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My boom 36.

2015年1月30日 金曜日

監修=大橋裕一連載.MyboomMyboom第36回「木村修平」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)連載.MyboomMyboom第36回「木村修平」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)自己紹介木村修平(きむら・しゅうへい)岡山大学医学部眼科学教室私は岡山大学医学部を卒業後,2001年に岡山大学医学部眼科学教室に入局し,倉敷中央病院内科系レジデント,岡山大学大学院,倉敷成人病センター,姫路赤十字病院を経て,2012年より岡山大学に戻り,網膜硝子体グループの一員として現在に至っております.研究現在,岡山大学眼科の大学院生が基礎研究と格闘している一方,私は大学院時代(現在,川崎医科大学眼科学2教室の教授になられた長谷部聡先生の下,近視学童の臨床比較研究をしました)から現在に至るまで,もっぱら研究は臨床研究をしています.幸い2013年に白神史雄教授が戻ってこられて,どんどん新しい硝子体手術にふれることができ,さらには手術件数も増えており,質,量ともに臨床研究するには恵まれた環境にいます.以前,白神先生から,「新しい術式は深夜にベランダで思いつく」と教えていただきましたが,私の場合はいくらベランダに出ても良いアイディアはまったく浮かんできませんので,今は地道に論文検索の日々です.そんな中,一つ興味があるのは「眼内レンズ縫着」です.現在,日本の眼科全体が強膜内固定への大きな流れがある中で,何を今さらと思われる先生が多いと思いますが,コンサバに眼内レンズ縫着をいかに効率よく行うかを考えています.調べてみると先人がすでにいろいろと開発した方法があり,トラブルシューティング的にも勉強に(119)0910-1810/15/\100/頁/JCOPYなっています.臨眼2014この度,神戸で行われた臨眼ですが,岡山大学が主催しました.昨年から準備を進め,無事終了することができ,ほっとしております.ご尽力,ご協力いただいたすべての方々に感謝いたします.これまで学会は参加するものでしたが,初めて学会を主催する機会に恵まれ,プログラム委員会との打ち合わせ,企業への説明会,会長招宴などなど,事務局をしなければ知らなかったことを次々体験しました(知っていてもこれまで出ていなかった開会式と閉会式,市民公開講座も,今回初めて参加しました!).詳しく書くとこのコラムがそれだけで終わってしまいますので詳細は書けませんが,多くの方々の努力のお陰で学会が成り立っていることを知り,今度の学会はこれまでとは違う視点で楽しめそうです.外勤私は備前市にある日生(ひなせ)病院,という病院に毎週出張しています.岡山から約40km,途中からブルーラインという,ほとんど信号のない道で通っています.最近のマイブームはラジオを聞きながらのドライブ(通勤)です.近頃はインターネットを使って録音できるソフトがあり,1週間とりためた番組を聞きながらの通勤は何よりの気分転換となっています.日生は牡蠣が有名なのですが,もちろん他の魚介類もおいしく,年に数回,手術がないお昼休みに,他科の先生と外食するのも楽しみの一つです.最近の日生の話題といえば,病院すぐ横に“日生大橋”という大きな橋ができつつあることです.2015年春に完成予定で,すでにほとんどできあがっています.これが開通すると,これまで船で渡って検診に行っていた小学校に,ものの10分の運転で行あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015119 写真1「2014臨眼」開会式スライド開会式リハーサル時に撮影しました.“Academism”という今回のテーマにぴったりのデザインだったと思います.くことができるそうです.便利になるような,もう船に乗れなくなるのが残念なような複雑な感じですが,橋ができたらぜひ一度渡ってみたいと思っています.趣味クロスバイク(自転車)やおいしいものを食べに行くのも好きなのですが,取り立ててブームでないので割愛いたします.現在,学生時代に始めた空手に対するマイブームが再燃してきております.道場も病院の敷地内ですので,気分転換に練習に顔を出しています.そもそも空手といってもピンと来る方は少ないと思いますので解説いたしますと,現在の空手は昔からある「伝統派」と「極真」に大きく分かれます.私がしているのは伝統派で,さらに細かくいうと「松濤館流」という流派になります.競技内容は「型」と「組手」があるのですが,私はもっぱら組手が好きです.組手は一応,寸止めで,相手には打撃を直接当てないという名目なのですが,実際にはバシバシ当たってしまいます(ですので残念ながら怪我が怖くて今は組手の試合はしておりません).先日,一大イベントである「西医体」に浜松まで観戦に行ってきました.結果は惜しくも準優勝でしたが,母校の応援写真2日生病院の食堂から見える景色おだやかな瀬戸内海が目の前に広がっています.ちなみに右下から左中央につながる道が,現在建設中の日生大橋です.には熱が入りすぎて,翌日は声が枯れてしまっていました.来年はお隣の兵庫県(姫路市)で西医体が予定されています.来年は学生時代に一緒に練習したOB・OGに声をかけて,大応援団で西医体に臨みたいと思っております(本当は,前日の飲み会が一番楽しみなのですが).現在私が知っている空手経験者の眼科医は,同門で4名,お隣の県で1名おられます.なかなか空手の話ができる眼科医を存じあげませんので,もし学生時代に空手をしていた先生がおられましたら,ぜひお声をかけていただきたいです.次回は,広島市民病院の寺田佳子先生です.私が眼科初期研修時代からご指導いただいておりますが,ご専門の網膜疾患に限らず,広い分野に深い知識をもっておられ,寺田先生の診療スタイルは私のお手本です.どうぞよろしくお願いいたします!注)「Myboom」は和製英語であり,正しくは「Myobsession」と表現します.ただ,国内で広く使われているため,本誌ではこの言葉を採用しています.☆☆☆120あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015(120)

現場発,病院と患者のためのシステム 36.天動説から地動説へ,電子カルテ中心志向からの脱却

2015年1月30日 金曜日

連載現場発,病院と患者のためのシステム連載現場発,病院と患者のためのシステム天動説から地動説へ,電子カルテ中心志向からの脱却杉浦和史*.はじめに医療業界には2000~2014年まで,3年を空けて約11年間携わってきました.それ以前は,製造業,小売り業,サービス業など,医療以外の業種の業務分析,改革,必要があればシステム化を指導してきました.これら業種で共通してやってきたことは“当該組織全体のパフォーマンスの向上,ひいては収益増をめざす”です.各業種共,多種多様な業務から構成されていますが,どの業務が疎かになっても組織全体としてのパフォーマンスが最大になることはありません.各業務が機能を分担し,相互に連携し合って組織の活動が成り立っているのだから当然です..製造業の場合製造業という名前から製造にかかわる業務が一番重視されていると思いがちです.しかし,製造する前にその製品の市場性を検討しなければなりません.自社のコアコンピタンスを考慮しつつ,競合製品の有無,あれば仕様,価格,市場占有率などのチェックも必要です.そして設計.まだ製造の出番ではありません.ようやく製造の段になると,今度は,何時までにいくつ作るかという生産計画が必要になり,生産に必要な部材を納品までのリードタイムを考慮して発注します.納品された部材は在庫情報として管理しなければなりません.これで,ようやく製造業本来の製造に入ります.作られた製品は出荷を待ちますが,指定された場所,時間に注文された数量を間違いなく納品するための管理が必要になります.もちろん,配送業者との連携も必須です.図1に示すように,複数からなる業務が相互に連携しあって機能していなければ,企業活動ができないことが理解されたと思います.医療機関には医師だけではなく,看護師,薬剤師,臨床検査技師,栄養士,受付,会計,事務など多くのスタッフがいます.それぞれが与えられた役割を果たすことで,医療機関としての機能が全うされます.医師が主役であるのは異論がないところで,医療情報システムといえば常に電子カルテが主役に踊り出る所以です.しかし,それで良いのでしょうか?36回連載の最後にこの問題提起をします.営業経理人事総務生産管理製品企画設計製造検査資材マーケティング研究図1製造業を構成する業務cCAD(ComputerAidedDesign)に代表される製造業のシステムは,その後,CAM(ComputerAidedManufacturing),CAE(ComputerAidedEngineering)とカバーする範囲と深さを広げ,最終的に製造業統合情報システムCIM(ComputerIntegratedManufacturing)として今日に至っています.しかし,これらを支える資材管理,原価管理システムなど,図1に示す各部門のシステムがなければ成り立ちません.ある業務をカバーする良いシステムができても,同じレベルで周りが整備されていなければ,もっとも低いレベルに抑えられてしまい,全体のパフォーマンスが上がらないことは,リービッヒの最小律の教えるところです.ダムの水門に例えれば図2のとおりです.設計支援をする優れたCADシステムがあっても,他のシステムの完成度が低かったり,手作業であったりすると,一番低いゲートからダムの水が流れ出てしまい,結局そのレベルになって*KazushiSugiura:杉浦技術士事務所(情報工学部門)http://sugi-tec.tokyo/(117)あたらしい眼科Vol.32,No.1,20151170910-1810/15/\100/頁/JCOPY しまうことを示しています.体で機能することはできません.関連する他のシステムとの情報授受があって初めて機能が発揮されます.他のシステムが未整備な場合や,機能,情報が不足している設計支援資材調達生産管理設計支援資材調達生産管理設計支援資材調達生産管理と,人手の介在が必要になるなど作業の連続性が崩れ,効果は半減します.半減どころか一部がシステム化さ図2リービッヒの最小律(最も低いレベルに抑えられる)Rれ,一部は手作業が残っているほど面倒なことはありません.目的地に着くまでに,高速道路,一般道路,山道,あぜ道,獣道が入り乱れていると思えば理解が早い.医療業界でしょう.リービッヒの最小律を適用して表現すれば,医療機関は医師を筆頭に,看護師,薬剤師,検査技図4のようになります.師,栄養士などの職能集団で構成されています.職能間での行き来は“資格的”に不可能で,権威のピラミッド構造の最上位には医師がいます.一般的に医師の命令一下動く天動説的な仕事の仕方になっていますが,医療機関という太陽系を構成する多くの星の一つであるというコペルニクス的発想になると,業務が無理なくスムーズに流れるようになると思われます.他業種同様,各部門各業務が機能連携,情報連携し合うことで,適切な治療外来(電子カルテ)医事会計検査手術病棟が行えることを忘れないようにしなければなりません..電子カルテ厚生労働省のホームページを捜すと,図3のような医療機関に必要な情報システム群が見つかります.診察系システム・電子カルテシステム事務系システム・オーダリングシステム・財務管理システム・人事給与システム・医事会計システム・物品管理システムetc・受付・予約システム・看護支援システムその他・給食システムetc・遠隔医療支援システム画像系システム・医療統計システム・放射線情報管理システム・情報共有システムetc・医用画像管理システムetc図3医療機関に必要なシステム群(出典:厚労省HP)電子カルテとオーダリングシステムが別になっているなど,オヤッと思うものもありますが,この図でも明らかなように電子カルテシステムは医療機関で必要となる多くのシステムのうちの一つです.組織の頂点に立つ医師が使うことで最重要とされますが,このシステムが単図4医療情報システムでのリービッヒの最小律R.おわりに“カゴに乗る人,カゴ担ぐ人,そのまたワラジを作る人”という例えがあります.社会はそれぞれの役割をもった人達の持ちつ持たれつの関係で成り立っているという意味で,誰が欠けてもカゴに乗って移動することはできません.医師を中心に回っていると考える天動説的発想から,医療機関,患者さんを中心にして回っている太陽系の星の一つであるという地動説への発想の転換が必要と先述しましたが,医療情報システムも同じです.電子カルテシステムを中心に回っていると思わず,関連する業務システムが同じレベルで整備され,連携がとられてこそ医療機関のパフォーマンスを向上させることができます.個別最適ではなく,全体最適で考える時機に来ていると思います.36回の連載は今回で終わります.今後は当事務所のホームページで情報発信を続けます.関心のある方はhttp://sugi-tec.tokyoをご覧ください.☆☆☆118あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015(118)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 140.外傷性黄斑円孔眼に生じた網膜剥離に対する硝子体手術(初級編)

2015年1月30日 金曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載140140外傷性黄斑円孔眼に生じた網膜.離に対する硝子体手術(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめに一般に,黄斑円孔網膜.離は後部ぶどう腫を有する強度近視眼に生じることが多く,後部ぶどう腫が拡大し,硝子体液化が進行する中高年者に発症頻度が高い.一方,外傷性黄斑円孔例は硝子体液化の少ない若年者に多く,網膜振盪症による瘢痕病巣が黄斑部近傍に網膜と色素上皮の癒着を形成することが多く,黄斑円孔網膜.離に進行することはきわめて稀である.しかし,発症後晩期に網膜硝子体牽引が誘因となり黄斑円孔網膜.離に進行することはありうる.●自験例症例は67歳男性.27歳時に野球ボールで受傷し右眼に4分の3乳頭径大の外傷性黄斑円孔をきたした.矯正視力は0.02程度で推移していたが,受傷40年後に黄斑部から下方2象限にわたって黄斑円孔網膜.離をきたした(図1).屈折はほぼ正視であった.硝子体手術術中所見では,後部硝子体は未.離で網膜と硝子体の癒着が高度であった.トリアムシノロンアセトニドを塗布した後に,ダイアモンドイレイサーで後極から周辺に向かって人工的後部硝子体.離を作製した(図2).その後,気圧伸展網膜復位術,黄斑円孔周囲に弱い眼内光凝固,ガスタンポナーデを施行した.術後,黄斑円孔の閉鎖は得られなかったが,網膜は復位し周辺視野は改善した(図3)1).●後部硝子体未.離眼では正視眼でも黄斑円孔網膜.離は生じうる外傷性黄斑円孔発症後,晩期に黄斑円孔網膜.離が続発した症例の報告は少ないながら散見される.篠田らは外傷性黄斑円孔発症後18年後および2年後に発症した黄斑円孔網膜.離の2症例を報告しているが,いずれも(115)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY図1初診時の右眼眼底写真4分の3乳頭径大の外傷性黄斑円孔を認め,周囲の網膜が.離していた.図2術中所見トリアムシノロンアセトニドにて硝子体を可視化し,後極から周辺に向って人工的後部硝子体.離を作製した.図3術後の右眼眼底写真術後網膜は復位し,黄斑円孔周囲に光凝固の凝固斑を認める.円孔周囲の網膜硝子体癒着が強く,硝子体による黄斑部牽引がその成因と指摘している2).岡野内らは,外傷性黄斑円孔は受傷時点では後部硝子体は未.離のことが多く,その後に生じる後部硝子体.離の進行とともに前後方向の牽引が生じて黄斑円孔網膜.離が発症すると述べている3).本症例でも術中所見からわかるように後部硝子体は未.離であった.そこに加齢による硝子体の収縮による網膜硝子体牽引が黄斑円孔周囲に加わったことが網膜.離発症の誘因と考えられる.さらに外傷性黄斑円孔が比較的大きかったこと,黄斑円孔周囲の網膜と色素上皮の癒着が強固でなかったことなどの要因が加わったと考えられる.文献1)竹田朋代,家久来啓吾,板野瑞穂ほか:陳旧性外傷性黄斑円孔眼に発症した黄斑円孔網膜.離.臨眼68:385-390,20142)篠田啓,石田晋,川島晋一ほか:外傷性黄斑円孔の2例.眼臨93:1724-1726,19993)岡野内俊雄,白神史雄:黄斑円孔による網膜.離.眼科40:427-432,1998あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015115

眼科医のための先端医療 169.非造影脳血流画像の眼科臨床応用

2015年1月30日 金曜日

監修=坂本泰二◆シリーズ第169回◆眼科医のための先端医療山下英俊非造影脳血流画像の眼科臨床応用橋本雅人(札幌医科大学眼科学教室)はじめにMRIは今日の眼科診療において日常的に用いられる検査であり,とくに造影検査は単純画像で曖昧であった病変を明確に描出させ,診断を確定するための重要な検査法です.その一方で,近年,造影剤の副作用が重視されるようになり,MRIではガドリニウム(Gd)造影剤使用に関するガイドラインが作成され,腎障害患者における造影剤適応がクローズアップされています.たとえば長期透析中の終末期腎障害患者や,糸球体濾過量が30mL/min/1.73m2未満の慢性腎臓病患者および腎性全身性線維症患者では,他の検査法で代用すべきとしていabcd図1超急性期脳梗塞のMRI所見FLAIRでは脳に異常所見はみられないが(a),DWI(拡散強調画像)では右内頸動脈領域の梗塞を示す高信号域を認めた(b).また,ASLではDWIでみられた異常信号領域よりもさらに広範囲で脳血流の低下を示唆する所見を認めた(c).さらに,発症から10日後のFLAIRでは,初診時で示されたASL(c)の低灌流領域と同じ範囲まで梗塞巣の拡大がみられた(d).ます.また,造影剤ショックやアナフィラキシーなど薬剤過敏性の問題もあり,造影検査の適応が見直されてきているのが現状です.本稿では,MRI画像の分野において最近注目されている手法の一つである,造影剤を使用しない脳血流画像検査法について述べ,その眼科領域における臨床応用についても紹介します.造影剤を用いない脳灌流画像(ASL)とはArterialspinlabeling(ASL)は,3-Tesla高磁場MRIを用いて頸部を通過する動脈血にラジオ波で磁化を与え,標識(ラべリング)することで血液そのものを内因性トレーサーとして観測領域の脳灌流を評価する撮影法のことです.ASLはラベリング画像とコントロール画像の差分画像で脳組織の灌流状態を評価しますので,放射線医薬品であるRI(radioisotope)を用いるPET(positronemissiontomography)やSPECT(singlephotonemissioncomputedtomography)と比較して,侵襲性がなく安全に評価のできるまったく新しい脳血流検査です.図1は超急性期脳梗塞のMRI所見です.FLAIR(fluidattenuatedinversionrecovery)では異常はみられませんが,拡散強調画像(DWI)では右内頸動脈領域の梗塞が認められます.また,ASLではDWIに比べて病巣範囲が大きいことがわかります.発症10日後のFLAIRでは,発症時のASLと同様の範囲まで病0.2秒0.4秒0.6秒0.8秒図2CINEMA法による経時的MRangiography所見0.1秒の時間分解能で撮影している(1秒間に10枚撮影).開始0.4秒後に右上眼静脈の動脈相における描出(白矢印)がみられる.(111)あたらしい眼科Vol.32,No.1,20151110910-1810/15/\100/頁/JCOPY 0.2秒0.4秒0.6秒0.8秒0.2秒0.4秒0.6秒0.8秒図3右CCF塞栓術後のCINEMA法による経時的MRangiography所見術前にみられた右上眼静脈の早期描出(図2)が消失しているのがわかる.巣が拡大しており,ASLにおける脳組織低灌流域の正確性を裏付けています(図2).非造影経時的MRアンギオグラフィー(CINEMA法)の臨床応用造影剤を用いずに頭蓋内血管の血行動態を観察できる非造影経時的MRアンギオグラフィー(CINEMA法:Contrastinherentinflowenhancedmultiphaseangiography法)は,上述したASLに加え,1回撮影で時系列情報が得られるLook-Lockerサンプリング法1)を応用することで大幅な時間短縮が得られ,撮影が可能となります2).CINEMA法が診断に有用であった筆者が経験した症例を紹介します.症例:80歳,女性.主訴:右眼充血,眼球突出.全身既往歴:腎不全により数年来透析治療を行っている.現病歴:1カ月前より右眼の充血に気づき,その後眼球突出および眼痛も出現.初診時所見:視力は左右ともに1.0,眼圧:右32mmHg,左15mmHg,前眼部所見では右結膜血管の拡張を認めた.眼球突出は右20mm,左16mm,対光反応,眼球運動は正常.眼窩部単純MRIにて右上眼静脈の拡張があったため,右頸動脈海綿静脈洞瘻(carotidcavernousfistula:CCF)を疑い,CINEMA法で撮影したところ,右上眼静脈の動脈相での描出がみられ(図2),CCFと診断した.当院脳神経外科にて塞栓術を行い,術後に撮影したCINEMA法では,術前にみられた右上眼静脈の早期描出は消失していた(図3).この症例は,眼科所見よりCCFを疑い,通常ではGd造影によるダイナミックMRIを行う必要があったのですが,腎不全で透析中とのことで造影剤が使用できず,非造影のCINEMA法が早期発見早期治療に大変役立った症例でした.おわりに高解像度3-TeslaMRIを用いた非造影脳血流画像の概要と,眼科領域における臨床応用について解説しました.造影剤の適応範囲が厳粛化される昨今,このような新しい画像診断法はきわめて有用であり,眼科領域においても今後さらに幅広く臨床応用され,発展していくものと期待しています.(稿を終えるにあたり,貴重な画像写真の提供をいただいた札幌医科大学放射線部,長濱宏史先生に感謝申しあげます.)文献1)LookDC:TimesavinginmeasurementsofNMRandEPRrelaxationtimes.RevSciInstrub41:250-251,19702)中村理宣,米山正己,田淵隆ほか:CINEMA法による非造影Time-resolvedMRangiography.映像情報メディカル44:86-94,2012■「非造影脳血流画像の眼科臨床応用」を読んで■今回は橋本先生によるMRIの最新技術の眼科診療なしているでしょうか?橋本先生の総説を読んで上への応用の話題です.われわれ眼科医は独自の画像診記のような自問をしました.MRIは,もちろん視神断機器を駆使していますが,全身の診断機器を使いこ経疾患,眼窩疾患,頭蓋内疾患などで使いますが,そ112あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015(112) の性能を十分に使いこなしていないように思います.方をさらに深化させるという2つの面から進展を期す造影剤を用いない脳灌流画像(ASL)は眼球の後方ることが必要でしょう.に原因がある循環系の疾患の診断に大変有用であるこ近年の初期臨床研修のプログラムにより,前者の眼とが,提示された貴重な症例で理解できました.ま科医の全身管理能力は各段に進歩したように感じていた,眼科を受診する患者さんが高齢化し,眼科疾患のます.山形大学医学部附属病院眼科の医局員も全身管みでなく,全身の多くの合併症をもっている場合が多理に習熟してきており,関連する内科,外科,脳外科くなりましたが,橋本先生が示されたように造影剤をなどの先生と協力して診療レベルを高く保ち,また関使わないでASLを撮ることができれば,腎機能が低連病院からの難治疾患例の紹介にも応えているように下しているために造影剤の使用が制限されている患者思います.このような素地(臨床研修での診療連携のでも,大変重要で貴重な情報を得ることができます.経験)が病.病連携,病.診連携の確立をうながし,われわれ眼科医も全身疾患を診つつ,眼科疾患の診多面的な管理が必要な患者の治療が可能になってくる療を行うことが今後ますます増加していくと予想されと考えます.橋本先生の診療でも,おそらく放射線ます.眼科医が積極的に全身に使われているいろいろ科,脳外科,内科(透析)との密な診療連携の結果がな診断技法を取り入れて,眼科医療の精度を高めてい良好な治療成績に結びついたものと考えますし,このくことが,ますます要求される時代になりつつありまように高いレベルの診療を紹介されたのも,病院内のす.このためには,眼科医の努力(全身管理能力の開診療連携の大切さを改めて示されたものと考えます.発)と,病院.病院,病院.診療所の診療連携の在り山形大学医学部眼科山下英俊☆☆☆(113)あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015113

新しい治療と検査シリーズ 224.円錐角膜に対するマイクロ波による角膜熱形成後のジグザグ全層角膜移植術

2015年1月30日 金曜日

新しい治療と検査シリーズ224.円錐角膜に対するマイクロ波による角膜熱形成後のジグザグ全層角膜移植術プレゼンテーション:稗田牧京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学コメント:島﨑潤東京歯科大学市川総合病院眼科.バックグラウンド円錐角膜は非炎症性,進行性の角膜変形性疾患で,思春期に発症し徐々に進行するが,30歳前後に進行は停止することが多い.初期には眼鏡,ソフトコンタクトレンズで矯正できるが,変形が進めばハードコンタクトレンズ(HCL)でないと矯正視力が得られなくなる.HCLでも矯正できなくなれば角膜移植の適応となる.円錐角膜の全層角膜移植は,透明治癒の長期予後は良好だが,術後の乱視は平均5~6Dと比較的強いことが報告されている1).これは変形した角膜をトレパンで円形に打ち抜いてもドナー角膜とマッチせず,歪みを作ることが原因と考えられる.Businらは角膜中央部をバイポーラで焼灼後,トレパンで打ち抜く術式を開発し,術後の角膜屈折力と乱視の軽減に効果があることを報告している2).フェムトセカンドレーザーを用いたジグザグ全層移植は,術後早期の視力回復と乱視軽減効果があり,ドナー図1マイクロ波による角膜中央部の熱形成マイクロ波により,内径3.8mm・外径4.3mmの範囲を角膜表面から250μmまで65℃に上昇させ,ドーナツ状に角膜中央部を熱形成する.とホストの接合部がなめらかで,角膜ヒステレーシスは正常眼に近いなど多くのメリットを有する3).しかしながら,進行した円錐角膜においてはホストの角膜変形の影響は避けがたく,術後乱視が大きくなる傾向にあった.そこで筆者らは,進行した円錐角膜眼に対して,マイクロ波による熱形成4)を行った後にジグザグ全層角膜移植を行い,良好な成績を得ているので紹介する..マイクロ波角膜熱形成の原理筆者らが使用しているのはKeraflexR(Avedro社)という近視矯正用として開発された機器である.眼球にサクションリングを固定して,角膜中央にセンタリングしたあと,内径3.8mm・外径4.3mmのドーナツ状のプローブを角膜表面に押し当てて(図1)フットスイッチを押すだけで,簡単に角膜中央部を熱凝固できる.マイクロ波で角膜表面から250μmの深さまで65℃に上昇させ,コラーゲン線維が収縮することで角膜中央部が平図2熱形成がされた角膜にフェムトセカンドレーザーで全層切開をした術中所見熱形成の瘢痕が瞳孔を囲む白い部分.レーザーで全層切開しても前房は保たれている.(109)あたらしい眼科Vol.32,No.1,20151090910-1810/15/\100/頁/JCOPY 表1通常のジグザグ移植との比較本術式裸眼視力改善傾向眼鏡視力改善角膜屈折力平坦化屈折度遠視化乱視減少傾向坦化する.この効果は一過性のものであり,角膜移植をしなければ術後年余にわたって元の形状に戻ってゆく..使用方法マイクロ波角膜熱形成は角膜移植の約1カ月前に点眼麻酔下に手術室で行っている.術後に中央部の角膜上皮は脱落するので,治療用ソフトコンタクトレンズを乗せて上皮障害がなくなるまでコンタクトは継続する.術後炎症が強いので,最初の1週間はベタメタゾンと抗菌薬点眼を行う.熱形成後2週間以上経過すれば,フェムトセカンドレーザーを用いたジグザグ全層移植を通常と同様に行うことができる(図2).ドーナツ状に熱凝固された部位は白斑となっており,レーザー照射のセンタリングはこの白斑の中央に合わせるとよい.縫合は8糸の端端縫合と16針の連続縫合で行う.円錐角膜への通常のジグザグ切開では,場所によって角膜が薄く,ジグザグの2段目がほとんどなくなることもある.熱形成することで中央が平坦化するだけでなく,薄い角膜が中央に引き寄せられ,周辺角膜がほぼ正常な厚みとなるので,ジグザグ形状が正常角膜に近い形に作製できる..本方法の良い点(表1)円錐角膜眼は,トレパン全層角膜移植でグラフトのサイズを同一にすると著しく近視化し,強い乱視が出やすい.熱形成することで,ジグザグ全層角膜移植を同一サイズのグラフトで入れ替えても,術後角膜は正常に近く,乱視も減り,裸眼視力が改善する傾向にある.とくに眼鏡矯正視力は早期から改善する.術後患者の自覚的な反応も良く,その改善は明らかと思われる.文献1)GrossRH,PoulsenEJ,DavittSetal:Comparisonofastigmatismafterpenetratingkeratoplastybyexperiencedcorneasurgeonsandcorneafellows.AmJOphthalmol123:636-643,19972)BusinM,ZambianchiL,FranceschelliFetal:Intraoperativecauterizationofthecorneacanreducepostkeratoplastyrefractiveerrorinpatientswithkeratoconus.Ophthalmology105:1524-1529;discussion1529-1530,19983)稗田牧,脇舛耕一,川崎諭ほか:前眼部光干渉断層計によるフェムトセカンドレーザーを用いたジグザグ形状全層角膜移植とトレパン全層角膜移植における角膜後面接合部の比較.あたらしい眼科28:1197-1201,20114)BarsamA,PatmoreA,MullerDetal:Keratorefractiveeffectofmicrowavekeratoplastyonhumancorneas.JCataractRefractSurg36:472-476,2010.「円錐角膜に対するマイクロ波による角膜熱形成後のジグザグ全層角膜移植術」へのコメント.角膜クロスリンキングや角膜内リングなど,円錐角トセカンドレーザーを用いた全層角膜移植の前に,熱膜に対する新しい治療法がつぎつぎに出現し,以前よ形成を行うことで移植後の角膜形状改善を図る方法でり早期に外科的治療に踏み切るケースも増えてきた.ある.この方法は,器械さえあれば難易度は高くなしかしながら,進行例に対する角膜移植は今でも最後く,安全性も高いので有用性は高いと思われる.今後の手段として有用であり,その予後改善に向けてさまは,どの程度進行した円錐角膜に熱形成の併用が望まざまな工夫が行われている.角膜熱形成は,円錐角膜しいのか,フェムトセカンドレーザーを用いない角膜の角膜形状矯正法として以前より行われてきたが,術移植にも有用であるのかなどの検討がなされることを後角膜形状の予測性が悪いことと,屈折の戻りが大き期待する.いことが欠点であった.今回示された方法は,フェム☆☆☆110あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015(110)

私の緑内障薬チョイス 20.配合剤か? 多剤併用か?

2015年1月30日 金曜日

連載⑳私の緑内障薬チョイス企画・監修山本哲也連載⑳私の緑内障薬チョイス企画・監修山本哲也20.配合剤か?多剤併用か?澤田明岐阜大学医学部眼科学教室2010年にわが国で初めて眼圧下降薬の配合剤ザラカムRが登場して以来,つぎつぎと配合剤が上市されている(表1).わが国では正常眼圧緑内障が多いため,プロスタグランジン関連薬以外の眼圧下降薬はその効果がわかりにくいことが多い.配合剤は利便性には非常に優れたところが確かにあるが,1剤1剤の効果を判定しながら薬物追加をするといった理念は失われないのだろうか?自験例での考察現在,眼圧下降薬における配合剤のシェアはうなぎのぼりのようであるが,本来はすべての緑内障患者に処方されるべきではない.配合剤と単剤2種の眼圧下降効果を比較した非劣性試験において,統計学的には両者はほぼ同等となっている.だが,たとえばプロスタグランジン製剤とb遮断薬の合剤では,従来1日2回点眼であったb遮断薬が実際のところ1日1回点眼となっている.したがって,眼圧下降効果はやや劣ると考えるのが自然である.図1に当科で施行したA配合剤とその併用2剤とのクロスオーバー試験(preliminaryresults)11症例の結の論文1)をみても,そうした傾向は変わらないものが多い(図2).1mmHg未満であるので問題にならないと一部の読者は思うかもしれないが,現在,一番眼圧下降作用が強いプロスタグランジン関連薬でさえ,正常眼圧緑内障症例では平均2.5mmHg程度しか眼圧下降を得ることができない2)ことから考えると,この眼圧差は無視できないものだと思う.171615平均14.813平均14.6眼圧(mmHg)果を示す.平均年齢は65.3歳,すべて女性が対象である.眼圧測定はほぼ同時刻にGoldmann圧平眼圧計で14施行した.全員,当院緑内障外来通院中の患者であり,平均14.2平均13.5点眼をしっかり守る方々だと理解していただいてさしつ12平均14.0かえないと思う.統計学的に有意な差は,A配合剤と211種併用時の眼圧で認められなかった.しかしながら,眼BaselineA配合剤2種併用A配合剤2種併用1カ月2カ月圧実測値の平均をみてみると,A配合剤使用時と2種図1自験例の結果併用時の眼圧差は0.7~0.8mmHgとなっている.海外Baselineにおいては,A配合剤1種あるいは併用2種使用.表1わが国で利用可能な眼圧下降薬の配合剤商品名発売年使用回数/日内容併用時回数/日ザラカムRデュオトラバRタプコムRコソプトRアゾルガR2010201020142010201311122ラタノプロスト+(0.5)チモロールトラボプロスト+(0.5)チモロールタフルプロスト+(0.5)チモロール(1)ドルゾラミド+(0.5)チモロールブリンゾラミド+(0.5)チモロール33354本欄の記載内容は,執筆者の個人的見解であり,関連する企業とは一切関係ありません(編集部).(107)あたらしい眼科Vol.32,No.1,20151070910-1810/15/\100/頁/JCOPY ■B配合剤群(n=255)■2種併用群(n=247)ベースライン眼圧:25.4±2.325.2±2.4AveAM8PM0PM4眼圧変化値(mmHg)-12-11-10-9-8-7-6-5-4-3-2-10-8.7-9.0-9.1-9.5-8.7-9.1-8.2-8.3p=0.15p=0.12p=0.06p=0.78図2B配合剤1種と併用2種使用の眼圧比較(文献1より改変引用)では,配合剤って悪いの?配合剤使用は2種併用よりも眼圧下降効果は総じて劣ることが多いようだが,配合薬使用のメリットもまた多い.現在,プロスタグランジン関連薬,b遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬にa2刺激薬を加えた4種類の眼圧下降薬が緑内障薬物治療の主流を形成している.もしこの4種を点眼併用すると,少なく見積もっても1日6回点眼しなければならない計算となるが,配合剤使用により点眼回数を減少させれば,アドヒアランスを向上させることができる.また,3種類の点眼薬投与が,薬物治療と手術療法選択との境界と考えている臨床家が多いが,そうした症例での配合剤切り替えは,もう1種類の追加点眼薬スペースを確保することになる.さらに,ほとんどの点眼薬に含有されている塩化ベンザルコニウムによる副作用軽減にもつながる.しかしながら,単に配合剤に点眼変更するのみでアドヒアランスが向上するというのは,医療側の思い込みで●ある.アドヒアランスを向上させるためには,点眼数や点眼回数のほかに,医師と患者のコミュニケーションや治療目的の理解といった患者.医師間の信頼関係にかかわる要素がからんでくる.植田ら3)は,すでに眼圧下降薬にて加療されている緑内障患者に対し,医師による小冊子を用いた疾患に関する説明(1カ月に1度,3カ月間)を行い,介入後のほうが眼圧下降効果は大きかったと報告している.配合剤の本来の目的がアドヒアランスを向上させ,さらなる確実な眼圧下降を得るところにあるため,治療目的や点眼変更の必要性をしっかり説明したうえで処方するのが望ましい.また,なかなかむずかしい問題ではあるが,配合剤変更が効果的な患者を見きわめることも重要である.そうした患者.医師間のコミュニケーションにかかわる問題をおろそかにすると,それは単なる配合剤の“乱用”にほかならなくなり,逆にアドヒアランスを低下させる要因となる.文献1)DiestelhorstM,LarssonLI:European-CanadianLatanoprostFixedCombinationStudyGroup:A12-week,randomized,double-masked,multicenterstudyofthefixedcombinationoflatanoprostandtimololintheeveningversustheindividualcomponents.Ophthalmology113:70-76,20062)SawadaA,YamamotoT,TakatsukaN:Randomizedcrossoverstudyoflatanoprostandtravoprostineyeswithopen-angleglaucoma.GraefesArchClinExpOphthalmol250:123-129,20123)植田俊彦,笹元威宏,平松類ほか:緑内障における患者教育が眼圧下降とその持続に及ぼす効果.あたらしい眼科28:1491-1494,2011108あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015(108)

眼瞼・結膜セミナー:結膜組織の解剖と病理を知ろう

2015年1月30日 金曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人1.結膜組織の解剖と病理を知ろう小幡博人自治医科大学眼科学講座結膜は眼表面を構成する粘膜で,正常では杯細胞(gobletcell)を含む重層立方(円柱)上皮をもつ.翼状片やドライアイなどの病的状態において,この上皮は重層扁平上皮に化生し,杯細胞が消失する.ヘルシーな結膜とは杯細胞を含む常に濡れた粘膜である.●はじめに結膜は眼球と眼瞼を結ぶ薄い粘膜組織である.また,角膜とともに眼表面を構成する.結膜の表面積は角膜の約17倍といわれ1),眼球を守るために広大な結膜が存在しているようにも想像される.●結膜上皮は何上皮?結膜は上皮と粘膜固有層からなる.結膜上皮は3.5層の重層立方ないし円柱上皮である2.5).重層扁平上皮と記載している書物も多いが,それは誤りである.重層扁平上皮とは表層の細胞が扁平になっているものをいうが,結膜の表層の細胞は扁平ではなく立方形である.重層扁平上皮である角膜上皮と比較するとよくわかる(図1).●結膜は杯細胞を含む粘膜結膜上皮内に杯細胞(gobletcell)が散在していることが結膜の特徴である.杯細胞は上皮細胞間に存在し,ab結膜上皮は重層立方上皮角膜上皮は重層扁平上皮ab図1結膜上皮と角膜上皮の違い図2結膜の杯細胞結膜上皮(a)は3.5層の重層立方ないし円柱上皮であるが,杯細胞はPAS染色(a)やAlcianblue染色(b)に陽性であり,角膜上皮(b)は表層の細胞が扁平な5.6層の重層扁平上皮で多種多様な粘液を分泌していることがわかる.ある.結膜上皮は杯細胞(矢印)を含むことも特徴である.(105)あたらしい眼科Vol.32,No.1,20151050910-1810/15/\100/頁/JCOPY 106あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015(106)粘液(ムチン)を分泌する.このムチンは,涙液の保持,潤滑剤,異物や微生物の除去など眼表面を保護する役割を果たしている.杯細胞は中性ムコ多糖を染めるPAS染色や酸性ムコ多糖を染めるAlcianblue染色に陽性であり,多種多様な粘液を分泌している(図2).●扁平上皮化生とは?化生(metaplasia)とは,分化した細胞が別の系統の分化した細胞に変化することである.気管支を例にとると,正常な気管支上皮は線毛円柱上皮であるが,喫煙者の気管支上皮では扁平上皮化生(squamousmetaplasia)を生じている(図3).これは,線毛円柱上皮が喫煙という外的刺激から身を守るために重層扁平上皮に化けたということである.●結膜上皮は容易に扁平上皮化生し,杯細胞が消失する結膜上皮も,瞼裂斑や翼状片などの隆起性病変やドライアイなどで容易に扁平上皮化生を起こす.扁平上皮化生を生じた結膜上皮は,杯細胞が消失し,表層の上皮が扁平になっている(図4).結膜疾患の病理標本でみる結膜上皮は重層扁平上皮の形態を示すことが多いが,これは病的な結膜をみているのである.●ヘルシーな結膜とは?杯細胞が消失し,扁平上皮化生した結膜はヘルシーな結膜とは言いがたい.眼表面が常にウエットでヘルシーであるために,涙液と結膜杯細胞の存在は必要不可欠なのである.文献1)WatskyMA,JablonskiMM,EdelhauserHF:Comparisonofconjunctivalandcornealsurfaceareasinrabbitandhuman.CurrEyeRes7:483-48,19882)SnellRS,LempMA:ClinicalAnatomyoftheEye.2nded.BlackwellScience,Malden,19983)小幡博人:結膜の正常構造.大鹿哲郎(編):眼科学.第2版.文光堂,東京,p44-47,2011図4結膜の扁平上皮化生翼状片の標本であるが,表層の上皮は扁平化し,角膜上皮と同様の重層扁平上皮となっている.杯細胞が消失していることに注目.図3気管支の扁平上皮化生正常な気管支上皮は線毛円柱上皮(a)であるが,喫煙者の気管支上皮では扁平上皮化生(b)を生じており,まったく異なる上皮に化けている.ab106あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015(106)粘液(ムチン)を分泌する.このムチンは,涙液の保持,潤滑剤,異物や微生物の除去など眼表面を保護する役割を果たしている.杯細胞は中性ムコ多糖を染めるPAS染色や酸性ムコ多糖を染めるAlcianblue染色に陽性であり,多種多様な粘液を分泌している(図2).●扁平上皮化生とは?化生(metaplasia)とは,分化した細胞が別の系統の分化した細胞に変化することである.気管支を例にとると,正常な気管支上皮は線毛円柱上皮であるが,喫煙者の気管支上皮では扁平上皮化生(squamousmetaplasia)を生じている(図3).これは,線毛円柱上皮が喫煙という外的刺激から身を守るために重層扁平上皮に化けたということである.●結膜上皮は容易に扁平上皮化生し,杯細胞が消失する結膜上皮も,瞼裂斑や翼状片などの隆起性病変やドライアイなどで容易に扁平上皮化生を起こす.扁平上皮化生を生じた結膜上皮は,杯細胞が消失し,表層の上皮が扁平になっている(図4).結膜疾患の病理標本でみる結膜上皮は重層扁平上皮の形態を示すことが多いが,これは病的な結膜をみているのである.●ヘルシーな結膜とは?杯細胞が消失し,扁平上皮化生した結膜はヘルシーな結膜とは言いがたい.眼表面が常にウエットでヘルシーであるために,涙液と結膜杯細胞の存在は必要不可欠なのである.文献1)WatskyMA,JablonskiMM,EdelhauserHF:Comparisonofconjunctivalandcornealsurfaceareasinrabbitandhuman.CurrEyeRes7:483-48,19882)SnellRS,LempMA:ClinicalAnatomyoftheEye.2nded.BlackwellScience,Malden,19983)小幡博人:結膜の正常構造.大鹿哲郎(編):眼科学.第2版.文光堂,東京,p44-47,2011図4結膜の扁平上皮化生翼状片の標本であるが,表層の上皮は扁平化し,角膜上皮と同様の重層扁平上皮となっている.杯細胞が消失していることに注目.図3気管支の扁平上皮化生正常な気管支上皮は線毛円柱上皮(a)であるが,喫煙者の気管支上皮では扁平上皮化生(b)を生じており,まったく異なる上皮に化けている.ab

抗VEGF治療:加齢黄斑変性に対するTreat and Extend法

2015年1月30日 金曜日

●連載抗VEGF治療セミナー監修=安川力髙橋寛二12.加齢黄斑変性に対する細川海音森實祐基岡山大学眼科TreatandExtend法加齢黄斑変性に対する抗VEGF薬の投与方法について,これまでにさまざまな提唱がなされているが,現在のところ一定の見解には至っていない.本稿では,抗VEGF薬の投与方法の一つであるTreatandExtend法について概説する.抗VEGF薬の投与方法加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)に対する抗VEGF(vascularendothelialgrowthfactor)療法の維持期における投与方法は,事前に計画した間隔で投与を行うプロアクティブ投与(計画的投与)と病態の悪化がみられてから投与を行うリアクティブ投与(事後対応的投与)に分類される.プロアクティブ投与はさらに,個々の病態によらず一定の投与間隔で抗VEGF薬を投与するFixedDose法と,個々の患者に合わせて投与間隔を変更するTreatandExtend法に分類される.リアクティブ投与はPRN(prorenata:必要に応じて)法と呼ばれることが多い.FixedDose法については過去の臨床試験の結果1~3)から,1カ月ごとまたは2カ月ごとの投与によって,導入期に改善した視力を2年間維持できることが示されている.しかし,実際の臨床において,すべての患者に毎月投与を行うことは患者,医師ともに負担が大きく現実的ではない.また,現在わが国ではPRN法が広く行われているが,毎月診察が必須であり,患者,医師ともに負担の大幅な軽減には至らない.実際の臨床では治療のタイミングが遅れることも多く,臨床試験で示されたような有効性が得られないことも指摘されている.TreatandExtend法の概要TreatandExtend法は,プロアクティブかつ個別化された維持期の投与方法として提唱され4),現在,欧米を中心に普及してきている投与方法である.TreatandExtend法では,滲出所見の有無にかかわらず診察日に計画的に抗VEGF薬を投与し,再発を認めない限り1ないし2週間ずつ投与および診察の間隔を延長する.そして,再発を認めた場合は1ないし2週間ずつ投与およ(103)び診察の間隔を短縮する.その結果,滲出性変化のない状態を維持するためにもっとも適切な投与および診察の間隔を決定することが可能となる(図1).現在のところ,延長および短縮の判断基準とその期間,最大投与間隔などについては施設によって違いがみられる.抗VEGF薬投与の導入期を設けていない施設もある.TreatandExtend法の治療成績Oubrahamらは,AMD患者に対してラニビズマブを投与し,TreatandExtend法(n=38眼)とPRN法(n=52眼)による治療成績をレトロスペクティブに比較検討した.その結果,1年の経過観察時点で,TreatandExtend法はPRN法に比べて良好な視力改善効果を示した(順に+10.8±8.8ETDRS文字,+2.3±17.4ETDRS文字,p=0.036).投与回数はTreatandExtend法がPRN法よりも多かったが(7.8±1.3回,5.2±1.9回,p<0.001),来院回数では両者に差はみられなかった(8.5±1.1回,8.8±1.5回,p=0.2085)5).また,Abediらは,AMD患者に対してラニビズマブを用いてTreatandExtend法を行い(n=120眼),2年間経過を観察した.その結果,これまでに報告されたFixedDose法の臨床試験と比べて投与回数が少ない(1年目8.6回,2年目5.6回)にもかかわらず,同程度の視力改善効果が得られた1,2,6).TreatandExtend法の長所,短所TreatandExtend法は,黄斑に滲出性変化が生じる前に計画的に抗VEGF薬の再投与を行うことによって,黄斑を滲出性変化のない状態に維持することを目標とする.そのため,滲出性変化を認めてから再投与を行うPRN法と比べて,再発を繰り返すことによる黄斑の不可逆的障害を軽減できる可能性がある.また,すべてのあたらしい眼科Vol.32,No.1,20151030910-1810/15/\100/頁/JCOPY ABCDEFGV.A.=(0.9)V.A.=(0.8)ABCDEFGV.A.=(0.9)V.A.=(0.8)図1AMDに対するTreatandExtend法の治療経過78歳,女性.右眼典型AMD,occultwithnoclassicCNV.治療前視力(0.8).黄斑部に漿液性網膜.離を認めた(A,B,C).そこで,アフリベルセプトを4週間隔で計3回投与したところ滲出性変化が消退した.そのため,6週間後に4回目の投与を行った(D:4回目の投与日のOCT).4回目の投与日に滲出性変化がみられなかったため,投与間隔を8週(E),さらに経過が良好であったため10週まで延長した.すると滲出性変化が再発した(F)ので,投与間隔を8週に短縮し滲出性変化が消退した(G).現在は8週間隔で投与を継続している.投与は計画的に行われるため,PRN法のように来院時に急遽再投与を行うことはなく,患者側の不安や医師側の負担を軽減する効果もある.さらに,一定の投与間隔を継続するFixedDose法と比べて,状態の安定した患者に対しては投与および診察間隔を延長するため,結果として投与および診察回数が減り,患者や医師の負担軽減や医療経済学的な負担軽減につながる.しかし,TreatandExtend法は,FixedDose法と同様に滲出性変化の有無にかかわらず診察時に計画的に抗VEGF薬の投与を行う方法であるため,たとえば導入期以降に,抗VEGF薬を投与しなくても滲出性変化をきたさない症例に対しては,過剰投与を行ってしまう可能性がある.今後,どのような患者に対してTreatandExtend法を行うべきか検討が必要である.また,TreatandExtend法については現在のところ大規模ランダム化比較試験に基づくエビデンスがなく,今後の報告が待たれる.文献1)RosenfeldPJ,BrownDM,HeierJSetal:Ranibizumabforneovascularage-relatedmaculardegeneration.NEnglJMed355:1419-1431,20062)BrownDM,MichelsM,KaiserPKetal:Ranibizumabversusverteporfinphotodynamictherapyforneovascularage-relatedmaculardegeneration:two-yearresultsoftheANCHORStudy.OPHTHA116:57-65,20093)Schmidt-ErfurthU,KaiserPK,KorobelnikJ-Fetal:Intravitrealafliberceptinjectionforneovascularage-relatedmaculardegeneration:ninety-six-weekresultsoftheVIEWstudies.Ophthalmology121:193-201,20144)SpaideR:Ranibizumabaccordingtoneed:atreatmentforage-relatedmaculardegeneration.AJOPHT143:679680,20075)OubrahamH,CohenSY,SamimiSetal:Injectandextenddosingversusdosingasneeded:acomparativeretrospectivestudyofranibizumabinexudativeage-relatedmaculardegeneration.Retina31:26-30,20116)AbediF,WickremasingheS,IslamAFMetal:Anti-VEGFtreatmentinneovascularage-relatedmaculardegeneration:atreat-and-extendprotocolover2years.Retina34:1531-1538,2014104あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015(104)

緑内障:OCTの見方

2015年1月30日 金曜日

●連載175緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也175.OCTの見方三木篤也大阪大学大学院医学系研究科眼科学教室光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)は緑内障診断にとても有用な機器である.しかし最近,OCTの検査結果を鵜呑みにしたために誤診を招く症例をみることが多くなった.本項では,OCTの信頼度チェックの手順を紹介する.OCTを正しく使用する一助となれば幸いである.OCTによる網膜神経線維層(retinalnervefiberlayer:RNFL),黄斑部神経節細胞複合体厚(ganglioncellcomplex:GCC),および視神経乳頭トポグラフィーの測定は,緑内障に伴う構造的異常の評価法として非常に有用である.その一方で,最近では「OCT緑内障」(OCT所見のみで緑内障と診断されるが,実際には緑内障ではない症例のこと)なる診断名(?)が広がっているように,OCTに依存した診断により,過剰診断や誤診を招くケースもときおりみられる.しかし,日常臨床でみられるこういった誤診のかなりの部分は,OCT画像そのものが適切に撮影できていない信頼度不良例に基づいていることに最近筆者は気がついた.とくに,(過去の筆者のように)OCTのプリントアウトに表示される数値やカラーコードを頭から信用し,元の画像をチェックしないで診断を行う臨床家には,この間違いが起こりやすい.本項では,OCTの信頼度をチェックする基本的な手順を紹介する.●信頼度チェックの手順静的視野検査を読影する際には,固視不良,偽陽性,偽陰性といった信頼度の指標をチェックし,これらが一定の基準を満たしていない場合には信頼度不良として慎重に結果を解釈することが求められる.OCTでもまったく同じことがいえるのであり,信頼度のチェックは不可欠である.OCTの信頼度を確認する方法はいくつかあるが,筆者は,①シグナル強度,②センターリング,③セグメンテーション,④画像の高さ,の4項目をとくに重視している.シグナル強度:すべてのOCT機器で数値化されて示されている.数値の基準は機器により異なるので,販売(101)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY図1シグナル強度が弱い例右眼のSSI(画像左上方.白囲み)が5と低い.画像のシグナルが弱く,鼻側の一部ではRNFL層の検出が困難となっている.者に確認されたい.図1はシグナル強度が低い画像の1例である.この症例に使用したRS-3000の場合は,シグナル強度はSSI(signalstrengthindex)という数値で示される.SSIは数値が大きいほどシグナル強度が強く,10が最大であるが,一般的には6以上が信頼度のある画像とされる.図1の右眼ではSSIが5しかなく,シグナル強度が弱い.このため,シグナル(網膜などの組織からの反射)とノイズ(アーチファクト)との差が小さいために,網膜の層構造を正しく検出することができない.センターリング:乳頭周囲サークルが正しい位置にあるかどうかである.理想的には,乳頭の中心にサークルの中心が合致すべきであるが,乳頭変形があるような症例では,図2の左眼のように,OCTが自動で設定するサークルの位置が,明らかに乳頭の中心からずれることがある.この場合,サークルの位置が正しい位置にあるあたらしい眼科Vol.32,No.1,2015101 図2センターリング不良の例左眼のサークルの中心は視神経乳頭中心から大きくはずれている.図3セグメンテーション不良の例網膜厚が薄く,右眼はシグナルも弱いため,RNFL層が正しく検出されていない.場合と比べて乳頭縁からサークルまでの距離が異なるため,RNFL厚の測定値も変化する.とくに部位(セクター)別のRNFL厚はセンターリングずれの影響を受けやすい.セグメンテーション:RNFLやGCCなど対象の網膜層を正しく検出しているかどうかである.上記のSSIが低い場合や乳頭の変形が強い場合,大きな傍乳頭網脈絡図4画像がはみ出している例高度近視で視神経乳頭周囲も前後に長く伸びているため,画像の範囲をはみ出してしまっている.はみ出している部分の網膜厚は当然正確に測定できない.膜萎縮(parapapillaryatrophy:PPA)がある場合などはセグメンテーション不良が起こりやすい(図3).画像の高さ:網膜のZ軸方向の位置が正しい位置にあるかどうかである.撮像するうえでは,OCT機器と眼球との距離が適切であるかどうかと言い換えられる.とくに図4のような高度近視眼においては,RNFLスキャンがZ軸方向に大きく伸びているので,一部が画像外にはみ出てしまうようなことが起こり得る(図2も実は少しはみ出している).●おわりにどんな検査でも,得られた数値なり画像なりが正確なものでなければ診断価値はない.OCTにおいても信頼度のチェックは不可欠なことをもう一度強調したい.ここでは傍乳頭RNFLを例にとったが,黄斑部GCCにおいてもまったく同じことがいえる.OCTで緑内障を診断する際には,まず上記のような信頼度の指標をチェックし,信頼度が一定の基準を満たさない画像については慎重に解釈することが必要である.☆☆☆102あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015(102)

屈折矯正手術:屈折矯正手術患者の薬剤耐性菌保菌

2015年1月30日 金曜日

屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂●連載176大橋裕一坪田一男176.屈折矯正手術患者の薬剤耐性菌保菌北澤耕司京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学屈折矯正手術後のMRSA角膜炎患者をレトロスペクティブに解析すると,医療従事者が多いことが報告されている.今回,屈折矯正手術前患者に対してプロスペクティブに保菌調査を行ったところ,120例中2例で鼻腔粘膜からMRSAを検出し,その2例は医療従事者であった.●はじめにLaserinsitukeratomileusis(LASIK)に代表される屈折矯正手術は,フェムトセカンドレーザー,虹彩紋理認識システムIR(irisregistration),eyetrackingsystemなど手術機器の発展に伴い,術後予測屈折精度はきわめて高いレベルに到達している.しかし,たとえ機械の進歩が進んでも術後感染症が完全に消失することはない.屈折矯正手術を受ける患者の多くは矯正視力が1.0以上であるケースが多く,患者側も高い術後結果を要求する.他科で耐性菌が問題となっているように,眼科でもキノロン系耐性黄色ブドウ球菌(キノロン耐性MSSA),メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA),ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)などの薬剤耐性菌による感染症が近年問題となっている.これらの耐性菌による術後感染症はときに予後不良となり,著明な視力障害を残すことも少なくない.●屈折矯正術後の薬剤耐性菌による角膜感染症図1の症例は,Epi-LASIK手術後にキノロン耐性MSSAによる両眼の角膜感染症を発症した患者である.患者は51歳の女性で,職業は看護師.Epi-LASIKを施行後,経過は良好であったが,再近視化(regression)による裸眼視力低下のため再手術を受けた.再手術後2日目に強い眼痛を自覚したため近医眼科を受診し,結膜.培養検査でキノロン耐性MSSAを検出した.図2の症例は,27歳女性,職業は看護師.Epi-LASIK術後2日目より眼痛,視力低下を自覚し受診.角膜病巣部よりMRSAを検出した.これらの2症例に共通する背景因子は医療従事者であるということである.Solomonらは,文献的検索を行い,屈折矯正術後にMRSA角膜炎を発症した患者12例のうち,9例が医療従事者であったと報告している1).また,Nomiらは屈折矯正手術後MRSA患者を2症例報告しており,両者とも医療従事者であったことを報告している2).●医療従事者におけるMRSA保菌以前より,医療従事者ではMRSAの保菌率が高いことが報告されている.筆者らは以前に,眼科専門病院と大学病院で従事する医師,看護師,視能訓練士,医療介図1症例1(51歳,女性)Epi-LASIK術後2日目から両眼の眼痛,視力低下を自覚.キノロン耐性MSSAを検出.職業は看護師.(99)あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015990910-1810/15/\100/頁/JCOPY 図2症例2(27歳,女性)術後2日目に右眼の眼痛,視力低下を自覚.MRSAを検出.職業は看護師.助に対して鼻腔粘膜の保菌を調査したところ,医師3名,看護師1名にMRSAを検出し,視能訓練士,医療介助では検出されなかったことを報告した3).職種別のMRSA保菌率は医師3名/44名(6.8%),看護師1名/19名(5.3%),その他のコメディカル0名/15名(0%)であり,医師,看護師はその他の職種よりもMRSA保菌率が高い傾向であった.一般健常人の鼻前提培養でのMRSA検出率が約1%であることから,医療従事者では著明に保菌率が高いことがわかる.また木村らは,眼表面感染症は鼻腔粘膜の保菌と関連があると報告しており,たとえ結膜での保菌が認められなくても,鼻腔粘膜に存在する菌が眼表面感染症を引き起こす可能性があることを報告している4).このことは屈折矯正手術後のMRSA感染症に医療従事者が多いことを示唆している.さらに,筆者らは屈折矯正手術前患者120例の鼻腔粘膜についてプロスペクティブに検討したところ,120例中2例でMRSAを検出した(表1).その2例の患者の職業を調べてみると医師と看護師であった.120例のうち医療従事者は20例で,医療従事者のMRSA保菌率は2/20(10.0%)と著明に高く,医療従事者は非医療従事者と比較すると,有意にその保菌率は高かった.そのほか,年齢,性別,アトピー性皮膚炎の既往,喘息の既往,コンタクトレンズの使用歴についても検討したところ,アトピー性皮膚炎の既往があると有意にMRSA表1屈折矯正手術前患者の鼻粘膜におけるMRSA陽性/陰性の患者背景MRSA(+)MRSA(.)p-value*患者数2118年齢(歳)NS.30176<30142性別NS男性156女性162職業p=0.03医療従事者218非医療従事者0100アトピー性皮膚炎p=0.02あり015なし2103喘息NSあり010なし2108コンタクトレンズ使用歴NSあり1104なし114*Fisher検定保菌率が高く,その他の背景因子ではMRSA保菌に有意な差を認めなかった.●まとめ以上のことから,医療従事者に対する屈折矯正手術をするときは,術後MRSAを含む耐性菌による角膜感染症に対して注意を払う必要があると考える.文献1)SolomonR,DonnenfeldED,PerryHDetal:MethicillinresistantStaphylococcusaureusinfectiouskeratitisfollowingrefractivesurgery.AmJOphthalmol143:629-634,20072)NomiN,MorishigeN,YamadaNetal:Twocasesofmethicillin-resistantStaphylococcusaureuskeratitisafterEpi-LASIK.JpnJOphthalmol52:440-443,20083)木村直子,外園千恵,東原尚子:前眼部におけるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌の検出と鼻前庭保菌との関連.日眼会誌111:504-508,20074)北澤耕司,外園千恵,稗田牧ほか:眼科医療従事者におけるMRSA保菌の検討.あたらしい眼科28:689-692,2011100あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015(100)