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眼科サマーキャンプ2013

2013年11月30日 土曜日

眼科サマーキャンプ井上幸次鳥取大学医学部視覚病態学●サマーキャンプ開催にいたる経緯眼科サマーキャンプは,初期臨床研修制度が導入された後,地方に残る医師が減少しているだけでなく,眼科医をめざす人が激減していることを受けて,その減少に歯止めをかけるべく企画されたプロジェクトである.運営の核となったのが,日本眼科啓発会議第三分科会である.この日本眼科啓発会議は日本眼科学会が日本眼科医会と協議し,2008年に立ち上げたものである.これには眼科医療機器協会,日本コンタクトレンズ協会,日本眼内レンズ協会,眼科用剤関連企業からの代表も委員として参加し,眼科医療の社会貢献度の評価,記者発表会を通じての啓発活動,雑誌などのメディアを利用した国民への啓発活動を行ってきた.その中で第三分科会は眼科志望者を啓発するDVD作成などの,学生・研修医リクルート事業を行ってきたが,日本眼科啓発会議が第一期の活動を終了し,第二期に入るにあたって,2011年10月にメンバーを一新し,眼科サマーキャンプの企画・運営に携わることになったのである.私はその第三分科会の委員長としてこの事業に関わることとなった.そして,委員の諸先生方や日本眼科学会常務理事会の大橋裕一,大鹿哲郎,小椋祐一郎3教授の多大のご助言・ご協力を得て,昨年(2012年)8月4.5日に,箱根の芦ノ湖畔の「ザ・プリンス」で「第1回眼科サマーキャンプin箱根」を行うことになったわけである.●第1回眼科サマーキャンプ第1回目は,いきなり多数の参加者で行うことはむずかしいとの判断から100名の定員で募集を行った.最初は応募者が少なかったが,締め切り直前に申し込みがかなりあり,結果的に95名の参加を得て行うことができた(5年・6年次学生33名,初期研修医62名).会の全体のテーマとして,「眼科力(メジカラ)お見せしましょう」というのを設けて,いろいろな体験コーナーや眼科の魅力をアピールするさまざまな講演を行った.当初は,眼科疾患などに関する講義的なものや,眼科手術を受けた有名人による講演などの案もあったが,(103)時間的な制約と,後者については,その有名人目当てに眼科に関心のない人がきて,結局実効があがらないのではないかという懸念から見送りとなった.体験コーナーでは参加者を3つのグループに分け,3つの体験コーナーを60分ずつ回ってもらった.検査機器・視覚障害体験コーナーでは後眼部OCT,前眼部OCT,広角眼底カメラで自分の目を撮ってもらい,その画像をUSBに入れたものを全員にプレゼントした.また,視覚障害者がどのような見え方をしているか,視覚障害者シミュレーションレンズをつけて体験してもらった.また,3D手術実見コーナーでは3D映像で硝子体手術・角膜手術などを解説入りでみてもらった.60分で行うにあたってもっともむずかしかったのは,白内障手術体験コーナーだったが,豚眼ではとても時間的に無理と考えられたため,飽浦淳介先生の開発された白内障手術模型眼である「机太郎」を用いて,CCCとIOL挿入のみを行うドライラボと核処理と皮質吸引のみを行うウェットラボに分けて,それぞれ8セットずつ用意し,1人のインストラクターが2人を受け持ち,計16人のインストラクターで32人を教えるという形で行った.「机太郎」は一連の白内障の過程をすべて行わなくても部分練習ができるのが特徴であり,そのおかげで,大きな破綻なく,無事にこの体験コーナーを満喫してもらうことができた.参加者の一番人気もこのコーナーであった.講演については,話がうまい先生方を全国から集めて,いろいろな側面から眼科の重要性を十分にアピールしてもらった.眼科医である自分たちも改めて「眼科はいい」と思わせる魅力ある講演ばかりであった.とくに,高橋政代先生の講演はiPS細胞による再生医療が世界ではじめて現実のものとなるのが眼科であること,しかも日本でそれが実現されるであろうということが参加者に伝わり,「眼科がすごい」ということが強く印象づけられた.懇親会は,若干会場が広いこともあって,最初は少しかたい雰囲気であったが,インストラクターをしてくれた若い先生方のスピーチが乗りのよいものばかりで,そのおかげでフォーマルな感じがなくなって,われわれとあたらしい眼科Vol.30,No.11,201315950910-1810/13/\100/頁/JCOPY 参加者に一体感が生まれる感じの盛り上がった懇親会になり,そのまま夜の二次会(グループ・セッション眼科の本音力:メヂカラintimate)につながっていった.サマーキャンプの最初と最後に「ここが知りたい眼科の魅力」というセッションを設けて,眼科トリビアクイズなども行ってリラックスしてもらったが,そのなかでマルチアナライザーで参加した人たちの意見を聞いてみたのだが,なかで印象的であったのは,「あなたが眼科医になることを迷う原因は何ですか?」という問いに対して,最初のマルチアナライザーコーナーでは,「全身が診られないこと(聴診器を捨てること)」48%,「眼科医が余っているとの風聞」13%,「不器用なので手術がマスターできるかどうか心配」10%という結果であったのが,最後のマルチアナライザーコーナーではそれぞれ31%,2%,2%という結果となった.つまり,このサマーキャンプを行うことによって,「眼科医が余っているとの風聞」が誤っていることはかなり理解してもらえ,また白内障手術体験をとおして自分にも手術ができるとの自信をもってもらえることができたようなのだが,問題は,減らせたものの強固になくならない「全身が診られないこと」という項目.これは現在の医学教育が学生のときから初期研修医に至るまで,一貫してgeneralistをめざす教育を受けていることに起因していると思われる.このgeneralist指向を打ち破るのはなかなか容易ではないが,だからこそこのようなサマーキャンプを行わなければならないといえる.●第2回眼科サマーキャンプ第1回は,幸い満足度98%と参加者に大変好評で,予算をオーバーしたという問題点があるものの,まずは成功といってよい手応えがあった.これを受けて,第2回も行う運びとなったが,箱根が関東圏以外の人には遠いこと,会場として使用した「ザ・プリンス」は予算がかかること,参加者の人数を増やすにはもっと大きな会場を必要とすることなどから,会場を変更する必要が生じてきた.そこで第2回の会場の候補地として千葉県木更津市のかずさアカデミアパークが浮かびあがった.千葉県木更津市は,羽田空港から直接アクアラインを使って対岸へわたればよいので,渋滞さえなければ1時間ほどで着くことができ,箱根よりもはるかに近い.しかも,施設自体は驚くほど立派で,併設されたホテルもオークラで,箱根の会場とそれほど遜色がない.周りに1596あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013何もないのが欠点だが,逆に参加した人は行くところがないので,サマーキャンプに専念できる.かくして,「第2回眼科サマーキャンプin木更津」を今年(2013年)の7月27.28日に開催する運びとなった.ただ木更津には箱根のような場所としての魅力がない.そこで,「in木更津」と名をうたず,ポスターにも開催地として小さく書くにとどめることにした.募集人数だが,昨年は100名で行ったが,もっと人数を増やさないと,眼科医増加にはつながらない.しかし,一挙に増やすと,うまく運営できなくなり,かえって評判を落とす可能性もある.そこで第2回は150名で募集することとした.ところが募集がはじまると,かなり早い段階で150名を超えてしまい,最終的には180名を超える応募があり,サマーキャンプの認知度があがっていることが実感された.予定通り150名でとるか,あるいは応募してきた人をすべて受け入れるか,いろいろ議論があったが,会場のキャパシティとして可能であったことから,希望者はすべて受け入れることとなった.その後キャンセルなどもあって,結果的に171名の参加を得て行うことができた(5年・6年次学生60名,初期研修医111名).プログラムとしては人数が増えた分,体験コーナーの時間がどうしても長くなるため,1日目はすべて体験コーナーとし,2日目に講演をすべて集める形で行った.体験コーナーは45名で4グループという配分になったため,とくに人気の高い白内障手術については,ドライラボとウェットラボをそれぞれ1時間ずつとする形をとった.しかし,1人のインストラクターに5名がつくかたちとなるため,1人あたりの時間配分が10分と短く,たとえばウェットラボでの核割りが貫徹できない人も散見されたようである.検査機器体験コーナーは昨年の3つに加えてスキャンパターンレーザーが追加され,どうしても1人あたりの時間が短くなるきらいがあるものの,大きな混乱もなく施行することができた.もう1つのコーナーは3D手術実見と視覚障害体験とビジョンバン視察の3つを組み合わせた.被災地の眼科診療のために作られた日本版ビジョンバンには,最新のOCTまで搭載されており,被災地でこんなに高度な医療ができる体制を眼科がもっていることに対する驚きの声が参加者から聞かれた.講演は昨年のメンバーと少し組み替えて行った.昨年(104) 図1第2回眼科サマーキャンプ白内障手術体験コーナー図2第2回眼科サマーキャンプ全体写真同様,いずれ劣らぬすばらしい内容であったが,昨年に比べて,研究にやや話の重点が行きがちなところがあり,「ワークライフバランス」を求めて眼科を考えている人には,「眼科が進みすぎていて,自分にはついていけない」との感想をもった人がいた可能性もある.「眼科がすばらしい」というのをアピールするのと「眼科は自分に合っている」と思わせるのとの間にはギャップがあるところが,勧誘のむずしいところだと感じた.懇親会は,人数が増えたこともあって,広い会場を埋め尽くすような感じで,大変な賑わいであったが,夜の二次会は昨年のような大きな場所がとれなかったために,場所がいくつかに分かれてしまったことと,参加者に比べてインストラクターの人数が少なかったことが重なり,場所によっては参加者だけになってしまう状況が生じてしまった.今後改善を要する課題だろう.マルチアナライザーコーナー「ここが知りたい眼科の魅力」では,参加者の反応が昨年に増してよかった.1日目の「眼科は第1志望ですか」という質問に対して「はい」と答えたのが53%と昨年の75%と比べて少なく,今年は,眼科とすでに心に定めている人だけでなく,まだ迷っている人を広く集めることができていると考えられた.ただ,2日目に「第一志望は眼科に決定しましたか?」という質問に対して「はい」と答えたのが55%であり,2日間の努力の末,2%しか上がらなかったのは少し残念であった.また,「あなたが眼科医になることを迷う原因は何ですか?」という問いで「不器用なので手術がマスターできるかどうか心配」8%が,2日目の最後も依然として8%という結果となった.これは今回,白内障手術コーナーの1人あたりの時間が少なかったことと関係しているのではないかと思われ,次回へ向けての課題といえる.2年目ということで,1つ印象的であったのはインストラクターのなかに,昨年の参加者の人がいたことで,サマーキャンプ参加経験者が,サマーキャンプインストラクターの主たる戦力になる日がくれば,非常によい循環が生じるのではないかと思われる.来年も引き続き,サマーキャンプを行う予定であるが,眼科医の人数を増やすことは,日本の眼科の発展の根幹にかかわることなので,気をひきしめて取り組んでいきたい.先生方にもぜひこのサマーキャンプのことをよく知っていただき,周りの学生・初期研修医に参加を勧めていただきたいと思う.☆☆☆(105)あたらしい眼科Vol.30,No.11,20131597

後期臨床研修医日記 26.福井大学眼科学教室

2013年11月30日 土曜日

●シリーズ後期臨床研修医日記福井大学眼科学教室田中波福井大学の眼科ではこの4月に3名の後期研修医が入局しました.稲谷大教授のもと,福井大学眼科学教室で日々頑張る(失敗する?)私たち後期研修医1年生の充実したプログラムを紹介したいと思います.朝の診察上級医による術後回診は朝8時半から開始されます.それまでに担当患者さんの診察を終える必要があるのですが,病棟の診察室で使えるカルテ用のPC,スリット台は2セットしかありません.4月の段階では診察やカルテの記載にも時間がかかっていたため,患者さんが大渋滞….申し訳ない気持ちから朝の挨拶が「おはようございます」から「申し訳ありません」に代わってしまいそうでしたが,2カ月近くたつと次第に要領を覚えて診察すべきポイントがわかり,患者さんを待たせずにすむようになってきました.やっと「おはようございます」といえるようになってきてほっとしています.術後回診術後回診が8時半に始まります.担当患者さんが診察されるときは自分の診察に不備がなかったか,見落としがなかったかを確認してもらいます.また,疑問があるときはこのときに質問して解決しておきます.上級医と診察結果が同じだったときはほっと一安心.眼底所見などに見逃しがあったときは汗がたらり….外来業務福井大学では今年度から4診で外来を行っています.外来診察は上級医の先生方が行っているので,その間私たちは外回りといわれる業務をこなしています.外回りとは外来業務がスムーズに行われるようにお手伝いをするものなのですが,業務内容はさまざまです.手術が決まった方や,造影検査・レーザー治療が必要な方への(99)0910-1810/13/\100/頁/JCOPYIC,同意書作成,全身検査のオーダー,他病院・他科への問い合わせの手紙作成,FA/IAのインジェクション,網膜光凝固術や後発白内障のYAGレーザー等々,仕事の内容は本当に幅広いです.「手術時間は?」「麻酔の方法は?」「どんな手術になるの?」「ネットにはこう書いてあったけど?」こんな質問は日常茶飯事です.私たちは患者さんが理解できるように説明する必要があり,そのためには私たちが手術の内容や疾患について熟知していなければいけません.当たり前のことなのですが,患者さんから必要とされる「わかりやすいIC」のプレッシャーもあり,手術の必要性やその合併症,考えうるリスクについて4月の段階で学ぶことができました.また,患者さんも私たちには聞きやすいようで,たくさん質問をしてくださいます.患者さんが不安に思うこと,当たり前に使っていた眼科の用語が患者さんには伝わっていなかったこと,改めて考えさせられることが本当に多いです.また,質問に丁寧に答えることで患者さんの不安そうな顔が一掃されたとき,お役にたてている気がしてこちらも清々しくなります.手術手術日は月水金です.8時半から手術になるので,それまでに当日のオペ患者をカルテで確認し,患者さんを迎えます.そのあとは手術がスムーズに進むように患者さんの体勢を整えて器材のセッティングなどをしていきます.手術中も指導医の手技が滞りなく進むよう手術の流れを読みながら,助手を努めます.このように心がけながら助手として日々頑張っていますが,実際は指導医の先生方にやさしく諭されながら助手を努めています.先生方の手技はやはりとても繊細で無駄がなく惚れ惚れしてしまいます.その技術を盗もうと見入ってしまい,危うく水かけがおろそかになり注意されることも….おあたらしい眼科Vol.30,No.11,20131591 写真1筆者の手術執刀の様子白内障手術のIAと眼内レンズ挿入,結膜縫合はすぐできるようになりました.っと,危ない危ない(写真1).また,助手だけではなく,実際に手術手技を先生の指導の下,実践させてもらっています.眼瞼手術,眼球破裂の角強膜縫合術,白内障手術など,完投までには到底至りませんが,先生方のサポート,フォローの下で額に汗かきながら取り組ませていただいています.入局したばかりの私たちがこのようにさまざまな手技を経験させていただけることをとても感謝しています.先生方に指導してもらうたび,「早く医局の戦力になれるよう頑張らなくちゃ」とやる気がみなぎる毎日です.カンファレンス毎週火曜の夕方からカンファレンスが行われます.カンファレンス日を境に前後1週間の術前術後の患者についてプレゼンした後,入院中の患者で経過が気になる人についてみんなで話し合います.ここではいつも自分の知識の未熟さを痛感させられます.1人の患者・疾患でもたくさんのアプローチ方法があること,治療におけるリスクの考慮が足りていないことをいつも勉強させられます.知識の面の勉強意欲がここでいつも刺激されます.勉強会カンファレンスが終わった後,15分程度の勉強会が開かれます.おもに,今後専門医試験を受ける予定の先生方を対象にしたものです.専門医試験の過去問を解き,私たち3人を中心にスライドで問題の解説やポイン1592あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013写真2今年度入局の同期3人右手前が筆者,左手前が後沢誠くん,奥が杉原友佳さん.トを説明していきます.専門医の問題は普段の業務で得られる臨床知識とは別に,基礎や解剖の範囲も多いので,そういう範囲の知識を若手が補充できるようにと今年から始まりました.臨床の勉強だけでなく先々の専門医試験に関することまで上級医の先生方に指導していただけるのは本当にありがたく,貴重な時間だと思っています.この勉強会のおかげで基礎知識の整理を定期的にすることができています.外勤週に1,2回程度,関連病院の外来や手術のお手伝いに出かけます.しっかりお役にたてているかは自信がないですが,日頃大学病院では経験しない地域の病院の業務を経験することで,さらにさまざまな見方や知識を得ることができています.病院が変われば患者の層も変わり,病院や医師に求めるものも変わってきます.そういう地域密着型の病院で働く先生方の話を毎週聞きに行くのも楽しみの一つです.同期福井大学眼科学教室の今年の入局者は3人でした.3人とも福井大学出身なので,もともと同級生です.なの〈プロフィール〉(50音順)田中波(たなかなみ)平成23年福井大学医学部卒業,福井大学医学部附属病院にて初期研修,平成25年4月より福井大学医学部眼科学教室後期研修医.(100) で,入局した当初から,気を使うことなく仲良く研修さています.これからもお互い助け合いながら切磋琢磨しせていただいています.研修内容からたわいもない世間て眼科医として精進していこうと思います.話まで気軽に話せる仲間がいること,とても嬉しく思っ田中波先生,後期研修が始まったばかりなのに,ほとんど手直しすることなく立派な原稿を書いてくれて,涙出そうなくらい嬉しいです(>_<).ローテート2年目に眼科へ回ってきたときに見てもらった接触レンズでの眼底観察では,私の黄斑をじっくり見られて大変まぶしくてつらかったですが,今では,レーザー光凝固術も術前説明もしっかりできていて,大変頼指導医からのメッセージ自由の王国,福井大学眼科学教室にようこそ!もしくなりました.医学の世界は日進月歩,今の常識にとらわれていては,衰退していくだけです.未来の医学のためには,後期研修医や大学院生の自由な発想が宝物です.みんなが自由にのびのびできる環境を提供していくことが私の使命です.(福井大学医学部眼科学教室教授稲谷大)☆☆☆(101)あたらしい眼科Vol.30,No.11,20131593

My boom 22.

2013年11月30日 土曜日

監修=大橋裕一連載MyboomMyboom第22回「内藤知子」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)連載MyboomMyboom第22回「内藤知子」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)自己紹介内藤知子(ないとう・ともこ)岡山大学大学院医歯薬総合研究科機能再生・再建科学専攻生体機能再生・再建学講座眼科学分野平成9年岡山大学卒業,平成15年より緑内障外来のチーフを任され,多くの先生方にご指導をいただきながら,なんとか10年間やってきました.未だにレクトミーをする恐さ・しない恐さ,自問自答です(一段と,というべきでしょうか…).私生活では8歳になる息子の毎朝のお弁当作りに奮闘しています.昔やっていたピアノを最近また弾き始め,ワインを飲みながら猫と戯れるのが,私のストレス解消法です.小さな屏風それはとても蒸し暑い梅雨のさなかでした.一人のご高齢の女性が紹介されました.患者さんは御年89歳,腰は大きく曲がり,移動も歩行器の助けを借りながらやっと,という風情です.問診すると,最近,急に視力低下が進行したとのこと,さらに以前より高度の難聴にも悩まされているようです.早速,診察させていただくと,両眼ともに水晶体に乳白色の混濁を認め,いわゆる成熟白内障になっていました.さらに隅角の閉塞も伴い,眼圧も上昇していました.このままでは母は,音だけでなく,光も失ってしまう…今にも泣き出しそうな心配顔で連れてこられた娘さんに,病状をご説明し,一刻も早く白内障手術を行わなければ,失明の危険があることを告げ,手術をさせていただきました.幸いにして両眼ともに無事に眼内レンズを挿入でき,術後は眼圧も正(97)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY常化しました.そして長かった梅雨も明け,燦々と太陽光が降り注ぐある日,満面の笑みを浮かべた患者さんが外来を訪れました.「先生,手術をしてもろうてから,まるで別世界にいるようじゃ」言い終わるが早いか,とても恥ずかしそうに,小さな茶封筒を私に差し出しました.「これ,私が心をこめて書いたんじゃけど,受け取ってもらえるじゃろうか」その中に入っていたものが,この小さな屏風です(写真1).大学病院で外来診療を続けていくことは,実は正直とても辛く感じることもあります.ときには逃げ出したい気持ちにもなります.でも,たまにこんな嬉しいことがあるからこそ,続けることができるのかもしれません.今でも辛いとき,悲しいとき,そして心が折れそうなとき,医局の机の片隅の,この小さい屏風を見つめては,気持ちを整えているのです.“きっかけ”をくれた師匠たち私は現在,大学で緑内障の臨床研究を細々と続けています.大学にいるなら当たり前じゃないか,との声が聞こえてきそうですが.実はある“きっかけ”がなければ多分,今のこの状況はあり得なかったでしょう.その“きっかけ”は,6年ほど前に訪れました.近くの大学の知り合いの先生に,関東で緑内障を専門にしている先生たちを紹介していただいたのです(写真2).実は,それが今の私の師匠たちになるのです.それまでの私は,まだ専門医になって間もない頃から緑内障外来のチーフを任され,日々の外来診療と手術を無事にこなすのがやっと,という状態で,家に帰っても育児と家事に振り回され,とてもデータをまとめて学会発表をする精神的,体力的な余裕はありませんでした.しかし,師匠たちは違いました.私よりもはるかに忙しい日常業務を淡々とこなしながら,緑内障の診断や薬あたらしい眼科Vol.30,No.11,20131589 写真1患者さんからいただいた小さな屏風物治療に関する臨床研究をいくつも同時に行い,その成果を毎回のように学会で発表しているのです.そして,実に楽しそうなんです.いつしか私もそんな師匠たちの姿に触発され,見よう見まねで臨床研究を行うようになっていました.これには私自身がとても驚きました.診療は相変わらず忙しいままなのに,できたのです.そうして以前は単に人の発表を聴くだけだった学会も,いつしか自らも発表できるようになっていました.そうです,師匠たちに出会うまでの私は,日常の忙しさにかまけ,研究などできっこないと勝手に思い込んでいただけだったのです.このような“きっかけ”を作っていただいた師匠たちには今でも心より感謝しています.そして,今度は私自身がそんな素敵な“きっかけ”を演出できるような人になりたいと思う今日このごろです.美味しいお店美味しいものに目がありません.とくに学会の夜,美食巡りをするのが私のマイブームです.また私自身も料理好きなので,感動した味を家で再現するのも楽しみの一つです.とてもプロのようにはいきませんが,よく似せた味の料理を肴に好きなワインを傾けるひとときは本当に癒されます.そんなお店巡りを続けるうちに,美味しいお店には,ある法則があることに気が付きました.それは美味しいお店は,決まって雰囲気がいいことです.お店の雰囲気を構成する要素は,シェフや店員さんの立ち居振る舞い,接客,椅子やテーブルなどの調度品,そして照明など,さまざまな因子があると思います.しかし私は何よりも,最大の決定要素はお店に集う1590あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013写真2師匠たちとその仲間(今年のWorldGlaucomaCongress,バンクーバーにて)お客さんだと思います.美味しいお店には,やはり,美味しい物を愛する同好の志が集まります.その人々が本当に美味しいものに出会ったときに発する言葉と言葉,笑顔と笑顔が重なり,とても心地良いハーモニーを奏でます.当然カジュアルな店では,大きな話し声や,笑い声がお店中に響き渡ります.でも決してそれらが騒々しい雑音ではなく,とても心地よいBGMになるのです.そんなお店で食事をすることは,お料理がさらに美味しく感じられ,何より,元気をもらうことができて,とても好きです.小さな屏風,“きっかけ”をくれた師匠たち,そして,美味しいお店,これらのマイブームは一見脈絡がないようです.しかし,どれも人と人との繋がりが如何に大切であるかということを私に教えてくれました.何人もの人に支えられ,励まされ,そして元気を与えられて生きていることに感謝する毎日です.次回のプレゼンターは石川県の大久保真司先生(金沢大学)です.緑内障のなかでも視野・OCTでは大変なスペシャリストでいらっしゃいます.私も困ったときにはしょっちゅうご指導を仰いでいますが,いつも優しく教えてくださり,大変に尊敬している先生です.よろしくお願いします.注)「Myboom」は和製英語であり,正しくは「Myobsession」と表現します.ただ,国内で広く使われているため,本誌ではこの言葉を採用しています.(98)

日米の眼研究の架け橋 Jin H. Kinoshita先生を偲んで 11.Jin H. Kinoshita先生のやさしさとNEIでの思い出

2013年11月30日 土曜日

JinH.Kinoshita先生を偲んで日米の眼研究の架け橋★シリーズ⑪責任編集浜松医科大学堀田喜裕JinH.Kinoshita先生を偲んで日米の眼研究の架け橋★シリーズ⑪責任編集浜松医科大学堀田喜裕JinH.Kinoshita先生のやさしさとNEIでの思い出山田孝彦(TakahikoYamada)山田孝彦眼科院長1981年東北大学医学部卒業.東北大学医学部眼科医員.1984年東北大学医学部病理部医員.1985年東北大学医学部眼科医員.1986年東北大学医学部眼科助手.1988年東北大学より医学博士学位取得.1988年.1990年NIH(NEI)Visitingassociate.1991年東北大学医学部眼科助手.1994年東北大学医学部附属病院眼科講師.1996年NTT東日本東北病院眼科部長.1997年山田孝彦眼科を開設,院長として現在に至る.私は東北大学眼科学教室の助手時代に,玉井信教授のご高配により,1988年11月から1990年10月までの2年間,米国国立衛生研究所(NationalInstitutesofHealth:NIH)の国立眼研究所(NationalEyeInstitute:NEI)で客員研究員(Visitingassociate)として研究生活を送らせていただきました.その陰には,NEIのScientificDirectorであるJinH.Kinoshita先生(Jin先生)のご助力があったことは間違いなく,今でも感謝申し上げております.Jin先生は,偉大な科学者,研究者であるとともに我々日本人研究者に多くのチャンスを与えてくださった,日本の眼科研究にとっての恩人だと思います.私にとってのJin先生の印象はやさしさです.私はJin先生がNIHを退職される1年前にNIHでの研究をスタートしましたので,研究者としてのJin先生はあまりわかりませんが,ScientificDirectorとしてのJin先生とのエピソードと当時の研究を紹介させていただきます.●Jin先生とのエピソード★私がJin先生を知ったのは,宮城県眼科医会で講演してくださったときでした.当時は,その後NIHでJin先生にお世話になるとは思ってもみませんでした.Jin先生との最初の接点は手紙でした.渡米するための手続きやIAP66というビザ取得のために何度か手紙のやり取りがありましたが,あるときJin先生の秘書さんから重要な手紙が届いていなのでビザ取得が間に合わないかもしれないとの連絡があり,急いで再送して何とか間に合いました.郵便のトラブルが原因でしたが,Jin先生にお会いしたときには全くそのことには触れられず,が(95)んばれと励ましてくださいました.私が研究をスタートして6カ月ほど経った1989年の5月ころ,Jin先生が突然私の研究室に現れて,ドクター・ヤマダは日本へ行きたいかとたずねるのです.私はまだ研究が始まって間もないので,いいえと答えました.すると何度も同じ質問をされるので,私も本音が出て,正直にいえば行きたいと答えました.そのときは,それで会話は終わってJin先生は部屋を出て行かれました.しばらくして,上司のDr.PaulRussell(Paul)から,その年の11月に日本の金沢市で開催されるUSJapanCCRGmeetingに演題を出して参加するようにと告げられました.Jin先生は私には研究のことは何も尋ねず,ただ私たちが日本へ一時帰国できるチャンスを作ってくれたのでした.金沢では,2種類の蛍光色素を用いた酵素抗体法で培養細胞でのCrystallinとAR(Aldosereductase)の発現を示したポスターを発表しました.二重染色のきれいな写真が撮れたのでJin先生も喜んでくださいました.NEIのScientificDirectorであるJin先生は私から見れば雲の上の方で,話すのも恐れ多いと思っていました.しかし,FarewellpartyやChristmaspartyなどのNEIの主な行事には必ずご夫妻で参加され,我々若手(当時)の研究者とも気さくに話をしてくださいました(写真1).NIHでは,上下のポジションに関係なくお互いをファーストネームかニックネームで呼び合っていました.Jin先生のこともみんなJinと呼んでいました.しかし,私はJinとは呼べませんでした.ドクター・キノシタと呼んでいたのです.するとJin先生も私のことをドクター・ヤマダと呼ぶようになってしまいました.あたらしい眼科Vol.30,No.11,201315870910-1810/13/\100/頁/JCOPY 写真1Bethesda市で開かれたNEIのパーティーにて撮影左より,Jin先生のKay奥様,Jin先生,CarlKupfer先生(NEIのDirector),筆者.相手のことをとても気遣う先生でした.パーティーで思い出すのは,Jin先生のFarewellpartyのことです.NIHの向かいのベセスダ海軍病院のレストランで行われたのですが,ボヤ騒ぎで煙が出てきたため送別会は途中で中止になってしましました.しかし,NEIの人たちは,かえって忘れられない会になったからいいんじゃないと笑い飛ばしていました.Jin先生を気遣ってのことと思います.●NEIでの研究生活★私は妻と当時2歳の長女の3人で渡米し,メリーランド州Rockville市のVillagesquareというマンションに住みました.当時のVillagesquareには佐藤佐内先生(当時山形大学眼科),堀田喜裕先生(現浜松医科大学眼科学教授)が住んでいらして,現地の情報などを丁寧に教えていただきました.村上晶先生(現順天堂大学眼科学教授)は私と同じ頃にVillagesquareに来られて仲良くしていただきました.また,Paulの研究室の向かいのDebbieCarperの研究室におられた金子昌幸先生(当時長崎大学眼科)にもお世話になりました.私が配属されたのはNEIのLMOD(LaboratoryforMechanismofOcularDisease,写真2参照)のPaulの研究室でした.研究内容はtransgenicmouseの水晶体上皮から確立したa-TN4という培養細胞を用いて,a-crystallin,b-crystallin,ARなどの発現をさまざまな環境のもとで調べるというものでした.方法としては,生化学,組織化学,分子生物学,組織培養のテク1588あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013写真2NIHからいただいたCertificate私の送別会のときにいただいた大変思い出深いもので,私がcollaborativeresearchに参加させていただいたことの証しです.ニックを駆使することになりました.私は東北大学の第一病理学教室在籍中に病理学,組織化学,超微形態学(電子顕微鏡)を用いて人体および実験動物から得たサンプルを解析する仕事に携わりました.また,眼科学教室に戻ってからは,ライソゾーム酵素であるcathepsinDを牛眼から精製し,家兎を用いて抗体を作り,その抗体を用いた免疫組織化学的手法でcathepsinDの眼内局在を解析し学位を取得しました.これらの仕事で取得したテクニックのおかげで,NIHに赴任してからは早期に仕事を進めることができ,Paulからは主に組織培養と分子生物学を学びました.また,PaulをはじめNIHの研究者から学んだことはテクニックだけではなく,研究開始の着眼点やプロジェクトの立て方など多岐にわたります.さらにNIHの組織の作り方,教育システム,国家との密接な関係など日本が学ぶべきことがたくさんあると思いました.これから海外での研究を志される若い方々には,是非このような観点で勉強し,得られた成果を日本に持ち帰ってほしいと思います.また,売りになる研究テクニックを,ひとつでもいいので身に着けてから留学したほうが何かとうまくいくと思います.最後に,私にNIHで研究する機会を与えてくださった玉井信東北大学名誉教授とJin先生に改めて感謝申し上げます.(96)

WOC2014への道

2013年11月30日 土曜日

東京が2020年オリンピック開催都市に決まりました.オリンピックがもたらす効果は絶大だと思います.インフラが整備され,投資が活性化されデフレ脱却効果があるでしょう.開催が決まったことでスポーツ関連予算が増え,2020年にピークを迎える世代の強化が始まったそうです.おそらく2020年にはたくさんのメダル獲得(とくに金色)の瞬間を見ることができるでしょう.日本もこれで元気になって欲しいです.今,香港でこの原稿を書いています.2009年にWOC準備委員になってから,WOC2014をアピールするためにアジアに行く機会が多くなりました.香港に限らず,アジアの国々は訪れるたびに様変わりしています.次々と高層ビルが建設され,人々の活気や自信が以前とまったく違います.10年前には少なくとも日本人である優越感がありましたが,今はまったくそんなものは無く,ときに劣等感すら感じます.悲しい現実です.悲しいことは眼科の世界でも起こりつつあります.日本人は英語が苦手ですが,それは「普段使わないですむから」に他なりません.アジア諸国にはまともな母国語の教科書がありません.だから勉強するためには英語の本を読むしかありません.しかし,日本には立派な「日本語の教科書」があります.「日本の眼科のレベルが高いから」こそ,私たちには当たり前のように日本語で勉強でき,この状況に安穏としてこられたと思います.そんな間に,アジア近隣の国々は,経済発展とともに眼科レベルも向上してきました.中国の学会発表は数年前はみるも無惨な内容でしたが,最近はびっくりするほど高レベルです.IOVSやOphthalmology誌に掲載されるのも,一昔前は日本人の論文が多かったのですが,今は中国に猛追・逆転されています.日本の眼科レベルがアジアにおける孤高性を失ったとき,英語の苦手な私たちの地盤低下は想像以上に早く進むかも知れません.日本人眼科医というだけでアジアの眼科医から向けられていた尊敬のまなざしは,消えつつあるのです.WOC2014はそんな危機感から,日本眼科学会・日本眼科医会が団結して勝ち取った大会です.オリンピックと同じようにアジア数都市の中からコンペになり,綿密なロビー活動の甲斐あって東京に決まったときには,(今回のオリンピック招致決定に匹敵するほど)関係者は大喜びしたものです.WOC2014を成功させることは,私たち自身が日本眼科のプレゼンスを確認し,改めて日本の凄さをアピールすることになります.日本の眼科レベルは高く,私たちには潜在能力があります.私たちが自信を回復することこそが,明日の日本眼科の発展に不可欠です.準備委員会の活動を通してアジア各国に知り合いができ(写真),私自身の視野も拡がったように思います.是非皆様もWOC2014に参加して,今の「世界の眼科」を感じてみてください.そしてきめ細かに準備された運営や日本の高レベルの発表を見て,「世界に冠たる日本眼科」を皆様の目で再確認していただきたいと思います.WOC2014への道あとカ月園田康平山口大学大学院医学系研究科眼科学分野写真APAOのLDP(leadershipdevelopment)コース終了式にてアジア各国代表の先生と1年間のコースを体験しました.何度も顔を合わすなかで参加者に連帯感が生まれ,多くの友人ができました.WOC2014,みんな来ると言ってました!5東京が2020年オリンピック開催都市に決まりました.オリンピックがもたらす効果は絶大だと思います.インフラが整備され,投資が活性化されデフレ脱却効果があるでしょう.開催が決まったことでスポーツ関連予算が増え,2020年にピークを迎える世代の強化が始まったそうです.おそらく2020年にはたくさんのメダル獲得(とくに金色)の瞬間を見ることができるでしょう.日本もこれで元気になって欲しいです.今,香港でこの原稿を書いています.2009年にWOC準備委員になってから,WOC2014をアピールするためにアジアに行く機会が多くなりました.香港に限らず,アジアの国々は訪れるたびに様変わりしています.次々と高層ビルが建設され,人々の活気や自信が以前とまったく違います.10年前には少なくとも日本人である優越感がありましたが,今はまったくそんなものは無く,ときに劣等感すら感じます.悲しい現実です.悲しいことは眼科の世界でも起こりつつあります.日本人は英語が苦手ですが,それは「普段使わないですむから」に他なりません.アジア諸国にはまともな母国語の教科書がありません.だから勉強するためには英語の本を読むしかありません.しかし,日本には立派な「日本語の教科書」があります.「日本の眼科のレベルが高いから」こそ,私たちには当たり前のように日本語で勉強でき,この状況に安穏としてこられたと思います.そんな間に,アジア近隣の国々は,経済発展とともに眼科レベルも向上してきました.中国の学会発表は数年前はみるも無惨な内容でしたが,最近はびっくりするほど高レベルです.IOVSやOphthalmology誌に掲載されるのも,一昔前は日本人の論文が多かったのですが,今は中国に猛追・逆転されています.日本の眼科レベルがアジアにおける孤高性を失ったとき,英語の苦手な私たちの地盤低下は想像以上に早く進むかも知れません.日本人眼科医というだけでアジアの眼科医から向けられていた尊敬のまなざしは,消えつつあるのです.WOC2014はそんな危機感から,日本眼科学会・日本眼科医会が団結して勝ち取った大会です.オリンピックと同じようにアジア数都市の中からコンペになり,綿密なロビー活動の甲斐あって東京に決まったときには,(今回のオリンピック招致決定に匹敵するほど)関係者は大喜びしたものです.WOC2014を成功させることは,私たち自身が日本眼科のプレゼンスを確認し,改めて日本の凄さをアピールすることになります.日本の眼科レベルは高く,私たちには潜在能力があります.私たちが自信を回復することこそが,明日の日本眼科の発展に不可欠です.準備委員会の活動を通してアジア各国に知り合いができ(写真),私自身の視野も拡がったように思います.是非皆様もWOC2014に参加して,今の「世界の眼科」を感じてみてください.そしてきめ細かに準備された運営や日本の高レベルの発表を見て,「世界に冠たる日本眼科」を皆様の目で再確認していただきたいと思います.WOC2014への道あとカ月園田康平山口大学大学院医学系研究科眼科学分野写真APAOのLDP(leadershipdevelopment)コース終了式にてアジア各国代表の先生と1年間のコースを体験しました.何度も顔を合わすなかで参加者に連帯感が生まれ,多くの友人ができました.WOC2014,みんな来ると言ってました!5(93)あたらしい眼科Vol.30,No.11,201315850910-1810/13/\100/頁/JCOPY

現場発,病院と患者のためのシステム 22.電子カルテシステム単体導入の是非

2013年11月30日 土曜日

連載現場発,病院と患者のためのシステム電子カルテシステム医事会計システムを筆頭に,ファイリングシス単体導入の是非テム,オーダリングシステムなど,医療機関にはさまざまな情報システムが,それを得意とするベ杉浦和史*ンダ(システム開発会社)から提供されています.はじめに電子カルテシステムも同様です.これらを組み合わせて使うことになりますが,結果的にマルチベンダ(複数の異なるシステム開発会社)システム連載初回に複数システムを異なるベンダ(システム開となり,システム相互間のスムーズな連携がしに発会社)から目的別に導入し,組み合わせて使う場合のくく,トラブル発生時の対応遅れなど,運用上面問題を紹介しました.最初に医事会計システム,つぎに倒なことが多々発生します.予約システム,検査画像ファイリング,そして電子カル図1異なるベンダのシステムを導入する場合の弊害Rテシステムのような場合です.医療会計システム画像ファイリングシステム操作性の不統一複数のディスプレイ機能の重複情報の重複予約システム電子カルテシステム図1に示すように,それぞれが単独で運用できるようにするため,機能,情報の重複が発生します.また,各ベンダが独自の設計ポリシーで作るため,操作性が統一されていません.トラブル発生時には,どのシステムが原因なのかを特定するまでに時間を要します.他のシステムとの情報授受で引き起こされるトラブルがあるからです.それぞれのシステムにディスプレイが必要なことから,狭い診察机がさらに狭くなってしまうという問題も発生します.複数のディスプレイに表示される情報を見比べ,かつ,どのマウスがどの画面のものなのかを気にしながらの診察も大変です..電子カルテシステムの単体導入図2に示すように,医療機関には診察以外の業務が山(91)0910-1810/13/\100/頁/JCOPYのようにあります.図2多種多様ある院内業務Rこの図を見ると,診察業務を対象にする電子カルテシステムを単独で導入するだけで良いのだろうか?と疑問に思われる方は多いでしょう.しかし残念ながら,院内の業務全般を俯瞰したうえで電子カルテシステムを含む,部分システムの導入を決めるケースは少ないようです.これは,一般的に医療機関には,情報システムの企画,構築,運営管理,導入効果算定に関する知識,経験が少なく,良いことしかいわないベンダ営業の説明を鵜呑みにしがちであることが影響していると思われます.*KazushiSugiura:宮田眼科病院CIO/技術士(情報工学部門)あたらしい眼科Vol.30,No.11,20131583 また,主たる導入決定者が医師であることから,守備範囲である診察業務をカバーするシステムに目が行ってしまうのも,電子カルテシステムの単独導入に結びついている一因と考えられます.他院の成功事例が紹介され,見学に招待されることもありますが,見学先では,うまくいっているといわなければ困る立場の方々が対応するので,本当のところは隠れてしまいがちです.とくに,部分的なシステム導入によって,システム化されていない部分との情報授受で発生する手間の増大という実態は聞くチャンスがないかもしれません.診察業務(電子カルテシステム)と情報交換が必要な業務がたくさんあることは図2のとおりですが,これらの業務との情報授受を考慮しないと,運用に入ったときにさまざまな問題が生じてきます.例えば,検査です.オーダすると,その情報はどのシステムが受け取るのでしょう.また,複数の患者さんにオーダを出すと待ちが発生しますが,その順番はわかるようになっているのでしょうか.多種多様ある検査結果をシステムに取り込む手段は?診察の結果,手術が必要になると,ベッドを確保し,術日,術者を決め,手術に必要な書類の作成をしなければなりませんが,それをカバーするシステムとの連携は?等々,考慮しなければならないことが山積しています.ある業務は電子的に処理され,その業務と関連する他の業務は従来どおり紙と手作業になっていると,ストレスのないシームレスな情報の授受ができませんが,これをハンドリングが発生するといいます.ハンドリングは,確実に病院全体の作業効率を下げ,システム導入の効果を薄れさせてしまう要因です.また,すでに導入されているシステムがあると,そのシステムとの情報授受のために仲介,翻訳的な機能が必要になり,変更に弱い複雑な構造を余儀なくされます.目的地まで複数の高速道路を乗り継ぎ,高速道路の切れ目で一般道路も走ることになると,ジャンクションでのルートチェンジに神経を使い,高速道路の出入りが面倒ですが,これと同じ理屈です.部分最適なシステムを寄せ集めても全体最適な統合情報システムにはならないことは,製造業,流通業などシステム化の歴史の長い他の業界では体験をとおして知られていますが,医療業界では依然としてそれがまかりとおっているのが実状です.院内の業務は図2のとおり,多種多様あり,情報授受関係が複雑に入り組んでいることを承知したうえで,どの順番にシステム化していくかの計画を作ってから,順次システム整備を進めるべきでしょう.この手順を踏めば,一般的には電子カルテシステムを単独で導入するという結論は出ないはずです..その他実際に電子カルテシステムを使った医師は,つぎの感想をもらしています.①ボタンが多すぎてどこを押してどうすればいいのか,わかりにくい.②いろいろなウィンドウが開き,どこにどの情報があるのかが把握しにくい.③操作すべきことが多すぎ,時間がかかりすぎる.④使うボタンは非常に限られており,一度も押す必要のないものが多すぎる.⑤画面の立ち上がり時間が遅い(とくに写真や画像を含むデータを扱うとき).これは電子カルテシステムが現場を観察し,作業実態を把握して作っていないことを端的に現しています.ただ,その医師は,「しばらくすると慣れてしまう」ともいっています.これをどうとらえるかです.画面を使って仕事をしていると何だか効率が上がった気分になりますが,不具合を“医師の慣れ”と“医師以外のスタッフの人海戦術”でカバーしてしまい,いつの間にか非効率な作業が改善されることなく引き継がれ,誰も気がつかなくなる由々しき事態になると考えてほしいものです.以上述べてきたことは,連載①病院向けパッケージの基礎知識,連載⑦系統立った院内システムの整備,連載⑩システムを導入すると手間が軽減されるって本当?を併せてご覧いただきますと,さらに理解を深めることができます.☆☆☆1584あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013(92)

タブレット型PCの眼科領域での応用 18.眼科医療におけるポータブル記録機器としての活用

2013年11月30日 土曜日

シリーズ⑱シリーズ⑱タブレット型PCの眼科領域での応用三宅琢(TakuMiyake)永田眼科クリニック第18章眼科医療におけるポータブル記録機器としての活用■スマートフォンの記録機器としての意義第18章で取り上げる端末は,私が代表を務めるGiftHandsの活動や外来業務で扱っているスマートフォンの“iPhone5S(米国AppleInc)”やポータブルマルチメディアプレイヤー“iPodtouch(米国AppleInc)”のiOSバージョン7.0.2です.この章ではこれらデバイスの記録機器としての活用法とその意義について,実際に利用した医師の声とともに紹介していきます.■私のスマートフォン活用法「前眼部撮影編」近年,スマートフォンやタブレット型のPCの内科領域でのベットサイドケアや在宅医療における有用性に関する検討が多く報告されています.眼科領域においてもスマートフォンを用いた撮影機器としての利用が報告され1),国内ではスマートフォンを用いた蛍光眼底撮影が検討されています(周藤ら:網膜硝子体学会2012).私はスマートフォンを臨床業務へ導入することで,導入前には不可能であった多くの所見を記録し,医療スタッフ間で共有することが可能になりました.本章では実際の活用法を紹介したいと思います.①標準カメラアプリの活用スマートフォンの背面カメラを細隙灯の接眼レンズに簡易的に固定することで,前眼部の動画撮影を行うことが可能です(図1).背面カメラの解像度および感度の向上に伴い,とても明るく解像度の高い動画の撮影が可能となり,撮影後にスクリーンショット機能(iPhoneではホームボタンとスリープボタンの同時押し)を用いることで静止画像として所見を保存することが可能です.また,同じ無線LAN環境にタブレット型PCが存在すれば,クラウドサービスを介してシームレスにタブレット型PCのアルバム内にスマートフォンで撮影した画像が表示されるため患者説明に利用することが可能となります(図2).図1スマートフォンの背面カメラを細隙灯の接眼レンズの前方に簡易的に固定して,前眼部所見を撮影している様子図2患者説明用にスマートフォンで前眼部所見を動画撮影してスクリーンショットで静止画とした後発白内障の所見(89)あたらしい眼科Vol.30,No.11,201315810910-1810/13/\100/頁/JCOPY 図3スマートフォンの背面カメラを利用した動画撮影モードにおいて背面ライトを点灯させて,20Dのレンズ越しに撮影された眼底所見スマートフォンを臨床業務に導入した若手の医師たちの声には,つぎのようなものがあります.「上級医に相談する際に,撮影機器のない外勤先で担当した症例でも動画を見せて相談できるのでとても安心です.」「上級医が診察する際にスマートフォンで撮影してもらい,上級医が実際に見ている所見を共有することができるので,とても勉強になります.」スマートフォンを記録機器として利用することで,施設間での記録機器の差にかかわらず所見の撮影や保存を行えることは,若手の医師にとって安心して診療を行う上でとても重要なことだといえます.また,私が実際に活用しているiPhone5sでは,標準機能として撮影動画に対してスローモーションエフェクトを適応することが可能であり,今後,涙液動態などを評価するのにも利用できる可能性があると考えています.②背面ライトの活用スマートフォンの背面カメラにおける動画撮影モードでは,背面カメラの横のフラッシュ撮影用のライトを常時点灯することが可能です.ライトを点灯した状態で動画撮影を行えば,非接触型倒像鏡用の20Dレンズなどと組み合わせることで眼底所見の診察および撮影が可能です(図3).また,前眼部撮影と同様にスクリーンショットで静止画像としたうえで,適切なサイズに画像をトリミングすることで簡易的なパノラマ眼底撮影を行うことも可能です.実際に眼底撮影にスマートフォンを用いた医師の声にはつぎのようなものがあります.「これまで記録のむずかしかったNICUの子供の眼底所見を画像として記録できるため,若い先生を教育するときにも利用できてとても助かります.」「虐待を疑われる児童の眼底を診察する際に,簡単かつ経時的に記録を画像で残せるのでとても安心です.」おもにベッドサイドで行われる小児の眼底診察の所見を,簡単に動画や静止画で記録できることはとても重要だと考えられます.③スマートフォンによる記録機器導入の意義スマートフォンによる前眼部所見や眼底所見の撮影および記録は,ポータブルの細隙灯と20Dレンズなどがあれば場所を問わず行うことが可能です.このことは,今後,眼科領域での在宅医療やベットサイド診療において,極めて大きな意味をもつと考えられます.スマートフォンなどのデバイスが記録機器として活用されることで,眼科医療の世界がより安全で快適なものになると私は信じています.本文の内容や各種セミナーの詳細に関する質問などはGiftHandsのホームページ「問い合わせのページ」よりいつでも受けつけていますので,お気軽に連絡ください.GiftHands:http://www.gifthands.jp/文献1)BarsamA,AllanBD:Excimerlaserrefractivesurgeryversusphakicintraoculsrlensesforthecorrectionofmoderatetohighmyopia.JCataractRefractSurg36:12401241,20101582あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013(90)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 126.ロケット花火による眼外傷に対する硝子体手術(中級編)

2013年11月30日 土曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載126126ロケット花火による眼外傷に対する硝子体手術(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●ロケット花火による眼外傷の特徴近年,ロケット花火による眼外傷の報告がわが国で散見される1).大半は花火が引火しないと勘違いして花火の筒を覗き込んだ時に発射され,眼を直撃するために生じる鈍的外傷である.多くの症例で瞬間的に閉瞼するため,角膜の著明な熱傷をきたしたとする報告は少ないが,眼瞼浮腫,虹彩離断,外傷性白内障,硝子体出血,網膜振盪症,脈絡膜破裂などの重篤な症状を引き起こす.筆者らも過去に3例のロケット花火による眼外傷に対して手術を施行した経験がある2,3).そのうち1例を提示する.●症例の概要症例は46歳,男性.ロケット花火が至近距離で左眼を直撃し,左眼に眼瞼腫張,結膜浮腫,虹彩断裂(図1),虹彩炎,硝子体出血を生じた.保存的加療を行ったが,硝子体混濁の遷延化と外傷性白内障の進行を認めたため,受傷8カ月後に硝子体切除術,水晶体切除術,虹彩整復術を施行した.黄斑部に網脈絡膜萎縮を残したため,矯正視力は0.08に留まった(図2)3).●ロケット花火による眼外傷に対する硝子体手術前述したように,基本的にはロケット花火が至近距離で眼を直撃する鈍的外傷の要素が強い.自験例を含めて多くの症例では前眼部だけでなく,眼底後極部にも著明な傷害をきたし,外力が強く作用した場合には脈絡膜破裂を伴う.脈絡膜破裂がなくても,黄斑部の脈絡膜毛細血管板の障害をきたして網脈絡膜萎縮を残すことが多く,視力予後は概して不良である.硝子体手術は硝子体出血や混濁が遷延する場合に適応となるが,症例は比較的若年者が多いため,人工的後部硝子体.離作製がやや(87)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY図1受傷時の細隙灯顕微鏡所見眼瞼腫脹,結膜下出血,角膜浮腫に加えて,広範な虹彩断裂を認める.図2硝子体手術後の眼底所見A:鈍的外傷によると考えられる黄斑部の網脈絡膜萎縮を認める.B:フルオレセイン蛍光眼底写真では後極部の網脈絡膜萎縮部位に一致してwindowdefectによる過蛍光を認める.C:インドシアニングリーン蛍光眼底写真では脈絡膜毛細血管板の傷害と考えられる低蛍光を認める.ABCむずかしい.文献1)中野さおり,伊比健児,熊野良子ほか:ロケット花火による眼外傷の1例.眼紀54:363-366,20032)渡辺彰英,池田恒彦,小泉閑ほか:ロケット花火による眼外傷の2例.眼科手術12:543-546,19993)河原彩,南政宏,今村裕ほか:歯科用30G針による虹彩離断の整復術を施行した花火外傷の1例.眼科手術17:271274,2004あたらしい眼科Vol.30,No.11,20131579

眼科医のための先端医療 155.点眼と視機能:毎回の点眼が見え方に与える影響は?

2013年11月30日 土曜日

監修=坂本泰二◆シリーズ第155回◆眼科医のための先端医療山下英俊点眼と視機能:毎回の点眼が見え方に与える影響は?高静花(大阪大学大学院医学系研究科眼科学教室)はじめに点眼薬は眼科治療においてなくてはならないものであり,それぞれのエビデンスある治療効果を眼科医も患者も期待しています.一般に周術期あるいは感染症治療などでは,点眼薬は一定期間のみ使われますが,ドライアイや緑内障などの慢性疾患においては,点眼薬は1日に数回,毎日,長年にわたって用いるものです.そうなると,「疾患を治し(悪化させず),良好な見え方を保つ長期効果」だけでなく,毎回の点眼による「見え方」への影響も気になるところです.ドライアイにおける点眼と見え方ドライアイにおいて点眼治療は,自覚症状の軽減,涙液安定性の改善,角結膜上皮障害の改善,および眼表面の保護という目的で行われます.ひとたび点眼薬を目に入れると涙液安定性が一時的にもたらされて視機能の向上が得られるようなイメージがありますが,逆に涙液量の増加,分布の不均一により一時的な霧視を自覚するイメージもあります.また,点眼薬そのものの性状による影響も考えられます.点眼が視機能に及ぼす影響については,角膜トポグラファー,コントラスト感度の測定,波面センサーなどを用いて客観的な評価を行うことが可能であり,正常眼やドライアイにおいて1回の点眼が視機能に及ぼす影響を調べたものはこれまでにもさまざまな報告がなされています.ドライアイの重症度,用いた点眼薬,測定のタイミングなどがみな異なるため一律に比較するのはむずかしいのですが,1回の点眼で視機能の改善がみられるという一方で,点眼前後では変わらない,あるいはむしろ悪化するといわれており,結果はさまざまです.ドライアイ点眼が高次収差,散乱に及ぼす影響今現在,日本でドライアイ治療として用いられている(83)0910-1810/13/\100/頁/JCOPYもののなかで,0.3%ヒアルロン酸ナトリウム点眼は粘度が著明に高く,また懸濁液であるレバミピド点眼は濁度が著明に高く,実際にそれらを点眼したときに「見えにくさ」を訴えることは日常外来でも経験されます1.4).一般に,眼の光学的特性の影響を与えるものとしては収差,散乱,回折,反射があげられますが,眼表面,角膜疾患において光学的に大きく影響しうるものは,前者2つ,すなわち不正乱視による収差(高次収差)と混濁による散乱があげられます.筆者らは,各種ドライアイ点眼が高次収差および前方散乱に及ぼす影響の定量評価を行いました5).高次収差は従来の視力検査では検出できない不正乱視,また前方散乱は眼内に入る光の散乱を数値として表したものです.ドライアイのない正常眼においては,0.3%ヒアルロン酸ナトリウムの点眼直後に著明に高次収差が増加しましたが,点眼5分後には点眼前の状態に戻りました.ジクアホソルナトリウム点眼,レバミピド点眼の点眼直後でも点眼前に比べると高次収差は増加しましたが,高次収差の変化量は0.3%ヒアルロン酸ナトリウムが他の2剤に比べて有意に大きくなっていました(図1).また,レバミピド点眼の点眼直後では著明に前方散乱が増加しましたが,他の薬剤では点眼による前方散乱の変化は認められませんでした(図2).レバミピドは懸濁液で白濁しており,これが涙液と混ざって眼表面上に存在すると前方散乱が引き起こされ,その結果,視機能の低下が起きたと考えられます.一方,0.3%ヒアルロン酸ナトリ眼球高次収差(μm)0.3%ヒアルロン酸ナトリウムジクアホソルナトリウムレバミピド防腐剤無添加人工涙液0.400.350.300.250.200.150.100.050.00p<0.001p=0.036p=0.003p<0.001p<0.001p<0.001点眼前点眼1分後点眼5分後点眼10分後時間図1点眼後の眼球高次収差の変化の経過縦軸は眼球高次収差,横軸は時間を示す.0.3%ヒアルロン酸ナトリウムの点眼直後で著明な増加が認めるが,5分後には点眼前の値に回復している.(文献5より改変)あたらしい眼科Vol.30,No.11,20131575 0.3%ヒアルロン酸ナトリウム1.61.41.21.00.80.60.4ジクアホソルナトリウムレバミピド防腐剤無添加人工涙液p<0.001p<0.001p<0.001p<0.001Straylightlog[s]点眼前点眼1分後点眼5分後点眼10分後時間図2点眼後の前方散乱の変化の経過縦軸は前方散乱の指標であるStraylight,横軸は時間を示す.レバミピドの点眼直後で著明な増加が認めるが,5分後には点眼前の値に回復している.(文献5より改変)ウムはほかの点眼薬に比べると粘度が40倍程度高く,点眼後,一時的に涙液層の分布が不均一になることにより高次収差が増大したと考えられます.このことより,少なくとも正常眼では,ドライアイ点眼はいずれも異なるメカニズムで一過性に視機能に影響を与えると考えられます.しかし,涙液動態の異なるドライアイでは,また違った結果が得られるのかもしれません.緑内障点眼が高次収差,散乱に及ぼす影響多数ある緑内障点眼薬のなかでも,ゲル化点眼は粘度が著明に高く,また懸濁液であるブリンゾラミド点眼は濁度が著明に高く,いずれも点眼後の「見えにくさ」を訴えることは日常外来でも経験されます.これらの視機能低下についても,コントラスト感度,高次収差,後方散乱の測定を行い定量評価を行った研究が知られています6).両点眼薬とも点眼2分後のコントラスト感度の低下,点眼2分,5分後における高次収差の増加がみられ,またブリンゾラミドのみ2分後に後方散乱が有意に増加すると報告されています.おわりに高次収差,散乱の測定によって定量的に評価できた「点眼による見えにくさ」は,点眼がqualityofvision(QOV)に与える影響を表しますが,生涯にわたって点眼治療が必要な患者にとっては,qualityoflife(QOL)の一部にあたるといえるでしょう.点眼を処方するときに,その薬剤の主たる治療効果はもちろん最優先ですが,慢性の眼科疾患においては毎回の点眼がQOV,QOLにも影響をもたらすという視点をもってもいいのかもしれません.文献1)RidderWH3rd,LaMotteJ,HallJQJretal:Contrastsensitivityandtearlayeraberrometryindryeyepatients.OptomVisSci86:1059-1068,20092)BergerJS,HeadKR,SalmonTO:Comparisonoftwoartificialtearformulationsusingaberrometry.ClinExpOptom92:206-211,20093)IshiokaM,KatoN,TakanoYetal:Thequantitativedetectionofblurringofvisionaftereyedropinstillationusingafunctionalvisualacuitysystem.ActaOphthalmol87:574-575,20094)KohS,InoueY,SugimotoTetal:Effectofrebamipideophthalmicsuspensiononopticalqualityintheshortbreak-uptimetypeofdryeye.Cornea32:1219-1223,20135)KohS,MaedaN,IkedaCetal:Effectofinstillationofeyedropsfordryeyeonopticalquality.InvestOphthalmolVisSci54:4927-4933,20136)HiraokaT,DaitoM,OkamotoFetal:Contrastsensitivityandopticalqualityoftheeyeafterinstillationoftimololmaleategel-formingsolutionandbrinzolamideophthalmicsuspension.Ophthalmology117:2080-2087,2010■「点眼と視機能:毎回の点眼が見え方に与える影響は?」を読んで■過去20年間にわたり,眼科臨床における多くの症判定されるには,自覚症状の改善という主観的評価状が定量化されてきました.現在,抗血管内皮増殖因と,客観的な改善という評価が揃うことが不可欠で子(VEGF)薬が,網膜疾患の治療を一変させつつあす.以前から,視力という主観的な評価は可能でしります.この薬が,眼科臨床に導入されるプロセスにた.しかし,従来の眼底像や蛍光眼底検査というファは,光干渉断層計(OCT)による網膜厚の「定量化」ジーな評価では,再現性の高い客観的評価は不可能でが大きな役割を果たしました.一般に,治療が有効とした.ところが,抗VEGF薬の臨床評価計画が立て1576あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013(84) られたのとほぼ時を同じくしてOCTが臨床に導入さのように,再現性の高い定量化が可能になると,点眼れたために,抗VEGF薬の効果を客観的に評価する後の目のかすみというファジーな症状が,客観的現象ことが可能になったのです.OCTがなければ,抗として描出されます.そうなれば,問題点の把握も容VEGF薬の認可はずっと時間がかかったといわれる易になりますし,その解決も可能となります.のはそのためです.つまり,OCTによる「定量化」抗VEGF薬が臨床に導入されて,治療法が一変しが新しい眼科治療学の領域を開拓したことになったのたと先ほど書きましたが,現在はつぎの段階に移ってです.きています.抗VEGF薬が広く使われるようになる今回,高先生が解説された点眼後の視機能の「定量と,その効果の差がわかってきて,遺伝子の問題,さ化」は,上記を想起させる研究です.点眼後しばらくらなる病型の問題,免疫学の問題など,学問としても目がかすむというのは,ある意味当たり前のことです大きく広がりつつあります.点眼後の視機能の定量化が,患者さんの身になれば,笑ってすまされる問題でも,新たな学問の領域を広げる大きな可能性をもったはありません.しかし,患者さんの主観的判断では,研究です.具体的に点眼薬のどの因子によって引き起こされるか鹿児島大学眼科坂本泰二は解析不可能であり,解決法も期待できません.今回☆☆☆(85)あたらしい眼科Vol.30,No.11,20131577

新しい治療と検査シリーズ 211.アイシャンプー

2013年11月30日 土曜日

新しい治療と検査シリーズ211.アイシャンプープレゼンテーション:川島素子慶應義塾大学医学部眼科学教室コメント:戸田郁子南青山アイクリニック.バックグラウンド【マイボーム腺機能不全とリッドハイジーン】マイボーム腺(瞼板腺)は,上下の眼瞼縁に数十個の開口部をもつ脂腺である.マイボーム腺から分泌される脂質は,眼瞼縁や涙液最表層に分布して,涙液蒸発の抑制,涙液安定性の維持,眼瞼縁における涙液の皮膚への流出の抑制などの役割を果たしていると考えられている.このマイボーム腺の機能異常をきたした状態が「マイボーム腺機能不全」であり,比較的高頻度にみられる疾患である(表1)1).マイボーム腺機能不全の症状は,充血,乾燥感,異物感,灼熱感,掻痒感や一時的な霧視など多様で,眼表面の所見が軽度でも,訴えは強く頑固であることが多い.マイボーム腺に細菌が感染した結果,変性した脂質は,非常に刺激性の強いものになる.マイボーム腺機能不全や眼瞼炎の治療のひとつとして,「リッドハイジーン」が有効である2).これは,マイボーム腺脂質の排出,固形化した脂質や角化組織の除去,および菌量の減少を目的とした治療方法である.従来,希釈したベビーシャンプーを綿棒につけてマイボーム腺開口部を清拭するという方法が薦められてきたが,表1マイボーム腺機能不全の定義と分類【マイボーム腺機能不全の定義】さまざまな原因によってマイボーム腺の機能が瀰漫性に異常をきたした状態であり,慢性の眼不快感を伴う.【分類】2.分泌減少型①原発性(閉塞性,萎縮性,先天性)②続発性(アトピー,Stevens-Johnson症候群,移植片対宿主病,トラコーマ,などに続発する)2.分泌増加型①原発性②続発性(眼感染症,脂漏性皮膚炎などに続発する)(マイボーム腺機能不全の定義と診断基準:あたらしい眼科27:627631,2010)場合によっては病的なマイボーム腺部位をベビーシャンプーで清拭することはマイボーム腺および涙液層にかえって異常をきたすことがあること,含有成分により眼に刺激症状を与える可能性があり,またベビーシャンプーを薄めて綿棒につけるという操作はコンプライアンスが悪いこともあると報告されており,いくつか問題点もあった3,4)..新しい治療法【アイシャンプー】(図1)ここ最近の化粧の流行の影響により,眼の大きさを強調するテクニックとして,睫毛エクステンションや睫毛パーマを施行したり,まぶたの際の粘膜にアイラインを塗ったりする化粧法を行う女性が増えてきた.この弊害として,アイメイク製品によりマイボーム腺の開口部を塞いだり,通常のメイク落としではメイクが完全に落としづらく,あるいはエクステンションの効果を長持ちさせるためにメイク落としをおろそかにしたりする結果,図1アイシャンプー1,260円60mlhttp://eyeshampoo.com/index.html(81)あたらしい眼科Vol.30,No.11,201315730910-1810/13/\100/頁/JCOPY 眼瞼縁に化粧が残ったり不潔になったりして,眼瞼炎やマイボーム腺機能不全に陥るといった症例もみられるようになっていた.一方で,洗浄力の強いメイク落としは目に刺激があるという欠点もあったため,アイメイク専用のメイク落としで落としきれなかったメイクを目に優しく洗浄する後づかい製品として開発されたのがアイシャンプーである.アイシャンプーは,当初の開発コンセプトであるアイメイク落としの2度使い用としてだけではなく,洗浄力が弱いものの低刺激で使用しやすいことから,既存のベビーシャンプーを使用したリッドハイジーンの欠点をカバーでき,マイボーム腺機能不全患者に対するリッドハイジーンでの使用としても魅力がある..使用方法(実際のやり方)1.通常のクレンジングを行う(女性の場合).2.アイシャンプーを10円玉大ほど手またはコットンに取り,目元にやさしく伸ばす.アイメイクや汚れがひどいときは,綿棒にアイシャンプーを数滴つけて,眼瞼縁を洗浄した後,水でよくすすぐ.3.1日1回から2回程度行う..本方法の良い点アイシャンプーは,目に刺激が少ない弱アルカリ性,浸透圧で設計しているため,目にしみない.マイボーム腺機能不全は慢性疾患であり,また完治が得られにくいので,治療が長期にわたるため患者に根気よく治療を続けてもらう必要があり,抵抗なく「歯磨きのように毎日目を洗うという」習慣をつけるためにも使用感の良さは重要な利点である.また,本来の洗浄機能に加えて,目元の炎症を整える抗炎症・抗菌作用を併せもつ低刺激高性能クレンジング料とうたっているので,そのあたりの効果も期待できるかもしれない.文献1)天野史郎,マイボーム腺機能不全ワーキンググループ:マイボーム腺機能不全の定義と診断基準.あたらしい眼科27:627-631,20102)川島素子:ドライアイ基本講座基本手技シリーズ「リッドハイジーン─患者さんへの教育・説明を含めて─」FrontiersinDryEye7:56-61,20123)WittpennJR,EyeScrub:Simplifyingthemanagementofblepharitis.JOphthalmicNursTechnol14:25-28,19954)KeyJE:Acomparativestudyofeyelidcleaningregimensinchronicblepharitis.CLAOJ22:209-212,1996.本治療薬に対するコメント.マイボーム腺機能不全(MGD)は「眼の不快感」の海外では眼瞼専用のシャンプーは何種類か販売され主要な原因のひとつと考えられており,多くの場合,ているが,わが国においては,浸透圧やpHなどを涙蒸発型ドライアイを合併している.その治療方法は,液と同等にした「しみない」眼瞼専用シャンプーはなリッドハイジーン,温罨法,ドライアイ点眼,油性点く,当アイシャンプーは初めての製品としてリッドハ眼,眼軟膏,抗生薬内服,サプリメント(オメガ3),イジーンに対する有用性が期待される.しかし,洗浄マイボーム腺閉塞部の機械的圧出,などがあるが,中力は強くないことと,MGDに対する効果についてはでもリッドハイジーン習慣は慢性疾患である本症の治科学的データが未だないため,今後の臨床研究が待た療の基本である.れるところである.☆☆☆1574あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013(82)