●連載◯287監修=稗田牧神谷和孝287.角膜インレイ眼の白内障手術荒井宏幸みなとみらいアイクリニック老視用角膜インレイであるCKAMRAは,国内での挿入眼数はC13,000眼以上と考えられ,白内障手術が必要となる患者は増加傾向にある.単焦点レンズがよい適応であり,度数計算はCLASIK後の計算式に準じるが,僚眼の計算結果を参考に決定すると大きな誤差は生じない.手術手技としての難易度はそれほど高くない.●老視矯正用角膜インレイ2005年からC2013年頃までの期間,世界的にはC3種類の老視用角膜インレイが使用されていた.もっとも普及したのはCKAMRA(AcuFocus社)であるが,その他にもCVue+(ReVisionOptics社)やCFlexivueCMicrons(Presbia社)などがある.国内ではCKAMRAが主として導入され,2012年に約C4,500眼への手術が行われるなど,総件数ではC13,000件以上に挿入されていると思われる(図1).施術にはフェムトセカンドレーザーが必要なことや,多焦点眼内レンズの性能が向上し普及が進んだことから,現在では老視用角膜インレイ自体を使用する機会がほとんどなくなった.本稿ではCKAMRA挿入眼に対しての白内障手術について述べる.C●多焦点眼内レンズを希望する患者はCKAMRAを挿入した時点において,老視を手術的に改善したいというモチベーションをもっているため,白内障手術の眼内レンズ選択においても,多くは多焦点レンズを希望する.両眼の手術を予定する場合,僚眼は多焦点眼内レンズを選択してもよい.ただし,両眼ともClaserCinCsitukeratomileusis(LASIK)を施行していることが多いため,眼内レンズ度数計算は慎重に行う必要がある.KAMRA挿入眼に対しては単焦点レンズがよい適応であり,ピンホール効果によって焦点深度拡張(expandedCdepthCoffocus:EDoF)効果が発現するであろう.C●KAMRAは残すか抜去するかもっとも議論される点であるが,基本的にCKAMRA挿入直後から問題なく視力が良好であり,遠方から中間・近方までが見えていたという場合には,すでにピンホールによるCEDoF効果が獲得できているということである.この場合には,単焦点眼内レンズで白内障以前の透明性を確保すれば,EDoF効果はそのまま継承され(53)C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY4,5145,0003,7224,0002,5753,0002,0001,40618920092010201120122013591201421520158820161,0002302017図1KAMRAの国内での施術件数の推移(筆者調べ)2012年をピークに急速に減少している.国内での挿入数は13,000眼以上になると考えられる.る.重要なポイントは角膜中心部の透明性である.角膜インレイにおいてもっとも問題となるのは,角膜上皮細胞の栄養障害と角膜実質層のChazeである.KAMRAの中央部分の角膜にChazeが認められた場合には,視力障害の主因が白内障ではない可能性がある.その場合にはKAMRAの抜去を考慮する.抜去後にもChazeは残存するため,半年~1年程度は低濃度ステロイド点眼にてhazeの消退を待ってから白内障手術を予定するとよいであろう(図2).この場合も多焦点眼内レンズではなく,単焦点眼内レンズが適切であると考える.角膜中心部が清明であれば,KAMRAはそのまま留置し,単焦点レンズを選択しCEDoF効果を期待する.C●度数計算はむずかしいKAMRA挿入術を受ける際に,両眼のCLASIKを施行していることがほとんどであるので,両眼の角膜形状解析を行う.僚眼(KAMRA未挿入)を観察して,施行されているCLASIKが近視矯正か遠視矯正かを確認する.行われているCLASIKの種類により,眼内レンズの度数計算式が異なるため,適合する計算式にて算出する.その際,必ず僚眼の計算も行い,KAMRA挿入眼との眼内レンズ度数差を確認する.KAMRA挿入時のCLASIKあたらしい眼科Vol.41,No.4,2024419図2KAMRA挿入眼における角膜混濁の違い(右図は抜去後)多くの場合は左図のように角膜中心部は清明であるが,右図のようにChazeを伴う場合もあり,白内障手術の適応に関して注意が必要である.表1筆者の直近5症例の結果症例CNo.既往CLASIK術前度数挿入CIOL度数術後等価球面度数正解だったIOL度数僚眼の正規IOL度数C1遠視CLASIK+1.25+21.0C.0.75+21.0+21.0C2近視CLASIKC.6.0+17.5C.0.50+17.0+20.5C3近視CLASIKC.2.5+18.5+2.50+22.0+21.5C4近視CLASIK+18.5C.1.0+18.0+20.0C5遠視CLASIK+2.50+16.5+3.50+21.0+21.0術後の屈折度数から正視となる眼内レンズ(IOL)度数を計算した結果と,僚眼の計算結果を示す.僚眼の結果は度数決定の参考となるが,No.2症例のように大きく異なる場合もあるため注意が必要である.は,僚眼は正視に,インレイ挿入眼はC.0.5D程度の近視に設定するため,もし術前の屈折誤差が同程度であった場合には,選択される眼内レンズ度数にも大きな差は出ないはずである.筆者が経験した直近のC5症例における結果および僚眼の計算結果を表1に示す.SRK-T式の成績がよかったという報告はあるが,n数が少ないため参考値であろう1,2).また,KAMRAにはピンホール効果があるため,度数計算の誤差にはある程度の許容範囲があり,通常のCLASIK後の計算よりも厳格に検討する必要はない.ピンホール効果による乱視矯正が機能するため,1.5D程度までの乱視矯正効果がある.そしてほとんどの患者がCKAMRA挿入時のCLASIKにより乱視矯正がなされているため,乱視用眼内レンズは選択する機会は少ないであろう.C●白内障手術手技細隙灯顕微鏡による観察の印象では,白内障手術時における困難さを感じる可能性があるが,実際に手術用顕C420あたらしい眼科Vol.41,No.4,2024図3KAMRA挿入眼に対する白内障手術の術中写真KAMRAによる術野の隠蔽率はそれほど大きくなく,熟練した術者であれば問題なく手術を完遂できる.微鏡で観察すると,大きな障害とはならない感覚が得られるであろう.眼球を傾斜させながらの操作となるため,難易度は高いが,習熟した術者であれば問題なく完遂することは可能である.急がずにある程度の時間をかけて慎重に進めることがポイントである(図3).C●まずはチャレンジしてみる今後,多くのCKAMRA挿入患者が白内障となり,一般の眼科外来を受診する機会が増えることが予想される.屈折矯正手術後ではあるが,単焦点レンズが選択可能であり,屈折誤差の許容範囲も広いため,まずは勇気をもってチャレンジしてみるとよいと思う.筆者の経験では,術後の満足度は非常に高く,術者としての達成感も大きな手技ではないかと感じている.文献1)TanCTE,CMehtaJS:CataractCsurgeryCfollowingCKAMRACpresbyopicimplant.ClinOphthalmolC7:1899-1903,C20132)MoshirfarCM,CQuistCTS,CSkanchyCDFCetal:CataractCsur-geryinpatientswithaprevioushistoryofKAMRAinlayimplantation:acaseseries.OphthalmolTherC6:207-213,C2017(54)