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My boom 31.

2014年8月31日 日曜日

監修=大橋裕一連載MyboomMyboom第31回「後藤聡」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)連載MyboomMyboom第31回「後藤聡」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)自己紹介後藤聡(ごとう・そう)大阪大学眼科学教室所属,眼科医5年目兵庫県は尼崎で生を受け,金沢大学を卒業し,東京医療センターで初期研修完了の後,平成20年に大阪大学に入局いたしました.中学高校は六甲学院という男子校であり,毎日“パンツいっちょで便所掃除”をしていました.校則で決まっていたのかわかりませんが,寒い冬でも裸足で短パンというスタイルで,亀の子タワシ1つで便器をひたすら磨くという作業を繰返すことで,頭はともかく,体は鍛えられた記憶があります.大学時代は,日本の伝統が残る金沢でバスケット部以外に茶道や空手にも時間を費やし,和道に触れる時間をもつことができました.その経験が今の手術にも生きていると感じています.眼科Myboom入局後の異動先であった和歌山県紀南病院は,今では3人で年間2,000件を超える手術を行っており,とても恵まれた環境でした.今年の春からは大学院生として研究をスタートすることとなり,今は理研でお世話になっております.実情をよく聞かれますが,建物自体は普段と変わらず静かで,各研究室が淡々とそれぞれの研究を進めています.自分は黄斑の発生と,その機能に興味があり,黄斑萎縮が原因で視力が出ない方に,将来的に少しでも視力改善が可能になればと思い,研究に携わらせて頂くことになりました.研究のため,臨床からは一旦離れ,硝子体手術をストップさせなければならない大き(99)0910-1810/14/\100/頁/JCOPYなジレンマがありましたが,今しかできない大学院での研究生活に没頭したいと考えています.決して平坦な道ではないと思いますが,基礎から応用研究に,そして臨床に活かすことのできる仕事ができればと思います.まだまだ未熟な自分ですが,眼科になって感じるのは,研究にしても手術にしても,自ら学んで行くことはもちろん大切なことです.しかし,独学だけでは成り立たないことをよく感じます.先人の築き上げた知識と技術を師匠から吸収することで,過去の偉人のレベルにいち早く近づき,その上で新たな道(技術)を展開できるものではないかと感じます.特に手術に関しては,独学で執刀するのには限界と危険があり,やはり基本的な技術をしっかりと体得してから,応用に進むべきだと思います.空手や茶道,生け花,歌舞伎の世界でも同様に,弟子が師範から教えてもらうことでその歴史と基礎的な技術を継承し,経験を積み,そして新たな師範が生まれます.眼科手術道においても,弟子と師匠という関係は不可欠であり,良き師匠に出会うことはある意味では,最大の別れ道でもあると思います.研修医の時に,「眼科医に成り立てのあなたは,未熟さゆえに罪を犯している自覚が必要です.一日でも早く一人前の眼科になってください」と師匠から言われたのを思い出します.一日でも早く一人前になって,いつの日か師範のレベルに達したいと思います.(と言いながらも,しばらく手術はお預けですが….)食べ物Myboomとてもハマっている調味料があります.軽井沢に工房を持ち,銀座に店を構える燻製調味料を販売している‘煙事’の醤油とオリーブ油なのですが(写真1),これが本当に美味しいんです.調味料自体を燻製してあるので,香りだけでも香り豊かな醤油を2,3滴加えた卵かあたらしい眼科Vol.31,No.8,20141179 写真1煙事さんの燻製調味料最高級の卵かけご飯を召し上がってみてください.スコピゾルみたいで使いやすいです.けご飯は絶品です.お家で高級卵かけご飯が楽しめます.またお豆腐やアボカドなんかにも数滴足らすと風味が引き立ちます.豚汁やカレーなんかにも数滴加えるだけでコクがグッと増してお店の料理みたいになりますよ.入れ物も,“スコピゾル”みたいで可愛い?ので,眼科医には馴染みやすいかもしれませんね.是非お試しあれ!名言Myboom最近,印象に残った言葉があります.ココ・シャネルさんの言葉で“Naturegivesyouthefaceyouhaveattwenty;itisuptoyoutomeritthefaceyouhaveatfifty.”「20歳の顔は自然の贈り物.50歳の顔はあなたの功績」という言葉です.20歳ではなく30代になった自分にとって,20年後の自分が活き活きとしているか?大切な家族はHappyか?そして今は実現不可能でも20年後なら治せる方法は何か?なんてことも妄想しながら,新天地の生活をスタートさせている次第です.逆に20年先を妄想することで,日々の目標も明確になり,毎日に張り合いが出ます.短期的には2020年に東京オリンピックが開催されますが,眼科としても20/20で視力1.0!と縁起が良いので,何かできたらと妄想しています.ARVOMyboomオーランドで開催されたARVO2014に参加させて頂きました.3年ぶりに参加させて頂きましたが,よく遊びよく学ぶ学会となりました.ケネディー宇宙センターで,実際に宇宙に行ってきたスペースシャトル,アトラ写真2東京医療センターの秋山先生とアトランティスが空を飛んでいるかのように見せる展示は感動ものです.ンティスを目の当たりにできたのは本当に幸せでした(写真2).昨今ではあまりニュースになりませんが,1960年代から90年代にかけての宇宙構想は,それはそれは全世界が期待を寄せる一大イベントだったことを実感できました.またスヌーピーがNASAのマスコットに認定されていたことも驚きでした.アポロ10号計画ではロケットの名前がチャーリーブラウンと操縦士によって名付けられたのも事実で,さすがにおちゃらけ過ぎとの指摘があり,11号計画では司令船をコロンビア,着陸船をイーグル(アメリカの象徴)というように真面目な名前が付けられるようになったそうです.発表は講演だったため,予想通り本場の英語を聞き取るのが難しく,(いつも感じることですが)英語のストレスから早く解放されたいと思いました.それこそ2020年には英語のストレスから解放されていたいものです.次にバトンをお渡しするのは,僕が初期研修医の頃に指導を頂いた,東京医療センター角膜斑の福井正樹先生です.福井先生は,東京医療センターで後期研修を終えた後,慶應大学坪田教授フェローとして勤務され,昨年より東京医療センターで角膜移植を中心に,硝子体手術までも執刀する,とてもハイパーな先生です.公私ともにお世話になっている福井先生のMyboomに注目です.注)「Myboom」は和製英語であり,正しくは「Myobsession」と表現します.ただ,国内で広く使われているため,本誌ではこの言葉を採用しています.1180あたらしい眼科Vol.31,No.8,2014(100)

現場発,病院と患者のためのシステム 31.無線技術の応用(患者認証など)

2014年8月31日 日曜日

連載現場発,病院と患者のためのシステム連載現場発,病院と患者のためのシステム無線技術の応用(患者認証など)杉浦和史*.無線を使って何ができるかRFID(アールエフアイディ:radiofrequencyidentifier)とは,弱い電波を飛ばして数cm.数mの近くにある検知対象物(ID)を捜す仕掛けです.この機能を使って検知範囲に入ってきた患者を見つけ,識別することができます(図1,2参照).患者,医療スタッフ(医師,看護師など)の識別も可能で(図3),付き添いの患者家族が診察券をもっていた場合でも識別が可能です.もっ④送られてきたIDから患者なのか,スタッフなのかを判別する.①RFIDタグが埋め込まれた③ID番号診察券がRFIDリーダの検知範囲に入る.⑤患者検索(患者の場合)⑥患者表示②タグの中に記憶された認証用ID情報が転送される.図1RFIDによる患者認証の流れR手術患者の認証をバーコードのリストバンドで行う方法が一般的ですが,それでも患者を間違えて手術してしまったという医療事故が後を絶ちません.名前を呼び,診察室にきた患者に名前をいわせて確認するという方法を採っているところもあります.電子マネーカードのようなタッチ式のものも出ていますが,無線を使う認証方法につき紹介します.とも,これはRFIDそのものの機能ではなく内部で処理するものです.患者特定ができれば,付き添いできている患者家族がもっている診察券を読み取っても,今日診察ではないことがわかれば無視するという具合です.たまたま同じ日に診察することになっていたとしても,診図2RFIDによる患者認証の実験R図3読み取ったIDで属性識別R*KazushiSugiura:宮田眼科病院CIO/技術士(情報工学部門)(97)あたらしい眼科Vol.31,No.8,201411770910-1810/14/\100/頁/JCOPY 察時間帯,予約している医師,呼ばれたか否かの情報で切り分けることができます.また,患者が誤って家族の診察券をもってきてしまった場合でも,当人でないことのチェックが可能で,所定の手続きを経て診察を受けることができます..障害物の影響電波の到達距離が短く,弱いという特徴がありますが,診察室内など限られた空間にあっては問題なく機能します.患者がバッグに診察券を入れていた場合でも検知可能です(図4参照).図4カバンに入れた診察券を検知R.操作者の認証誰が何時操作したかは,証拠を残すという意味で重要なことです.これも無線技術を応用することで手間をかけずに実現可能です.操作者が持っているスタッフカードに組み込まれたIDを一定時間間隔(Δt)で読み,誰が操作しているかを常時チェックします.他の作業やトイレで操作を中断して席を離れることは珍しくありませんが,離席している間に散瞳チェックの時刻になり,メッセージが表示され,応答を促される場合があります.臨機応変に近くにいる別の看護師,検査員が“了解”をクリックし散瞳チェックしますが,このときの操作者は,それまで操作していたスタッフではありません.誰が“了解”の応答をしたのかは,図5に示す方法で自動化できます.ただし,たまたま通りかかった操作者とは違うスタッ1178あたらしい眼科Vol.31,No.8,2014一定時間間隔で操作者が変わっていないことを確認引き続き同一人物が操作ID=123ID=123Δt離席Δ※tは100msec単位で指定可能別人物が操作ID=123ID=456離席図5操作者の認証Rフを認識してしまう場合もあるので,前後で操作者が異なる場合には,“操作者が違います”のメッセージを表示し,可否を確認させるようにします.また,検知範囲に複数人がいて,その誰かを自動的には判定しかねる場合も想定されます.この場合には,検知した人数分の選択肢を表示させ,.をつけて操作者を特定します(図6参照).小倉里代子山崎智恵子確定複数の看護師を検知しました。図6スタッフの確定操作メッセージR以上,説明してきた機能により,受付,検査,診察,回診,手術,会計などの院内の業務で患者間違いのリスクが軽減され,かつ操作者の認証ができ,責任の所在の明確化が可能になります.これからは無線を応用する時代になるので,アンテナを高くしておく必要があります.※掲載されている処理,画面,メッセージなどにつきましては,当院に著作権があります.また,2011年2月から始まりました連載内容につき,ご質問,お問い合わせがある場合にはosugisama@gmail.comにお願いいたします.(98)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 135.眼内レンズ毛様溝逢着術後の網膜剥離(中級編)

2014年8月31日 日曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載135135眼内レンズ毛様溝縫着術後の網膜.離(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめに眼内レンズ(以下IOL)毛様溝縫着術については本シリーズ42「眼内レンズ毛様溝縫着術」(初級編)でも記載した.IOL毛様溝縫着術は強膜通糸など手術手技の煩雑さに加えて,硝子体への侵襲が大きくなるため網膜.離の発症率も高い.●IOL眼内レンズ毛様溝縫着術後の網膜.離は難治例が多い筆者らは過去にIOL毛様溝縫着術後の裂孔原性網膜.離の臨床的特徴につき検討した1).毛様溝縫着術より網膜.離発症までの期間は平均81.5日で,網膜.離発症時の前眼部所見は,散瞳不良,IOL偏位(図1),IOL後面のフィブリン析出などが多くみられた.網膜裂孔の発生部位は赤道部が多かったが,通常の無水晶体眼網膜.離にみられる最周辺部裂孔もみられ,前眼部の所見と相まって術前の裂孔検出が困難な症例が多い傾向にあった.また,IOL毛様溝縫着術時の縫合針による網膜の直接傷害が原因と考えられる裂孔もみられた.これは他院の手術例で詳細は不明だが,おそらく極端に低眼圧の状態で無理に強膜通糸を施行したため,誤って対側の網膜を損傷した可能性が高い.加えて,角膜内皮障害も強い症例や増殖性硝子体網膜症に進行している症例(図2)も多く,通常の裂孔原性網膜.離と比較して難治例が多い傾向にあった.●網膜.離に対する術式強膜バックリング手術で治癒できる症例もあるが,通常は硝子体手術を必要とすることが多い.散瞳不良例に対してはアイリスリトラクターによる瞳孔形成を行い,硝子体を可能な限り周辺部まで切除する.IOLの偏位が図1眼内レンズ偏位例眼内レンズが大きく偏位しており,眼内の炎症も高度であった.硝子体手術中の視認性確保のために眼内レンズを摘出した.図2増殖性硝子体網膜症併発例初回の白内障手術で3時間を要した後,網膜.離を発症したため紹介された.硝子体出血を併発しており眼底透見不良.眼底は増殖性硝子体網膜症に進行していた.高度な症例では,強膜弁を開放して毛様溝縫着糸を切断し,IOLを摘出する必要がある.IOL毛様溝縫着術後,長期間経過している症例ではIOLループや縫合糸が周囲組織と癒着しているため,強膜弁下の糸を切断するだけでは摘出できないことが多い.このような場合には,眼内からIOLループ先端を硝子体剪刀で切断するなどの処置が必要である.また,IOLを温存した場合でも,液空気置換時に多くの症例でIOL表面に結露が生じたり,空気が前房内に流入し,眼底像が極端に縮小するなど,視認性の確保に苦慮することも多い.●IOL毛様溝縫着術に関する注意点白内障手術時に後.破損を生じIOL毛様溝縫着術を施行する際には,丁寧な前部硝子体切除を行い,盲目的な操作を避けて,侵襲の少ない術式で行う必要がある.IOL毛様溝縫着術に習熟していない術者は,無理をせず,いったん水晶体切除のみで手術を終え,熟練者に依頼した方が無難である.また,IOL毛様溝縫着術を施行した症例では,網膜.離の早期発見のためにも,術後の厳重な経過観察が重要である.文献1)伊東文,植木麻理,南政宏ほか:眼内レンズ縫着術後の裂孔原性網膜.離.眼科手術16:219-221,2003(95)あたらしい眼科Vol.31,No.8,201411750910-1810/14/\100/頁/JCOPY

眼科医のための先端医療 164.糖尿病黄斑浮腫に対する硝子体手術適応を3次元画像解析から考える

2014年8月31日 日曜日

監修=坂本泰二◆シリーズ第164回◆眼科医のための先端医療山下英俊糖尿病黄斑浮腫に対する硝子体手術適応を3次元画像解析から考える阿部さち(山形大学医学部眼科学講座)はじめに糖尿病黄斑浮腫形成の機序には種々の原因が複雑に関与し合っていると考えられています.網膜血管内皮細胞の障害やそれに伴う毛細血管瘤からの漏出,網膜色素上皮のポンプ機能の異常,高血圧に伴う網膜血管内静水圧の上昇による黄斑部の浮腫促進,硝子体内への血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)やIL-6などの炎症性サイトカインの貯留,炎症のケミカルメディエーターの貯留による網膜・硝子体細胞の機能の制御異常,黄斑上への膜形成による垂直方向への牽引力などがあります.われわれは,糖尿病黄斑浮腫の患者さんを診た場合,この患者さんの浮腫形成に,今,どの因子がより悪影響を及ぼしているかを見きわめ,それに対処してく必要があります.具体的には,浮腫の原因となるような漏出を認める網膜細血管瘤を検出できれば,それに対して直接光凝固を行います.色素上皮のある部分からの漏出であればその部分に格子状光凝固を行います.増殖網膜症の合併や浮腫遷延を認めた場合には,炎症の機序を考えステロイドや抗VEGF抗体を使った薬物投与を行います.糖尿病黄斑浮腫に対する硝子体手術現在の糖尿病黄斑浮腫の治療で最も侵襲的である硝子体手術に関しては,その適応が曖昧であり,その治療の特徴から他の治療で無効な場合に行われる傾向にあるのが現状ではないでしょうか.とくに昨今の欧米では抗VEGF抗体が万能であるかのような風潮もあり,海外では保険診療の体制の観点からも,あまりメジャーな治療ではなくなりつつあります.しかし,糖尿病黄斑浮腫に対する硝子体手術は日本で多く行われ,日本の先生方がたくさんのデータを出されてきたという背景があります1.3).実際に日常診療でも効果の持続性があり,一定の効果が得られる治療として,硝子体手術は必要なツールと考えられます.牽引なし牽引あり表面は平滑微細な皺襞あり牽引あり図1糖尿病黄斑浮腫のOCT分類従来の断層像による牽引のある/なしの2群への分類を,セグメンテーション画像を使うことで,牽引のないもののなかから網膜表面に微細な皺襞を要する症例を分類できる.(文献6より改変して引用)(91)あたらしい眼科Vol.31,No.8,201411710910-1810/14/\100/頁/JCOPY 図2網膜表面に皺襞のある症例における硝子体手術前後のOCT変化内境界膜.離を行うと,網膜浮腫が軽減するだけでなく,網膜表面の微細な皺襞も消失している.(文献6より改変して引用)硝子体手術の適応の検討筆者らは,現状ではやや曖昧な硝子体手術の適応を,客観的で判定しやすい方法で決定できないかと考えました.2010年にDRCR.netが,黄斑部に牽引が検出できる糖尿病黄斑浮腫には硝子体手術が有効であるという報告を出しました4).この報告を受けて,筆者らは糖尿病黄斑浮腫の個々の症例に牽引力が働いているかどうかの検討をOCTを用いて行いました.今回とくに着目したのがスペクトラルドメインOCT(CirrusTMHD-OCT)で得られる3次元のセグメンテーション画像です.筆者らは以前,ポリープ状脈絡膜血管症で色素上皮レベルのセグメンテーション画像を見ると,ポリープ病変と異常血管網のつながりを観察できることを報告しました5).セグメンテーション画像は,元来OCTが網膜や色素上皮,脈絡膜の垂直方向の変化を描出するためのツールであったのに対し,網膜接線方向の病変の水平な広がりもとらえることができるようになりました.糖尿病黄斑浮腫では,とくに内境界膜レベルの画像に変化が現れます.当科で過去に硝子体手術を行った患者さんのOCTを,1172あたらしい眼科Vol.31,No.8,2014とくに3次元解析画像に着目して検討しました.その結果やはり多かったのは,断層像のみで見ても黄斑上膜や肥厚した後部硝子体膜などが描出され,従来「硝子体牽引が関与している」と考えていた症例でした.そのほかに,黄斑上膜や後部硝子体膜が明らかには検出されない症例群の中に,ILMレベルのセグメンテーション画像で,表面が平滑な症例と微細な皺襞がある症例に分類できました.つまり,従来の断層像では,硝子体牽引がある/なしの2群にしか分類できなかったものが,ILMレベルのセグメンテーション画像に着目することで,3群に分けることができた,ということです(図1).手術治療の効果という観点からは,術後3カ月の時点では3群に明らかな差はなく,3群とも改善を得られました.また,術前・術後のOCTを見比べてみると,ILMレベルのセグメンテーション画像で認めた網膜表面の皺襞は,手術で内境界膜.離を行うと消失することも確認しました.この,手術中に.離した組織を免疫染色すると,硝子体由来のコラーゲンIVは検出されず,内境界膜由来のコラーゲンIIは染色されました.このことから,.離された組織は間違いなく内境界膜であり,ILMレベルのセグメンテーション画像で検出された皺(92) 襞は,内境界膜が形成するものであることが推察されました.この皺襞の消失とともに浮腫が軽減していることから,黄斑浮腫の形成に皺襞が関与しているとも考えられます(図2)6).これまで当科で行った糖尿病黄斑浮腫に対する硝子体手術をレトロスペクティブに検討すると,断層像で黄斑上膜や肥厚した後部硝子体膜が検出される場合のほかに,レーザー治療や薬物治療に抵抗性で視力が徐々に低下してきた症例にも多く施行されているというのが実際でした.しかし,硝子体手術という侵襲の大きさから,治療時期を逸してしまい著明な視力低下に至った場合には予後が不良との報告もあります7).さいごに近年の小切開硝子体手術などの技術の進歩により硝子体手術の適応はどんどん広がってきています.この眼科手術のめざましい発展は,これまで誠実に一人ひとりの患者さんと向き合って手術を行ってこられた先生方の経験と探究心に基づくものです.簡潔で安全にできるからといってむやみに手術を行ったり,流行の方法に流れてしまったりして,一人ひとりの患者さんに合った適正な治療を行う努力を怠ってはならないと考えます.今回の糖尿病黄斑浮腫における3次元画像解析の検討が,硝子体手術の適応の適正化だけでなく,レーザー治療や薬物治療など他の治療も含めた糖尿病黄斑浮腫治療の適正化につながるように,さらに検討を重ねたいと思います.文献1)TheDiabeticRetinopathyClinialResearchNetwork(DRCR.net)etal:Three-yearfollow-upofaramdomizedtrialcomparingfocal/gridphotocoagulationandintravitrealtriamcinolonefordiabeticmacularedema.ArchOphthalmol127:245-251,20092)DiabeticRetinopathyClinicalResearchnetwork(DRCR.net):Randomizedtrialevaluatingranibizumabpluspromptordeferredlaserortriamcinolonepluspromtlaserfordiabeticmacularedema.Ophthalmology117:1064-1077,20103)KumagaiK,FurukawaM,OginoNetal:Long-termfollow-upofvitrectomyfordiffusenontractionaldiabeticmacularedema.Retina29:464-472,20094)DiabeticRetinopathyClinicalResearchNetworkWritingCommitteeonbehalfoftheDRCR.net:Vitrectomyoutcomesineyeswithdiabeticmacularedemaandvitreomaculartraction.Ophthalmology117:1087-1093,20105)AbeS,YamamotoT,YamashitaHetal:Three-dimensionalfeaturesofpolypoidalchoroidalvasculopathyobservedbyFourier-domainopticalcoherencetomography.OphthalmicSurgLasersImaging9:1-6,20106)AbeS,YamamotoT,KashiwagiYetal:Three-dimensionalimagingoftheinnerlimitingmembranefoldingonthevitreomacularinterfaceindiabeticmacularedema.JpnJOphthalmol57:553-562,20137)YamamotoT,TakeuchiS,SatoYetal:Long-termfollow-upresultsofparsplanavitrectomyfordiabeticmacularedema.JpnJOphthalmol51:285-291,2007■「糖尿病黄斑浮腫に対する硝子体手術適応を3次元画像解析から考える」を読んで■OCTが眼科臨床に導入されて10年以上が経過しま今回のアプローチは,その限界を克服するための優れした.当初は,疾患の分類・病態の解明など研究目的た方法です.網膜皺壁は2次元画像上では,網膜表面で使用されましたが,最近はむしろ個々の症例の診断のわずかな乱れとしか映りませんが,3次元画像に再治療へと,その使用は大きく広がっています.構築すると変化が明らかになります.それだけではな網膜領域についてもそのことはいえます.OCTにく,影響を及ぼす領域も如実に描出されます.それらより,糖尿病黄斑症の病型・病態にもさまざまなものを検討することで,硝子体手術が効果的な症例とそうがあることが報告されましたが,そのデータを用いるでないものを選別しようというのが今回の試みであことで,予後予測についての診断精度が格段に向上しり,その目的を達成しています.ました.たとえば,OCT画像上の網膜外層IS/OS阿部先生が述べられているように,硝子体手術が有lineの存在が視力予後を占う上で重要であることがわ効であれば,頻回の眼内注射に比べて,患者負担は大かったことなどは,その好例です.幅に減少します.しかも,糖尿病黄斑症に対する硝子しかし,個々の症例においては,このことが当ては体治療は,わが国が世界をリードしてきたのです.たまらない場合も多くあります.とくに,硝子体手術のだし,硝子体手術はどの症例にも有効なわけではありような網膜の3次元構造に介入する治療の効果をみるません.大規模臨床研究のような幅広い症例を対象と場合,2次元画像上の解析だけでは限界があります.した治験ではその有効性は表れにくく,眼内注射を凌(93)あたらしい眼科Vol.31,No.8,20141173 駕する治療成績は得られていません.しかし,今回の療”という考え方が推奨されていますが,その意味か方法で糖尿病黄斑症の中から硝子体手術が有効な症例らも3次元OCT画像を用いた硝子体手術適応の選択を選別することができれば,硝子体手術の真の有効性はきわめて今日的な方法であるといえます.が明らかになるのではないでしょうか.最近は,患者鹿児島大学眼科坂本泰二ごとに最適な治療法を選択する“テーラーメード医1174あたらしい眼科Vol.31,No.8,2014(94)

新しい治療と検査シリーズ 219.フェムトセカンドレーザーを用いた白内障手術

2014年8月31日 日曜日

新しい治療と検査シリーズ219.フェムトセカンドレーザーを用いた白内障手術プレゼンテーション:ビッセン宮島弘子東京歯科大学水道橋病院コメント:清水公也北里大学医学部眼科学教室.バックグラウンド白内障へのレーザー導入は,20年以上前のピコセカンドYAGレーザーに始まる.2005年にはフェムトセカンドレーザーの水晶体照射への安全性が報告された1).その後,フェムトセンドレーザーによるlaserinsitukeratomileusis(LASIK),角膜リング,角膜移植における角膜への照射が普及した.白内障手術へは,2008年に最初の症例が行われ2),その後,アメリカ食品医薬品局(FoodandDrugAdministration:FDA)をはじめ,各国で承認を得て,手術件数は増え続けている.日本においても2012年から一部の施設で導入されている3)..新しい手術法白内障手術における角膜切開,水晶体前.切開,水晶体核分割をレーザーで行うが,混濁した水晶体を吸引し,眼内レンズを角膜切開創から挿入するという基本概念は変わらない.しかし,従来の白内障手術は,術者が手術顕微鏡を通して観察している角膜や水晶体に,手の感覚で切開を加えていくのに比べ,レーザー手術は,その場でレーザーと一体化されている前眼部光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)を用いて角膜や水晶体を測定し,正確な位置に予定のデザインでレーザー照射していく.この際,今までの手動による操作では不可能だった多彩な切開パターンが可能となる.具体的には,前.へは中心を合わせ,規定の直径で正円形の照射を行っているが,今後,眼内レンズの開発によって楕円形や複雑な形状でも前.切開ができる.水晶体内照射は,今までの水晶体核4分割が基本になっているが,このような直線の分割のみならず,円形,さらにグリッド状の細かい分割ができる.これにより,超音波乳化吸引時間が短縮される.角膜切開は,2面,3面切開が可能で,切開の深さ,トンネルの長さを設定できる.乱視(89)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY図1レーザー照射右側がOCT測定画面,左側が実際のレーザー照射画面である.左画面は,すでに前.,水晶体核内,角膜照射が終了しているところである.矯正の角膜切開も可能である..手術方法現在,臨床使用されているフェムトセカンドレーザーは4種類あるが,ここでは,筆者が用いているLenSxR(アルコン社)での手術方法を述べる.なお本レーザーは2014年6月現在,承認申請中である.まず,患者が仰臥位の状態で,角膜上にPatientInterface(PI)をのせ,吸引固定し,OCT測定を行う.測定結果に基づき,前.,水晶体内,角膜への照射位置を確認する(図1).各組織へのレーザー照射は,あらかじめ設定したエネルギー,スポットサイズ,スポット間隔で行い,照射時間は約30秒である.レーザーは,照射時に発生する気泡が照射を妨げないよう前.,水晶体内,最後に角膜照射となる.レーザー照射が終了したら,PIをはずし,顕微鏡下で水晶体吸引,眼内レンズ挿入を行う(図2).あたらしい眼科Vol.31,No.8,20141169 abcabc図2手術顕微鏡下前.(a),水晶体(b),角膜(c)へのレーザー照射部位が観察される..本方法の良い点顕微鏡下で観察しながら術者の手でコントロールするマニュアル方式から,OCTで測定された角膜や水晶体組織にミクロン単位で3次元のデザインにそってレーザー照射するという,非常に精度が高く,再現性のある切開が可能であることである.現在の眼内レンズでそこまで要求されるかという点では,多焦点やトーリックといった高機能レンズを理想的な位置に固定できる利点が報告されている.今後,眼内レンズは調節機能を求め,さらに進化していくことが予想され,その際,水晶体切開にレーザーが必須になるかもしれない.また,現在は超音波乳化吸引術との組み合わせであるが,今後,レーザーのみで白内障手術を完成する方向に進むことは間違いないと思われる.文献1)KruegerRR,KuszakJ,LubatschowskiHetal:Firstsafetystudyoffemtosecondlaserphotodisruptioninanimallenses:tissuemorphologyandcatracttogenesis.JCataractRefractSurg31:2386-2394,20052)NagyA,TakacsA,FildornTetal:Initialclinicalevalutationofanintraocularfemtosecondlaserincataractsurgery.JRefractSurg25:1053-1060,20093)ビッセン宮島弘子:フェムトセカンドレーザーを用いた白内障手術.日本の眼科84:1381-1382,2013.コメント.私自身,新しい手術器械や手術方法は,どちらかとらかでないことと,難症例と考えられている小瞳孔やいえば大変好きなほうである.もし,PEAを用いず,過熟白内障,硬い核においては,レーザーが有効でな1mm以下の切開にて白内障手術および眼内レンズ挿いことである.2つ目は,機器自体や消耗品およびラ入が可能になるならば,フェムトセカンドレーザーにンニングコストが高価であり,医療費抑制という時代よる白内障手術は素晴らしいことに間違いないし,私の流れに反すると考える.適応が限定され手術時間もも始めていたと思う.しかし,現時点では,以下の2長くなり,患者・医者の両者に利益がなく,唯一利益つの理由によって,フェムトセカンドレーザー白内障を得るのは企業だけである.以上の理由により,現時手術に躊躇している.点においてフェムトセカンドレーザーを用いた白内障1つ目は,フェムトセカンドレーザーを用いても矯手術は,時期尚早と考える.正精度など,術後成績の向上が期待できるか否かが明☆☆☆1170あたらしい眼科Vol.31,No.8,2014(90)

私の緑内障薬チョイス 15.塩化ベンザルコニウム過敏症に対する緑内障点眼

2014年8月31日 日曜日

連載⑮私の緑内障薬チョイス企画・監修山本哲也連載⑮私の緑内障薬チョイス企画・監修山本哲也15.塩化ベンザルコニウム過敏症に杉崎顕史JCHO東京新宿メディカルセンター眼科対する緑内障点眼日常臨床で塩化ベンザルコニウムによる過敏症をもつ緑内障患者に出会うことがしばしばある.以前は抗緑内障点眼薬の選択肢としてプロスタグランジン関連薬ではトラバタンズRしか選べなかったが,近年ではタプロスRミニやラタノプロストの後発薬で塩化ベンザルコニウム非含有のものが発売されるなど,選択肢は広がっている.症例患者は両眼のかゆみ,充血を主訴に近医眼科を受診し,ドライアイと診断.同時に眼底検査にて左眼視神経乳頭所見から緑内障を疑われ当科紹介受診となった.Humphrey視野計にて左眼乳頭所見に一致する視野障害を認め,無治療時眼圧両眼とも14.15mmHgの正常眼圧緑内障と診断した.充血およびかゆみについてはアレルギー性結膜炎と判断し,塩酸オロパタジン点眼,クロモグリク酸ナトリウム点眼を処方するも,かゆみが増悪し,防腐剤フリーのクロモグリク酸ナトリウム点眼にて症状が改善したことから,塩化ベンザルコニウム(BAK)過敏症と診断した.このため抗緑内障点眼薬としてBAKを含有していないトラバタンズRを処方したものの,刺激感や点眼後のかゆみなどの不調を訴えたため,ちょうど新規採用となったタプロスRミニ点眼に切り替え,現在のところ点眼後の不調の訴えもなく,左眼眼圧10mmHg程度で安定している.塩化ベンザルコニウムフリーの点眼現在,国内で販売されている点眼薬にはBAKが多く用いられており,近年種類が増えている抗緑内障点眼薬に関しても,BAKフリー点眼の選択肢は限られる.ジェネリック製剤を除くBAKフリーの抗緑内障点眼を表1に示す.このほか,ラタノプロスト,ウノプロストン,チモロール,カルテオロール,ニプラジロールについては,ジェネリック製剤で容器の工夫で防腐剤を不要としているものや,防腐剤としてBAK以外のものを用いているものもある.本症例のようにBAKに過敏性がある症例の場合,緑内障に対する第一選択薬としてプロスタグランジン関連薬としては4年ほど前まではトラバタンズR以外に選択肢がなかった.トラバタンズRにはラタノプロストと比較し,充血や上眼瞼溝深化などの眼局所の副作用が強く認められるとの報告がある1.3).また,トラバタンズRはpHが他のものに比べ低く(表2),酸性度が強いため点眼時の刺激感が強く,「しみて使いづらい」と患者がさし心地に関して訴えることがあり,その場合,以前はチモプトールRXEを処方していたが,現在はBAKフリーのジェネリック製剤のラタノプロスト点眼液とタプロスRミニが使えるようになっている.BAKは防腐剤としての効果のほかに,可溶化剤や薬剤透過性の亢進効果も有しているといわれており,ラタノプロストのジェネリック製剤については,長期の使用表1BAKを含有しない抗緑内障先発点眼薬とその防腐剤点眼薬トラバタンズRチモプトールRXEデュオトラバRアイファガンRサンピロRクロロブタノール防腐剤SoFZiaR臭化ベンゾデシニウムポリクォッド亜塩素酸ナトリウムパラオキシ安息香酸プロピルパラオキシ安息香酸メチル本欄の記載内容は,執筆者の個人的見解であり,関連する企業とは一切関係ありません(編集部).(87)あたらしい眼科Vol.31,No.8,201411670910-1810/14/\100/頁/JCOPY 表2プロスタグランジン関連薬のpH値点眼薬ラタノプロストトラボプロストタフルプロストビマトプロストpH6.5.6.95.75.7.6.36.9.7.5表3BAKフリープロスタグランジン関連薬の薬価点眼薬トラバタンズRラタノプロスト(BAKフリー)タプロスRミニ薬価1,007.6円/ml512.570.8円/ml96.9円/個効果の報告がほとんどないこともあり,筆者の個人的な考えとしては積極的には使いづらい.そのため本症例のような場合は,以前であればBAKフリーのラタノプロストのジェネリック製剤を処方していたが,最近はタプロスRミニを処方するようにしている.タプロスRミニはラタノプロストに比べると酸性度が強いが,トラバタンズRほどではなく,今までの筆者の経験ではさし心地で大きな不満を訴えられていない.早期の緑内障では自覚症状に乏しいため,点眼のさし心地は治療や通院の継続率に及ぼす影響は少なくないと考えられる.コストに関してBAKフリーのプロスタグランジン関連薬の薬価を表3に示す.タプロスRミニについては1日1本使用なので30日で2,907円になる.他の点眼薬は1本2.5mlであり,1本あたりにするとトラバタンズRが2,519円,ラタノプロストが1,280円.1,427円となる.片眼点眼の場合2.5ml1本で1カ月足りることが多く,1回使いきりのタプロスRミニは割高になってしまうが,両眼点眼の場合は2.5mlが1本では足りず1.5本から患者によっては2本程度必要なこともあり,そのような患者の場合はジェネリック製剤と比較してもコスト面で大きな不利にはならない.また,タプロスRミニは残っている本数を聞くことで,点眼忘れの割合が把握しやすいことも利点と考える.●点眼の追加本症例では1剤で良好な眼圧下降が得られているが,今後,視野障害の進行などが認められ点眼追加をする場合を考える.選択肢としては炭酸脱水酵素阻害薬が使えないため,最近まではb遮断薬のチモプトールRXEを追加するか,プロスタグランジン製剤の配合剤であるデュオトラバRに切り替えていたが,a2作動薬であるアイファガンRは防腐剤に亜塩素酸ナトリウムを用いており,本症例のような場合でも使用しうる.おわりに緑内障では長期にわたり点眼を続ける必要があり,添加物による眼表面障害も普段の外来診療で経験することは少なくない.BAKを含有しない点眼の選択肢も徐々に増えており,本症例のようなBAK過敏症のみならず,その他の症例に対しても点眼薬の添加物もある程度考慮に入れた薬剤選択をしていきたい.文献1)LiN,ChenXM,ZhouYetal:Travopostcomparedwithotherprostaglandinanaloguesortimololinpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension:meta-analysisofrandomizedcontrolledtrials.ClinExperimentOphthalmol34:755-764,20062)InoueK,ShiokawaM,WakakuraMetal:Deepeningoftheuppereyelidsulcuscausedby5typesofprostaglandinanalogs.JGlaucoma22:626-631,20133)MaruyamaK,ShiratoS,TsuchisakaA:IncidenceofdeepeninoftheuppereyelidsulcusaftertopicaluseoftravoprostophthalmicsolutioninJapanese.JGlaucoma23:160-163,20141168あたらしい眼科Vol.31,No.8,2014(88)

抗VEGF治療:抗VEGF薬の薬物動態

2014年8月31日 日曜日

●連載抗VEGF治療セミナー監修=安川力髙橋寛二7.抗VEGF薬の薬物動態澤田智子滋賀医科大学眼科学講座現在の網膜疾患の治療では抗VEGF薬は欠かすことができない薬剤であり,その薬物動態を知ることは重要である.今回,それぞれの薬剤の主に半減期について,従来の報告,当教室で行った実験の結果を述べる.現在,網膜疾患の治療として,抗VEGF(vascularendothelialgrowthfactor)薬の硝子体内投与が広く行われている.現在,日本で眼科疾患に認可されている抗VEGF薬は3剤で,ペガプタニブ(マクジェンR),ラニビズマブ(ルセンティスR),アフリベルセプト(アイリーアR)である.ベバシズマブ(アバスチンR)は適用外使用となる.4つの薬剤の特徴,半減期を表1に示す1).また,アバスチンを除いた3つの薬剤の適用疾患別の投与方法を表2に示す.解離定数,結合するVEGF,硝子体内での半減期を考えると,アフリベルセプトが最もVEGFを抑えるのに効果的かと思われる.しかし一方,血清中の半減期はラニビズマブが最も短く,全身への影響は少ないように思える.ただし実際の臨床では,薬物のこれらの特徴がそのまま臨床効果に反映される症例もあれば,そうではない症例もあるという印象をもっている.当教室では,三宅らが,カニクイザルの硝子体内にベバシズマブ(1.25mg)を投与し,前房水のベバシズマブ濃度を測定し,ベバシズマブの眼内の半減期は2.8±0.6日であったと報告した(図1)2).また,当教室の柿木らは,カニクイザルに硝子体切除術,水晶体切除術を行い,その術眼の硝子体内にベバシズマブ(1.25mg)を投与し,前房水のベバシズマブ濃度を測定した.その結果,無硝子眼でのベバシズマブの眼内での半減期は1.5±0.6日と短くなることがわかり,硝子体手術後の症例へ抗VEGF薬を投与する際には,そのことも考慮して投与間隔を決めたほうがよいと思われた(図2)3).表1現在使用されている抗VEGF薬の主な構造と薬物動態学的特徴(文献1より引用・改変)ペガプタニブ(マクジェンR)ラニビズマブ(ルセンティスR)ベバシズマブ(アバスチンR)アフリベルセプト(アイリーアR)ヒト化モノクローナルヒト化モノクローナ構造PEG化アプタマー抗体のFab断片ル抗体融合糖蛋白質分子量(kDa)5048149115VEGF165に対するKd(解離定数)(pM)5046-19258-1100.5VEGF-A標的となるVEGFVEGF165VEGF-AVEGF-AVEGF-BPlGF投与量0.3mg(0.09ml)0.5mg(0.05ml)1.25mg(0.05ml)2mg(0.05ml)硝子体内の2.6.2.88(ウサギ)4.32.6.61(ウサギ)3.9(サル)3.3.2(サル)3.1(サル)4.5.4.7(ウサギ)半減期(日)7.1(ヒト)6.7.10(ヒト)ヒト血清中の半減期(日)100.252118解離定数(Kd)は薬のレセプターへの結合のしやすさを表し,その値が小さいほど受容体への親和性は高いことを示す.(85)あたらしい眼科Vol.31,No.8,201411650910-1810/14/\100/頁/JCOPY 表2各薬剤の投与方法ペガプタニブ(マクジェンR)ラニビズマブ(ルセンティスR)アフリベルセプト(アイリーアR)加齢黄斑変性6週間ごとに投与1カ月ごとに1回,連続3カ月間(導入期)投与し,その後の維持期においては症状に応じて投与1カ月ごとに1回,連続3カ月間(導入期)投与し,その後の維持期においては通常2カ月毎に1回投与網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫投与開始後,視力が安定するまでは,1カ月に1回投与が望ましい病的近視における脈絡膜新生血管疾患の活動性が認められた場合に投与することが望ましい糖尿病黄斑浮腫投与開始後,視力が安定するまでは,1カ月に1回投与が望ましい網膜中心静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫投与開始後,視力が安定するまでは,1カ月に1回投与が望ましい1000010001001010.1100000072w4wTimeBevacizumabconcentration(ng/ml)6w8winjectedeyeuninjectedeyeserum4wTime1000010001001010.1100000BevacizumabconcentrationinAqueousHumorandSerum(ng/mL)VitrectomizedeyesSerum1D3D1W2W6W8W図1前房水,血清内のベバシズマブ濃度カニクイザルの硝子体内にベバシズマブを投与し,その後に前房水,血清ベバシズマブ濃度を測定した.(文献2より引用)文献1)StewartMW:Pharmacokinetics,pharmacodynamicsandpre-clinicalcharacteristicsofophthalmicdrugsthatbindVEGF.ExpertRevClinPharmacol7:167-180,20142)MiyakeT,SawadaO,KakinokiMetal:Pharmacokineticsofbevacizumabanditseffectonvascularendothelialgrowthfactorafterintravitrealinjectionofbevacizumab図2無硝子体眼における前房水,血清内のベバシズマブ濃度カニクイザルの眼に硝子体手術を行い,ベバシズマブの硝子体内投与を施行,その後に前房水,血清のベバシズマブ濃度を測定した.(文献3より引用)inmacaqueeyes.InvestOphthalmolVisSci51:16061608,20103)KakinokiM,SawadaO,SawadaTetal:EffectofvitrectomyonaqueousVEGFconcentrationandpharmacokineticsofbevacizumabinmacaquemonkeys.InvestOphthalmolVisSci53:5877-5880,2012☆☆☆1166あたらしい眼科Vol.31,No.8,2014(86)

緑内障:RTVue®-100

2014年8月31日 日曜日

●連載170緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也170.RTVueR.100北善幸杏林大学医学部眼科学教室RTVueR-100の神経節細胞複合体(GCC)厚測定は緑内障診断や経過観察に有用である.ただし,強度近視眼の解析をする場合,GCC厚だけでなく,globallossvolumeやfocallossvolumeも緑内障がないにもかかわらず陽性の結果(偽陽性)になることが多々あるので,注意が必要である.●はじめにRTVueR-100(Optovue社)はスペクトラルドメイン方式のOCT(SD-OCT)であり,深さ方向の分解能は5μm,スキャン速度は26,000Aスキャン/秒である.緑内障の診断や経過観察には視神経乳頭(opticnervehead:ONH)および神経節細胞複合体(ganglioncellcomplex:GCC)スキャンプログラムが有用である.また,眼圧値の評価の際に考慮する必要がある角膜厚の測定も可能である.GCCスキャンプログラムは,他社のSD-OCTに先駆けてRTVueR-100に搭載されたGCC厚を選択的に測定できるプログラムである.RTVueR100は2014年4月よりRTVueXRにモデルチェンジし,それに伴いスキャン速度が70,000Aスキャン/秒となり,固視微動の影響が軽減し,画質が向上すると思われる.信頼性のある解析をするには良い画像を撮る必要があり,屈折異常の強い眼や,白内障などの中間透光体混濁例,固視不良例,縮瞳例などはOCT画像が悪くなる.RTVueR-100では画質はシグナル強度(signalstrengthindex:SSI)で表示され,50以上が推奨されている.a図1GCCプログラムの解析結果の信頼性SSI(a)は52.7と良好であり,Bスキャン(緑矢印)にもセグメンテーションエラーがないので,信頼性が高い解析結果のように思える.しかし,このBスキャンは黄矢印のものであり,赤矢印の垂直スキャンを確認するとセグメンテーションエラー(b)が生じているため再検査が必要である.●GCCスキャンプログラム黄斑部の網膜全層厚,GCC厚(網膜神経線維層+神経節細胞層+内網状層),網膜外層厚を自動で測定するプログラムである.測定範囲は黄斑部7×7mmで(視野の約20°の範囲),測定範囲の中心は中心窩ではなく耳側に少しずらした部分である.また,globallossvolume(GLV)とfocallossvolume(FLV)というオリジナルのパラメ.タも表示される.GLVはHumphrey視野計でいうmeandeviationのようなもので,GCCマップ上の全体的なGCCの損失を表示している.FLVは視野計でいうpatternstandarddeviationのようなもので,部分的なGCCの損失を表示している.●解析結果の判定まず,SSIが良好かどうか確認する.SSIが50以下の画像は使用できないわけではないが,セグメンテーションエラーが増加するので注意が必要である.セグメンテーションエラーの有無は,プリントアウトされた結果からでは1本の垂直スキャンしか確認できないため,RTVueR-100本体から他の垂直スキャンを確認する必b52.7(83)あたらしい眼科Vol.31,No.8,201411630910-1810/14/\100/頁/JCOPY 図229歳,女性,正常眼圧緑内障(屈折9D)b左眼眼底写真(a)では視神経乳頭陥凹拡大と神経線維層欠損(赤矢印)がある.強度近視眼は眼底写真からは神経線維層欠損がわかりにくいが,GCCプログラム(b)では神経線維層欠損に一致した下側GCC厚の減少がある.正常眼の平均GCC厚は94.05μm,網膜外層厚は169.05μm,GCC厚/網膜外層厚比は55.7%と報告されている2).本症例のGCC厚は上側93.07μm,下側84.42μm,網膜外層厚は上側162.18μm,下側156.34μmである.GCC厚/網膜外層厚比は上側57.4%,下側54.0%であり,下側は上側および正常眼と比較して軽度減少している.aba図329歳,女性,正常眼(屈折-9.5D)左眼眼底写真(a)とGCCプログラムの解析結果を示す(b).図2と同様にGCC厚が薄いことが示されている.平均GCC厚は86.20μm,平均網膜外層厚は150.73μm,GCC厚/網膜外層厚比は57.2%である.比のパラメータは正常眼と比較して減少しておらず,この症例のGCC厚が薄いのは緑内障による変化ではなく,強度近視のため,もともと薄いと考えられる.要がある(図1).セグメンテーションエラーを認めた場合,再検査が必要になる.再検査を施行してもセグメンテーションエラーが消失しない場合は,マニュアルでセグメンテーションエラーの訂正ができる.GCC厚は全体の平均と上側および下側の平均しか表示されないが,正常眼データーベースから年齢をマッチングさせ,GCC厚を比較し,正常範囲が緑,95%予測区域から外れた範囲が黄色,99%予測区域から外れる範囲が赤色で表示されるため,異常部位が判明する.緑内障眼ではGCC厚が減少するが,視神経乳頭所見に一致した所見であるかどうか確認する必要がある.強度近視眼では豹紋状眼底のため神経線維層欠損がわかりにくいことがあるが,GCCプログラムを使用すると判断しやすい(図2).ただし,強度近視眼の解析を行うと緑内障がないにもかかわらず,しばしばGCC厚(FLV,GLVも同様に)が異常を示す結果となる1).これは強度近視眼では正視眼と比較してGCC厚が薄いにもかかわらず,RTVueR100の正常眼データーベースには強度近視眼がほとんど含まれていないため,解析を行うと緑内障を伴わない強1164あたらしい眼科Vol.31,No.8,2014度近視眼を異常と判断してしまうことがある.そのため,強度近視眼の解析結果には注意が必要である(図3).この対策として,RTVueR-100はGCC厚の測定と同時に網膜外層厚も測定しているので,網膜外層厚を参考にするとよい.これは正常眼ではGCC厚と網膜外層厚は正の相関関係があり1,2),また,網膜外層厚は緑内障に罹患してもあまり変化しないため2),網膜外層厚が薄い症例はもともとGCC厚が薄いと考えられる.網膜外層厚を考慮したパラメ.タであるGCC厚/網膜外層厚比は緑内障診断に有用である2).文献1)KitaY,KitaR,TakeyamaAetal:Theeffectofhighmyopiaonglaucomadiagnosticparametersasmeasuredbyopticalcoherencetomography.ClinExperimentOphthalmol2014,DOI:10.1111/ceo.123182)KitaY,KitaR,TakeyamaAetal:Relationshipbetweenmacularganglioncellcomplexthicknessandmacularouterretinalthickness:aspectral-domainopticalcoherencetomographystudy.ClinExperimentOphthalmol41:674-682,2013(84)

屈折矯正手術:有水晶体眼内レンズ術後の屈折変化

2014年8月31日 日曜日

屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂●連載171大橋裕一坪田一男171.有水晶体眼内レンズ術後の鳥居秀成慶應義塾大学医学部眼科学教室屈折変化有水晶体眼内レンズは,前房型と後房型の2種類に大別される.前房型はさらに虹彩支持型,隅角支持型の2つに分けられる.どのタイプも術後屈折は長期的に安定しており,屈折変化はほとんど考慮しなくてもいい程度の,非常に良好な結果がえられる.●はじめにLASIKなどの角膜屈折矯正手術後の近視の戻りはしばしば臨床上経験されることであるが,有水晶体眼内レンズ(phakicintraocularlens:pIOL)挿入術後で近視の戻りが臨床上問題となることは少ないと思われる.pIOLは主に中等度.強度近視の屈折矯正手術に用いられ1,2),屈折矯正手術という性格上,近視の戻りは患者の満足度の低下にもつながるため,術後の屈折変化の特性を把握しておくことは非常に重要なことである.pIOLは前房型と後房型に分けられ,前房型はさらに虹彩支持型,隅角支持型の2つに分けられる.本稿では過去の報告をもとに,pIOL術後の屈折変化を虹彩支持型,隅角支持型,後房型に分けて解説する.●虹彩支持型pIOL術後の屈折変化筆者らは,強度近視眼で術前の眼軸長をマッチングさせて術後3年間の屈折変化を,虹彩支持型pIOL(Artisan/Artiflex,Ophtec社)を挿入したpIOL群46例66眼(平均年齢35.0歳)と,LASIKを施行したLASIK群38例67眼(平均年齢33.8歳)で後方視的に比較し報告した3).pIOL術後3年間〔術後3年の平均等価球面値(SE).術後1カ月の平均SE〕の屈折の変化は,pIOL群は.0.12±0.47(平均±標準偏差)Dで,LASIK群は.0.82±0.69DとLASIK群の方が有意(p<0.001)に近視化し,pIOL群の屈折は術後3年間でほとんど変化を認めなかった(図1,表1).また,ArtisanR術後の長期経過(10年)の報告4)でも,49例89眼(平均年齢38.4歳)の術後9年間(術後10年の平均SE.術後1年の平均SE)の屈折変化は0.00Dで,表1有水晶体眼内レンズ挿入術後の屈折変化の過去の報告のまとめ著者雑誌発行年症例数平均年齢術前平均SE術後1年間あたりの屈折値の変化(平均値)経過観察期間(術後屈折値変化の算出期間)有水晶体眼内レンズとそのタイプ研究のタイプToriietalOptomVisSci2014(文献3)46例66眼35.0歳.10.80D.0.04D/Y3年間(3Y-1M)虹彩支持型Artisan,Artiflex後ろ向きTahzibetalOphthalmology2007(文献4)49例89眼38.4歳.10.36D0.00D/Y9年間(10Y-1Y)虹彩支持型Artisan後ろ向きYangetalIntJOphthalmol2012(文献5)13例25眼33.2歳.12.08D.0.01D/Y1年間(1Y-1M)隅角支持型AcrySofphakicangle-supportedIOL前向きRosmanetalJRefSurg2011(文献6)52眼32.4歳.12.84D.0.02D/Y10年間(10Y-3M)隅角支持型ZB5M後ろ向きTorunetalJCataractRefractSurg2013(文献7)29例53眼34.6歳.12.17D.0.04D/Y平均86カ月(5Y-3M)後房型Phakicrefractivelens(PRL)後ろ向きAlfonsoetalJCataractRefractSurg2011(文献8)111例188眼33.5歳.11.17D.0.13D/Y5年間(5Y-1M)後房型Implantablecollammerlens(ICLV4)後ろ向きSE:等価球面値,Y:年,M:月(81)あたらしい眼科Vol.31,No.8,201411610910-1810/14/\100/頁/JCOPY Preop1M3M6M1Y2Y3Y2-12-10-8-6-4-20pIOLLASIK††††**p=0.008†p<0.001SE(D)n=66n=67-14図1虹彩支持型pIOL(Artisan.Artiflex)とLASIK術後の屈折変化術後3年間(術後3年の平均等価球面値SE.術後1カ月の平均SE)の屈折変化は,pIOL群は.0.12±0.47(平均±標準偏差)Dで,LASIK群は.0.82±0.69Dで,有意(p<0.001)にLASIK群のほうが術後の近視の戻りは大きかった.(文献3より引用)10年後の時点で目標度数の±1.0D以内は68.8%,矯正視力0.5以上が93.3%,裸眼視力0.5以上が82.0%であり,屈折・視力は安定していると報告されていた.●隅角支持型pIOL術後の屈折変化AcrySofphakicangle-supportedIOL(Alcon社)術後の屈折変化をYangらが報告5)しており,13例25眼(平均年齢33.2歳)の術後1年間(術後1年の平均SE.術後1カ月の平均SE)の屈折変化は.0.01Dであった(表1).また,ZB5M(Domilens社)術後の屈折変化をRosmanらが報告6)しており,52眼(平均年齢32.4歳)の術後10年間(術後10年の平均SE.術後3カ月の平均SE)の屈折変化は.0.19Dであった(表1).●後房型pIOL術後の屈折変化Phakicrefractivelens(PRL,CarlZeissMeditec社)術後の屈折変化をTorunらが報告7)しており,29例53眼(平均年齢34.6歳)の術後5年間(術後5年の平均SE.術後3カ月の平均SE)の屈折変化は.0.21Dであった(表1).Implantablecollammerlens(ICLV4,STAAR社)術後の屈折変化をAlfonsoらが報告8)しており,111例188眼(平均年齢33.5歳)の術後5年間(術後5年の平均SE.術後1カ月の平均SE)の屈折変化は.0.65Dであった(表1).●まとめ以上の報告を術後1年間あたりの屈折変化としてまとめると表1のようになり,多少の差はあるものの,どのタイプのpIOLも,術後屈折の変化は中.長期的にほとんどないことがわかる.筆者らは術前の眼軸長が長いほど,術後の近視の戻りの程度も大きくなることを報告しており3),また個人差もあるため,pIOL挿入術後の全症例に対し屈折の安定を保証するものではないが,年齢や術前屈折値が表の値程度であれば,pIOLはどのタイプでも術後の屈折変化は安定しているということができる.文献1)DickHB,BudoC,MalecazeFetal:FoldableArtiflexphakicintraocularlensforthecorrectionofmyopia:twoyearfollow-upresultsofaprospectiveEuropeanmulticenterstudy.Ophthalmology116:671-677,20092)HuangD,SchallhornSC,SugarAetal:Phakicintraocularlensimplantationforthecorrectionofmyopia:areportbytheAmericanAcademyofOphthalmology.Ophthalmology116:2244-2258,20093)ToriiH,NegishiK,WatanabeKetal:MyopicregressionafterphakicintraocularlensimplantationandLASIK.OptomVisSci91:231-239,20144)TahzibNG,NuijtsRM,WuWYetal:Long-termstudyofArtisanphakicintraocularlensimplantationforthecorrectionofmoderatetohighmyopia:ten-yearfollow-upresults.Ophthalmology114:1133-1142,20075)YangRB,ZhaoSZ:AcrySofphakicangle-supportedintraocularlensforthecorrectionofhightoextremelyhighmyopia:one-yearfollow-upresults.IntJOphthalmol5:360-365,20126)RosmanM,AlioJL,OrtizDetal:RefractivestabilityofLASIKwiththeVisx20/20excimerlaservsZB5mphakiciolimplantationinpatientswithhighmyopia(>.10.00d):a10-yearretrospectivestudy.JRefractSurg27:279-286,20117)TorunN,BertelmannE,KlamannMKetal:Posteriorchamberphakicintraocularlenstocorrectmyopia:Long-termfollow-up.JCataractRefractSurg39:10231028,20138)AlfonsoJF,BaamondeB,Fernandez-VegaLetal:Posteriorchambercollagencopolymerphakicintraocularlensestocorrectmyopia:five-yearfollow-up.JCataractRefractSurg37:873-880,20111162あたらしい眼科Vol.31,No.8,2014(82)

コンタクトレンズ:患者適応

2014年8月31日 日曜日

提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方はじめの一歩監修/下村嘉一3.患者適応●はじめにコンタクトレンズ(CL)が広く普及しておよそ50年が経過した.この間に素材,デザイン,ケア用品はより安全で快適なものに改良され,CL装用者は1,500万人,国民の8人に1人となり,幅広い年齢層のさまざまな屈折疾患を有する者にとって,なくてはならない屈折矯正手段の一つとなった.しかし,CLがどんなに進歩しても角膜に直接触れる異物であることは変わらないので,間違った使い方をすれば眼障害が発症する.CL眼障害は軽微なものから視力障害に至る重篤なものまで,装用者の増加とともに増えている.CL眼障害を発症させないためには,処方する際に患者適応を見きわめ,新規処方以後も継続して定期検査を行って適切なCL装用となるよう管理することが重要である.●適応疾患屈折異常(とくに強度の近視・遠視・乱視・老視や無水晶体眼・不同視)・円錐角膜などに処方する.かつては乱視があるとハードコンタクトレンズ(HCL)を,老視年齢になるとCLをやめて眼鏡のみの生活や,CLの上に老眼鏡をかけるようにすすめていた.しかし,現在では乱視用・老視用ともに優れたソフトコンタクトレンズ(SCL)・HCLが普及して,快適な矯正視力が得られるようになっている.●適応条件眼鏡を所持していない患者にCLだけを導入すると,無理をして装用するために眼障害をきたしやすい.必ず適切な眼鏡を所持していることを確認し,所持していなければ眼鏡を先に処方する.また,CL矯正にて良好な視力を得ることができることも必要条件である.●適応年齢他の手段では良好な視力矯正が困難で,CLによってのみ良好な視力が得られる,あるいは視機能の発達が期(79)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY松久充子さくら眼科待できる場合は,年齢を問わずCL処方は可能である.先天白内障術後無水晶体眼へのSCLは最年少への処方例であり,白内障術後無水晶体眼に連続装用SCLを処方して,外来にて定期的なCL管理をする例が最高齢者への処方例であろう.しかし,眼鏡で視力矯正が可能であっても,運動・仕事・整容上の理由でCLを併用したいという希望者がほとんどである.この場合の適応は適切な管理ができる年齢,原則として中学生以上から80代半ばまでと考える(未成年者には保護者の同伴による同意を求める).まれに小学生でもバレエの発表会のようなオケージョナルユーズの希望では,保護者同席で装用指導をしてから処方する.保護者がCL装用の手伝いをすることはよいが,自分でCLをはずすことができなければ処方しない.●禁忌・度数:カラーCLを除き,±0.75D未満の屈折異常ではCLは不要である.・前眼部炎症疾患や免疫不全を有するもの:重症アレルギー性結膜炎,巨大乳頭結膜炎,感染性眼疾患,繰り返す炎症性眼疾患を有する場合,CLは処方しない.・アレルギー性結膜炎:すべての症例で眼瞼を翻転して瞼結膜を観察する.アレルギー性結膜炎が発症していれば処方は中止する.軽度の濾胞があって自覚症状がない場合(図1)は,掻痒・充血・白色粘性眼脂(図2)・CLが上方にずれやすいなどの症状が出現した場合は装用を中止して受診するように指導する.CL装用時にはアレルギー反応が誘発されやすい.また,蛋白質などの汚れが付着したCL,固めのSCLやフィッティングの合っていないCLなどによる機械的刺激によって巨大乳頭結膜炎(図3)が発症する.ケア用品(とくに多目的溶剤)によってアレルギー性結膜炎や角膜炎が発症する場合もある.このため,アレルギー性結膜炎体質があれば,1日使い捨てCLが望ましい.頻回交換SCLやHCLでは,レンズケアの徹底と,自覚症状によって装用時間の短縮あたらしい眼科Vol.31,No.8,20141159 1160あたらしい眼科Vol.31,No.8,2014(00)や中止を判断できる者にのみ処方する.従来型SCLは酸素透過性が低く,長期装用による汚れによってさまざまな眼障害が発症しやすいので原則として処方しない.・ドライアイ:CLは適切な量の涙液が適切に交換される結膜.に浮かんでいる存在である.涙液量の不足やCL下の涙液交換が不十分であれば,必ず角膜障害が発症する.さらに,CLを装用することはドライアイを誘発する.したがって,重度ドライアイ(図4)へのCL処方は禁忌である.また,睡眠導入剤や抗アレルギー薬・抗ヒスタミン薬などの服薬中にはドライアイ状態になることがあるので注意を要する.軽度のドライアイの場合(図5)は,人口涙液点眼,ヒアルロン酸点眼,ジクアソルナトリウム点眼,レバミピド点眼などを併用しながら,原則として1日使い捨てSCL(なるべくシリコーンハイドロゲル素材)を処方する.・CL不耐症:CLを装用するだけで疼痛や異物感が強くて我慢でない人には処方しない.また,ドライアイにもかかわらずCL装用を無理に継続していると,CL不耐性の状態になることがある.速やかにCLを中止する.・CL装用に適さない環境にいる人:乾燥する環境にいる人や,ゴミやほこりの入りやすい仕事の人には処方しない.・神経質な性格の人,CLに興味がない人,CLを適切に取り扱えない,または管理できない人:CL装用期間や時間を守れない,あるいは不適切なケアが原因でCL障害を繰り返す人には,CLを処方しない.●おわりにCLは優れた屈折矯正機器であるが,適応や使用方法を誤ると重症の眼障害を発症し視力障害に至る.医師は処方する際や定期検査のたびに啓発をすることと,定期検査では小さな異常も見逃さない観察眼をもつことが大切である.ZS933図4CL禁忌のドライアイ図5治療しながらCL装用可能のこともあるドライアイ図1軽度のアレルギー性結膜炎自覚症状はないが軽度の充血と結膜濾胞がみられる.図2白色粘性眼脂図3巨大乳頭結膜炎