼(平均年齢51.8±9.7歳)をPS群とし,原疾患のぶどう膜炎が急性前部ぶどう膜炎(acuteanterioruveitis:AAU)であった10例12眼(平均年齢53.9±10.7歳)をAAU群(コントロール群)として術前後の眼圧と薬剤スコアの推移,累積生存率について比較検討した.両群の詳細については表1に示す.薬剤スコアについては,抗緑内障点眼薬1剤につき1点(緑内障配合点眼薬については2点),炭酸脱水酵素阻害薬内服は2点として計算した.累積生存率については,術後眼圧が2回連続して基準①21mmHg以上または4mmHg未満を記録した時点,もしくは,基準②16mmHg以上または4mmHg未満を記録した時点を死亡と定義とした.基準①②とも再手術になった時点も死亡とした.術後経過観察期間中に抗緑内障点眼薬の追加となった症例も存在するが,その時点では死さらに,PS群については術前後のぶどう膜炎発作回数の変化,角膜内皮細胞密度の患眼と僚眼の比較および術前後の変化についても検討した.PSSと診断した根拠としては,片眼性であり,発作性の肉芽腫性角膜後面沈着物を伴う前房内炎症と,30mmHg以上の眼圧上昇を繰り返すもの,ステロイド点眼薬によく反応し症状の改善を認めるもの,以上の項目を満たしたものとした.PSS続発緑内障に対する緑内障手術の施行基準は,虹彩毛様体炎と一過性眼圧上昇の頻度の増加や,ステロイド点眼薬や抗緑内障点眼薬に対する抵抗性を示し,薬物治療による眼圧コントロールが不良な状態となり,緑内障性視神経障害とそれに伴う視野異常が認められるものとした.II結果図1に各群の術前後の眼圧推移を示す.眼圧はPS群では術前平均34.7±7.1mmHgが術後12カ月で10.0±3.0mmHg,24カ月で9.4±2.5mmHg,36カ月で10.0±2.4mmHg,AAU群で術前32.4±6.4mmHgが術後12カ月で16.1±7.9mmHg,亡として扱わず生存症例とした.表1群別背景PS群AAU群p値症例数(男女比)10(4/6)12(6/6).手術施行時平均年齢(歳)51.8±9.753.9±10.70.6(Mann-WhitneyUtest)術前眼圧(mmHg)34.7±7.132.4±6.40.69(Mann-WhitneyUtest)術前術後術後術後術後術前発作回数(回/年)4.6±1.8..6カ月12カ月24カ月36カ月1.00.80.60.40.20観察期間図1各群の術前後の眼圧推移PS群基準①PS群基準②AAU群基準①AAU群基準②術前術後術後術後術後6カ月12カ月24カ月36カ月0510152025303540観察期間生存期間(カ月)図2各群の術前後の薬剤スコアの推移図3各群の術後累積生存率(135)あたらしい眼科Vol.34,No.7,2017105124カ月で12.3±3.1mmHg,36カ月で11.8±3.8mmHgと,両群ともに術前に比し有意な眼圧下降を示した(対応のあるt検定p<0.01).図2に各群の術前後の薬剤スコア推移を示す.各群ともに術後1カ月目より薬剤スコアが有意に減少した.PS群は,再手術となった1症例を除くすべての症例が術後36カ月の時点で薬剤スコアが0点であったのに対して,AAU群では術後36カ月の時点で1.5±1.2点であり,AAU群では術後抗緑内障点眼薬の併用を要する症例が多く存在した.図3に各群の術後累積生存率を示す.PS群では,基準①,基準②ともに術後36カ月おける累積生存率は90.0%であったが,AAU群については基準①では50.0%(Logranktestp=0.06),基準②では46.9%(Logranktestp=0.05)であり,両基準ともにPS群はAAU群に比し有意差を認めないものの高い累積生存率であった.PS群の緑内障手術術式については,今回対象となった10眼のうち,LECを施行した9眼が経過良好であり,LOTを施行した1眼が再手術を要した.再手術が必要であった症例については,その後LECを施行し,良好な経過が得られた.AAU群については12眼中LECが10眼であり,そのうち3眼においては再手術を要した.LOTを施行した2眼については,1眼は経過良好であったが,もう1眼については再手術を要した.PS群の虹彩毛様体炎発作回数の頻度は術前4.6±1.8回/年が術後0.28±0.4回/年と術後有意な減少を認めた(対応のあるt検定p<0.01).PS群の術前角膜内皮細胞密度は2,111.5±679/mm2であり,僚眼の角膜内皮細胞密度2,722±227/mm2に比し有意に少なくなっていた(対応のあるt検定p=0.04).とくにPS群10眼のうちの5眼は,患眼と僚眼の角膜内皮細胞密度に500/mm2以上の差を認めていた.PS群の術後3年における角膜内皮細胞密度は1,912.2±472/mm2と術前に比し有意差は認めないものの減少傾向を認めた(対応のあるt検定p=0.38).PS群の隅角所見については,全症例Sha.er分類3.4度の開放隅角であり,色素沈着についてはScheie分類IIが8眼,IIIが2眼であり,全症例僚眼に比し色素沈着の程度が少ないという印象はなかった.AAU群についても全症例Sha.er分類3.4度の開放隅角であったが,色素沈着についてはScheie分類IIが8眼,IIIが4眼であった.また,周辺虹彩前癒着(peripheralanteriorsynechia:PAS)が存在した症例が7眼存在したが,いずれも20%以下であった.III考按今回,筆者らはPSSと診断された症例において,経過観察中に観血的緑内障手術が必要となった10症例を経験した.以下PSS続発緑内障に対する治療について考察する.まず,治療にあたり,診断に誤りがないかを確認する必要がある.ぶどう膜炎続発緑内障に対してステロイド点眼薬による治療を行っている間に副作用で眼圧上昇が生じていたという報告2)もあるため注意が必要である.当院でも,Armalyの報告3)を参考に,僚眼に対するステロイド点眼薬への反応を確認することが多いが,今回の対象ではArmalytestを行った3症例においてはすべて陰性であった.当院における発作時の治療は,消炎目的でステロイド点眼薬,高眼圧に対してはプロスタグランジン関連薬を第一選択とし,効果不十分であれば交感神経b遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬の点眼および内服を追加している.40mmHg以上の高眼圧の際には高浸透圧利尿薬の点滴を併用している.プロスタグランジン関連薬は虹彩炎,ぶどう膜炎に対しては慎重投与とされているが,当院ではぶどう膜炎に伴う眼圧上昇の際には強力な眼圧下降作用を期待してステロイド点眼薬または非ステロイド性消炎鎮痛点眼薬と併用することが多い.これらの治療を行っても長期に眼圧コントロールが得られない場合に,緑内障観血的手術を検討する.眼圧上昇が不可逆的になってしまった原因は,炎症が長期に及んだことにより,Schlemm管内壁などの線維柱帯以降にも通過障害が生じているためではないかと予想し,10眼中9眼にLECを行い良好な結果を得た.小俣らは,実際にPSSと診断された症例を病理組織学的に検討した結果,線維柱帯間隙,Sch-lemm管,集合管周囲にマクロファージが認められ,傍Sch-lemm管結合組織は厚く,間隙は細胞外マトリックスで満たされていたと報告している4).つまり,PSS続発緑内障に至るような症例は,炎症の繰り返しにより,集合管付近にまで影響が及んでいる可能性が高いと考える.今回の対象においてLOTを試みたものの,十分な眼圧下降が得られなかった症例もこの事実を支持する結果といえる.森田らもPSS続発緑内障8眼について手術成績を報告しており5),LECを施行した4眼は経過良好であったものの,非穿孔性線維柱帯切除術を行った1眼およびLOTを行った3眼は再手術を要しており,筆者らの結果と近い内容になっている.それに対してChinらはぶどう膜炎続発緑内障に対して360°suturetra-beculotomyが有効であったと報告している6).炎症細胞などにより線維柱帯以降にも閉塞が広範囲に生じていたとしても,一部でも閉塞を免れている部分があれば理論上ではLOTは有効であるため,LECが選択できない場合には360°suturetrabeculotomyは選択肢になりうると考える.またAAU群については,LECを施行した10眼中7眼(70%)は経過良好であったが3眼は再手術を必要とした.ぶどう膜炎続発緑内障は一般的には難治緑内障といわれるため,LEC後も再手術が必要となることもあるが,PS群ではLECを施行した9眼については再手術を要した症例がなかったという(136)ことは実に興味深い事実である.その原因については現時点では確かな根拠はないが,PS群はAAU群よりも線維柱帯やSchlemm管への炎症細胞の浸潤が乏しいためではないかと考える.PSS続発緑内障の患者にLEC施行後,眼圧下降に加え,ぶどう膜炎発作頻度の低下を認めた.それについては,LECが奏効している場合,虹彩毛様体炎の発作が起きたとしても,炎症細胞が濾過胞側に排出されるため眼圧上昇が抑えられる可能性7)があることと,濾過手術により眼圧上昇が抑えられるため患者本人が発作に気づかず,みかけの発作頻度が低下している可能性5)が考えられる.地庵らは8),LEC後に自覚症状を伴わない前房内炎症細胞の増加を認めたとしている.また,檜野らは9),自覚的発作は認められたものの,術後の発作頻度は減少したと報告している.今回の対象でも,再発作は1眼で認められ,20mmHgを超えない眼圧上昇と角膜後面沈着物がみられた.これらの結果やその他の報告を合わせて考えると,術後の濾過胞が機能していれば仮に虹彩毛様体炎が生じても,眼圧上昇が軽度ですむ可能性が高いと考える.また以前より,PSSの原因としてサイトメガロウイルスや単純ヘルペスウイルスの感染10,11)が関与しているという報告がある.最近PSSへの抗サイトメガロウイルス薬(ガンシクロビル)内服治療による改善例12)も認められている.これらの症例では角膜内皮炎を併発していることも報告されており,PSS続発緑内障術後については,とくに角膜内皮細胞密度の推移は今後も確認していく必要があると考える.今回の検討においても角膜内皮細胞密度が僚眼より500/mm2以上も少ない症例が5眼認められたが,これらについては角膜内皮炎を併発していた可能性も考慮して対応する必要があったと考える.これらのことを踏まえて今後は,眼圧コントロール不良もしくは発作を頻発する難治性のPSSについては,術前後の前房水の成分分析や,濾過胞形状解析,角膜内皮細胞密度の経過観察など,さらなる検討が必要と考える.以上より,PSS続発緑内障に対する手術治療を中心に検討した.薬物治療で眼圧降下が得られず,視野障害や視神経障害が発症するような症例については積極的にLECを施行することが必要と考える.今回の検討は,診療録による後ろ向き検討であることや,治療前に前房水のウイルス検索などを行っていないため,今後はさらに症例数を増やし,PSSの原因についても検討すべきと考える.文献1)PosnerA,SchlossmanA:Syndromeofunilateralrecur-rentattacksofglaucomawithcycliticsymptoms.ArchOphthalmol39:517-535,19482)崎元晋,大鳥安正,岡田正喜ほか:ステロイド緑内障を合併したPosner-Schlossman症候群の2症例.眼紀56:640-644,20053)ArmalyMF:Statisticalattributesofthesteroidhyper-tensiveresponseintheclinicallynormaleye.Thedemon-strationofthreelevelsofresponse.InvestOphthalmol4:187-197,19654)小俣貴靖,濱中輝彦:Posner-Schlossman症候群における線維柱帯の病理組織学的検討─眼圧上昇の原因についての検討─.あたらしい眼科24:825-830,20075)森田裕,野崎実穂,高瀬綾恵ほか:Posner-Schlossman症候群に対する緑内障手術.あたらしい眼科28:891-894,20116)ChinS,NittaT,ShinmeiYetal:Reductionofintraocularpressureusingamodi.ed360-degreesuturetrabeculoto-mytechniqueinprimaryandsecondaryopen-angleglau-coma.apilotstudy.JGlaucoma21:401-407,20127)KassMA,BeckerB,KolkerAE:Glaucomatocycliticcrisisandprimaryopen-angleglaucoma.AmJOphthalmol75:668-673,19738)地庵浩司,塚本秀利,岡田康志ほか:緑内障手術を行ったPosner-Schlossman症候群の3例.眼紀53:391-394,20029)檜野亜矢子,前田秀高,中村誠:手術治療を要したポスナー・シュロスマン症候群の3例.臨眼54:675-679,200010)Bloch-MichelE,DussaixE,CerquetiPetal:PossibleroleofcytomegalovirusinfectionintheetiologyofthePosner-Schlossmannsyndrome.IntOphthalmol96:1195-1196,198711)YamamotoS,Pavan-LangstonD,TadaRetal:PossibleroleofherpessimplexvirusintheoriginofPosner-Schlossmansyndrome.AmJOphthalmol119:796-798,199512)SobolewskaB,DeuterC,DoychevaDetal:Long-termoraltherapywithvalganciclovirinpatientswithPosner-Schlossmansyndrome.GraefesArchClinExpOphthalmol252:117-24,2014***(137)あたらしい眼科Vol.34,No.7,20171053

後部ぶどう腫を合併した原発閉塞隅角症疑いの1例

2017年7月31日 月曜日

《第27回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科34(7):1046.1049,2017c後部ぶどう腫を合併した原発閉塞隅角症疑いの1例石崎典彦*1米本由美子*1山田哉子*1家久耒啓吾*1池田恒彦*2*1八尾徳州会総合病院眼科*2大阪医科大学眼科学教室ACaseofPrimaryAngleClosureSuspectwithPosteriorStaphylomaNorihikoIshizaki1),YumikoYonemoto1),KanakoYamada1),KeigoKakurai1)andTsunehikoIkeda2)1)DepartmentofOphthalmology,YaoTokushukaiGeneralHospital,2)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege緒言:原発閉塞隅角症(PAC),原発閉塞隅角症疑い(PACS),原発閉塞隅角緑内障(PACG)においては,短眼軸長,遠視が多くみられる.長眼軸長,強度近視を合併したPACSの症例を報告する.症例:66歳,女性.矯正視力は右眼0.03×sph.9.0D(cyl.3.0DAx140°,左眼0.4p×sph+2.5D,眼圧は右眼13mmHg,左眼14mmHg.両眼ともに狭隅角であったが,周辺虹彩前癒着は認めなかった.視神経乳頭に緑内障性変化を認めなかった.両眼のPACSと診断した.眼軸長は右眼26.12mm,左眼21.76mmだった.超音波検査により右眼に後部ぶどう腫を認めた.両眼にレーザー虹彩切開術を施行し,隅角の開大を認めた.結論:PACSにおいて強度近視を認める場合には,後部ぶどう腫を合併している可能性がある.Purpose:Hyperopiaandshortaxiallengtharefrequentlyobservedincasesofprimaryangleclosure(PAC),primaryangleclosuresuspect(PACS)andprimaryangle-closureglaucoma(PACG).WereportacaseofPACSwithhighmyopiaandlongaxiallength.Case:Thisstudyinvolveda66-year-oldfemalewithcorrectedvisualacuityof0.03withS.9.0D(cyl.3.0DAx140°ODand0.4partialwithS+2.5DOS;intraocularpressurewas13mmHgODand14mmHgOS.Bilaterally,heranglewasnarrowbutnotrecognizedasperipheralanteriorsyn-echia,andheropticnerveheadsshowednoglaucomatouschange.WethereforediagnosedPACS.Axiallengthwas26.12mmODand21.76mmOS.Ultrasonicexaminationreveledposteriorstaphylomainherrighteye.Wesubse-quentlyperformedlaseriridotomytoreleasetheangleclosure.Conclusions:PACSwithhighmyopiamaypresentwithposteriorstaphyloma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(7):1046.1049,2017〕Keywords:閉塞隅角,近視,後部ぶどう腫,眼軸長.angleclosure,myopia,posteriorstaphyloma,axiallength.はじめに原発閉塞隅角症(primaryangleclosure:PAC),原発閉塞隅角症疑い(primaryangleclosuresuspect:PACS),原発閉塞隅角緑内障(primaryangleclosureglaucoma:PACG)の危険因子としては女性,加齢,浅い中心前房深度,短眼軸長,遠視などの報告1)があり,PACS,PAC,PACGに遠視眼,短眼軸長は多くみられる.一方で,近視眼でもPACS,PAC,PACGはみられるが,比較的頻度は少ない.Barkanaら2)は続発性も含めた閉塞隅角において,.6D以上の強度近視眼が0.1%あったと報告している.Chakravartiら3)はPAC,PACS,PACGにおいて,.5D以上の強度近視眼が2%あったと報告している.今回,筆者らは後部ぶどう腫による長眼軸長,強度近視を合併したPACSを経験したので報告する.I症例と経過患者:66歳,女性.既往歴:53歳時から糖尿病(HbA1c9.8%4年間8.11%で推移),63歳時から重症筋無力症に対して治療中だった.10歳頃に花火により右眼を受傷してから,右眼の視力が不良だった.現病歴:約1年前から左眼視力低下を自覚しており,近医を受診した.左眼に糖尿病黄斑浮腫を認め,2016年1月に精査,加療目的に八尾徳州会総合病院眼科紹介となった.〔別刷請求先〕石崎典彦:〒581-0011大阪府八尾市若草町1-17八尾徳州会総合病院眼科Reprintrequests:NorihikoIshizaki,DepartmentofOphthalmology,YaoTokushukaiGeneralHospital,1-17Wakakusachou,Yao-shi,Osaka581-0011,JAPAN1046(130)図1前眼部写真(初診2カ月後,右眼はレーザー虹彩切開後)両眼ともに中心前房深度が浅い.図2眼底写真(初診9カ月後)両眼ともに網膜出血,軟性白斑,硬性白斑を認める.右眼は後部ぶどう腫,網脈絡膜萎縮を認める.初診時所見:視力は右眼0.01(0.03×sph.9.0D(cyl.3.0DAx140°),左眼0.2(0.4p×sph+2.5D).眼圧は右眼13mmHg,左眼14mmHg.前眼部所見は両眼ともに角膜は清明,中心前房深度,周辺前房深度が浅かった(図1).中間透光体所見は両眼ともに軽度の白内障を認めた.眼底は両眼ともに硬性白斑,軟性白斑,網膜出血を認め,右眼の後極に網脈絡膜萎縮,後部ぶどう腫を認めた(図2).視神経乳頭に緑内障性変化を認めなかった.眼位は近見16Δ外斜視,遠見40Δ外斜視だった.検査所見:角膜は両眼ともに横径11mm,縦径11mm,平均角膜曲率半径は右眼7.56mm(44.75D),左眼7.64mm(44.25D)であった.隅角検査では両眼ともに第一眼位において全方向で毛様体帯が観察できず,Scheie分類GradeIVだったが,周辺虹彩前癒着は認めなかった.前眼部観察用アダプタを使用した光干渉断層像(opticalcoherencetomogra-phy:OCT)では両眼ともに狭隅角が観察された(図3a,b).光干渉式眼軸長測定装置により,中心前房深度は右眼2.34mm,左眼は自動測定が不能だったが,右眼と同程度,眼軸長は右眼26.12mm,左眼21.76mmだった.Aモード超音波検査により,眼軸長は右眼25.93mm,左眼21.27mm,中心前房深度は右眼2.30mm,左眼1.95mm,水晶体厚は右眼5.10mm,左眼4.97mmだった.Bモード超音波検査により,右眼は後部ぶどう腫を認め,左眼はとくに所見を認めなかった(図4).黄斑部のOCTでは両眼に硬性白斑,左眼に滲出性網膜.離,黄斑浮腫を認めた.経過:所見,検査結果から,両眼糖尿病網膜症,左眼糖尿病黄斑浮腫,両眼PACS,右眼後部ぶどう腫と診断した.初診から1週間後に,左眼糖尿病黄斑浮腫に対してトリアムシノロンアセトニド水性懸濁注射液のTenon.下注射を施行し,黄斑浮腫は軽減した.糖尿病網膜症を管理する目的で散瞳検査を行う必要性があったが,散瞳により急性にPAC,PACGを生じる危険性があったため,2016年2月に右眼に図3耳側の隅角前眼部観察用アダプタを使用した光干渉断層像a:右眼レーザー虹彩切開術(laseriridotomy:LI)前,b:左眼LI前,c:右眼LI後,d:左眼LI後.両眼ともLI後に隅角の開大を認める.図4右眼B.mode超音波検査a:右眼水平断,b:右眼矢状断.後部ぶどう腫を認める..は後部ぶどう腫縁を示す.対して,3月に左眼に対して,レーザー虹彩切開術(laseriridotomy:LI)を施行した.術後,検眼鏡,OCTにより両眼ともに隅角の開大を認めた(図3c,d).頭痛の精査で撮影した頭部の磁気共鳴画像(magneticresonanceimaging:MRI)でも右眼の後部ぶどう腫を認めた(図5).2016年7月にフルオレセイン蛍光眼底検査を施行し,両眼ともに広範囲に無灌流域を認めたため,汎網膜光凝固術を施行し,経過観察を行っている.散瞳を行っても隅角閉塞は認めず,眼圧は両眼ともに11.12mmHgと正常範囲で経過している.II考察閉塞隅角の機序としては,原発性と続発性があり,前者には相対的瞳孔ブロック,プラトー虹彩形状,水晶体因子,毛様体因子,後者には瞳孔ブロック,虹彩-水晶体前方移動,水晶体より後方組織の前方移動などがあげられる4).近視の図5頭部の核磁気共鳴画像(T1強調画像)右眼に後部ぶどう腫を認める..は後部ぶどう腫縁を示す.機序としては角膜屈折率上昇,水晶体前方移動による前房深度の変化,水晶体屈折率上昇,長眼軸長などがあげられる5).これら閉塞隅角,近視の機序が併存すると,強度近視眼に閉塞隅角が認められることがあり,Vogt-小柳-原田病,水晶体亜脱臼,球状水晶体などがあげられる.Vogt-小柳-原田病6,7)では毛様体浮腫により水晶体が前方移動し,近視化,瞳孔ブロック,虹彩-水晶体前方移動による続発緑内障をきたすことがある.水晶体亜脱臼では,水晶体が前方移動により近視化,瞳孔ブロック,虹彩-水晶体前方移動による続発緑内障をきたすことがある.球状水晶体8)では,水晶体の屈折異常から近視化,毛様小帯の脆弱性と水晶体前面の小さな曲率半径に伴って,虹彩-水晶体前方移動と瞳孔ブロックによる続発緑内障をきたすことがある.本症例は両眼ともにレーザー虹彩切開術により隅角が開大したことから相対的瞳孔ブロックや,水晶体厚が5mm程度と厚いことから水晶体因子などが関与したPACSと考えられた.さらに右眼は角膜曲率半径,水晶体形状が正常範囲で進行した核性白内障がないこと,およびA-mode,B-mode超音波検査,頭部MRIから後部ぶどう腫に伴う長眼軸長,強度近視と考えられた.後部ぶどう腫は眼球後部に存在する異なった曲率の突出と定義9)され,硝子体腔長が延長する.右眼は外傷の既往が関与したかは不明だが,後天的に後極を中心に後部ぶどう腫を生じ,硝子体腔長,眼軸長が延長したと推測された.後部ぶどう腫は前眼部の形態に大きく影響しないため,左眼と同様に右眼もPACSとなっていたと考えられた.Yongら10)は強度近視のPACは硝子体腔長が有意に長いと報告しており,後部ぶどう腫の存在の可能性を推測していた.本症例はその推測に一致する.後部ぶどう腫は一般的には検眼鏡的に診断される.本症例のLI前のように散瞳できない場合などは,超音波検査や光干渉式眼軸長測定装置,コンピュータ断層撮影(computedtomography:CT),MRIによる後部ぶどう腫の検出が有用である.A-mode超音波検査や光干渉式眼軸長測定装置は固視不良や後部ぶどう腫の位置により眼軸長の誤差を生じうること,および後部ぶどう腫がない強度近視と鑑別困難であることから,B-mode超音波検査やCT,MRIにより後部ぶどう腫を検出することがより診断に有用である.本症例では,B-mode超音波検査が非侵襲的かつ迅速に検査可能であり,とくに有用だった.本症例のようにPACSに強度近視を認める場合は,後部ぶどう腫が存在することがあると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)SawaguchiS,SakaiH,IwaseAetal:Prevalenceofpri-maryangleclosureandprimaryangle-closureglaucomainasouthwesternruralpopulationofJapan:theKumeji-maStudy.Ophthalmology119:1134-1142,20122)BarkanaY,ShihadehW,OliveiraCetal:Angleclosureinhighlymyopiceyes.Ophthalmology113:247-254,20063)ChakravartiT,SpeathGL:Theprevalenceofmyopiaineyeswithangleclosure.JGlaucoma6:642-643,20074)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン第3版第2章緑内障の分類.日眼会誌116:15-18,20115)所敬:第I章総論4.眼屈折要素とその相関.近視臨床と基礎(所敬,大野京子編),p16-23,金原出版,20126)八田正幸,熊谷愛子,武田博子ほか:早期に眼圧上昇がみられた原田氏病の1例.臨眼22:721-725,19687)富森征一郎,宇山昌延:浅前房と急性一過性近視を初発症状とした原田病の1例.臨眼31:1271-1273,19778)BakerRL,AndersonMM:Spherophakia:acasereport.AmJOphthalmol54:716-720,19779)SpaideRF:Staphyloma:PartI.In:PathologicMyopia,SpaidRF,Ohno-MatsuiK,YannuzziLA,eds.p167-176,Springer,NewYork,201310)YongKL,GongT,NongpiurMEetal:Myopiainasiansubjectswithprimaryangleclosure:implicationsforglaucomatrendsinEastAsia.Ophthalmology121:1566-1571,2014***

緑内障患者の視覚障害による身体障害者手帳申請の実態調査(2015 年版)

2017年7月31日 月曜日

《第27回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科34(7):1042.1045,2017c緑内障患者の視覚障害による身体障害者手帳申請の実態調査(2015年版)比嘉利沙子*1井上賢治*1永井瑞希*1塩川美菜子*1鶴岡三恵子*1岡山良子*1井上順治*2堀貞夫*2石田恭子*3富田剛司*3*1井上眼科病院*2西葛西・井上眼科病院*3東邦大学医療センター大橋病院眼科InvestigationofGlaucomaPatientsWhoAppliedforPhysicalDisabilityCerti.cateduringtheYear2015RisakoHiga1),KenjiInoue1),MizukiNagai1),MinakoShiokawa1),MiekoTsuruoka1),RyokoOkayama1),JunjiInoue2),SadaoHori2),KyokoIshida3)andGojiTomita3)1)InouyeEyeHospital,2)Nishikasai-InouyeEyeHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter井上眼科病院および西葛西・井上眼科病院に外来通院中の緑内障患者で,2015年1.12月に視覚障害による身体障害者手帳の申請を行った61例(男性32例,女性29例)を後ろ向きに調査した.年齢は,80歳代が23例(38%)と最多で,70歳代が18例(29%),60歳代が15例(24%)であった.等級は,1級が14例(23%),2級が29例(47%)であり,両者で全体の70%を占めていた.病型では,原発緑内障が44例(開放隅角緑内障33例,正常眼圧緑内障7例,閉塞隅角緑内障4例)(72%),続発緑内障が16例(ぶどう膜炎6例,落屑緑内障5例,血管新生緑内障4例,虹彩角膜内皮症候群1例)(26%),発達緑内障が1例(2%)で,開放隅角緑内障が全体の54%で最多であった.視力障害と視野障害を重複申請した症例は25例であった.2005年および2012年の調査と比較し,緑内障病型,障害等級に変化はなかった.Weretrospectivelyinvestigated61patients(32male,29female)withglaucomatreatedatInouyeEyeHospitalandNishikasaiInouyeEyeHospital,whoappliedforphysicaldisabilitycerti.catesbetweenJanuaryandDecember2015.Patientsintheir80snumbered23cases(38%),intheir70s18cases(9%),andintheir60s15cases(24%).Astograde,.rstgrade(14cases,23%)andsecondgrade(29cases,47%)accountedfor70%ofthetotal.Glauco-matypeincludedprimaryglaucoma(44cases;72%),secondaryglaucoma(16cases,26%)anddevelopmentalglaucoma(1case;2%).Primaryopen-angleglaucomawasthemostfrequentglaucomatype(54%).Atotalof25patientsappliedfordouble-disordercerti.cates.Glaucomatypeandgradewerenotdi.erentbetweenresultsat2005and2012.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(7):1042.1045,2017〕Keywords:緑内障,視覚障害,身体障害者手帳,視野障害,等級.glaucoma,visualimpairement,physicallydis-abilitycerti.cate,visual.elddisturbance,grade.はじめに上眼科病院グループで行っている視覚障害による身体障害者現在,わが国における視覚障害者の原因疾患の第1位は緑手帳申請の実態調査2.5)で,緑内障は上位を占めていた(表内障である1).地域や施設の特徴により,身体障害者手帳申1).しかし,緑内障患者の身体障害者手帳申請の詳細を検討請の原因疾患が異なる可能性は否めないが,2005年から井した報告は少ない6.8).今回,視覚障害による身体障害者手〔別刷請求先〕比嘉利沙子:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:RisakoHiga,M.D.,Ph.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda,Tokyo101-0062,JAPAN1042(126)0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(126)10420910-1810/17/\100/頁/JCOPY表1井上眼科病院グループにおける視覚障害の身体障害者手帳申請の原因疾患2005年2)2009年3)2012年4)2015年5)1位緑内障23%網膜色素変性症28%緑内障31%緑内障29%2位網膜色素変性症17%緑内障23%網膜色素変性症17%網膜色素変性症18%3位黄斑変性13%黄斑変性12%黄斑変性11%黄斑変性15%(%)602015年:61例5150384034302010312030代40代50代60代70代80代90代図1年齢分布帳取得申請を行った緑内障患者について検討した.I対象および方法井上眼科病院および西葛西・井上眼科病院に外来通院中の緑内障患者で,2015年1.12月に視覚障害による身体障害者手帳の申請を行った61例(男性32例,女性29例)を対象とした.年齢は74.2±10.3歳(平均値±標準偏差),33.90歳であった.実態調査は,身体障害者診断書,意見書の控えおよび診療記録をもとに後ろ向きに行った.検討項目は,1)年齢分布,2)等級の内訳,3)緑内障の病型,4)重複申請の内訳である.視覚障害は,視力障害と視野障害に区分して認定されるが,両障害が等級に該当する場合は重複申請が可能である.1)から3)の項目については,2005年および2012年に行った井上眼科病院グループの実態調査結果7,8)と比較した.ただし,2005年は,井上眼科病院のみを対象としているため,症例数が少なくなっている.統計学的解析には,c2検定を用い,有意水準はp<0.05とした.II結果1.年.齢.分.布年齢は,80歳代が23例(38%)と最多で,70歳代が18例(29%),60歳代が15例(24%)であった.その他の年代では,50歳代が3例(5%),90歳代,30歳代が各1例(2%)であった.2012年の調査では,同様に80歳代が最多で25例(34%),70歳代が22例(30%),60歳代が16例(22%)の順であった.2005年では,70歳代が最多で18例(51(%)1006級52805級4級603級402級1級2002005年2012年2015年図2等級の内訳%),60歳代が9例(26%),80歳代が5例(14%)の順であった(図1).2.等級の内訳1級が14例(23%),2級が29例(47%)で,両等級を合わせると全体の70%を占めていた.2005年,2012年と比較し,統計学的有意差はなかった(c2検定,p=0.882)(図2).3.緑内障の病型緑内障の病型は,原発緑内障が44例(72%),続発緑内障が16例(26%),発達緑内障が1例(2%)であった.原発緑内障では,開放隅角緑内障(POAG)が33例(54%),正常眼圧緑内障(NTG)が7例(11%),閉塞隅角緑内障(PACG)が4例(7%)を占めていた.続発緑内障の原因疾患は,ぶどう膜炎が6例(10%),落屑緑内障が5例(8%),血管新生緑内障が4例(6%),虹彩角膜内皮症候群が1例(2%)であった.2005年,2012年の調査でも,同様に開放隅角緑内障が最多(43,63%)で,統計学的有意差はなかった(c2検定,p=0.763)(図3).4.重複障害申請の内訳申請は,視力障害のみが20例(33%),視野障害のみが16例(26%),重複申請を行った症例が25例(41%)であった.重複申請を行った25例のうち,視野障害が視力障害より上位等級であった症例は18例(72%),視力障害が上位等級であった症例は3例(12%),両者が同等の等級であった症例は4例(16%)であった.重複申請により,4例が上位等級に認定された(図4).(127)あたらしい眼科Vol.34,No.7,20171043【2005年】白内障術後3%n=35血管新生3%外傷3%落屑ぶどう膜炎PACGPOAGNTG(%)【2012年】血管新生3%n=73落屑ぶどう膜炎PACGPOAGNTG(%)【2015年】ICE症候群2%n=61血管新生発達2%落屑ぶどう膜炎POAGPACGNTG(%)図3緑内障の病型III考按視覚障害を米国の基準に従い9),良いほうの目の矯正視力0.02以上0.3未満のロービジョンと0.01以下の失明の両者とすると,2007年現在,日本の視覚障害者数は約164万人,約19万人弱が失明と推定されている1).さらに,視覚障害者の有病率は2007年では1.3%であったが,2030年では2.0%(約200万人)に増加することが予測されている1).緑内障患者に限定した今回の調査では,手帳申請者は70歳代以上が67%,60歳代以上では91%を占めていた.同調査における年齢(平均値±標準偏差)の推移は,2005年は72.1±9.3歳7),2012年は72.4±12.5歳8),2015年は74.2±10.3歳であった.年代別のピークは,2005年では70歳代であったが,2012年と2015年では80歳代であった(図1).症例数の差もあり単純に比較することはできないが,社会の高齢化に伴い,手帳申請も高齢者が増えると予想される.n=61視野障害の等級無54327241311111213648214123456無視力障害の等級図4各症例における視力障害と視野障害の等級数字は症例数を示した.黒の塗りつぶしは,重複申請により上位等級に認定された症例を示した.病型においては,原発緑内障が約3/4に対し,続発緑内障が約1/4を占めていた.過去の調査においても,同様の割合であり,全体としては開放隅角緑内障(POAG)が最多であった.また,TajimiStudyでは,続発緑内障の有病率は0.5%と報告されているが10),身体障害者では続発緑内障の割合が多かった.同じ病型でも症例ごとで重症度は異なるが,続発緑内障では重症例が多いことが示唆された.既報と比較して病型に関しては目立った変化はみられなかった(図2).身体障害者福祉法の障害等級判定には,問題点も指摘されている.視力に関しては,左右の単純加算による妥当性,視野に関しては,半盲と10°以内の求心性狭窄の評価の妥当性などがあげられる.また,手帳交付までの流れは都道府県により多少異なる.東京都においては,東京都心身障害者福祉センターに交付申請進達される診断書は年間約1,200件であり,障害認定課障害者手帳係で手帳交付が決定されるのは600件弱とされている.残りの約半数は,センター指定医の書類判定となるが,そのうち80%が視野に関する問題であり,疾患では,とくに緑内障が問題にあげられている11).視野障害2.4級では,「ゴールドマン視野検査のI/4イソプターが10度以内」と規定がある.1995年に視覚障害認定基準が改訂され,末期の緑内障患者の視野障害は該当しやすくなった.本実態調査では,2級が最多で,3級と4級に該当する症例がなかったのは,判定基準が影響している可能性がある.各疾患の重症度に合わせて等級が判定されるべきであるが,現状では疾患によって重症度と等級が一致していない場合もあり,緑内障の視野障害の評価は依然として困難をきわめる.一方で,今回の調査では,重複申請により上位等級に認定された症例が4例(16%)あった.緑内障という疾患の特徴上,手帳申請においては,視野障害の判定は重要な要素である.本実態調査では,井上眼科病院グループに通院している緑(128)内障患者数が正確に算定できないため,緑内障患者のうち身体障害者手帳を申請した割合が明確にできず,調査の限界があった.失明予防は,われわれ医療従事者の責務であるが,高齢社会により,身体障害者手帳申請者の増加および高齢化が予想される.また,身体障害者手帳の申請により,各福祉サービスや公的援助が受けられるが,実際にロービジョンケアに結びついているか否かの実態調査も今後は必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)山田昌和:視覚障害の疾病負担本邦の視覚障害の現状と将来.日本の眼科80:1005-1009,20092)引田俊一,井上賢治,南雲幹ほか:井上眼科病院における身体障害者手帳の申請.臨眼61:1685-1688,20073)岡田二葉,鶴岡三恵子,井上賢治ほか:眼科病院における視覚障害者手帳申請者の疾患別特徴(2009年).眼臨紀4:1048-1053,20114)井上順治,鶴岡三恵子,堀貞夫ほか:眼科病院における視覚障害による身体障害者手帳の申請者の現況(2012年)─過去の調査との比較.眼臨紀7:515-520,20145)井上賢治,鶴岡三恵子,岡山良子ほか:眼科病院における視覚障害による身体障害者手帳申請者の現況(2015年)─過去の調査との比較.眼臨紀10:380-385,20176)武居敦英,平塚義宗,藤巻拓郎ほか:最近10年間に身体障害者手帳を申請した緑内障患者の背景の検討─順天堂大学と江東病院の症例から─.あたらしい眼科22:965-968,20057)久保若菜,中村秋穂,石井祐子ほか:緑内障患者の身体障害者手帳の申請.臨眼61:1007-1011,20078)瀬戸川章,井上賢治,添田尚一ほか:身体障害者手帳申請を行った緑内障患者の検討(2012年版).あたらしい眼科37:1029-1032,20149)ColenbranderA:Thevisualsystem.Chapter12inGuidestotheEvaluationofPermanentImpairment,6thedition(RodinelliReds),AmericanMedicalAssociationpublications,p281-319,UnitedStatesofAmerica,200810)YamamotoT,IwaseA,AraieMetal:TheTajimiStudyreport2:prevalenceofprimaryangleclousureandsec-ondaryglaucomainaJapanesepopulation.Ophthalmology112:1661-1669,200511)久保田伸枝:現状の身体障害者認定基準に基づく視野判定.日本の眼科84:1584-1595,2013***(129)あたらしい眼科Vol.34,No.7,20171045